説明

固体電解コンデンサ、その製造方法、およびその評価方法

【課題】 弁作用金属粒子どうしの接合部における微細なクラックの発生を抑制して漏れ電流を低減した固体電解コンデンサ、その製造方法、およびその評価方法を得る。
【解決手段】 固体電解コンデンサの陽極体を構成する、多孔質焼結体の弁作用金属粒子どうしの接合部での接合径を、前記粒子の粒径に対して一定以上の大きさとなるようにする。そのための評価方法として、固体電解コンデンサの陽極部を切断し、その切断面に画像解析を行う測定領域を設定する。次いで各測定領域において、各々の弁作用金属粒子の粒子形状54および粒子どうしの接合部位置53を特定し、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値を算出して評価する。この比の値が0.5以上となる測定領域が全測定領域の70%以上の場合に、漏れ電流の値が十分に低い固体電解コンデンサを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電解コンデンサに関し、とくに漏れ電流を低減した固体電解コンデンサおよびその製造方法、およびその評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に固体電解コンデンサは以下の方法により作製される。まず、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)などの弁作用を有する金属粉末を、必要な場合は真空中での熱処理によって熱凝集させるなどして造粒する。この金属粉末やその造粒物に同じく弁作用金属からなる金属線であるリード部を埋め込み、加圧成形して多孔質成形体を形成する。次にこの多孔質成形体を焼結して多孔質焼結体とする。なお、この焼結の際に金属粉末の造粒物の形状は実質的に解体してしまう。従って、多孔質焼結体を切断してその断面を観察する場合には、金属粉末の造粒を行った場合でも造粒物の痕跡はほとんど観察されず、出発原料である個々の金属粉末に相当する弁作用金属粒子の形状のみが見られることとなる。
【0003】
次に焼結により得られた多孔質焼結体に対して化成処理を行うことにより、多孔質焼結体を構成する弁作用金属粒子の表面に誘電体皮膜を形成して陽極体とする。さらに前記誘電体皮膜の表面に、導電性高分子もしくは二酸化マンガンなどからなる固体電解質を充填して固体電解質層を設け、次いでグラファイトなどからなる導電体層と銀ペーストなどからなる電極層とを順次形成して陰極層とする。このようにして形成された素子に外部電極端子を接続し、樹脂モールドなどを施して、チップ状などの形状を有する固体電解コンデンサが作製される。
【0004】
固体電解コンデンサの電気特性として重視される項目には、静電容量と漏れ電流の値がある。ここで弁作用金属としてTaを用いた固体電解コンデンサは単位体積当たりの静電容量がとくに大きく、また漏れ電流も比較的小さいことが知られている。漏れ電流とは、固体電解コンデンサの電極間に耐電圧以下の直流電圧を印加した際に両電極間に僅かに流れる電流であり、理想的にはゼロである(直流電圧印加時の両極間のインピーダンスが無限大)ことが望ましいが、実際には漏れ電流を完全にゼロとすることは困難である。
【0005】
固体電解コンデンサの漏れ電流は、多孔質焼結体を構成する、互いに焼結した弁作用金属粒子の表面に形成された誘電体皮膜に微細なクラックが発生するなどして欠陥部が生じ、この欠陥部に僅かではあるが電流が流れることが主な原因と考えられている。誘電体皮膜のクラックは様々な理由により発生すると考えられるが、その中でも比較的大きな原因として、陽極体を構成する多孔質焼結体に埋設されたリード部とその周囲の弁作用金属粒子との接触域における、応力歪みの存在が指摘されている。特許文献1には、このリード部の多孔質焼結体の内部への埋設領域における断面を、角を有する形状ではなく曲線により囲まれた形状とすることにより、リード部から多孔質焼結体に加えられる応力を分散させるように構成する方法が記載されている。この方法により弁作用金属粒子が受ける応力歪みを緩和して、誘電体皮膜におけるクラックの発生の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−216680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された、固体電解コンデンサの陽極体を構成するリード部と弁作用金属粒子との接触域における応力歪みの緩和は、弁作用金属粒子の表面に形成された誘電体皮膜のクラック発生の原因のうちの1つを解決するものである。従ってこの方法を実施すれば、固体電解コンデンサの漏れ電流がある程度小さくなると期待されるが、誘電体皮膜へのクラックの発生には、前記の応力歪みの他にも様々な原因があると考えられている。従って、漏れ電流の低減のためには前記以外のクラック発生の原因についてのさらなる解明と、その対策の実施が必要である。
【0008】
発明者らは、多孔質焼結体を構成する弁作用金属粒子の表面の誘電体皮膜に微細なクラックが発生する原因について種々の検討を行い、その結果として従来知られていない、新たな原因があることを見いだした。以下、発明者らが見いだした誘電体皮膜へのクラック発生の原因について、図7に基づいて説明する。
【0009】
図7は一般的な固体電解コンデンサの作製工程における、陽極体を形成する弁作用金属粒子の変化を説明するための模式図である。このうち図7(a)は弁作用金属粒子を加圧成形した状態での多孔質成形体の一部を示す断面図、図7(b)は図7(a)の多孔質成形体を焼結して多孔質焼結体とした状態を示す断面図、図7(c)は図7(b)の多孔質焼結体を構成する各粒子の表面に、誘電体皮膜を形成した状態を示す断面図である。
【0010】
図7(a)において、弁作用金属粒子71どうしは加圧成形によって表面の一部で互いに接合して多孔質成形体72を形成している。なお図7(a)では3つの弁作用金属粒子71が互いに接合する場合を記載している。次いで図7(b)では多孔質成形体72が焼結されて多孔質焼結体73となっている。ここで弁作用金属粒子71どうしの接合部では焼結によって接合に関与する領域の面積(接合面積)が増加しており、これにより弁作用金属粒子71どうしの接合強度が増加していると考えられる。図7(c)では弁作用金属粒子71が化成処理されてその表面に誘電体皮膜74が形成されているが、それとともに弁作用金属粒子71どうしの接合部には、微細なクラック75が発生している。
【0011】
このように、固体電解コンデンサの多孔質焼結体を構成する弁作用金属粒子どうしの接合部にクラックが発生すると、このクラックが欠陥部となって固体電解コンデンサに漏れ電流が流れる原因となると考えられる。なお誘電体皮膜の形成によって多孔質焼結体を構成する弁作用金属粒子どうしの接合部にクラックが発生する理由については、以下のように考えられる。
【0012】
多孔質焼結体を構成する弁作用金属粒子の表面に誘電体皮膜を形成するために、前記の通り弁作用金属粒子の表面に対し化成処理を実施している。これにより弁作用金属粒子の表面部分は酸化されて誘電体皮膜となるが、この酸化の際には体積の膨張が生じる。従って、この誘電体皮膜の膨張が弁作用金属粒子どうしの接合部では粒子どうしを互いに引き離そうとする力が生じ、これによる応力歪みが接合部に集中して微細なクラックの発生の原因となると考えられる。このようなクラックは、弁作用金属としてTaを用いた場合に比較的多く発生する傾向があることが判明している。
【0013】
なお、弁作用金属粒子どうしの接合部へのクラックの発生は必ずしも化成処理による誘電体皮膜の形成工程のみで起きるとは限らない。前記化成処理の工程ではクラック発生までは至らずに、応力歪みの集中による接合部での接合強度の低下のみが起きる場合もある。しかしこのような接合強度の低下が生じると、後工程である固体電解コンデンサの外装工程や、ユーザが固体電解コンデンサを製品に実装する段階などで、加えられる熱ストレスや機械的ストレスが引き金となってクラックの発生に至る場合がある。どの段階であっても弁作用金属粒子どうしの接合部にこのような微細なクラックが発生すると、固体電解コンデンサにおける漏れ電流の増加を招くこととなる。
