説明

固体状被汚染物の処理方法及び処理装置

【課題】土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰等の固体状被汚染物から、重金属類の難溶性の画分(部分)まで確実に除去し、固体状被汚染物中重金属類含有濃度そのものを低下させ、将来にわたって汚染リスクを排除することができる固体状被汚染物の処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】平均粒子径D50として15μmの分級性能を有する分級装置30と、平均粒子径D50が15μm以下の細粒画分を導入して電解処理するための細粒画分電解槽40と、細粒画分電解槽40において電解処理された細粒画分スラリーと分級装置30によって分級された粗粒画分とを混合する粗粒画分電解槽50と、を具備する。細粒画分電解槽40は、隔膜46によってアノード区域44aとカソード区域45aとが区画されていて、カソード区域45aに分級された細粒画分を導入する細粒画分導入手段としてのスラリー投入管42を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属類により汚染された固体状被汚染物の浄化技術に関し、特に鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、砒素(As)、ウラン(U)、プルトニウム(Pu)などの重金属類を、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰などの固体状被汚染物から分離除去する処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属類で汚染されていると思われる土壌の修復は、分級洗浄により得られた画分ごとに重金属類含有量を分析し、環境基準(例えば鉛では150mg/kg)を超えない画分はそのまま埋め戻し、環境基準を超える画分は産業廃棄物として処理することによりなされている。通常は、平均粒子径D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)が75μmを超える大きな粒子を含む画分は重金属類が環境基準を超えるほど多量には蓄積されていないことが多く、そのまま埋め戻されている。平均粒子径D50が75μm以下の粒子状物質を含む画分は重金属類を蓄積していることが多く、セメントの材料にするなどして希釈して使用したり、溶融ガラス固化処理されたり、産業廃棄物として処理されたりしている。
【0003】
しかし、これらの処理では重金属類を根本的に除去することができず、将来の汚染リスクを避けることができない。
そこで、重金属類で汚染された焼却灰からの重金属類の除去方法として、汚染焼却灰を酸抽出した後に固液分離し、得られた抽出液に対して、陰極電位を段階的に低下させて電解を行うことにより、複数種の金属を段階的に析出させて重金属類を回収する方法が提案されている(特許文献1)。この方法は、酸を用いて重金属類を溶出させ、次いで溶出した重金属類を電極電位差によって移動及び/又は析出させる反応を利用するものである。しかし、この方法では、酸抽出時に還元電位が印加されていないため、(Pb)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、砒素(As)、ウラン(U)、プルトニウム(Pu)などの難溶性の付着形態をとる重金属類を含む画分を効率的に抽出できず、焼却飛灰中重金属類含有濃度を十分に低下させることができない。
【0004】
また、この方法では、重金属類の水溶液中への抽出と水溶液からの分離を同時に行わず2段階に分けて行っているため、抽出段階において水溶液中の重金属類濃度が上昇し、特に溶解度積の小さい重金属塩類を完全に溶解しきれない、という問題がある。さらに、間隙水中に高濃度の重金属類が溶解している状態で固液分離を行うため、固液分離後も残留する間隙水(スラッジ)に含まれる重金属類を焼却灰から除去できない、という問題もある。
【0005】
これらの問題を解決するため、本発明者らは鋭意研究の結果、従来方法と異なり、重金属類で汚染された固体状被汚染物を還元的雰囲気に維持することにより、固体状被汚染物に含まれる重金属類を還元溶出させることができ、固体状被汚染物から重金属類の難溶性の画分(部分)までを除去することができることを知見し、新規な電解処理方法及び装置を提案した(特許文献2)。
【0006】
しかしながらこの発明においても、固体状被汚染物とカソードとの接触によってせん断力が生じる結果、いったんカソード表面に析出した重金属類が剥離して固体状被汚染物および間隙水を再汚染し、見かけの重金属汚染濃度低減速度が一次反応定数k1あたり0.012〜0.02程度と、同様の汚染濃度の水溶液を処理した場合と比較して数分の一から十分の一に低下してしまう問題があった。せん断力を低減させる方法として、整流板の設置や上向流による固体粒度分布の制御などを提案したが、整流板を設置すると撹拌効率が低下し、上向流による粒度分布の形成のためには線速度36cm/h程度という非常に遅い上向流速を与えねばならず、実用化には課題が残っている。
【特許文献1】特開2002-173790号公報
【特許文献2】PCT/JP2004/015032
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰等の固体状被汚染物から、重金属類の難溶性の画分(部分)まで確実に除去し、固体状被汚染物中重金属類含有濃度そのものを低下させ、将来にわたって汚染リスクを排除することができる固体状被汚染物の処理方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、固体状被汚染物を分級し、特定の平均粒子径よりも小さい細粒画分を電解処理することにより、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、固体状被汚染物を平均粒子径D50が15μm以下の細粒画分と、粗粒画分とに分級する細粒画分分級工程と、当該細粒画分を、隔膜によってアノード区域とカソード区域とが区画されている電解槽のカソード区域に添加して、電解処理する細粒画分電解処理工程と、電解処理後の細粒画分スラリーを当該粗粒画分と混合する混合工程とを含み、固体状被汚染物から重金属類を溶出させる、固体状被汚染物の処理方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、平均粒子径D50として15μmの分級性能を有する分級装置と、当該分級装置によって分級された平均粒子径D50が15μm以下の細粒画分を導入して電解処理するための細粒画分電解槽であって、隔膜によってアノード区域とカソード区域とが区画されていて、カソード区域に分級された細粒画分を導入する細粒画分導入手段を有する細粒画分電解槽と、当該細粒画分電解槽において電解処理された細粒画分スラリーと、当該分級装置によって分級された粗粒画分とを混合する混合手段と、を具備し、固体状被汚染物から重金属類を溶出させる、固体状被汚染物の処理装置を提供するものである。
