説明

固体酸化物形燃料電池ならびに該燃料電池に用いられる接合材

【課題】SOFCの接合に用いられる接合材であって好適に多孔質化された接合部を形成可能な接合材を提供すること。
【解決手段】本発明により提供される多孔質化接合材は、固体酸化物形燃料電池に用いられる多孔質化接合材であって、酸化物換算の質量比で以下の組成、SiO:40質量%〜75質量%、
Al:10質量%〜20質量%、NaO:7質量%〜20質量%、KO:7質量%〜20質量%、MgO:0質量%〜3質量%、CaO:0質量%〜3質量%、B:0質量%〜3質量%から実質的に構成されるガラスマトリックスと、該ガラスマトリックス中に析出するリューサイト結晶と、該ガラスマトリックス中に混在する炭化ケイ素結晶及び/又は窒化ケイ素結晶からなる造孔成分とを含有し、熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1となるように調製されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(以下「SOFC」ともいう。)に関し、詳しくは、SOFCに用いられる接合材に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質燃料電池とも呼ばれる固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)は、種々のタイプの燃料電池の中でも発電効率が高く、更に低環境負荷であり、多様な燃料の使用が可能であることから、発電装置として開発が進められている。
【0003】
SOFCの基本構造(即ち単セル)は、酸化物イオン伝導体から成る緻密な固体電解質(例えば緻密膜層)の一方の面に多孔質構造の空気極(カソード)が形成され、他方の面に多孔質構造の燃料極(アノード)が形成されることにより構成されている。そして、燃料極が形成された側の固体電解質の表面には燃料ガス(典型的には水素)が供給され、空気極が形成された側の固体電解質の表面には酸素を含むガス(典型的には空気)が供給される。SOFCを構成する上記単セル1つのみでは得られる発電量が限られることから、一般には所望する電力を得るために上記単セル構造を複数搭載したスタックとして用いられる。
【0004】
SOFC用の固体電解質としては、化学的安定性および機械的強度の高さから、ジルコニア系材料(典型的にはイットリア安定化ジルコニア:YSZ)から成る固体電解質が広く用いられている。また、燃料極としては例えばNiOとジルコニアのサーメット、空気極としてはLaCoO、LaMnO等のペロブスカイト構造の酸化物がよく用いられる。これら材質からなる多孔質体がそれぞれ燃料極および空気極として使用されている。これら電解質材料や電極材料等のSOFC構成材料は、SOFCが通常800℃〜1200℃程度の高温域で好適に動作するという温度特性を考慮するとともに、高温での酸化・還元雰囲気における化学耐久性や電気伝導性が高く、さらには相互に熱膨張率が近くなるようにして選択され、電池性能の向上化を目的としてより好ましいSOFC構成材料の改良、開発が進められている。この種のSOFCに関する従来技術としては例えば特許文献1〜7が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−39573号公報
【特許文献2】特表2008−527680号公報
【特許文献3】特表2008−529256号公報
【特許文献4】特開平11−154525号公報
【特許文献5】特開平11−307118号公報
【特許文献6】特開2005−190862号公報
【特許文献7】特許第4184139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、SOFCの実用化が進むにつれて、耐久性および信頼性向上のために、セルが備える空気極(カソード)あるいは酸素極(アノード)の多孔質部位を、ガス拡散性を妨げないように多孔質状態で接合する接合材が求められている。一般に、空気極あるいは酸素極の多孔質部位は、厚み0.05mm〜3mmという極めて薄い膜状態で使用される。そのため、多孔質部位の機械的強度を補強すべく、接合材を用いて、単セル同士或いはガス管を単セルに接合して耐久性を向上させることが検討されている。この場合、空気極あるいは酸素極へのガス供給が妨げられないように、上記接合部を多孔質化しておくことが望ましい。
【0007】
また、上記接合部は、ガス流通性がよいだけでなく、SOFCの動作温度(典型的には800℃〜1200℃)下で使用しても十分に耐え得る強度(耐熱性)を有する必要がある。また、単セルにおける接合においては、例えば7×10−6−1〜15×10−6−1程度(より好適には9×10−6−1〜12×10−6−1程度)の熱膨張係数を有するセル構成部材を接合することになる。従って、該セル構成部材と同程度の熱膨張係数を有し得る接合部を形成可能な接合材を用いる必要がある。
【0008】
しかしながら、従来のSOFCの接合に用いられる典型的な接合材(例えば上記特許文献に記載されるような接合材)は、いずれも非多孔質、熱膨張係数が不適合、耐熱性不足という種々の問題があり、これら従来の接合材を用いて多孔質化された接合部を形成することは困難であった。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、SOFCの接合に用いられる接合材であって好適に多孔質化された接合部を形成可能な接合材を提供することである。また、そのような接合材を用いて形成された接合部を備えるSOFCの提供を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を実現するべく、本発明により提供される一つの態様の接合材は、以下の構成を有する。
即ち、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40質量%〜75質量%;
Al 10質量%〜20質量%;
NaO 7質量%〜20質量%;
O 7質量%〜20質量%;
MgO 0質量%〜3質量%;
CaO 0質量%〜3質量%;
0質量%〜3質量%;
から実質的に構成されるガラスマトリックスと、
該ガラスマトリックス中に析出するリューサイト結晶と、
該ガラスマトリックス中に混在する炭化ケイ素結晶及び/又は窒化ケイ素結晶からなる造孔成分とを含有し、熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1となるように調製されている、固体酸化物形燃料電池に用いられて多孔質のガラス接合部を形成するための接合材である。
【0011】
