説明

回転混合容器、ポット蓋部及び混合方法

【課題】 ミルポット等の回転混合容器内の温度上昇を効果的に抑制できると共に、作業効率が良好な回転混合容器、ポット蓋部、混合方法を提供する。
【解決手段】 回転中心133を有する有底筒状のポット本体2と、ポット本体2の上端開口部に着脱自在に装着されるポット蓋部3とを有する回転混合容器1において、ポット蓋部3の回転中心133近傍に開口部33を設ける。そのような開口部33を有するポット蓋部3とする。開口部33を設けた回転混合容器1に自転運動と公転運動を与えて混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールミルや混練に用いる回転混合容器、それに用いるポット蓋部及びこれらを用いた混合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自転、公転の遊星運動で自転回転のミルポット(粉砕容器)に発生する公転遠心加速度と自転遠心加速度をミルポット内の粉砕物と粉砕媒体ボールに与えることにより粉砕物と粉砕媒体ボールが激しく衝突して起こる圧縮、剪断で粉砕物を粉砕する遊星ボールミルが知られている。遊星ボールミルは、高速の公転遠心加速度と自転遠心加速度の相乗作用で、極めて優れた粉砕速度を有するという特徴がある。
【0003】
従来の遊星ボールミルは、自転軸が垂直方向で公転回転軸と平行に配置されている構造となっている。自転軸が垂直方向であると、粉砕効率が悪いという問題がある。
【0004】
そのため、特許文献1に示すように、自転軸を垂直方向から傾斜させた遊星ボールミルが開発されている。この自転軸が傾斜した遊星ボールミルは、ミルポットの自転軸が傾斜していることと、外周ポット受けとミルポットの接触によるミルポットの自転回転数を公転回転数よりも大きくすることができるため、ミルポット内の粉砕媒体ボールと粉砕物は公転回転中心に向かって傾斜したミルポットの内面を高速スピンしながら駆け上がるトルネード(竜巻)運動の流動を起こし、流動性の良い粉砕により、粉砕効率が極めて良好である。
【0005】
また、特許文献2に示すように、ポット本体の自転軸を垂直方向から傾斜させたポット本体の中にボールミルを入れずに混ざり難い材料を入れ、ポット蓋部を装着した混練容器を、自転及び公転させることにより、混ざり難い材料同士を迅速にかつ泡立てずに混練する遊星運動式混練方法が知られている。
【特許文献1】特開2006−43578号公報
【特許文献2】特開平8−243371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、遊星ボールミルは、高速の公転遠心加速度と自転遠心加速度の相乗作用で、極めて優れた粉砕速度を有するものの、粉砕物と粉砕媒体ボールが激しく衝突して起こる圧縮、剪断で粉砕物を粉砕するため、粉砕物の温度が上昇するという問題がある。粉砕物の種類によっては、温度上昇により化学変化を起こしたり、性質が変化するものもあり、粉砕物の温度上昇を防止できる遊星ボールミルによる粉砕が要望されている。
【0007】
上記特許文献1においても、ミルポットの外周面に冷却空気を吹き付けるなどの工夫が考えられているが、ミルポットの材質がジルコニアなどの熱伝導率が悪い素材であるため、十分な冷却効果があるとはいえない。
【0008】
また、遊星運動式混練方法では、材料を追加したり、混練状態を確認することがあるが、遊星運動式混練装置の稼働を停止し、混練容器を取り出し、蓋を開け、所定の作業後、蓋を閉め、混練容器を装着して再び装置を稼働させる必要がある。そのため、混練作業が煩雑になり、作業効率が悪いという問題がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ミルポット等の回転混合容器内の温度上昇を効果的に抑制できると共に、作業効率が良好な回転混合容器を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、かかる回転混合容器の蓋として用いられ、回転混合容器内の温度上昇を効果的に抑制することができると共に、作業効率が良好なポット蓋部を提供することを目的とする。
【0011】
