説明

固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末及びその製造方法

【課題】
固体酸化物型燃料電池用空気極材料として好適な高度に均一組成の新規なLSCF微粒子(粉末)、及び均一組成のLSCF微粒子を得るための製造方法を提供する。
【解決手段】
走査型電子顕微鏡に付随したエネルギー分散X線分光装置により測定した特性X線のピーク面積比より算出したランタン元素の平均含有量と、コバルト元素または鉄元素のうち含有量の多い元素の平均含有量とを比較した場合に、平均含有量の大きい元素の変動係数(α)が4.0%以下であり、かつ、同様にして算出したコバルト元素の平均含有量と鉄元素の平均含有量のうち平均含有量の大きい元素の変動係数(β)が2.0%以下であることを特徴とする(La1-xSrxaCoyFe1-y3で表される固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト構造を有し、ランタン元素、ストロンチウム元素、コバルト元素、鉄元素、及び酸素元素からなる複合酸化物である固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末及びその製造方法に関し、より詳しくは、当該複合酸化物粒子内で当該構成元素の均一性の高い空気極材料粉末及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池は、電解質として酸素イオン導電性を示す固体電解質を用いた燃料電池で、起電力を生じる電気化学反応が水素の酸化反応であり、炭酸ガスを発生させないため、クリーンエネルギーとして注目されている。固体酸化物型燃料電池は、一般に、酸化物である空気極と固体電解質と燃料極とからなる単セルをインターコネクターによって接続したスタック構造を採っており、その動作温度は、通常1000℃程度であり、種々の検討により、近年低温化、実用化されているものの最低温度は600℃以上と依然として高温である。
【0003】
このセル構造と高い動作温度のため、空気極を構成する空気極材料には、(1)酸素イオン導電性が高いこと、(2)電子伝導性が高いこと、(3)電解質と熱膨張が同等あるいは近似していること、(4)化学的な安定性が高く、他の構成材料との両立性が高いこと、(5)焼結体が多孔質であり、一定の強度を有すること等の特性が基本的に要求される。
【0004】
これらの特性を満足する材料として、ペロブスカイト構造を有する(La1-xSrxaCoyFe1-y3(以下、LSCFと略することがある。)で表される複合酸化物が、電極活性に優れた空気極材料として精力的に研究開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ランタンフェライト系ペロブスカイト酸化物を主成分とするセラミックス粉体が記載され、より詳しくは、組成式(L1-xAEx1-y(Fez1-z)O3+δで表され、Lはランタン等希土類元素、スカンジウム(Sc)、及びイットリウム(Y)からなる群より選ばれた一種または二種以上の元素であり、AEはストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca)の群からなる一種または二種の元素であり、Mはコバルト(Co)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、及びニッケル(Ni)からなる群より選ばれた一種または二種以上の元素であり、0<x<0.5、0<y≦0.04、0≦z<1であるセラミックス粉体が記載されている(特許請求の範囲を参照。)。
【0006】
そして、当該セラミックス粉体の調整法として具体的に実施されているものは、酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、酸化コバルト、及び酸化鉄を、乳鉢等を用いて固体で混合、粉砕し(固相法)、仮焼するものである(段落〔0032〕、〔0092〕〜〔0094〕(実施例1))。
このような固相法では、4種類の原料元素含有粒子を、固相にて粉砕・混合する限り、ミクロのレベルで完全に均一組成のものを得るのは原理的に困難であるという問題がある。
【0007】
なお、特許文献1の実施例2〜3、6〜11には、この固相法の他に、「クエン酸塩法」により合成した比表面積が4m2/gの(La0.6Sr0.41-z(Co0.2Fe0.8)O3+δ(y=0、0.02、0.04)(セイミケミカル社製)LSCFを、エタノールを添加して湿式混合した後に加圧成形する例が記載されている。この「クエン酸塩法」LSCFは、本出願人が合成、提供したものである。(具体的には、後記する比較例1の方法により原料粉末をクエン酸等の溶液中で混合、調合したもので、原料の一部であるLa23やFe23は完全に溶解せずに、系はスラリー状態となり、やはり組成的に完全に均一組成のものは得られない。)(この意味で、「クエン酸塩法」を、「スラリー法」と称する。)。
【0008】
また、特許文献2には、一般式ABO3で表され、AサイトがLa及び希土類元素の群から選ばれる1つ以上の元素と、Sr,Ca及びBaの群から選ばれる1つ以上の元素からなり、BサイトがMn,Co,Fe,Ni及びCuの群から選ばれる1つ以上の元素からなるペロブスカイト複合酸化物粉体であって、平均粒子径が1μm以下と微細で、且つ粒度分布の幅が狭い固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体が記載されている(特許請求の範囲を参照。)。
【0009】
特許文献2は、微細粒子径で粒径分布のバラツキが小さいLSCF粉末に関するものであるが、このための調整手段としては、原料元素であるLa、Sr、Co、及びFeの水溶性の硝酸塩を所定の割合で水に溶解し、これにNH4OHを添加してそれぞれの不溶性塩を共沈させ、沈殿を乾燥、焼成させるものである(共沈法)(段落〔0032〕)。
この共沈法は、均一溶液から沈殿されるので、一見、容易に均一組成のものが形成されるように思われるが、本出願人が検討したところによると、実際には、当該4種類の元素の硝酸塩において、各元素の不溶性塩が沈殿するpH及びその結晶成長速度がそれぞれ異なるので、均一組成の沈殿にはならない。(例えば、一つの元素の塩が先に沈殿し大粒子に成長したあとに次の元素の微小結晶が当該大粒子上に沈殿することになるので、原理的に充分に均一組成の沈殿を得ることは困難なのである。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−35447号公報
【特許文献2】特開2006−32132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、固相法や共沈法等、さらにはスラリー法により調整される従来のLSCF微粒子においては、原理的に当該4成分元素が完全に均一にはなりにくいという問題があることを認識した。そして、かかる観点から鋭意検討したところ、クエン酸やマレイン酸等の有機酸の水溶液を使用してLa、Sr、Co、及びFeを含む原料化合物を、液中で当該有機酸と反応させ、錯化合物として完全に溶解せしめ、これを微小液滴状態として噴霧乾燥することにより、従来存在しなかった程度のミクロのレベルにおいても均一組成を有する新規な微粒子が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の目的には、固体酸化物型燃料電池用空気極材料として好適な高度に均一組成の新規なLSCF微粒子(粉末)を提供すること、及びかかる均一組成のLSCF微粒子を得るための製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末が提供される。

〔1〕 ペロブスカイト構造を有し、ランタン元素、ストロンチウム元素、コバルト元素、鉄元素、及び酸素元素からなる複合酸化物である固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末において、
当該粉末の走査型電子顕微鏡像(SEM像)の複数の位置において当該走査型電子顕微鏡に付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により測定した特性X線のピーク面積比より算出したランタン元素の含有量(wa(wt%))と、コバルト元素または鉄元素のうち含有量の多い元素の含有量(wb(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、複数の位置における含有量から算出したランタン元素の平均含有量[wa]av(wt%)と、コバルト元素または鉄元素のうち含有量の多い元素の平均含有量[wb]av(wt%)とを比較した場合に、平均含有量の大きい元素の変動係数(α)が4.0%以下であり、かつ、同様にコバルト元素の含有量(wc(wt%))と鉄元素の含有量(wd(wt%))とを、式(2)の関係を満足するように決定し、複数の位置における含有量から算出したコバルト元素の平均含有量[wc]av(wt%)と鉄元素の平均含有量[wd]av(wt%)のうち平均含有量の大きい元素の変動係数(β)が2.0%以下であることを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末。
