説明

固体酸化物形燃料電池の製造方法

【課題】電解質層を構成する金属酸化物膜の緻密化を容易に行うことができる固体酸化物形燃料電池の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の固体酸化物形燃料電池(10)の製造方法は、多孔質電極層(11)と、多孔質電極層(11)上に形成された金属酸化物膜(12)からなる電解質層とを含む固体酸化物形燃料電池(10)の製造方法であって、金属源を含む金属酸化物膜形成用ゾルを、加熱した多孔質電極層(11)上に接触させることにより金属酸化物膜(12)を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質電極層と、多孔質電極層上に形成された金属酸化物膜からなる電解質層とを含む固体酸化物形燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、現在、第三世代の発電用燃料電池として開発が進んでおり、円筒型、モノリス型及び平板積層型の3種類が提案されている。そのいずれもが、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質(電解質層)を空気極層(カソード)と燃料極層(アノード)との間に挟んだ積層体を有する。通常、この積層体からなる単セルがセパレータと交互に積層されて、燃料電池スタックが構成されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
固体酸化物形燃料電池では、空気極層側に酸素(空気)が、燃料極層側に燃料ガス(H2、CO、CH4等)が供給される。空気極層及び燃料極層は、ガスが電解質層との界面に到達することができるように、いずれも多孔質の層からなる。空気極層側に供給された酸素は、空気極層内の気孔を通って電解質層との界面近傍に到達し、この部分で空気極層から電子を受け取って酸化物イオン(O2-)にイオン化される。この酸化物イオンは、燃料極層の方向に向かって電解質層内を移動(拡散)する。そして、燃料極層との界面近傍に到達した酸化物イオンは、この部分で燃料ガスと反応して反応生成物(H2O、CO2等)となり、同時に電子を放出する。この電子は、外部電気回路を通って電気的な仕事をした後、空気極層に到達する。
【0004】
空気極層側で起こる電極反応、即ち酸素分子から酸化物イオンへのイオン化反応(1/2O2+2e-→O2-)は、酸素分子、電子及び酸化物イオンの三者が関与することから、酸化物イオンを運ぶ電解質層と、電子を運ぶ空気極層と、酸素分子を供給する気相(空気)との三相の界面で起こる。燃料極層側でも同様に、電解質層と、燃料極層と、気相(燃料ガス)との三相の界面で電極反応が起こる。従って、この三相の界面を増大させることが電極反応の円滑な進行に有利であると考えられている。
【0005】
電解質層は、酸化物イオンの移動媒体であると同時に、燃料ガスと空気とを直接接触させないための隔壁としても機能するので、ガス不透過性の緻密な構造となっている。この電解質層は、酸化物イオン伝導性が高く、空気極層側の酸化性雰囲気から燃料極層側の還元性雰囲気までの条件下で化学的に安定で、かつ、熱衝撃に強い材料から構成する必要があり、かかる要件を満たす材料として、イットリアを添加した安定化ジルコニア(以下、「YSZ」と略称する)等からなる金属酸化物膜が一般的に使用されている。
【0006】
一方、空気極層及び燃料極層は、いずれも電子伝導性の高い材料から構成する必要がある。空気極層の材料は、1000℃前後の酸化性雰囲気中で化学的に安定でなければならないため、金属は不適当であり、例えば電子伝導性を持つペロブスカイト型酸化物材料、具体的にはLaMnO3やLaCoO3、又は、これらの材料におけるLaの一部をSr、Ca等に置換した固溶体が一般に使用されている。また、燃料極層の材料としては、Ni等の金属や、Ni−YSZ等のサーメットが一般に使用されている。尚、Ni等の金属は、燃料極層の形成時には、通常、NiO等の酸化物の状態であるが、燃料電池の運転時(発電時)には金属(Ni等)に還元される。
【0007】
この種の固体酸化物形燃料電池としては、例えば一方の電極層(燃料極層又は空気極層)を兼ねる多孔質支持基板上に、薄膜状の電解質層と他方の電極層(燃料極層又は空気極層)とを順次形成したものがある(例えば特許文献2参照)。電解質層がガスの隔壁としての機能を果たすには、緻密に形成されていることが望ましく、また、電解質層がイオン伝導膜としての機能を果たすには、その膜厚をより薄くすることが望ましい。
【0008】
電解質層を形成する方法としては、例えば、多孔質支持基板上にスクリーン印刷法等によりスラリーを塗布し、これを焼成して電解質層を形成する方法がある。この方法では、一般的に1200〜1700℃で焼結を行うことにより緻密な電解質層を形成している。この際、基板と電解質層との熱収縮率の差を考慮して、基板の破損を防止し、かつ電解質層を緻密に形成することが重要である。例えば、特許文献3には、比表面積(平均粒径)の異なる複数種の粉末を含むスラリーを塗布することにより、電解質層を形成する方法が提案されている。この方法によれば、経済性や量産性が向上し、かつ電解質層の大面積化が容易となる。また、特許文献4には、均質で緻密な電解質層を形成することができるスラリーが提案されている。
【0009】
また、上記とは異なる方法として、特許文献5には、カルシアにより安定化させたジルコニアで基板を形成し、この基板の温度を1000〜1500℃まで加熱した状態で電気化学的蒸着法(EVD法)により電解質層を形成する方法が提案されている。これにより、緻密で膜厚が薄い電解質層を形成することができる。
【0010】
また、上記とは異なる別の方法として、多孔質支持基板上にプラズマ溶射法によって電解質層を成膜する方法がある。プラズマ溶射法は、成膜速度が速いという特徴がある。しかし、プラズマ溶射法により形成される膜は、通常、数体積%の気孔を有し、膜の緻密性が充分ではない。そこで、特許文献6には、電解質層をプラズマ溶射法で形成した後、電解質層の構成元素を含む有機金属溶液を塗布することにより、封孔処理をして緻密化する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−79332号公報
【特許文献2】特開2002−323362号公報
【特許文献3】特開2001−23653号公報
