説明

回転飛翔体の回転角計測制御方法及び回転飛翔体

【課題】本発明は、回転飛翔する飛翔体内又は外の磁気センサから地磁気を界磁として発生する電圧波形を用いて基準方位信号を得ることを目的とする。
【解決手段】本発明による回転飛翔体の回転角計測制御方法は、磁気センサ(M)を設けた飛翔体(1)を発射し、中心軸を回転中心として回転する飛翔体(1)内又は外の磁気センサ(M)から地磁気(B)を界磁として発生する電圧波形(V)から飛翔体(1)の空間における回転角度である基準方位信号を得る方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転飛翔体の回転角計測制御方法及び回転飛翔体に関し、特に、回転飛翔する飛翔体に設けた磁気センサから地磁気を界磁として発生する電圧波形から飛翔体の空間における回転角度、すなわち、基準方位信号を得るための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種の回転飛翔体の回転角計測装置及びその計測方法としては、例えば、特許文献1に示されているように、赤外線検出手段により回転飛翔体の周囲の放射エネルギを検出すると共に、この放射エネルギの回転角度に基づく検出値の相違から基準位置を算出し、この基準位置との比較から回転飛翔体の回転角を回転角演算手段で演算して回転飛翔体の回転角を計測する方法である。
【0003】
【特許文献1】特開2000−65565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回転飛翔体の回転角計測装置及びその計測方法は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、前述の特許文献1に開示された回転飛翔体の回転角計測方法の従来技術としては、回転飛翔体の中にジャイロを搭載する構成が提案されていた。
このジャイロによる計測システムは高発射G(10000Gに達する)に耐えなければならないし、且つ数千〜数万rpmに及ぶ砲弾のスピン回転内で挙動データを計測せねばならない。具体的には発射前の方位、位置データを基準に、その後の3次元の速度、加速度等の計測から砲弾の挙動を求めるシステムが組まれる。
Gに耐えることも非常に困難であるが、前記の高速回転内でジャイロシステムを有効に機能させることはさらに困難である。そこで、弾のスピン回転方向とは逆方向にそのジャイロシステムを弾内モータで回転させることにより弾のスピン回転を大幅に打ち消すことが考えられている。しかし、弾の回転速度そのものが未知数であり、また発射の都度異なり、飛翔中にも変化するため、モータへの回転速度指令値は推定値とならざるを得ず、結局回転を完全には打ち消すには至らず、かなりの回転系内での計測システムになることに変わりは無い。
このような初期値基準、耐高G対策、回転系内計測システムで砲弾の挙動を計測することは非常に複雑高価になりその実現性も困難であった。
【0005】
前述のジャイロを用いた場合の課題を解決するために提案されたのが、前記特許文献1に開示された赤外線検出手段を用いた方法であるが、この赤外線検出手段を用いた方法も天候の状態によってその検出精度が左右されることがあり、実戦上からは問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による回転飛翔体の回転角計測制御方法は、磁気センサを設けた飛翔体を発射し、中心軸を回転中心として回転する前記飛翔体の前記磁気センサから地磁気を界磁として発生する電圧波形から前記飛翔体の空間における回転角度、すなわち、基準方位信号を得る方法であり、また、前記飛翔体には飛翔状態を変化させるためのサイドスラスタが設けられ、前記基準方位信号を前記サイドスラスタの駆動用の基準信号とする方法であり、また、前記飛翔体は、誘導爆弾よりなる方法であり、また、本発明による回転飛翔体は、弾形状をなす飛翔体と、前記飛翔体に設けられた磁気センサ及び送信機とからなり、前記磁気センサから地磁気を界磁として発生する電圧波形を前記送信機から送信するようにした構成であり、また、前記飛翔体内には、モータにより自転自在なジャイロが設けられている構成であり、また、前記飛翔体には飛翔状態を変化させるためのサイドスラスタが設けられている構成であり、また、前記飛翔体は、誘導爆弾よりなる構成である。
【発明の効果】
【0007】
