説明

固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法

【課題】固体粉末を機械的エネルギーにはよらずに微細化することのできる、固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法を提供する。
【解決手段】固体粉末を水に溶解させて水溶液を調製する工程と、この水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)分散系を調製する工程と、この(W/O)分散系の水分を蒸発させることにより油性成分中に固体粉末を析出させて(S/O)分散系を得る工程と、この(S/O)分散系を水相中に分散させて(S/O)/W分散系を調製する工程とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体粉末を含有するマイクロカプセルの製造において、固体粉末のカプセル化効率を安定的に増加させるために、予め固体粉末を粉砕して微細化することが必要とされている。そして、これまで固体粉末は、主として機械的エネルギーにより粉砕されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−239562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、機械的エネルギーによる固体粉末の微細化には限度があった。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、固体粉末を機械的エネルギーにはよらずに微細化することのできる、固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため種々検討した結果、固体粉末を水に溶解させて溶液を調製し、この溶液を油性成分中に分散させて(W/O)分散系を調製し、この(W/O)分散系の水分を蒸発させて除去することにより、水に溶解していた固体粉末が油性成分中に微粒子として析出することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法は、固体粉末を水に溶解させて水溶液を調製する工程と、この水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)分散系を調製する工程と、この(W/O)分散系の水分を蒸発させることにより油性成分中に固体粉末を析出させて(S/O)分散系を得る工程と、この(S/O)分散系を水相中に分散させて(S/O)/W分散系を調製する工程とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、(S/O)分散系を得る工程において、油性成分中に温度応答性樹脂を溶融させること特徴とする。
【0009】
また、(S/O)分散系を得る工程において、溶融させる温度応答性樹脂の量を調整することによりマイクロカプセルの温度応答性を制御することを特徴とする。
【0010】
さらに、(S/O)/W分散系を調製する工程において、水相中に固体粉末の貧溶媒が含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、油性成分中に分散させた水溶液から固体粉末の成分を析出させる方法により、機械的エネルギーにはよらずに固体粉末を容易に微細化することができる。
【0012】
また、(S/O)分散系を得るときに油性成分中に温度応答性樹脂を溶融させることにより、固体のマイクロカプセルを得ることができる。
【0013】
また、(S/O)分散系を得るときに溶融させる温度応答性樹脂の量を調整することで、精密にマイクロカプセルの温度応答性を制御することができる。
【0014】
さらに、(S/O)/W分散系を調製するときに水相中に固体粉末の貧溶媒が含まれていることにより、固体粉末のカプセル化効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例2において、温度応答性樹脂の混合割合を変化させたときのマイクロカプセルの融解開始温度、融解ピーク温度を示すグラフである。
【図2】実施例2において、温度応答性樹脂の混合割合を変化させたときのマイクロカプセルの平均粒子径、カプセル化効率を示すグラフである。
【図3】実施例3において、(W/O)分散系調製時の撹拌速度を変化させたときのマイクロカプセル中の固体粉末径、カプセル化効率を示すグラフである。
【図4】実施例4において、(S/O)/W分散系調製時に固体粉末の貧溶媒を添加したときと添加しないときのカプセル化効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法について説明する。
【0017】