【特許文献4】特開2002−15757号公報
【特許文献5】特開昭61−91880号公報
【特許文献6】特開平9−50818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記方法では、例えば緻密性を向上させるための1000℃以上の熱処理工程や、プラズマ処理装置等の高価な設備が必要となるため、電解質層の緻密化を容易に行うことができなくなる可能性があった。特に、高温で熱処理する場合は、電極層と電解質層との熱収縮率の差によりクラックや剥離が生じ、セル自体が破損するおそれがあった。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、電解質層を構成する金属酸化物膜の緻密化を容易に行うことができる固体酸化物形燃料電池の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の固体酸化物形燃料電池の製造方法は、多孔質電極層と、前記多孔質電極層上に形成された金属酸化物膜からなる電解質層とを含む固体酸化物形燃料電池の製造方法であって、
金属源を含む金属酸化物膜形成用ゾルを、加熱した前記多孔質電極層上に接触させることにより前記金属酸化物膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の固体酸化物形燃料電池の製造方法によれば、金属源を含む金属酸化物膜形成用ゾルを、加熱した多孔質電極層上に接触させることにより金属酸化物膜を形成するため、例えば高温での熱処理を行わなくても金属酸化物膜の緻密化を容易に行うことができる。これにより、例えば固体酸化物形燃料電池の製造工程をより簡便にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】A〜Cは、本発明の一実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法を示す概略工程図である。
【図2】本発明の参考例1で形成された電解質層の断面SEM写真である。
【図3】電池性能の評価方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の固体酸化物形燃料電池の製造方法では、金属源を含む金属酸化物膜形成用溶液又は金属酸化物膜形成用ゾルを、加熱した多孔質電極層上に接触させることにより金属酸化物膜を形成する。これにより、例えば1000℃以上の高温での熱処理工程が不要となり、金属酸化物膜の緻密化を容易に行うことができるため、製造工程をより簡便にすることができる。
【0018】
上記金属源としては、上記金属酸化物膜を構成する金属を含むものであればよい。例えば、金属塩、金属イオンに対して無機物又は有機物が配位した金属錯体、分子中に金属−炭素結合を有する有機金属化合物等を使用することができる。上記金属源は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0019】
上記金属源を構成する金属元素としては、所望の金属組成の金属酸化物膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、Ca、Cr、Sr、Nb、Mo、Sb、Te、Ba、W、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ga及びTaから選ばれる少なくとも一つの金属元素であることが好ましい。上記金属元素は、プールベ線図において、金属酸化物として存在する領域(以下、「金属酸化物領域」という)、又は金属水酸化物として存在する領域(以下、「金属水酸化物領域」という)を有しているため、金属酸化物膜の主用構成元素として適している。更に好ましくは、電解質材料として広く知られているZr、Ce、Laが適している。上記金属源(1種又は複数種)は、上記金属元素を2種類以上含有していてもよい。通常、固体酸化物形燃料電池用の電解質層には、複数種の金属元素が使用されている。
【0020】
上記金属塩としては、上記金属元素を含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩を使用することが好ましい。これらの化合物は汎用品として入手が容易だからである。
【0021】
また、上記金属錯体や上記有機金属化合物の具体例としては、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、クロム(III)アセチルアセトナート、トリフルオロメタンスルホン酸ガリウム(III)、ストロンチウムジピバロイルメタナート、五塩化ニオブ、モリブデニルアセチルアセトナート、パラジウム(II)アセチルアセトナート、塩化アンチモン(III)、テルル酸ナトリウム、塩化バリウム二水和物、塩化タングステン(IV)、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムジ(メトキシエトキシド)、グルコン酸カルシウム一水和物、クエン酸カルシウム四水和物、サリチル酸カルシウム二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物、ジシクロペンタジエニル鉄(II)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛、ストロンチウムジピバロイルメタナート、イットリウムジピバロイルメタナート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、トリシクロヘキシルすず(IV)ヒドロキシド、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、タンタル(V)エトキシド、セリウム(III)アセチルアセトナート、クエン酸鉛(II)三水和物、シクロヘキサン酪酸鉛等を挙げることができる。中でも、入手が容易で扱いやすい点から、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、ストロンチウムジピバロイルメタナート、ペンタエトキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、セリウム(III)アセチルアセトナートを使用することが好ましい。
【0022】
