説明

固体支持体を使用してRNAを精製するための、組成物および方法

【課題】生物学的材料からRNAを精製するための、試薬、方法およびキットを提供する。
【解決手段】核酸を単離および精製するための処方物であって、少なくとも約1Mの濃度であるリチウム塩、洗浄剤、および緩衝剤を含有する処方物を提供する。本発明の1つの実施形態において、核酸を単離および精製するための処方物は、少なくとも1Mの濃度のリチウム塩、洗浄剤、緩衝剤、必要に応じて、キレート剤、必要に応じて還元剤、および必要に応じてタングステン酸塩を含み、ここでこの溶液は約7を超えるpHを有する。本発明はまた、RNAを含む生物学的材料から、実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを精製するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)のような核酸は、分子生物学の分野における研究および臨床的な分析で、広く用いられる。RNAは、天然において、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、およびウイルスRNAを含む種々の形態で見られ得る。RNAの、これらそれぞれの型は、それらの特異的な機能に関連した異なる特性を有する。RNA発現レベルおよびRNA発現パターンの分析は、発生遺伝学、薬物発見および臨床的診断のような分野で、重要な情報を提供する。例えば、RNA分析は、正常な遺伝子機能および異常な遺伝子機能の両方に関して重要な診断的情報を提供する。さらに、一般的な白血病に関連した、全体的なDNA再配列は、異常なハイブリッドRNAを単離および同定することにより検出される。
【0002】
RNAを分析する一般的な方法としては、ノーザンブロッティング、リボヌクレアーゼ保護アッセイ(RPA)、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、クローニングのためのcDNAの調製、インビトロでの翻訳およびマイクロアレイ分析が挙げられる。これらの分析から妥当かつ一貫性のある結果を得るために、RNAが、生物学的材料に共通した他の成分(例えば、タンパク質、炭水化物、脂質およびDNA)から精製されることは重要である。
【0003】
RNA精製方法は、液相精製および固相精製の2つの一般的な分類に分かれる。液相精製において、RNAは液相に残り、一方、不純物は沈殿および/または遠心分離のようなプロセスにより取り除かれる。固相精製において、RNAは固体支持体に結合され、一方、DNA、タンパク質、リン脂質のような不純物は選択的に溶出される。両方の精製方法は、多数の工程、およびしばしば危険な試薬を必要とする通常の方法、ならびにより少ない工程および通常殆ど危険のない試薬を必要とする、より迅速な方法を利用する。精製を始める生物学的材料が細胞を含む場合、両方法は結果として、RNAと夾雑物(例えば、DNA、脂質、炭水化物、タンパク質など)の混合物を生じる細胞またはウイルス同時破壊または溶解工程を必要とする。そのような混合物はまた、RNAを容易に分解し、ならびに除去および/または不活性化されなければならないRNaseをも含む。
【0004】
従来、液相RNA単離方法は、液液抽出(すなわち、フェノール−クロロホルム)およびアルコール沈殿を使用した。おそらく最も一般的に使用される液液抽出方法は、ChomczynskiおよびSacchiの「酸性−グアニジニウム−フェノール」方法(Chomczynski P,Sacchi N.,Single−step method of RNA isolation by acid guanidinium thiocyanate−phenol−chloroform extraction,Anal Biochem 162:156−9[1987];米国特許第5,945,515号、米国特許第5,346,994号、および米国特許第4,843,155号)である。この方法は、以下の工程を含む:(1)グアニジニウムイソチオシアネート(GITC)溶液で試料を抽出し、これに酸性媒体、フェノール、およびクロロホルムを連続して加える工程;(2)この混合物を遠心分離し、フェノールにより変性したタンパク質が、中間層に見出される核酸から除去され得るように、相を分離させる工程;(3)RNAを沈殿させるためにアルコールを加え、そしてそれによりRNAを濃縮する工程;ならびに(4)精製したRNAを洗浄および再水和する工程。しかし、この方法は、RNAの精製を確実にするが、クロロホルムおよびフェノールのような危険な試薬を利用する。カチオン洗浄剤による核酸の沈殿としては、別の液相技術(米国特許第5,985,572号;同第5,728,822号および同第5,010,183号(MacFarlane))の例がある。例えば、米国特許第5,985,572号は、選択した4級アミン界面活性剤を使用して、生物学的試料からRNAを単離するための、新規な方法を開示する。危険性のない液相精製方法は、低pH溶解および沈殿試薬を使用するHeath(米国特許第5,973,137号)によって開示された。しかし、液相方法は、単調な沈殿工程を含むという深刻な不利点を有し、そしてそれ故に自動化は困難である。さらに、高処理量RNA精製の必要性は、固相方法の開発を、導いた。
【0005】
液相精製と同様に、従来の固相方法は高精製RNAを生成するために開発された。一般的に、これらの方法は4つの一般的な工程を必要とする;RNAを放出するために、細胞またはウイルス外被を溶解する工程;放出したRNAを固体支持体に結合する工程;不純物を洗い流す工程;そして、その後精製RNAを溶出する工程。細胞またはウイルス外被の溶解、および放出したRNAを結合する最初の2工程は、従来、危険な試薬を必要としている。
【0006】
固相核酸単離方法に関して、膜フィルター、磁気ビーズ、金属酸化物、およびラテックス粒子を含む多くの固体支持体が使用されてきた。おそらく、最も広く使用される固体支持体はシリカベース粒子(例えば、米国特許第5,234,809号(Boomら);国際公開番号WO95/01359(Colpanら);米国特許第5,405,951号(Woodard);国際公開番号WO95/02049(Jones);WO92/07863(Qiagen GmbH)を参照のこと)である。シリカに核酸を結合する方法の1つは、カオトロピック剤の使用によるものである。例えば、米国特許第5,234,809号(Boomら)に開示された方法は、DNAをシリカ粒子に結合するために、グアニジンチオシアネートのような高濃度カオトロピック溶液を使用し、そして全血からDNAを精製するために、6つの遠心分離工程および5つの試薬を必要とする。
【0007】
特に、Boomは、以下を教示する;(1)生物学的材料を、グアニジンイソチオシアネート、EDTAおよびTriton X−100、ならびにシリカからなる溶液と混合する工程;(2)核酸をシリカに結合させる工程;(3)グアニジンイソチオシアネート、エタノール、アセトンの連続した洗浄により、シリカを洗浄する工程;そして(4)溶出剤で核酸を溶出する工程。この方法の不利点は、特定の懸濁液の使用、多くの遠心分離工程の使用、ならびにグアニジンイソチオシアネートおよびアセトンのような危険な試薬の使用である。さらに、この方法は、DNAの単離にうまく利用されてきたが、許容できないレベルのDNAの混入により、RNAの単離には適さない。
【0008】
RNAの結合および精製におけるカオトロピック塩の使用は周知である。別の方法(米国特許第5,990,302号(Kuroitaら)を参照のこと)において、生物学的材料は、リチウム塩およびグアニジニウムイソチオシアネート(GITC)のようなカオトロピック剤を含む酸性溶液に溶解され、その後RNAは、シリカのような核酸結合キャリアーと接触するに至る。続いてRNAは、低イオン強度緩衝剤でシリカから溶出することにより精製される。この方法の不利点は、カオトロピック塩(グアニジンイソチオシアネート)のような危険な物質の使用である。
【0009】
シリカベースキャリアーと併せた、4Mを超えるイオン強度でのカオトロピック物質(例えば、グアニジンイソチオシアネート、グアニジン塩酸塩、ヨウ化ナトリウム、および尿素混合物)の組み合わせは、当該分野で教示されている。例えば、Hillebrandら(WO95/34569を参照のこと)はRNAとの結合を引き起こすために、カオトロピック物質が添加されたシリカビーズのスラリーを含む、1工程の方法を記載する。
【0010】
カオトロープ(chaotrope)の使用に対して明らかに反対のアプローチは、DNAを単離するための抗カオトロープ(当該分野で「コスモトロープ(kosmotrope)」としも公知である)の使用である。Hillebrandら、US 20010041332を参照のこと。Hillebrandは、出発試料を溶解し、洗浄剤/アルコール混合物を用いて固体支持体へ結合するために、PVP(ポリビニルピロリドン)と組み合わせて、塩化アンモニウム(セシウム塩、ナトリウム塩および/またはカリウム塩についても記載される)のような「抗カオトロープ」の使用を記載する。セシウムおよびカリウムは、それらの低い電荷密度および弱い水和性質により、明確にカオトロープとみなされ、一方、アンモニウムは不十分なカオトロープとみなされる(Collins,K.Sticky Ions in Biological Systems,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92(1995),5553−5557;Wiggins,P.M.High and Low Density Intracellular Water,Cellular and Molecular Biology 47(5),735−744)ことが一般的に知られているという事実に加え、Hillebrandの方法に対するいくつかの不利点が存在する。第1として、この方法が、腫瘍誘発物として研究されてきたPVPを使用する。第2として、溶解および溶出において、65℃〜70℃の加熱工程を必要とする。そのような加熱は、制限された後続の適用(例えば、制限消化またはブロット分析における不適合性)を生じるような、非特異的分解または非特異的消化による核酸への損傷を引き起こし得る。第3として、Hillebrandにより記載される方法は、RNA精製において非常に厄介なRNaseを、十分に減少または排除するための試薬を利用しないので、RNAの単離において効率的に機能しないであろう。
【0011】
他の者は、核酸と低いpHで結合し、そしてその核酸が高いpHで溶出される、イオン交換樹脂の使用を教示した。米国特許第5,057,426号(Hencoら)を参照のこと。そのような方法は、より小さな核酸およびタンパク質のような他の生物学的材料から特有の電荷を有する長鎖核酸の選択的分離について、主に有利である。このような方法では、生物学的材料の残部からのRNA(長さおよび電荷に関わらず)の単離に成功しない。さらに、長鎖核酸は、使用するイオン交換方法のための高い塩濃度で、溶出されなければならない。一般的に使用される塩(例えば、NaClおよびKCl)は、分子生物学において使用される多くの酵素を阻害し得る。
【0012】
ポリカチオン固体支持体はまた、夾雑物を含む溶液からの核酸の精製においても使用されてきた。米国特許第5,599,667号(Arnoldら)を参照のこと。ポリカチオン支持体は、ヌクレオチド多量体の大きさに基づいて選択的にヌクレオチド多量体を選択的に吸着し、より大きな多量体は、より小さな多量体よりポリカチオン支持体に対して高い親和性を有する。この方法は主に、正に荷電したカチオン固体支持体と負に荷電したヌクレオチドのリン酸骨格との間の親和性に基づく。より大きなヌクレオチド多量体は、より高い電荷を有し、そしてその結果として、より小さいヌクレオチド多量体より優先的に結合する。従って、Arnoldの方法は、粗製の生物学的材料からの全型のRNAの単離よりはむしろ、大きさに基づいた、ヌクレオチド多量体の単離に適している。さらに、Arnoldの方法は、その方法自体を、アンモニウムイオン、イミニウムイオンおよびグアニジニウムイオンのようなカチオンを含むポリカチオン支持体の使用に制限する。
【0013】
最近の単離方法は、規定の緩衝剤条件下のグアニジニウム塩の存在中で、RNAが優先的に沈殿するという原則を利用する。米国特許第5,972,613号(Somackら)を参照のこと。この方法では、RNAが、低温において、グアニジニウム塩の存在下で沈殿する一方で、DNAは溶液中に残る。溶液からのRNAの沈殿に一般的に使用される方法は、LiCl塩の使用を含む。この方法の1つの種類において、0.8M LiClは、全RNA分子を含む溶液から、大きなリボソームRNA分子およびメッセンジャーRNA分子を選択的に沈殿するために使用される(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.,およびManiatis,T.(1989) in Molecular Cloning A Laboratory Manual,Vol.3,第2版,付録E.10&E.15)。この方法の別法において、2.5M LiClは、単一のヌクレオチドおよび全RNAを含む溶液から、長さが100ヌクレオチドほどの小ささのRNA分子を、選択的に沈殿するために使用される(Ambion technical bulletin #160)。
【0014】
