説明

固体酸化物形燃料電池スタック及びその製造方法

【課題】インターコネクタから蒸発するCrによるCr被毒を防止し、発電の安定性、信頼性を向上させた固体酸化物形燃料電池スタック及びその製造方法を提供する。
【解決手段】燃料極2、電解質3及び空気極4をこの順序で重ねたセル5を複数積層し、隣接するセル5の間にクロムを含む合金を用いて形成されたインターコネクタ6を介在させた固体酸化物形燃料電池スタック1であって、セル5を構成する少なくとも空気極4とインターコネクタ6とを、導電性材料7aと、インターコネクタ6から蒸発するクロムを吸着する結合材料7bとを含む導電性結合材7を用いて結合させた結合層8を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)スタック及びその製造方法に係り、更に詳細には、インターコネクタから蒸発するクロムによって発電性能を阻害させないようにした固体酸化物形燃料電池スタック及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池は、燃料極、固体電解質及び空気極をこの順序で積層したセルを発電部とし、外部から燃料極に水素、炭化水素等の燃料ガスを供給し、空気極に空気等の酸化剤ガスを供給して電気を発生させる。通常、単一のセルでは起電力が小さいので、固体酸化物燃料電池は、インターコネクタを介在させて複数のセルを積層したスタック構造を有している。
【0003】
近年、固体酸化物燃料電池スタックの低温での作動が実現されており、例えばクロムを含むステンレス鋼等の耐熱性合金から成るインターコネクタの使用が可能になっている。
耐熱性合金を用いたインターコネクタは、機械的強度や加工性に優れ、薄型化、軽量化が容易であるという利点を有する。
【0004】
しかし、インターコネクタが酸化性雰囲気下で、長期間、高温に曝されると、耐熱性合金中に含まれるクロムが酸化されて、インターコネクタの表面付近にクロム酸化物(Cr等)が形成される。更に、このクロム酸化物が空気極に供給される酸素等と反応して蒸発する。インターコネクタから蒸発したクロムは、空気極((La,Sr)MnO等)内を蒸散し、空気極と固体電解質との界面で還元されて、空気極と固体電解質との界面にクロム化合物(CrMnO等)を析出させる。空気極と固体電解質との界面に層状のクロム化合物が形成されると、界面抵抗が増大して、過電圧が大きくなり、固体酸化物形燃料電池スタックの発電性能を阻害する。このような現象は、一般的にクロム(Cr)被毒と呼ばれている。
【0005】
Cr被毒による発電性能の阻害を抑制するために、空気極及び固体電解質を、Cr被毒を受けない材質の組み合わせで構成した固体酸化物形燃料電池が提案されている(特許文献1)。
その他、インターコネクタとして、フレーク状のAg粉とガラス粉を含む混合物を用いて形成されたものを使用した固体酸化物形燃料電池スタックが提案されている(特許文献2)。
また、セパレータ(インターコネクタ)として、反応ガスの流通路を備えた内金属板にアルミニウムを含む鉄基合金を使用し、該内金属板の外側の外金属板にクロムを含む鉄基合金を使用したものも提案されている(特許文献3)。このセパレータは、内金属板にAl酸化被膜が形成されることによって、外金属板から析出されるCr被毒を抑制している。
【特許文献1】特許3646038号公報
【特許文献2】特開2007−250266号公報
【特許文献3】特開2007−165240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の固体酸化物形燃料電池スタックは、空気極をLa1−ySrFe1−zCoとし、固体電解質をCe1−xSm2−δ(ただしx=0.1〜0.5、y=0.05〜0.6、z=0.01〜0.95、δは不足酸素とする。)としなければならず、特定の材質の組み合わせたものしか使用することができない。
【0007】
特許文献2のように、フレーク状のAg粉とガラス粉を含む混合物を用いて形成されたインターコネクタを使用した場合は、耐久性に問題がある。
【0008】