更に、本発明は、このような温度上昇を効果的に抑制できると共に、作業効率が良好な回転混合容器を用いた混合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、回転中心を有する有底筒状のポット本体と、前記ポット本体の上端開口部に着脱自在に装着されるポット蓋部とを有する回転混合容器において、前記ポット蓋部の前記回転中心近傍に開口部を設けたことを特徴とする回転混合容器を提供する。
【0013】
回転中心を自転中心として高速回転する有底筒状のポット本体とこれに装着されたポット蓋部においては、ポット本体内の粉砕物と粉砕媒体ボールあるいは混練素材などの内容物の表面は、遠心力で回転中心を最低面としてポット本体の内壁をせり上がる形状となる。そのため、ポット本体に着脱自在に装着されるポット蓋部のポット本体内に露出している内面の外周部のみに内容物が接触する状態となることを知見した。この知見から、ポット蓋部の回転中心近傍に開口部を設けても内容物が漏れることはない。ポット蓋部に開口部を設けることにより、この開口部を通じてポット内部の温度の高い空気やガスが外部へ放出され、外部の気温の低い空気がポット内部に流入する結果、回転混合容器内の温度上昇を効果的に抑制できると共に、開口部からポット本体内の状態の確認や材料の追加が容易に行え、作業効率が良好になる。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1記載の回転混合容器において、前記ポット蓋部の開口部の全周縁を囲って前記ポット本体内に挿入される筒状被覆部が前記回転中心方向に前記ポット蓋部と一体に設けられていることを特徴とする回転混合容器を提供する。
【0015】
ポット蓋部の開口部に設けられたポット容器本体内に挿入される筒状被覆部は、開口部を囲って回転混合容器内の内容物が開口部から外部に漏れることを防止することができる。
【0016】
請求項3の発明は、請求項2記載の回転混合容器において、前記筒状被覆部の先端部に前記回転中心と直交する方向に張り出している鍔部が設けられていることを特徴とする回転混合容器を提供する。
【0017】
筒状被覆部の先端に鍔部を設けることによって、ポット容器本体の内壁から飛散する内容物が開口部から外部に漏れることを更に有効に防止することができる。
【0018】
請求項4の発明は、請求項1〜3いずれかに記載の回転混合容器において、セラミック製のポット本体と、パッキンを介して前記ポット本体の上端開口部に着脱自在に装着されるポット蓋部とを有することを特徴とする回転混合容器を提供する。
【0019】
回転混合容器をボールミルとして使用する場合は、耐摩耗性に優れたセラミックが好適に用いられる。
【0020】
請求項5の発明は、請求項1記載の回転混合容器において、樹脂製のポット本体と樹脂製のポット蓋部とを有することを特徴とする回転混合容器を提供する。
【0021】
回転混合容器を混練容器として用いる場合は、樹脂製のポット本体とポット蓋部とすることが好ましい。
【0022】
請求項6の発明は、回転中心を有する有底筒状のポット本体の上端開口部に着脱自在に装着されるポット蓋部であって、前記回転中心近傍に開口部が設けられていることを特徴とするポット蓋部を提供する。
【0023】
回転中心を自転中心として高速回転する有底筒状のポット本体内では、内容物の表面は、遠心力で回転中心を最低面としてポット本体の内壁をせり上がる形状となる。そのため、ポット蓋部の回転中心近傍に開口部を設けても内容物が漏れることはなく、開口部を設けることにより、この開口部を通じてポット本体内部の温度の高い空気やガスが外部へ放出され、外部の気温の低い空気がポット内部に流入する結果、回転混合容器内の温度上昇を効果的に抑制できると共に、開口部からポット本体内の状態の確認や材料の追加が容易に行え、作業効率が良好になる。
【0024】
請求項7の発明は、回転中心を有する有底筒状のポット本体内に、粉砕媒体ボール及び粉砕物、又は混練素材を入れ、前記ポット本体の上端開口部に前記回転中心近傍に開口部が設けられたポット蓋部を着脱自在に装着した回転混合容器を、前記回転中心を自転中心として回転させると共に、前記回転混合容器を公転させることを特徴とする混合方法を提供する。
【0025】
かかる自転と公転とを与える遊星運動式混合方法では、回転中心近傍のポット蓋部に開口部を設けても内容物が漏れ出るおそれはなく、開口部を通じて回転混合容器内の温度上昇を効果的に抑制することができると共に、開口部からポット本体内の状態の確認や材料の追加が容易に行え、作業効率が良好になる。
