説明

回転電機のハウジング

【課題】ブリージング通路の開口面積の安定的な確保と、外形の小型化を図ることのできる回転電機のハウジングを提供する。
【解決手段】ステータとロータが内周部に配置される略円筒状の主ハウジングブロック12Aの軸方向の端面にサイドハウジングブロック12Bを結合する。回転電機側収容空間24と外部を連通するブリージング通路28を主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12Bに跨らせて設ける。軸方向に沿った貫通孔31aを有する筒状の位置決めピン31を設ける。主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12Bの突き合わせ面の間にシール材32を介装する。位置決めピン31は、ブリージング通路28の主ハウジングブロック12A側の通路端とサイドハウジングブロック12B側の通路端とに跨って嵌合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の駆動装置等に用いられる回転電機のハウジングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動装置等に用いられる回転電機として、略円環状のステータの内側にロータが回転可能に収容されたものが知られている。この種の回転電機の多くは、ステータとロータを収容するハウジングが複数のブロックによって構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の回転電機のハウジングは、ステータが内周面に固定設置される略円筒状の第1ハウジングブロックの軸方向の端面に別体の第2ハウジングブロックがボルト締結等によって結合され、これらのハウジングブロックによって囲まれた内部空間の底部に潤滑や冷却のためのオイルが貯留されている。そして、内部空間に貯留されたオイルは、ロータの回転に連動するポンプによってハウジング内の各部に供給されるようになっている。
【0004】
また、この回転電機のハウジングにおいては、内部空間と外部を連通させるブリージング通路が、第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックとに跨って形成されている。
具体的には、第1ハウジングブロックの周壁には、一端側が大気に連通するブリージング孔が軸方向に沿って形成され、第2ハウジングブロックには、一端がハウジングの内部空間に開口し、他端が第1ハウジングブロックとの突合わせ部で第1ハウジングブロック側のブリージング孔に接続されるブリージング孔が形成されている。
こうして構成されたブリージング通路は、ロータの回転や温度の変化によって内部空間内のエアの圧力が変動すると、内部空間と外部との間でエアを流通させ、それによって内部空間の圧力の変動を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−121549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の回転電機のハウジングにおいては、略円筒状の第1ハウジングブロックの周壁に軸方向に沿うようにブリージング孔が形成されているため、ブリージング孔の周壁の肉厚方向の開口高さを高く設定すると、その分、第1ハウジングブロックの外形が大型化し、装置のコンパクト化を図るうえで望ましくない。このため、現在、ブリージング孔の周壁の肉厚方向の開口高さを低く、例えば、内径の小さい円形形状に形成することを検討しているが、この場合、第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックの突合わせ部において、ブリージング通路の開口面積を安定して確保することが難しくなる。
即ち、第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックの突合わせ部では、内部空間からのオイルの漏出を防止するために、両者の間にシール材が介装されるが、このシール材がブリージング通路方向に押し出されると、ブリージング通路の開口面積がシール材によって大きく狭められることがある。
【0007】
そこでこの発明は、ブリージング通路の開口面積の安定的な確保と、外形の小型化を図ることのできる回転電機のハウジングを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る回転電機のハウジングでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、ステータ(例えば、実施形態のステータ15)と、このステータの内側で回転するロータ(例えば、実施形態のロータ16)とを収容する回転電機のハウジング(例えば、実施形態のハウジング12)であって、前記ステータとロータが内周部に配置される略円筒状の第1ハウジングブロック(例えば、実施形態の主ハウジングブロック12A)と、この第1ハウジングブロックの軸方向の端面にシール材(例えば、実施形態のシール材32)を介して結合される第2ハウジングブロック(例えば、実施形態のサイドハウジングブロック12B)と、を備え、前記第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックとに囲まれた内部空間(例えば、実施形態の回転電機側収容空間24)を外部と連通させるブリージング通路(例えば、実施形態のブリージング通路28)が、前記第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックとに跨って形成されているものにおいて、軸方向に沿った貫通孔(例えば、実施形態の貫通孔31a)を有する筒状の位置決めピン(例えば、実施形態の位置決めピン31)が設けられ、前記ブリージング通路の相互に突き合わされる前記第1ハウジングブロック側の通路端と前記第2ハウジングブロック側の通路端とに、前記位置決めピンが跨って嵌合されていることを特徴とするものである。
