説明

固体酸化物形燃料電池及びその製造方法

【課題】イオン伝導度の低下を抑えつつ好適に固相反応を防止し得る厚みのCe層を備えた固体酸化物形燃料電池(SOFC)を提供する。
【解決手段】
本発明のSOFC100は、多孔質構造の燃料極10と、酸化物イオン伝導体で構成されている緻密構造の固体電解質20と、多孔質構造の空気極30とからなる積層構造を有している。ここで、固体電解質20は、空気極30に接する側に、厚さ3μm以下の結晶性セリウム酸化物で構成されたCe層24を含んでいる。かかる構成のSOFC100によると、固体電解質20の空気極30と接する側に厚み3μm以下のCe層24が含まれているため、固体電解質のイオン伝導度を高い状態で維持しながら、固体電解質−空気極間の固相反応を好適に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に「SOFC」と呼称される固体酸化物形燃料電池は、種々のタイプの燃料電池の中でも、発電効率が高い、環境への負荷が低い、そして、多用な燃料の使用が可能であるなどの点から次世代の発電装置として期待されており、その開発が進められている。
固体酸化物形燃料電池の典型例として、多孔質構造を有する燃料極(アノード)、酸化物イオン伝導体からなる緻密な固体電解質、多孔質構造を有する空気極(カソード)の順に積層された積層構造を有するものが挙げられる。かかる構造の固体酸化物形燃料電池は、燃料極に燃料ガス(典型的には水素(H)ガス、メタン(CH)ガス等の炭化水素(HC)ガス)が供給され、空気極に酸素(O)含有ガス(典型的には空気)が供給されることによって発電する。
【0003】
一般的な固体酸化物形燃料電池では、固体電解質にジルコニア系材料が用いられ、空気極に酸化物イオン伝導性のペロブスカイト構造を有する酸化物(以下「ペロブスカイト型酸化物」という。)が用いられる。かかる固体電解質上に空気極を積層するには、当該固体電解質の表面に空気極の前駆物質を塗布し、焼成するといった方法が採られるが、このときに固体電解質と空気極とが固相反応を起こして、酸化物イオンの伝導性低下などの電池性能の劣化を招く虞がある。かかる固相反応を防止する方法として、例えば、固体電解質と空気極との間に、セリウム酸化物からなる中間層を介在させるという方法が挙げられる。例えば非特許文献1には、かかる中間層の一例が開示されている。また、特許文献1にも中間層に関する言及がある。また、特許文献2,3には、セリウム酸化物を含む固体電解質の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−243743号公報
【特許文献2】特開2007−73272号公報
【特許文献3】特開2003−346818号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Electrochem.Solid−State Lett.,Vol.2,No.9,pp.428−430(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、固体電解質と空気極(若しくは燃料極)との間に、セリウム酸化物からなる中間層を形成する従来方法としては、スラリー塗布法、プラズマ溶射法、CVD法などが挙げられる。このような方法により形成される中間膜において、上記固相反応を好適に防止するためには、例えば10μm以上の膜厚が要求される。その一方で、中間層の膜厚が厚すぎると、空気極−燃料極間のイオン伝導度が低くなるため好ましくない。
【0007】
また、スラリー塗布法によって中間層を形成する場合、中間層の前駆物質を固体電解質上に配置し、次いで1400℃〜1600℃で焼成する必要がある。アノード支持型の固体酸化物形燃料電池の場合、燃料極、固体電解質、空気極の順で各部材を形成していくため、上記のような高温域で中間層を形成(焼成)する際に燃料極もまた焼成されてしまう。この結果、多孔質構造が求められる燃料極が焼結によって緻密化してしまい、燃料ガスとの反応の場である三相界面の数が大幅に減少するという不具合が生じる虞がある。
【0008】
本発明は、上述の問題を鑑みて創出されたものであり、その目的は、イオン伝導度の低下を抑えつつ好適に上記固相反応を防止し得る厚みのCe層(セリウム酸化物から成る層)を備えた固体酸化物形燃料電池を提供することである。また、そのような固体酸化物形燃料電池を好適に製造し得る方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく、本発明によって以下の構成の固体酸化物形燃料電池(以下「SOFC」ともいう。)が提供される。
