説明

固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末及びその製造方法

【課題】空気極材料にCr23を添加することにより、導電率を殆ど変化させずに、焼結密度の高い空気極材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ペロブスカイト構造を有し、一般式(I)A1-xCaxMnO3(ただし、AはLa及びSrからなる群から選択される1種類以上の元素であり、0<x≦0.6である。)を有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末において、Cr23含有量が140ppm以上、15000ppm以下であることを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cr23を含有する低温作動型固体酸化物型燃料電池用空気極材料とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池は、電解質として酸素イオン導電性を示す固体電解質を用いた燃料電池で、起電力を生じる電気化学反応が水素の酸化反応であるため、クリーンエネルギーとして注目されている。固体酸化物型燃料電池は、一般に、酸化物の空気極と固体電解質と燃料極とからなる単セルをインターコネクターによって接続したスタック構造を採っており、その動作温度は、通常1000℃程度であり、種々の検討により、近年低温化してきているものの、実用化されているものの最低温度は600℃以上と依然として高温である。
【0003】
このセル構造と高い動作温度のため、空気極を構成する空気極材料には、(1)酸素イオン導電性が高いこと、(2)電子伝導性が高いこと、(3)電解質と熱膨張が同等あるいは近似していること、(4)化学的な安定性が高く、他の構成材料との両立性が高いこと、(5)焼結体が多孔質であり、一定の強度を有すること等の特性が基本的に要求される。
【0004】
これらの特性を満足する材料として、La1-xSrxMnO3が精力的に研究開発されている。これはランタンマンガナイトのランタンサイトの一部をストロンチウムで置換したものである。しかしながら、La1-xSrxMnO3の導電率は高出力、長寿命の固体酸化物型燃料電池を実現するためには充分ではない。そこで、La1-xSrxMnO3のSr元素をさらにCaに置換することにより、導電率の向上を図る試みがなされている。一方で、SrをCaで置換してないLa1-xSrxMnO3からなる空気極は、一般に強度が低く、燃料電池製造中や、熱サイクルによりに破損するという強度上の問題点があった。
【0005】
このような電極の強度を上げる方法の一つとして、SiO2やCr23などの焼結助剤を用いて、電極の焼結密度を上げる方法がある。
その一例として、特許文献1には、組成物La1-xSrxMnO3[ただし、0<x≦0.5] または組成物La1-xSrxMn1-yy3[ただし、AはCu, Zn, Ni, Fe, Co, Cr, Al, Ti及び Mgからなる群より選ばれた一種以上の金属で、0<x≦0.5, 0<y≦0.3] 100重量部に対し、Si, Ti, Fe, Al, B, Cu, Co及び Mnからなる群より選ばれた一種以上の金属の酸化物を合計量で2.0重量部以下含有させたセラミックス素材からなるセラミックス電極が導電率を落とすことなく、高い強度を持つ電極として記載されている。しかしながら、我々が実験したところ、金属酸化物1.5重量%の添加で導電率の低下は許容範囲を超えてしまった。このような導電率の低下は、燃料電池の過電圧の増加につながるので好ましくない。
【0006】
La1-xSrxMnO3にCrの酸化物を添加して焼成すると、CrがMnサイトを置換する可能性がある。CrがMnサイトを置換した例として特許文献2が挙げられる。特許文献2には、(La(1-x)Cax1-α(Mn(1-y)Cry)O3系固溶体を主成分とするランタンマンガナイトであり、かつx、 y 及びαの値が0<x≦0.4、0<y≦0.2、0≦α≦0.1を満足するランタンマンガナイト系セラミックスが開示されている。このセラミックスは、ペロブスカイト構造のAサイトの一部をCaで置換し、Bサイトの一部をCrで置換したことを特徴としており、これらの置換により電気抵抗の低い電極は実現できるが、未だ導電率が充分でなく、これを用いた固体酸化物型燃料電池の過電圧は高く、サイクル特性にも問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2810104号公報
【特許文献2】特許第3066381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、空気極材料にCr23を添加することにより、導電率を殆ど変化させずに、焼結体の相対密度の高い空気極材料とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような課題を達成するために鋭意検討したところ、固体酸化物型燃料電池用空気極材料に微量のCr23を添加することにより、導電率を殆ど低下させることなく、相対密度を高めることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は以下の第1から第7の要旨を有する。
第1に、ペロブスカイト構造を有し、一般式(I)
1-xCaxMnO3 (I)
(ただし、AはLa及びSrからなる群から選択される1種類以上の元素であり、0<x≦0.6である。)