【0011】
以下、本発明の処理方法についてさらに詳細に説明する。
本発明により浄化することができる固体状の被汚染物としては、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰、ヘドロなどの重金属類を含む固体状の被汚染物を好ましく挙げることができる。これらの固体状被汚染物は、通常現場で行われている予め湿式もしくは乾式の分級洗浄装置などによって、粒子径の大きな砂礫や異物などを取り除かれていることが好ましい。この時取り除かれる粒子径の大きな物質は、重金属による汚染濃度が環境基準値以下である非汚染物であることが知られており、本発明の分級装置によって得られる汚染物である粗粒画分とは異なる。本発明の処理方法により処理される前記固体状被汚染物は、通常の分級洗浄による土壌洗浄工程を経た後の平均粒子径D50が250μm以下(JIS A1204「土の粒度試験」による定義では「細粒砂」)の粒子状物質を含む固体状被汚染物であることが特に好ましい。
【0012】
<細粒画分分級工程>
本発明の細粒画分分級工程は、粒子状物質を含む固体状被汚染物を、平均粒子径D50が15μm以下、好ましくは10μm以下の細粒画分と、当該細粒画分よりも平均粒子径が大きい粗粒画分とに分級する工程である。本発明の細粒画分分級工程で分級する固体状被汚染物は、好ましくは平均粒子径D50が250μm以下の粒子状物質を含み、平均粒子径D50が15μm以下の細粒画分と、平均粒子径D50が15μm超過〜250μm以下の粗粒画分とに分級されることが特に好ましい。
【0013】
細粒画分の平均粒子径D50が15μmよりも大きいと、粒径が75μmよりも大きい細粒砂および中粒砂を含む割合が大きくなり、細粒砂のせん断力によっていったんカソード表面に析出した重金属類が剥離して固体状被汚染物および間隙水を再汚染し、見かけの重金属汚染濃度低減速度が低下してしまう。例えば図1(土壌粒度分布図)に示したように、通常の分級洗浄による土壌洗浄工程によってD50が22μmの分級洗浄土が与えられた場合、当該分級洗浄土の25%は粒径75μm以上の細粒砂であり、更にそのうちの7%は250μmを超える中粒砂であるため、大きなせん断力を生じてしまう。そこで当該分級洗浄土を本発明の方法で再分級し、D50が15μmである細粒画分を得れば、図1に示すように当該細粒画分は粒径75μm以上の細粒砂の混入率が10%、粒径250μmを超える中粒砂の混入率が2%以下となるため、せん断力を大幅に低減できる。通常の分級洗浄による土壌洗浄工程では粒径75μm未満のシルト分と粒径75μm以上の細粒砂や中流砂とに分けて処理しており、粒径75μm以上の細粒砂や中流砂はそのまま埋め戻されている。本発明においては、電解処理の前に細粒画分分級工程を設けることで、従来処理されていなかった粒径75μm以上250μm以下のシルト分、細粒砂及び中流砂をも電解処理することができるので、汚染土壌の処理の幅が広がる。なお、粒径250μmを超える画分の処理も原理的には可能であるが、固体状被汚染物の取扱量が大幅に増加するので実用的ではない。
【0014】
細粒画分分級工程で用いる分級方法としては、一般に知られているヘドロや汚染土壌、泥水などを分級する方法を用いれば良く、例えば液体サイクロン、シックナ−、上向流分級装置、スパイラル分級機等を用いた手段を好ましく挙げることができる。
【0015】
<細粒画分電解処理工程>
細粒画分電解処理工程は、細粒画分分級工程により得られた細粒画分を、隔膜によってアノード区域とカソード区域とが区画されている電解槽のカソード区域に添加して、電解処理して、細粒画分から重金属類を溶出させる工程である。
【0016】
このとき、カソード区域には予め電解液を供給しておき、固体状被汚染物の細粒画分を導入して、電解液と混合しスラリーとした後、電圧を印加して電解処理を行う。この際、用いられる電解液としては、電解物質の水溶液が好ましく用いられ、水中でイオン化し、水溶液の導電率(イオン強度)を増加させる物質全てを特に制限なく用いることができる。具体的には、無機酸、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸など;有機酸、例えばメタンスルホン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、テレフタル酸など;アルカリ性物質、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなど;およびこれらの物質の塩を含む全ての塩などと水との混合液を好ましく挙げることができる。電解液の濃度は、0.1mol/L〜8mol/L、特に0.3mol/L〜4mol/Lの範囲が好ましい。電解液の濃度は、液の電気抵抗を低下させるためには高い方が良く、薬液の使用量を減らすためには低い方が望ましいので、現場での電解槽全体の電気抵抗や、電源の容量、発熱状況などを考慮して適切な濃度を設定すべきである。このとき、スラリー濃度が5〜30%の範囲、特に10〜20%の範囲となるように調製することが好ましい。スラリー濃度は、処理速度を向上させるためには高くすることが望ましく、電極への付着や移送時の詰まりなどを避けるためには低くすることが望ましいので、現場の固体状被汚染物の性状に応じて適切な濃度を設定すべきである。
【0017】
細粒画分電解処理工程での電解処理条件は、温度範囲:5〜60℃、特に10〜40℃、電流印加範囲:0.1A/L〜3A/L、特に0.3A/L〜2A/Lとするのが好ましい。電解時の温度は高いほど電着性が向上するが、同時に水素過電圧が低下して水素の発生量が多くなるため、現場において適切な温度に管理すべきである。また、電解槽容積あたりの電流密度は高いほど電解処理速度が向上して望ましいが、上述した電気抵抗の問題および発熱の問題があり、また電気料金が発生する問題もあるため、現場において適切な電流密度を設定すべきである。
<混合工程>
混合工程は、細粒画分電解処理工程による電解処理後の細粒画分スラリーを細粒画分分級工程により分級された粗粒画分と混合する工程である。
【0018】
