説明

固体色素レーザーの製造方法

【課題】ディスペンサペンによるペン描画を利用して手間をかけることなく簡単に固体色素レーザーを製造することができる製造方法の提供。
【解決手段】ローダミン系色素、スチリル系色素等の色素を混合したメタクリル酸メチルまたはそれの共重合ポリマー等の有機溶液を、ディスペンサペン2を用いて、基板1の上にペン描画して薄膜を形成し、光導波路3とする固体色素レーザーの製造方法。また、有機溶液に混合する色素を変えることにより、同一基板上に多波長、多機能の薄膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスペンサによるペン描画を利用して光導波路を形成する固体色素レーザーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色素を含むプラスチック材料をストライプ状に形成した光導波路のそれぞれの表面にピッチの異なる回折格子を形成し、励起光を光導波路に照射することによって回折格子のピッチに従った波長のレーザーを発振できる固体色素レーザーチップが知られている。
【0003】
固体色素レーザーチップの製造方法として、ローダミン系色素、スチリル色素等の色素をメタクリル酸メチル、もしくはメタクリル酸メチルとメタクリル酸ヒドロキシエチルの共重合に混合し、この混合物を基板に滴下してスピンコートし、この薄膜を乾燥し、そしてアニーリングして固化し、次いで、フォトマスクを用いたエキシマランプにより露光した後、ウエットエッチングにより複数のストライプからなる光導波路を形成する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、別の製造方法として、基板に複数の溝を形成し、次いで形成された各溝内にメタクリル酸メチル等のプラスチックス材料液とローダミン系色素、スチリル色素等の色素とを混合した混合液を各溝内に流し込み、流し込まれた溶液を乾燥させて固化させる工程を繰り返して溝に充填することにより複数のストライプからなる光導波路を形成して可変長固体色素レーザーを製造することが開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−273433号公報
【特許文献2】特開2004−311662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のスピンコート法で製膜する方法では、同一基板上に一種類の色素膜しか形成することができないので、同一基板上に多波長のレーザーを構築することが不可能であった。さらに、光導波路型チップの作製工程において、ストライプの形成にマスクなどでの露光を必要としていたため、生産効率・コストの面で問題があった。
【0006】
また、特許文献2の溝に色素含有のプラスチック材料を充填する方法は、基板への溝の形成、流し込み乾燥固化を繰り返すので手間がかかるという欠点があった。
【0007】
そこで、本発明は、ディスペンサペンによるペン描画を利用して手間をかけることなく簡単に固体色素レーザーを製造することができる固体色素レーザーの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の固体色素レーザーの製造方法は、色素を混合した有機溶液を、ディスペンサペンと制御ロボットを用いて、基板あるいはフィルムの上にペン描画して薄膜を形成することを特徴とする。
【0009】
色素を混合した有機溶液には、メタクリル酸メチルまたはそれの共重合ポリマー等を始めとする、各種の有機アモルファス媒質が適している。色素には、ローダミン系色素、スチリル系色素等の色素の中から所望の波長に応じて選択する。
【0010】
ディスペンサペンは、色素を混合した有機溶液を吐出するペンの位置制御やペン吐出穴径、形状、吐出速度、描画速度、溶液温度、基板温度を選ぶことにより、幅100ミクロン以上、膜厚5ミクロン以下のフィルムを自在な形状に形成することができ、また、シングルモードのレーザー光導波路を作製することもできる。
【0011】
また、ディスペンサペンから吐出する有機溶液に混合する色素を変えることにより、同一基板上に多波長、多機能の薄膜を形成することができ、また、多波長・多種のフィルム同士を接合したり、重ね塗りしたりして多層膜を形成することもできる。
