説明

固体酸化物形燃料電池及びその製造方法

【課題】電解質の薄膜化が可能な固体酸化物形燃料電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】この固体酸化物形燃料電池1は、基板5と、基板5の一方面51に薄膜状に形成される燃料極2と、燃料極2上に形成される薄膜状の電解質4と、電解質4上に形成される薄膜状の空気極3と、を備え、基板5には、その他方面52と燃料極2とを連通させるガス流路6が形成されている。この燃料電池1の製造方法は、基板5の一方面51に燃料極2を薄膜状に形成する工程と、燃料極2上に薄膜状の電解質4を形成する工程と、電解質4上に薄膜状の空気極3を形成する工程と、燃料極2を形成した基板5に、その他方面52と燃料極2とを連通させるガス流路6を形成する工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池とは外部からの燃料供給と燃焼生成物の排気とを連続的に行いながら、燃料が酸化する際に発生する化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換できる電池である。燃料電池の種類は電解質により分類され、電解質にイオン伝導性を持つ固体酸化物を用いたものを固体酸化物形燃料電池と呼んでいる。この固体酸化物形燃料電池としては、種々のものが提案されているが、例えば特許文献1には、電解質を基板として、その一方面に燃料極(アノード)を、他方面に空気極(カソード)を形成して単電池セル(単電池板)を構成し、この単電池セルを、両面にガス流路(ガス溝)がそれぞれ形成されたセパレータに積層したものが開示されている。このような燃料電池では、耐久性の観点から電解質基板を厚くする必要があるが、このようにすると電解質での抵抗が大きくなり発電効率が悪くなるという問題が指摘されている。
【0003】
そこで、電解質を薄膜化するために別途基板を設け、その基板上に燃料極、空気極、電解質を印刷により形成した燃料電池が提案されている。例えば特許文献2では図3,4に示されるように、支持基板上に印刷した電極に燃料ガスや酸化剤ガスなどの反応ガスを供給するために、その支持基板を多孔質にしている。
【特許文献1】特開平5−205753号公報
【特許文献2】特許第2780885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献2のような燃料電池では、支持基板が多孔質であるため、その強度を保つためにある程度の厚みが必要となる。しかしながら、この支持基板上に燃料極、空気極及び電解質を印刷などで薄膜状に形成すると、多孔体上へ印刷するためにしみ込みなどの問題が発生し、薄膜形成や電解質の緻密化が困難であるといった問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、電解質の薄膜化が可能な固体酸化物形燃料電池及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の固体酸化物形燃料電池は、上記問題を解決するためになされたものであり、基板と、前記基板の一方面に薄膜状に形成される、燃料極(アノード)及び空気極(カソード)のいずれか一方の電極と、前記一方の電極上に形成される薄膜状の電解質と、前記電解質上に形成される薄膜状の他方の電極と、を備え、前記基板には、その他方面と前記一方の電極とを連通させるガス流路が形成されている。
【0007】
この構成によれば、基板を別途設けているので、電解質を薄膜化して電池性能を向上させることができる。
【0008】
上記燃料電池において、一方の電極を、基板と電解質の間で、他方の電極と気密に隔離すると、二室型の固体酸化物形燃料電池として使用することができる。より具体的には、例えば電解質の周縁を基板と連結することによって隔離させると、別途ガスシール部材を設ける必要が無くなり、低コスト化、製造工程の短縮化を図ることができる。
【0009】
本発明の固体酸化物形燃料電池の製造方法は、基板の一方面に燃料極及び空気極のいずれか一方の電極を薄膜状に形成する工程と、前記一方の電極上に薄膜状の電解質を形成する工程と、前記電解質上に薄膜状の他方の電極を形成する工程と、前記一方の電極を形成した前記基板に、その他方面と前記一方の電極とを連通させるガス流路を形成する工程と、を備えている。
【0010】
この製造方法によれば、基板を別途設けているので、電解質を薄膜化することができ、その結果、電池性能を向上させることができる。
【0011】
