説明

固体潤滑転がり軸受

【課題】250℃以上、真空度10−4Pa以下の真空高温、高面圧下での使用においても長期耐久性に優れる固体潤滑転がり軸受を提供する。
【解決手段】固体潤滑転がり軸受1は、内輪2および外輪3と、この内輪2および外輪3間に介在する複数の転動体4と、この内輪2および外輪3間に組み込まれる少なくとも1個の固体潤滑複合材からなる玉5とを備えてなり、転動体4が窒化ケイ素からなる玉であり、固体潤滑複合材からなる玉5が、該窒化ケイ素からなる玉よりも小径の玉であり、上記固体潤滑複合材が、二硫化タングステンを合金中に分散させた焼結材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、光学系、液晶ガラス、半導体製造装置などのフイルム成膜装置、太陽電池用薄膜製造装置などに使用できる真空高温用の固体潤滑転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、光学系、液晶ガラス、半導体製造装置などのフイルム成膜装置、太陽電池用薄膜製造装置では、有機または無機の薄膜形成処理を行なう製造工程が必要とされる。被膜形成処理には、スパッタリング装置や蒸着装置(PVD、CVD)などの表面処理装置が用いられ、処理品の移動にはベルト搬送によるインライン装置やロボット搬送によるマルチチャンバ装置が用いられる。これらの装置では、真空処理室内に可動部があり、該可動部に用いる固体潤滑転がり軸受では、大気・真空のいずれでも使用可能であること、低発塵性、耐久性が要求される。なかでも真空高温での耐久性に対する要求が最も大きい。これらの固体潤滑転がり軸受は、具体的には250〜400℃程度、真空度10−4Pa程度以下の真空高温環境下で使用される。
【0003】
従来、真空高温用の固体潤滑転がり軸受としては、ボールの表面に銀(Ag)のイオンプレーティング被膜あるいはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂被膜を形成したものがあるが、被膜だけの潤滑源では耐久性が劣る。
【0004】
また、転がり軸受に組み込まれる複数の転動体が、軸受荷重が負荷される負荷転動体と、軸受荷重が負荷されない非負荷転動体からなり、少なくとも1以上の非負荷転動体がPTFE樹脂の成形体からなる表面粗さ1.0μm以下の転動体であり、かつ非負荷転動体の負荷転動体に対する直径比が所定の範囲である固体潤滑転がり軸受が提案されている(特許文献1参照)。また、転動体間に、二硫化タングステン(WS)をタングステン(W)合金中に高配合で分散させた焼結材からなる固体潤滑複合材ボールを少なくとも1個組み込んだ固体潤滑転がり軸受が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−250350号公報
【特許文献2】特開2005−48852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の固体潤滑転がり軸受では、PTFE樹脂ボールを用いるため、250℃以上の高温、高面圧下の環境などでは使用が困難であり、真空高温耐久性に劣る。また、特許文献2の固体潤滑転がり軸受は、特許文献1のものと比較して真空高温耐久性に優れるが、さらなる耐久性の向上が望まれている。特に近年において、半導体、太陽電池用薄膜などは、関連技術の進歩速度が速く、市場における低コスト化も著しく、その製造装置に組み込む基幹部品である転がり軸受の信頼性・耐久性の向上は重要な課題である。
【0007】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、250℃以上、真空度10−4Pa以下の真空高温、高面圧下での使用においても長期耐久性に優れる固体潤滑転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の固体潤滑転がり軸受は、250℃以上、真空度10−4Pa以下の真空高温環境下で使用される固体潤滑転がり軸受であって、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、この内輪および外輪間に組み込まれる少なくとも1個の固体潤滑複合材からなる玉とを備えてなり、上記転動体が窒化ケイ素からなる玉であり、上記固体潤滑複合材からなる玉が、該窒化ケイ素からなる玉よりも小径の玉であり、上記固体潤滑複合材が、二硫化タングステンを合金中に分散させた焼結材であることを特徴とする。