【0012】
さらに、形成した膜にリソグラフィーを併用することでより幅の小さな矩形断面型の光導波路を形成することができる。
【0013】
また、薄膜にナノインプリンティング技術を適用することで高精度の矩形断面型の光導波路を作製することができる。
【0014】
基板に切削した溝に吐出量を正確に制御したディスペンサペンによって有機アモルファス媒質を流し込み、レーザー薄膜やレーザー厚膜を埋め込むこともできる。
【0015】
また、雌型の溝にディスペンサペンによって有機アモルファス媒質を流し込み、基板上に転写してフィルムレーザーを基板上に作製することも可能となる。
【0016】
こうして作製した薄膜表面の0.1ミクロン以下の細かい表面凹凸をなくし、さらに膜上に回折格子構造を作製することで波長選択レーザーとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ディスペンサペンと制御ロボットを用いたペン描画により薄膜の作製を行うので、種々の形態の光導波路や複数種の光機能薄膜を同一基板上またはフィルム上に複雑な工程を経ることなく簡単に作製することができる上、ナノインプリンティング技術などを用いることで簡単に多種多様な光導波路の形成が可能となる。その結果、生産効率向上・コスト低減が可能となる。
【0018】
また、本発明によりレーザー色素を混入したアモルファス樹脂膜を同一基板上に多種類で構築することができるため、これまで不可能であった医療診断・計測など、他分野ヘレーザーチップの応用範囲を拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0020】
図1はディスペンサペンにより薄膜を形成する例の模式図である。
【0021】
図1(a)において、アクリル樹脂などの基板1に、ディスペンサペン2から蛍光性色素を含有させたプレポリマー等のアモルファス樹脂液を吐出させ、制御ロボットにより、矢印で示すように、左右にペンを移動させてペン描画し、乾燥、固化させて所望の矩形形状の薄膜からなる光導波路3を形成した。ペン2の吐出穴を100ミクロン径、吐出穴と基板間距離を10ミクロンとし、吐出圧力、ペン移動速度、描画パターンの間隔、描画順序を制御して膜厚を5ミクロン以下に形成した。こうして製造された固体色素レーザーに上方から励起用レーザーをシート状に照射して横方向から所定波長のレーザーを出力させることができた。
【0022】
また、図1(b)において、色素、樹脂液を他の有機材料に変えてディスペンサペンから吐出して描画させることにより種類の異なる薄膜を形成する。こうして種類の異なる光導波路4を形成することにより、波長の異なる多波長のレーザーを同一基板上に形成することができる。また、このようにして形成される固体色素レーザーは自由自在に同一基板上に集積化することができる。
【実施例2】
【0023】
図2はストライプ状の光導波路を形成する例の模式図である。
【0024】
実施例1と同じ色素混合アモルファス樹脂液をディスペンサペン2で基板1にペン描画し、乾燥、重合、固化させてストライプ状に光導波路3を形成した。描画速度、ペン先と基板間距離、吐出速度を制御することで台形断面形状をもつ厚さ数ミクロンのストライプ光導波路を作製することが出来る。
【0025】
得られた固体色素レーザーに上方から励起用レーザーをシート状に照射して横方向から所定波長のレーザーを出力させることができた。
【0026】
次いで、前記蛍光性色素と異なる蛍光性色素を含有させたアモルファス樹脂液をディスペンサペンで吐出させてペン描画させて種類の異なる薄膜を形成して光導波路4を形成した。こうして、異なる蛍光性色素による多波長レーザー発振が同一基板上から得られた。
【0027】
また、光導波路は直線ではなく、カーブしたものや折れ曲がったものも作製が可能である。
【実施例3】
【0028】
図3は光導波路を重ねて形成した例を示す図である。
【0029】
図3において、アクリル樹脂基板1の上に、まず、アモルファス樹脂液をディスペンサペン2で吐出させ、左右にペン2を移動させてペン描画し、乾燥、重合、固化させて薄膜を形成して光導波路または緩衝層3を形成した。この層には必要に応じて蛍光色素などを含有させる。
【0030】
