説明

回転支持装置

【課題】部品点数の低減、及び組み付け性の向上を図りつつ、スラストころ軸受2bとラジアルころ軸受1bとの結合状態の安定性の向上を図れる構造を実現する。
【解決手段】前記ラジアルころ軸受1bを構成する外輪26aの内周面の軸方向一端に、この内周面から径方向に突出した係合部29を設ける。又、前記スラストころ軸受2bを構成するスラスト保持器16bの径方向内端に設けた円筒部31の先端部の円周方向の少なくとも一部に、前記係合部29が軸方向一方から通過しようとした場合のみ径方向に弾性変形する弾性変形部32を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車用変速機のメインシャフトに対してギヤを、このメインシャフトに対する回転自在に支持する為の回転支持装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用手動変速機に組み込まれるメインシャフトにギヤを回転自在に支持する回転支持装置の構造として従来から、例えば特許文献1に記載された様な構造が知られている。この従来から知られた回転支装置は、例えば図7に示す様に構成される。この回転支持装置は、ラジアルころ軸受1と、スラストころ軸受2とを備えている。このうちのラジアルころ軸受1は、図示しないクラッチ機構を介してエンジンのクランクシャフトに結合されたメインシャフト3の小径部4の外周面と、この小径部4の外径よりも大きな内径を有しこの小径部4の周囲に配置され、全体を環状に形成されたギヤ5の内周面との間に配置されている。
【0003】
この様なラジアルころ軸受1は、内輪部材6と、複数のラジアルころ7と、ラジアル保持器8とから成る。
このうちの内輪部材6は、外周面に内輪軌道9が形成されており、内周面を前記メインシャフト3の小径部4に外嵌固定している。又、この内輪部材6の軸方向他端部(図7の左側端部)の円周方向複数個所には、係止切り欠き10が形成されている。
【0004】
又、前記複数本のラジアルころ7は、それぞれの中心軸を前記メインシャフト3と平行に配置した状態で、前記ラジアルころ軸受1の外輪軌道11を構成する前記ギヤ5の内周面と、前記内輪部材6の内輪軌道9との間の円筒状空間(軸受空間)に配置されている。
又、前記ラジアル保持器8は、円筒状であり、前記各ラジアルころ7を転動自在に保持している。
【0005】
一方、前記スラストころ軸受2は、前記ギヤ5の軸方向端面と前記メインシャフト3の小径部4と大径部12とを連続する段部13との間に配置されている。この様なスラストころ軸受2は、スラストレース14と、複数本のスラストころ15と、スラスト保持器16とから成る。
【0006】
このうちのスラストレース14は、一側面(図7の右側面)にスラスト軌道面17が形成された円輪状の外径側環状板部18の他側面を、前記段部13に当接した状態で配置している。又、この外径側環状板部18の径方向両端には、これら両端から軸方向一方に延出して、前記スラスト保持器16を案内する、外径側円筒部19及び内径側円筒部20が設けられている。又、この内径側円筒部20の一端には、この一端から径方向内方に延出した、内径側環状板部21が設けられている。更に、この内径側環状板部21の内端縁の円周方向複数箇所には、前記係止切り欠き10と係合可能な係合凸部22が形成されている。
【0007】
前述した様なラジアルころ軸受1とスラストころ軸受2とは、前記内輪部材6の係止切り欠き10と、前記スラストレース14の係合凸部22とを係合した状態で結合されている。この為、組み付け作業の際に、前記ラジアルころ軸受1とスラストころ軸受2とを一体的に取り扱う事ができると言った利点を有する。
【0008】
ところで、スラストころ軸受の部品点数、及び組み立て工数の低減を図り、且つ軸方向の寸法が嵩む事を抑えるべく、前記ギヤ5の軸方向端面、及び前記メインシャフト3の段部13にスラスト軌道面を形成して、スラストレースを省略する構造が従来から知られている。但し、前述した回転支持装置の場合、ラジアルころ軸受1とスラストころ軸受2とを非分離に組み合わせる為には、前記スラストレース14が必須の構成部材であり、省略する事ができない。この為、部品点数、及び組立工数の低減と言った観点から不利である。更に、軸方向の寸法に関する設計的な制限がある場合、前記スラストレース14の厚さ分だけ軸方向の寸法が嵩んでしまう。その他、特許文献2には、スラストころ軸受を構成するスラストレースと、ラジアルころ軸受を構成する外輪とを結合した回転支持装置の構造が記載されている。但し、この様な回転支持装置の構造も、スラストレースを省略する事ができない。この為、前記特許文献1に記載された回転支持装置と同様の点で不利である。
