説明

回転体のシミュレーション方法、装置及びプログラム

【課題】タイヤなどの回転体の動的転動状態を含むマクロモデルの変形の時間(又は回転角度)履歴情報からタイヤコンパウンド等の回転体のミクロ構造の変形挙動を解析することができる回転体のシミュレーション方法、装置、プログラム及び記録媒体を提供する。
【解決手段】回転体を複数の有限要素を用いて再現する回転体モデルを作成し、回転体モデルの子午断面上に位置する要素の1つを注目要素として選択し、予め設定されたシミュレーション条件を付与して、有限要素法を用いて変形解析のシミュレーションを行い、有限要素に作用する第1の物理量の変化情報を算出し、その時間変化情報に変換し、回転体のミクロ構造を再現するミクロモデルを作成し、第1の物理量の時間変化情報を境界条件としてミクロモデルに付与して、時間依存の解析のシミュレーションを行うことにより、ミクロモデルに発生する第2の物理量の時間履歴情報を算出し、この時間履歴情報から第3の物理量の時間変化情報を演算し、又は表示することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値解析可能な要素でモデル化された回転体及びそのミクロモデルの挙動を解析する回転体のシミュレーション方法、装置及びプログラム並びにこのプログラムを記載した記録媒体であり、詳しくは、タイヤが転動するときにタイヤのコンパウンド又はコンパウンドゴム(不均質材)に生じるミクロ挙動を効率よく解析するシミュレーション方法、装置及びプログラム並びにこのプログラムを記載した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ構成部材であるタイヤトレッドのコンパウンドゴム(以下、コンパウンドという)のように、カーボンブラック、シリカ等の粒状フィラーと各種エラストマー(ゴム成分)とが不均質にブレンドされたコンパウンドでは、粒状フィラーに補強されたゴムの挙動を効率よく解析するために、離散化モデルを用いたシミュレーションが有効な手段として用いられている。
【0003】
従来の離散化モデルを用いたシミュレーションでは、タイヤ構成部材の代表領域を再現したミクロスケールモデルを用いて、タイヤ構成部材に配置される複数の材料相の物性値に基づいてタイヤ構成部材の物性値を予測算出し、タイヤを再現したマクロスケールモデルを用いて、予測算出されたタイヤ構成部材の物性値に基づいて所定の条件下におけるタイヤの挙動を予測算出している。また、逆に、タイヤの挙動を再現する再現条件からタイヤに作用する荷重条件及び路面接触条件を定め、この荷重条件及び路面接触条件をマクロスケールモデルに付与してタイヤの挙動を予測算出し、この予測算出結果に基づいて、ミクロスケールモデルを用いて、タイヤ構成部材に作用する物理量を予測算出している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、不均質材料を含む構造体の離散化モデル(マクロスケールモデル)を用いてシミュレーション演算を行い、このときの、不均質材料の配置部分の代表点の歪又は歪速度の結果から、ミクロ構造を再現した不均質材料の離散化モデル(ミクロスケールモデル)における境界領域の変位又は変位速度を定め、この変位又は変位速度をミクロスケールモデルの境界条件として与えてミクロスケールシミュレーションを行っているものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、ミクロ構成モデルの2方向に一軸引張変形を与え、マクロ構成モデルを単一要素として2スケール(two-scale)連成解析を行い、その結果算出されたマクロ応力−ひずみ曲線に対して材料パラメータを同定したマクロ構成モデルを用いて単一スケール(single-scale)マクロ解析を行い、その結果得られた各評価点におけるマクロ変形状態の履歴を入力データとして単一スケールミクロ解析を行っているものもある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−18454号公報
【特許文献2】特許4093994号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】渡邊、外1名、「非線形均質化理論における2変数境界値問題のミクロ−マクロ非連成近似解法」、応用力学論文集、土木学会、2005年8月、Vol.8、p.277−285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示の離散化モデルを用いたタイヤのマルチスケールシミュレーションでは、タイヤを再現したマクロスケールモデルによるシミュレーションの結果を用いて、タイヤのミクロ構造を再現したミクロスケールモデルによるシミュレーションを行ってミクロ構造を持つタイヤ構成部材や不均質材料に作用する物理量を算出しており、マクロスケールモデルによるシミュレーションでは、荷重条件や、摩擦係数又は転動速度等の路面接触条件などを用いて車両走行シミュレーションを行い、タイヤの挙動を求めているが、タイヤのマクロスケールモデルにおける変形の時間履歴(タイヤの転動状態、特に動的転動状態)をミクロスケールモデルに適用するものではないので、タイヤコンパウンドのミクロ構造の変形挙動をシミュレーションできないし、タイヤコンパウンドのミクロ挙動を解析することができないという問題があった。
【0009】
また、上述したように、非特許文献1には、非連成双方向マルチスケールシミュレーションについての手順が開示され、マクロ構成モデルの解析結果をミクロ構成モデルに適用してミクロ解析を行う方法を開示しているが、タイヤのような回転体の周方向の変形履歴を入力して回転体の回転時のミクロモデルの解析を行うことができないという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術問題点を解消し、タイヤなどの回転体の動的転動状態を含むマクロモデルの変形の時間履歴(又は回転角度履歴)からタイヤコンパウンド等の回転体のミクロ構造、特に不均質材のミクロ構造の変形挙動をシミュレーションすることができ、ミクロ変形挙動を効率良く解析することができる回転体のシミュレーション方法、装置及びプログラム並びにこのプログラムを記載した記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、先に出願した特願2008−114037号明細書において、タイヤなどの回転体及びその一部分を、有限要素を用いて再現する回転体モデル及び代表モデルを作成し、回転体モデルを用いて回転体の静止状態のシミュレーション、すなわち静解析を行って得られた回転体モデルの周上の1つの有限要素である注目要素の変形に基づく第1の物理情報を、回転体が回転するときの変位勾配の時間変化情報に変換し、この変換により得られた時間変化情報を用いて動解析のシミュレーションを行った後、注目要素に作用する粘弾性損失エネルギ等の第2の物理量の時間履歴の情報を算出することを、注目要素を変えながら繰り返して、各要素の第2の物理量の時間履歴の情報を累積する回転体のシミュレーション方法を提案しており、この方法は、タイヤ接地解析の周方向変形履歴からタイヤの転動状態の転動抵抗を効率良く計算することができるものである。
【0012】
しかしながら、この先願明細書に記載された方法は、マクロモデルの変形の時間履歴又は回転角度履歴(タイヤ転動状態を含む)を粘弾性損失エネルギ等の第2の物理量を求めるための代表モデルに適用してその時間履歴を算出して、タイヤなどの転動抵抗を計算するものではあるが、タイヤ等の回転体の解析は、静的な接地のみであり、代表モデルも、タイヤ等の回転体のミクロ構造を再現したミクロモデル自体ではないので、マクロモデルの変形の時間履歴又は回転角度履歴をミクロモデルに適用してミクロ構造の変形挙動を解析することはできないし、特に、タイヤコンパウンド等の不均質材のミクロ構造を再現したミクロモデルではないので、ミクロ構造の変形挙動を解析することはできない。
【0013】
そこで、本発明者は、上記課題を解決し、上記目的を達成するために、有限要素法を用いて、タイヤ等の回転体の転動状態におけるコンパウンド等のミクロ構造のミクロ挙動を解析するシミュレーション方法を提供するために、タイヤ等の回転体において、タイヤモデル等の回転体モデルと、そのミクロ構造のミクロモデル、特にタイヤコンパウンド(不均質材)等のミクロモデルを用意し、タイヤモデル等の回転体モデルの接地解析及び転動解析から有限要素変形履歴を抽出し、その変形履歴を時間履歴(回転角度履歴)に変換してミクロモデルの境界条件としてミクロモデルの解析を行うことにより、タイヤ等の回転体の転動時のコンパウンド等のミクロ構造内に発生するミクロなひずみや応力の動的な変化過程、即ちコンパウンド等のミクロ構造のミクロ挙動をシミュレーションし、効率良く解析することができることを知見し、本発明に至ったものである。
【0014】
