説明

因子IX用処方

【課題】因子IXの濃縮調製物を得るための新規組成物および方法、さらに貯蔵および投与に適した因子IXの処方の提供。
【解決手段】これらの組成物は、凍結または凍結乾燥され、因子IX、グリシンのごとき増量剤、および冷凍保護剤からなる。好ましい因子IX濃度範囲は約0.1ないし少なくとも20mg/mlである(約20ないし少なくとも4000U/mlに相当)。好ましい増量剤はグリシン、および/またはマグネシウム、カルシウムもしくは塩化物の塩を包含し、好ましくは、約0.5ないし300mMの濃度範囲である。適当な冷凍保護剤はマンニトールおよびスクロースのごときポリオールを包含し、好ましくは、約0.5ないし2%の濃度範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、因子IXからなる新規処方に関する。
【背景技術】
【0002】
血漿糖蛋白である因子IXを包含する血液凝固プロセスに関与する種々の因子が同定されている。因子IX欠乏は血友病の1のタイプ(B型)を特徴づける。伝統的には、この疾患の治療はヒト・血漿由来の因子IXの蛋白濃縮物の静脈輸液を用いる。血液濃縮物の輸液は、ウイルス性肝炎およびHIVのごとき種々の感染源、または血栓閉塞因子の伝達の危険性を包含している。組み換えDNA法により因子IXを製造する別の方法が特許文献1に記載されている。ヒト・因子IXをコードしているcDNAが単離され、特徴づけられ、発現ベクター中にクローン化されている。例えば、非特許文献1〜3参照。よって、組み換えDNA法の進歩により、因子IX蛋白を製造することが可能となった。
【0003】
貯蔵でき、蛋白の最終剤型のさらなる製造に適するバルク蛋白、例えば、因子IXの濃縮形態を得ることが望ましい。典型的には、蛋白精製プロセスは蛋白の濃縮を引き起こす。バルク蛋白としても知られるこの濃縮された蛋白は処方緩衝化剤中にあってもよい。次いで、典型的には約2ないし少なくとも20mg/mlの濃度のバルク蛋白を充填/仕上げ設備へと凍結輸送することができ、そこで適当な投与濃度に希釈され、投与用バイアルに入れられる。これらの希釈試料を、例えば、フリーズドライのごとく凍結乾燥することができる。凍結乾燥試料を長期貯蔵し、後ほど、患者に使用する直前に適当な投与用希釈剤を添加することにより復元してもよい。
【0004】
蛋白安定性は、特に、イオン強度、pH、温度、凍結/融解サイクルの繰り返し、および剪断力への曝露のごとき因子により影響されうる。変性および凝集(可溶性および不溶性凝集物双方の生成)を包含する物理的不安定性ならびに化学的不安定性、例えば、加水分解、脱アミノ化および酸化の結果(少しの例を挙げたにすぎない)として活性蛋白は消失しうる。蛋白薬剤の安定性の一般的総説としては、例えば、非特許文献4参照。
【0005】
蛋白不安定性の生じうる発生は広く認識されているが、特定の蛋白の特定の不安定性の問題を予想することは不可能である。これらの不安定性のいずれもが、より低い活性、増大した毒性および/または増大した免疫原性を有する蛋白、蛋白副産物、または誘導体の生成を引き起こす可能性がある。実際、蛋白沈殿は、血栓症、剤型および用量の不均一性、ならびに注射器の詰まりを引き起こす。さらに、因子IXに特異的な数種の翻訳後修飾(例えば、N−末端のあるグルタミン酸残基のガンマカルボキシル化および糖鎖付加)があり、それらは生物学的活性の維持において重要である可能性があり、貯蔵による変化に影響されうる。よって、いずれの蛋白の医薬処方の安全性および有効性も、その安定性に直接関係している。
【0006】
安定性の考慮のほかに、一般的には、種々の世界的な医薬の規制機関の是認を得ているかまたは得るであろう賦形剤を選択する。溶液は等張であり、生理学的に適切な範囲のpHであるべきである。使用バッファーの選択および量は所望pH範囲とするのに重要である。そのうえ、因子IXの場合、凝固時間アッセイ分析および凝血能を妨害しうるため「ヘパリン」のごとき薬剤を避けるべきである。
【0007】
