説明

固体酸化物形燃料電池及びその製造方法

【課題】高い酸化物イオン伝導性を有するとともに、燃料極−空気極間の電子伝導を好適に防止できる固体電解質を備えた固体酸化物形燃料電池を提供する。
【解決手段】
本発明のSOFC100は、多孔質構造の燃料極10と、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質20と、多孔質構造の空気極30とからなる積層構造を有する。ここで、上記固体電解質20は、一般式:(Ln1−xAe)(M1−yFe)O3−δ(1)で示されるペロブスカイト型酸化物からなる第1固体電解質層22と、セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアからなる第2固体電解質層24とを少なくとも含む多層構造固体電解質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に「SOFC」と呼称される固体酸化物形燃料電池は、種々のタイプの燃料電池の中でも、発電効率が高い、環境への負荷が低い、そして、多用な燃料の使用が可能であるなどの利点を有している。
固体酸化物形燃料電池は、多孔質構造を有する燃料極(アノード)、酸化物イオン伝導体からなる緻密な固体電解質(例えば緻密膜層)、多孔質構造を有する空気極(カソード)の順に積層された積層構造を有している。かかる構造の固体酸化物形燃料電池では、燃料極に燃料ガス(典型的には水素(H)ガスやメタン(CH)ガス等)が供給され、空気極に酸素(O)含有ガス(典型的には空気)が供給されることによって発電する。具体的には、空気極において酸素含有ガス中の酸素原子が酸化物イオン(O2−)となり、該酸化物イオンが固体電解質を通過し、燃料極で燃料ガスと反応して電子(e)を放出する。これによって、固体電解質を挟んで配置された燃料極−空気極間で電位差が生じ、燃料極と空気極とを接続した回路に電流が流れる。
【0003】
固体酸化物形燃料電池の固体電解質は、上記酸化物イオンを好適に通過させるために、酸化物イオン伝導性の高い材料で構成される。また、固体電解質は、燃料極−空気極間の電位差を高い状態で保つために、電子伝導性の低い材料で構成される。固体電解質には、その他に還元耐久性や機械的強度などが求められる。このような固体電解質の一例として、安定化ジルコニア(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ))が挙げられる。安定化ジルコニアは、化学的に安定しており、機械的強度が強く、電子伝導性が低いという特徴を有している。
【0004】
しかしながら、安定化ジルコニアは、低温環境下(例えば1000℃以下)において酸化物イオン伝導性が低くなるという特性を有しているため、低温稼働型の固体酸化物形燃料電池で使用することが難しい。このため、固体電解質の材料として、ペロブスカイト構造を有する酸化物(以下「ペロブスカイト型酸化物」という。)の研究開発が進められている。ペロブスカイト型酸化物は、安定化ジルコニアに比べて酸化物イオン伝導性が高く、また、低温環境下においても酸化物イオン伝導性が低下しにくいという特徴を有している。特許文献1には、ペロブスカイト型酸化物を含む固体電解質が開示されている。その他、SOFCに関する従来技術として例えば特許文献2,3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−243743号公報
【特許文献2】特開2007−73272号公報
【特許文献3】特開2003−346818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、ペロブスカイト型酸化物は、低温環境下でも当該酸化物イオン伝導性が低下しにくいため、低温稼働型の固体酸化物形燃料電池に用いられ得る。しかしながら、ペロブスカイト型酸化物は、酸化物イオン伝導性だけではなく電子伝導性も有した混合伝導体である。したがって、ペロブスカイト型酸化物からなる固体電解質を用いた場合、酸化物イオン伝導性が向上する反面、固体電解質を通じて燃料極−空気極間で電子が授受され、固体酸化物形燃料電池の起電力が低下するという問題が生じる。
【0007】
本発明は、かかる問題を鑑みて創出されたものであり、その目的は、高い酸化物イオン伝導性を有するとともに、燃料極−空気極間の電子伝導を防止できる構成の固体電解質を備えた固体酸化物形燃料電池を提供することである。また、そのような固体酸化物形燃料電池を好適に製造し得る方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、本発明によって以下の構成の固体酸化物形燃料電池(以下「SOFC」ともいう。)が提供される。
即ち、ここで開示されるSOFCは、多孔質構造の燃料極と、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質と、多孔質構造の空気極とからなる積層構造を有する。ここで、上記固体電解質は、一般式(1):
(Ln1−xAe)(M1−yFe)O3−δ (1)
で示されるペロブスカイト型酸化物からなる第1固体電解質層と、セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアからなる第2固体電解質層とを少なくとも含む多層構造固体電解質である。
ここで、上記一般式(1)中のLnはランタノイドから選択される少なくとも1種の元素であり、AeはSr,Ca及びBaからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、MはMg,Mn,Ga,Ti,Co,Ni,Al,Cu,In,Sn,Zr,V,Cr,Zn,Ge,Sc及びYからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、xは0≦x≦1を満たす実数であり、yは0<y≦1を満たす実数であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。
【0009】
上記構成のSOFCは、第1固体電解質層と第2固体電解質層とを少なくとも含む多層構造固体電解質を有している。ペロブスカイト型酸化物からなる第1固体電解質層は、高い酸化物イオン伝導性を有しており、低温環境下でも酸化物イオン伝導性が低下しにくいという特徴を有している。一方、セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアからなる第2固体電解質層は、電子伝導性が低く、固体電解質を通過しようとする電子を遮断することができるため、電子伝導バリアとして機能させることができる。すなわち、ここで開示されるSOFCによれば、高い酸化物イオン伝導性を有するとともに、燃料極−空気極間における電子伝導を遮断できる固体電解質を備えているため、高い発電性能を発揮することができる。また、上述のように、上記SOFCは、低温環境下でも酸化物イオン伝導性が低下しにくい第1固体電解質層を備えているため、低温環境下で好適に稼働させることができる。
また、上記第1固体電解質層の酸化物イオン伝導率が0.3S/cm以上であることが好ましい。
【0010】
ここで開示されるSOFCの好ましい一態様では、上記一般式(1)中のMは、Ti及びAlの何れか1種若しくは両方を含む。かかる構成のペロブスカイト型酸化物からなる第1固体電解質層は、高い酸化物イオン伝導性を有する。