すなわち、本発明の第1の態様の回転体のシミュレーション方法は、数値解析可能な要素でモデル化された回転体及びそのミクロモデルの挙動を解析する回転体のシミュレーション方法であって、前記回転体を、複数の有限要素を用いて再現する回転体モデルを作成する第1のステップと、この第1ステップで作成された前記回転体モデルの回転軸を含む平面で切断した前記回転体モデルの子午断面上に位置する有限要素の1つを、注目要素として選択する第2のステップと、予め設定されたシミュレーション条件を前記回転体モデルの周上の少なくとも一部分に付与して、有限要素法を用いて前記回転体の変形解析のシミュレーションを行い、前記回転体モデルの有限要素に作用する第1の物理量の変化情報を算出する第3のステップと、前記第2のステップで選定された前記回転体モデルの前記注目要素に作用する、前記第3のステップによって算出された前記第1の物理量の変化情報を、前記第1の物理量の時間又は回転角度変化情報に変換して抽出する第4のステップと、前記回転体の一部分であるミクロ構造を、複数の有限要素を用いて再現するミクロモデルを作成する第5のステップと、前記第4のステップで抽出された前記第1の物理量の時間又は回転角度変化情報を境界条件として前記第5のステップで作成された前記ミクロモデルに付与して、前記ミクロモデルに対して有限要素法を用いて時間依存の解析のシミュレーションを行うことにより、前記ミクロモデルに発生する第2の物理量の時間又は回転角度履歴情報を算出する第6のステップと、前記第6のステップによって算出された前記ミクロモデルの前記第2の物理量の時間又は回転角度履歴情報から前記ミクロモデルの第3の物理量の時間又は回転角度変化情報を演算し、又は表示し、若しくは演算して表示する第7のステップと、を有することを特徴とする。
【0015】
ここで、前記第4のステップでは、抽出する前記第1の物理量の変化情報が、前記回転体が1周するときの軌跡に沿った有限要素の回転体周方向情報から作成されるのが好ましい。
また、前記第6のステップの前記ミクロモデルに対して行う前記時間依存の解析のシミュレーションにおいて前記ミクロモデルに与える境界条件は、相対変位を許容した周期境界条件であるのが好ましい。
また、前記第6のステップの前記ミクロモデルに対して行う前記時間依存の解析のシミュレーションにおいて、前記ミクロモデルに与える材料物性パラメータは、時間、変形および場の少なくとも1つに依存するのが好ましい。
【0016】
また、前記ミクロモデルは、材料特性の異なる複数の材料相が分散配置された、不均質材料のミクロ構造を、前記複数の有限要素を用いて再現したものであるのが好ましい。
前記ミクロモデルは、ポリマー材料に少なくとも補強剤を充填した不均質複合材料であるコンパウンドゴムをモデル化したものであるのが好ましい。
また、前記ミクロモデルは、補強材を含むゴム系複合材料をモデル化したものであるのが好ましい。
また、前記第3のステップの前記回転体モデルに対して行う前記回転体の変形解析のシミュレーションにおいて、前記回転体モデルに与える材料物性パラメータは、前記ミクロモデルに変形を与えた場合に前記ミクロモデルに発生する変形の前記第2の物理量から得られるのが好ましい。
【0017】
また、前記回転体は、タイヤであり、前記第3のステップの前記回転体モデルに対して行う前記回転体の変形解析のシミュレーションは、少なくともタイヤと路面とを接触させた状態を含むのが好ましい。
また、上記回転体のシミュレーション方法は、さらに、前記回転体モデルの前記注目要素が、前記回転体モデルの周方向に1周する周方向経路を定める第8のステップを有し、
前記第3のステップは、前記回転体モデルの有限要素に作用する、前記周方向経路に沿った前記第1の物理量の変化情報を算出し、前記第4のステップは、前記注目要素に作用する、前記周方向経路に沿った前記第1の物理量の変化情報を、前記回転体が回転するときの回転周期に合せて、前記第1の物理量の時間又は回転角度変化情報に変換し、前記第6のステップは、前記注目要素が前記周方向経路に沿って一周するときに前記ミクロモデルに発生する第2の物理量の時間又は回転角度履歴情報を算出するのが好ましい。
【0018】
また、前記第6のステップにおいて前記時間又は回転角度履歴情報が算出される前記ミクロモデルの前記第2の物理量は、ひずみ、変位勾配及び変形勾配の少なくとも1つであり、前記第7のステップにおいて前記時間又は回転角度履歴情報が算出される前記ミクロモデルの前記第3の物理量は、前記ミクロモデルに発生したひずみエネルギ、粘弾性エネルギ損失、ひずみの振幅値、応力の振幅値、これらの物理量の各々の統計値、及びこれらの物理量の各々のヒストグラムの少なくとも1つであるのが好ましい。
【0019】
また、上記目的を達成するために、本発明の第2の態様の回転体のシミュレーション装置は、数値解析可能な有限要素でモデル化された回転体及びそのミクロモデルの挙動を解析する回転体のシミュレーション装置であって、前記回転体を、複数の有限要素を用いて再現する回転体モデルを作成する回転体モデル作成手段と、この第1ステップで作成された前記回転体モデルの回転軸を含む平面で切断した前記回転体モデルの子午断面上に位置する有限要素の1つを、注目要素として選択する注目要素選択手段と、予め設定されたシミュレーション条件を前記回転体モデルの周上の少なくとも一部分に付与して、有限要素法を用いて前記回転体の変形解析のシミュレーションを行い、前記回転体モデルの有限要素に作用する第1の物理量の変化情報を算出する回転体モデルシミュレーション手段と、
前記第2のステップで選定された前記回転体モデルの前記注目要素に作用する、前記第3のステップによって算出された前記第1の物理量の変化情報を、前記第1の物理量の時間又は回転角度変化情報に変換して抽出する時間変換手段と、前記回転体の一部分であるミクロ構造を、複数の有限要素を用いて再現するミクロモデルを作成するミクロモデル作成手段と、前記第4のステップで抽出された前記第1の物理量の時間又は回転角度変化情報を境界条件として前記第5のステップで作成された前記ミクロモデルに付与して、前記ミクロモデルに対して有限要素法を用いて時間依存の解析のシミュレーションを行うことにより、前記ミクロモデルに発生する第2の物理量の時間又は回転角度履歴情報を算出するミクロモデルシミュレーション手段と、前記第6のステップによって算出された前記ミクロモデルの前記第2の物理量の時間又は回転角度履歴情報から前記ミクロモデルの第3の物理量の時間又は回転角度変化情報を演算し、又は表示し、若しくは演算して表示するミクロ挙動解析手段と、を有することを特徴とする。
【0020】
また、上記目的を達成するために、本発明の第3の態様は、コンピュータに、本発明の第1の態様の回転体のシミュレーション方法の各ステップを実行させるための回転体のシミュレーションプログラムを提供するものである。
さらに、上記目的を達成するために、本発明の第4の態様は、コンピュータに、本発明の第1の態様の回転体のシミュレーション方法の各ステップを実行させるためのプログラム、すなわち本発明の第3の態様の回転体のシミュレーションプログラムを記載したコンピュータに読取可能な記録媒体を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の回転体のシミュレーション方法、装置及びプログラム並びにこのプログラムを記載した記録媒体によれば、タイヤ等の回転体を再現するように作成した回転体モデル(マクロモデル)に対するシミュレーションを行い、その結果、算出された周上における注目要素となる1つの有限要素の第1の物理量の変化情報、例えばひずみ、変位勾配、変形勾配等の変形の物理量の周方向の変化情報を、当該注目要素の第1の物理量の時間又は回転角度変化情報に変換して抽出し、これを境界条件として回転体のミクロ構造を再現するように作成したミクロモデルに対して時間依存の解析のシミュレーションを行い、注目要素が一周するときに生じる第2の物理量、例えばひずみ、応力、ひずみエネルギ等の物理量の時間又は回転角度変化情報を算出することにより、得られた第2の物理量の時間又は回転角度変化情報から第3の物理量の時間又は回転角度変化情報、例えばミクロモデルに発生したひずみエネルギ、粘弾性エネルギ損失、ひずみや応力の振幅値、これらの物理量の平均値や標準偏差等の統計値、これらの物理量のヒストグラム等の情報を演算し、表示することができるので、回転体が転動するときに回転体のミクロ領域(ミクロ構造)に生じる変形状態の時間変化(回転角度変化)をシミュレーションでき、ミクロ領域の種々の物理量の時間又は回転角度変化を算出することができ、ミクロ構造ミクロ挙動を効率よく解析することができる。
こうして、本発明によれば、回転体のミクロ領域の変形状態の時間変化が解析可能となる。すなわち、本発明によれば、タイヤなどの回転体の動的転動状態を含むマクロモデルの変形の時間履歴(又は回転角度履歴)からタイヤコンパウンド等の回転体のミクロ構造、特に不均質材のミクロ構造内に発生するミクロなひずみや応力の動的な変化過程、即ちコンパウンド等のミクロ構造のミクロ挙動をシミュレーションし、効率良く解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の回転体のシミュレーション方法を実施するシミュレーション装置の一実施形態の構成を機能的に示すブロック図である。
【図2】本発明の回転体のシミュレーション方法のフローの一例を説明するフローチャートである。
【図3】(a)は、本発明に用いられるタイヤを再現するように作成した2次元タイヤモデルの一例の断面図であり、(b)は、(a)の2次元モデルを回転軸に対して1周させて作成した3次元タイヤモデルと路面を再現するように作成した剛体路面モデルの一例とを例示する斜視図である。
【図4】(a)及び(b)は、それぞれ本発明に用いられる、タイヤのミクロ構造を再現するように作成したミクロモデルの一例及びこのミクロモデルにモデル化されるタイヤのトレッドゴムコンパウンドのミクロ領域内のフィラー分布の一例を示す斜視図である。
