説明

回転式焼却炉の断熱構造および回転式焼却炉の断熱材施工方法

【課題】 無機繊維からなるブランケット状の断熱材を回転式焼却炉(ロータリーキルン炉)の断熱材として使用できる断熱技術の提供にある。
【解決手段】 ロータリーキルン炉の外壁11を、仕切り板12,13により円周上で、断面略扇状に複数の区画部15,15,…に区分する。この区画部15に合わせて、ガラス繊維を主材としセラミック繊維を加えてブランケット状にした断熱マット20を、炉の外壁11に嵌合・固定する。この断熱マット20は、炉本体を構成する鉄鋼材の伸縮に追随する断熱構造となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生ゴミ類を含む産業廃棄物を炭化処理する回転式焼却炉の断熱技術、詳しくは、回転式焼却炉の断熱構造および回転式焼却炉の断熱材施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
資源循環型社会の形成に向け、産業廃棄物(ごみ)中の炭素を有効利用する観点から、「ガス化溶融炉」や「炭化炉」が新しいごみ処理システムとして市場に投入されている。
ここで、回転式焼却炉(以下「ロータリーキルン炉」という)には、ごみを600℃以下で且つ低酸素濃度の雰囲気下で蒸し焼きにし、このときに発生する可燃性ガスを溶融炉に導入し、炭化したごみや金属を更に1200℃以上の高温で溶融処理するガス化溶融炉や、蒸し焼き後に残った炭化物(カーボン)を有価物として取り出す炭化炉がある。
【0003】
従来、ロータリーキルン炉で産業廃棄物を焼却する時には、炉内温度を800℃〜1000℃に加熱しながら、炉全体を1〜5rpmの低速で回転させて行っていた。そして、ロータリーキルン炉の内壁には、産業廃棄物の焼却に伴って発生する熱エネルギーの放散防止のために断熱材が施工される。この断熱材には主にブロック形状の保温材が用いられ、炉の内壁全体を覆うように施工されている。なお、ロータリーキルン炉の断熱構造については、以下の特許文献1〜3がある。
【0004】
【特許文献1】特公平6−103153号公報
【特許文献2】特公平7−069110号公報
【特許文献3】特開2003−106770公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ロータリーキルン炉の断熱技術には、従来次のような問題点を有していた。
(1)ブロック形状の保温材の場合、炉自体の熱膨張に追随することができず、保温材間に隙間が発生したり、或いは保温材に割れが発生し、断熱性能が劣化してくるとともに、保温材自体の耐久性能が劣化してくる。
(2)炉の内壁全体を覆うように設けられたブロック形状の保温材を交換する場合、作業が困難なため多大な作業時間を要していた。保温材の交換が困難な場合には、炉全体を交換することも必要に応じて実施していた。
(3)前記に述べた炭化炉の場合には、炉内温度が600℃以下と低温であるため、炉壁を断熱材により断熱する構造は採用されていなかった。
(4)無機繊維からなるブランケット状の断熱材として、セラミック繊維,ガラス繊維,ロックウール等からなる断熱材が知られている。従って、これらの断熱材をロータリーキルン炉の外壁に巻き付け、炉壁を断熱することも考えられる。しかしながら、それぞれ下記に示すような欠点があり、ロータリーキルン炉のような回転炉の断熱材として用いることは困難であった。すなわち、第1に、セラミック繊維は、耐熱性は高いが、圧縮・復元性の値が小さく、炉自体の熱膨張に追随することができない。また、折れ易く、炉外壁にきつく巻くことができない。第2に、ガラス繊維は、圧縮・復元性の値が大きく、炉自体の熱膨張に追随するが、耐熱温度が最高500℃である。第3に、ロックウールは、200℃以上で使用した場合には、バインダー(有機物)が焼失してしまい、ブランケットにヘタリが生じ易くなるため劣化が促進されてしまう欠点があった。
【0006】