即ち、ここで開示される固体酸化物形燃料電池は、多孔質構造の燃料極と、酸化物イオン伝導体で構成されている緻密構造の固体電解質と、多孔質構造の空気極とからなる積層構造を有している。ここで、上記固体電解質は、上記空気極に接する側に、厚さ3μm以下の結晶性セリウム酸化物で構成されたCe層を含んでいる。
【0010】
ここで開示されるSOFCでは、上記Ce層の厚みが3μm以下であり、Ce層を設けたことによる固体電解質の膜厚の増加を少なくしている。このため、かかるSOFCによると、固相反応防止の目的でCe層を設けた場合でも、固体電解質の酸化物イオン伝導性を高い状態に維持することができる。
また、ここでは、Ce層が結晶性セリウム酸化物で構成されており、固体電解質全体として緻密構造を有しているため、Ce層の厚みを3μm以下に形成した場合であっても、上記固相反応を好適に防止することができる。
従って、ここで開示されるSOFCによると、固体電解質の酸化物イオン伝導性の低下を抑えつつ、固相反応を好適に防止できる。
また、好ましくは、上記空気極は、酸化物イオン伝導性のペロブスカイト型酸化物を主体に構成されている。
【0011】
ここで開示されるSOFCの好ましい一態様では、上記セリウム酸化物は、Gd、Sm及びNdから成る群から選択される1種又は2種以上の元素を含むセリウム酸化物であることを特徴とする。上記いずれかの元素を含む(ドープされた)セリウム酸化物から成るCe層は、酸化物イオン伝導性が比較的高いため、SOFCの固体電解質として好ましい。
【0012】
ここで開示されるSOFCの好ましい他の一態様では、上記Ce層は上記結晶性セリウム酸化物の焼結体により形成されており、該焼結体の焼結粒径の電子顕微鏡観察に基づく平均値が少なくとも2μmであることを特徴とする。
かかる構成のSOFCでは、Ce層を構成する結晶性セリウム酸化物の間で生じる粒界抵抗が小さくなるため、Ce層におけるイオン伝導性がより高くなる。
【0013】
また、本発明は、上記目的を実現するための他の側面として、上記SOFCの製造方法を提供する。即ち、ここで開示される製造方法は、多孔質構造の燃料極と、酸化物イオン伝導体で構成されている緻密構造の固体電解質と、多孔質構造の空気極とからなる積層構造を有する固体酸化物形燃料電池を製造する方法である。かかる製造方法は、
上記固体電解質の空気極側にアモルファス構造のセリウム酸化物からなる中間膜を形成すること;
上記形成したアモルファス構造の中間膜を結晶化処理することにより、結晶性セリウム酸化物で構成された厚さ3μm以下のCe層を空気極側に含む固体電解質を形成すること;
を包含する。
ここで、本明細書において、「固体電解質の空気極側」とは、完成品の固体酸化物形燃料電池における固体電解質の空気極に隣接する側を指すものである。
【0014】
上記構成の製造方法では、アモルファス構造のセリウム酸化物からなる中間膜を形成した後に、該アモルファス構造の中間膜を結晶化処理することにより、結晶性セリウム酸化物で構成されたCe層を空気極側に含む固体電解質を形成する。アモルファス構造のセリウム酸化物は、薄い膜厚で形成することが結晶性セリウム酸化物に比べて容易である。したがって、この製造方法によると、膜厚3μm以下のCe層が上記固体電解質に含まれたSOFCを容易に作成することができる。
【0015】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、スパッタリング法を用いることにより、上記固体電解質の空気極側に上記中間膜を形成する。
このように、中間膜の形成にスパッタリング法を用いることによって、アモルファス構造を有した膜厚の薄い(例えば3μm以下)中間膜を容易に形成できる。上記構成の製造方法では、膜厚の薄い中間膜を結晶化することにより、膜厚3μm以下のCe層が上記固体電解質に含まれたSOFCを容易に作成することができる。
また、上記スパッタリング法は、温度条件を100℃〜250℃に設定して行うと好ましい。上述の温度範囲内で行ったスパッタリング法によって形成された中間膜は、結晶化処理において容易に結晶化することができる。
【0016】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記結晶化処理は、上記中間膜を500℃〜1000℃で熱処理することを含む。