【図5】図3(b)に示す剛体路面モデルに接地したタイヤモデルの一例であり、その回転軸を含む平面で切断した断面を含む斜視図である。
【図6】図3(b)に示すタイヤモデルの、その周方向にトレッドセンタ部の注目要素が1回転するときのタイヤの周方向に沿った周方向経路の一例を示す斜視図である。
【図7】図3(a)及び(b)に示すタイヤモデルのトレッドセンタ部の注目要素の変位勾配の時間変化履歴情報の一例を示すグラフである。
【図8】図7に示す変位勾配の時間変化履歴情報が境界条件として付与されたタイヤのトレッドセンタ部の一部を再現したミクロモデルの動的挙動の所定の時間変化過程の一例を示す斜視図である。
【図9】図3(a)に示すタイヤモデルの注目要素が一周するときに時間依存のシミュレーションを行ったミクロモデルの変形状態の時間変化履歴の一例を示す説明図である。
【図10】(a)は、時間依存のシミュレーションを行った結果を求める要素の位置を示すミクロモデルの一例の斜視図であり、(b)は、(a)に示す要素に発生するひずみの11成分の時間変化履歴情報の一例を示すグラフである。
【図11】(a)は、一軸伸張のシミュレーションを行う前の変形前のミクロモデルの一例の斜視図であり、(b)は、一軸伸張のシミュレーションを行った変形後のミクロモデルの一例の斜視図である。
【図12】ミクロモデルに対する一軸伸張のシミュレーションを行って得られたSS曲線である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明に係る回転体のシミュレーション方法、装置及びプログラム並びにこのプログラムを記載した記録媒体について、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の回転体のシミュレーション方法を実施する本発明の回転体のシミュレーション装置の構成を機能的に示したブロック図である。以下では、回転体の代表例として、タイヤを挙げて説明するが、本発明はこれに限定されないのはもちろんであり、ゴム材料等のポリマー材料を用いる回転体であればどのようなものでも良く、例えば、ベルトコンベア等にも適用可能なことはもちろんである。
【0024】
同図に示すシミュレーション装置10は、回転体としてタイヤを用い、図2に示す本発明のタイヤのシミュレーション方法を実施して、タイヤの転動状態におけるゴムコンパウンド(不均質材)のミクロ挙動を解析するための装置であって、シミュレーション演算処理装置(以下、処理装置という)12と、入力操作装置14と、ディスプレイ16及びプリンタ18を含む出力装置とを有する。
処理装置12は、ハードウエア構成として、CPU20、メモリ22、I/Oポート24、ROM26を備えたコンピュータであり、メモリ22あるいはROM26に記憶されたアプリケーションソフトウェアを読み出して、条件設定部30、タイヤモデル作成部32、変形解析演算部34、時間変換部36、ミクロモデル作成部38、境界条件設定部40、ミクロモデル解析演算部42及びミクロ挙動解析部44のそれぞれのサブルーチンを作成して構成され、これらのサブルーチンからなるアプリケーションソフトウェアをCPU20で実行することにより、後述する有限要素モデルであるタイヤモデル及びミクロモデルを作成し、有限要素法を用いた変形解析及びミクロモデル解析によるシミュレーション演算を実行して、タイヤのゴムコンパウンド(不均質材)のミクロ挙動を解析する。
【0025】
なお、処理装置12は、そのI/Oポート24によって、マウス・キーボード等の入力操作系14と、ディスプレイ16及びプリンタ18等の出力装置とに接続されている。有限要素モデルに必要な情報やシミュレーション演算に必要な条件等は、ディスプレイ16に表示された入力画面をオペレータが見ながら、入力操作系14にて処理装置12に入力指示される。また、処理装置12によるシミュレーション演算結果が、数値、グラフ又は図等によって、ディスプレイ16にソフトコピーとして表示され、又はプリンタ18にハードコピーとして出力される。また、処理装置12には、I/Oポート24によって、図示しないCAD/CAM等のデータ供給システムが接続されている。
【0026】
以下では、処理装置12各構成要素について説明するが、初めに、各構成用の概要を説明し、各構成要素において行われるシミュレーション方法の種々の工程については、後に、シミュレーション装置10によって行われるシミュレーション方法を説明する際に詳述する。
条件設定部30は、ディスプレイ16に表示された入力画面を見ながらオペレータの入力に基づいて、タイヤのシミュレーションための各種条件が設定される。これらの条件は、タイヤモデル作成部32で作成される有限要素モデルであるタイヤモデルの構造の情報及び材料の情報、タイヤモデルでの変形解析のシミュレーション条件の情報が含まれる。また、後述するミクロモデル作成部38で用いるために予め必要となるミクロモデルの構造の情報及び材料の情報なども含まれる。条件設定部30で設定された各種条件は、メモリ22に記憶される。なお、ここでは、タイヤとして、空気入りタイヤを挙げて説明し、タイヤの各種条件として内圧条件を用いているが、本発明はこれに限定されず、空気入りでないリング状のタイヤに適用可能なことはもちろんである。
【0027】
タイヤモデル作成部32は、メモリ22から呼び出された各種情報を用いて、マクロモデルとして、タイヤを再現した有限要素モデルであるタイヤモデルを作成して設定する部分である。ここで、条件設定部30で設定された各種条件は、一旦メモリ22に記憶され、その後メモリ22から呼び出されて用いられるのが好ましいが、直接タイヤモデル作成にもちいてもよい。タイヤモデルは、6面体要素又は4面体要素、5面体要素等で構成される。なお、詳細は後述するが、タイヤは、回転体であり、その回転軸を含む子午面で切断した2次元断面はどの断面においても回転軸に対して対称であるので、タイヤモデルとしては、例えば、図3(a)及び(b)に示すように、タイヤの回転軸を含む子午面で切断したタイヤの子午断面で示されるタイヤモデル2次元断面(以下、2次元タイヤモデルという)52をタイヤ周方向に1回転展開した3次元有限要素モデルであるタイヤモデル50を挙げることができる。
【0028】
また、タイヤモデル作成部32では、条件設定部30で設定された注目要素の情報に基づいて、図3(a)に示すタイヤモデル52の複数の有限要素の中から変形解析の対象とする注目要素54が選定される。ここで、注目要素54は、タイヤの変形を解析しようとする対象となる要素である。タイヤモデル作成部32で、さらに、注目要素54として選定されたタイヤモデル50の子午断面上(図示例では2次元タイヤモデル52のトレッドセンタ付近)に位置する要素が、タイヤモデルの周方向に1回転するときのタイヤの周方向に沿った周方向経路を定めるのが良い。
また、タイヤモデル作成部32は、タイヤを再現したタイヤモデル50に加え、さらに、タイヤが接地し、転動する路面を再現する剛体路面モデル56をも作成し設定する。
図示例では、条件設定部30とタイヤモデル作成部32とを別々に設けているが、本発明はこれに限定されず、一体化されたユニットとしても良い。
【0029】
変形解析演算部34は、作成されたタイヤモデル50に対して、接地解析や転動解析などの変形解析を行う部分であって、詳細は後述するが、内圧充填されたタイヤモデル50を、路面をモデル化した剛体路面モデル56に、設定された荷重条件で接地させる接地処理や剛体路面モデル56上を転動させる転動処理を行う部分である。すなわち、タイヤモデル50を用いて、タイヤの静止状態における接地や転動状態における剛体路面モデル56上での転動を再現したシミュレーションを行い、タイヤモデル50の複数の有限要素に作用する変形の物理量(第1の物理量)の変化情報(幾何学的な周方向の変化情報)、例えば歪み・変位勾配や変形勾配等の変化情報を算出する。こうして、変形解析演算部34では、タイヤモデル作成部32で選択されたタイヤモデル52の注目要素54に作用する、設定された周方向経路に沿った変形の物理量の変化情報が算出される。変形解析算部34で算出された変形の物理量の変化情報等のシミュレーション結果は、メモリ22に記憶される。
【0030】
時間変換部36は、メモリ22から、シミュレーション結果を呼び出して、変形解析演算部34において変形解析のシミュレーションを行ったタイヤモデル52の注目要素54に作用する、タイヤモデル作成部32で設定された周方向経路に沿った変形勾配等の変形の物理量の変化情報を、変位勾配等の変形の物理量の時間変化履歴情報又は回転角度変化履歴情報に変換する部分である。変形の物理量の時間又は回転角度変化履歴情報とは、タイヤが設定された一定の転動速度で回転するときの回転周期(時間又は回転角度)に合せて変換された情報である。注目要素54は、タイヤモデル作成部32で条件として設定された要素である。時間変換部36における変換により作成されたタイヤ1回転分の変形の物理量の時間(又は回転角度)変化履歴情報は、メモリ22に記憶される。なお、時間変換部36において、時間変換前に、注目要素54がタイヤモデルの周方向に1回転するときのタイヤの周方向に沿った周方向経路を定めても良い。
【0031】
ミクロモデル作成部38は、タイヤのミクロ構造を複数の6面体形状、例えば立方体形状の有限要素を用いて再現するミクロモデルを作成して設定する部分である。