粗粒画分を処理済細粒画分含有電解液スラリー(電解処理済細粒スラリー)に混合して、粗粒画分間隙水を、重金属類濃度のより低い処理済電解液で置換する、すなわち、すすぎを行うことによって、間隙水を含む粗粒画分の重金属類濃度を低減させることができる。
【0019】
この混合工程は、例えばラインミキサーや合流配管などを用いて流路内で単に混合するだけでもよいし、あるいは細粒画分電解処理と同様に電解槽を用いて電解処理を行ってもよい。本明細書において、後者の場合を特に粗粒画分電解処理工程という。粗粒画分電解処理工程では、電解処理によって粗粒画分中の重金属類の溶出が促進され、粗粒画分の重金属類濃度を大幅に低減することができる。
【0020】
粗粒画分電解処理工程の場合は、細粒画分電解処理工程と同様に、分級された固体状被汚染物の粗粒画分をカソード区域内の電解液に混合した後、電解処理を行う。電解液としては、細粒画分電解処理工程において説明した電解液を好ましく用いることができる。このとき、スラリー濃度が5〜30%の範囲、特に10〜20%の範囲となるように調製することが好ましい。
【0021】
粗粒画分電解処理工程での電解処理条件は、温度範囲:5〜60℃、特に10〜40℃、電流印加範囲:0.1A/L〜3A/L、特に0.3A/L〜2A/Lとするのが好ましい。
また、細粒画分スラリーと粗粒画分とを混合した混合した後、この混合スラリーを電解槽のカソード区域に供給して、電解処理を行ってもよい。電解液としては、細粒画分電解処理工程において説明した電解液を好ましく用いることができる。このとき、混合スラリー濃度が5〜30%の範囲、特に10〜20%の範囲となるように調製することが好ましい。混合スラリーを電解処理する場合の電解条件は、温度範囲:5〜60℃、特に10〜40℃、電流印加範囲:0.1A/L〜3A/L、特に0.3A/L〜2A/Lとするのが好ましい。
<前処理工程・一次電解工程>
本発明においては、細粒画分分級工程の前に、固体状被汚染物と電解液とを混合しスラリー化させる前処理工程を行ってもよい。前処理工程を行うことにより、重金属類の溶出を予め進行させ、電解槽内での処理時間を低減することができる。前処理工程での固体状被汚染物と電解液との配合割合は、特に制限されないが、前記固体状被汚染物100質量部に対して電解液233〜1900質量部(又はスラリー濃度5〜30%)とするのが好ましい。
【0022】
また、前処理工程でスラリー化させた後、固体状被汚染物を分級することなく、全量電解処理する一次電解工程を行うことができる。一次電解工程を行うことにより、分級操作を行う前に難溶解性重金属類の溶出を進行させ、処理時間を低減させることができる。この際のスラリー電解処理工程は、隔膜によってアノード区域とカソード区域とが区画されている電解槽のカソード区域にスラリーを添加することによって行うことができる。この際の電解条件は、温度範囲:5〜60℃、特に10〜40℃、電流印加範囲:0.1A/L〜3A/L、特に0.3A/L〜2A/Lとするのが好ましい。
【0023】
<後処理工程>
また、本発明の処理方法においては、電解処理済み固体状被汚染物スラリーから電解液を分離する後処理工程を行うことができる。固液分離によって得られた固形分は処理物とし、電解液はスラリー調製槽などに戻して再利用することができる。固液分離を行う手段としては、一般に知られているヘドロや汚染土壌スラリー、泥水などを固液分離する方法を用いれば良く、例えば沈殿池、シックナ−、デカンター、フィルタープレス、ロータリーフィルターが好ましく用いられる。また、固液分離を行う際にPAC(ポリ塩化アルミニウム)、ポリマー、塩化第二鉄などの凝集剤を添加することも好ましい。これらの薬剤の添加条件は一般に知られている条件を用いれば良く、処理する被汚染物の性状や電解反応に与える影響を考慮して適宜調整することが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の固体状被汚染物の処理方法及び装置によれば、土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰等の固体状被汚染物から、重金属類の難溶性の画分(部分)まで確実に除去し、固体状被汚染物中重金属類含有濃度そのものを低下させ、将来にわたって汚染リスクを排除することができる。特に、固体状被汚染物を平均粒子径15μm以下の細粒画分と平均粒子径15μmを超える粗粒画分とに分級した後に細粒画分を電解処理することで、細粒画分電解処理時の電解槽における剪断力を低減させることができる。結果的に、全体の処理速度が向上し、重金属汚染濃度の低減速度を向上させることができる。
【0025】
また、細粒画分を電解処理した後、処理後の重金属類濃度が低下した粗粒画分と再混合することにより、重金属類濃度が低下した細粒画分スラリーが粗粒画分の間隙水と置換して、粗粒画分全体の重金属類濃度を低下させることができる。
【0026】
また、前処理工程を行う場合には、電解処理の前に細粒画分を電解液と混合することによって、含まれている重金属類のうち易溶性の部分の溶出が予め進行するので、電解槽内での処理時間を短縮することができる。
【0027】
さらに、後処理工程を行う場合には、電解液を回収して、電解処理工程や前処理工程で再利用することができるので、電解質の所要量及び排出量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の処理装置及び処理方法についてさらに詳細に説明する。なお、図中、同じ構成要素には同じ参照符号を付して重複した説明は省略する。
ここで、図2は、本発明の処理装置の1実施形態における全体構成を模式的に示す概略図である。また、図3は、図2に示す電解反応槽の詳細を示す模式図である。
【0029】
図2に示す実施形態の固体状被汚染物の処理装置1は、平均粒子径D50として15μmの分級性能を有する分級装置30と、分級装置30によって分級された平均粒子径D50が15μm以下の細粒画分を導入して電解処理するための細粒画分電解槽40であって、隔膜46によってアノード区域44aとカソード区域45aとが区画されていて、カソード区域45aに分級された細粒画分を導入する細粒画分導入手段としてのスラリー投入管42を有する細粒画分電解槽40と、細粒画分電解槽40において電解処理された細粒画分スラリーと分級装置30によって分級された粗粒画分とを混合する混合手段としての粗粒画分電解槽50と、を具備する。
【0030】
