固体酸化物形燃料電池
【課題】熱応力による破損を回避し、燃料電池の信頼性を高める。
【解決手段】筒状構造の内側から内側電極、固体電解質及び外側電極をこの順に積層した構成を有し、内側電極で囲まれた中空部分を有する単セルで構成され、中空部分及び外側電極の外部は、燃料又は酸化剤の流路であり、少なくとも内側電極に電気的に接続された内側電極用インターコネクタを有する固体酸化物形燃料電池において、内側電極用インターコネクタの端部に内側電極用応力抑制部を設ける。
【解決手段】筒状構造の内側から内側電極、固体電解質及び外側電極をこの順に積層した構成を有し、内側電極で囲まれた中空部分を有する単セルで構成され、中空部分及び外側電極の外部は、燃料又は酸化剤の流路であり、少なくとも内側電極に電気的に接続された内側電極用インターコネクタを有する固体酸化物形燃料電池において、内側電極用インターコネクタの端部に内側電極用応力抑制部を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質を有する燃料電池に係り、特に固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質を挟んでアノード(燃料極)及びカソード(空気極)を備え、アノード側には燃料ガスを、カソード側には酸化剤ガスを供給し、電解質を介して燃料と酸化剤とを電気化学的に反応させることにより発電する発電装置である。燃料電池の種類の一つである固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、発電効率が高く、600〜1000℃の高温で運転されるため、電池内で燃料の改質反応ができるという特徴がある。このため、SOFCを用いることにより、電池システムの構造をシンプルにすることができ、他の燃料電池に比べてコスト低減のポテンシャルを持つ。また、SOFCは、高温度の排熱を利用し、熱・電気併用システムやガスタービンなどの他のシステムとのハイブリッドシステムを形成し易い特徴を持つ。
【0003】
一方で、一つの燃料電池セルの起電力は、1.0V程度と小さいため、数多くの燃料電池セルを直列に接続して使用する場合が多い。
【0004】
燃料電池は、固体電解質の形状により、円筒形と平板形とに大別され、円筒形は、平板形に比べて、ガスのシール性に優れ、熱応力に強く、高温度で運転する固体酸化物形燃料電池にとっては大きな利点を持つが、円筒形燃料電池セルにおいては、単セルと単セルとを接続するインターコネクタと呼ばれる接続部分が必要になる。
【0005】
インターコネクタと、外側電極、内側電極又は集電板との接触は、熱膨張によって不十分となる場合があり、これによる電気抵抗の増加を抑制するため、直列に接続した複数のセルを集電板によって締め付けて固定している。
【0006】
したがって、温度の上昇に伴って、これらの構成部材の自由な熱膨張が抑制され、内部に熱応力が生じ、亀裂の発生などの破損を引き起こす懸念がある。閉空間を構成する部材に亀裂が生ずれば、ガスリークが発生する。また、接続界面に亀裂が生じれば、電気的接触面積の減少から電気抵抗が大きくなり、性能低下の原因となる。SOFCの構成部材は、セラミックスを主体としているため、熱応力による亀裂や破損が生じやすい傾向があり、発電装置としての信頼性に影響する場合がある。
【0007】
この問題を解決するための従来技術の例としては、以下のものが挙げられる。
【0008】
特許文献1には、複数の発電セルを直列に配列したモジュールの端部に設置された集電部と、この集電部の表面に、発電セルの軸方向に配列された複数の弾性接触部とを設ける技術が開示されている。
【0009】
特許文献2には、所定のアスペクト比を有するセラミックスまたはその前駆体のファイバーと、固体電解質の原料粉とを混合し、焼結する技術が開示されている。
【0010】
特許文献3には、集電体の外面に所定の深さの凹部を形成するとともに、この集電体の外面に所定の厚みの金属メッキ膜を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−33788号公報
【特許文献2】特開2009−245628号公報
【特許文献3】特開平11−185780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載されている弾性接触部に用いる材料は、金属であるニッケルが好適とされている。このため、これが高温度条件において熱収縮−伸長を繰り返すと、材料の延性が低下すること(クリープ破壊)が知られている。よって、弾性接触部に弾力性を有する金属部材を用いることは好ましくない。
【0013】
また、特許文献2に記載されているセラミックスまたはその前駆体のファイバーは、セルの電気抵抗を増加させ、発電性能の低下の要因となる。
【0014】
さらに、特許文献3に記載されている集電体の外面に凹部を設けた場合、機械的強度の改善が不十分であると考えられる。
【0015】
したがって、熱応力が集中する部位を特定し、応力の分散及び緩和を促すセル構造が必要である。
【0016】
本発明の目的は、熱応力による破損を回避し、燃料電池の信頼性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、筒状構造の内側から内側電極、固体電解質及び外側電極をこの順に積層した構成を有し、内側電極で囲まれた中空部分を有する単セルで構成され、少なくとも内側電極に電気的に接続された内側電極用インターコネクタを有する固体酸化物形燃料電池において、内側電極用インターコネクタの端部に内側電極用応力抑制部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱応力による破損を回避し、燃料電池の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例の固体酸化物形燃料電池を示す斜視図である。
【図2】固体酸化物形燃料電池を示す斜視図である。
【図3】固体酸化物形燃料電池のスタックを示す斜視図である。
【図4A】シミュレーション解析に用いる形状モデルを示す断面図である。
【図4B】シミュレーション解析に用いる形状モデルを示す斜視図である。
【図5】シミュレーション解析結果である燃料電池の温度分布を示す斜視図である。
【図6】シミュレーション解析結果である燃料電池の熱応力分布を示す斜視図である。
【図7】シミュレーション解析結果である燃料電池の熱応力分布を示す端面図である。
【図8】実施例のインターコネクタの形状を示す図である。
【図9A】従来のインターコネクタ(図8の形状A)の熱応力分布を示す斜視図である。
【図9B】実施例のインターコネクタ(図8の形状B)の熱応力分布を示す斜視図である。