【0026】
請求項8の発明は、請求項7記載の混合方法において、前記自転中心の上側が前記公転中心側へ傾斜していることを特徴とする混合方法を提供する。
【0027】
自転中心の上側が公転中心側へ傾斜していることにより、自転中心が垂直方向よりも自転による遠心力で内容物がポット本体内壁をせり上がる高さが低くなり、開口部から内容物が漏れ出るおそれは更に少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の回転混合容器、ポット蓋部及び混合方法の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明の回転混合容器をミルポットとして用いる遊星ボールミルの概要を説明する構成図である。
【0030】
この遊星ボールミル100は、架台101の上に駆動源として電動モータ110が配設され、電動モータ110の駆動軸111は鉛直上方に突出している。駆動軸111は軸中心の公転中心112を中心として回転する公転軸として機能する。駆動軸111には放射方向の水平方向に延伸する公転回転アーム120のほぼ中心部が固定されている。公転回転アーム120の両先端部は、所定の傾斜角度で水平方向から上方に屈曲された傾斜支持部121に形成されている。この傾斜支持部121には、平底円筒型のポット受け130の外底面中央にポット受け130の回転中心133と同軸に固定されている自転軸131がベアリング132を介して回転(自転)自在に支持されている。ポット受け130は、後述する回転混合容器としてのミルポットを収納するようになっている。自転軸131の回転(自転)中心133は、公転中心112とポット受け130上方で交差するように垂直方向から公転中心112側へ所定の傾斜角度で傾斜している。
【0031】
架台101の外周部には、電動モータ110を取り囲むように公転軌道に沿った円筒状の周壁140が設けられている。周壁140の上端縁にはリング状の支持板141が固定され、支持板141の内周縁は公転軌道とほぼ一致した円形である。支持板141の内周縁にはリング状の弾性素材で構成される外周ポット受け142が取り付けられている。外周ポット受け142は、公転軸111の周りの全周に亘って公転回転アーム120の上方に固定して配置されている。外周ポット受け142の内周縁は、公転回転アーム120の回転に伴って公転するポット受け130の外周面が接触する公転軌道上にあり、静止しているポット受け130の外周面とごくわずか離間している位置に配設されている。外周ポット受け142を構成する弾性素材としては、シリコンゴム、ウレタンゴム等の合成ゴムや天然ゴムを用いることができる。
【0032】
図6に、従来のミルポット(回転混合容器)の一例の断面構造を示す。このミルポット200は、図1に示した遊星ボールミル100のポット受け130に装着されて用いられるもので、回転中心133を有する有底円筒状のポット本体210とこのポット本体210の上端開口部に着脱自在に装着されるポット蓋部220とを有する。ポット本体210は円筒状側壁とドーム状の凹んだ底壁を有し、例えばジルコニア製である。ポット本体210の上端開口部の外周面には金属製のフランジ部211が固定されて設けられている。フランジ部211にはボルトを通すためのボルト孔212が複数箇所、例えば8箇所に設けられている。ポット本体210の円筒状側壁はポット受けに収まる外径であり、フランジ部211がポット受け130の上端縁に当接してポット本体210がポット受け130に収納されるようになっている。一方、ポット蓋部220は、フランジ部211と同径の金属製円板であり、下面にポット本体210の円筒状側壁とほぼ同径の円形のパッキン221が装着され、外周部にはフランジ部211のボルト孔212と対応するボルト孔222が穿設されている。
【0033】
図6に示すミルポット(回転混合容器)200を用いて粉砕物を粉砕するには、粉砕物と粉砕媒体ボールとをポット本体210内に投入し、ポット蓋部220をポット本体210の上端開口部に被せ、図示しないボルトとナットでボルト孔212,222を締め付け、ポット蓋部220をポット本体210に固定する。これにより、ポット蓋部220のパッキン221がポット本体210の上端開口部の上端縁に密着し、ポット本体210の上端開口部は閉塞され、ミルポット200は密封される。