さらに、詳述すると、本実施形態の処理装置1は、電解液貯留槽11、固体状汚染物貯留槽12、酸アルカリ等貯留槽13に貯留された電解液、固体状被汚染物、水や酸、アルカリなどが移送されるようにそれぞれの槽11,12,13に配管14,15,16を介して連結されており、電解液、固体状被汚染物、水や酸、アルカリなどを投入して混合し、スラリーとするスラリー調製槽10を有する。スラリー調製槽10は分級装置30に配管17を介して直接連結されているが、図2において点線で示すように、スラリー調製槽10で調製されたスラリーを予め電解処理することができるように、配管21が分岐して電解反応槽20に連結され、電解処理後のスラリーを分級装置30に移送できるように、配管22が配管17に接続されていてもよい。電解反応槽20は、スラリー調製槽10からのスラリーを導入して電解処理可能に構成されていればその構成は特に限定されない。たとえば、細粒画分電解槽40と同様に、隔膜によって区画されたカソード区域とアノード区域とを具備し、スラリーをカソード区域に導入するように構成されていてもよい。
【0031】
分級装置30は、分級された細粒画分が細粒画分電解槽40に移送され、且つ粗粒画分が粗粒画分電解槽50に移送されるように、各槽40,50にそれぞれ配管31,32で連結されている。
【0032】
細粒画分電解槽40には、電解処理後の細粒画分を混合手段である粗粒画分電解槽50に移送できるように配管51が連結されている。
粗粒画分電解槽50は、固液分離装置60に配管52を通じて連結されており、固液分離装置60で分離された固体物は処理物として回収され、液体はリサイクルされ電解液貯留槽11に移送されるようになされている(点線で示す)。あるいは、固液分離装置60で分離された液体は、電解反応槽20に戻されてもよい(図示せず)。
【0033】
次に各槽の詳細な構成について説明する。
分級装置30としては、特に図示しないが、サイクロン分離機、シックナー分離機、上向流分離機、スパイラル分離機等を用いることができる。
【0034】
細粒画分電解槽40は、図3に示すように、槽本体41と、槽本体41の上部から槽本体41内にスラリーを投入するスラリー投入管42と、直流電源43に連結され、槽本体41内に収容されたアノード電極44及びカソード電極45と、アノード電極44の周囲を覆って配された隔膜46と、槽本体41の底部に設けられ槽本体41内部のスラリーを撹拌する撹拌機47と、槽本体41内部に空気又は窒素を供給する気体供給管48と、電解処理終了後のスラリーを下流の混合手段又は粗粒画分電解槽50に移送する移送ポンプ49とからなる。ここで、隔膜としては、スラリー中の特定のイオン以外の物質の移動を制御する機能を有する隔膜であって、イオン交換を行ってアノード電極及びカソード電極間の回路を閉じる機能を有し、且つ塩素ガス、酸素ガス、溶存塩素、溶存酸素などの透過を防止してカソード区域の還元的雰囲気を維持する機能を有する隔膜を好ましく用いることができる。具体的には、スルホン酸基を有するフッ素樹脂系イオン交換膜(陽イオン交換膜)を好ましく挙げることができる。スルホン酸基は、親水性があり、高い陽イオン交換能を有する。また、より安価な隔膜として、主鎖部のみをフッ素化したフッ素樹脂系イオン交換膜や、芳香族炭化水素系イオン交換膜も利用することができる。このようなイオン交換膜としては、例えばIONICS製NEPTON CR61AZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA CM-1又は同CMB、旭硝子製Selemion CSVなどの市販製品を好ましく用いることができる。さらに、アノード電極と固体状被汚染物質とを隔離するために用いる隔膜としては、陰イオン交換膜を用いることもできる。具体的には、アンモニウムヒドロキシド基を有するヒドロキシドイオン交換膜を好ましく挙げることができる。このような陰イオン交換膜としては、例えば、IONICS製NEPTON AR103PZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA AHA、旭硝子製Shelemion ASVなどの市販製品を好ましく用いることができる。さらに、本発明において用いることができる隔膜としては、官能基を有しないMF(マイクロフィルタ)、UF(ウルトラフィルタ)膜やセラミック、アスベストなどの多孔質濾材、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン製の織布等を用いることができる。これらの官能基を有しない隔膜は、非加圧条件でガスを透過しないものが好ましく、例えば、Schweiz Seidengazefabrik製のPE-10膜、Flon Industry製のNY1-HD膜、旭工業繊維SP900-1、旭工業繊維NF611-1などの市販品を好ましく用いることができる。
【0035】
電解反応槽20及び粗粒画分電解槽50も、細粒画分電解槽40と同様に、隔膜によってアノード区域とカソード区域とが区画されていて、カソード区域に細粒画分スラリーと粗粒画分とを導入して電解処理するようになされていることが好ましい。
【0036】
本実施形態において、各槽間の移送手段などは、自然流下、ポンプ移送、その他機械移送等の手段が可能であり、一般的にスラリーの移送に用いられる方法を現場の状況に応じて採用することができる。
【0037】
また、スラリー調製槽10及び電解反応槽20は、省略してもよい。この場合には、電解液、固体状被汚染物及び水・酸・アルカリは、直接、細粒画分電解槽40に供給されるように構成すればよい。さらに、固体状被汚染物がスラリー状である場合には、分級装置をスラリー調製槽の上流側に設置してもよく、細粒画分をスラリー調製槽に、粗粒画分を混合手段又は粗粒画分電解槽に供給する構成としてもよい。
【0038】
次に、本実施形態の処理装置を用いた処理方法について説明する。
<前処理工程>
本実施形態においては、まず、スラリー調製槽10において、固体状被汚染物と電解液と水や酸・アルカリとを混合しスラリー化させて、スラリーを得る。スラリー調製槽10では、スラリー濃度10%〜20%に調製すると共に、易溶性の重金属類の溶出促進が図られる。
【0039】
<一次電解工程>
次いで、得られたスラリーを配管17及び21を介して電解反応槽20に移送して、前処理工程でスラリー化させたスラリーについて固体状被汚染物を分級することなく、全量電解処理する。
【0040】
<分級工程>
電解処理されたスラリーを配管22を介して分級装置に移送し、スラリー中の固体状被汚染物を平均粒子径D50が15μm以下の細粒画分と、細粒画分よりも平均粒子径が大きい粗粒画分とに分級する。得られた細粒画分は細粒画分電解槽40のカソード区域45aに移送され、粗粒画分は粗粒画分電解槽50のカソード区域に移送される。
【0041】
<細粒画分電解処理工程>
移送された細粒画分を細粒画分電解槽40において電解処理する。
<混合工程、混合スラリー電解処理工程>