a+wb=100(wt%) (1)
c+wd=100(wt%) (2)
【0014】
〔2〕 前記αが1.3%以下であり、βが2.0%以下であることを特徴とする〔1〕項に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末。
【0015】
〔3〕 前記複合酸化物の組成式が一般式(I)
(La1-xSrxaCoyFe1-y3 (I)
(ただし、式において、0.2≦x≦0.5、0.1≦y≦0.6、0.9≦a≦1.0である。)
で表されるものであることを特徴とする〔1〕または〔2〕項に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末。
【0016】
また、本発明によれば、以下の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法が提供される。

〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕項のいずれかに記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法において、前記複合酸化物を構成する金属元素を含有する化合物を有機酸の水溶液を用いて溶液化し、焼成することを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【0017】
〔5〕 前記複合酸化物を構成する金属元素を含有する化合物を有機酸の水溶液を用いて溶液化し、その溶液をスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、その乾燥粉を焼成することを特徴とする前記〔4〕項に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【0018】
〔6〕 焼成温度が750℃から1250℃であることを特徴とする前記〔4〕項または〔5〕項に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【0019】
〔7〕 前記複合酸化物を構成する金属元素を含有する化合物が、当該金属元素の炭酸塩、酸化物、水酸化物及び有機酸塩からなる群より選択される少なくとも1種類であることを特徴とする前記〔4〕項または〔5〕項に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【0020】
〔8〕 前記有機酸が、マレイン酸または乳酸であることを特徴とする前記〔4〕項または〔5〕項に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【0021】
〔9〕 前記有機酸がクエン酸であり、前記複合酸化物を構成する金属元素を含有する化合物を有機酸の水溶液を用いて溶液化するに際して、更に、アンモニウム化合物を同時に使用することを特徴とする前記〔4〕または〔5〕項に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【0022】
〔10〕 前記アンモニウム化合物が、アンモニア、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及びクエン酸アンモニウムよりなる群より選択される少なくとも1種類であることを特徴とする前記〔9〕項に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
以下に詳述するように、本発明によれば、従来の固相法、共沈法、スラリー法によるものと比較してより高度に均一組成の新規なLSCF微粒子が提供される。
また、本発明の製造方法によれば、このような高度の均一組成のLSCF微粒子を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1におけるLSCF微粒子のSEM写真である。
【図2】実施例1におけるLaのEDXマッピング図である。
【図3】実施例1におけるSrのEDXマッピング図である。
【図4】実施例1におけるCoのEDXマッピング図である。
【図5】実施例1におけるFeのEDXマッピング図である。
【図6】比較例2におけるLSCF微粒子のSEM写真である。
【図7】比較例2におけるLaのEDXマッピング図である。
【図8】比較例2におけるSrのEDXマッピング図である。
【図9】比較例2におけるCoのEDXマッピング図である。
【図10】比較例2におけるFeのEDXマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、基本的に 一般式(I)で表される組成の複合酸化物であって、ペロブスカイト構造を有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を対象とする。

(La1-xSrxaCoyFe1-y3 (I)
(ただし、式において、0.2≦x≦0.5、0.1≦y≦0.6、0.9≦a≦1.0である。)
なお、酸素の組成は化学量論的には3であるが、場合によっては一部欠損していても、過剰に存在していてもよく、本発明の複合酸化物は主成分としてペロブスカイト構造の(La1-xSrxaCoyFe1-y3を含んでいればよく、他に不純物相が存在していてもよい。
【0026】
ここで式中、x、y及びaの範囲が0.2≦x≦0.5、0.1≦y≦0.6、0.9≦a≦1.0であることは上記複合酸化物がペロブスカイト構造を保持するのに好ましい範囲である。
【0027】
具体的には、式(I)式で表される複合化合物LSCFの一例としては、例えば以下のようなものがあげられるが、もちろんこれに限定されるものではない。
La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83
(LSCF:6428、x=0.4、y=0.2、a=1.0)

La0.8Sr0.2Co0.2Fe0.83
(LSCF:8228、x=0.2、y=0.2、a=1.0)

La0.6Sr0.4Co0.4Fe0.63
(LSCF:6446、x=0.4、y=0.4、a=1.0)

La0.64Sr0.36Co0.18Fe0.823
(LSCF:6428、x=0.36、y=0.18、a=1.0)

La0.54Sr0.36Co0.2Fe0.83
(LSCF:6428、x=0.4、y=0.2、a=0.9)
【0028】
本発明においては、これらの複合酸化物であるLSCF粉末(微粒子とも表現する。)は、本発明で規定する方法(これを「完全溶解法」という。)によって得られるものであるが、当該微粒子は従来公知の方法によって得られた粒子に対して、当該粒子内における各成分(La、Sr、Co、Fe)組成が非常に均一性の高いものであることを特徴とする。
本発明においては、当該複合酸化物微粒子において、成分のバラツキを次のように相対的標準偏差(変動係数:C.V.)で評価し、規定する。
【0029】
(i)すなわち、当該複合酸化物微粒子を走査型電子顕微鏡像(SEM像)の複数の位置において当該走査型電子顕微鏡に付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により測定した特性X線のピーク面積比より算出したランタン元素の含有量(wa(wt%))と、コバルト元素または鉄元素のうち含有量の多い元素の含有量(wb(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、それぞれの位置における含有量[wa1,[wa2,[wa3,・・・及び[wb1,[wb2,[wb3,・・・〔ただし、[wa1+[wb1=100(wt%),[wa2+[wb2=100(wt%),・・・〕から算出したランタン元素の平均含有量[wa]av(wt%)と、コバルト元素または鉄元素のうち含有量の多い元素の平均含有量[wb]av(wt%)とを比較した場合に、平均含有量の大きい元素の変動係数(α)が4.0%以下であること及び、
【0030】
(ii)同様にコバルト元素の含有量(wc(wt%))と鉄元素の含有量(wd(wt%))とを、式(2)の関係を満足するように決定し、それぞれの位置における含有量[wc1,[wc2,[wc3,・・・及び[wd1,[wd2,[wd3,・・・〔ただし、[wc1+[wd1=100(wt%),[wc2+[wd2=100(wt%),・・・〕から算出したコバルト元素の平均含有量[wc]av(wt%)と鉄元素の平均含有量[wd]av(wt%)のうち平均含有量の大きい元素の変動係数(β)が2.0%以下であることを規定している。
a+wb=100(wt%) (1)
c+wd=100(wt%) (2)
【0031】
なお、本発明においては、重量%(wt%)を質量%と同意義のものとして使用することとし、「元素の変動係数」とは、「元素の平均含有量の変動係数」をいうものとする。
