説明

固体酸化物形燃料電池

【課題】 耐久性に優れるSOFCを提供する。
【解決手段】安定化ジルコニア材料からなる固体電解質層の一方の面に酸素極層、他方の面に燃料極層を設けてなる固体酸化物形燃料電池において、前記燃料極層は、外部から飛来したSiが前記固体電解質層に到達することを抑制するための、Si捕集機能を有することを特徴とする、固体酸化物形燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イットリアを固溶させたジルコニア(以下、YSZと示す)やスカンジアを固溶させたジルコニア(以下、ScSZと示す)のような安定化ジルコニアからなる固体電解質材料は、固体酸化物形燃料電池(以下、SOFCと略す)用途に適用されている。SOFCは、他の燃料電池であるリン酸型、溶融炭酸塩型などと比較して発電効率が高く、排熱温度も高いため、次世代型の省エネ発電システムとして注目されている。
【0003】
SOFCの基本構成は、固体電解質層、燃料極層と酸素極層とを備え、固体電解質層の一方に面した燃料極層に水素(H)などの燃料ガスが貫流接触し、固体電解質層の反対面に面した酸素極層に空気もしくは酸素(O)などの酸化剤ガスが貫流接触すると、酸素極層で発生した酸素イオン(O2−)が固体電解質層を移動し燃料極層に達し、燃料極層でO2−がHと反応し電気化学反応により電気出力が得られるものである。
【0004】
このような反応メカニズムにおいて、SOFCの固体電解質材料に要求される特性としては、(1)高い酸素イオン導電性を有すること (2)長期耐久性に優れること (3)高い材料強度を有することなどが挙げられ、特に長期耐久性に優れることの観点から、YSZやScSZが用いられている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
燃料極層は、電子導電性が高く、O2−がHと反応し電気化学反応により電気出力を得られること、化学的に安定であることおよび熱膨張係数が固体電解質層に近い条件を満たしているものが用いられる。NiとScSZのサーメット、NiとYSZのサーメットおよびNiとセリウム酸化物のサーメットなどが代表的である(特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平11-354139
【特許文献2】特開2008-305804
【特許文献3】特開2004-265746
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜3の安定化ジルコニア材料からなる固体電解質層を備え、特許文献3の実施例で示されたSOFCを用いて、数百〜数千時間の長期耐久試験を行うと、燃料ガスに含まれるSiが燃料極層側の固体電解質層に接触する際に結晶内のイットリアやスカンジアを引き抜き、固体電解質層の結晶変態(立方晶から正方晶へ変化)が生じることが明らかになった。また、燃料極層近傍において固体電解質層の一部が粉末化していることが確認された。
【0008】
固体電解質層のうち燃料極層に覆われた部分においては、数千時間の長期耐久試験では粉末化は確認されなかったが、同様に結晶変態が生じていることから数万時間運転することで粉末化が生じ、固体電解質層と燃料極層の間で剥離(以下、粉化剥離と示す)が生じると推定された。粉化剥離が生じれば電気が取り出せなくなり、発電不能となる。SOFCは、導入期で40000時間、普及期で90000時間程度の寿命が要求されており、ここで示す粉化剥離は市場導入において解決しなければならない技術課題である。
【0009】
粉末化部分についてSEM観察した結果、粒界から粒子が脱落し、粉末化していることがわかった。これは、立方晶から正方晶へ変化することで収縮し、粒界で破断したためと推定された(図1参照)。
【0010】
本発明者らは、燃料ガス中に含まれるSiが固体電解質層に到達しないように燃料極層にSi捕集機能を備え、安定化ジルコニアからなる固体電解質層の結晶変態を抑制する機能を有するSOFCを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係るSOFCは、安定化ジルコニア材料からなる固体電解質層の一方の面に酸素極層、他方の面に燃料極層を設けてなる固体酸化物形燃料電池において、前記燃料極層は、外部から飛来したSiが前記固体電解質層に到達することを抑制するための、Si捕集機能を有することを特徴とする。燃料極層にSi捕集機能を備えたので、安定化ジルコニアからなる固体電解質層に到達するSiの量が低減され、普及期で必要とされる90000時間の寿命を有するSOFCを提供することができる。これは、安定化ジルコニア材料からなる固体電解質材料の結晶変態を抑制し、粉化剥離が生じにくいためである。
【0012】
