説明

固体酸化物形燃料電池

【課題】酸化クロムを含む耐熱合金からなるインターコネクタと空気極との間の問題を抑制した上で、さらなる出力電圧の向上が得られるようにする。
【解決手段】電解質101の他方に形成され、La,遷移金属,コバルト,および鉄(Fe)を備えるペロブスカイト構造の金属酸化物(ペロブスカイト型酸化物)から構成された空気極103を備える。上記遷移金属は、銅またはニッケルである。ここで、このペロブスカイト型酸化物は、LaExCoyFe(1-y-x)3(Eは銅またはニッケル)で示され、0.22<x<1,0<y<1,かつx+y<1の範囲とされたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型の金属酸化物で構成された空気極を用いる固体酸化物形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物イオン伝導体を電解質に用いた固体酸化物形燃料電池に関心が高まりつつある。特に、エネルギーの有効利用という観点から、固体酸化物形燃料電池はカルノー効率の制約を受けないために本質的に高いエネルギー変換効率を有し、さらに、良好な環境保全が期待されるなどの優れた特徴を持っている。このような特徴を備えている固体酸化物形燃料電池に用いられる空気極は、酸素が電子と反応して酸化物イオン(酸素イオン)になる反応場であるため、高い電気伝導度と電極活性とが要求される。
【0003】
ところで、固体酸化物形燃料電池は、当初、動作温度が900〜1000℃と高く、全ての部材がセラミックで構成されていた。燃料極,電解質,および空気極からなる単セルを、インターコネクタ(セパレータ)を挟んで積層してスタック構成としている固体酸化物形燃料電池では、上述したように動作温度が高温では、インターコネクタも加工が困難なセラミックで構成することになり、セルスタックの製造コストの低減が容易ではなかった。
【0004】
ここで、動作温度を800℃以下まで低下させることができれば、インターコネクタにフェライト系Fe−Cr合金などの耐熱合金材料を用いることが可能となり、製造コストの低減が可能となる。しかしながら、動作温度の低下は、空気極の活性の低下を引き起こし、これに伴い空気極における電気化学的な抵抗、すなわち過電圧が、急激に増大して出力電圧の低下を招いてしまう。
【0005】
例えば、従来より、La1-xSrxMnO3(LSM:x=0.1〜0.5)などは、ジルコニア系材料からなる電解質との化学反応性が低く、空気極としての信頼性が高い材料として用いられている。しかしながら、LSMは、動作温度が低下すると、空気極としての電極活性が要求特性を満たさなく不充分なものとなってしまう。このため、上述したような低温動作においても、高い電極性能を有する空気極材料が望まれている。
【0006】
このような動作温度の低下による空気極の問題を解消するために、La1-XSrXCoYFe1-Y3(LSCF:X=0.1〜0.5,Y=0.1〜0.6,X+Y<0.7)などの、低温動作においても高い電極活性(電気化学反応の性能)を有するペロブスカイト型の金属酸化物(ペロブスカイト型酸化物)を用いる技術がある。また、LaSrCoO3などの高い電極活性を有する材料を用いる技術もある。また、Laを他の希土類元素に置き換える技術も提案されている(非特許文献1参照)。
【0007】
ここで、ペロブスカイト型酸化物は、AMO3の構造を基本とし、Aサイトが希土類元素(ランタノイド系の金属元素)、Mサイトが3価の金属元素で構成される。またペロブスカイト型酸化物は、AサイトおよびMサイトともに、複数の元素で構成することが可能である。例えば、LSMは、Aサイトをランタン(La)とストロンチウム(Sr)とから構成している。またLSCFは、AサイトをLaとSrとから構成し、Mサイトをコバルト(Co)と鉄(Fe)とから構成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】L. Qiu, et al. , ""Ln1-xSrxCo1-yFeyO3-δ(Ln=Pr,Nd,Gd;x=0.2,0.3)for the electrodes of solid oxide fuel cells", Solid State Ionics, Vol.158, pp.55-65, 2003.
【非特許文献2】T.Komatsu, et al., "Cr Poisoning Suppression in Solid Oxide Fuel Cells Using LaNi(Fe)O3 Electrodes", Electrochem. Solid-State Lett., Vol.9, pp.A9-A12, 2006.
【非特許文献3】S.P.Jiang, et al., "Deposition of Cr Spices at (La,Sr)(Co,Fe)O3 Cathodes of Solid Oxide Fuel Cells" , J. Electrochem. Soc., Vol.153, pp.A127-A134, 2006.
【非特許文献4】A.Petirc, et al., "Evolution of La-Sr-Co-Fe-O perovskites for solid oxide fuel cells and gas separation membranes", Solid State Ionics, Vol,135, pp.719-725, 2000.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、スタック構造とする固体酸化物燃料電池では、空気極はインターコネクタと接した状態で用いられる。このため、空気極がLSCFなどのSrを含む材料より構成されている場合、発電動作を長期に継続すると、耐熱合金からなるインターコネクタに含まれている酸化クロムと、空気極に含まれているSrとの反応生成物が形成されるようになり、固体酸化物形燃料電池(空気極)の性能低下を引き起こすという問題がある(非特許文献2,3参照)。
【0010】
この問題は、空気極にSrを含む材料を用いているために起こるものであり、Srを含まない材料から空気極を構成すれば、解消される。しかし、一般には、Srを含まない材料(ペロブスカイト型系酸化物)は電気伝導特性が著しく低く、これから空気極を構成すると、Srを含んで構成される空気極に比較して大きく性能が低下するという問題がある(非特許文献4参照)。
【0011】
また、AMO3の組成をとるペロブスカイト型酸化物として、Mサイトに2価の遷移金属であるニッケル(Ni)を含むLaNi0.6Fe0.43(LNF)があり、これが、電気伝導度が高く、上述した酸化クロムとの反応性が低く、空気極の材料として注目されている(非特許文献2,5参照)。しかしながら、LNFは、前述したLSMと同様に、動作温度の低下に伴い電極活性が低下し、空気極としての電極活性が要求特性を満たさなく不充分なものとなる。
【0012】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、酸化クロムを含む耐熱合金からなるインターコネクタと空気極との間の問題を抑制した上で、さらなる出力電圧の向上が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、燃料極,電解質,及び空気極を備える固体酸化物形燃料電池において、空気極は、LaExCoyFe(1-y-x)3(元素Eは銅またはニッケル、0.22<x<1,0<y<1,かつx+y<1)からなるペロブスカイト型構造の金属酸化物から構成されているようにしたものである。
【0014】
上記固体酸化物形燃料電池において、金属酸化物は、LaExCoyFe(1-y-x)3(元素Eは銅またはニッケル、0.25≦x≦0.7,0.05≦y≦0.5,x+y≦0.9)であればよい。特に、金属酸化物は、LaE1/3Co1/3Fe1/33(元素Eは銅またはニッケル)であるとよい。
【0015】
また、本発明に係る他の固体酸化物形燃料電池は、燃料極,電解質,及び空気極を備える固体酸化物形燃料電池において、空気極は、ランタンを除く希土類元素,遷移金属(銅またはニッケル),コバルト,および鉄を備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物から構成されたものであり、遷移金属は、銅およびニッケルから選択されたものである。
【0016】
上記固体酸化物形燃料電池において、金属酸化物は、LnExCoyFe(1-y-x)3(Lnはランタン以外の希土類元素、元素Eは銅またはニッケル、0.05≦x≦0.8,0.05≦y≦0.9,x+y<1)である。また、金属酸化物は、LnExCoyFe(1-y-x)3(Lnはランタン以外の希土類元素、元素Eは銅またはニッケル、0.05≦x≦0.7,0.05≦y≦0.85,x+y≦0.95)であればよい。特に、金属酸化物は、LnE1/3Co1/3Fe1/33(Lnはランタン以外の希土類元素、元素Eは銅またはニッケル)であるとよい。なお、希土類元素は、プラセオジム,ネオジム,サマリウム,ユウロピウム,およびガドリニウムの中より選択された1つである。
【0017】
また、本発明に係る他の固体酸化物形燃料電池は、燃料極,電解質,及び空気極を備える固体酸化物形燃料電池において、空気極は、複数の希土類元素,遷移金属(銅またはニッケル),コバルト,および鉄を備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物から構成されたものであり、遷移金属は、銅およびニッケルから選択されたものである。
