説明

固体電解コンデンサ及びその製造方法

【課題】 インピーダンスの低い固体電解コンデンサを提供する。また、インピーダンスの低い固体電解コンデンサを簡便に製造できる固体電解コンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の固体電解コンデンサ10は、弁金属の多孔質体からなる陽極11と、陽極11の表面が酸化されて形成された誘電体層12と、誘電体層12上に配置され、π共役系導電性高分子を含む固体電解質層13aを誘電体層12側に備えた陰極13とを有し、少なくとも誘電体層12の陰極13側表面に、電子供与性元素を含む電子供与性化合物が塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどの固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器のデジタル化に伴い、電子機器に用いられるコンデンサは高周波領域におけるインピーダンス(ESR)を低下させることが要求されている。従来から、この要求に対応すべく、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属の酸化皮膜を誘電体とし、この表面に、ポリピロールやポリチオフェンなどのπ共役系導電性高分子を形成して陰極とした固体電解コンデンサが使用されている。
【0003】
この固体電解コンデンサの構造は、特許文献1に示されるように、弁金属多孔質体からなる陽極と、陽極の表面を酸化して形成した誘電体層と、誘電体層に固体電解質層、カーボン層、銀層を積層した陰極とを有するものが一般的である。固体電解コンデンサの固体電解質層には、ピロール、チオフェンなどのπ共役系導電性高分子が用いられている。
π共役系導電性高分子の形成法としては、電解重合法(特許文献2参照)と化学酸化重合法(特許文献3参照)とが広く知られている。
しかし、電解重合法では、陽極表面にマンガン酸化物からなる導電層を誘電体層上にあらかじめ形成しておく必要があり、非常に煩雑である上に、マンガン酸化物は導電性が低く、高導電性のπ共役系導電性高分子を使用する効果が薄れるという問題があった。
一方、化学酸化重合法では、重合時間が長く、また、厚みを確保するために繰り返し重合しなければならず、固体電解コンデンサの生産効率が低かった上に、導電性も低かった。
【0004】
このように、電解重合法、化学酸化重合法をコンデンサ製造工程内で行うことは、煩雑で、困難である。そこで、特許文献4では、スルホ基、カルボキシ基等を持つポリアニオンを共存させながらアニリンを重合して得たポリアニリン溶液を塗布、乾燥することにより、固体電解質層を形成することが提案されている。
【特許文献1】特開2003−37024号公報
【特許文献2】特開昭63−158829号公報
【特許文献3】特開昭63−173313号公報
【特許文献4】特開平7−105718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献4に記載の方法では、ポリアニリン溶液の弁金属多孔質体内部への浸透性が低いため、上記電解重合法や化学酸化重合法と同等のインピーダンスを得ることが困難であった。
本発明は、インピーダンスの低い固体電解コンデンサを提供することを目的とする。また、インピーダンスの低い固体電解コンデンサを簡便に製造できる固体電解コンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の固体電解コンデンサは、弁金属の多孔質体からなる陽極と、該陽極の表面が酸化されて形成された誘電体層と、該誘電体層上に配置され、π共役系導電性高分子を含む固体電解質層を誘電体層側に備えた陰極とを有する固体電解コンデンサにおいて、
少なくとも誘電体層の陰極側表面に、電子供与性元素を含む電子供与性化合物が塗布されていることを特徴とする。
本発明の固体電解コンデンサにおいては、電子供与性化合物の電子供与性元素が、窒素、酸素、硫黄、燐から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
または、電子供与性化合物が、ピロール類、チオフェン類、フラン類から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
または、電子供与性化合物がアミン類であることも好ましい。
【0007】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する工程と、
該誘電体層の表面に、電子供与性元素を含む電子供与性化合物を塗布する工程と、
少なくとも電子供与性化合物が塗布された誘電体層表面上に、π共役系導電性高分子を含む固体電解質層を形成する工程とを有することを特徴とする。
本発明の固体電解コンデンサの製造方法においては、固体電解質層を形成するに際し、π共役系導電性高分子を含む導電性高分子溶液を塗布することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の固体電解コンデンサは、インピーダンスが低いものである。