本発明の好ましい態様においては、燃料極層は、少なくとも一部が、CaをドープされたランタンクロマイトとNiとのサーメットからなり、還元雰囲気(燃料ガス雰囲気)中において前記燃料極層に形成されるCaOにより、前記Si捕集機能を発揮するものであることを特徴とする。Caをドープされたランタンクロマイトを燃料極層に備えているので、安定化ジルコニア材料からなる固体電解質材料の結晶変態を抑制し、粉化剥離を生じにくくさせることができる。これは、燃料極層に含まれるCaをドープされたランタンクロマイトが、燃料ガス雰囲気中においてランタンクロマイトの結晶相からCaOが叩き出されることによりCaOが形成され、かかるCaOが燃料ガス中のSiを捕集するためである。
【0013】
本発明の好ましい態様においては、燃料極層は、前記固体電解質層側に形成された第一の層と、他方側に形成された第二の層とからなり、前記第二の層におけるNiの含有比率は、前記第一の層におけるNiの含有比率よりも多いことを特徴とする。第二の層におけるNiの含有比率を多くすることで耐久性だけでなく出力性能に優れるSOFCを提供することができる。即ち、Siは大部分が第二の層において捕獲されるが、Siの捕獲量に応じて燃料極層の電気伝導性は低くなる傾向がある。しかし、第二の層におけるNiの含有量比率を多くしたため、Siを捕獲した後においても十分な電気伝導性を確保することができる。
【0014】
本発明の好ましい態様においては、燃料極層は、前記固体電解質層側に形成された第一の層と、他方側に形成された第二の層とからなり、前記第一の層における平均気孔径は、前記第二の層における平均気孔径よりも大きいことを特徴とする。第一の層と第二の層の平均気孔径を本発明のように設定すると耐久性だけでなく出力性能に優れるSOFCを提供することができる。第一の層はO2−がHと反応し電気化学反応により電気出力を得るための役割を呈しており反応面積が高い、すなわち多孔質で平均気孔径が小さい方が好ましい。一方、第二の層は電子パスだけでなく燃料ガスを第一の層まで到達させる役割があるために高いガス通気性が必要であり、第一の層よりも気孔径が大きい方が好ましい。
【0015】
本発明の好ましい態様においては、第一の層は、安定化ジルコニア又はドープされたセリアと、Niとのサーメットからなり、前記第二の層は、CaをドープされたランタンクロマイトとNiとのサーメットからなることを特徴とする。本発明の構成にすることで高出力かつ高耐久性SOFCを提供することができる。第一の層に高触媒活性を有するサーメットを備えるのでO2−がHと反応し電気化学反応を効率良く行うことができ高出力化を図れるためであり、第二の層で燃料ガスに含まれるSiを捕集するので第一の層にSiがほとんど到達せず、第一の層の電気化学反応で生じるSiO2の生成を抑制し出力低下を抑制するだけでなく、安定化ジルコニアの結晶変態を抑制するためである。
【0016】
本発明の好ましい態様においては、第一の層は、前記第二の層よりも薄く形成されていることを特徴とする。本発明の構成にすることで高出力かつ高耐久性SOFCを提供することができる。これは、第一の層は電気化学反応を効率良く行うために必要最小限度の厚みとすることで、第二の層における電子導電性の寄与が大きくなり、より発電効率を高めることができるためである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、SOFC運転時において、燃料ガスに含まれるSiが固体電解質層に到達することを抑制し、安定化ジルコニア結晶変態に伴う粉末化および数万時間後に発生する可能性のある燃料極層と電解質層との間の粉化剥離を抑制し、SOFCの普及期に必要とされる90000時間程度の寿命を有する固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
【0018】
さらに、燃料極層を2層とし固体電解質層側に接しない層側に本発明のSi捕集機能を有するものを備えることで、固体電解質層側の第一の層にSiが到達するのを抑制し高性能かつ高耐久性に優れるSOFCを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明における固体電解質層粉末化の現象を示すSEM写真である。
【図2】本発明におけるSOFCの一例を示す図である。
【図3】従来のSOFC構成でのSi付着状況を示す図である。
【図4】従来のSOFC構成でのSi付着状況を示す図である。
【図5】本発明のSOFC構成でのSi付着状況を示す図である。
【図6】本発明のSOFC構成でのSi付着状況を示す図である。