【0018】
上記固体酸化物形燃料電池において、希土類元素は、ランタン,プラセオジム,ネオジム,サマリウム,ユウロピウム,およびガドリニウムの中より選択されたものである。
【0019】
なお、空気極は、電解質側に配置されるセリウム酸化物を含む層を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、空気極を、例えばLaExCoyFe(1-y-x)3(Eは銅またはニッケル)から構成するなど、空気極にストロンチウムが含まれていないようにしたので、酸化クロムを含む耐熱合金からなるインターコネクタと空気極との間の問題を抑制した上で、さらなる出力電圧の向上が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1における固体酸化物形燃料電池の構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】試料セルの構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態2における固体酸化物形燃料電池の構成例を模式的に示す断面図である。
【図4】試料セルの構成を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3における固体酸化物形燃料電池の一部構成例を模式的に示す断面図である。
【図6A】本発明の実施の形態3における空気極503を構成するペロブスカイト型酸化物の一部構成を模式的に示す平面図である。
【図6B】本発明の実施の形態3における空気極503を構成するペロブスカイト型酸化物の一部構成を模式的に示す断面図である。
【図7A】本発明の実施の形態3における空気極503を構成するペロブスカイト型酸化物の他の一部構成を模式的に示す平面図である。
【図7B】本発明の実施の形態3における空気極503を構成するペロブスカイト型酸化物の他の一部構成を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態4における固体酸化物形燃料電池の一部構成
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0023】
[実施の形態1]
始めに、本発明の実施の形態1について図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1における固体酸化物形燃料電池の一部構成例を模式的に示す断面図である。この固体酸化物燃料電池は、ジルコニア系の材料から構成された電解質101と、電解質101の一方の面に形成された燃料極102とを備える。また、本実施の形態の固体酸化物形燃料電池は、電解質101の他方に形成され、ランタン(La),遷移金属,コバルト,および鉄(Fe)を備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物(ペロブスカイト型酸化物)から構成された空気極103を備える。上記遷移金属は、銅(Cu)またはニッケル(Ni)である。ここで、このペロブスカイト型酸化物は、LaExCoyFe(1-y-x)3(EはCuまたはNi)で示され、0.22<x<1,0<y<1,かつx+y<1の範囲とされたものである。
【0024】
例えば、空気極103は、LaExCoyFe(1-y-x)3で示されるペロブスカイト型酸化物の焼成体(多孔質焼結体)から構成されている。なお、LaExCoyFe(1-y-x)3における酸素は、化学量論組成から多少ずれた値の範囲も含むものである。このような、空気極103は、上記ペロブスカイト型酸化物からなる所定の粒径の粉末を有する多孔質焼結体から形成されていればよい。
【0025】
なお、電解質101は、例えば、酸化スカンジウム(Sc23)および酸化アルミニウム(Al23)安定化ZrO2(SASZ),イットリア安定化ジルコニア(YSZ),スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ),サマリア安定化ジルコニア(SSZ)などのジルコニア材料の粉体の焼結体から構成されていればよい。また、燃料極102は、例えば、ニッケル−イットリア安定化ジルコニアサーメット(Ni−YSZ),ニッケル−アルミナ添加スカンジア安定化ジルコニア(Ni−SASZ)などの、電解質101を構成する酸化物材料に金属ニッケルが混合された電子伝導性を有する金属−酸化物混合体(サーメット)の粉体の焼成体(多孔質焼結体)から構成されていればよい。
【0026】
また、これらの各層は、よく知られているように、粉体もしくは混合粉体のスラリを作製し、ドクターブレード法による成形やスクリーン印刷法による塗布で、スラリの膜(層)を形成し、これを1000〜1200℃で焼成することで作製することができる。
【0027】
このように構成した本実施の形態の固体酸化物形燃料電池によれば、La,NiもしくはCu,Co,およびFeよりなるペロブスカイト型酸化物で空気極103を構成したので、LNFなどのCoを含まないペロブスカイト型酸化物を用いた場合に比較し、800℃程度の低温な動作温度における空気極特性の向上が図れ、さらなる出力電圧の向上が得られるようになる。また、当然ではあるが、空気極103は、Srを含んでいないので、酸化クロムとの反応性が低く、LSCFなどと耐熱合金よりなるインターコネクタとの間における問題が発生しない。
【0028】
なお、上述した実施の形態では、固体酸化物形燃料電池の基本的な構成(単セル)を説明している。実際には、よく知られているように、複数の単セルがインターコネクタを介して積層された状態で用いられ、各単セルにおいて、都市ガスなどの炭化水素ガスを改質して得られた水素を含む燃料ガスが燃料極102の側に供給され、酸化剤ガスとしての酸素を含む空気が空気極103の側に供給されることで、発電動作が行われる。
【0029】
次に、実際に作製した固体酸化物形燃料電池の単セルにおける特性測定結果について説明する。
【0030】
[測定方法1]
始めに、特性測定の方法について説明する。この測定では、後述するように各々作製した試料セルにおいて、電極性能の指標である界面抵抗を交流インピーダンス法で測定する。測定時は、開放電圧の条件で行い、空気極と燃料極との間に5mV程度の交流電圧が印加されるように微小な交流信号(電流)を印加(流)し、これに対して空気極と参照極との間に現れる微小な電位変化(応答)をインピーダンス測定器で測定し、この測定結果(周波数応答性)よりインピーダンス(界面抵抗)を求める。また、この測定は、作製した試料セルにおいて、電流値を一定(0.3A/cm2)として100時間の通電を行った後に行う。なお、測定において、燃料極には室温(23℃程度)とした加湿水素ガスを燃料ガスとして供給し、空気極には酸素を供給する。また、開放起電力としては、800℃で1.09V以上の値が得られる。
【0031】
[セルの作製1]
次に、比較試料となる固体酸化物形燃料電池セル(比較試料セル:#1-0-0)を例にとり、単セルの作製について説明する。まず、よく知られたドクターブレード法でシート状に成形して焼成したSc23,Al23添加ジルコニア(0.89ZrO2−0.10Sc23−0.01Al23:SASZ)からなる電解質基板を用意する。電解質基板は、厚さ0.2mmに形成する。次に、平均粒径が約0.6μmのSASZの粉末(40wt%)に平均粒径が0.2μmのNiO粉末(60wt%)を混合した混合粉末(燃料極材料粉末)のスラリを作製し、このスラリを上述した電解質基板の一方の面に、よく知られたスクリーン印刷法により塗布して燃料極塗布膜を形成する。加えて、この燃料極塗布膜の上に白金のメッシュよりなる集電体を配置し、これらを、1300℃・8時間の熱処理条件で、空気中で焼成し、上記混合粉末の焼結体からなる厚さ60μmの燃料極が形成された状態とする。
【0032】
次に、平均粒径が1.0μmのLa0.8Sr0.2MnO3(LSM)粉末のスラリを作製し、このスラリを、上述した電解質基板の他方の面にスクリーン印刷法により塗布して空気極塗布膜を形成する。加えて、この空気極塗布膜の上に白金のメッシュよりなる集電体を配置し、これら空気極塗布膜が形成された電解質基板を、1100℃・2時間の熱処理条件で焼成し、上記粉末の焼結体からなる厚さ60μmの空気極が形成された状態とする。
【0033】
また、上述した比較試料セル(#1-0-0)に加え、次に示す2つの比較試料セルを作製する。まず、LSMに代えてLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83(LSCF)を用いて空気極を作製して比較試料セル(#1-0-1)とする。また、LSMに代えてLaNi0.6Fe0.43(LNF)を用いて空気極を作製して比較試料セル(#1-0-2)とする。
【0034】
このようにして形成した単セルは、図2の斜視図に示すように、1辺30mmの正方形の板状に形成された電解質基板201の上に、直径10mmの円盤に形成された空気極202が配置されている。なお、図2において、電解質基板201の下に配置される燃料極および集電体は、図示せずに省略している。また、この単セルは、電解質基板201の周辺部に白金からなる参照極203を備え、これに接続した状態で前述した測定を行う。
【0035】
[実施例1]
