説明

固体レーザ装置の適正温度測定方法

【課題】光ノイズの影響を最小限に抑えつつ、駆動電流を少なくしたり、温度変動に対するマージンを大きくする。
【解決手段】出力Pを一定にするように駆動電流Iopを制御しながら温度を変えて駆動電流Iopと光ノイズNとを測定し、光ノイズNが許容値以下となる温度領域を探索し、その温度領域に対応する駆動電流Iopが最少となる温度で動作するように固体レーザ結晶13と光共振器の温度を制御する。その温度で動作させていて光ノイズNが許容値Nthを超えると、温度領域の最低値と最高値の中間の温度で動作するように温度を変更する。
【効果】光ノイズの影響を最小限に抑えつつ、駆動電流を少なく抑えることが出来る。光ノイズNが許容値Nthを超えると、光ノイズNの影響のない動作ポイントに迅速に移行させることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体レーザ装置の適正温度測定方法に関し、さらに詳しくは、光ノイズの影響を最小限に抑えつつ、駆動電流を少なくしたり、温度変動に対するマージンを大きくすることが出来る固体レーザ装置の適正温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度チューニング時には、半導体レーザや固体レーザ結晶や非線形光学素子の温度を変えながら出力レーザ光の光ノイズ(高周波成分)を測定し、光ノイズが最も少なくなるときの温度を最適温度として記憶し、使用時には、記憶した最適温度に維持するように温調を行う固体レーザ装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−158318号公報([0008])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の固体レーザ装置では、光ノイズが最も少なくなるときの温度を最適温度としていた。
しかし、許容値以下の光ノイズならば、光ノイズが最も少なくなる温度に拘る必要はない。むしろ、光ノイズが最も少なくなる温度に拘ると、駆動電流が多くなってしまったり、温度変動(実際の温度は温調設定温度の上下に変動する)に対するマージンが小さくなってしまう問題点がある。ここで、温度変動に対するマージンとは、光ノイズが許容値を超えないで温調設定温度から変動可能な温度範囲をいう。
そこで、本発明の目的は、光ノイズの影響を最小限に抑えつつ、駆動電流を少なくしたり、温度変動に対するマージンを大きくすることが出来る固体レーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の観点では、本発明は、励起レーザ光を発生する半導体レーザと、前記半導体レーザに駆動電流を供給する半導体レーザ駆動回路と、前記励起レーザ光によって励起され且つ前記励起レーザ光の入射面に反射面が形成され且つ所定の厚みをもった固体レーザ結晶と、前記反射面との間で光共振器を形成する反射面を持つ出力側ミラーと、前記光共振器内に挿入され前記励起レーザ光が入射され高調波を発生する非線形光学素子と、前記出力側ミラーから出力される出力レーザ光が所定出力になるように前記半導体レーザ駆動回路を制御する出力調整回路と、前記固体レーザ結晶と前記光共振器と前記非線形光学素子の少なくとも1つの温度が適正温度となるように制御する温度制御手段とを具備した固体レーザ装置において、前記温度制御手段の制御温度を変化させながら、前記出力レーザ光の光ノイズ成分及び前記駆動電流をモニタし、前記光ノイズ成分が所定の許容値以下の範囲において前記駆動電流が最小となる前記制御温度を、前記適正温度とすることを特徴とする、固体レーザ装置の適正温度測定方法を提供する。
上記第1の観点による固体レーザ装置では、出力レーザ光の光ノイズ成分が許容値以下となる温度領域に対応する駆動電流が最少となる温度で動作するように温調するため、光ノイズの影響を最小限に抑えつつ、駆動電流を少なくすることが出来る。
【0005】
第2の観点では、本発明は、励起レーザ光を発生する半導体レーザと、前記半導体レーザに駆動電流を供給する半導体レーザ駆動回路と、前記励起レーザ光によって励起され且つ前記励起レーザ光の入射面に反射面が形成され且つ所定の厚みをもった固体レーザ結晶と、前記反射面との間で光共振器を形成する反射面を持つ出力側ミラーと、前記光共振器内に挿入され前記励起レーザ光が入射され高調波を発生する非線形光学素子と、前記出力側ミラーから出力される出力レーザ光が所定出力になるように前記半導体レーザ駆動回路を制御する出力調整回路と、前記固体レーザ結晶と前記光共振器と前記非線形光学素子の少なくとも1つの温度が適正温度となるように制御する温度制御手段とを具備した固体レーザ装置において、前記温度制御手段の制御温度を変化させながら、前記出力レーザ光の光ノイズ成分をモニタし、前記光ノイズ成分が所定の許容値以下となる温度領域の最低温度と最高温度の中間の温度を、前記適正温度とすることを特徴とする、固体レーザ装置の適正温度測定方法を提供する。