ミクロモデル作成部38で作成されるミクロモデルは、詳細は後述するが、タイヤの所定の一部分のミクロ構造、例えば材料特性パラメータ等の異なる複数の材料相が分散配置された、ゴムコンパウンド(不均質材)のミクロ構造を、複数の有限要素を用いて再現したモデルであることが好ましい。例えば、ミクロモデルは、一例として、図4(a)に示すミクロモデル60のように、図4(b)に示すフィラー分布を持つトレッドゴムコンパウンドのミクロ領域内をモデル化した、同一の直方体(6面体)形状のボクセル(単位セル)を有限要素として多数個配置した立方体形状の有限要素モデルを挙げることができる。
図示例においては、タイヤモデル作成部32とミクロモデル作成部38とは、別々に設けられているが、本発明はこれに限定されず、両者が一体化されたモデル設定部としても良いし、さらに、条件設定部30もこのモデル設定部に一体化しても良い。
【0032】
境界条件設定部40は、後述するミクロモデル解析演算部42でミクロモデル60における時間依存のシミュレーションを行う際に用いる境界条件、好ましくは周期境界条件を設定する部分である。具体的には、メモリ22から呼び出された変位勾配等の変形の物理量の時間(回転角度)変化履歴情報を用いて、節点の相対変位を許容する周期対称条件を周期境界条件として設定する。すなわち、ミクロモデル60が連続的に無限に配置される状態を再現するように、ミクロモデル60の3方向のそれぞれについて、一方の境界面上の節点と対向する境界面上の同じ相対位置にある節点との間の挙動を関係付ける関係式を定める。このような周期境界条件の設定方法は、特開2007−265382号公報に示されるミクロモデルにおける周期境界条件の設定と同様に行うことができる。なお、本発明においては、境界条件設定部40で、周期境界条件を設定することは必須ではない。
【0033】
ミクロモデル解析演算部42は、ミクロモデル60に対して、境界条件設定部40で設定された境界条件、好ましくは周期境界条件を用いて時間依存の挙動解析のシミュレーションを行い、ミクロモデルに発生したひずみ、応力、ひずみエネルギ等の物理量(第2の物理量)の時間(回転角度)変化履歴情報を取得する部分である。なお、ミクロモデル解析演算部42は、ミクロモデル60に対して、メモリ22から呼び出された変形の物理量、例えば変位勾配の時間変化履歴情報を、直接境界条件として付与し、ミクロモデルにおける粘弾性挙動等のミクロ挙動を再現する力学変形の挙動解析のシミュレーションを行っても良い。ミクロモデル解析演算部42で用いられる変形の物理量の時間(回転角度)履歴情報はタイヤ1回転分の時間(回転角度)履歴情報であるので、この時間依存の挙動解析のシミュレーションもタイヤ1回転分について行われる。このシミュレーションの結果は、メモリ22に記憶される。なお、ミクロモデル解析演算部42でミクロモデル60に対して行われる時間依存の挙動解析のシミュレーションの詳細については後述する。
【0034】
ミクロ挙動解析部44は、ミクロモデル60の動的なミクロ挙動を解析するための解析結果を出力するために演算及び/又は表示する部分である。具体的には、ミクロモデル解析演算部42で算出されたミクロモデル60の第2の物理量の時間(回転角度)履歴情報からミクロモデル60の第3の物理量の時間(回転角度)変化情報、例えばミクロモデル60に発生したひずみエネルギ、粘弾性エネルギ損失、ひずみの振幅値、応力の振幅値、これらの物理量の各々の統計値、及びこれらの物理量の各々のヒストグラム等を演算し、処理装置12によるシミュレーション演算結果として、I/Oポート24を介してディスプレイ16やプリンタ18に出力するための処理を行う。こうして、処理装置12によるシミュレーション演算結果は、数値、グラフ又は図等によって、ディスプレイ16にソフトコピーとして表示され、又はプリンタ18にハードコピーとして出力される。
【0035】
本発明の回転体シミュレーション装置は、基本的に以上のように構成されるが、以下にその作用を説明することにより、このシミュレーション装置によって実施される本発明の回転体のシミュレーション方法を回転体の代表例としてタイヤを用いて以下に詳細に説明する。
【0036】
図2は、本発明のタイヤのシミュレーション方法のフローを説明する図である。
まず、図2に示すステップS100では、図1に示すシミュレーション装置10において、処理装置12の条件設定部30に、図3および図4に示すタイヤモデル50及びミクロモデル60のシミュレーションに必要な各種条件が入力操作系14を用いてオペレータ等により入力されて、設定される。これらの条件は、例えば、タイヤモデル50及びミクロモデル60の構造(メッシュ、節点や要素形状)の情報及び材料物性パラメータ(材料定数等)の情報、タイヤモデル50での変形解析のシミュレーションのためのタイヤ内圧条件、荷重条件、転動速度条件、スリップ角度条件、および、キャンバー角度条件等の情報、さらには、タイヤモデルに接地処理を施すためのシミュレーション条件の情報や、必要に応じてさらに、ミクロモデルの時間依存シミュレーションなどのミクロ挙動解析に必要な情報も含まれる。
【0037】
なお、本発明においては、条件設定部30で、マクロモデルであるタイヤモデル50の材料物性パラメータ(超弾性ポテンシャルパラメータ等)として、予めオペレータ等により入力された材料物性パラメータを用いて設定しているが、本発明はこれに限定されず、マルチスケールシミュレーションにおけるミクロモデルからマクロモデルへの均質化手法を用いて、マクロモデルであるタイヤモデル50の材料物性パラメータを、ミクロモデル60に所定の変形を与えた場合にミクロモデル60に発生する変形の物理量から取得して、設定しても良い。なお、この手法についての詳細は後述する。
【0038】
次に、ステップS102では、タイヤモデル作成部32において、条件設定部30で設定された、変形解析のシミュレーションをおこなうためのタイヤモデルの構造の情報に基づいて、例えばメッシュ条件(節点や要素形状)に基づいてメッシュ分割され、図3に示すタイヤモデル50が作成される。
ここで、図3(a)及び(b)に示すタイヤモデル52及び50は、一例としてタイヤサイズ205/65R15のタイヤを再現して作成された有限要素モデルである。タイヤモデル50は、図3(a)に表された子午断面の2次元モデル52をタイヤ周方向に1回転展開し、展開した2次元モデル52を周方向に一定の角度で要素分割するように区切られている3次元有限要素モデルである。この3次元有限要素モデルでは、トレッド部材、サイド部材、ビードフィラー部材等のゴム部材、カーカス部材やベルト部材の補強層等が、6面体要素又は4面体要素、5面体要素等で構成される。
なお、このステップS102で行われるタイヤモデルの設定に、ステップS100で行われるメッシュ作成、材料物性パラメータ入力、境界条件設定を含めても良い。
【0039】
また、このステップS102においては、タイヤモデル作成部32で、図3(b)に示すように、路面を再現するように作成した剛体路面モデル56も作成される。図5に、剛体路面モデル56に接地したタイヤモデル50の、その回転軸を含む平面で切断した断面を含む斜視図を示す。本発明においては、タイヤモデル50及びこれが接地する剛体路面モデル56によるタイヤの変形解析が、少なくともタイヤと路面を接触させた状態を含むので、後述するように、タイヤと路面を接触させた状態におけるタイヤのミクロ領域の変形状態の解析が可能となる。
なお、本発明においては、路面モデルは、図示例の剛体路面モデル56に限定されず、凹凸を含む平面をモデル化したものでもドラム試験機のドラムのような曲面をモデル化したものでもよい。
次に、ステップS103では、タイヤモデル作成部32において、さらに、図3(a)及び(b)に示すように、タイヤモデル50(52)の複数の有限要素の中から変形解析の対象とする注目要素54が選定されると共に、図6に示すように、注目要素54がタイヤモデル50の周方向に1回転するときのタイヤの周方向に沿った周方向経路58が設定される。
【0040】
ここで、注目要素54は、タイヤの変形を解析しようとする対象となる要素である。どの要素を注目要素とするかの情報は、ステップS100における条件設定においてオペレータから入力されている。なお、注目要素として、図3(a)に示される2次元タイヤモデル52の全要素を対象とすることができるので、条件設定においてオペレータが注目要素の順番を入力してもよいし、注目要素の順番を入力することなく、予め定められた順番で自動的に注目要素を定めてもよい。
また、図6に示す注目要素54の周方向経路58は、図3(a)に示すトレッドセンタ付近の要素が注目要素54の対象とされた場合、タイヤモデル50のトレッドセンタ部の注目要素54が1回転するときの軌跡に対応する。この軌跡は、後述する変形解析処理により変形したタイヤの変形形状における経路となる。
【0041】
次に、ステップS103では、変形解析演算部34において、作成されたタイヤモデル50に対して、変形解析のシミュレーションが実行される。ここで行われる変形解析としては、例えば、接地解析(静解析)や、転動解析(動的な転動解析(動解析)や定常輸送解析(汎用非線形有限要素解析プログラムAbaqus(Simulia社製品名)参照)等を挙げることができる。ここでは、作成されたタイヤモデル50に対して、リム組されたタイヤに内圧を充填する処理を再現する内圧充填処理が行われ、この後、路面に接地したタイヤや、路面上を転動するタイヤを再現するために、内圧充填処理の施されたタイヤモデル50を、路面をモデル化した剛体路面モデル56に設定された荷重条件で接地させる接地処理や、剛体路面モデル56上を接地させて転動させる転動処理が行われる。