【0009】
上記固体潤滑複合材は、複合材全体積に対して上記二硫化タングステンを80体積%以上含むことを特徴とする。特に好ましくは、複合材全体積に対して上記二硫化タングステンを95体積%以上含むことを特徴とする。
【0010】
上記固体潤滑複合材からなる玉が、2個組み込まれることを特徴とする。また、上記合金が、タングステン合金であることを特徴とする。
【0011】
上記二硫化タングステンの内輪転走面への移着量が、上記転動体をステンレス鋼からなる玉とする以外は同じ構成の固体潤滑転がり軸受と比較して多いことを特徴とする。
【0012】
上記固体潤滑転がり軸受は、CVD装置または太陽電池用薄膜製造装置に使用される軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の固体潤滑転がり軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、この内輪および外輪間に組み込まれる少なくとも1個の固体潤滑複合材からなる玉とを備えてなり、上記転動体が窒化ケイ素からなる玉であり、上記固体潤滑複合材からなる玉が、該窒化ケイ素からなる玉よりも小径の玉であり、上記固体潤滑複合材が、二硫化タングステンを合金中に分散させた焼結材であるので、250℃以上、真空度10−4Pa以下の真空高温環境下で使用されながら、長期にわたって、固体潤滑複合材からなる玉より内・外輪転走面へ固体潤滑成分が十分に移着供給され耐久性の向上が図れる。
【0014】
また、本発明で用いる固体潤滑複合材は、従来の固体潤滑複合材からなる玉より硬度が低くなるため、球形のボールに加工するのに加工時間が短縮され、コスト低減につながる。少なくとも1個の固体潤滑複合材からなる玉を組み込むことで、真空高温で長寿命を達成することが可能であるので、低コストで機能アップが図れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の固体潤滑転がり軸受の軸方向断面図である。
【図2】本発明の固体潤滑転がり軸受の一部切欠き斜視図である。
【図3】固体潤滑複合材ボールの加工に用いるバレル加工機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の固体潤滑転がり軸受を図1および図2に基づいて説明する。図1は、本発明の固体潤滑転がり軸受の軸方向断面図であり、図2は本発明の固体潤滑転がり軸受の一部切欠き斜視図である。これらの軸受は、深溝玉軸受である。図1および図2に示すように、本発明の固体潤滑転がり軸受1は、内輪2および外輪3と、この内輪2および外輪3間に介在する複数の転動体4と、この内輪2および外輪3間に組み込まれる少なくとも1個の固体潤滑複合材からなる玉(以下、「固体潤滑複合材ボール」ともいう)5とを備えている。転動体4は、窒化ケイ素(Si)からなる玉(以下、「窒化ケイ素ボール」ともいう)である。図2に示すように、本発明の固体潤滑転がり軸受は、通常の態様の転がり軸受から、複数の転動体4の1個以上を、固体潤滑複合材ボール5に置き換えた構成とするものである。それぞれの軸受において、複数の窒化ケイ素ボール4および固体潤滑複合材ボール5は、保持器6により保持されている。
【0017】
固体潤滑複合材ボール5は、窒化ケイ素ボール4よりも小径である。このため、軸受荷重は窒化ケイ素ボール4が受け、固体潤滑複合材ボール5は非負荷ボールとなる。固体潤滑複合材ボール5は、非負荷ボールであるので、負荷ボールである窒化ケイ素ボール4よりも低速または間欠的に回転する状態で、保持器表面や内・外輪の転走面に軽く摩擦接触する。その際に、ボール表面が少量ずつ摩耗して、接触面である保持器表面や内・外輪の転走面に保持している固体潤滑成分を移着させる。
【0018】
250℃以上(例えば、250〜400℃)かつ高真空下(例えば、10−4Pa以下)の厳しい条件下において、固体潤滑転がり軸受の耐久性(潤滑寿命)を向上させるためには、内・外輪の転走面への固体潤滑成分の移着量を長期にわたり確保することが重要である。本発明者らは鋭意検討の結果、この移着量が、固体潤滑複合材ボールの組成に加えて、負荷ボールとなる他の転動体の材質にも依存することを見出した。具体的には、既存のSUS440C製ボール(負荷ボール)の一部を、二硫化タングステンを高配合した固体潤滑複合材ボール(非負荷ボール)に置換した従来構成において、負荷ボールであるSUS440C製ボールを、窒化ケイ素ボールに変更することで、内輪転走面への固体潤滑成分の移着量を大幅に増加させることができ、長期にわたって固体潤滑成分が転走面に移着供給されることになり、大幅な耐久性の向上が達成されることを見出した。本発明は、このような知見に基づくものである。
