説明

回転照射型粒子線医療装置

【課題】ボーラスの切換方法と駆動方法を改善し、ボーラス取付部のコンパクト化を図り、照射ノズルを患者に接近させた場合にも十分な作業空間を確保する。
【解決手段】照射装置1と、照射装置1が搭載され、照射装置1と共に治療台4の周りに回転する回転フレーム2とを備え、回転フレーム2を回転させることにより複数の照射方向から照射可能に構成された回転照射型粒子線医療装置において、照射装置1には、照射する粒子線の分布を調整するボーラスが、照射方向に対応させて複数個(図では2個)設けられており、複数個のボーラス(A)6a,ボーラス(B)6bは、回転フレーム2の回転軸方向にスライド可能に取り付けられ、照射方向が変えられたとき、変えられた照射方向に対応するボーラス6a又は6bに切替えられるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、がん治療等で使用される粒子線医療装置、特に、患者周りに回転自在に照射可能な回転照射型粒子線医療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
がん治療を目的とした放射線医療装置として、陽子や重イオン等を用いた粒子線治療はX線、ガンマ線等の従来の放射線治療に比べて、がん患部に集中的に照射することができ、正常細胞に影響を与えずに治療することが可能である。すなわち、陽子や炭素イオン等の荷電粒子線は媒体内でエネルギーによって決まる飛程を持ち、入射からほぼ一様に線量を付与しながら、飛程終端の直前でブラッグピークと呼ばれる線量付与の極大が生じるので、これをがんに一致させることにより、治療効果を向上させることが可能となった。
粒子線医療装置には、患者に対して任意の方向から照射するために回転照射装置(回転ガントリ)が設けられる場合がある。回転ガントリは粒子線照射部を360度回転させ、患者に対して任意の回転角度から荷電粒子ビームを照射できるように構成されている。
【0003】
がん治療用の回転照射型粒子線医療装置では、通常、患部に照射されるビームを病巣の下部形状に応じたエネルギー分布に成形するためのボーラスが用いられている。
このような従来の回転照射型粒子線医療装置として、例えば、ビームを複数方向から照射するため、治療計画装置で予め求められた患部の下部形状に応じて、各照射方向に対応したボーラスを作製しておき、これを照射装置に設けた回転テーブルに設置して切替えて使用する技術が提案されている。回転テーブルの回転軸とビームの軌道中心は偏芯しているので、回転テーブルを回転させることにより、ボーラスを入れ替えてビームの軌道上に配置させ、これによって複数の照射方向に対応したビームのエネルギー分布が形成できるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−224230号公報(第4頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すような従来の粒子線医療装置のボーラス切替機構では、回転テーブルを使用するため、患者近接部の構造物の体格が大きくなり、十分に患部に照射ノズルを近づけることができないという問題点があった。また、このように回転テーブルを回転させる方式では構造が複雑となるためメンテナンス性が悪く、また駆動にモータを使用するため、操作音がうるさいという問題点があった。
【0006】
この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、ボーラスの切換方法と駆動方法を改善し、ボーラス取付部のコンパクト化を図り、照射ノズルを患者に接近させた場合にも作業空間を十分確保できる回転照射型粒子線医療装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る回転照射型粒子線医療装置は、加速器で加速された粒子線を導入して治療台上の患者に照射する照射装置と、照射装置が搭載され、照射装置と共に治療台の周りに回転する回転フレームとを備え、回転フレームを回転させることにより複数の照射方向から照射可能に構成された回転照射型粒子線医療装置において、照射装置には、照射する粒子線の分布を調整するボーラスが、照射方向に対応して複数個設けられており、複数個のボーラスは、回転フレームの回転軸方向にスライド可能に取り付けられ、照射方向が変