本発明の固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法は、固体粉末を水に溶解させて水溶液を調製する工程と、この水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)分散系を調製する工程と、この(W/O)分散系の水分を蒸発させることにより油性成分中に固体粉末を析出させて(S/O)分散系を得る工程と、この(S/O)分散系を水相中に分散させて(S/O)/W分散系を調製する工程とを備えたものである。
【0018】
はじめに、固体粉末を水に溶解させて水溶液を調製する工程において、固体粉末を水に溶解させて水溶液を調製する。固体粉末としては水に溶解するものであればよく、通常の方法により水溶液を調製する。
【0019】
つぎに、上記の工程で得られた水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)分散系を調製する工程において、油性成分に水溶液を注入して撹拌することにより、(W/O)分散系を調製する。
【0020】
ここで、例えば、撹拌にホモジナイザーを用いることにより、油性成分中に直径が1μm〜数十μmの水溶液の水滴が分散した(W/O)一次分散系を容易に調製することができる。また、ホモジナイザーなどによる機械的剪断力を用いるほかに、界面活性剤を添加することにより、水滴を微小化できると同時に広範囲にわたりその大きさを制御することができる。
【0021】
油性成分としては、特定のものに限定されず、例えば、ユーカリ油、ビタミンE、リモネン、その他の油脂類などを用いることができる。
【0022】
そして、上記の工程で得られた(W/O)分散系の水分を蒸発させることにより油性成分中に固体粉末を析出させて(S/O)分散系を得る工程において、(W/O)分散系の水分を蒸発させることにより油性成分中に固体粉末を析出させて(S/O)分散系を得る。(W/O)分散系の水分を蒸発させるためには、例えば、(W/O)分散系を撹拌しながら減圧下で加熱すればよい。水分が蒸発することにより、油性成分中に分散した水滴中に溶解していた微量の固体粉末が、固体成分中に分散したまま析出する。その結果、微細化した固体粉末が分散した(S/O)分散系が得られる。このように、固体粉末を微細化させることにより、固体粉末のカプセル化効率を著しく向上させることが可能となる。
【0023】
なお、この(S/O)分散系を得る工程において、油性成分中に温度応答性樹脂を溶融させてもよい。油性成分中に温度応答性樹脂を溶融させておくことにより、油性成分が常温で液体である場合においても最終的に得られるマイクロカプセルを固体にすることができるとともに、マイクロカプセルに温度応答性を付与することができる。
【0024】
すなわち、油性成分が常温で液体である場合には、別途、常温で固体のシェル材を用いてカプセル化する必要があるが、油性成分中に温度応答性樹脂を溶融させておくことにより、このカプセル化を省略することができ、カプセル化の工程を簡略化することができる。そして、別途、温度応答性樹脂を用いてカプセル化しなくとも、マイクロカプセルに温度応答性を付与することができる。
【0025】
油性成分中に温度応答性樹脂を溶融させる場合は、油性成分と温度応答性樹脂の混合系の融点より高い温度で、油性成分と温度応答性樹脂を混合して融解する。油性成分中に温度応答性樹脂を溶融させるタイミングは、(W/O)分散系の水分を蒸発させる前であっても後であってもよい。或いは、初めから温度応答性樹脂を含有した油性成分を用いてもよい。
【0026】
また、この(S/O)分散系を得る工程において、溶融させる温度応答性樹脂の量を調整することによりマイクロカプセルの温度応答性を広範囲にわたり精密に制御することができる。すなわち、油性成分と温度応答性樹脂の混合比を変化させることにより、マイクロカプセルが融解して崩壊する温度を調節することができる。なお、温度応答性樹脂の混合割合を大きくするほど粘性が高くなり、油性成分中の固体粉末の分散安定性が向上する。したがって、温度応答性樹脂の混合割合を大きくするほどカプセル化効率が上昇する。
【0027】
温度応答性樹脂としては、特定のものに限定されないが、例えば、融点がシャープであることから、ポリαオレフィンである出光興産株式会社製のCPAO(Crystalline Poly Alpha Olefin)などが好適に用いられる。
【0028】
さらに、上記の工程で得られた(S/O)分散系を水相中に分散させて(S/O)/W分散系を調製する工程において、水相中に(S/O)分散系を注入して撹拌することにより、(S/O)/W分散系を調製する。
【0029】
なお、この(S/O)/W分散系を調製する工程において、水相中に固体粉末の貧溶媒が含まれていてもよい。水相中に固体粉末の貧溶媒が含まれていることにより、固体粉末の水相中への溶解が防止され、固体粉末のカプセル化効率を向上させることができる。