また、基板に電極を形成した後に、基板を貫通するガス流路を形成しているため、次のような利点がある。例えば、予めガス流路を形成した基板に印刷などで電極を形成しようとすると、ガス流路が電極で埋まってしまうため、印刷などで電極を形成することができなかった。そのため、従来は多孔質の基板を使用する必要があった。しかし、多孔質の基板を使用すると基板の熱膨張によって電極などに割れが生じるおそれがある。これに対して、本発明では、基板に一方の電極を形成した後にガス流路を形成しているので、多孔質の基板を使用せずに印刷などで電極を形成してもガス流路を確保できる。よって薄膜可撓性の基板を使用することができるので、印刷などで薄膜状に形成した燃料極などは基板の膨張収縮に追随することができ、割れや剥離などの発生を防止することができる。
【0012】
上記電解質を形成する工程において、一方の電極全体を覆い、周縁が基板に連結するよう電解質を印刷することができる。このようにすることで、例えば多孔質性の電極を使用しても、電解質が気密にその電極を隔離しているので、その電極から燃料ガスや酸化剤ガスなどの反応ガスが漏れることを防ぐことができる。よって、ガスシール部材を別途設ける必要がなくなり、低コスト化、製造工程の短縮化を図ることができる。
【0013】
また、上記ガス流路を形成する工程において、基板にガス流路を形成する方法としては、基板の他方面側からエッチングすることでガス流路を形成することができる。これにより、例えば一方の電極には作用せず基板のみに作用するエッチング材料を使用することで、一方の電極を損傷させず基板のみにガス流路を形成するなど、より正確にガス流路を形成することが可能となる。
【0014】
なお、上記燃料極、空気極及び電解質は、種々の方法によって形成することができ、例えば印刷によって形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電解質の薄膜化が可能な固体酸化物形燃料電池及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を二室型の固体酸化物形燃料電池及びその製造方法に適用した場合の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池1の平面図、図2は、図1のA−A線断面図である。
【0018】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池1は、薄膜状の基板5と、その一方面51に配置された燃料極2、電解質4、及び空気極3を備えている。燃料極2、空気極3及び電解質4は薄膜状に形成され、この順で基板5の一方面51に配置されている。また、電解質4の周縁41は、燃料極2の周縁を覆うように下方へ延び基板5の一方面51に連結している。これにより、燃料極2は空気極3に対して気密に隔離されている。基板5は薄膜状で、その厚さは50μm〜1000μmが好ましく、100μm〜300μmとすることがさらに好ましい。また、この基板5には、その他方面52と燃料極2とを連通させるガス流路6が形成されている。このガス流路6は、基板5の他方面52から一方面51まで貫通する複数の溝からなり、これらの溝は基板5上を直線状で平行に延びている。
【0019】
次に、上記燃料電池1を構成する材料について説明する。基板5は、例えば、耐熱性の観点から、Pt,Au,Ag,Ni,Ti,Cu,Fe,Cr等の導電性金属材料からなる。
【0020】
電解質4の材料としては、固体酸化物形燃料電池の電解質として公知のものを使用することができ、例えば、サマリウムやガドリニウム等をドープしたセリア系酸化物、ストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物、スカンジウムやイットリウムを含むジルコニア系酸化物などの酸素イオン伝導性セラミックス材料を用いることができる。
【0021】
燃料極2は、例えば、金属触媒と酸化物イオン導電体からなるセラミックス粉末材料との混合物を用いることができる。このとき用いられる金属触媒としては、ニッケル、鉄、コバルトや、貴金属(白金、ルテニウム、パラジウム等)等の還元性雰囲気中で安定で、水素酸化活性を有する材料を用いることができる。また、酸化物イオン導電体としては、蛍石型構造又はペロブスカイト型構造を有するものを好ましく用いることができる。蛍石型構造を有するものとしては、例えばサマリウムやガドリニウム等をドープしたセリア系酸化物、スカンジウムやイットリウムを含むジルコニア系酸化物などを挙げることができる。また、ペロブスカイト型構造を有するものとしてはストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物を挙げることができる。上記材料の中では、酸化物イオン導電体とニッケルとの混合物で、燃料極2を形成することが好ましい。なお、酸化物イオン導電体からなるセラミックス材料とニッケルとの混合形態は、物理的な混合形態であってもよいし、ニッケルへの粉末修飾などの形態であってもよい。また、上述したセラミックス材料は、1種類を単独で、或いは2種類以上を混合して使用することができる。また、燃料極2は、金属触媒を単体で用いて構成することもできる。
【0022】