【0011】
ここで開示されるSOFCの好ましい一態様では、上記第2固体電解質層は、還元膨張率が0.1%以下であり、上記燃料極側に配置されている。
一般的に、高い酸化物イオン伝導性を有する固体電解質用材料は、還元雰囲気下において大きな体積膨張を示すため、還元雰囲気下における耐久性が低くなる。これに対して、上記構成のSOFCでは、還元膨張率が0.1%以下の第2固体電解質層が、還元雰囲気となる燃料極側に配置されているため、第1固体電解質層を還元雰囲気から好適に保護することができる。
なお、本明細書において「還元膨張率(%)」は、還元雰囲気下における熱膨張率をEred(%)、空気雰囲気下における熱膨張率をEair(%)としたとき、下記の数式(2)によって与えられる値である。
[{(1+Ered/100)-(1+Eair/100)}/(1+Eair/100)]×100 (2)
【0012】
また、ここで開示されるSOFCの好ましい一態様では、上記第2固体電解質層は、緻密構造を有した膜厚3μm以下の薄膜状に形成されている。
本態様のSOFCでは、相対的に酸化物イオン伝導性の低い第2固体電解質層が3μm以下の薄膜として形成されているため、固体電解質全体の酸化物イオン伝導性を高い状態に維持することができる。また、かかる第2固体電解質層は、緻密構造を有しているため、3μm以下という薄い膜厚であっても燃料極−空気極間の電子伝導を好適に遮断することができる。
【0013】
また、ここで開示されるSOFCの好ましい一態様では、上記第2固体電解質層は、上記セリウム酸化物若しくは上記安定化ジルコニアの焼結体により構成されており、該焼結体の焼結粒径の電子顕微鏡観察に基づく平均値が少なくとも1μmであることを特徴とする。
かかる構成のSOFCでは、平均値が少なくとも1μmであるような比較的大きい焼結粒径を有する焼結体で第2固体電解質層が構成されているため、第2固体電解質層を構成する粒子の粒界抵抗が小さくなり、第2固体電解質層のイオン伝導性を向上させることができる。
【0014】
また、ここで開示されるSOFCの好ましい一態様では、上記第2固体電解質層は、希土類に属する元素(例えばSc,Y,La,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)及びCaのうちから選択される何れか1種又は2種以上の元素を含むセリウム酸化物で構成されていることを特徴とする。
希土類に属する元素(好ましくはGd、Sm、Y)及びCaのうちから選択される何れか1種又は2種以上の元素を含む(ドープされた)ことにより結晶構造が安定化されたセリウム酸化物(即ち安定化セリア)は酸化物イオン伝導性が比較的高い。このため、かかる組成のセリウム酸化物(安定化セリア)で第2固体電解質層を構成することによって固体電解質全体の酸化物イオン伝導性を向上させることができる。
【0015】
また、ここで開示されるSOFCの好ましい一態様では、上記第2固体電解質層は、Y、Sc及びCaから成る群から選択される1種又は2種以上の元素を含む安定化ジルコニアで構成されていることを特徴とする。
上述した何れかの元素を含む(ドープされた)安定化ジルコニアは還元膨張率が比較的低いため、かかる安定化ジルコニアで第2固体電解質層を構成することによって還元雰囲気下における耐久性が高い固体電解質を得ることができる。
【0016】
また、本発明は、上記目的を実現するための他の側面として、上記SOFCの製造方法を提供する。即ち、ここで開示される製造方法は、多孔質構造の燃料極と、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質と、多孔質構造の空気極とからなる積層構造を有した固体酸化物形燃料電池を製造する方法である。かかる製造方法は、以下の一般式(1):
(Ln1−xAe)(M1−yFe)O3−δ (1)
で示されるペロブスカイト型酸化物で構成されている第1固体電解質層を形成すること;
前記第1固体電解質層の表面に、セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアからなる第2固体電解質層を形成すること;
を包含することを特徴とする。
ここで、上記一般式(1)中のLnはランタノイドから選択される少なくとも1種の元素であり、AeはSr,Ca及びBaからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、MはMg,Mn,Ga,Ti,Co,Ni,Al,Cu,In,Sn,Zr,V,Cr,Zn,Ge,Sc及びYからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、xは0≦x≦1を満たす実数であり、yは0<y≦1を満たす実数であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。
【0017】
上記構成の製造方法によると、ペロブスカイト型酸化物で構成されている第1固体電解質層と、セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアからなる第2固体電解質層とを少なくとも含む多層構造固体電解質を有するSOFCを製造することができる。かかる構成のSOFCは、上述のように、高い酸化物イオン伝導性を有するとともに、燃料極−空気極間における電子伝導を遮断できる固体電解質を備えているため、高い電池性能を発揮することができる。
【0018】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記第2固体電解質層の形成において、
上記第1固体電解質層の表面に、セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアのアモルファス構造体からなる中間膜を形成すること;
上記形成したアモルファス構造の中間膜を結晶化処理することにより、緻密構造を有した第2固体電解質層を形成すること;
を包含する。
上記構成の製造方法では、アモルファス構造体からなる中間膜を形成した後に、該中間膜を結晶化処理することにより、緻密構造を有した第2固体電解質層を形成する。ここで、アモルファス構造体からなる中間膜は、薄い膜厚(例えば膜厚3μm以下)で形成する。この中間膜を結晶化することによって膜厚3μm以下の薄膜状の第2固体電解質層を容易に形成することができる。また、かかる製造方法では、結晶化処理を行っているため緻密構造を有した第2固体電解質層を形成することができる。すなわち、かかる製造方法によれば、燃料極−空気極間における電子伝導を遮断でき、高い酸化物イオン伝導性を有する固体電解質を形成することができる。
【0019】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、スパッタリング法を用いることにより、上記第1固体電解質層の表面に上記中間膜を形成する。中間膜の形成にスパッタリング法を用いることによって、アモルファス構造体からなる膜厚の薄い(例えば3μm以下)中間膜を容易に形成できる。
また、上記スパッタリング法は、温度条件を100℃〜250℃に設定して行うと好ましい。上述の温度範囲内で行ったスパッタリング法によって形成された中間膜は、結晶化処理において容易に結晶化することができる。
