説明

固体酸化物形燃料電池用電解質シートおよびその製造方法ならびに固体酸化物形燃料電池

【課題】セラミックグリーンシートの重ね枚数が多くてもディンプルの顕著な発現を抑制することができるSOFC用電解質シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法は、複数枚のセラミックグリーンシートを複数枚の多孔質シートと交互に重ねた状態で焼成する際に、前記複数枚のセラミックグリーンシートのそれぞれと前記複数枚の多孔質シートのそれぞれの間に除電した粉末を介在させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」という。)用電解質シートの製造方法に関する。また、本発明は、その製造方法により得られるSOFC用電解質シートおよびこれを用いたSOFCに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、耐熱性および耐摩耗性などの機械的性質に加えて、電気的および磁気的特性にも優れたものであることから、多くの分野で活用されている。中でも、ジルコニアを主体とするセラミックシートは、それらの性質に加えて優れた酸素イオン伝導性と靭性とを有していることから、酸素センサーおよび湿度センサーのようなセンサー部品の固体電解質、更にはSOFC用の固体電解質として活用されている。
【0003】
SOFC用電解質シートは、例えば特許文献1に開示されているように、複数枚のセラミックグリーンシートを複数枚の多孔質シートと交互に重ねた状態で焼成することにより製造することができる。焼成時にはセラミックグリーンシートと多孔質シートの収縮率の違いなどからそれらが接合されることがある。これを防止するために、特許文献1の製造方法では、各セラミックグリーンシートと各多孔質シートの間に平均粒子径が0.3〜100μmの粉末を介在させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−89252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の製造方法のように、複数枚のセラミックグリーンシートを複数枚の多孔質シートと交互に重ねた状態で焼成した場合には、セラミックグリーンシートの重ね枚数が多くなると、焼成によって得られる電解質シートのうち積層体の下側に位置する電解質シートの表面に微小な凹凸や、窪みおよび/または突起等からなるディンプルが顕著に発現することがあったり、シート周縁部に連続的に発生する山脈状のウネリが発現することがあり、更なる改良の余地があることが本発明の発明者による検討で判明した。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、セラミックグリーンシートの重ね枚数が多くてもディンプルの顕著な発現を抑制することができるSOFC用電解質シートの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、その製造方法により得られるSOFC用電解質シートおよびこの電解質シートを用いたSOFCを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の発明者は鋭意研究の結果、積層体の下側に位置する電解質シートの表面にディンプルが顕著に発現することに、セラミックグリーンシートと多孔質シートの接合を防止する粉末が静電気によって凝集することが大きく影響することを見出した。本発明は、このような観点からなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明のSOFC用電解質シートの製造方法は、複数枚のセラミックグリーンシートを複数枚の多孔質シートと交互に重ねた状態で焼成する際に、前記複数枚のセラミックグリーンシートのそれぞれと前記複数枚の多孔質シートのそれぞれの間に除電した粉末を介在させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のSOFC用電解質シートは、上記の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のSOFCは、電解質膜として上記のSOFC用電解質シートを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のSOFC用電解質シートの製造方法によれば、セラミックグリーンシートの重ね枚数が多くてもディンプルの顕著な発現を抑制することができる。このため、均質な電解質シートを大量生産することができる。SOFCでは起動/停止に伴い常温と高温(例えば、600〜950℃)の間で温度が上下して熱負荷が繰り返されるが、本発明の製造方法により得られた均質な電解質シートであれば、そのような熱負荷に対しても高い抵抗力を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のSOFC用電解質シートの製造方法は、複数枚のセラミックグリーンシートを複数枚の多孔質シートと交互に重ねた状態で焼成する際に、各セラミックグリーンシートと各多孔質シートの間に除電した粉末を介在させることを特徴とする。
【0013】