上記金属源を適宜選択することによって、例えば、固体酸化物形燃料電池用の電解質材料として広く知られている酸化ジルコニウム、酸化セリウム及び酸化ランタンから選ばれる少なくとも一つを含む複合金属酸化物から構成された金属酸化物膜を形成することができる。このような金属酸化物膜の具体例としては、YSZ、スカンジア安定化ジルコニア(以下、「ScSZ」と略称する)、サマリアドープドセリア(以下、「SDC」と略称する)、ガドリニウムドープドセリア(以下、「GDC」と略称する)、ランタン・ガレード等からなる金属酸化物膜が挙げられる。また、上記複合金属酸化物は、酸化物イオン伝導性の観点から、蛍石型又はペロブスカイト型の結晶構造を有することが好ましい。固体内をイオンが移動するためには、この固体が格子欠陥を有することが必要となる。即ち、イオン伝導性の固体内では、イオンが格子欠陥と位置を交換しながら移動(拡散)する。蛍石型又はペロブスカイト型の結晶構造を有する金属酸化物は、格子欠陥を有していても、安定な構造を維持することができる。
【0023】
上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる溶媒は、上述した金属源を溶解することができるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、水、トルエン、これらの混合溶媒等を使用することができる。また、本発明においては、上記溶媒を組み合わせて使用してもよい。例えば、水への溶解性は低いが有機溶媒への溶解性は高い金属錯体と、有機溶媒への溶解性は低いが水への溶解性は高い材料(例えば後述する還元剤)とを使用する場合は、水と有機溶媒との混合溶媒を使用して両者を溶解させ、均一な金属酸化物膜形成用溶液とすることができる。
【0024】
上記金属酸化物膜形成用溶液における上記金属源の濃度としては、通常0.001〜10mol/リットルであり、中でも0.01〜1mol/リットルであることが好ましい。濃度が0.001mol/リットル未満であると、金属酸化物膜の成膜反応が起こり難く、所望の金属酸化物膜を得ることができない可能性があり、濃度が10mol/リットルを超えると、沈殿物が生成する可能性があるからである。
【0025】
本発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、酸化剤及び還元剤から選ばれる少なくとも一つを更に含んでいてもよい。金属酸化物膜の成膜反応を促進させることができるからである。例えば、上記金属酸化物膜形成用溶液に酸化剤が含まれていると、上記金属源が溶解してなる金属イオン等の酸化が速やかに行われるため、金属酸化物膜の成膜反応が促進する。また、例えば、上記金属酸化物膜形成用溶液に還元剤が含まれていると、この還元剤が分解して電子を放出することにより、水(溶媒)の電気分解反応を誘発すると考えられる。水の電気分解反応が起こると水酸化物イオンが発生し、これにより金属酸化物膜形成用溶液のpHが上昇し、プールベ線図における金属酸化物領域又は金属水酸化物領域へとシフトするため、金属酸化物膜の成膜反応が促進する。
【0026】
上記酸化剤としては、上述した溶媒に溶解し、かつ上記金属源が溶解してなる金属イオン等を酸化することができるものであれば特に限定されず、例えば、過酸化水素、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、酸化銀、二クロム酸、過マンガン酸カリウム等が挙げられ、中でも過酸化水素、亜硝酸カリウムを使用するのが好ましい。
【0027】
上記金属酸化物膜形成用溶液における上記酸化剤の濃度は、酸化剤の種類に応じて異なるが、通常0.001〜1mol/リットルであり、中でも0.01〜0.1mol/リットルであることが好ましい。濃度が0.001mol/リットル未満であると、金属酸化物膜の成膜反応を促進させる効果を充分に発揮することができない可能性があり、濃度が1mol/リットルを超えると、濃度の増加に見合う効果が得られず、コスト上好ましくないからである。
【0028】
上記還元剤としては、上述した溶媒に溶解し、かつ分解反応により電子を放出することができるものであれば、特に限定されず、例えば、ボラン−tert−ブチルアミン錯体、ボラン−N,Nジエチルアニリン錯体、ボラン−ジメチルアミン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体等のボラン系錯体、水酸化シアノホウ素ナトリウム、水酸化ホウ素ナトリウム等を挙げることができ、中でもボラン系錯体を使用することが好ましい。
【0029】
上記金属酸化物膜形成用溶液における上記還元剤の濃度は、還元剤の種類に応じて異なるが、通常0.001〜1mol/リットルであり、中でも0.01〜0.1mol/リットルであることが好ましい。濃度が0.001mol/リットル未満であると、金属酸化物膜の成膜反応を促進させる効果を充分に発揮することができない可能性があり、濃度が1mol/リットルを超えると、濃度の増加に見合う効果が得られず、コスト上好ましくないからである。
【0030】
また、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、補助イオン源や界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0031】
上記補助イオン源は、電子と反応し水酸化物イオンを発生するものであり、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させ、金属酸化物膜の成膜反応を促進させることができる。これは、プールベ線図において、金属酸化物領域や金属水酸化物領域へと誘導する働きのことである。従って、上記補助イオン源は、熱で分解して電子を放出する還元剤と組み合わせることで効果を発揮するが、金属酸化物膜形成用溶液に還元剤が含まれていなくても、加熱により酸素と分離するため、単独で酸化剤としても使用できる。なお、上記補助イオン源の使用量は、使用する金属源等に応じて適宜設定すればよい。
【0032】
このような補助イオン源としては、具体的には、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、次亜臭素酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン等のイオン種を挙げることができる。これらの補助イオン源は、溶液中で下記の反応を起こすと考えられている。