本発明による回転飛翔体の回転角計測制御方法及び回転飛翔体は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、飛翔体に磁気センサを取りつけ、地磁気を界磁として発生する電圧波形から飛翔体の空間における回転角度、すなわち、基準方位信号を常時連続して得ることができる。
また、センサが磁気センサであるため、飛翔体発射時のGの影響を受けることがない。
また、発射前の初期値設定が不要で、時間経過や高速回転動作による累積誤差を生じることがない。
また、磁気センサから発生する電圧波形は、測定用には十分に大きい電圧レベルであり、高精度の信号が得られる。
また、基準方位信号が空間で得られるため、搭載するジャイロの速度、加速度等の検出軸数を削減することができ、検出軸が少ない簡便で低価格のジャイロを用いれば済み、これと関連する制御回路を含めて小型軽量化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、回転飛翔する飛翔体に設けた磁気センサから地磁気を界磁として発生する電圧波形から飛翔体の空間における回転角度、すなわち、基準方位信号を得るようにした回転飛翔体の回転角計測制御方法及び回転飛翔体を提供することを目的とする。
【実施例】
【0009】
以下、図面と共に本発明による回転飛翔体の回転角計測制御方法及び回転飛翔体の好適な実施の形態について説明する。
図1において符号1で示されるものは、弾、砲弾(例えば、155mm砲)等からなり、図示しない砲から発射され回転しつつ空間を飛翔する飛翔体であり、この飛翔体1の弾外側付近に軸方向lに沿って磁気センサM(例えばホール素子)を設け、この磁気センサMの出力a1、a2が端子状に形成されている。この磁気センサMの最大感度入力磁場方向をHベクトルで示す。また、飛翔体1の外周には、ロケットモータ、推進手段等からなるサイドスラスタ10が輪状に設けられている。
【0010】
前記飛翔体1には信号処理部2及び送信機3が設けられ、前記磁気センサMから発生する後述の起電圧eベクトルからなる電圧波形Vは、前記信号処理部2および送信機3を経て地上の基地局(図示せず)に向けて送信されるように構成されている。
【0011】
前記電圧波形Vは、前記飛翔体1が発射後に、地磁気空間を回転しつつ飛翔することにより、磁気センサMが地磁気を界磁として回転することにより得られるものであり、この電圧波形Vから飛翔体1の空間における回転角度、すなわち、基準方位信号を得ることができる。尚、この基準方位信号を用いて前記サイドスラスタ10の駆動用の基準信号とすることができる。
【0012】
図2は、飛翔中の弾からなる飛翔体1を示しており、飛翔空間の地磁気Bベクトル[地磁気方向は、現在東京近辺では、真北に対し約7度西を指し(偏角すなわち、水平に対し約50度下を指す(伏角))、その大きさは0.4×10−4(テラス)でベクトル値である]に対し、飛翔体1はスピン軸Sで回転しつつ飛翔している。
【0013】
前述の状態で、図2は、飛翔体1の回転速度は毎秒n(t)回転、磁気センサMはBベクトルとスピン軸Sが作る平面を基準に角度θ(t)(角速度ω)だけ回転した瞬間を示している。
前記磁気センサMの感度方向を示すHベクトルは、スピン軸Sと直角方向であり、磁気センサMの速度ベクトルはVベクトルで示されている。
【0014】
前述の場合の起電圧eベクトルは、次の数1の(1)式の通りである。
【0015】
【数1】

【0016】
前記BベクトルとHベクトルの角度はBベクトルとSの角度であり、これをψとする。
また、コイルcの速度ベクトルであるVベクトルの大きさvは弾性である弾直径方向dと回転角速度ωから、次の数2の(2)式から(5)式の通りとなる。
【0017】
【数2】

【0018】
すなわち、図4で示されるように、振巾がAで角速度がωの正弦波状の出力からなる電圧波形Vを得ることができる。
【0019】
前記電圧eがe=Aとなる最大点は、前記磁気センサMがBベクトルとSが作る平面を通る時である。
また、前記電圧eがe=0となるのは、前記平面に垂線を立て、これをGベクトル方向とした時、Gベクトルとスピン軸Sが作る平面を磁気センサMが通過する瞬間である。
前述の関係は図4及び図5に示されるように、前記振巾Aは、地磁気Bと磁気センサの感度Hは一定であり、角度ψと周速vに左右される。
【0020】
従って、前記電圧eを観測することにより、高速回転飛翔中の飛翔体1の空間内における固定方位B又はGから正確な回転方位を得ることができる。
この回転速度信号を用い、図6で示されるように飛翔体1内に設けたジャイロ30を飛翔体1の回転方向と逆方向に回転させるようにモータ31の速度制御を行い、このジャイロ30のシステムに前述のBとSの平面信号をリアルタイムに基準信号として与えることにより、誤差の累積しない簡易な高精度計測システムを確立することができる。