【図9C】実施例のインターコネクタ(図8の形状C)の熱応力分布を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池について説明する。
【0021】
前記固体酸化物形燃料電池は、筒状構造の内側から内側電極、固体電解質及び外側電極をこの順に積層した構成を有し、内側電極で囲まれた中空部分を有する単セルで構成され、中空部分及び外側電極の外部は、燃料又は酸化剤の流路であり、少なくとも内側電極に電気的に接続された内側電極用インターコネクタを有する燃料電池であって、内側電極用インターコネクタの端部には、内側電極用応力抑制部が設けられていることを特徴とする。
【0022】
前記固体酸化物形燃料電池は、さらに、外側電極に電気的に接続された外側電極用インターコネクタを有し、この外側電極用インターコネクタの端部には、外側電極用応力抑制部が設けられていることが望ましい。
【0023】
前記固体酸化物形燃料電池においては、内側電極用応力抑制部及び外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、単セルの端部に向かって幅広であることが望ましい。
【0024】
前記固体酸化物形燃料電池においては、内側電極用応力抑制部及び外側電極用応力抑制部のうち少なくともいずれかの単セルの端部側には、凹部が設けられていることが望ましい。
【0025】
前記固体酸化物形燃料電池においては、内側電極用応力抑制部及び外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、金属材料で構成されていることが望ましい。
【0026】
前記固体酸化物形燃料電池においては、内側電極用応力抑制部及び外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、多孔質材料で構成されていることが望ましい。
【0027】
前記固体酸化物形燃料電池においては、単セルが複数個直列に接続されたスタックを含むことが望ましい。
【0028】
図2は、円筒形燃料電池の概要を示したものである。
【0029】
本図においては、単セル200(円筒形燃料電池)は、固体電解質203で形成された閉空間の内面に設けられた内側電極202と、固体電解質203の外面に設けられた外側電極204と、内側電極202と電気的に接続されたインターコネクタ201(内側電極用インターコネクタ)とを含む構成である。内側電極202の内部は、燃料である水素ガス等が流れる燃料流路である。一方、外側電極204の外部は、酸素等の酸化剤が流れる空気流路である。
【0030】
なお、本図に示す単セル200は、内側電極202だけにインターコネクタ201を設けたものである。後述のように、外側電極204にもインターコネクタ(外側電極用インターコネクタ)を設けることは、2つの単セル200の間、又は単セル200と集電板との間の電気抵抗を低減する観点から望ましい。
【0031】
図3は、固体酸化物形燃料電池のスタックを示す斜視図である。
【0032】
本図においては、単セル300を直列に接続したスタック303を、集電板301と集電板302との間に挟み込んで固定したものである。各電池セルは、内側電極と外側電極とをインターコネクタを介して電気的に直列に接続してあり、大きな電圧を得ることができるようになっている。集電板301と集電板302との間に挟んで締め付けることにより、熱膨張による接触状態の悪化及びそれに伴う抵抗の増加を抑制することができる。
【0033】
本発明においては、単セルの形状は、平板状ではなく、外形が円筒形状、扁平円筒形状、楕円形状、直方体形状、立方体形状等であって中空であり、中空部分が閉空間となっている。すなわち、本発明の単セルは、筒状の固体電解質の内側及び外側に電極を形成した構造を有する。アノード及びカソードは、どちらが内側であってもよいが、以下の実施例では、内側にアノードを設け、外側にカソードを設けた場合について説明する。
【0034】
以下、実施例について図面を参照して説明する。
【0035】
図1は、実施例の固体酸化物形燃料電池を示す斜視図である。
【0036】
本図において、燃料電池の単セル100は、固体電解質104の外面にカソード電極105を有し、固体電解質で囲まれた閉空間(固体電解質104の内側(内面))にアノード電極103を有している。カソード電極105には、インターコネクタ101(外側電極用インターコネクタ)が電気的に接続され、アノード電極103には、インターコネクタ107(内側電極用インターコネクタ)が電気的に接続されている。固体電解質104及びカソード電極105は、インターコネクタ107をアノード電極103に接続するためにスリットを設けてある。インターコネクタ101、107を外部負荷に接続することにより、電流を取り出すことができるようになっている。
【0037】
アノード電極103の内部には、ガス流路102が設けられている。インターコネクタ101、107の端部には、熱応力による破損を防止するための応力抑制部106、108が設けられている。応力抑制部106、108は、インターコネクタ101、107の両端部に設けることが望ましい。ここで、応力抑制部106は外側電極用応力抑制部であり、応力抑制部108は内側電極用応力抑制部である。燃料ガスは、ガス流路102を流れ、酸素等の酸化剤ガスは、カソード電極105に接触するように単セル100の外側を流れる。
【0038】
本明細書においては、応力抑制部106、108を有する単セル100の場合、インターコネクタ101、107の端部とは、インターコネクタ101、107と応力抑制部106、108との接続面をいい、この場合のインターコネクタ101、107の端部は、単セル100の端部よりも内側に位置する。インターコネクタ101、107及び応力抑制部106、108の材質は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。一方、応力抑制部を有しない単セルの場合は、インターコネクタの端部が単セルの端部に位置していてもよいし、若干内側に位置していてもよい。
【0039】
本図においては、応力抑制部106、108は、インターコネクタ101、107の端部に向かって枝分かれした形状を有している。この形状は、後述の図8に示す形状Cである。応力抑制部106、108の形状は、これに限定されるものではなく、後述の図8に示す形状Bのように、インターコネクタ101、107の端部に向かうほど幅が広くなる形状としてもよい。
【0040】