これにより、第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックは、位置決めピンによって位置決めされて結合され、ブリージング通路の第1ハウジングブロック側の通路端と第2ハウジングブロック側の通路端は、位置決めピンの貫通孔を通して相互に連通するようになる。また、第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックの間に介装されるシール材は、位置決めピンの周壁に遮られてブリージング通路内に入り込むことがなくなる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る回転電機のハウジングにおいて、前記位置決めピンの外周面には、前記第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックの間に介装されたシール材の進入を許容する捕捉溝(例えば、実施形態の捕捉溝50)が設けられていることを特徴とするものである。
これにより、第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックの間に介装されて、ブリージング通路方向に押し出されたシール材は、位置決めピンの外周面の捕捉溝に捕捉されることになる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、ブリージング通路の第1ハウジングブロック側の通路端と第2ハウジングブロック側の通路端が位置決めピンの貫通孔を通して接続されるため、ブリージング通路内へのシール材の進入を未然に防止することができる。したがって、この発明によれば、ブリージング通路の開口面積を安定的に確保しつつ、外形の小型化を図ることができる。
また、この発明においては、ブリージング通路へのシール材の進入を位置決めピンによって防止するため、部品点数の増加を抑制して、製品コストの低減を図ることができる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、位置決めピンの外周面に設けられた捕捉溝によって、第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックの間に介装されるシール材が捕捉されるため、第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックの突合わせ部におけるブリージング通路回りの密閉性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一実施形態の回転電機の図2のB−B断面に対応する断面図である。
【図2】この発明の一実施形態の回転電機の図1のA−A断面に対応する断面図である。
【図3】この発明の一実施形態の回転電機の図1のC部の拡大図である。
【図4】この発明の他の実施形態の回転電機で用いられる位置決めピンの断面図である。
【図5】この発明の他の実施形態の回転電機の図3に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この実施形態の回転電機10を採用した車両の駆動装置1の縦断面図であり、図2は、図1のA−A断面に対応する断面図である。
図1において、11A,11Bは、車両の後輪側の左右の車軸である。この駆動装置1のハウジング12は、両車軸11A,11Bのほぼ中間位置から一方の車軸11Bの外周側を覆うように設けられ、車両の後部下方に車軸11A,11Bとともに支持固定されている。ハウジング12の内部には、車軸駆動用の回転電機10と、この回転電機10の回転を減速する減速機13と、この減速機13の出力を左右の車軸11A,11Bに分配する差動装置14とが、車軸11A,11Bと同軸になるように収容配置されている。
【0014】
ハウジング12は、回転電機10の外周側を囲繞する主ハウジングブロック12Aと、この主ハウジングブロック12Aの軸方向の一端側に結合されるサイドハウジングブロック12Bと、差動装置14と減速機13の一部の外周側を囲繞するミッションハウジングブロック12Cと、主ハウジングブロック12Aとミッションハウジングブロック12Cを接続する中間ハウジングブロック12Dと、を備えている。この実施形態では、主ハウジングブロック12Aが回転電機10の第1ハウジングブロックを構成し、サイドハウジングブロック12Bと中間ハウジングブロック12Dが回転電機10の第2ハウジングブロックを構成している。
【0015】
主ハウジングブロック12Aは、略円筒状に形成され、その内周面には略円筒状のステータ15が固定設置されている。そして、この略円筒状のステータ15の内周側には、ロータ16が回転可能に配置されている。この実施形態の回転電機10は、ロータ16がステータ15の内周側で回転するインナーロータ型の構造とされている。なお、図1中22は、ステータ15に巻回されたコイルであり、23は、ロータ16の外周部に保持された永久磁石である。