【0034】
次いで、ミルポット200を遊星ボールミル100のポット受け130に装着した後、電動モータ110を駆動させると、電動モータ110の駆動軸111が、図1に示すように、回転し、駆動軸111の回転に伴って公転回転アーム120が回転する。公転回転アーム120の回転に伴って、ポット受け130が公転中心112を中心として公転する。ポット受け130の公転によって、ポット受け130には公転中心112から放射方向に向かう公転加速度が生じ、公転遠心力によってポット受け130は遠心方向にベアリング132のガタの分だけ垂直方向に向かって起きあがり、外周ポット受け142に接触する。公転回転しているポット受け130が外周ポット受け142と接触することにより、ポット受け130の外周面と外周ポット受け142との摩擦でポット受け130は自転軸131の自転中心133を中心として自転する。
【0035】
このようにして、ポット受け130は、公転中心112を中心として公転運動をしながら垂直方向から傾斜した自転中心133を中心として自転運動し、遊星運動を行い、同時にミルポット200も同じ遊星運動を行うものである。この自転軸が傾斜している遊星ボールミル100では、自転回転数は、外周ポット受け142のポット受け130と接触する内周縁径とポット受け130の外周ポット受け142と接触する外周径の比で決定される。外周ポット受け142の内周縁径は、ポット受け130の外周径より数倍大きいため、自転回転数の方が公転回転数よりも数倍大きくなる。自転回転数/公転回転数の比は、例えば2〜8倍程度である。自転軸が垂直方向の遊星ボールミルでは、例えば公転回転数が2000rpm、自転回転数が60rpmであり、自転回転数が公転回転数よりも遙かに少ない。
【0036】
この自転軸が傾斜した遊星ボールミル100は、ミルポット200の自転軸が傾斜していることと、外周ポット受け142とポット受け130の接触によるミルポット200の自転回転数を公転回転数よりも大きくすることができるため、ミルポット200内の粉砕媒体ボールと粉砕物は公転回転中心に向かって傾斜したミルポット200の内面を高速スピンしながら駆け上がるトルネード(竜巻)運動の流動を起こし、流動性の良い粉砕により、粉砕効率が極めて良好である。
【0037】
従来のミルポット200では、図6に示したように、ポット蓋部220でポット本体210の上端開口部を密封するようになっている。既存のボールミルは勿論、自転、公転回転による遊星ボールミルのミルポットや遊星運動式混練容器は液漏れ、サンプル飛び散りの関係で全てが密閉である。
【0038】
従来のミルポット200の使用後のポット蓋部220のパッキン221の状態を観察すると、ポット本体210側に露出しているパッキン221の中で内容物と接触しているのは、意外にも外周縁から数mm程度であり、それより中心側へは内容物は接触していないことが判明した。この知見から、ポット蓋部220の回転中心近傍に開口部を設けても、遊星ボールミル100への装着から使用中においても内容物が漏れ出るおそれがないことが推測され、実験で確認された。
【0039】
図2に、本発明の回転混合容器を遊星ボールミルのミルポットとして用いる第1実施形態を示す。図2(a)はポット蓋部の一例の上面図、図2(b)はポット蓋部の中心を通る縦断面図、図2(c)はポット本体の断面図、図2(d)はポット蓋部の開口部の径を変えた他の例を示す縦断面図である。
【0040】
このミルポット(回転混合容器)1は、回転中心133を有する有底円筒状のポット本体2とこのポット本体2の上端開口部に着脱自在に装着されるポット蓋部3とを有する。ポット本体2は円筒状側壁21と内底が丸く凹んだドーム状の底壁22を有し、例えばアルミナ、ジルコニア、瑪瑙などのセラミック製、ステンレススチールなどの金属製である。ポット本体2の上端開口部の外周面にはステンレススチール等の金属製のフランジ部23が固定されて設けられている。フランジ部23にはボルトを通すためのボルト孔24が複数箇所、例えば8箇所に設けられている。ポット本体2の円筒状側壁21は遊星ボールミル100のポット受け130に収まる外径であり、フランジ部23がポット受け130の上端縁に当接してポット本体2がポット受け130に装着されるようになっている。ポット本体2がポット受け130内に収納されると、ポット本体2の回転中心133が遊星ボールミル100の自転軸131の回転(自転)中心と一致するようになっている。