現在、2種の市販のキャリヤ蛋白不含で血漿由来の因子IX処方がある。アルファ・セラピューティク・コーポレイション(Alpha Therapeutic orporation)は凍結乾燥したAlphaNine(登録商標)SDを提供しており、ヘパリン、デキストロース、ポリソルベート80、およびトリ(n−ブチル)ホスフェートからなる。この調製物は2ないし8℃の温度に貯蔵される。上記のごとく、ヘパリンは抗−凝血剤であるのでヘパリンが避けられ、トリ(n−ブチル)ホスフェートは粘膜を刺激するので、この処方は理想的とはいえない。アーマー・ファーマシューティカル・カンパニー(Armour Pharmaceutical Company)の凍結乾燥されたMononin(登録商標)はヒスチジン、塩化ナトリウムおよびマンニトールからなり、同様に2ないし8℃に貯蔵される。包装に添付された説明書には該処方を室温で1カ月以上貯蔵しないよう書かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,770,999号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】チョー(Choo)ら、ネイチャー(Nature)第299巻:178〜180頁(1982年)
【非特許文献2】フェア(Fair)ら、ブラッド(Blood)第64巻:194〜204頁(1984年)
【非特許文献3】クラチ(Kurachi)ら、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・ユーエスエイ(Proc.Natl.Acad.Sci,USA)第79巻:6461〜6464頁(1982年)
【非特許文献4】マンニング(Manning)ら、ファーマシューティカル・リサーチ(Pharmaceutical Research)第6巻:903〜918頁(1989年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
理想的には、開発された処方は、高濃度(例えば、≧20mg/ml)の因子IXの大量貯蔵に関して安定であるべきであり、そのことは、適当な用量に充填/仕上げするために比較的小体積ですみ、さらに例えば、皮下投与のごとき高蛋白濃度を要求しうる別の投与方法を可能にする。したがって、濃縮プロセスおよび凍結乾燥プロセスの間の因子IX蛋白の安定性を向上させる(および活性レベルを維持する)方法、ならびに長期貯蔵中において安定な処方を提供する方法に対する必要性が当該分野において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1の態様は、バルク薬剤製品として有用な因子IXの濃縮調製物を提供するための新規組成物および方法を提供する。これらの組成物は、凍結または凍結乾燥され、因子IX、グリシンのごとき増量剤、および冷凍保護剤からなる。好ましい因子IX濃度範囲は約0.1ないし少なくとも20mg/mlである(約20ないし少なくとも4000U/mlに相当)。好ましい増量剤はグリシン、および/またはマグネシウム、カルシウムもしくは塩化物の塩を包含し、好ましくは、約0.5ないし300mMの濃度範囲である。適当なれ冷凍保護剤はマンニトールおよびスクロースのごときポリオールを包含し、好ましくは、約0.5ないし2%の濃度範囲である。所望により、これらのバルク薬剤製品組成物は、ポリソルベート(例えば、ツイン80)もしくはポリエチレングリコール(PEG)のごとき界面活性剤もしくはデタージェントを含有していてもよく、それらは凍結工程における冷凍保護剤として役立ち得る。好ましくは、界面活性剤は約0.005ないし0.05%の範囲である。好ましくは、賦形剤濃度は約250ないし350ミリオスモラル(mOsM)、好ましくは、約300mOsM±50mOsMの合成浸透圧を生じ、さらに、生理学的に適切なpH、例えば、好ましくは約6.0ないし8.0の範囲に維持するために適当な緩衝剤を含有していてもよい。好ましくは、緩衝化剤はヒスチジンおよびリン酸ナトリウムもしくはカリウムを包含し、目的pHは約6.5ないし7.5、すべて約5〜