【0019】
通常、負荷ボールは、固体潤滑複合材ボールとは直接に接触しないため、負荷ボールの材質が、内・外輪の転走面への固体潤滑成分の移着量に影響を与えることは想定できない。上記作用については明らかではないが、窒化ケイ素の負荷ボールは、SUS440C製のものと比較して不活性であり、負荷ボールへの固体潤滑成分の移着が抑制され、相対的に内・外輪の転走面への移着量が増加したものと考えられる。なお、上記の移着量は、運転後の任意の時点において転走面に存在する固体潤滑成分の量であり、この量を増加させるには、固体潤滑複合材ボールからの供給量を多くすることは勿論、一度移着した固体潤滑成分が脱離しないことも重要であると考えられる。
【0020】
固体潤滑複合材ボールを組み込む個数、すなわち、負荷ボールと置換する個数は、少なくとも1個以上とする。固体潤滑複合材ボールの数が多いほど、固体潤滑成分の移着量を確保できるが、同時に負荷ボールの数が少なくなり、軸受の耐荷重性などが低下する。固体潤滑転がり軸受の転動体総数(負荷ボール+非負荷ボール)にもよるが、固体潤滑複合材ボールを組み込む個数は、1個または2個が好ましく、2個が最も好ましい。
【0021】
窒化ケイ素ボールの直径をAとする場合、固体潤滑複合材ボールの直径Bは、0.8A≦B<Aとすることが好ましい。B<0.8Aの場合、固体潤滑複合材ボールが小さすぎて固体潤滑成分の保持絶対量が不足し、また、保持器表面や内・外輪転走面に摩擦接触した際の摩耗量および移着量が少なくなり、全体として潤滑不足となり耐久性に劣るおそれがある。
【0022】
内輪2、外輪3、保持器6の材質としては、特に限定されず、鉄系金属材料などを使用できる。鉄系金属材料としては、軸受鋼、肌焼き鋼、冷間圧延鋼、熱間圧延鋼、炭素鋼、ステンレス鋼、軟鋼などが挙げられる。
【0023】
本発明における固体潤滑複合材ボールを形成する固体潤滑複合材は、二硫化タングステン(WS)を、バインダーとする合金中に高配合で分散させた焼結材である。バインダーとする合金は、タングステン(W)合金、Cu−Sn合金などの任意の合金を使用できる。二硫化タングステン(WS)との密着性に優れ、少量でも固体潤滑複合材ボールを形成できることからW合金を用いることが好ましい。また、さらに炭素を含めて複合化した焼結材としてもよい。固体潤滑複合材ボールを形成する焼結材(固体潤滑複合材)の市販品としては、例えば、冨士ダイス株式会社製NFメタル(W+WS複合材、Cu−Sn+WS複合材、Cu−Sn+C+WS複合材)が挙げられる。これらの焼結材を用いて焼結し、立方体形状などの多面体形状の固体潤滑複合材を形成した後に、後述するバレル加工等によりボール状に加工する。
【0024】
固体潤滑複合材は、複合材全体積に対して二硫化タングステン(WS)を80体積%以上含むことが好ましい。この範囲とすることで、負荷ボールとして既存のSUS440C製ボールを用い、二硫化タングステン(WS)を95体積%含む複合材を用いる場合よりも、耐久性の向上が図れる。また、複合材全体積に対して二硫化タングステン(WS)を95体積%以上含むことが特に好ましい。この範囲とすることで、内輪転走面への固体潤滑成分の移着量を大幅に増加させることができ、長期にわたって固体潤滑成分が転走面に移着供給されることになり、大幅な耐久性の向上が達成できる。
【0025】
一方、負荷ボールとして既存のSUS440C製ボールを用いる場合では、複合材における二硫化タングステン(WS)の配合量を同等(95体積%)とする場合でも、このような大幅な耐久性の向上は望めない。また、二硫化タングステン(WS)ではなく、二硫化モリブデン(MoS)を高配合した複合材を用いる場合では、負荷ボールとして窒化ケイ素ボールを用いても耐久性は著しく劣る。これらより、本発明の上記効果は、窒化ケイ素ボールを用いること、および、二硫化タングステン(WS)を高配合した複合材を用いることの相乗効果により得られるものであると考える。
【0026】