固体電解質104は、円筒形セルの袋管になっている。固体電解質104の材質としては、例えばイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)を用いることができる。また、単セル100の他の構成部材であるアノード電極103には、ニッケル及びYSZからなる多孔質のサーメットが望ましい。このほか、カソード電極105にはランタンマンガネイトが望ましく、インターコネクタ101、107にはランタンクロマイドが望ましい。応力抑制部106、108は、インターコネクタ101、107と同じ材質であるランタンクロマイドを用いて、インターコネクタ101、107と結合していることが望ましいが、更に高い機械的強度を持たせるため、あるいは弾力性を付与するため、別の材質のものを用いてもよい。
【0041】
次に、数値シミュレーションを用いた解析により、本発明の効果について説明する。
【0042】
シミュレーション解析による本発明の効果についての検証は、円筒形燃料電池を用いて実施した。
【0043】
図4Aは、シミュレーション解析に用いる形状モデルを示す断面図である。図4Bは、図4Aの形状モデルの斜視図である。
【0044】
図4Aは、円筒形燃料電池の単セル400の流れ方向に垂直な断面を示したものである。
【0045】
単セル400は、内側電極をアノード電極403、外側電極をカソード電極405とし、内側電極で閉じられた空間を燃料ガス流路422とする構成である。単セル400は、電気的接続要素であるインターコネクタ401、402を中心軸について対称の位置に配置し、アノード電極403およびカソード電極405からの電流を隣接する単セルまたは集電板に伝えるように構成されている。燃料ガス流路422は、図4Bに示すように、燃料ガスの入口410及び出口412を有する。
【0046】
単セル400の寸法は、直径80mm、長さ2000mmとし、固体電解質404の寸法は、直径60mmで厚さ40μmとしている。また、固体電解質404の電気抵抗率は、0.1Ω・mとしている。図4Aにおいて、中心から外側にかけて示されている寸法(数値)は、比率であり、燃料ガス流路422、アノード電極403、カソード電極405及び空気流路424が2:1:0.5:0.5としてある。固体電解質404は、厚さが40μmと薄いため、上記の比率からは除外している。
【0047】
次に、各要素の材質および物性値について説明する。
【0048】
本シミュレーションにおいては、アノード電極には、密度7430kg/m3、比熱456J/KgK、熱伝導率11W/mK、気孔率0.3のニッケル(Ni)とスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)との複合材を用い、固体電解質には、ScSZ材を用いるものと仮定した。カソード電極には、密度4500kg/m3、比熱566J/KgK、熱伝導率2.2W/mK、気孔率0.3の(La,Sr)MnO3材を用いることを想定した。また、インターコネクタは、密度6300kg/m3、比熱500J/KgK、熱伝導率2W/mKの(La,Ca)CrO3材を用いるものと仮定した。
【0049】
燃料ガス流路422には、入口410から出口412に向かって700℃に加熱した水素ガスを流し、空気流路424には、700℃に加熱した空気を水素ガスと同じ方向に流すと仮定し、電流密度0.4A/cm2における単セル400の温度分布をSOFCシミュレータによって算出した。入口410及び出口412以外の壁面は断熱条件とした。SOFCシミュレータとしては、市販のシミュレータソフトであるANSYS社のFLUENT熱流動解析プログラムを用いた。
【0050】
図5は、解析結果の一つである温度分布を示したものである。
【0051】
本図から、単セル500の入口510付近においては700℃(973K)であるのに対し、電気化学反応に伴って発生する反応熱によって出口512に向かって温度が徐々に上昇することがわかる。そして、出口512付近においては、1000℃(1300K)程度まで温度が上昇することがわかる。
【0052】
次に、SOFCシミュレータで求めた単セル500の温度分布における熱応力を、構造解析シミュレータを用いて算出した。構造解析シミュレータとしては、ANSYS社の解析ソフトWorkbenchを用いた。拘束条件は、上下のインターコネクタの接地面が固定されていることとした。
【0053】
図6及び図7は、構造解析の結果を示したものである。図6は斜視図であり、図7は端面図である。
【0054】
これらの図においては、単セル600に生じる熱応力の強さの分布を示している。これらの図から、熱応力はインターコネクタ606、608の端部に集中して生じることがわかる。
【0055】
よって、単セル600は、温度上昇に伴い、自由な熱膨張が抑制されて生じる内部の熱応力により、その端部において亀裂などの破損が生じる可能性がある。
【0056】
そこで、熱応力が集中するインターコネクタ606、608の端部に応力抑制部を設けることにより、機械的強度を高め、又は、応力を分散し、熱応力を原因とする亀裂などの破損を抑制することを検討した。
【0057】
図8は、インターコネクタの端部に応力抑制部を設けた構成を示したものである。
【0058】
本図において、形状Aは、単セル800のインターコネクタ806、808の端部に応力抑制部を設けていない従来の形状である。一方、形状B及び形状Cは、インターコネクタの端部に応力抑制部を設けた場合である。
【0059】
形状Bは、単セル810の端部に向かって、徐々に幅が広がる形状の応力抑制部801を設けた場合である。一方、形状Cは、単セル820のインターコネクタ826、828の端部で枝分れした応力抑制部802を設けた場合である。
【0060】
インターコネクタの端部を形状A、B又はCとした場合について強度解析を実施した。
【0061】
この強度解析は、上述のように、SOFCシミュレータを用いて温度分布を算出し、この温度分布における熱応力分布を構造解析シミュレータで算出する手法ではなく、上下のインターコネクタの接続面を拘束し、円筒形燃料電池セルの両側から圧力を加え、強度解析をすることにより、熱応力による破損評価を実施した。
【0062】
その結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
本表は、上下のインターコネクタの接続面を拘束し、単セルの両端から流路方向と平行に1MN/m2の押し圧を加え、最大応力の値と、最大応力値に対する安全度数を計算した値を示す。安全度数は、相当応力が材料の降伏強度に達する状態において、その位置における降伏強さを相当応力で割って計算したものであり、値が大きい程、安全度が高いことを示している。この安全度数を破壊判断基準の指標とした。
【0064】
