回転電機用固定子の製造方法及び回転電機用固定子
【課題】渡り線のたるみを防止でき、安価で生産性に優れた回転電機用固定子の製造方法及び回転電機用固定子を提供する。
【解決手段】積層鉄心からなる複数の磁極片3を、所定の間隔で積層方向に段差を持って円環状に配置する第1工程と、磁極片3を円の中心方向に移動させ、隣接する磁極片3同士を周方向に嵌合させる第2工程と、磁極片3を積層方向に圧入する第3工程とを有し、複数の磁極片3のそれぞれには絶縁用ボビン7を介して巻線4が巻回されており、絶縁用ボビン7は、周方向に延びる平行な複数段の巻線収納溝76を外周面に有しており、第1工程と第2工程との間に、各相の渡り線41を、各相毎に別々に且つ隣接する磁極片3の絶縁用ボビン7同士において互いに異なる段位置となるように複数段の巻線収納溝76に収納する渡り線処理工程を有する。これにより、第2工程で生じた渡り線41のたるみを第3工程で吸収できる。
【解決手段】積層鉄心からなる複数の磁極片3を、所定の間隔で積層方向に段差を持って円環状に配置する第1工程と、磁極片3を円の中心方向に移動させ、隣接する磁極片3同士を周方向に嵌合させる第2工程と、磁極片3を積層方向に圧入する第3工程とを有し、複数の磁極片3のそれぞれには絶縁用ボビン7を介して巻線4が巻回されており、絶縁用ボビン7は、周方向に延びる平行な複数段の巻線収納溝76を外周面に有しており、第1工程と第2工程との間に、各相の渡り線41を、各相毎に別々に且つ隣接する磁極片3の絶縁用ボビン7同士において互いに異なる段位置となるように複数段の巻線収納溝76に収納する渡り線処理工程を有する。これにより、第2工程で生じた渡り線41のたるみを第3工程で吸収できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機を構成する固定子の製造方法及び回転電機用固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回転電機の固定子は、積層鉄心で構成される複数個の磁極片を円環状に配置し、各磁極片のティース部に絶縁用ボビンを介して巻線を施した構成を有している。この種の固定子として、同相の磁極片間を繋ぐ渡り線を収納するための収納溝を絶縁用ボビンに設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、収納溝を相の数と同数の複数段設け、各段それぞれに各相の渡り線を収納することで各相の渡り線同士の接触を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−246352号公報(13頁,図5,図12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、収納溝の数と相の数が同数であるため、同一相の渡り線が配置される段は同じ段となる。すなわち、3相交流のU、V、Wの各相の巻線の渡り線の内、U相は全磁極片それぞれの各絶縁用ボビンの1段目、V相は全磁極片それぞれの絶縁用ボビンの2段目、W相は全磁極片それぞれの絶縁用ボビンの3段目といった具合に配置されることになる。このように、各相の渡り線を同じ段に配置すると、製造工程上の理由から渡り線がたるみやすくなる。このため、たるんだ渡り線同士が接触して絶縁不具合を起こすことを防止するために、紐や結束バンドを使用してたるんだ部分を収納溝内へ固定する必要があった。したがって、渡り線を収納溝へ固定するための部材と作業が別途必要となり、製品コストが高価となるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、渡り線のたるみを防止でき、安価で生産性に優れた回転電機用固定子の製造方法及び回転電機用固定子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る回転電機用固定子の製造方法は、鉄心素板を積層した積層鉄心からなる複数の磁極片を、所定の間隔で積層方向に段差を持って円環状に配置する第1工程と、磁極片を円の中心方向に移動させ、隣接する磁極片同士を周方向に嵌合させる第2工程と、段差を持って配置された磁極片を積層方向に圧入する第3工程とを有し、複数の磁極片のそれぞれには、絶縁用ボビンを介して巻線が巻回されており、絶縁用ボビンは、周方向に延びる平行な複数段の巻線収納溝を外周面に有しており、第1工程と第2工程との間に、各相毎の渡り線を、各相毎に別々に且つ隣接する磁極片の絶縁用ボビン同士において互いに異なる段位置となるように複数段の巻線収納溝に収納する渡り線処理工程を有するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第2工程にて発生した渡り線のたるみを、第3工程の積層方向の移動で吸収することができるため、絶縁用ボビンより渡り線がはみ出ることを防止でき、はみ出し防止用の紐や結束バンドが不要となり安価で生産性に優れた回転電機用固定子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係る回転電機用固定子を構成するための一つの磁極片の斜視図である。
【図2】図1の磁極片を構成する各鉄心素板を説明するための説明図である。
【図3】同磁極片を組み合わせて構成された固定子の断面図である。
【図4】固定子断面における結線状態を示す結線図である。
【図5】固定子を構成する全ての磁極片を直線状に並べて、結線の状態を模式的に表した結線略図である。
【図6】3相交流の1相分(ここでは一例としてU相)に対応する連結体を構成する3個の各磁極片に対して、連続に巻線を施した状態を示す説明図である。
【図7】図1の磁極片に絶縁用ボビンが装着された固定子を径方向内方から見た場合の斜視図である。
【図8】図7の絶縁用ボビンを図7の矢印A方向から見た平面図である。
【図9】図7の絶縁用ボビンを図7の矢印B方向から見た正面図である。
【図10】図7の絶縁用ボビンを図7の矢印C方向から見た側面図である。
【図11】図1の磁極片のバックヨーク部の両端面に設けられている凸部と凹部の嵌合形態の説明図である。
【図12】固定子1の組み立てを説明するための工程図である。
【図13】隣接する磁極片の接続状態を説明するための部分拡大図である。
【図14】(a)は、図12(b2)の点線で囲った部分の拡大図、(b1)〜(b3)は、比較例として同一相の渡り線を隣接する磁極片同士で同じ段位置に配置した従来例を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態2に係る回転電機において、固定子の組み立てを説明するための工程図である。
【図16】U、V、Wの各相の他の配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る回転電機用固定子を構成するための一つの磁極片の斜視図である。図2は、図1の磁極片を構成する各鉄心素板を説明するための説明図である。図3は、同磁極片を組み合わせて構成された固定子の断面図である。図4は、固定子断面における結線状態を示す結線図である。図5は、固定子を構成する全ての磁極片を直線状に並べて、結線の状態を模式的に表した結線略図である。なお、図5では磁極片は簡略化して表し、ティース部に巻かれる導体や絶縁用ボビンは省略している。また、本明細書中の全図において、同一の符号を付したものは、同一の又はこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。更に、明細書全文に表れている構成要素の形態は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。
【0010】
本実施の形態1の回転電機用固定子1は、6極9ティースの3相DCブラシレスモータ用のものであって、回転出力軸方向(図3で紙面に直交する方向)に沿って薄板(鉄心素板)を複数枚積み重ねてカシメや溶接等により固定されてなる積層鉄心で構成された複数個(本例では9個)の磁極片3を備える。各磁極片3は、バックヨーク部31と、このバックヨーク部31から突出したティース部32とを有している。各バックヨーク部31の一方の端面には凸部33(第1凸部33a、第2凸部33b)が形成され、他方の端面には凹部34(第1凹部34a、第2凹部34b)が形成され、この凸部33及び凹部34は、固定子1の製造に際して各磁極片3同士を連結して組み立てるために使用される。
【0011】
磁極片3の構成について更に詳細に説明する。磁極片3は、第1鉄心素板群3Aと第2鉄心素板群3Bとを交互に積層して構成されている。第1鉄心素板群3Aは、図2(a)に示す第1鉄心素板3aを複数積層して構成されている。第1鉄心素板3aは、図2(a)に示すように、バックヨーク部31の一方の端面(隣接する磁極片3との接続部分となる一方の端面、つまり図2(a)に示す紙面左側の端面)に所定形状の第1凸部33aが、バックヨーク部31の他方の端面(隣接する磁極片3との接続部分となる他方の端面、つまり図2(a)に示す紙面右側の端面)に所定形状の第1凹部34aが、それぞれ形成されている。
【0012】
同様に、第2鉄心素板群3Bは、図2(b)に示す第2鉄心素板3bを複数積層して構成されている。第2鉄心素板3bは、図2(b)に示すように、バックヨーク部31の一方の端面(隣接する磁極片3との接続部分となる一方の端面、つまり図2(b)に示す紙面左側の端面)に第1鉄心素板3aの第1凹部34aに挿入可能な所定形状の第2凸部33bが、バックヨーク部31の他方の端面(隣接する磁極片3との接続部分となる他方の端面、つまり図2(b)に示す紙面右側の端面)に第1鉄心素板3aの第1凸部33aが挿入可能な所定形状の第2凹部34bが、それぞれ形成されている。
