説明

回転電気機械用のレーベルバー

【課題】スロット部とヨーク部の移行領域における過度の加熱および放電の発生を確実に阻止するレーベルバーを提供する。
【解決手段】スロット部とヨーク部の移行領域における過度の加熱および放電を阻止するために、この移行領域内に容量結合を低減する手段が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電気機械用のレーベルバーに関する。
【背景技術】
【0002】
回転電気機械、殊にターボジェネレータの固定子巻線の電気的な導体として、刊行物EP-A1-0 778 648から公知であるような、いわゆるレーベルバー(Roebel bar)が使用される。その種のレーベルバーにおいては、固定子金属薄板と直接接触している直線状のスロット部ないし溝部と、固定子から突出しており、且つ各バーを別のバーに接続して1つの巻線を形成する湾曲したアーチ部ないしヨーク部とが区別される(上記の刊行物の図1を参照されたい)。固定子金属薄板(スロット部)との短絡または別のレーベルバー(ヨーク部)との短絡を回避するために、レーベルバーには絶縁部が設けられている。
【0003】
コロナシールドとして、この絶縁部の表面は通常の場合、(直線状の)スロット部内に導電層を有しており(面伝導度は約1000Ohm.cm/cm)、且つ(湾曲した)ヨーク部内に半導体層を有しており、この半導体層は有利にはフィールドに依存する伝導度を有する(面伝導度は10〜1012Ohm.cm/cm)。相応に、これら2つのコロナシールド層をスロットコロナシールド(SCS)およびヨークコロナシールド(YCS)と称する。
【0004】
コロナシールド系SCS/YCSの最も危険と思われる点はSCSとYCSの移行部である。SCSの抵抗が低いために、コロナシールドはその端部までアース電位である。これに対して高抵抗のYCSでは絶縁部を介する容量結合が重要性を増す。これにより、SCS端部からの距離が増すに連れ、レーベルバーの表面電位は電気的な導体の電位(UL)を有するようになる。したがって表面には、SCS/YCS移行部の領域において殊に高い調整電流が流れる。
【0005】
このことはR(YCS)=∞の場合には簡単に説明できる。この場合、ヨーク部における個所xでの表面電位U(x)は表面容量(Co)と絶縁部の容量(Ciso)の比によって表されている。つまり、
U(x)=UL*f(Co,Ciso)=UL*Ciso/(Co+Ciso);
ここでxは、x=0であるSCSの端部からの距離を表す。Coは1/xに比例し、他方Cisoは通常のプレートコンデンサの場合のようにε/d(d=絶縁部の厚さ)に比例する。図1および図2は、xの任意の単位でのU(x)/ULの経過を示し、Co(x=1)/Ciso=0.1(「通常の結合」、曲線b)ないし0.2(「強力な結合」、曲線a)が選択されている。2つの図はx軸の異なるスケーリングによって区別される。
【0006】
YCSの抵抗がフィールドに依存する場合には状況は類似しているが、説明はより難しくなる(J. Thienpont, T.H. Sie "Suppression of surface discharges in the stator windiSCS of high voltage machines" in "Conference Internationale des grands resaux electriques a haute tension", Paris, 1964を参照されたい。)
電界E=dU/dxはx=0において最大である。しかしながらこのことは、その電界では変位電流jの密度が高まり、それとともにE*jに比例する誘電性の熱損失が高まることも意味する。これはSCSの端部における温度上昇の原因となる。さらには電界強度自体も問題となる。この電界強度は、表面放電を生じさせるまで高まる可能性がある。確かに、コロナシールドはこれに対する助けとなるが、任意の高さの電圧および容量結合に対しては助けとならない。温度上昇および放電は殊に以下の条件で生じる可能性がある:
・20kVを上回るUnに関して2Unを上回るUtestでのテスト。
・誘電性結合が高められている(すなわちCisoが比較的高い)絶縁部を用いるテスト。その種の絶縁部は、例えばE≧3.5kVを有する絶縁部(標準的にはEn=2.5kV/mm〜3.0kV/mm)が達成されるべき場合に存在する。Un=const.に関して、上昇するEnとは絶縁部の厚さの25%〜40%の低減およびCisoの相応の上昇を意味する。さらにはεが約50%上昇する。何故ならば、ε=9の雲母の成分が標準の絶縁部における成分よりも高いからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】EP-A1-0 778 648