各セラミックグリーンシートの形状は、特に限定されるものではなく、円形、楕円形、矩形、角が丸められた矩形などの何れであってもよい。このようなセラミックグリーンシートは、一般的に次のように作製される。まず、セラミック原料粉末、バインダー、分散剤および溶剤、さらに必要により可塑剤および消泡剤などを含むスラリーを、離型処理した高分子フィルム上にドクターブレード法、カレンダー法、押し出し法などにより敷き延べてテープ状に成形し、その後にこれを乾燥して溶剤を揮発させることにより長尺のグリーンテープを作製する。ついで、例えば金型を用いてグリーンテープを所望の形状に打ち抜くことにより、セラミックグリーンシートが得られる。
【0014】
SOFC用電解質シートを製造する際に用いられるセラミック原料粉末は、ジルコニア系酸化物、LaGaO3系酸化物およびセリア系酸化物よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含有することが好ましい。
【0015】
好ましいジルコニア系酸化物としては、安定化剤としてMgO、CaO、SrO、BaOなどのアルカリ土類金属の酸化物、Sc23、Y23、La23、CeO2、Pr23、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Ho23、Er23、Yb23などの希土類元素の酸化物、Bi23およびIn23などから選ばれる1種もしくは2種以上の酸化物を固溶させたもの、あるいは、これらに分散強化剤としてAl23、TiO2、Ta25、Nb25などが添加された分散強化型ジルコニアなどが例示される。特に好ましくは、スカンジウム、イットリウム、セリウムおよびイッテルビウムよりなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物で安定化されたジルコニアである。
【0016】
LaGaO3系酸化物としては、ペロブスカイト型結晶構造を有する複合酸化物で、LaやGaの一部がそれぞれの原子よりも低原子価のSr、Y、Mgなどによって置換固溶した組成物が挙げられる。例えば、La0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.23のようなLa1-xSrxGa1-yMgy3、La1-xSrxGa1-yMgyCo23、La1-xSrxGa1-yFey3、La1-xSrxGa1-yNiy3などが例示される。
【0017】
好ましいセリア系酸化物としては、CaO、SrO、BaO、Ti23、Y23、La23、Pr23、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Er23、Tm23、Yb23、PbO、WO3、MoO3、V25、Ta25、Nb25の1種もしくは2種以上がドープされたセリア系酸化物が例示される。
【0018】
これらの酸化物は、単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用しても構わない。上に例示したもの中でも、より優れた熱的特性、機械的特性、化学的特性および酸素イオン導電性特性を有する電解質シートを得るためには、3〜10モル%の酸化イットリウムで安定化された、4〜12モル%の酸化スカンジウムで安定化された、または4〜15モル%の酸化イッテルビウムで安定化された、正方晶および/または立方晶構造の酸化ジルコニウムが特に好ましい。これらの中でも、8〜10モル%の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア(8YSZ〜10YSZ)、10モル%の酸化スカンジウムと1〜2モル%のセリアで安定化されたジルコニア(10Sc1CeSZ〜10Sc2CeSZ)、10モル%の酸化スカンジウムと1モル%のアルミナで安定化されたジルコニア(10Sc1AlSZ)が最適である。
【0019】
上述したように、セラミックグリーンシートを得るには、まずセラミック原料粉末を含むスラリーを調製し、これをテープ状に成形して長尺のグリーンテープを作製する。
【0020】
スラリーの調製に使用されるバインダーの種類には格別の制限はなく、従来から知られた有機質バインダーを適宜選択して使用できる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系およびメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロースなどのセルロース類などが例示される。
【0021】
これらの中でも、グリーンテープの成形性や強度、焼成時の熱分解性などの点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどの炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどの炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレート類;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのアミノアルキルアクリレートまたはアミノアルキルメタクリレート類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸およびモノイソプロピルマレートの如きマレイン酸半エステルなどのカルボキシル基含有モノマー、から選択される少なくとも1種を重合または共重合させることによって得られる、数平均分子量が20,000〜250,000、より好ましくは50,000〜200,000の(メタ)アクリレート系共重合体が好ましいものとして推奨される。