【0041】
一方、ポット蓋部3は、例えばステンレススチール等の金属製であり、ポット本体2のフランジ部23の外径と同じ外径を有する円板状本体31下面に同軸で円板状のパッキン受け32が本体と一体に下方に突出する段差となって設けられている。また、円板状本体31とパッキン受け32の回転中心133を中心とする円形の開口部33が貫通孔として設けられている。開口部33の下端の全周縁を囲ってポット本体2内に挿入される筒状被覆部34の回転中心がポット本体2の回転中心133と一致する方向に突出してパッキン受け32と一体に設けられている。また、筒状被覆部34の先端の全周には、筒状被覆部34の中心と直交する方向にフランジ状に張り出している鍔部35が一体に設けられている。ポット蓋部3の円板状本体31の外周部には、ポット本体2に設けられているボルト孔24と対応した位置に円板状本体31を貫通するボルト孔36が設けられている。また、パッキン受け32の段差となっている外周面にはパッキンとしてのOリング4が嵌め込まれている。開口部33の内径は、図2(d)に示すポット蓋部3’のように異なるものを複数個準備し、対象となる破砕物等の性状に応じて選択することが好ましい。
【0042】
図3は、自転軸が傾斜した遊星ボールミルに本発明のミルポット(回転混合容器)を用いた粉砕機構を説明する概念図である。ミルポット1を用いて粉砕物を粉砕するには、図3に示すように、粉砕物Pと粉砕媒体ボールBとをポット本体2内に投入し、ポット蓋部3をポット本体2の上端開口部にOリングを介して被せ、両者のボルト孔24,36にボルト6を通しナット7で締めてミルポット1が組み立てられる。このミルポット1では、ポット蓋部3のOリング4がポット本体2の内面の上端部に押しつけられ、内容物がポット蓋部3とポット本体2の間から漏れ出すことが防止される。
【0043】
組み立てたミルポット1を遊星ボールミル100のポット受け130に装着する。次いで、電動モータ110を駆動させ、上述したように、公転回転アーム120が回転し、ポット受け130が公転中心112を中心として公転すると共に、公転回転しているポット受け130が外周ポット受け142と接触することにより、ポット受け130の外周面と外周ポット受け142との摩擦でポット受け130は自転軸131の自転中心(回転中心)133を中心として自転する。ポット受け130の遊星運動がそのままポット受け130に装着したミルポット1の遊星運動となる。
【0044】
図3に示すように、ミルポット1が公転中心112を中心として公転運動することによって、内部の粉砕物Pと粉砕媒体ボールBは公転遠心加速度でポット本体2の内底面と内側面に強く押しつけられる。ミルポットの自転中心133の傾斜角度θで、公転回転より数倍速い自転回転で自転遠心加速度が加わると、粉砕媒体ボールBと粉砕物Pは公転中心112に向かって傾斜したミルポット1の内面を高速回転に伴う高速スピンしながら駆け上がり、トルネード(竜巻)運動を起こしながら、激しく衝突する。このようなトルネード運動により粉砕物Pと粉砕媒体ボールBは連続対流運動を起こす。粉砕物Pは、粉砕媒体ボールBの衝突や高圧縮で,剪断、粉砕、解砕、分散が起こり、微粉末となる。このような粉砕機構により、傾斜角度θを有さない遊星ボールミルと比較して流動性の良い粉砕により粉砕効率が向上する。
【0045】
自転中心133の垂直方向からの傾斜角度θは、特に制限はないが、トルネード運動の生じ易さから、15〜40度の範囲、特に20〜35度の範囲とすることが好ましいことが実験で認められる。45度の中心傾斜角度では、理由は不明であるが、トルネード運動を起こし難くなることが認められる。
【0046】