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、スロット部とヨーク部の移行領域における過度の加熱および放電の発生を確実に阻止するレーベルバーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、スロット部とヨーク部の移行領域における過度の加熱および放電を阻止するために、この移行領域内に容量結合を低減する手段が設けられていることによって解決される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の1つの実施形態によれば、スロット部とヨーク部の移行領域における容量結合を低減するための手段は、移行領域において局所的に厚くされた絶縁部を有する。殊に、局所的に厚くされた絶縁部は、絶縁部の上方に被着される付加絶縁部によって達成される。付加絶縁部は使用される材料に関して絶縁部と異なっていてもよく、例えば付加絶縁部は絶縁部よりも僅かに低い絶縁品質を有する。
【0011】
本発明の別の実施形態によれば、絶縁部は樹脂の含浸されたガラス/雲母バンドを有し、また付加絶縁部は樹脂の含浸されたガラスバンドおよび/またはガラス織布および/またはガラス不織布から構成されている。
【0012】
絶縁部が樹脂の含浸されたガラス/雲母バンドを有し、また付加絶縁部が、ポリマーファイバからなる、樹脂の含浸されたバンドおよび/または織布および/または不織布から構成されている場合には、さらに好適な結果が得られる。
【0013】
バンドおよび/または織布および/または不織布の含浸に関して殊に低い誘電定数を有する樹脂、殊にシアネートエステルが使用される。
【0014】
しかしながら付加絶縁部を、2〜4の相対誘電定数を有する低極性ポリマー、殊にPTFE,PP,カプトン(R)、マイラー(R)およびナイロン(R)から構成することも考えられる。
【0015】
殊にそのような場合には、付加絶縁部の材料を収縮適合(Aufschrumpfen)、吹き付け、浸漬、接着、加硫処理または鋳込みによって適用ないし被着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、ヨークコロナシールド(YCS)の抵抗が無限大である場合に関して、「通常の」結合または「強力な」結合の際の、スロットコロナシールド(SCS)とヨークコロナシールド(YCS)との境界部までの距離xと、レーベルバーのヨーク部内での導体電位と表面電位の比率との関係を示す。
【図2】図1の曲線の初期部分を拡張したx軸で表したものである。
【図3】本発明の実施例によるレーベルバーのSCS/YCS移行領域の縦断面を示す。
【図4】SCSとYCSの境界部における、図3のレーベルバーの横断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図3および図4は、(直線状の)スロット部NTと(湾曲した)ヨーク部BTの移行領域における、本発明の実施例によるレーベルバー10の縦断面と横断面を示す。この実施例のレーベルバー10は、ほぼ矩形の横断面を備えた中央のCu導体11を有し、このCu導体11は絶縁部12によって包囲されており、これは例えば樹脂の含浸されたガラス/雲母バンドから構成されている。スロット部NTにおいて絶縁部12の表面はスロットコロナシールド13としての導電層によって覆われている。ヨーク部BTにおいて絶縁部12の表面はヨークコロナシールド14としての半導体層によって覆われている。移行領域においてヨークコロナシールド14とスロットコロナシールド13が重畳しており、1つの重畳領域16が形成される。
【0018】
SCSとYCSの重畳領域16ないし境界部17の下方において、またそれらの両側において、スロット部NTおよびヨーク部BTに突入して付加絶縁部15が配置されており、この付加絶縁部15は絶縁部12を外側から包囲し、且つ端部に向かって厚みが減少するように延在している。
【0019】
付加絶縁部15の使用は、YCS/SCSの領域における容量結合を低減するために有利な措置である。
【0020】
付加絶縁部15はYCSとSCSの移行領域にける絶縁部12の局所的な増厚部を形成する。この増厚をレーベルバーの製造プロセスにおいて実施することができるか、事後的に行うことができる。この付加絶縁部15の品質はスロット部NTにおける絶縁部の品質と必ずしも同じである必要はない。何故ならば、この付加絶縁部15は既に単独で、絶縁破壊に対する十分な保護を保証することができるからである。
【0021】
したがって有利には、付加絶縁部15ないし増厚部が樹脂の含浸されたガラス/雲母バンドから構成されずに、樹脂の含浸されたガラスバンド、ガラス織布またはガラス不織布から構成され、その基本材料としてはEガラスではなく、石英ガラスが使用される。石英ガラスはε=3.9の誘電率を有し、これはEガラスの誘電率(ε=6.2)または雲母(ε=7〜10)の誘電率よりも遙かに低い。これによって、雲母絶縁部とガラス絶縁部から成る系の総誘電率εtotは低減される。
【0022】
石英ガラスの代わりに、使用されるバンドまたは織布または不織布がポリマーファイバ、例えばPET,PEN,アラミド,ポリアミドから構成される場合にはεtotを有利に低減することができる。これらの材料はε=3〜4を有する。