えられたとき、変えられた照射方向に対応するボーラスに切替えられるようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明の回転照射型粒子線医療装置によれば、照射装置には、照射する粒子線の分布を調整するボーラスを照射方向に対応して複数個設け、複数個のボーラスを、回転フレームの回転軸方向にスライド可能に取り付けて、照射方向によってその照射方向に対応するボーラスに切替えるようにしたので、ボーラスの切替え機構部の占有する領域を小さくでき、また、スライドによる制限領域はスライド方向のみとなって機構部がコンパクト化されるため、医師又は作業者のアクセス空間を広く確保でき、治療作業の自由度が増す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1による回転照射型粒子線医療装置の回転ガントリ部を示す概念図である。
【図2】この発明の実施の形態2による回転照射型粒子線医療装置の回転ガントリ部を示す概念図である。
【図3】粒子線医療装置の照射系の構成を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による回転照射型粒子線医療装置の回転ガントリ部の概念図であり、(a)は回転軸の軸方向に見た図を示し、(b)は(a)の矢印b方向から見た部分断面図を示している。また、図3は、粒子線医療装置の照射系の構成を説明する説明図である。
【0011】
先ず、図3によって、粒子線医療装置の照射系の構成の概要から説明する。
粒子線医療装置の照射装置に送られてきた荷電粒子ビーム(以下、粒子線と略す)は、先ず、電磁石31によってX方向,Y方向同時に回転させて照射野を平坦化させ、散乱体32によって更に散乱させて平坦度を上げ、次に、リッジフィルタ33によってがんの治療厚さに合わせて粒子線のブラッグピークの幅(奥行き方向)を変化させ、レンジシフタ34によってがんの深さに合わせて粒子線のエネルギーを吸収させ到達する距離を微調整し、次に、ブロックコリメータ35により必要な範囲以外の粒子線を遮断し、可変コリメータ36によって複数の可動リーフを移動させて粒子線をがんの形状(平面方向)に合わせて成形し、最後に、ボーラス37によって、粒子線の飛程をがんの末端側(底部)の形状に合わせて調整する。
なお、図3では可変コリメータ36とボーラス37は、形状が理解しやすいように斜視図で表している。
【0012】
次に、図1により、実施の形態1の回転照射型粒子線医療装置の構成について説明する。回転照射型粒子線医療装置の回転ガントリは、照射装置1が搭載された円筒状の回転フレーム2がローラ3によって回転可能に支持され、ローラ3を図示しない駆動装置によって回転させることで、360度回転できるように構成されている。照射装置1は、図3で説明した照射系の可変コリメータ36までの構成機器が収納されており、先端側(出射側)に後述のボーラスが設けられている。この照射装置1に図示しない加速器で加速された粒子線を導入し、照射患部にあわせて整形して、治療台4上の患者5の患部に照射するようになっている。
【0013】
照射装置1は、回転フレーム2を回転させることにより共に回転し、患者5の患部に対して複数の照射方向から照射することが可能となっている。図1では、(a)に示すように、照射装置1が垂直上方にある場合と、90度回転させて水平方向にある場合の2方向を例示している。
またこの照射装置1は、回転フレーム2の回転軸の軸線と直交方向にも移動可能になっており、患者5に接近させて照射できるようになっている。
【0014】
照射装置1の先端側の照射ノズル部に、図3で説明したボーラス37に相当するボーラス6a,6bが設けられている。ボーラスは、例えば、150mm×150mm、厚さ100mm程度のポリエチレンの直方体を用いて、照射方向から見た患者の病巣の深さ合わせて、すなわち、病巣の底面の形状に合わせて、3次元加工によって表面を窄設して凹状に形成している。ボーラスを透過した粒子線のエネルギーは、病巣の深さ方向の形状に対応して調整されることになる。
したがって、ボーラスは、患者ごとに患部の病巣に対応させて、粒子線治療計画装置によって予め作成される。
【0015】
1つの病巣に対して複数方向から粒子線を照射して治療する場合は、粒子線の照射方向によって、その方向から見た病巣の下部形状が異なるので、照射方向に対応させて、複数個(照射方向の数だけ)のボーラスが用意される。
図1の場合は、照射方向を垂直方向と水平方向の2方向としているので、垂直方向用のボーラス(A)6aと、水平方向用のボーラス(B)6bとを2個設けている。この2個のボーラス6a,6bが、図1(b)に示すように、回転フレーム2の回転軸の軸線方向に並べて同一平面上に配置されている。そして、回転軸方向にスライド可能に取り付けられ、スライドさせることによって、照射方向に対応して切替えられるように構成されている。