【0033】
(化1) ClO4- + H2O + 2e- ⇔ ClO3- + 2OH-
(化2) ClO3- + H2O + 2e- ⇔ ClO2- + 2OH-
(化3) ClO2- + H2O + 2e- ⇔ ClO- + 2OH-
(化4) 2ClO- + 2H2O + 2e- ⇔ Cl2 + 4OH-
(化5) BrO3- + 2H2O + 4e- ⇔ BrO- + 4OH-
(化6) 2BrO- + 2H2O + 2e- ⇔ Br2 + 4OH-
(化7) NO3- + H2O + 2e- ⇔ NO2- + 2OH-
(化8) NO2- + 3H2O + 3e- ⇔ NH3 + 3OH-
【0034】
上記界面活性剤は、多孔質電極層表面に対する金属酸化物膜形成用溶液の濡れ性を向上させ、金属酸化物膜の成膜反応を促進させることができる。このような界面活性剤としては、具体的にはサーフィノール485、サーフィノールSE、サーフィノールSE−F、サーフィノール504、サーフィノールGA、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104PPM、サーフィノール104E、サーフィノール104PA等のサーフィノールシリーズ(以上、全て日信化学工業社製商品名)、NIKKOL AM301、NIKKOL AM313ON(以上、全て日光ケミカル社製商品名)等を挙げることができる。なお、上記界面活性剤の使用量は、使用する金属源等に応じて適宜設定すればよい。
【0035】
上記金属酸化物膜形成用ゾルの溶媒としては、金属源を加水分解できる溶媒が好ましく、例えばエタノール等のアルコールを含む溶媒が好ましい。上記金属酸化物膜形成用ゾルのその他の条件(例えば添加剤等)については、上記金属酸化物膜形成用溶液と同様である。なお、加水分解される金属源としては、上記金属酸化物膜を構成する金属を含む金属アルコキシドが好ましい。
【0036】
上記多孔質電極層として燃料極層を用いる場合、燃料極層の材料には、例えば、セラミックス粉末材料等の酸化物イオン伝導体と金属触媒との混合物を用いることができる。酸化物イオン伝導体としては、蛍石型又はペロブスカイト型の結晶構造を有するものを好ましく用いることができる。蛍石型の結晶構造を有するものとしては、例えばサマリウムやガドリニウム等をドープしたセリア系酸化物、スカンジウムやイットリウムを含むジルコニア系酸化物等を挙げることができる。また、ペロブスカイト型の結晶構造を有するものとしてはストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物を挙げることができる。金属触媒を構成する金属としては、還元性雰囲気中で安定であり、かつ、水素酸化活性を有する材料を用いることができ、例えば、ニッケル、鉄、コバルト等や、貴金属(白金、ルテニウム、パラジウム等)等が使用できる。上記金属の中では、水素酸化の活性が高いニッケルが好ましい。よって、酸化物イオン伝導体とニッケルとの混合物で燃料極層を形成することが好ましい。なお、酸化物イオン伝導体からなるセラミックス粉末材料とニッケルとの混合物は、両者を単に混ぜ合わせただけのものであってもよいし、セラミックス粉末をニッケルへ修飾させたものであってもよい。また、上述したセラミックス粉末材料は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。また、燃料極層は、金属触媒のみから構成することもできる。なお、燃料極層の気孔率は、通常20〜50体積%であり、望ましくは30〜40体積%である。また、燃料極層の厚みは、通常5〜50μmである。
【0037】
また、上記多孔質電極層として空気極層を用いる場合、空気極層の材料としては、例えば、ペロブスカイト型の結晶構造を有する金属酸化物を用いることができる。具体的には(Sm,Sr)CoO3、(La,Sr)MnO3、(La,Sr)CoO3、(La,Sr)(Fe,Co)O3、(La,Sr)(Fe,Co,Ni)O3等の金属酸化物が挙げられ、酸化性雰囲気下の安定性の観点から(La,Sr)MnO3を使用することが好ましい。上述した金属酸化物は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。また、空気極層を形成する材料として、白金、ルテニウム、パラジウム等の貴金属を使用することもできる。なお、空気極層の気孔率は、通常20〜50体積%であり、望ましくは30〜40体積%である。また、空気極層の厚みは、通常5〜50μmである。
【0038】
上記多孔質電極層は、それ自体を金属酸化物膜の形成用の支持基板として使用してもよいし、多孔質な支持基板上に電極層の材料をコーティングしたものを多孔質電極層とし、これを金属酸化物膜の形成用の支持基板として使用してもよい。多孔質な支持基板の材料としては、耐熱性セラミックスや耐熱性金属等を使用することができる。
【0039】
次に、本発明における多孔質電極層上への金属酸化物膜形成用溶液又は金属酸化物膜形成用ゾル(以下、これらを「金属酸化物膜形成液」という)の接触方法について説明する。本発明における上記接触方法は、特に限定されるものではないが、金属酸化物膜形成液と多孔質電極層とが接触した際に、多孔質電極層の温度を低下させない方法であることが好ましい。多孔質電極層の温度が低下すると成膜反応が起こり難くなり、所望の金属酸化物膜を得ることができなくなる可能性があるからである。多孔質電極層の温度を低下させない方法としては、例えば、金属酸化物膜形成液を液滴として多孔質電極層上に接触させる方法等が挙げられる。この際、上記液滴は、例えば0.001〜1000μm程度の小さい径を有することが好ましい。上記液滴の径が上記範囲内であれば、金属酸化物膜形成液の溶媒が瞬時に蒸発し、多孔質電極層の温度の低下を抑制することができる上、液滴の径が小さいことで、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0040】
金属酸化物膜形成液の液滴を多孔質電極層上に接触させる方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、金属酸化物膜形成液を噴霧することにより多孔質電極層上に上記金属酸化物膜形成液を接触させる方法や、金属酸化物膜形成液をミスト状にした空間の中に多孔質電極層を通過させることにより多孔質電極層上に上記金属酸化物膜形成液を接触させる方法等が挙げられる。なお、本発明における多孔質電極層上への金属酸化物膜形成液の接触方法は、金属酸化物膜形成液を液滴として多孔質電極層上に接触させる方法以外の方法であってもよい。例えば金属酸化物膜形成液の液面に、多孔質電極層表面を直に接触させてもよい。
