説明

回転工具

【課題】相手部材の剛性の違いやパッキンなどの介在にかかわらず目標とする締付トルクでの締め付けを行うことができるものとする。
【解決手段】 回転駆動源としてのモータ2と、モータ回転で発生させたトルクを出力軸7に加えるトルク印加手段と、上記出力軸に加わるトルクを測定するセンサ10と、該センサにより測定されたトルクが設定された目標トルクに達した時に上記出力軸へのトルク印加を停止させる制御手段Cとを備える。上記制御手段は、センサで検出されたトルク値の変化率に応じて上記目標トルクを補正して補正後の目標トルクに基づいて上記出力軸へのトルク印加を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじやボルト・ナットなどの締め付け作業及び弛緩作業に用いられる回転工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータを動力としてねじやボルト・ナットなどの締め付け作業及び弛緩作業に用いられる回転工具としては、回転駆動されるハンマによる打撃衝撃や、油圧によるパルス状の衝撃で出力部を回転させるインパクト型トルク発生装置を備えたものと、モータが発生するトルクを減速機のみを介して出力部に伝達するものとがある。
【0003】
このような回転工具において、適正な締付トルクでの締め付けを行うために、出力軸にトルクセンサを取り付けて、該トルクセンサで検出されるトルクが予め設定された設定値に達すればモータを停止させるものが特許文献1などで提案されている。
【0004】
この場合、締付トルクの管理が容易となるが、ボルトやねじの締め付けに際して、相手部材が剛性の高い部材である場合と、剛性の低い部材である場合、さらにはパッキンやゴムなどの弾性部材が介在する場合等では、同一の設定値で締め付け作業を行っても、トルクセンサで検出されるトルクが設定値に達したとしてモータが停止した時点での実際の締付トルクには差が生じてしまう。ちなみにパッキンやゴムなどが介在した場合、実際の締付トルクは設定値よりも低いものとなってしまい、目標とする締付トルクを得ることができないことが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−267368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような点に鑑みなされたものであって、相手部材の剛性の違いやパッキンなどの介在にかかわらず目標とする締付トルクでの締め付けを行うことができる回転工具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、回転駆動源としてのモータと、モータ回転で発生させたトルクを出力軸に加えるトルク印加手段と、上記出力軸に加わるトルクを測定するセンサと、該センサにより測定されたトルクが設定された目標トルクに達した時に上記出力軸へのトルク印加を停止させる制御手段とを備えた回転工具において、上記制御手段は、上記センサで検出されたトルク値の変化率に応じて上記目標トルクを補正して補正後の目標トルクに基づいて上記出力軸へのトルク印加を停止させるものであることに特徴を有している。
【0008】
上記制御手段は、上記センサで検出されたトルク値の変化率が小さい時に目標トルクを大きくする方向に補正するものであることが好ましい。
【0009】
また、上記制御手段は、上記センサで検出されたトルク値の変化率として、上記センサで検出されたトルク値が目標トルクよりも小さく設定した判定トルク値に達するまでの時間を計測するものとしてもよい。
【0010】
上記制御手段は、所定時間毎にトルク値の変化率を算出するとともに算出した変化率に応じて目標トルクを補正することを繰り返すものであってもよい。
【0011】
上記制御手段は、検出されたトルク値の変化率に対応する補正値をテーブルとして備えていることが望ましく、上記テーブルは、モータの回転速度毎に設定されたものであることがさらに望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、相手部材の剛性が低かったりパッキンなどが介在する場合でも、締め付け途中のトルクの変化率からトルク印加を停止させる目標トルクを補正するために、剛性の違いや弾性体の介在などの影響を受けることなく、目標とする締付トルクでの締め付けを行うことができるものであり、精度のよい締め付けを常時行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態の一例の動作を示すフローチャートである。