上述の課題の項で説明したように、1400℃以上の高温域の加熱によりCe層の焼成を行うと、多孔質構造の燃料極が緻密化してしまい、燃料極における三相界面の数が大幅に減少するという不具合が生じる虞がある。ここで開示される製造方法によると、1000℃以下の熱処理でCe層の結晶化を行っているため、加熱によって燃料極が緻密化することを防止できる。
また、上述したように、温度条件を100℃〜250℃に設定したスパッタリング法を用いると、結晶化が容易な中間膜が得られる。かかる中間膜は、1000℃以下の熱処理でも容易に結晶化することができる。すなわち、上記温度範囲内のスパッタリング法で中間膜を形成し、該中間膜を1000℃以下の熱処理で結晶化させた場合、燃料極を緻密化させずに、膜厚3μm以下のCe層を有した緻密構造の固体電解質をさらに容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るSOFCを模式的に示す断面図である。
【図2】比較例として作製した一サンプルのSEM写真である。
【図3】実施例として作製した一サンプルのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、固体電解質の構成、固体電解質の作製方法)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、SOFCの詳細な構築方法など)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
<SOFCの構成>
ここで開示されるSOFCは、燃料極と、Ce層を含んだ固体電解質と、空気極とからなる積層構造を有することにより特徴付けられる固体酸化物形燃料電池であり、他の構成成分の内容や組成などについては、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の基準に照らして決定することができる。
以下、ここで開示されるSOFCの構成について図1を参照しながら説明する。図1に示す構成のSOFC100は、アノード支持型のSOFCの一例を示したものである。
【0020】
A.燃料極
上記SOFCを構成する燃料極(アノード)は多孔質構造を有している。かかる燃料極を構成する材料としては、例えば、ニッケル(Ni)やルテニウム(Ru)などの8族〜10族の金属元素(若しくは白金族元素)と、セラミック(例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)など)とのサーメットからなる多孔質材料が好適に採用される。
また、燃料極の形状は、SOFCの形状に応じて適宜選択し得る。例えば、シート状(または平板状)、もしくは燃料ガスを燃料極内に流入させるための中空部(ガス流路)を備えた中空箱型状や筒状形状、または中空扁平状(フラットチューブラ−状)などが挙げられる。図1に示す構成のSOFC100では、厚く形成されたシート状の燃料極10がSOFC100の支持体として形成されている。
【0021】
B.固体電解質
固体電解質は、酸化物イオン伝導体で構成されており、緻密構造を有している。固体電解質は、上記燃料極上に積層されており、上記燃料極の形状に応じて、その形状を適宜変更することができる。例えば、図1で示すように、シート状の燃料極10の上に積層されている固体電解質20は、燃料極10と同様にシート状に形成されている。
ここで開示されるSOFCの固体電解質は、少なくとも2つ以上の層が積層した多層構造を有している。かかる多層構造の固体電解質の空気極に接する側には、結晶性セリウム酸化物で構成されたCe層が含まれている。また、上記固体電解質に含まれるCe層以外の層としては、固体電解質の主体として用いられ得る材料(例えば、ジルコニウム酸化物)から構成された層などが挙げられる。図1に示す構成のSOFC100では、固体電解質20は、結晶性セリウム酸化物からなるCe層24と、ジルコニウム酸化物からなるZr層22とを積層させた二層構造を有している。
なお、本発明のSOFCの固体電解質は、図1のように二層構造を有しているものに限定されず、三層以上の層から構成されていてもよい。
【0022】
B−1.Zr層
Zr層22は、固体電解質20の主体として用いられるジルコニウム酸化物で構成された層であり、上記燃料極10の表面に積層されている。このZr層22の具体的な構成材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)などが挙げられる。また、上記燃料極10の材料として8族〜10族の金属元素(若しくは白金族元素)と、セラミックとのサーメットを用いている場合、該サーメットに含まれるセラミックと同じ材料でZr層22を構成すると好ましい。