【図7】YSZのY2O3濃度と温度における結晶状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明におけるSOFCセルについて、詳細に説明する。図2は、円筒タイプのSOFCセル断面の概略を示したものである。円筒状の酸素極支持体1上に固体電解質層3、さらに固体電解質層3の上にインターコネクター2と接触しないように燃料極層4が構成されている。酸素極支持体1とインターコネクター2の間には緻密質耐酸化セラミックス層5が備えられている。円筒型セルの内側に空気を流し、外側に燃料を流すと、空気中の酸素が酸素極1と固体電解質層3の界面で(3)式に示すように電子を受け取って酸素イオンに変わる。また、この酸素イオンが固体電解質層3を通って燃料極層4に達し、燃料ガス中の水素や一酸化炭素と酸素イオンが反応して水あるいは二酸化炭素と電子を生成する。これらの反応は(1)、(2)式で示される。
H2+O2-→H2O+2e- …(1)
CO+O2-→CO2+2e- …(2)
O2+4e-→2O2- …(3)
燃料極層4とインターコネクター2を接続することによって外部へ電気を取り出すことが出来る。
図2の酸素極1から燃料極層4の詳細であるが、高出力化のため、酸素極支持体1と固体電解質層3の間に酸素極中間層1aを燃料極層4を第一の層4a、第二の層4bとしたものが一般的に用いられる。
【0021】
固体電解質層3としては酸素イオン導電性が高く、長期耐久性に優れるという観点からYSZあるいはScSZなどの安定化ジルコニア材料が好ましい。しかし、同組成を用いたSOFCでは数百〜数千時間の長期耐久試験を行うと、燃料ガスに含まれるSiが燃料極層4側の固体電解質層3に接触する際に結晶内のイットリアやスカンジアなどの安定化剤を引き抜き、固体電解質層3の結晶変態(立方晶から正方晶へ変化)が生じることが明らかになった。また、固体電解質層3がむき出しになっているところでは、粉末化していることが確認されており、燃料極層4で覆われた固体電解質層3においても同様に結晶変態が生じており、数万時間運転することで固体電解質層3と燃料極層4の間で粉化剥離が生じると推定された。
【0022】
従来SOFC構成でSiの付着について説明する。図3は燃料極層4が一層タイプ、図4は燃料極層4が第一の層4aと第二の層4bタイプである。従来構成では燃料ガス中のSi(gas)が燃料極層を通過し図3の場合は固体電解質層3表面に吸着し、図4のケースでは固体電解質層3と第一の層4aに吸着する。固体電解質層3に吸着すると安定化ジルコニアの安定化剤を引き抜き、例えば、安定化ジルコニアがYSZの場合、図7の状態図のように立方晶(c)から正方晶(t)へ変化し酸素イオン導電性を低下させるとともに粉化剥離をもたらす。第一の層4aに吸着する場合、電気化学的反応によりSi(gas)+2O2−→SiO2(solid)となり活性サイトに析出し、発電特性を低下させる。いずれも耐久性能を低下させるため、90000時間の運転できるようにするには改善が必要である。そこで、燃料ガス中のSiが固体電解質層3および第一の層4aに到達させないようにしたのが本発明である。図5および図6は燃料極層4が一層タイプ、図4は燃料極層4が第一の層4aと第二の層4bタイプの本発明のSOFC構成である。燃料極層4または第二の層4bでSiを吸着させるので、SOFCの発電特性を低下させない効果がある。
【0023】
本発明における燃料極層にはSi捕集機能が備えられている。Si捕集機能を有する材料としてCaOが好ましい。還元雰囲気ではSiと反応しカルシウムシリケートを形成するためである。本発明の燃料極層の一例としてNiとScSZのサーメット、NiとYSZのサーメットおよびNiとセリウム酸化物のサーメットにCaOを添加したものを用いるとその効果が期待される。
【0024】
より好ましいのは、少なくとも一部が、CaをドープされたランタンクロマイトとNiとのサーメットである。これはCaをドープされたランタンクロマイトは上記ScSZやYSZと比較して電子導電性が高いためである。Caをドープされたランタンクロマイトは燃料ガス雰囲気ではランタンクロマイトからCaOが叩き出され、これが燃料ガスに含まれるSiを捕集するので高い電子導電性を維持しながら高耐久性SOFCを提供することができる。
【0025】
Caをドープされたランタンクロマイトとしてより好ましい組成は、一般式(La1-xCax)CrO3および(La1-xCax+y)CrO3で表されるモノである(0.1≦x≦0.5,y>0)。
【0026】
本発明における燃料極層における第一の層4aは、O2−がHと反応し電気化学反応により電気出力を得られること、化学的に安定であることおよび熱膨張係数が固体電解質層3に近い条件を満たしているものであれば、特に限定はない。NiとScSZのサーメット、NiとYSZのサーメットおよびNiとセリウム酸化物のサーメットなどが代表的である。
【0027】