【図2】同上の概略断面図である。
【図3】同上のブロック図である。
【図4】同上の動作説明図である。
【図5】(a)(b)は判定トルク到達時間の長短による動作の違いを示す動作説明図である。
【図6】補正テーブルの一例の説明図である。
【図7】弾性体が介在する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施の形態の一例に基づいて詳述すると、図2に示す回転工具1は、駆動源であるモータ2と、モータ2の回転を所定の減速比で減速する減速機3と、インパクト型トルク発生装置とを備えたもので、ここにおけるインパクト型トルク発生装置は、モータ2の回転が減速機3を介して伝達されるハンマ4と、ハンマ4によって打撃されるアンビル5と、ハンマ4を軸方向に付勢するばね6とからなり、アンビル5の打撃によって回転力が出力軸7に衝撃的に印加される。図中8は出力軸7に取り付けられるビット、9は電池パックである。なお、上記ハンマ4の打撃は、ハンマ4とアンビル5の間に所定以上の負荷トルクが加わったために、アンビル5に対してハンマ4がばね6に抗して後退するとともに一定以上回動したときに発生する。
【0015】
上記出力軸7にはトルクセンサ10が取り付けられている。このトルクセンサ10は、出力軸7の外面に取り付けた磁歪部と、出力軸7の外周に配置された検出コイル及び外部磁気のシールドおよび検出コイルの感度向上のために検出コイルを覆っているヨークとからなる。上記磁歪部は、ねじり歪み検出のためのスリットのパターンを設けた磁歪性をもつアモルファス箔をエポキシ系接着剤で出力軸7に強固に接着したものとして形成されている。出力軸7にトルクが加わることによって出力軸7に歪が発生した時、磁歪部11の磁気特性も変化する。この時、上記検出コイルには制御回路Cから高周波の電圧を加えており、磁歪部の磁気特性の変化によって出力電圧が変化する。従って、上記出力電圧の測定で出力軸7に加わるトルクの大きさを求めることができる。
【0016】
上記モータ2の駆動制御を行う制御回路Cは、操作者がトリガスイッチ15を操作するとき、トリガスイッチ15の引き量に応じてモータ2の回転速度を変化させるなどの制御を行う。また上記モータ2にはその回転速度を検出するモータ速度検出部16を設けてある。モータ速度検出部16としては、モータの回転数に比例した周波数信号を発生する周波数ジェネレータを好適に用いることができるが、このほか、エンコーダなどでもよく、ブラシレスモータであればホールセンサの信号や逆起電力によって速度検出を行ってもよい。
【0017】
図3に目標トルクで締め付け動作を停止させるとともに目標トルクの大きさに応じてモータ2の回転数を変更する制御を行う制御回路Cのブロック図を示す。図中C1は上記速度検出部16からの信号をA/D変換して取り込むモータ速度測定部、C3は上記トルクセンサ10からの信号をA/D変換して取り込むトルク測定部であり、モータ2はモータ制御部C6の制御下で回転数がフィードバック制御される。
【0018】
今、ボリュームなどのトルク設定手段(図示せず)によって締め付けの目標トルクを設定すれば、この目標トルクがトルク設定値C2としてセットされ、作業者がトリガスイッチ15を引いて、トリガスイッチ15の引き量に応じた速度でモータ2が回転するようにモータ制御部C6がモータ2を制御駆動する。
【0019】
そして、トルクセンサ10及びトルク測定部C3で取り込んだトルク測定値(たとえばピーク値)が、図4に示すようにトルク設定値C2にセットされた目標トルク(の±10%の範囲内)に達すれば、停止判定部C4が停止指令をモータ制御部C6に送るために、モータ2は停止し、締め付け動作が終了する。
【0020】
ここにおいて、トルク設定値C2にセットされた目標トルクが大である場合は、トリガスイッチ15を最大限に引けば、モータ2は最高速度で駆動される。この場合、ハンマ4によるアンビル5の打撃で生じた衝撃は大きく、1衝撃当たりのトルク増大値も大きい。そしてこの1衝撃当たりのトルク増大値は締め付けが進むにつれて小さくなるが、目標トルクの±10%の範囲内に達すれば、上述の停止判定部C4がモータ停止指令を発してモータ2を停止させる。
【0021】
ただし、トルク設定値C2にセットされた目標トルクが小さい時も、トリガスイッチ15を最大限に引いた時にモータ2が最高速度で駆動されるようになっていると、1衝撃当たりのトルク増大値が目標トルクの±10%の範囲を飛び越えてしまったりするために、目標トルクでモータ2を停止させることができず、締めすぎが生じてしまうことになる。
