説明

固体酸の製造方法および固体酸

【課題】 安全で、特殊な装置を使用しない、イオン交換容量、触媒性能、プロトン伝導性が高く耐熱性に優れた固体酸の製造方法および固体酸の提供、およびこれを使用したプロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜、膜電極接合体、燃料電池の提供。
【解決手段】
ポリアニリンと芳香族化合物とを、常圧下で重縮合化剤の存在下で加熱処理し、得られた重縮合化合物を、スルホン酸化剤でスルホン酸化することを特徴とする固体酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸の製造方法および固体酸に関するものであり、更に詳しくは、プロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜、イオン交換容量、触媒性能、プロトン伝導性が高く耐熱性に優れた固体酸の製造方法および本発明の製造方法により製造された固体酸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸触媒は、分離・回収に中和や塩の除去といったプロセスが不要であり、不必要な副産物を生産することなく省エネルギーで目的物を作ることができるため、従来から積極的にその研究が進められてきた(例えば、非特許文献1参照)。
その結果、ゼオライト、シリカ−アルミナ、含水ニオブなどの固体酸触媒が化学工業で大きな成果を挙げ、社会に大きな恩恵をもたらしている。また、前述したNafionも親水性を有する非常に強い固体酸であり、液体酸を上回る酸強度をもつ超強酸として働くことが既に知られている。しかし、Nafionは熱に弱く、また、工業的に利用するには高価すぎるという問題点がある。
このように、性能およびコストなどの面から固体酸触媒が液体の酸触媒より有利な工業的プロセスの設計は難しく、現在のところほとんどの化学産業は液体の酸触媒に依存していると言える。このような現状において液体の酸を凌ぐ固体酸触媒の出現が望まれる。
【0003】
また商業化されているイオン交換樹脂も耐熱性が低く耐熱性の高い材料が求められている。
【0004】
このような中、特許文献1における固体酸は多環式芳香族炭化水素を濃硫酸中あるいは発煙硫酸中で加熱処理することにより縮合およびスルホン化を同時に行い、極性溶媒に不要な固体酸を得ている。
しかし、この方法の反応の実際は、多環式芳香族炭化水素を濃硫酸あるいは発煙硫酸中で加熱処理すると先ずスルホン酸化が生じる。このスルホン酸化により生成されるスルホン酸誘導体は化学反応的に安定であるため、これ以上の縮合反応は生じ難くなる。例えば、ナフタレンを出発多環式芳香族炭化水素とした場合、濃硫酸や発煙硫酸中加熱処理すると、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸や1,3,5,7−ナフタレンテトラスルホン酸が必然的に生成される。これらのナフタレンスルホン酸誘導体は化学反応的に安定であるために、これ以上重縮合反応は生じ難い。一般的に、200℃を超えると熱濃硫酸や熱発煙硫酸中の硫酸は水と三酸化硫黄に分解し始めるため酸化力が非常に強い、このために有機物を酸化するために結合を破壊分解するので、目的とする固体酸は得難い。過剰の濃硫酸あるいは発煙硫酸を250℃で減圧蒸留や常圧下、300℃で蒸留を行い取り除いているが、先の理由で酸化分解されるために固体酸は得難い。また、減圧蒸留などの反応溶液の濃縮に伴って、発泡膨張のために作業上非常に危険である。しかし、目的である極性溶媒に不溶の固体酸を得るためには多環式芳香族炭化水素を縮合する必要があるが、濃硫酸あるいは発煙硫酸中加熱処理は、必ずしも効率のよい縮合反応ではない。また、この固体酸は、スルホン酸基の導入がしにくいという問題があった。元素分析により、炭素原子に対する硫黄原子の割合が15モル%未満と低く、さらに硫黄原子を多く含んだ高性能かつ分子設計の自由度が高い、作業上安全で、収率や再現性の高く、容易に製造できる材料の提供が求められていた。
ここで元素分析における硫黄の割合は、スルホン酸基の含有率が高くなると増加する。別の計算方法では滴定により酸価を図る方法もあるが、この場合はカルボン酸などの別の弱い酸基との区別がつかず、元素分析法の方がより実体を把握できる。
【0005】
【非特許文献1】Ishihara,K;Hasegawa,A;Yamamoto,H;Angew.Chem.Int.Ed.2001,4077.