次に、実施例1として、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(試料セル:#1-1-0〜#1-1-9,#1-2-0〜#1-2-9)の作製について説明する。この試料セルは、上述した比較試料セルの空気極に用いたLSMの代わりに、以下の表1に示すように、LaNixCoyFe(1-y-x)3の粉末(#1-1-0〜#1-1-9)およびLaCuxCoyFe(1-y-x)3の粉末(#1-2-0〜#1-2-9)を用い、この他は比較試料セルと同様に作製する。なお、表1には、LaNixCoyFe(1-y-x)3においては、Ni,Co,Feの組成を変化させ、各試料セル(#1-1-0〜#1-1-9)としている。同様に、LaCuxCoyFe(1-y-x)3においては、Cu,Co,Feの組成を変化させ、各試料セル(#1-2-0〜#1-2-9)としている。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示す各試料セルにおいて前述した測定を行うと、比較試料セル(#1-0-0〜#1-0-2)に比較し、試料セル(#1-1-0〜#1-1-9)および試料セル(#1-2-0〜#1-2-9)のいずれも、界面抵抗が低く良好な結果が得られている。なお、表1に示す試料セルにおいては、空気極の材料としてのLaExCoyFe(1-y-x)3(EはCuまたはNi)において、0.25≦x≦0.7,0.05≦y≦0.5の範囲となっている。なお、表1では、x+y≦0.9の範囲となっている。従って、これらの範囲となっていれば、表1に示した結果と同様の結果が得られるものと考えられる。
【0038】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について図3を用いて説明する。図3は、本発明の実施の形態2における固体酸化物形燃料電池の一部構成例を模式的に示す断面図である。この固体酸化物燃料電池は、電解質101と、電解質101の一方の面に形成された燃料極102と、電解質101の他方に形成された空気極303とを備える。本実施の形態では、空気極303が、実施の形態1の空気極103と同様に、La,遷移金属(Cu,Ni),Co,およびFeを備えるペロブスカイト型酸化物から構成された第1層303aと、電解質101の側に配置される上記ペロブスカイト型酸化物に加えてセリウム酸化物を含む第2層303bとから構成されているようにしたものである。
【0039】
ここで、セリウム酸化物を含む第2層303bの追加について説明する。一般に、空気極はジルコニアを含む電解質と接した状態で焼成して製造される。このため、空気極に接する電解質との間に、空気極を構成しているLaと電解質を構成しているジルコニアとが反応してLa2Zr27などの絶縁体が生成される場合がある。この生成物が、空気極における特性を低下させる原因の1つとなっていることが報告されている。
【0040】
これに対し、ペロブスカイト型酸化物の粒子と、Gd0.2Ce0.82およびSm0.2Ce0.82などの希土類を添加したセリウム酸化物(セリア化合物)の粒子との混合体を、電解質付近に設けることで、空気極における上記問題を解消する技術がある。ペロブスカイト型酸化物の粉末(粉体)とセリア化合物の微粉末とが混合された状態に空気極を形成することで、電解質と空気極との接合部分に生じる電極活性な面積が増大し、電極の界面抵抗を低減させることができる。また、セリア化合物は、ペロブスカイト型酸化物よりなる空気極材料との反応劣化も起こりにくいため、空気極に混合する材料として適している。
【0041】
本実施の形態における空気極303では、電解質101の側に、ペロブスカイト型酸化物に加えてセリウム酸化物を含む第2層303bを備えるようにしたので、第2層303bにおいては、ペロブスカイト型酸化物の粒子がセリア化合物の粒子で覆われる配置となり、電解質101を構成しているジルコニア系材料の部分とペロブスカイト型酸化物材料との直接の接触を抑制し、抵抗性の高いLa2Zr27などの生成が抑制されるようになる。
【0042】
なお、上述した実施の形態においても、固体酸化物形燃料電池の基本的な構成(単セル)を説明している。実際には、よく知られているように、複数の単セルがインターコネクタを介して積層された状態で用いられ、各単セルにおいて、都市ガスなどの炭化水素ガスを改質して得られた水素を含む燃料ガスが燃料極102の側に供給され、酸化剤ガスとしての酸素を含む空気が空気極303の側に供給されることで、発電動作が行われる。
【0043】
次に、実際に作製した固体酸化物形燃料電池の単セルにおける特性測定結果について説明する。
【0044】
[実施例2]
始めに、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(単セル)の作製について説明する。まず、よく知られたドクターブレード法でシート状に成形して焼成したSc23,Al23添加ジルコニア(0.89ZrO2−0.10Sc23−0.01Al23:SASZ)からなる電解質基板を用意する。電解質基板は、厚さ0.2mmに形成する。次に、平均粒径が約0.6μmのSASZの粉末(40wt%)に平均粒径が0.2μmのNiO粉末(60wt%)を混合した混合粉末のスラリを作製し、このスラリを上述した電解質基板の一方の面に、よく知られたスクリーン印刷法により塗布して燃料極塗布膜を形成する。加えて、この燃料極塗布膜の上に白金のメッシュよりなる集電体を配置し、これらを、1300℃・8時間の熱処理条件で、空気中で焼成し、上記混合粉末の焼結体からなる厚さ60μmの燃料極が形成された状態とする。
【0045】
次に、前述同様の空気極となる材料とセリア化合物としてのGd0.2Ce0.82(GDC)との混合粉末のスラリを作製し、このスラリを、上述した電解質基板の他方の面にスクリーン印刷法により塗布して空気極の第2層塗布膜を形成する。加えて、第2層塗布膜の上に、空気極の材料の粉末が分散したスラリを厚く塗布し、第1層塗布膜が形成された状態とする。加えて、この第1層塗布膜の上に白金のメッシュよりなる集電体を配置し、これらを、1100℃・2時間の熱処理条件で焼成し、上記粉末の焼結体からなる厚さ3μmの第2層および厚さ60μmの第1層からなる空気極が形成された状態とする。
【0046】
このようにして形成した単セルは、前述した実施の形態1の場合と同様であり、図2の斜視図に示すように、1辺30mmの正方形の板状に形成された電解質基板201の上に、直径10mmの円盤に形成された空気極202が配置されている。
【0047】
この実施例2では、参照試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#2-0-0〜#2-0-3)は、空気極材料としてLaNi0.6Fe0.43を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#2-1-0〜#2-1-3)は、空気極材料としてLaNi0.6Co0.3Fe0.13を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#2-2-0〜#2-2-3)は、空気極材料としてLaCu0.6Co0.3Fe0.13を用いる。また、以下の表2に示すように、各々において、空気極材料とセリア化合物との混合比は、9:1,8:2,6:4,および4:6とする。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示すように、セリウム酸化物を有する第2層を備える場合においても、試料セル(#2-1-0〜#2-1-3)および試料セル(#2-2-0〜#2-2-3)は、参照試料セル(#2-0-0〜#2-0-3)に比較して、界面抵抗が低く良好な結果が得られている。
【0050】
[実施の形態3]
次に、実施の形態3について説明する。上述した実施の形態1,2では、いわゆる電解質支持型の単セルを作製し、空気極と参照極との間で測定を行うようにしたが、実施の形態3では、燃料極支持型の単セルを作製した場合について実施例を用いて説明する。
【0051】
[実施例3]
燃料極支持型の単セルを用いた場合として、はじめに、実施例3について説明する。
【0052】
[測定方法2]
まず、測定は、燃料極と空気極との間に5mV程度の交流電圧が印加されるように微小な交流信号(電流)を印加(流)し、これに対して空気極と燃料極との間に現れる微小な電位変化をインピーダンス測定器で測定し、この測定結果よりインピーダンスを求める。なお、この測定においても、燃料極には室温(23℃程度)とした加湿水素ガスを燃料ガスとして供給し、空気極には酸素を供給する。
【0053】
[セルの作製2]
次に、比較試料となる固体酸化物形燃料電池セル(比較試料セル:#3-0-0)を例にとり、単セルの作製について説明する。まず、ドクターブレード法でシート状の成形した燃料極材料からなる燃料極シートに、ドクターブレード法でシート状に成形したSASZからなる電解質シートを貼り合わせ、これらを1300℃の熱処理条件で焼成し、燃料極支持型のハーフセルを作製する。
【0054】
次に、平均粒径が1.0μmのLaNi0.6Fe0.43(LNF)粉末をエチレングリコールに分散させたスラリを作製し、このスラリを、上述したハーフセルの電解質層上にスクリーン印刷法により塗布して空気極塗布膜を形成する。加えて、この空気極塗布膜の上に白金のメッシュよりなる集電体を配置し、これら空気極塗布膜が形成された電解質基板を、1100℃・2時間の熱処理条件で焼成し、上記粉末の焼結体からなる厚さ60μmの空気極が形成された状態とする。