【0022】
このためにここではトルク設定値C2にセットされた目標トルクの大きさに応じて、制限速度算出部C5がトリガスイッチ15を引いた時のモータ2の回転速度を規制している。つまり、目標トルクが小さい時には、トリガスイッチ15を最大限に引いても、モータ2は最高速度に達しない速度に制限され、トリガスイッチ15の引き量が少ない時には、さらに速度が抑制される。従って、トルク設定値C2にセットされた目標トルクが小さい時には、1衝撃当たりのトルク増大値も小さく、目標トルクに達するまでの衝撃回数も多くなるとともに、目標トルクの例えば±10%の範囲内に留まる回数も多くなる。このために、停止判定部C4が停止信号を発令してモータ2が停止した時、締付トルクが目標トルクの範囲内に収まるものである。
【0023】
なお、目標トルクに対する上記誤差範囲を±x%とする場合、目標トルク範囲の下限に到達するまでに50/x回以上の衝撃が必要となるようにするのが好ましい。誤差範囲が上述のように±10%であれば、50/10=5より5パルス以上かけて目標トルクに到達するように1衝撃当たりのトルク増大値を制限するのである。この場合、目標トルクの誤差範囲±x%の範囲内で2回以上の衝撃が発生することになるために、1回目の衝撃でモータ2が停止しなくても次の衝撃で停止させることができ、締付トルクを目標トルクの範囲内に納めることがより確実にできることになる。
【0024】
そして、この回転工具においては、トルク設定値C2の大小に応じた上記モータ回転数の規制に加えて、上記トルク設定値C2よりも所定値だけ小さい判定トルク値を判定トルク設定部C7において設定し、打撃衝撃による締め付けの開始から締付トルクが上記判定トルク値に達するまでの打撃時間(判定トルク到達時間)Tを打撃時間測定部C8で測定し、上記時間Tに応じた補正値を補正値算出部C9が算出してトルク設定値C2を補正するものとなっている。
【0025】
ここにおいて、相手部材の剛性が高い場合は、上記判定トルク到達時間Tが図5(a)に示すように短く、図7に示すように締め付けるねじ31と相手部材30との間に弾性部材32が介在する時などのように軸力伝達が遅れる場合は、図5(b)に示すように、上記判定トルク到達時間Tが長くなる。そして弾性部材32が介在する時など、最終的な締付トルクが目標トルクよりも小さくなってしまうという問題を解消するために、この回転工具では、上記時間Tが長ければ、目標トルクを高くする方向に補正し、補正後の目標トルクに基づいて出力軸7へのトルク印加を停止させる。
【0026】
たとえば、図6に示すように、回転数Nが10000rpmである場合、トルク設定値C2にセットした目標トルク20N・mである場合、判定トルク到達時間Tが500msであれば、なんら補正はしないが、判定トルク到達時間Tが550msであれば、目標トルクを20.5N・mに補正し、判定トルク到達時間Tが600msであれば、目標トルクを21N・mに補正するのである。そしてこのように補正した目標トルクに締付トルクが達すれば、前述のように停止判定部C4がモータ2を停止させる。
【0027】
上記補正は、図6に示すような補正テーブルを各回転数毎に用意しておき、トルク設定値C2にセットされた目標トルクに応じた最大回転数規制がなされる時、制御回路Cはその回転数での上記判定トルク到達時間Tに応じた補正値を補正テーブルから読み込んで目標トルクを補正することで行う。補正テーブルを用いることで、さまざまな締付対象に対して適切な補正を行うことが容易となる。
【0028】
なお、回転数(回転速度)毎に補正値を変えることは、目標トルクに応じて最大回転数を規制することを行わないものにおいても、電池パック9の電源電圧が低下して最大回転数が低下した時や、使用者がモータ回転速度を抑えて作業を行う場合などに有効である。
【0029】
ところで上記時間Tが変わるのは、トルク変化率(dT/dt)が変わるためであり、トルク変化率を直接用いずに判定トルク到達時間Tの測定結果に応じて補正を行っているのは、補正処理を容易とするためであるが、トルク変化率(dT/dt)を算出し、この算出結果に基づいて補正を行ってもよいのはもちろんであり、この場合も、トルク変化率に応じた補正値を予めセットした補正テーブルを用いるとよい。
【0030】