【特許文献1】特開2004−238311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、プロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、且つイオン交換容量、触媒性能などにも優れた固体酸を作業安全性、収率、分子設計の自由度が高く、再現性がよく、且つ容易に製造できる方法を提出することである。
更に本発明の他の課題は、このような固体酸を用いたプロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、ポリアニリンと芳香族化合物とを、常圧下で重縮合化剤の存在下で加熱処理し、得られた重縮合化合物を、スルホン酸化剤でスルホン酸化することにより、作業安全性が高く、再現性よく、収率が高く、分子設計の自由度の高い、且つ低コストで容易に製造できることを見出し、またそのような方法で製造された固体酸は低価格で、高性能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリアニリンと芳香族化合物を、常圧下で重縮合化剤の存在下で加熱処理し、得られた重縮合化合物を、スルホン酸化剤でスルホン酸化することを特徴とする固体酸の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、加熱処理温度が、50〜220℃である上記固体酸の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、芳香族化合物が、常圧下で50℃〜220℃で液体状態であることを特徴とする上記固体酸の製造方法に関する。
【0011】
また、本発明は、上記製造方法で製造されてなることを特徴とする固体酸に関する。
【0012】
また、本発明は、元素分析で炭素に対する硫黄のモル量が、15モル%以上100モル%以下であることを特徴とする上記固体酸に関する。
【0013】
また、本発明は、固体酸の酸価が、1〜20meq/gであることを特徴とする上記固体酸に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の固体酸の製造方法は、ポリアニリンと芳香族化合物とを、常圧下で重縮合化剤の存在下で加熱処理し、スルホン酸化剤でスルホン酸化することを特徴とするものである。常圧下で加熱処理することにより、反応系内で重縮合化剤から発生する重縮合反応に必要な有効成分、例えばハロゲン化水素などを保持することができるので、芳香族化合物の環化縮合反応を促進することができる。得られた重縮合化合物をスルホン酸化剤で反応することにより、導入するスルホン酸化量を容易設計しやすい。さらに、前記ポリアニリン骨格が固体酸構造中に任意に存在し、ポリアニリンのレドックス特性が環境により変化する。このために、前記ポリアニリン由来の窒素原子とスルホン酸との複雑な相互作用と、複素環や4級アミンを形成されると考えられる。このために、プロトン電導性が高く、且つイオン交換量、触媒性能などにも優れると推測される。
しかも、作業安全性や収率、分子設計の自由度の高く、再現性よく、且つ容易に製造できるという顕著な効果を奏する。
【0015】
また、さらなる本発明は、上記固体酸の製造方法において、加熱処理温度が、50℃〜220℃であることを特徴とするものであり、高性能の固体酸を確実に作業安全性や収量、再現性、分子設計の自由性が高く低コストで容易に製造できるという、さらなる顕著な効果を奏する。
【0016】
また、さらなる本発明は、上記固体酸の製造方法において、芳香族化合物が、常圧下で50℃〜220℃で液体状態であることを特徴するものであり、液体状態であることで重縮合化剤との接触がより向上されるので、環化縮合反応がより容易に促進し、得られた重縮合化合物をスルホン酸化剤でスルホン酸化することにより、プロトン伝導性が高く、耐熱性が優れ、且つイオン交換容量、触媒性能などにも優れ、作業上安全性や収率、分子設計の自由度が高い、再現性よく、且つ容易に製造できるという、更なる顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