【0014】
従って、本発明が解決しようとする課題は、陽極体を構成する弁作用金属粒子どうしの接合部における微細なクラックの発生を抑制し、それによる漏れ電流の増加が生じることのない固体電解コンデンサ、その製造方法、およびその評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは固体電解コンデンサを構成する多孔質焼結体の表面に誘電体皮膜を形成しても、弁作用金属粒子どうしの接合部にクラックが発生しないための条件について検討を行った。その結果、多孔質焼結体の弁作用金属粒子どうしの接合部における接合面積が、弁作用金属粒子の大きさに比較して十分に大きい場合には、化成処理によって弁作用金属粒子の表面に誘電体皮膜を形成しても、接合部へのクラック発生には至らないことを見いだした。弁作用金属粒子どうしの接合面積がその粒子の大きさとの比較で相対的に大きいと、弁作用金属粒子どうしの密着力が十分に大きくなるため、誘電体皮膜の形成による応力歪みが加わっても接合部でのクラックの発生が抑制されると考えられる。従って、固体電解コンデンサにおいてクラックの発生による漏れ電流の増加が起きるかどうかは、接合部における接合面積と、関係する弁作用金属粒子の大きさに依存することになる。
【0016】
前記知見をもとに発明者らは実験を重ね、固体電解コンデンサの陽極体を構成する多孔質焼結体において、弁作用金属粒子の大きさおよびその弁作用金属粒子どうしの接合面積と、固体電解コンデンサの漏れ電流との間に一定の関係が成り立つことを見いだした。また、この三者の関係について定量的に規定するためには、弁作用金属粒子の大きさとその粒子どうしの接合面積についてそれぞれ数値化する必要がある。この点について、発明者らは化成処理を実施した後の多孔質焼結体を切断し、その切断面を画像として観察することによってこれらの数値化が可能であることを見いだした。この数値化の方法は以下の通りである。まず弁作用金属粒子を加圧成形し、焼結した後で化成処理を実施した多孔質焼結体に対していくつかの測定領域を設定し、その測定領域を含むように前記多孔質焼結体を切断する。次いで得られた切断面の前記測定領域における画像を観察することにより、弁作用金属粒子の大きさと、その粒子どうしの接合部の広がりを規定する要素をそれぞれ抽出するのである。
【0017】
ここで、出発原料である弁作用を有する金属粉末は、初期の段階では一般に球形に近い形状の粒子である。弁作用金属粒子は真空中での熱凝集、加圧成形、焼結および化成処理などの各工程でかなりの変形を受けるものの、それでも固体電解コンデンサの陽極体を切断して多孔質焼結体の切断面の画像を観察した場合は、個別の弁作用金属粒子の位置と大きさを円形の形状にて近似することができる。この近似的な円形の形状は、観察される粒子の断面とその面積が同じとなるように設定したものであって、その円形の形状の直径を以て、粒子の断面における弁作用金属粒子の粒径であると規定することができる。ただし多孔質焼結体の切断面に見える弁作用金属粒子は常にその中心を通るように切断されるとは限らないから、切断面の画像の観察によって規定された粒径の値は、弁作用金属粒子の本来の粒径と同じかそれよりも若干小さな値(平均で弁作用金属粒子の粒径の2/3程度)となると考えられる。
【0018】
一方、弁作用金属粒子どうしの接合部は、多孔質焼結体の切断面の画像では複数の粒子の間に存在する直線状の領域として観察される。この接合部は実際には粒子の間に存在するいびつな形状の面であるが、近似的に円形の平面と見なすことができる。この円形の平面はその切断面を観察した場合には直線状の領域として近似されるが、その領域の長さは多孔質焼結体の切断面の画像で観察される弁作用金属粒子どうしの接合部の長さに相当する。ここで弁作用金属粒子どうしの接合部の大きさ(広がり)を定量的に表現する際は、数値処理の都合から、接合面積に代えて円形の平面と見なされる接合部の直径、即ち接合径を用いることが適している。そしてこの接合部の直径は、前記によれば切断面の画像における接合部の直線状の領域の長さとして規定することができる。ただし前記弁作用金属粒子の場合と同様に、切断面の画像の観察により規定された接合部の直径は、その本来の直径と同じかそれよりも若干小さな値(平均で接合部の直径のπ/4程度)となると考えられる。
【0019】
このように、固体電解コンデンサを構成する多孔質焼結体を切断し、その切断面の画像を観察することで、弁作用金属粒子の粒径と、粒子どうしの接合部における接合径とをそれぞれ測定することができる。ここで粒径の測定においては弁作用金属粒子がその切断面において円形の形状をなすものと近似し、また接合径の測定では粒子どうしの接合部がその切断面にて直線状の領域をなすものと近似することができる。これらの近似を行う場合には、それぞれ多孔質焼結体の切断面を画像解析することによって、前記粒径および前記接合径を自動処理もしくは半自動処理により算出することができる。なお切断面の画像の観察においては、切断面に対して装置による研磨を行って研磨面を得て、次いで研磨面内に測定領域を設定して走査型電子顕微鏡により測定領域の撮影を行い、得られた画像を解析する方法が好適である。
【0020】
画像解析の方法としては以下の手順が有用である。まず切断面の画像から弁作用金属粒子の集合体による輪郭線を抜きだし、その輪郭線の凹凸をもとに、元となる弁作用金属粒子の位置を特定する。次いで特定された弁作用金属粒子の各々の位置に円形領域を設定し、実際の輪郭線の位置との比較結果をもとにその直径を算出して、各々の弁作用金属粒子の粒径とする。また、各々の位置に特定された弁作用金属粒子どうしが接する接合部において、輪郭線の凹凸から想定される各々の接合部の直線状の領域の長さを算出して、これを弁作用金属粒子どうしの接合径とする。この直線状の領域の長さは、境界領域における両側の輪郭線が最も接近した位置どうしを結ぶ直線の長さとして規定され、多くの場合は輪郭線の両側に存在するくびれの部分を結んだ直線の長さである。ただし3つ以上の粒子が複合して接合している場合など、特殊な処理が必要な場合もある。
【0021】
このようにして多孔質焼結体の切断面の画像をもとに、画像の各々の位置における弁作用金属粒子の粒径と、接合部における接合径とをそれぞれ算出することができる。これらの粒径や接合径の算出は、切断面の画像をコンピュータにてデジタル処理することによって自動処理、もしくは半自動処理とすることができる。ここで半自動処理の場合には、画像内での弁作用金属粒子どうしの接合部の位置を具体的に指定する工程のみを手動により行い、その他の工程については自動的に処理する方法などが行われる。なお前記弁作用金属粒子の粒径および接合径の値には測定領域ごとのばらつきがあるため、多孔質焼結体の1つの切断面内には測定領域を複数箇所設け、各測定箇所における算出結果を総合して判断する必要がある。
【0022】
具体的には化成処理を行った多孔質焼結体をリード部の長さ方向に垂直な面で切断し、その面内に10点程度の測定領域を設定する。これらの測定領域は密集させず、互いに離して設置することが望ましいので、切断面内に概ね均等な間隔を設けて配置することが好ましい。ただし前記リード部の近傍の位置では、多孔質成形体を加圧成形する際に弁作用金属粒子やその接合部に大きな応力歪みが加えられ、粒子の変形が著しいことから各粒子の粒径の算出が困難である。従って、このリード部の近傍の位置は測定領域の設定領域から外すべきであり、前記リード部の表面から0.2mm程度の距離の範囲を設定領域から除外することが望ましい。多孔質焼結体の切断面を1箇所とし、面内に10点ずつの測定領域を配置した場合には、弁作用金属粒子の粒径と接合径をそれぞれ算出する測定領域が1つの多孔質焼結体について合計10箇所となる。
【0023】