【0055】
このようにして形成した単セルは、図4の断面図に示すように、燃料極基板401の上に、固体電解質402が積層され、固体電解質402の上に空気極403が形成されている。また、単セルには、燃料極基板401および空気極403に、上述した測定を行うための電流を印加する電流線411,電流線431が接続され、電位変化を測定するための電圧線412,電圧線432が接続されている。なお、図4では、集電体は省略して図示していない。電力線および電圧線は、集電体を介して接続されている。
【0056】
次に、実施例3における試料となる固体酸化物形燃料電池セル(試料セル:#3-1-0〜#3-1-2,#3-2-0〜#3-2-2)の作製について説明する。この試料セルは、上述した比較試料セルの空気極に用いたLNFの代わりに、以下の表3に示すように、LaNixCoyFe(1-y-x)3の粉末(#3-1-0〜#3-1-2)およびLaCuxCoyFe(1-y-x)3の粉末(#3-2-0〜#3-2-2)を用い、この他は比較試料セル(#3-0-0)と同様に作製する。なお、LaNixCoyFe(1-y-x)3においては、Ni,Co,およびFeの組成を変化させ、各試料セル(#3-1-0〜#3-1-2)としている。同様に、LaNixCoyFe(1-y-x)3においても、Ni,Co,およびFeの組成を変化させ、各試料セル(#3-2-0〜#3-2-2)としている。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示す各試料セルにおいて前述した測定を行うと、試料セル(#3-1-0〜#3-1-2および#3-2-0〜#3-2-2)は、比較試料セル(#3-0-0)に比較して、界面抵抗が低く良好な結果が得られている。
【0059】
ところで、スタック構造とする固体酸化物燃料電池では、空気極はインターコネクタと接した状態で用いられる。このため、発電動作を長期に継続すると、耐熱合金からなるインターコネクタに含まれている酸化クロムと、空気極に含まれているストロンチウム(Sr)との反応生成物が形成されるようになり、固体酸化物形燃料電池(空気極)の性能低下を引き起こすという問題がある(非特許文献2,3参照)。この問題は、空気極にSrを含む材料を用いているために起こるものであり、Srを含まない材料から空気極を構成すれば、解消される。しかしながら一般には、Srを含まない材料(ペロブスカイト型酸化物)は電気伝導特性が著しく低く、これから空気極を構成すると、Srを含んで構成される空気極に比較して大きく性能が低下するとされている(非特許文献4参照)。
【0060】
これに対し、前述したように、空気極がストロンチウム(Sr)を含んでいない状態とすれば、耐熱合金からなるインターコネクタに含まれている酸化クロムとSrとの反応生成物が形成されることが無くなり、経時的な使用による固体酸化物形燃料電池(空気極)の劣化を抑制することができる。
【0061】
[実施例4]
以下、インターコネクタとの接続に関し、実際に作製した固体酸化物形燃料電池の単セルにおける特性測定結果について説明する。
【0062】
この実施例4では、まず、空気極塗布膜の上に鉄クロム系耐熱合金(ZMG232)のメッシュよりなる集電体を配置し、これら空気極塗布膜が形成された電解質基板を焼成する。従って、実施例4においては、空気極に、耐熱合金からなるインターコネクタが接している状態に等しい構成となっている。
【0063】
また、3つの参照試料セル(#4-0-0,#4-0-1,#4-0-2)を用意(作製)する。参照試料セル(#4-0-0)は、粒径1.0μmのLaNi0.6Fe0.43(LNF)粉末を用いて前述同様に空気極を作製したものである。また、参照試料セル(#4-0-1)は、Srを含むLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83(LSCF)を用いて空気極を作製したものである。また、参照試料セル(#4-0-2)は、Srを含むLa0.8Sr0.2MnO3(LSM)を用いて空気極を作製したものである。
【0064】
また、実施例4における試料セル(#4-1-0〜#4-1-2,#4-2-0〜#4-2-2)は、実施例3と同様に、LaNixCoyFe(1-y-x)3の粉末(#4-1-0〜#4-1-2)およびLaCuxCoyFe(1-y-x)3の粉末(#4-2-0〜#4-2-2)を用い、この他は比較試料セルと同様に作製する。なお、表4に示すように、本実施例においては、通電を100時間した後に加え、通電を1000時間した後の界面抵抗も測定している。
【0065】
【表4】

【0066】
表4に示すように、通電1000時間では、空気極がSrを含む比較試料セル(#4-0-0,#4-0-2)においては界面抵抗が上昇しているが、比較試料セル(#4-0-0)および試料セル(#4-1-0〜#4-1-2,#4-2-0〜#4-2-2)では、界面抵抗がほとんど上昇していない。このように、空気極にSrが含まれていない状態とすることで、耐熱合金からなる集電体との間において、酸化クロムとSrとの反応生成物の形成が抑制されているものと考えられる。また、表4に示すように、鉄クロム系耐熱合金(ZMG232)のメッシュよりなる集電体を用いた場合においても、試料セル(#4-1-0〜#4-1-2,#4-2-0〜#4-2-2)の方が、比較試料セル(#4-0-0)に比べて界面抵抗が低く良好な結果が得られている。
【0067】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態4では、前述した実施の形態1における空気極103が、希土類元素(Laを除く),遷移金属(CuまたはNi),Co,およびFeを備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物から構成されているようにしたものである。前述した実施の形態1では、希土類元素としてLaを用いる場合について説明したが、これに限るものではなく、ネオジム(Nd),サマリウム(Sm),プラセオジム(Pr),ユウロピウム(Eu),ガドリニウム(Gd)などの他の希土類元素であってもよい。このように、本実施の形態4では、Laを除く希土類元素,遷移金属(CuまたはNi),Co,およびFeを備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物から、空気極が構成されているようにしたところに特徴がある。また、Laを含む上記希土類元素の中より2つ以上を選択して用いるようにしたところに特徴がある。
【0068】
ここで、本実施の形態4における空気極103を構成するペロブスカイト型酸化物は、LnExCoyFe(1-y-x)3(LnはLa以外の希土類元素、EはCuまたはNi)で示され、例えば、0.05≦x≦0.8,0.05≦y≦0.9,x+y<1)の範囲とされたものである。
【0069】
例えば、空気極103は、LnExCoyFe(1-y-x)3で示されるペロブスカイト型酸化物の焼成体(多孔質焼結体)から構成されている。なお、LnExCoyFe(1-y-x)3における酸素は、化学量論組成から多少ずれた値の範囲も含むものである。このような、空気極103は、上記ペロブスカイト型酸化物からなる所定の粒径の粉末を有する多孔質焼結体から形成されていればよい。
【0070】
このように構成した本実施の形態4の固体酸化物形燃料電池においても、前述した実施の形態1の場合と同様に、LNFなどのCoを含まないペロブスカイト型酸化物を用いた場合に比較し、800℃程度の低温な動作温度における空気極特性の向上が図れ、さらなる出力電圧の向上が得られるようになる。また、当然ではあるが、本実施の形態4における空気極103は、Srを含んでいないので、酸化クロムとの反応性が低く、LSCFなどと耐熱合金よりなるインターコネクタとの間における問題が発生しない。
【0071】
次に、実際に作製した固体酸化物形燃料電池の単セルにおける特性測定結果について説明する。まず、以下の特性測定結果においても、前述した「測定方法1」で説明した測定方法を用いる。また、基本的に、前述した「セルの作製1」で説明した方法により試料セルを作製する。
【0072】
[実施例5]
以下、実施例5として、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(試料セル:#5-1-0〜#5-1-9,#5-2-0〜#5-2-9,#5-3-0〜#5-3-7)の作製について説明する。この試料セルは、「セルの作製1」で説明した比較試料セルの空気極に用いたLSMの代わりに、以下の表5に示すように、NdNixCoyFe(1-y-x)3の粉末(#5-1-0〜#5-1-9)およびNdCuxCoyFe(1-y-x)3の粉末(#5-2-0〜#5-2-9)を用い、この他は比較試料セルと同様に作製する。また、希土類元素Lnとして、Sm,Gd,Pr,Eu,Nd,およびLaを含む希土類元素を組み合わせた場合のLnNi0.6Co0.2Fe0.23の粉末(#5-3-0〜#5-3-7)を用い、この他は比較試料セルと同様に作製する。
【0073】