【0041】
金属酸化物膜形成液を多孔質電極層上に噴霧する方法は、例えばスプレー装置等を用いて噴霧する方法等が挙げられる。上記スプレー装置等を用いて噴霧する場合、液滴の径は、通常0.001〜1000μm、中でも0.01〜100μmであることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、多孔質電極層の温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0042】
また、上記スプレー装置の噴射ガスとしては、金属酸化物膜の形成を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、酸素等を挙げることができ、中でも不活性な気体である窒素、アルゴン、ヘリウムが好ましい。また、金属酸化物膜形成液の噴射量としては、通常0.001〜1リットル/minであり、金属酸化物膜の緻密性をより向上させるためには、0.001〜0.05リットル/minであることが好ましい。この際、形成される金属酸化物膜の厚みは、繰り返し噴霧することによって任意に調整できる。本発明によって形成される金属酸化物膜では、多孔質電極層上に存在する領域の厚みは、通常10nm以上50μm以下であり、好ましくは10nm以上10μm以下であり、さらに好ましくは100nm以上5μm以下であり、最も好ましくは、100nm以上1μm以下である。上記厚みが10nm未満の場合、燃料極層と空気極層とが接触するおそれがある。一方、上記厚みが50μmを超えると、酸化物イオン伝導性が低下するおそれがある。また、上記スプレー装置は、固定されているもの、可動式のもの、回転によって上記溶液を噴射させるもの、圧力によって上記溶液を噴射させるもの等であってもよい。このようなスプレー装置としては、一般的に用いられるスプレー装置を用いることができ、例えばハンドスプレー(アズワン社製)、超音波ネプライザ(オムロン社製)等を用いることができる。
【0043】
本発明において、例えば上述した金属酸化物膜形成液を多孔質電極層上に噴霧する方法を用いて金属酸化物膜を形成すると、得られる金属酸化物膜が、その積層方向に結晶成長した柱状構造を有する結晶の集合体を含む。このような金属酸化物膜では、上記結晶が高密度に充填されているため、金属酸化物膜をより緻密化することができる。更に、酸化物イオンの拡散を妨げる粒界が減少するため、金属酸化物膜の酸化物イオン伝導性を向上させることもできる。上記効果を確実に発揮させるためには、上記結晶における上記金属酸化物膜の積層方向の結晶長さを、上記結晶における上記金属酸化物膜の積層方向と直交する方向の結晶径で除した値が、2以上となるように、材料や溶媒を選定することが好ましい。
【0044】
なお、本発明において形成される金属酸化物膜は、上記多孔質電極層の外表面だけでなく、上記多孔質電極層内の気孔を形成する壁面(以下、「内表面」という)の少なくとも一部を被覆していてもよい。例えば、上記多孔質電極層と上記金属酸化物膜との界面近傍に位置する上記多孔質電極層の表面層において、上記金属酸化物膜の一部が上記内表面の少なくとも一部を被覆していると、上記金属酸化物膜と上記多孔質電極層との密着性が向上するため好ましい。また、上記金属酸化物膜の一部が上記内表面の少なくとも一部を被覆していると、上述した三相の界面が増大するため、電極反応の円滑化が可能となる。上記効果をより確実に発揮させるためには、上記多孔質電極層と上記金属酸化物膜との界面から、上記多孔質電極層の深さ方向に少なくとも10nm(より好ましくは少なくとも100nm、特に好ましくは少なくとも1μm)までの範囲に存在する上記気孔において、上記金属酸化物膜の一部が上記内表面の少なくとも一部を被覆するように、噴霧条件等を調整すればよい。
【0045】
金属酸化物膜形成液をミスト状にした空間の中に多孔質電極層を通過させる方法を用いる場合、液滴の径は、通常0.001〜1000μmであり、中でも0.01〜100μmであることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、多孔質電極層の温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。この際、形成される金属酸化物膜の厚みは、多孔質電極層を通過させる時間や、繰り返し通過させることによって任意に調整でき、例えば得られる金属酸化物膜の厚みを上述した範囲内に制御することができる。
【0046】
本発明では、金属酸化物膜の成膜反応を促進させるために、金属酸化物膜形成液を多孔質電極層上に接触させる際、上記多孔質電極層を加熱する。例えば、上記多孔質電極層を金属酸化物膜形成温度以上に加熱すればよい。ここで、「金属酸化物膜形成温度」とは、上述した金属源を構成する金属元素が酸素と結合して上記多孔質電極層上に金属酸化物膜が形成される最低温度のことである。上記金属酸化物膜形成温度は、金属源の種類や溶媒等の金属酸化物膜形成液の組成によって大きく異なり、通常300〜1000℃の範囲内である。特に、生産性の観点から、400〜700℃の範囲内となるように、金属源の種類や溶媒等を選択するのが好ましい。一方、上記金属酸化物膜形成液が酸化剤や還元剤を含む場合、上記金属酸化物膜形成温度は、通常150〜800℃の範囲内であり、特に、生産性の観点から、300〜500℃の範囲内となるように、金属源の種類や溶媒等を選択するのが好ましい。
【0047】
上記金属酸化物膜形成温度は、以下の方法により測定することができる。まず、所望の金属源を含む金属酸化物膜形成液を調製する。次に、多孔質電極層を加熱することによって多孔質電極層の表面温度を変化させながら、上記多孔質電極層上に上記金属酸化物膜形成液を接触させることにより、金属酸化物膜を形成することができる多孔質電極層の表面温度のうち、最低の表面温度を測定する。この最低の表面温度を本明細書における「金属酸化物膜形成温度」とすることができる。この際、金属酸化物膜が形成したか否かは、得られる金属酸化物膜が結晶性を有する場合、例えばX線回折装置(リガク製、RINT−1500)により得られた結果から判断し、得られる金属酸化物膜がアモルファス膜の場合、例えば光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB 200i−XL)により得られた結果から判断することができる。