を有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末において、当該粉末はさらにCr23 を含有し、当該Cr23含有量が140ppm以上、15000ppm以下であることを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末、を要旨とするものである。
【0011】
第2に、第1の要旨に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を焼成してなる、その相対密度が80%以上で97%以下であり、理論密度に換算した800℃での導電率が400S/cm以上であることを特徴とするその焼結体、を要旨とするものである。
【0012】
第3に、第1の要旨に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法であって、固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を構成する金属元素含有する原料化合物を準備し、これを有機酸または無機酸の溶液に加えて、当該原料化合物と当該有機酸または無機酸とを反応させ、中間生成物である複合有機酸塩または複合無機酸塩を製造し、当該中間生成物を乾燥し、焼成することにより得られた固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末にCr23粉末を混合した後、熱処理することを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法、を要旨とするものである。
【0013】
第4に、前記原料化合物が固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を構成する金属元素を含有する炭酸塩、水酸化物及び酸化物からなる群から選択される1種類以上の化合物であることを特徴とする第3の要旨に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法、を要旨するものである。
【0014】
第5に、前記有機酸がクエン酸、リンゴ酸、ギ酸、酢酸及びシュウ酸からなる群より選択される1種以上の酸であることを特徴とする第3の要旨に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法、を要旨とするものである。
【0015】
第6に、前記無機酸が塩酸、硝酸、硫酸、リン酸及びフッ化水素酸からなる群より選択される1種以上の酸であることを特徴とする第3の要旨に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法、を要旨とするものである。
【0016】
第7に、第3の要旨に記載の粉末の製造方法によって製造した、Cr23 含有固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を成型、焼成することを特徴とする、その成型体の製造方法、を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0017】
以下に詳述するように、本発明によれば、特定量のCr23を含有させた固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を燃料電池用の空気極の成形用材料として使用することにより、導電率を低下させることなく、その相対密度を高めることができる。その結果として、この空気極材料を空気極電極としたとき、機械的強度を増加させることができる。
【0018】
また、この電極を空気極とした固体酸化物型燃料電池は、Cr23を添加する前と比較して、過電圧の増加を起こさないという有利な効果を奏する。
更には、本発明に係る製造方法によれば、比較的簡便な方法により、相対密度が高く、かつ導電率の高い固体酸化物型燃料電池用空気極材料の成型体を製造することができる。したがって、本発明に係るCr23含有のペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物は、固体酸化物型燃料電池用空気極材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る実施例及び比較例における導電率のCr23含有量依存性を示したグラフである。
【図2】本発明に係る実施例及び比較例における相対密度のCr23含有量依存性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、基本的に、一般式(I)A1-xCaxMnO3で表される組成を有するペロブスカイト型結晶構造を有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料に関するものである。
上記組成式において、Aはランタン及びストロンチウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、特にランタンとストロンチウムとが同時に含有されていることが好ましい。
【0021】
ここでCaの組成を表すxの範囲は、0<x≦0.6が好ましく、0.05≦x≦0.4が更に好ましい。
また、酸素の組成は化学量論的には3であるが、上記結晶構造がペロブスカイト構造を保持する範囲において、一部欠損していても、過剰に存在していても構わない。
【0022】
以下、本発明に係る一般式(I)A1-xCaxMnO3で表される組成を有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料の製造方法について説明する。
【0023】
(原料粉末)