50mMである。本発明のもう1つの態様は、例えば、静脈内または皮下注射用の最終剤型となった因子IXの処方を提供する。好ましい処方は、約0.1ないし少なくとも20mg/mlの範囲の因子IX濃度の因子IX、約0.5ないし2%のスクロース、約0.1ないし0.3Mのグリシン、および約0.005%ないし0.02%のポリソルベートを含み、約5ないし50mMのヒスチジンを緩衝化剤として含む。好ましい凍結乾燥処方は、約0.1ないし少なくとも10mg/mlの因子IX、約260mMのグリシン、約1%のスクロース、約0.005%のポリルベート、および約10mMのヒスチジンからなり、pH7.0である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、因子IXの濃縮調製物を得るための新規組成物および方法、さらに貯蔵および投与に適した因子IXの処方が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に用いる用語「凍結乾燥」、「凍結乾燥された」、および「フリーズ−ドライされた」は、溶液を「凍結」し、次いで、所望により減圧で「乾燥」することを包含するプロセスを包含するがこれに限定しない。本明細書の用語「増量剤」は、良好な凍結乾燥ケーク特性を与える薬剤であって、凍結乾燥プロセスに関連する種々のストレス(例えば、剪断/凍結)に蛋白が耐えるようにし、蛋白活性レベルを維持させる薬剤である。典型的な増量剤は、グリシン、MgCl、CaCl、NaCl等を包含するが、これらに限定しない。これらの薬剤は処方の等張性に貢献する。冷凍保護剤もまた等張性に貢献する。用語「冷凍保護剤」は、一般的には、凍結により生じるストレスから蛋白を安定化する薬剤を包含するが、該用語は、例えば、貯蔵中の凍結によらないストレスからバルク薬剤処方を安定化する薬剤も包含する。典型的な冷凍保護剤は、ポリオールを包含し、スクロースおよびマンニトールのごときサッカリドを包含し、さらには、ポリソルベートのごとき界面活性剤、またはポリエチレングリコール等を包含する。用語「乾燥保護剤」は、おそらくは、水素結合により蛋白の正しいコンホーメーションを維持することにより乾燥プロセス中における系からの水分除去途中の蛋白を安定化する薬剤を包含する。冷凍保護剤は乾燥保護剤の効果を有していてもよい。好ましい冷凍保護剤濃度範囲は約0.5ないし2%であるが、比較的高濃度、例えば、5%も適当であり、臨床慣習において慣例的に用いられる浸透圧によってのみ限定されるレベルである。
【0014】
「界面活性剤」は、一般的には、大気/溶液界面により生じるストレスおよび
溶液/界面により生じるストレス(例えば、蛋白凝集を生じる)から蛋白を保護する薬剤を包含し、ポリソルベート−80(ツイン)のごときデタージェント(0.005〜0.05%(重量/体積))、または例えばPEG8000のごときポリエチレングリコール(PEG)を包含しうる。所望により、比較的高濃度の、例えば0.5%までの濃度も蛋白安定性の維持に適するが、実際用いられるレベルは慣例的に臨床慣習により限定される。
【0015】
用語「緩衝化剤」は、凍結乾燥前に溶液のpHを許容範囲に維持する薬剤を包含し、ヒスチジン、リン酸塩(ナトリウムまたはカリウム塩)、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、ジエタノールアミン等を包含しうる。一般的には、濃度上限は、容易に当業者に理解されるように、「バルク」蛋白については「投与」蛋白形態よりも高い。例えば、緩衝剤濃度は、数ミリモラーないしその溶解度の上限までであってよく、例えば、ヒスチジンは200mM程度であってよく、当業者は、適切な生理学的適当濃度の達成/維持を考慮するであろう。パーセンテージは、固体をいう場合には重量/重量であり、液体をいう場合には重量/体積である。用語「等張」、300±50mOsMは、凍結乾燥前の蛋白溶液の浸透圧の測定値を意味し、典型的には、注射用水(WFI)で復元を行う。生理学的浸透圧の維持は投与処方について重要である。しかしながら、バルク処方については、使用前に溶液が等張にされる限り、より高濃度が有効に用いられうる。用語「賦形剤」は、良好な凍結乾燥ケーク特性を与える医薬上許容される薬剤(増量剤)、並びに、蛋白の乾燥保護および凍結保護を行い、pHの維持を行い、生物学的活性(蛋白安定性)の実質的保持を維持しておくために貯蔵中に蛋白の正しいコンホーメーションを提供する薬剤を包含する。