本表において、インターコネクタの端部に応力抑制部を持たない従来の形状Aは、最大応力が6.3MN/m2で、安全度数は43.8であった。これに対して、インターコネクタの端部に応力抑制部801を持つ形状Bは、最大応力が6.4MN/m2で安全度数が32.5となり、応力抑制部を持たない従来の形状Aよりも低い値となった。一方、インターコネクタの端部に応力抑制部802を持つ形状Cは、最大応力が3.4MN/m2で、安全度数が67.8となり、応力抑制部を持たない従来の形状Aよりも約50%程度、安全度が改善できた。
【0065】
図9A、9B及び9Cは、それぞれ、インターコネクタの端部を形状A、B又はCとした場合に、応力が集中し、破損しやすい領域を示したものである。
【0066】
図9Aに示す単セル800は、インターコネクタ806、808を有する。インターコネクタ806、808の端部には、応力抑制部を設けていない。すなわち、インターコネクタ806、808は、図8に示す従来の形状Aである。
【0067】
本図においては、インターコネクタ806、808と単セル800の円筒部材との接合部を含む領域901に破損しやすい部分が存在し、円筒部材に亀裂が生じる可能性がある。このため、単セル800のシール性が維持できず、ガス漏れを引き起こし、信頼性を著しく低下させる。
【0068】
これに対して、図9Bに示す単セル810は、インターコネクタ816、818を有する。インターコネクタ816、818の端部には、応力抑制部801を設けてある。すなわち、インターコネクタ816、818は、図8に示す形状Bである。
【0069】
本図においては、応力抑制部801に破損しやすい領域902が集中し、円筒部材には破損しやすい領域がない。したがって、たとえ破損したとしても、円筒部材の破損は免れ、単セル810のシール性は確保することができる。
【0070】
図9Cに示す単セル820は、インターコネクタ826、828を有する。インターコネクタ826、828の端部には、応力抑制部802を設けてある。すなわち、インターコネクタ826、828は、図8に示す形状Cである。
【0071】
本図においては、応力抑制部802の広い領域903に破損しやすい範囲が分散され、円筒部材の破損を防止することできることがわかる。
【0072】
以上のように、インターコネクタの端部に応力抑制部を設けることにより、熱応力による円筒部材の破損を防止することができ、ガスシールが確保され、燃料電池の信頼性を維持することができる。
【0073】
応力抑制部の形状は、形状Bのように単セルの端部に向かって幅広になるものが望ましく、形状Cのように単セルの端部に向かって分岐するものは更に望ましい。形状Cの応力抑制部の構成について言い換えると、単セルの端部に向かって幅広になるものであって単セルの端部側には凹部が設けられているということができる。
【0074】
さらに、形状Bの応力抑制部の構成は、インターコネクタの長軸に向かって凸であって曲率を有する形状で幅広になっている。また、形状Cの応力抑制部の構成は、単セルの端部側の凹部が曲率を有し、当該凹部の最奥部が単セルの端部に向かって凹である曲率を有している。さらに、インターコネクタと単セルとの接続部及び応力抑制部と単セルとの接続部は、単セルの中心軸に向かって凸となる曲率を有することが望ましい。さらにまた、片側の応力抑制部のインターコネクタの長軸方向の寸法は、単セルの長さの20%以内であることが望ましい。
【0075】
なお、インターコネクタの端部の応力抑制部には、インターコネクタとは別の弾力性に富む金属材料を用いてもよい。例えば、フェライト系のFe−22CrにZr及びLaを添加した日立金属(株)製の金属材料を用いてもよく、(La,Ca)CrO3の多孔質材を用いてもよい。このように、熱応力が集中しやすいインターコネクタの端部の応力抑制部には、弾力性に富む金属材料や、熱伸びを吸収する多孔質材料を適用することにより、熱膨張による歪を吸収することができ、内部熱応力を低減することを可能にし、破損を回避し、燃料電池の信頼性を高めることができる。
【0076】
上記の実施例の構成によれば、インターコネクタの端部に設けた応力抑制部に熱応力が集中するため、カソード電極等の円筒部材に熱応力が及ばず、円筒部材の破損を防止することができる。また、この構成によれば、仮に応力抑制部が破損したとしても、円筒部材が破損を免れ得る。
【符号の説明】
【0077】
100、200、300、400、500、600、800、810、820:単セル、101、107、201、401、402、606、608、806、808、816、818、826、828:インターコネクタ、102:ガス流路、103、202、403:アノード電極、104、203、404:固体電解質、105、204、405:カソード電極、106、108、801、802:応力抑制部、301、302:集電板、303:スタック、410、510:入口、412、512:出口、422:燃料ガス流路、424:空気流路、901、902、903:領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質を有する燃料電池に係り、特に固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質を挟んでアノード(燃料極)及びカソード(空気極)を備え、アノード側には燃料ガスを、カソード側には酸化剤ガスを供給し、電解質を介して燃料と酸化剤とを電気化学的に反応させることにより発電する発電装置である。燃料電池の種類の一つである固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、発電効率が高く、600〜1000℃の高温で運転されるため、電池内で燃料の改質反応ができるという特徴がある。このため、SOFCを用いることにより、電池システムの構造をシンプルにすることができ、他の燃料電池に比べてコスト低減のポテンシャルを持つ。また、SOFCは、高温度の排熱を利用し、熱・電気併用システムやガスタービンなどの他のシステムとのハイブリッドシステムを形成し易い特徴を持つ。
【0003】
一方で、一つの燃料電池セルの起電力は、1.0V程度と小さいため、数多くの燃料電池セルを直列に接続して使用する場合が多い。
【0004】
燃料電池は、固体電解質の形状により、円筒形と平板形とに大別され、円筒形は、平板形に比べて、ガスのシール性に優れ、熱応力に強く、高温度で運転する固体酸化物形燃料電池にとっては大きな利点を持つが、円筒形燃料電池セルにおいては、単セルと単セルとを接続するインターコネクタと呼ばれる接続部分が必要になる。
【0005】
インターコネクタと、外側電極、内側電極又は集電板との接触は、熱膨張によって不十分となる場合があり、これによる電気抵抗の増加を抑制するため、直列に接続した複数のセルを集電板によって締め付けて固定している。
【0006】