本発明は、ポリアニリンと芳香族化合物とを、常圧下で重縮合化剤の存在下で加熱処理し、得られた重縮合化合物を、スルホン酸化剤でスルホン酸化することで得られる固体酸の製造方法に関するものであり、好ましくは加熱処理温度が50℃〜220℃であり、より好ましくは加熱処理温度が90℃〜150℃であり、また、前記芳香族化合物は常圧下で50℃〜220℃で液体状態であることが好ましく、常圧下で重縮合化剤の存在下で加熱処理し、得られた重縮合化合物を、スルホン酸化剤でスルホン酸化して高性能の固体酸を、作業安全性や収率、再現性、分子設計の自由度が高い、且つ低コストで容易に製造できる。
より好ましくは、芳香族化合物が常圧下で90℃〜150℃で液体状態であり、常圧下で重縮合化剤の存在下で90℃〜150℃で加熱処理し、得られた重縮合化合物を、スルホン酸化剤でスルホン酸化し、より高性能の固体酸を作業安全性、収率が高く、分子設計の自由度の高い、且つ低コストで容易に製造できる。ここでいう液体状態とは、反応温度が融点以上沸点以下であるか、反応温度において他の液状物質に溶解して液体である部分が存在する状態、例えば、熱処理温度100℃において、ナフタレン(融点80.2℃、沸点218℃)中にコロネン(融点438〜440℃)が存在するような状態のことをいう。
【0018】
本発明で用いる芳香族化合物としては、芳香環が1以上含まれる化合物であればいずれも使用でき、これらの内の2種以上複数種組み合わせて使用することもできる。
【0019】
その中でも、常圧下で50℃〜220℃で液体状態である芳香族化合物を原料に使用した場合、よりプロトン性伝導性が高く耐熱性に優れ、且つイオン交換容量、触媒性能などにも優れ、作業安全性、収率、分子設計の自由度が高く、再現性よく、且つ容易に製造できることが多いので好ましく使用できる。
【0020】
本発明で用いる芳香族化合物としては、具体的には、例えば、ベンゼンあるいは置換基含有ベンゼンが挙げられる。前記置換基としては、ハロゲン基、フェニル基、アルコキシル基、アミノ基、水酸基、N−オキシド基、フェニルオキシド基、アミノ基、ヒドラジル基、フェルダジル基、ニトロ基、ニトロソ基、水酸基、燐酸基、ジスルフィド基、メルカプタン基、アミド基、イミド基、イソシアネート基、ビニル基、(メタ)アクロリル基、シアノ基、カルボン酸、アルデヒド基、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は鎖状であっても、環状であってもよく、環状炭化水素は脂肪族系でも芳香族系でもよく、さらには単環であっても、多環であっても、またヘテロ環であってもよい。また炭化水素基は置換基を含んでいてもよい。
【0021】
また、本発明で用いる芳香族化合物として、ナフタレン、ピレン、ベンゾ(α)ピレン、ベンゾアントラセン、アントラセン、フェナントレン、コロネン、ケクレンなどの少なくとも2以上の芳香環が縮合している多環式芳香族炭化水素あるいは置換基含有多環式芳香族炭化水素が挙げられる。
前記置換基としては前述の置換基が挙げられる。
【0022】
また、本発明で用いる芳香族化合物として、ビフェニル、ターフェニル、クァテルフェニル、キンクフェニル、セクシフェニル、セプチフェニル、オクチフェニル、ノビフェニル、デシフェニル、ヘキサフェニルベンゼンなどの芳香環が2個以上集合しているポリフェニル、置換基含有ポリフェニルが挙げられる。
前記置換基としては前述の置換基が挙げられる。
【0023】
また、本発明で用いる芳香族化合物として、前記ベンゼン、置換基含有ベンゼン、多環式芳香族炭化水素、置換基含有多環式芳香族炭化水素、ポリフェニル、置換基含有ポリフェニルが、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、スルホン結合、イミド結合、ウレタン基、尿素結合、ケトン結合、炭素−炭素2重結合、炭素−炭素3重結合などで結合された芳香環が1個以上含まれる芳香環含有化合物あるいは、これらの結合の1種以上複数種組み合わせてなる芳香環含有有機化合物が挙げられる。
例えば、ポリ芳香族スルホン類、ポリスチレン類、ポリフェノール類、ポリイミド類、ポリアルキッド類、ポリアミド酸、ポリメラミン類、ベンゾグアナミン類、ポリベンゾグアナミン類、ポリビスマレイミド−トリアジン類、ポリアリル類、ポリエポキシ類、ポリアミド類、ポリアミドイミド類、ポリアリレート類、ポリアリルスルホン類、ポリベンゾイミダゾール類、ポリカーボネート類、ポリエーテルエーテルケトン類、ポリエーテルイミド類、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルニトリル類、ポリエーテルスルホン類、ポリチオエーテルスルホン類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリアミノビスマレイミド類、ポリケトン類、ポリフェニルエーテル類、ポリフェニルスルフィド類、SAN樹脂類、ポリウレタン類、ポリキシレン類などの合成ポリマー類などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