以上記した方法に従って発明者らはまず固体電解コンデンサを作製し、その漏れ電流および静電容量を測定した後にこの固体電解コンデンサを複数箇所で切断した。そして得られた多孔質焼結体の切断面に測定領域を設けて走査型電子顕微鏡によって各測定領域での表面の画像を撮影し、画像処理を行って弁作用金属粒子の粒径と接合径の値をそれぞれ算出した。その結果、前記粒径と接合径の値と、その固体電解コンデンサの漏れ電流の値との間に一定の関係があることが判明した。即ち、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値が大きいほど、それを用いた固体電解コンデンサの漏れ電流の値は小さくなるのである。ここで弁作用金属粒子の粒径が同じならば、その接合径が大きいほど隣り合う粒子どうしの接合面積は大きいはずである。接合面積が相対的に大きい場合は粒子間の接合がより強固となってクラックが発生しにくくなると考えられるので、この場合は漏れ電流の値が小さくなることが予想される。前記の結果はこの予想と調和的である。
【0024】
ところで、多孔質焼結体の切断面の画像を処理するにおいては、画像内に異なる粒径の弁作用金属粒子が複数存在し、また粒子どうしの接合部も複数存在することとなる。このような場合に弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値を算出する手段には、複数の方法が存在する。発明者らは、固体電解コンデンサの特性評価の目的においては2種類の方法が適していることを見いだした。このうち第1の方法では、まず1枚の画像内で弁作用金属粒子の粒子位置およびそれらの接合部の位置を全て抽出し、各位置における粒径および接合径の値をそれぞれ算出する。その上で、各粒径の値のメジアン値(中央値)および各接合径の値のメジアン値をそれぞれ計算し、両者のメジアン値から(接合径のメジアン値/粒径のメジアン値)を求め、この値を評価する方法である。この方法には、画像内の各位置における粒径および接合径の値を算出した後の計算が比較的単純であるという特徴がある。
【0025】
一方、第2の方法についても、1枚の画像内で各位置における粒径および接合径をそれぞれ算出するまでは第1の方法の場合と同一である。その上で、個々の接合部において(接合径/粒径)をまず計算する。ここで1箇所の接合部には通常は2つの粒子が関与しているので、1つの接合径の値に対する前記の値は2つの粒子の値に対してそれぞれ2通りの計算が可能である。このようにして(接合径/粒径)の値を接合部の箇所の2倍の数だけ算出し、最後にそれらの値のメジアン値を求めてこれを評価するものである。この方法では計算方法については第1の方法よりも複雑となるが、画像内で他の粒子と全く接合していない粒子の粒径の値による関与を除外することができるという特徴がある。
【0026】
なお、前記第1、第2の方法のいずれにおいても、画像内で3つ以上の粒子が複合して接合している場合には、まず複合した接合部を2つの粒子による複数の接合部に分解して計算する必要がある。例えば3つの粒子が関与する接合部は、2つの粒子による接合部が3箇所存在すると見なすことができる。このように画像内の全ての接合部を、2つの粒子のみによる接合部に換算してから一連の処理を行うこととする。
【0027】
また、多孔質焼結体の切断面の画像から算出される弁作用金属粒子の粒径および接合径は、前記の通り、多孔質焼結体を立体的に捉えた場合の本来の値よりもそれぞれ若干小さな値となる。しかしながら、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比率という相対値を検討する場合には、これらの本来の値からのずれの影響は、最終的にそれらの相対値が満たすべき閾値の中に組み込まれることとなるので、前記計算の途中においてはとくに考慮する必要はない。
【0028】
ここで、弁作用金属粒子どうしを接合させて多孔質焼結体とした固体電解コンデンサにおいては、前記の通り弁作用金属粒子の粒径に比べて接合径が大きいほど漏れ電流が小さくなる。弁作用金属粒子どうしの接合部にてその接合径を増加させる方法としては、多孔質成形体を焼結させる工程を1回ではなく、3回以上行うことが好適である。このうち2回目以降の焼結においては、焼結温度を最初の焼結時よりも若干低くすることが必要である。この最初の焼結時よりも低い温度による焼結は1回のみでは不十分であって、少なくとも2回実施する必要があり、回数を重ねるにつれて弁作用金属粒子どうしの接合径は次第に大きくなり、漏れ電流の低減の効果も大きくなる。ただし、焼結回数を増加させると固体電解コンデンサの静電容量の方は次第に低下するので、2回目以降の焼結の実施回数についてはその静電容量との兼ね合いにより決定する必要がある。
【0029】
ここで2回目以降の焼結温度を最初の焼結温度よりも低い温度に設定するのは、最初の焼結温度と同等以上の温度で繰り返し焼結を行うと、多孔質焼結体の内部で弁作用金属粒子の粒成長が促進されることとなって、表面積の減少が顕著となるためである。このような弁作用金属粒子の表面積の減少が進行すると、固体電解コンデンサの静電容量の低下量が大きくなってしまう。2回目以降の焼結温度を最初の焼結温度よりも低い温度とすることにより、弁作用金属粒子の表面積の減少を抑制しつつ、その接合部における接合径を増加させることが可能である。また2回目以降の焼結は2回以上行う必要があるが、その実施回数を変えることにより、弁作用金属粒子どうしの接合径の大きさと多孔質焼結体の表面積の大きさ、即ち固体電解コンデンサの漏れ電流と静電容量のそれぞれの値を制御することができる。
【0030】
発明者らによる検討によると、前記第1、第2の方法のいずれかの方法において以下の条件が満たされる場合に、固体電解コンデンサの漏れ電流の値を実用上問題のない値にまで小さくすることができる。その条件とは、固体電解コンデンサを構成する多孔質焼結体の切断面に設定した各測定領域のうちの70%以上の測定領域において、その画像解析によって、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値として0.5以上の値が得られることである。ここで、多孔質焼結体の切断面の測定領域ごとの前記比の値にはかなりのばらつきがある。しかしながら発明者らによる検討の結果、各測定領域の中に、前記接合径の比の値を満たさないケースが多少あったとしても、粒径に対する接合径の比の値が0.5以上となる測定領域が全体の70%以上であれば、固体電解コンデンサの漏れ電流の値が使用上十分に小さな値となることが明らかとなった。
【0031】
ここで、発明者らは弁作用金属としてTaを用いた固体電解コンデンサについて評価を行って、漏れ電流の値を小さくする条件として前記結果を得た。しかしながら、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値を大きくすると粒子どうしの接合強度が増大することについては、固体電解コンデンサの陽極体の構成材料としてTa以外の弁作用金属を用いた場合であっても、やはり同様に成り立つものと考えられる。
【0032】
なお、同一の試料について、前記第1の方法と第2の方法による弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値を計算した場合、その結果が互いに若干異なることがある。前記第1の方法では、切断面の画像において接合相手を持たない弁作用金属粒子の粒径についてもカウントされている。一方、第2の方法ではそのようなことはなく、一方で複数の粒子と接合部を有する粒子は接合部の数だけ何回もカウントされることとなり、従って弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値への寄与が大きくなる。以上のことから、多孔質焼結体の切断面で観察される弁作用金属粒子の粒径の分布に偏りが大きく、しかも粒子の位置にも偏りがあって、粒子が密に分布する領域と疎に分布する領域とが混在しているときは、2つの方法による比の値はその差が比較的大きくなる可能性がある。しかしながらそのような場合であっても、前記第1、第2の方法のうち少なくともいずれかの条件が満たされている場合であれば、固体電解コンデンサにおける漏れ電流の値は十分に小さくなって実用上問題のない値にまで低減することが確認されている。
【0033】