本発明に係る、一般式(I)A1-xCaxMnO3で表される組成を有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料の原料となる粉末は、通常使用されるものを好適に使用することができ、たとえばA元素(La、Sr)を含む酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩またはアルコキシドなどと、Ca元素を含む酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩またはアルコキシドなどと、Mn元素を含む酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩またはアルコキシドなどである。
【0024】
特に環境的な側面や入手のし易さの理由から炭酸塩、水酸化物または酸化物が好ましい。また、原料は1つの元素につき炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩またはアルコキシドなどから選ばれた任意の2種類以上の化合物を元素源として選択することもできる。
【0025】
(原料粉末の混合)
上記の原料粉末をA元素とCa元素とMn元素とが一般式(I)で表される目的の組成になるように秤量する。
次に、秤量した各原料粉末を均一に混合する。混合は、乾式混合によってもよいが比較的短時間で均質な原料粉末が得られることから湿式混合法により混合を実施することが好ましい。この混合時に併せて同時に粉砕処理を行ってもよい。
【0026】
湿式混合法とは、それ自体原料粉末を実質的に溶解しない適当な分散媒を用い、当該分散媒中に上記原料粉末を分散させた状態(スラリー状態)で実施される混合方法をいう。分散溶媒としては、水、メタノールやエタノールなどのアルコール類、またはフッ素系溶剤などの有機溶剤が挙げられる。特に、環境への負荷の観点から水が好ましい。また、生成物中の不純物が酸素イオン伝導度に影響を与えるので、水としては純水またはイオン交換水が好ましく、特にイオン交換水が好ましい。また、原料を構成する元素が実質的に溶媒に溶出しないので、フッ素系溶剤などの有機溶剤も好ましい。
【0027】
湿式混合法を実施するための装置としては特に限定するものではないが、同時に粉砕を実施するものが好ましい。たとえば、ボールミル、ビーズミル、アトリションミル、コロイドミル等が好ましい。そのうち特に、ジルコニアボールのような、粉砕媒体を使用する形式のもの、例えばボールミル、ビーズミルなどが、より好ましく使用される。例えば、原料粉末に上記の分散媒を加え、ボールミルを用いて12〜24時間粉砕混合しても良い。ボールミル等の粉砕媒体による粉砕混合を行なうと、より強い剪断力を付与でき、より均質な原料混合粉末が得られるので好ましい。
【0028】
(有機酸、無機酸の使用)
本発明における湿式混合法においては、分散媒中に原料中のA元素、Ca元素またはMn元素を含有する原料化合物と錯体を形成する有機酸を加えることが好ましい。有機酸が金属元素と錯体を形成することにより、A元素、Ca元素及びMn元素がより一層均質に混合できるという有利な効果があるからである。上記の有機酸としてはクエン酸、リンゴ酸、ギ酸、酢酸及びシュウ酸からなる群より選択される1種以上の酸が挙げられる。特に、クエン酸、リンゴ酸またはシュウ酸は原料の分散性が良好であるので好ましい。
【0029】
原料化合物の分散媒に有機酸に代えて無機酸を使用することもできる。無機酸を使用すると、無機酸が原料粉末を溶解することにより元素レベルでの均質な混合が可能となる。なお、無機酸を用いる場合には、系は均一液相系の操作になるので、反応終了後、アンモニアなどの弱塩基で溶液を中和した後、シュウ酸、クエン酸などの酸を沈殿剤としてその溶液に添加し、原料混合粉末を沈殿させることが好ましい。上記の無機酸としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸及びフッ化水素酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸が挙げられる。特に、硝酸、塩酸及びフッ化水素酸は原料粉末を溶解するのに十分な酸性度を有しているので好ましい。
【0030】
(中間生成物)
以上のごとく、湿式混合法によると、比較的短時間で均質な原料粉末を得られることから、乾式による混合よりも好ましい。そして、上述した有機酸を使用した場合には、原料混合粉末を構成する金属元素の複合有機酸塩が、中間生成物として得られる。また、無機酸を使用した場合には、原料混合粉末を構成する金属元素の複合無機酸塩が、中間生成物として得られる。
【0031】
(乾燥、焼成)
湿式法による混合後には、分散媒を除去するために、乾燥処理を行う。この乾燥処理は、箱型(棚段)乾燥機、バンド乾燥機、またはスプレードライヤーなどを用いて行うことができる。
【0032】
次に、乾燥させた中間生成物を焼成容器に移し、焼成炉にて焼成する。焼成は基本的には粗焼成、仮焼成、本焼成の焼成条件(温度や時間)の異なる3工程からなるのが好ましいが、粗焼成と本焼成の2工程でも良く、仮焼成と本焼成の2工程でも良く、また本焼成のみからなる工程でも良い。焼成容器の材質は特に限定されず、例えばアルミナ、ムライト、コージュライトなどが挙げられる。
【0033】
焼成炉は、熱源として、電気式またはガス式のシャトルキルンでも、場合によってはローラーハースキルンでもロータリーキルンでも良く、特に限定されない。
【0034】
(粗焼成)
粗焼成工程においては、焼成炉の温度を20〜800℃/時の昇温速度で目的の焼成温度(300〜500℃)まで上げる操作を行う。昇温速度が、20℃/時未満であると、目的の焼成温度まで達成するのに時間を要し、生産性が低下するので好ましくない。また、800℃/時を超えると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行しないので好ましくない。