電解処理された細粒画分は、配管31を介して粗粒画分電解槽50に移送される。粗粒画分電解槽50には、細粒画分分級工程により分級された粗粒画分が導入されており、細粒画分電解処理工程による電解処理後の細粒画分スラリーを粗粒画分と混合する。本実施形態においては、混合工程で混合された細粒画分と粗粒画分との混合スラリーを電解処理して固体状被汚染物から重金属類を溶出させる。
【0042】
<後処理工程>
電解処理された混合スラリーは、配管52を介して固液分離装置60に送られ、電解処理済み混合スラリーから電解液が分離され、固形分は処理物とし、電解液はスラリー調製槽10又は電解反応槽20などに戻されて再利用される。
【0043】
固液分離によって得られた処理物は更に必要に応じて中和処理、改質処理を行い、重金属類の含有濃度、溶出濃度などの排出基準又は環境基準を満たすことを確認してから埋め戻しなどの廃棄物処理をする。
【0044】
処理装置に関して上述したように、スラリー調製槽10で行うスラリー調製工程及び電解反応槽20で行う一次電解工程は、省略してもよい。この場合には、固体被汚染物を分級した後、細粒画分電解槽40にて、電解液、固体状被汚染物及び水・酸・アルカリを供給して、スラリー化する。また、固体状被汚染物がスラリー状である場合には、スラリー調製工程は不要である。
【0045】
<多段処理>
本発明の処理装置を一段構成として説明してきたが、分級装置、細粒画分電解槽及び粗粒画分電解槽を基本単位として多段構成としてもよい。多段処理の場合には、段数や粗粒電解槽/粗粒槽の選択、分級装置の配置位置、固液分離装置の配置位置など様々な組み合わせが考えられ、本発明は以下の例に限定されるものではない。被汚染物の性状や目標とする処理速度、処理濃度などの条件に応じて、適当なプロセス構成を採用することが好ましい。
【0046】
本発明においては、図2に示すスラリー調製槽の後段に図2に示すものと同様に分級装置、細粒画分電解槽、粗粒画分電解槽を配置し、さらに粗粒画分電解槽の後段にさらに分級装置、細粒画分電解槽、粗粒画分電解槽を配置することにより、システムを複数直列に組み合わせて、多段システム構成とすることもできる。
【0047】
このような多段システム構成とすることにより、分級装置、細粒画分電解槽、粗粒画分電解槽の組み合わせを、複数直列に組み合わせることで、粗粒画分のすすぎ効果を高めることができ、処理効率を高め、処理物の残留重金属濃度を著しく低減させることができる。なお、粗粒画分の固液分離性が良好である場合には、多段処理の最後の段における細粒画分電解槽から得られる電解処理済みスラリーを直接、固液分離装置に移送して固液分離を行ってもよい。この場合、多段処理の最後の段における粗粒画分電解槽に供給された粗粒画分については、電解処理後に、自然沈降分離などの方法で固液分離を行う。
【実施例】
【0048】
以下、各種試験例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
以下の各試験例において、使用した細粒画分電解槽は基本的に図3に示す構成を有する。具体的には、2000mL形透明塩化ビニール製反応槽である槽本体41に、酸化ルテニウム被覆チタン製アノード電極44、ステンレス製金網状カソード電極45及び参照電極を位置づけた。アノード電極44の周囲には、陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)を隔膜46として設置して、アノード区域44aとカソード区域45aを区画した。参照電極はカソード区域45aに位置づけた。アノード電極44とカソード電極45との間には定電流電源装置43を接続させた。槽本体41底部にはテフロン(登録商標)製撹拌羽根47を位置づけ、電解処理後のスラリーを移送するための移送ポンプ49を槽本体41外部に取り付けた。細粒画分をカソード区域に導入するための配管をカソード区域に設けた。なお、処理対象物である重金属の種類に応じて、電極、隔膜などの素材を変更した場合には以下の各試験例において注記する。
【0049】
[試験例1]土壌粒径による鉛汚染土壌の電解処理性能の比較試験
本試験例は、土壌粒径による鉛の電解処理性能の相違を検証したものである。
液体サイクロン30を用いて、難水溶性の鉛汚染土壌(鉛含有濃度540mg/kg乾土;採取場所:A機械工場)を平均粒径D50が15μm以下の細粒画分と、平均粒径D50が15μmを超える粗粒画分とに分級した(被験系1)。
【0050】
細粒画分サンプル100gと、水道水800mLと、1:1塩酸50mLと、を細粒画分電解槽40のカソード区域45aに添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根47で500rpmの速度で撹拌した。水道水800mLと、47%硫酸80mLと、をアノード区域44aに添加した。電流量が1Aになるように定電流電源装置を調節し、カソード電極電位が−0.3V以下となってから60分間運転した。この間、15分おきに細粒画分電解槽内のスラリーを少量サンプリングし、遠心分離を行い、採取された土壌中の鉛含有濃度を原子吸光法を用いて測定した。
【0051】
土壌サンプル調製のための分級装置として各種の分級性能を持つ液体サイクロンを用い、それぞれD50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として250μm以下(対照系1)、75μm以下(対照系2)、15μm以下(被検系1)、10μm以下(被検系2)の粒径分布を持つサンプルについて比較試験を行った。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

表1に示す結果より、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)が250μm以下の対照系1と比較して、15μm以下の被験系1では60分後の土壌中鉛残留濃度が約1/8以下に低下し、鉛除去速度一次反応定数k1も3.8倍に上昇したことがわかる。さらに、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)が10μm以下のサンプルを使用した被験系2では対照系1と比較して60分後の土壌中鉛残留濃度が約1/19に低下し、鉛除去速度一次反応定数k1も5倍に上昇した。
【0053】
また、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)が75μm以下の対照系2と比較しても、15μm以下の被験系1では60分後の土壌中鉛残留濃度が1/5以下に低下し、鉛除去速度一次反応定数k1も2.3倍に上昇したことがわかる。さらに、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)が10μm以下のサンプルを使用した被験系2では対照系2と比較して60分後の土壌中鉛残留濃度が約1/14に低下し、鉛除去速度一次反応定数k1も3倍に上昇したことがわかる。