固体潤滑複合材ボールの製造方法としては、焼結された多面体形状の固体潤滑複合材をバレル加工機により球形のボールに加工し、必要寸法に仕上げる方法が挙げられる。バレル加工により、必要寸法のボールを得ることができ、材料および材料加工の面からコスト低減が図れる。ボール形状にするための方法として、バレル加工は最も有効な方法と考えられ、量産性があり、かつ、低コストな加工方法である。固体潤滑複合材は、硬質粒子で表面を切削されながらボール形状に加工されていく。バレル加工機の構成は、回転円盤と、固定円盤と、固定円盤に設けた貫通孔と、固定円版の上面に取り外し可能に固定したボール飛び出し防止板とを有するものとできる。
【0027】
固体潤滑複合材ボールの製造方法を図3に基づいて詳細に説明する。図3は固体潤滑複合材ボールの加工に用いるバレル加工機の概略図である。このバレル加工機は、回転円盤7と固定円盤9とを有する。回転円盤7は、電動モータ等の駆動手段(図示省略)によって回転駆動される。回転円盤7の上面にはダイヤモンドペーパー8を貼り付けてある。回転円盤7の上方に固定円盤9が位置している。固定円盤9は、円周方向に分配した複数の貫通孔10を有する。貫通孔10の下端は開放し、上端は固定円盤9の上面にボール飛び出し防止板11を取り付けることによって閉じられる。回転円盤7の上面と固定円盤9の下面との間には、仕上げられた固体潤滑複合材ボールが通過しない程度のすきまがある。
【0028】
固定円盤9の材質は、鉄系材料などである。回転円盤7にダイヤモンドペーパー8を貼り付ける代わりに、ダイヤモンド、炭化ケイ素、アルミナその他の硬質粒子を含む層を設けてもよい。加工に際しては、ボール飛び出し防止板11を外した状態で貫通孔10に固体潤滑複合材12を投入する。ボール飛び出し防止板11を取り付けた後、駆動手段を起動して回転円盤7を回転させる。すると、図中点線矢印で示すように、固体潤滑複合材12はダイヤモンドペーパー8と鉄系材料からなる固定円盤9の壁との間を跳ね回り、ダイヤモンドペーパー8と衝突を繰り返して角が丸く削られ、徐々に表面が均等に削られてボール形状となる。
【0029】
バレル加工により、必要寸法の固体潤滑複合材ボールを得ることができる。また、バレル加工機では、最も粒子の粗い#100のダイヤモンドペーパーを用いた場合、粒子が粗いため固体潤滑複合材ボールの加工に対して顕著な目詰まりは発生せず、しかも、加工時間を短縮して必要寸法の潤滑ボールを得ることができる。さらに、バレル加工機では、加工時間さえセットしておけば、必要寸法の潤滑ボールを得ることができ、加工機のメンテナンスが比較的簡単である。
【実施例】
【0030】
実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例8
固体潤滑複合材として、タングステン(W)合金に、二硫化タングステン(WS)または二硫化モリブデン(MoS)を分散させた焼結材を採用した。表1に示す割合で、二硫化タングステン(WS)または二硫化モリブデン(MoS)の添加量を種々変更した焼結材を用いて焼結体(一辺が4mmの立方体形状)を得た。これを図3に示すバレル加工機で球形のボールに仕上げて固体潤滑複合材ボールを得た。バレル研磨は、マルトー社製のダイヤモンドペーパー(#100)を用い、回転円盤を85rpmで回転させ、JISB1521深溝玉軸受の呼び番号608に組込み可能なサイズのボールに加工した。
【0031】
この固体潤滑複合材ボールを表1に示す個数だけ、SUS440C製深溝玉軸受SEB08(爪曲げ保持器)に組み込み、その他の転動体をSUS440Cまたは窒化ケイ素からなる玉として試験軸受を得た。なお、固体潤滑複合材ボール(ボール直径:3.92mm)は、他の転動体(ボール直径:4mm)より小径とした。得られた試験軸受について、以下の長期耐久試験1、2を行った。また、以下の方法により移着膜における元素割合を測定した。これらの結果を表1に併記する。
【0032】
<長期耐久試験1(250℃)>
試験機として高温用真空軸受耐久試験機を用い、真空度が10−4〜10−5Paで軸受は2個セットで取り付けた。試験条件は、軸受外輪温度250℃、アキシアル荷重150N 、回転数2000rpmで、寿命判定は2個の軸受の摩擦トルクが152mN・mに達した時とした。
【0033】
<長期耐久試験2(400℃)>
試験機として高温用真空軸受耐久試験機を用い、真空度が10−4〜10−5Paで軸受は2個セットで取り付けた。試験条件は、軸受外輪温度400℃、アキシアル荷重196N 、回転数1000rpmで、寿命判定は2個の軸受の摩擦トルクが152mN・mに達した時とした。
【0034】
<移着膜測定法>