したがって、温度の上昇に伴って、これらの構成部材の自由な熱膨張が抑制され、内部に熱応力が生じ、亀裂の発生などの破損を引き起こす懸念がある。閉空間を構成する部材に亀裂が生ずれば、ガスリークが発生する。また、接続界面に亀裂が生じれば、電気的接触面積の減少から電気抵抗が大きくなり、性能低下の原因となる。SOFCの構成部材は、セラミックスを主体としているため、熱応力による亀裂や破損が生じやすい傾向があり、発電装置としての信頼性に影響する場合がある。
【0007】
この問題を解決するための従来技術の例としては、以下のものが挙げられる。
【0008】
特許文献1には、複数の発電セルを直列に配列したモジュールの端部に設置された集電部と、この集電部の表面に、発電セルの軸方向に配列された複数の弾性接触部とを設ける技術が開示されている。
【0009】
特許文献2には、所定のアスペクト比を有するセラミックスまたはその前駆体のファイバーと、固体電解質の原料粉とを混合し、焼結する技術が開示されている。
【0010】
特許文献3には、集電体の外面に所定の深さの凹部を形成するとともに、この集電体の外面に所定の厚みの金属メッキ膜を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−33788号公報
【特許文献2】特開2009−245628号公報
【特許文献3】特開平11−185780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載されている弾性接触部に用いる材料は、金属であるニッケルが好適とされている。このため、これが高温度条件において熱収縮−伸長を繰り返すと、材料の延性が低下すること(クリープ破壊)が知られている。よって、弾性接触部に弾力性を有する金属部材を用いることは好ましくない。
【0013】
また、特許文献2に記載されているセラミックスまたはその前駆体のファイバーは、セルの電気抵抗を増加させ、発電性能の低下の要因となる。
【0014】
さらに、特許文献3に記載されている集電体の外面に凹部を設けた場合、機械的強度の改善が不十分であると考えられる。
【0015】
したがって、熱応力が集中する部位を特定し、応力の分散及び緩和を促すセル構造が必要である。
【0016】
本発明の目的は、熱応力による破損を回避し、燃料電池の信頼性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、筒状構造の内側から内側電極、固体電解質及び外側電極をこの順に積層した構成を有し、内側電極で囲まれた中空部分を有する単セルで構成され、少なくとも内側電極に電気的に接続された内側電極用インターコネクタを有する固体酸化物形燃料電池において、内側電極用インターコネクタの端部に内側電極用応力抑制部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱応力による破損を回避し、燃料電池の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例の固体酸化物形燃料電池を示す斜視図である。
【図2】固体酸化物形燃料電池を示す斜視図である。
【図3】固体酸化物形燃料電池のスタックを示す斜視図である。
【図4A】シミュレーション解析に用いる形状モデルを示す断面図である。
【図4B】シミュレーション解析に用いる形状モデルを示す斜視図である。
【図5】シミュレーション解析結果である燃料電池の温度分布を示す斜視図である。
【図6】シミュレーション解析結果である燃料電池の熱応力分布を示す斜視図である。
【図7】シミュレーション解析結果である燃料電池の熱応力分布を示す端面図である。
【図8】実施例のインターコネクタの形状を示す図である。
【図9A】従来のインターコネクタ(図8の形状A)の熱応力分布を示す斜視図である。
【図9B】実施例のインターコネクタ(図8の形状B)の熱応力分布を示す斜視図である。
【図9C】実施例のインターコネクタ(図8の形状C)の熱応力分布を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池について説明する。
【0021】
前記固体酸化物形燃料電池は、筒状構造の内側から内側電極、固体電解質及び外側電極をこの順に積層した構成を有し、内側電極で囲まれた中空部分を有する単セルで構成され、中空部分及び外側電極の外部は、燃料又は酸化剤の流路であり、少なくとも内側電極に電気的に接続された内側電極用インターコネクタを有する燃料電池であって、内側電極用インターコネクタの端部には、内側電極用応力抑制部が設けられていることを特徴とする。
【0022】
前記固体酸化物形燃料電池は、さらに、外側電極に電気的に接続された外側電極用インターコネクタを有し、この外側電極用インターコネクタの端部には、外側電極用応力抑制部が設けられていることが望ましい。
【0023】
前記固体酸化物形燃料電池においては、内側電極用応力抑制部及び外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、単セルの端部に向かって幅広であることが望ましい。
【0024】
前記固体酸化物形燃料電池においては、内側電極用応力抑制部及び外側電極用応力抑制部のうち少なくともいずれかの単セルの端部側には、凹部が設けられていることが望ましい。
【0025】
前記固体酸化物形燃料電池においては、内側電極用応力抑制部及び外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、金属材料で構成されていることが望ましい。
【0026】
前記固体酸化物形燃料電池においては、内側電極用応力抑制部及び外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、多孔質材料で構成されていることが望ましい。
【0027】
前記固体酸化物形燃料電池においては、単セルが複数個直列に接続されたスタックを含むことが望ましい。
【0028】
図2は、円筒形燃料電池の概要を示したものである。
【0029】
本図においては、単セル200(円筒形燃料電池)は、固体電解質203で形成された閉空間の内面に設けられた内側電極202と、固体電解質203の外面に設けられた外側電極204と、内側電極202と電気的に接続されたインターコネクタ201(内側電極用インターコネクタ)とを含む構成である。内側電極202の内部は、燃料である水素ガス等が流れる燃料流路である。一方、外側電極204の外部は、酸素等の酸化剤が流れる空気流路である。
【0030】
なお、本図に示す単セル200は、内側電極202だけにインターコネクタ201を設けたものである。後述のように、外側電極204にもインターコネクタ(外側電極用インターコネクタ)を設けることは、2つの単セル200の間、又は単セル200と集電板との間の電気抵抗を低減する観点から望ましい。
【0031】
図3は、固体酸化物形燃料電池のスタックを示す斜視図である。