核酸および他の生物学的材料を含む溶液からRNAを選択的に沈殿する方法は、溶液中でRNA分子に選択的に結合するような固相を使用する方法とは、物理的に異なるものである。沈殿事象は溶液事象の逆である。溶液は、溶質を溶媒に取り囲まれる分子への分離による、溶質(例えば、RNA)の溶解工程を含む。沈殿は、溶媒の除去および個々のRNA分子の、溶媒から分離する固体への融合を含む。これらの沈殿事象および溶液事象は、溶液環境の中で起こり、そしてRNA精製およびRNA分離が起こる別離に別個の固相上には依存しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
RNA精製の分野をさらに発展させるために、固相RNA精製方法についての必要性がある。また、単純かつ迅速なだけではなく、一般的に自動化の適応性を最大限にする範囲において固相精製方法に適した、試薬および方法についての必要性もある。室温(すなわち、20℃〜25℃)で安定であり、危険ではなく(すなわち、腐食性または有毒性が少ない)、混合の必要性が無い非粒子状であり、かつRNAの品質を保護する試薬についての必要性がある。また、種々の生物学的出発材料を使用し、水和または乾燥に関わらず、臨床的実験室および研究室において見出されるように、特に慣用的な試験に適用される場合に行われ得る、僅かな工程を有する方法の必要性がある。さらに、RNA精製試薬は、粒子を混入することまたは後続の分析(例えば、逆転写酵素反応、増幅反応、ヌクレアーゼ保護アッセイ、ノーザンブロッティング、ならびにマイクロアレイおよび他の標識反応)の緩衝化能力またはイオン状態を妨げることによる、その後のRNA分析手順を阻害するべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の要旨)
不定冠詞「a」および「an」ならびに定冠詞「the」文脈が明らかに他の内容を指示しない限りは、本出願において、特許出願において共通であるように、1つまたはそれ以上を意味するために使用されることが、記述されるべきである。さらに、用語「or」は、本出願において、特許出願において共通であるように、択一的な「or」または接続的な「and」を意味するために使用される。
【0017】
本発明は、少なくとも約1Mの濃度のリチウム塩、洗浄剤、および緩衝剤を含む、核酸を単離および精製するための処方物を提供する。この処方物はさらに、キレート剤および/または還元剤を含み得る。本発明の処方物は、カオトロープおよび/または強カオトロピック物質を欠き得る。この処方物中に存在するリチウム塩は塩化リチウムであり得る。このリチウム塩は、4M〜10Mの濃度、または4M〜8Mの濃度で存在し得る。この処方物は、約7および約9の間のpH(例えば、約8のpH、約8.5のpH、または約9のpH)のような、約7を超えるpHを有し得る。あるいは、この処方物は、約4.5を下回る(例えば、約3.5を下回る)pHを有し得る。
【0018】
本発明の処方物における洗浄剤は、アニオン性洗浄剤、カチオン性洗浄剤、双性イオン性洗浄剤または非イオン性洗浄剤であり得る。1つの実施形態において、この洗浄剤は非イオン性洗浄剤である。適切な洗浄剤としては、tween、triton、nonidet、igepalまたはtergitolが挙げられる。例えば、上記洗浄剤は、triton−xであり得る。さらに、この洗浄剤は、triton−xおよびジエチルグリコールモノエチルエーテル(DGME)の混合物であり得る。1つの実施形態において、この洗浄剤は、5%(v/v)triton−xおよび5%(v/v)DGMEの混合物である。この処方物の洗浄剤は、溶液の最終容量の15%(v/v)を超えない容量で存在し得る。例えば、この洗浄剤は、溶液の最終容量の約10%(v/v)の濃度で存在し得る。本発明における処方物の緩衝剤は、少なくとも約8のpKaを有し得る。キレート剤はEDTAであり得る。還元剤は、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)またはβ−メルカプトエタノール(BME)であり得る。1つの実施形態において、この還元剤はTCEPである。本発明の処方物は、タングステン酸塩をさらに含み得る。
【0019】
本発明の1つの実施形態において、核酸を単離および精製するための処方物は、少なくとも1Mの濃度のリチウム塩、洗浄剤、緩衝剤、必要に応じて、キレート剤、必要に応じて還元剤、および必要に応じてタングステン酸塩を含み、ここでこの溶液は約7を超えるpHを有する。
【0020】
本発明の別の実施形態において、核酸を単離および精製するための処方物は、本質的に、少なくとも1Mの濃度のリチウム塩、洗浄剤、緩衝剤、必要に応じて、キレート剤、還元剤、およびタングステン酸塩からなっている。
【0021】
さらに別の実施形態において、本発明の処方物は、本質的に、リチウム塩、洗浄剤、緩衝剤、必要に応じてキレート剤、必要に応じて還元剤、および必要に応じてタングステン酸塩からなり、ここでこの溶液は約7を超えるpHを有する。
【0022】
本発明の更なる実施形態は、本質的に、少なくとも約1Mの濃度のリチウム塩、洗浄剤、緩衝剤、必要に応じてキレート剤、必要に応じて還元剤、および必要に応じてタングステン酸塩からなり、ここでこの溶液は約7を超えるpHを有する。
【0023】
本発明はまた、RNAを含む生物学的材料から、実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを精製するための方法を提供する。1つの実施形態において、この方法は以下の工程を含む:(a)約7より大きいpHで緩衝化されたRNA溶解/結合溶液と、その生物学的材料とを混合する工程;(b)この混合物中の実質的に分解されていないRNAを含む核酸が、固体支持体に優先的に結合するように、この混合物をその固体支持体に接触させる工程;(c)実質的に分解されていないRNAを含む結合した核酸以外の生物学的材料を取り除くために、一連のRNA洗浄溶液を用いて、固体支持体を洗浄する工程であって、ここでこの一連の洗浄溶液は、アルコールおよび少なくとも1Mの濃度のRNA複合塩を含む第1洗浄物、ならびにアルコール、緩衝剤および必要に応じてキレート剤を含む第2洗浄物を含む工程;および(d)実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを得るために、RNA溶出溶液を用いて、結合した実質的に分解されていないRNAをその固体支持体から優先的に溶出する工程。
【0024】
本発明はまた、RNAを含む生物学的材料からの、実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを精製するための方法をも提供し、この方法は以下の工程を含む:(a)両親媒性試薬、およびRNA複合塩を含むRNA溶解/結合溶液とその生物学的材料とを混合する工程;(b)実質的に分解されていないRNAおよび非核酸生物学的材料を含む核酸を含む溶解物を形成するために、そのRNA溶解/結合溶液を用いてこの生物学的材料を溶解する工程;(c)この溶解物中の実質的に分解されていないRNAを含む核酸が、固定化された固体支持体に優先的に結合するように、この溶解物をその固体支持体に接触する工程;(d)実質的に分解されていないRNAを含む結合した核酸以外の生物学的材料を取り除くために、一連のRNA洗浄溶液を用いてその固体支持体を洗浄する工程であって、ここでこの一連の洗浄溶液は、アルコールおよび少なくとも1Mの濃度のRNA複合塩を含む第1洗浄物ならびにアルコール、緩衝剤および必要に応じてキレート剤を含む第2洗浄物を含む工程;および(e)実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを得るために、そのRNA溶出溶液を用いて、結合した実質的に分解されていないRNAをその固体支持体から優先的に溶出する工程。このRNA溶解/結合溶液は、約7より大きいpHで緩衝化され得る。
【0025】
本発明の、本発明処方物における方法で使用される溶解/結合溶液および/または洗浄溶液は、カオトロープおよび/または強カオトロピック物質を欠き得る。強カオトロピック物質の例は、グアニジニウム塩、尿素、アンモニウム塩、セシウム塩、ルビジウム塩、カリウム塩またはヨウ化物塩である。
【0026】
本発明の方法で使用される、溶解/結合溶液および/または洗浄溶液のRNA複合塩は、リチウム塩のようなアルカリ金属塩であり得る。適切なリチウム塩の例としては、塩化リチウムまたは臭化リチウムが挙げられる。溶解/結合溶液および/または洗浄溶液のRNA複合塩は、約4Mより大きい濃度で存在し得る。1つの実施形態において、このアルカリ金属塩は、4M〜10Mの間の濃度で存在し得る。
【0027】
本発明の方法で使用されるキレート剤は、EDTAまたはCDTAであり得る。
【0028】
本発明の方法で使用される生物学的材料は、粗製の試料または部分的に精製された核酸の混合物であり得る。生物学的材料の例としては、真核生物細胞の試料、原核生物細胞の試料、微生物細胞の試料、細菌細胞の試料、植物細胞の試料、マイコプラズマの試料、原生動物の試料、細菌の試料、真菌の試料、ウイルスの試料、酵母の試料、もしくはリケッチアの試料、またはこれらのホモジネートの試料が挙げられる。生物学的材料の付加的な例としては、全血、骨髄、血斑、血清、血漿、軟膜調製物、唾液、脳脊髄液、または動物固形組織が挙げられる。生物学的材料の更なる例としては、糞、尿、涙液、または汗が挙げられる。この生物学的材料はまた、空気、水、堆積物または土壌から採取された環境試料であり得る。
【0029】
本発明の方法で使用される固体支持体は、シリカの成分、セルロースの成分、酢酸セルロースの成分、ニトロセルロースの成分、ナイロンの成分、ポリエステルの成分、ポリエーテルスルホンの成分、ポリオレフィンの成分、もしくはフッ化ポリビニリデンの成分、またはこれらの組み合わせの成分を含む。この固体支持体が容器に収容され得、ここでこの容器は、遠沈管、遠心チューブ、注射器、カートリッジ、チャンバー、複数ウェルプレート、もしくは試験管、またはこれらの組み合わせである。
【0030】
本発明の方法に供される、実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAとしては、全RNA(すなわち、細胞中に見出される全ての型のRNAのような、生物学的材料において見出されるRNAの混合物)、メッセンジャーRNA,トランスファーRNA、リボソームRNAまたはウイルスRNA、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
本発明の方法で使用される両親媒性試薬は、洗浄剤であり得る。この洗浄剤は非イオン性洗浄剤(例えば、tween、triton、nonidet、igepalまたはtergitol)であり得る。
【0032】
本発明はさらに、生物学的材料からの実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを精製するための方法を提供し、この方法は以下の工程を含む:(a)RNA溶解/結合溶液が固体支持体に結合されるように、約7より大きいpHで緩衝化されたそのRNA溶解/結合溶液を用いて前処理されたその固体支持体と、RNAを含む生物学的材料とを接触する工程であって、ここでRNA結合溶液はRNA複合塩を含む、工程;(b)実質的に分解されていないRNAを含む核酸が、その固体支持体に優先的に結合するように、その生物学的材料をその固体支持体に接触する工程;(c)実質的に分解されていないRNAを含む結合した核酸以外の生物学的材料を取り除くために、RNA洗浄溶液を用いて、その固体支持体を洗浄する工程;および(d)実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを得るために、RNA溶出溶液を用いてその固体支持体から、結合した実質的に分解されていないRNAを優先的に溶出する工程。
【0033】
本発明はさらに、生物学的材料から、実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを精製するための方法を提供し、この方法は以下の工程を含む:(a)両親媒性試薬およびRNA複合塩を含むRNA溶解/結合溶液が固体支持体に結合されるように、約7より大きいpHで緩衝化されたそのRNA溶解/結合溶液を用いて前処理されたその固体支持体と、RNAを含む生物学的材料に接触する工程;(b)実質的に分解されていないRNAを含む核酸にその固体支持体を優先的に結合させるように、実質的に分解されていないRNAおよび非核酸生物学的材料を含む核酸を放出するために、その生物学的材料をその固体支持体に接触する工程;(c)分解されていないRNAを含む結合された核酸以外の生物学的材料を取り除くために、固体支持体を洗浄する工程;および(d)実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを得るために、RNA溶出溶液を用いて、その固体支持体から結合されたその分解されていないRNAを優先的に溶出する工程。
例えば本発明は以下を提供する。
(項目1)
核酸を単離および精製するための処方物であって、以下:
少なくとも約1Mの濃度であるリチウム塩、
洗浄剤、および
緩衝剤、
を含有する、処方物。
(項目2)
項目1に記載の処方物であって、さらにキレート剤を含む、処方物。
(項目3)
項目1に記載の処方物であって、さらに還元剤を含む、処方物。
(項目4)
前記処方物が、カオトロープを欠く、項目1に記載の処方物。
(項目5)
前記リチウム塩が塩化リチウムである、項目1に記載の処方物。
(項目6)
前記リチウム塩の濃度が4〜10Mである、項目1に記載の処方物。
(項目7)
前記処方物が約7を超えるpHを有する、項目1に記載の処方物。