また、トルク変化率を直接用いる場合、締付トルクが上記判定トルクに達した時点でのトルク変化率に基づいて補正を行うほか、打撃がなされている間、トルク変化率を算出するとともに算出したトルク変化率に応じて目標トルクを補正することを所定時間毎に繰り返すようにしてもよい。後者の場合、締め付け作業中の状況変化に応じて目標トルクの補正がなされるために、タッピングねじや木ねじの締め付けなどのように締め付け作業中のトルク変化が大きいものにおいても適切な締め付けを行うことができるほか、目標値制御へのフィードバックが早くなるために、既に締め付けたねじを増し締めする場合のように、より少ない打撃でトルク検出して停止させたい場合などに有効である。
【0031】
このほか、判定トルク到達時間Tは、モータ性能に影響のある電池パック9の出力電圧や、モータ温度によっても変わるために、これら出力電圧や温度によって補正テーブルを修正すると、より精度の高い補正を行うことができる。
【0032】
更には、回転工具の製品完成時に上記判定トルク到達時間Tと補正すべき値とを実測し、この実測値を基に上記補正テーブルを作成して不揮発メモリなどに記憶させることで、トルクセンサの性能やモータ性能の個体差にも対応した高精度な締め付けを行うことができるものを得ることができる。
【0033】
上記各例では予め設定した補正テーブルを利用するものとして説明したが、到達時間Tに応じた補正係数によるトルク設定値C2の補正を行ってもよいのはもちろんである。
【0034】
締付が完了した後は、トルクの測定結果の表示、あるいは締め付け動作の良否の判定表示を行うようにしておくと、作業者にしてみれば、より安心して作業を行うことができる。トルク測定値や良否の判定結果を通信によって管理手段に通知するようにすれば、締付トルクの管理を行うことができる。
【0035】
ハンマ4とアンビル5とによるインパクト型トルク発生装置を備えた回転工具を示したが、油圧パルスで衝撃を発生させるものであってもよいし、衝撃を利用せずにモータが発生するトルクを出力軸7に直接もしくは減速して伝達する形式のトルク発生装置を備えたものであってもよい。衝撃を利用しないものにおいても、トルク変化率に応じた補正値を採用することで、弾性部材32が介在する時などの締め付け力不足の発生を抑えることができる。トルク変化率として判定トルクに達するまでの時間を用いる場合は、ボルトやねじの着座判定から、あるいはトルクセンサ10で検出されたトルク値が所定値を越えてから上記判定トルクに達するまでの時間を用いればよい。
【符号の説明】
【0036】
1 回転工具
2 モータ
3 減速器
4 ハンマ
5 アンビル
7 出力軸
10 トルクセンサ
C 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源としてのモータと、モータ回転で発生させたトルクを出力軸に加えるトルク印加手段と、上記出力軸に加わるトルクを測定するセンサと、該センサにより測定されたトルクが設定された目標トルクに達した時に上記出力軸へのトルク印加を停止させる制御手段とを備えた回転工具において、
上記制御手段は、上記センサで検出されたトルク値の変化率に応じて上記目標トルクを補正して補正後の目標トルクに基づいて上記出力軸へのトルク印加を停止させるものであることを特徴とする回転工具。
【請求項2】
上記制御手段は、上記センサで検出されたトルク値の変化率が小さい時に目標トルクを大きくする方向に補正するものであることを特徴とする請求項1記載の回転工具。
【請求項3】
上記制御手段は、上記センサで検出されたトルク値の変化率として、上記センサで検出されたトルク値が目標トルクよりも小さく設定した判定トルク値に達するまでの時間を計測するものであることを特徴とする請求項1または2記載の回転工具。
【請求項4】
上記制御手段は、所定時間毎にトルク値の変化率を算出するとともに算出した変化率に応じて目標トルクを補正することを繰り返すものであることを特徴とする請求項1または2記載の回転工具。
【請求項5】
上記制御手段は、検出されたトルク値の変化率に対応する補正値をテーブルとして備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転工具。
【請求項6】
上記テーブルは、上記モータの回転速度毎に設定されたものであることを特徴とする請求項5記載の回転工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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