【0035】
粗焼成時の焼成温度は、300〜500℃が好ましく、350〜450℃がより好ましい。300℃未満であると炭素成分が残留するので好ましくない。また、500℃を超えると構成元素が偏析するので好ましくない。
【0036】
粗焼成の焼成時間は、4〜24時間が好ましく、8〜20時間がより好ましい。4時間未満であると、炭素成分が残留するので好ましくない。また、24時間を超えても、生成物に変化はないが、生産性が低下するので好ましくない。
【0037】
粗焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、酸素含有雰囲気であり、空気中(大気中)または酸素濃度が20体積%以下の雰囲気中であることが好ましい。酸素濃度が20体積%を超えると原料混合粉中の炭素成分が燃焼し、部分的に酸化反応が進む結果、生成物の構成元素が局在化する場合があるので好ましくない。酸素濃度は15体積%以下であるのが好ましい。
【0038】
粗焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、100〜800℃/時が好ましく、100〜400℃/時がより好ましい。降温速度が100℃/時未満であると生産性が落ちるので好ましくない。また、これが800℃/時を超えると用いる焼成容器が熱衝撃のために破損してしまう虞があるので好ましくない。
【0039】
次いで、粗焼成工程で得られた酸化物を解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕後の体積平均粒径としては10〜50μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。
【0040】
(仮焼成)
引き続き、解砕した粗焼成粉を仮焼成温度(500〜800℃)で仮焼成する。
仮焼成工程においては、焼成炉の温度を100〜800℃/時、好ましくは100〜400℃/時の昇温速度で目的の焼成温度まで上げる。昇温速度が100℃/時未満であると、目的の焼成温度まで達成するのに時間を要し、生産性が低下するので好ましくない。また、昇温速度が800℃/時を超えると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行しない可能性があるので好ましくない。
【0041】
仮焼成の温度は、500〜800℃が好ましく、600〜800℃がより好ましい。500℃未満であると炭素成分が残留するので好ましくない。また、800℃を超えると焼成粉が過度に焼結するので好ましくない。
【0042】
焼成時間は、4〜24時間が好ましく、8〜20時間がより好ましい。4時間未満であると、炭素成分が残留するので好ましくない。また、24時間を超えても、生成物に変化はないが、生産性が低下するので好ましくない。
【0043】
仮焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、粗焼成時と同様の酸素含有雰囲気が好ましい。
仮焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、100〜800℃/時が好ましく、100〜400℃/時がより好ましい。降温速度が100℃/時未満であると生産性が落ちるので好ましくない。また、これが800℃/時を超えると目的とする物質が生成しないので好ましくない。
【0044】
次いで、仮焼成で得られた酸化物を粗焼成の後に行ったのと同様に解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕後の体積平均粒径としては10〜40μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。
【0045】
(本焼成)
さらに、この仮焼成粉を本焼成温度(800〜1400℃)で本焼成する。
本焼成工程においては、焼成炉の温度を50〜800℃/時、好ましくは100〜400℃/時の昇温速度で目的の焼成温度まで上げる。昇温速度が50℃/時未満であると、目的の焼成温度まで達成するのに時間を要し、生産性が低下するので好ましくない。また、昇温速度が800℃/時を超えると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行せずに、反応物質が不均一な状態で目的の焼成温度に到達するため、焼成物中に副生成物を生じる場合があるので好ましくない。
【0046】
本焼成の温度は、800〜1400℃が好ましく、1000〜1400℃がより好ましい。800℃未満または1400℃を超えると、目的とする結晶相が生成しないので好ましくない。
焼成時間は、4〜24時間が好ましく、5〜20時間がより好ましい。4時間未満であると、未反応物質が目的とする酸化物中に混在し、また、単一の結晶相であっても目的とする結晶相が得られないので好ましくない。また、24時間を超えても、生成物に変化はないが、生産性が低下するので好ましくない。
【0047】
本焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、粗焼成または仮焼成時と同様の酸素含有雰囲気中であることが好ましい。
本焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、50〜800℃/時が好ましい。降温速度が50℃/時未満であると生産性が低下するので好ましくない。また、これが800℃/時を超えると目的とする物質が生成しないので好ましくない。