また、傾斜角度θを有することにより、内部の粉砕物Pと粉砕媒体ボールBは、遊星ボールミル100のポット受け130に収納した状態では、図3の破線で示す水平線に界面が存在し、この状態で開口部33から漏れなければ、その後の遊星運動によって開口部33の中心の自転中心133近傍が最も界面の高さが低い状態となるため、内容物が漏れ出るおそれはない。即ち、内部の粉砕物Pと粉砕媒体ボールBは、ポット本体2の内底面側に押しつけられるため、遠心力で自転中心133近傍を最低面としてポット本体2の内壁をせり上がる形状となる。そのため、ポット本体2に着脱自在に装着されるポット蓋部3のポット本体2内に露出している内面の外周部のみに内容物が接触する状態となる。このことは、従来のミルポット200のパッキン221の外周面にのみ内容物が接触した痕跡が見られることから明らかである。そのため、ポット蓋部3の回転中心133近傍に開口部33を設けても内容物が漏れることはない。また、本発明のポット蓋部3には開口部33の下端縁周囲を取り巻く筒状被覆部34が開口部33を囲って突出していると共に、筒状被覆部34先端部に鍔部35が張り出し、ポット本体2の側壁21から飛散したり、せり上がった内容物がポット蓋部3の外周部に到達して飛散したとしても、筒状被覆部34と鍔部35に遮られて開口部33内に入り難くなっているため、更に内容物が漏れ難い構造となっている。
【0047】
本発明のミルポット(回転混合容器)1は、図1に示したような自転軸が傾斜した遊星ボールミルに用いることにより、開口部33から内容物が漏れ出ることが有効に防止されるものであるが、高速で自転する限り開口部33から内容物が漏れ出るおそれはない。それ故、自転軸が垂直方向の遊星ボールミルのミルポットにも使用可能である。更に、水平軸で回転するローラ上で水平方向を自転軸とする回転するミルポットとしても使用可能である。
【0048】
遊星ボールミル100は、高速の公転遠心加速度と自転遠心加速度の相乗作用で、極めて優れた粉砕速度を有するものの、粉砕物と粉砕媒体ボールが激しく衝突して起こる圧縮、剪断で粉砕物を粉砕するため、粉砕物の温度が上昇するという問題がある。ポット蓋部3に開口部33を設けたことにより、この開口部33を通じてミルポット1内部の温度の高い空気やガスが外部へ放出され、外部の気温の低い空気がミルポット1内部に流入する結果、ミルポット1内の温度上昇を効果的に抑制できる。特に、ジルコニアを用いたポット本体2では、ジルコニアの熱伝導率が低く、しかも比較的厚くなるため、ミルポット1内で発熱した熱量が外へ放散され難く、温度上昇により化学反応その他の変質が起きやすい粉砕物の場合には、従来、密封式のミルポット200を用いて遊星ボールミル100で微粉砕することができなかった。
【0049】
また、開口部33を通じてガス抜きができ、粉砕によりミルポット1内の雰囲気として好ましくないガスを速やかに排出することが可能になった。また、添加物を加えて再粉砕する場合に、ミルポット1を分解せずに迅速に添加物をミルポット1内に添加することが可能になった。更に、10μm以下に粉砕した微粒子は固化する傾向があり、粉砕物が一旦固化すると、粉砕媒体ボールBは固化した粉砕物Pの上を転がるだけで粉砕が進行しない状態となることが経験上認められる。この状態になったときに、遊星ボールミル100の運転を停止し、粉砕物の固形物を砕いた後再び粉砕を行うことが有効であるが、開口部33から例えばスプーン状のもので固化した粉砕物を砕くことが可能であり、粉砕時間の短縮が可能となる。更に、サンプルの取り出しや内部の観察も容易となり、粉砕の管理も容易かつ迅速化が可能になる。
【0050】
次に、図4を参照しながら本発明の回転混合容器の第2実施形態として遊星運動式混練装置に用いる混練容器について説明する。図4(a)はポット蓋部の上面図、図4(b)はポット蓋部の垂直断面図、図4(c)はポット本体の側面図である。
【0051】
遊星運動式混練装置は、例えば2液型の接着剤の混合、化粧品、顔料・染料の分散等の気泡を嫌う溶液の撹拌、混合に用いられ、脱泡混練装置ともいわれる。
【0052】
図4に示す混練容器1bは、回転中心133を有する樹脂製の平底円筒状のポット本体2bを有し、ポット本体2bの上端部の外周面には、雄ネジ26が設けられている。また、このポット本体2bの上端開口部の雄ネジ26に雌ネジ38によるねじ込みで着脱自在に装着されて上端開口部を閉塞する樹脂製のポット蓋部3bを有する。ポット本体2bの回転中心133が遊星運動式混練装置における自転中心となる。ポット蓋部3bには回転中心133を中心とする円形の開口部33が設けられている。回転混合容器としての混練容器1bを構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、メタクリル樹脂等を例示することができる。
【0053】
図5を参照しながらこの混練容器1bを用いた遊星運動式混練方法について説明する。図5は遊星運動式混練装置300の概要を示す概念図であり、図5(a)は運転を停止している状態、図5(b)は運転中の状態を示している。