次いで、蛍光性色素を含有させたアモルファス樹脂液をディスペンサペンで吐出させてペン描画させて種類の異なる薄膜を形成して光導波路4を形成した。この際に2つめの膜描画には、一つめの膜を侵さない溶媒を利用したり、重合を主としたプレポリマーを使用したり、描画速度を上げて極微量のアモルファス樹脂液を描画したりすることで、ミクロン厚のストライプを二層化することができた。これを同様にして、光導波路を多層に重ねることにより光学設計に基づいた複雑な多層の光導波路形成を可能にした。
【実施例4】
【0031】
図4は光導波路を接合して形成した例を示す図である。
【0032】
図4において、まずディスペンサペン2から蛍光性色素を含有させた有機材料溶液のアモルファス樹脂液を吐出させ、ストライプ状の光導波路レーザー導波路3をペン描画により形成した。
【0033】
次いで、前記蛍光性色素を励起することが出来るような光を出力する蛍光性色素を含有させたアモルファス樹脂液をディスペンサペン2から吐出させてペン描画して、励起レーザー用光導波路列5を光導波路3に接合した。こうして、光導波路列5をレーザー光で励起することで、その出力を間接的に光導波路3に集めて、レーザー出力を得るカスケード型のレーザー導波路が作製できた。
【実施例5】
【0034】
図5はリソグラフィーを利用して矩形断面光導波路を形成した例を示す図である。
【0035】
まず、ディスペンサペン2から蛍光性色素を含有させた有機材料溶液のアモルファス樹脂液を吐出させてペン描画により基板1上に光導波路3を形成し、ストライプ状の光導波路5を形成した。次いで、石英マスク6などを利用したリソグラフィーによりストライプの断面を100ミクロン幅以下の矩形断面形状に形成した。この工程を実施することでより理想的な矩形断面光導波路7を得られた。なお、リソグラフィーを実施例1―4と適宜組み合わせて矩形断面光導波路7を形成することもできる。
【実施例6】
【0036】
図6はナノインプリンティングにより矩形断面形状の光導波路を形成する例を示す図である。
【0037】
まず、ディスペンサペン2から蛍光性色素などを含有させた有機材料溶液のアモルファス樹脂液を基板1に吐出させ、左右にペンを移動させてペン描画し、乾燥、重合、固化させて所望の矩形状の薄膜8を形成する。その後、異なる蛍光性色素を含有させたアモルファス樹脂液をディスペンサペン2から吐出させてペン描画させて種類の異なる薄膜9を形成した。
【0038】
次いで、基板1の上からパターンの雌型が形成された型10を押し付けて真空中で加熱する。加熱温度制御と押し付ける圧力を同時に制御することで、熱可塑性を持つアモルファス薄膜が膜構造を維持したままその表面形状のみが変化し、変形後に冷却して再固化した後、型10を基板1から離すと、基板1に型10のパターンが転写される。こうして、光導波路3,4を基板1にマスクを利用して露光により溝を形成して樹脂液を充填することなく容易に形成することができる。
【実施例7】
【0039】
図7は基板の溝に光導波路を形成する例を示す図である。
【0040】
基板1に型11によりパターンを転写して溝12を形成し、この溝12にディスペンサペン2により色素を混合したアモルファス樹脂液13を必要量充填して乾燥、重合、固化させて光導波路3を形成する。この過程で減少する体積分を予め計算してアモルファス樹脂液を充填することにより、光導波路形成後の表面形状をほぼフラットに形成することができる。この形成方法により、形状を自由に制御した光導波路を自在に形成することができる。
【実施例8】
【0041】
図8は基板上に光導波路を転写する例を示す図である。
【0042】
図8において、雌型14の溝15にディスペンサペン2により色素を混合したアモルファス樹脂液13を充填し、乾燥、固化させて後、基板1を圧着して色素を混合したアモルファス樹脂膜や光導波路3を基板上に写し取るものである。
【0043】
この形成方法により、形状を自由に制御して光導波路を自在に形成することができる。 することができる。
【実施例9】
【0044】
図9は実施例1〜8によって作製された光導波路上に回折格子構造を形成する例を示す図である。
【0045】
紫外線レーザー光の干渉を利用した露光、もしくはランプと位相マスクを組み合わせた露光などにより、実施例1〜8によってディスペンサペン2により作製された光導波路3の表面に回折格子16を形成する。また、さらに、露光後に有機溶媒やガスによるエッチング処理を施して、表面に回折格子16を形成する。