かかる構成の接合材(ガラス組成物)をSOFCの所定箇所に塗布して酸化条件下(例えば空気中)にて焼成すると、ガラスマトリックス中の造孔成分(即ち上記ガラスマトリックス中に混在する炭化ケイ素結晶及び/又は窒化ケイ素結晶)が酸化されて消失する(典型的には周囲のガラスマトリックスと均質化(同化)して消失する。)ことにより、その跡に気孔が生じる。このことによって上記接合材から成る接合部が多孔質化し、ガス流通性のよいガラス主体接合部(多孔質ガラス接合部)が形成され得る。かかる接合部は、ガラスマトリックスに微細な孔が生じた構成となるため、単なるガラス粉末の焼結体(即ちガラス粒子が集結することによって多孔質状となったもの)に比べて、接着点(面積)が大きくなる。そのため、長期にわたって高い接合強度(接着力)が保持され、接合部における接合材の剥がれが好ましく防止される。従って、本発明によると、当該接合部の耐久性に優れるSOFCを提供することができる。
以下、上記のように焼成後に多孔質な接合部を形成し得る本発明に係る接合材を、「多孔質化接合材」という場合がある。
【0012】
また、本構成の多孔質化接合材を用いると、上記接合部がガラスマトリックス中にリューサイト(KAlSi或いは4SiO・Al・KO)結晶が析出している結晶質−非晶質複合材料によって形成され得る。かかるリューサイト含有ガラスは、リューサイト結晶を含有する(例えばガラスマトリックス中にリューサイトの微細結晶が分散状態で析出される)ことによって800℃以上の温度域、例えば800〜1000℃の温度域で流動し難い。従って、ここで開示される上記構成の多孔質化接合材を用いて形成された接合部は、SOFCの好適使用温度域である800℃以上(例えば800〜1000℃)の高温域において接合部からの流出の虞がなく、当該接合部の機械的強度の向上を実現することができる。
【0013】
上記造孔成分(即ち炭化ケイ素(SiC)及び/又は窒化ケイ素(Si))の含有率は、上記ガラスマトリックス100質量部に対して15〜45質量部であることが好ましい。例えば、ガラスマトリックス100質量部に対して20〜40質量部であることがより好ましい。造孔成分の含有率が低すぎると、かかる多孔質化接合材を用いて形成された接合部の熱膨張係数が低くなりすぎて高温域(典型的には800〜1000℃の範囲内であるような温度域)での繰り返し使用において接合部に剥がれが生じる虞がある。また、造孔成分の含有率が高すぎると多孔質化接合材接合部の接合強度が低下して接合部に剥がれが生じる虞があるため好ましくない。
【0014】
ここで開示される多孔質化接合材の好ましい一態様では、熱膨張係数が9〜12×10−6−1(典型的には室温(25℃)〜450℃の間の平均値)となるように調製される。かかる熱膨張係数の範囲の多孔質化接合材を使用することにより、典型的には800〜1000℃の範囲内であるような高温域で繰り返し使用しても(換言すれば常温からの昇温と使用後の降温とを繰り返しても)、多孔質化された接合部の剥がれが防止され、長期にわたって高い接合強度(接着力)を保持することができる。従って、接合部の耐熱性及び耐久性が特に優れるSOFCを提供することができる。
【0015】
また、本発明は、他の側面として、上記のような多孔質化接合材を好ましく製造する方法を提供する。
この方法は、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40質量%〜75質量%; Al 10質量%〜20質量%; NaO 7質量%〜20質量%; KO 7質量%〜20質量%; MgO 0質量%〜3質量%;
CaO 0質量%〜3質量%; B 0質量%〜3質量%;から実質的に構成され、熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1となるように調製されたガラス粉末にSiC粉末及び/又はSi粉末を添加して上記ガラスとSiC及び/又はSiとの混合粉末を調製すること、および、混合粉末を非酸化雰囲気下で結晶化処理することによりSiC結晶及び/又はSi結晶が混在するガラスマトリックス中に少なくともリューサイト結晶を析出させること、を包含する。
好ましくは、SiC粉末及び/又はSi粉末を、ガラス粉末100質量部に対して15〜45質量部の割合で添加する。
【0016】
かかる方法によって得られた多孔質化接合材は、ガラスマトリックス中にSiC及び/又はSi(造孔成分)が適度に分散した状態で存在する。そのため、焼成時に気孔の分布が均一な多孔質接合材からなる接合部を形成することができる。また、ガラスマトリックス中にリューサイト結晶が析出されることにより、耐熱性に優れる接合部を形成し得る接合材を製造することができる。
【0017】
ここで開示される多孔質化接合材の製造方法の好ましい一態様では、上記結晶化処理として、上記混合粉末を800℃〜1000℃の温度域で加熱する。上記のような条件で結晶化処理を行うことにより、ガラスマトリックス中にSiC及び/又はSi(造孔成分)とリューサイト結晶とが適度に分散した多孔質化接合材が得られる。
【0018】
また、本発明は、他の側面として、上記のような多孔質化接合材を用いて形成された接合部を備える固体酸化物形燃料電池(SOFC)を提供する。即ち、本発明は、燃料極と、空気極と、固体電解質とを備える単数または複数のセルからなる固体酸化物形燃料電池であって、当該セル同士の接合部あるいはセルと所定の接続部材との接合部が、多孔質ガラスであってガラスマトリックス中に少なくともリューサイト結晶が析出している多孔質ガラスにより構成されており、該接合部の熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1であることを特徴とするSOFCを提供する。
【0019】
好ましくは、上記多孔質ガラス接合部のガラスマトリックスは、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40質量%〜75質量%;
Al 10質量%〜20質量%;
NaO 7質量%〜20質量%;
O 7質量%〜20質量%;
MgO 0質量%〜3質量%;
CaO 0質量%〜3質量%;
0質量%〜3質量%;
から実質的に構成されている。
また、好ましくは、上記接合部の気孔率(例えば水銀圧入法に基づく。以下同じ。)は35〜50%である。
【0020】
上記構成の燃料電池では、セル(例えば燃料極及び/又は空気極)同士の接合部、或いはセルと他の接続部材(例えばガス配管)との接合部が、多孔質化接合材により形成されているので、当該接合部においてガス流通が妨げられない。そのため、セルの燃料極及び/又は空気極に対してガスを効率的に供給することができ、発電効率のよい燃料電池が得られる。また、上記接合部が、リューサイト結晶が析出しているガラスにより形成されているので、SOFCの好適使用温度域である800℃以上(例えば800〜1000℃)の高温域において接合部からのガラス流出の虞がなく、当該接合部の機械的強度の向上を実現することができる。