より好ましくは、常圧下で50℃〜220℃で液体状態である芳香族化合物としては、ベンゼン、安息香酸、トルエン、キシレン、ナフタレン、1−ナフタレンカルボン酸、2−ナフタレンカルボン酸、1−ナフトール、2−ナフトール、ビフェニル、ピレン、アントラセン、ベンゾアントラセン、ビス(N,N−ジメチルアニリン)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
固体酸の一般的な合成方法は、最初に濃硫酸や発煙硫酸中加熱処理しスルホン酸化を行い、縮合させる。
この方法の問題点は、多環式芳香族炭化水素を濃硫酸あるいは発煙硫酸中で加熱処理すると先ずスルホン酸化が生じる。このスルホン酸化により生成されるスルホン酸誘導体は化学反応的に安定であるため、これ以上の縮合反応は生じ難くなる。
一般的に、200℃を超えると熱濃硫酸や熱発煙硫酸中の硫酸は水と三酸化硫黄に分解し始めるため酸化力が非常に強い、このために有機物を酸化するために結合を破壊分解する。過剰の濃硫酸あるいは発煙硫酸を250℃で減圧蒸留や常圧下、300℃で蒸留を行い取り除くので、先の理由で固体酸は得難い。また、減圧蒸留では濃縮に伴い、発泡膨張のために作業上非常に危険である。しかし、目的である極性溶媒に不溶の固体酸を得るためには多環式芳香族炭化水素を縮合する必要があるが、濃硫酸あるいは発煙硫酸中加熱処理は、必ずしも効率のよい縮合反応ではない。また、この合成方法ではスルホン酸基の導入がしにくく、任意にスルホン酸の導入などが困難で、収率や再現性、分子設計の自由度が低いなどという問題があった。
【0025】
本発明におけるポリアニリンとは、例えば、未置換または置換芳香族アミン類を酸化重合によって製造されるものが挙げられる。
本発明における未置換または置換芳香族アミン類としては、アニリン、トルイジン等の環アルキル置換アニリン類、アニソール、ニトロアミン、ニトロソアミン等の置換アニリン類、フルオロアニリン、クロロアニリン、ブロモアニリン等のハロゲン化アニリン類、N−メチルアニリン、N−ジフェニルアミン等の窒素置換アニリン類、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン類、N−フェニル−フェニレンジアミンといったオリゴアニリン類等のアニリン誘導体が挙げられるがこれらに限定するものではない。これらの未置換または置換芳香族アミン類は、単独もしくは2種以上組み合わせてもよい。
【0026】
酸化重合としては、化学酸化重合や電解重合、光化学酸化重合など公知の方法で行うことが可能である。
化学酸化重合に用いる酸化剤としては、酸化させることが可能であれば特に限定はない。過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、塩化鉄、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、過塩素酸銅等が挙げられる。こられのなかで過硫酸アンモニウムが最も好適に用いられる。
【0027】
また、これら酸化剤の触媒となる化合物の添加も、必要に応じてなされるものである。これら酸化触媒を例示すれば、鉄イオン(II)、鉄イオン(III)といった遷移金属イオン類、鉄サレン系化合物といった有機遷移金属錯体化合物類、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼといった、ペルオキシダーゼ類が挙げられる。
【0028】
前記芳香族アミン類を酸化重合せしめる酸化剤の使用量は、芳香族アミン類のモル数に対して50〜200モル%が好ましい。過小の場合には、充分に芳香族アミン類(c)を酸化重合させることが出来ず、また、過大な場合には高分子量化物等を酸化分解してしまう。
【0029】
本発明におけるポリアニリンの添加量としては、芳香族炭化水素100部に対して10重量%〜75重量%である。
【0030】
本発明において、第一にポリアニリンと芳香族化合物とが重縮合化剤中で常圧下で加熱処理し、重縮合化合物を得る。
この重縮合化合物は、IRやNMR、GPCなどで容易に構造や分子量を確認できるので分子設計が行い易い。