【0016】
ロータ16の内周部には車軸11Bの外周側を囲繞するロータシャフト17が結合され、このロータシャフト17が車軸11Bと同軸となるように軸受18a,18bを介してハウジング12に回転可能に支持されている。ロータシャフト17の軸方向の一端側(図1中右側)の外周部とサイドハウジングブロック12Bの間には、ロータ16の回転位置情報を回転電機10の制御コントローラ(図示せず)にフィードバックするためのレゾルバ19(回転センサ)が設けられている。また、ロータシャフト17の軸方向の他端側(図1中左側)の外周部には出力ギヤ20が設けられ、その出力ギヤ20が減速機13の入力ギヤ21に噛合されている。
【0017】
また、中間ハウジングブロック12Dには、ハウジング12の内部を、回転電機10を収容する回転電機側収容空間24(内部空間)と、減速機13と差動装置14を収容するミッション側収容空間25とに隔成する隔壁26が設けられている。回転電機側収容空間24とミッション側収容空間25の底部には、ハウジング12内の摺動部を潤滑し、かつ発熱部を冷却するためオイルが貯留されており、回転電機側収容空間24とミッション側収容空間25の間は複数のオイル通路27(図2参照)によって相互に連通している。
【0018】
ところで、サイドハウジングブロック12Bから主ハウジングブロック12Aと中間ハウジングブロック12Dにかけては、回転電機側収容空間24の上部領域をハウジング12の外部の大気と連通させるブリージング通路28が形成されている。
このブリージング通路28は、主ハウジングブロック12Aの周壁の上部に、軸方向に貫通して形成された円形断面の中央のブリージング孔28aと、この中央のブリージング孔28aの一端に接続されるサイドハウジングブロック12Bのブリージング孔28bと、中央のブリージング孔28aの他端に接続される中間ハウジングブロック12Dのブリージング孔28cと、から構成されている。サイドハウジングブロック12Bのブリージング孔28bは、一端がサイドハウジングブロック12Bの回転電機側収容空間24に臨むように開口し、他端がサイドハウジングブロック12Bの主ハウジングブロック12Aとの突合わせ面に開口している。また、中間ハウジングブロック12Dは、一端がハウジング12の外部に臨むように開口し、他端がサイドハウジングブロック12Bの主ハウジングブロック12Aとの突合わせ面に開口している。
【0019】
図3は、図1のC部を拡大して示した図である。
同図に示すように、主ハウジングブロック12Aのサイドハウジングブロック12Bに突き合わされる側のブリージング孔28aの端部には、ブリージング孔28aの一般部の内径よりも径の大きい大径部29が設けられ、この大径部29と対向するサイドハウジングブロック12B側のブリージング孔28bの端部にも、同様の大径部30が設けられている。そして、これらの大径部29,30には、主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12Bのボルト締結時に、位置決めピン31が跨って嵌合されるようになっている。この両大径部29,30に跨って嵌合される位置決めピン31は、軸芯部に貫通孔31aを有する円筒形状に形成されている。
【0020】
また、主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12Bの突合わせ面の間にはシール材32が介装され、主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12Bのボルト締結時に、シール材32が主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12Bの突合わせ面にそれぞれ密接することにより、主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12Bの間の密閉が保たれるようになっている。
【0021】
なお、ここでは詳細な図示は省略するが、主ハウジングブロック12Aのブリージング孔28aと中間ハウジングブロック12Dのブリージング孔28cの間も、主ハウジングブロック12Aのブリージング通路28aとサイドハウジングブロック12Bのブリージング通路28bの間と同様に、貫通孔を有する位置決めピン31を介して接続されており、主ハウジングブロック12Aと中間ハウジングブロック12Cの突き合わせ面の間には、やはり同様にシール材が介装されている。
また、図1中の40は、ステータ15の熱を冷却するために主ハウジングブロック12Aの周壁に形成された冷却水通路である。
【0022】
以上のように構成されたこの回転電機10(駆動装置1)においては、回転電機10のロータ15の回転や発熱によってハウジング12内の回転電機側収容空間24に圧力の変動が生じると、ブリージング通路28を通して回転電機側収容空間24と外部との間でエアの流通が生じ、それによって回転電機側収容空間24内の圧力の変動が抑制される。
【0023】