特許文献3のように、セパレータを構成する内金属板として、Alを含む鉄基合金が使用されると、発電動作時の高温酸化性雰囲気下で表面に酸化被膜(Al)が形成されて電気抵抗が大きくなり、集電機能が低下し、発電性能に影響する問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インターコネクタとして、汎用性のあるステンレス鋼等の耐熱性合金を使用し、且つ、Cr被毒を防止して、発電の安定性、信頼性を向上させた固体酸化物形燃料電池スタック及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、インターコネクタから蒸発するCrをトラップ(吸着・保持)する結合材料を含む導電性結合材を用いて、セルとインターコネクタ、更に詳しくは、セルを構成する少なくとも空気極とインターコネクタとを結合させたことによって、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、燃料極、電解質及び空気極をこの順序で重ねたセルを複数積層し、隣接する上記セルの間にクロムを含む合金を用いて形成されたインターコネクタを介在させた固体酸化物形燃料電池スタックであって、上記セルを構成する少なくとも空気極とインターコネクタとを、導電性材料と、上記インターコネクタから蒸発するクロムを吸着する結合材料とを含む導電性結合材を用いて結合させた結合層を有するものである。
【0012】
また、本発明は、燃料極、電解質及び空気極をこの順序で重ねたセルを複数積層し、隣接するセルの間にクロムを含む合金を用いて形成されたインターコネクタを介在させた固体酸化物形燃料電池スタックを製造する方法であって、上記インターコネクタの表面を酸化して、クロムを含む酸化物層を形成する工程と、上記酸化物層が形成されたインターコネクタと空気極とを、上記導電性結合材を用いて結合し、結合層を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セルの少なくとも空気極と、Crを含む合金を用いて形成されたインターコネクタとを、Crを吸着する結合材料を含む導電性結合材を用いて結合させたことによって、インターコネクタから蒸発したCrを結合層中にトラップ(吸着・保持)することができる。そのため、本発明によれば、電解質と空気極との間に層状のクロム化合物が形成されず、Cr被毒を生じないので、電圧損失を改善することができ、発電の安定性、信頼性を向上させた固体酸化物形燃料電池スタック及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の固体酸化物形燃料電池スタック及びその製造方法について詳細に説明する。
図1は、本発明の固体酸化物形燃料電池スタック(一部)の好ましい実施形態の一例を模式的に示す説明図である。
図1に示すように、本例の固体酸化物形燃料電池スタック1は、燃料極2、固体電解質3及び空気極4をこの順序で重ねたセル5を複数積層し、隣接するセル5の間にクロムを含む合金を用いて形成されたインターコネクタ6を介在させた構成を有している。なお、図1においては、隣接する2つのセルのうち、一方のセル5のみを図示した。
本例の固体酸化物形燃料電池スタック1は、セル5の空気極4とインターコネクタ6とを、導電性材料7a及びCrを吸着する結合材料7bとを含む導電性結合材7で結合させた結合層8を有している。この結合層8によって、セル5とインターコネクタ6とは強固に結合されている。
なお、固体酸化物形燃料電池スタック1は、空気極4のみならず、燃料極2とインターコネクタ6とを導電性結合材7を用いて結合してもよい。
【0015】
図1に示すように、導電性結合材7は、導電性材料7aによって、セル5の空気極4とインターコネクタ6の間に柱状の導電経路が形成され、空気極4とインターコネクタ6とが電気的に接続される。この導電性材料7aから成る導電経路の周囲、即ち、導電経路の間を埋めるように結合材料7bが充填され、空気極4とインターコネクタ6とが強固に結合される。
【0016】
また、柱状の導電経路を形成する導電性材料7aの周囲を埋めるように、結合材料7bが充填されていると、導電パスを損なうことなく、結合層8中にCrがトラップされ、Cr被毒を防止することができる。
【0017】
図2は、本発明の固体酸化物形燃料電池スタック(一部)の好ましい実施形態の他の例を模式的に示す説明図である。
図2に示すように、結合層8は、柱状の導電経路を形成する導電性材料7a中に、結合材料7bが点在するように含まれているものであってもよい。
【0018】
導電性材料7aとしては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)/銅(Cu)合金等の金属粉、又はグラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素粉、及びこれらの混合粉を用いることができる。
【0019】
特に、導電性材料7aとしては、耐酸化性に優れ、体積抵抗率が小さい材料を使用することが好ましい。
導電性材料7aとして、体積抵抗率が小さい材料を使用することによって、セル5とインターコネクタ6との界面の接触抵抗を小さくすることができ、固体酸化物形燃料電池スタック1の電圧損失を改善することができる。