【0016】
用語「因子IX濃度」は、慣用的には、mg/mlまたはU/mlで表現され、1mgは200U/ml±100U/mlにほぼ等しい。
【0017】
以下の実施例は本発明の実施を説明する。これらの実施例は説明目的のみであって、権利請求されている本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施例1は、その後凍結乾燥され、3つの異なる温度で1カ月貯蔵される種々の処方(すべて等張)中の組み換え型因子IXを説明する。組成物は水で復元され、粒子生成、蛋白回収率、比活性、および凝集物生成パーセンテージについて評価される。実施例2はさらなる処方を説明し、実施例3は比較的高濃度の因子IXのバルク貯蔵安定性に関する。
【実施例1】
【0018】
組み換え型因子IX蛋白濃度〜0.5mg/ml(100U/ml)で浸透圧300±50mOsMである、下表Iに示す処方を調製する。すべての試料は、コンホーメーション特異的モノクローナル抗体カラムにより精製された組み換え型因子IXを含有する。組み換え型因子IXの調製はUSPN4,770,999(カウフマン(Kaufman)ら)に記載されている。1の適当な精製方法は、フリンダ(Hrinda)ら、プレクリニカル・スタディーズ・オブ・ア・モノクローナル・アンチボディー−ピューリファイド・ファクターIX、モノミン(登録商標)セミナーズ・イン・ヘマトロジー(Preclinical Studies of a Monoclonal Antibody-Purified Factor IX, MononineTM Seminars in Hematology)、第28巻(3):6頁(1991年7月)に記載の方法である。他の調製方法は、タラカン(Tharakan)ら、「フィジカル・アンド・バイオケミカル・プロパティーズ・オブ・ファイブ・コマーシャル・レジンズ・フォー・イムノアフィニティー・ピューリフィケイション・オブ・ファクターIX(Physical and Biochemical properties of five commercial resins for immunoaffinity purification of factor IX)」、ジャーナル・オブ・クロマトグラフィー(Journal of Chromatography)第595巻:103〜111頁(1992年);およびリープマン(Liebman)ら、「イムノアフィニティー・ピューリフィケイション・オブ・ファクターIX(クリスマス・ファクター)・バイ・ユージング・コンホーメイション−スペシフィック・アンチボディーズ・ディレクテッド・アゲインスト・ザ・ファクターIX−メタル・コンプレックス(Immunoaffinity purification of factor IX (Christmas factor) by using conformation-specific antibodies against the factor IX-metal complex)」、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・ユーエスエイ(Proc.Nat'l.Acad.Sci.,USA)第82巻:3879〜3883頁(1985年)に記載の方法を包含し、さらに、慣用的クロマトグラフィー法、例えば、ハシモト(Hashimoto)ら、「ア・メソッド・フォー・システマチック・ピューリフィケイション・フロム・ババイン・プラズマ・オブ・シックス・ビタミン K−ディペンデント・コアギュレイション・ファクターズ:プロスロンビン、ファクターX、ファクターIX、プロテインC・アンド・プロテインZ(A Method for Systematic Purification from Bovine Plasma of Six Vitamin K-Dependent Coagulation Factors: Prothrombin,Factor X,Factor IX,Protein C,and Protein Z)」、ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.)第97巻:1347〜1335頁(1985年)、およびバジャジ,ピー(Bajaj,P.)ら、プレパ・バイオケミ(Prep.Biochem.)第11巻:397頁(1981年)記載の方法を包含する。