この実施形態の回転電機10(駆動装置1)のハウジング12においては、主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12Bの隣接するブリージング孔28a,28bと、主ハウジングブロック12Aと中間ハウジングブロック12Dの隣接するブリージング孔28a,28cとにそれぞれ位置決めピン31が跨って嵌合され、隣接するブリージング孔28a,28b、28a,28c同士が位置決めピン31の貫通孔31aを通して接続されるようになっているため、主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12B、主ハウジングブロック12Aと中間ハウジングブロック12Cの各突き合わせ面の間に介装されるシール材32がブリージング通路28内に進入しようとするのを位置決めピン31の外周面によって未然に防止することができる。したがって、このハウジング12を採用することにより、ブリージング通路28の開口面積を安定的に確保しつつ、中央のブリージング孔28aを充分に小さな円形断面とし、主ハウジングブロック12Aの周壁の外形の小型化を図ることができる。
【0024】
また、この回転電機10のハウジング12においては、主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12B、主ハウジングブロック12Aと中間ハウジングブロック12Dの各位置決めを行う位置決めピン31を利用して、ブリージング通路28内へのシール材32の進入を阻止するようにしているため、部品点数の増加を招くことがなく、その分製品コストの低減を図ることができる。
【0025】
図4,図5は、この発明の他の実施形態を示すものである。この実施形態の回転電機のハウジング112は、位置決めピン131の構成のみが上記の実施形態と異なり、他の構成は上記の実施形態と同様とされている。したがって、以下では相違点についてのみ説明し、共通部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
この実施形態で採用される位置決めピン131は、軸芯部に軸方向に貫通する貫通孔131aが形成されるとともに、軸方向の略中央の外周面に略コ字状断面の捕捉溝50が形成されている。この捕捉溝50は、位置決めピン131が、例えば、主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12Bの突き合わせ面で大径部29,30に嵌合されるときに、突き合わせ面の間の隙間に位置させる。これにより、主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12Bの突き合わせ面の間に介装されたシール材32が、図5に示すように、位置決めピン131の外周の捕捉部50によって捕捉されることになる。
【0026】
この実施実施の回転電機のハウジング112においては、位置決めピン131の外周面に設けられた捕捉溝50によって、シール材32を積極的に捕捉することができるため、主ハウジングブロック12Aとサイドハウジングブロック12Bの突き合わせ面の間や、主ハウジングブロック12Aと中間ハウジングブロック12Cの突き合わせ面の間において、ブリージング通路28の回りに確実にシール材32を回り込ませ、ブリージング通路28回りの密閉性をより高めることができる。
【0027】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
10…回転電機
12,112…ハウジング
12A…主ハウジングブロック(第1ハウジングブロック)
12B…サイドハウジングブロック(第2ハウジングブロック)
12D…中間ハウジングブロック(第2ハウジングブロック)
15…ステータ
16…ロータ
24…回転電機側収容空間(内部空間)
28…ブリージング通路
31,131…位置決めピン
31a,131a…貫通孔
32…シール材
50…捕捉溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、このステータの内側で回転するロータとを収容する回転電機のハウジングであって、
前記ステータとロータが内周部に配置される略円筒状の第1ハウジングブロックと、
この第1ハウジングブロックの軸方向の端面にシール材を介して結合される第2ハウジングブロックと、を備え、
前記第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックとに囲まれた内部空間を外部と連通させるブリージング通路が、前記第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックとに跨って形成されているものにおいて、
軸方向に沿った貫通孔を有する筒状の位置決めピンが設けられ、
前記ブリージング通路の相互に突き合わされる前記第1ハウジングブロック側の通路端と前記第2ハウジングブロック側の通路端とに、前記位置決めピンが跨って嵌合されていることを特徴とする回転電機のハウジング。
【請求項2】
前記位置決めピンの外周面には、前記第1ハウジングブロックと第2ハウジングブロックの間に介装されたシール材の進入を許容する捕捉溝が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機のハウジング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−241755(P2012−241755A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110351(P2011−110351)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】