【0048】
また、多孔質電極層の加熱方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ホットプレート、オーブン、焼成炉、赤外線ランプ、熱風送風機等による加熱方法を挙げることができ、中でも、ホットプレートを使用すると、多孔質電極層の温度を所望の温度に確実に保持できるため好ましい。
【0049】
本発明においては、酸化性ガス雰囲気下で多孔質電極層上に金属酸化物膜形成液を接触させてもよい。上記金属源が溶解してなる金属イオン等の酸化が速やかに行われるため、金属酸化物膜の成膜反応が促進するからである。このような酸化性ガスとしては、上記金属源が溶解してなる金属イオン等を酸化することができるものであれば特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、亜硝酸ガス、二酸化窒素、二酸化塩素、ハロゲンガス等が挙げられ、中でも酸素、オゾンを使用することが好ましく、特にオゾンを使用することが好ましい。工業的に入手が容易であり、低コスト化が実現できるからである。
【0050】
また、本発明においては、多孔質電極層上に金属酸化物膜形成液を接触させる際に、多孔質電極層と金属酸化物膜形成液とが接触する箇所に紫外線を照射してもよい。紫外線を照射することによって、水の電気分解反応を促進させたり、上述した還元剤の分解を促進させたりすることができると考えられ、発生した水酸化物イオンによって、上述したように金属酸化物膜の成膜反応を促進させることができるからである。また、紫外線を照射することにより、上述した補助イオン源から水酸化物イオンを発生させたり、得られる金属酸化物膜の結晶性を向上させたりすることもできる。なお、上記紫外線としては、波長が470nm以下の近紫外光も含むものとする。
【0051】
上記紫外線の波長としては、通常185〜470nmであり、成膜反応をより促進させるためには、185〜260nmであることが好ましい。また、上記紫外線の強度としては、通常1〜20mW/cm2であり、成膜反応をより促進させるためには、5〜15mW/cm2であることが好ましい。このような紫外線照射を行う紫外線照射装置としては、例えば市販の紫外線照射装置を使用することができ、具体的には、SEN特殊光源社製のHB400X−21等を使用することができる。なお、本発明においては、上述した酸化性ガス雰囲気下で、多孔質電極層と金属酸化物膜形成液とが接触する箇所に紫外線を照射してもよい。
【0052】
また、本発明においては、得られた金属酸化物膜の洗浄及び乾燥を行ってもよい。上記金属酸化物膜の洗浄は、金属酸化物膜の表面等に存在する不純物を取り除くために行われるものである。洗浄方法としては、例えば、金属酸化物膜形成液に使用した溶媒を用いて洗浄する方法等を挙げることができる。また、上記金属酸化物膜の乾燥を行う際は、常温で放置することにより乾燥してもよいが、オーブン等の加熱装置中で乾燥してもよい。
【0053】
固体酸化物形燃料電池を作製する際は、上述した方法によって、燃料極層又は空気極層上に接触する金属酸化物膜を成膜した後、この金属酸化物膜(電解質層)上に、上記電極層とは異なる電極層(燃料極層又は空気極層)を形成する。各電極層の形成方法は、例えば公知の方法により行うことができる。具体的には、電極材料、バインダー及び溶媒を用いてペーストを作製した後、このペーストをスクリーン印刷法、ドクターブレード法等の塗布方法により電解質層上に塗布し、これらを焼結して形成することができる。
【0054】
以下、本発明の一実施形態について、適宜図面を参照して説明する。参照する図1A〜Cは、本発明の一実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法を示す概略工程図である。
【0055】
まず、金属源を水等の溶媒に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液1を調製する。そして、図1Aに示すように、燃料極層11を、例えばホットプレート(図示せず)等により金属酸化物膜形成温度以上に加熱した状態で、スプレー装置2により金属酸化物膜形成用溶液1を燃料極層11上に噴霧する。これにより、図1Bに示すように、燃料極層11上に接触する金属酸化物膜12が形成される。この際、燃料極層11と金属酸化物膜12との界面近傍に位置する燃料極層11の表面層において、その内表面11aが金属酸化物膜12の一部で被覆される。
【0056】
続いて、図1Cに示すように、金属酸化物膜(電解質層)12上に、スクリーン印刷法等の手段を用いて空気極層13を形成し、固体酸化物形燃料電池(単セル)10が得られる。なお、本実施形態では、燃料極層11上に、金属酸化物膜(電解質層)12及び空気極層13を順次形成したが、本発明はこれに限定されず、空気極層13上に、金属酸化物膜(電解質層)12及び燃料極層11を順次形成してもよい。また、本実施形態では、金属酸化物膜形成用溶液を使用したが、金属酸化物膜形成用溶液の代わりに金属酸化物膜形成用ゾルを使用してもよい。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(参考例1)
本実施例では、上述した図1Cに示すような構造を有する単セルを作製した。まず、NiO粉末(粒径範囲:0.01〜10μm、平均粒径:1μm)、SDC(Ce:Sm:O=0.8:0.2:1.9)粉末(粒径範囲:1〜10μm、平均粒径:0.1μm)及びアセチレンブラックを、質量比(NiO:SDC:アセチレンブラック)が45:50:5となるようにエタノールに加え、これらをエタノール中で粉砕しながら混合した。次に、これらを乾燥して充分にエタノールを揮発させた後、一軸プレスにて成形し、セラミックスカッターにより所定の寸法に切断(トリミング)した。そして、これを1400℃で5時間焼結して、多孔質電極層となる多孔質燃料極基板(厚み:0.5mm)を作製した。
【0059】