【0021】
また、上記接合部の熱膨張率(熱膨張係数)が接合対象である多孔質電極(燃料極及び空気極)と近似し得るため、ここで開示されるSOFCは、典型的には800〜1000℃の範囲内であるような高温域で繰り返し使用しても(換言すれば常温からの昇温と使用後の降温とを繰り返しても)、上記接合部におけるガラス成分の剥がれが防止され、長期にわたって高い接合強度(接着力)を保持することができる。従って、本発明によると、耐熱性及び耐久性に優れる燃料電池(SOFC)が提供される。
【0022】
また、本発明により、ここで開示されるいずれかの多孔質化接合材を使用して接合部を形成することを特徴とするSOFCの製造方法が提供される。
即ち、ここで開示される製造方法は、燃料極と、空気極と、固体電解質とを備える単数または複数のセルからなるSOFCの製造方法であり、所定のセルに対して被接合対象の他のセル或いは他の接続部材をここで開示される何れかの多孔質化接合材を用いて接合する。
具体的には、当該所定のセルと他のセル若しくは接続部材との接続部分に、ここで開示される何れかの多孔質化接合材を塗布すること、ならびに、上記塗布された多孔質化接合材を酸化雰囲気下で焼成することにより、上記接続部分に多孔質のガラス接合部を形成すること、を包含する。典型的には、上記多孔質化接合材はペースト状に調製されて使用される。また、好適な一態様では、上記焼成処理として、上記多孔質化接合材を800℃〜1000℃の温度域で加熱するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るSOFCを模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るSOFCシステムを模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の一実施例(サンプル3)で得られた供試体の接合部分の断面を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、多孔質化接合材の組成やその製造方法)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(原料粉末の混合方法や単セルおよびスタックの構築方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0025】
ここで開示される一態様の多孔質化接合材は、固体酸化物形燃料電池に用いられて多孔質のガラス接合部を形成するための接合材である。この接合材は、ガラスマトリックス中に少なくともリューサイト(KAlSi或いは4SiO・Al・KO)結晶が析出し得る組成のガラス組成物を主体とする多孔質化接合材であり、必須構成成分としてSiO、Al、KO、NaOを含む酸化物ガラスを含有する。リューサイト結晶の析出量は、ガラス組成物中の上記必須構成成分の含有率(組成率)によって適宜調整することができる。
【0026】
また、これら必須の成分の他、目的に応じて種々の酸化物成分(MgO、CaO、B等)を含有する。例えば、SOFCを比較的高温域、例えば800℃〜1200℃、好ましくは800℃〜1000℃(例えば900℃〜1000℃)で使用する場合、当該高温域で溶融し難い組成のガラスが好ましい。この場合、ガラスの融点(軟化点)を上昇させる成分の添加または増加により、所望する高融点(高軟化点)を実現することができる。例えば、ガラスマトリックス全体(リューサイト結晶部分を含む)の質量組成で、SiO:40質量%〜75質量%、 Al:10質量%〜20質量%、NaO:7質量%〜20質量%、KO:7質量%〜20質量%、MgO:0質量%〜3質量%、CaO:0質量%〜3質量%、B:0質量%〜3質量%であるものが好ましい。
【0027】
SiOはリューサイト結晶を構成する成分であり、接合部のガラス層(ガラスマトリックス)の骨格を構成する主成分である。SiO含有率が高すぎると融点(軟化点)が高くなりすぎてしまい好ましくない。一方、SiO含有率が低すぎると、リューサイト結晶析出量が少なくなるため好ましくない。また、耐水性や耐化学性が低下する。SiO含有率はガラス組成物全体の40〜75質量%であることが好ましい。
【0028】
Alはリューサイト結晶を構成する成分であり、ガラスの流動性を制御して付着安定性に関与する成分である。Al含有率が低すぎると付着安定性が低下して均一な厚みのガラスマトリックスの形成を損なう虞があるとともにリューサイト結晶析出量が減少する。一方、Al含有率が高すぎると、接合部の耐化学性を低下させる虞がある。Al含有率はガラス組成物全体の10〜20質量%であることが好ましい。
【0029】
Oはリューサイト結晶を構成する成分であり、NaOとともに熱膨張係数(熱膨張率)を高める成分である。KO含有率が低すぎるとリューサイト結晶析出量が少なくなるため好ましくない。また、KO含有率およびNaO含有率が低すぎると熱膨張係数が低くなりすぎる虞がある。一方、KO含有率およびNaO含有率が高すぎると熱膨張係数が過剰に高くなるため好ましくない。KO含有率はガラスマトリックス全体の7〜20質量%であることが好ましい。また、NaOの含有率はガラスマトリックス全体の7〜20質量%であることが好ましい。KOとNaOの合計がガラスマトリックス全体の15〜35質量%であることが特に好ましい。
【0030】
アルカリ土類金属酸化物であるMgO及びCaOは、熱膨張係数の調整を行うことができる任意添加成分である。CaOはガラスマトリックスの硬度を上げて耐摩耗性を向上させ得る成分であり、MgOはガラス溶融時の粘度調整を行うことができる成分でもある。また、これらの成分を入れることによりガラスマトリックスが多成分系で構成されるため、耐化学性が向上し得る。これら酸化物のガラス組成物全体における含有率は、それぞれ、ゼロ(無添加)か或いは5質量%以下が好ましい。例えば、MgO及びCaOの合計量がガラス組成物全体の4質量%以下(例えば1質量%〜3質量%)であることが好ましい。
【0031】
もまた任意添加成分である。Bはガラス中でAlと同様の作用を示すと考えられ、ガラスマトリックスの多成分化に貢献し得る。また、接合材調製時の溶融性の向上に寄与する成分である。一方、この成分が多すぎると耐酸性の低下を招くため好ましくない。Bのガラスマトリックス全体における含有率は、ゼロ(無添加)か、あるいは3質量%以下程度が好ましい。
【0032】