【0054】
この遊星運動式混練装置300は、図示しないモータにより垂直方向に公転中心112を有する公転軸301を駆動し、回転させるようになっている。公転軸301に水平方向に延伸する水平アーム310が取り付けられ、水平アーム310の先端側は、所定の傾斜角度で水平方向から上方に屈曲された傾斜支持部311に形成されている。この傾斜支持部311には、平底円筒状のポット受け320の外底面中央に固定されている自転軸321が回転(自転)自在に支持されている。自転軸321の回転(自転)中心133は、公転中心112とポット受け320上方で交差するように垂直方向から公転中心112側へ所定の傾斜角度で傾斜している。このポット受け320は混練容器1bを収納するものである。公転軸301と同軸でかつ分離されて角を丸めた円柱乃至円錐台形状の固定ローラ330が公転軸301上に固定して配置されている。この固定ローラ330の少なくともポット受け320側の表面は、シリコンゴム、ウレタンゴム等の合成ゴムで覆われている。また、固定ローラ330の上端縁はポット受け320の外面と接触し、水平アーム310の回転に伴ってポット受け320と固定ローラ330との摩擦でポット受け320がその自転軸321で自転中心133を中心にして自転するようになっている。
【0055】
この遊星運動式混練装置300に本発明の混練容器1bを装着して混練を行う方法について説明する。混練容器1bのポット本体2b内に混練素材Mを入れ、開口部33を有するポット蓋部3bをねじ込んでポット蓋部3bをポット本体2bに装着し、混練容器1bを組み立て、組み立てた混練容器1bを遊星運動式混練装置300のポット受け320に装着する。
【0056】
運転を停止している状態では、図5(a)に示すように、混練素材Mの界面はほぼ水平になるが、入れる混練素材Mの量に注意すれば、混練素材Mは混連容器1bの開口部33から漏れ出ることはない。
【0057】
次いで、図示しないモータを駆動させ、水平アーム310を回転させて混練容器1bを公転させる。同時に、ポット受け320と固定ローラ330の摩擦で公転に伴ってポット受け320とその中の混練容器1bが自転軸321の自転中心(回転中心)133を中心にして自転する。混練容器1bが公転と自転とを行うと、図5(b)に示すように、混練素材Mの表面は、遠心力で自転中心133を最低面としてポット本体2bの内壁をせり上がる形状となる。そのため、運転中はポット蓋部3bの回転中心133近傍の開口部33から混練素材Mが漏れ出ることはない。
【0058】
混練容器1bが公転運動することによって、内部の混練素材Mは公転遠心加速度で混練容器1bの内底面と内側面に強く押しつけられる。混練容器1bの自転軸321の傾斜角度で自転遠心加速度が加わると、公転中心112に向かって傾斜した混練容器1bの内面を高速回転に伴う高速スピンしながら駆け上がり、トルネード(竜巻)運動を起こしながら、激しく撹拌され、混練りされる。
【0059】
本発明の回転混合容器を混練容器1bとして用いると、ポット蓋部3bに開口部33を設けたことにより、混練時に発生するガスを抜く機能、ポット蓋部3bを取り外さずに混練状態の確認や混練素材の追加などの操作が可能になり、作業の効率化が図られる。
【0060】
上述した遊星運動式混練装置では、自転軸が傾斜した例を示しているが、自転軸が垂直方向であっても、本発明の混練容器は使用可能である。
【0061】
また、上述した例では、ポット蓋部に設けた開口部は回転中心と同じ中心を有する円形として説明しているが、ガス抜きや温度上昇を抑制するだけであれば、複数の小さな開口部を設けるようにしてもよく、例えば格子状に配列したり、同心円状に配列するなど開口部の態様に制限はない。
【0062】
また、上記説明では、ミルポットとして使用する場合には、底壁を内底面が丸く凹んだドーム状として説明しているが、底壁は平面に近いものでも勿論よい。
【0063】
更に、上記説明では、図1に示した装置をボールミルとして用いるように説明しているが、図1の装置は遊星運動式混練装置としても使用可能であり、図4に示した混練容器を図1の装置のポット受けに装着して混練するようにしてもよい。逆に、図5に示した混練装置を遊星ボールミルとして使用することも可能であり、図2に示したミルポットを図5に示した装置のポット受けに装着して粉砕することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の回転混合容器は、遊星ボールミルに用いるミルポットとして微粉砕化、遊星混練装置に用いる混練容器として2種以上の素材を混合する用途に利用可能である。