また、Zr層22は、ジルコニウム酸化物が密に配置されることによって構成されており、緻密構造を有している。このZr層22の厚さは、50μm以下(典型的には1μm以上50μm以下、好ましくは10μm以上30μm以下)であると好ましい。
【0023】
B−2.Ce層
上述のように、ここで開示されるSOFCでは、固体電解質の空気極に接する側にCe層が含まれている。図1に示す構成のSOFC100では、シート状のZr層22の上に、薄膜状のCe層24が積層されることによって固体電解質20が構成されている。Ce層の厚さは、3μm以下(典型的には0.01μm以上3μm以下、好ましくは1μm以上2.5μm以下)である。ここでは、Ce層の厚みを3μm以下にすることによって、固体電解質全体の膜厚を薄くし、酸化物イオン透過性に優れた固体電解質を実現している。
【0024】
上記Ce層は、セリウム酸化物で構成されている。ここで、セリウム酸化物とは、構成元素の一つにセリウム(Ce)を含む酸化物であり、酸化物イオン伝導性を有している。かかるセリウム酸化物は、セリウム以外の構成元素として、ガドリニウム(Gd),サマリウム(Sm),ネオジム(Nd)から成る群から選択される1種または2種以上の元素を含んでいるとよい。これらの中でも、酸化セリウム(セリア)にガドリニウムをドープさせたガドリニウムドープドセリア(GDC)や、サマリウムをドープさせたサマリウムドープドセリア(SDC)を好適に用いることができる。
【0025】
また、Ce層は、上記セリウム酸化物を結晶化させた結晶性セリウム酸化物で構成されている。本発明を限定するものではないが、結晶性セリウム酸化物の結晶構造は、立方晶系や正方晶系、若しくは立方晶系と正方晶系の混晶などから構成されていると好ましい。結晶性セリウム酸化物で構成されたCe層は、いわゆる緻密構造を有しているため、厚みが3μm以下であっても固相反応を好適に防止することができる。
結晶性セリウム酸化物で構成されたCe層は、例えば、アモルファス構造を有したセリウム酸化物からなる中間膜を1000℃以下(典型的には500℃〜1000℃、例えば800℃付近)で焼成するという方法で形成できる。この方法によって形成されたCe層は、結晶性セリウム酸化物の焼結体として構成される。典型的には、結晶性セリウム酸化物の焼結体は、電子顕微鏡観察に基づいて測定された焼結粒径の平均値が少なくとも2μm(典型的には2μm〜10μm、好ましくは2μm〜5μm)であると好ましい。Ce層が上記数値範囲の焼結粒径を有した焼結体で構成されている場合、焼結体間の粒界抵抗が小さくなるため、固体電解質のイオン伝導性がさらに向上する。
【0026】
C.空気極
空気極(カソード)は多孔質構造を有している。この空気極は、上記固体電解質層上に積層されているとともに、酸素ガス(例えば空気)と接触可能に形成されている。図1に示す構成のSOFC100では、空気極30は、固体電解質20のCe層24の上に積層されており、Ce層24に接する面の反対側の面が外気(空気)に晒されている。
空気極は、酸化物イオン伝導性のペロブスカイト型酸化物を主体に構成されているとよい。かかるペロブスカイト型酸化物の中でも、ランタンコバルトネート(LaCoO)系やランタンマンガネート(LaMnO)系のペロブスカイト型酸化物がより好適に作用できる。上記ペロブスカイト型酸化物で構成された空気極は、混合導電性および低い過電圧を示すため、SOFCの電池性能を向上させることができる。
また、一般的に、ペロブスカイト型酸化物で構成された空気極は、ジルコニウム酸化物からなる固体電解質と固相反応を起こしやすいという性質を有している。これに対して、ここで開示されるSOFCでは、固体電解質の空気極に接する側に上記Ce層が含まれているため、ジルコニウム酸化物(図1ではZr層22)とペロブスカイト型酸化物(図1では空気極30)とが直接接触することを防止し、上記固相反応を好適に防止している。
【0027】
<SOFCの製造方法>
次に、上記SOFCを製造する方法について説明する。
ここで開示されるSOFCの製造方法は、
(1)固体電解質の空気極側にアモルファス構造のセリウム酸化物からなる中間膜を形成すること;