空気極3を形成するセラミックス粉末材料としては、例えば、ペロブスカイト型構造等を有するCo,Fe,Ni,Cr又はMn等からなる金属酸化物を用いることができる。具体的には(Sm,Sr)CoO,(La,Sr)MnO,(La,Sr)CoO,(La,Sr)(Fe,Co)O,(La,Sr)(Fe,Co,Ni)Oなどの酸化物が挙げられ、好ましくは、(La,Sr)MnOである。上述したセラミックス材料は、1種を単独で、或いは2種以上を混合して使用することができる。
【0023】
電解質4、燃料極2及び空気極3を、セラミックス粉末材料から形成する場合、用いられる粉末の平均粒径は、好ましくは10nm〜100μmであり、さらに好ましくは50nm〜50μmであり、特に好ましくは100nm〜10μmである。なお、平均粒径は、例えば、JISZ8901にしたがって計測することができる。
【0024】
上記燃料極2、及び空気極3は、上述した材料を主成分として、さらにバインダー樹脂、有機溶媒などが適量加えられることにより形成される。より詳細には、上記主成分とバインダー樹脂との混合において、上記主成分が50〜95重量%となるように、バインダー樹脂等を加えることが好ましい。また、電解質4も、上記燃料極2及び空気極3と同様に、上述した材料を主成分として、バインダー樹脂、有機溶媒などが適量加えられることにより成型されるが、上記主成分とバインダーとの混合において、上記主成分の割合が80重量%以上となるように混合されることが好ましい。そして、これら空気極3及び燃料極2の膜厚は、焼結後に5μm〜100μmとなるように形成することが好ましく、10μm〜30μmとすることがさらに好ましい。また、電解質4の膜厚は、1〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることがさらに好ましい。
【0025】
次に、上述した燃料電池1の製造方法について図3を参照しつつ説明する。図3は、燃料電池1の製造方法を示す説明図である。
【0026】
まず、上述した材料からなる基板5を準備する(図3(a))。続いて、上述した電解質4、燃料極2、及び空気極3用の粉末材料を主成分として、これらそれぞれにバインダー樹脂、有機溶媒などを適量加えて混練し、電解質ペースト、燃料極ペースト、空気極ペーストをそれぞれ作製する。各ペーストの粘度は、次に説明するスクリーン印刷法に適合するように10〜10mPa・s程度であることが好ましい。
【0027】
次に、燃料極ペーストをスクリーン印刷法により基板5の一方面51上に塗布した後、所定の時間及び温度で乾燥・焼結し、燃料極2を形成する(図3(b))。
【0028】
続いて、この燃料極2上を覆うように、燃料極2より一回り大きく電解質ペ−ストをスクリーン印刷により塗布した後、所定の時間及び温度で乾燥・焼結することにより電解質4を形成する(図3(c))。なお、電解質4は、種々の方法で形成することができるが、金属の基板5を用い燃料極2および空気極3を多孔体として形成するには、これらよりも低温で焼結することが好ましく、例えば真空法、溶射法等による低温焼成手法で形成することができる。このとき、電解質4の周縁41が基板5の一方面51と連結するように、電解質ペーストを塗布する。これにより、燃料極2は電解質4と基板5とで密閉されている。
【0029】
これに続いて、各電解質4上に、空気極ペーストをスクリーン印刷法によって塗布し、所定時間及び温度で乾燥・焼結することにより空気極3を形成する(図3(d))。
【0030】
そして、エッチングにより、基板5の他方面52側から燃料極2まで基板5を貫通するガス流路6を形成する(図3(e))。ここで、用いられるエッチング剤としては、基板5のみに作用し、燃料極2には作用しないものと使用することが好ましい。以上の工程により、図1及び2に示すような燃料電池1が完成する。
【0031】
次に、上記のように構成された燃料電池1の発電動作について説明する。まず、基板5の一方面51側と他方面52側とは予め種々の方法で隔離しておく。そして、基板5の一方面51側には酸素などからなる酸化剤ガスを供給し、他方面52側にはHやメタンやエタンなどの炭化水素系ガスからなる燃料ガスを供給する。これによって、燃料極2には燃料ガスがガス流路6を介して供給され、また空気極3には酸化剤ガスが供給される。ここで、電解質4と基板5とで燃料極2と空気極4とを気密に隔離しているために、燃料ガスを燃料極2に、酸化剤ガスを空気極3に、それぞれ混合させずに供給することができる。なお、このときの作動温度は400〜900℃とすることができる。このように通常の固体酸化物形燃料電池より低い温度でも作動するのは、上述したように電解質4を印刷により薄膜状に形成することができるので、その電解質4中をイオンが移動する際の抵抗が小さくなるためである。
【0032】
以上のように、本実施形態によれば、基板5に燃料極2を形成した後にガス流路6を形成しているので、多孔質の基板を使用せずに印刷などで燃料極2を形成してもガス流路6を確保できる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0034】