【0030】
そして、油性成分中に温度応答性樹脂が含まれている場合は、冷却することにより油性成分が固化し、最後にこれを水相から分離、乾燥することにより、固体含有マイクロカプセルが得られる。
【0031】
以上のように、本発明の固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法は、固体粉末を水に溶解させて水溶液を調製する工程と、この水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)分散系を調製する工程と、この(W/O)分散系の水分を蒸発させることにより油性成分中に固体粉末を析出させて(S/O)分散系を得る工程と、この(S/O)分散系を水相中に分散させて(S/O)/W分散系を調製する工程とを備えたものであり、油性成分中に分散させた水溶液から固体粉末の成分を析出させる方法により、機械的エネルギーにはよらずに固体粉末を容易に微細化することができる。
【0032】
また、(S/O)分散系を得る工程において、油性成分中に温度応答性樹脂を溶融させるものであり、(S/O)分散系を得るときに油性成分中に温度応答性樹脂を溶融させることにより、固体のマイクロカプセルを得ることができる。
【0033】
また、(S/O)分散系を得る工程において、溶融させる温度応答性樹脂の量を調整することによりマイクロカプセルの温度応答性を制御するものであり、(S/O)分散系を得るときに溶融させる温度応答性樹脂の量を調整することで、精密にマイクロカプセルの温度応答性を制御することができる。
【0034】
さらに、(S/O)/W分散系を調製する工程において、水相中に固体粉末の貧溶媒が含まれているものであり、(S/O)/W分散系を調製するときに水相中に固体粉末の貧溶媒が含まれていることにより、固体粉末のカプセル化効率を向上させることができる。
【0035】
本発明の固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法は、芯材である固体粉末及びシェル材の種類を選択することにより、化粧品、食品分野、塗料・接着剤分野などで利用可能である。
【0036】
また、本発明の応用として、固体粉末として炭酸水素ナトリウムを含有した固体粉末含有マイクロカプセルを製造することができる。本発明の固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法により製造された、炭酸水素ナトリウム粉末を含有したマイクロカプセルを、酸性度により色が変化する試薬を添加した酸性の水溶液中に分散させておく。つぎに熱や機械的エネルギーなどの外部刺激によりマイクロカプセルを破壊させると、水溶液中に炭酸水素ナトリウムが放出され、炭酸ガスが発生する。そして、炭酸ガスの発生に伴い水溶液がアルカリ性へ変化することにより、水溶液の色が変化する。このように、水溶液の色の変化を観察することにより、マイクロカプセルが崩壊したことを容易に検知することができる。
【0037】
さらに、油性成分中にカルシウムイオンを含有させておき、(W/O)分散系を調製した後の連続相にカルシウムイオンによりゲル化する物質、例えば、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、ジェランガムなどの多糖類や、ケイ酸ナトリウムなどを添加することにより、油性成分をゲルにより被覆したマイクロカプセルを調製することも可能である。
【0038】
以下、具体的な実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0039】
ビタミンE10cm中に、濃度1.0mol/lの炭酸水素ナトリウム水溶液3cmを添加し、ホモジナイザーにより回転数10000rpmで2分間攪拌し、W/O分散系を調製した。
【0040】
この後、80℃、減圧下でW/O分散系の水分を蒸発除去して、固体粉末を析出させて(S/O)分散系を得た。そして、この(S/O)分散系の油相に、温度応答性樹脂である出光興産株式会社製のCPAO1gを添加溶解した。
【0041】
つぎに、水200cm中に(S/O)分散系を添加攪拌して(S/O)/W分散系を調製した。そして、この(S/O)/W分散系を室温まで冷却することにより、固体粉末包含マイクロカプセルを得た。
【0042】
得られたマイクロカプセル中の固体粉末の平均粒子径は、470nmであった。なお、原料に用いた炭酸水素ナトリウムの固体粉末の平均粒子径は16.8μmであった。
【0043】
また、得られたマイクロカプセルのカプセル化効率は70%であった。なお、本発明の方法によらずに固体粉末を直接油性成分に混合してマイクロカプセルを調製したときのカプセル化効率は40%であった。なお、ここでのカプセル化効率は、原料として使用した炭酸水素ナトリウムに対するマイクロカプセル中の炭酸水素ナトリウムの割合である。