(2)形成したアモルファス構造の中間膜を結晶化処理することにより、結晶性セリウム酸化物で構成された厚さ3μm以下のCe層を空気極側に含む固体電解質を形成すること;を包含する。なお、この製造方法における他の工程については、従来のSOFCの製造方法と同様の工程を適用することができる。以下では、本発明の製造方法の一例として、図1に示す構成のSOFC100を製造する方法を説明する。
【0028】
1.燃料極の形成
上記アノード支持型のSOFC100を製造するには、まず、支持基材(支持体)として多孔質構造の燃料極10を形成する。ここでは、所定のサーメット材料(例えば、平均粒径(光散乱法若しくは電子顕微鏡観察に基づく。以下同じ。)が0.1μm〜10μm程度のYSZ粉末と平均粒径1μm〜10μm程度のNiO粉末の混合粉末)をバインダーと分散剤とともに溶媒に分散させてなるスラリー状の燃料極用成形材料を調製する。次いで、かかる成形材料を用いて、例えばシート成形等により燃料極成形体を作製する。
【0029】
2.固体電解質の形成
次に、上記燃料極10上に固体電解質20を形成する。図1に示す構成のSOFC100の場合、燃料極10上にZr層22を積層させた後に、Zr層22の上にCe層24を積層させることによって、燃料極10上に固体電解質20を形成する。
【0030】
2−1.Zr層の形成
上述のように、先ず、Zr層22を燃料極10の表面に積層する。具体的には、所定の材料(例えば平均粒径0.1μm〜10μm程度のYSZ粉末、バインダー、分散剤、溶媒)を混合してスラリー状(ペースト状)のZr層用材料を調製する。そして、印刷成形を用いて、上記Zr層用材料を燃料極成形体の上に塗布して、Zr層成形体を形成する。そして、このZr層成形体を乾燥させた後に、該Zr層成形体と燃料極成形体を大気中において1200℃〜1400℃の焼成温度で焼成する。これにより、燃料極成形体が焼結して燃料極10になるとともに、Zr層用材料が焼結してZr層22になる
【0031】
2−2.Ce層の形成
次に、結晶性セリウム酸化物で構成された厚さ3μm以下のCe層を、固体電解質の空気極側に形成する。
【0032】
2−2−1.中間膜の形成
Ce層を形成するには、先ず、(1)固体電解質の空気極側に、アモルファス構造のセリウム酸化物からなる中間膜を形成する。図1に示す構成のSOFC100では、中間膜をZr層22の表面に積層させることによって、固体電解質20の空気極30側に中間膜が形成される。
アモルファス構造の中間膜を形成するには、例えば、種々のスパッタリング法(特に好ましくはRFスパッタリング法)が好ましく用いられる。スパッタリング法を用いた場合、アモルファス構造を有した厚さ3μm以下の中間膜を容易に形成することができる。スパッタリング時の成膜温度は、100℃〜250℃(好ましくは100℃〜200℃)に設定するとよい。上述の数値範囲内の温度でスパッタリングを実施することにより、後述の結晶化処理において好適に結晶化できる中間膜を形成できる。また、成膜時間は、作製される中間膜の膜厚に影響するため3μm以下の中間膜が形成されるように、適宜変更するとよい。たとえば、スパッタリングターゲットを、4インチのガドリニウムドープドセリア(GDC)とした場合には、成膜時間は5分〜120分(好ましくは30分〜90分、例えば60分)に設定するとよい。また、スパッタガスには、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス、クリプトン(Kr)ガスなどを用いることができる。
【0033】
2−2−2.中間膜の結晶化処理
ここで開示される製造方法では、次いで、(2)形成したアモルファス構造の中間膜を結晶化処理することにより、結晶性セリウム酸化物で構成された厚さ3μm以下のCe層を空気極側に含んだ固体電解質を形成する。
上記結晶化処理には、従来公知の種々の方法を用いることができる。例えば、燃料極とZr層と中間膜とが積層した積層体を1000℃以下(典型的には700℃〜900℃、例えば800℃付近)で焼成することによって結晶化処理を実施することができる。この場合、焼成温度が1000℃以下に設定されているため、中間膜とともに加熱される燃料極10の焼結が進行することを防止できる。また、このときの加熱時間は、20分〜120分(好ましくは30分〜90分、例えば60分程度)に設定するとよい。また、上記加熱処理は、酸化雰囲気下で実施してもよいし、不活性雰囲気下で実施してもよい。なお、上記加熱処理を1000℃以下の温度で行う場合、予め中間膜の成膜温度を100℃〜250℃に設定しておくと好ましい。100℃〜250℃で成膜された中間膜は、比較的に低温域(ここでは1000℃以下)でも容易に結晶化されるため、1000℃以下の温度で加熱した場合であっても、結晶化セリウム酸化物からなるCe層を容易に形成することができる。