また、本実施形態では、上記ガラスマトリックス中に混在する炭化ケイ素結晶(SiC)及び/又は窒化ケイ素結晶(Si)からなる造孔成分を含有する。このSiC及び/又はSiは上記接合材から成る接合部を多孔質化する造孔成分である。典型的にはSiCの単独添加、或いはSiの単独添加である。該造孔成分を含む多孔質化接合材をSOFCの所定箇所に塗布して酸化条件下(例えば空気中)にて焼成すると、ガラスマトリックス中の造孔成分(SiC、Si)が酸化され、周囲のガラスマトリックスと同化(均質化)して除去される。その跡が気孔となる。このことによって上記接合材から成る接合部が多孔質化し、ガス流通性のよいガラス主体接合部(多孔質ガラス接合部)が形成され得る。かかる接合部は、ガラスマトリックスに微細な孔が生じた構成となるため、単なるガラス粉末の焼結体(即ちガラス粒子が集結することによって多孔質状となったもの)に比べて、接着点(面積)が大きくなる。そのため、長期にわたって高い接合強度(接着力)が保持され、接合部における接合材の剥がれが好ましく防止され得る。
【0033】
上記造孔成分(即ち炭化ケイ素(SiC)及び/又は窒化ケイ素(Si))の含有率は、上記ガラスマトリックス(典型的にはSiO、Al、NaO、KO、CaO、MgOおよびBの総量)100質量部に対して15〜45質量部であることが好ましい。例えば、ガラスマトリックス100質量部に対して20〜40質量部であることがより好ましい。造孔成分の含有率が低すぎると、かかる多孔質化接合材を用いて形成された接合部の熱膨張係数が低くなりすぎて高温域(典型的には800〜1000℃の範囲内であるような温度域)での繰り返し使用において接合材の剥がれが生じる虞がある。また、造孔成分の含有率が高すぎると多孔質化接合材接合部の接合強度が低下して接合部に剥がれが生じる虞があるため好ましくない。
【0034】
なお、上述した成分以外の、本発明の実施において本質的ではない成分(例えばZnO、LiO、Bi、SrO、SnO、SnO、CuO、CuO、TiO、ZrO、La)を種々の目的に応じて添加することができる。
【0035】
また、ここで開示される一態様では、熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1(典型的には室温(25℃)〜450℃の間の平均値)となるように、上述の各成分を調合して多孔質化接合材が調製されている。かかる熱膨張係数の範囲の多孔質化接合材を使用することにより、典型的には800〜1000℃の範囲内であるような高温域で繰り返し使用しても(換言すれば常温からの昇温と使用後の降温とを繰り返しても)、多孔質化された接合部の剥がれが防止され、長期にわたって高い接合強度(接着力)を保持することができる。
【0036】
次に、ここで開示される多孔質化接合材の製造方法について説明する。
【0037】
ここで開示される接合材の製造方法は、以下の工程を包含することが好ましい。即ち、熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1となるように調製されたガラス(ガラス質中間体)粉末にSiC粉末及び/又はSi粉末を添加して上記ガラスと前記SiC及び/又はSiとの混合粉末を調製すること、および、上記混合粉末を非酸化雰囲気下で結晶化処理することにより、SiC結晶及び/又はSi結晶が混在するガラスマトリックス中に少なくともリューサイト結晶を析出させること、を包含する。ここで、本製造方法において、上記熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1となるように調製されたガラス粉末は、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40質量%〜75質量%;
Al 10質量%〜20質量%;
NaO 7質量%〜20質量%;
O 7質量%〜20質量%;
MgO 0質量%〜3質量%;
CaO 0質量%〜3質量%;
0質量%〜3質量%;
から実質的に構成されている。
【0038】
また、好ましい一態様では、上記SiC及び/又はSi粉末(造孔成分)を、上記ガラス粉末100質量部に対して15〜45質量部の割合で添加する。これにより、造孔成分の含有率が、ガラスマトリックス100質量部に対して15〜45質量部となるように調製された多孔質化接合材が得られる。
【0039】
以下、ここで開示される多孔質化接合材の製造方法の一好適例について説明する。ここでは主として造孔成分としてSiCを添加する場合について説明する。
【0040】
まず、かかる接合材のガラス成分(ガラスマトリックス)を構成する各種酸化物成分を得るための化合物(例えば各成分を含有する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、複合酸化物等を含む工業製品、試薬、または各種の鉱物原料)および必要に応じてそれ以外の添加物を(典型的にはこれらを混合してなる混和物を)ガラス原料粉末として用意する。
【0041】
かかるガラス原料粉末は、酸化物換算の質量比でSiOが40質量%〜75質量%、Alが10質量%〜20質量%、NaOが7質量%〜20質量%、KOが7質量%〜20質量%、MgOが0質量%〜3質量%、CaOが0質量%〜3質量%およびBが0質量%〜3質量%となるような組成から実質的に構成されるように調製されることが好ましい。
【0042】
上記各酸化物成分を得るための化合物(典型的には粉末状)の平均粒径としては、凡そ1μm〜10μm程度が好ましい。このような各化合物および添加物を所定の配合比で乾式または湿式のボールミル等の混合機に投入し、数〜数十時間混合する。このようにして得られた混和物(ガラス原料粉末)を、乾燥後、耐火性の坩堝に入れ、適当な高温(典型的には1000℃〜1500℃)条件下で加熱・溶融させる。このようにして上述のような組成からなるガラス(ガラス質中間体)を調製する。
【0043】
次に、得られたガラス(ガラス質中間体)を適当な大きさ(粒径)となるまで粉砕し、ガラス粉末を作製する。このガラス粉砕処理後に分級処理も実施することが好ましい。ガラス粉末の粒径(典型的にはレーザー回折・散乱法に基づく平均粒径)としては、後に添加されるSiC粉末と均一に混和し易く、また扱い易い粒径である限りにおいて特に制限されないが、例えばレーザー回折・散乱法に基づく平均粒径が0.5μm〜50μmの範囲が適当であり、好ましくは1μm〜10μmである。
【0044】
この粉砕により得られたガラス粉末(ガラス質中間体の粉末)に対して、SiC粉末を添加する。SiC粉末のレーザー回折・散乱法に基づく平均粒径としては、上記ガラス質中間体粉末と均一に混合された混合粉末を形成し易く、また後の結晶化処理において、ガラスマトリックス中にリューサイト結晶とともに好ましく析出し得るような大きさが好ましい。このような平均粒径としては、0.1μm〜10μmが好ましく、より好ましくは0.5μm〜5μmである。SiC粉末の添加量としては、上記ガラス粉末100質量部に対して15〜45質量部の割合で添加することが好ましい。