【0013】
図6は、3相交流の1相分(ここでは一例としてU相)に対応する連結体を構成する3個の各磁極片に対して、連続に巻線を施した状態を示す説明図(巻線機は図示せず)である。図6において各ティース部32に巻かれる巻線4の部分は省略している。なお、V相、W相の場合も、U相の場合と巻線4が施される方向、巻き始め部分及び巻き終わり部分の位置は同じである。
各磁極片3のティース部32には、合成樹脂等で成形された後述の一対の絶縁用ボビン7(後述の図7参照)が回転出力軸方向の前後から装着されている。そして、図6に示すように互いに離間(ここでは固定子1の中心Oを中心として120度の角度で離間)して配置された3個の磁極片3に対して連続して銅線等からなる導体(以下、巻線という)4が巻き付けられて連結体2が構成されている。なお、以下では、一つの連結体2内で互いに連結された磁極片3間を繋ぐ巻線4を渡り線41と呼ぶことにする。この連結体2が3相交流のそれぞれの相U、V、Wの内の1相分に対応している。
【0014】
そして、この巻装された連結体2を3組用いて周方向(図3の矢印方向)に沿って40度ずつ順次ずらせて円環状に配置され、こうして円環状に配置された各磁極片3のバックヨーク部31の両端面に形成されている凸部33と凹部34とを嵌め合わせることにより、各磁極片3の端面同士が一体的に結合され、6極9ティースの3相DCブラシレスモータ用の固定子1が構成されている。
【0015】
なお、図3〜図5において、各磁極片3に対して付された符号U、V、Wは3相交流のそれぞれの相に対応しており、Nは中性点である。また、U1、U2及びU3の違いは、U1が、3個1組となったU相の連結体2の1番目に巻き付けられる巻線であり、U2が2番目に巻き付けられる巻線、U3が3番目に巻き付けられる巻線であることを示す。
【0016】
図7は、図1の磁極片に絶縁用ボビンが装着された固定子を径方向内方から見た場合の斜視図である。図8は、図7の絶縁用ボビンを図7の矢印A方向から見た平面図である。図9は、図7の絶縁用ボビンを図7の矢印B方向から見た正面図である。図10は、図7の絶縁用ボビンを図7の矢印C方向から見た側面図である。なお、図7及び図8においては、絶縁用ボビン7部分と磁極片3部分とを区別できるよう、絶縁用ボビン7を実線、磁極片3部分を一点鎖線で示している。
【0017】
この絶縁用ボビン7は、各磁極片3のティース部32に嵌合されるティース嵌合部71と、バックヨーク部31に嵌合されるバックヨーク嵌合部72とを有する。
【0018】
そして、ティース嵌合部71には、巻線4をティース部32に整列して巻き付けるための巻線整列溝74が形成されている。また、ティース嵌合部71とバックヨーク嵌合部72との境界部分において周方向の両端部分には、巻線4の巻き始め部分がそれ以降に巻かれる部分と干渉することを避けるために、巻線4の巻始め部分を外側に逃すための巻始め線逃がし溝75が形成されている。また、バックヨーク嵌合部72には径方向に延びる巻線引き出し溝73が2箇所に形成されている。
【0019】
更に、バックヨーク嵌合部72の外周面(径方向の端面)には、周方向に延びる平行な複数段の巻線収納溝76が形成されている。この複数段の巻線収納溝76に、各相の巻線4の巻き始め部分や巻き終わり部分、また前述の各渡り線41(以下、これらを総称して巻線端末部と称する)が各相毎に収納されている。
【0020】
次に、各磁極片3の突き合わした端面同士の嵌合について説明する。磁極片3のバックヨーク部31の両端面に設けた第1凸部33a、第2凸部33b、第1凹部34a及び第2凹部34bには、挿入可否の関係が存在する。以下、挿入可否の関係について次の図11により詳しく説明する。
【0021】
図11は、図1の磁極片のバックヨーク部の両端面に設けられている凸部と凹部の嵌合形態の説明図である。
第1凹部34aに対して、第1凸部33aは周方向からの挿入ができず積層方向(回転電機の出力軸方向)からの挿入のみが可能であり、第2凸部33bは周方向及び積層方向の双方からの挿入が可能となるような形状に形成されている。また、第2凹部34bに対して、第1凸部33a及び第2凸部33bは、共に周方向及び積層方向の双方からの挿入が可能となるような形状に形成されている。
【0022】
したがって、これらの第1凹部34a、第2凹部34bと、第1凸部33a、第2凸部33bの各形状の関係により、これらを嵌め合わせる際には、図11(a)〜(d)に示すような組み合わせが生じる。すなわち、図11(a)に示すように第1凹部34aと第1凸部33aの組み合わせは、第1凹部34aに対して第1凸部33aの積層方向からの挿入は許容するが、周方向からの挿入は許容しない嵌合形態(以下、これを第1嵌合形態と称する)Xとなる。また、図11(b)〜(d)に示すように、第1凹部34aと第2凸部33b、第2凹部34bと第1凸部33a、第2凹部34bと第2凸部33bの各組み合わせは、何れも周方向及び積層方向の双方からの挿入を許容する嵌合形態(以下、これを第2嵌合形態と称する)Yとなる。
【0023】
そして、各磁極片3の突き合わした端面同士の嵌合が、鉄心素板の積層方向に沿って第1嵌合形態Xと第2嵌合形態Yとが交互に発生するように、上述したように、第1鉄心素板群3Aと第2鉄心素板群3Bとを交互に配置して磁極片3を構成している。第1鉄心素板群3Aの第1鉄心素板3aの枚数を例えば5枚、第2鉄心素板群3Bの第2鉄心素板3bの枚数を例えば15枚とした場合には、後述の図13(c)に示すように積層方向の上から順に1枚目〜5枚目では第1嵌合形態Xが生じ、6枚目〜20枚目では第2嵌合形態Yが生じ、21枚目〜25枚目では第1嵌合形態Xが生じ、26枚目〜40枚目では第2嵌合形態Yが生じるといった具合になる。なお、本例では、第1嵌合形態Xが生じる第1鉄心素板群3Aの積層枚数を5枚、第2嵌合形態Yが生じる第2鉄心素板群3Bの積層枚数を15枚としたが、単なる一例である。また、第1鉄心素板3a及び第2鉄心素板3bの両端面において図2の右側を凹部、左側を凸部としたが逆としてもよい。
【0024】
図12は、固定子の組み立てを説明するための工程図である。図12では、渡り線の配線をわかりやすくするため、渡り線の一部(横方向に延びている部分)を黒く塗りつぶしている。図13は、隣接する磁極片3の接続状態を詳細に説明するための部分拡大図であり、隣接する2つの磁極片3の組み立てについて示している。図13の(a)〜(c)は順に、図12の(a2)、(b2)、(c)に示す配置状態における、隣接する2つの磁極片の位置関係を示した図である。なお、図13において斜線で示した部分は、第1嵌合形態Xが生じる部分を示している。以下、図12及び図13に基づいて、固定子1の組み立てについて詳細に説明する。
【0025】
まず、図12(a1)に示すように3個1組で連続巻された連結体2(図6参照)を3組、周方向に沿って順次40度ずつずらして環状に配置できる組立設備(図示せず)にセットする(第1工程)。組立設備(図示せず)は、各磁極片3の設置面の高さを異ならせて配置可能となっており、組立設備(図示せず)にセットした状態の各磁極片3の位置関係を図12(a2)に示している。なお、図12(a2)には、各磁極片3の高さ方向の位置関係及び組立設備にセットされた状態における渡り線41の結線状態をわかりやすくするため、各磁極片3を直線状に並べて示している。また、図12(a2)では、磁極片3のU、V、Wの各相の配置を図4で示した結線図と同様の配置としている。
【0026】
図12(a2)に示すように、U1の磁極片3の設置位置を基準(以下、基準設置面)にするとV1の磁極片3がU1の磁極片3よりも1段上方にずらした位置に、W1の磁極片3がV1の磁極片3よりも更に1段上方にずらした位置にそれぞれ配置されるようになっている。なお、U2以降の磁極片3はU1、V1、W1と同様の配置が繰り返されるようになっている。
【0027】
ここでいう1段とは、隣接する磁極片3同士を基準設置面に水平に配置した状態から、図13(a)に示すように、一方の磁極片3(ここではV1、V2、V3)が他方の磁極片3(ここではU1、U2、U3)に、積層方向全体において嵌合形態Yが得られる位置(つまり周方向に挿入できる位置)まで上方にずらしたことを表している。なお、図13(a)において斜線で示した部分は、周方向の挿入を受け入れず積層方向の挿入のみを受け入れる凹凸部分で、この1段の設定は、言い方を変えれば、周方向に挿入できない状態を避けることが可能であればよい。
【0028】
つまり、隣接する磁極片3同士において、第1鉄心素板群3A部分同士が同じ高さ位置とならないように一方を上方にずらせばよく、具体的には第1鉄心素板群3Aの第1鉄心素板3aが5枚、第2鉄心素板群3Bの第2鉄心素板3bが15枚の場合には、第1鉄心素板3aの5枚分の厚み〜15枚分の厚みの範囲を1段とすればよい。逆に5枚以下の例えば3枚分の厚みを1段とすると、隣接する磁極片3同士で第1鉄心素板群3A部分の2枚分が嵌合形態Yが得られない。また、15枚を超えて例えば16枚分の厚みを1段とすると、第1鉄心素板群3A部分の1枚分が嵌合形態Yを得られないことになる。
【0029】