結晶化処理を実施すると、アモルファス構造のセリウム酸化物からなる中間膜が結晶化しCe層24が形成される。すなわち、上述の工程を経ることによって、結晶性セリウム酸化物で構成された厚さ3μm以下のCe層24を空気極30側に含む固体電解質20が形成される。
【0034】
3.空気極の形成
ここで開示される製造方法では、次に、Ce層を含む固体電解質上に空気極を積層させる。ここでは、所定の材料(例えば平均粒径1μm〜10μm程度のLaSrO粉末、バインダー、分散剤、溶媒)からなるスラリー状の空気極用成形材料を調製する。この空気極用成形材料を上記固体電解質20のCe層24上に膜厚100μm以下(典型的には1μm〜100μm、好ましくは10μm〜100μm、例えば10μm〜50μm)で印刷成形することにより未焼成の空気極成形体を形成する。これを乾燥後、大気中において1000℃〜1200℃の焼成温度で焼成し、固体電解質20(Ce層24)上に空気極30を積層する。このとき、固体電解質20の空気極側には、Ce層24が含まれているため、空気極30の焼成時における固体電解質20と空気極30との固相反応が好適に防止されている。
以上の工程を経て、燃料極10、Ce層24を含む固体電解質20、空気極30の順に積層された構造のアノード支持形のSOFC100が製造される。
【0035】
<SOFCの使用方法>
図1に示すようなアノード支持型のSOFC100では、燃料ガスを供給するガス管40の接合面40aと燃料極10の端部10aとを接合させるとともに、空気極30を外気に露出させることによって発電システムを構築することができる。
【0036】
上記構成の発電システムでは、SOFC100の空気極30において空気中の酸素から酸化物イオン(O2−:酸素イオンとも呼ばれる。)を得る。この酸化物イオンは、空気極30から固体電解質20へと運ばれ、固体電解質20内を通って燃料極10に到達し、燃料ガス中の水素(H)と反応し電子を放出する。このようにして、上記構成の発電システムは発電を行う。
ここで開示されるSOFC100では、固体電解質20の空気極30と接触する側の面にCe層24が含まれていることにより、固相反応が防止されている。また、3μm以下という薄い膜厚でCe層24が構成されているため、固体電解質20全体のイオン伝導性が高い状態で維持されている。すなわち、ここで開示されるSOFC100では、空気極−燃料極間の酸化物イオン伝導性が高くなることにより高い電池性能を実現している。
【0037】
<実施例>
次に、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。以下の実施例では、作製条件を変えて、9種類のCe層の作製を試みた。
【0038】
(サンプル1)
先ず、平均粒径1μmのイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末と、平均粒径3μmの酸化ニッケル(NiO)粉末とを混ぜ合わせた混合粒子に、バインダーと分散剤と溶媒を添加して、スラリー状の燃料極用成形材料を調整した。かかる成形材料を用いて、シート成形を行い、φ20mm、厚み1mm程度の燃料極用成形体を成形した。
【0039】
次に、平均粒径1μmのYSZ粉末にバインダーと分散剤と溶媒を添加して、スラリー状のZr層成形材料を調整した。そして、Zr層成形材料を上記燃料極用成形体上に印刷成形して、φ16mm、厚み10μm〜30μmのZr層成形体を形成した。そして、積層した2つの成形体を乾燥させた後に、焼成(温度:1200℃〜1400℃、時間:1時間〜6時間)し、燃料極とZr層とが積層した積層体を作製した。
【0040】
次に、RFスパッタリング装置(株式会社アルバック製、型番:isp−2000−HCI−SS)を用いて、上記積層体のZr層側に中間膜を成膜した。具体的には、スパッタリングターゲットとして、直径4インチの円板形ガドリニウムドープドセリア(Gd0.2Ce0.8)(以下、「GDC」と称する。)を用いた。また、成膜温度を25℃、成膜時間を5分に設定し、上記ターゲットに150Wの交流電流を印加して、RFスパッタリングを行った。これにより、上記積層体のZr層側に、GDCからなる膜厚0.1μmの中間膜を成膜した。かかる中間膜の構造をX線回折(XRD)で確認した所、中間膜はアモルファス構造を有していた。