例えば銀の体積抵抗率は1.1×10−4Ω・cmであり、カーボンの体積抵抗率は1.3×10−1Ω・cmである。
【0020】
Crを吸着する結合材料7bとしては、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属元素を含むものであることが好ましい。
アルカリ土類金属元素(例えば酸化バリウム;BaO、酸化ストロンチウム;SrO等)を含む結合材料7bは、インターコネクタ6から蒸発したCrと反応して化合物を形成し(例えばクロム酸バリウム;BaCrO、クロム酸ストロンチウム;SrCrO等)、結合層8中にCrをトラップする。
【0021】
Crを吸着する結合材料7bとしては、例えばアルカリ土類金属酸化物を含むガラス成分を有するものや、アルカリ土類金属元素を含むペロブスカイト型の複合酸化物が挙げられる。なお、結合材料7b中には、上記ガラス成分やペロブスカイト型の複合酸化物の他にも、不可避的に含まれる成分も含有するものとする。
【0022】
結合材料7bがガラス成分を有するものである場合は、ガラス成分中のアルカリ土類金属酸化物の含有量が35質量%以上であるものが好ましい。
ガラス成分中のアルカリ土類金属酸化物の含有量が35質量%以上である場合は、結合性を確保しつつ、インターコネクタ6から蒸発したCrを確実に結合層8中にトラップすることができる。
【0023】
更に、結合材料7bがガラス成分を有するものである場合は、質量%で表示して、組成がBaO:35〜60%、CaO:3〜10%、Al:3〜8%、SiO:15〜25%、B:1〜10%であることが好ましい。
結合材料7bが、上記組成のガラス成分を有するものである場合は、セル5とインターコネクタ6との強固な結合性を確保すると共に、インターコネクタから蒸発したCrを確実にトラップすることができる。
【0024】
また、結合材料7bが、アルカリ土類金属元素を含むペロブスカイト型の複合酸化物である場合は、セル5の空気極4を構成する複合酸化物(例えば、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)と同様にものを結合材料7bとして用いることができる。
【0025】
導電性結合材7の導電性材料7aと結合材料7bとの配合割合は、重量比で、好ましくは9:1〜6:4、より好ましくは8:2〜6:4、特に好ましくは8:2〜7:3である。
導電性結合材7中、導電性材料7aの配合割合が小さすぎると、セル5とインターコネクタ6との導電性を確保することができず、電気抵抗値が大きくなり、発電性能が低下する。一方、結合材料7bの配合割合が小さすぎると、インターコネクタ6から蒸発したCrを結合材料7b中にトラップすることができない。このように、導電性とCrの吸着性とはトレードオフの関係にあるので、固体酸化物形燃料電池スタックの発電性能を低下させることなく、Cr被毒を防止するためには、導電性材料7aと結合材料7bとの配合割合が上記範囲内であることが好ましい。
【0026】
導電性結合材7によって、セル5とインターコネクタ6を結合させた結合層8の厚さは、特に限定されないが、好ましくは1〜100μm、より好ましくは10〜30μm程度である。
【0027】
次に、固体酸化物形燃料電池スタック1を構成する各部材について説明する。
セル5の燃料極2を構成する材料は、特に限定されず、公知の燃料極を構成する材料を用いることができる。燃料極を構成する材料としては、例えばNi−YSZ、Ni−SDC(ニッケル−サマリアドープセリア)、Ni−SSZ(ニッケル−スカンジウム安定化ジルコニア)、Ni−CGO(ニッケル−ガリウムドープセリア)、Cu−YSZ、Cu−SDC、Cu−GDCなどのサーメット材料が挙げられる。
【0028】
固体電解質を構成する材料は、特に限定されず、公知の固体電解質材料を用いることができ、例えばYSZ、SDC、SSZ、CGO、LSGM(ランタンガレート)などが挙げられる。
固体電解質の厚さは、特に限定されないが、好ましくは1.0〜20μmであり、より好ましくは3.0〜10μmである。
固体電解質が薄すぎると、燃料極と空気極のガスの雰囲気を隔離することができずにクロスリークが発生して、燃料電池の性能が低下する虞がある。また、固体電解質が厚すぎると、電解質中をイオンが伝導する抵抗が大きくなり、燃料電池の性能が低下する虞がある。
【0029】
空気極を構成する材料は、特に限定されず、公知の空気極材料を用いることができる。中でも、一般式ABOで表わされるペロブスカイト型複合酸化物を含む材料を用いることが好ましい。