なお、表5には、NdNixCoyFe(1-y-x)3においては、Ni,Co,Feの組成を変化させ、各試料セル(#5-1-0〜#5-1-9)としている。同様に、NdCuxCoyFe(1-y-x)3においては、Cu,Co,Feの組成を変化させ、各試料セル(#5-2-0〜#5-2-9)としている。また、表5において、比較試料セル(#5-0-0)は、表1における比較試料セル(#1-0-0)と同じである。
【0074】
【表5】

【0075】
表5に示す各試料セルにおいて前述した測定を行うと、比較試料セル(#5-0-0)に比較し、試料セル(#5-1-0〜#5-1-9)および試料セル(#5-2-0〜#5-2-9)のいずれも、界面抵抗が低く良好な結果が得られている。また、試料セル試料セル(#5-3-0〜#5-3-7)においても、参照試料セルに比較して、界面抵抗が低く良好な結果が得られており、この結果より、LnExCoyFe(1-y-x)3(EはCuまたはNi)で示されるペロブスカイト型酸化物において、Lnを複数の希土類元素から構成しても、前述同様の良好な結果が得られることが分かる。このように、複数の希土類元素と遷移金属(CuまたはNi),Co,およびFeを備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物から空気極が構成されていても、前述同様の効果があり、この場合、La,Nd,Sm,Pr,Eu,およびGdの中より選択された2つ以上の希土類元素を用いることができる。
【0076】
なお、表5に示す試料セルにおいては、空気極の材料としてのLnExCoyFe(1-y-x)3(EはCuまたはNi)において、0.05≦x≦0.7,0.05≦y≦0.85の範囲となっている。また、表5では、x+y≦0.95の範囲となっている。従って、これらの範囲となっていれば、表5に示した結果と同様の結果が得られるものと考えられる。なお、0.05≦x≦0.8,0.05≦y≦0.9,x+y<1であれば、同様の結果が得られるものと考えられる。
【0077】
[実施の形態5]
次に、本発明の実施の形態5について説明する。本実施の形態5では、前述した実施の形態2における空気極303を構成するペロブスカイト型酸化物が、希土類元素(Laを除く),遷移金属(CuまたはNi),Co,およびFeを備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物から構成されているようにしたものである。前述した実施の形態2では、ペロブスカイト型酸化物を構成する希土類元素としてLaを用いる場合について説明したが、これに限るものではなく、ネオジム(Nd),サマリウム(Sm),プラセオジム(Pr),ユウロピウム(Eu),ガドリニウム(Gd)などの他の希土類元素であってもよい。このように、本実施の形態5では、前述した実施の形態4と同様に、空気極を構成しているペロブスカイト型構造の金属酸化物が、Laを除く希土類元素,遷移金属(CuまたはNi),Co,およびFeを備えるようにしたところに特徴がある。また、Laを含む上記希土類元素の中より2つ以上を選択して用いるようにしたところに特徴がある。
【0078】
ここで、本実施の形態5における空気極303を構成するペロブスカイト型酸化物は、LnExCoyFe(1-y-x)3(LnはLa以外の希土類元素、EはCuまたはNi)で示され、例えば、0.05≦x≦0.8,0.05≦y≦0.9,x+y<1の範囲とされたものである。
【0079】
なお、本実施の形態5における空気極303においても、電解質101の側に配置されている第2層303bにおいては、ペロブスカイト型酸化物の粒子がセリア化合物の粒子で覆われる配置となり、電解質101を構成しているジルコニア系材料の部分とペロブスカイト型酸化物材料との直接の接触を抑制し、La2Zr27などの有害なジルコニアとの反応生成物の生成が抑制されるようになる。
【0080】
次に、実際に作製した固体酸化物形燃料電池の単セルにおける特性測定結果について説明する。
【0081】
[実施例6]
この実施例6では、前述した実施例2と同様に空気極を作製する。本実施例6では、参照試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#6-0-0〜#6-0-3)は、空気極材料としてLa0.8Sr0.2MnO3を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#6-1-0〜#6-1-3)は、空気極材料としてNdNi0.6Co0.2Fe0.23を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#6-2-0〜#6-2-3)は、空気極材料としてNdCu0.6Co0.2Fe0.23を用いる。
【0082】
また、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#6-3-0)は、空気極材料としてSmNi0.6Co0.2Fe0.23を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#6-3-1)は、空気極材料としてGdNi0.6Co0.2Fe0.23を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#6-3-2)は、空気極材料としてPrNi0.6Co0.2Fe0.23を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#6-3-3)は、空気極材料としてEuNi0.6Co0.2Fe0.23を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#6-3-4)は、空気極材料としてNd0.8Gd0.2Ni0.6Co0.2Fe0.23を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#6-3-5)は、空気極材料としてLa0.8Pr0.2Ni0.6Co0.2Fe0.23を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#6-3-6)は、空気極材料としてNd0.75Gd0.2Pr0.05Ni0.6Co0.2Fe0.23を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#6-3-7)は、空気極材料としてNd0.65Sm0.2Gd0.1Pr0.05Ni0.6Co0.2Fe0.23を用いる。また、以下の表6に示すように、各々において、空気極材料とセリア化合物との混合比は、9:1,8:2,6:4,および4:6とする。
【0083】
【表6】

【0084】
表6に示すように、セリウム酸化物を有する第2層を備える場合においても、試料セル(#6-1-0〜#6-1-3),試料セル(#6-2-0〜#6-2-3),および試料セル(#6-3-0〜#6-3-3)は、参照試料セル(#6-0-0〜#6-0-3)に比較して、界面抵抗が低く良好な結果が得られている。また、試料セル(#6-3-4〜#6-3-7)においても、参照試料セル(#6-0-0〜#6-0-3)に比較して、界面抵抗が低く良好な結果が得られており、この結果より、LnExCoyFe(1-y-x)3(EはCuまたはNi)で示されるペロブスカイト型酸化物において、Lnを複数の希土類元素から構成しても、前述同様の良好な結果が得られることが分かる。このように、複数の希土類元素と遷移金属(CuまたはNi),Co,およびFeを備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物から空気極が構成されていても、前述同様の効果があり、この場合、La,Nd,Sm,Pr,Eu,およびGdの中より選択された2つ以上の希土類元素を用いることができる。
【0085】
[実施の形態6]
次に、本発明の実施の形態6について説明する。上述した実施の形態4,5では、いわゆる電解質支持型の単セルを作製し、空気極と参照極との間で測定を行うようにしたが、前述した実施の形態3と同様に、燃料極支持型としてもよい。以下では、燃料極支持型とした場合について実施例を用いて説明する。
【0086】
[実施例7]
燃料極支持型の単セルを用いた場合として、はじめに、実施例7について説明する。なお、以下では、前述した「測定方法2」により測定を行い、また、前述した「セルの作製2」と同様にすることで、試料セル(比較試料セル)を作製する。なお、本実施例7では、比較試料セル(#7-0-0)として、空気極にLSM(La0.8Sr0.2MnO3)を用いる。
【0087】
次に、実施例7における試料となる固体酸化物形燃料電池セル(試料セル:#7-1-0〜#7-1-2,#7-2-0〜#7-2-2,#7-3-0〜#7-2-5)の作製について説明する。この試料セルは、上述した比較試料セルの空気極に用いたLSMの代わりに、以下の表7に示すように、NdNixCoyFe(1-y-x)3の粉末(#7-1-0〜#7-1-2)およびNdCuxCoyFe(1-y-x)3の粉末(#7-2-0〜#7-2-2)を用い、この他は比較試料セル(#7-0-0)と同様に作製する。また、希土類元素Lnとして、Sm,Gd,Pr,Eu,および複数の希土類元素(Laを含む)を用いたLnNi0.6Co0.2Fe0.23の粉末(#7-3-0〜#7-3-5)を用い、この他は比較試料セル(#7-0-0)と同様に作製する。
【0088】
なお、LaNixCoyFe(1-y-x)3においては、Ni,Co,およびFeの組成を変化させ、各試料セル(#7-1-0〜#7-1-2)としている。同様に、LaCuxCoyFe(1-y-x)3においても、Ni,Co,およびFeの組成を変化させ、各試料セル(#7-2-0〜#7-2-2)としている。