【0032】
本図においては、単セル300を直列に接続したスタック303を、集電板301と集電板302との間に挟み込んで固定したものである。各電池セルは、内側電極と外側電極とをインターコネクタを介して電気的に直列に接続してあり、大きな電圧を得ることができるようになっている。集電板301と集電板302との間に挟んで締め付けることにより、熱膨張による接触状態の悪化及びそれに伴う抵抗の増加を抑制することができる。
【0033】
本発明においては、単セルの形状は、平板状ではなく、外形が円筒形状、扁平円筒形状、楕円形状、直方体形状、立方体形状等であって中空であり、中空部分が閉空間となっている。すなわち、本発明の単セルは、筒状の固体電解質の内側及び外側に電極を形成した構造を有する。アノード及びカソードは、どちらが内側であってもよいが、以下の実施例では、内側にアノードを設け、外側にカソードを設けた場合について説明する。
【0034】
以下、実施例について図面を参照して説明する。
【0035】
図1は、実施例の固体酸化物形燃料電池を示す斜視図である。
【0036】
本図において、燃料電池の単セル100は、固体電解質104の外面にカソード電極105を有し、固体電解質で囲まれた閉空間(固体電解質104の内側(内面))にアノード電極103を有している。カソード電極105には、インターコネクタ101(外側電極用インターコネクタ)が電気的に接続され、アノード電極103には、インターコネクタ107(内側電極用インターコネクタ)が電気的に接続されている。固体電解質104及びカソード電極105は、インターコネクタ107をアノード電極103に接続するためにスリットを設けてある。インターコネクタ101、107を外部負荷に接続することにより、電流を取り出すことができるようになっている。
【0037】
アノード電極103の内部には、ガス流路102が設けられている。インターコネクタ101、107の端部には、熱応力による破損を防止するための応力抑制部106、108が設けられている。応力抑制部106、108は、インターコネクタ101、107の両端部に設けることが望ましい。ここで、応力抑制部106は外側電極用応力抑制部であり、応力抑制部108は内側電極用応力抑制部である。燃料ガスは、ガス流路102を流れ、酸素等の酸化剤ガスは、カソード電極105に接触するように単セル100の外側を流れる。
【0038】
本明細書においては、応力抑制部106、108を有する単セル100の場合、インターコネクタ101、107の端部とは、インターコネクタ101、107と応力抑制部106、108との接続面をいい、この場合のインターコネクタ101、107の端部は、単セル100の端部よりも内側に位置する。インターコネクタ101、107及び応力抑制部106、108の材質は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。一方、応力抑制部を有しない単セルの場合は、インターコネクタの端部が単セルの端部に位置していてもよいし、若干内側に位置していてもよい。
【0039】
本図においては、応力抑制部106、108は、インターコネクタ101、107の端部に向かって枝分かれした形状を有している。この形状は、後述の図8に示す形状Cである。応力抑制部106、108の形状は、これに限定されるものではなく、後述の図8に示す形状Bのように、インターコネクタ101、107の端部に向かうほど幅が広くなる形状としてもよい。
【0040】
固体電解質104は、円筒形セルの袋管になっている。固体電解質104の材質としては、例えばイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)を用いることができる。また、単セル100の他の構成部材であるアノード電極103には、ニッケル及びYSZからなる多孔質のサーメットが望ましい。このほか、カソード電極105にはランタンマンガネイトが望ましく、インターコネクタ101、107にはランタンクロマイドが望ましい。応力抑制部106、108は、インターコネクタ101、107と同じ材質であるランタンクロマイドを用いて、インターコネクタ101、107と結合していることが望ましいが、更に高い機械的強度を持たせるため、あるいは弾力性を付与するため、別の材質のものを用いてもよい。
【0041】
次に、数値シミュレーションを用いた解析により、本発明の効果について説明する。
【0042】
シミュレーション解析による本発明の効果についての検証は、円筒形燃料電池を用いて実施した。
【0043】
図4Aは、シミュレーション解析に用いる形状モデルを示す断面図である。図4Bは、図4Aの形状モデルの斜視図である。
【0044】
図4Aは、円筒形燃料電池の単セル400の流れ方向に垂直な断面を示したものである。
【0045】
単セル400は、内側電極をアノード電極403、外側電極をカソード電極405とし、内側電極で閉じられた空間を燃料ガス流路422とする構成である。単セル400は、電気的接続要素であるインターコネクタ401、402を中心軸について対称の位置に配置し、アノード電極403およびカソード電極405からの電流を隣接する単セルまたは集電板に伝えるように構成されている。燃料ガス流路422は、図4Bに示すように、燃料ガスの入口410及び出口412を有する。
【0046】
単セル400の寸法は、直径80mm、長さ2000mmとし、固体電解質404の寸法は、直径60mmで厚さ40μmとしている。また、固体電解質404の電気抵抗率は、0.1Ω・mとしている。図4Aにおいて、中心から外側にかけて示されている寸法(数値)は、比率であり、燃料ガス流路422、アノード電極403、カソード電極405及び空気流路424が2:1:0.5:0.5としてある。固体電解質404は、厚さが40μmと薄いため、上記の比率からは除外している。
【0047】
次に、各要素の材質および物性値について説明する。
【0048】
本シミュレーションにおいては、アノード電極には、密度7430kg/m3、比熱456J/KgK、熱伝導率11W/mK、気孔率0.3のニッケル(Ni)とスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)との複合材を用い、固体電解質には、ScSZ材を用いるものと仮定した。カソード電極には、密度4500kg/m3、比熱566J/KgK、熱伝導率2.2W/mK、気孔率0.3の(La,Sr)MnO3材を用いることを想定した。また、インターコネクタは、密度6300kg/m3、比熱500J/KgK、熱伝導率2W/mKの(La,Ca)CrO3材を用いるものと仮定した。
【0049】