【0019】
【表1】

【0020】
15個の試料からなるもう1つのセットを上記のごとく調製するが、さらに、界面活性剤(0.005%ツイン−80)を含有している。試料1の処方は、市販の血漿由来の因子IX(モノニン(登録商標))について用いられるものである。
【0021】
A.凍結/融解サイクルの影響
統括乾燥前に、各処方思慮を5回の凍結/融解サイクルに供して凍結により生じる変性に対する感受性を調べる。凍結乾燥前の一連の−80℃/37℃の凍結/融解サイクル(例えば、5回)は、凍結乾燥プロセスおよび/または長期貯蔵の間に観察されうる凝集の形成の増大に対する蛋白の感受性の有用な「指示」である。試料を、存在する「高分子量種(HMW)」の量についてアッセイし、HMWは、SEC−HPLCおよびSDS−PAGE(還元および非還元)により測定される共有および非共有凝集体を包含する。ツイン80(0.005%)を添加した試料は凝集の形成が最少である(0.1%未満のHMW増加)。界面活性剤を添加しない場合、処方1、6、11および15は6%よりも多いHMW生成を示し、他の処方は4%未満のHMW増加であった。
【0022】
B.期間中の温度および界面活性剤の影響
凍結乾燥前に、各試料(界面活性剤(ツイン80、0.005%)添加および無添加)を0.2μmフィルターで滅菌する。体積0.5mlを2mlの凍結乾燥バイアルに入れ、凍結乾燥機に供する。バイアルを−50℃で5.5時間凍結する。温度を−30℃に上げて初期乾燥を開始し、42時間保持する。温度を+25℃に上げて1時間置き、第2乾燥を開始し、15時間保持する。第2乾燥の終了時にバイアルに栓をする。すべての処方は良好なケーク特性を示し、水添加後30分以内に容易に復元される。凍結乾燥直後、試料をHMW増加について評価する。大部分のツイン不含のものは〜1ないし2%の増加であった。次いで、試料を3つの異なる温度(−80℃、4℃および30℃)に1カ月間貯蔵する。HMW増加パーセンテージを、凍結乾燥後のSEC−HPLCから得られる面積(280nmの吸光度)として表現する(表II)。1カ月の貯蔵後、多くの界面活性剤不含処方は0ないし25%の範囲の高いHMW増加パーセンテージを示し、このことは30℃での貯蔵において最も明確である。詳細には、試料1〜3、12および14は最高の増加パーセンテージを示す。
【0023】
界面活性剤含有処方は、一般的に、低いHMW増加パーセンテージを示し、すなわち、凍結乾燥プロセス自体に起因する凍結により生じる凝集が最少であり、長期貯蔵はさらに他の賦形剤の存在に依存する。例えば、マンニトールよりもスクロースを添加した処方はHMW増加パーセンテージが低い。よって、界面活性剤添加または無添加のマンニトール処方1、2、3、12および14は36%までのHMW増加を示す。
【0024】
【表2】

【0025】
−80℃、4℃および30℃で1カ月の試料の凝血活性および比活性の値を測定する。ピットマン,ディー(Pittman,D.)ら、ブラッド(Blood)第79巻:
389〜397頁(1992年)の方法に従い、因子IX欠損血液を用いて因子IX活性を測定する。
活性または比活性の回収率のわずかな相違が−80℃または4℃で1カ月後(界面活性剤添加または無添加)に観察されるが;30℃においては、活性および比活性の回収率は、一般的に、凝集の結果と相関がある。言い換えると、活性の損失は、一般的に、凝集の増加に伴って観察され、最も著しくは、処方1、2、3、12および14において観察され、それらの処方においては、界面活性剤の添加によって期間中の凝集を防止することができなかった。
【実施例2】
【0026】
さらに、ヒスチジン、グリシン(界面活性剤添加および無添加)、および2%スクロースからなる2種の処方を評価すると、因子IX活性の維持が見いだされる。
【0027】