【0022】
これらの有機質バインダーは、単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。特に好ましいのは、イソブチルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシルメタクリレートを60質量%以上含むモノマーの重合体である。
【0023】
原料粉末とバインダーの使用比率は、前者100質量部に対して後者5〜30質量部、より好ましくは10〜20質量部の範囲が好適である。バインダーの使用量が不足する場合は、グリーンテープの強度や柔軟性が不足気味となり、所望の表面粗さに十分に粗化することが出来なくなる。逆にバインダーが多過ぎる場合は、スラリーの粘度調節が困難になるばかりでなく、焼成時のバインダー成分の分解放出が多く且つ激しくなって、平坦な電解質シートが得られ難くなる。
【0024】
また、スラリーの調製に使用される溶剤としては、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノールなどのアルコール類;アセトン、2−ブタノンなどのケトン類;ペンタン、ヘキサン、ブタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類、などが適宜選択して使用される。これらの溶剤も単独で使用し得る他、2種以上を適宜混合して使用できる。これら溶剤の使用量は、グリーンシート成形時におけるスラリーの粘度を加味して適当に調節するのがよく、好ましくはスラリー粘度が1〜50Pa・s、より好ましくは2〜20Pa・sの範囲となる様に調整するのがよい。
【0025】
スラリーの調製に当たっては、原料粉末の解膠や分散を促進するため、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウムなどの高分子電解質;クエン酸、酒石酸などの有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体、そのアンモニウム塩、アミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体、そのアンモニウム塩、などの分散剤を必要に応じて添加することができる。更には、グリーンシートに柔軟性を付与するため、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル類;プロピレングリコールなどのグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステルなどのポリエステル類、などの可塑剤を必要に応じて添加することができる。更には、界面活性剤や消泡剤などを、必要に応じて添加することができる。
【0026】
長尺のグリーンテープから打ち抜かれたセラミックグリーンシートは多孔質シートと交互に重ねられ、積層体が形成される。多孔質シートは、セラミックグリーンシート同士を隔てるスペーサとして機能する。多孔質シートは、セラミックグリーンシートと同一の大きさおよび形状であってもよいが、セラミックグリーンシートよりも僅かに大きな輪郭を有することが好ましい。セラミックグリーンシートと多孔質シートを交互に重ねる方法は特に限定されるものではないが、例えば、セラミックグリーンの周縁が多孔質シートの周囲にはみ出さないよいにそれらを交互に積み上げる。
【0027】
多孔質シートとしては、例えば、アルミナ、ジルコニア、ムライトから選ばれる少なくとも1種からなるセラミックシートを用いることができる。多孔質シートの気孔率は、例えば、30〜60%である。
【0028】
上記積層体を形成する際には、各セラミックグリーンシートと各多孔質シートの間に徐電した粉末を介在させる。この粉末は、焼成時のそれらの接合を防止するためのものである。粉末としては、平均粒子径が0.3〜30μmの粉末を用いることが好ましい。なお、「平均粒子径」とは、粒度分布から求められるメジアン径、すなわち50体積%(D50)をいう。粉末の平均粒子径は、より好ましくは1.0〜17.0μmであり、さらに好ましくは1.5〜12.0μmである。
【0029】
粉末は、有機質および無機質の何れであっても構わない。ただし、粉末としては有機質粉末を用いることが好ましい。無機質粉末は、焼成後も電解質シートや多孔質シートの表面に残存するばかりでなく、その種類によっては多孔質シートの表面に融着する可能性がある。しかし、有機質粉末であれば、焼成により焼失してしまうため、後処理による除去作業などが不要である。ただし、有機質粉末と共に少量の無機質粉末を併用し、セラミック粒子の焼結の末期まで少量の粉末を残存させることも有効である。無機質粉末を使用する場合でも、有機質粉末の使用量を50質量%以上とすることが好ましく、より好ましい有機質粉末の使用量は60質量%以上であり、さらに好ましい有機質粉末の使用量は80質量%以上である。
【0030】