そこで、上記問題点を解決して、無機繊維からなるブランケット状の断熱材を回転式焼却炉(ロータリーキルン炉)の断熱材として使用できる断熱技術の提供を目的とし、本願発明者らは鋭意試験・研究の結果、本願発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明は、生ゴミ類を含む産業廃棄物を炭化処理する回転式焼却炉の断熱構造において、該断熱構造が、焼却炉の外壁を円周上で略扇状に区画する仕切り板と、略扇状に区画された区画部に嵌合する無機繊維からなるブランケット状の断熱材と、該断熱材を焼却炉の外壁に固定する金属製のバンドとからなり、該断熱材がガラス繊維を主材として、セラミック繊維を混在させた無機繊維からなることを特徴とするものである。すなわち、ロータリーキルン炉の外壁を、仕切り板により円周上で、断面略扇状に複数の区画に区分する。この区画形状に合わせて、ガラス繊維を主材としセラミック繊維を加えてブランケット状にした断熱材を、炉の外壁に固定する。この断熱材は、炉本体を構成する鉄鋼材の伸縮に追随する断熱構造となる。
第2の発明は、生ゴミ類を含む産業廃棄物を炭化処理する回転式焼却炉の断熱構造において、該断熱構造が、焼却炉の端面を略放射状に区画する仕切り板と、略放射状に区画された区画部に嵌合する無機繊維からなるブランケット状の断熱材と、該断熱材を焼却炉の外壁に固定する金属製のバンドとからなり、該断熱材がガラス繊維を主材として、セラミック繊維を混在させた無機繊維からなることを特徴とするものである。
第3の発明は、前記セラミック繊維がアルミナ・シリケート系セラミックファイバーであり、残りが主材となるガラス繊維であることを特徴とするものである。例えば、アルミナ・シリケート系セラミックファイバーを全体量の5〜15%加える。このことにより、炉の伸縮に追随するとともに、耐熱性700℃となる無機繊維からなるブランケット状の断熱材となる。
第4の発明は、前記断熱材が、ガラス繊維を主材としてセラミック繊維を混在させた無機繊維をブランケット状に成形し、該ブランケットを複数層重ねて、金属メッシュにて覆った構造であることを特徴とするものである。すなわち、このブランケットは、弾力性に優れるガラス繊維を主体に、耐熱性を付与するためにセラミック繊維を混合したものであり、用途に応じてこれを複数層重ね、さらに金属メッシュにて覆ったものである。
第5の発明は、前記断熱材が、前記回転式焼却炉の外壁に複数層取付けられ、各層毎に金属バンドにより固定されるとともに、前記仕切り板には、前記金属バンドと非接触となる切欠きが設けられていることを特徴とするものである。すなわち、ブランケットは、炉外壁に金属バンド等によりきつく固定される。このとき、仕切り板には金属バンドによる締め付けを考慮して、切れ込みが設けられているのである。なお、ブランケットは、用途に応じて複数層取付けられるとともに、ブランケットの外周に亀甲金網、さらに亀甲金網の外周に角波外装板が設けられ、この角波外装板が金属バンドにて固定されている。
第6の発明は、生ゴミ類を含む産業廃棄物を炭化処理する回転式焼却炉の断熱材施工方法において、焼却炉の外壁を円周上で略扇状に区画する仕切り板を設ける工程と、略扇状に区画された区画部に無機繊維からなるブランケット状の断熱材を嵌合する工程と、該断熱材を焼却炉の外壁に金属製のバンドで固定する工程とからなり、該断熱材がガラス繊維を主材として、セラミック繊維を混在させた無機繊維からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、次のような効果を有する。
(1)炉外壁に設けられた断熱材が、ガラス繊維を主材としてセラミック繊維を混在させてブランケット状に成形したものであり、耐熱温度が最高700℃となるとともに、温度変化による鉄鋼製の炉壁の伸縮に追随できる断熱構造となっている。
(2)断熱材の構造が無機繊維からなるブランケット状であるため、金属バンドにより炉の外壁に密着し、温度変化による断熱材のずれを生じることがなく、断熱性を維持することができる。
(3)ブランケットが層状に形成されているため、用途又は部位により任意に厚さを変えることができる。