次に、ジルコニウムテトラアセチルアセトナ−ト(関東化学社製)及び硝酸イットリウム(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.1mol/リットル及び0.008mol/リットルとなるように、トルエン:エタノール=85:15となる混合溶媒に溶解させて金属酸化物膜形成用溶液を調製した。そして、450℃に加熱した上記多孔質燃料極基板上へ上記金属酸化物膜形成用溶液(100ミリリットル)を超音波ネプライザ(オムロン社製)で噴霧して、上記多孔質燃料極基板上にYSZからなる電解質層(上記多孔質燃料極基板上の厚み:10μm)を形成した。この際の噴射量は、0.001リットル/minであった。図2に示す断面SEM写真より、得られた電解質層30は緻密な膜であった。
【0060】
続いて、(Sm,Sr)CoO3(Sm:Sr:Co:O=0.5:0.5:1:3)粉末(粒径範囲:0.1〜10μm、平均粒径:3μm)及びセルロース系バインダー樹脂を、質量比((Sm,Sr)CoO3:バインダー樹脂)が80:20となるようにジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに加えてペーストを調製し、このペーストをスクリーン印刷により上記電解質層上に塗布した後、これらを1200℃で5時間焼結することにより空気極層(厚み:30μm)を形成して、固体酸化物形燃料電池の単セルを作製した。
【0061】
(参考例2)
参考例2は、上述した参考例1に対し、電解質層の形成方法のみが異なるので、電解質層の形成方法のみ説明する。
【0062】
ジルコニウムテトラアセチルアセトナ−ト及び酢酸スカンジウム(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.1mol/リットル及び0.01mol/リットルとなるように、トルエン及びエタノールからなる混合溶媒に溶解させて金属酸化物膜形成用溶液を調製した。使用した混合溶媒は、容量比(トルエン:エタノール)が70:30であった。そして、400℃に加熱した上記多孔質燃料極基板上へ上記金属酸化物膜形成用溶液(80ミリリットル)を超音波ネプライザ(オムロン社製)で噴霧して、上記多孔質燃料極基板上にScSZからなる電解質層(上記多孔質燃料極基板上の厚み:1μm)を形成した。この際の噴射量は、0.005リットル/minであった。SEM観察によって、得られた電解質層は緻密な膜であることがわかった。
【0063】
(実施例1)
実施例1は、上述した参考例1に対し、電解質層の形成方法のみが異なるので、電解質層の形成方法のみ説明する。
【0064】
ジルコニウムノルマルプロピレ−ト(関東化学社製)及び硝酸イットリウム(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.1mol/リットル及び0.008mol/リットルとなるように、トルエン:エタノール=85:15となる混合溶媒に溶解させて金属酸化物膜形成用ゾルを調製した。そして、450℃に加熱した上記多孔質燃料極基板上へ上記金属酸化物膜形成用ゾル(100ミリリットル)をハンドスプレー(アズワン社製)で噴霧して、上記多孔質燃料極基板上にYSZからなる電解質層(上記多孔質燃料極基板上の厚み:10μm)を形成した。この際の噴射量は、0.001リットル/minであった。SEM観察によって、得られた電解質層は緻密な膜であることがわかった。
【0065】
(実施例2)
実施例2は、上述した参考例1に対し、電解質層の形成方法のみが異なるので、電解質層の形成方法のみ説明する。
【0066】
ジルコニウムノルマルブチレ−ト(関東化学社製)及び硝酸イットリウム(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.1mol/リットル及び0.008mol/リットルとなるように、トルエン:エタノール=85:15となる混合溶媒に溶解させて金属酸化物膜形成用ゾルを調製した。そして、450℃に加熱した上記多孔質燃料極基板上へ上記金属酸化物膜形成用ゾル(100ミリリットル)を超音波ネプライザ(オムロン社製)で噴霧して、上記多孔質燃料極基板上にYSZからなる電解質層(上記多孔質燃料極基板上の厚み:10μm)を形成した。この際の噴射量は、0.001リットル/minであった。SEM観察によって、得られた電解質層は緻密な膜であることがわかった。
【0067】
(比較例)
比較例として、以下に示す方法で単セルを作製した。
【0068】
まず、NiO粉末(粒径範囲:0.01〜10μm、平均粒径:1μm)、SDC(Ce:Sm:O=0.8:0.2:1.9)粉末(粒径範囲:1〜10μm、平均粒径:0.1μm)及びアセチレンブラックを、質量比(NiO:SDC:アセチレンブラック)が45:50:5となるようにエタノールに加え、これらをエタノール中で粉砕しながら混合した。次に、これらを乾燥して充分にエタノールを揮発させた後、一軸プレスにて成形し、セラミックスカッターにより所定の寸法に切断(トリミング)した。そして、これを1400℃で5時間焼結して、多孔質電極層となる多孔質燃料極基板(厚み:0.5mm)を作製した。
【0069】
次に、YSZ(Y:Zr:O=0.08:1:2)粉末(粒径範囲:0.1〜1μm、平均粒径:0.5μm)及びセルロース系バインダー樹脂を、質量比(YSZ:セルロース系バインダー樹脂)が95:5となるようにジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに加えてペーストを調製した。この際のペーストの粘度は、5×105mPa・sであった。次に、上記ペーストをスクリーン印刷法にて上記多孔質燃料極基板に塗布し、130℃で5分間乾燥させた後、1200℃で1時間焼結して、YSZからなる電解質層(上記多孔質燃料極基板上の厚み:5μm)を得た。
【0070】
続いて、(Sm,Sr)CoO3(Sm:Sr:Co:O=0.5:0.5:1:3)粉末(粒径範囲:0.1〜10μm、平均粒径:3μm)及びセルロース系バインダー樹脂を、質量比((Sm,Sr)CoO3:バインダー樹脂)が80:20となるようにジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに加えてペーストを調製し、このペ−ストをスクリーン印刷により上記電解質層上に塗布した後、これらを1200℃で5時間焼結することにより空気極層(厚み:30μm)を形成して、固体酸化物形燃料電池の単セルを得た。
【0071】
(電池性能の評価)
上述した各単セルの電池性能を下記に示す方法で評価した。
【0072】