【0023】
付加絶縁部15のバンドまたは織布または不織布の含浸について、通常のエポキシ樹脂またはポリエステル樹脂の代わりに、殊に低いεを有する樹脂、例えばε=3を有するシアネートエステルが使用される場合にはさらに低いεtotが得られる。
【0024】
付加絶縁部15が、巻き付けられて含浸されたバンドまたは織布または不織布から構成される代わりに、完全に、もしくは大部分がε=2〜4を有する低極性ポリマー、例えばPTFE,PP(ε=2〜2.2),カプトン(R)、マイラー(R)およびナイロン(R)(ε=約3)から構成される場合にはさらなる低減が達成される。材料の選択はこれらの例に制限されるものではない。付加絶縁部15を形成するために、巻き付けおよび含浸の代わりに、部分的に別の方法、例えば収縮適合、吹き付け、浸漬、接着、加硫処理または鋳込みなどによってこの種の材料を適用することができる。
【0025】
これによって達成可能な改善の例を以下に示す:
本来の絶縁部の容量をεiso=6,diso=4mmによって表すと、付加絶縁層の容量は相応の値εzu=3,dzu=4mmを有する。
【0026】
この場合には以下のことが当てはまる:
iso〜6/4=3/2 Czu〜3/4 1/Ctot〜2/3+4/3=2 → Ctot〜1/2
このことは容量結合がファクタ3低減されたことを意味する。
【符号の説明】
【0027】
10 レーベルバー、 11 Cu導体、 12 絶縁部、 13 スロットコロナシールド、 14 ヨークコロナシールド、 15 付加絶縁部、 16 重畳領域、 17 スロット部とヨーク部の境界、 U(x) 表面電位、 UL 導体電位、 Co 表面容量、 Ciso 絶縁部の容量、 NT スロット部、 BT ヨーク部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電気機械用のレーベルバー(10)、例えばターボジェネレータであって、
回転電気機械の固定子金属薄板においてスロットに嵌め込まれる直線状のスロット部(NT)と、固定子から突出しており、各バーを別のバーに接続して1つの巻線を形成し、且つ前記スロット部(NT)と接続されている湾曲したヨーク部(BT)とを有し、
絶縁部(12)によって包囲されているCu導体(11)を有し、前記絶縁部(12)の表面は前記スロット部(NT)内に導電層の形態のスロットコロナシールド(13)を有し、且つ、前記ヨーク部(BT)内に半導体層の形態のヨークコロナシールド(14)を有する形態のレーベルバーにおいて、
前記スロット部(NT)と前記ヨーク部(BT)の移行領域における過度の加熱および放電を阻止するために、該移行領域内に容量結合を低減する手段(15)が設けられていることを特徴とする、レーベルバー。
【請求項2】
前記スロット部(NT)と前記ヨーク部(BT)の前記移行領域における容量結合を低減する前記手段(15)は、前記移行領域において局所的に厚くされた絶縁部を有する、請求項1記載のレーベルバー。
【請求項3】
前記局所的に厚くされた絶縁部は、前記絶縁部(12)の上方に被着される付加絶縁部(15)によって達成される、請求項2記載のレーベルバー。
【請求項4】
前記付加絶縁部(15)は使用される材料に関して前記絶縁部(12)とは異なり、例えば異なる絶縁品質を有する、請求項3記載のレーベルバー。
【請求項5】
前記絶縁部(12)は樹脂の含浸されたガラス/雲母バンドを有し、前記付加絶縁部(15)は樹脂の含浸された石英ガラスからなるバンドおよび/または織布および/または不織布から構成されている、請求項4記載のレーベルバー。
【請求項6】
前記絶縁部(12)は樹脂の含浸されたガラス/雲母バンドを有し、前記付加絶縁部(15)は樹脂の含浸されたポリマーファイバからなるバンドおよび/または織布および/または不織布から構成されている、請求項4記載のレーベルバー。
【請求項7】
前記のバンドおよび/または織布および/または不織布の含浸に関して殊に低い誘電定数を有する樹脂、例えばシアネートエステルが使用される、請求項5または6記載のレーベルバー。
【請求項8】
前記付加絶縁部(15)は、2〜4の相対誘電定数を有する低極性ポリマー、例えばPTFE,PP,カプトン(R)、マイラー(R)およびナイロン(R)から構成されている、請求項4記載のレーベルバー。
【請求項9】
前記付加絶縁部(15)の材料は収縮適合、吹き付け、浸漬、接着、加硫処理または鋳込みによって被着される、請求項8記載のレーベルバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−88295(P2010−88295A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224401(P2009−224401)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】