そして、W1、W2、W3の磁極片3はU1、U2、U3の磁極片3から2段上方にずらして配置されている。よって、図12(a2)の配置状態では、隣接する磁極片3同士が、互いに積層方向全体に渡って周方向から挿入可能な状態にある。
【0030】
各磁極片3に嵌着されている絶縁用ボビン7には、上記したように巻線端末部を収納するための巻線収納溝76が積層方向にここでは5段形成されている。この段数は単なる一例であるが、小型化の観点から必要最低段とすることが望ましい。この巻線収納溝76の溝ピッチh(図10参照)は、上記各磁極片3を1段上方にずらした量と同じ間隔となっている。
【0031】
以上のようにして組立設備に各連結体2を設置する第1工程終了後、各連結体2のそれぞれの渡り線41を絶縁用ボビン7の巻線収納溝76に収納する渡り線処理工程を行う。以下、図12(a2)を参照して渡り線処理工程について説明する。なお、以下の説明では、絶縁用ボビン7において巻線引き出し溝73にて分割された3箇所の巻線収納溝76を、右端、中央、左端として区別し、積層方向の各巻線収納溝76を上から順に1段目、2段目、3段目・・・として区別する。
【0032】
U1の磁極片3の渡り線(U1から出てU2に向かう渡り線)41はU1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の右端1段目の巻線収納溝76を通り、V1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から2段目の巻線収納溝76を通り、W1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から3段目の巻線収納溝76を通り、U2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の左端1段目の巻線収納溝76を通る。
【0033】
次にV1の磁極片3の渡り線41はV1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の右端3段目の巻線収納溝76を通り、W1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から4段目の巻線収納溝76を通り、U2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から2段目の巻線収納溝76を通り、V2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の左端3段目の巻線収納溝76を通る。
【0034】
次にW1の磁極片3の渡り線41はW1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の右端5段目の巻線収納溝76を通り、U2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から3段目の巻線収納溝76を通り、V2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から4段目の巻線収納溝76を通り、W2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の左端5段目の巻線収納溝76を通る。
【0035】
U2、V2、W2についてもU1、V1、W1と同じように渡り線処理を実施する。全ての渡り線41の収納を完成した状態において、各磁極片3それぞれの絶縁用ボビン7における各相の渡り線41は、図12(c)のA−A断面を示している図12(d)に示すように、各相の渡り線41が互いに異なる段で巻線収納溝76に収納されている。なお、ここではW1の断面を示しているが、他の箇所においても同様に、W1の場合とは収納段の位置は異なるものの、各相の渡り線41が互いに異なる段の巻線収納溝76に収納されている。
【0036】
ここで、渡り線処理の特徴について整理すると、隣接する磁極片3の絶縁用ボビン7同士において渡り線41を、互いに異なる段位置となるように巻線収納溝76に収納すればよい。また、各絶縁用ボビン7のそれぞれにおいて、各相の渡り線41が同様の順で配置される。ここでは、図12(a2)において上から順にU相、V相、W相の順でそれぞれの渡り線41が巻線収納溝76に収納されている。つまり、U1の絶縁用ボビン7、V1の絶縁用ボビン7、W1の絶縁用ボビン7のそれぞれにおいて、上からU相、V相、W相の順で渡り線41が収納されている。これにより、各相の渡り線41が、隣接する磁極片同士で交差しないようになっている。なお、U2、V2、W3・・・ においても同様である。
【0037】
ここで、具体的にU1とU2とを繋ぐ渡り線41aについて見てみると、渡り線41aは、周方向(図12の左右方向)に段差の無い状態で配置(渡り線41aが収納されるU1、V1、W1及びU2の各磁極片3の各収納ボビン7のそれぞれに対して基準設置面から同じ高さ位置に配置)されており、U1、V1、W1、U2のそれぞれの絶縁用ボビン7の巻線収納溝76にたるみが無いように収納されている。U2とU3とを繋ぐ渡り線41bや他の渡り線41についても同様である。図12(a2)に示す状態において各磁極片3は段差を持って配置されているため、上記のように渡り線41を同じ高さで引き回すことで、隣接する磁極片3同士の渡り線41の収納段位置を異ならせた配置とすることができる。
【0038】
以上の渡り線処理を終了後、環状に配置した磁極片3を、図12(a1)の矢印で示すように円の中心方向に同時に移動させる(以下、第2工程という)。この移動により、隣接する磁極片3同士の間隔が狭くなっていく。
【0039】
図12(a2)及び図13(a)に示す状態では、各磁極片3の一方の端面に設けられている各凹部34に対して、他方の端面に設けられている各凸部33を周方向から挿入することが可能な状態にある。すなわち、図13(a1)に示すように、第2凹部34bと第1凸部33aとが対向している状態の部分と、図13(a2)に示すように、第1凹部34aと第2凸部33bとが対向している状態の部分と、図13(a3)に示すように、第2凹部34bと第2凸部33bとが対向している状態の部分がある。そして、この3つの状態部分の組が積層方向に並んでおり、積層方向全体に渡って図11(b)〜(d)に示した第2嵌合形態Yを得られる状態にある。このため、図12(a1)の矢印で示すように円の中心方向に移動させることにより、隣接する磁極片3同士が嵌合する。
【0040】
次に、段差を持って配置されている磁極片3を図12(c)及び図13(c)に示すように積層方向に圧入する(以下、第3工程という)。ここでは、U1の磁極片3の位置を基準に、U1に対して段差を持って配置されているV1、W1、V2、W2、V3、W3を積層方向に圧入する。この圧入作業によって、図13(c)に示すように、隣接する磁極片3同士が第1嵌合形態Xと第2嵌合形態Yで嵌合し、磁極片3の突き合わせ端面同士が互いに一体的に結合される。具体的には、図13(c1)に示すように第1凹部34aに対して第1凸部33aが嵌合し、図13(c2)に示すように第2凹部34bに対して第2凸部33bが嵌合する。
【0041】
ところで、図12(b2)には詳しく図示されていないが、図12(b2)の点線で囲った部分は、第1工程において隣接する磁極片3同士の間の距離が短くなったことにより図14(a)に示すように渡り線41がたるんだ状態となっている。なお、この点線で囲った部分だけに限らず、他の隣接する磁極片3同士の間にも同様に渡り線41のたるみが生じている。しかし、隣接する磁極片3同士では互いに渡り線41を収納した巻線収納溝76の段位置が異なるため、第3工程で磁極片3を積層方向に移動させて各磁極片3同士の設置面の位置を揃えることにより、その移動量によってたるみを吸収できる。よって、たるみが残るのを防止することができ、各相の渡り線41を巻線収納溝76に収納した状態とすることができる。
【0042】
図14(b1)〜(b3)は、比較例として同一相の渡り線41Aを隣接する磁極片同士で同じ段位置に配置した従来例を示しており、図14(b2)は第2工程後、図14(b3)は第3工程後を示している。このように、同一相の渡り線41Aを同じ段位置に配置すると、たるみが残ってしまう。
【0043】
このように、実施の形態1の回転電機用固定子1では、渡り線41を巻線収納溝76に収納する段階において、各相毎の渡り線41を、各相毎に別々に且つ隣接する磁極片3の絶縁用ボビン7同士において互いに異なる段位置に収納するようにしたので、第2工程で生じたたるみを、第3工程における積層方向の移動で吸収することができ、絶縁用ボビン7から渡り線41がはみ出ることを防止できる。よって、はみ出し防止用の紐や結束バンドが不要で、低コスト且つ小型化が可能である。また、絶縁用ボビン7に、紐や結束バンドを取り付けるための穴も不要となり、更にコスト低減を図ることが可能となる。
【0044】
また、渡り線処理にあたっては、各相それぞれの渡り線41を周方向に段差の無い状態で配置しているため、図12(a2)の配置状態において、隣接する磁極片3同士への渡り線の渡し方として最短距離の配置とすることができ、無駄にたるみが生じることを防止できる。
【0045】
なお、上記の渡り線41の配置は一例であり、これに限定するものではない。渡り線41の他の配置例を次の実施の形態2で説明する。
【0046】
実施の形態2.