第二に、得られた重縮合化合物をスルホン酸化剤でスルホン酸化する。このスルホン酸化反応では、前記重縮合化合物の構造を壊すことなく行われるので構造や分子量が容易に推測できることや任意にスルホン酸基の導入が容易なので酸価が任意に制御可能であり、分子設計の自由度が高い固体酸の製造方法である。
本発明において、ポリアニリンと芳香族化合物と重縮合化剤が入っている反応容器中、常圧下で加熱処理し、得られた重縮合化合物を、スルホン酸化剤でスルホン酸化すること、ポリアニリンと芳香族化合物と重縮合化剤が入っている反応容器の常圧下、加熱処理前の操作は、窒素などの不活性ガスを反応容器内を置換し、反応容器内の溶存酸素を除去し加熱処理で生成してくる固体酸の酸下防止と重縮合反応を促進させ易いために効果的であると推測されるためである。また、ポリアニリンと芳香族化合物と重縮合化剤が入っている反応容器の常圧下、加熱処理中の操作は、不活性ガス置換を停止して反応が行われる。不活性ガスの置換停止は、加熱処理前あるいは加熱処理中のいずれから行ってもよい。これは、常圧下加熱処理することにより、反応系内で重縮合化剤から発生する重縮合反応に必要な有効成分、例えばハロゲン化水素などを保持することができるので、芳香族化合物の重縮合反応を促進できるためである。
本反応の温度は、重縮合反応が生じる温度であればよく、好ましくは50℃〜220℃であり、90℃〜150℃がさらに好ましい。
【0031】
また、芳香族化合物が常圧下で50℃〜220℃で液体状態であると、重縮合化剤への接触がより向上されるので、重縮合反応が促進させ易いために効果的であると推測されるためである。
本発明で用いる重縮合化剤としては、五塩化アンチモン、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズ、塩化亜鉛、塩化銅、塩化鉄、などをAlCl3、FeCl3、SbCl5,BF3,ZnCl2,TiCl4,HF,H3PO4,P25、ポリリン酸などルイス酸触媒、塩化第二鉄、フェリシアン化カリウム、二酸化マンガン、過酸化水素、過硫酸、ヨウ素、酸化セレン、有機過酸など諸種の酸化剤、Scholl反応に使用される縮合剤、固体酸や一般的な脱水素触媒などを挙げることができるが、これらに限定するもではない。
これらの添加方法は、一度に添加してもよく、別々に添加してもよい。
また、重縮合を促進させるために、ルイス酸触媒と酸化剤とを組み合わせてもよい。
また、重縮合を促進させるために、重縮合化剤の溶融温度を下げる塩化カリウム、塩化ナトリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、などのアルカリ金属塩などを組み合わせることも効果的である。
【0032】
本発明の重縮合化剤の添加量としては、重縮合反応が生じる量であればよいが、より好ましくは、芳香族化合物100重量部に対して50〜2000重量部である。好ましくは、100〜500重量部である。
本発明におけるルイス酸触媒と酸化剤の組み合わせによる比率は、ルイス酸触媒100重量部に対して酸化剤0.01から100重量部である。
本発明におけるハロゲン化アルカリ金属の添加量としては、ルイス酸触媒100重量部に対して、ハロゲン化金属1〜100重量部である。より好ましくは、5〜60重量部である。
【0033】
また、本重縮合反応は、溶媒の非存在下においても行い得るが、溶媒の存在下でも行うことができる。
この溶媒としては、ニトロメタン、ニトロプロパン、ニトロベンゼン、二硫化炭素など、一般的にFriedel−Crafts反応やカチオン重合などに使用される溶媒が使用できる。
【0034】
本重縮合反応で得られる重縮合化合物は、過剰のルイス酸を取り除く方法としては酸性水溶液、例えば希塩酸、希硫酸などで加水分解を行うことで得られる。
加水分解は、酸性水溶液へ本重縮合反応溶液を添加する方法や反応容器中の重縮合反応溶液へ酸性水溶液を添加する方法などにより行える。加水分解後、濾過による取り出し方法、重縮合反応物を溶解する溶媒を添加し溶液として取り出し、この溶液から溶媒を取り除き得る方法や再沈殿方法で得る方法などにより得られる。
【0035】
本発明は、ポリアニリンと芳香族化合物が、常圧下で重縮合化剤の存在下で加熱処理し重縮合、すなわち、2個またそれ以上の芳香環が、新たに2個またはそれ以上の原子を共有した形で一体となった縮合環を生成すること、縮合の進んだ複雑に重縮合した多環式芳香族炭化水素のアモルファス体が生成されること、一般に縮合した芳香環の数が増えるにつれてその性質は黒鉛に近くなり、この縮合の進んだ複雑に重縮合した多環式芳香族炭化水素、IRやNMR、GPCなどで構造や分子量などで分子設計された多環式芳香族炭化水素をスルホン酸化剤でスルホン酸化することで、酸化による結合の破壊分解させずに先の性質を保持し、任意にスルホン酸基を導入できるという知見を応用した製造方法である。