【0032】
この点について、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83
(LSCF:6428、x=0.4、y=0.2、a=1.0)
を例にとってさらに説明する。
上記LSCF(6428)は、
ABO3すなわち(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3と表示することができるが、
式(1)wa+wb=100(wt%)は、要するにAサイトにおけるLaと、Bサイトの含有量の多い元素の重量%で表わされた含有量の和を規定するものであり、ここではLaとFeの含有量の和が該当する。
また式(2)wc+wd=100(wt%)は、Bサイトにおける元素の、重量%で表わされた含有量の和を示すもので、CoとFeの含有量の和が該当する。
本発明では、まず、SEM-EDX測定により、SEM画像中の異なる複数の測定点におけるLa(Aサイト中の含有量の多い元素である。)の含有量[waiとFe(Bサイト中の含有量の多い元素である。)の含有量の和が100(wt%)となるようにLaとFeの含有量を特性X線のピーク面積比から求める。求めた[wa1,[wa2,[wa3,・・・[wan及び[wb1,[wb2,[wb3,・・・[wbnは[wa1+[wb1=100(wt%),[wa2+[wb2=100(wt%),・・・[wan+[wbn=100(wt%)(n≧20)を満足する。次に各測定点のLa、Feの含有量を統計処理することにより、LaとFeの平均含有量([wa]av、[wb]av)と標準偏差を計算する。
一方、同様にBサイト内の元素であるCoとFeについて、Coの含有量とFeの含有量の和が100(wt%)となるように、各測定点におけるCoとFeの含有量を求め平均含有量([wc]av、[wd]av)と標準偏差を計算する。
【0033】
次に、上記のように求めた平均含有量と標準偏差を用いて(i)Aサイト内の元素であるLaと、Bサイト内の元素であるFeのうち平均含有量の大きい元素であるLaについて平均含有量の標準偏差(バラツキ)を含有量の平均値で除して変動係数を求める。
また、(ii)Bサイト内の元素であるCoとFeのうち平均含有量の大きいFeの平均含有量のバラツキについても同様に変動係数を求める。
なお、EDX測定は統計処理する都合上、好ましくは20点以上について測定するものとし、SEM画像中に均一に分散した測定点について測定するものとする。例えば、SEM画像中に万遍なく格子状に分散した異なる20点(n=20)について測定する。
【0034】
本発明においては、このようにして着目した含有量の高い元素につき、その組成をバラツキの尺度である変動係数(C.V.)で評価した場合、当該変動係数が極めて小さいことを特徴とする。具体的に、上記例では、
La及びFeの平均含有量の大きい方の元素であるLaのC.V.(α)≦4.0%
Co及びFeの平均含有量の大きい方の元素であるFeのC.V.(β)≦2.0%であり、
さらに好ましくは、
La及びFeの平均含有量の大きい方の元素であるLaのC.V.(α)≦1.3%
Co及びFeの平均含有量の大きい方の元素であるFeのC.V.(β)≦2.0%である。
(後記する比較例において示されているように、従来法により調整されたLSCF粉末は、組成的に大きくばらついており、その変動係数C.V.(α、β)は、本発明で規定する範囲を超えてずっと大きくなることが示される。)
【0035】
以下、本発明に係る一般式(I)
(La1-xSrxaCoyFe1-y3 (I)
で表される組成を有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料の製造方法について説明する。
【0036】
(原料粉末の調整)
本発明に係る一般式(I)(La1-xSrxaCoyFe1-y3で表される組成を有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料の原料となる粉末は、通常使用されるものを好適に使用することができ、例えばLa、Sr、Co、Feを含む酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硝酸塩、有機酸塩などである。
【0037】
特に環境的な側面、入手し易さの理由から、炭酸塩、水酸化物または酸化物が好ましく、原料の反応性が高いことからクエン酸塩などの有機酸塩も好ましい。
また、原料は1つの元素につき炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩などから選ばれた任意の2種類以上の化合物を元素源として選択することもできる。
【0038】
上記の原料粉末をLa、Sr、Co、Fe各元素が一般式(I)で表わされる目的の組成になるように秤量する。
なお、秤量した各原料粉末は、予め粉砕・微細化しておくことが、溶解反応を迅速に進行させるため好ましい。またその一部または全部を予め、均一に混合しておいてもよい。混合は、乾式混合によってもよいが、比較的短時間で均質な原料粉末を得られることから、湿式混合法により混合を実施することが好ましく、特に混合と同時に粉砕処理を行ってもよい。
【0039】
湿式混合法を実施するための装置としては特に限定するものではないが、同時に粉砕を実施するものが好ましい。例えば、ボールミル、ビーズミル、アトリションミル、コロイドミル等が好ましい。そのうち特に、ジルコニアボールのような、粉砕媒体を使用する形式のもの、例えばボールミル、ビーズミルなどが、より好ましく使用される。例えば原料粉末に上記の粉砕媒体を加え、ボールミルを用いて12〜24時間粉砕混合してもよい。ボールミル等の粉砕媒体による粉砕混合を行うと、より強い剪断力を付与でき、より均質な原料混合粉末が得られるので好ましい。
【0040】
(有機酸水溶液)
一方、有機酸の水溶液を予め調整する。有機酸としては、上記した金属元素を含む化合物と反応してその錯体を形成し、溶解せしめうるものであれば特に限定するものではないが、例えばマレイン酸、クエン酸、リンゴ酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、及び乳酸からなる群より選択される一種以上のものが好ましい。特にマレイン酸、乳酸またはクエン酸が好ましいものとして選択される。
【0041】
ここで、有機酸としてクエン酸を用いて、複合酸化物を構成する金属元素を含有する化合物を有機酸の水溶液で溶液化する場合は、更に、アンモニウム化合物を同時に使用することにより、溶解反応(錯体生成)をより容易に進行させることができるため好ましい。このようなアンモニウム化合物としては、アンモニア、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及びクエン酸アンモニウムよりなる群より選択される少なくとも1種類であることが好ましい。アンモニウム化合物は、原料粉末を溶解することのできる量であれば特に限定されず、原料粉末が容易に溶解するので、ランタン化合物に対して1〜10当量を使用することが好ましい。
【0042】
当該有機酸の使用量は、当該金属元素と錯体を形成し、これを完全に溶解することができる当量以上であることが好ましい。有機酸の水溶液の濃度は、特に限定するものではないが、操作の容易性及び反応速度を十分高くする要請から10〜70重量%、好ましくは20〜60重量%、さらに好ましくは30〜50重量%である。
【0043】
(溶解反応)
以上のごとくして、調整した複合酸化物を構成する金属元素を含有する化合物の粉体を、上記した有機酸の水溶液を用いて溶液化する。
この溶解反応を行うための装置としては、特に限定するものではないが、例えば撹拌手段、加熱手段、原料粉末の供給手段、有機酸水溶液の供給手段を備え、供給した原料粉末を沈殿させることなく浮遊させ、浮遊状態で有機酸と反応させることができる槽型反応容器が好ましい。撹拌手段としては通常の撹拌機、例えば櫂型撹拌機、プロペラ型撹拌機、タービン型撹拌機等のいずれもが好適に使用される。なお、小規模の反応の場合はフラスコ型容器に撹拌機を設置して実施してもよい。
【0044】
金属元素含有化合物の粉末と有機酸水溶液の接触方式は、特に限定するものではないが、反応が化学工学的に固−液異相系反応として把握されるので、当該反応が効率的に実施され、最終的に均一溶液が得られるものであれば特に限定するものではない。通常は、まず反応容器に有機酸水溶液を仕込んでおき、これに撹拌下に原料粉末を添加して反応、溶解させる方式が好ましい。
添加する原料粉末は、各粉末ごとに順次添加してもよいし、また、予め原料粉末を混合しておき、同時に当該混合粉末を供給して反応させてもよい。さらにこれらの供給方法を組み合わせてもよい。
【0045】
なお、原料粉末を逐次添加する場合は、まず、一つの金属元素を含む原料化合物、例えば酸化ランタン粉末を有機酸水溶液に供給して加熱下に反応溶解させ、引き続き残りの元素化合物(例えば炭酸ストロンチウム、炭酸コバルト、クエン酸鉄等)を同時に添加反応させるようにしてもよい。