図15は、本発明の実施の形態2に係る回転電機において、固定子の組み立てを説明するための工程図である。図15では、各磁極片3を直線状に並べて渡り線41の結線状態を模式的に表している。なお、図15(a)は実施の形態1と同様の第1工程後、実施の形態2の特有の以下の渡り線処理を行い、その後、第2工程(円の中心方向への移動工程)を行った後の状態を示している。図15(b)は実施の形態1と同様の第3工程(積層方向への移動工程)後の状態を示している。また、図15(c)は図15(b)のB−B断面を示している。
【0047】
実施の形態2では、実施の形態1で説明した事項において渡り線41の配置を変更しており、磁極片3の積層方向の前後から嵌着する2つの絶縁用ボビン7の両方に複数段の巻線収納溝76を形成し、2つの絶縁用ボビン7に渡り線41を分けて配置していることを特徴としている。この複数段の巻線収納溝76は実施の形態1と同様、各磁極片3を1段上方にずらした量と同じ間隔の溝ピッチとなっている。
【0048】
また、実施の形態2で嵌着した紙面上側の絶縁用ボビン7Aに形成されている巻線収納溝76は、ここでは4段であり、紙面下側の絶縁用ボビン7Bに形成されている巻線収納溝76は、ここでは3段である。これらの段数は単なる一例であるが、小型化の観点から必要最低段とすることが望ましい。なお、以下の説明では、絶縁用ボビン7において巻線引き出し溝73にて分割された3箇所の巻線収納溝76を、右端、中央、左端として区別し、積層方向の各巻線収納溝76を上から順に1段目、2段目、3段目・・・として区別する。
【0049】
図15(a)に示すように、U1の磁極片3の渡り線41aはU1の磁極片3に嵌着された下側絶縁用ボビン7Bの右端1段目の巻線収納溝76を通り、V1の磁極片3に嵌着された下側絶縁用ボビン7Bの上から2段目の巻線収納溝76を通り、W1の磁極片3に嵌着された下側絶縁用ボビン7Bの上から3段目の巻線収納溝76を通り、U2の磁極片3に嵌着された下側絶縁用ボビン7Bの左端1段目の巻線収納溝76を通る。U2及びU3の渡り線41b(U3の渡り線41bは図示せず)も同じように処理する。また、V1、W1、V2、W2の渡り線41の配置は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0050】
このように本実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の作用効果が得られると共に、各相の渡り線41を上側絶縁用ボビン7Aと下側絶縁用ボビン7Bとに分けて配置するようにしたので、渡り線41が磁極片3間において接触する可能性が低下し、絶縁信頼性が高い回転電機用固定子1を製作することができる。なお、渡り線41の配置は実施の形態2ではU相を下側絶縁用ボビン7B側の配置としているが、これに限定するものではなく、V相又はW相としてもよい。
【0051】
なお、実施の形態1、2では、固定子1を構成する磁極片3の個数を9個としているが、これに限定するものではなく、他の個数としてもよい。
【0052】
また、実施の形態1、2において、U、V、Wの各相の磁極片3の配置は、図12に示したようにU、V、Wの順に磁極片3を一個ずつ配置することを繰り返す配置に限定するものではない。例えば、図16に示すように10極12ティースの構成の場合において、隣接する2個の磁極片3で構成されたユニットコア30を、2個1組として連続して巻線4を施して連結体を構成し、その連結体を3相交流のそれぞれの相U、V、Wのそれぞれに対応させて3組備えた構成の場合、以下のようにしてもよい。すなわち、図16に示すようにU相のユニットコア30、V相のユニットコア30、W相のユニットコア30の順で配置し、その配置を繰り返す配置とする。
【0053】
また、実施の形態1、2における渡り線41のたるみ防止のための特徴的な技術内容を、図16に示す構成に適用する場合には、相が異なる隣接のユニットコア30同士の間で適用すればよい。なお、ユニットコア30を構成する2個の磁極片3間では巻線4がたるみなく連続して巻回されているため、問題ない。
【符号の説明】
【0054】
1 固定子(回転電機用固定子)、2 連結体、3 磁極片、3A 第1鉄心素板群、3B 第2鉄心素板群、3a 第1鉄心素板、3b 第2鉄心素板、4 導体(巻線)、7 絶縁用ボビン、7A 上側絶縁用ボビン、7B 下側絶縁用ボビン、30 ユニットコア、31 バックヨーク部、32 ティース部、33 凸部、33a 第1凸部、33b 第2凸部、34 凹部、34a 第1凹部、34b 第2凹部、41 渡り線、41a 渡り線、41b 渡り線、71 ティース嵌合部、72 バックヨーク嵌合部、73 巻線引き出し溝、74 巻線整列溝、75 巻始め線逃がし溝、76 巻線収納溝。
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機を構成する固定子の製造方法及び回転電機用固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回転電機の固定子は、積層鉄心で構成される複数個の磁極片を円環状に配置し、各磁極片のティース部に絶縁用ボビンを介して巻線を施した構成を有している。この種の固定子として、同相の磁極片間を繋ぐ渡り線を収納するための収納溝を絶縁用ボビンに設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、収納溝を相の数と同数の複数段設け、各段それぞれに各相の渡り線を収納することで各相の渡り線同士の接触を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−246352号公報(13頁,図5,図12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、収納溝の数と相の数が同数であるため、同一相の渡り線が配置される段は同じ段となる。すなわち、3相交流のU、V、Wの各相の巻線の渡り線の内、U相は全磁極片それぞれの各絶縁用ボビンの1段目、V相は全磁極片それぞれの絶縁用ボビンの2段目、W相は全磁極片それぞれの絶縁用ボビンの3段目といった具合に配置されることになる。このように、各相の渡り線を同じ段に配置すると、製造工程上の理由から渡り線がたるみやすくなる。このため、たるんだ渡り線同士が接触して絶縁不具合を起こすことを防止するために、紐や結束バンドを使用してたるんだ部分を収納溝内へ固定する必要があった。したがって、渡り線を収納溝へ固定するための部材と作業が別途必要となり、製品コストが高価となるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、渡り線のたるみを防止でき、安価で生産性に優れた回転電機用固定子の製造方法及び回転電機用固定子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る回転電機用固定子の製造方法は、鉄心素板を積層した積層鉄心からなる複数の磁極片を、所定の間隔で積層方向に段差を持って円環状に配置する第1工程と、磁極片を円の中心方向に移動させ、隣接する磁極片同士を周方向に嵌合させる第2工程と、段差を持って配置された磁極片を積層方向に圧入する第3工程とを有し、複数の磁極片のそれぞれには、絶縁用ボビンを介して巻線が巻回されており、絶縁用ボビンは、周方向に延びる平行な複数段の巻線収納溝を外周面に有しており、第1工程と第2工程との間に、各相毎の渡り線を、各相毎に別々に且つ隣接する磁極片の絶縁用ボビン同士において互いに異なる段位置となるように複数段の巻線収納溝に収納する渡り線処理工程を有するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第2工程にて発生した渡り線のたるみを、第3工程の積層方向の移動で吸収することができるため、絶縁用ボビンより渡り線がはみ出ることを防止でき、はみ出し防止用の紐や結束バンドが不要となり安価で生産性に優れた回転電機用固定子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係る回転電機用固定子を構成するための一つの磁極片の斜視図である。
