説明

回転力伝達装置と、この回転力伝達装置を用いたパワーステアリング装置

【課題】 駆動源の回転力を、必要なときにのみ伝達できるような回転力伝達装置を提供することである。
【解決手段】 回転軸3にその軸方向に所定の間隔を保って固定した一対のプレート5,5の外側に間隔を保つとともに上記回転軸3と相対回転可能にした回転体10とを備え、回転体10とプレート5との間には、磁力の作用で高粘度化する磁性流体Lを設け、上記一対のプレート5,5間には、永久磁石6と磁歪素子7とを備え、上記磁歪素子7に圧力を作用させて高透磁性を保ち、磁歪素子7によって閉磁路を構成し、回転軸3と回転体10との結合力を弱くする一方、磁歪素子7に押圧力を作用させて低透磁性を保ち、上記閉磁路を開放して磁力を上記磁性流体Lに作用させ、磁性流体Lを高粘度化して上記回転軸3と回転体10との結合力を強くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転力伝達装置と、この回転力伝達装置を用いたパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、油圧パワーステアリング装置の作動油を供給するポンプの駆動源としてエンジンを用いることが知られている。
例えば、図6に示すように、パワーシリンダ1のロッド1aを車輪Wに連係させ、このパワーシリンダ1を切換弁2を介してポンプPの吐出側に接続している。そして、切換弁2を切り換えることによって、ポンプPからの吐出油をパワーシリンダ1のピストン1bで区画されたいずれか一方の室に供給するようにした装置がある。
また、上記ポンプPの駆動軸にはエンジンEの回転軸を接続し、エンジンEの回転によってポンプPを駆動するようにしている。ポンプPからの作動油の吐出量は、エンジンEの回転数に依存するので、パワーシリンダ1側の必要流量は、上記切換弁2で制御し、必要量を超える流量はタンクTへ戻すようにしている。
【特許文献1】特開2003−095121号公報
【特許文献2】特開
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来のパワーステアリング装置では、ポンプPの吐出量は、エンジンEの回転数で決まるので、エンジンEの回転数が低いときにも、パワーシリンダ1の供給流量が必要流量に対して不足することがないように、ポンプPからの吐出量が多めになるようなポンプPを用いている。
そのため、エンジンEの回転数が高くなれば、パワーシリンダ1で流量が必要なくても、ポンプPからは大流量が吐出されることになる。つまり、ポンプPは不要な流体を吐出し、エンジンEはそのために無駄にエネルギーを消費していた。
【0004】
この発明の目的は、駆動源の回転力を、必要なときにのみ伝達できるような回転力伝達装置と、必要以上にポンプを駆動してエネルギーを無駄にすることのないパワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、回転軸と、この回転軸にその軸方向に所定の間隔を保って固定した一対のプレートと、これら一対のプレートの外側に間隔を保つとともに上記回転軸と相対回転可能にした回転体と、この回転体と上記プレートとの間に介在させ、磁力の作用で高粘度化する磁性流体と、上記一対のプレート間に設けた永久磁石と、上記一対のプレート間に設けるとともに、圧力が作用していないとき高透磁性を保ち、圧力が作用したとき低透磁性を保つ磁歪素子とを備え、上記磁歪素子に押圧力が作用せず当該磁歪素子が高透磁性を保っているとき、上記永久磁石と一対のプレートとで構成される磁路を上記高透磁性を保った磁歪素子によって短絡させ、これら永久磁石、一対のプレート、および磁歪素子で閉磁路を構成して、上記回転軸と回転体との結合力を弱くして相対回転可能にする一方、上記磁歪素子に、押圧力を作用させ、当該磁歪素子が低透磁性を保っているとき、上記閉磁路を開放し、磁力を上記磁性流体に作用させ磁性流体を高粘度化して、上記回転軸と回転体との結合力を強くする点に特徴を有する。