本発明における酸素極層1は、電子導電性が高く、酸素(O)などの酸化剤ガスを酸素イオン(O2−)に替える触媒活性が高いこと、化学的に安定であることおよび熱膨張係数が固体電解質層3に近い条件を満たしているものであれば、特に限定はない。Srを固溶させたランタンマンガナイト(以下、LSMと示す)、ストロンチウムを固溶させたランタンフェライト(以下、LSFと示す)およびストロンチウムと鉄を固溶させたランタンコバルタイト(以下、LSCF)等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
図2に、本実施例で用いた円筒型SOFCセルの概略を示す。円筒状の空気極支持体1上に
帯状の緻密質耐酸化セラミックス層5と該表面に形成されたインターコネクター2、固体電解質層3、さらに固体電解質層3の上にインターコネクター2と接触しないように燃料極4が設け
られている。また、酸素極支持体1と固体電解質層3の間に酸素極中間層1aを備えている。
【0029】
(1)酸素極支持体の作製
酸素極には、La0.75Sr0.25MnO3組成で表されるSrを固溶させたランタンマンガナイトを用
いた。原料粉末は共沈法により作製した。熱処理後の原料粉末の平均粒子径は30μmであ
った。原料粉末を押し出し成形法によって成形し、円筒状酸素極成形体を作製した。
【0030】
(2)緻密質耐酸化セラミックス層の作製
緻密質耐酸化セラミックス層には、空気極と同じくLa0.75Sr0.25MnO3組成で表されるSrを
固溶させたランタンマンガナイトを用いた。原料粉末の平均粒子径は2μmとした。該粉
末40重量部、溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、
分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセ
スキオレート)1重量部とを混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。前記スラリ
ーをスラリーコート法により酸素極成形体上に成膜し、酸素極成形体と共に1500℃で焼成
した。焼成後の酸素極支持体の外径は15mm、厚みは2mmであり、緻密質耐酸化セラミ
ックス層の厚みは50μmであった。
【0031】
(3)酸素極中間層の作製
空気側電極反応層には、La0.75Sr0.25MnO3と89mol%(ZrO2)-10mol%(Sc2O3)-1CeO2で表される10Sc1CeSZとからなる材料を用いた。La0.75Sr0.25MnO3と10Sc1CeSZ の重量比率は、La0.75Sr0.25MnO3/10Sc1CeSZ= 50/50とした。
La,Sr,Mn,ZrおよびScの各々の硝酸塩水溶液を、前記組成になるように混合した後、シュ
ウ酸水溶液を加え沈殿を生成させた。該沈殿物と上澄み液を乾燥させ、原料粉末を得た。
熱処理後の原料粉末の平均粒子径は2μmであった。該原料粉末40重量部と溶媒(エタノー
ル)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンア
ルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部とを混合し
た後、十分攪拌してスラリーを調整した。このスラリー粘度は100mPasであった。前記ス
ラリーを、空気極支持体(外径15mm、肉厚2mm、有効長500mm)上にスラリーコート法
で成膜し、1350℃で焼成した。焼成後の空気側電極反応層の厚さは20μmであった。なお
、後工程でインターコネクターを成膜する部分についてはマスキングを施し、膜が塗布さ
れないようにしておいた。
【0032】
(4)固体電解質層の作製
電解質材料には、89mol%(ZrO2)-10mol%(Sc2O3)-1CeO2で表される10Sc1CeSZとからなる第一稀元素製の材料を用いた。該原料粉末40重量部を溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部とを混合した後、十分攪拌して
スラリーを調整した。このスラリー粘度は100mPasであった。前記スラリーを、空気側電
極反応層上に、スラリーコート法で成膜し、1400℃で焼成した。焼成後の電解質の厚さは
30μmであった。なお、後工程でインターコネクターを成膜する部分についてはマスキン
グを施し、膜が塗布されないようにしておいた。
【0033】
(5)インターコネクターの作製
(5-1) Caを固溶させたランタンクロマイト(LCC)原料粉末の作製
LCCの組成はLa0.7Ca0.3CrO3とした。LCC原料粉末は噴霧熱分解法により作製した。熱処理後の原料粉末の平均粒子径は1μmであった。
(5-2)
LCC原料粉末を40重量部、溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)