即ち、本発明は、弁作用を有する金属粉末からなる成形体を焼結して多孔質焼結体となし、前記多孔質焼結体の表面に化成処理を行なって誘電体皮膜を形成し、前記誘電体皮膜の面上に固体電解質層、導電体層、および電極層を順に形成してなり、前記多孔質焼結体は複数の弁作用金属粒子を含み、前記弁作用金属粒子はそれぞれ隣接する弁作用金属粒子と互いに接合されてなる固体電解コンデンサであって、前記多孔質焼結体に複数の測定領域を分散させて設け、前記各測定領域において、弁作用金属粒子どうしの接合部における接合径の各測定値におけるメジアン値と、前記弁作用金属粒子の粒径の各測定値におけるメジアン値との比である計測値(接合径のメジアン値/粒径のメジアン値)を測定し、前記各測定領域のうち70%以上の測定領域において、前記計測値として0.5以上の値が得られることを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0034】
また、本発明は、弁作用を有する金属粉末からなる成形体を焼結して多孔質焼結体となし、前記多孔質焼結体の表面に化成処理を行なって誘電体皮膜を形成し、前記誘電体皮膜の面上に固体電解質層、導電体層、および電極層を順に形成してなり、前記多孔質焼結体は複数の弁作用金属粒子を含み、前記弁作用金属粒子はそれぞれ隣接する弁作用金属粒子と互いに接合されてなる固体電解コンデンサであって、前記多孔質焼結体に複数の測定領域を分散させて設け、前記各測定領域において、弁作用金属粒子どうしの接合部における接合径の測定値と、前記弁作用金属粒子の粒径の測定値との比である(接合径/粒径)の値を接合部ごとに各々測定し、前記各測定領域のうち70%以上の測定領域において、前記(接合径/粒径)の値の各測定領域でのメジアン値が0.5以上であることを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0035】
さらに、本発明は、前記成形体の焼結において、最初の焼結を行った後に、最初の焼結よりも低い焼結温度でさらに2回の焼結を行ったことを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0036】
さらに、本発明は、前記成形体の焼結において、最初の焼結を行った後に、最初の焼結よりも低い焼結温度でさらに3回もしくはそれ以上の回数の焼結を行ったことを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0037】
さらに、本発明は、前記弁作用を有する金属粉末がタンタルの金属粉末であることを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0038】
さらに、本発明は、前記電極層が銀層であることを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0039】
さらに、本発明は、前記成形体の焼結において、最初の焼結を行った後に、最初の焼結よりも低い焼結温度でさらに2回の焼結を行うことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0040】
さらに、本発明は、前記成形体の焼結において、最初の焼結を行った後に、最初の焼結よりも低い焼結温度でさらに3回もしくはそれ以上の回数の焼結を行うことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0041】
さらに、本発明は、弁作用を有する金属粉末からなる成形体を焼結して多孔質焼結体となし、前記多孔質焼結体の表面に化成処理を行なって誘電体皮膜を形成し、前記誘電体皮膜の面上に固体電解質層、導電体層、および電極層を順に形成してなり、前記多孔質焼結体は複数の弁作用金属粒子を含み、前記弁作用金属粒子はそれぞれ隣接する弁作用金属粒子と互いに接合されてなる固体電解コンデンサの評価方法であって、前記多孔質焼結体に複数の測定領域を設け、前記各測定領域において、弁作用金属粒子どうしの接合部における接合径の各測定値におけるメジアン値と、前記弁作用金属粒子の粒径の各測定値におけるメジアン値との比である計測値(接合径のメジアン値/粒径のメジアン値)を測定し、前記各測定領域のうち70%以上の測定領域において、前記計測値として0.5以上の値が得られる場合に良好と判定することを特徴とする固体電解コンデンサの評価方法である。
【0042】
さらに、本発明は、弁作用を有する金属粉末からなる成形体を焼結して多孔質焼結体となし、前記多孔質焼結体の表面に化成処理を行なって誘電体皮膜を形成し、前記誘電体皮膜の面上に固体電解質層、導電体層、および電極層を順に形成してなり、前記多孔質焼結体は複数の弁作用金属粒子を含み、前記弁作用金属粒子はそれぞれ隣接する弁作用金属粒子と互いに接合されてなる固体電解コンデンサの評価方法であって、前記多孔質焼結体に複数の測定領域を設け、前記各測定領域において、弁作用金属粒子どうしの接合部における接合径の測定値と、前記弁作用金属粒子の粒径の測定値との比である(接合径/粒径)の値を接合部ごとに各々測定し、前記各測定領域のうち70%以上の測定領域において、前記(接合径/粒径)の各々の値のメジアン値として0.5以上の値が得られる場合に良好と判定することを特徴とする固体電解コンデンサの評価方法である。
【0043】
さらに、本発明は、前記弁作用を有する金属粉末がタンタルの金属粉末であることを特徴とする固体電解コンデンサの評価方法である。
【0044】
さらに、本発明は、前記電極層が銀層であることを特徴とする固体電解コンデンサの評価方法である。
【発明の効果】
【0045】
本発明の固体電解コンデンサにおいては、陽極体を構成する多孔質焼結体の弁作用金属粒子どうしの接合部での接合径が、前記粒子の粒径に対して一定以上の大きさとなるようにする。これによって弁作用金属粒子どうしの接合強度を増加させることができ、多孔質焼結体に対して化成処理を行って弁作用金属粒子の表面に誘電体皮膜を形成しても、前記粒子どうしの接合部における微細なクラックの発生を抑制することができる。
【0046】
ここで弁作用金属粒子どうしの接合部において接合径を大きくするためには、多孔質成形体を焼結して多孔質焼結体とする際に、最初の焼結を行った後で、その焼結温度よりも低い焼結温度にて、さらに2回以上の焼結を行うこととする。また、これらの焼結によって弁作用金属粒子どうしの接合径が十分な大きさを有しているかどうかについては、多孔質焼結体に複数の測定領域を設けて、各測定領域において、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値をそれぞれ評価することにより判定することができる。以上の方法により、固体電解コンデンサにおける漏れ電流の値を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の固体電解コンデンサにおける陽極体の斜視図。
【図2】本発明の固体電解コンデンサの完成時の断面図。
【図3】本発明の固体電解コンデンサの陽極体を切断して切断面を観察する際の、切断面での測定領域の位置を示す図。
【図4】図3における切断面の測定領域を模式的に示す図。
【図5】図3における切断面の測定領域において、各々の弁作用金属粒子における粒径と接合径と算出する手順を模式的に示す図。
【図6】比較例の固体電解コンデンサの切断面の測定領域を模式的に示す図。
【図7】一般的な固体電解コンデンサの作製工程を説明するための模式図。図7(a)は多孔質成形体の一部を示す断面図、図7(b)は図7(a)の多孔質成形体を焼結により孔質焼結体とした状態の断面図、図7(c)は図7(b)の各粒子の表面に誘電体皮膜を形成した状態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態について、図1ないし図6に基づいて詳細に説明する。
【0049】
図1は、本発明の実施の形態に係る固体電解コンデンサの陽極体の斜視図である。この陽極体は弁作用金属粒子を加圧成形して多孔質成形体となし、これを焼結して多孔質焼結体11とした後に表面に化成処理を行ったものである。多孔質焼結体11には弁作用金属による金属線であるリード部12が埋設されており、多孔質焼結体11とリード部12とは同一組成の弁作用金属からなる。ここで多孔質焼結体11やリード部12に用いられる弁作用金属としてはTa、Nb、アルミニウム(Al)などが好適であり、とくにTaを用いた場合には静電容量の大きい固体電解コンデンサを作製することが可能である。