有機質粉末としては、上記のように焼成条件下で焼失するものであればその種類は問わず、例えば、コーンスターチ、甘藷でんぷん、馬鈴薯でんぷんなどの天然有機質粉末や、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレンアクリル酸共重合樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合樹脂、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合樹脂、メラミンシアヌレート樹脂などの有機樹脂粉末等を使用できる。これらの中でも、グリーンシート焼成時に消失しやすい熱分解性に優れたアクリル樹脂、メタクリル樹脂、エチレンアクリル酸共重合樹脂が好ましく、特にメタクリル樹脂が良好な解重合性を有するため好ましい。これらの有機質粉末は、単独で使用してもよいし、必要により2種以上を併用してもよい。
【0031】
無機質粉末の種類も特に限定されないが、好ましいのは天然もしくは合成の各種酸化物や非酸化物である。例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ムライトや、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、カーボンなどを使用できる。これらの無機質粉末も、単独で使用してもよいし、必要により2種以上を併用してもよい。
【0032】
特に、本発明のようにSOFC用電解質シートを製造する場合、均一な塗布を行うという観点から、粉末として球状微粒子を用いることが好ましい。粉末の形状が破砕形や不定形であればセラミックグリーンシートに傷を付けやすくなり、焼成後に得られる電解質シートにも傷が生じることになる。電解質シートに傷の生じたものがあると、電解質シートを含むセル(電解質シートに電極が付いたもの)をセパレータ(インターコネクタ)とスタック化してSOFCを製造する際に、あるいは、SOFCの起動/停止に伴い、常温と高温の間で温度が上下して熱負荷が繰り返えされる際に、傷が起点となって電解質シートが割れるおそれがある。粉末の形状が球状であればセラミックグリーンシートに傷を付けることは殆どなく、殆ど傷のない電解質シートを得ることができる。また、個々の球状微粒子の形状は、必ずしも真球である必要はなく、例えば卵形などの球に近似した形状であればよい。球状微粒子としては、有機樹脂からなる球状微粒子を好適に用いることができる。
【0033】
有機樹脂からなる球状微粒子としては、ポリメタクリル酸メチル系架橋物(日本触媒社製、商品名「エポスター(登録商標)MA」、平均粒子径:2μm以上15μm以下)、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物(日本触媒社製、商品名「エポスター」、平均粒子径:1μm以上15μm以下)、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物(日本触媒社製、商品名「エポスターGP」、平均粒子径:2.5μm以上4μm以下)、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物(日本触媒社製、商品名「エポスター」、平均粒子径:1μm以上2μm以下)、架橋ポリスチレン(積水化成品工業社製、商品名「テクポリマー」、平均粒子径:6μm以上17μm以下)、架橋アクリル粉末(総研化学工業社製、グレード「MPシリーズ」、平均粒子径:0.1μm以上0.8μm以下)、ポリエチレン粉末(住友精化社製、商品名「フロービーズ(登録商標)」、平均粒子径:6μm以上11μm以下)等が例示される。特に好ましくは、ポリメタクリル酸メチル系架橋物であるメタクリル樹脂の球状粒子である。
【0034】
各セラミックグリーンシートと各多孔質シートの間に粉末を介在させるには、例えば、セラミックグリーンシートおよび多孔質シートの表面に粉末を塗布し、その後にそれらを交互に積み上げる。あるいは、セラミックグリーンシートと多孔質シートの一方の上に他方を載置する毎に、それらの表面に粉末を散布してもよい。粉末に対する除電は、粉末の塗布後に行うことも可能であるが、セラミックグリーンシートおよび多孔質シートの表面上での粉末の凝集を抑えるという観点からは、塗布前または塗布中に行うことが好ましい。
【0035】
セラミックグリーンシートおよび多孔質シートの表面への粉末のシート単位面積当りの塗布量は、0.0001〜0.1cm3/cm2が好ましく、0.0002〜0.05cm3/cm2がより好ましい。
【0036】
セラミックグリーンシートおよび多孔質シートの表面に粉末を塗布する方法は特に限定されるものではないが、例えば、刷毛やバフを用いて粉末を塗布する方法、粉末を分散剤に分散させて噴霧する方法、篩を通して振り落とす方法、粉末の浮遊流動層中にグリーンシートおよび多孔質シートを通過させる方法などを用いることができる。
【0037】
除電した粉末としては、前記の無機質粉末や有機質粉末を各種除電方法で除電して用いる。粉末を除電する方法は特に限定されるものではないが、例えば、除電バー、除電ブロワ、除電用エアガンなどのコロナ放電式静電気除去装置や、光電離式静電気除去装置などを用いることができる。例えば、篩を通して粉末を振り落とす場合、篩が底に配置されたホッパー内または篩の直ぐ下に光電離式のフォトイオンバーやフォトナイザーを設置して粉末の除電を行うことが好ましい。除電した粉末の帯電量は、1×10-8c/g以下が好ましく、8×10-7c/g以下がより好ましい。