【0009】
又、特許文献3には、スラストころ軸受を構成する保持器と、ラジアルころ軸受を構成する外輪との係合により、スラストころ軸受とラジアルころ軸受とを結合した回転支持装置の構造が記載されている。この回転支持装置は、図8に示す様に、スラストころ軸受2aを構成するスラスト保持器16aの一方の円輪状部材23の内端に、この内端から軸方向一方に延出した円筒部24を設けている。又、この円筒部24の一端に、この円筒部24の外周面から径方向外方に延出した状態で、軸方向に関して弾性変形可能な係合フランジ部25を設けている。又、ラジアルころ軸受1aを構成する外輪26の内周面の他端(図8の左端部)に、この内周面から径方向内方に突出した状態で設けた鍔部27を設けている。そして、前記係合フランジ部25の軸方向他側面(図8の左側面)と、この鍔部27の内側面との係合により、前記ラジアルころ軸受1aと前記スラストころ軸受2aとを結合している。
【0010】
前述した様なスラスト保持器16aの係合フランジ部25と前記外輪26の鍔部27とを係合する作業は、この外輪26の軸方向他側面(図8の左側面)により、前記係合フランジ部25の軸方向一側面を押圧しつつ、この係合フランジ部25を軸方向他方に弾性変形させる。すると、この係合フランジ部25の外端縁の外径が、前記鍔部27の内径よりも小さくなり、この鍔部27が、この係合フランジ部25を、軸方向一方から他方(図8の右から左方向)に通過する。
【0011】
この様な構造の回転支持装置の場合、前記ラジアルころ軸受1aとスラストころ軸受2aとを結合する為に、スラストレースが必須の構成部材ではない。この為、前述した様な、スラストレースを省略するスラストころ軸受の構造に適用する事が可能である。その結果、部品点数、及び組立工数の低減を図り、且つ軸方向の寸法が嵩む事を抑えられる。但し、前記係合フランジ部25は、軸方向の何れの方向(図8の左右方向)に関しても弾性変形可能である。この為、前記図8に示す組み付け状態に於いて、前記外輪26、及びラジアルころ7aが、内輪28に対して軸方向一方(図8の右方向)に変位し、前記ラジアルころ軸受1aと前記スラストころ軸受2aとが分離する事を必ずしも確実に防止できない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−14043号公報
【特許文献2】実開平4−48417号公報
【特許文献3】特開2008−232240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、回転支持装置を構成するスラストころ軸受とラジアルころ軸受とを結合する構造を工夫する事により、部品点数の低減、及び組み付け性の向上を図りつつ、前記スラストころ軸受とラジアルころ軸受との結合状態の安定性の向上を図れる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の回転支持装置は、前述した各従来構造と同様に、ラジアルころ軸受と、スラストころ軸受とを備える。
このうちのラジアルころ軸受は、複数本のラジアルころと、ラジアル保持器とを有する。
これら複数のラジアルころは、大径部と小径部とを段部で連続させた外周面形状を有する軸部材のうちの小径部の外周面と、この小径部の外径よりも大きな内径を有しこの軸部材の周囲に配置された環体の内周面との間に配置されている。
又、前記ラジアル保持器は、前記両周面同士の間の円筒状空間内に配置された円筒状であり、前記各ラジアルころを転動自在に保持している。
又、前記スラスト軸受は、複数本のスラストころと、スラスト保持器とを有する。
これら複数本のスラストころは、前記環体の軸方向端面と前記段部との間に配置されている。
又、前記スラスト保持器は、前記軸方向端面と段部との間に配置された円輪状であり、前記各スラストころを転動自在に保持している。
【0015】
特に本発明の回転支持装置は、前記ラジアルころ軸受が、内周面又は外周面の何れか一方の周面に軌道面が形成された円筒状の軌道輪部材を有する。又、この軌道輪部材の、軸方向他方の端部(スラストころ軸受に近い側の端部)に、この端部から径方向に突出した状態で係合部を設ける。
又、前記スラストころ軸受を構成するスラスト保持器は、その径方向内端から軸方向一方(ラジアルころ軸受に近付く方向)に延出した円筒部を有する。又、この円筒部の先端部の円周方向の少なくとも一部に、前記係合部が軸方向一方から通過しようとした場合のみ、この係合部との係合に基づいて径方向に弾性変形可能な弾性変形部を設ける。
又、この弾性変形部の自由状態で、前記軌道輪部材の係合部は、この弾性変形部を軸方向に通過不能である。又、この弾性変形部が径方向に弾性変形した状態で、前記軌道輪部材の係合部は、この弾性変形部を軸方向に通過可能である。