(項目8)
前記溶液が約7〜約9の間のpHを有する、項目1に記載の処方物。
(項目9)
前記溶液が約4.5より低いpHを有する、項目1に記載の処方物。
(項目10)
前記洗浄剤が、陰イオン性洗浄剤、陽イオン性洗浄剤、双性洗浄剤、または非イオン性洗
浄剤である、項目1に記載の処方物。
(項目11)
前記洗浄剤が非イオン性洗浄剤である、項目10に記載の処方物。
(項目12)
前記洗浄剤が、tween、triton、nonidet、igepal、またはte
rgitolである、項目11に記載の処方物。
(項目13)
前記洗浄剤が、triton−xおよびジエチルグリコールモノエチルエーテル(DGM
E)の混合物である、項目1に記載の処方物。
(項目14)
前記洗浄剤が、5%v/vのtriton−xおよび5%v/vのDGMEの混合物であ
る、項目1に記載の処方物。
(項目15)
前記溶液の最終容量に対して、前記洗浄剤が約10%v/vの濃度で存在する、項目1
に記載の処方物。
(項目16)
前記緩衝剤が、少なくとも約8のpKaを有する、項目1に記載の処方物。
(項目17)
前記キレート剤がEDTAである、項目1に記載の処方物。
(項目18)
前記還元剤がトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)である、項目1に記
載の処方物。
(項目19)
項目1に記載の処方物であって、さらにタングステン酸塩を含む、処方物。
(項目20)
RNAを含む生物学的物質から、実質的に純粋および分解されていないRNAを精製する
ための方法であって、以下の工程:
(a)該生物学的材料と、RNA複合塩を含有し、約7より大きいpHで緩衝化されたR
NA溶解/結合溶液を混合する工程;
(b)該混合物と固体支持体を接触させる工程であって、その結果、該混合物中の実質的
に分解されていないRNAを含む核酸が固体支持体と優先的に結合する、工程;
(c)結合した実質的に分解されていないRNAを含む核酸以外の生物学的物質を除去す
るために、該固体支持体を一連のRNA洗浄溶液で洗浄する工程であって、ここで該一連
の洗浄溶液が、アルコールおよび濃度が少なくとも1MのRNA複合塩を含む第一洗浄な
らびにアルコール、緩衝剤および必要に応じたキレート剤を含む第二洗浄を含む、工程;
ならびに
(d)実質的に純粋および分解されていないRNAを得るために、RNA溶出溶液を用い
て、該結合した実質的に分解されていないRNAを該固体支持体から優先的に溶出する工
程;
を包含する、方法。
(項目21)
前記RNA溶解/結合溶液が、強カオトロピック物質を含まない、項目20に記載の方
法。
(項目22)
前記溶解/結合溶液の前記RNA複合塩は、濃度約4Mを超えている濃度で存在する、請
求項20に記載の方法。
(項目23)
前記RNA複合塩がアルカリ金属塩である、項目20に記載の方法。
(項目24)
前記アルカリ金属塩が、4M〜10Mの間の濃度で存在している、項目23に記載の方
法。
(項目25)
前記生物学的材料が、粗製の試料、または部分的に精製された核酸の混合物である、請求
項20に記載の方法。
(項目26)
前記生物学的材料が、真核細胞の試料、原核細胞の試料、微生物細胞の試料、細菌細胞の
試料、植物細胞の試料、マイコプラズマの試料、原生動物の試料、細菌の試料、真菌の試
料、ウイルスの試料、酵母の試料、もしくはリケッチアの試料、またはこれらのホモジネ
ートである、項目20に記載の方法。
(項目27)
前記生物学的材料が、全血、骨髄、血斑、血清、血漿、軟膜調製物、唾液、脳脊髄液、ま
たは動物固形組織である、項目20に記載の方法。
(項目28)
前記生物学的材料が、糞、尿、涙液または汗である、項目20に記載の方法。
(項目29)
前記生物学的材料が、空気、水、堆積物または土壌から採取された環境性の試料である、
項目20に記載の方法。
(項目30)
前記固体支持体が、シリカの成分、セルロースの成分、酢酸セルロースの成分、ニトロセ
ルロースの成分、ナイロンの成分、ポリエステルの成分、ポリエーテルスルホンの成分、
ポリオレフィンの成分、もしくはフッ化ポリビニリデンの成分、またはこれらの組み合わ
せを含む、項目20に記載の方法。
(項目31)
前記固体支持体が容器に収容されており、ここで該容器が、遠沈管、遠心チューブ、注射
器、カートリッジ、チャンバー、複数ウェルプレート、もしくは試験管、またはこれらの
組み合わせである、項目20に記載の方法。
(項目32)
前記強カオトロピック物質が、グアニジニウム塩、尿素、アンモニウム塩、セシウム塩、
ルビジウム塩、カリウム塩、またはヨウ化物塩である、項目20に記載の方法。
(項目33)
前記実質的に純粋および分解されていないRNAが、全RNA、メッセンジャーRNA、
トランスファーRNA、リボソームRNAもしくはウイルスRNA、またはこれらの組み
合わせである、項目20に記載の方法。
(項目34)
前記溶解/結合溶液および前記洗浄溶液の前記RNA複合塩が、アルカリ金属塩である、
項目20に記載の方法。
(項目35)
前記アルカリ金属塩がリチウム塩である、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記アルカリ金属塩が、塩化リチウムまたは臭化リチウムである、項目34に記載の方
法。
(項目37)
前記アルカリ金属塩が塩化リチウムである、項目34に記載の方法。
(項目38)
前記キレート剤が、EDTAまたはCDTAである、項目20に記載の方法。
(項目39)
RNAを含有する生物学的材料から、実質的に純粋および分解されていないRNAを精製
するための方法であって、以下の工程:
(a)該生物学的材料とRNA溶解/結合溶液を混合する工程であって、該RNA溶解/
結合溶液が、両親媒性試薬、およびRNA複合塩を含む、工程;
(b)該生物学的材料を該RNA溶解/結合溶液で溶解する工程であって、実質的に分解
されていないRNAを含む核酸および非核酸生物学的物質を含む溶解物を形成する、工程

(c)該溶解物を固定化した固体支持体に接触させる工程であって、その結果、該溶解物
中の実質的に分解されていないRNAを含む該核酸が該固体支持体と優先的に結合する、
工程;
(d)実質的に分解されていないRNAを含む、結合した核酸以外の生物学的材料を除去
するために、該固体支持体を一連のRNA洗浄溶液で洗浄する工程であって、ここで該一
連の洗浄溶液が、アルコールおよび濃度が少なくとも1MのRNA複合塩を含む第一洗浄
、ならびにアルコール、緩衝剤および必要に応じたキレート剤を含む第二洗浄を含む、工
程;ならびに
(e)実質的に純粋および分解されていないRNAを得るために、RNA溶出溶液を用い
て、該結合した分解されていないRNAを該固体支持体から優先的に溶出する工程
を包含する、方法。
(項目40)
前記RNA溶解/結合溶液が、強カオトロピック物質を含まない、項目39に記載の方
法。
(項目41)
前記RNA溶解/結合溶液が、約7より大きいpHで緩衝化されている、項目39に記
載の方法。
(項目42)
前記生物学的材料が粗製の試料または部分的に精製された核酸の混合物である、項目3
9に記載の方法。
(項目43)
前記生物学的材料が、真核細胞の試料、原核細胞の試料、微生物細胞の試料、細菌細胞の
試料、植物細胞の試料、マイコプラズマの試料、原生動物の試料、細菌の試料、真菌の試
料、ウイルスの試料、酵母の試料、もしくはリケッチアの試料、またはこれらのホモジネ
ートの試料である、項目39に記載の方法。
(項目44)
前記生物学的材料が、全血、骨髄、血斑、血清、血漿、軟膜調製物、唾液、脳脊髄液、ま
たは動物固形組織である、項目39に記載の方法。
(項目45)
前記生物学的材料が、糞、尿、涙液、または汗である、項目39に記載の方法。
(項目46)
前記生物学的材料が、空気、水、堆積物または土壌から採取された環境性の試料である、
項目39に記載の方法。
(項目47)
前記非シリカ固体支持体がシリカの成分、セルロースの成分、酢酸セルロースの成分、ニ
トロセルロースの成分、ナイロンの成分、ポリエステルの成分、ポリエーテルスルホンの
成分、ポリオレフィンの成分、フッ化ポリビニリデンの成分、またはこれらの組み合わせ
を含む、項目39に記載の方法。
(項目48)
前記固体支持体が容器に収容されており、ここで該容器が遠沈管、遠心チューブ、注射器
、カートリッジ、チャンバー、複数ウェルプレート、試験管、またはこれらの組み合わせ
である、項目39に記載の方法。
(項目49)
前記強カオトロピック物質がグアニジニウム塩および尿素、アンモニウム塩、セシウム塩
、ルビジウム塩、カリウム塩、またはヨウ化物塩である、項目39に記載の方法。
(項目50)
前記実質的に純粋および分解されていないRNAが、全RNA、メッセンジャーRNA、
トランスファーRNA、リボソームRNAもしくはウイルスRNA、またはこれらの組み
合わせである、項目39に記載の方法。
(項目51)
前記RNA複合塩がアルカリ金属塩である、項目39に記載の方法。
(項目52)
前記アルカリ金属塩がリチウム塩である、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記アルカリ金属塩が、塩化リチウム塩または臭化リチウム塩である、項目51に記載
の方法。
(項目54)
前記アルカリ金属塩が塩化リチウムである、項目51に記載の方法。
(項目55)
前記アルカリ金属塩が、4Mより大きい濃度で存在する、項目51に記載の方法。
(項目56)
前記アルカリ金属塩が、4M〜10Mの間の濃度で存在する、項目51に記載の方法。
(項目57)
前記両親媒性試薬が洗浄剤である、項目39に記載の方法。
(項目58)
前記洗浄剤が非イオン性洗浄剤である、項目57に記載の方法。
(項目59)
非イオン性洗浄剤が、tween、triton、nonidet、igepal、また
はtergitolである、項目58に記載の方法。
(項目60)
前記RNA結合溶液が、必要に応じてキレート剤を含む、項目39に記載の方法。
(項目61)
前記キレート剤が、EDTAまたはCDTAである、項目60に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施例6に記載のプロトコルに従って精製された、ラット脾臓RNAの電気泳動図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(詳細な説明)
本発明は、液状の生物学的試料および乾燥した生物学的試料から、実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを単離するための固体支持体を組み込む、試薬、方法、ならびにキットを提供する。この精製されたRNAは、実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを必要とする、RT−PCRおよびマイクロアレイ分析のような、広く用いられる分析方法および診断方法における使用に適している。
【0036】
本発明は、種々の生物学的材料から、危険な物質(例えば、フェノールおよびクロロホルム)または危険なカオトロピック物質(例えば、グアニジニウム塩、尿素など)の使用を伴わずに、RNAを精製するために使用され得る、独特な試薬の組み合わせを提供する。本発明によって教示される一連の洗浄工程はまた、危険な物質の使用を伴わずに、効果的なRNase活性の阻害、およびより早期の溶解/結合工程からの残留塩の排除を可能とする。
【0037】
本発明によって教示される試薬としては、独特な、溶解/結合溶液、RNA洗浄溶液、およびRNA溶出溶液が挙げられる。適切な固体支持体と併せて使用されるこれらの試薬は、実質的に純粋でありかつ夾雑物が混入していない、非分解RNAを生成するために使用される。
【0038】
このRNA溶解/結合溶液は、生物学的材料を溶解しつつ、溶解後に放出された核酸に、これらの核酸が、夾雑物(例えば、タンパク質、リン脂質など)にではなく、選択される固体支持体に、優先的に結合するような、独特な結合特性を与える。本発明は、例えば、塩化リチウムおよび臭化リチウムが挙げられる、リチウム塩の使用を含む。このリチウムイオンは、その高い表面電荷密度および強い水和性質により、非常にコスモトロピックであるとみなされる。このリチウムイオンは、同じくアルカリ金属族に見出されるナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンおよびセシウムイオンの半径に比べて、小さい半径を有するという点で独特である。このことは、リチウムイオンの表面電荷密度を、アルカリ金属族におけるその他のイオンより大きくする。この大きな表面電荷密度は、リチウムイオンと水分子との強大な相互作用の原因となる。このことは、水分子を、上記イオンの周りで組織化させ、そして第1水和殻を越えてさえの、この構造化された効果を維持させる。
【0039】
本発明の溶解/結合溶液はリチウム塩を含み、故にRNAが吸着機構を通じて異なる固相に結合する。固相へのRNAの吸着を生じるためのリチウム塩の使用は、RNAの沈殿のためのリチウムの使用とは異なる。吸着プロセスにおいて、溶質分子は、RNA分子から分離される。しかし、RNA分子と固相の間の相互作用は、RNA分子相互作用より、エネルギー的により都合が良く、その結果、固相に対する吸着が沈殿の代わりに起こる。適切な固相の例は、ホウケイ酸塩である。
【0040】