【0020】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記結晶化処理は、上記中間膜を500℃〜1000℃で熱処理することを含む。
一般的に、SOFCの製造過程において、高温(例えば1400℃以上)の加熱を行うと、多孔質構造の燃料極が緻密化してしまい、燃料極における三相界面の数が大幅に減少するという不具合が生じる虞がある。本態様の製造方法によると、1000℃以下の熱処理で第2固体電解質層の結晶化を行っているため、加熱によって燃料極が緻密化することを防止できる。
また、上述したように、温度条件を100℃〜250℃に設定したスパッタリング法を用いると、結晶化が容易な中間膜が得られる。かかる中間膜は、1000℃以下の熱処理でも容易に結晶化することができる。すなわち、上記温度範囲内のスパッタリング法で中間膜を形成し、該中間膜を1000℃以下の熱処理で結晶化させた場合、燃料極を緻密化させずに、緻密構造を有した膜厚3μm以下の第2固体電解質層を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るSOFCを模式的に示す断面図である。
【図2】実施例として作製した一サンプルのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、固体電解質の構成、固体電解質の作製方法)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、SOFCの詳細な構築方法など)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0023】
<SOFCの構成>
ここで開示されるSOFCは、燃料極と、固体電解質と、空気極とからなる積層構造を有している。このSOFCは、上記固体電解質として、ペロブスカイト型酸化物からなる第1固体電解質層と、セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアからなる第2固体電解質層とを少なくとも含む多層構造固体電解質を有することにより特徴付けられており、他の構成成分の内容や組成などについては、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の基準に照らして決定することができる。
以下、ここで開示されるSOFCの構成について図1を参照しながら説明する。図1に示す構成のSOFC100は、アノード支持型のSOFCの一例を示したものである。
【0024】
A.燃料極
上記SOFCを構成する燃料極(アノード)は多孔質構造を有している。かかる燃料極を構成する材料としては、例えば、ニッケル(Ni)やルテニウム(Ru)などの8族〜10族の金属元素(若しくは白金族元素)と、セラミック(例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)など)とのサーメットからなる多孔質材料が好適に採用される。
燃料極の形状は、SOFCの形状に応じて適宜選択し得る。例えば、シート状(または平板状)、もしくは燃料ガスを燃料極内に流入させるための中空部(ガス流路)を備えた中空箱型状や筒状形状、または中空扁平状(フラットチューブラ−状)などが挙げられる。図1に示す構成のSOFC100では、厚く形成されたシート状の燃料極10がSOFC100の支持体として形成されている。かかる支持体としての燃料極10の膜厚は、典型的には0.1mm〜10mm程度であり、好ましくは0.5mm〜5mm程度であるが、かかる膜厚に限定されるものではない。
【0025】
B.固体電解質
固体電解質は、酸化物イオン伝導体で構成されている。固体電解質は、上記燃料極上に積層されており、該燃料極の形状に応じてその形状を適宜変更することができる。例えば、図1で示すように、シート状の燃料極10の上に積層されている固体電解質20は、燃料極10と同様にシート状に形成されている。
ここで開示されるSOFCでは、固体電解質として、第1固体電解質層と、第2固体電解質層とを少なくとも含む多層構造固体電解質が用いられている。図1に示す構成のSOFC100では、上記第1固体電解質層22は燃料極10の上に積層されており、第2固体電解質層24は第1固体電解質層22の上に積層されている。
【0026】
B−1.第1固体電解質層
第1固体電解質層は、ペロブスカイト型酸化物で構成されている。このペロブスカイト型酸化物は、酸化物イオン伝導性と電子伝導性を兼ね備えた混合伝導体である。かかる第1固体電解質層は、後に詳述する第2固体電解質層よりも高い酸化物イオン伝導性を有している。例えば700℃〜900℃の範囲での第1固体電解質層の酸化物イオン伝導率は、0.3S/cm以上(典型的には0.3S/cm以上1S/cm未満、例えば0.3S/cm以上0.5S/cm以下)であるとよい。また、第1固体電解質層は、低温環境下(例えば700℃以下)でも酸化物イオン伝導性が低下し難い特性を有しているものが好ましい。例えば、500℃〜700℃の範囲での酸化物イオン伝導率が0.005S/cm以上(典型的には0.005S/cm以上0.3S/cm以下)であると好ましい。上述のように、高い酸化物イオン伝導性を有するペロブスカイト型酸化物で第1固体電解質層を構成することによって、固体電解質全体の酸化物イオン伝導性を向上させることができる。
【0027】
上記ペロブスカイト型酸化物は、
一般式:(Ln1−xAe)(M1−yFe)O3−δ (1)
で表すことができる。
ここで、上記一般式(1)中のLnは、ランタノイドから選択される少なくとも1種の元素であり、原子番号57〜71の元素(例えば、ランタン(La),セリウム(Ce),プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),サマリウム(Sm)など)のうちのいずれか1種又は2種以上を選択することができる。これらの中でも、Laを特に好ましく用いることができ、Lnとして2種以上の元素を含んでいる場合には上記Laの含有率が高いと好ましい。
また、上記一般式(1)中のAeは、ストロンチウム(Sr),カルシウム(Ca)及びバリウム(Ba)からなる群から選択される1種又は2種以上の元素である。これらの中でも、Sr,Ca(若しくはSrとCaとの組み合わせ)が含まれていると好ましく、Sr又はCaの含有率の高い組成のものが好適であり、Srのみから構成されている、あるいは高い含有率のSrが含まれている(例えば、Ae中においてSrが50モル%以上含まれている)と特に好ましい。
Feと共にペロブスカイト構造を構成する金属元素である上記一般式(1)中のMとしては、マグネシウム(Mg),マンガン(Mn),ガリウム(Ga),チタン(Ti),コバルト(Co),ニッケル(Ni),アルミニウム(Al),銅(Cu),インジウム(In),錫(Sn),ジルコニウム(Zr),バナジウム(V),クロム(Cr),亜鉛(Zn),ゲルマニウム(Ge),スカンジウム(Sc)及びイットリウム(Y)からなる群から選択される1種又は2種以上の元素である。これらの中でも、Ti,Al,Mn、Ni、Co、Cu又はCrのうちのいずれか、あるいはこれらのいずれか2種の組み合わせが好ましく、Ti及びAlの何れか1種若しくは両方を選択すると特に好ましい。かかるTi若しくはAlをFeと共に含むペロブスカイト型酸化物は、高い酸化物イオン伝導性を有する。