【0050】
リード部12は断面が円形の金属線からなり、図の右側において多孔質焼結体11から先端部が突出している。なおリード部12は角を有する断面形状を持たないものであれば、楕円形や長円形など、断面が円形以外のものであっても構わない。リード部12がこのような頂点を有しない断面を持つことにより、特許文献1の場合と同様にリード部12から多孔質焼結体11に加えられる応力を分散させて、リード部12の近傍の多孔質焼結体11において、誘電体皮膜におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0051】
また図1には、多孔質焼結体11の図の左右方向の中央の位置に1箇所の切断面13が記載されているが、この切断面13は化成処理を行って表面に誘電体皮膜を形成した多孔質焼結体11を切断し、その切断面に測定領域を設定して弁作用金属粒子の表面観察を行うためのものである。
【0052】
図2は、図1に示した本発明の実施の形態に係る固体電解コンデンサの完成時について示す断面図である。図において、固体電解コンデンサ素子23は多孔質焼結体を化成処理した陽極体の表面に、固体電解質層、導電体層、電極層の3層を順に設けたものである。ここで固体電解コンデンサ素子23を構成する固体電解質層、導電体層、電極層は一般的な材質、形状のものでよく、固体電解質層としては化学重合により形成した導電性高分子の層が好適に用いられる。なお固体電解質層の構成材料は陽極体の弁作用金属粒子の間の空隙を充填し、コンデンサにおいて誘電体として作用するものであればよく、前記導電性高分子の他に、スラリーポリマー、電解重合により形成した導電性高分子、熱分解により形成した二酸化マンガンなどを用いることができる。また固体電解質層は単一の材料のみで構成する必要はなく、二酸化マンガンと化学重合による導電性高分子との組み合わせや、化学重合による導電性高分子とスラリーポリマーとの組み合わせなどを用いてもよい。
【0053】
また前記固体電解質層の表面に形成される導電体層、電極層のうち、導電体層はグラファイト、電極層は銀ペーストからなる層とすることが好適である。固体電解コンデンサ素子23の図の右側には陽極体からの引き出し電極であるリード部22が設けられ、外部陽極端子である陽極リードフレーム25に接続されている。また固体電解コンデンサ素子23の図の上側には図示しないが陰極をなす電極層が設けられており、同様に外部陰極端子である陰極リードフレーム26に接続されている。さらに固体電解コンデンサ素子23は外装樹脂24により樹脂モールドされており、この外装樹脂24からは陽極リードフレーム25、陰極リードフレーム26の先端部分がそれぞれ外部に露出している。
【0054】
図3は、図1における多孔質焼結体11の切断面13の部分を図示したものであり、本発明の固体電解コンデンサの陽極体を切断してその切断面を観察する際の、切断面に設けられる測定領域の位置を示す図である。図3の場合には、多孔質焼結体31の切断面の中央部に断面が円形であるリード部32があり、また切断面内に10箇所の測定領域A−Jがそれぞれ設けられている。これらの測定領域は多孔質焼結体31の切断面の全体にほぼ均等に位置するように設けられているが、その表面近傍およびリード部32の近傍の領域は除外されている。なお測定領域の観察は破壊検査であるため、固体電解コンデンサの電気特性などを測定する場合は最初に多孔質焼結体31を用いて固体電解コンデンサを作製し、測定の後にそれを切断して切断面を観察している。従って実際には図3の多孔質焼結体31の周囲には固体電解質層、導電体層、電極層や外装樹脂などが存在する。
【0055】
ここで、図3の上下方向の矢印は多孔質成形体を加圧成形する際に加えられる圧力を示しているが、多孔質成形体の表面やリード部32の近傍はこの加圧成形の際にとくに大きな応力が集中する領域であり、このため測定領域の評価結果として極端な値がとくに出やすい領域である。しかしながら、これらの応力が集中する領域の体積の割合は小さく、このためそのような領域の存在が固体電解コンデンサの漏れ電流に与える影響も小さいことが分かっている。従って、測定領域を設定する際には多孔質成形体の表面領域とリード部32の近傍の領域とを除外して、測定領域を多孔質焼結体31の切断面全体に分散させて設け、それらの評価を行うことが適当である。図3の例ではこのような測定領域が切断面全体にA−Jの計10箇所設けられている。
【0056】
発明者らは、各測定領域の画像解析を行って弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値をそれぞれ算出し、それらの値と切断する前に測定した固体電解コンデンサの漏れ電流の値とを比較して、両者の関係について評価した。なお図1の場合のように多孔質焼結体に1箇所の切断面を設け、ここに図3のように測定領域を10箇所設けた場合は、1個の固体電解コンデンサについて計10箇所の測定領域を設けて評価を行うことになる。
【0057】
図4は、本発明の固体電解コンデンサを構成する多孔質焼結体の切断面の測定領域の1つに関して、観察された画像を模式的に示したものである。なお図4に示した固体電解コンデンサは後記実施例1の出発原料、作製方法によるものである。図4の場合は、多孔質成形体を最初に焼結した後にそれより低い温度でさらに3回の焼結を行い、合計4回の焼結を行っている。図4において、斜線部分41が多孔質焼結体の切断された表面の領域であり、白色部分42は空隙の領域である。また両者の境界線が多孔質焼結体の内部での表面であり、そこには化成処理によって誘電体皮膜が形成されている。図の右下のスケールから分かる通り、多孔質焼結体は見かけ上は直径が0.5μm程度またはそれ以下の弁作用金属粒子どうしが互いに接合した構成となっている。なお図4には直径が0.5μmよりもかなり小さな粒子も見られるが、これらの多くは実際にその粒径が小さいのではなく、切断面が粒子の中心から離れた場所を横切っているためであると考えられる。
【0058】
なお図4の画像は、固体電解コンデンサの陽極体の切断面を研磨した上で表面に電極付けを行い、得られた切断面のうち、測定領域として設定した領域を、走査型電子顕微鏡により観察することにより得られたものである。
【0059】
図5は図4と同じ画像であるが、図4の画像をもとに、弁作用金属粒子の粒径と粒子どうしの接合径とを算出する手順について示したものである。図5の中央やや右の領域では、画像内に表示された各々の弁作用金属粒子に対して、その画像内における各々の粒径と、粒子どうしの接合部における接合径の位置と大きさの特定を行っている。その手順の一例は以下の通りである。まず隣り合う弁作用金属粒子どうしの接合部を画像から見いだして、それを接合部位置53として画像内に書き込む。この作業は、主として多孔質焼結体の表面である画像内の前記境界線の凹凸の形状をもとに、粒子どうしの接合部の位置を特定することにより実施している。この接合部の位置の特定は画像解析によって自動化して行うこともできるが、熟練した作業者が画像を見ながら手動で位置決定を行う方が、より正確な結果が得られる傾向にある。
【0060】
こうして画像内で粒子どうしの接合部が特定されると、各々の弁作用金属粒子の領域も特定されるので、画像内の各弁作用金属粒子の占める面積をもとに各々の粒子の粒径を特定することができる。図5では図4の画像内に、その一部ではあるが隣り合う弁作用金属粒子どうしの接合部位置53を直線で書き込むとともに、それにより占める面積を特定された各々の弁作用金属粒子について、円形と仮定した場合の形状である粒子形状54を点線にて記載している。この接合部位置53の直線の長さが粒子どうしの接合部の接合径であり、また粒子形状54の点線の円形の直径が各々の弁作用金属粒子の粒径である。このような特定の作業を図5の画像内の全ての領域に対して実施すればよい。なお、粒子どうしの接合部を特定した後に、その各々弁作用金属粒子による接合径とその粒径を算出する作業は、画像解析によって自動的に行うことが可能である。
【0061】