(4)断熱材の形状が軽量のブランケット状であり、さらに炉の外壁に金属バンドにより取付けられているため、劣化時における交換作業が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態1として回転式焼却炉(ロータリーキルン炉)の胴部外壁の断熱構造を示す説明図である。ロータリーキルン炉の胴部10には、その円周部外壁11を略扇状に区画する仕切り板が設けられている。この仕切り板は、周方向へ設けられる仕切り板12と軸(長手)方向へ設けられる仕切り板13とによって、略扇状に区画された区画部15,15,…を形成するように円周部外壁11に溶接されている。
【0010】
そして、その区画部15には、断熱材である断熱マット20が嵌合される。図2に示すように、断熱マット20は5層の断熱材22,22,…をステンレスメッシュ(SUSメッシュ)21で被覆した構造となっている。ここで使用される断熱マット20の断熱材22は、ガラス繊維を主材として、セラミック繊維を混在させた無機繊維からなるブランケット状の断熱材である。主材であるガラス繊維が弾力性に優れ、これに混在させるセラミック繊維が耐熱性に優れているため、断熱マット20は弾力性及び耐熱性の両方に優れたものとなり、胴部10の伸縮に追随でき且つ胴部10の高温にも耐え得る最適な断熱材といえる。また、断熱マット20はブランケット状であるため、胴部10に密着可能である。
【0011】
このような断熱マット20の断熱材22として、例えば、ガラス繊維を主材として、アルミナ・シリケート系セラミックファイバーからなるセラミック繊維を5〜15%含有させた無機繊維からなるブランケットを用いることができる。但し、断熱材の成分比率はこれに限られるものではない。
【0012】
そして、本実施形態1では、断熱マット20を円周部外壁11に2層積層させている。区画部15を形成する仕切り板は、軸(長手)方向へ設けられる仕切り板13が1つおきに2層目の断熱材20の厚み(高さ)に対応している。従って、図2に示すように嵌合する断熱マット20が1層目と2層目で交差されるように積層することができる。このようにすることにより、断熱マット20が胴部10の伸縮および胴部10の回転によるずれを防止する効果がある。
【0013】
このようにして区画部15に嵌合された断熱マット20は、金属製バンド30によって円周部外壁11に固定される。なお、金属製バンド30が1層目の断熱マット20を固定するために、軸(長手)方向へ設けられる仕切り板13には、切欠き14が設けられているものもある。
【0014】
円周部外壁11に積層された断熱マット20の外側には、金網(SUS304)40が取り付けられ、さらに金網40の外側には外装板(角波外装板)45が取り付けられ、外装板40の外周を金属製バンド(SUSバンド)32で固定している。金網40は、積層された断熱マット20を胴部10の外壁面になじませて同心円状にする効果がある。また、外装板45は、胴部10の断熱構造を外的要因からの保護し、天候等による外部環境からの影響による劣化防止の効果がある。
【0015】
図3は、本発明の実施形態2として回転式焼却炉(ロータリーキルン炉)の胴部外壁の断熱構造を示す説明図である。ロータリーキルン炉の胴部10には、その端面部外壁16を略放射状に区画する仕切り板17が設けられている。この仕切り板は、外縁方向へ設けられる仕切り板17によって、略放射状に区画された区画部18,18,…を形成するように端面部外壁16に溶接されている。
【0016】
そして、その区画部18には、断熱材である断熱マット25が嵌合される。断熱マット25は10層の断熱材27,27,…をステンレスメッシュ(SUSメッシュ)26で被覆した構造となっている。断熱マット25の材質は、前記断熱マット20の材質と同様、ガラス繊維を主材として、アルミナ・シリケート系セラミックファイバーからなるセラミック繊維を5〜15%含有させた無機繊維からなるブランケットである。
【0017】
そして、本実施形態2では、断熱マット25を仕切り板17と押さえ板35により区画された区画部18に1層取り付けている。区画部18に嵌合された断熱マット25は、上面を金属製バンド(SUSバンド)33によって端面部外壁16に固定される。押さえ板35,35上には、さらに外装板(平板外装板)46が取り付けられる。