【0046】
こうして、得られた固体色素レーザーにより、実施例1〜8によって作製された光導波路よりも狭帯域な単色のレーザー光を得ることが出来るようになり、分析応用などにおける感度の向上やノイズの低減などが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ディスペンサにより薄膜を形成する例の模式図である。
【図2】ストライプ状の光導波路を形成する例の模式図である。
【図3】光導波路を重ねて形成した例を示す図である。
【図4】光導波路を接合して形成した例を示す図である。
【図5】リソグラフィーを利用して矩形断面光導波路を形成した例を示す図である。
【図6】ナノプリンティングにより矩形断面形状の光導波路を形成する例を示す図である。
【図7】基板の溝に光導波路を形成する例を示す図である。
【図8】基板上に光導波路を転写する例を示す図である。
【図9】膜上に回折格子構造を形成する例を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1:基板
2:ディスペンサペン
3:光導波路
4:種類の異なる光導波路または光緩衝層
5:励起レーザー用レーザー光導波路列
6:石英マスク
7:矩形断面光導波路
8:薄膜
9:種類の異なる薄膜
10:型
11:型
12:溝
13:樹脂液
14:雌型
15:溝
16:回折格子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、ディスペンサのペンから色素を含有させた有機溶液を吐出させペン描画し、乾燥、固化させて所望の形状の光導波路を形成することを特徴とする固体色素レーザーの製造方法。
【請求項2】
さらに前記色素と異なる色素を含有させた有機溶液を吐出させペン描画し、乾燥、固化させて光導波路を形成することを特徴とする請求項1記載の固体色素レーザーの製造方法。
【請求項3】
薄膜の上にさらにディスペンサのペンから色素を含有させた有機溶液を吐出させペン描画し、乾燥、固化させて光導波路を形成することを特徴とする請求項1記載の固体色素レーザーの製造方法。
【請求項4】
基板上に、ディスペンサのペンから色素を含有させた有機溶液を吐出させペン描画し、乾燥、固化させて光導波路を形成し、リソグラフィーで断面矩形の光導波を形成することを特徴とする請求項1記載の固体色素レーザーの製造方法。
【請求項5】
基板上に、ディスペンサのペンから色素を含有させた有機溶液を吐出させペン描画し、乾燥、固化させて光導波路を形成し、基板を所望の形状の光導波路のパターンが形成された型を押し付けて所望の形状の光導波路を形成することを特徴とする固体色素レーザーの製造方法。
【請求項6】
所望の形状の光導波路のパターンが形成された型を押し付けて形成された溝内に、ディスペンサのペンから色素を含有させた有機溶液を吐出させペン描画により充填し、乾燥、固化させて光導波路を形成し、基板に所望の形状の光導波路のパターンが形成された型を押し付けて所望の形状の光導波路を形成することを特徴とする固体色素レーザーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−250654(P2007−250654A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69424(P2006−69424)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月22日 電気関係学会九州支部連合会発行の「平成17年度電気関係学会九州支部連合大会(第58回連合大会)講演論文集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月26日 応用物理学会九州支部事務局発行の「平成17年度応用物理学会九州支部学術講演会 講演予稿集Vol.31」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月9日 社団法人レーザー学会発行の「レーザー学会学術講演会第26回年次大会講演予稿集」に発表
【出願人】(591212718)株式会社正興電機製作所 (25)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】