すなわち、ジャイロ30を逆回転させることにより、ジャイロ30の自転と飛翔体1の回転とがキャンセルされ、ジャイロ30が空間上に停止した状態となる。従って、前記基準方位信号から検出した飛翔体1の回転速度を検出し、この回転速度に基づいてモータ31の回転制御をしている。
【0021】
さらに、前記電圧eから得られる固定方位信号を利用し、モータ31のロータ位相を固定するフェーズロックサーボ制御(周知のPLL制御)とすることができ、この場合はロータ位相をB方向に完全に固定でき、ロータに連結されたジャイロ30を物理的平面BとSに固定できる。
尚、この場合は、ジャイロ30の軸数の削減を含めてさらに安価なジャイロシステムが構成できる。
【0022】
また、前記電圧eは、前記振巾Aに影響され、これは地磁気方向Bに対する飛翔体1のスピン軸Sとの角度ψが左右される。すなわち、具体的には、ψ=90となる東西方向で最大、Bと並行する南北方向(伏角50度)では電圧eは検出できない。このことは発射角度を選択する必要がある。
【0023】
また、飛翔体1の発射をほぼ東西方向で行う場合、飛翔中のSの方向が上向きから下向きに変わった場合でも角度ψは変わらず、前述の(5)式の振巾Aから飛翔体1の回転速度をアナログ値として得ることができる。尚、前記飛翔体1は誘導爆弾とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、大型の弾に限らず、小型の弾に対しても適用可能である。また、回転弾に限ることなく、磁気センサによって方位を正確に絶えず大きい信号で検出することに応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による回転飛翔体の回転角計測制御方法に適用する飛翔体を示す構成図である。
【図2】図1の飛翔体の飛翔中の状態を示す説明図である。
【図3】図1の飛翔体の基準回転角の説明図である。
【図4】図1の磁気センサの回転角と電圧の関係を示す線図である。
【図5】図4の磁気センサの角度位置を示す説明図である。
【図6】図1の飛翔体の他の形態を示す構成図である。
【符号の説明】
【0026】
1 飛翔体
3 送信機
M 磁気センサ
B 地磁気
10 サイドスラスタ
30 ジャイロ
31 モータ
V 電圧波形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気センサ(M)を設けた飛翔体(1)を発射し、中心軸を回転中心として回転する前記飛翔体(1)の前記磁気センサ(M)から地磁気(B)を界磁として発生する電圧波形(V)から前記飛翔体(1)の空間における回転角度、すなわち、基準方位信号を得ることを特徴とする回転飛翔体の回転角計測制御方法。
【請求項2】
前記飛翔体(1)には飛翔状態を変化させるためのサイドスラスタ(10)が設けられ、前記基準方位信号を前記サイドスラスタ(10)の駆動用の基準信号とすることを特徴とする請求項1記載の回転飛翔体の回転角計測制御方法。
【請求項3】
前記飛翔体(1)は、誘導爆弾よりなることを特徴とする請求項1又は2記載の回転飛翔体の回転角計測制御方法。
【請求項4】
弾形状をなす飛翔体(1)と、前記飛翔体(1)に設けられた磁気センサ(M)及び送信機(3)とからなり、前記磁気センサ(M)から地磁気(B)を界磁として発生する電圧波形(V)を前記送信機(3)から送信するように構成したことを特徴とする回転飛翔体。
【請求項5】
前記飛翔体(1)内には、モータ(31)により自転自在なジャイロ(30)が設けられていることを特徴とする請求項4記載の回転飛翔体。
【請求項6】
前記飛翔体(1)には飛翔状態を変化させるためのサイドスラスタ(10)が設けられていることを特徴とする請求項4又は5記載の回転飛翔体。
【請求項7】
前記飛翔体(1)は、誘導爆弾よりなることを特徴とする請求項4ないし6の何れかに記載の回転飛翔体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−119018(P2006−119018A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308003(P2004−308003)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000203634)多摩川精機株式会社 (669)
【Fターム(参考)】