【0045】
次に、上記添加されたSiC粉末と上記ガラス粉末(ガラス質中間体粉末)とを、上記と同様にして乾式または湿式のボールミル等の混合機を用いて数時間〜数十時間混合する。このようにしてSiCとガラスとが満遍なく均一に混合された混合粉末を得る。かかる混合粉末としてのレーザー回折・散乱法に基づく平均粒径は、0.5μm〜10μmが好ましく、より好ましくは1μm〜5μmである。
【0046】
次いで、上記のようにして得られた混合粉末に対して非酸化雰囲気下で結晶化処理(典型的には熱処理)を行う。この結晶化処理としては、一好適例としては、上記混合粉末を室温から約100℃まで約1〜5℃/分の昇温速度で加熱し、約100℃からは1〜5℃/分の昇温速度で加熱し、800℃〜1000℃の温度域で30分〜60分程度保持した後に、1〜5℃/分の降温速度で室温まで冷却することにより、SiC結晶が混在するガラスマトリックス中に、リューサイト結晶を析出させる。
【0047】
ここで、本実施形態においては、上記結晶化処理は、上記ガラス組成物中のSiCの反応(典型的には酸化分解反応)が起こらない非酸化雰囲気下で行うことが重要である。かかる結晶化工程における非酸化雰囲気下としては、SiCの酸化消失が起こらない非酸化雰囲気下であればよく特に制限されない。例えば、酸素分圧が約0.1atm未満の減圧雰囲気中であってもよいし、窒素ガスやHeガス等の不活性ガス雰囲気中であってもよい。あるいは水素ガス等を混入した還元雰囲気中であってもよい。このような非酸化雰囲気下で上記結晶化処理を行うことにより、SiCの酸化消失を防ぎつつ、該SiC結晶が混在するガラスマトリックス中にリューサイト結晶を析出させることができる。なお、上記結晶化処理によって析出し得る結晶はリューサイトのみに限定されない。例えば使用するガラス原料粉末の配合比によってはリューサイト結晶に加えてクリストバライト(SiO)結晶を析出させることもできる。リューサイト結晶とクリストバライト結晶の両方がガラスマトリックス中に析出したことを特徴とする接合材が特に好ましい。
【0048】
こうして得られたガラス組成物は、種々の方法で所望する形態に成形することができる。例えば、ボールミルで粉砕したり、適宜篩いがけ(分級)したりすることによって、所望するレーザー回折・散乱法に基づく平均粒径(例えば0.1μm〜10μm)の粉末状ガラス組成物を得ることができる。また、得られた粉末状ガラス組成物に対して、水を適量加えて上記と同様のボールミルを用いて混合する。その後、所定時間の乾燥処理を実施することにより、本発明に係る粉末状の多孔質化接合材を得ることができる。
【0049】
上記のようにして得られた粉末状の多孔質化接合材は、従来の接合材と同様に、典型的にはペースト状(スラリー状)に調製されて、接合対象の接続部分(被接合部分)に塗布することができる。例えば、得られた上記多孔質化接合材に適当なバインダーや溶媒を混合してペーストを調製することができる。なお、ペーストに用いられるバインダー、溶媒および他の成分(例えば分散剤)は、特に限定されるものではなく、ペースト製造において従来公知のものから適宜選択して用いることができる。
【0050】
例えば、バインダーの好適例としてセルロースまたはその誘導体が挙げられる。具体的には、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩が挙げられる。バインダーは、ペースト全体の5〜20質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0051】
また、ペースト中に含まれ得る溶媒としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、または他の有機溶剤が挙げられる。好適例としてエチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ターピネオール等の高沸点有機溶媒またはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。ペーストにおける溶媒の含有率は、特に限定されないが、ペースト全体の1質量%〜40質量%程度が好ましい。
【0052】
ここで開示される多孔質化接合材は、接合の際の焼成処理を酸化条件下(例えば空気中)で行うこと以外は従来のこの種の接合材料と同様に用いることができる。具体的には、接合対象であるSOFC(例えば空気極及び/又は燃料極)と接続部材の被接合部分を相互に接触・接続し、当該接続した部分にペースト状に調製された多孔質化接合材を塗布する。そして、かかる塗布物を適当な温度(典型的には60℃〜100℃、例えば80℃±10℃)で乾燥させる。次いで、十分な焼結が行われる適当な温度域で焼成することにより、SOFCと接続部材との接続(連結)部分に上記接合材からなる接合部が形成される。かかる接合部は、ガラスマトリックス中の造孔成分が酸化されて消失することにより、多孔質化する。そのため、ガス流通性のよいガラス主体接合部(多孔質ガラス接合部)が形成され得る。また、接合部は、ガラスマトリックスに微細な孔が生じた構成となるため、単なるガラス粉末の焼結体(即ちガラス粒子が集結することによって多孔質状となったもの)に比べて、接着点(面積)が大きくなる。そのため、長期にわたって高い接合強度(接着力)が保持され、接合部における接合材の剥がれが好ましく防止される。従って、本構成によると、当該接合部の耐久性に優れるSOFCを提供することができる。
【0053】
ここで、上記焼成処理は、上記多孔質化接合材のガラスマトリックス中に混在する造孔成分(炭化ケイ素(SiC)結晶及び/又は窒化ケイ素(Si)結晶)が酸化されて消失する反応(典型的には酸化分解反応)が起こる酸化条件下で行うことが重要である。かかる焼成工程における酸化条件としては特に制限されない。例えば、大気中であってもよいし、大気よりも酸素がリッチな酸素ガス雰囲気中であってもよい。あるいは、その他の酸化性ガスを含む混合ガス雰囲気中であってもよい。このような酸化雰囲気下で焼成することにより、ガラスマトリックス中に混在する造孔成分が酸化されて消失し、その跡が気孔になる。このことによって接合部を多孔質化することができる。
【0054】