また、上記一般式(1)中の「x」は、このペロブスカイト型酸化物において、Ln(典型的にはLa)がAeによって置き換えられた割合を示す値であり、このxの取り得る範囲は、ペロブスカイト型構造を崩すことなく該構造を維持し得る限りにおいて0≦x≦1(典型的には0<x<1)の範囲内であればいずれの実数をとってもよい。本構成の目的に応じて、La(1−x)とAe(x)との組成比は適宜選択されるが、好ましくは0.1≦x≦0.5であり、特に好ましくは0.1≦x≦0.4である。
また、上記一般式(1)で示されるように、上記ペロブスカイト型酸化物は、鉄(Fe)を含んでいる。該一般式中の「y」は、上記ペロブスカイト型酸化物におけるMとFeの組成比を定める値である。このyの取り得る値は、0<y≦1(典型的には0<y<1)の範囲内を満たす実数であればよく、yの値が決定されることによってFe以外の金属元素Mの含有割合も決定される。Fe(y)とM(1−y)との組成比は、本構成の目的に応じて適宜選択することができる。yの値の一例としては、0.5≦y<1であり、好ましくは0.7≦y<1であり、特に好ましくは0.8≦y<1である。
なお、上記一般式において酸素原子数は3以下(典型的には3未満)であり得る。ただし、酸素原子数はペロブスカイト型構造の一部を置換する原子(例えば式中のAeやMの一部)の種類、置換割合及びその他の条件によって、上記一般式(1)における電荷中性条件を満たすように定められる。ここでδは、典型的には1は超えない正の数(0<δ<1)である。なお、上記一般式(1)中の酸素原子数は、上述のように、ペロブスカイト型酸化物を構成する他の元素によって変化するものであるため、正確に表示することは困難である。すなわち、上記一般式(1)中の(3−δ)は、本発明の技術的範囲を限定することを意図したものではない。
上記一般式(1)で示されるペロブスカイト型酸化物の具体例としては、「Ae」としてSrを選択し、「M」としてTiを選択したLSTF酸化物(La1−xSrTi1−yFe3−δ)や、「Ae」としてSrを選択し、「M」としてAlを選択したLSAF酸化物(La1−xSrAl1−yFe3−δ)などが挙げられる。
【0028】
上記第1固体電解質層の形状は、SOFCの全体構成に応じて適宜変更することができる。例えば、シート状の燃料極上に積層させる場合には第1固体電解質層もシート状に形成すると好ましいし、筒状の燃料極上に積層させる場合には第1固体電解質層も筒状に形成すると好ましい。図1に示す構成のSOFC100では、燃料極10上にシート状の第1固体電解質層22が形成されている。このときの第1固体電解質層22の厚みは、5μm〜50μm(好ましくは10μm〜30μm、より好ましくは15μm〜25μm)程度であると好ましい。このように第1固体電解質層22が所定の厚みを有することによって、機械的強度の高い固体電解質20を得ることができる。
【0029】
B−2.第2固体電解質層
第2固体電解質層は、電子伝導性が低い材料で構成されている。電子伝導性が低い材料で構成された第2固体電解質層は、電子伝導バリアとして機能し、固体電解質を通過しようとする電子を遮断する。この第2固体電解質層の電子伝導率は、0.01S/cm以下(典型的には0.0001S/cm〜0.01S/cm)であると好ましい。また、第2固体電解質層は、所定の酸化物イオン伝導性を有しているとよい。第2固体電解質層の酸化物イオン伝導率は、例えば500℃〜900℃の範囲において、0.001S/cm以上(典型的には0.001S/cm以上0.5S/cm以下、例えば0.01S/cm以上0.3S/cm以下)であるとよい。
上述の条件を満たすような第2固体電解質層の構成材料としては、セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアが挙げられる。以下、セリウム酸化物および安定化ジルコニアについて詳しく説明する。
【0030】
先ず、上記第2固体電解質層の構成材料として用いられ得るセリウム酸化物について説明する。かかるセリウム酸化物は、構成元素の一つにセリウム(Ce)を含む酸化物であり、以下の一般式(3):
Ce1−z (3)
で表すことができる。
上記Xは、セリウム酸化物中に含まれ得るセリウム(Ce)以外の構成元素であり、例えば、希土類元素及びCaのうちから選択される何れか1種又は2種以上の元素をとり得る。例えば、希土類元素としてガドリニウム(Gd),サマリウム(Sm),イットリウム(Y)等を好ましく選択することができる。これらの中でもGd,Smが特に好ましく選択され得る。或いは、Caを好適に含み得る。
上記「z」は、上記セリウム酸化物においてCeがXによって置き換えられた割合を示す値であり、この「z」の取り得る範囲は、0≦z<1の範囲内であればいずれの実数をとってもよい。上記セリウム酸化物の好適な例としては、CeO(セリア)が挙げられる。或いは、セリアにGdをドープさせた酸化ガドリニウム安定化セリア(GDC)や、Smをドープさせた酸化サマリウム安定化セリア(SDC)などが挙げられる。
【0031】
上記セリウム酸化物の酸化物イオン伝導率は、例えば、500℃〜900℃の範囲において、0.1S/cm〜0.5S/cm(例えば0.2S/cm〜0.4S/cm)である。また、セリウム酸化物の電子伝導率は、0.01S/cm以下(典型的には0.001S/cm〜0.01S/cmである。上述のように、セリウム酸化物は、低い電子伝導性と、比較的に高い酸化物イオン伝導性を有している。したがって、該セリウム酸化物を用いると、比較的高い酸化物イオン伝導性を有する第2固体電解質層が得られる。
【0032】
次に、上記第2固体電解質層の構成材料として用いられ得る安定化ジルコニアについて説明する。かかる安定化ジルコニアは、ジルコニア(酸化ジルコニウム:ZrO)に所定の元素をドープさせることによって、その構造を安定化させたものである。具体的には、イットリウム(Y)をドープさせたイットリア安定化ジルコニア(YSZ)や、カルシウム(Ca)をドープさせたカルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジウム(Sc)をドープさせたスカンジア安定化ジルコニア(SSZ)などが挙げられる。
【0033】
上記安定化ジルコニアの酸化物イオン伝導率は、例えば、500℃〜900℃の範囲において、0.001S/cm〜0.1S/cm(例えば0.005S/cm〜0.05S/cm程度)である。また、安定化ジルコニアの電子伝導率は、0.001S/cm以下(典型的には0S/cm〜0.001S/cm、好ましくは0S/cm〜0.0001S/cm)であると好ましい。
【0034】
上記材料から構成される第2固体電解質層も、SOFCの全体構成に応じてその形状を適宜変更することができる。図1に示す構成のSOFC100では、シート状の第1固体電解質層22の上に、シート状の第2固体電解質層24が積層されている。
【0035】
また、上記第2固体電解質層は、緻密構造を有していると特に好ましい。このとき、緻密構造を有した第2固体電解質層は、例えば、立方晶系や正方晶系、若しくは立方晶系と正方晶系の混晶などの結晶構造で構成される。かかる緻密構造を有した第2固体電解質層は、膜厚を3μm以下(典型的には0.01μm以上3μm以下、好ましくは1μm以上2.5μm以下)に設定することができる。緻密構造を有した第2固体電解質層は、膜厚が3μm以下であっても、電子伝導バリアとして好適に機能できる。さらに、相対的に酸化物イオン伝導性の低い第2固体電解質層を3μm以下の薄い膜厚で形成することにより、固体電解質全体としての酸化物イオン伝導性を高い状態で維持することできる。