【0042】
まず、タイヤ変形解析として静的な接地解析のみを行い、転動させない場合に、その結果からタイヤモデル50が回転したときの変位勾配等の変形の物理量の変化情報を取り出す方法として、接地させたタイヤモデル50の周方向の所定の要素の履歴を取ってくることによって擬似的にタイヤモデル50を回転させることができる。例えば、タイヤモデル50のトレッドセンタ部の注目要素54の周方向経路58上の全要素の変位勾配等の変形の物理量の変化情報を求めておき、これらの全要素の変形情報を取ることにより、注目要素54のタイヤ1周分の変形情報(履歴)を得ることができる。
例えば、タイヤ変形解析としての静的な接地解析は、以下のようにして行うことができる。
タイヤの静的な接地解析による変形解析では、まず、作成されたタイヤモデル50に対して、内圧充填処理が施される。内圧充填処理は、タイヤモデル50の空洞領域に接する節点に所定の力を付与する処理である。次に、路面を再現した剛体路面モデル56に対して、設定された荷重条件で、内圧充填処理の施されたタイヤモデル50を、シミュレーション条件に基づいて接地する接地処理が施される。変形解析として静解析のシミュレーションを行う場合には、タイヤモデル50の材料特性は、弾性特性を再現するものであればよく、例えば、neo-Hookean弾性モデルで表したものを用いても良い。接地処理の結果はメモリ22に記憶される。
【0043】
次に、タイヤモデル50が1回転したときの予め選定されたタイヤモデル50の子午断面(2次元タイヤモデル52)にある注目要素54の周方向経路が、図6に示すように設定されているので、メモリ22に記憶された接地処理の結果から、注目要素54の周方向経路に沿った各要素の変位勾配が抽出される。接地処理後のタイヤモデル50は、接地処理により形状が変形し、各要素がタイヤ周方向に変位するが、上記変位勾配の周方向の分布は、この変形後の各要素の位置に基づいて変位勾配の変化情報として作成される。なお、図6に示すタイヤモデル50が1回転(1周)するときの軌跡である周方向経路58に沿った各要素は、周方向に連続していなくても良い。すなわち、注目要素54の周方向経路58に沿った抽出された変位勾配は、連続した要素から抽出されたものでなくても良い。
こうして、タイヤモデル50を用いて、タイヤの静止状態における接地再現したシミュレーションが行われると共に、剛体路面モデル56上でのタイヤモデル50の転動を再現したシミュレーションを行うために、注目要素54の周方向経路に沿った各要素の変位勾配が抽出され、タイヤモデル50の注目要素54に作用する変形の物理量の変化情報(幾何学的な周方向の変化情報)として変位勾配の変化情報(周方向分布(回転角情報に対する分布))が算出される。
【0044】
もちろん、本ステップS106においては、変形解析として、直接、タイヤモデル50を動的に転動させる転動解析を行うマクロスケールシミュレーションを行っても良い。
マクロスケールシミュレーションでは、タイヤモデル50を用いて、所定の条件下でタイヤの転動状態におけるタイヤの挙動がシミュレートされる。所定の条件とは、例えば、タイヤに内圧を付与する際の内圧、路面に対する負荷荷重、タイヤ転動速度、タイヤのスリップ角度、タイヤのキャンバー角度等の条件である。すなわち、マクロスケールシミュレーションでは、タイヤモデル50に別途作成されたリムを再現したリムモデルを装着し、タイヤモデル50とリムモデルとにより囲まれた空洞領域に面するタイヤモデル50の内周面に対して内圧充填処理を施し、この後、路面の剛体路面モデル56に接触させて荷重を与え、さらに、所定の転動速度を与えてタイヤモデル50を転動させる。その際、タイヤモデル50にスリップ角度、タイヤのキャンバー角度あるいは、回転トルク等を与える。なお、転動解析においても、タイヤモデル50のメッシュ自体を移動させずに、中の材料だけを転動させることにより、メッシュを転動させたような擬似的な効果を得て解析する定常輸送解析を行っても良い。
次に、このシミュレーションにより得られる演算結果から、各有限要素の変形の物理量、例えば歪み・変位勾配や変形勾配等の変化情報を算出する。
【0045】
このようにして、本変形解析ステップS106では、タイヤモデル50を用いて、タイヤの静止状態における接地や転動状態における剛体路面モデル56上での転動を再現したシミュレーションを行い、タイヤモデル50の複数の有限要素に作用する変形の物理量の幾何学的な周方向の変化情報を算出する。
こうして、本変形解析ステップS106では、変形解析演算部34において、タイヤモデル作成部32で選択されたタイヤモデル52の注目要素54に作用する、設定された周方向経路に沿った変形の物理量の変化情報が算出される。ここで算出された変形の物理量の変化情報のシミュレーション結果は、メモリ22に記憶される。
【0046】
次に、ステップS108では、時間変換部28において、変位勾配の周方向分布(回転角に対する分布)等の変形の物理量の変化情報が、変位勾配の時間変化履歴情報等の変形の物理量の時間又は回転角度変化履歴情報に変換されて抽出される。なお、以下では、変形の物理量の時間変化履歴情報について説明するが、タイヤは回転体であるので、時間をパラメータとする時間変化履歴情報の代わりに、回転角度をパラメータとする回転角度変化履歴情報を用いても良いのはもちろんである。なお、ステップS108で、時間変換部28において変換される時間は、実時間ではなく、数値解析の静解析における仮想時間であってもよい。
ここで、図7に、図3(a)及び(b)に示すタイヤモデル50(52)のトレッドセンタ部の注目要素54の変形の物理量の時間変化履歴情報として抽出された変位勾配の時間変化履歴情報の一例を示す。なお、図7は、タイヤモデル50に付与する内圧を200[kPa]、荷重を4.0[kN]、転動速度を80[km/h]とするときのタイヤモデル50を用いた有限要素法(FEM)による転動解析の結果である。
【0047】
ここで、変位勾配の時間変化履歴情報は、3次元の2階非対称テンソルで表されるので、図7では、9成分(成分11,22,33,12,13,21,23,31,32)で表されている。変位勾配の時間変換では、タイヤ1回転の周期をTとすると、変位勾配のタイヤ周方向の位置を定める回転角度をθ(度)(0〜360度)とすると、回転角度θにおける変位勾配の値は、T×θ/360で表される時間における変位勾配の値に変換される。1回転の周期Tは、タイヤの周方向の経路の長さを、タイヤの転動速度で除算することにより得られたものである。したがって、変位勾配の時間変化履歴情報の時間幅は、1回転の周期Tと実質的に略同一である。なお、回転角度θを表す注目要素のタイヤ周方向における位置は、上述したように、タイヤモデルの変形によりタイヤモデルの各要素がタイヤ周方向に変位した後の位置を用いるので、正確な変位勾配の時間変化情報を求めることができる。求められた変位勾配の時間変化履歴情報は、メモリ22に記憶される。なお、ここでは、タイヤは回転体であるので、変位勾配の時間変化履歴情報の代わりに、変位勾配の回転角度変化履歴情報を用いても良い。
【0048】
なお、本発明においては、図6に示すタイヤモデル50では、タイヤが1周するときのタイヤモデル50の周方向経路58に沿った要素は連続しているが、本発明においては、必ずしも連続している必要はない。このような場合や、要素分割された周上の分割点の情報が粗すぎて、ミクロモデル60の動きがスムーズにならず、タイヤモデル50のマクロ挙動の一部にならない場合などには、変形の物理量の時間変化履歴情報を作成する際に、その情報間を補間することが望ましい。例えば、要素間の情報の補間においては、要素の形状関数の利用や情報点間の線形補間や2次補間が挙げられる。また、変形の物理量の時間変化履歴情報を作成する際に、要素の変形情報を回転体の回転座標系での値に変換することが好ましい。
また、上述したように、本発明においては、本ステップS108で抽出される注目要素の変形の物理量の時間変化履歴情報を、タイヤが1周するときの軌跡であるタイヤモデル50の周方向経路58に沿った要素のタイヤモデル50のタイヤ周方向情報から作成することができるので、タイヤモデル50のメッシュが移動しない解析(接地解析や定常輸送解析)においても、タイヤのミクロ領域の変形状態の時間変化を解析することができる。
【0049】
次に、ステップS110では、ミクロモデル作成部38において、タイヤのミクロ構造を複数の6面体形状、例えば立方体形状の有限要素を用いて再現するミクロモデルが作成されて設定される。このようなミクロモデルは、時間変換ステップS108で得られたマクロモデル50の注目要素54の変形の物理量の時間変化履歴情報を用いて時間依存のシミュレーションをおこなうための、ミクロモデルの構造の情報、例えばメッシュ条件(節点や要素形状)に基づいてメッシュ分割されたミクロモデルが挙げられる。
本発明に用いられるミクロモデルは、タイヤの所定の一部分のミクロ構造を再現するものであれば、どのようなミクロ領域をモデル化したものであっても良いが、例えば材料特性パラメータ等の異なる複数の材料相が分散配置された、ゴムコンパウンド(不均質材)のミクロ構造を、複数の有限要素を用いて再現したモデルであることが好ましい。
例えば、本発明に好適に用いられるミクロモデルの一例として、図4(a)に示すミクロモデル60が挙げることができる。
【0050】