2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビ
タンセスキオレート)1重量部とを混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。この
スラリー粘度は100mPasであった。スラリーコート法によりインターコネクターを成膜し
、1400℃で焼成した。焼成後のインターコネクターの厚さは20μmであった。
【0034】
(6)燃料極層の作製
NiO(1μm)60wt%と前記La0.7Ca0.3CrO3組成原料40wt%になるように調合し、平均粒子径2μmの原料粉末を得た。前記原料粉末100重量部、溶媒(エタノール)500重量部、バインダー(エチルセルロース)10重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)5重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部、可塑剤(DBP)5重量部を混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。このスラリーの粘度は150mPasであった。.燃料極層の面積が180cm2になるようにセルへマスキングをし、スラリーコート法により固体電解質膜上へ成膜した。このとき、インターコネクター部分にはマスキングを施し、膜が塗布されないようにしている。1400℃で焼成後の厚さは50μmであった。
【0035】
(実施例2)
燃料極層は、NiOと90mol%ZrO2-10mol%Y2O3とからなる材料とした。NiOと90mol%ZrO2-10mol%Y2O3との重量比率は、NiO/10YSZ=60/40とした。N
i,ZrおよびY各々の硝酸塩水溶液を用いて、前記組成になるように混合し、シュウ酸水溶
液を加え沈殿を生成させた。該沈殿物と上澄み液を乾燥させ、さらに熱処理を施し、原料粉末を得た。前記原料粉末100重量部に対して、CaO(1μm)粉末を5重量部添加し、燃料極層を形成したこと以外は実施例1と同様とした。
【0036】
(比較例1)
CaO(1μm)粉末を添加しないこと以外は、実施例2と同様とした。
【0037】
(比較例2)
燃料極層をNiOと89mol%ZrO2-10mol%Sc2O3-1molCeO2とからなる材料としたこと以外は実施例2と同様にした。
【0038】
(比較例3)
燃料極層をNiOと90mol%CeO2-10mol%Gd2O3とからなる材料としたこと以外は実施例2と同様にした。
【0039】
(発電性能について)
実施例1,2および比較例1〜3で作製したSOFCについて、発電試験を実施した。発電条件は以下のとおりである。
〔1〕燃料:70H2+30%H2O
〔2〕酸化剤:Air
〔3〕発電温度:900℃
〔4〕電流密度:0.2Acm-2
〔5〕燃料利用率:75%
〔6〕運転時間:1000時間
【0040】
(分析)
試験後のSOFCを取り出し、SOFCを切断し図2の詳細図に示す断面に対して、EPMAでSi分布を観察した。ラマン分光法で固体電解質層3と燃料極層4の界面近傍を分析し結晶相を確認した。ラマン分光については初期状態の分析も行った。
【0041】
EPMAは島津製作所 電子線マイクロアナライザーEPMA-1610を用いた。
加速電圧:15kV、照射電流:50nA、計測時間:15ms、ビームサイズ:1μm、分析X線・分光結晶:SiKα(7.1226Å)
【0042】
ラマン分光はNRS-2100,JASCO Co.,Japanを用いて、電解質表面のZr-O振動モードを分析した。検出器はトリプルモノクロメータを搭載し、波数分解能1cm-1、観察スポットφ8μm、励起波長523nmで測定した。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に分析結果を示す。実施例1,2では固体電解質層の結晶相がCのままであったのに対して、比較例1~3のいずれも結晶相がt相へ変態していることがわかった。EPMAの結果、実施例1,2では燃料極層でSiが捕集され、比較例1~3では燃料極層で捕集されず固体電解質層へ到達していることがわかった。以上の結果から、本発明の構成とすることで燃料極層でSiを捕集するとともに固体電解質層の結晶変態を抑制できることを確認することができた。
【0045】
(燃料極層2層について)
(実施例3)