【0016】
この様な本発明の回転支持装置を実施する場合に、具体的には、請求項2に記載した発明の様に、前記軌道輪部材を、その内周面に外輪軌道が形成された円筒状の外輪とする。
又、この外輪の他方の端部に、この端部から径方向内方に突出した状態で係合凸部を設ける。
又、前記弾性変形部を、前記円筒部の先端部外周面の円周方向複数箇所に、この外周面から径方向外方に突出する状態で形成する。又、これら各弾性変形部の外周面は、先端部から基端側に向かう程、外径が大きくなる状態に傾斜しており、これら各弾性変形部の少なくとも基端部の外径は、前記係合凸部の内径よりも大きい。
そして、これら各弾性変形部が径方向内方へ弾性変形した状態で、前記係合凸部がこれら各弾性変形部を軸方向に通過可能である。
【0017】
又、前述の様な請求項2に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記各弾性変形部のうちの円周方向両端部に、その一端が前記円筒部の先端に開口した、軸方向に長い、これら各弾性変形部毎に1対ずつのスリットを形成する。
【0018】
又、前述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記ラジアルころ軸受を構成するラジアル保持器の軸方向一端に形成した係合部と、前記軌道輪部材の軸方向一端部とを軸方向に関して係合させる事により、このラジアル保持器が、前記スラストころ軸受に近づく方向に変位する事を規制する。
【0019】
或いは、請求項5に記載した発明の様に、前記円筒部の先端面、又は前記ラジアル保持器の軸方向他方の側面の何れか一方の面に、この面から軸方向に突出した凸部を形成する。
【発明の効果】
【0020】
前述の様に構成する本発明によれば、部品点数の低減、及び組み付け性の向上を図りつつ、スラストころ軸受とラジアルころ軸受との結合状態の安定性の向上を図れる構造を実現できる。
即ち、本発明の場合、スラストころ軸受のスラスト保持器とラジアルころ軸受を構成する軌道輪との係合により、このスラストころ軸受とラジアルころ軸受とを結合している。この為、このスラストころ軸受の構造は、前記特許文献1、2に記載された構造の様に、このスラストころ軸受と前記ラジアルころ軸受とを結合する為に、スラストレースを必須の構成部材とせず、スラストレースを省略する事が可能である。その結果、部品点数の低減、及び組み付け工数の低減を図る事ができる。更に、このスラストレースの厚み分だけ軸方向の寸法が嵩む事を抑える事ができる。
【0021】
又、前記スラストころ軸受を構成するスラスト保持器に設けた弾性変形部は、ラジアルころ軸受を構成する外輪の係合部が、軸方向一方(組み付け方向)から通過しようとする場合には、この通過方向の力に基づいて、径方向に弾性変形する。言い換えれば、組み付け方向と逆方向の力によっては、径方向に弾性変形しない。この為、前記スラストころ軸受とラジアルころ軸受とを結合した状態で、これら各弾性変形部に、前記外輪を介して前記各弾性変形部に前記組み付け方向と逆方向に力が加わった場合でも、前記各弾性変形部が径方向に弾性変形する事がない。その結果、前記ラジアルころ軸受とスラストころ軸受との組み付け状態の安定性の向上を図る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す要部断面図。
【図2】同じく、スラストころ軸受のスラスト保持器のみを示す斜視図。
【図3】同じく、スラストころ軸受のスラストレースを省略した構造を示す、図1と同様の図。
【図4】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図5】同第3例を示す、図1と同様の図。
【図6】同第4例を示す、図1と同様の図。
【図7】従来の回転支持装置の第1例を示す、図1と同様の図。
【図8】同第2例を示す、図1と同様の図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態の第1例]
図1〜3は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例を含め、本発明の回転支持装置の特徴は、スラストころ軸受とラジアルころ軸受とを結合する部分の構造を工夫した点にある。この特徴部分以外の構造は、前記図7、8に示した構造を含め、従来から知られている回転支持装置の構造とほぼ同様であるから、従来と同様に構成する部分に就いては、図示並びに説明を、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0024】