上記緻密構造を有した第2固体電解質層は、例えば、アモルファス構造を有したセリウム酸化物(安定化ジルコニア)を1000℃以下(典型的には700〜900℃、例えば800℃付近)で焼成するという方法で形成できる。この方法を用いて形成された第2固体電解質層は、セリウム酸化物(安定化ジルコニア)の焼結体から構成される。かかる焼結体は、典型的には、電子顕微鏡観察に基づいて測定された焼結粒径の平均値が少なくとも1μm(典型的には1μm〜10μm、例えば2μm〜5μm)であると好ましい。焼結体の焼結粒径が上記数値範囲である場合、第2固体電解質層が大型の粒子で構成されるため、該粒子の粒界抵抗が小さくなり、第2固体電解質層の酸化物イオン伝導性を向上させることができる。
【0036】
C.空気極
ここで開示されるSOFCを構成する空気極(カソード)は多孔質構造を有している。この空気極は、酸化物イオン伝導性のペロブスカイト型酸化物を主体に構成されているとよい。かかるペロブスカイト型酸化物の中でも、ランタンコバルトネート(LaCoO)系やランタンマンガネート(LaMnO)系のペロブスカイト型酸化物がより好適に作用できる。上記ペロブスカイト型酸化物で構成された空気極は、混合導電性および低い過電圧を示すため、SOFCの電池性能を向上させることができる。
また、空気極は、上記固体電解質層上に積層されているとともに、酸素ガス(例えば空気)と接触可能に形成されている。かかる空気極は、燃料極や固体電解質の形状に応じて適宜変更することができる。例えば、図1に示す構成のSOFC100では、固体電解質20の第2固体電解質層24の上にシート状の空気極30が積層されている。このとき、空気極30は、第2固体電解質層24に接する面の反対側の面が外気(空気)に晒されている。かかる空気極30の膜厚は、5μm〜100μm(好ましくは10μm〜50μm)程度であると好ましい。
【0037】
以上、図1を参照しながら、本発明の一実施形態に係るSOFCを説明したが、図1に示す構成は本発明を限定するものではない。例えば、図1に示す構成のSOFC100では、燃料極10側に第1固体電解質層22が配置され、空気極30側に第2固体電解質層24が配置されている。しかし、本発明は、他の実施形態として、燃料極側に第2固体電解質層が配置され、空気極側に第1固体電解質層が配置されている構成も包含する。
かかる構成のSOFCの場合、第2固体電解質層の還元膨張率が0.1%以下(典型的には0.001%〜0.1%、例えば0.005%〜0.1%)であると好ましい。これによって、還元膨張率の低い(0.1%以下)第2固体電解質層が、還元雰囲気となる燃料極側に配置されるため、相対的に還元膨張率の高い第1固体電解質層を還元雰囲気下から好適に保護することができる。
【0038】
また、本発明は、他の実施形態として3層以上の層から構成された多層構造固体電解質を有する構成も包含する。第1固体電解質層と第2固体電解質層以外に、上記多層構造固体電解質を構成する層としては、例えば、LaGaO,LaSrCoFeO,LaSrMnOなどのランタン系セラミック材料からなる層などを設けることができる。
【0039】
<SOFCの製造方法>
次に、上記SOFCを製造する方法について説明する。
ここで開示されるSOFCの製造方法は、
[I]上記一般式(1)で示されるペロブスカイト型酸化物で構成されている第1固体電解質層を形成すること;
[II]第1固体電解質層の表面に、セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアからなる第2固体電解質層を形成すること;
を包含する。なお、この製造方法における他の工程については、従来のSOFCの製造方法と同様の工程を適用することができる。以下では、本発明の製造方法の一例として、図1に示す構成のSOFC100を製造する方法を説明する。
【0040】
1.燃料極の形成
上記アノード支持型のSOFC100を製造するには、まず、支持基材(支持体)として多孔質構造の燃料極10を形成する。ここでは、所定のサーメット材料(例えば平均粒径(光散乱法若しくは電子顕微鏡観察に基づく。以下同じ。)が0.1μm〜10μm程度のYSZ粉末と平均粒径1μm〜10μm程度のNiO粉末の混合粉末)をバインダーと分散剤とともに溶媒に分散させてなるスラリー状の燃料極用成形材料を調製する。次いで、かかる成形材料を用いて、例えばシート成形等により燃料極成形体を作製し、該成形体を焼成することによって燃料極10を形成する。なお、焼成処理は燃料極成形体を作製した後に行ってもよいし、後述の固体電解質の形成において固体電解質の構成材料とともに行ってもよい。
【0041】
2.固体電解質の形成
次に、上記燃料極10上に固体電解質20を形成する。ここでは、[I]ペロブスカイト型酸化物で構成されている第1固体電解質層22を形成した後に、[II]該第1固体電解質層22の表面にセリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアからなる第2固体電解質層24を形成することによって、第1固体電解質層22と第2固体電解質層24を含む固体電解質20を形成する。以下、第1固体電解質層22と第2固体電解質層24を形成する方法について詳しく説明する。
【0042】
2−1.第1固体電解質層の形成
第1固体電解質層22を形成する方法としては、例えば、スラリー塗布法を用いることができる。図1に示す構成のSOFC100では、上述したペロブスカイト型酸化物を含む所定の材料(例えば、平均粒径1μm〜10μm程度のLSTF酸化物の粉末、バインダー、分散剤、溶媒)を混合してスラリー状(ペースト状)の第1固体電解質層用材料を調製する。そして、印刷成形を用いて、上記第1固体電解質層用材料を燃料極10の上に塗布して、第1固体電解質層成形体を形成する。そして、この第1固体電解質層成形体を乾燥させた後に、該第1固体電解質層成形体を大気中において1200℃〜1400℃の焼成温度で焼成する。これにより、第1固体電解質層用材料が焼結して第1固体電解質層22になる。
【0043】
2−2.第2固体電解質層の形成
次に、第2固体電解質層24を形成する方法を説明する。かかる形成方法の一例として、アモルファス構造体からなる中間膜を形成した後に、該中間膜を結晶化処理することによって第2固体電解質層を形成するという方法が挙げられる。かかる成膜方法を用いると、緻密構造を有した膜厚が3μm以下の第2固体電解質層を容易に形成することができる。以下では、上述の方法を用いて、第2固体電解質層24を形成する場合について説明する。
【0044】
2−2−1.中間膜の形成