第一の層の組成をNiO(1μm)30wt%と前記La0.7Ca0.3CrO3組成原料70wt%になるように調合し、平均粒子径0.5μmの原料粉末を得た。前記原料粉末100重量部、溶媒(エタノール)500重量部、バインダー(エチルセルロース)5重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)4重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部、可塑剤(DBP)5重量部を混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。このスラリーの粘度は80mPasであった。.燃料極層の面積が180cm2になるようにセルへマスキングをし、スラリーコート法により固体電解質膜上へ成膜した。第二の層の組成をNiO(1μm)60wt%と前記a0.7Ca0.3CrO3組成原料40wt%になるように調合し、平均粒子径2μmとし、実施例1と同じスラリーで第一の層の表面に成膜した。このとき、インターコネクター部分にはマスキングを施し、膜が塗布されないようにしている。1400℃で焼成し、第一の層の厚みを10μm、第二の層の厚みを50μmとした。
【0046】
(実施例4)
第一の層の組成をNiO(1μm)60wt%と前記La0.7Ca0.3CrO3組成原料40wt%になるように調合し、平均粒子径0.5μmの原料粉末としたこと以外は実施例3と同様にした。
【0047】
(実施例5)
第一の層の組成を、NiOと90mol%ZrO2-10mol%Y2O3との重量比率(NiO/10YSZ)が30/70となるよう調合したこと、及びその平均粒径を0.5μmとしたこと以外は実施例3と同様にした。
【0048】
(実施例6)
第一の層の組成を、NiOと89mol%ZrO2-10mol%Sc2O3-1molCeO2としたこと以外は実施例5と同様にした。
【0049】
(実施例7)
第一の層の組成を、NiOと90mol%CeO2-10mol%Gd2O3としたこと以外は実施例5と同様にした。
【0050】
(比較例4)
第一の層の組成を、NiOと90mol%ZrO2-10mol%Y2O3との重量比率(NiO/10YSZ)が40/60となるよう調合したこと、その平均粒径を0.5μmとしたこと、及び第二の層の組成をNiO/10YSZ=60/40としたこと以外は実施例5と同様にした。
【0051】
(発電性能について)
実施例1、3〜7および比較例4で作製したSOFCについて、発電試験を実施した。発電条件は以下のとおりである。
〔1〕燃料:70H2+30%H2O
〔2〕酸化剤:Air
〔3〕発電温度:900℃
〔4〕電流密度:0.2Acm-2
〔5〕燃料利用率:75%
〔6〕運転時間:1000時間
【0052】
(分析)
試験後のSOFCを取り出し、SOFCを切断し図2の詳細図に示す断面に対して、EPMAでSi分布を観察した。ラマン分光法で固体電解質層3と燃料極層4の界面近傍を分析し結晶相を確認した。ラマン分光については初期状態の分析も行った。
【0053】
(燃料極層中のNi含有量について)
実施例3,4におけるSOFCを取りだし、SOFCを切断し図2の詳細図に示す断面を観察できるよう樹脂包埋および研磨をした。前記研磨したサンプルをカーボン蒸着しEPMAで分析を行った。分析条件機器および測定条件は、前記と同様とした。同方法でNi含有量を測定した。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
表2に分析結果を示す。実施例1,3~7では耐久に伴う電位低下が認められず、固体電解質層の結晶相がCのままであったのに対して、比較例4は1000hrの運転で電位低下が認められ、t相へ変態していることがわかった。EPMAの結果、実施例3~7では第二の層でSiが捕集され、比較例4では第二の層では捕集されず固体電解質層と第一の層へ到達していることがわかった。以上の結果から、本発明の構成とすることで燃料極層でSiを捕集するとともに固体電解質層の結晶変態を抑制できることを確認することができた。
【0057】
表2の発電性能で比較すると、燃料極層1層である実施例1よりも実施例3および実施例4の方が性能が高く、表3に実施例3,4の第一の層と第二の層のNi含有量を示すように実施例3は第一の層が第二の層に少なく、実施例4は第一の層と第二の層のNi含有量は同等であるが、実施例3タイプの方が発電性能が優れていることがわかる。このことから燃料極層は固体電解質層側に形成された第一の層と、他方側に形成された第二の層とからなり、第二の層におけるNiの含有比率は、第一の層におけるNiの含有比率より大きくすることがより好ましいことを確認した。
【0058】
実施例5~7の結果から、第一の層は、安定化ジルコニア又はドープされたセリアと、Niとのサーメットからなり、第二の層は、CaをドープされたランタンクロマイトとNiとのサーメットからなる構成とするとさらに発電性能が向上しより好ましいことがわかった。
【0059】
(燃料極層の気孔径について)
(実施例8)
第一の層の組成を、NiOと90mol%ZrO2-10mol%Y2O3との重量比率(NiO/10YSZ)が30/70となるよう調合したこと、及びその平均粒径を4μmとしたこと以外は実施例3と同様にした。