一般式ABOで表わされるペロブスカイト型複合酸化物は、Aサイト元素として、La、Sr、及びSmから成る群より選ばれた少なくとも1種を含有し、Bサイト元素として、Ca、Co、Fe、Cr、Mn、及びNiから成る群より選ばれた少なくとも1種を含有するものであることが好ましい。
一般式ABOで表されるペロブスカイト型複合酸化物は、Bサイト元素として、Coを含むものであることがより好ましい。このようにBサイト元素としてCoを含むペロブスカイト型複合酸化物は、600℃程度の低温作動する固体酸化物形燃料電池の空気極を構成する材料として適している。
【0030】
空気極の厚さは、特に限定されないが、好ましくは1.0〜50μmであり、より好ましくは10〜30μmである。空気極の厚さが10〜30μmであると、電極として十分に機能を発揮すると共に、剥離しにくくなる。
【0031】
インターコネクタを構成する材料としては、汎用性のある耐熱性金属を用いることができる。このような耐熱性金属としては、例えばオーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼等のCrを含むFe基金属や、インコネル、ハステロイ等のCrを含むNi基金属等が挙げられる。
中でも、フェライト系ステンレス鋼は、高温下における耐酸化性に優れ、固体酸化物形燃料電池スタックの作動温度下における熱膨張率が、セルの熱膨張率と同程度であるため、インターコネクタを構成する材料として好適に用いられる。
【0032】
次に、本発明の固体酸化物形燃料電池スタックの製造方法について説明する。
固体酸化物形燃料電池スタック1の製造方法は、インターコネクタ6の表面を酸化してCrを含む酸化物層6aを形成する工程と、このインターコネクタ6の酸化物層6aが形成された表面と、燃料極2、電解質3及び空気極4をこの順序で重ねたセル5の表面(具体的には、少なくとも空気極4の表面)とを、導電性材料7aとCrを吸着する結合材料7bとを含む導電性結合材7で結合する工程とを含む。
【0033】
図3は、インターコネクタの表面に酸化物層を形成した固体酸化物形燃料電池スタック(一部)を模式的に示す説明図である。
図3に示すように、インターコネクタ6の表面を予め酸化することによって、インターコネクタ6の表面には、Cr又はMn−Crを含む酸化物層6a、より詳しくは、Mn−Cr系のスピネル相が形成される。
インターコネクタ6の表面を酸化して、インターコネクタ6から蒸発させたCrを含む安定な酸化物層6aを予め形成しておくことによって、固体酸化物形燃料電池スタックを高温で作動させる際に、Crの蒸発を抑制することができる。
また、インターコネクタ6の表面を酸化して、Crを含む酸化物層6aを形成することによって、インターコネクタ6とセル5との密着性を向上させることができ、導電性結合材7によって結合させたインターコネクタ6とセル5との剥離を抑制することができる。
【0034】
インターコネクタ6の表面を酸化する方法としては、例えば、大気中、500〜700℃の高温下で酸化させる方法が挙げられる。
なお、インターコネクタ6とセル5との密着性を向上させるためには、インターコネクタ6の表面は、アセトン等の溶剤を用いて超音波等によって予め洗浄しておくことが望ましい。
【0035】
そして、酸化物層6aを形成したインターコネクタ6の表面に、導電性材料7aとCrを吸着する結合材料7bとを含む導電性結合材7を塗布する。この導電性結合材7を塗布した側を、セル5の空気極4側に配置して、インターコネクタ6とセル5とを焼成することによって、結合層8を形成し、固体酸化物形燃料電池スタック1を製造する。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
(1) インターコネクタ
インターコネクタ材として、ステンレス鋼(Crofer22APU、Fe−Cr:22.0〜24.0質量%合金)から成るディンプル状試験片を用いた。この試験片をアセトン中で、10分間、超音波洗浄を行った。その後、大気炉中700℃、50時間にて予備酸化を行い、表面にCrを含む酸化物層を形成した。
(2)導電性結合材
導電性材料として、Ag:8mol%−Cu合金を用いた。
Crを吸着する結合材料として、組成がBaO:56.0質量%、CaO:9.0質量%、SiO:22.0質量%、Al:5.5質量%、B:7.0質量%のガラス成分を有するものを用いた。
この導電性材料及び結合材料を、導電性材料:結合材料=8:2(重量比)で混合し、ペースト状の導電性結合材を製造した。
(3)セル
セルとして、燃料極/固体電解質/中間層/空気極が、NiO−YSZ/YSZ/SDC(Sm0.2Ce0.81.9)/SSC(Sm0.5Sr0.5CoO)から成るものを用いた。