【0048】
次いで、本焼成で得られた酸化物を粗焼成や仮焼成の後に行ったのと同様に解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕後の粉体の体積平均粒径は10〜50μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。その後、必要に応じて粒度調整のために湿式で粉砕しても良い。
【0049】
(Cr23 添加)
次に、解砕または粉砕により得られたA1-xCaxMnO3からなる粉体に、本発明で規定する140から15000ppmのCr23粉末を混合する。Cr23粉末の混合量が140ppm未満であると成型体の機械的強度が小さく、成型体が脆弱となるので好ましくなく、15000ppmを超えると導電率の大きな低下をもたらすので好ましくない。
【0050】
特には、Cr23粉末の好ましい混合量は140から2900ppmである。Cr23粉末の混合量が140ppmから2900ppmが特に好ましい理由は、Cr23の混合量がこの範囲では、焼結体の導電率の低下量が少なく、Cr23の混合量により導電率を制御できるからである。
【0051】
添加混合するCr23の体積平均粒径は0.1〜10μmが好ましい。体積平均粒径が0.1μm未満であると焼成中にCr23粒子が凝集し均一に分散しないからであり、10μmを超えると成型し、熱処理した後に得られる焼結体の焼結密度が小さくなるので好ましくない。
【0052】
一般式(I)A1-xCaxMnO3の粉末とCr23粉末との混合には、遊星ミル、ジェットミル、ボールミル、カッターミルなどの粉砕混合機を用い、乾式混合法により行うのが好ましい。この工程は、A1-xCaxMnO3粉末の粉砕も兼ねることもできる。
ボールミルにおけるボールの材質はジルコニアまたはアルミナなどが利用できる。ボールの大きさは0.1〜20mmが好ましい。より好ましくは2〜5mmの範囲である。
【0053】
(成型体、焼結体)
その後に、Cr23粒混合粉末の成型体を作成する。すなわち、Cr23と混合した、一般式(I)A1-xCaxMnO3の粉末をバインダーと混合し、一定の体積を有する金型に充填し、上から圧力をかけることにより、Cr23と混合した一般式(I)A1-xCaxMnO3の粉末の成型体を作成する。
圧力をかける方法は、機械的一軸プレス法、冷間等方圧(CIP)プレス法など、特に限定されない。
【0054】
次に、上述の成型体を熱処理し焼結体を得る。熱処理温度は、1100〜1450℃が好ましく、1200〜1400℃がより好ましい。熱処理温度が1100℃未満では成型体の機械的強度が不足し、また1450℃を超えると生成した一般式(I)A1-xCaxMnO3の成分が分解し、分解して生成した不純物の影響により、導電率が低下してしまうので好ましくない。熱処理時間は、2〜24時間が好ましく、2〜6時間がより好ましい。
【0055】
本発明に係るCr23を含有した一般式(I)A1-xCaxMnO3の焼結体の相対密度は80〜97%であることが好ましい。特に好ましくは、89〜96%である。相対密度が80%未満であるとその酸化物を成型して燃料電池の空気極として用いた場合に、強度が小さくなるので好ましくない。また、97%を超えると、空気極の導電率が低下するので好ましくない。
相対密度は、次式(1)を用いて計算することができる。
【0056】
【数1】


ここで、測定密度とは焼結体の重量と体積から求めた密度であり、理論密度とはペロブスカイト型の結晶構造より計算される結晶密度(6.00g/cm3)である。
【0057】
上記の焼結体を粉砕し、Cr23添加前のA1-xCaxMnO3と合わせてX線回折測定を行い、測定結果をリートベルト解析することにより格子定数を求めた。Cr23添加前後で格子定数が変化していなかったことから、Cr23は、A1-xCaxMnO3粒子表面に存在し、A1-xCaxMnO3の結晶格子内には取り込まれていないと推定される。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の具体的な実施例(実施例1−14)を、比較例(比較例1−4)と対比して説明する。しかしながら、これら実施例は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明がこれらの実施例に特に限定されるものではなく、また、これにより限定的に解釈されたりするものではない。なお、以下%とあるものは、とくに断りなき限り、質量%である。
【0059】
[実施例1]
(1)(原料粉末及び有機酸の準備)
La源としての酸化ランタン(La23)と、Sr源としての炭酸ストロンチウム(Sr2(CO33)と、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO3)と、Mn源としての炭酸マンガン(Mn(CO32)とをLa:Sr:Ca:Mnが原子比で0.50:0.25:0.25:1.00となるように原料粉末の合計3499gを秤量した。一方で、原料粉末中に含まれる金属イオンのモル数とその価数の積の合計である当量数と等しい当量数のクエン酸5000gを55℃の純水7.0L(リットル)に加えてクエン酸溶液を調製した。
【0060】
(2)(中間生成物)
上記のクエン酸溶液に原料粉末を投入し、55℃で2時間混合しながら反応させた。
反応終了後、得られたスラリーを105℃で48時間脱水乾燥して中間生成物である複合クエン酸塩を得た。
【0061】
(3)(粗焼成、仮焼成、本焼成)
得られた複合クエン酸塩を大気中において、400℃で10時間粗焼成した。室温から400℃までの昇温速度は300℃/時とし、400℃から室温までの降温速度は300℃/時とした。