ここで、図4(a)に示すミクロモデル60は、図4(b)に示すフィラー分布を持つタイヤのトレッドゴムコンパウンドのミクロ領域をモデル化した、同一の6面体形状のボクセルを有限要素として直交する三方向に沿って隣接しかつ連続的に複数個配置した立方体形状の有限要素モデルである。
図4(a)に示すミクロモデル60は、ポリマー材料(ゴム)62に、補強剤(フィラー)として、例えば、濃い色で示されるカーボンブラック(CB)64及び薄い色で示されるシリカ66の2種類のフィラーを充填した不均質複合材をモデル化したものである。図示例では、これらの2種のフィラーは、ミクロモデル60としてモデル化されるトレッドゴムコンパウンドのミクロ領域において、ポリマー材料(ゴム)62内に、図4(b)に示すようにそれぞれ複数の粒子として分布している場合、このモデル化に際しては、例えば、有限要素(FE)モデルのメッシュを作成し、各フィラー粒子の中心座標及び半径を用いてこれらの粒子の中に各メッシュが含まれているか否かを調べ、含まれる場合はそのメッシュは当該フィラー粒子で構成されており、含まれない場合にはそのメッシュにポリマー(ゴム)で構成されているとして、該当するメッシュにそれぞれのフィラー粒子の材料物性又はポリマー(ゴム)材料の材料物性を入力すれば良い。
【0051】
このように、ポリマー材料62に少なくとも補強剤(64,66)を充填した不均質複合材料であるゴムコンパウンドをモデル化したミクロモデル60を用いることにより、転動中のタイヤのゴムコンパウンドのミクロ変形の解析が可能となる。例えば、フィラー(カーボンブラック64及び/又はシリカ66)を充填した場合のミクロひずみ分布を解析することにより、タイヤの転動中のゴムコンパウンドの破壊予測等をすることができる。なお、この場合、ゴムコンパウンドのミクロモデル化に際しては、ポリマー材料62からなるポリマー相と、カーボンブラック64やシリカ66からなる相には異なる材料物性を入力するのが良い。
例えば、図4(a)に示す例では、トレッドゴムコンパウンドのミクロ領域として、0.1μm×0.1μm×0.1μmの領域は、30×30×30からなるボクセル要素からなるミクロモデル60としてモデル化され、ポリマー(ゴム相)材料62で構成される要素には弾性係数Eとして1.0[MPa]が、カーボンブラック64及びシリカ66で構成される要素には弾性係数Eとして10,000[MPa]が付与される。
【0052】
なお、図4(a)に示す例では、ミクロモデル60は、ポリマー材料62に少なくとも補強剤(64,66)を充填した不均質複合材料であるゴムコンパウンドをモデル化したものであるが、本発明はこれに限定されず、補強材を含むゴム系複合材料をモデル化したものであっても良い。
ここで、補強材とは、カーカスやベルトカーバーといった有機繊維補強材やベルトやビードといった金属材料やスチールコード線材等である。なお、ミクロモデルとして、モデル化する補強材は単線でもよいし、複数の線からなる撚り線でもよい。
このように、補強材を含むゴム系複合材料をモデル化したミクロモデルを用いることにより、転動中のタイヤの補強材付近のミクロ変形の解析が可能となる。例えば、タイヤのベルトなどの撚り線に挟まれたゴムコンパウンドに発生するひずみの分析が可能となる。
【0053】
ステップS110においては、以上のようにして、タイヤのゴムコンパウンドのミクロモデルを作成することができるが、本発明はこれに限定されず、これ以外のタイヤを構成する様々な部分のミクロモデルをも作成することができる。なお、ミクロモデルを作成する際に、特許文献1及び2に記載の方法を用いても良い。
なお、このステップS110で行われるミクロモデルの設定に、ステップS100で行われるメッシュ作成、材料物性パラメータ入力、境界条件設定を含めても良い。
また、このステップS110で行われるミクロモデルの設定は、後のステップS114のミクロモデル60を用いた時間依存シミュレーションの実行前、好ましくは次のステップS112のミクロモデル60の境界条件設定前であれば、何時どこで行っても良い。
【0054】
次に、ステップS112では、境界条件設定部40において、ミクロモデル解析演算部42でミクロモデル60における時間依存のシミュレーションを行う際に用いる境界条件を設定する。このとき、ミクロモデル60に与える境界条件を設定するために、メモリ22から変位勾配等の変形の物理量の時間変化履歴情報が呼び出され、この時間変化履歴情報から、ミクロモデル60に施される周期境界条件(節点の相対変位を許容する周期対称条件)が設定されるのが好ましい。
すなわち、周期境界条件として、ミクロモデル60が連続的に無限に配置される状態を再現するように、6面体要素であるミクロモデル60の3方向のそれぞれについて、一方の境界面上の節点と対向する境界面上の同じ相対位置にある節点との間の挙動を関係付ける関係式を定めるのが良い。この関係式が、後述するシミュレーションの際、拘束条件として用いられる。
このように、境界条件として相対変位を許容した周期境界条件を設定することにより、均質化法の適用が可能となり、ミクロモデル60をタイヤのミクロ領域の一部とした解析が可能となる。すなわち、マクロスケールモデルであるタイヤモデル50とミクロスケールモデルであるミクロモデル60との両領域間のマルチスケール解析とすることができる。
【0055】
次に、ステップS114では、ミクロモデル解析演算部42において、メモリ22に記憶された変位勾配等の変形の物理量の時間変化履歴情報がメモリ22から呼び出され、ミクロモデルを用いた変形の時間依存の解析のシミュレーションが実行される。すなわち、このステップS114では、ミクロモデル60に対して、ステップS112で設定された境界条件を用いて時間依存の挙動解析のシミュレーションが行われ、ミクロモデルに発生したひずみ、応力、ひずみエネルギ等の物理量の時間変化履歴情報が取得される。具体的には、変位勾配の時間変化情報と周期境界条件とが与えられて、ミクロモデル60を用いた一定の時間刻み幅により、タイヤモデル50の回転周期を解析時間とする変形のシミュレーションが行われる。
例えば、図4(a)に示すタイヤのトレッドゴムコンパウンドのミクロモデル60に対して、ステップS108で、タイヤのトレッドセンタ部の変形の物理量の時間変化履歴情報として抽出された、図7に示す抽出された変位勾配の時間変化履歴情報をメモリ22から読み出し、ステップS112で設定される境界条件として与え、各時間変化毎に、ミクロモデル変形解析を実行して、例えば応力、歪解析のシミュレーションを行って、各時間変化毎に、ミクロモデルに発生した変形、例えば、図8に示すミクロモデル60Aのような変形を求める。ここで、図8は、転動しているタイヤの接地しているトレッドセンタ部、例えば注目要素54又はその一部のトレッドゴムコンパウンドを再現したミクロモデルの動的挙動の所定の時間変化過程の一例を示す斜視図であり、接地のために変形している状態のミクロモデル60Aを示している。
【0056】
ここで、このようなミクロモデル60に対して行われる時間依存シミュレーション及びミクロモデル60の変形の動的な変化過程について、図9を参照して説明する。
図9は、タイヤモデル50が1回転するときのトレッドセンタ部の有限要素、例えば注目要素54の各位置と、各位置に対応する注目要素54又はその一部のトレッドゴムコンパウンドを再現したミクロモデル60の変形の状態の時間変化履歴を示す説明図である。ここで、タイヤモデル50は、回転軸と直交する赤道面で切断した断面図で示され、時間依存シミュレーションを行った各時間変化過程での変形の状態を示す8個のミクロモデル60a〜60hを示す。
図9において、タイヤモデル50は、例えば、周方向に10度毎に36個にメッシュ分割され、タイヤモデル50の剛体路面モデル56側(下側)の子午断面に対して±25度の範囲内は、2.5度毎にさらに細かくメッシュ分割されている。このように、メッシュ分割されたタイヤモデル50の1つの有限要素(注目要素54)に注目し、その全部又は一部のトレッドゴムコンパウンドを再現したミクロモデル60に対して、それに作用する変位勾配の時間変化履歴情報を境界条件として付与して、時間依存のシミュレーションを行った結果が図9に示される。このようなシミュレーション結果は、メモリ22に記憶される。なお、図9に示す要素分割において、周上の分割点の数では、得られる情報が粗すぎる場合には、ミクロモデルの移動が円滑にならず、タイヤのマクロ挙動の一部とならず、正確なミクロ挙動を解析できなくなるので、その分割点の間を補間するのが好ましい。補間方法は、上述の種々の補間方法を用いることができる。
【0057】
図9に示すように、タイヤモデル50の剛体路面モデル56と反対側(上側)の要素(注目要素54)では、ミクロモデル60aで示されるように変形がなくひずみが発生していない、略図4(a)に示すミクロモデルと同じであり、タイヤモデル50が、例えば90度時計回りに回転した時の要素でも、そのミクロモデル60bのように変形がなくひずみが発生していないが、接地する直前(例えば150度回転の要素)では、少し変形してひずみが少し発生したミクロモデル60cとなり、少し接地した状態(例えば160度回転の要素)では、かなり変形してひずみがかなり発生したミクロモデル60dとなり、接地の中心(タイヤモデル50の剛体路面モデル56側(下側)の要素)では、最も大きく変形しひずみが大きいミクロモデル60eとなり、タイヤモデル50がさらに回転し、要素がさらに周方向に移動する(例えば、200度、210度、270度回転)と、逆に、ミクロモデル60f、60g及び60hと徐々に変形が小さくなりひずみの発生も小さくなり、さらに回転して要素が元の位置(0度回転の位置)に戻ると、変形のない最初の状態のミクロモデル60aに戻る。