【0046】
反応温度は、ある程度の加熱下において実施することにより、溶解反応が促進されるので好ましい。通常、30〜100℃、好ましくは50〜90℃、さらに好ましくは60〜80℃である。また、反応時間、すなわち均一溶液が形成されるまでの時間は、反応温度、有機酸濃度、有機酸や原料金属元素含有化合物の種類、その粒径等によって変わりうるが、通常10分〜10時間、好ましくは30分〜5時間、さらに好ましくは1〜3時間程度である。
【0047】
(噴霧乾燥等)
本発明においては、かくして溶液化した溶液を棚段乾燥機などの箱型乾燥機またはスプレードライヤーなどの噴霧乾燥機を用いて乾燥する。特に、スプレードライヤーを用いた噴霧乾燥が好ましい。
【0048】
噴霧乾燥では、有機酸水溶液で各原料金属元素が完全に溶解された溶液を、気流乾燥機もしくは噴霧乾燥機のごとき乾燥装置に供給し乾燥を行う。当該乾燥装置に供給された溶液は、装置内で、微小液滴となり、これが乾燥用の熱風により流動層を形成し、熱風により搬送されながら極めて短時間で乾燥され、短時間でその乾燥粉末が得られ、乾燥粉中のLa、Sr、Co、Feの各金属元素の均質性が高いので好ましい。
【0049】
噴霧乾燥機を使用する場合の噴霧機としては、回転円板、二流体ノズル、加圧ノズル等が適宜採用でき、また乾燥用熱風温度は、入口で150〜300℃、出口で100〜150℃程度にすることが好ましい。
【0050】
かかる噴霧乾燥によれば、均一相を形成して原料金属元素がすべて溶解した溶液は、微小液滴状態を形成し、各液滴が瞬間的、またはごく短時間に、水分が蒸発除去することにより、原理的にミクロなレベルまで完全に均一組成の固相が析出した乾燥粉末(混合粉末)が得られる。
【0051】
(焼成)
次に、好ましくは噴霧乾燥させた混合粉末を焼成容器に移し、焼成炉にて焼成する。焼成は基本的には粗焼成、仮焼成、本焼成の焼成温度の異なる3工程からなるのが好ましいが、粗焼成と本焼成の2工程でもよく、仮焼成と本焼成の2工程でもよく、また順次温度を上げてゆく本焼成のみからなる工程でもよい。焼成容器の材質は、特に限定されず、例えばムライト、コージェライトなどが挙げられる。
【0052】
焼成炉は、熱源として、電気式またはガス式のシャトルキルンでも、場合によってはローラーハースキルンでもロータリーキルンでもよく、特に限定されない。
【0053】
(粗焼成)
粗焼成工程においては、焼成炉の温度を20〜800℃/時の昇温速度で目的の焼成温度(300〜500℃)まで上げる操作を行う。昇温速度を20℃/時以上にすることにより、目的の焼成温度まで達する時間が短くなり、生産性が向上するので好ましい。また、昇温速度を800℃/時以下にすることにより、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行するので好ましい。
【0054】
粗焼成時の焼成温度は、300〜500℃が好ましく、350〜450℃がより好ましい。300℃以上にすることにより炭素成分が残留しにくくなるので好ましい。また、500℃以下にすることにより構成元素が偏析しにくくなるので好ましい。
【0055】
粗焼成の焼成時間は、4〜24時間が好ましく、8〜20時間がより好ましい。4時間以上にすることにより、炭素成分が残留しにくくなるので好ましい。また、24時間を超えても、生成物に変化はないが、生産性が低下するので24時間以下にすることが好ましい。この粗焼成は一定温度、例えば400℃で8時間保持してもよいし、例えば300℃から460℃にかけて20℃/時で少しずつ昇温してもよい。
【0056】
粗焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、酸素含有雰囲気であり、空気中(大気中)または酸素濃度が21体積%以下の雰囲気中であることが好ましい。酸素濃度が21体積%を超えると原料混合粉中の炭素成分が燃焼し、部分的に酸化反応が進む結果、生成物の構成元素が局在化する場合があるので、21体積%以下の雰囲気にすることが好ましい。酸素濃度は15体積%以下であるのが好ましい。
【0057】
粗焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、100〜800℃/時が好ましく、100〜400℃/時がより好ましい。降温速度を100℃/時以上にすることにより生産性が向上するので好ましい。また、これを800℃/時以下にすることにより用いる焼成容器が熱衝撃のために割れてしまう可能性が低下するので好ましい。なお、焼成容器を変更せず、かつ解砕しない場合には粗焼成工程から降温せずに次の仮焼成工程に移行してもよい。
【0058】
次いで、粗焼成工程で得られた酸化物を必要に応じて解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕後の体積平均粒径としては1〜50μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。
【0059】
(仮焼成)
引き続き、上記の必要に応じて解砕された粗焼成粉を仮焼成温度(500〜800℃)で仮焼成する。
仮焼成工程においては、焼成炉の温度を100〜800℃/時、好ましくは100〜400℃/時の昇温速度で目的の焼成温度まで上げる。昇温速度を100℃/時以上にすることにより、目的の焼成温度まで達する時間が短くなり、生産性が向上するので好ましい。また、昇温速度が800℃/時以下であると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行するので好ましい。
【0060】
仮焼成の温度は、500〜800℃が好ましく、500〜700℃がより好ましい。500℃以上にすると炭素成分が残留することがないので好ましい。また、800℃以下であると焼成粉が過度に焼結しにくくなるので好ましい。
【0061】
焼成時間は、4〜24時間が好ましく、8〜20時間がより好ましい。4時間以上であると、炭素成分が残留しにくくなるので好ましい。また、24時間以下であると、生成物に変化はなく、生産性が向上するので好ましい。
【0062】
仮焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、粗焼成時と同様の酸素含有雰囲気が好ましい。
仮焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、100〜800℃/時が好ましく、100〜400℃/時がより好ましい。100℃/時以上であると生産性が落ちることがないので好ましい。また、800℃/時以下であると目的とする物質が生成するので好ましい。
【0063】
次いで、仮焼成で得られた酸化物を粗焼成の後に行ったのと同様に必要に応じて解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行なう。解砕後の体積平均粒径としては1〜50μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。
【0064】
(本焼成)
さらに、この必要に応じて解砕された仮焼成粉を、本焼成温度(700〜1400℃)で本焼成する。
本焼成工程においては、焼成炉の温度を50〜800℃/時、好ましくは100〜400℃/時の昇温速度で目的の焼成温度まで上げる。昇温速度が50℃/時以上であると、目的の焼成温度まで達する時間が短くなり、生産性が向上するので好ましい。また、昇温速度が800℃/時以下であると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行せずに、反応物質が不均一な状態で目的の焼成温度に到達することがないため、焼成物中に副生成物を生じないので好ましい。
【0065】
本焼成の温度は、700〜1300℃が好ましく、750〜1250℃がより好ましい。700℃以上または1300℃以下であると、目的とする結晶相が生成するので好ましい。
【0066】
焼成時間は、4〜24時間が好ましく、5〜20時間がより好ましい。4時間以上であると、未反応物質が目的とする酸化物中に混在することなく、また、単一の結晶相の生成物が得られるので好ましい。また、24時間以下であると、生成物に変化はなく、生産性が低下することもないので好ましい。
【0067】
本焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、粗焼成または仮焼成時と同様の酸素含有雰囲気中であることが好ましい。
本焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、100〜800℃/時が好ましい。100℃/時以上であると生産性が落ちることがないので好ましい。また、800℃/時以下であると目的とする物質が生成するので好ましい。
【0068】