【0062】
得られた粗焼成粉をカッタ−ミルで解砕し、その後、大気中において、600℃で10時間仮焼成した。室温から600℃までの昇温速度は300℃/時とし、600℃から室温までの降温速度は300℃/時とした。
【0063】
得られた仮焼成粉をカッターミルで解砕し、その後、大気中において、1200℃で6時間本焼成した。室温から1200℃までの昇温速度は100℃/時とし、1200℃から室温までの降温速度は100℃/時とした。
【0064】
(4)(最終粉末)
この本焼成により得られたLa0.50Sr0.25Ca0.25MnO3をカッターミルにて解砕した。この解砕粉100gを1L(リットル)のポットに分取した。このポットに直径5mmのジルコニアボールと、フッ素化合物系の有機溶剤である旭硝子社製のAK−225AEを入れて140回転/分の回転速度で3時間ボールミル粉砕した。粉砕したスラリーをステンレス製のバットにあけ、60℃で24時間乾燥した後、カッターミルで解砕し、La0.50Sr0.25Ca0.25MnO3の組成の最終粉末を得た。
【0065】
(5)(成分分析)
少量のLa0.50Sr0.25Ca0.25MnO3の最終粉末を分取し、以下のようにイオン交換水に分散させて試料を調製した。分散剤として和光純薬社製の二リン酸ナトリウム十水和物を使用した濃度0.24重量%の水溶液を用い、約0.1gのLa0.50Sr0.25Ca0.25MnO3と分散液とから全体が10mlとなるように分散液を調製し、3分間超音波を照射したものを試料とした。その試料からLa0.50Sr0.25Ca0.25MnO3の粒度分布をHORIBA社製のレーザー回折/散乱式粒度分布装置LA−950を用いて測定した。測定の直前に180秒間出力30Wの超音波処理を施した。その結果、体積平均粒径D50は2.5μmであった。
【0066】
次いで、La0.50Sr0.25Ca0.25MnO3の結晶相を同定するためにCuKαをX線源とする粉末X線回折測定を行った。X線回折測定にはリガク社製のRINT2200Vを用いた。リートベルト解析より求めた結晶構造は、a=5.428Å、b=7.630Å、c=5.463Åの斜方晶ペロブスカイト構造であった。
格子定数から計算される理論密度(結晶密度)は6.00g/cm3であった。
【0067】
(6)(Cr23添加、成型、焼成)
Cr23濃度が140ppmとなるように、La0.50Sr0.25Ca0.25MnO310gと高純度化学研究所社製、体積平均粒径D50が1μmのCr230.0014gを、内容積250mlのアルミナ製ポットに入れ、直径5mmのアルミナ製ボールとともにレッチュ社製の遊星ミルを用いて100rpmの回転速度で10分間粉砕混合した。
【0068】
得られた粉砕混合粉を直径30mmの金型に充填し、成型圧400kg/cm2で1分間一軸成型し、成型体とした。金型から取り出した成型体を1400℃で6時間熱処理し焼結体とした。1400℃までの昇温速度は100℃/時間とし、1400℃から室温までの降温速度は100℃/時間とした。その焼結体から密度測定用の試料を削り出した。
【0069】
(7)(焼成密度、導電率)
焼結体試料の重さと体積から求めた焼結密度は4.8g/cm3であり、式(1)より計算した相対密度は80%であった。
【0070】
また、上述の焼結体から4mm×4mm×20mmの直方体を削りだし、導電率測定用の焼結体とした。この焼結体に白金電極を焼き付け、直流四端子法により焼結体の抵抗率の25℃から1000℃の温度範囲における温度依存性をケースレー製ソースメーター2400を用いて測定した。測定された抵抗率から導電率の測定値を導き出し、更に式(2)を用いて各測定温度における理論密度での導電率を計算した。
【0071】
【数2】


800℃における理論密度での導電率は513S/cmであった。
当該焼結体の800℃における理論密度における導電率及び相対密度を表1にまとめて示す。
【0072】
[実施例2]
Cr23の混合量を730ppmとした以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は88%であり、800℃における理論密度での導電率は456S/cmであった。結果を表1に示した。
【0073】
[実施例3]
Cr23の混合量を2900ppmとした以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は97%であり、800℃における理論密度での導電率は408S/cmであった。結果を表1に示した。
【0074】
[実施例4]
Cr23の混合量を15000ppmとした以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は97%であり、800℃における理論密度での導電率は407S/cmであった。結果を表1に示した。
【0075】
[実施例5]
La:Sr:Ca:Mnの原子比を0.40:0.05:0.55:1.00とした以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は81%であり、800℃における理論密度での導電率は522S/cmであった。結果を表1に示した。
【0076】
[実施例6]
La:Sr:Ca:Mnの原子比を0.40:0.55:0.05:1.00とした以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は80%であり、800℃における理論密度での導電率は515S/cmであった。結果を表1に示した。
【0077】
[実施例7]