上記第2固体電解質層22を形成するには、先ず、セリウム酸化物(若しくは安定化ジルコニア)のアモルファス構造体からなる中間膜を形成する。図1に示す構成のSOFC100では、第1固体電解質層22の空気極30側に中間膜を積層させる。アモルファス構造の中間膜を形成するには、例えば、種々のスパッタリング法(特に好ましくはRFスパッタリング法)が好ましく用いられる。スパッタリング法を用いた場合、アモルファス構造を有した厚さ3μm以下の中間膜を容易に形成することができる。スパッタリング時の成膜温度は、100℃〜250℃(好ましくは100℃〜200℃)に設定するとよい。上述の数値範囲内の温度でスパッタリングを実施することにより、後述の結晶化処理において好適に結晶化できる中間膜を形成できる。また、成膜時間やスパッタリングターゲットのサイズは、中間膜の膜厚に影響するため、3μm以下の中間膜が形成されるように適宜変更すると好ましい。例えば、GDCからなる膜厚3μm以下の第2固体電解質層を形成する場合、スパッタリングターゲットを4インチのGDCにして、成膜時間を5分〜120分(好ましくは30分〜90分、例えば60分)に設定するとよい。また、スパッタガスには、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス、クリプトン(Kr)ガスなどを用いることができる。
【0045】
2−2−2.中間膜の結晶化処理
ここでは、次いで、上記アモルファス構造の中間膜を結晶化処理することにより、緻密構造を有した第2固体電解質層24を形成する。
上記結晶化処理には、従来公知の種々の方法を用いることができる。例えば、燃料極10と第1固体電解質層22と中間膜とが積層した積層体を1000℃以下(典型的には700℃〜900℃、例えば800℃付近)で焼成することによって結晶化処理を実施することができる。この場合、焼成温度が1000℃以下に設定されているため、中間膜とともに加熱される燃料極10の焼結が進行することを防止できる。また、このときの加熱時間は、20分〜120分(好ましくは30分〜90分、例えば60分程度)に設定するとよい。また、上記加熱処理は、酸化雰囲気下で実施してもよいし、不活性雰囲気下で実施してもよい。なお、上記加熱処理を1000℃以下の温度で行う場合、上述した中間膜の成膜を100℃〜250℃で実施しておくと好ましい。100℃〜250℃で成膜された中間膜は、比較的に低温域(ここでは1000℃以下)の加熱でも容易に結晶化されるため、1000℃以下の温度で加熱した場合であっても、アモルファス構造体の中間膜を容易に結晶化させることができる。
上記結晶化処理を実施すると、アモルファス構造のセリウム酸化物(若しくは安定化ジルコニア)からなる中間膜が結晶化することによって、緻密構造を有した第2固体電解質層24が形成される。すなわち、上述の工程を経ることによって、緻密構造を有した厚さ3μm以下の第2固体電解質層24を空気極30側に含む固体電解質20が形成される。
【0046】
3.空気極の形成
ここで開示される製造方法では、次に、第1固体電解質層22と第2固体電解質層24を含む固体電解質20上に空気極30を積層させる。ここでは、所定の材料(例えば平均粒径1μm〜10μm程度のLaSrO粉末、バインダー、分散剤、溶媒)からなるスラリー状の空気極用成形材料を調製する。この空気極用成形材料を上記固体電解質20の第2固体電解質層24上に膜厚100μm以下(典型的には1μm〜100μm、好ましくは10μm〜100μm、例えば10μm〜50μm)で印刷成形することにより未焼成の空気極成形体を形成する。これを乾燥後、大気中において1000℃〜1200℃の焼成温度で焼成し、固体電解質20(第2固体電解質層24)上に空気極30を形成する。
以上の工程を経て、燃料極10、第1固体電解質層22と第2固体電解質層24を含む固体電解質20、空気極30の順に積層された構造のアノード支持形のSOFC100が製造される。
【0047】
<SOFCの使用方法>
図1に示すようなアノード支持型のSOFC100では、燃料ガスを供給するガス管40の接合面40aと燃料極10の端部10aとを接合させるとともに、空気極30を外気に露出させることによって発電システムを構築することができる。
【0048】
上記構成の発電システムでは、SOFC100の空気極30において空気中の酸素から酸化物イオンを得る。この酸化物イオンは、空気極30から固体電解質20へと運ばれ、固体電解質20内を通って燃料極10に到達し、燃料ガス中の水素(H)と反応し電子を放出する。このようにして、上記構成の発電システムは発電を行う。
ここで、このSOFC100は、第1固体電解質層22と第2固体電解質層22を含む多層構造固体電解質20を有している。上記ペロブスカイト型酸化物からなる第1固体電解質層22は、高い酸化物イオン伝導性を有しているため、固体電解質20全体の酸化物イオン伝導性を向上させている。さらに、電子伝導性が低いセリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアからなる第2固体電解質層24は、固体電解質20を通過しようとする電子を遮断し、電子伝導バリアとして機能する。したがって、ここで開示されるSOFC100は、高い酸化物イオン伝導性を有するとともに、燃料極−空気極間における電子伝導を好適に遮断できる多層構造固体電解質20を備えているため、高い電池性能(発電効率や起電力の向上)を発揮することができる。
【0049】
<実施例>
次に、本発明に関する実施例を説明する。この実施例では、作製条件を変えて、13種類の固体電解質の作製を試みた。なお、以下で説明する実施例は、本発明を限定することを意図したものではない。
【0050】
(サンプル1)
先ず、平均粒径1μmのイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末と、平均粒径3μmの酸化ニッケル(NiO)粉末とを混ぜ合わせた混合粒子に、バインダー(メタクリル酸エステル系ポリマー)と分散剤(ソルビタントリオレエート)と溶媒(キシレン)を添加して、スラリー状の燃料極用成形材料を調整した。かかる成形材料を用いて、シート成形を行い、φ20mm、厚み1mm程度の燃料極用成形体を成形した。
【0051】
次に、平均粒径1μmのLSTF(La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9)酸化物の粉末にバインダー(メタクリル酸エステル系ポリマー)と分散剤(ソルビタントリオレエート)と溶媒(キシレン)を添加して、スラリー状の第1固体電解質層成形材料を調整した。そして、第1固体電解質層成形材料を上記燃料極用成形体上に印刷成形して、φ16mm、厚み10μm〜30μmの第1固体電解質層成形体を形成した。そして、積層した2つの成形体を乾燥させた後に、焼成(温度:1200℃〜1400℃、時間:3時間)し、燃料極と第1固体電解質層とが積層した積層体を作製した。
【0052】
次に、RFスパッタリング装置(株式会社アルバック製、i−sputter)を用いて、上記積層体の第1固体電解質層側に中間膜を成膜した。具体的には、スパッタリングターゲットとして、直径4インチの円板形GDC(ガドリウムドープドセリア:Gd0.2Ce0.8)を用いた。また、成膜温度を25℃、成膜時間を5分に設定し、上記ターゲットに150Wの交流電流を印加して、RFスパッタリングを行った。これにより、上記積層体の第1固体電解質層側に、GDCからなる膜厚0.1μmの中間膜を成膜した。かかる中間膜の構造をX線回折(XRD)で確認した所、中間膜はアモルファス構造を有していた。
【0053】
次に、上記中間膜に結晶化処理を実施した。ここでは、結晶化処理として800℃1時間の焼成を実施した。これによって、中間膜を構成するGDCが結晶化して、緻密構造を有した第2固体電解質層(膜厚:0.1μm)を含む固体電解質と燃料極とが積層した積層体(以下、「サンプル1」と称する。)が得られた。
【0054】