【0054】
これらの結果より、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)が250μmもしくは75μm程度の粒子を含む粗粒画分と比較して、望ましくは15μm以下、より望ましくは10μm以下の細粒画分は、電解処理による鉛の除去速度が著しく向上することがわかる。
【0055】
[試験例2]細粒画分電解−粗粒画分電解の組み合わせプロセスと分級を行わない従来のプロセスとの性能比較試験
本試験例は、分級した細粒画分について電解処理を行い、次いで、電解処理後の細粒画分スラリーを粗粒画分と混合して再度電解処理を行った場合の鉛の処理性能を検証する。
【0056】
隔膜としてポリプロピレン系濾布(旭工業繊維SP900-1)を使用した以外は図3に示す構成の細粒画分電解槽を作製した。
D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)250μmおよび75μmの分級性能を持つ液体サイクロンを用い、鉛汚染土壌(鉛含有濃度486mg/kg乾土;採取場所:B塗料工場)から、それぞれ250μm以下および75μm以下の粒径分布を持つ土壌スラリーAおよびB(スラリー濃度200g土/Lおよび160g土/L)を得た。
【0057】
D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として15μmの分級性能を持つ液体サイクロンを用いて、土壌スラリーAを平均粒径D50が15μm以下の細粒画分と、平均粒径D50が15μmを超える粗粒画分とに分級した(被験系3)。このときの細粒画分と粗粒画分との体積比は約9:1であった。分級した細粒画分サンプルスラリー780mLと、メタンスルホン酸30mLと、をカソード区域45aに添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で500rpmの速度で撹拌した。水道水870mLと、メタンスルホン酸30mLと、をアノード区域44aに添加した。電流量が1Aになるように定電流電源を調節し、カソード電極電位が−0.5V以下となってから30分間運転した。次いで、カソード電極を新しいものに交換し、粗粒画分のスラリーを90mL追加してさらに30分間運転した。合計60分間の回分運転の間、15分おきに細粒画分電解槽内のスラリーを少量サンプリングし、遠心分離を行い、採取した土壌中の鉛含有濃度を原子吸光法により測定した。
【0058】
D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として10μmの分級性能を持つ液体サイクロンを用いて、土壌スラリーAを平均粒径D50が10μm以下の細粒画分と、平均粒径D50が10μmを超える粗粒画分とに分級し(被験系4)、同様の実験を行った。
【0059】
D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として15μmの分級性能を持つ液体サイクロンを用いて、土壌スラリーBを平均粒径D50が15μm以下の細粒画分と、平均粒径D50が15μmを超える粗粒画分とに分級し(被験系5)、同様の実験を行った。
【0060】
D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として10μmの分級性能を持つ液体サイクロンを用いて、土壌スラリーBを平均粒径D50が10μm以下の細粒画分と、平均粒径D50が10μmを超える粗粒画分とに分級し(被験系6)、同様の実験を行った。
【0061】
対照系3として、土壌スラリーAをそのままサンプルスラリー870mLとし、60分間上記の条件で回分運転を行った。ただし運転30分の時点でカソード電極を新しいものと交換した。この系は、通常の土壌洗浄装置によって分級洗浄したD50が250μmである汚染土壌についての従来の電解還元処理条件に相当する。
【0062】
対照系4として、土壌スラリーBをそのままサンプルスラリー870mLとし、60分間上記の条件で回分運転を行った。ただし運転30分の時点でカソード電極を新しいものと交換した。この系は、通常の土壌洗浄装置によって分級洗浄したD50が75μmである汚染土壌についての従来の電解還元処理条件に相当する。
【0063】
結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

表2に示す結果より、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として250μm以下の粒度分布を持つ土壌スラリーAをそのまま電解還元処理した対照系3と比較して、土壌スラリーAをさらにD50として15μmの分級性能を持つ液体サイクロンで再分級し、15μm以下の細粒画分として電解還元処理し、30分後に残りの粗粒画分を追加した被験系3、および同じく10μmの分級性能を持つ液体サイクロンで再分級した被験系4では、60分後の土壌中鉛残留濃度がそれぞれ約1/2.5および1/3以下に低下し、60分間トータルでの鉛除去速度一次反応定数k1もそれぞれ2.3倍および2.7倍に上昇した。また、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として75μm以下の粒度分布を持つ土壌スラリーBをそのまま電解還元処理した対照系4と比較して、土壌スラリーBをさらにD50として15μmの分級性能を持つ液体サイクロンで再分級し、15μm以下の細粒画分として電解還元処理し、30分後に残りの粗粒画分を追加した被験系5、および同じく10μmの分級性能を持つ液体サイクロンで再分級した被験系6では、60分後の土壌中鉛残留濃度がそれぞれ約1/2および1/2.5に低下し、60分間トータルでの鉛除去速度一次反応定数k1もそれぞれ1.6倍および1.8倍に上昇した。
【0065】
これらの結果より、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として250μm以下もしくは75μm以下の粒度分布を持つ土壌をそのまま電解還元処理するよりも、望ましくは15μm以下、より望ましくは10μm以下の細粒画分に分級して、まずこれを対象に電解還元処理を行い、ついで電解処理済スラリーに残りの粗粒画分を合わせてさらに電解処理したほうがトータルで除去速度が向上することがわかる。
【0066】