上記焼成工程における焼成温度としては、上記ガラスマトリックス中に混在する造孔成分が酸化されて消失する反応が進行する温度域であって、かつ、ガラスが流出しない温度域(例えばSOFC使用温度域が700℃〜1000℃の場合、典型的には800℃〜1200℃)であればよく、通常は800℃〜1000℃(例えば850℃±50℃)で焼成することが好適である。また、焼成時間は、上記ガラスマトリックス中に混在する造孔成分が酸化されて消失する反応が十分に進行するまでの時間とすればよく、通常は30分〜1時間程度とすれば十分である。このようにして、SOFCと接続部材との接続(連結)部分に上記接合材からなる接合部(多孔質ガラス接合部)を形成することができる。なお、上記焼成処理によってガラスマトリックス中に混在する全ての造孔成分が酸化消失することが好ましいが、一部の造孔成分が酸化消失することなく多孔質ガラス接合部中に残存していてもよい。
【0055】
以上のような多孔質化接合材を好ましく適用することができるSOFCについて説明する。かかる多孔質化接合材は、種々の構造のSOFC(例えば、従来公知の平板型(Planar)、円筒型(Tubular)、あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰したフラットチューブラー(Flat tubular)型等)に対して好ましく適用することができ、SOFCの形状またはサイズに特に限定されない。
【0056】
また、ここで開示される多孔質化接合材を適用可能なSOFCが備える固体電解質としては、酸化(空気)雰囲気および還元(燃料ガス)雰囲気のいずれにおいても酸素イオン伝導性が高く、ガス透過性の無い緻密な層を形成できる材料から構成されることが好ましく、特にジルコニア系酸化物からなる固体電解質が好適である。このようなジルコニア系酸化物として、典型的にはイットリア(Y)で安定化したジルコニア(YSZ)が用いられる。その他、カルシア(CaO)で安定化したジルコニア(CSZ)、スカンジア(Sc)で安定化したジルコニア(SSZ)等が挙げられる。
【0057】
また、かかるSOFCが備える燃料極および空気極は、従来のSOFCと同様でよく特に制限はない。例えば、燃料極としてはニッケル(Ni)とYSZのサーメット、ルテニウム(Ru)とYSZのサーメット等が好適に採用される。空気極としてはランタンコバルトネート(LaCoO)系やランタンマンガネート(LaMnO)系のペロブスカイト型酸化物が好適に採用される。これら材質からなる多孔質体をそれぞれ燃料極および空気極として使用することが好ましい。
【0058】
また、上記のような電極および固体電解質を備えるSOFCと接合される接続部材としては特に限定されない。SOFC(典型的には単セルを複数個備えたスタックとしてのSOFC)、または該SOFCに種々のシステム構成部材(例えばガス管)が付設されてなるSOFCシステムを構築および使用するために該SOFCと連結する必要のある部材であれば、接合対象として特に制限されず、上記多孔質化接合材により上記SOFCと接合させることができる。また、接合される部分同士の熱膨張係数が互いに比較的大きな差異(例えば凡そ1×10−6−1程度)を有している場合でも、SOFC(またはSOFCシステム)の構造全体での熱膨張係数が上記多孔質化接合材と同程度であれば、かかる接合される部分同士を、該多孔質化接合材を用いて好ましく接合することができる。
【0059】
ここで開示される多孔質化接合材は、複数の単セルを並列に配置するタイプのSOFCスタックにおいて、互いに隣接する単セル同士の接合に好適に用いることができる。単セル同士が上記多孔質化接合材により接合された接合部を備えるSOFCの構成として、例えば、図1に模式的に示されるようなSOFC100が挙げられる。即ち、図1に示されるように、かかるSOFC100は、平板状の固体電解質12の一方の面に多孔質な空気極14、他方の面に多孔質な燃料極16が形成されている2つの単セル10A、10Bが並列に配置されている。各セル10A、10Bは、互いの燃料極16同士が対向するように一定の隙間(開口)をあけて配置され、かかる一定の隙間には燃料ガス(水素供給ガス)流路4が形成されている。該SOFC100では、対向配置された各セル10A、10Bが備える燃料極同士16が上記多孔質化接合材20により接合されて接合部(20)を形成していることが好ましい。
【0060】
上記多孔質化接合材20を付与することにより、燃料ガス(水素供給ガス)流路4内部のガスの流通を妨げることなく、対向配置されたセル10A、10B同士を接合、連結させることができる。このような接合により形成された多孔質な接合部20によれば、燃料ガス流路4内部のガスの流通が妨げられないので、各セル10A、10Bが備える燃料極16に対して十分なガスを供給でき、結果、発電効率のよいSOFC100が得られる。また、互いに隣接するSOFC100間においても、接合部20によってガス流通が妨げられないため、矢印15で示すような効率的なガス交換が可能になる。
さらに、かかる接合部(20)は、ガラスマトリックス中に少なくともリューサイト結晶が析出している多孔質ガラスにより構成され、熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1である。そのため、例えば800℃以上での高温域に曝されても高い機械的強度が保持され、耐熱性と電池特性に優れた高性能のSOFCを実現することができる。なお、図示した構成に限定されず、各セル10A、10Bの空気極14同士を対向するように配置し、該空気極14同士を上記多孔質化接合材20により接合することもできる。また、SOFCを構成するセル数も2つに限らず、もっと多くてもよい。この場合、複数の単セルは、それぞれの空気極14同士および燃料極16同士が対向配置されるように一つずつ反転して配置され、該空気極14同士および燃料極16同士が上記多孔質化接合材20により好ましく接合され得る。
【0061】
また、ここで開示される多孔質化接合材は、強度不足等により加圧シールや拡散接合による接合が困難な接合対象についても好ましく接合させ得る。例えば、燃料極を支持基材として該燃料極上に薄膜状(例えば膜厚が100μm以下の膜状)に形成された固体電解質を備えた構成のアノード支持形SOFCに対しても好適に適用することができる。かかるアノード支持形SOFCの構造としては、例えば、図2に模式的に示されるSOFC30が挙げられる。図2に示されるように、SOFC30は、多孔質な燃料極36と、該燃料極36の一方の表面に積層された緻密な固体電解質膜32と、該固体電解質膜32上に積層された多孔質な空気極34とを備えている。また、かかるSOFC30は、該SOFC30に空気および燃料ガスをそれぞれ供給するために、上記空気極34側に配置された空気を供給するための空気供給用ガス管54、および上記燃料極36側に配置された燃料ガスを供給するための燃料ガス供給用ガス管56と接合し、該SOFC30とガス管54,56とを備えたSOFCシステム200を構築していてもよい。該システム200では、上記固体電解質膜32とガス管(接続部材)54、および燃料極36とガス管(接続部材)56とが上記多孔質化接合材40により接合されて接合部(40)を形成していることが好ましい。