ここで、タイヤモデル50が1回転するときの回転角度と回転時間とは、回転速度を解して互いに変換されるので、ミクロモデル60a〜60hとして得られるミクロモデルの変形の回転角度変化履歴は、時間変化履歴として得ることができる。
【0058】
こうして、タイヤが一回転するときのタイヤのゴムコンパウンドのミクロモデルの各時間変化過程(各回転角度)におけるミクロモデルの変形状態から、それぞれ各時間変化過程(各回転角度)におけるミクロモデルの所望の有限要素の変形の物理量、例えばひずみ、応力、ひずみエネルギ等を求めることにより、ミクロモデルの要素のひずみ、応力、ひずみエネルギ等の変形の物理量の時間変化履歴情報を取得することができる。
このようにして求められた、図10(a)のミクロモデル60中に○印で示される要素Eの変形の物理量の時間変化履歴情報のグラフを図10(b)に示す。ここで、図10(a)は、ミクロモデル60の図中○印で示されるポリマー材料(ゴム)62である要素Eが時間依存シミュレーション結果を算出する要素であることを示し、図10(b)は、その要素Eに対して算出されたひずみの成分11の時間変化履歴情報のグラフを示す。
こうして、タイヤ転動時のゴムコンパウンドのミクロ挙動(ミクロ領域内の変形挙動)、すなわちゴムコンパウンド内に発生するミクロなひずみ、応力、ひずみエネルギ等の動的な変化過程を解析することができる。
【0059】
ところで、このステップS114でミクロモデルに対して実行される時間依存解析のシミュレーションにおいて、ミクロモデルに与える材料物性パラメータは、時間、変形及び場の少なくとも1つに依存するものであっても良い。例えば、時間に依存する材料物性パラメータの例としては、粘性特性などが挙げられ、変形に依存する材料物性パラメータの例としては、ひずみと応力の関係が非線形である弾性特性(超弾性特性など)が挙げられ、場に依存する材料物性パラメータの例としては、温度場や電磁場などが挙げられ、依存する材料物性パラメータの例としては、粘性特性や弾性特性が挙げられる。
このように、ミクロモデルに与える材料物性パラメータを時間、変形及び場の少なくとも1つに依存させることにより、ミクロモデルに発生する時間、変形、場の少なくとも1つに依存する物理量が算出可能となる。
【0060】
次に、ステップS116では、ミクロ挙動解析部44において、メモリ22に記憶されたミクロモデルの変形の物理量の時間変化履歴情報がメモリ22から呼び出され、ミクロモデル60の動的なミクロ挙動を解析するための解析結果を出力するための演算や変換や表示が行われる。すなわち、このステップS116では、ひずみ、応力、ひずみエネルギ等のミクロモデル60の変形の物理量(第2の物理量)の時間(回転角度)変化履歴情報から、ミクロモデル60のミクロ挙動を解析するためのミクロモデル60の第3の物理量の時間(回転角度)変化情報を演算する。
ここで、第3の物理量の時間変化情報としては、例えばミクロモデル60に発生したひずみエネルギ、粘弾性エネルギ損失、ひずみの振幅値、応力の振幅値等を挙げることができる。また、ミクロモデルでは不均質なコンパウンドをモデル化しているために、ミクロモデルの中に発生するひずみや応力が局所的に異なっているので、第3の物理量の時間変化情報として、ミクロモデルの中のひずみや応力の平均値や標準偏差等の統計値、すなわち上述の物理量の各々の統計値を求めることもできる。さらに、ひずみの値や応力の値として所定の範囲の値を持つ要素がミクロモデルの中に存在する個数を表すひずみヒストグラムや応力ヒストグラム等の上述の物理量の各々のヒストグラム等を挙げることができる。
【0061】
こうして、ステップS116で得られた第3の物理量の時間変化情報は、処理装置12によるシミュレーション演算結果として、I/Oポート24を介してディスプレイ16にソフトコピーとして表示され、プリンタ18にハードコピーとして出力される。
こうして、本発明の回転体シミュレーション方法においては、タイヤモデルとそのミクロモデル、特にゴムコンパウンド(不均質材)をモデル化したミクロモデルを用意し、図5に示すようなタイヤモデルの接地解析・転動解析から有限要素の変形の変化履歴情報を抽出し、その変形の変化履歴情報を、図7に示す変位勾配等の時間(回転角度)変化履歴情報に変換して、この情報をミクロモデルの境界条件としてミクロモデルの解析を行うことができるので、図8に示すような、タイヤ転動時のコンパウンド内に発生するミクロなひずみ・応力等の変形の物理量の動的な変化過程を解析することができる。すなわち、本発明では、タイヤのマクロ変形(動的転動状態を含む)の時刻履歴(回転角度履歴)をコンパウンドのミクロモデルへ入力してコンパウンドのミクロ変形挙動をシミュレーションすることができる。
本発明の回転体のシミュレーション方法は、基本的に以上のように構成される。
【0062】
上述した回転体のシミュレーション方法においては、タイヤモデルに付与する材料物性パラメータとして、予め、オペレータ等により入力された材料物性パラメータを用いているが、本発明はこれに限定されず、初めに、予め、ミクロモデルに所定の変形を与えた場合にミクロモデルに発生する変形の物理量から取得するようにしても良い。ここで、ミクロモデルに与える変形の例としては、一軸伸張や均等二軸伸張や純せん断等を挙げることができる。また、ミクロモデルに発生する変形の物理量の例としては、応力やひずみや粘弾性の損失正接(tanδ)などを挙げることができる。さらに、タイヤモデルに付与されるタイヤのゴムの材料物性パラメータの例としては、弾性定数や超弾性ポテンシャルパラメータ、粘弾性パラメータ等を挙げることができる。
このようにして、本発明においても、マルチスケールシミュレーションにおけるミクロモデルからマクロモデルへの均質化手法を用いることができる。その結果、ミクロモデルを利用してタイヤモデル(マクロモデル)の材料物性を決定することができる。
【0063】
このように、ミクロモデルを利用してタイヤモデルの材料物性パラメータを決定する方法について、具体的に説明する。
図11(a)に、図4(a)に示すミクロモデル60と同様にして作成したタイヤのトレッドセンタのゴムコンパウンド(不均質材)のミクロモデル70を示す。
ここでは、まず、図11(a)に示すミクロモデル70に対して一軸伸張解析を行う。すなわち、図11(a)に示すミクロモデル70に対して予め定められた材料相(例えば、ポリマー材料、カーボンブラック粒子、シリカ粒子)の材料定数及び所定の境界条件を付与して、所定の伸張条件で、図中矢印方向に一軸伸長処理を施し、ミクロモデル70を変形させ、図11(b)に示すようなミクロモデル70aの変形状態を取得し、応力−ひずみの関係(応力−ひずみ曲線(SS曲線))を求めるミクロスケールシミュレーションを行い、ミクロモデル70における応力分布又は歪分布、例えば、図12に示すSS曲線を算出する。さらに、算出された応力分布又は歪分布が所定の条件を満たさない場合、ミクロスケールモデルに与える境界条件を修正して、応力分布又は歪分布が所定の条件を満たすようにする。
【0064】
このようにして得られた、ミクロスケールシミュレーションの演算結果(図12に示すSS曲線)を用いて、ゴムコンパウンド(不均質材)の不均質なミクロ構造を均質な構造としたときの超弾性ポテンシャル及びこのポテンシャルに基づく材料定数パラメータを同定することができる。
例えば、コンパウンドゴムの材料物性パラメータを求める関数として、下記式(1)のようなArruda−Boyce超弾性ポテンシャル関数Uが例示される。このポテンシャル関数を用いて、図12に示すSS曲線から、材料物性パラメータμ及びλmを非線形最小二乗法により求めることができる。具体的には、材料物性パラメータμとλmの値を繰り返し変更しながら、下記式(2)に示す誤差関数が最小となる材料物性パラメータを算出することにより、例えば、タイヤのトレッドセンタ部のゴムコンパウンドの材料物性パラメータとして、μ=0.52、λm=1.16を同定することができる。
以上のようにして、ミクロモデルを利用して、タイヤモデル(マクロモデル)の材料物性パラメータを決定して、入力することができる。なお、この方法については、具体的には、特許文献2に開示の方法を用いることができる。
【0065】
【数1】

【0066】
なお、上述の回転体のシミュレーション方法は、プログラムを実行することによってコンピュータ上で処理することができる。
例えば、本発明の回転体のシミュレーションプログラムは、上述した回転体のシミュレーション方法の各ステップをコンピュータ、具体的にはそのCPU20(図1参照)に行わせる手順を有するものである。これらの手順からなるプログラムは、1つ又は複数のプログラムモジュールとして構成されていても良い。
これらのコンピュータが実行する手順からなる回転体のシミュレーションプログラムは、コンピュータ又はサーバのメモリ(記憶装置)内に記憶されるものであっても良いし、記録媒体に記憶されるものであっても良く、実行時に、当該コンピュータ(CPU20)又は他のコンピュータによって、メモリ又は記録媒体から読み出されて実行されるものである。したがって、本発明は、上記第1の態様の回転体のシミュレーション方法をコンピュータに実行させるための回転体のシミュレーションプログラムを記憶したコンピュータに読み取り可能なメモリもしくは記録媒体であっても良い。
【0067】