本例の回転支持装置は、前述した図7、8に示した従来構造と同様に、ラジアルころ軸受1bとスラストころ軸受2bとを備える。
特に本例の回転支持装置の場合、その内周面に外輪軌道11aが形成された前記ラジアルころ軸受1bを構成する外輪26aの他方(図1の左側)の端部を、径方向内方に180度折り返し、この外輪26aの内周面から径方向内方に突出した係合部29を設けている。尚、この係合部29は、本例の様に前記外輪26aの他方の端部を折り返す構造だけではなく、例えば、この外輪26aの他方の端部の内周面から径方向内方に突出した状態で形成した、内向鍔部の様な形状でも良い。
【0025】
又、前記スラストころ軸受2bを構成するスラスト保持器16bは、円輪状の主部30と、この主部30の径方向内端から軸方向一方(図1の右側、図2の上側)に延出した円筒部31とを有する。又、この円筒部31の先端部の円周方向の3箇所に、径方向に弾性変形可能な弾性変形部32、32を設けている。
【0026】
尚、本例のスラストころ軸受2bの構造は、図1に示す様に、その軸方向他側面(図1の左側面)にスラスト軌道面33を形成した円輪状のスラストレース34を設ける構造の他、図3に示す様にこのスラストレース34を省略して、ギヤ5の軸方向側面に直接スラスト軌道面33aを形成する構造とする事もできる。
【0027】
又、前記各弾性変形部32、32は、前記円筒部31の外周面から径方向外方に突出する状態で形成されており、その外周面が、先端部(図1、3の右側、図2の上側)から基端側(図1、3の左側、図2の下側)に向かう程、外径が大きくなる方向に傾斜している。又、これら各弾性変形部32、32の少なくとも基端部の外径は、前記外輪26aの係合部29の内径よりも大きい。即ち、これら各弾性変形部32、32の自由状態に於いて、この係合部29は、これら各弾性変形部32、32を軸方向(図1の左右方向)に通過する事ができない。
【0028】
一方、これら各弾性変形部32、32が径方向内方へ弾性変形して、これら各弾性変形部32、32の外径が、前記係合部29の内径よりも小さくなった状態では、この係合部29がこれら各弾性変形部32、32を軸方向に通過する事ができる。尚、これら各弾性変形部32、32の先端部の外径は、前記係合部29の内径以下か、この内径よりも少しだけ大きい程度(外輪26aの軸方向端面のうちで、最も軸方向に突出した部分の直径未満)としている。
【0029】
又、前記各弾性変形部32、32のうちの円周方向両端部には、その一端が前記円筒部31の先端に開口した、軸方向に長い1対のスリット35、35を形成している。この様にして、前記各弾性変形部32、32の径方向に関する剛性を低くしている。尚、この様な各弾性変形部32、32の数は、ラジアルころ軸受1bとスラストころ軸受2bとの結合状態の安定性の観点から、円周方向のほぼ等間隔位置に3箇所以上設ける事が好ましい。但し、結合状態に於ける、前記各弾性変形部32、32と前記係合部29との摺動抵抗、及び組み付け作業性等を考慮して適宜設計的に決定する。
【0030】
上述の様なラジアルころ軸受1bとスラストころ軸受2bとを結合する作業時には、前記外輪26aを、この外輪26aの係合部29が、前記各弾性変形部32、32の外周面を軸方向に滑る様な状態で、軸方向一方から他方(図1の右から左方向)へ移動させる。すると、これら各弾性変形部32、32の外周面の傾斜に基づき、これら各弾性変形部32、32が径方向内方に弾性変形する。その結果、これら各弾性変形部32、32の外径が、前記係合部29の内径以下となり、この係合部29がこれら各弾性変形部32、32を軸方向に通過できる。
【0031】
又、図1に示す様な前記ラジアルころ軸受1bとスラストころ軸受2bとの結合状態では、前記各弾性変形部32、32の基端面36と、前記外輪26aの係合部29の内側面37との係合に基づき、この外輪26aが、これら各弾性変形部32、32を通じて、前記外輪26aの組み付け方向と逆方向(図1の右方向)に抜け出る事はない。即ち、これら各弾性変形部32、32は、これら各弾性変形部32、32の外周面の傾斜に基づき、この外輪26aの係合部29が組み付け方向に軸方向の外力を加えた場合のみ、この軸方向の外力に基づいて径方向内方に弾性変形可能である。
尚、前記ラジアルころ軸受1bとスラストころ軸受2bとの結合を解除する場合には、工具により、前記各弾性変形部32、32を径方向内方に弾性変形させた状態で、前記外輪26aの係合部29を、前記組み付け方向と逆方向に通過させる。
【0032】