【0089】
【表7】

【0090】
表7に示す各試料セルにおいて前述した測定を行うと、試料セル(#7-1-0〜#7-1-2および#7-2-0〜#7-2-2)は、比較試料セル(#7-0-0)に比較して、界面抵抗が低く良好な結果が得られている。また、試料セル(#7-3-0〜#7-3-5)においても、参照試料セルに比較して、界面抵抗が低く良好な結果が得られており、この結果より、LnExCoyFe(1-y-x)3(EはCuまたはNi)で示されるペロブスカイト型酸化物において、Lnを複数の希土類元素から構成しても、前述同様の良好な結果が得られることが分かる。このように、複数の希土類元素と遷移金属(CuまたはNi),Co,およびFeを備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物から空気極が構成されていても、前述同様の効果があり、この場合、La,Nd,Sm,Pr,Eu,およびGdの中より選択された2つ以上の希土類元素を用いることができる。
【0091】
[実施例8]
以下、実施例8として、インターコネクタとの接続に関し、実際に作製した固体酸化物形燃料電池の単セルにおける特性測定結果について説明する。
【0092】
この実施例8では、まず、空気極塗布膜の上に鉄クロム系耐熱合金(ZMG232)のメッシュよりなる集電体を配置し、これら空気極塗布膜が形成された電解質基板を焼成する。従って、実施例8においては、空気極に、耐熱合金からなるインターコネクタが接している状態に、等しい構成となっている。
【0093】
また、参照試料セル(#8-0-0)を用意(作製)する。参照試料セル(#8-0-0)は、Srを含むLa0.8Sr0.2MnO3(LSM)を用いて空気極を作製したものである。
【0094】
また、実施例8における試料セル(#8-1-0〜#8-1-2,#8-2-0〜#8-2-2)は、実施例7と同様に、NdNixCoyFe(1-y-x)3の粉末(#8-1-0〜#8-1-2)およびNdCuxCoyFe(1-y-x)3の粉末(#8-2-0〜#8-2-2)を用い、この他は比較試料セルと同様に作製する。また、希土類元素Lnとして、Sm,Gd,Pr,Eu,および複数の希土類元素(Laを含む)を用いたLnNi0.6Co0.2Fe0.23の粉末(#8-3-0〜#8-3-5)を用い、この他は上述した各試料セルと同様に作製する。なお、表8に示すように、本実施例においては、通電を100時間した後に加え、通電を1000時間した後の界面抵抗も測定している。
【0095】
【表8】

【0096】
表8に示すように、通電1000時間では、空気極がSrを含む比較試料セル(#8-0-0)においては界面抵抗が上昇しているが、試料セル(#8-1-0〜#8-1-2,#8-2-0〜#8-2-2)では、界面抵抗がほとんど上昇していない。このように、空気極にSrが含まれていない状態とすることで、耐熱合金からなる集電体との間において、酸化クロムとSrとの反応生成物の形成が抑制されているものと考えられる。また、表8に示すように、鉄クロム系耐熱合金(ZMG232)のメッシュよりなる集電体を用いた場合においても、試料セル(#8-1-0〜#8-1-2,#8-2-0〜#8-2-2)の方が、比較試料セル(#8-0-0)に比べて界面抵抗が低く良好な結果が得られている。
【0097】
加えて、本実施例8においても、試料セル(#8-3-0〜#8-3-5)において、他の試料セルと同様に、界面抵抗が低く良好な結果が得られており、この結果より、LnExCoyFe(1-y-x)3(EはCuまたはNi)で示されるペロブスカイト型酸化物において、Lnを複数の希土類元素から構成しても、前述した実施例7の場合と同様の良好な結果が得られることが分かる。
【0098】
[実施の形態7]
次に、本発明の実施の形態7について説明する。図5は、本発明の実施の形態7における固体酸化物形燃料電池の一部構成例を模式的に示す断面図である。この固体酸化物燃料電池は、ジルコニア系の材料から構成された電解質501と、電解質501の一方の面に形成された燃料極502とを備える。また、本実施の形態の固体酸化物形燃料電池は、電解質501の他方に形成され、希土類、遷移金属E、コバルト(Co)、および鉄(Fe)を備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物(ペロブスカイト型酸化物)から構成された空気極503を備える。
【0099】
上記遷移金属は、銅またはニッケルである。また、希土類は、ランタン(La),プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),サマリウム(Sm),ユウロピウム(Eu),およびガドリニウム(Gd)の少なくとも1つであり、例えば、これらの2つが含まれていてもよい。例えば、空気極503は、上記ペロブスカイト型酸化物の焼成体(多孔質焼結体)から構成されている。
【0100】
ここで、本実施の形態では、上記ペロブスカイト型酸化物を、LnE1/3Co1/3Fe1/33(Lnは希土類、Eは銅またはニッケル)で示されるものとしたところに特徴がある。なお、LnE1/3Co1/3Fe1/33における各元素の原子数は、化学量論組成から多少ずれた値の範囲も含むものである。
【0101】
なお、電解質501は、例えば、酸化スカンジウム(Sc23)および酸化アルミニウム(Al23)安定化ZrO2(SASZ),イットリア安定化ジルコニア(YSZ),スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などのジルコニア材料の粉体の焼結体から構成されていればよい。また、燃料極502は、例えば、ニッケル−イットリア安定化ジルコニアサーメット(Ni−YSZ),ニッケルアルミナ添加スカンジア安定化ジルコニア(Ni−SASZ)などの、電解質501を構成する酸化物材料に金属ニッケルが混合された電子伝導性を有する金属−酸化物混合体(サーメット)の粉体の焼成体(多孔質焼結体)から構成されていればよい。
【0102】
また、これらの各層は、よく知られているように、粉体もしくは混合粉体のスラリを作製し、ドクターブレード法による成形やスクリーン印刷法による塗布でシートを形成し、これを1000〜1200℃で焼成することで作製することができる。
【0103】
このように構成した本実施の形態の固体酸化物形燃料電池によれば、Laなどの希土類,NiもしくはCu,Co,およびFeよりなるペロブスカイト型酸化物で空気極503を構成したので、LNFなどのCoを含まないペロブスカイト型酸化物を用いた場合に比較し、800℃程度の低温な動作温度における空気極特性の向上が図れ、さらなる出力電圧の向上が得られるようになる。また、空気極503は、Srを含んでいないので、酸化クロムとの反応性が低く、LSCFなどと耐熱合金よりなるインターコネクタとの間における問題が発生しない。加えて、本実施の形態によれば、空気極503を構成するペロブスカイト型酸化物をLnE1/3Co1/3Fe1/33(Lnは希土類、Eは銅またはニッケル)から構成し、Fe,Co,元素Eの構成比を概ね1:1:1としたので、後述するように、上記ペロブスカイト型酸化物の結晶全体を安定化させ、耐久性に優れたものにすることができる。
【0104】
なお、上述した実施の形態では、固体酸化物形燃料電池の基本的な構成(単セル)を説明している。実際には、よく知られているように、複数の単セルがインターコネクタを介して積層された状態で用いられ、各単セルにおいて、都市ガスなどの炭化水素ガスを改質して得られた水素を含む燃料ガスが燃料極502の側に供給され、酸化剤ガスとしての酸素を含む空気が空気極503の側に供給されることで、発電動作が行われる。
【0105】
次に、空気極503をLnE1/3Co1/3Fe1/33(Lnは希土類、Eは銅またはニッケル)から構成したことについて、より詳細に説明する。組成式AMO3で示されるペロブスカイト型構造の酸化物において、Mを構成するコバルト,鉄,および元素E(銅またはニッケル)の構成比を、概ね1:1:1とすることにより、結晶全体が安定化し、空気極の耐久性を向上させることができる。
【0106】
この理由について、以下に説明する。まず、LnE1/3Co1/3Fe1/33(Lnは希土類、Eは銅またはニッケル)としたペロブスカイト型酸化物においては、図6Aの平面図に示すように、Co,Fe,および元素Eの遷移金属が同一平面において等価に存在している遷移金属層601を備える。加えて、このペロブスカイト型酸化物は、図6Bの模式的な断面図に示すように、遷移金属層601が、希土類(Ln)と酸素からなる層602と交互に1層ずつ存在して積層された状態となっている。
【0107】
または、LnE1/3Co1/3Fe1/33(Lnは希土類、Eは銅またはニッケル)としたペロブスカイト型酸化物においては、図7Aの平面図に示すような、Feが同一平面に独立して存在しているFe層701,Coが同一平面に独立して存在しているCo層702,および元素Eが同一平面に独立して存在している元素E層703を備える。加えて、図7Bの模式的な断面図に示すように、Fe層701,Co層702,および元素E層703が、希土類(Ln)と酸素からなる層704を挟んで、1層おきに独立層として存在して積層された状態となっている。
【0108】