【0018】
図4は、本実施形態1と本実施形態2との接合部の構造を示したものである。すなわち、円周部外壁11の外装板45と端面部外壁16の外装板46とをL字形平板48で固定している。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、生ゴミ類を含む産業廃棄物を炭化処理する回転式焼却炉の断熱箇所、すなわちその円周部外壁および端面部外壁の断熱構造として広く利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1を示す説明図。
【図2】断熱マットの構造及び断熱マットの積層構造を示す説明図。
【図3】本発明の実施形態2を示す説明図。
【図4】本実施形態1と本実施形態2との接点の構造を示した断面図。
【符号の説明】
【0021】
10 胴部 11 円周部外壁 12,13 仕切り板 14 切欠き
15 区画部 16 端面部外壁 17 仕切り板 18 区画部
20,25 断熱マット 21 SUSメッシュ 22,27 断熱材
26 SUSメッシュ
30,32,33 金属製バンド 35 押さえ板
40 金網 45 外装板 46 外装板 48 L字形平板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ゴミ類を含む産業廃棄物を炭化処理する回転式焼却炉の断熱構造において、
該断熱構造が、焼却炉の外壁を円周上で略扇状に区画する仕切り板と、
略扇状に区画された区画部に嵌合する無機繊維からなるブランケット状の断熱材と、
該断熱材を焼却炉の外壁に固定する金属製のバンドとからなり、
該断熱材がガラス繊維を主材として、セラミック繊維を混在させた無機繊維からなることを特徴とする回転式焼却炉の断熱構造。
【請求項2】
生ゴミ類を含む産業廃棄物を炭化処理する回転式焼却炉の断熱構造において、
該断熱構造が、焼却炉の端面を略放射状に区画する仕切り板と、
略放射状に区画された区画部に嵌合する無機繊維からなるブランケット状の断熱材と、
該断熱材を焼却炉の外壁に固定する金属製のバンドとからなり、
該断熱材がガラス繊維を主材として、セラミック繊維を混在させた無機繊維からなることを特徴とする回転式焼却炉の断熱構造。
【請求項3】
前記セラミック繊維がアルミナ・シリケート系セラミックファイバーであり、残りが主材となるガラス繊維であることを特徴とする請求項1又は2記載の回転式焼却炉の断熱構造。
【請求項4】
前記断熱材が、ガラス繊維を主材としてセラミック繊維を混在させた無機繊維をブランケット状に成形し、該ブランケットを複数層重ねて、金属メッシュにて覆った構造であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の回転式焼却炉の断熱構造。
【請求項5】
前記断熱材が、前記回転式焼却炉の外壁に複数層取付けられ、各層毎に金属バンドにより固定されるとともに、前記仕切り板には、前記金属バンドと非接触となる切欠きが設けられていることを特徴とする請求項1,3又は4のいずれかに記載の回転式焼却炉の断熱構造。(請求項2は含まれないと思われますが、このままでいきましょうか?→同意)
【請求項6】
生ゴミ類を含む産業廃棄物を炭化処理する回転式焼却炉の断熱材施工方法において、
焼却炉の外壁を円周上で略扇状に区画する仕切り板を設ける工程と、
略扇状に区画された区画部に無機繊維からなるブランケット状の断熱材を嵌合する工程と、
該断熱材を焼却炉の外壁に金属製のバンドで固定する工程とからなり、
該断熱材がガラス繊維を主材として、セラミック繊維を混在させた無機繊維からなることを特徴とする回転式焼却炉の断熱材施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−120852(P2007−120852A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312984(P2005−312984)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】