本発明のRNA溶解/結合溶液は、緩衝剤中の、RNAと複合体を形成する塩(例えば、塩化リチウムまたは臭化リチウム)、および両親媒性試薬の存在により、グアニジニウム塩、尿素などのような危険なカオトロピック物質の使用を伴わずに、固体支持体への優先的な結合を達成する。このリチウムイオンは、RNAのような核酸の、荷電したリン酸骨格に結合し、高リチウムイオン濃度において、このRNAをより低い溶解性にする(Kazakov S.A.,Nucleic Acid Binding and Catalysis by Metal Ions,in Bioorganic Chemistry:Nucleic Acids,Ed.Hecht,S.M.,Oxford University Press,NY&Oxford,1996)。
【0041】
本発明は、多様な試料の型から最大限にRNAを産生するために、独特に、低い、または中性から高いpHである、RNA溶解/結合溶液の使用を教示する。RNA溶解/結合溶液は、少なくとも約7(例えば、少なくとも約8のpH、少なくとも約8.5のpH、または少なくとも約9のpH)のpHを維持するために緩衝化され得る。RNA溶解/結合溶液は、所望のようにpHを調節するための緩衝剤を含む。この緩衝剤は、少なくとも約8のpKaを有し得る。1つの実施形態においてこの緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)である。RNase酵素は、約5〜6のpH値で非常に活性化していることが観察される。多くのRNase酵素にとって、pH6.0での活性のために必要な、1つのプロトン化ヒスチジン残基および1つの脱プロトン化ヒスチジン残基の存在により、pH6.0は活性のために至適なpHとして観察された。本発明の溶解/結合溶液のpHは低いもの(例えば、約4.5を下回り、またはRNase活性を最小化もしくは排除するためにpH3.5さえ下回る)であり得る;しかし、RNAの収量は、よりアルカリ性のpH値である場合より約4分の1〜5分の1に少なくなる。
【0042】
本発明のために適切なRNA複合塩としては、アルカリ金属イオン(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウム)を含むRNA複合塩が挙げられ、これはそれらのカチオンの全てが、RNA分子のリン酸基に対して特異的に複合体生成するからである。この複合体生成およびその後のRNA分子の中和は、RNA分子の水性環境での安定性を低下させ、そして固相への結合を促進する。本発明の1つの実施形態は、リチウム塩を使用することである。本発明の実施に使用されるリチウム塩としては、塩化リチウムおよび臭化リチウムが挙げられるが、これに限られない。フッ化リチウムおよびヨウ化リチウムは、それらに掛かる費用が塩化リチウムおよび臭化リチウムの費用の約5倍であるので、より所望されないアルカリ塩である。さらに、リチウムイオンは、前述のリストにおいて唯一明確なコスモトロピックイオンである。ナトリウムイオンはコスモトロープの境界であり、一方、カリウムイオン、ルビジウムイオンおよびセシウムイオンはカオトロピックイオンである(Collins,K.Sticky Ions in Biological Systems,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92(1995),5553−5557)。塩化セシウムは、他のアルカリ金属塩化物塩より、約5倍以上の費用が掛かり、そして塩化リチウム塩および臭化リチウム塩よりも、より制限された溶解性性質を有する。さらに、塩化ナトリウム塩、塩化カリウム塩、および塩化アンモニウム塩は、水中のリチウム塩により示される、溶液の大きな発熱により示されるように、塩化リチウム塩および臭化リチウム塩に比べ、さらに大きく制限された溶解性性質を有する(CRC Handbook of Chemistry and Physics,第62版,CRC Press,Boca Raton,Fl.)。
【0043】
固体支持体へのRNAの優先的な結合は、高濃度のアルカリ金属塩により向上する。このアルカリ金属塩は、4M〜10Mの間の濃度であり得る。さらに、高い金属塩濃度は、RNAの結合の維持および洗浄I溶液におけるRNase活性の完全な排除のために必要とされる。
【0044】
実施例2において、溶解/結合溶液中の塩化アンモニウム塩および塩化カリウム塩は、それぞれ3Mおよび<3Mの最大溶解度を有し、一方、塩化セシウム塩および塩化ナトリウム塩は、4Mまで容易に溶解することが観察される。表2に見られ得るように、塩化アンモニウムの値を除き、これらの塩の値は、水溶液中で予想される値とおおよそ一致する(CRC Handbook of Chemistry and Physics,第62版,CRC Press、Boca Raton,Fl.)。塩化アンモニウム塩についての制限された溶解度は、この溶解/結合溶液中のTriton X−100およびDGMEの存在のためであり得る。実施例7において、これらの塩(塩化カリウムは、その制限された溶解度により使用されなかった)を、ブタ脾臓からRNAを精製するために使用した場合、RNAの収量が、溶解/結合溶液にリチウム塩(塩化リチウムまたは臭化リチウム)を使用した場合よりも3分の1〜5分の1に少なくなることが示される。塩化セシウム溶解物、塩化アンモニウム溶解物および塩化ナトリウム溶解物は、本質的にゲル状であり、そしてこれらの塩を使用した場合、リチウム塩を使用した場合ほどホモジナイズおよび溶解が完全ではなく、従って、結果としてよりゲル状の粒子を生じ、そしてより低いRNA収量を生じることが疑われる。塩化リチウム溶解物および臭化リチウム溶解物は流動性であり、そしてそれは引き続く精製工程において容易に使用され、他方その他の塩溶解物は、それらのゲル状の性質により簡単に取り扱えない。研究された塩のほとんどが、4M近くまたは4Mの濃度で溶解するとしても、それらは組織試料の効果的な、溶解またはホモジナイズを提供せず、そしてそれ故試料の取り扱いおよびRNA収量の回復に関しては無効である。
【0045】
実施例2において、55%エタノールを含む洗浄I溶液における塩化セシウム塩、塩化アンモニウム塩、塩化ナトリウム塩および塩化カリウム塩の最大溶解度は、非常に低く、それぞれ2.5M、2M、1.5Mおよび<1Mであることが示される。それらの溶液を利用した精製から得られるRNAの収量もまた低く、この精製において5M塩化リチウムまたは5M臭化リチウムが代わりに使用された場合に比べ、1/3〜1/2であった。先の研究において、最終的に溶出したRNA生成物中に分解したRNAが見られたので、2.5M LiCl洗浄I溶液は、RNase活性に対して無効であることが判明した。さらに実験的な研究は、洗浄I溶液が最も効果的であるためには、少なくとも5MのLiClが必要であることを実証した。エタノールに対する前述した塩の溶解度は、リチウム塩のそれよりさらに大きく制限されるので、RNase活性もまた、リチウム塩を用いた場合よりも、より優勢であろうことが疑われる。
【0046】
コスモトロピックであるマグネシウムイオンおよびカルシウムイオンを含むアルカリ土類金属塩は、RNAと複合塩を形成する特性を有するにも関わらず、RNA分子においてヌクレオチド間のホスホジエステル結合の開裂を触媒するので、RNA精製ストラテジーにおける使用に関して機能的ではない(Kazakov S.A.,Nucleic Acid Binding and Catalysis by Metal Ions,in Bioorganic Chemistry:Nucleic Acids,Ed.Hecht,S.M.,Oxford University Press,NY&Oxford,1996)。さらに、例えば、アルカリ土類金属のベリリウムは、アルカリ金属塩の塩化リチウムまたは臭化リチウムよりも約20倍高価であり、そしてそれ故、本発明での使用において実用的ではない。
【0047】
1つの実施形態において、RNA溶解/結合溶液中の両親媒性試薬は、洗浄剤、界面活性剤、またはこれらの混合物であり、生物学的材料の溶解を支援する。この洗浄剤は、細胞膜の溶解およびホモジナイズプロセスを容易にするために、脂質およびタンパク質のような膜成分を可溶化するために存在する。この界面活性剤は溶液の溶解性を補助するため、ならびに溶液の保存期間の増長を助けるために存在する。この洗浄剤または界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、双性イオン性または非イオン性であり得る。1つの実施形態において、非イオン性洗浄剤が使用される。SDSのような、いくつかの荷電した洗浄剤は、より高い濃度の塩溶液中では可溶化状態を維持せず、そして実際に、それらはかなり速く沈殿する傾向にあり得ることが観察された。しかし、特定の実験的条件下(固体支持体の前処理において、本発明の1つの実施形態において記載された条件を含むが、これに限られない)での、そのような荷電した洗浄剤の使用は可能である。
【0048】
非イオン性洗浄剤の例としては、Tween類、Triton類、Tergitol類およびNonidetまたはIgepal類の洗浄剤由来の洗浄剤が、挙げられる。1つの実施形態において、界面活性剤はDGME(ジエチルグリコールモノエチルエーテル)である。リチウム塩と、洗浄剤または界面活性剤との組み合わせは、中性から高いpHの緩衝剤において、前述した高濃度のそれぞれで、酵素(例えば、概して生物学的材料に関連するRNase)を変性することにも役立つ。必要に応じて、このRNA溶解/結合溶液は、無関係な金属イオンを複合体化するキレート剤、および特定のRNase酵素に見られるジスルフィド結合を、RNaseを完全に変性するために、還元する還元剤をも含み得る。
【0049】
本発明はまた、上記固体支持体から、タンパク質およびリン脂質のような不純物を最も効果的に取り除く一方で、上記核酸を上記固体支持体に結合したままにさせるための、RNA洗浄系の使用を組み込む。この洗浄系は、アルカリ金属塩(例えば、約5Mのリチウム塩)およびアルコール(例えば、約55%のエタノール)を含む、洗浄I溶液を含む。洗浄I溶液における高リチウム塩濃度は、この洗浄系の重要部分である。その主な目的は、洗浄I工程直前において、固相材料を通過する最初の溶解物から、固体支持体材料に非特異的に吸着するRNase酵素のRNase酵素活性の完全かつ徹底的な排除を確保することである。この溶解/結合溶液および洗浄I溶液の両方に存するリチウム塩の高濃度は、2つの目的を提供する。第1に、このリチウム塩の高濃度は、溶液に、効果的なRNase変性特性を与える。例えば、高濃度の塩化リチウムは、RNase Aを効果的に変性することが示されている(Ahmad,F.,Free Energy Changes in Ribonuclease A Denaturation,J. Biol. Chem.,258,18(1983)pp.11143−11146;Ahmad,F.,Free Energy Changes in Denaturation of Ribonuclease A by Mixed Denaturants,
J. Biol. Chem.,259,7(1984)pp.4183〜4186)。第2に、高リチウム濃度は、溶解/結合溶液に由来する結合を生じる一方で、結合したRNAは、洗浄I溶液の使用の間は固相上に保持され、エタノールと組み合わせて使用される。
【0050】
この洗浄II溶液(エタノール、EDTAおよび中性pH6〜8にて緩衝化されたTrisを含む)は、結合したRNAおよび固相材料から、残存するリチウム塩を洗い流すために、洗浄I溶液に引き続き使用される。このことは、最終的に溶出するRNA生成物が、後続の適用において阻害的な塩イオン濃度を含有することを防ぐ。特に、沈殿剤としてのLiClの使用に起因する塩化物イオンが、RNA依存性DNAポリメラーゼの活性を抑制することにより、逆転写を阻害し得ることが報告されている(Sambrook,J.,Frisch,E.F.,およびManiatis,T.(1989) Molecular Cloning A Laboratory Manual,Vol.3,第2版、付録E.10)。しかし、上記報告は、本発明で教示される溶液処方物を使用して観察されなかった。なぜなら、洗浄II溶液(溶出の前に固相材料を2回洗浄するために使用される)が溶出物の塩化物混入を排除するようであるからである。このRNA精製方法は、マイクロアレイ技術に関して使用されるRNAを精製するために、使用され得る。
(以下の実施例8を参照のこと。)
適切な固体支持体と組み合わせた、上記RNA溶解/結合溶液、およびRNA洗浄溶液の簡易性および効率性は、単純なRNA溶出溶液(例えば、RNaseを含まない水またはDEPC処理された水)の使用を生じる。
【0051】
本発明はまた、生物学的材料からのRNAの単離に関する方法を教示する。この生物学的材料としては、例えば、細胞懸濁液またはウイルス懸濁液、体液および老廃物、全血、骨髄、軟膜、血漿、培養細胞、全ての懸濁液(例えば、細菌、組織ホモジネート)、粗製の核酸混合物または部分的に精製された核酸混合物、ならびに環境性の試料が挙げられる。この環境性の試料としては、例えば、空気、水または土壌が挙げられる。
【0052】
このRNA溶解/結合溶液の汎用性および有効性は、RNA単離のための2つの実行可能な択一的方法に役立つ。第1の方法において、上記生物学的材料を、上記固体支持体と接触させる前に、上記RNA結合/溶解溶液と接触させる。1つの実施形態において、上記生物学的材料が、細胞材料またはウイルス材料を含む場合、このRNA溶解/結合溶液は、その細胞を溶解してRNAを含む核酸を放出するために使用される。第2の方法において、このRNA溶解/結合溶液を上記固体支持体に直接的に添加してその溶液が固体支持体に結合することを可能にし、それにより工程を削除し、そしてさらにこの方法を簡略化する。この後者の方法において、上記RNA溶解/結合溶液を上記固体支持体に直接的に適用し、そしてその後、上記生物学的材料を処理された固体支持体と接触させる前に、その固体支持体上で乾燥させる。