次いで、本焼成で得られた酸化物を粗焼成の後に行ったのと同様に解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕後の粉体の体積平均粒径は1〜50μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。その後、必要に応じて粒度調整のために湿式で粉砕してもよい。
なお、上記の粗焼成、仮焼成、本焼成は、各工程の終了後に室温まで降温せずに、また焼成後の解砕を行なわずに、続けて行なってもよい。すなわち、粗焼成後に連続して仮焼成を行ってもよく、仮焼成後に連続して本焼成を行ってもよく、粗焼成、仮焼成、本焼成の3工程を連続して行ってもよい。
【0069】
(成型体、焼結体)
以上のように本焼成して得られた粉末(微粒子)は、それぞれの微粒子がミクロのレベルにおいても、完全に均一な組成の(La1-xSrxaCoyFe1-y3(LSCF)であり、これを成型体として焼結することにより、その成型焼結体は、固体酸化物型燃料電池用空気極として好適に使用することができる。すなわち、当該成型焼結体は、高度に均一組成の微粒子組成をそのまま支承するので、原理的に極めて均一組成のLSCF焼結体を形成することが理解される。
【0070】
当該形成体、焼結体を形成する手段としてはそれ自体公知の手段が適用される。例えば、まず、(La1-xSrxaCoyFe1-y3の粉末をバインダーと混合し、一定の体積を有する金型に充填し、上から圧力をかけることにより、当該粉末の成型体を作成する。
圧力をかける方法は、機械的一軸プレス、冷間等方圧(CIP)プレスなど特に限定されない。
【0071】
次に、この成型体を熱処理し焼結体を得る。熱処理温度は、1000〜1450℃が好ましい。熱処理温度が1000℃以上では成型体の機械的強度が十分に保たれ、また1450℃以下であると生成したLSCFの一部が分解して、不純物を形成し、組成が不均一となるおそれがないので好ましい。
熱処理時間は、2〜24時間が好ましい。
【実施例】
【0072】
以下に、本発明の具体的な実施例(実施例1〜5)を、比較例(比較例1〜2)と対比して説明する。しかしながら、これら実施例は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明がこれらの実施例に特に限定されるものではなく、また、これにより限定的に解釈されたりするものではない。なお、以下%とあるものは、とくに断りなき限り、質量(または重量)%である。
【0073】
〔実施例1〕
(1)(原料粉末及び有機酸の準備)
La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83を形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、表1に示すようにLa源として酸化ランタン(La23)356.8g、Sr源として炭酸ストロンチウム(SrCO3)215.7g、Co源としてCo含有量が46.58%の日本化学産業社製炭酸コバルト(CoCO3)92.16g、及びFe源としてFe含有量が18.56%のクエン酸鉄(FeC657・nH2O)876.7g(原子比で、La:Sr:Co:Feが0.6:0.4:0.2:0.8とする。)を秤量した。
【0074】
一方で、20LセパラブルフラスコにLaイオンのモル数に対して3当量、Srイオン、Coイオンのモル数に対してそれぞれ2当量、Feイオンのモル数に対しては、既にクエン酸鉄中に1モルのクエン酸が存在するので当量のクエン酸2908gを55℃の純水4.0L(リットル)に加えてクエン酸溶液を調製した。これに重炭酸アンモニウム1037g(Laイオンのモル数に対して6当量)を加えて撹拌槽型反応容器中で、28℃で溶解させた。
【0075】
(2)(中間生成物及び乾燥)
上記のクエン酸溶液に酸化ランタンを投入し、70℃まで加熱し、その温度で2時間反応させた。酸化ランタンは完全に溶解し、無色透明溶液が得られた。
これに、炭酸ストロンチウム、炭酸コバルト、クエン酸鉄を添加して同温度でさらに2時間反応させた。各金属塩は完全に溶解し、黒褐色透明溶液が得られた。
【0076】
反応終了後、得られた溶液をスプレードライヤーで乾燥させ、中間生成物である複合クエン酸塩の乾燥粉末を得た。なお、スプレードライヤーとしては、BDP−10型スプレーバッグドライヤー(大川原化工機社製)を使用し、入口温度:200℃、出口温度:125℃、アトマイザー回転数:15000rpmの条件で乾燥を行った。
【0077】
(3)(粗焼成、仮焼成、本焼成)
得られた乾燥粉末をムライト質の30cmの角サヤ4枚に充填し、大気中において、電気炉で、400℃で10時間焼成し、有機物を分解させた(粗焼成)。室温から400℃までの昇温速度は400℃/3時間とし、400℃から室温までの降温速度は400℃/4時間とした。
【0078】
得られた粗焼成粉をムライト質の30cmの角サヤ1枚に充填し、大気中において、電気炉で、600℃で10時間焼成し、残存炭素を分解させた(仮焼成)。室温から500℃までの昇温速度は500℃/3時間、さらに600℃までの昇温時間は100℃/2時間とし、600℃から室温までの降温速度は600℃/6時間とし、仮焼成粉を得た。
【0079】
当該仮焼成粉をムライト質の30cmの角サヤ1枚に充填し、大気中において、電気炉で、800℃で6時間焼成し、目的のLSCF最終粉末(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83)を得た。(本焼成)室温から700℃までの昇温速度は700℃/4時間、さらに800℃までの昇温時間は100℃/1時間とし、800℃から室温までの降温速度は100℃/1時間とした。本焼成後、焼成粉を解砕しLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83粉を得た。
【0080】
(4)(成分分析)
(i)XRD分析
少量のLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83の最終粉末を分取し、その結晶相を同定するためCuKαをX線源とする粉末X線回折測定を行った。X線回折測定にはリガク社製のRINT2200Vを用いた。その結果、菱面体晶(113相)を有するペロブスカイト構造であることが確認された。
【0081】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。使用したSEMは日立社製のFE−SEM S−4300であり、EDX検出器は、堀場製作所製のEDX EMAX6853−H、分解能:137eVである。また、測定条件は、管電圧40kV、管電流40mA、倍率3000倍、WD15mm、プロセスタイム4、計数400万カウント以上とした。
【0082】
図1は、当該粉末のSEM写真(倍率×3000)である。また、図2〜5はEDXによるLa、Sr、Co、Feのマッピング図である。これより、各成分の偏析は確認されず均一に分布していることが確認された。図1に示されたような粉末のSEM画像上において、一辺が約8μmの格子状に分割し、20個の格子点をポイント分析箇所として、各格子点におけるランタン元素、ストロンチウム元素、コバルト元素、鉄元素の特性X線を測定した。そのピーク面積から、各測定点におけるランタン元素の含有量(wa)と鉄元素の含有量(wb)が式(1)の関係を満足するようにランタン元素の含有量と鉄元素の含有量を算出し、20点の平均をとったところランタン及び鉄の平均含有量は表2に示したように、それぞれ65.4wt%、34.6wt%であり、標準偏差は0.57w%であった。したがって、ランタン元素と鉄元素の変動係数は、それぞれ0.87%、1.6%となり、平均含有量の大きなランタン元素の変動係数C.V.(α)は、0.87%(≦4.0%)であった。
【0083】
また各測定点20点でのコバルト元素の含有量(wc(wt%))と鉄元素の含有量(wd(wt%))とを、式(2)の関係を満足するように決定したときの、コバルト元素の平均含有量と鉄元素の平均含有量は、それぞれ21.5wt%、78.5wt%であり、標準偏差は0.74wt%であった。よって、平均含有量の大きい方(すなわち、Fe)の変動係数C.V.(β)が0.94%(≦2.0%)であった。
a+wb=100(wt%) (1)
c+wd=100(wt%) (2)
【0084】
(iii)粒度分布測定
少量のLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83を以下のようにイオン交換水に分散させて試料を調製した。分散剤として和光純薬社製の二リン酸ナトリウム十水和物を使用した濃度0.24重量%の水溶液を用い、約0.1gのLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83と分散液とから全体が10mlとなるように分散液を調製し、3分間超音波を照射したものを試料とした。その試料からLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83の粒度分布をHORIBA社製のレーザー回折/散乱式粒度分布装置LA−920を用いて測定した。測定の直前に180秒間出力30Wの超音波処理を施した。その結果、体積平均粒径D50は15.1μmであった。