(4)固体酸化物形燃料電池スタックの製造
表面に酸化物層を形成したディンプル状インターコネクタ(試験片)の突起部に、ペースト状導電性結合材を塗布し、このペースト状導電性結合材をセルの空気極(SSC)側に配置し、900gの加重をかけながら、大気炉中、900℃、15分焼成を行った。
その後、大気炉中、700℃、500時間焼成して、セルの空気極(SSC)とインターコネクタとを導電性結合材で結合した結合層を有する固体酸化物形燃料電池スタックを製造した。
【0038】
(実施例2)
導電性材料として、Ag:8mol%−Cu合金を用いた。Crを吸着する結合材料として、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8(ペロブスカイト型複合酸化物)を用いた。この導電性材料及び結合材料を、導電性材料:結合材料=7:3(重量比)で混合したペースト状導電性結合材を製造した。
このペースト状導電性結合材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池スタックを製造した。
【0039】
(実施例3)
導電性材料:結合材料=7:3(重量比)で混合したペースト状導電性結合材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして固体酸化物形燃料電池スタックを製造した。
【0040】
(実施例4)
導電性材料:結合材料=6:4(重量比)で混合したペースト状導電性結合材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして固体酸化物形燃料電池スタックを製造した。
【0041】
(比較例1)
インターコネクタ(試験片)とセルの空気極(SSC)とを、Ag粉とガラス粉を混合したペースト(Durabond954(商品名)、Cotronics社製)を用いて結合したこと以外は、実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池スタックを製造した。
【0042】
(比較例2)
インターコネクタ(試験片)とセルの空気極(SSC)とを、導電性材料であるAg:8mol%−Cu合金ペーストを用いて結合したこと以外は、実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池スタックを製造した。
【0043】
実施例1〜2及び比較例1〜2の固体酸化物形燃料電池スタックについて、ペースト状導電性結合材を用いて形成した結合層内のCr元素分析をSEM(走査型電子顕微鏡;Scanning Electron Microscope)と、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)により測定した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、実施例1及び実施例2は、結合層中のCr含有量が多くなっており、インターコネクタから蒸発したCrが結合層内にトラップされていることが確認できた。一方、比較例1及び比較例2については、結合層中のCr含有量が少なく、インターコネクタから蒸発したCrが結合層内にトラップされていないことが確認できた。
【0046】
次に、実施例1及び比較例2の固体酸化物形燃料電池スタックについて、650℃、3%H/Air雰囲気中で、ポテンショスタット/ガルバノスタット及びエレクトロメータを用いて、定電流測定を行った。結果を図4に示す。
【0047】
図4に示すように、実施例1の固体酸化物形燃料電池スタックは、結合層中のアルカリ土類金属酸化物(BaO等)がインターコネクタから蒸発したCrを吸着したため、100時間経過した後も、殆ど電圧降下を生じていなかった。一方、比較例2の固体酸化物形燃料電池スタックは、80時間を経過したあたりから、若干の電圧降下が生じており、インターコネクタから蒸発したCrによって、界面抵抗が増加していることが推測された。
【0048】
次に、実施例1、3、4及び比較例2の固体酸化物形燃料電池スタックについて、700℃における電気抵抗値をポテンショスタット/ガルバノスタット及びエレクトロメータを用いてを用いて測定した。また、これらの空気極と結合層との界面におけるクロムの存在をEPMAにより測定した。結果を表2及び図5〜8に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例1,3,4は、電極(空気極4)と結合層との界面に、層状のCr化合物が存在しないか、ごく小さい層状のクロム化合物が確認されるのみであり、Cr化合物は結合層8中に点在してトラップされていた(図5〜7参照)。