【0053】
適切な固体支持体としては、シリカベースの支持体(例えば、ガラス繊維)、または他の材料(例えば、セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ナイロン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、フッ化ポリビニリデン)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。上記固体支持体は、容器に入れられ得るかまたは固定化され得、プラグ流れ(plug−flow)RNA単離方法または定常流RNA単離方法を可能にする。あるいは、上記固体支持体の材料は、適した容器(例えば、チューブまたはプレート)に固定され得るかまたは入れられ得る自立型(free−standing)の固体支持体(例えば、膜、ディスクまたはシリンダー)を作製するためにパックされ得る。1つの実施形態において、上記固体支持体は、繊維状または粒子状であり得、上記生物学的材料との最適な接触を可能にする。
【0054】
本発明はまた、RNAを精製するためのキットを提供し、このキットは、生物学的試料から実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを調製する指示手段、および以下のRNA溶解/結合溶液(別個の溶液としてか、または、固体支持体上に前処理されたもののいずれか)、RNA溶解/結合溶液で処理していないかまたは処理したかのいずれかである固体支持体、RNA洗浄溶液、RNA溶出溶液またはこれらの任意の組み合わせのうち1つまたは全てを含む。加えて、上記キットは、補助的な成分(例えば、プロテイナーゼ K溶液および組織試料とともに使用するための前除去(pre−clear)カラム)、その固体支持体を収容するための容器、実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを収容するための容器、およびそれらの組み合わせを含み得る。実質的に純粋で、分解されていないRNAとは、当業者に公知の後の分析(例えば、RT−PCR、インビトロ翻訳、ノーザンブロッティング、マイクロアレイ分析など)における使用に適したRNAである。
【0055】
本発明は、生物学的試料からRNAを精製するための、試薬、方法およびキットを提供する。そのような生物学的試料としては、代表的には水溶性混合物状態である生物学的材料または乾燥状態であるRNAを含有する生物学的材料が挙げられ、これらの生物学的試料は、原核細胞または真核細胞の複雑な生物学的混合物を含むRNAを含有する。本発明の方法およびキットは、広い範囲のRNAを単離する。候補のRNAとしては、リボソームRNA、メッセンジャーRNA、トランスファーRNA、およびウイルスRNA、またはこれらの混合物が挙げられるが、これに限られず、その全てが、広い分子量範囲に渡って回収され得るものである。代表的には、上記生物学的材料はまた、DNA、炭水化物、タンパク質および脂質を含む。生物学的材料としては、以下の、体液(例えば、全血、骨髄、血斑、血清、血漿、軟膜調製物、唾液および脳脊髄液);口内塗抹標本;培養細胞;細菌の細胞懸濁液または組織ホモジネート;動物固形組織(例えば、心臓、肝臓および脳);体内老廃物(例えば、糞および尿);空気、水、堆積物または土壌から採取される環境試料;植物組織;酵母;細菌;ウイルス;マイコプラズマ;真菌;原生動物;リケッチア;および他の小さな微生物細胞が挙げられるが、これに限られない。溶解物、ホモジネート、またはこれらの生物学的材料を部分的に精製した試料もまた、使用され得る。1つの実施形態において、上記生物学的材料は、粗製の核酸混合物または部分的に精製された核酸混合物である。
【0056】
本発明の試薬、方法およびキットは、ゲノムDNAまたは他の不純物が比較的ほとんど混入しておらず、その結果このRNAは、後続のプロセス(例えば、RT−PCRおよびマイクロアレイ分析)で使用され得る、実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAを提供する。本明細書で使用される場合、「実質的に純粋」とは、ゲノムDNA、炭水化物、タンパク質、脂質不純物を実質的に含まず、その結果、このRNAは、当業者にとって公知の後の分析(例えば、RT−PCRおよびマイクロアレイ分析)で使用され得ることを意味する。本明細書中で使用される場合、「実質的に分解されていない」RNAとは、消化されていないRNAまたはインタクトなRNAを意味し、これらのRNAは、当業者による標準的な技術を使用によって、容易に測定され得る。つまり、そのRNAは、本発明の精製方法の間に、酵素的手段、物理的手段または化学的手段による損傷を受けない。
【0057】
本発明の試薬、方法およびキットは、広範囲の生物源および生活型に渡って、実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAの単離に使用され得る。これらのRNA全ては、広い分子量範囲に渡って回収され得る。本発明の実施によって得られる実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAはまた、純度、収量、大きさ、逆転写酵素または他のハイブリダイゼーションプロセス、増幅、ハイブリダイゼーション能力などについて評価され得る。上記の実質的に純粋でありかつ分解されていないRNAは、上記生物学的試料中に見出される全RNAの見本であり、そしてそのRNAは、代表的には、mRNA、tRNA、rRNAおよびウイルスRNAの組み合わせであるが、これに制限されない。
【0058】
上記生物学的試料としては、例えば、細胞懸濁液またはウイルス懸濁液およびこれらのペレット、体液、ならびに組織ホモジネートなどが挙げられる。上記生物学的試料が、細胞またはウイルスからなる場合、この細胞またはウイルスは、数えられ得る。上記計数は、電子細胞カウンター(例えば、CBC5 Coulter Counter,Coulter Corp.,Hialeah,FL)または視覚的血球計算盤(例えば、血球計、Bright Line,American Optical,Buffalo,NY)のような、標準的な細胞カウント方法を使用して行われ得る。
【0059】
(1.試薬)本発明は、3つの部類の試薬を開示する。これらは、RNA溶解/結合溶液、RNA洗浄溶液、およびRNA溶出溶液である。
【0060】
((i)RNA溶解/結合溶液)RNA溶解/結合溶液は、核酸を最適な固体支持体に優先的に結合させ、この核酸を放出するための生物学的試料の効率的な溶解を可能にし、そしてRNase活性を効果的に阻害する。本発明のRNA溶解/結合溶液は、以下の成分、緩衝剤;リチウム塩;両親媒性試薬(例えば、洗浄剤もしくは界面活性剤またはこれらの混合物);ならびに必要に応じてキレート試薬、還元試薬およびタングステン酸塩試薬を有する。本発明のRNA溶解/結合溶液は、添加される強カオトロピック物質(例えば、グアニジニウム塩、尿素など)を必要としない点で独特である。グアニジニウム塩および尿素は、強カオトロピック塩であり、水の構造を壊し、従って、他の溶質分子に対して劇的な影響を生じる疎水性相互作用の強度を減少させる傾向がある、強カオトロピック塩である。例えば、尿素は、水に溶解した場合、タンパク質の2次構造、3次構造、および4次構造を破壊し、そしてその後、RNAからのタンパク質の解離を生じる。グアニジニウム塩および尿素は、吸熱反応を介して水に溶解する。グアニジニウム塩および尿素の両方は、ホフマイスター順列によって定義されるように、強力なカオトロピック塩であると見なされる。このホフマイスター順列は、相対的なカオトロピック強度に従ってカチオンおよびアニオンを位置付ける、広く使用されている系である(F.Hofmeister,On the understanding of the effects of salts,Arch.Exp.pathol.Phamakol.(Leipzig)24(1888)247−260)。
【0061】
強カオトロピック塩とは異なり、水中におけるリチウム塩(例えば、塩化リチウムおよび臭化リチウム)は、発熱反応であり、この強コスモトロピックリチウムイオンによって現される強力なイオン−双極子相互作用および生じる大きな溶解度を示す。これらのような相違は、強カオトロピック物質(例えば、グアニジニウム塩)と本発明のアルカリ金属塩(特に、塩化リチウム)との間の相違を示す。
【0062】
上記RNA溶解/結合溶液の第1の成分は、この溶液のpHを維持する緩衝剤である。例えば、上記pHは、少なくとも約8であり得、少なくとも約8.5であり得るか、または少なくとも約9と等しいpHであり得る。上記緩衝剤は、少なくとも約8のpKaを有し得、そしてこの緩衝剤は、10mM〜100mMの濃度で使用され得る。適切な緩衝剤の例は、Tris緩衝剤である。必要に応じて、塩基は、上記RNA溶解/結合溶液のpHを調整するために使用され得る。上記塩基は、上記溶液のpHを少なくとも7まで上昇させ得る塩基であり得る。上記塩基は、アルカリ金属水酸化物であり得る。そのようなアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムが挙げられる。
【0063】
上記RNA溶解/結合溶液の第2の成分は、核酸(例えば、RNA)に対して独特な結合特性を与えるRNA複合塩であり、その結果、この核酸は、他の夾雑物(例えば、タンパク質、リン脂質など)よりも優先的に固体支持体に優先的に結合し得る。例えば、そのようなRNA複合塩は、リチウム塩(例えば、塩化リチウムまたは臭化リチウム)であり得る。上記塩は、4M〜10Mの間の濃度で存在し得る。なぜなら、RNAの固体支持体への優先的な結合は、高濃度のアルカリ金属塩よって向上するからである。
【0064】
このRNA溶解/結合溶液は付加的に、1つまたはそれ以上の両親媒性試薬を含む。両親媒性試薬は、疎水性官能基(例えば、炭化水素鎖)に結合された親水基を有し、かつ界面活性剤特性を有する化合物または分子を含有する。1つの実施形態において、この両親媒性試薬は洗浄剤である。アニオン性洗浄剤、カチオン性洗浄剤および双性イオン性洗浄剤の全てが使用され得るが、RNA単離は、非イオン性洗浄剤の使用により最適に達成される。任意の非イオン性洗浄剤か使用され得るが、非イオン性洗浄剤の例は、Tween類(Tween−20、Tween−40、Tween−60、Tween−80など)、Triton類(X−100、X−114、XL−80Nなど)、Tergitol類(XD、TMN−6など)およびNonidet類またはIgepal(NP−40など)由来のものである。この非イオン性洗浄剤は、5%〜15%(例えば、約10%)の濃度で使用され得る。別の実施形態において、この両親媒性試薬は、DGME(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)のような界面活性剤である。この界面活性剤は、5%〜15%(例えば、約10%)の濃度で使用され得る。さらに別の実施形態において、洗浄剤および界面活性剤の組み合わせが使用され得る。1つの実施形態において、洗浄剤および界面活性剤の組み合わせとしてTriton−XおよびDGMEが使用される。この組み合わせは、5%〜15%(例えば、約10%)の濃度であり得る。1つの実施例において、この組み合わせは、5% Triton−Xおよび5% DGMEである。
【0065】
RNAの分解を防ぐために、RNaseを含まない水が、上記RNA溶解/結合溶液において使用される。必要に応じて、キレート剤がまた、混入するDNAの分解を防ぐために、どちらかの溶液において使用され得る。このキレート剤の使用は、さらなる混入問題を引き起こし得る、DNAポリマーの小さい断片への分解を防ぐ。このキレート剤は、1mM〜100mMの濃度で、または1mM〜10mMの濃度で存在し得る。キレート剤の例は、EDTAまたはCDTAである。必要に応じて、還元剤がこのキットに加えられ得、そして還元剤はRNaseのジスルフィド結合を還元するために使用される。これは高RNase含有組織(例えば、脾臓および膵臓)において必要な追加であり得る。この還元剤は、TCEP(トリス(カルボキシエチル)ホスフィン)またはβ−ME(β−メルカプトエタノール)であり得る。1つの実施形態において、この還元剤はTCEPである。この還元剤の濃度は1mM〜100mMであり得る。1つの実施形態において、この還元剤は、10mM〜50mMの濃度で存在する。必要に応じてまた、タングステン酸塩成分(例えば、タングステン酸ナトリウム)が、この溶解/結合溶液に加えられ得る。タングステン酸塩は、特定の支持体(例えば、セルロースから作製される固体支持体)を使用する場合に必要な成分であり得る。これらの支持体におけるタングステン酸塩の正確な機能は知られていないが、それは組織試料溶解物の脱タンパク質化または脱グリコシル化を助け、そして核酸を結合させるようである。培養細胞は代表的に、そのような高いレベルの構造的かつ代謝的なタンパク質を有さず、そしてそれ故細胞試料からの単離は、必ずしもタングステン酸塩の使用により改良される必要はない。しかし、タングステン酸塩は、特に、動物組織からの核酸の単離を支援するようである。
【0066】