まず、図3に示すように、給気経路91a及び排気経路91bを有する1対のアルミナ管91,91で単セル92を挟持した。この際、供給するガスの漏れを防ぐため、単セル92とアルミナ管91との間にガラスシール93を介在させた。次に、大気中でアルミナ管91内の温度を800℃まで昇温させた後、単セル92の燃料極側から水素を100ml/minで供給し、空気極側から空気を200ml/minで供給して、開回路電圧(OCV)を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、比較例では、電解質層の緻密性が不充分であることからガスリ−クに起因する開回路電圧の低下が確認された。一方、実施例1〜2については、いずれも開回路電圧の大きな低下は認められず、緻密性が確保されていた。
【符号の説明】
【0075】
1 金属酸化物膜形成用溶液
2 スプレー装置
10 固体酸化物形燃料電池(単セル)
11 燃料極層
11a 内表面
12 金属酸化物膜(電解質層)
13 空気極層
30 電解質層
91 アルミナ管
91a 給気経路
91b 排気経路
92 単セル
93 ガラスシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質電極層と、前記多孔質電極層上に形成された金属酸化物膜からなる電解質層とを含む固体酸化物形燃料電池の製造方法であって、
金属源を含む金属酸化物膜形成用ゾルを、加熱した前記多孔質電極層上に接触させることにより前記金属酸化物膜を形成することを特徴とする固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項2】
前記金属酸化物膜形成用ゾルを前記多孔質電極層上に接触させる際、前記金属源を構成する金属元素が酸素と結合して前記多孔質電極層上に前記金属酸化物膜が形成される最低温度以上に前記多孔質電極層を加熱する請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物膜形成用ゾルを前記多孔質電極層上に噴霧することによって、前記金属酸化物膜形成用ゾルを前記多孔質電極層上に接触させて前記金属酸化物膜を形成する請求項1又は請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物膜形成用ゾルは、酸化剤及び還元剤から選ばれる少なくとも一つを更に含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物膜形成用ゾルは、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、次亜臭素酸イオン、硝酸イオン及び亜硝酸イオンから選ばれる少なくとも一つのイオン種を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項6】
前記金属源は、金属塩、金属錯体及び有機金属化合物から選ばれる少なくとも一つである請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記金属源は、Ca、Cr、Sr、Nb、Mo、Sb、Te、Ba、W、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ga及びTaから選ばれる少なくとも一つの金属元素を含む請求項1,2,6のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記金属酸化物膜は、酸化ジルコニウム、酸化セリウム及び酸化ランタンから選ばれる少なくとも一つを含む複合金属酸化物から構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項9】
前記複合金属酸化物は、蛍石型又はペロブスカイト型の結晶構造を有する請求項8に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項10】
前記多孔質電極層は燃料極層であり、かつ、蛍石型又はペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物イオン伝導体と金属触媒とを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項11】
前記多孔質電極層は空気極層であり、かつ、ペロブスカイト型の結晶構造を有する金属酸化物及び貴金属から選ばれる少なくとも一つを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項12】
前記金属酸化物膜は、前記金属酸化物膜の積層方向に結晶成長した柱状構造を有する結晶の集合体を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項13】
前記結晶における前記金属酸化物膜の積層方向の結晶長さを、前記結晶における前記金属酸化物膜の積層方向と直交する方向の結晶径で除した値が、2以上である請求項12に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項14】
前記金属酸化物膜のうち前記多孔質電極層上に存在する領域の厚みが、10nm以上10μm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項15】
前記金属酸化物膜のうち前記多孔質電極層上に存在する領域の厚みが、100nm以上1μm以下である請求項14に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項16】
前記金属酸化物膜の一部は、前記多孔質電極層内の気孔を形成する壁面の少なくとも一部を被覆している請求項1〜3,14,15のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−138371(P2012−138371A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−58535(P2012−58535)
【出願日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【分割の表示】特願2006−19298(P2006−19298)の分割
【原出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】