【0006】
第2の発明は、第1の発明を前提とし、上記一対のプレート間には、磁歪素子ごとに対応するピストンを設けるとともに、上記回転軸に圧力導入路を形成し、上記圧力導入路へ圧力流体を導き、この圧力流体の圧力を、上記ピストンを介して磁歪素子に作用させる構成にした点に特徴を有する。
【0007】
第3の発明は、流体供給ポンプの駆動軸に接続した第1プーリーと、エンジンの回転軸に接続した第2プーリーとを連結手段によって連結し、上記流体供給ポンプの吐出ポートに接続した作動流体の供給流路に、切換弁を介してパワーシリンダを接続するとともに、上記切換弁は、中立位置において上記供給流路をタンクと接続し、いずれかの切り換え位置において上記供給流路をパワーシリンダのいずれか一方の室に接続するパワーステアリング装置において、上記第1、第2プーリーのいずれか一方を、上記第1または第2の発明の回転力伝達装置で構成した点に特徴を有する。
なお、この発明における連結手段は、上記第1、第2プーリーに掛け渡すベルトやチェーンのほか、外周を直接かみ合わせるギヤも含むものとする。
【0008】
第4の発明は、第3の発明を前提とし、上記一対のプレート間には、磁歪素子ごとに対応するピストンを設けるとともに、上記回転軸に圧力導入路を形成し、上記供給流路の圧力を上記圧力導入路へ導き、その圧力を、上記ピストンを介して上記磁歪素子に作用させる構成にした点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
第1、第2の発明によれば、磁歪素子に押圧力を作用させたり、させなかったりすることによって、回転軸と回転体との間の結合力を強くしたり弱くしたりすることができる。そのため、回転軸と回転体との間で、回転力を伝達させたり、させなかったりすることができる。そのため、回転軸あるいは回転体のいずれか一方に駆動源を接続した場合、その回転力を、必要に応じていずれか他方へ伝達させることができる。従って、回転軸あるいは回転体のいずれか他方を回転させる必要が無いときには、駆動源を停止しなくても回転力の伝達を抑えて、エネルギーの無駄を少なくできる。
【0010】
第2の発明によれば、流体の圧力を用いて磁歪素子に押圧力を作用させ、回転力の伝達を制御できる。
【0011】
第3、第4の発明によれば、パワーシリンダ側で流量を必要としない場合には、第1または第2プーリーにおける回転体と回転軸との連結力を小さくしたり、連結を切ったりして、エンジンの回転をポンプに伝達しないようにできる。そのため、ポンプから不要な流量が吐出されることを防止でき、エネルギーの無駄を少なくできる。
【0012】
第4の発明では、磁歪素子に押圧力を作用させるための流体圧を、パワーシリンダへの醜態供給通路から導くようにしたので、エンジン回転力のポンプへの伝達を制御するために、特別に圧力源を設ける必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1〜図3に、第1実施形態の回転力伝達装置を示す。
この回転力伝達装置は、回転軸3にブロック4を介して、一対のプレート5,5を固定している。上記ブロック4及び一対のプレート5,5は、それぞれ同一直径の円盤であるが、ブロック4はアルミなどの非磁性材料で構成し、プレート5,5は透磁率の高い磁性材料で構成している。また、回転軸3も非磁性材料で構成する。
なお、上記磁歪素子7は、通常は高透磁性を維持し、押圧力を受けたときに、低透磁性となる素材である。
そして、上記ブロック4には、その両面から軸方向へ突出する凸部4a,4aを設ける一方、プレート5,5にはこの凸部4a,4aに一致する貫通孔5a,5aを形成し、これらの貫通孔5a,5aに上記凸部4a,4aを嵌め合わせて両者を固定している。つまり上記プレート5,5は回転軸3と一体回転する。
【0014】
また、上記ブロック4には、軸方向に貫通する複数の貫通孔4bを円周に沿って形成し、各貫通孔4bには、棒状の永久磁石6または、棒状の磁歪素子7を設けている。これら永久磁石6と磁歪素子7は、図2,図3に示すように、円周上に交互に配置している。