【0060】
(発電性能について)
実施例5,8で作製したSOFCについて、発電試験を実施した。発電条件は以下のとおりである。
〔1〕燃料:70H2+30%H2O
〔2〕酸化剤:Air
〔3〕発電温度:900℃
〔4〕電流密度:0.2Acm-2
〔5〕燃料利用率:75%
〔6〕運転時間:50時間
【0061】
実施例5,8におけるSOFCを50時間運転後、発電装置から取りだしSOFCを切断し図2の詳細図に示す断面を観察できるよう樹脂包埋および研磨をした。前記研磨したサンプルをカーボン蒸着しEPMAで反射電子像測定した。分析条件機器および測定条件は、前記と同様とした。前述した反射電子像より指定領域を2値化し、空孔面積を求めて空隙率を算出した。さらに空孔面積50箇所を測定し平均気孔径(50個を平均した値)を算出した。
【0062】
【表4】

【0063】
表4に実施例5,8の50時間運転後の電位、空隙率および平均気孔径を示す。第一の層が多孔質でかつ平均気孔径が小さい方が高い発電特性を有することがわかった。このことから、燃料極層は、固体電解質層側に形成された第一の層と、他方側に形成された第二の層とからなり、第一の層における平均気孔径は、第二の層における平均気孔径よりも小さいことがより好ましい。
【0064】
本発明の効果を酸素極層を支持体とするタイプで説明したが、固体電解質層および燃料極層を支持体とするSOFCも同様の効果を有する。
【0065】
SOFCデザインについては、円筒縦縞型で説明したが、扁平円筒型、平板型、マイクロチューブなどのいずれのタイプも同様の効果を有する。
【符号の説明】
【0066】
1 酸素極支持体
2 インターコネクター
3 固体電解質層
4 燃料極層
4a 第一の層
4b 第二の層
5 緻密質耐酸化セラミックス層
6 Si

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化ジルコニア材料からなる固体電解質層の一方の面に酸素極層、他方の面に燃料極層を設けてなる固体酸化物形燃料電池において、前記燃料極層は、外部から飛来したSiが前記固体電解質層に到達することを抑制するための、Si捕集機能を有することを特徴とする、固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記燃料極層は、少なくとも一部が、CaをドープされたランタンクロマイトとNiとのサーメットからなり、還元雰囲気中において前記燃料極層に形成されるCaOにより、前記Si捕集機能を発揮するものであることを特徴とする、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記燃料極層は、前記固体電解質層側に形成された第一の層と、他方側に形成された第二の層とからなり、前記第二の層におけるNiの含有比率は、前記第一の層におけるNiの含有比率よりも多いことを特徴とする、請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記燃料極層は、前記固体電解質層側に形成された第一の層と、他方側に形成された第二の層とからなり、前記第一の層における平均気孔径は、前記第二の層における平均気孔径よりも小さいことを特徴とする、請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
前記第一の層は、安定化ジルコニア又はドープされたセリアと、Niとのサーメットからなり、前記第二の層は、CaをドープされたランタンクロマイトとNiとのサーメットからなることを特徴とする、請求項3乃至4のいずれか一に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
前記第一の層は、前記第二の層よりも薄く形成されていることを特徴とする、請求項3乃至5のいずれか一に記載の固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−164500(P2012−164500A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23448(P2011−23448)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体酸化物形燃料電池システム要素技術開発事業/耐久性・信頼性向上に関する基礎研究/高温円筒縦縞形耐久性の評価」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条第1項に規定する3項目の適用を受けるもの)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】