10種の処方からなるもう1つのセットを表IIIに示すように調製し(浸透圧300±50mOsM)、上記のごとく凍結乾燥し、次いで、−80℃、4℃、および30℃に貯蔵のために置き、1カ月、3カ月および4カ月において安定性分析を行う。
【0028】
【表3】

【0029】
すべての処方は良好な凍結乾燥ケークを形成し、20〜30秒以内に復元される。
【0030】
表IVは、数カ月後の3種の貯蔵温度における活性および比活性の回収率をまとめる。3カ月後の4℃の試料に関するデータは、活性を消失した処方8および10を除く大部分の処方と同様である。30℃で3カ月後、処方2、8、9 および10は活性を消失した。活性および比活性の最大の回収率は処方1、3、5、6および7について見られる。
【0031】
表Vは、期間中の凝集の増加をまとめる。4℃において3カ月後、処方1〜7はHMW増加が4%未満であり、処方8、9 および10は最大の凝集体形成を示す。30℃において、処方1は4カ月後でさえもHMW増加を示さないが、他のすべての処方は3%より大きいHMW増加を示す。処方2、8、9 および10(すべてスクロース不含)は凝集体形成増加が見られる。
【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【実施例3】
【0034】
実施例3
輸送容器の体積要求を最小にするために、充填/仕上げの設備に輸送する前にバルク蛋白をできるかぎり濃縮(例えば、少なくとも20mg/mlまで)することが好ましい。そのうえ、バルク薬剤製品および最終製品が同様の処方であることが望ましい。
【0035】
バルク薬剤製品として有用な因子IXの濃縮調製物を評価するために、高い(10mg/ml以上)因子IX濃度であること以外は下表VIに示すように12種の処方を調製した。界面活性剤濃度は約0.005または0.02%のツイン−80である(ツイン最適化研究として有用)。すべての試料は10mg/ml以上の濃度の因子IXおよび1%のスクロースを含有している。すべての試料の浸透圧は300±50mOsMであった。
【0036】
【表6】

【0037】
試料を−80℃で凍結し、次いで、37℃で融解するする5回の凍結−融解サイクルに供し、全因子IX濃度、活性、および比活性の回収率に関して分析する。因子IXのレベル(mg/ml)は10.40ないし15.21mg/mlである。初期HMWパーセントは0.5%未満である。12種の処方について、蛋白または活性の損失はなく、凍結/融解サイクルによる凝集体形成の有意な増加もない。表Vのいくつかの処方に関して、高濃度に処方されたバルク製品を、−80℃で1カ月貯蔵後の安定性について分析する。HMW%の増加は観察されず、比活性は維持されている。
【0038】
特定の方法、処方、および組成物に関して本発明を説明したが、本発明を考慮して当業者が変化および変更を行うであろうことが理解される。
【0039】
上記説明的実施例に記載された本発明における多くの変更および変化が当業者によりなされると考えられ、したがって、添付した請求の範囲にある限定のみが課せられるべきである。よって、権利請求されている発明の範囲内にあるすべてのかかる均等な変化が添付した請求の範囲に包含されると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、医薬品の製造分野等において利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
因子IX、グリシン、および冷凍保護剤からなる組成物。

【公開番号】特開2010−77148(P2010−77148A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267797(P2009−267797)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【分割の表示】特願2006−141780(P2006−141780)の分割
【原出願日】平成7年4月6日(1995.4.6)
【出願人】(501418214)ジェネティクス インスティテュート,エルエルシー (35)
【Fターム(参考)】