なお、図2、図3は、永久磁石6及び磁歪素子7の配置を示すために、回転軸3やブロック4、回転体10は省略している。
そして、各永久磁石6は、一方のプレート5にS極を接触させ、他方のプレート5にN極を接触させている。従って、一方のプレート5がS極、他方のプレート5がN極となる。ただし、永久磁石6のS極とN極とを、図2、図3とは反対に配置してもかまわない。
【0015】
さらに、上記ブロック4内には、上記磁歪素子7に対応する圧力室4cを回転軸3から放射状に形成するとともに、この圧力室4c内にはOリング9を取り付けたピストン8を設けている。
そして、回転軸3には、外部から流体圧を導入する圧力導入路3aを形成し、その終端を上記圧力室4cに接続している。これにより、圧力導入路3aから導いた流体圧を、ピストン8を介して磁歪素子7に作用させることができる。上記圧力導入路3には、図示しない圧力発生源を接続し、必要に応じて圧力を導くようにしている。
【0016】
一方、上記プレート5,5の外周側には、所定の間隔を保って回転体10を設け、この回転体10を、例えばボールベアリングなどの軸受部材11を介して回転軸3に対し回転可能に取り付けている。回転体10は内部に中空部を備えていて、この中空部に上記一対のプレート5,5及びブロック4を収容したとき、プレート5,5の外周に所定の間隔が保たれ、流体室13を形成する構成にしている。そして、上記軸受部材11とプレート5との間には、回転体10とともに回転するシール部材12を設け、このシール部材12によって上記プレート5,5の外周側の流体室13を閉じるとともに、この流体室13には磁性流体Lを封入している。
上記磁性流体Lは、液体中に磁性粒子を分散させた流体であり、磁力が作用すると磁性粒子が凝集して粘度が高くなる性質を持った流体である。そして、この流体の粘度は、磁性粒子の物性や含有量のほか、分散媒となる流体の物性によって調整できるが、ここで用いる磁性流体は、磁力が作用していない状態で、水に近い粘性を示すものとする。
【0017】
以下に、上記回転力伝達装置の作用を説明する。
ここでは、回転軸3にモーターなどの駆動減を連結し、回転軸3の回転を上記回転体10に伝達したり、伝達させなかったりする場合について説明する。
上記流体圧導入路3aに圧力を導かないとき、上記磁歪素子7は高透磁性を維持している。そこで、永久磁石6による磁力線Aは、磁歪素子7内を通過し、永久磁石6、プレート5,5及び磁歪素子7によって閉磁路を構成する。
このように閉磁路が構成された場合には、プレート5,5の外側の磁性流体Lには磁力が作用しないので、磁性流体Lは低粘度流体である。このような低粘性流体では、回転軸3と回転体10との間の結合力は弱い。
このように、結合力が弱いとき、回転軸3を回転させても、その回転力は回転体10に伝達されずに、回転軸3と回転体10とは相対回転する。
【0018】
一方、上記流体圧導入路3aに流体圧を導き、圧力室4cのピストン8によって磁歪素子7に押圧力を作用させると、磁歪素子7の透磁性は下がり低透磁性となる。
磁歪素子7が低透磁性となれば、永久磁石6の磁力線Aは、磁歪素子7内を通過せず、外部を通るようになる。つまり、図3に示すように、上記閉磁路を開放し、磁力線Aの磁力がプレート5,5の外部の磁性流体Lにも及ぶことになる。
このように、磁力が作用すると、磁性流体Lは高粘度化して、プレート5,5と回転体10との結合力を高めるように作用する。すなわち、回転軸3が回転したとき、高粘度の磁性流体Lは回転軸3とともに回転し、その粘性によって回転体10を引っ張ることになる。その結果、回転軸3の回転力が回転体10に伝達される。
【0019】
上記のようにこの第1実施形態の回転力伝達装置では、磁歪素子7に押圧力を作用させることによって、回転軸3と回転体10の結合力を強くして、回転軸3の回転を回転体10に伝達させることができるし、磁歪素子7に押圧力を作用させなければ、回転軸3の回転を回転体10に伝達しないようにできる。