【0016】
スライド機構としては、一般に知られている直動機構を使用すればよい。その直動機構にホルダ(図示せず)を固定しておき、ボーラスはそのホルダに予め収納しておく。スライドさせる駆動機構としては、例えば、エアシリンダ7を用いる。図1(b)に示すように、エアシリンダ7を支持部材によって照射装置1の筐体側に固定しておき、そのロッドをホルダに連結することで、1個のエアシリンダ7の動作により、ボーラス(A)6aとボーラス(B)6bとを同時に駆動するように構成されている。
【0017】
次に、ボーラス6a,6bの切替動作について説明する。
図1(a)に破線で示すように、照射装置1が患者5の垂直上方の位置にあるときは、ボーラス(A)6aが照射軸線上に位置するようにエアシリンダ7を制御する。そして、ボーラス(A)6aを用いて粒子線を患者5の患部に照射し治療を行った後、次に、回転フレーム2を90度回転させて、照射装置1を実線で示すように水平方向に向ける。次に、エアシリンダ7を作動させて、ボーラス(B)6bが粒子線の照射軸線上に位置するようにスライド移動させる。そして、ボーラス(B)6bを用いて粒子線を照射し水平方向からの治療をする。
ボーラス6a,6bの切替操作は、図示しない制御装置からの指令により、予め設定されたプログラムに従って、回転フレーム2の回転に連動させて、遠隔操作により実施される。
なお、このとき、先に図3で説明した可変コリメータ36のビーム貫通部の形状も、粒子線治療計画に従って、照射方向に合わせて変更される。
【0018】
このように、ボーラスの切り替えを遠隔操作することにより、1回の照射治療において、作業者がボーラスを取り替えることなく複数方向からの照射が可能となり、一方向のみからの照射に比べてよりがん病巣の形状に合わせた精密な照射利用域の制御(いわゆる遠隔多門照射)が可能となる。また、人手によるボーラス切換が不要となり、エアシリンダにより短時間で切替えられるため、治療時間が短縮される。
背景技術の項で説明した特許文献1に示されたような、回転テーブルを用いて複数のボーラスを切り替える場合は、円板状の回転テーブル及びその操作部が占有する領域が広く、ボーラスが搭載された照射ノズルを患者に近づける際や、医師又は作業者が患者に近づく際に、制限される領域が大きい。
【0019】
これに対して、本実施の形態では、ボーラス6a,6bの切換をスライド(直動)方式にし、且つ、スライド方向を回転フレーム2の回転軸方向としたので、駆動機構も回転軸方向に配置されることになり、この結果、制限領域はスライド方向のみとなるため、特に
、照射ノズルが水平方向にある場合は、垂直方向に駆動機構部が出っ張らないため、図1(a)に一点鎖線で示すように、照射ノズルをより患者に近づけることが可能となる。できるだけ患者に近づける方が粒子線の広がりが少なくなるので、照射精度が上がる。
また、医師や作業者が患者にアクセスするスペースも広く確保でき、動きが楽になる。
更に、操作機構が直動機構で、その駆動機構をエアシリンダとしたので、モータによる回転駆動に比べて機構が簡単なため、制御が簡単となり、故障の割合も低くなる。また切替を速くでき、操作音も小さい。
【0020】
なお、図1では照射装置1の照射位置は2方向の場合を示したが、更に照射位置を増やし、それに対応してボーラスを3個以上並べて配置しても良く、そうすれば、患部形状をより精密に制御する効果が得られる。
また、エアシリンダ7の取付方向は、図1(b)では、照射装置1の筐体の右側(患者5の足側)としたが、左側としても良い。
【0021】
以上のように、実施の形態1によれば、照射装置には、照射する粒子線の分布を調整するボーラスが、照射方向に対応して複数個設けられており、複数個のボーラスは、回転フレームの回転軸方向にスライド可能に取り付けられ、照射方向が変えられたとき、変えられた照射方向に対応するボーラスに切替えられるようにしたので、1回の照射治療において、作業者がボーラスを取り替えることなく、切替を短時間で行うことができ、治療時間を短縮することができる。
また、回転軸方向にスライド移動させてボーラスを切替えるようにしたので、ボーラスの切替え機構部の占有する領域を小さくでき、また、移動による制限領域はスライド方向のみとなって機構部がコンパクト化されるため、医師又は作業者のアクセス空間を広く確保でき、治療作業の自由度が増す。
【0022】
また、複数個のボーラスは、回転フレームの回転軸方向に並べて同一平面上に配置し、同時に駆動して切替えるようにしたので、駆動機構部の出っ張りが少なくなり、照射ノズル部をより患者に近づけることが可能となって、照射精度を上げることができる。