上記第2の観点による固体レーザ装置では、出力レーザ光の光ノイズ成分が許容値以下となる温度領域の最低温度と最高温度の中間の温度で動作するように温調するため、光ノイズの影響を最小限に抑えつつ、温度変動に対するマージンを大きくすることが出来る。
【発明の効果】
【0006】
本発明の固体レーザ装置によれば、出力レーザ光の光ノイズ成分が許容値以下となる温度領域に対応する駆動電流が最少となる温度で動作するように温調するため、光ノイズの影響を最小限に抑えつつ、駆動電流を少なくすることが出来る。また、出力レーザ光の光ノイズ成分が許容値以下となる温度領域の最低温度と最高温度の中間の温度で動作するように温調するため、光ノイズの影響を最小限に抑えつつ、温度変動に対するマージンを大きくすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図に示す実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0008】
図1は、実施例1に係る固体レーザ装置100を示す説明図である。
この固体レーザ装置100は、レーザ発振部筐体4に収容されたレーザ発振部10と、制御部筐体6に収容された制御部20と、レーザ発振部10と制御部20とを接続するケーブル8とからなっている。
【0009】
レーザ発振部10は、励起レーザ光(波長λa)を発生する半導体レーザ11と、励起レーザ光を集光する集光レンズ系12と、所定の厚みを持ち且つ励起レーザ光の入射面に反射面が形成され且つ励起レーザ光により励起されて基本波光(波長λb)を発生する固体レーザ結晶13と、基本波光が入射すると第2高調波光(波長λc=λb/2)を発生する非線形光学素子14と、固体レーザ結晶13の反射面との間で光共振器を形成する反射面を持つ出力側ミラー15と、出力側ミラー15から外部へ出力される出力レーザ光の一部を透過すると共に残りを分岐するビームスプリッタ16と、分岐光を受光し電気信号に変換するホトダイオード17と、ホトダイオード17の出力Pから光ノイズ(高周波成分)Nを抽出するハイパスフィルタ18と、ペルチェ素子と温度センサとを有し半導体レーザ11の温調を行うための温調ユニット1と、ペルチェ素子と温度センサとを有し光共振器の温調を行うための温調ユニット2と、ペルチェ素子と温度センサとを有し非線形光学素子14の温調を行うための温調ユニット3と、コネクタ5とを具備している。
【0010】
制御部20は、半導体レーザ11を駆動するための駆動電流Iopを出力する半導体レーザ駆動回路21と、温調ユニット1を介して半導体レーザ11の温度を制御する半導体レーザ温度制御回路24と、温調ユニット2を介して共振器の温度を制御する共振器温度制御回路25と、温調ユニット3を介して非線形光学素子14の温度を制御する非線形光学素子温度制御回路26と、ホトダイオード17の出力Pが所定出力となるように半導体レーザ駆動回路21を制御すると共に各温度制御回路24,25,26を制御する制御回路28と、コネクタ7とを具備している。
【0011】
ケーブル8は、レーザ発振部10のコネクタ5と制御部20のコネクタ7とを結合している。
【0012】
図2は、温度走査処理を示すフロー図である。この処理は、制御回路28に温度走査指示を与えることにより実行される。
なお、この処理の間、ホトダイオード17の出力Pが所定出力となるように半導体レーザ駆動回路21が制御されている。また、半導体レーザ11が温調されている。
【0013】
ステップS1では、光共振器の温度T1を開始温度T1s(例えば30℃)とする。
【0014】
ステップS2では、非線形光学素子14の温度T2を開始温度T2s(例えば30℃)とする。
【0015】
ステップS3では、駆動電流Iopと光ノイズNを実測する。
【0016】
ステップS4では、非線形光学素子14の温度T2をΔT2(例えば1℃)だけ増加させる。
ステップS5では、温度T2が終了温度T2e(例えば60℃)以下ならばステップS3に戻り、そうでないならばステップS6へ進む。
【0017】
ステップS6では、光共振器の温度T1をΔT1(例えば1℃)だけ増加させる。
ステップS7では、温度T1が終了温度T1e(例えば60℃)以下ならばステップS2に戻り、そうでないならば処理を終了する。
【0018】