【0020】
ただし、磁力が作用しない状態での上記磁性流体Lの粘度をある程度高く設定しておけば、磁力が作用していない状態でも、回転軸3と回転体10とを流体の粘性による弱い結合力で、回転軸3の回転を一部だけ回転体10に伝達させ、磁力を作用させたときには、結合力を大きくして両者を一体回転させることもきる。
反対に、磁性流体Lの種類を選ぶことによって、磁力が作用して磁性流体Lが高粘度化しても、回転軸3と回転体10とが完全に結合されず、駆動源の回転力を一部だけ伝達するようにすることもできる。
なお、上記回転軸3と回転体10は、どちらに駆動源を連結するようにしてもかまわない。いずれにしても、磁歪素子7に押圧力を作用させるか否かによって、回転力の伝達を制御できる。
【0021】
図4に示す第2実施形態は、磁歪素子7に押圧力を作用させる機構が、上記第1実施形態と異なるが、その他の構成は第1実施形態と同様の装置である。上記第1実施形態と同じ要素には、図1と同じ符号を用い、その動作説明には、図2,図3を用いる。
この第2実施形態では、一対のプレート5,5間に引っ張りばね14を設けている。ここでは、プレート5,5間に設けたブロック4を外径をプレート5,5の外径よりも少し小さくし、各プレート5,5の外周近傍に引っ張りばね14の両端をそれぞれ固定して、このばね14のばね力によってプレート5,5を互いに近づく方向に引っ張るようにしている。このばね力により上記プレート5,5は僅かに撓み、磁歪素子7に対して押圧力が作用する。
【0022】
また、ブロック4内には回転軸3に形成した圧力導入路3aに連続するT字状の圧力室4dを複数形成し、この圧力室4dであって上記プレート5,6面に対向する部分にピストン8,8を設けている。上記圧力導入路3aに圧力を導いたとき、上記ピストン8,8を介して各プレート5,5に対し、互いに離れる方向の圧力が作用し、結果として磁歪素子7を、上記ばね力による押圧力から開放するようにしている。
【0023】
この第2実施形態の回転力伝達装置においては、外部からブロック4内に圧力を導いていないときに、磁歪素子7に押圧力が作用し、磁歪素子7が低透磁性を保っている。このとき、永久磁石6による磁力がプレート5,5の外周側の磁性流体Lに作用して、磁性流体Lを高粘度化している。この状態では、回転軸3と回転体10との結合力が大きくなり、回転軸3あるいは回転体10の回転力を他方に伝達できる。
これに対し、ブロック4内の圧力室4dに圧力を導いてピストン8,8によってプレート5,5が離れる方向の力を作用させると、磁歪素子7は上記押圧力から解放され、高透磁性を保持する。
【0024】
磁歪素子7が高透磁性を保持すれば、磁力線Aが磁歪素子7内を通過し、図2に示すように閉磁路を形成する。従って、磁性流体Lには磁力が作用せず、回転体10と回転軸3との結合力は弱くなる。つまり、回転軸3の回転は回転体10には伝達されない。
この第2実施形態の回転力伝達装置においても、磁歪素子7に押圧力を作用させるか否かによって、回転軸3と回転体10との間で、回転力を伝達したり、伝達しなかったりすることができる。
【0025】
第2実施形態の回転力伝達装置では、上記圧力導入路3aに圧力を導いていない状態のとき、回転軸3と回転体10との結合力が強くなる。回転力を伝達する状況が常態となる場合には、この第2実施形態の回転力伝達装置の方が、上記圧力導入路3aに圧力を導入しない状況を長く維持できるので、上記第1実施形態と比べて有利である。
【0026】
図5に示す第3実施形態は、上記第1実施形態の回転力伝達装置を用いたパワーステアリング装置である。
このパワーステアリング装置は、図6に示す従来のパワーステアリング装置と同様に、車輪W,Wにパワーシリンダ1のロッド1aを連結し、上記パワーシリンダ1には、切換弁2を介してポンプPを接続している。