本発明のRNA溶解/結合溶液は、他の記載された試薬を上回る有意な利点を有する。中性pHから高pH緩衝剤中での、高濃度のRNA複合化リチウム塩および高濃度の洗浄剤の独特な組み合わせは、フェノール、クロロホルムおよびグアニジニウム塩のような試薬を使用せずに、RNAにとって有害な酵素(例えば、RNase)を不活性化する。付加的に、この溶液は、上記核酸に高い結合特性を与え、結果として、核酸は最適な固体支持体と堅く結合する。
【0067】
((ii)RNA洗浄溶液:)本発明はまた、核酸が、非核酸夾雑物(例えば、タンパク質、リン脂質など)を排除して結合する、固体支持体を洗浄するための強力なRNA洗浄溶液を教示する。このRNA洗浄溶液は、50%より大きい濃度のアルコールを含み得る。
【0068】
上記洗浄I溶液は、リチウム塩(例えば、塩化リチウム)のような、高い塩濃度を含み得る。このリチウム塩濃度は、4M〜10M(例えば、5M〜8Mで)であり得る。本発明の目的において、上記高い塩濃度は、RNase活性を阻害するために、および複合体化するために十分に高い塩濃度を意味し、そして固相へのRNAの結合に影響する塩析を提供する。この洗浄I溶液はさらに、アルコール(例えば、エタノール)を含む。このアルコールの濃度は、50%〜80%(例えば、55%〜65%)である。
【0069】
上記洗浄II溶液は、緩衝剤、アルコール、および必要に応じてキレート剤(EDTA)を含む。本発明の目的において、この洗浄II溶液は、任意の残りの生物学的材料を取り除くための最終的な洗浄を提供する。上記緩衝剤組成物は、Tris HCl(例えば、pH6〜8である)であり得る。この緩衝剤濃度は、50mM〜150mM(例えば、100mMである)であり得る。上記アルコールはエタノールであり得る。このアルコールの濃度は、50%〜90%(例えば、70%である)であり得る。上記EDTAの濃度は、1mM〜20mM(例えば、5mM〜10mMである)であり得る。
【0070】
((iii)RNA溶出溶液:)固体支持体に結合したRNAは、RNA溶出溶液を使用して溶出され得る。本発明によって教示される、生物学的材料の溶解、および固体支持体へのRNAの結合、ならびにこの固体支持体の洗浄において使用される試薬の単純性は、単一のRNA溶出溶液に向いている。1つの実施形態において、RNaseを含まない水が使用され得る。例えば、この水は、ジエチルピロカーボネート(DEPC)のようなRNaseを不活性化する物質を用いて処理され得る。当業者にとって公知である他のRNA溶出溶液もまた使用され得る。例えば、使用され得るRNA溶出溶液としては、Gentra Solid Phase RNA Elution Solution(Gentra Systems,Inc.,Minneapolis,MN)である。
【0071】
(2.固体支持体:)本発明において、種々の固体支持体が使用され得る。これらとしては、シリカベースの固体支持体、ならびにセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ナイロン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、フッ化ポリビニリデン、およびこれらの組み合わせから作製される固体支持体が挙げられる。本発明の試薬との使用に適する固体支持体の大きさは、生物学的材料の容積に応じて異なり得る。例えば、ガラス繊維膜は、異なる量のRNAの、結合、精製、および溶出を可能にするために、異なる大きさに切断され得る。
【0072】
1つの実施形態において、上述された前記RNA溶出/結合溶液の存在下で、上記固体支持体は、他の生物学的夾雑物に代わって、核酸の固体支持体への優先的な結合を可能にする材料であり得る。そのような固体支持体はシリカベースのガラス繊維材料またはホウケイ酸ガラス繊維材料であり得る。正電荷の、ケイ素原子およびホウ素原子に対する特異的な結合特性、ならびにケイ酸表面の水素結合特性によって、ガラス繊維材料はより良い収量を提供する。核酸に対するシリカの特異性によって、他の夾雑物と比べてより多くのRNAが結合し、その溶出生成物は、より実質的に純粋になる。
【0073】
本発明の試薬との使用に適した上記固体支持体の形状は、例えば、シート、プレカットディスク、シリンダー、単繊維、または粒子から構成される固体支持体であり得る。上記固体支持体の材料は、適切な容器に固定化され得るか、または入れられ得る自立型の固体支持体(例えば、膜、ディスクまたはシリンダー)を作製するためにパックされ得る。必要な場合、上記固体支持体は、適切な容器(例えば、Guthrie cardのようなペーパー状、微量遠心分離チューブ、遠心チューブ、96ウェルプレート、チャンバー、またはカートリッジ)に含まれる。上記固体支持体が繊維を含む場合、その固体支持体は、その繊維を適切にパックするように適切な容器に入れられ得、最適な核酸の結合および夾雑物(例えば、タンパク質、リン脂質など)の洗浄を可能にする。
【0074】
1つの実施形態において、上記固体支持体は、上記RNA溶解/結合溶液で前処理され得、RNA単離、ならびに上記生物学的材料を溶解するための工程の数を減らし、そして、1つの工程で上記核酸を結合する。1つの実施形態において、上記固体支持体を処理するために使用されるRNA結合/溶解溶液の容量は、上記固体支持体の総容量の少なくとも10倍である。別の実施形態において、上記RNA結合/溶解溶液の容量は、上記固体支持体の総容量の少なくとも半分であるか、またはこのRNA溶解/結合溶液の容量は、この固体支持体の総容量と一致する。上記固体支持体の総容量とは、この固体支持体の外部境界によって定められる容量を言う。上記外部境界は、上記固体支持体を含む容器の形
および/または内部境界によって決定され得る。上記溶解/結合溶液は、上記固体支持体の内部空間内に捕捉されることにより、または上記固体支持体の材料(例えば、繊維、ビーズなど)上に沈着されることにより、共有結合的に、非共有結合的に結合され得る。1つの実施形態において、上記RNA結合/溶解溶液は、上記固体支持体上で乾燥することが可能とされる。
【0075】
本発明の別の実施形態において、上記RNA結合/溶解溶液は、上記固体支持体の作製に使用された材料(例えば、繊維など)に直接的に添加され得、そして最終使用者準備形態(final user−ready form)(例えば、ペーパー、塗抹標本、ディスク、プラグ、カラムなど)にされる前に乾燥することを可能にされ得る。
【0076】
本発明がより良く理解されるために、上記固体支持体を含むための容器の特定の実施形態をこれから、より詳細に記載する。
【0077】
本発明の1つの実施形態において、上記容器は、その上端に1つまたはそれ以上の注入ポートまたは貫通可能なセプタを備えたカートリッジである。上記注入ポートは、上記試料または試薬を含む容器の上部に、コネクタ(例えば、メス型Luer−Lock)を介して接続される。1つの注入ポート(サンプルポート)は、上記生物学的試料を上記固体支持体に適用するために使用される。上記サンプルポートにおける随意的な特徴は、サンプルポートを通してサンプルが移された後にサンプルポートを密封という自己密封機構である。第2の注入ポートは試薬ポートとして働く。両方の注入ポートにおける随意的な特徴は、保護性の壊れ易い封である。さらに、上記注入ポート、壊れ易い封および分散器は、任意のねじふた内に内蔵され得る。上記固体支持体の底は、細胞破片、タンパク質および脂質分子の分散および通過に適した孔径を有する任意の分散器である。上記分散器は、カートリッジの断面を横切る生物学的材料の均一な横断を可能にし、そして上記固体支持体の上または下のどこにおいても、生物学的材料の不均等な蓄積を防ぐ。上記カートリッジの排出口は、テーパー付けされたバレル上にきちんと適合する保護蓋を備える。上記精製されたRNAは、容易でありかつ混入を含まない保存のためのスナップ蓋を有する円錐管からなる回収チューブ内に集められる。上記容器の全体は、処理されるサンプルの大きさおよび後の分析に必要とされる収量に応じた大きさに、調整され得る。
【0078】
本発明の別の実施形態において、上記容器は、挿入物を保持するように設計された遠心チューブであり、この挿入物には上記固体支持体がパックされる。上記固体支持体はシリカベース、セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ナイロン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、フッ化ポリビニリデン、およびこれらの組み合わせであり得る。1つの実施形態において、上記支持体は、シリカベースのホウケイ酸ガラス繊維膜である。上記挿入物は、上記遠心チューブ内にこの挿入物を保持するためのフランジ先端(flanged top)、および液体を通過させる一方で、上記固体支持体の支持を可能にする穿孔底を有する。上記遠心チューブにつながれた蓋は、挿入物を覆うために使用され得る。溶液(例えば、非核酸夾雑物を含むRNA溶解/結合溶液、RNA洗浄溶液、またはRNAを含むRNA溶出溶液)は、穿孔底を通過し、そして前述の溶液を排出する遠心力により遠心チューブの底に回収される。
【0079】
さらに別の実施形態において、上記容器は、複数ウェルプレート、例えば、固体支持体をそれぞれのウェル内にパックする、6、12、24、48、96、または384ウェルプレートであり得る。それぞれのウェルの底は、出口ポートを有し、そこを混入物または精製RNAを含む溶液が通過し得る。
【0080】
独特な試薬(RNA溶解/結合溶液、RNA洗浄溶液、およびRNA溶出溶液)を有する最適な固体支持体の独特な組み合わせは、実質的に純粋で、分解されていないRNAの単離を生じる。前述のRNA溶解/結合溶液の特性は、上記核酸の上記固体支持体への優先的な結合を可能にする一方で、上記RNA溶出溶液は、この固体支持体からのRNAの
優先的な溶出を可能にする。
【0081】
(3.方法:)本発明はまた、生物学的材料からRNAを精製するための方法を提供する。本発明において教示される試薬および固体支持体は、2つの代替の単離方法に役立つ。第1の方法において、この生物学的材料は、固体支持体と接触する前に、RNA溶解/結合溶液と接触させられる。上記RNA溶解/結合溶液は、生物学的材料を溶解し、そして固体支持体にそれを添加する前にRNAを放出するために使用される。さらに、上記RNA溶解/結合溶液は、有害な酵素(例えば、RNase)の有害な影響を妨げる。上記RNA溶解/結合溶液は、ペレットにおいて培養細胞または白血球細胞を溶解するために、または培養プレート(例えば、標準96ウェルプレート)に接着しているか、または回収された細胞を溶解するために、首尾よく使用され得る。上記生物学的材料が、組織塊または小さな粒子を含む場合、上記RNA溶解/結合溶液は、その効果的な溶解能力により、このような組織塊を粉砕してスラリーにするために、効果的に使用され得る。上記RNA溶解/結合溶液量は、細胞の数または組織の大きさに応じてスケールアップまたはスケールダウンされ得る。一旦、生物学的材料を溶解すると、その溶解物は直接固体支持体に添加され得るか、または溶解物から大きな粒子を排除するために、前除去膜の中に通され得る。適切な製品の例は、Gentra Solid Phase RNA Pre−Clear Column(Gentra Systems,Inc.,Minneapolis,Minnesota)である。
【0082】
第2の方法において、上記RNA溶解/結合溶液は、直接、固体支持体に添加され得、それにより工程を除去し得、そしてさらに方法を単純化し得る。この後者の方法において、上記RNA溶解/結合溶液は、固体支持体に適用され得、次いで処理した固体支持体と上記生物材料を接触させる前に、固体支持体上で乾燥され得る。例えば、1つの実施形態において、適切な量のRNA溶解/結合溶液は、Spin−X(登録商標)バスケット(basket)(Costar,Corning NY)に配置された固体支持体に直接添加される。ここで、Spin−Xバスケットは、さらに2mL遠心チューブに配置されている。いくらか過剰の結合していないRNA溶解/結合溶液が除去された後、上記固体支持体は、乾燥まで少なくとも12時間、40℃〜80℃の間の温度で加熱され、そして次に乾燥下で保存される。上記生物学的材料は、上記RNA溶解/結合溶液を用いて前処理された上記固体支持体に直接添加され得、そして生物学的材料が適切に溶解し、そして核酸が放出され、そしてこの固体支持体に結合するまで、少なくとも1分間(例えば、少なくとも5分間)インキュベートすることを可能にし得る。
【0083】
上記生物学的材料が、細胞材料またはウイルス材料を含む場合、上記RNA溶解/結合溶液との直接接触、またはこのRNA溶解/結合溶液で前処理した固体支持体との接触は、細胞膜および核膜、またはウイルス外被を可溶化および/または破裂し、それにより核酸ならびに他の混入物質(例えば、タンパク質、リン脂質など)を放出する。放出された核酸は、上記RNA複合リチウム塩の存在下で、固体支持体と選択的に結合する。上記必要に応じて還元剤を含有することは、RNase活性減少の提供を支援し、このことは、高RNase含有組織(例えば、脾臓および膵臓)において必要であり得る。
【0084】
このインキュベーション期間の後、適切な手段(例えば、遠心分離、ピペッティング、加圧、減圧)により、または核酸が上記固体支持体に結合したままにされるような、RNA洗浄溶液とこれらの手段とを組み合わせた使用により、上記生物学的材料の残留物は、必要に応じて除去される。タンパク質、リン脂質などを含む、上記非核酸生物学的材料の残留物は、遠心分離によって最初に除去され得る。これを行うことによって、上記溶解物中の結合されていない夾雑物は、上記固体支持体から分離される。上記複数の洗浄工程は、上記固体支持体から実質的に全ての夾雑物を除去し、そしてこの固体支持体に優先的に結合したRNAを残す。