[試験例3]細粒画分電解−粗粒画分電解の組み合わせプロセスと分級を行わないプロセスとの性能比較試験その2:クロム汚染土壌処理
本試験例は、試験例2と同様の処理をクロムについて行い、その処理性能を検証する。
【0067】
隔膜としてサラン系濾布(旭工業繊維NF611-1)を設置して、図3に示す構成の細粒画分電解槽を作製した。
D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として75μmの分級性能を持つ液体サイクロンを用い、三価クロムを主としたクロム汚染土壌(全クロム含有濃度450mg/kg;採取場所:C機械工場)を75μm以下の粒径分布を持つ土壌スラリーC(スラリー濃度160g/L)を得た。
【0068】
被検系7として、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として15μmの分級性能を持つ液体サイクロンで土壌スラリーCをさらに分級し、15μm以下の細粒画分と粗粒画分を体積比約9:1に分級した。カソード区域に、15μm以下の細粒画分のスラリーを780mLと、メタンスルホン酸30mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で500rpmの速度で撹拌した。アノード区域には、水道水870mLと、メタンスルホン酸30mLと、を添加した。電流量が1Aになるように定電流電源を調節し、カソード電極電位が−1V以下となってから30分間、電解運転を行った。30分後の分析用サンプリングを行ったのち、電解を止めてカソード電極を抜き取り、粗粒画分のスラリーを90mL追加して1分間混合を行った。この間、15分おきに電解槽内のスラリーを少量サンプリングし、遠心分離を行った。遠心分離後、土壌中の全クロムをJISK0102 65.1.2の方法に準じて原子吸光法を用いて測定した。この後さらにサンプリングを行って粗粒画分添加後の鉛濃度を測定した。
【0069】
対照系5として、土壌スラリーCをそのままサンプルスラリー870mLとし、60分間上記の条件で回分運転を行った。ただし運転30分の時点でカソード電極を新しいものと交換した。この系は、前段の分級洗浄装置によってD50が75μmである汚染物が供給された場合における、従来の電解還元処理条件に相当する。
【0070】
結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

表3に示す結果より、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として75μm以下の土壌スラリーCをそのまま電解還元処理した対照系5と比較して、D50として15μmの分級性能を持つ液体サイクロンで土壌スラリーCをさらに分級し、15μm以下の細粒画分として電解還元処理し、30分後に残りの粗粒画分を追加した被験系7では、31分後の(粗粒画分を添加して混合した後の)土壌中全クロム残留濃度が168mg/kgまで低下していた。なお、対照系5の60分後の土壌中全クロム残留濃度が189mg/kgであったことから処理時間がほぼ1/2に短縮されたといえる。
【0072】
六価クロムの含有濃度基準が250mg/kgであることから、全クロム中に含まれる三価クロムが全て酸化されて六価クロムになったとしても、被験系7においてはこれ以上の処理は必要なく、環境基準を満たすレベルにまで浄化できたといえる。この間の全クロム除去速度は対照系5の2.3倍であった。
【0073】
これらの結果より、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として75μm以下の粒度分布を持つ土壌をそのまま電解還元処理するよりも、15μm以下の細粒画分に分級して、まずこれを対象に電解還元処理を行い、ついで電解処理済スラリーに残りの粗粒画分を合わせたほうがトータルで全クロム除去速度が向上することがわかる。
【0074】
[試験例4]粒径による鉛汚染ヘドロ堆積物の電解処理性能の比較試験
本試験例は、処理対象がヘドロ、すなわちスラリーである場合について、本発明の方法(スラリー調製工程は不要である)による鉛の電解処理性能を検証する。
【0075】
陽イオン交換膜として陽イオン交換膜(デュポン製ナフィオンNX−424)を用いて図3に示す細粒画分電解槽を作製した。
各種の分級性能を持つ液体サイクロンを用い、鉛汚染ヘドロ堆積物(鉛含有濃度850mg/kg;採取場所:D機械工場内側溝)をそれぞれD50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として250μm以下(対照系6)、75μm以下(対照系7)、15μm以下(被検系8)、10μm以下(被検系9)の粒径分布を持つ試料に分級した。カソード区域に、サンプルスラリー850mLと、1:1塩酸50mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で500rpmの速度で撹拌した。アノード区域には、水道水800mLと、47%硫酸80mLと、を添加した。電流量が1Aになるように定電流電源を調節し、カソード電極電位が−0.7V以下となってから60分間運転した。この間、15分おきに細粒画分電解槽内のスラリーを少量サンプリングし、遠心分離を行い、堆積物中の鉛濃度を原子吸光法により測定した。
【0076】
結果を表4に示す。
【0077】
【表4】

表4に示す結果より、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として250μm以下の粒度分布を持つ対照系6と比較して、15μm以下の粒度分布を持つ被験系8では60分後の堆積物中鉛残留濃度が1/7以下に低下し、鉛除去速度一次反応定数k1も3.4倍に上昇した。さらに、10μm以下の粒度分布を持つサンプルを使用した被験系9では、対照系6と比較して60分後の堆積物中鉛残留濃度が1/18に低下し、鉛除去速度一次反応定数k1も4.6倍に上昇した。
【0078】
また、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として75μm以下の粒度分布を持つ対照系7と比較しても、15μm以下の粒度分布を持つ被験系8では60分後の堆積物中鉛残留濃度が約1/5に低下し、鉛除去速度一次反応定数k1も2.1倍に上昇した。さらに、10μm以下の粒度分布を持つサンプルを使用した被験系9では対照系7と比較して60分後の堆積物中鉛残留濃度が1/12に低下し、鉛除去速度一次反応定数k1も2.9倍に上昇した。
【0079】