【0036】
本発明で用いるスルホン酸化剤としては、三酸化硫黄、濃硫酸、発煙硫酸、クロロ硫酸、アミド硫酸などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
本発明のスルホン酸化剤の添加量としては、スルホン酸化剤の種類やスルホン酸化導入量により添加量は変わるが、重縮合化合物にスルホン酸化が生じる量であればよく、好ましくは、有機化合物100重量部に対して0.1〜2000重量部である。
このときの反応温度としては、スルホン酸化剤の種類やスルホン基導入量などにより反応温度は適宜変わるが、好ましくは、−20℃〜250℃である。
【0037】
本スルホン酸化反応は、溶媒の非存在下においても行い得るが、溶媒の存在下でも行うことができる。この溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、などの炭化水素溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロフルオロメタン、1、1、2ートリクロロー1、2、2ートリフルオロエタン、などのハロゲン化炭化水素溶媒;ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン、ニトロベンゼン、などの含窒素溶媒、などが挙げられる。このほか一般にフリーデル−クラフツ反応やカチオン重合などに使用される溶媒も適宜に選択して好適に使用できる。なお、これらの溶媒は、1種単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
【0038】
本重縮合反応系を構成するに当たって、芳香族化合物と重縮合化剤などの配合の順序、方法については特に制限はなく、それぞれを同時にあるいは種々の順序、様式で段階的に配合することも可能である。
また、本スルホン酸化反応系を構成するに当たって、重縮合化合物とスルホン酸化剤などの配合の順序、方法については特に制限はなく、それぞれを同時にあるいは種々の順序、様式で段階的に配合することも可能である。
本発明のスルホン酸化剤でスルホン酸化して得られる固体酸は、反応溶液をイオン交換水で希釈し、デカンテーションあるいは一般濾過、精密濾過、限外濾過、逆浸透濾過などによって、上澄み液また濾液が中和になるまで洗浄を行う。
【0039】
乾燥方法としては、自然乾燥や熱風乾燥、外部加熱乾燥、スプレードライ、マイクロ波や赤外線、遠赤外線を使用した乾燥、凍結乾燥などで行うことができる。
【0040】
本発明の固体酸は、高い活性が得られる上、プロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、且つ高いイオン交換量、高触媒性能を有する。
本発明の固体酸は、元素分析で炭素に対する硫黄のモル量が15モル%以上100モル%以下であることが好ましい。15モル%未満であるとスルホン酸化率が低く、強酸が得られがたく、イオン交換量、触媒性能、プロトン伝導性が低くなることがある。
本発明の固体酸は、酸価が1〜20meq/gであることが好ましい。酸価が1meq/g未満で低いと活性作用が低く固体酸の機能が低くなり易く、20meq/gを超えて高すぎると極性溶媒に溶解して固体酸としての機能が損なわれ易い。
【0041】
本発明の固体酸は、プロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜に使用できる。
【0042】
本発明で言うプロトン伝導膜とは、プロトンを伝導する能力を持つ膜のことを言う。本発明の固体酸を単独で膜化させたり、バインダー樹脂などを使用したりすることで膜化して使用される。
【0043】
本発明の固体酸は強酸基が多く、高い酸触媒機能をもつことができるため、固体酸触媒としても良好に使用できる。単独で使用しても良いが、バインダー樹脂やアルミナなどに担持することでも使用できる。
【0044】
本発明で言うイオン交換膜とは、イオンを選択的に透過する膜のことを言う。本発明の固体酸を単独で使用したり、バインダー樹脂やアルミナやシリカなどに担時することにより使用される。
【実施例】