【0085】
その後、上記結合したRNAは、適量の当業者に公知のRNA溶出溶液を使用して溶出され得る。上記固体支持体はその後、遠心分離され得るか、または加圧もしくは減圧に供され得、この固体支持体からRNAを放出し、次いでRNAは適切な容器に回収され得る。
【0086】
本発明の別な局面として、特定のプロトコルを含むキットが提供され、このプロトコルは、本明細書に記載される試薬および随意的に固体支持体と組み合わせて、本発明の方法に従った生物学的材料から、RNAを精製するために使用され得る。本発明は、以下の詳細な実施例への言及によりさらに記載される。これらの実施例は、種々の特定的かつ例示的な実施形態および技術を、さらに説明するために提供される。しかし、本発明の範囲内でありながら、多くの変化および改変が成され得ると理解されるべきである。
【0087】
以下に言及される全ての未加工の材料は、市販供給源(例えば、Sigma Chemical Company,St.Louis,MO)から容易に入手可能である。全ての割合は、他に規定されない限り、上記試薬の全量に基づいた容量/容量である。
【実施例】
【0088】
(実施例1:費用分析)
最良の品質の固相RNA精製生成物を製造するために、この製品は、いくつかの点において非常に良く機能しなければならない。上記固相RNA精製生成物は、種々の試料型から純粋なRNA試料を効果的に単離するべきであり、そして可能な限りRNA収量を生じるべきである。それはその工程が、過度に面倒であってはならないという意味で使いやすいきであり、そしてその成分は、有毒であってはならずかつ容易に処分され得る。さらに、上記製品は、利用者にとって経済的であるべきである。従って、上記溶液について費用効率の良い成分を見出すことが、必須であった。表1は、本明細書中で評価したそれぞれの塩に対する費用を示す。
【0089】
【表1】


上記リチウム塩は、本発明の方法に対して十分に機能するが、このリチウム塩、LiFおよびLiIは高価であり、そしてさらに、LiFは非常に危険である。LiClおよびLiBrは両方とも、本発明の方法と用いて良好に機能し、そして500グラムあたり60ドル〜65ドルとほぼ同じ費用である。KCl、NaCl、およびNHClは全て経済的であるが、所望されるRNA収量を生じない。以下の実施例2および実施例7を参照のこと。
【0090】
(実施例2:塩化物塩に対する溶解度および溶解熱のデータならびに固相RNA精製手順のためのLiCl塩およびLiBr塩に対する比較)
いくつかの塩化物塩の溶解度および性能を調べ、そしてそれを2つのリチウム塩(塩化リチウムおよび臭化リチウム)と比較した。上記溶解/結合溶液および洗浄I溶液の両者を、この両者の緩衝剤および洗浄剤ベースの溶解/結合溶液、ならびにエタノールベースの洗浄I溶液において得られる最大の溶解度を調べるために他の塩化物塩を使用して調製した。表2は、本研究において測定されたおおよその最大の溶解度を示し、そしてそれを、20℃に外挿した、溶解度のデータの表、ならびに、Handbook of Chemistry and Physics(第62版,CRC Press,Boca Raton,Fl.)から入手した溶解熱のデータの表と比較する。
【0091】
上記溶解/結合溶液において研究したほとんどの塩化物塩の溶解度は、塩化カリウムウおよび塩化アンモニウムの溶解度を除き、4Mの濃度での塩化リチウム塩および臭化リチウム塩に匹敵した。塩化カリウムの予測された溶解度は、上記他の塩の溶解度と比較した場合には低く、水溶液中で約3Mであった。上記他の塩は、水溶液中で4Mより多く溶解可能であることが予測されたが、約7Mの予測された溶解度と比較した場合、塩化アンモニウム塩は約3Mまでしか溶解しないことが観察された。このことは、溶液中のTriton X−100(5%)およびDGME(5%)の存在に起因し得る。なぜなら、溶液中におけるこれらの成分の組み合わせは10%であるからである。上記塩を除く、上記溶解/結合溶液の残部を、全ての溶液中で定常を保ち、そしてそれはpH8.8の100mM TRIZMA中で5% Triton X−100、5% DGME(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)、10mM EDTA、10mM TCEP、1%タングステン酸ナトリウムを含有した。
【0092】
本研究において測定された全ての他の塩化物塩の溶解度は、洗浄I溶液中において、上記リチウム塩(塩化リチウムおよび臭化リチウム)よりも有意に低かった。塩化セシウム塩、塩化アンモニウム塩、塩化ナトリウム塩、および塩化カリウム塩については55%エタノール中において得られた最大の溶解度は、それぞれ、約2.5M、約2M、約1.5M、および<約1Mであった。これは、精製に使用するために上記LiCl溶液および上記LiBr溶液を調製した、5Mよりも有意に低い。2.5M LiCl洗浄I溶液において、上記最終的に溶出したRNA生成物中の分解されたRNAとして、RNase活性を少なくとも回数の半分で検出した。さらなる実験的研究は、上記洗浄I溶液において上記RNase活性を排除するためには、少なくとも5M LiClを必要とすることを実証した。上記LiCl塩および上記LiBr塩を使用してもまた、少なくとも精製回数にある程度比例して、そして上記RNAが精製される組織に依存して、RNase活性は検出されるようである。表2に示すように、洗浄Iについて観察された上記塩の溶解度は、上記塩化リチウム塩および臭化リチウム塩、ならびに塩化ナトリウムの、純粋なアルコールまたは純粋なエタノールに対する予想された溶解度に匹敵する。しかし、上記予想された溶解度は、本研究で実証された上記セシウム塩、アンモニウム塩およびカリウム塩に対する溶解度とはいくぶん異なった。このことはおそらく、溶解度の定義が予想されたアルコール溶解性に対していくぶん曖昧であり、そして本実験で使用された洗浄I溶液が、純粋なアルコール溶液以外の水エタノールの混合物を含むからである。
【0093】
水における塩化リチウムおよび臭化リチウムの溶液の大きな発熱は、一般的なリチウム塩よって示される大きな溶解度に関する実証を与えた。本実施例における他の塩化物塩は、溶液の吸熱を示し、このことはこれらの塩の溶媒和は上記リチウム塩に関する限り、水溶液において好ましいものではないことを示唆する。
【0094】
【表2】


(実施例3:RNA精製における洗浄剤の評価)
細胞を十分に溶解し、そしてまた本発明の溶解/結合溶液中で溶解状態を保つ洗浄剤のスクリーニングに、多くの時間および労力を費やした。Tween類、Triton類、Tergitol類、Noidet類およびIgepal類の洗浄剤を、多くの非イオン性の洗浄剤様化合物とともに調べた。
【0095】
これらの洗浄剤処方物の多くが、上記溶解/結合溶液の他の成分と混合した場合に、時間が経てばけん化または分解し、そして溶液から溶出することが発見された。例えば、10% Tween−20(モノラウリル酸ポリオキシレンソルビタン)はこのようになった。類似の挙動がTriton X−100(t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)およびTween−20の等量混合物の使用に見られるが、この混合物はより長い期間安定であった。しかし、この混合物は最終的にけん化し、そして分離した。DGME(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)を、その良好な性能(高い溶解性であり、溶液中に留まり、そして他のTween−20代用品のように非常に高い費用ではない)により試験に選択した。5%のTriton−Xおよび5%のDGMEの混合物が特に良好に機能することを見出した。
【0096】
(実施例4:バイオアナライザー(Bioanalyzer)を用いるRNA品質の評価)
本発明の試薬および方法を使用して精製されたRNAの品質を評価するために、RNA試料をAgilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies,Palo Alto,CA)を使用して分析した。このシステムは、電気泳動像を作製することならびに28sのピーク面積および18sの間のピーク面積の比を計算することにより、主たるリボソームRNAバンドの大きさおよび質を評価するために用いられ得る。概して、1.5より大きい比を有する2つの分解可能なピークは、このRNA試料が分解されていないことを示す。
【0097】
全量40mgのラット脾臓由来のRNAを、考えられるあらゆる内因性RNase活性の検出を増強させるために、室温で1時間、インキュベートして溶解することを除き、実施例6において記載されるプロトコルに従って精製した。精製に続き、それぞれのRNA試料の1μlを、製造業者により提供された試薬中で、RNA LabChip(登録商標)(Agilent Technologies,Palo Alto,CA)のウェルにロードした。このRNA LabChip(登録商標)は、その製造業者により提供された試薬中で、製造業者の指示書に従って調製した電気泳動に続き、生じた電気泳動像を調べた(例えば、図1を参照のこと)。全ての試料は、2つに分かれた28sピークおよび18sピークを示した。28sの18sに対する比の平均は、2.03(1.98から2.09の範囲)であった。したがって上記比率は全て1.5より大きく、本発明の方法が実質的に分解されていないRNAを生成したことを示している。
【0098】
(実施例5:真核細胞由来RNAの単離)
真核生物AG細胞を、1000万個の細胞までの各試料については200μLの結合/溶解溶液(4 LiCl,5% Triton X−100,5% DGME(ジエチレングリコールモノエチルエーテル),10mM EDTA,1% タングステン酸ナトリウム,pH8.8の100mM TRIZMA中)中に溶解し、そして2000万個から5000万個の細胞については400μLの溶解/結合溶液中に溶解した。上記細胞を、ホモジナイズおよび溶解を完全に達成するために、高速で2分間ボルテックスし、次いで50回、上下にピペッティングし、そして再びもう2分間ボルテックスした。ホモジナイズ後に、このカラムに添加される細胞数に応じて、200μLまたは400μLのホモジナイズされた溶解物を、それぞれの精製カラム上にピペッティングした。上記精製カラムは、バスケット内にホウケイ酸ガラス繊維膜(Whatman D glass fiber membrane)に備え、そして2mL 微量遠心分離チューブの内部に配置される。次いで上記微量遠心分離チューブをその後、微量遠心分離機において最大速度で1分間回転した。溶解物の遠心分離後に、400μLの溶解物を含む試料のバスケットを、上記洗浄I溶液を用いて操作を続けるために、新しいチューブに移動した。
【0099】
溶解物の遠心分離そしてそれに続く上記ホウケイ酸膜表面へのRNAの結合の後に、最初に上記カラムへ適用する溶解物の容量と同じ容量である、200μLまたは400μLの洗浄I溶液(5M LiClおよび55%エタノール)をカラム材料に添加し、そして微量遠心分離機において最大速度で1分間回転した。次いで上記膜を含むバスケットを、新しい微量遠心分離チューブに移し、そしてこれに200μLの洗浄II溶液(5mM EDTA,70%エタノール,pH7.6の100mM Tris HCl中)を上記カラム材料に添加し、そしてこれを微量遠心分離機において最大速度で1分間回転した。上記洗浄II溶液の添加および遠心分離工程を1回繰り返した。
【0100】
上記RNAを上記固体支持体から溶出するために、上記膜を含むバスケットを新しい微量遠心分離チューブに移動し、そして50μLのDEPC処理水を上記カラム材料に添加し、そして最大速度で1分間回転した。
【0101】
表3は、試験された種々の細胞数において、記載された方法を使用して得られたデータを表す。これらの結果を、製造業者の推奨する指示書を使用して別の固相RNA法(Qiagen RNeasy Mini kit)を用いて得られた結果と比較した。1000万個まで培養した細胞を、このRNeasy Mini kitに関して推奨される代替的な方法を使用して試験した。本発明の方法および溶液を使用して得られた上記データはさらに、1000万個以下の、より少ない細胞数に用いるものと同じ大きさの精製カラムを使用して、2000万個から5000万個の細胞について収集されたデータを表す。上記データは、260nm(320nmでの吸光度により補正された)吸光度の値から計算された収量を含み、ここに寄与するDNA由来の吸収は5%以下(アガロースゲル上で視覚的に決定される)である。A260/A280比を、式(A260−A320)/(A280−A320)により計算した。Agilent 2100 Bioanalyzer上で最初に試験されたように、RNA試料が安定であることが判明した。これらはまた、上記RNA含有試料をヒートブロックにて37℃で1時間加熱すること、上記試料をアガロースゲルにおける電気泳動に供することによって決定されたように、安定であった。リボソームRNAのバンド形成は、全ての試料において存在した。汚染の無い、安定でかつ他に負けない量のRNAが、この実験的研究において試験されたあらゆる細胞数の試料から得られた。
【0102】
【表3−1】

【0103】
【表3−2】


(実施例6:種々の哺乳動物組織試料からのRNAの単離)