【図2】図1の磁極片を構成する各鉄心素板を説明するための説明図である。
【図3】同磁極片を組み合わせて構成された固定子の断面図である。
【図4】固定子断面における結線状態を示す結線図である。
【図5】固定子を構成する全ての磁極片を直線状に並べて、結線の状態を模式的に表した結線略図である。
【図6】3相交流の1相分(ここでは一例としてU相)に対応する連結体を構成する3個の各磁極片に対して、連続に巻線を施した状態を示す説明図である。
【図7】図1の磁極片に絶縁用ボビンが装着された固定子を径方向内方から見た場合の斜視図である。
【図8】図7の絶縁用ボビンを図7の矢印A方向から見た平面図である。
【図9】図7の絶縁用ボビンを図7の矢印B方向から見た正面図である。
【図10】図7の絶縁用ボビンを図7の矢印C方向から見た側面図である。
【図11】図1の磁極片のバックヨーク部の両端面に設けられている凸部と凹部の嵌合形態の説明図である。
【図12】固定子1の組み立てを説明するための工程図である。
【図13】隣接する磁極片の接続状態を説明するための部分拡大図である。
【図14】(a)は、図12(b2)の点線で囲った部分の拡大図、(b1)〜(b3)は、比較例として同一相の渡り線を隣接する磁極片同士で同じ段位置に配置した従来例を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態2に係る回転電機において、固定子の組み立てを説明するための工程図である。
【図16】U、V、Wの各相の他の配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る回転電機用固定子を構成するための一つの磁極片の斜視図である。図2は、図1の磁極片を構成する各鉄心素板を説明するための説明図である。図3は、同磁極片を組み合わせて構成された固定子の断面図である。図4は、固定子断面における結線状態を示す結線図である。図5は、固定子を構成する全ての磁極片を直線状に並べて、結線の状態を模式的に表した結線略図である。なお、図5では磁極片は簡略化して表し、ティース部に巻かれる導体や絶縁用ボビンは省略している。また、本明細書中の全図において、同一の符号を付したものは、同一の又はこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。更に、明細書全文に表れている構成要素の形態は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。
【0010】
本実施の形態1の回転電機用固定子1は、6極9ティースの3相DCブラシレスモータ用のものであって、回転出力軸方向(図3で紙面に直交する方向)に沿って薄板(鉄心素板)を複数枚積み重ねてカシメや溶接等により固定されてなる積層鉄心で構成された複数個(本例では9個)の磁極片3を備える。各磁極片3は、バックヨーク部31と、このバックヨーク部31から突出したティース部32とを有している。各バックヨーク部31の一方の端面には凸部33(第1凸部33a、第2凸部33b)が形成され、他方の端面には凹部34(第1凹部34a、第2凹部34b)が形成され、この凸部33及び凹部34は、固定子1の製造に際して各磁極片3同士を連結して組み立てるために使用される。
【0011】
磁極片3の構成について更に詳細に説明する。磁極片3は、第1鉄心素板群3Aと第2鉄心素板群3Bとを交互に積層して構成されている。第1鉄心素板群3Aは、図2(a)に示す第1鉄心素板3aを複数積層して構成されている。第1鉄心素板3aは、図2(a)に示すように、バックヨーク部31の一方の端面(隣接する磁極片3との接続部分となる一方の端面、つまり図2(a)に示す紙面左側の端面)に所定形状の第1凸部33aが、バックヨーク部31の他方の端面(隣接する磁極片3との接続部分となる他方の端面、つまり図2(a)に示す紙面右側の端面)に所定形状の第1凹部34aが、それぞれ形成されている。
【0012】
同様に、第2鉄心素板群3Bは、図2(b)に示す第2鉄心素板3bを複数積層して構成されている。第2鉄心素板3bは、図2(b)に示すように、バックヨーク部31の一方の端面(隣接する磁極片3との接続部分となる一方の端面、つまり図2(b)に示す紙面左側の端面)に第1鉄心素板3aの第1凹部34aに挿入可能な所定形状の第2凸部33bが、バックヨーク部31の他方の端面(隣接する磁極片3との接続部分となる他方の端面、つまり図2(b)に示す紙面右側の端面)に第1鉄心素板3aの第1凸部33aが挿入可能な所定形状の第2凹部34bが、それぞれ形成されている。
【0013】
図6は、3相交流の1相分(ここでは一例としてU相)に対応する連結体を構成する3個の各磁極片に対して、連続に巻線を施した状態を示す説明図(巻線機は図示せず)である。図6において各ティース部32に巻かれる巻線4の部分は省略している。なお、V相、W相の場合も、U相の場合と巻線4が施される方向、巻き始め部分及び巻き終わり部分の位置は同じである。
各磁極片3のティース部32には、合成樹脂等で成形された後述の一対の絶縁用ボビン7(後述の図7参照)が回転出力軸方向の前後から装着されている。そして、図6に示すように互いに離間(ここでは固定子1の中心Oを中心として120度の角度で離間)して配置された3個の磁極片3に対して連続して銅線等からなる導体(以下、巻線という)4が巻き付けられて連結体2が構成されている。なお、以下では、一つの連結体2内で互いに連結された磁極片3間を繋ぐ巻線4を渡り線41と呼ぶことにする。この連結体2が3相交流のそれぞれの相U、V、Wの内の1相分に対応している。
【0014】
そして、この巻装された連結体2を3組用いて周方向(図3の矢印方向)に沿って40度ずつ順次ずらせて円環状に配置され、こうして円環状に配置された各磁極片3のバックヨーク部31の両端面に形成されている凸部33と凹部34とを嵌め合わせることにより、各磁極片3の端面同士が一体的に結合され、6極9ティースの3相DCブラシレスモータ用の固定子1が構成されている。
【0015】
なお、図3〜図5において、各磁極片3に対して付された符号U、V、Wは3相交流のそれぞれの相に対応しており、Nは中性点である。また、U1、U2及びU3の違いは、U1が、3個1組となったU相の連結体2の1番目に巻き付けられる巻線であり、U2が2番目に巻き付けられる巻線、U3が3番目に巻き付けられる巻線であることを示す。
【0016】
図7は、図1の磁極片に絶縁用ボビンが装着された固定子を径方向内方から見た場合の斜視図である。図8は、図7の絶縁用ボビンを図7の矢印A方向から見た平面図である。図9は、図7の絶縁用ボビンを図7の矢印B方向から見た正面図である。図10は、図7の絶縁用ボビンを図7の矢印C方向から見た側面図である。なお、図7及び図8においては、絶縁用ボビン7部分と磁極片3部分とを区別できるよう、絶縁用ボビン7を実線、磁極片3部分を一点鎖線で示している。
【0017】
この絶縁用ボビン7は、各磁極片3のティース部32に嵌合されるティース嵌合部71と、バックヨーク部31に嵌合されるバックヨーク嵌合部72とを有する。
【0018】
そして、ティース嵌合部71には、巻線4をティース部32に整列して巻き付けるための巻線整列溝74が形成されている。また、ティース嵌合部71とバックヨーク嵌合部72との境界部分において周方向の両端部分には、巻線4の巻き始め部分がそれ以降に巻かれる部分と干渉することを避けるために、巻線4の巻始め部分を外側に逃すための巻始め線逃がし溝75が形成されている。また、バックヨーク嵌合部72には径方向に延びる巻線引き出し溝73が2箇所に形成されている。