燃料ガス流路422には、入口410から出口412に向かって700℃に加熱した水素ガスを流し、空気流路424には、700℃に加熱した空気を水素ガスと同じ方向に流すと仮定し、電流密度0.4A/cm2における単セル400の温度分布をSOFCシミュレータによって算出した。入口410及び出口412以外の壁面は断熱条件とした。SOFCシミュレータとしては、市販のシミュレータソフトであるANSYS社のFLUENT熱流動解析プログラムを用いた。
【0050】
図5は、解析結果の一つである温度分布を示したものである。
【0051】
本図から、単セル500の入口510付近においては700℃(973K)であるのに対し、電気化学反応に伴って発生する反応熱によって出口512に向かって温度が徐々に上昇することがわかる。そして、出口512付近においては、1000℃(1300K)程度まで温度が上昇することがわかる。
【0052】
次に、SOFCシミュレータで求めた単セル500の温度分布における熱応力を、構造解析シミュレータを用いて算出した。構造解析シミュレータとしては、ANSYS社の解析ソフトWorkbenchを用いた。拘束条件は、上下のインターコネクタの接地面が固定されていることとした。
【0053】
図6及び図7は、構造解析の結果を示したものである。図6は斜視図であり、図7は端面図である。
【0054】
これらの図においては、単セル600に生じる熱応力の強さの分布を示している。これらの図から、熱応力はインターコネクタ606、608の端部に集中して生じることがわかる。
【0055】
よって、単セル600は、温度上昇に伴い、自由な熱膨張が抑制されて生じる内部の熱応力により、その端部において亀裂などの破損が生じる可能性がある。
【0056】
そこで、熱応力が集中するインターコネクタ606、608の端部に応力抑制部を設けることにより、機械的強度を高め、又は、応力を分散し、熱応力を原因とする亀裂などの破損を抑制することを検討した。
【0057】
図8は、インターコネクタの端部に応力抑制部を設けた構成を示したものである。
【0058】
本図において、形状Aは、単セル800のインターコネクタ806、808の端部に応力抑制部を設けていない従来の形状である。一方、形状B及び形状Cは、インターコネクタの端部に応力抑制部を設けた場合である。
【0059】
形状Bは、単セル810の端部に向かって、徐々に幅が広がる形状の応力抑制部801を設けた場合である。一方、形状Cは、単セル820のインターコネクタ826、828の端部で枝分れした応力抑制部802を設けた場合である。
【0060】
インターコネクタの端部を形状A、B又はCとした場合について強度解析を実施した。
【0061】
この強度解析は、上述のように、SOFCシミュレータを用いて温度分布を算出し、この温度分布における熱応力分布を構造解析シミュレータで算出する手法ではなく、上下のインターコネクタの接続面を拘束し、円筒形燃料電池セルの両側から圧力を加え、強度解析をすることにより、熱応力による破損評価を実施した。
【0062】
その結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
本表は、上下のインターコネクタの接続面を拘束し、単セルの両端から流路方向と平行に1MN/m2の押し圧を加え、最大応力の値と、最大応力値に対する安全度数を計算した値を示す。安全度数は、相当応力が材料の降伏強度に達する状態において、その位置における降伏強さを相当応力で割って計算したものであり、値が大きい程、安全度が高いことを示している。この安全度数を破壊判断基準の指標とした。
【0064】
本表において、インターコネクタの端部に応力抑制部を持たない従来の形状Aは、最大応力が6.3MN/m2で、安全度数は43.8であった。これに対して、インターコネクタの端部に応力抑制部801を持つ形状Bは、最大応力が6.4MN/m2で安全度数が32.5となり、応力抑制部を持たない従来の形状Aよりも低い値となった。一方、インターコネクタの端部に応力抑制部802を持つ形状Cは、最大応力が3.4MN/m2で、安全度数が67.8となり、応力抑制部を持たない従来の形状Aよりも約50%程度、安全度が改善できた。
【0065】
図9A、9B及び9Cは、それぞれ、インターコネクタの端部を形状A、B又はCとした場合に、応力が集中し、破損しやすい領域を示したものである。
【0066】
図9Aに示す単セル800は、インターコネクタ806、808を有する。インターコネクタ806、808の端部には、応力抑制部を設けていない。すなわち、インターコネクタ806、808は、図8に示す従来の形状Aである。
【0067】
本図においては、インターコネクタ806、808と単セル800の円筒部材との接合部を含む領域901に破損しやすい部分が存在し、円筒部材に亀裂が生じる可能性がある。このため、単セル800のシール性が維持できず、ガス漏れを引き起こし、信頼性を著しく低下させる。
【0068】
これに対して、図9Bに示す単セル810は、インターコネクタ816、818を有する。インターコネクタ816、818の端部には、応力抑制部801を設けてある。すなわち、インターコネクタ816、818は、図8に示す形状Bである。
【0069】
本図においては、応力抑制部801に破損しやすい領域902が集中し、円筒部材には破損しやすい領域がない。したがって、たとえ破損したとしても、円筒部材の破損は免れ、単セル810のシール性は確保することができる。
【0070】
図9Cに示す単セル820は、インターコネクタ826、828を有する。インターコネクタ826、828の端部には、応力抑制部802を設けてある。すなわち、インターコネクタ826、828は、図8に示す形状Cである。
【0071】
本図においては、応力抑制部802の広い領域903に破損しやすい範囲が分散され、円筒部材の破損を防止することできることがわかる。
【0072】
以上のように、インターコネクタの端部に応力抑制部を設けることにより、熱応力による円筒部材の破損を防止することができ、ガスシールが確保され、燃料電池の信頼性を維持することができる。
【0073】
応力抑制部の形状は、形状Bのように単セルの端部に向かって幅広になるものが望ましく、形状Cのように単セルの端部に向かって分岐するものは更に望ましい。形状Cの応力抑制部の構成について言い換えると、単セルの端部に向かって幅広になるものであって単セルの端部側には凹部が設けられているということができる。
【0074】
さらに、形状Bの応力抑制部の構成は、インターコネクタの長軸に向かって凸であって曲率を有する形状で幅広になっている。また、形状Cの応力抑制部の構成は、単セルの端部側の凹部が曲率を有し、当該凹部の最奥部が単セルの端部に向かって凹である曲率を有している。さらに、インターコネクタと単セルとの接続部及び応力抑制部と単セルとの接続部は、単セルの中心軸に向かって凸となる曲率を有することが望ましい。さらにまた、片側の応力抑制部のインターコネクタの長軸方向の寸法は、単セルの長さの20%以内であることが望ましい。