これらの結果より、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として250μm以下もしくは75μm以下の粒度分布を持つ堆積物よりも、望ましくは15μm以下、より望ましくは10μm以下の粒度分布を持つ堆積物を処理対象としたほうが除去速度が向上することがわかる。
【0080】
また、表4に示す鉛汚染堆積物の粒径別の鉛除去効率、および堆積物の粒径分布より、試験例2で示した試験を行った場合の細粒画分電解・粗粒画分電解の組み合わせプロセスでの、処理堆積物中の鉛濃度およびトータルの鉛除去一次反応定数を表計算により求めると、以下の表5に示すシミュレーション値が得られた。
【0081】
【表5】

これらの結果より、堆積物の場合でも土壌の場合と同様に、D50(篩い通過重量百分率で50%の粒子)として250μm以下もしくは75μm以下の粒度分布を持つ堆積物をそのまま電解還元処理するよりも、望ましくは15μm以下、より望ましくは10μm以下の粒度分布を持つ細粒画分に分級して、まずこれを対象に電解還元処理を行い、ついで電解処理済スラリーに残りの粗粒画分を合わせてさらに電解処理したほうがトータルで除去速度が向上することが予想される。
【0082】
[参考例]ウラン汚染土壌の電解処理
2000mL容プレキシグラス製反応槽、陽イオン交換膜(トクヤマNEOSEPTA CMB)、ニッケル−銅合金(大同インコアロイ製モネル400)金網の耐腐食性カソード、酸化ルテニウム被覆チタン製のアノードとして、図3に示す細粒画分電解槽を作製する。
【0083】
カソード区域に、難水溶性のウラン汚染土壌100gと、水道水800mLと、20%塩酸90mLと、を添加し、テフロン(登録商標)製撹拌羽根で700rpmの速度で撹拌する。アノード区域には、水道水810mLと、47%硫酸90mLと、を添加する。カソード電極電位が水素標準電極電位に対して−1.5Vとなるように、ポテンショスタットを調節し、カソード電極電位が−1.5V以下となってから60分間運転して、ウラン汚染土壌中から金属ウランを回収する。ウランは放射能を持つため、作業は遠隔操作または放射線防護服、防護壁を用いて被爆量に注意しつつ行う。
【0084】
上記の操作において、予めウラン汚染土壌の分級を行って細粒画分をまず細粒画分電解槽に投入して電解処理を行い、しかる後に処理済みスラリーを別の電解槽に移すか、またはカソード電極を洗浄ないし交換してから粗粒画分を添加して電解処理を行う。分級を行わない土壌を投入した時よりも効率よく、ウランを土壌から除去することができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、砒素(As)、ウラン(U)、プルトニウム(Pu)などの重金属類で汚染された土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰などの固体状被汚染物を効率よく処理することができる。上述の実施例では、土壌汚染物として代表的な鉛、クロムについての処理方法を検証したが、他の重金属類で汚染された土壌、汚泥、堆積物、廃棄物、焼却灰などでも同様の効果が得られることは容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、通常の分級洗浄土、本発明による細粒画分及び粗粒画分についての土壌粒度分布図である。
【図2】図2は、本発明の処理装置の一実施形態における全体構成を模式的に示す概略図である。
【図3】図3は、図2に示す電解反応槽の詳細を示す模式図である。
【符号の説明】
【0087】
10 スラリー調製槽
20 一次電解槽(前処理)
30 分級機
40 細粒画分電解槽
50 粗粒画分電解槽(混合手段)
60 固液分離器(後処理)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状被汚染物を平均粒子径D50が15μm以下の細粒画分と、粗粒画分とに分級する細粒画分分級工程と、
当該細粒画分を、隔膜によってアノード区域とカソード区域とが区画されている電解槽のカソード区域に添加して、電解処理する細粒画分電解処理工程と、
電解処理後の細粒画分スラリーを当該粗粒画分と混合する混合工程と
を含み、固体状被汚染物から重金属類を溶出させる、固体状被汚染物の処理方法。
【請求項2】
さらに、前記混合工程で混合された細粒画分と粗粒画分との混合スラリーを電解処理する混合スラリー電解処理工程を含む、請求項1に記載の固体状被汚染物の処理方法。
【請求項3】
前記混合スラリー電解処理工程は、隔膜によってアノード区域とカソード区域とが区画されている電解槽のカソード区域に前記混合スラリーを添加することによって行われる、請求項3に記載の固体状被汚染物の処理方法。
【請求項4】
前記固体状被汚染物は、平均粒子径D50が250μm以下の粒子状物質を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の固体状被汚染物の処理方法。
【請求項5】
前記固体状被汚染物は、分級洗浄により得た平均粒子径D50が250μm以下の粒子状物質である、請求項1〜4のいずれかに記載の固体状被汚染物の処理方法。
【請求項6】
平均粒子径D50として15μmの分級性能を有する分級装置と、
当該分級装置によって分級された平均粒子径D50が15μm以下の細粒画分を導入して電解処理するための細粒画分電解槽であって、隔膜によってアノード区域とカソード区域とが区画されていて、カソード区域に分級された細粒画分を導入する細粒画分導入手段を有する細粒画分電解槽と、
当該細粒画分電解槽において電解処理された細粒画分スラリーと、当該分級装置によって分級された粗粒画分とを混合する混合手段と、
を具備し、固体状被汚染物から重金属類を溶出させる、固体状被汚染物の処理装置。
【請求項7】
前記混合手段が、隔膜によってアノード区域とカソード区域とが区画されていて、カソード区域に前記細粒画分スラリーと前記粗粒画分とを導入して電解処理する粗粒画分電解槽である、請求項6に記載の固体状被汚染物の処理装置。
【請求項8】
前記混合手段の下流に固液分離装置をさらに具備する、請求項6又は7に記載の固体状被汚染物の処理装置。
【請求項9】
前記分級装置の上流にスラリー調製槽をさらに具備する、請求項6〜8のいずれかに記載の固体状被汚染物の処理装置。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−56373(P2009−56373A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224705(P2007−224705)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】