(サンプル2)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を25℃、成膜時間を60分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル2を作製した。これによって得られたサンプル2では、第2固体電解質層の厚さが1.3μmであった。
【0055】
(サンプル3)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を100℃、成膜時間を5分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル3を作製した。これによって得られたサンプル3では、第2固体電解質層の厚さが0.1μmであった。
【0056】
(サンプル4)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を100℃、成膜時間を60分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル4を作製した。これによって得られたサンプル4では、第2固体電解質層の厚さが1.5μmであった。
【0057】
(サンプル5)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を200℃、成膜時間を5分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル5を作製した。これによって得られたサンプル5では、第2固体電解質層の厚さが0.3μmであった。
【0058】
(サンプル6)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を200℃、成膜時間を60分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル6を作製した。これによって得られたサンプル6では、第2固体電解質層の厚さが2.5μmであった。
【0059】
(サンプル7)
ここでは、第1固体電解質層を構成する材料としてLSAF(La0.9Sr0.1Al0.1Fe0.9)粉末を用い、第2固体電解質層を構成する材料としてイットリア安定化ジルコニア(8YSZ:(ZrO0.92(Y0.08)を用いた。そして、上記構成材料を除いて、上記サンプル1と同じプロセスで上記サンプル7を作製した。これによって得られたサンプル7では、第2固体電解質層の厚さが0.1μmであった。
【0060】
(サンプル8)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を25℃、成膜時間を60分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル7と同じプロセスで上記サンプル8を作製した。これによって得られたサンプル8では、第2固体電解質層の厚さが1.2μmであった。
【0061】
(サンプル9)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を100℃、成膜時間を5分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル7と同じプロセスで上記サンプル9を作製した。これによって得られたサンプル9では、第2固体電解質層の厚さが0.2μmであった。
【0062】
(サンプル10)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を100℃、成膜時間を60分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル7と同じプロセスで上記サンプル10を作製した。これによって得られたサンプル10では、第2固体電解質層の厚さが1.7μmであった。
【0063】
(サンプル11)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を200℃、成膜時間を5分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル7と同じプロセスで上記サンプル11を作製した。これによって得られたサンプル11では、第2固体電解質層の厚さが0.4μmであった。
【0064】
(サンプル12)
ここでは、上記RFスパッタリング法による中間膜の成膜において、成膜温度を200℃、成膜時間を60分に設定した。そして、上記成膜条件を除いて、上記サンプル7と同じプロセスで上記サンプル12を作製した。これによって得られたサンプル12では、第2固体電解質層の厚さが2.8μmであった。
【0065】
(サンプル13)
ここでは、上記中間膜の成膜において、RFスパッタリング法の代わりにスラリー塗布法を用いた。具体的には、平均粒径1μmのGDC粉末と、バインダー(メタクリル酸エステル系ポリマー)と、分散媒(キシレン)とを混合したスラリーを調整し、該スラリーを上記第1固体電解質層の表面に膜厚が10μmになるように塗布した。
そして、該スラリーが塗布された積層体を800℃〜1000℃で3時間加熱して、サンプル13を作製した。これによって得られたサンプル13では、上記スラリーが焼結しておらず、第2固体電解質層が形成されなかった。
【0066】
上記サンプル1〜9の第1固体電解質層に用いられたLSTF酸化物と、LSAF酸化物、そして、第2固体電解質層に用いられたGDCと、YSZについての還元膨張率と酸化物イオン伝導率を表1にまとめる。なお、表1中の酸化物イオン伝導率は、900℃下で測定したものである。
【表1】

【0067】
さらに、上記サンプル1〜9の成膜条件を下記の表2に纏める。下記表の「結果」における「○」は、GDCが好適に結晶化したものを示している。また、「△」は、GDCが結晶化していないものを示している。また、「×」は、第2固体電解質層自体が形成されなかったものを示している。
【表2】

【0068】
(サンプル1〜12のSEM観察)
上記サンプル1〜12の固体電解質の表面をSEMで観察した。図2は実施例として作製し、GDCが好適に結晶化していたサンプル4のSEM写真である。
【0069】
図2に示すように、サンプル4(図2参照)の第2固体電解質層では、GDCが結晶化しており、緻密な構造を有していることが分かった。他のサンプルを観察すると、サンプル3〜6,9〜12も、第2固体電解質層を構成するGDC(若しくはYSZ)が結晶化され、緻密構造を有していた。なお、ここでは図示を省略するが、サンプル1,2,7,8では、第1固体電解質層の表面にGDC(若しくはYSZ)からなる第2固体電解質層が形成されていたが、GDC(若しくはYSZ)が結晶化していなかった。一方、サンプル13では、第1固体電解質層表面に塗布した中間膜が上手く焼成されなかったため、第2固体電解質層が得られなかった。
【0070】
また、上記サンプル1〜13に対して行ったXRDとEDXの結果からも、サンプル3〜6,9〜12の第2固体電解質層は結晶化され、緻密構造を有していることが分かった。
【0071】
以上の結果から、RFスパッタリング法で中間膜を成膜することによって、膜厚3μm以下の第2固体電解質層を容易に作成できることがわかった。また、スパッタリング時の成膜温度を100℃以上200℃以下に設定すると、アモルファス構造体からなる中間膜は800℃の加熱により容易に結晶化され、厚み3μm以下で結晶構造を有した第2固体電解質層が容易に作成できると分かった。