上述したように構成されている本実施の形態における空気極を構成するペロブスカイト型酸化物では、まず、遷移金属層601においてCo,Fe,および元素Eの遷移金属の各々の元素の効果が等しく現れる。また、Fe層701,Co層702,および元素E層703においては、各々の元素の効果が周期的に現れるようになる。これらのことが、前述したように、結晶全体を安定化させ、耐久性を向上させることができる理由として考えられる。
【0109】
以上のことより、LnE1/3Co1/3Fe1/33(Lnは希土類、Eは銅またはニッケル)とすること、言い換えると、Co,Fe,および元素Eの構成比を可能な範囲で1:1:1に近くすることが望ましい。これらの構成比が1:1:1より外れると、元素の過剰や欠乏が発生することになり、図6A,図6B,図7A,および図7Bに示したような、安定な配置とはならず、結晶全体を安定化させ、耐久性を向上させることができなくなるものと考えられる。
【0110】
また、図6Aに示す各遷移元素の配置の場合、Fe同士,Co同士,元素E同士の距離は、隣り合う元素間の距離の31/2となって規則的に配列し、いわゆる超格子構造が形成される。この規則性が顕著な場合、X線回折測定もしくは中性子線回折測定において、特徴的なピークが観察され得る。例えば、六方晶を有するペロブスカイト型酸化物において、a軸長が0.55nm,c軸長が1.32nmであるとき、線源に銅Kα線(波長0.154nm)を用いると、全てのX線回折ピークは、(101)面の2θ=19.8°のピークよりも高角度側にあり、2θが19°より低角度側にはピークを持たない。
【0111】
これに対して、前述したような超格子構造の場合、(1/2 1/2 0)面のピークが2θ=18.6°に現れることが予測される。しかしながら、原子散乱因子が互いに近いCo,Fe,元素Eでは、区別がつきにくく、上述したピークの検出が容易ではない。一方、中性子線回折においては、Co,Fe,元素Eの区別が可能であるため、上述した超格子構造のピーク検出は、X線回折に比べると容易である。
【0112】
また、LnE1/3Co1/3Fe1/33のLn(希土類)を、La,Pr,Nd,Sm,Eu,およびGdの中より選択された1つ以上とすることで、空気極を安定化させることができる。これは、例えば、ルテチウムのようなイオン半径が小さい希土類元素の場合、酸素−酸素間の距離が短くなり、ペロブスカイト型構造が不安定になるためと考えられる。
【0113】
次に、実際に作製した固体酸化物形燃料電池の単セルにおける特性測定結果について、以下に説明する。
【0114】
[セルの作製3]
まず、比較試料となる固体酸化物形燃料電池セル(比較試料セル:#9-0-0)を例にとり、単セルの作製について説明する。まず、よく知られたドクターブレード法でシート状に成形して焼成したSc23・Al23添加ジルコニア(0.89ZrO2−0.10Sc23−0.01Al23:SASZ)からなる電解質基板を用意する。電解質基板は、厚さ0.2mmに形成する。次に、平均粒径が約0.6μmのSASZの粉末(40wt%)に、平均粒径が0.2μmのNiO粉末(60wt%)を混合した混合粉末のスラリを作製し、このスラリを上述した電解質基板の一方の面に、スクリーン印刷法により塗布して燃料極塗布膜を形成する。加えて、この燃料極塗布膜の上に白金のメッシュよりなる集電体を配置し、これらを、1300℃・8時間の熱処理条件で、空気中で焼成し、上記混合粉末の焼結体からなる厚さ60μmの燃料極が形成された状態とする。
【0115】
次に、平均粒径が1.0μmのLa0.8Sr0.2MnO3(LSM)粉末のスラリを作製し、このスラリを、上述した電解質基板の他方の面にスクリーン印刷法により塗布して空気極塗布膜を形成する。加えて、この空気極塗布膜の上に白金のメッシュよりなる集電体を配置し、これら空気極塗布膜が形成された電解質基板を、1100℃・2時間の熱処理条件で焼成し、上記粉末の焼結体からなる厚さ60μmの空気極が形成された状態とする。
【0116】
また、上述した比較試料セル(#9-0-0)に加え、次に示す2つの比較試料セルを作成する。まず、LSMに変えてLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83(LSCF)を用いて空気極を作成して比較試料セル(#9-0-1)とする。また、LSMに変えてLaNi0.6Fe0.43(LNF)を用いて空気極を作成して比較試料セル(#9-0-2)とする。
【0117】
このようにして形成した単セルは、前述した実施の形態1と同様であり、図2の斜視図に示すように、1辺30mmの正方形の板状に形成された電解質基板201の上に、直径10mmの円盤に形成された空気極202が配置された状態とされている。なお、図2において、電解質基板201の下に配置される燃料極および集電体は、図示せずに省略している。また、この単セルは、電解質基板201の周辺部に白金からなる参照極203を備え、これに接続した状態で前述した[測定方法1]による測定を行う。
【0118】
[実施例9]
次に、実施例9として、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(試料セル:#9-1-0〜#9-1-2,#9-2-0〜#9-2-2)の作成について説明する。この試料セルは、上述した比較試料セルの空気極に用いたLSMの代わりに、以下の表9に示すように、LnNi1/3Co1/3Fe1/33の粉末(#9-1-0〜#9-1-2)およびLnCu1/3Co1/3Fe1/33の粉末(#9-2-0〜#9-2-2)を用い、この他は比較試料セルと同様に作製する。なお、表9には、LnNi1/3Co1/3Fe1/33においては、Ni,Co,Feの組成比を概ね1:1:1としてLnの種類を変更して各試料セル(#9-1-0〜#9-1-2)としている。同様に、LnCu1/3Co1/3Fe1/33においては、Cu,Co,Feの組成比を概ね1:1:1としてLnの種類を変更して各試料セル(#9-2-0〜#9-2-2)としている。
【0119】
【表9】

【0120】
表9に示す各試料セルにおいて前述した測定を行うと、比較試料セル(#9-0-0,#9-0-1,#9-0-2)に比較し、試料セル(#9-1-0〜#9-1-2および#9-2-0〜#9-2-2)においてはいずれも、100時間後の界面抵抗が低く、また、1000時間後においても、この低い界面抵抗が維持されており、良好な結果が得られている。なお、表9においては、空気極の材料としてのLnE1/3Co1/3Fe1/33(EはCuまたはNi)のE,Co,Feの組成比は概ね1:1:1であり、また、Lnの種類としてLaとNdの結果を比較している。これらのことから、空気極の材料としてのLnE1/3Co1/3Fe1/33(EはCuまたはNi)のE,Co,Feの組成比を概ね1:1:1とすれば、表9と同様の結果が得られるものと考えられる。
【0121】
[実施の形態8]
次に、本発明の実施の形態8について図8を用いて説明する。図8は、本発明の実施の形態8における固体酸化物形燃料電池の一部構成例を模式的に示す断面図である。この固体酸化物燃料電池は、電解質801と、電解質801の一方の面に形成された燃料極802と、電解質801の他方に形成された空気極803とを備える。本実施の形態では、空気極203が、実施の形態7の空気極503と同様にLnE1/3Co1/3Fe1/33(Lnは希土類、Eは銅またはニッケル)のペロブスカイト型酸化物から構成された第1層803aと、電解質801の側に配置される上記ペロブスカイト型酸化物に加えてセリウム酸化物を含む第2層803bとから構成されているようにする。
【0122】
本実施の形態における空気極803では、電解質801の側に,第2層803bを備えるようにしたので、第2層803bにおいては、ペロブスカイト型酸化物の粒子がセリア化合物の粒子で覆われる配置となり、電解質801を構成しているジルコニア系材料の部分とペロブスカイト型酸化物材料との直接の接触を抑制するようになる。一般に希土類元素Lnを含む空気極をZrを含む電解質と接した状態で加熱すると、空気極に含まれるLnと電解質に含まれるZrとが反応してLa2Zr27などの抵抗性の高い物質が生成され、空気極の特性を低下させることが知られている。これに対し、ペロブスカイト型酸化物の粒子と、これより粒径の小さなGd0.2Ce0.82もしくはSm0.2Ce0.82などのセリウム酸化物(希土類添加セリア)との混合体を、電解質付近に設けることで、上記の問題を解決することができる。上述したように、ペロブスカイト型酸化物の粒子がセリウム酸化物の粒子によって覆われ、電解質との接触が抑制されるようになるためである。この混合体におけるセリウム酸化物の混合量は、5〜80wt%がよく、10〜60wt%が特によい。
【0123】
なお、上述した実施の形態においても、固体酸化物形燃料電池の基本的な構成(単セル)を説明している。実際には、よく知られているように、複数の単セルがインターコネクタを介して積層された状態で用いられ、各単セルにおいて、都市ガスなどの炭化水素ガスを改質して得られた水素を含む燃料ガスが燃料極802の側に供給され、酸化剤ガスとしての酸素を含む空気が空気極803の側に供給されることで、発電動作が行われる。
【0124】
次に、実際に作製した固体酸化物形燃料電池の単セルにおける特性測定結果について、以下に説明する。
【0125】
[実施例10]