La:Sr:Ca:Mnの原子比を0.60:0.05:0.35:1.00とした以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は82%であり、800℃における理論密度での導電率は482S/cmであった。結果を表1に示した。
【0078】
[実施例8]
La:Sr:Ca:Mnの原子比を0.60:0.35:0.05:1.00とした以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は80%であり、800℃における理論密度での導電率は480S/cmであった。結果を表1に示した。
【0079】
[実施例9]
実施例1と同様の組成に秤量した酸化ランタンと炭酸ストロンチウムと炭酸カルシウムと炭酸マンガンとからなる原料粉末と、クエン酸5000gと、フッ素化合物系の有機溶剤である旭硝子社製のAK−225AE7.0L(リットル)と、直径5mmのジルコニアボールとを30L(リッター)のポットに入れた。
【0080】
このポットを70回転/分の回転速度で12時間回転させ、原料粉をボールミル粉砕した。得られたスラリーからジルコニアボールを取り除き、スラリーを55℃で2時間混合しながらクエン酸と原料粉末を反応させた。続いて、このスラリーを乾燥し、得られた乾燥粉をカッターミルで解砕した。
その後、実施例1の粗焼成とその後の解砕をすることなく、実施例1と同様にして仮焼成及び本焼成を行い、La0.50Sr0.25Ca0.25MnO3を得た。
【0081】
なお、Cr23を混合し焼成する工程も実施例1と同様に行った。実施例1と同様にして求めた焼結体の相対密度は85%であり、800℃における理論密度での導電率は500S/cmであった。結果を表1に示した。
【0082】
[実施例10]
クエン酸の代わりに硝酸を使用し、沈殿剤としてアンモニアを使用した以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は82%であり、800℃における理論密度での導電率は510S/cmであった。結果を表1に示した。
【0083】
[実施例11]
クエン酸の代わりに塩酸:硫酸=1:1を使用し、沈殿剤としてアンモニアを使用した以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は81%であり、800℃における理論密度での導電率は511S/cmであった。結果を表1に示した。
【0084】
[実施例12]
クエン酸の代わりにリンゴ酸とした以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は83%であり、800℃における理論密度での導電率は501S/cmであった。結果を表1に示した。
【0085】
[実施例13]
クエン酸の代わりにギ酸とした以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は80%であり、800℃における理論密度での導電率は506S/cmであった。結果を表1に示した。
【0086】
[実施例14]
クエン酸の代わりに酢酸とした以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は83%であり、800℃における理論密度での導電率は499S/cmであった。結果を表1に示した。
【0087】
[比較例1]
Cr23を添加しない以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は74%であり、800℃における理論密度での導電率は514S/cmであった。結果を表1に示した。
【0088】
[比較例2]
Cr23含有量を17500ppmとした以外は、実施例1と同様にして焼結体の試料を作成した。当該焼結体の実施例1と同様にして求めた相対密度は97%であり、800℃における理論密度での導電率は280S/cmであった。結果を表1に示した。
【0089】
[比較例3]
原料に炭酸カルシウム(CaCO3)を用いず、La:Sr:Mnの原子比を0.50:0.50:1.00とした以外は、実施例1と同様にしてLa0.500Sr0.50MnO3を作成した。
実施例1と同様にして求めた焼結体の相対密度は73%であり、800℃における理論密度での導電率は150S/cmであった。結果を表1に示した。
【0090】
[比較例4]
La源としての酸化ランタン(La23)と、Sr源としての炭酸ストロンチウム(Sr2(CO33)と、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO3)と、Mn源としての炭酸マンガン(Mn(CO32)と、Cr源として酸化クロム(Cr23)とをLa:Sr:Ca:Mn:Crが原子比で0.50:0.25:0.25:0.98:0.02となるように原料粉末の合計3517gを秤量した。一方で、原料粉末中に含まれる金属イオンのモル数とその価数の積の合計である当量数と等しい当量数のクエン酸5000gを55℃の純水7.0L(リットル)に加えてクエン酸溶液を調製した。
上記のクエン酸溶液に原料粉末を投入し、55℃で2時間混合しながら反応させた。
反応終了後、得られたスラリーを105℃で48時間脱水乾燥して複合クエン酸塩を得た。
【0091】
上記以外は実施例1と同様にしてMnサイトの一部をCrで置換したLa0.50Sr0.25Ca0.25Mn0.98Cr0.023を作製した。得られたLa0.50Sr0.25Ca0.25Mn0.98Cr0.023の結晶相を同定するため実施例1と同様に粉末X線回折測定を行った。リートベルト解析より求めた結晶構造は、a=5.413Å、b=7.645Å、c=5.412Åの斜方晶ペロブスカイト構造であった。格子定数から計算される理論密度(結晶密度)は6.06g/cm3であった。