【0041】
次に、上記中間膜に結晶化処理を実施した。ここでは、結晶化処理として800℃1時間の焼成を実施した。これによって、中間膜を構成するGDCが結晶化して、Ce層(膜厚:0.1μm)を含む固体電解質と燃料極とが積層した積層体(以下、「サンプル1」と称する。)が得られた。
【0042】
(サンプル2)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を25℃、成膜時間を60分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル2を作製した。これによって得られたサンプル2では、Ce層の厚さが1.3μmであった。
【0043】
(サンプル3)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を100℃、成膜時間を5分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル3を作製した。これによって得られたサンプル3では、Ce層の厚さが0.1μmであった。
【0044】
(サンプル4)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を100℃、成膜時間を60分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル4を作製した。これによって得られたサンプル4では、Ce層の厚さが1.5μmであった。
【0045】
(サンプル5)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を200℃、成膜時間を5分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル5を作製した。これによって得られたサンプル5では、Ce層の厚さが0.3μmであった。
【0046】
(サンプル6)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を200℃、成膜時間を60分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル6を作製した。これによって得られたサンプル6では、Ce層の厚さが2.5μmであった。
【0047】
(サンプル7)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を300℃、成膜時間を5分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル7を作製した。これによって得られたサンプル7では、Ce層が剥離してしまった。
【0048】
(サンプル8)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を300℃、成膜時間を60分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル8を作製した。これによって得られたサンプル8では、Ce層が剥離してしまった。
【0049】
(サンプル9)
ここでは、上記中間膜の成膜において、RFスパッタリング法の代わりにスラリー塗布法を用いた。具体的には、平均粒径1μmのGDC粉末と、バインダー(PVA:polyvinyl alcohol)と、分散媒(水)とを混合したスラリーを調整し、該スラリーを上記Zr層の表面に膜厚が10μmになるように塗布した。
そして、該スラリーが塗布された積層体を800℃〜1000℃、6時間で加熱して、サンプル9を作製した。これによって得られたサンプル9では、上記スラリーが焼結しておらず、Ce層が形成されなかった。
【0050】
上記サンプル1〜9の成膜条件を下記の表1に纏める。下記表の「結果」における「○」は、GDCが好適に結晶化したものを示している。また、「△」は、GDCが結晶化していないものを示している。また、「×」は、Ce層自体が形成されなかった(Ce層が剥離した)ものを示している。なお、上述のように、サンプル9では、Ce層が焼成しなかった。
【0051】
【表1】

【0052】
(サンプル1〜9のSEM観察)
上記サンプル1〜9の固体電解質の表面をSEMで観察した。図2は比較例として作製し、GDCが結晶化しなかったサンプル2のSEM写真であり、図3は実施例として作製し、GDCが好適に結晶化していたサンプル6のSEM写真である。