【0085】
〔実施例2〕
(1)実施例1において、クエン酸溶液に、重炭酸アンモニウムの代わりに炭酸アンモニウム797gを添加し、また本焼成温度を1200℃とするほかは、実施例1と同様の実験を行い、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83で表される最終粉末を得た。(表1参照)
【0086】
なお、本焼成の温度プログラムは、室温から700℃までの昇温速度は700℃/4時間、さらに1000℃までの昇温速度は100℃/1時間、1200℃までの昇温速度は200℃/3時間とした。また1200℃から室温までの降温速度は100℃/1時間とした。本焼成後、焼成粉を解砕しLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83粉を得た。
【0087】
(2)(成分分析)
(i)XRD分析
少量のLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83の最終粉末を分取し、実施例1と同様にして粉末X線回折測定を行った。その結果、当該粉末は、菱面体晶(113相)を有するペロブスカイト構造であることが確認された。
【0088】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
当該粉末のSEM写真による表面状態、EDXによる、La、Sr、Co、Feのマッピング図は、実施例1と同様であったが、Coについては僅かの偏析が認められたが、全体的には、ほぼ均一に分布していることが確認された。
【0089】
実施例1と同様にして測定したEDXの特性X線のピーク強度比より算出したランタン元素の含有量(wa(wt%))と、鉄元素の含有量(wb(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、ランタン元素の平均含有量と鉄元素の平均含有量を算出したところ、表2に示したように、それぞれ、66.4wt%、33.6wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、La)の変動係数C.V.(α)が2.1%(≦4.0%)であった。
【0090】
またコバルト元素の含有量(wc(wt%))と鉄元素の含有量(wd(wt%))とを、式(2)の関係を満足するように決定したときの、コバルト元素と鉄元素の平均含有量は、それぞれ21.6wt%、78.4wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、Fe)の変動係数C.V.(β)が1.5%(≦2.0%)以下であった。
a+wb=100(wt%) (1)
c+wd=100(wt%) (2)
【0091】
(iii)粒度分布測定
実施例1と同様にして粒度分布測定を行なった。その結果、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83の体積平均粒径D50は15.7μmであった。
【0092】
〔比較例1〕
(1)(原料粉末及び有機酸を添加してなる中間生成物)
実施例1と同様にLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83を形成するように各原料の秤量を行った。(表1参照)
一方で、20Lセパラブルフラスコに純水2L(リットル)を加え、酸化ランタンを添加して液温50℃に保持し、2時間水和反応(La23+3H2O→2La(OH)3)させた。これに炭酸ストロンチウム、炭酸コバルト、クエン酸鉄を加えて1時間分散させた。さらにクエン酸816gを加えて2時間反応させ、褐色のスラリーを得た。
なお、必要クエン酸量は、Laイオン、Coイオン、及びFeイオンのモル数に対してそれぞれ当量、Srイオンのモル数に対して2/3当量である。
【0093】
(2)(中間生成物の乾燥)
クエン酸を添加して得られた調合スラリーをステンレスバットに移し、110℃に設定した棚段乾燥機で1日乾燥させた。
【0094】
(3)(粗焼成、仮焼成、本焼成)
得られた乾燥粉末をムライト質の30cmの角サヤ4枚に充填し、大気中において、電気炉で、実施例1と同様にして粗焼成し、さらに仮焼成、本焼成を行なった。本焼成後、焼成粉を解砕しLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83粉を得た。
【0095】
(4)(成分分析)
(i)XRD分析
少量のLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83の最終粉末を分取し、実施例1と同様にして粉末X線回折測定を行った。その結果、当該粉末は、菱面体晶(113相):84.0wt%、214相:13.8wt%、La23:0.2wt%、SrCO3:2.0wt%と、不純物相が多数含まれていた。
【0096】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
当該粉末のSEM写真による表面状態、EDXによるLa、Sr、Co、Feのマッピング図は、La、Feについてはかなりの偏析が認められた。
【0097】
実施例1と同様にして測定したEDXの特性X線のピーク強度比より算出したランタン元素の含有量(wa(wt%))と、鉄元素の含有量(wb(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、ランタン元素の平均含有量と鉄元素の平均含有量を算出したところ、表2に示したように、それぞれ、66.6wt%、33.4wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、La)の変動係数C.V.(α)が6.4%(>4.0%)であった。
【0098】
またコバルト元素の含有量(wc(wt%))と鉄元素の含有量(wd(wt%))とを、式(2)の関係を満足するように決定したときの、コバルト元素と鉄元素の平均含有量は、それぞれ21.6wt%、78.4wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、Fe)の変動係数C.V.(β)が1.4%(≦2.0%)以下であった。
a+wb=100(wt%) (1)
c+wd=100(wt%) (2)
【0099】
(iii)粒度分布測定
実施例1と同様にして粒度分布測定を行なった。その結果、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83の体積平均粒径D50は15.3μmであった。
【0100】
〔比較例2〕
(1)比較例1において、Fe源としてのクエン酸鉄の代わりに酸化鉄(Fe23)162.7gを使用し、添加するクエン酸の量を1429gとするほかは、同様の実験を行い、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83で表される最終粉末を得た。(表1参照)
【0101】
(2)(成分分析)
(i)XRD分析
少量のLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83の最終粉末を分取し、実施例1と同様にして粉末X線回折測定を行った。その結果、当該粉末は、菱面体晶(113相):40.6wt%、214相:24.5wt%、La23:16.1wt%、SrCO3:6.9wt%、α−Fe23:9.3wt%、SrFe1219:2.6wt%と、多数の不純物相からなるものであった。
【0102】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
当該粉末のSEM写真(倍率×3000)を図6に示す。また、EDXによるLa、Sr、Co、Feのマッピング図を図7〜10に示す。La、Sr、Feについてはかなりの偏析が認められた。
【0103】
実施例1と同様にして測定したEDXの特性X線のピーク強度比より算出したランタン元素の含有量(wa(wt%))と、鉄元素の含有量(wb(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、ランタン元素の平均含有量と鉄元素の平均含有量を算出したところ、表2に示したように、それぞれ67.3wt%、32.7wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、La)の変動係数C.V.(α)が37%(>4.0%)であった。
【0104】
また、コバルト元素の含有量(wc(wt%))と鉄元素の含有量(wd(wt%))とを、式(2)の関係を満足するように決定したときの、コバルト元素と鉄元素の平均含有量は、それぞれ33.9wt%、66.1wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、Fe)の変動係数C.V.(β)が43%(>2.0%)であった。
a+wb=100(wt%) (1)