【0023】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態2による回転照射型粒子線医療装置の回転ガントリ部の概念図であり、(a)は回転軸の軸方向に見た図、(b)は(a)の矢印b方向から見た部分断面図である。実施の形態1の図1と同等部分は同一符号で示して説明は省略する。相違点は、複数のボーラスの配置及び駆動機構の構成であり、本実施の形態では、複数のボーラス(図2では2個の場合を示す)を、段積みとした点である。以下、図に基づいて説明する。
【0024】
図のように、ボーラス(A)6aと、ボーラス(B)6bとが、照射装置1の照射ノズル部に、回転フレーム2の回転軸方向に対して直交方向に段積みされている。ボーラス6a,6bは、治療計画に従って、予め、患者の病巣と照射位置に対応して製作されたものである。ボーラス(A)6aは垂直方向からの粒子線に対応し、ボーラス(B)6bは水平方向からの粒子線に対応するものであり、各ボーラス6a,6bは図示しないホルダに収納され、スライド機構によって回転軸の軸線方向にスライド可能に構成されている。図2(b)に示すように、駆動は、照射装置1の筐体側に固定したエアシリンダ7によって、各ボーラス6a,6b毎に個別に行うようになっている。
【0025】
次に、ボーラスの切替動作について説明する。
照射装置1が患者の垂直上方にある状態では、図2(b)に示すように、ボーラス(A)6aが照射軸線上に位置するようにエアシリンダ7を駆動し、ボーラス(B)6bは照射軸線上から外れる位置に退避させている。次に、回転フレーム2を90度回転させて、照射装置1を(a)の実線で示すように水平方向に向け、水平向から照射する場合は、ボーラス(A)6aを退避させ、ボーラス(B)6bを照射軸線上に位置するように、各エアシリンダ7を操作する。
なお、図2では照射位置を2方向としたが、更に照射方向を増やし、それに対応してボーラスの個数を増やしても良い。
【0026】
以上のように、実施の形態2によれば、複数個のボーラスは、回転フレームの回転軸に対して直交方向に段積みして配置され、個別に駆動して切替えるようにしたので、回転軸方向の機構部の出っ張りが、実施の形態1の場合よりも少なくなり、医師又は作業者のアクセス空間が広くなり、治療作業の自由度が増す。
また、同形状のものを積み重ねて構成できるので製作が容易となり、照射方向を増やした場合に、段数を変えることによりボーラスの個数を容易に追加できる。
更に、エアシリンダはボーラスに対して個別に設けているので、実施の形態1の場合と比較して小容量のものでよく、制御も簡単となる。
【符号の説明】
【0027】
1 照射装置 2 回転フレーム
3 ローラ 4 治療台
5 患者 6a ボーラス(A)
6b ボーラス(B) 7 エアシリンダ
31 電磁石 32 散乱体
33 リッジフィルタ 34 レンジシフタ
35 ブロックコリメータ 36 可変コリメータ
37 ボーラス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器で加速された粒子線を導入して治療台上の患者に照射する照射装置と、前記照射装置が搭載され、前記照射装置と共に前記治療台の周りに回転する回転フレームとを備え、前記回転フレームを回転させることにより複数の照射方向から照射可能に構成された回転照射型粒子線医療装置において、
前記照射装置には、照射する前記粒子線の分布を調整するボーラスが、前記照射方向に対応して複数個設けられており、
複数個の前記ボーラスは、前記回転フレームの回転軸方向にスライド可能に取り付けられ、前記照射方向が変えられたとき、変えられた照射方向に対応する前記ボーラスに切替えられるようにしたことを特徴とする回転照射型粒子線医療装置。
【請求項2】
請求項1記載の回転照射型粒子線医療装置において、
複数個の前記ボーラスは、前記回転軸方向に並べて同一平面上に配置され、同時に駆動されて切替えられるようにしたことを特徴とする回転照射型粒子線医療装置。
【請求項3】
請求項1記載の回転照射型粒子線医療装置において、
複数個の前記ボーラスは、前記回転軸方向に対して直交方向に段積みして配置され、個別に駆動されて切替えられるようにしたことを特徴とする回転照射型粒子線医療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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