【0053】
図2及び図3に示すように、サンプル2(図2参照)のCe層に比べて、サンプル6(図3参照)のCe層の方が、表面に形成されている空孔の数が少なく、緻密な構造を有していることが分かった。ここでは図示を省略するが、サンプル1は、サンプル2と同様に多くの空孔が形成されており、緻密構造を有していなかった。また、サンプル3〜5は、サンプル6と同様に緻密構造を有していた。さらに、上述したように、サンプル7,8では、Ce層が剥離してしまい、サンプル9では中間膜が焼成されず、Ce層が得られなかった。
【0054】
以上の結果から、成膜温度を100℃以上200℃以下に設定したRFスパッタリング法で成膜されたアモルファス構造を有した中間膜は、800℃で加熱することにより容易に結晶化できると分かった。
【0055】
また、図3に示すように、サンプル6では、結晶性GDCの焼結体でCe層が構成されており、該焼結粒径の平均値が2μm以上であった。焼結粒径2μm以上の焼結体で構成されたCe層では、焼結体の間に構成される粒界の面積が少なくなるので、Ce層全体における粒界抵抗が小さくなりイオン伝導性能が高くなると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のSOFCは、固体電解質のイオン伝導性を低下させずに、空気極−固体電解質間における固相反応を防止することができる。このため、かかるSOFCは電池性能が向上している。また、本発明の製造方法は、結晶化セリウム酸化物からなる膜厚3μm以下のCe層を含む固体電解質を有したSOFCを容易に製造できる。かかるSOFCは上述のように、電池性能が向上している。
【符号の説明】
【0057】
10 燃料極
20 固体電解質
22 Zr層
24 Ce層
30 空気極
40 ガス管
100 固体酸化物形燃料電池(SOFC)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池であって、
多孔質構造の燃料極と、酸化物イオン伝導体で構成されている緻密構造の固体電解質と、多孔質構造の空気極とからなる積層構造を有しており、
ここで前記固体電解質は、前記空気極に接する側に、厚さ3μm以下の結晶性セリウム酸化物で構成されたCe層を含むことを特徴とする、固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記セリウム酸化物は、Gd、Sm及びNdから成る群から選択される1種又は2種以上の元素を含むセリウム複合酸化物であることを特徴とする、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記Ce層は前記結晶性セリウム酸化物の焼結体により形成されており、該焼結体の焼結粒径の電子顕微鏡観察に基づく平均値が少なくとも2μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記空気極は、酸化物イオン伝導性のペロブスカイト型酸化物を主体に構成されていることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
多孔質構造の燃料極と、酸化物イオン伝導体で構成されている緻密構造の固体電解質と、多孔質構造の空気極とからなる積層構造を有する固体酸化物形燃料電池を製造する方法であって、
前記固体電解質の空気極側にアモルファス構造のセリウム酸化物からなる中間膜を形成すること;
前記形成したアモルファス構造の中間膜を結晶化処理することにより、結晶性セリウム酸化物で構成された厚さ3μm以下のCe層を空気極側に含む固体電解質を形成すること;
を包含することを特徴とする、製造方法。
【請求項6】
スパッタリング法を用いることにより、前記固体電解質の空気極側に前記中間膜を形成することを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
100℃〜250℃の温度条件で前記スパッタリング法を行うことを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記結晶化処理は、前記中間膜を500℃〜1000℃で熱処理することを含むことを特徴とする、請求項5〜7の何れか一項に記載の製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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