図6は、本発明の比較例となる固体電解コンデンサに関して、図4の場合と同様の方法によって観察された画像を模式的に示したものである。図6の比較例は、多孔質成形体を最初の1回のみ焼結して多孔質焼結体となし、その後の焼結を行わずに固体電解コンデンサを作製したものである。図4と比較すると、全体として多孔質焼結体の断面である斜線部分61の占める面積がやや狭く、また空隙である白色部分62の面積がやや広くなっている。また多孔質焼結体の表面である画像内の境界線に凹凸が多く、弁作用金属粒子どうしの接合部の特定が比較的容易である。この図6の比較例の場合には、画像解析によると、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値が図4の場合に比べてかなり小さくなっている。また図4の場合と比較すると、固体電解コンデンサの静電容量の値は若干優れている(大きい)ものの、漏れ電流の値はかなり悪い(大きい)結果となっている。
【実施例】
【0062】
以上をもとに、多孔質成形体に実施する焼結の回数を変えた固体電解コンデンサをそれぞれ実施例および比較例として作製し、それらの電気特性を測定した。その後、作製した各々の固体電解コンデンサを切断してその切断面について画像解析を行い、多孔質焼結体の断面に設定した測定領域における、弁作用金属粒子の粒径および粒子どうしの接合径をそれぞれ算出した。以下、固体電解コンデンサの各実施例および比較例における各々の作製方法、評価方法、およびその評価結果について、具体的に説明する。
【0063】
(実施例1)
まず、純度が99.5重量%以上であり、レーザー回折・散乱法により測定した粒径のメジアン値が0.5μmであるTaの粉末を用意した。次いでこの弁作用金属であるTaの粉末を真空中にて昇温することにより造粒した。次いで得られたTa粉末の造粒物を直方体の型に詰め、その内部に一端が突出した状態でTaからなる金属線であるリード部を埋め込み、プレス機を用いて加圧成形を行って多孔質成形体を得た。その後、この多孔質成形体を焼結して多孔質焼結体とした後に化成処理を行い、固体電解コンデンサにおける陽極体を得た。最終的に得られた陽極体は図1に記載の形状のものであり、その寸法は、図1におけるリード部以外の水平方向の長さが4.5mm、リード部に直交する向きの幅が3.6mm、高さが0.9mmである。また図1の右方向に一部が突出したリード部は、断面が直径0.8mmの円形の金属線である。
【0064】
ここでTa粉末の造粒を行ったのは、次工程である加圧成形での作業性を確保するためである。Ta粉末を造粒せずに用いると加圧成形が困難な場合がある。また多孔質成形体への焼結の回数は合計4回とした。焼結時の雰囲気はいずれも真空雰囲気とし、最初の焼結の際の焼結温度は1350℃、2回目ないし4回目の焼結温度はいずれも1300℃とした。焼結にて得られた多孔質焼結体を60℃のリン酸水溶液中に浸し、多孔質焼結体を陽極として15Vに設定維持した電圧を4時間印加して化成処理を行い、陽極体を得た。なおこの際に、印加電圧は10Vないし20Vの範囲で、また電圧の印加時間は3時間ないし4時間の範囲で適時変更しても構わない。この化成処理によって多孔質焼結体を構成する弁作用金属粒子の表面には誘電体皮膜が形成されている。
【0065】
次に、パラトルエンスルホン酸第二鉄および3,4−エチレンジオキシチオフェンを用いて、前記陽極体の誘電体皮膜の表面に固体電解質を充填させて、導電性高分子からなる固体電解質層を形成した。陽極体の内部では、互いに焼結してなる弁作用金属粒子の間に入り組んだ隙間が形成されており、弁作用金属粒子の表面には化成処理によって誘電体皮膜が形成されている。固体電解質層の形成においてはこの隙間の内部に導電性高分子を充填させる必要がある。
【0066】
このため、陽極体をまず水溶媒のパラトルエンスルホン酸第二鉄と3,4−エチレンジオキシチオフェンの混合溶液中に5分間浸積し、引き上げて常温にて乾燥させ、化学重合させることによってその隙間の内部に導電性高分子を充填させた。次いでエタノール溶媒のパラトルエンスルホン酸第二鉄と3,4−エチレンジオキシチオフェンの混合溶液中に30秒間浸積し、引き上げて常温にて乾燥させ、同じく化学重合により陽極体の表面に固体電解質層を形成した。なおエタノール溶媒の前記混合溶液への浸積時間は30秒ないし60秒の範囲で適時変更しても構わない。以上の方法によって陽極体の表面に形成された固体電解質層の膜厚を複数の位置で計測したところ、平均で5μmであった。なおこの膜厚は混合溶液への浸積時間などによって変化し、浸積時間を60秒とした場合には最大で40μm程度となることがある。
【0067】
さらに、前記固体電解質層の表面に、グラファイトペーストおよび銀ペーストをこの順番でそれぞれ塗布し、焼成してグラファイト層および銀電極層をそれぞれ形成して固体電解コンデンサ素子を作製した。ここでグラファイト層および銀電極層は陽極体の表面のうち、外部陰極端子を接続する面にのみ形成している。また形成したグラファイト層、銀電極層の平均の厚さはそれぞれ20μm、50μmであった。なおグラファイト層、銀電極層の厚さはこれより厚くしてもよく、それぞれ40μm、100μm程度まで厚くしても構わない。
【0068】
さらに、作製した固体電解コンデンサ素子のリード部に金属フレームである陽極リードフレームを溶接し、また銀電極層に陰極リードフレームを溶接した。その後固体電解コンデンサ素子を外装樹脂によって樹脂モールドし、陽極、陰極の両リードフレームを金属フレームから切り離してそれぞれ折り曲げて、固体電解コンデンサを作製した。ここで作製した固体電解コンデンサの形状は図2に示すものである。このようにして作製した計5個の固体電解コンデンサを実施例1として、コンデンサとしての初期特性である静電容量、および漏れ電流の値をそれぞれ測定した。なお静電容量は測定周波数120kHzにて計測した値であり、また漏れ電流はまず両極間に直流4Vの電圧を印加して、その状態で1分間経過した後の値を計測した。実施例1の計5個の固体電解コンデンサにおける、静電容量および漏れ電流の値の平均値をそれぞれ表1に示す。
【0069】
以上の方法にて作製した固体電解コンデンサに関して、その陽極体をリード部に垂直な向きに1箇所切断し、その切断面における、多孔質焼結体を形成する弁作用金属粒子どうしの接合状態を評価した。切断の場所は図1における点線の位置であり、多孔質焼結体における図の水平方向の中央の位置である。固体電解コンデンサをこの位置にてダイシングソーにより切断した後、まず研磨紙を用いて切断面に手研磨により荒研磨を行い、次いで日本電子株式会社製の研磨装置であるクロスセクションポリッシャSM−09010を使用して平坦な研磨面を得た。こうして得られた研磨された切断面において、図3のように計10箇所の測定領域A−Jをそれぞれ設定した。そして、これら10箇所の各測定領域を走査型電子顕微鏡にてそれぞれ観察し、得られた画像を解析することにより、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値を算出した。図4は実施例1の場合において、測定領域の1つにおける走査型電子顕微鏡による撮影画像を模式的に示した図である。
【0070】
ここで、走査型電子顕微鏡により画像解析を行った各測定領域はそれぞれ4.2μm×6.0μmの四角形状の領域である。また切断面における10点の測定領域A−Jは前記の通り多孔質焼結体の切断面の全体にほぼ均等に位置するように設けられており、またリード部の近傍はこの領域から除外されている。
【0071】
以上の方法により、1つの固体電解コンデンサあたり10箇所の測定領域を設け、各々の測定領域における切断面の画像をもとに、弁作用金属粒子の粒径および弁作用金属粒子どうしの接合径の算出をそれぞれ行った。これらの一連の作業は画像解析による自動処理と、作業者が手動で弁作用金属粒子どうしの接合部の位置を具体的に指定する作業とを併用することにより実施している。なお接合部の位置を作業者が手動で指定する作業では、図5に示されているように、作業者が接合部の位置を切断面の画像上に直線で書き込んでいる。こうして得られた結果から、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値を、前記第1の方法と第2の方法の2つの方法に基づいてそれぞれ算出した。実施例1の5個の固体電解コンデンサにおける、第1の方法と第2の方法での弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値の平均値、および各測定領域のうち前記比の値が0.5以上となった測定領域数の割合をそれぞれ表1に示す。