【0038】
除電のタイミングは、粉末をセラミックグリーンシートおよび/または多孔質シートの表面に塗布する直前に除電を行なっても良いし、あらかじめ、粉末を除電し貯蔵保管しておいた除電粉末を用いてもよい。貯蔵保管の場合は保管状態によっては除電が不十分になる恐れがあるため直前に除電して用いるのが好ましい。
【0039】
除電した粉末をセラミックグリーンシートおよび/または多孔質シートの表面に塗布する際の雰囲気としては、より高い効果を発揮させるために、相対湿度を好ましくは40〜70%、より好ましくは50〜65%に制御するのが好ましい。
【0040】
セラミックグリーンシートと多孔質シートとが除電した粉末を介して交互に重ねられた積層体は、その後、焼成炉に入れられて、セラミックグリーンシートが焼成される。具体的な焼成条件は、特に限定されない。例えば、まず、セラミックグリーンシートから有機成分を除去するために、焼成炉を1〜80時間程度150〜600℃(好ましくは250〜500℃)に保つ。次いで、焼成炉を2〜5時間1300〜1480℃(好ましくは1300〜1450℃)に保って、セラミック原料粉末を酸化性雰囲気下あるいは非酸化性雰囲気下で焼結する。これにより、電解質シートが得られる。
【0041】
各セラミックグリーンシートと各多孔質シートの間に介在させられる粉末が除電されていない場合、積層体を構成するセラミックグリーンシートの枚数が6枚以上になると、焼成後の積層体における上から6番目以下の電解質シートの表面にディンプルが顕著に発現する。これに対し、本発明のように各セラミックグリーンシートと各多孔質シートの間に除電された粉末を介在させれば、そのようなディンプルの顕著な発現を抑制することができる。
【0042】
上述のようにして得られた電解質シートを用いて燃料電池の単セルを作製するには、まず、電解質シートの一方の面に、NiO粉末と酸素イオン伝導性粉末(安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末)からなるペーストをスクリーン印刷等によって塗布し、これを焼成して燃料極を形成する。次いで、電解質シートの他方の面に、LaMnO3系やLaSrCoFeO3系等のペロブスカイト形結晶構造を持つ粉末からなるペーストを、上記と同様に塗布して焼成し、空気極を形成する。さらに、得られた単セルは、複数枚が複数枚のセパレータ(インターコネクタ)と交互に積層されてスタック化される。これにより、電解質シートを電解質膜として含むSOFCが得られる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら制限されるものではない。
【0044】
(実施例1)
市販の3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「HSY−8.0」、平均粒子径:0.7μm、90%径:1.9μm)100質量部に対し、メタクリレート系共重合体からなるバインダー(数平均分子量:100,000、ガラス転位温度:−8℃、固形分濃度:50質量%)30質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部、分散剤としてトルエン/イソプロピールアルコール(質量比=3/2)の混合溶媒50質量部を、直径10mmのジルコニアボールが挿入されたナイロンポットに入れ、約60rpmで40時間混練してスラリーを調製した。
【0045】
得られたスラリーを濃縮脱泡して粘度を300Pa・sに調整し、さらに200メッシュのフィルターを通して塗工用スラリーを得た。この塗工用スラリーをドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工した後に乾燥させて、厚さ約180μm、幅約300mmの長尺のグリーンテープを得た。このグリーンテープを連続打ち抜き機で直径約130mmの円形に打ち抜いて、セラミックグリーンシートを得た。
【0046】
直径140mm、厚さ0.3mm、気孔率42%、単位面積当たりの重さ0.07g/cm2のアルミナからなる円形の多孔質シートを用い、この多孔質シートの表面に、粉末として市販の光電離式静電除去装置を用いて除電したポリメタクリル酸メチル系架橋物の球状微粒子(日本触媒社製、商品名「エポスターMA」、平均粒子径:4μm)を振りかけた後にカーボン製の刷毛を用いて均一に分布させた。除電後の球状微粒子の帯電量は7.5×10-7c/gであり、刷毛により分布させた後の球状微粒子の平均塗布量は0.0008cm3/cm2であった。なお、帯電量の測定には、ブローオフ方式帯電量測定機(京セラケミカル社製、型式:TB−23)を用いた。具体的な測定条件は、キャリアとしてパウダーテック社製のF96−80を用い、メッシュアパーチャを32μm、ブロー圧/サクション圧を4.5kPa/9.5kPa、初期振とう回数/長期振とう回数を1000回/4000回に設定した。
【0047】
球状微粒子が塗布された多孔質シートの上に、上記のようにして得られたセラミックグリーンシートをその周縁が多孔質シートからはみ出ないように重ねた。その後、上記と同様にして、セラミックグリーンシートの表面に、粉末として光電離式静電除去装置を用いて除電したポリメタクリル酸メチル系架橋物の球状微粒子を塗布した。