【0072】
また、図2に示すように、サンプル4では、結晶構造を有したGDCの焼結体で第2固体電解質層が構成されており、該焼結粒径の平均値が2μm以上であった。焼結粒径2μm以上の焼結体で構成された第2固体電解質層では、焼結体の間に構成される粒界の面積が少なくなるので、第2固体電解質層全体における粒界抵抗が小さくなりイオン伝導性能が高くなると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のSOFCは、固体電解質として第1固体電解質層と第2固体電解質層を含む多層構造固体電解質を用いており、かかる多層構造固体電解質は高い酸化物イオン伝導性を有するとともに、燃料極−空気極間の電子伝導を好適に防止できる。このため、本発明のSOFCは電池性能が向上している。また、本発明の製造方法は、第1固体電解質層と第2固体電解質層を含む多層構造固体電解質を有したSOFCを容易に製造できる。かかるSOFCは上述のように、電池性能が向上している。
【符号の説明】
【0074】
10 燃料極(燃料極成形体)
20 固体電解質(固体電解質成形体)
22 第1固体電解質層
24 第2固体電解質層
30 空気極(空気極)
40 ガス管
100 固体酸化物形燃料電池(SOFC)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造の燃料極と、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質と、多孔質構造の空気極とからなる積層構造を有する固体酸化物形燃料電池であって、
前記固体電解質は、以下の一般式(1):

(Ln1−xAe)(M1−yFe)O3−δ (1)
(ここでLnはランタノイドから選択される少なくとも1種の元素であり、AeはSr,Ca及びBaからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、MはMg,Mn,Ga,Ti,Co,Ni,Al,Cu,In,Sn,Zr,V,Cr,Zn,Ge,Sc及びYからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、xは0≦x≦1を満たす実数であり、yは0<y≦1を満たす実数であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。)

で示されるペロブスカイト型酸化物からなる第1固体電解質層と、
セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアからなる第2固体電解質層と、
を少なくとも含む多層構造固体電解質であることを特徴とする、固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記第1固体電解質層の酸化物イオン伝導率が0.3S/cm以上である、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記一般式(1)中のMは、Ti及びAlの何れか1種若しくは両方を含む、請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記第2固体電解質層は、還元膨張率が0.1%以下であり、前記燃料極側に配置されている、請求項1〜3の何れか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
前記第2固体電解質層は、緻密構造を有した膜厚3μm以下の薄膜状に形成されている、請求項1〜4の何れか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
前記第2固体電解質層は、前記セリウム酸化物若しくは前記安定化ジルコニアの焼結体により構成されており、該焼結体の焼結粒径の電子顕微鏡観察に基づく平均値が少なくとも1μmであることを特徴とする、請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
前記第2固体電解質層は、希土類に属する元素及びCaのうちから選択される何れか1種又は2種以上の元素を含むセリウム酸化物で構成されていることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
前記第2固体電解質層は、Y、Sc及びCaから成る群から選択される1種又は2種以上の元素を含む安定化ジルコニアで構成されていることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項9】
多孔質構造の燃料極と、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質と、多孔質構造の空気極とからなる積層構造を有した固体酸化物形燃料電池を製造する方法であって、以下の一般式(1):
(Ln1−xAe)(M1−yFe)O3−δ (1)
(ここで、Lnはランタノイドから選択される少なくとも1種の元素であり、AeはSr,Ca及びBaからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、MはMg,Mn,Ga,Ti,Co,Ni,Al,Cu,In,Sn,Zr,V,Cr,Zn,Ge,Sc及びYからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、xは0≦x≦1を満たす実数であり、yは0<y≦1を満たす実数であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。)
で示されるペロブスカイト型酸化物で構成されている第1固体電解質層を形成すること;
前記第1固体電解質層の表面に、セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアからなる第2固体電解質層を形成すること;
を包含することを特徴とする、製造方法。
【請求項10】
前記第2固体電解質層の形成において、
前記第1固体電解質層の表面に、セリウム酸化物若しくは安定化ジルコニアのアモルファス構造体からなる中間膜を形成すること;
前記形成したアモルファス構造の中間膜を結晶化処理することにより、緻密構造を有した第2固体電解質層を形成すること;
を包含する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
スパッタリング法を用いることにより、前記第1固体電解質層の表面に前記中間膜を形成することを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記スパッタリング法を、100℃〜250℃の温度条件で行うことを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記結晶化処理は、前記中間膜を500℃〜1000℃で熱処理することを含むことを特徴とする、請求項10〜12の何れか一項に記載の製造方法。



【図1】
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【図2】
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