【0019】
更に、バックヨーク嵌合部72の外周面(径方向の端面)には、周方向に延びる平行な複数段の巻線収納溝76が形成されている。この複数段の巻線収納溝76に、各相の巻線4の巻き始め部分や巻き終わり部分、また前述の各渡り線41(以下、これらを総称して巻線端末部と称する)が各相毎に収納されている。
【0020】
次に、各磁極片3の突き合わした端面同士の嵌合について説明する。磁極片3のバックヨーク部31の両端面に設けた第1凸部33a、第2凸部33b、第1凹部34a及び第2凹部34bには、挿入可否の関係が存在する。以下、挿入可否の関係について次の図11により詳しく説明する。
【0021】
図11は、図1の磁極片のバックヨーク部の両端面に設けられている凸部と凹部の嵌合形態の説明図である。
第1凹部34aに対して、第1凸部33aは周方向からの挿入ができず積層方向(回転電機の出力軸方向)からの挿入のみが可能であり、第2凸部33bは周方向及び積層方向の双方からの挿入が可能となるような形状に形成されている。また、第2凹部34bに対して、第1凸部33a及び第2凸部33bは、共に周方向及び積層方向の双方からの挿入が可能となるような形状に形成されている。
【0022】
したがって、これらの第1凹部34a、第2凹部34bと、第1凸部33a、第2凸部33bの各形状の関係により、これらを嵌め合わせる際には、図11(a)〜(d)に示すような組み合わせが生じる。すなわち、図11(a)に示すように第1凹部34aと第1凸部33aの組み合わせは、第1凹部34aに対して第1凸部33aの積層方向からの挿入は許容するが、周方向からの挿入は許容しない嵌合形態(以下、これを第1嵌合形態と称する)Xとなる。また、図11(b)〜(d)に示すように、第1凹部34aと第2凸部33b、第2凹部34bと第1凸部33a、第2凹部34bと第2凸部33bの各組み合わせは、何れも周方向及び積層方向の双方からの挿入を許容する嵌合形態(以下、これを第2嵌合形態と称する)Yとなる。
【0023】
そして、各磁極片3の突き合わした端面同士の嵌合が、鉄心素板の積層方向に沿って第1嵌合形態Xと第2嵌合形態Yとが交互に発生するように、上述したように、第1鉄心素板群3Aと第2鉄心素板群3Bとを交互に配置して磁極片3を構成している。第1鉄心素板群3Aの第1鉄心素板3aの枚数を例えば5枚、第2鉄心素板群3Bの第2鉄心素板3bの枚数を例えば15枚とした場合には、後述の図13(c)に示すように積層方向の上から順に1枚目〜5枚目では第1嵌合形態Xが生じ、6枚目〜20枚目では第2嵌合形態Yが生じ、21枚目〜25枚目では第1嵌合形態Xが生じ、26枚目〜40枚目では第2嵌合形態Yが生じるといった具合になる。なお、本例では、第1嵌合形態Xが生じる第1鉄心素板群3Aの積層枚数を5枚、第2嵌合形態Yが生じる第2鉄心素板群3Bの積層枚数を15枚としたが、単なる一例である。また、第1鉄心素板3a及び第2鉄心素板3bの両端面において図2の右側を凹部、左側を凸部としたが逆としてもよい。
【0024】
図12は、固定子の組み立てを説明するための工程図である。図12では、渡り線の配線をわかりやすくするため、渡り線の一部(横方向に延びている部分)を黒く塗りつぶしている。図13は、隣接する磁極片3の接続状態を詳細に説明するための部分拡大図であり、隣接する2つの磁極片3の組み立てについて示している。図13の(a)〜(c)は順に、図12の(a2)、(b2)、(c)に示す配置状態における、隣接する2つの磁極片の位置関係を示した図である。なお、図13において斜線で示した部分は、第1嵌合形態Xが生じる部分を示している。以下、図12及び図13に基づいて、固定子1の組み立てについて詳細に説明する。
【0025】
まず、図12(a1)に示すように3個1組で連続巻された連結体2(図6参照)を3組、周方向に沿って順次40度ずつずらして環状に配置できる組立設備(図示せず)にセットする(第1工程)。組立設備(図示せず)は、各磁極片3の設置面の高さを異ならせて配置可能となっており、組立設備(図示せず)にセットした状態の各磁極片3の位置関係を図12(a2)に示している。なお、図12(a2)には、各磁極片3の高さ方向の位置関係及び組立設備にセットされた状態における渡り線41の結線状態をわかりやすくするため、各磁極片3を直線状に並べて示している。また、図12(a2)では、磁極片3のU、V、Wの各相の配置を図4で示した結線図と同様の配置としている。
【0026】
図12(a2)に示すように、U1の磁極片3の設置位置を基準(以下、基準設置面)にするとV1の磁極片3がU1の磁極片3よりも1段上方にずらした位置に、W1の磁極片3がV1の磁極片3よりも更に1段上方にずらした位置にそれぞれ配置されるようになっている。なお、U2以降の磁極片3はU1、V1、W1と同様の配置が繰り返されるようになっている。
【0027】
ここでいう1段とは、隣接する磁極片3同士を基準設置面に水平に配置した状態から、図13(a)に示すように、一方の磁極片3(ここではV1、V2、V3)が他方の磁極片3(ここではU1、U2、U3)に、積層方向全体において嵌合形態Yが得られる位置(つまり周方向に挿入できる位置)まで上方にずらしたことを表している。なお、図13(a)において斜線で示した部分は、周方向の挿入を受け入れず積層方向の挿入のみを受け入れる凹凸部分で、この1段の設定は、言い方を変えれば、周方向に挿入できない状態を避けることが可能であればよい。
【0028】
つまり、隣接する磁極片3同士において、第1鉄心素板群3A部分同士が同じ高さ位置とならないように一方を上方にずらせばよく、具体的には第1鉄心素板群3Aの第1鉄心素板3aが5枚、第2鉄心素板群3Bの第2鉄心素板3bが15枚の場合には、第1鉄心素板3aの5枚分の厚み〜15枚分の厚みの範囲を1段とすればよい。逆に5枚以下の例えば3枚分の厚みを1段とすると、隣接する磁極片3同士で第1鉄心素板群3A部分の2枚分が嵌合形態Yが得られない。また、15枚を超えて例えば16枚分の厚みを1段とすると、第1鉄心素板群3A部分の1枚分が嵌合形態Yを得られないことになる。
【0029】
そして、W1、W2、W3の磁極片3はU1、U2、U3の磁極片3から2段上方にずらして配置されている。よって、図12(a2)の配置状態では、隣接する磁極片3同士が、互いに積層方向全体に渡って周方向から挿入可能な状態にある。
【0030】
各磁極片3に嵌着されている絶縁用ボビン7には、上記したように巻線端末部を収納するための巻線収納溝76が積層方向にここでは5段形成されている。この段数は単なる一例であるが、小型化の観点から必要最低段とすることが望ましい。この巻線収納溝76の溝ピッチh(図10参照)は、上記各磁極片3を1段上方にずらした量と同じ間隔となっている。
【0031】
以上のようにして組立設備に各連結体2を設置する第1工程終了後、各連結体2のそれぞれの渡り線41を絶縁用ボビン7の巻線収納溝76に収納する渡り線処理工程を行う。以下、図12(a2)を参照して渡り線処理工程について説明する。なお、以下の説明では、絶縁用ボビン7において巻線引き出し溝73にて分割された3箇所の巻線収納溝76を、右端、中央、左端として区別し、積層方向の各巻線収納溝76を上から順に1段目、2段目、3段目・・・として区別する。
【0032】