【0075】
なお、インターコネクタの端部の応力抑制部には、インターコネクタとは別の弾力性に富む金属材料を用いてもよい。例えば、フェライト系のFe−22CrにZr及びLaを添加した日立金属(株)製の金属材料を用いてもよく、(La,Ca)CrO3の多孔質材を用いてもよい。このように、熱応力が集中しやすいインターコネクタの端部の応力抑制部には、弾力性に富む金属材料や、熱伸びを吸収する多孔質材料を適用することにより、熱膨張による歪を吸収することができ、内部熱応力を低減することを可能にし、破損を回避し、燃料電池の信頼性を高めることができる。
【0076】
上記の実施例の構成によれば、インターコネクタの端部に設けた応力抑制部に熱応力が集中するため、カソード電極等の円筒部材に熱応力が及ばず、円筒部材の破損を防止することができる。また、この構成によれば、仮に応力抑制部が破損したとしても、円筒部材が破損を免れ得る。
【符号の説明】
【0077】
100、200、300、400、500、600、800、810、820:単セル、101、107、201、401、402、606、608、806、808、816、818、826、828:インターコネクタ、102:ガス流路、103、202、403:アノード電極、104、203、404:固体電解質、105、204、405:カソード電極、106、108、801、802:応力抑制部、301、302:集電板、303:スタック、410、510:入口、412、512:出口、422:燃料ガス流路、424:空気流路、901、902、903:領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状構造の内側から内側電極、固体電解質及び外側電極をこの順に積層した構成を有し、前記内側電極で囲まれた中空部分を有する単セルで構成され、前記中空部分及び前記外側電極の外部は、燃料又は酸化剤の流路であり、少なくとも前記内側電極に電気的に接続された内側電極用インターコネクタを有する燃料電池であって、前記内側電極用インターコネクタの端部には、内側電極用応力抑制部が設けられていることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
さらに、前記外側電極に電気的に接続された外側電極用インターコネクタを有し、この外側電極用インターコネクタの端部には、外側電極用応力抑制部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記内側電極用応力抑制部及び前記外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、前記単セルの端部に向かって幅広であることを特徴とする請求項2記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記内側電極用応力抑制部及び前記外側電極用応力抑制部のうち少なくともいずれかの前記単セルの端部側には、凹部が設けられていることを特徴とする請求項3記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
前記内側電極用応力抑制部及び前記外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、金属材料で構成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
前記内側電極用応力抑制部及び前記外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、多孔質材料で構成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
前記単セルが複数個直列に接続されたスタックを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項1】
筒状構造の内側から内側電極、固体電解質及び外側電極をこの順に積層した構成を有し、前記内側電極で囲まれた中空部分を有する単セルで構成され、前記中空部分及び前記外側電極の外部は、燃料又は酸化剤の流路であり、少なくとも前記内側電極に電気的に接続された内側電極用インターコネクタを有する燃料電池であって、前記内側電極用インターコネクタの端部には、内側電極用応力抑制部が設けられていることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
さらに、前記外側電極に電気的に接続された外側電極用インターコネクタを有し、この外側電極用インターコネクタの端部には、外側電極用応力抑制部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記内側電極用応力抑制部及び前記外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、前記単セルの端部に向かって幅広であることを特徴とする請求項2記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記内側電極用応力抑制部及び前記外側電極用応力抑制部のうち少なくともいずれかの前記単セルの端部側には、凹部が設けられていることを特徴とする請求項3記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
前記内側電極用応力抑制部及び前記外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、金属材料で構成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
前記内側電極用応力抑制部及び前記外側電極用応力抑制部の少なくともいずれかは、多孔質材料で構成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
前記単セルが複数個直列に接続されたスタックを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【公開番号】特開2013−98110(P2013−98110A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241922(P2011−241922)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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