比較例5、6については長期耐久試験1の終了後(寿命判定後)に、比較例5、6以外の実施例および比較例については長期耐久試験2の終了後(寿命判定後)に、軸受を分解し、内輪転走面について、SEM/EDXの表面分析により、Fe、W、Mo、Sの4元素の重量%を測定した。Feに対するW(Mo)とSの存在比率で固体潤滑剤であるWS(MoS)の潤滑膜形成性を評価した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、窒化ケイ素ボールを用い、かつ、二硫化タングステン(WS)を高配合した固体潤滑複合材ボールを用いることで、250℃以上、真空度10−4Pa以下の真空高温環境下において、内輪転走面への固体潤滑成分の移着量を大幅に増加させることができ、長期にわたって固体潤滑成分が転走面に移着供給されることになり、大幅な耐久性の向上が図れた。
【0037】
一方、既存のSUS440C製ボールを用い、複合材における二硫化タングステン(WS)の配合量を実施例1と同等(95体積%)にした比較例1では、実施例のような大幅な耐久性の向上は図れなかった。また、二硫化タングステン(WS)ではなく、二硫化モリブデン(MoS)を高配合した複合材を用いた比較例8では、負荷ボールとして窒化ケイ素ボールを用いても耐久性は著しく劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の固体潤滑転がり軸受は、250℃以上、真空度10−4Pa以下の真空高温環境下で使用されながら、長期にわたって、固体潤滑複合材からなる玉より内・外輪転走面へ固体潤滑成分が十分に移着供給され耐久性の向上が図れるので、電子部品、光学系、液晶ガラス、半導体製造装置などのフイルム成膜装置、蒸着装置(PVD、CVD)、太陽電池用薄膜製造装置内の可動部での軸受として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 固体潤滑転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体(窒化ケイ素ボール)
5 固体潤滑複合材からなる玉(固体潤滑複合材ボール)
6 保持器
7 回転円盤
8 ダイヤモンドペーパー
9 固定円盤
10 貫通孔
11 ボール飛び出し防止板
12 固体潤滑複合材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
250℃以上、真空度10−4Pa以下の真空高温環境下で使用される固体潤滑転がり軸受であって、
内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、この内輪および外輪間に組み込まれる少なくとも1個の固体潤滑複合材からなる玉とを備えてなり、
前記転動体が窒化ケイ素からなる玉であり、前記固体潤滑複合材からなる玉が、該窒化ケイ素からなる玉よりも小径の玉であり、
前記固体潤滑複合材が、二硫化タングステンを合金中に分散させた焼結材であることを特徴とする固体潤滑転がり軸受。
【請求項2】
前記固体潤滑複合材は、複合材全体積に対して前記二硫化タングステンを80体積%以上含むことを特徴とする請求項1記載の固体潤滑転がり軸受。
【請求項3】
前記固体潤滑複合材は、複合材全体積に対して前記二硫化タングステンを95体積%以上含むことを特徴とする請求項2記載の固体潤滑転がり軸受。
【請求項4】
前記固体潤滑複合材からなる玉が、2個組み込まれることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の固体潤滑転がり軸受。
【請求項5】
前記合金が、タングステン合金であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項記載の固体潤滑転がり軸受。
【請求項6】
前記二硫化タングステンの内輪転走面への移着量が、前記転動体をステンレス鋼からなる玉とする以外は同じ構成の固体潤滑転がり軸受と比較して多いことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項記載の固体潤滑転がり軸受。
【請求項7】
前記固体潤滑転がり軸受は、CVD装置または太陽電池用薄膜製造装置に使用される軸受であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項記載の固体潤滑転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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