以上、本発明の回転体のシミュレーション方法、装置及びプログラム並びにこのプログラムを記載した記録媒体について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0068】
10 シミュレーション装置
12 シミュレーション演算処理装置(処理装置)
14 入力操作系
16 ディスプレイ
18 プリンタ
20 CPU
22 メモリ
24 I/Oポート
26 ROM
30 条件設定部
32 タイヤモデル作成部
34 変形解析演算部
36 時間変換部
38 ミクロモデル作成部
40 境界条件設定部
42 ミクロモデル解析演算部
44 ミクロ挙動解析部
50、52 タイヤモデル
54 注目要素
56 剛体路面モデル
60、60A、60a、60b、60c、60d、60e、60f、60g、60h、70、70a ミクロモデル
62 ポリマー(ゴム)材料62
64 カーボンブラック
66 シリカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値解析可能な要素でモデル化された回転体及びそのミクロモデルの挙動を解析する回転体のシミュレーション方法であって、
前記回転体を、複数の有限要素を用いて再現する回転体モデルを作成する第1のステップと、
この第1ステップで作成された前記回転体モデルの回転軸を含む平面で切断した前記回転体モデルの子午断面上に位置する有限要素の1つを、注目要素として選択する第2のステップと、
予め設定されたシミュレーション条件を前記回転体モデルの周上の少なくとも一部分に付与して、有限要素法を用いて前記回転体の変形解析のシミュレーションを行い、前記回転体モデルの有限要素に作用する第1の物理量の変化情報を算出する第3のステップと、
前記第2のステップで選定された前記回転体モデルの前記注目要素に作用する、前記第3のステップによって算出された前記第1の物理量の変化情報を、前記第1の物理量の時間又は角度変化情報に変換して抽出する第4のステップと、
前記回転体の一部分であるミクロ構造を、複数の有限要素を用いて再現するミクロモデルを作成する第5のステップと、
前記第4のステップで抽出された前記第1の物理量の時間又は角度変化情報を境界条件として前記第5のステップで作成された前記ミクロモデルに付与して、前記ミクロモデルに対して有限要素法を用いて時間依存の解析のシミュレーションを行うことにより、前記ミクロモデルに発生する第2の物理量の時間又は角度履歴情報を算出する第6のステップと、
前記第6のステップによって算出された前記ミクロモデルの前記第2の物理量の時間又は角度履歴情報から前記ミクロモデルの第3の物理量の時間又は角度変化情報を演算し、又は表示し、若しくは演算して表示する第7のステップと、を有することを特徴とする回転体のシミュレーション方法。
【請求項2】
さらに、前記回転体モデルの前記注目要素が、前記回転体モデルの周方向に1周する周方向経路を定める第8のステップを有し、
前記第3のステップは、前記回転体モデルの有限要素に作用する、前記周方向経路に沿った前記第1の物理量の変化情報を算出し、
前記第4のステップは、前記注目要素に作用する、前記周方向経路に沿った前記第1の物理量の変化情報を、前記回転体が回転するときの回転周期に合せて、前記第1の物理量の時間又は角度変化情報に変換し、
前記第6のステップは、前記注目要素が前記周方向経路に沿って一周するときに前記ミクロモデルに発生する第2の物理量の時間又は角度履歴情報を算出することを特徴とする請求項1に記載の回転体のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記第4のステップでは、抽出する前記第1の物理量の変化情報が、前記回転体が1周するときの軌跡に沿った有限要素の回転体周方向情報から作成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転体のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記第6のステップの前記ミクロモデルに対して行う前記時間依存の解析のシミュレーションにおいて前記ミクロモデルに与える境界条件は、相対変位を許容した周期境界条件であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記第6のステップの前記ミクロモデルに対して行う前記時間依存の解析のシミュレーションにおいて、前記ミクロモデルに与える材料物性パラメータは、時間、変形および場の少なくとも1つに依存することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記ミクロモデルは、材料特性の異なる複数の材料相が分散配置された、不均質材料のミクロ構造を、前記複数の有限要素を用いて再現したものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記ミクロモデルは、ポリマー材料に少なくとも補強剤を充填した不均質複合材料であるゴムコンパウンドをモデル化したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記ミクロモデルは、補強材を含むゴム系複合材料をモデル化したものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記第3のステップの前記回転体モデルに対して行う前記回転体の変形解析のシミュレーションにおいて、前記回転体モデルに与える材料物性パラメータは、前記ミクロモデルに変形を与えた場合に前記ミクロモデルに発生する変形の前記第2の物理量から得られることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記回転体は、タイヤであり、
前記第3のステップの前記回転体モデルに対して行う前記回転体の変形解析のシミュレーションは、少なくともタイヤと路面とを接触させた状態を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
【請求項11】
前記第6のステップにおいて前記時間又は角度履歴情報が算出される前記ミクロモデルの前記第2の物理量は、ひずみ、変位勾配及び変形勾配の少なくとも1つであり、
前記第7のステップにおいて前記時間又は角度履歴情報が算出される前記ミクロモデルの前記第3の物理量は、前記ミクロモデルに発生したひずみエネルギ、粘弾性エネルギ損失、ひずみの振幅値、応力の振幅値、これらの物理量の各々の統計値、及びこれらの物理量の各々のヒストグラムの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法。
【請求項12】
数値解析可能な有限要素でモデル化された回転体及びそのミクロモデルの挙動を解析する回転体のシミュレーション装置であって、
前記回転体を、複数の有限要素を用いて再現する回転体モデルを作成する回転体モデル作成手段と、
この第1ステップで作成された前記回転体モデルの回転軸を含む平面で切断した前記回転体モデルの子午断面上に位置する有限要素の1つを、注目要素として選択する注目要素選択手段と、
予め設定されたシミュレーション条件を前記回転体モデルの周上の少なくとも一部分に付与して、有限要素法を用いて前記回転体の変形解析のシミュレーションを行い、前記回転体モデルの有限要素に作用する第1の物理量の変化情報を算出する回転体モデルシミュレーション手段と、
前記第2のステップで選定された前記回転体モデルの前記注目要素に作用する、前記第3のステップによって算出された前記第1の物理量の変化情報を、前記第1の物理量の時間又は角度変化情報に変換して抽出する時間変換手段と、
前記回転体の一部分であるミクロ構造を、複数の有限要素を用いて再現するミクロモデルを作成するミクロモデル作成手段と、
前記第4のステップで抽出された前記第1の物理量の時間又は角度変化情報を境界条件として前記第5のステップで作成された前記ミクロモデルに付与して、前記ミクロモデルに対して有限要素法を用いて時間依存の解析のシミュレーションを行うことにより、前記ミクロモデルに発生する第2の物理量の時間又は角度履歴情報を算出するミクロモデルシミュレーション手段と、
前記第6のステップによって算出された前記ミクロモデルの前記第2の物理量の時間又は角度履歴情報から前記ミクロモデルの第3の物理量の時間又は角度変化情報を演算し、又は表示し、若しくは演算して表示するミクロ挙動解析手段と、を有することを特徴とする回転体のシミュレーション装置。
【請求項13】
コンピュータに、請求項1〜11のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法の各ステップを実行させるためのプログラム。
【請求項14】
コンピュータに、請求項1〜11のいずれか1項に記載の回転体のシミュレーション方法の各ステップを実行させるためのプログラムを記載したコンピュータに読取可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図12】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−287042(P2010−287042A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140278(P2009−140278)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】