始めに、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(単セル)の作製について説明する。まず、よく知られたドクターブレード法でシート状に成形して焼成したSc23,Al23添加ジルコニア(0.89ZrO2−0.10Sc23−0.01Al23:SASZ)からなる電解質基板を用意する。電解質基板は、厚さ0.2mmに形成する。次に、10mol%Y23が添加された平均粒径が約0.6μmのSASZの粉末(40wt%)に平均粒径が0.2μmのNiO粉末(60wt%)を混合した混合粉末のスラリを作製し、このスラリを上述した電解質基板の一方の面に、よく知られたスクリーン印刷法により塗布して燃料極塗布膜を形成する。加えて、この燃料極塗布膜の上に白金のメッシュよりなる集電体を配置し、これらを、1300℃・8時間の熱処理条件で、空気中で焼成し、上記混合粉末の焼結体からなる厚さ60μmの燃料極が形成された状態とする。
【0126】
次に、前述した実施例9と同様の空気極となる材料とセリア化合物としてのGd0.2Ce0.82(GDC)とを、6:4の重量比で混合して混合粉末のスラリを作製し、このスラリを、上述した電解質基板の他方の面にスクリーン印刷法により塗布して空気極の第2層塗布膜を形成する。加えて、第2層塗布膜の上に、空気極の材料の粉末が分散したスラリを厚く塗布し、第1層塗布膜が形成された状態とする。加えて、この第1層塗布膜の上に白金のメッシュよりなる集電体を配置し、これらを、1100℃・2時間の熱処理条件で焼成し、上記粉末の焼結体からなる厚さ3μmの第2層および厚さ60μmの第1層からなる空気極が形成された状態とする。
【0127】
このようにして形成した単セルは、前述した実施の形態2と同様であり、図2の斜視図に示すように、1辺30mmの正方形の板状に形成された電解質基板201の上に、直径10mmの円盤に形成された空気極202を配置した状態としている。また、この単セルは、電解質基板201の周辺部に白金からなる参照極203を備え、これに接続した状態で前述した[測定方法1]の測定を行う。
【0128】
この実施例10では、参照試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#10-0-0)は、空気極材料としてLaNi0.6Fe0.43を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#10-1-0〜#10-1-2)は、空気極材料としてLnNi1/3Co1/3Fe1/33を用い、試料となる固体酸化物形燃料電池セル(#10-2-0〜#10-2-2)は、空気極材料としてLnCu1/3Co1/3Fe1/33を用いる。なお、表10には、LnNi1/3Co1/3Fe1/33においては、Ni,Co,Feの組成比を概ね1:1:1としてLnの種類を変更して各試料セル(#10-1-0〜#10-1-2)としている。同様に、LnCu1/3Co1/3Fe1/33においては、Cu,Co,Feの組成比を概ね1:1:1としてLnの種類を変更して各試料セル(#10-2-0〜#10-2-2)としている。
【0129】
【表10】

【0130】
表10に示すように、セリウム酸化物を有する第2層803bを備える場合においても、試料セル(#10-1-0〜#10-1-2,#10-2-0〜#10-2-2)は、参照試料セル(#10-0-0)に比較して、100時間後の界面抵抗が低く、また、1000時間後もこの低い界面抵抗が維持されており、良好な結果が得られている。なお、表10においては、空気極の材料としてのLnE1/3Co1/3Fe1/33(EはCuまたはNi)のE,Co,Feの組成比は概ね1:1:1であり、また、Lnの種類としてLaとNd0.8Gd0.2の結果を比較している。これらのことから、空気極の材料としてのLnE1/3Co1/3Fe1/33(EはCuまたはNi)のE,Co,Feの組成比を概ね1:1:1とすれば、表10と同様の結果が得られるものと考えられる。
【0131】
なお、上述した、粒径は、よく知られているレーザー回折散乱法による光強度分布パターンの測定から得られた平均粒子径である。例えば、堀場製作所株式会社製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−910を用いることで、粒径の測定が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0132】
以上に説明したように、本発明によれば、Srを用いずに空気極を構成しているが、本発明におけるペロブスカイト型酸化物を用いることで、所望とする電極特性がより長い時間にわたって得られるようになる。このように、本発明は、高い信頼性および高い効率を必要とする固体酸化物形燃料電池に好適である。
【符号の説明】
【0133】
101…電解質、102…燃料極、103,303…空気極,303a…第1層,303b…第2層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極,電解質,及び空気極を備える固体酸化物形燃料電池において、
前記空気極は、LaExCoyFe(1-y-x)3(Eは銅またはニッケル、0.22<x<1,0<y<1,かつx+y<1)からなるペロブスカイト型構造の金属酸化物から構成されたものである
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記金属酸化物は、LaExCoyFe(1-y-x)3(Eは銅またはニッケル、0.25≦x≦0.7,0.05≦y≦0.5,x+y≦0.9)である
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
請求項2記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記金属酸化物は、LaE1/3Co1/3Fe1/33(Eは銅またはニッケル)であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
燃料極,電解質,及び空気極を備える固体酸化物形燃料電池において、
前記空気極は、ランタンを除く希土類元素,遷移金属(銅またはニッケル),コバルト,および鉄を備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物から構成されたものであり、
前記遷移金属は、銅およびニッケルから選択されたものである
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
請求項4記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記金属酸化物は、LnExCoyFe(1-y-x)3(Lnはランタン以外の希土類元素、Eは銅またはニッケル、0.05≦x≦0.8,0.05≦y≦0.9,x+y<1)である
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
請求項5記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記金属酸化物は、LnExCoyFe(1-y-x)3(Lnはランタン以外の希土類元素、Eは銅またはニッケル、0.05≦x≦0.7,0.05≦y≦0.85,x+y≦0.95)である
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
請求項6記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記金属酸化物は、LnE1/3Co1/3Fe1/33(Lnはランタン以外の希土類元素、Eは銅またはニッケル)であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記希土類元素は、プラセオジム,ネオジム,サマリウム,ユウロピウム,およびガドリニウムの中より選択された1つである
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項9】
燃料極,電解質,及び空気極を備える固体酸化物形燃料電池において、
前記空気極は、複数の希土類元素,遷移金属(銅またはニッケル),コバルト,および鉄を備えるペロブスカイト型構造の金属酸化物から構成されたものであり、
前記遷移金属は、銅およびニッケルから選択されたものである
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項10】
請求項9記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記希土類元素は、ランタン,プラセオジム,ネオジム,サマリウム,ユウロピウム,およびガドリニウムの中より選択されたものである
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記空気極は、前記電解質側に配置されるセリウム酸化物を含む層を備える
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−272291(P2009−272291A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8634(P2009−8634)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】