本発明の場合、前記スラストころ軸受2bを構成するスラスト保持器16bの各弾性変形部32、32と、前記ラジアルころ軸受1bを構成する外輪26aの係合部29との係合により、このラジアルころ軸受1bとスラストころ軸受2bとを結合している。この為、前記スラストころ軸受2bを構成するスラストレースを、図3に示したスラストころ軸受2cの構造の様に、省略する事ができる。その結果、部品点数の低減、及び組み付け工数の低減を図る事ができる。更に、このスラストレースの厚み分だけ軸方向の寸法が嵩む事を抑える事ができる。
【0033】
又、前記各弾性変形部32、32は、前記外輪26aの係合部29が、組み付け方向から通過しようとする場合のみ、径方向に弾性変形可能である。即ち、前記ラジアルころ軸受1bとスラストころ軸受2bとを結合した状態で、前記外輪26aを介して前記各弾性変形部32、32に、組み付け方向と逆方向に、抜け出る力が加わった場合でも、これら各弾性変形部32、32が径方向に弾性変形する事がない。その結果、前記ラジアルころ軸受1bとスラストころ軸受2bの組み付け状態の安定性の向上を図る事ができる。
【0034】
[実施の形態の第2例]
図4は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の回転支持装置の場合、ラジアルころ軸受1cを構成するラジアル保持器8aの軸方向一端に、このラジアル保持器8aの外周面から全周に亙り径方向外方に突出した状態で、フランジ部38を設けている。
そして、このフランジ部38の軸方向内側面と、ラジアルころ軸受1cを構成する外輪26aの軸方向一方の外端とを係合している。
【0035】
本例の回転支持装置の場合、前記フランジ部38の軸方向内側面と前記外輪26aの軸方向一方の外端とを係合している。この為、前記ラジアル保持器8aが、スラストころ軸受2bを構成するスラスト保持器16bに近付く方向に移動する事を規制できる。その結果、前記ラジアル保持器8aの軸方向他端面と、前記スラスト保持器16bの円筒部31の先端面とが当接(摺動)する事を防止できる。その他の構造、及び作用、効果は前記実施の形態の第1例と同様である。
【0036】
[実施の形態の第3例]
図5は、請求項1〜3、5に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の回転支持装置の場合、スラストころ軸受2bを構成するスラスト保持器16bの円筒部31の先端面に、この先端面から軸方向に突出した凸部39を形成している。
本例の回転支持装置によれば、ラジアルころ軸受1bを構成するラジアル保持器8aと前記スラスト保持器16bとが互いに近付く方向に移動した場合でも、このラジアル保持器8aの軸方向端面とこのスラスト保持器16bの円筒部31の先端面との当接(摺動)面積を減らす事ができる。その結果、使用時の摺動抵抗の低減を図る事ができる。
尚、前記スラスト保持器16b及びラジアル保持器8aを、合成樹脂製とすれば、より摺動抵抗を抑える事ができる。又、前記凸部39は、前記ラジアル保持器8aの軸方向他端面に形成する事もできる。その他の構造、及び作用、効果は前記実施の形態の第1例と同様である。
【0037】
[実施の形態の第4例]
図6は、請求項1〜3、5に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の回転支持装置の場合、ラジアルころ軸受1dを構成するラジアル保持器8bの構造を、断面略M字で全体を円筒状に形成した、所謂M型保持器としている。尚、この様なM型保持器の構造は、従来から広く知られている構造と同様である為、詳しい説明は省略する。
又、スラストころ軸受2bを構成するスラスト保持器16bの円筒部の先端面に、前記実施の形態の第3例と同様に、この先端面から突出した状態で凸部39を形成している。
【0038】
本例の場合、前記ラジアル保持器8bとして、M型保持器を採用する事により、前記凸部39と当接(摺動)する可能性を有する前記ラジアル保持器8bの、軸方向端面の径方向に関する幅を大きくしている。この為、前記凸部39と、このラジアル保持器8bの軸方向端面との摺動抵抗を抑えると共に、前記スラスト保持器16bとラジアル保持器8bとのうちの、何れか一方の保持器が、他方の保持器に乗り上げる事の防止を図る事ができる。その他の構造、及び作用、効果は前記実施の形態の第1例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
前述した実施の形態の各例では、ラジアルころ軸受を構成する外輪に係合部を設けている。但し、この係合部を、このラジアルころ軸受を構成する内輪に、この内輪の外周面から径方向外方に突出した状態で設ける事もできる。この場合、スラスト保持器の円筒部の内径側に、各弾性変形部を設ける。