【0045】

以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、この例示により本発明が限定的に解釈されるものではない。
(製造ポリアニリン1)
アニリン4.1gおよび濃塩酸21.9gをイオン交換水に溶かし100mlとし、氷浴にて0℃まで反応系を冷却した。一方、濃塩酸21.9gおよび過硫酸アンモニウム6.28gをイオン交換水に溶かし100mlとした。この溶液を0℃に冷却した後、上記のアニリン溶液をゆっくりと滴下し、0〜5℃で6時間撹拌を続けた。得られた生成物を濾過、濾液が中性になるまで水洗して、80℃で一晩乾燥して、ポリアニリン1を得た。
(製造ポリアニリン2)
アニリン4.1gおよび2,5−ジメチルアニリン5.3g、濃塩酸43.8gをイオン交換水に溶かし200mlとし、氷浴にて0℃まで反応系を冷却した。一方、濃塩酸43.8gおよび過硫酸アンモニウム12.6gをイオン交換水に溶かし200mlとした。この溶液を0℃に冷却した後、上記のアニリン混合液をゆっくりと滴下し、0〜5℃で6時間撹拌を続けた。得られた生成物を濾過、濾液が中性になるまで水洗して、80℃で一晩乾燥して、ポリアニリン2を得た。
(製造ポリアニリン2)
製造ポリアニリンの2,5−ジメチルアニリンを2−アミノビフェニル7.5gに換えた以外は、同様の操作を行い、ポリアニリン3を得た。
(実施例1)
4つ口フラスコ300mlに、窒素60ml/min流しながら、無水塩化アルミニウム50gと塩化ナトリウム10gとナフタレン20gとポリアニリン1 5gを仕込み、30分間緩やかに撹拌した。加熱を開始と同時に窒素を止め、90℃まで加熱し、90℃で30分間保持してから、次いで110℃まで加熱した。110℃〜115℃で4時間反応した。室温まで冷却し、過剰の塩化アルミニウムを失活させるために、希塩酸150mlを加えた。これを濾過し、濾液が中性になるまで水洗した。上澄み液が中性になるまで水でよく洗浄し、沈殿物を得た。これを80℃で一晩乾燥し、重縮合反応化合物を23.8gを得た。
4つ口フラスコ500mlに、重縮合反応化合物23.8gと97%硫酸238mlを仕込み、窒素を80ml/min流しながら、180℃まで加熱し、5時間反応させた。この溶液を氷浴にて冷却したイオン交換水500mlに撹拌しながら注ぎ込み、1時間そのまま撹拌した。これを、吸引ろ過し、濾液が中性になるまでイオン交換水で洗浄した。得られた生成物を80℃で一晩乾燥し、固体酸1を24.1g得た。
(実施例2)
実施例1のポリアニリン1をポリアニリン2に換えた以外は、同様の操作を行い、固体酸2を23.3g得た。
(実施例3)
実施例1のポリアニリン1をポリアニリン3に換えた以外は、同様の操作を行い、固体酸3を24.5g得た。
【0046】
(比較例1)
25gのナフタレンを250mlの濃硫酸(97質量%)に加えて200℃で15時間加熱しスルホン酸化 した。次に、過剰の濃硫酸を250℃での減圧蒸留によって除去し、黒色の固体粉末を得た。これに600 mlのイオン交換水を加えて、1時間撹拌を行い、一晩静置、デカンテーションし、沈殿物に新たにイオ ン交換水600mlを加え、1時間撹拌したのち、一晩静置し、これを吸引ろ過し、イオン交換水で濾液が 中性になるまで洗浄し、比較の固体酸11.2gを得た。

(収量の比較)
次に、実施例1〜3および比較例1での仕込み原料量に対する実施例1〜3で得られた固体酸1〜3および比較例1で得られた固体酸の収量および収率を表1に示す。
その結果、従来法に比べて、本発明の固体酸は、約2.1倍以上の収量を得ることができた。これにより、より効率よく固体酸を得ることができることがわかった。


収率%=(得られた固体酸重量部)/(最初に仕込んだポリアニリンと芳香族化合物) × 100
【0047】
【表1】

【0048】
次に、実施例1〜3で得られた固体酸1〜3および比較例1で得られた固体酸の酸価の測定を下記の方法で行った。
【0049】
(酸価の測定法)
上記黒色粉末(実施例1〜3で得られた固体酸1〜3および比較例1で得られた固体酸)を純水で洗浄した。次に、48時間2規定の硝酸ナトリウム水溶液中で黒色粉末と反応させ、黒色粉末をフィルターで濾過した。この黒色粉末を取り除いた酸性溶液に水酸化ナトリウム溶液を滴下し、窒素気流中で中和点を計測した。その滴下した量により酸価を算出した。従来、黒色粉末に直接、水酸化ナトリウムを滴下することで中和点を求めていたが、この方法を使用するとより的確に酸価を計測できて良い。その結果を表2に示す。