【0062】
上記多孔質化接合材40を付与することにより、ガス管54,56内部のガスの流通を妨げることなく、ガス管54,56とSOFC30とを接合、連結させることができる。このような接合により形成された多孔質な接合部40によれば、ガス管54,56内部のガスの流通が妨げられないので、燃料極36及び空気極34に対して十分なガスを供給でき、結果、発電効率のよいSOFCシステム200が得られる。
また、かかる接合部(40)は、ガラスマトリックス中に少なくともリューサイト結晶が析出している多孔質ガラスにより構成され、熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1である。そのため、例えば800℃以上での高温域に曝されても高い機械的強度が保持され、耐熱性と電池特性に優れた高性能のSOFCシステムを実現することができる。なお、上記ガス管54,56の材質は特に制限されないが、例えば固体電解質32と同質材料であるYSZ等のジルコニア系酸化物の緻密体から形成されている場合には、上記接合材により固体電解質32と接合させ易く、好適に用いることができる。ガス管の形状、サイズについては、連結されるSOF30Cのサイズや接合部分の大きさに合わせて適宜設定され得る。
【0063】
なお、上記接合部の気孔率としては特に限定されないが、例えば35%〜50%にすることが適当である。この範囲よりも気孔率が小さすぎると、多孔質化された接合部に十分なガス透過性を付与できない場合があり好ましくない。一方、この範囲よりも気孔率が大きすぎると、多孔質化された接合部の接合強度(接着力)が低下し、接合部の一部に剥がれが生じる可能性がある。したがって、接合部の気孔率は、概ね35%〜50%にすることが好ましく、例えば40%〜50%にすることがより好ましい。
【0064】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。以下の実施例は、本発明によって提供される多孔質化接合材の性能評価を主な目的とするため、実際のSOFCに代えて燃料極(アノード)と空気極(カソード)とを多孔質化接合材で接合してなる供試体を作製した。
【0065】
<燃料極の作製>
3mol%〜8mol%イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末(平均粒径:約1μm)および酸化ニッケル(NiO)粉末に一般的なバインダー(ここではポリビニルアルコール(PVA)を使用した。)、および溶媒(ここでは水)を添加して混練した。次いで、この混練物(スラリーまたはペースト状の燃料極用成形材料)を用いてシート成形を行い、直径20mm×厚み1mm程度の円板形状の燃料極を得た。
【0066】
<空気極の作製>
LaSrO粉末(平均粒径:約1μm)に一般的なバインダー(ここでは、エチルセルロースを用いた。)、および溶媒(ここではターピネオールを用いた。)を添加して混練した。次いで、この混練物(ペースト状の空気極用成形材料)を用いてシート成形を行い、直径20mm×厚み1mm程度の円板形状の空気極を得た。
【0067】
<多孔質化接合材の作製>
以下に示すプロセスに従って、SiCの添加量の異なる多孔質化接合材(サンプル1〜6)を作製した。
まず、平均粒径が約1μm〜10μmであるSiO粉末、Al粉末、NaCO粉末、KCO粉末、MgCO粉末、CaCO粉末およびB粉末を、それぞれ以下の配合比、即ち酸化物換算でSiOが67.0質量%、Alが13.9質量%、NaOが8.5質量%、KOが9.1質量%、MgOが0.6質量%、CaOが0.6質量%、Bが0.1質量%となるような配合比で混合し、ガラス原料粉末を得た。次いで、このガラス原料粉末を1000℃〜1500℃の温度域(ここでは1450℃)で溶融してガラス(ガラス質中間体)を形成した。得られたガラスを平均粒径として2μm程度になるまで粉砕してガラス(ガラス質中間体)粉末を作製した。
【0068】
造孔成分としてのSiC粉末(平均粒径:約1μm)を用意し、上記ガラス(ガラス質中間体)粉末100質量部に対して15〜45質量部の範囲内で添加量を変え、SiC粉末を各添加量で上記ガラス(ガラス質中間体)粉末に添加し、十分に混合した。このときの混合粉末のレーザー回折・散乱法に基づく平均粒径は2μm程度であった。このようにして、SiC粉末の添加量が異なる組成の混合粉末を6種類調製した。
【0069】
上記6種類の混合粉末を酸素分圧が約0.001atmの減圧雰囲気下、800℃〜1000℃の温度域(ここでは850℃±50℃)で30分〜60分間加熱する結晶化処理を実施し、SiC結晶が混在するガラスマトリックス中にリューサイト結晶とクリストバライト(SiO)結晶が析出したガラスを調製した。次いで、得られたガラスを粉砕し、分級を行って、平均粒径約2μmの粉末状の多孔質化接合材を得た。各サンプル1〜6のガラス粉末に添加されたSiC粉末の添加量(含有量)を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
また、サンプル7〜11では、各ガラス原料粉末の配合比を変えて多孔質化接合材を作製した。具体的には、酸化物換算でSiOが49.0質量%、Alが17.0質量%、NaOが15.0質量%、KOが15.0質量%、MgOが2.0質量%、CaOが1.0質量%、Bが1.0質量%となるような配合比でガラス原料粉末を混合した。また、表2に示すような添加量(含有量)でSiC粉末を添加し、それぞれ多孔質化接合材を作製した。各ガラス原料粉末の配合比とSiC粉末の添加量を変えたこと以外はサンプル1〜6と同様にして多孔質化接合材を作製した。
【0072】
【表2】

【0073】
<接合処理>
上記11種類(サンプル1〜11)の多孔質化接合材を用いて接合処理を行った。具体的には、上記多孔質化接合材40質量部に、一般的なバインダー(ここではエチルセルロースを使用した。)3質量部と、溶剤(ここではターピネオールを使用した。)47質量部とを混合し、表1のサンプル1〜11に対応する計11種類のペースト状多孔質化接合材を作製した。そして、該ペースト状多孔質化接合材を、上記作製した燃料極(アノード)と空気極(カソード)との対向する部位に塗布して張り合わせた。そして80℃で乾燥後、酸化雰囲気下(ここでは大気中)で1000℃の温度域で30分間保持(焼成)した。結果、張り合わされた燃料極(アノード)と空気極(カソード)の対向する部位に接合部が形成された供試体を得た。
【0074】