【0072】
また実施例1における5個の固体電解コンデンサのうちの1個について、前記静電容量および漏れ電流の値を表2に示す。またこの固体電解コンデンサの測定領域A−Jにおける、第1の方法と第2の方法の各々による、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値をそれぞれ表2に示す。また計10箇所の比の値の平均値、および前記比の値が0.5以上となった測定領域数の割合についても表2に示す。
【0073】
(実施例2、比較例1−2)
実施例1の場合と同様に、純度が99.5重量%以上であり、レーザー回折・散乱法により測定した粒径のメジアン値が0.5μmのTaの粉末を出発原料として多孔質焼結体を形成し、これにより固体電解コンデンサをそれぞれ作製した。実施例1との相違点は、多孔質成形体への2回目以降の焼結の回数のみである。2回目以降の焼結では焼結温度が1300℃、焼結時の雰囲気が真空雰囲気であって、焼結条件は実施例1の場合と同じである。しかし2回目以降の焼結の回数は、実施例2の場合は2回、比較例1の場合は1回、比較例2では0回であり、実施例1の場合の3回よりも少なく設定している。なお各実施例、比較例においてそれぞれ作製した固体電解コンデンサの試料数は各5個である。なお図6は比較例2の場合において、測定領域の1つにおける走査型電子顕微鏡による撮影画像を模式的に示した図である。
【0074】
実施例2および比較例1−2の各5個の固体電解コンデンサにおける、静電容量および漏れ電流の値の平均値をそれぞれ表1に示す。また、第1の方法と第2の方法での、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値の平均値、および各測定領域のうち前記の比の値が0.5以上となった測定領域数の割合をそれぞれ表1に示す。また実施例2、比較例1−2における5個の固体電解コンデンサのうちの1個について、前記実施例1の場合と同様の計測値をそれぞれ表2に示す。ここで測定領域A−Jの位置は図3に示す各々の測定領域の位置に対応している。各測定領域は固体電解コンデンサの表面およびリード部から0.2mmの範囲を除外し、残った領域にほぼ均等となるように配置している。
【0075】
(実施例3−4、比較例3−4)
前記実施例1−2および比較例1−2と同様に、2回目以降の焼結回数を3−0回として各5個の固体電解コンデンサをそれぞれ作製した。1300℃での2回目以降の焼結回数は、それぞれ実施例3の場合が3回、実施例4の場合が2回、比較例3の場合が1回、比較例4の場合が0回である。実施例1−2および比較例1−2との相違は出発原料の粒径のみであり、実施例3−4、比較例3−4ではレーザー回折・散乱法により測定した粒径のメジアン値がいずれも1.0μmの出発原料を用いている。実施例3−4、比較例3−4での各5個の固体電解コンデンサにおける、静電容量および漏れ電流の値の平均値をそれぞれ表1に示す。また、第1の方法と第2の方法での、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値の平均値、および各測定領域のうち前記比の値が0.5以上となった測定領域数の割合をそれぞれ表1に示す。
【0076】
(実施例5−6、比較例5−6)
前記実施例1−2および比較例1−2と同様に、2回目以降の焼結回数を3−0回として各5個の固体電解コンデンサをそれぞれ作製した。1300℃での2回目以降の焼結回数は、それぞれ実施例5の場合が3回、実施例6の場合が2回、比較例5の場合が1回、比較例6の場合が0回である。実施例1−2および比較例1−2との相違は出発原料の粒径のみであり、実施例5−6、比較例5−6ではレーザー回折・散乱法により測定した粒径のメジアン値がいずれも1.5μmの出発原料を用いている。実施例5−6、比較例5−6での各5個の固体電解コンデンサにおける、静電容量および漏れ電流の値の平均値をそれぞれ表1に示す。また、第1の方法と第2の方法での、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値の平均値、および各測定領域のうち前記比の値が0.5以上となった測定領域数の割合をそれぞれ表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
表1では固体電解コンデンサの初期特性のうち、静電容量の値を容量(μF)、漏れ電流の値を電流(μA)としてそれぞれ示した。各実施例、比較例の値は5個の試料における平均値である。表1によると、2回目以降の焼結の回数を増加させるにつれて静電容量の値は次第に低下するものの、その低下量は小さく、1300℃での焼結を3回行った実施例1,3,5の場合でも、300μF前後という比較的大きな値を維持している。一方、漏れ電流の値は焼結回数を重ねるにつれて小さくなり、前記実施例1,3,5の場合には、0.18−0.22μAにまで低下させることができる。ここで2回目以降の焼結を行わない比較例1,3,5が従来の固体電解コンデンサの場合に相当するが、その際の漏れ電流の値が0.97−1.08μAと1μA前後の値であることから、その半分の値である0.5μA以下となった場合に、漏れ電流の値の低減において十分な効果が得られたものと判定した。表1によると実施例1−6の場合には漏れ電流の値がいずれも0.5μA以下であることから、漏れ電流の低減において十分な効果が得られたと判断される。
【0080】
ここで表1によると、実施例1−6の場合には、前記第1の方法、もしくは第2の方法のうち少なくともいずれかにおいて、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値が0.5以上の測定領域数の割合が70%以上となっていることが分かる。なおこの項目は、表1では0.5以上の割合(%)と表記している。表1によると、実施例1,3,5の場合には前記比の値はいずれも100%であるが、実施例2,4,6では、2種類の比の値のうちのいずれか一方が70%を下回る場合がある。しかしその場合にも、第1の方法、第2の方法の両方において70%を下回ることはなく、従って2種類の比の値の両方を判定に用いることで、漏れ電流の値による良否の結果と同じ結果を得ることができる。
【0081】
第2の方法の場合は、前記の通り画像内で他の粒子と全く接合していない粒子の粒径の値による関与を除外することができるため、この点では第1の方法の場合よりも実勢により近い評価結果が得られるとも考えられる。一方で第2の方法によると、多数の粒子と接合部を持つ弁作用金属粒子の粒径が何度もカウントされることとなるため、評価結果に対する一部の粒子の粒径の影響が大きくなるという特徴がある。このため第2の方法が第1の方法よりも必ずしも優れた評価方法であると考えることはできない。表1における実施例、比較例の評価によると、第1の方法、第2の方法のいずれによる評価を行った場合であっても、測定領域数の割合が70%以上の試料においては、固体電解コンデンサの漏れ電流の値が0.5μA以下の良好な値が得られている。
【0082】
ここで2種類の比の値のうちの一方しか判定に用いない場合には、固体電解コンデンサの漏れ電流の値が0.5μA以下と良好な値が得られる場合であっても、判定結果においては不良としてしまうケースが出てくると考えられる。ただしこの場合でも、漏れ電流の値が大きい固体電解コンデンサを誤って良好と判定してしまうことはない。従って多少の歩留まりの低下を容認するならば、第1の方法、第2の方法のいずれか一方のみによって判定を行っても構わない。
【0083】