U1の磁極片3の渡り線(U1から出てU2に向かう渡り線)41はU1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の右端1段目の巻線収納溝76を通り、V1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から2段目の巻線収納溝76を通り、W1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から3段目の巻線収納溝76を通り、U2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の左端1段目の巻線収納溝76を通る。
【0033】
次にV1の磁極片3の渡り線41はV1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の右端3段目の巻線収納溝76を通り、W1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から4段目の巻線収納溝76を通り、U2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から2段目の巻線収納溝76を通り、V2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の左端3段目の巻線収納溝76を通る。
【0034】
次にW1の磁極片3の渡り線41はW1の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の右端5段目の巻線収納溝76を通り、U2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から3段目の巻線収納溝76を通り、V2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の上から4段目の巻線収納溝76を通り、W2の磁極片3に嵌着された絶縁用ボビン7の左端5段目の巻線収納溝76を通る。
【0035】
U2、V2、W2についてもU1、V1、W1と同じように渡り線処理を実施する。全ての渡り線41の収納を完成した状態において、各磁極片3それぞれの絶縁用ボビン7における各相の渡り線41は、図12(c)のA−A断面を示している図12(d)に示すように、各相の渡り線41が互いに異なる段で巻線収納溝76に収納されている。なお、ここではW1の断面を示しているが、他の箇所においても同様に、W1の場合とは収納段の位置は異なるものの、各相の渡り線41が互いに異なる段の巻線収納溝76に収納されている。
【0036】
ここで、渡り線処理の特徴について整理すると、隣接する磁極片3の絶縁用ボビン7同士において渡り線41を、互いに異なる段位置となるように巻線収納溝76に収納すればよい。また、各絶縁用ボビン7のそれぞれにおいて、各相の渡り線41が同様の順で配置される。ここでは、図12(a2)において上から順にU相、V相、W相の順でそれぞれの渡り線41が巻線収納溝76に収納されている。つまり、U1の絶縁用ボビン7、V1の絶縁用ボビン7、W1の絶縁用ボビン7のそれぞれにおいて、上からU相、V相、W相の順で渡り線41が収納されている。これにより、各相の渡り線41が、隣接する磁極片同士で交差しないようになっている。なお、U2、V2、W3・・・ においても同様である。
【0037】
ここで、具体的にU1とU2とを繋ぐ渡り線41aについて見てみると、渡り線41aは、周方向(図12の左右方向)に段差の無い状態で配置(渡り線41aが収納されるU1、V1、W1及びU2の各磁極片3の各収納ボビン7のそれぞれに対して基準設置面から同じ高さ位置に配置)されており、U1、V1、W1、U2のそれぞれの絶縁用ボビン7の巻線収納溝76にたるみが無いように収納されている。U2とU3とを繋ぐ渡り線41bや他の渡り線41についても同様である。図12(a2)に示す状態において各磁極片3は段差を持って配置されているため、上記のように渡り線41を同じ高さで引き回すことで、隣接する磁極片3同士の渡り線41の収納段位置を異ならせた配置とすることができる。
【0038】
以上の渡り線処理を終了後、環状に配置した磁極片3を、図12(a1)の矢印で示すように円の中心方向に同時に移動させる(以下、第2工程という)。この移動により、隣接する磁極片3同士の間隔が狭くなっていく。
【0039】
図12(a2)及び図13(a)に示す状態では、各磁極片3の一方の端面に設けられている各凹部34に対して、他方の端面に設けられている各凸部33を周方向から挿入することが可能な状態にある。すなわち、図13(a1)に示すように、第2凹部34bと第1凸部33aとが対向している状態の部分と、図13(a2)に示すように、第1凹部34aと第2凸部33bとが対向している状態の部分と、図13(a3)に示すように、第2凹部34bと第2凸部33bとが対向している状態の部分がある。そして、この3つの状態部分の組が積層方向に並んでおり、積層方向全体に渡って図11(b)〜(d)に示した第2嵌合形態Yを得られる状態にある。このため、図12(a1)の矢印で示すように円の中心方向に移動させることにより、隣接する磁極片3同士が嵌合する。
【0040】
次に、段差を持って配置されている磁極片3を図12(c)及び図13(c)に示すように積層方向に圧入する(以下、第3工程という)。ここでは、U1の磁極片3の位置を基準に、U1に対して段差を持って配置されているV1、W1、V2、W2、V3、W3を積層方向に圧入する。この圧入作業によって、図13(c)に示すように、隣接する磁極片3同士が第1嵌合形態Xと第2嵌合形態Yで嵌合し、磁極片3の突き合わせ端面同士が互いに一体的に結合される。具体的には、図13(c1)に示すように第1凹部34aに対して第1凸部33aが嵌合し、図13(c2)に示すように第2凹部34bに対して第2凸部33bが嵌合する。
【0041】
ところで、図12(b2)には詳しく図示されていないが、図12(b2)の点線で囲った部分は、第1工程において隣接する磁極片3同士の間の距離が短くなったことにより図14(a)に示すように渡り線41がたるんだ状態となっている。なお、この点線で囲った部分だけに限らず、他の隣接する磁極片3同士の間にも同様に渡り線41のたるみが生じている。しかし、隣接する磁極片3同士では互いに渡り線41を収納した巻線収納溝76の段位置が異なるため、第3工程で磁極片3を積層方向に移動させて各磁極片3同士の設置面の位置を揃えることにより、その移動量によってたるみを吸収できる。よって、たるみが残るのを防止することができ、各相の渡り線41を巻線収納溝76に収納した状態とすることができる。
【0042】
図14(b1)〜(b3)は、比較例として同一相の渡り線41Aを隣接する磁極片同士で同じ段位置に配置した従来例を示しており、図14(b2)は第2工程後、図14(b3)は第3工程後を示している。このように、同一相の渡り線41Aを同じ段位置に配置すると、たるみが残ってしまう。
【0043】
このように、実施の形態1の回転電機用固定子1では、渡り線41を巻線収納溝76に収納する段階において、各相毎の渡り線41を、各相毎に別々に且つ隣接する磁極片3の絶縁用ボビン7同士において互いに異なる段位置に収納するようにしたので、第2工程で生じたたるみを、第3工程における積層方向の移動で吸収することができ、絶縁用ボビン7から渡り線41がはみ出ることを防止できる。よって、はみ出し防止用の紐や結束バンドが不要で、低コスト且つ小型化が可能である。また、絶縁用ボビン7に、紐や結束バンドを取り付けるための穴も不要となり、更にコスト低減を図ることが可能となる。
【0044】
また、渡り線処理にあたっては、各相それぞれの渡り線41を周方向に段差の無い状態で配置しているため、図12(a2)の配置状態において、隣接する磁極片3同士への渡り線の渡し方として最短距離の配置とすることができ、無駄にたるみが生じることを防止できる。
【0045】
なお、上記の渡り線41の配置は一例であり、これに限定するものではない。渡り線41の他の配置例を次の実施の形態2で説明する。
【0046】
実施の形態2.