種々のラット組織および種々のブタ組織を、以下の組織ホモジネートおよび精製プロトコルを使用して精製した。最初に、200μLの溶解/結合溶液(4 LiCl,5% Triton X−100,5% DGME(ジエチレングリコールモノエチルエーテル),10mM EDTA,10mM TCEP,1% タングステン酸ナトリウム,pH8.8の100mM TRIZMA中)をチューブ内にある各30mgの組織試料に添加した。ロートステータ(roto−stator)を、目に見える塊が検出されなくなるまで、低速で、各試料をホモジナイズするために使用し、この後、ロートステータの速度を増し、さらに1分間増加し完全にホモジナイズした。ホモジナイズ後に、200μLのホモジナイズされた溶解物を、前洗浄(pre−clear)カラム(Gentra)に添加した。上記前洗浄(pre−clear)カラムで上記組織溶解物から、この溶解物を直接適用する場合にホウケイ酸ガラス繊維精製カラム材料を詰まらせる不要な粒子を除去した。上記組織およびホモジナイズの程度に応じて、上記前洗浄(pre−clear)カラムは粒子を捕捉し、一方で上記RNAを含む適用された溶解量のバルクが上記フィルターを通過することを可能にする。必要であると判断した場合、上記前洗浄(pre−clear)カラムを、上記補足された粒子状材料からより多くの容量を回収するために、さらに1分間回転した。
【0104】
上記前洗浄(pre−clear)カラムにおける遠心分離後に、前洗浄(pre−clear)チューブの底のきれいにされた溶解物を短時間ボルテックスした。その後、きれいされた溶解物の全容量(約200μL)を、バスケット内にホウケイ酸ガラス繊維膜(Whatman D glass fiber membrane)を含み、そして内部に2mL微量遠心分離チューブを配置した上記精製カラム上にピペッティングした。その後、上記微量遠心分離チューブを微量遠心分離機の中で180度転倒し、そしてさらに2分間遠心分離した。
【0105】
溶解物の遠心分離および続くRNAの上記ホウケイ酸膜表面への結合の後に、200μLの洗浄I溶液(5M LiClおよび55%エタノール)を上記カラム材料に添加し、そして微量遠心分離機において最大速度で1分間回転した。その後、上記膜を含むバスケットを新しい微量遠心分離チューブに移し、そして200μLの洗浄II溶液(5mM EDTA,70%エタノール,pH7.6の100mM Tris HCl中)を上記カラム材料に添加し、そして微量遠心分離機において最大速度で1分間遠心分離した。上記洗浄II溶液の添加および遠視分離工程を1回繰り返した。
【0106】
上記RNAを上記固体支持体から溶出するために、上記膜を含むバスケットを新しい微量遠心分離チューブに移動し、そして50μLのDEPC処理水を上記カラム材料に添加し、そして最大速度で1分間回転した。
【0107】
表4は、記載された方法を使用して得られたデータおよび製造業者の推奨する指示書に従う別の固相RNA法(Qiagen RNeasy Mini kit)を用いて得られたデータを表す。以下の組織:ブタ肝臓;ブタ脾臓;ブタ肺;ブタ心臓;ラット脾臓;ラット脳;およびラット卵巣を試験した。上記データは、260nm(320nmでの吸光度により補正された)での吸光度の値から計算された収量を含み、ここに寄与するDNA由来の吸収は5%以下(アガロースゲル上で視覚的に決定される)である。A260
280比を、式(A260−A320)/(A280−A320)により計算した。Agilent 2100 Bioanalyzer上で最初に試験されたように、RNA試料が安定であることが判明した。これらはまた、上記RNA含有試料をヒートブロックにて37℃で1時間加熱し、続いて、上記試料をアガロースゲルにおける電気泳動に供することによって決定されたように、安定であった。リボソームRNAのバンド形成は、加熱後の全ての事例において存在した。
【0108】
プロテイナーゼK(7U/200μL)をブタ心臓組織に対する溶解/結合溶液に添加し、そしてこれを55℃で10分間インキュベートした。これはこの酵素が心筋組織からのRNA収量を改善するかどうかを調べるために行った。この結果は上記溶解/結合溶液および洗浄I溶液が、プロテイナーゼKの使用なしで上記組織試料のホモジネートおよび溶解において、ならびに上記組織試料からのRNase活性の排除に十分であることを示した。この実験的な研究において調べられた全ての組織試料から汚染の無い、安定で他に負けない量のRNAが得られ、このことは本発明の方法および溶液は、より迅速であり、より安価であるが、RNAの精製において効果的な方法を提供することを示す。
【0109】
【表4−1】

【0110】
【表4−2】


(実施例7:異なる塩化物塩を使用したRNA固相精製の性能ならびにLiCl塩とLiBr塩との比較)
脾臓組織を、組織のホモジネートおよび精製プロトコル(上記実施例6において記載した)を使用し、実施例2において記載した濃度の、塩化セシウム塩、塩化アンモニウム塩および塩化ナトリウム塩を用いるが、残りの溶液は一定にして(pH8.8の100mM TRIZMA中における5% Triton X−100、5% DGME(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)、10mM EDTA、10mM TCEP、1%タングステン酸ナトリウム)作製した溶解/結合溶液を使用し精製した。さらに、5M塩化リチウムおよび5M臭化リチウムを含む溶解/結合溶液をまた、比較のために加えた。各40mgの脾臓組織を、それぞれの実験的溶液溶解物に添加して、200μLの溶解/結合溶液を、ホモジネートするためにチューブ内の上記試料に添加した。その後、実施例6の組織について記載したようなホモジネートおよび精製プロトコルを使用して、200μLのホモジナイズされた溶解物を、上記前洗浄カラムおよび精製カラムに添加した。上記溶解/結合緩衝剤を変化させた上記群において、55%エタノール中に5M塩化リチウムを含む洗浄I溶液を全ての群に対して使用し、そして残りの洗浄2溶液および溶出溶液は実施例6に記載した成分と同じ成分を含んだ。
【0111】
溶解/結合溶液において上記塩を変化させた上述した群に加えて、別の一組の群を精製した。この他の群を精製した。ここでは、上記溶解/結合溶液が上述したような定常性を保ち、4M塩化リチウムを上記溶解/結合溶液において上記塩として使用し、そして上記洗浄I溶液を、55%エタノール中で、塩化セシウム塩、塩化アンモニウム塩および塩化ナトリウム塩の溶解する塩の最大量(実施例2に記載したような量)を用いて作製した。精製された。さらに、5M臭化リチウムを含む洗浄Iをまた、比較のために加えた。他の全ての溶液は、実施例6に記載した成分と同じ成分を含んだ。
【0112】
表5は、上記溶解/結合溶液において異なる塩化物塩を使用した群、および上記洗浄I溶液において異なる塩化物塩を使用した群について得られたデータを表す。上記データは、260nm(320nmでの吸光度により補正された)での吸光度の値から計算された収量を含む。上記洗浄I溶液を変化させた全ての群、ならびに塩化リチウム群および臭化リチウム群において、DNAは、存在している核酸の5%以下であった(アガロースゲル上で視覚的に決定された)。上記アガロースゲルは、260nmにおいて検出される吸光度の有意な部分が、塩化セシウム塩、塩化アンモニウム塩、および塩化ナトリウム塩を用いて調製されたそれらの溶解/結合溶液におけるDNAによることを示した。上記塩化リチウム溶解/結合溶液および上記臭化リチウム溶解/結合溶液群において、DNA夾雑物は5%以下であった(アガロースゲル上で視覚的に決定された)。A260/A280比を、式(A260−A320)/(A280−A320)により計算した。Agilent 2100 Bioanalyzer上で最初に試験されたように、RNA試料が安定であることが判明した。これらはまた、上記RNA含有試料をヒートブロックにて37℃で1時間加熱し、続いて、上記試料をアガロースゲルにおける電気泳動に供することによって決定されたように、安定であった。リボソームRNAのバンド形成は、本実験における加熱後の全ての事例において存在した。しかしながら、2.5M LiCl洗浄I溶液における先の研究において、上記最終的に溶出したRNA生成物中の分解されたRNAとして、RNase活性が少なくともその時の半分に検出された。その実験的研究は、上記洗浄I溶液において少なくとも5M LiClを必要とすることを実証した。上記他の塩化物塩を使用しても同様に、少なくともその時の一部でにいくらか比例して(そして上記RNAが精製される組織に依存して)それらのエタノールへの溶解性が制限されるのでRNase活性は検出される可能性がある。
【0113】
上記溶解/結合溶液または上記洗浄I溶液のいずれか一方において、塩化リチウムまたは臭化リチウムを別の塩に代えた全ての事例において、上記RNA収量は、リチウム塩を使用した事例より実質的に少なかった。セシウム塩、アンモニウム塩およびナトリウム塩からなる溶解物は本質的にゲル状である。上記リチウム塩を使用した場合と比較して、ホモジネートおよび溶解がこれらの塩においては完全ではなく、より多くのゲル状の粒子およびより低いRNA収量を生じることが疑われる。
【0114】
【表5−1】

【0115】
【表5−2】


(実施例8:マイクロアレイ分析のための精製したRNAの使用)
(K562細胞系由来RNAの単離:)5000万個の凍結細胞ペレットを、1ml溶解/結合溶液(4M LiCl、10% Triton X−100、5% DGME、10mM EDTA、10mM TCEP、1%タングステン酸ナトリウム、pH8.8の100mM TRIZMA中)中に再懸濁した。細胞を溶解しそして全RNAを固相RNA細胞プロトコル(実施例5を参照のこと)によって精製した。
【0116】
精製後に、上記RNAが安定で質の良いことを確認するために、RNA試料をAgilent 2100 Bioanalyzer chip上で視覚化し、37℃で1時間加熱し、次いで1%アガロースゲル上で視覚化した。その後、RNAをBeckman DU−64 分光光度計を用いて定量した。
【0117】
(逆転写およびcDNA標識)cDNAを、上記精製されたRNAテンプレートから、Amersham Biosciences CyScribe Post−Labeling Kitプロトコルにより、オリゴdTプライマーおよびアミノアリル改変dUTPを使用して逆転写した。その後、上記オリゴdTプライマーがプライミングしたcDNAをCyScribe GFX Purification Kitを用いて精製し、そしてAmershamプロトコルによりCy3で標識した。その後、Cy3標識cDNAをGFXプロトコルによって精製し、そしてspeed vacで25分間凍結乾燥した

【0118】
(ハイブリダイゼーションおよびスキャニング:)Genomic Solutionsが提供する試験スライドを製造業者のプロトコルにより、洗浄し、そして乾燥した。上記乾燥したCy3−cDNAペレットを、5μlのナノピュア(nanopure)水に再懸濁した。25μlのGenomic Solutions 1×Hybridization Solutionを、再懸濁したペレットに添加し、そして試料を95℃で2分間加熱した。その後、上記試料を、リフタースリップ(lifter slip)下部のスライドに適用した。上記スライドおよびスリップをハイブリダイゼーションチャンバー内に密封し、アルミニウム箔で包み、そして55℃の水浴で一晩インキュベートした。ハイブリダイゼーション後に、上記スライドを、Genomic Solutionsハイブリダイゼーションプロトコルによって洗浄した。ここでこの洗浄プロセスのストリンジェンシーを向上するために、塩を増量した緩衝剤を使用した。スライドを乾燥し、そしてスキャニングが完了するまで遮光容器(dark container)に保存した。スライドを、Scan Array Expressオプションを使用したScan Array 5000を用いて読み取った。
【0119】
(マイクロアレイの結果:)上記固相RNA精製系を用いて精製した全RNAは、本発明者らのCy3標識されたcDNAプローブを用いてハイブリダイズしたスライド上に存在する、別々のかつ定量可能な円のパターンとして視覚化されるようなマイクロアレイ技術を使用して首尾よく示された。
【0120】
全ての刊行物、特許および特許文献は、あたかも別々に参考として援用されるかのように、本明細書中に参考として援用される。本発明は、種々の特定の実施形態および技術に言及して記載された。しかしながら、本発明の範囲内にあり続けながらも、多くの変化および改良がなされ得ることを理解するべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載された発明。

【図1】
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【公開番号】特開2010−263919(P2010−263919A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181955(P2010−181955)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【分割の表示】特願2006−513124(P2006−513124)の分割
【原出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(507272669)キアジェン ノース アメリカン ホールディングス,インコーポレイティド (2)
【Fターム(参考)】