なお表1においては、弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値に関して、この値が0.5以上となる測定領域数の割合ではなく、単純に全ての測定領域における比の値の平均値(表1では比の値と表記)を用いて判定する方法も考えられる。しかしこの場合には、各測定領域における比の値のばらつきの存在が問題となる。表2に示した各試料における測定領域ごとの値から分かるように、固体電解コンデンサの切断面における比の値にはかなりのばらつきがある。ここで固体電解コンデンサの漏れ電流において問題となるのは前記比の値が0.5未満となる領域が広いかどうかであり、特定の狭い領域において前記比の値が悪化していても、それが漏れ電流の増加には必ずしも繋がらないことが分かっている。従って固体電解コンデンサの正確な評価のためには、前記比の値の平均値ではなく、比の値が0.5未満となる測定領域数の、全測定領域に対する割合による評価の方が好ましいと考えられる。
【0084】
表1の結果から、固体電解コンデンサにおいては、最初の焼結の後で、最初の焼結よりも低い焼結温度によって2回以上の焼結を行うことが好ましいことが分かる。このように合計で3回もしくはそれ以上の焼結を行った固体電解コンデンサにおいては、静電容量の低下を抑えたままで、漏れ電流の値を従来の値の半分(実施例の場合は0.5μA以下)にまで低減することができる。なおこの焼結の回数を増加させることによる漏れ電流の値の低減の効果は、表1の結果によれば、多孔質焼結体の出発原料である弁作用金属粒子の粒径に関わらず得られることが分かる。
【0085】
また、前記の方法により、漏れ電流の値が十分に小さな固体電解コンデンサが得られているかどうかについては、固体電解コンデンサの陽極体を切断して切断面に測定領域を設け、そこでの弁作用金属粒子の粒径に対する接合径の比の値を評価することによって判定することができる。前記比の値が0.5以上となる測定領域の割合が70%以上の場合には、固体電解コンデンサの漏れ電流の値が十分に小さいと判定することが可能である。また、上記説明は、本発明の実施の形態に係る場合の効果について説明するためのものであって、これによって特許請求の範囲に記載の発明を限定し、あるいは請求の範囲を減縮するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0086】
11,31 多孔質焼結体
12,22,32 リード部
13 切断面
23 固体電解コンデンサ素子
24 外装樹脂
25 陽極リードフレーム
26 陰極リードフレーム
41,61 斜線部分
42,62 白色部分
53 接合部位置
54 粒子形状
71 弁作用金属粒子
72 多孔質成形体
73 多孔質焼結体
74 誘電体皮膜
75 クラック
A−J 測定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用を有する金属粉末からなる成形体を焼結して多孔質焼結体となし、前記多孔質焼結体の表面に化成処理を行なって誘電体皮膜を形成し、前記誘電体皮膜の面上に固体電解質層、導電体層、および電極層を順に形成してなり、前記多孔質焼結体は複数の弁作用金属粒子を含み、前記弁作用金属粒子はそれぞれ隣接する弁作用金属粒子と互いに接合されてなる固体電解コンデンサであって、
前記多孔質焼結体に複数の測定領域を分散させて設け、
前記各測定領域において、弁作用金属粒子どうしの接合部における接合径の各測定値におけるメジアン値と、前記弁作用金属粒子の粒径の各測定値におけるメジアン値との比である計測値(接合径のメジアン値/粒径のメジアン値)を測定し、
前記各測定領域のうち70%以上の測定領域において、前記計測値として0.5以上の値が得られることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
弁作用を有する金属粉末からなる成形体を焼結して多孔質焼結体となし、前記多孔質焼結体の表面に化成処理を行なって誘電体皮膜を形成し、前記誘電体皮膜の面上に固体電解質層、導電体層、および電極層を順に形成してなり、前記多孔質焼結体は複数の弁作用金属粒子を含み、前記弁作用金属粒子はそれぞれ隣接する弁作用金属粒子と互いに接合されてなる固体電解コンデンサであって、
前記多孔質焼結体に複数の測定領域を分散させて設け、
前記各測定領域において、弁作用金属粒子どうしの接合部における接合径の測定値と、前記弁作用金属粒子の粒径の測定値との比である(接合径/粒径)の値を接合部ごとに各々測定し、
前記各測定領域のうち70%以上の測定領域において、前記(接合径/粒径)の値の各測定領域でのメジアン値が0.5以上であることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記成形体の焼結において、最初の焼結を行った後に、最初の焼結よりも低い焼結温度でさらに2回の焼結を行ったことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記成形体の焼結において、最初の焼結を行った後に、最初の焼結よりも低い焼結温度でさらに3回もしくはそれ以上の回数の焼結を行ったことを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記弁作用を有する金属粉末がタンタルの金属粉末であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記電極層が銀層であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記成形体の焼結において、最初の焼結を行った後に、最初の焼結よりも低い焼結温度でさらに2回の焼結を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記成形体の焼結において、最初の焼結を行った後に、最初の焼結よりも低い焼結温度でさらに3回もしくはそれ以上の回数の焼結を行うことを特徴とする請求項7に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
弁作用を有する金属粉末からなる成形体を焼結して多孔質焼結体となし、前記多孔質焼結体の表面に化成処理を行なって誘電体皮膜を形成し、前記誘電体皮膜の面上に固体電解質層、導電体層、および電極層を順に形成してなり、前記多孔質焼結体は複数の弁作用金属粒子を含み、前記弁作用金属粒子はそれぞれ隣接する弁作用金属粒子と互いに接合されてなる固体電解コンデンサの評価方法であって、
前記多孔質焼結体に複数の測定領域を設け、
前記各測定領域において、弁作用金属粒子どうしの接合部における接合径の各測定値におけるメジアン値と、前記弁作用金属粒子の粒径の各測定値におけるメジアン値との比である計測値(接合径のメジアン値/粒径のメジアン値)を測定し、
前記各測定領域のうち70%以上の測定領域において、前記計測値として0.5以上の値が得られる場合に良好と判定することを特徴とする固体電解コンデンサの評価方法。
【請求項10】
弁作用を有する金属粉末からなる成形体を焼結して多孔質焼結体となし、前記多孔質焼結体の表面に化成処理を行なって誘電体皮膜を形成し、前記誘電体皮膜の面上に固体電解質層、導電体層、および電極層を順に形成してなり、前記多孔質焼結体は複数の弁作用金属粒子を含み、前記弁作用金属粒子はそれぞれ隣接する弁作用金属粒子と互いに接合されてなる固体電解コンデンサの評価方法であって、
前記多孔質焼結体に複数の測定領域を設け、
前記各測定領域において、弁作用金属粒子どうしの接合部における接合径の測定値と、前記弁作用金属粒子の粒径の測定値との比である(接合径/粒径)の値を接合部ごとに各々測定し、
前記各測定領域のうち70%以上の測定領域において、前記(接合径/粒径)の各々の値のメジアン値として0.5以上の値が得られる場合に良好と判定することを特徴とする固体電解コンデンサの評価方法。
【請求項11】
前記弁作用を有する金属粉末がタンタルの金属粉末であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の固体電解コンデンサの評価方法。
【請求項12】
前記電極層が銀層であることを特徴とする請求項9ないし11のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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