又、前述した実施の形態の各例の構造の他、ラジアル保持器の軸方向他端面とスラスト保持器の円筒部の先端面との摺動抵抗の低減を図る為に、このラジアル保持器の軸方向他端面とスラスト保持器の円筒部の先端面との間に、円輪状のワッシャ等の部材を設ける事もできる。
【符号の説明】
【0040】
1、1a、1b、1c、1d ラジアルころ軸受
2、2a、2b、2c スラストころ軸受
3 メインシャフト
4 小径部
5 ギヤ
6 内輪部材
7、7a ラジアルころ
8、8a、8b ラジアル保持器
9 内輪軌道
10 係止切り欠き
11、11a 外輪軌道
12 大径部
13 段部
14 スラストレース
15 スラストころ
16、16a、16b スラスト保持器
17 スラスト軌道面
18 外径側環状板部
19 外径側円筒部
20 内径側円筒部
21 内径側環状板部
22 係合凸部
23 円輪状部材
24 円筒部
25 係合フランジ部
26、26a 外輪
27 鍔部
28 内輪
29 係合部
30 主部
31 円筒部
32 弾性変形部
33、33a スラスト軌道面
34 スラストレース
35 スリット
36 基端面
37 内側面
38 フランジ部
39 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジアルころ軸受と、スラストころ軸受とを備え、
このうちのラジアルころ軸受は、大径部と小径部とを段部で連続させた外周面形状を有する軸部材のうちの小径部の外周面と、この小径部の外径よりも大きな内径を有しこの軸部材の周囲に配置された環体の内周面との間に配置された複数本のラジアルころを、これら両周面同士の間の円筒状空間内に配置された円筒状のラジアル保持器により転動自在に保持して成り、
前記スラスト軸受は、前記環体の軸方向端面と前記段部との間に配置された複数本のスラストころを、これら軸方向端面と段部との間に配置された円輪状のスラスト保持器により転動自在に保持して成る回転支持装置に於いて、
前記ラジアルころ軸受は、内周面又は外周面の何れか一方の周面に軌道面が形成された円筒状の軌道輪部材を有し、この軌道輪部材は、軸方向他方の端部にこの端部から径方向に突出した状態で係合部が設けられており、
前記スラストころ軸受を構成するスラスト保持器は、その径方向内端から軸方向一方に延出した円筒部を有し、この円筒部の先端部の円周方向の少なくとも一部に、前記係合部が軸方向一方から通過しようとした場合のみ、この係合部との係合に基づいて径方向に弾性変形可能な弾性変形部が設けられており、
これら各弾性変形部の自由状態で、前記軌道輪部材の係合部は、この弾性変形部を軸方向に通過不能であり、
これら各弾性変形部が径方向に弾性変形した状態で、前記軌道輪部材の係合部は、この弾性変形部を軸方向に通過可能である事を特徴とする回転支持装置。
【請求項2】
前記軌道輪部材が、その内周面に外輪軌道が形成された円筒状の外輪であり、
この外輪の他方の端部にこの端部から径方向内方に突出した状態で係合凸部が設けられており、
前記弾性変形部は、前記円筒部の先端部外周面の円周方向複数箇所に、この外周面から径方向外方に突出する状態で形成され、その外周面は、先端部から基端側に向かう程、外径が大きくなる状態に傾斜しており、この弾性変形部の少なくとも基端部の外径は、前記係合凸部の内径よりも大きく、
この弾性変形部が径方向内方へ弾性変形した状態で、前記係合凸部がこの弾性変形部を軸方向に通過可能である、請求項1に記載した回転支持装置。
【請求項3】
前記各弾性変形部のうちの円周方向両端部に、その一端が前記円筒部の先端に開口した軸方向に長い、これら各弾性変形部毎に1対ずつのスリットが形成されている、請求項2に記載した回転支持装置。
【請求項4】
前記ラジアルころ軸受を構成するラジアル保持器の軸方向一端に形成した係合部と、前記軌道輪部材の軸方向一端とを軸方向に関して係合させる事により、このラジアル保持器が、前記スラストころ軸受に近づく方向への変位を規制している、請求項1〜3の何れか1項に記載した回転支持装置。
【請求項5】
前記円筒部の先端面、又は前記ラジアル保持器の軸方向他方の側面の何れか一方の面に、この面から軸方向に突出した凸部が形成されている、請求項1〜3の何れか1項に記載した回転支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−255503(P2012−255503A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129457(P2011−129457)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】