【0092】
また、実施例1と同様にして求めた焼結体の相対密度は78%であり、800℃における理論密度での導電率は352S/cmであった。結果を表1に示した。
【0093】
(結果の考察)
実施例1から実施例14と、比較例1から比較例4の試料を用いて作製した焼結体の800℃での理論密度における導電率及び相対密度が表1にまとめて示されている。図1は、当該表から、そのCr23含有の添加量と焼結体の導電率の関係を示したグラフである。
【0094】
図1から分かるように、焼結体の導電率はCr23の添加量が140ppmから15000ppmまでは低下したが、その低下量は小さい。このことから、この添加量では、Cr23は焼結助剤となり、導電率低下にはほとんど影響を与えないことが分かる。
【0095】
また、実施例1と比較例3を比較すると、La0.5Sr0.5MnO3のSrの一部をCaで置換することにより、導電率が向上していることが分かる。
【0096】
図2は実施例及び比較例で合成したLa1-x-ySrxCayMnO3にCr23を添加したときのCr23添加量に対する焼結体の相対密度依存性を示したグラフである。図2から分かるように、焼結体の相対密度は、Cr23の添加量の増加とともに2900ppmまで増加し、その後ほぼ一定となった。よって、Cr23添加量を制御することにより、焼結体の密度を高めることができ、相対密度の向上により強度の増加が期待できる。したがって、Cr23の添加量が140ppm〜15000ppmの範囲では、導電率と強度の両立が可能であると考えられる。
【0097】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0098】
上記詳述したように、本発明によれば、固体酸化物型燃料電池において、特定量のCr23を含有させた体酸化物型燃料電池用空気極材料を使用することにより、空気極の導電率を低下させることなく、その相対密度を高めることができ、機械的強度を増加させることができるので、その産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト構造を有し、一般式(I)
1-xCaxMnO3 (I)
(ただし、AはLa及びSrからなる群から選択される1種類以上の元素であり、0<x≦0.6である。)
を有する固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末において、当該粉末はさらにCr23 を含有し、当該Cr23含有量が140ppm以上、15000ppm以下であることを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を焼成してなる、その相対密度が80%以上で97%以下であり、理論密度に換算した800℃での導電率が400S/cm以上であることを特徴とするその焼結体。
【請求項3】
請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法であって、固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を構成する金属元素含有する原料化合物を準備し、これを有機酸または無機酸の溶液に加えて、当該原料化合物と当該有機酸または無幾酸とを反応させ、中間生成物である複合有機酸塩または複合無機酸塩を製造し、当該中間生成物を乾燥し、焼成することにより得られた固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末にCr23粉末を混合した後、熱処理することを特徴とする固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【請求項4】
前記原料化合物が固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を構成する金属元素を含有する炭酸塩、水酸化物及び酸化物からなる群から選択される1種類以上の化合物であることを特徴とする請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【請求項5】
前記有機酸がクエン酸、リンゴ酸、ギ酸、酢酸及びシュウ酸からなる群より選択される1種以上の酸であることを特徴とする請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【請求項6】
前記無機酸が塩酸、硝酸、硫酸、リン酸及びフッ化水素酸からなる群より選択される1種以上の酸であることを特徴とする請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項3記載の粉末の製造方法によって製造した、Cr23 含有固体酸化物型燃料電池用空気極材料粉末を成型、焼成することを特徴とする、その成型体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−48893(P2012−48893A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188221(P2010−188221)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年7月1日付け委託契約に基づく開発項目「固体酸化物形燃料電池システム要素技術開発 基礎的・共通的課題のための研究開発 クエン酸塩法による低コスト化技術開発」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】