c+wd=100(wt%) (2)
【0105】
(iii)粒度分布測定
実施例1と同様にして粒度分布測定を行なった。その結果、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83の体積平均粒径D50は15.5μmであった。
【0106】
〔実施例3〕
(1)(原料粉末及び有機酸の準備)
La0.8Sr0.2Co0.2Fe0.83を形成するように各原料の秤量を行った。すなわち、表1に示すようにLa源としての炭酸ランタン(La2(CO33・8H2O)847.1g、Sr源としての炭酸ストロンチウム(SrCO3)102.3g、Co源としての水酸化コバルト(Co(OH)2)65.17g、及びFe源としてFe含有量が45.58%の含水水酸化鉄(Fe(OH)3)338.7g(原子比で、La:Sr:Co:Feが0.8:0.2:0.2:0.8とする。)を秤量した。一方で、20Lセパラブルフラスコ中にマレイン酸2078gと55℃の純水4.0L(リットル)とを加えてマレイン酸溶液を調製し、これに重炭酸アンモニウム等のアンモニウム源を添加することなく撹拌して28℃で溶解させた。
【0107】
(2)(中間生成物及び乾燥)
上記のマレイン酸溶液に炭酸ランタンを投入し、70℃まで加熱し、その温度で2時間反応させた。炭酸ランタンは完全に溶解し、無色透明溶液が得られた。
これに、炭酸ストロンチウム、水酸化コバルト、水酸化鉄を添加して同温度でさらに2時間反応させた。各金属塩は完全に溶解し、黒褐色透明溶液が得られた。
【0108】
反応終了後、得られた溶液をスプレードライヤーで乾燥させ、中間生成物である複合マレイン酸塩の乾燥粉末を得た。なお、スプレードライヤーとしては、実施例1と同じBDP−10型スプレーバッグドライヤー(大川原化工機社製)を使用し、実施例1と同様の条件で乾燥を行った。
【0109】
(3)(粗焼成、仮焼成、本焼成)
得られた乾燥粉末を実施例1と同じ条件で粗焼成及び仮焼成した。
【0110】
当該仮焼成粉をムライト質の30cmの角サヤ1枚に充填し、大気中において、電気炉で、750℃で6時間焼成し、解砕後LSCF最終粉末(La0.8Sr0.2Co0.2Fe0.83)を得た。(本焼成)
室温から750℃までの昇温速度は750℃/4時間、750℃から室温までの降温速度は750℃/6時間とした。
【0111】
(4)(成分分析)
(i)XRD分析
少量のLa0.8Sr0.2Co0.2Fe0.83の最終粉末を分取し、その結晶相を同定するためCuKαをX線源とする粉末X線回折測定を行った。X線回折測定には実施例1と同様のリガク社製のRINT2200Vを用いた。その結果、菱面体晶(113相)を有するペロブスカイト構造であることが確認された。
【0112】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を実施例1で用いた走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
当該粉末のSEM写真による表面状態、EDXによるLa、Sr、Co、Feのマッピング図は、実施例1と同様であり、偏析は認められなかった。
【0113】
実施例1と同様にして測定したEDXの特性X線のピーク強度比より算出したランタン元素の含有量(wa(wt%))と、鉄元素の含有量(wb(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、ランタン元素の平均含有量と鉄元素の平均含有量を算出したところ、表2に示したように、それぞれ85.2wt%、14.8wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、La)の変動係数C.V.(α)が0.90%(≦4.0%)であった。
【0114】
またコバルト元素の含有量(wc(wt%))と鉄元素の含有量(wd(wt%))とを、式(2)の関係を満足するように決定したときの、コバルト元素と鉄元素の平均含有量は、それぞれ21.4wt%、78.6wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、Fe)の変動係数C.V.(β)が1.0%(≦2.0%)以下であった。
a+wb=100(wt%) (1)
c+wd=100(wt%) (2)
【0115】
(iii)粒度分布測定
実施例1と同様にして粒度分布測定を行なった。その結果、La0.8Sr0.2Co0.2Fe0.83の体積平均粒径D50は15.9μmであった。
【0116】
〔実施例4〕
(1)(原料粉末及び有機酸の準備)
La0.6Sr0.4Co0.4Fe0.63を形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、表1に示すようにLa源としての水酸化ランタン(La(OH)3)414.4g、Sr源としての水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)178.9g、Co源としてのCo含有量が46.58%の日本化学産業社製炭酸コバルト(CoCO3)183.8g、及びFe源としてFe含有量が45.58%の含水水酸化鉄(Fe(OH)3)267.0g(原子比で、La:Sr:Co:Feが0.6:0.4:0.4:0.6とする。)を秤量した。一方で、20Lセパラブルフラスコ中に乳酸2082gと55℃の純水4.0L(リットル)とを加えて乳酸溶液を調製し、これに重炭酸アンモニウム等のアンモニウム源を添加することなく撹拌して28℃で溶解させた。
【0117】
(2)(中間生成物及び乾燥)
上記の乳酸溶液に水酸化ランタンを投入し、70℃まで加熱し、その温度で2時間反応させた。水酸化ランタンは完全に溶解し、無色透明溶液が得られた。
【0118】
これに、水酸化ストロンチウム、炭酸コバルト、含水水酸化鉄を添加して同温度でさらに2時間反応させた。各金属塩は完全に溶解し、黒褐色透明溶液が得られた。
【0119】
反応終了後、得られた溶液をスプレードライヤーで乾燥させ、中間生成物である複合乳酸塩の乾燥粉末を得た。なお、スプレードライヤーとしては、実施例1と同じBDP−10型スプレーバッグドライヤー(大川原化工機社製)を使用し、実施例1と同様の条件で乾燥を行った。
【0120】
(3)(粗焼成、仮焼成、本焼成)
得られた乾燥粉末を実施例1と同じ条件で粗焼成及び仮焼成した。
【0121】
当該仮焼成粉をムライト質の30cmの角サヤ1枚に充填し、大気中において、電気炉で、1000℃で6時間焼成し、目的のLSCF最終粉末(La0.6Sr0.4Co0.4Fe0.63)を得た。(本焼成)
なお、室温から700℃までの昇温速度は700℃/4時間、さらに1000℃までの昇温速度は100℃/1時間とした。また1000℃から室温までの降温速度は100℃/1時間とした。
【0122】
(4)(成分分析)
(i)XRD分析
少量のLa0.6Sr0.4Co0.4Fe0.63の最終粉末を分取し、その結晶相を同定するためCuKαをX線源とする粉末X線回折測定を行った。X線回折測定には実施例1と同様のリガク社製のRINT2200Vを用いた。その結果、菱面体晶(113相)を有するペロブスカイト構造であることが確認された。
【0123】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を実施例1で用いた走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
当該粉末のSEM写真による表面状態、EDXによるLa、Sr、Co、Feのマッピング図は、実施例1と同様であり、偏析は認められなかった。
【0124】
実施例1と同様にして測定したEDXの特性X線のピーク強度比より算出したランタン元素の含有量(wa(wt%))と、鉄元素の含有量(wb(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、ランタン元素の平均含有量と鉄元素の平均含有量を算出したところ、表2に示したように、それぞれ66.2wt%、33.8wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、La)の変動係数C.V.(α)が1.6%(≦4.0%)であった。
【0125】
またコバルト元素の含有量(wc(wt%))と鉄元素の含有量(wd(wt%))とを、式(2)の関係を満足するように決定したときの、コバルト元素と鉄元素の平均含有量は、それぞれ41.3wt%、58.7wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、Fe)の変動係数C.V.(β)が1.2%(≦2.0%)であった。
a+wb=100(wt%) (1)
c+wd=100(wt%) (2)
【0126】
(iii)粒度分布測定
実施例1と同様にして粒度分布測定を行なった。その結果、La0.6Sr0.4Co0.4Fe0.63の体積平均粒径D50は16.1μmであった。
【0127】
〔実施例5〕
(1)(最終粉末調製)