【0044】
このように、本発明の方法によれば、マイクロカプセルに含まれる固体粉末の大きさを微細化することができるとともに、カプセル化効率を向上させることができることが確認された。
【0045】
さらに、このマイクロカプセルを、L−アスコルビン酸とサンレッドYMを溶解した水相に添加してスラリーを調製した後に、40℃で指圧により破壊させた。水相が赤から青に変色し、炭酸ガスが発生したことが確認された。
【実施例2】
【0046】
温度応答性樹脂の混合割合を変化させたほかは実施例1と同様にしてマイクロカプセルを調製した。
【0047】
そして、種々の温度応答性樹脂の混合割合におけるマイクロカプセルの融解温度を測定した。その結果を図1に示す。温度応答性樹脂の混合割合が大きくなるほど、融解開始温度、融解ピーク温度が上昇した。したがって、温度応答性樹脂の混合割合を調整することにより、マイクロカプセルの融解温度を調整することができることが確認された。
【0048】
また、種々の温度応答性樹脂の混合割合におけるマイクロカプセルの平均粒子径と固体粉末のカプセル化効率を測定した。その結果を図2に示す。温度応答性樹脂の混合割合が高いほどカプセル化効率が高くなり、温度応答性樹脂の混合割合が50%のときには75%となった。これは、温度応答性樹脂を添加することにより、油性成分の粘度が上昇して、(W/O)分散系及び(S/O)分散系の安定性が向上したためと考えられる。一方、平均粒子径は温度応答性樹脂の混合割合によらず、330〜380μmの範囲内でほぼ一定であった。
【実施例3】
【0049】
(W/O)分散系調製時の撹拌速度を変化させたほかは実施例1と同様にしてマイクロカプセルを調製した。
【0050】
そして、種々の撹拌速度におけるマイクロカプセル中の固体粉末径とカプセル化効率を測定した。その結果を図3に示す。固体粉末の平均粒子径は、撹拌速度が1000rpmのとき1.2μm、10000rpmのとき470nmとなり、撹拌速度が大きいほど固体粉末径が小さくなることが確認された。また、カプセル化効率は、撹拌速度が1000rpmのとき50%、10000rpmのとき70%となり、撹拌速度が大きいほどカプセル化効率が高くなることが確認された。
【実施例4】
【0051】
(S/O)/W分散系調製時に、分散安定剤として、固体粉末の貧溶媒であるグリセリンを添加した。そして、そのほかは実施例1と同様にしてマイクロカプセルを調製した。図4に示すように、貧溶媒を添加しないときのカプセル化効率が70%であったのに対し、貧溶媒を添加することによりカプセル化効率が95%に向上することが確認された。
【実施例5】
【0052】
油性成分として、ビタミンEの代わりにユーカリ油を用いて、実施例1と同様にしてマイクロカプセルを調製した。油性成分の種類にかかわらず、マイクロカプセルを調製することができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体粉末を水に溶解させて水溶液を調製する工程と、この水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)分散系を調製する工程と、この(W/O)分散系の水分を蒸発させることにより油性成分中に固体粉末を析出させて(S/O)分散系を得る工程と、この(S/O)分散系を水相中に分散させて(S/O)/W分散系を調製する工程とを備えたことを特徴とする固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
(S/O)分散系を得る工程において、油性成分中に温度応答性樹脂を溶融させることを特徴とする請求項1記載の固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
(S/O)分散系を得る工程において、溶融させる温度応答性樹脂の量を調整することによりマイクロカプセルの温度応答性を制御することを特徴とする請求項2記載の固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
(S/O)/W分散系を調製する工程において、水相中に固体粉末の貧溶媒が含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の固体粉末含有マイクロカプセルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−56405(P2011−56405A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209049(P2009−209049)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】