これに対して、導電性材料のみで結合層が形成された比較例2は、電極(空気極4)と結合層8の界面全体に層状のCr化合物10が形成されていた(図8参照)。
表2に示すように、導電性材料とCrを吸着する結合材料を含む導電性結合材で結合層を形成した実施例1,3,4と、導電性材料のみで結合層を形成した比較例2とでは、電気抵抗値に大きな変化はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】固体酸化物形燃料電池スタック(一部)の好ましい実施形態の一例を模式的に示す説明図である。
【図2】固体酸化物形燃料電池スタック(一部)の好ましい実施形態の他の例を模式的に示す説明図である。
【図3】インターコネクタの表面に酸化物層を形成した固体酸化物形燃料電池スタック(一部)を模式的に示す説明図である。
【図4】定電流測定法により測定した時間とセル電圧の関係を示すグラフである。
【図5】実施例1のインターコネクタ/結合層/空気極のEPMA分析写真である。
【図6】実施例3のインターコネクタ/結合層/空気極のEPMA分析写真である。
【図7】実施例4のインターコネクタ/結合層/空気極のEPMA分析写真である。
【図8】比較例2のインターコネクタ/結合層/空気極のEPMA分析写真である。
【符号の説明】
【0052】
1 固体酸化物形燃料電池スタック
2 燃料極
3 固体電解質
4 空気極
5 セル
6 インターコネクタ
6a 酸化物層
7 導電性結合材
7a 導電性材料
7b 結合材料
8 結合層
9 クロム化合物
10 層状のクロム化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極、電解質及び空気極をこの順序で重ねたセルを複数積層し、隣接する上記セルの間にクロムを含む合金を用いて形成されたインターコネクタを介在させた固体酸化物形燃料電池スタックであって、
上記セル及びをインターコネクタとを、導電性材料と、上記インターコネクタから蒸発するクロムを吸着する結合材料とを含む導電性結合材を用いて結合させた結合層を有することを特徴とする固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項2】
上記結合材料は、アルカリ土類金属元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項3】
上記導電性結合材は、導電性材料と結合材料との配合割合が、重量比で9:1〜6:4であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項4】
上記結合材料は、アルカリ土類金属酸化物を含むガラス成分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項5】
上記結合材料は、ペロブスカイト型の複合酸化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項6】
上記ガラス成分中のアルカリ土類金属酸化物の含有量が35質量%以上であることを特徴とする請求項4記載の固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項7】
上記ガラス成分の組成がBaO:35〜60質量%、CaO:3〜10質量%、Al:3〜8質量%、SiO:15〜25質量%、B:1〜10質量%であることを特徴とする請求項4又は6に記載の固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項8】
上記導電性材料は、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、パラジウム、銀/銅合金等の金属粉、及びグラファイト、カーボンブラック等の炭素粉から成る群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の固体酸化物燃料電池スタックを製造する方法であって、
上記インターコネクタの表面を酸化して、クロムを含む酸化物層を形成する工程と、
上記酸化物層が形成されたインターコネクタと空気極とを、上記導電性結合材を用いて結合し、結合層を形成する工程を含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池スタックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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