(La0.6Sr0.40.9Co0.2Fe0.83を形成するように各原料の秤量を行った。すなわち、表1に示すようにLa源としての酸化ランタン(La23)342.8g、Sr源としての炭酸ストロンチウム(SrCO3)207.3g、Co源としてCo含有量が46.58%の日本化学産業社製炭酸コバルト(CoCO3)98.40g、及びFe源としてのFe含有量が18.56%のクエン酸鉄(FeC657・nH2O)936.0g(原子比で、La:Sr:Co:Feが0.54:0.36:0.2:0.8とする。)を秤量した。一方で、20LセパラブルフラスコにLaイオンのモル数に対して3当量、Srイオン、Coイオンのモル数に対してそれぞれ2当量、Feイオンのモル数に対して当量のクエン酸2893gを55℃の純水4.0L(リットル)に加えてクエン酸溶液を調製した。これに重炭酸アンモニウム996g(La金属に対して6当量)を加えて28℃で溶解させた。
以下、実施例1と同様に処理して(La0.6Sr0.40.9Co0.2Fe0.83粉を得た。
【0128】
(2)(成分分析)
(i)XRD分析
少量の(La0.6Sr0.40.9Co0.2Fe0.83の最終粉末を分取し、その結晶相を同定するためCuKαをX線源とする粉末X線回折測定を行った。X線回折測定には実施例1と同様のリガク社製のRINT2200Vを用いた。その結果、菱面体晶(113相)を有するペロブスカイト構造の相の他に不純物相としてCo34相が観察された。しかし、後述するように、EDX分析ではCoの偏析は観察されなく、不純物としてのCo34は、非常に細かい結晶が均一にペロブスカイト結晶の粒子の間に分散しているためと思われる。
【0129】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を実施例1で用いた走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
当該粉末のSEM写真による表面状態、EDXによるLa、Sr、Co、Feのマッピング図は、実施例1と同様であり、偏析は認められなかった。
【0130】
実施例1と同様にして測定したEDXの特性X線のピーク強度比より算出したランタン元素の含有量(wa(wt%))と、鉄元素の含有量(wb(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、ランタン元素の平均含有量と鉄元素の平均含有量を算出したところ、表2に示したように、それぞれ60.5wt%、39.5wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、La)の変動係数C.V.(α)が1.1%(≦4.0%)であった。
【0131】
また、コバルト元素の含有量(wc(wt%))と鉄元素の含有量(wd(wt%))とを、式(2)の関係を満足するように決定したときの、コバルト元素と鉄元素の平均含有量は、それぞれ21.3wt%、78.7wt%であり、平均含有量の大きい方の元素(すなわち、Fe)の変動係数C.V.(β)が1.1%(≦2.0%)であった。
a+wb=100(wt%) (1)
c+wd=100(wt%) (2)
【0132】
(iii)粒度分布測定
実施例1と同様にして粒度分布測定を行なった。その結果、(La0.6Sr0.40.9Co0.2Fe0.83の体積平均粒径D50は15.1μmであった。
以上の結果を表1〜2にまとめて示す。
【0133】
【表1】

【0134】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0135】
上記詳述したように、本発明によれば、ペロブスカイト構造を有し、ランタン元素、ストロンチウム元素、コバルト元素、鉄元素、及び酸素元素からなる複合酸化物である固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末において、従来の固相法、共沈法、スラリー法によるものと比較してより高度に均一組成の新規のLSCF微粒子が提供される。この高度に均一組成のLSCF微粒子を成形体として焼結した場合、当該焼結体はこの均一組成を支承するので原理的に極めて均一組成のLSCF焼結体が得られると合理的に期待することができる。
また、本発明の製造方法によれば、このような高度に均一組成のLSCF微粒子を得ることが可能になるのでその産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト構造を有し、ランタン元素、ストロンチウム元素、コバルト元素、鉄元素、及び酸素元素からなる複合酸化物である固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末において、
当該粉末の走査型電子顕微鏡像(SEM像)の複数の位置において当該走査型電子顕微鏡に付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により測定した特性X線のピーク面積比より算出したランタン元素の含有量(wa(wt%))と、コバルト元素または鉄元素のうち含有量の多い元素の含有量(wb(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、複数の位置における含有量から算出したランタン元素の平均含有量[wa]av(wt%)と、コバルト元素または鉄元素のうち含有量の多い元素の平均含有量[wb]av(wt%)とを比較した場合に、平均含有量の大きい元素の変動係数(α)が4.0%以下であり、かつ、同様にコバルト元素の含有量(wc(wt%))と鉄元素の含有量(wd(wt%))とを、式(2)の関係を満足するように決定し、複数の位置における含有量から算出したコバルト元素の平均含有量[wc]av(wt%)と鉄元素の平均含有量[wd]av(wt%)のうち平均含有量の大きい元素の変動係数(β)が2.0%以下であることを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末。
a+wb=100(wt%) (1)
c+wd=100(wt%) (2)
【請求項2】
前記αが1.3%以下であり、βが2.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末。
【請求項3】
前記複合酸化物の組成式が一般式(I)
(La1-xSrxaCoyFe1-y3 (I)
(ただし、式において、0.2≦x≦0.5、0.1≦y≦0.6、0.9≦a≦1.0である。)
で表されるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法において、前記複合酸化物を構成する金属元素を含有する化合物を有機酸の水溶液を用いて溶液化し、焼成することを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【請求項5】
前記複合酸化物を構成する金属元素を含有する化合物を有機酸の水溶液を用いて溶液化し、その溶液をスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、その乾燥粉を焼成することを特徴とする請求項4に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【請求項6】
焼成温度が750℃から1250℃であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【請求項7】
前記複合酸化物を構成する金属元素を含有する化合物が、当該金属元素の炭酸塩、酸化物、水酸化物及び有機酸塩からなる群より選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【請求項8】
前記有機酸が、マレイン酸または乳酸であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【請求項9】
前記有機酸がクエン酸であり、前記複合酸化物を構成する金属元素を含有する化合物を有機酸の水溶液を用いて溶液化するに際して、更に、アンモニウム化合物を同時に使用することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【請求項10】
前記アンモニウム化合物が、アンモニア、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及びクエン酸アンモニウムよりなる群より選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項9に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−138256(P2012−138256A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289689(P2010−289689)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】