図2のステップS1〜S7が終わると、例えば図3や図12に示すような、出力レーザ光が所定出力に維持された状態における温度に対する駆動電流Iopの特性データおよび光ノイズNの特性データが得られる。なお、温度はT1,T2の2種類であるが、図3以降では説明を簡単にするため1種類としている。
【0019】
図4は、温度領域探索処理を示すフロー図である。この処理は、図2の温度走査処理の後に実行される。
【0020】
ステップS11では、図5に示すように、温度Tcを開始温度「Ts+α」とする。Tsは、特性データの最低温度である。αは、温調設定温度の上下に変動する温度振幅であり、例えば3℃である。
【0021】
ステップS12では、光ノイズNの特性データを調べて、Tcを中心として±αの範囲の光ノイズNが許容値Nth以下か否かを判定し、許容値Nth以下ならステップS13へ進み、許容値Nthを1カ所でも超えていたらステップS14へ進む。例えば、図5では、Tc=Ts+αであり、Tcを中心として±αの範囲(括弧で示す範囲)の光ノイズNが許容値Nth以下なのでステップS13へ進む。また、図6では、Tc=t1であり、Tcを中心として±αの範囲(括弧で示す範囲)の光ノイズNが許容値Nth以下なのでステップS13へ進む。他方、図7では、Tc=t2であり、Tcを中心として±αの範囲(括弧で示す範囲)の光ノイズNが許容値Nth以下でない部分があるのでステップS14へ進む。
【0022】
ステップS13では、現在のTcにより温度領域を更新する。すなわち、
(1)それまでに温度領域が全く作成されていないなら、現在のTcだけの温度領域#1を作成する。例えば、図5では、Tc=Ts+αだけの温度領域#1を作成する。
(2)それまでに温度領域が作成されていても閉じられておれば、現在のTcだけの温度領域を新たに作成する。この温度領域には、新たな番号を付ける。例えば、図8では、Tc=t3だけの温度領域#2を作成する。
(3)閉じられていない温度領域があれば、その温度領域の最高値を現在のTcに変更する。例えば、図6では、Tc=t1を温度領域#1の最高値とする。
そして、ステップS15へ進む。
【0023】
ステップS14では、
(1)閉じていない温度領域がなければ、そのままステップS15へ進む。例えば、図11では、Tc=t4となるまでは温度領域が全く作成されないため、そのままステップS15へ進む。
(2)閉じていない温度領域があれば、その温度領域を閉じ、ステップS15へ進む。例えば、図7では、温度領域#1を閉じ、ステップS15へ進む。
【0024】
ステップS15では、TcをΔTc(例えば1℃)だけ増加させる。
ステップS16では、Tcが終了温度「Te−α」以下ならばステップS12に戻り、そうでないならば処理を終了する。Teは、特性データの最高温度である。例えば、図9になるまではステップS12に戻り、図9が終わると処理を終了する。
【0025】
図4の温度領域探索処理が終わると、例えば、図10に示すような温度領域#1(最低値Ts+α、最高値t1),温度領域#2(最低値t3、最高値Te−α)が得られる。また、図11に示すような温度領域#1(最低値t4、最高値t5)が得られる。
なお、作成した温度領域を記憶すると共に、温度領域に対応する駆動電流Iopも記憶する。
【0026】
図12は、温度制御処理を示すフロー図である。この処理は、図4の温度領域探索処理が終わっていることが前提であり、固体レーザ装置100の稼働中に実行される。
【0027】
ステップS21では、記憶している温度領域に対応する駆動電流Iopの最少を与える温度を温調設定温度とし、温度制御する。例えば、図10に示すような温度領域#1,温度領域#2なら、温度t1を温調設定温度とする。また、図11に示すような温度領域#1なら、温度t4を温調設定温度とする。
【0028】
ステップS22では、光ノイズNを測定する。
ステップS23では、測定した光ノイズNが許容値Nth以下ならステップS22に戻り、そうでなければステップS24へ進む。
ステップS24では、現在の温度領域の最低値と最高値の中間の温度を温調設定温度とし、温度制御する。例えば、図10に示す温度t1が温調設定温度であるときに測定した光ノイズNが許容値Nthを超えたなら、温度「(Ts+α+t1)/2」を新たな温調設定温度とし、温度制御する。また、図11に示す温度t4が温調設定温度であるときに測定した光ノイズNが許容値Nthを超えたなら、温度「(t4+t5)/2」を新たな温調設定温度とし、温度制御する。
【0029】