そして、ポンプPの駆動軸には、第1プーリー15を接続し、エンジンEには第2プーリー16を接続し、これら第1プーリー15と第2プーリー16とに、この発明の連結手段であるベルト17を掛け渡し、エンジンEの回転力によってポンプPを駆動するようにしている。
【0027】
なお、図中の符号Hはハンドル、符号18は切換弁2を切り換えるトルク検出機構である。そして、操舵トルクがトルク検出機構18によって検出されると、その操舵トルクに応じて切換弁2が切り換わり、それによってパワーシリンダ1の一方の室がポンプPの吐出流路に連通し、他方の室がタンクTに連通する。その結果、パワーシリンダ1のピストン1bがロッド1aとともに移動して、車輪W,Wが転舵される点は、従来のパワーステアリング装置と同様である。
ただし、この第3実施形態では、上記第1プーリー15として、図1に示す上記第1実施形態の回転力伝達装置を用いる。従って、第1プーリー15の説明には図1〜図3を用いる。つまり、上記ポンプPの駆動軸に接続する第1プーリー15の回転軸は図1に示す回転軸3であり、回転体10の外周に上記ベルト17を掛け渡している。
また、回転軸3に形成した圧力導入路3a(図1参照)には、ポンプPの吐出ポートに接続した供給流路19を接続し、この供給流路19の圧力を導くようにしている。
【0028】
このようにしたパワーステアリング装置は、切換弁2が、図示の中立状態では、供給通路19がタンクTに連通しているので、第1プーリー15内の圧力室4c(図1参照)にはタンク圧が導かれる。従って、磁歪素子7には押圧力が作用せず、高透磁性を維持するので、図2に示すように磁力線Aは閉磁路を構成する。そのため、磁性流体Lには磁力が作用しないので、回転体10と回転軸3との結合力は弱い。そこで、エンジンEの回転が、第2プーリー16からベルト17を介して第1プーリー15の回転体10に伝達されても、回転軸3には伝達されない。
ただし、ここでは、上記磁性流体Lに磁力が作用していない状態でも、この磁性流体の粘性によって、回転体10の回転が少しは回転軸3に伝達されるようにしている。つまり、切換弁2の中立状態においてもポンプPは回転し、少量の作動油を吐出している。
【0029】
この状態から、切換弁2がいずれかの方向に切り換わると、上記供給通路19とタンクTとの連通が遮断され、供給通路19の圧力が上昇する。そのため、上記第1プーリー15内の圧力室4cにも高圧が導入される。圧力室4cに高圧が導入されれば、ピストン8を介して押圧力が磁歪素子7に作用し、磁歪素子7が低透磁性となる。磁歪素子7が低透磁性を保持すれば、永久磁石6による磁力線Aは、図3に示すように外部に及び、磁性流体Lに磁力が作用する。磁性流体Lに磁力が作用すれば、磁性流体Lが高粘度化して回転体10と回転軸3との結合力が強くなる。従って、エンジンEの回転に基づく回転力が回転軸3に伝達されることになる。その結果、ポンプPの回転数が上がって吐出量が増加し、パワーシリンダ1へ十分な作動油を供給できる。
【0030】
このように、第3実施形態のパワーステアリング装置では、エンジンEが常時回転していても、パワーシリンダ1に作動油を供給する必要がないときには、エンジンEの回転力をポンプPの回転軸に伝達させずに、ポンプPから無駄な流量を吐出をさせないようにすることができるとともに、パワーシリンダ1に対し必要な流量を供給することもできる。
従来のように、ポンプPが必要の無い流量を吐出してエネルギーを無駄にすることがない。
なお、上記第3実施形態では、ポンプP側に接続した第1プーリー15を第1実施形態の回転力伝達装置で構成したが、第2プーリー16を上記回転力伝達装置で構成してもよい。
また、第1プーリー15と第2プーリー16とを連結する連結手段は、ベルト17に限らず、チェーンやギヤでもよい。
【0031】
さらに、上記第1〜第3実施形態では、上記磁歪素子7に押圧力を作用させる手段として、流体圧やばね力を用いているが、押圧力作用手段はこれらに限らないし、上記ばね力を開放する手段も流体圧に限らず、どのようものでもよい。回転軸3と回転体10との結合力を高めたいときに、磁歪素子7に対して押圧力を作用できればどのようなものでもよい。