【0048】
上記の多孔質シートの表面への球状微粒子の塗布からセラミックグリーンシートの表面への球状微粒子の塗布までの作業を10回繰り返し、10枚の多孔質シートと10枚のセラミックグリーンシートを球状微粒子を介して交互に重ねた積層体を形成し、さらにその上に上記と同じ多孔質シートを重ねた。塗布の際の相対湿度は60%になうように制御した。
【0049】
得られた積層体を電気炉に入れて1400℃で2時間加熱および焼成して、多孔質シートを介して積層された直径100mm、厚さ150μmの10枚の電解質シートを得た。
【0050】
得られた電解質シートでは、全ての電解質シートにおいてウネリやディンプルは殆ど観察されなかった。
【0051】
(比較例1)
球状微粒子の除電を行わず、カーボン製の刷毛の代わりに汎用の刷毛を用いた以外は実施例1と同様にして、多孔質シートを介して積層された10枚の電解質シートを得た。なお、除電していない球状微粒子の帯電量(上記と同一測定条件下でのブローオフ方式帯電量測定機による測定値)は2.4×10-9c/gであった。
【0052】
得られた電解質シートでは、上側の5枚の電解質シートにおいてはウネリやディンプルは殆ど観察されなかったが、下側の5枚の電解シートにはウネリはないがディンプルが観察された。
【0053】
(評価試験1)
実施例1および比較例1で得られた10枚の電解質シートのうちの上側に位置する各5枚と下側に位置する各5枚に対して、その表面のディンプル高さおよびウネリ高さを測定し、各5枚ずつの平均値を算出した。ディンプル高さおよびウネリ高さの測定は、レーザー光学式非接触三次元形状測定装置(UBM社製、商品名「マイクロフォーカス エキスパート」、型式:UBC−14型)を用いて、電解質シートの表面にレーザー光を照射し、その反射光を三次元解析することによって行った。光源は半導体レーザー(波長:780nm)、スポット径1μm、垂直分離能0.01μmであり、ディンプル高さは0.1mmピッチで測定した。
【0054】
(評価試験2)
実施例1および比較例1で得られた10枚の電解質シートのそれぞれを、表面が平滑で平行度を保った2枚のアルミナ板(ニッカート社製、商品名「SSA−S」)に挟んだ状態でアルミナ敷板上に載置した。さらに、電解質シートに、アルミナ板の上から加重を加えることにより全面的に19.6kPaの圧力をかけ、その状態で電解質シートの温度を室温から1000℃まで10時間かけて上昇させ、1000℃で1時間保持してから室温まで下降させる操作を10回繰り返した。これにより割れ(クラック)が発生した電解質シートの枚数を比較試験1と同様の各5枚ごとに集計し、その割合を割れ(クラック)発生頻度として算出した。
【0055】
評価試験1および評価試験2の結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
比較例1で得られた10枚の電解質シートのうちの上側5枚の電解質シートは、塗布された粉末の凝集の影響が少ないためか、ディンプル高さやウネリ高さの平均値は20μm以下であった。しかし、下側5枚の電解質シートでは、塗布された粉末の焼成時の影響によってディンプル高さの平均値が100μmを超えて大きくなり、ウネリ高さの平均値も35μmとやや大きくなった。その結果、クラック発生頻度も40%と大きかった。
【0058】
これに対し、実施例1では、上側5枚の電解質シートと下側5枚の電解質シートとでディンプル高さやウネリ高さの平均値に差はそれほどなく、それらは共に15μm以下であり、クラック発生頻度も0%であった。従って、本発明の製造方法は、大量生産に好適な、生産性に優れたものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のセラミックグリーンシートを複数枚の多孔質シートと交互に重ねた状態で焼成する際に、前記複数枚のセラミックグリーンシートのそれぞれと前記複数枚の多孔質シートのそれぞれの間に除電した粉末を介在させる、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項2】
前記除電した粉末の帯電量が1×10-8c/g以下である、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項3】
前記粉末の平均粒子径が0.3〜30μmである、請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項4】
前記粉末は、有機樹脂からなる球状微粒子である、請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項5】
前記複数枚のセラミックグリーンシートのそれぞれは、ジルコニア系酸化物、LaGaO3系酸化物およびセリア系酸化物よりなる群から選択される少なくとも何れか1種以上を含有する、請求項1〜4の何れか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法により製造された、固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項7】
電解質膜として請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートを含む、固体酸化物形燃料電池。