例えば、上記実施形態では、基板5に燃料極2、電解質4、空気極3を形成した後にガス流路6を形成する製造方法としているが、基板5に燃料極2を形成した後であればガス流路6を形成するタイミングは電解質4を形成する前あるいは空気極3を形成する前でもよく、特に限定されるものではない。
【0035】
また、上記実施形態では、燃料極2を電解質4で覆うことにより、燃料極2に供給した燃料ガスが漏れるのを防止しているが、その他の方法でも燃料極2と空気極3とを気密に隔離することができる。例えば、図4に示すように、基板5の一方面51上で燃料極2及び電解質4の周縁を囲むようガスシール部材7を別途設けることもできる。このように、ガスシール部材7を設けることで、燃料極2へ供給する燃料ガスと空気極3に供給する酸化剤ガスとを混合させないようにすることができる。
【0036】
また、上記実施形態では、各ペーストの塗布にスクリーン印刷法を用いているが、これに限定されるものではなく、ドクターブレード法、スプレーコート法、スピンコート法、リソグラフィー法、電気泳動法、ロールコート法、グラビアロ−ルコ−ト法、ディスペンサーコート法、CVD,EVD,スパッタリング法、転写法等の印刷方法等、その他一般的な印刷法を用いることができる。また、印刷後の後工程として、CIP(静水圧プレス)、HIP(熱間静水圧プレス)、ホットプレス、その他の一般的なプレス工程を用いることができる。さらには、ガス流路の形成方法としてエッチング以外にも、フォトリソグラフィーや切削加工など種々の方法を用いることができる。
【0037】
また、上記実施形態では固体酸化物形燃料電池を二室型のものとして説明をしたが、単室型の固体酸化物形燃料電池とすることができる。なお、この場合は、燃料ガスと酸化剤ガスとを別々に分けて供給する必要がないため、燃料極2と空気極3とを気密に隔離する必要がなく、電解質4の周縁41を基板5の一方面51に結合させたり、別途ガスシール部材を設けたりしなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の固体酸化物形燃料電池の実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の固体酸化物形燃料電池の製造方法を示す説明図である。
【図4】本発明の固体酸化物形燃料電池の他の実施形態を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 固体酸化物形燃料電池
2 燃料極(一方の電極)
3 空気極(他方の電極)
4 電解質
41 周縁
5 基板
51 一方面
52 他方面
6 ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方面に薄膜状に形成される、燃料極及び空気極のいずれか一方の電極と、
前記一方の電極上に形成される薄膜状の電解質と、
前記電解質上に形成される薄膜状の他方の電極と、を備え、
前記基板には、その他方面と前記一方の電極とを連通させるガス流路が形成されている、固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記一方の電極は、前記基板と電解質の間で、前記他方の電極とは気密に隔離されている、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記電解質の周縁が、前記基板と連結されている、請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
基板の一方面に燃料極及び空気極のいずれか一方の電極を薄膜状に形成する工程と、
前記一方の電極上に薄膜状の電解質を形成する工程と、
前記電解質上に薄膜状の他方の電極を形成する工程と、
前記一方の電極を形成した前記基板に、その他方面と前記一方の電極とを連通させるガス流路を形成する工程と、
を備えた、固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項5】
前記電解質を形成する工程において、前記電解質の周縁を前記基板に連結する、請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項6】
前記ガス流路を形成する工程において、前記基板の他方面側からエッチングにより前記ガス流路を形成する、請求項4又は5に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記燃料極、空気極及び電解質は、印刷により形成される、請求項4から6のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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