実施例1の固体レーザ装置100によれば、光ノイズNが許容値Nth以下となる温度領域に対応する駆動電流が最少となる温度で動作するように温調するため、光ノイズNの影響を最小限に抑えつつ、駆動電流を少なくすることが出来る。また、光ノイズNが許容値Nth以下となる温度領域に対応する駆動電流が最少となる温度で動作させていて光ノイズNが許容値Nthを超えると、光ノイズNが許容値Nth以下となる温度領域の最低値と最高値の中間の温度で動作するように温調設定温度を変更するため、光ノイズNの影響のない動作ポイントに迅速に移行させることが出来る。そして、この移行した動作ポイントでは、温度変動に対するマージンが大きいため、運転を安定に継続することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の固体レーザ装置は、バイオエンジニアリング分野や計測分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1に係る固体レーザ装置を示す構成説明図である。
【図2】実施例1に係る温度走査処理を示すフロー図である。
【図3】特性データの例示図である。
【図4】実施例1に係る温度領域探索処理を示すフロー図である。
【図5】特性データと探索開始温度の例示図である。
【図6】特性データと探索中温度の例示図である。
【図7】特性データと探索中温度の別の例示図である。
【図8】特性データと探索中温度のさらに別の例示図である。
【図9】特性データと探索終了温度の例示図である。
【図10】特性データと温度領域の例示図である。
【図11】特性データと温度領域の別の例示図である。
【図12】実施例1に係る温度制御処理を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0032】
1,2,3
温調ユニット
11
半導体レーザ
12
集光レンズ系
13
固体レーザ結晶
14
非線形光学素子
15
出力側ミラー
18
ハイパスフィルタ
25
共振器温度制御回路
26
非線形光学素子温度制御回路
28
制御部
100
固体レーザ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起レーザ光を発生する半導体レーザと、前記半導体レーザに駆動電流を供給する半導体レーザ駆動回路と、前記励起レーザ光によって励起され且つ前記励起レーザ光の入射面に反射面が形成され且つ所定の厚みをもった固体レーザ結晶と、前記反射面との間で光共振器を形成する反射面を持つ出力側ミラーと、前記光共振器内に挿入され前記励起レーザ光が入射され高調波を発生する非線形光学素子と、前記出力側ミラーから出力される出力レーザ光が所定出力になるように前記半導体レーザ駆動回路を制御する出力調整回路と、前記固体レーザ結晶と前記光共振器と前記非線形光学素子の少なくとも1つの温度が適正温度となるように制御する温度制御手段とを具備した固体レーザ装置において、
前記温度制御手段の制御温度を変化させながら、前記出力レーザ光の光ノイズ成分及び前記駆動電流をモニタし、前記光ノイズ成分が所定の許容値以下の範囲において前記駆動電流が最小となる前記制御温度を、前記適正温度とすることを特徴とする、固体レーザ装置の適正温度測定方法
【請求項2】
励起レーザ光を発生する半導体レーザと、前記半導体レーザに駆動電流を供給する半導体レーザ駆動回路と、前記励起レーザ光によって励起され且つ前記励起レーザ光の入射面に反射面が形成され且つ所定の厚みをもった固体レーザ結晶と、前記反射面との間で光共振器を形成する反射面を持つ出力側ミラーと、前記光共振器内に挿入され前記励起レーザ光が入射され高調波を発生する非線形光学素子と、前記出力側ミラーから出力される出力レーザ光が所定出力になるように前記半導体レーザ駆動回路を制御する出力調整回路と、前記固体レーザ結晶と前記光共振器と前記非線形光学素子の少なくとも1つの温度が適正温度となるように制御する温度制御手段とを具備した固体レーザ装置において、
前記温度制御手段の制御温度を変化させながら、前記出力レーザ光の光ノイズ成分をモニタし、前記光ノイズ成分が所定の許容値以下となる温度領域の最低温度と最高温度の中間の温度を、前記適正温度とすることを特徴とする、固体レーザ装置の適正温度測定方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−9772(P2011−9772A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195656(P2010−195656)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【分割の表示】特願2005−167591(P2005−167591)の分割
【原出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】