図15は、本発明の実施の形態2に係る回転電機において、固定子の組み立てを説明するための工程図である。図15では、各磁極片3を直線状に並べて渡り線41の結線状態を模式的に表している。なお、図15(a)は実施の形態1と同様の第1工程後、実施の形態2の特有の以下の渡り線処理を行い、その後、第2工程(円の中心方向への移動工程)を行った後の状態を示している。図15(b)は実施の形態1と同様の第3工程(積層方向への移動工程)後の状態を示している。また、図15(c)は図15(b)のB−B断面を示している。
【0047】
実施の形態2では、実施の形態1で説明した事項において渡り線41の配置を変更しており、磁極片3の積層方向の前後から嵌着する2つの絶縁用ボビン7の両方に複数段の巻線収納溝76を形成し、2つの絶縁用ボビン7に渡り線41を分けて配置していることを特徴としている。この複数段の巻線収納溝76は実施の形態1と同様、各磁極片3を1段上方にずらした量と同じ間隔の溝ピッチとなっている。
【0048】
また、実施の形態2で嵌着した紙面上側の絶縁用ボビン7Aに形成されている巻線収納溝76は、ここでは4段であり、紙面下側の絶縁用ボビン7Bに形成されている巻線収納溝76は、ここでは3段である。これらの段数は単なる一例であるが、小型化の観点から必要最低段とすることが望ましい。なお、以下の説明では、絶縁用ボビン7において巻線引き出し溝73にて分割された3箇所の巻線収納溝76を、右端、中央、左端として区別し、積層方向の各巻線収納溝76を上から順に1段目、2段目、3段目・・・として区別する。
【0049】
図15(a)に示すように、U1の磁極片3の渡り線41aはU1の磁極片3に嵌着された下側絶縁用ボビン7Bの右端1段目の巻線収納溝76を通り、V1の磁極片3に嵌着された下側絶縁用ボビン7Bの上から2段目の巻線収納溝76を通り、W1の磁極片3に嵌着された下側絶縁用ボビン7Bの上から3段目の巻線収納溝76を通り、U2の磁極片3に嵌着された下側絶縁用ボビン7Bの左端1段目の巻線収納溝76を通る。U2及びU3の渡り線41b(U3の渡り線41bは図示せず)も同じように処理する。また、V1、W1、V2、W2の渡り線41の配置は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0050】
このように本実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の作用効果が得られると共に、各相の渡り線41を上側絶縁用ボビン7Aと下側絶縁用ボビン7Bとに分けて配置するようにしたので、渡り線41が磁極片3間において接触する可能性が低下し、絶縁信頼性が高い回転電機用固定子1を製作することができる。なお、渡り線41の配置は実施の形態2ではU相を下側絶縁用ボビン7B側の配置としているが、これに限定するものではなく、V相又はW相としてもよい。
【0051】
なお、実施の形態1、2では、固定子1を構成する磁極片3の個数を9個としているが、これに限定するものではなく、他の個数としてもよい。
【0052】
また、実施の形態1、2において、U、V、Wの各相の磁極片3の配置は、図12に示したようにU、V、Wの順に磁極片3を一個ずつ配置することを繰り返す配置に限定するものではない。例えば、図16に示すように10極12ティースの構成の場合において、隣接する2個の磁極片3で構成されたユニットコア30を、2個1組として連続して巻線4を施して連結体を構成し、その連結体を3相交流のそれぞれの相U、V、Wのそれぞれに対応させて3組備えた構成の場合、以下のようにしてもよい。すなわち、図16に示すようにU相のユニットコア30、V相のユニットコア30、W相のユニットコア30の順で配置し、その配置を繰り返す配置とする。
【0053】
また、実施の形態1、2における渡り線41のたるみ防止のための特徴的な技術内容を、図16に示す構成に適用する場合には、相が異なる隣接のユニットコア30同士の間で適用すればよい。なお、ユニットコア30を構成する2個の磁極片3間では巻線4がたるみなく連続して巻回されているため、問題ない。
【符号の説明】
【0054】
1 固定子(回転電機用固定子)、2 連結体、3 磁極片、3A 第1鉄心素板群、3B 第2鉄心素板群、3a 第1鉄心素板、3b 第2鉄心素板、4 導体(巻線)、7 絶縁用ボビン、7A 上側絶縁用ボビン、7B 下側絶縁用ボビン、30 ユニットコア、31 バックヨーク部、32 ティース部、33 凸部、33a 第1凸部、33b 第2凸部、34 凹部、34a 第1凹部、34b 第2凹部、41 渡り線、41a 渡り線、41b 渡り線、71 ティース嵌合部、72 バックヨーク嵌合部、73 巻線引き出し溝、74 巻線整列溝、75 巻始め線逃がし溝、76 巻線収納溝。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心素板を積層した積層鉄心からなる複数の磁極片を、所定の間隔で積層方向に段差を持って円環状に配置する第1工程と、
前記磁極片を円の中心方向に移動させ、隣接する前記磁極片同士を周方向に嵌合させる第2工程と、
段差を持って配置された前記磁極片を積層方向に圧入する第3工程とを有し、
前記複数の磁極片のそれぞれには、絶縁用ボビンを介して巻線が巻回されており、前記絶縁用ボビンは、周方向に延びる平行な複数段の巻線収納溝を外周面に有しており、
前記第1工程と前記第2工程との間に、各相の渡り線を、各相毎に別々に且つ隣接する前記磁極片の前記絶縁用ボビン同士において互いに異なる段位置となるように前記複数段の巻線収納溝に収納する渡り線処理工程を有することを特徴とする回転電機用固定子の製造方法。
【請求項2】
前記渡り線処理工程では、前記第1工程後の複数の前記磁極片が段差を持って配置されている状態において、前記各相それぞれの渡り線を、周方向に段差の無い状態で前記巻線収納溝に収納することを特徴とする請求項1記載の回転電機用固定子の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁用ボビンは、前記磁極片に積層方向の前後から装着される一対のボビンで構成され、前記各相それぞれの渡り線は、前記一対のボビンの一方と他方に分けて収納されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の回転電機用固定子の製造方法。
【請求項4】
前記磁極片の個数を3の倍数とし、且つ複数個の前記磁極片を1組として連続巻が施されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の回転電機用固定子の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁用ボビンの前記巻線収納溝の各段のピッチは、前記第1工程における前記段差と同じピッチであることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の回転電機用固定子の製造方法。
【請求項6】
鉄心素板を積層した積層鉄心からなる複数の磁極片と、
前記磁極片それぞれに装着された絶縁用ボビンと、
前記絶縁用ボビンを介して前記磁極片に巻回された巻線とを備え、
前記複数の磁極片は円環状に配置されており、前記絶縁用ボビンは、周方向に延びる平行な複数段の巻線収納溝を外周面に有し、前記複数段の巻線収納溝に各相毎に渡り線が収納され、且つ隣接する磁極片の絶縁用ボビン同士で各相それぞれの渡り線が互いに異なる段位置の前記巻線収納溝に収納されていることを特徴とする回転電機用固定子。
【請求項7】
前記絶縁用ボビンは、前記磁極片に積層方向の前後から装着される一対のボビンで構成され、前記各相それぞれの渡り線は、前記一対のボビンの一方と他方に分けて収納されていることを特徴とする請求項6記載の回転電機用固定子。
【請求項8】
前記磁極片の個数を3の倍数とし、且つ複数個の前記磁極片を1組として連続巻が施されていることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の回転電機用固定子。
【請求項1】
鉄心素板を積層した積層鉄心からなる複数の磁極片を、所定の間隔で積層方向に段差を持って円環状に配置する第1工程と、
前記磁極片を円の中心方向に移動させ、隣接する前記磁極片同士を周方向に嵌合させる第2工程と、
段差を持って配置された前記磁極片を積層方向に圧入する第3工程とを有し、
前記複数の磁極片のそれぞれには、絶縁用ボビンを介して巻線が巻回されており、前記絶縁用ボビンは、周方向に延びる平行な複数段の巻線収納溝を外周面に有しており、
前記第1工程と前記第2工程との間に、各相の渡り線を、各相毎に別々に且つ隣接する前記磁極片の前記絶縁用ボビン同士において互いに異なる段位置となるように前記複数段の巻線収納溝に収納する渡り線処理工程を有することを特徴とする回転電機用固定子の製造方法。
【請求項2】
前記渡り線処理工程では、前記第1工程後の複数の前記磁極片が段差を持って配置されている状態において、前記各相それぞれの渡り線を、周方向に段差の無い状態で前記巻線収納溝に収納することを特徴とする請求項1記載の回転電機用固定子の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁用ボビンは、前記磁極片に積層方向の前後から装着される一対のボビンで構成され、前記各相それぞれの渡り線は、前記一対のボビンの一方と他方に分けて収納されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の回転電機用固定子の製造方法。
【請求項4】
前記磁極片の個数を3の倍数とし、且つ複数個の前記磁極片を1組として連続巻が施されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の回転電機用固定子の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁用ボビンの前記巻線収納溝の各段のピッチは、前記第1工程における前記段差と同じピッチであることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の回転電機用固定子の製造方法。
【請求項6】
鉄心素板を積層した積層鉄心からなる複数の磁極片と、
前記磁極片それぞれに装着された絶縁用ボビンと、
前記絶縁用ボビンを介して前記磁極片に巻回された巻線とを備え、
前記複数の磁極片は円環状に配置されており、前記絶縁用ボビンは、周方向に延びる平行な複数段の巻線収納溝を外周面に有し、前記複数段の巻線収納溝に各相毎に渡り線が収納され、且つ隣接する磁極片の絶縁用ボビン同士で各相それぞれの渡り線が互いに異なる段位置の前記巻線収納溝に収納されていることを特徴とする回転電機用固定子。
【請求項7】
前記絶縁用ボビンは、前記磁極片に積層方向の前後から装着される一対のボビンで構成され、前記各相それぞれの渡り線は、前記一対のボビンの一方と他方に分けて収納されていることを特徴とする請求項6記載の回転電機用固定子。
【請求項8】
前記磁極片の個数を3の倍数とし、且つ複数個の前記磁極片を1組として連続巻が施されていることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の回転電機用固定子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−21842(P2013−21842A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154343(P2011−154343)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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