ただし、油圧式のパワーステアリング装置においては、第3実施形態のように、作動油の供給ポンプを磁歪素子の押圧用に兼用すれば、押圧力供給源を別に設ける必要がない。また、磁歪素子の押圧力として、供給通路の圧力を利用すれば、押圧力を作用させるタイミングを特別に制御する必要もなく、装置の構成を単純化できるメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態の断面図である。
【図2】第1実施形態の要部説明図であり、閉磁路を構成した状態を示している。
【図3】第1実施形態の要部説明図であり、閉磁路を開放された状態を示している。
【図4】第2実施形態の断面図である。
【図5】第3実施形態の回路図である。
【図6】従来のパワーステアリング装置の回路図である。
【符号の説明】
【0033】
W 車輪
P ポンプ
E エンジン
T タンク
L 磁性流体
1 パワーシリンダ
2 切換弁
3 回転軸
5 プレート
6 永久磁石
7 磁歪素子
8 ピストン
10 回転体
11 軸受部材
13 流体室
14 ばね
15 第1プーリー
16 第2プーリー
19 供給流路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、この回転軸にその軸方向に所定の間隔を保って固定した一対のプレートと、これら一対のプレートの外側に間隔を保つとともに上記回転軸と相対回転可能にした回転体と、この回転体と上記プレートとの間に介在させ、磁力の作用で高粘度化する磁性流体と、上記一対のプレート間に設けた永久磁石と、上記一対のプレート間に設けるとともに、圧力が作用していないとき高透磁性を保ち、圧力が作用したとき低透磁性を保つ磁歪素子とを備え、上記磁歪素子に押圧力が作用せず当該磁歪素子が高透磁性を保っているとき、上記永久磁石と一対のプレートとで構成される磁路を上記高透磁性を保った磁歪素子によって短絡させ、これら永久磁石、一対のプレート、および磁歪素子で閉磁路を構成して、上記回転軸と回転体との結合力を弱くして相対回転可能にする一方、上記磁歪素子に押圧力を作用させ、当該磁歪素子が低透磁性を保っているとき、上記閉磁路を開放し、磁力を上記磁性流体に作用させ磁性流体を高粘度化して、上記回転軸と回転体との結合力を強くする回転力伝達装置。
【請求項2】
上記一対のプレート間には、磁歪素子ごとに対応するピストンを設けるとともに、上記回転軸に圧力導入路を形成し、上記圧力導入路へ圧力流体を導き、この圧力流体の圧力を、上記ピストンを介して磁歪素子に作用させる構成にした請求項1に記載の回転力伝達装置。
【請求項3】
流体供給ポンプの駆動軸に接続した第1プーリーと、エンジンの回転軸に接続した第2プーリーとを連結手段によって連結し、上記流体供給ポンプの吐出ポートに接続した作動流体の供給流路に、切換弁を介してパワーシリンダを接続するとともに、上記切換弁は、中立位置において上記供給流路をタンクと接続し、いずれかの切り換え位置において上記供給流路をパワーシリンダのいずれか一方の室に接続するパワーステアリング装置において、上記第1、第2プーリーのいずれか一方を、請求項1または2に記載の回転力伝達装置で構成したパワーステアリング装置。
【請求項4】
上記一対のプレート間には、磁歪素子ごとに対応するピストンを設けるとともに、上記回転軸に圧力導入路を形成し、上記供給流路の圧力を上記圧力導入路へ導き、その圧力を、上記ピストンを介して上記磁歪素子に作用させる構成にした請求項3に記載のパワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−139049(P2010−139049A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318810(P2008−318810)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】