上記得られた計11種類の供試体の接合部分の断面を電子顕微鏡(SEM)によって観察した。その結果、何れのサンプルを用いた場合もガラス断面に多数の気孔が生じており、接合部が多孔質化していることが確認できた。図3に、サンプル3で得られた供試体の接合部分の断面SEM像を示してある。また、各サンプルのペーストを使用して得られる接合部の気孔率を測定した。その結果を表1及び表2の該当箇所に示す。何れのサンプルを用いた場合も気孔率は概ね40%〜50%の範囲となった。なお、上記気孔率の測定は、島津製作所社製のオートポアIV装置を用いて行った。
【0075】
さらに、表1及び表2には、各サンプルのペーストを使用して得られる接合部の熱膨張係数(但し室温(25℃)から450℃の間の熱膨張の平均値)を示している。なお、ここで使用した燃料極(アノード)及び空気極(カソード)の同条件での熱膨張係数は11〜13×10−6−1であった。
【0076】
上記供試体の接合部分の表面を電子顕微鏡(SEM)によって観察した。その結果、接合部の熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1であるサンプル2〜5及びサンプル8〜10については、ガラス溶出及びクラックのない良好な多孔質接合表面が観察された。他方、熱膨張係数が8×10−6−1未満であるサンプル6及びサンプル11については、多孔質接合表面にガラス溶出及びクラックが観察された。また、接合部位において接合材の一部に剥がれが認められた。また、熱膨張係数が8×10−6−1〜9×10−6−1であるサンプル1及びサンプル7については、ガラス溶出及びクラックのない接合表面が観察されたものの、接合部位において濡れ不良が生じており、結果、接合材の一部に剥がれが認められた。
【0077】
上述のように、本発明によると、ガラスマトリックス中に造孔成分としてのSiC結晶を含有する多孔質化接合材を用いることによって、ガス流通性のよい多孔質な接合部を形成することができる。特にSiCの添加量を20質量%〜45質量%に調製して接合部の熱膨張係数を9×10−6−1〜12×10−6−1にすることにより、ガラス溶出及びクラックを生じさせることのない良好な多孔質接合表面を形成することができる。そのため、機械的強度に優れる高耐久性のSOFC(単セル、スタック)を提供することができる。
【符号の説明】
【0078】
4 燃料ガス流路
10A、10B 単セル
12 固体電解質
14 空気極
16 燃料極
20 多孔質化接合材(接合部)
32 固体電解質
34 空気極
36 燃料極
40 多孔質化接合材
54 空気供給用ガス管
56 燃料ガス供給用ガス管
100 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
200 固体酸化物形燃料電池(SOFC)システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池に用いられる接合材であって、
酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40質量%〜75質量%;
Al 10質量%〜20質量%;
NaO 7質量%〜20質量%;
O 7質量%〜20質量%;
MgO 0質量%〜3質量%;
CaO 0質量%〜3質量%;
0質量%〜3質量%;
から実質的に構成されるガラスマトリックスと、
該ガラスマトリックス中に析出するリューサイト結晶と、
該ガラスマトリックス中に混在する炭化ケイ素結晶及び/又は窒化ケイ素結晶からなる造孔成分と、
を含有し、
熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1となるように調製されている、
固体酸化物形燃料電池に用いられて多孔質のガラス接合部を形成するための接合材。
【請求項2】
前記造孔成分の含有率は、上記ガラスマトリックス100質量部に対して15質量部〜45質量部である、請求項1に記載の接合材。
【請求項3】
固体酸化物形燃料電池に用いられる接合材を製造する方法であって:
酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40質量%〜75質量%;
Al 10質量%〜20質量%;
NaO 7質量%〜20質量%;
O 7質量%〜20質量%;
MgO 0質量%〜3質量%;
CaO 0質量%〜3質量%;
0質量%〜3質量%;
から実質的に構成され、熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1となるように調製されたガラス粉末にSiC粉末及び/又はSi粉末を添加して前記ガラスと前記SiC及び/又はSiとの混合粉末を調製すること;および、
前記混合粉末を非酸化雰囲気下で結晶化処理することにより、SiC結晶及び/又はSi結晶が混在するガラスマトリックス中に少なくともリューサイト結晶を析出させること;
を包含する、製造方法。
【請求項4】
前記SiC粉末及び/又はSi粉末を、前記ガラス粉末100質量部に対して15質量部〜45質量部の割合で添加する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記結晶化処理として、前記混合粉末を800℃〜1000℃の温度域で加熱する、請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
燃料極と、空気極と、固体電解質とを備える単数または複数のセルからなる固体酸化物形燃料電池であって、
該セル同士の接合部あるいは該セルと所定の接続部材との接合部が、多孔質ガラスであってガラスマトリックス中に少なくともリューサイト結晶が析出している多孔質ガラスにより構成されており、
該接合部の熱膨張係数が9×10−6−1〜12×10−6−1である、固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
前記接合部のガラスマトリックスは、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40質量%〜75質量%;
Al 10質量%〜20質量%;
NaO 7質量%〜20質量%;
O 7質量%〜20質量%;
MgO 0質量%〜3質量%;
CaO 0質量%〜3質量%;
0質量%〜3質量%;
から実質的に構成されている、請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
前記接合部の気孔率が35%〜50%である、請求項6又は7に記載の固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−222191(P2011−222191A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87900(P2010−87900)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】