本発明のポット蓋部は、かかる回転混合容器の蓋として利用可能である。
本発明の混合方法は、かかる回転混合容器を用いて微粉砕や素材の混合などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の回転混合容器をミルポットとして用いる遊星ボールミルの概要を説明する構成図である。
【図2】本発明の回転混合容器を遊星ボールミルのミルポットとして用いる第1実施形態を示し、(a)はポット蓋部の一例の上面図、(b)はポット蓋部の中心を通る縦断面図、(c)はポット本体の断面図、(d)はポット蓋部の開口部の径を変えた他の例を示す縦断面図である。
【図3】自転軸が傾斜した遊星ボールミルに本発明の回転混合容器を用いた粉砕機構を説明する概念図である。
【図4】本発明の回転混合容器を混練容器として用いる第2実施形態を示し、(a)はポット蓋部の上面図、(b)はポット蓋部の垂直断面図、(c)はポット本体の側面図である。
【図5】遊星運動式混練装置の概要を示す概念図であり、(a)は運転を停止している状態、(b)は運転中の状態を示している。
【図6】従来のミルポット(回転混合容器)の一例を示す断面構造である。
【符号の説明】
【0066】
1: ミルポット(回転混合容器)
1b: 混練容器(回転混合容器)
2、2b: ポット本体
3、3b: ポット蓋部
33: 開口部
34: 筒状被覆部
35: 鍔部
100: 遊星ボールミル
112: 公転中心
130: ポット受け
133: 自転(回転)中心
200: 従来のミルポット
300: 遊星運動式混練装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心を有する有底筒状のポット本体と、前記ポット本体の上端開口部に着脱自在に装着されるポット蓋部とを有する回転混合容器において、
前記ポット蓋部の前記回転中心近傍に開口部を設けたことを特徴とする回転混合容器。
【請求項2】
請求項1記載の回転混合容器において、
前記ポット蓋部の開口部の全周縁を囲って前記ポット本体内に挿入される筒状被覆部が前記回転中心方向に前記ポット蓋部と一体に設けられていることを特徴とする回転混合容器。
【請求項3】
請求項2記載の回転混合容器において、
前記筒状被覆部の先端部に前記回転中心と直交する方向に張り出している鍔部が設けられていることを特徴とする回転混合容器。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の回転混合容器において、
セラミック製のポット本体と、パッキンを介して前記ポット本体の上端開口部に着脱自在に装着されるポット蓋部とを有することを特徴とする回転混合容器。
【請求項5】
請求項1記載の回転混合容器において、
樹脂製のポット本体と樹脂製のポット蓋部とを有することを特徴とする回転混合容器。
【請求項6】
回転中心を有する有底筒状のポット本体の上端開口部に着脱自在に装着されるポット蓋部であって、前記回転中心近傍に開口部が設けられていることを特徴とするポット蓋部。
【請求項7】
回転中心を有する有底筒状のポット本体内に、粉砕媒体ボール及び粉砕物、又は混練素材を入れ、前記ポット本体の上端開口部に前記回転中心近傍に開口部が設けられたポット蓋部を着脱自在に装着した回転混合容器を、前記回転中心を自転中心として回転させると共に、前記回転混合容器を公転させることを特徴とする混合方法。
【請求項8】
請求項7記載の混合方法において、
前記自転中心の上側が前記公転中心側へ傾斜していることを特徴とする混合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−136973(P2008−136973A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327647(P2006−327647)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(596096320)有限会社ナガオシステム (7)
【Fターム(参考)】