その結果、従来法に比べ、本発明の固体酸は、約3.8倍以上の酸価を得ることができた。これにより、より多くの酸基が導入されていることが判った。
【0050】
【表2】

【0051】
次に、実施例1〜3で得られた固体酸1〜3および比較例1で得られた固体酸の硫黄含有量(モル%)の測定を下記の方法で行った。
【0052】
(元素分析)
実施例1で得られた固体酸1および比較例1で得られた固体酸(いずれも黒色粉末)を酸素気流下で燃焼させ、CHSN−932(米国LECO社製)を用いて炭素1モルに対する硫黄含有量(モル%)を測定した。その結果を表3に示す。
【0053】
硫黄の含有率が従来に比べ、本発明の固体酸は、1.7倍以上高く、従来に比べスルホン酸基が導入されていることが判った。
【0054】
【表3】

【0055】
次に、実施例1〜3で得られた固体酸1〜3および比較例1で得られた固体酸の固体酸触媒性能の評価を下記の方法で行った。
【0056】
(固体酸触媒性能評価法)
実施例1〜3で得られた固体酸1〜3および比較例1で得られた固体酸各0.2gを触媒としてアルゴン雰囲気下の酢酸0.1molとエチルアルコール1molの混合溶液に添加し、70℃で6時間攪拌し、反応中に酸触媒反応によって生成する酢酸エチルの1時間後の生成量(mol)をガスクロマトグラフで調べた。その結果を表5に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
実施例1〜3で得られた固体酸1〜3のように常圧下重縮合化剤で重縮合化合物を、スルホン酸化剤でスルホン化して合成することで、仕込み原料に対する高い収量および高い酸価(4.2〜4.9meq/g)、硫黄含有量(19モル%)の高い固体酸を提供できる。これは比較例1に比べ収量では約2.5倍であり、効率が高く、酸価では約3.8倍、硫黄含有率では約1.7倍であり、このことはイオン交換能力が高いことを示している。
【0059】
さらに、実施例1〜3で得られた固体酸1〜3の固体酸触媒性能を調査したところ、従来に比べ最大1.5倍の触媒性能を示し、高い性能の固体酸触媒を提供できることが判った。
【0060】
このように常圧下重縮合化剤で加熱処理し、得られた重縮合化合物をスルホン酸化剤でスルホン酸化して合成することで、従来の濃硫酸あるいは発煙硫酸中で加熱処理する方法に比べ、作業上の安全性や収量、再現性が高く、高い触媒性能、プロトン伝導性、イオン交換容量をもつ固体酸を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の固体酸の製造方法は、ポリアニリンと芳香族化合物とを、常圧下で重縮合化剤の存在下で加熱処理し、スルホン酸化剤でスルホン酸化することを特徴とするものであり、高収量で、分子設計の自由度やプロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、且つイオン交換容量、触媒性能などにも優れ、作業上の安全性や収率、分子設計の自由度が高い、再現性よく、且つ容易に製造できるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニリンと芳香族化合物とを、常圧下で重縮合化剤の存在下で加熱処理し、得られた重縮合化合物を、スルホン酸化剤でスルホン酸化することを特徴とする固体酸の製造方法。
【請求項2】
加熱処理温度が、50〜220℃である請求項1記載の固体酸の製造方法。
【請求項3】
芳香族化合物が、常圧下で50℃〜220℃で液体状態であることを特徴とする請求項1または2記載の固体酸の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3いずれかに記載の製造方法で製造されてなることを特徴とする固体酸。
【請求項5】
元素分析で炭素に対する硫黄のモル量が、15モル%以上100モル%以下であることを特徴とする請求項4
に記載の固体酸。
【請求項6】
固体酸の酸価が、1〜20meq/gであることを特徴とする請求項4または5記載の固体酸。


































【公開番号】特開2007−223959(P2007−223959A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48073(P2006−48073)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】