また、本発明の固体電解コンデンサの製造方法によれば、インピーダンスの低い固体電解コンデンサを簡便に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の固体電解コンデンサ(以下、コンデンサと略す。)の一実施形態例について説明する。
図1は、本実施形態例のコンデンサの構成を示す図である。このコンデンサ10は、弁金属の多孔質体からなる陽極11と、陽極11の表面が酸化されて形成された誘電体層12と、誘電体層12上に配置された陰極13とを有して概略構成されている。
【0010】
<陽極>
陽極11をなす弁金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモンなどが挙げられる。これらのうち、アルミニウム、タンタル、ニオブが好適である。
陽極11の具体例としては、アルミニウム箔をエッチングして表面積を増加させた後、その表面を酸化処理したものや、タンタル粒子やニオブ粒子の焼結体表面を酸化処理してペレットにしたものが挙げられる。このように処理されたものは表面に凹凸が形成されている。
【0011】
<誘電体層>
誘電体層12は、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液などの電解液中にて、陽極11の表面を陽極酸化することで形成されたものである。よって、図1に示すように、陽極11と同様に誘電体層12の表面にも凹凸が形成されている。
【0012】
<陰極>
陰極13は、固体電解質層13aと、固体電解質層13a上に形成されたカーボン、銀、アルミニウムなどの陰極導電層13bとを備えるものであり、固体電解質層13aは、π共役系導電性高分子を含む層であり、誘電体層12側に備えられている。
陰極導電層13bがカーボン、銀等で構成される場合には、例えば、カーボン、銀等の導電体を含む導電性ペーストから形成することができる。また、陰極導電層13bがアルミニウムで構成される場合には、例えば、アルミニウム箔から形成することができる。
また、固体電解質層13aと陽極11との間には、必要に応じて、セパレータを設けることができる。
【0013】
[π共役系導電性高分子]
π共役系導電性高分子は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば使用できる。例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。
【0014】
このようなπ共役系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)から選ばれる1種又は2種からなる(共)重合体が抵抗値、反応性の点から好適に用いられる。さらには、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、導電性がより高い上に、耐熱性が向上する点から、より好ましい。
また、置換基に炭素数6以上のアルキル基を有するものは、後述するポリアニオンを用いることなく溶剤溶解性を付与することができる点で、好ましい。また、置換基としてアニオン基を分子内に持つπ共役系導電性高分子はそのもの自体が水に溶解する点で好ましい。
【0016】
上記π共役系導電性高分子は、溶媒中、π共役系導電性高分子の前駆体モノマーを、酸化剤又は酸化重合触媒の存在下で化学酸化重合することによって容易に得ることができる。
その際、π共役系導電性高分子の前駆体モノマーとしては、ピロール類及びその誘導体、チオフェン類及びその誘導体、アニリン類及びその誘導体等を使用することができる。
酸化剤としては、ぺルオキソ二硫酸アンモニウム、ぺルオキソ二硫酸ナトリウム、ぺルオキソ二硫酸カリウム等のぺルオキソ二硫酸塩、塩化第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物、酸化銀、酸化セシウム等の金属酸化物、過酸化水素、オゾン等の過酸化物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、酸素、三フッ化ホウ素等が使用できる。
【0017】
化学酸化重合を行う際に用いる溶媒としては、特に制限されるものではなく、前記前駆体モノマー、酸化剤又は酸化重合触媒を溶解又は分散しうる溶媒であればよい。例えば、水、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド等の極性溶媒、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類、ギ酸、酢酸等のカルボン酸、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどの鎖状エーテル類、3−メチル−2−オキサゾリジノンなどの複素環化合物、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、適宜、単独で用いてもよいし、2種以上の混合物としてもよいし、他の有機溶媒との混合物としてもよい。
【0018】
上記コンデンサ10においては、誘電体層12の陰極13側表面に、電子供与性元素を含む電子供与性化合物が塗布されている。したがって、誘電体層12の陰極13側表面に電子供与性化合物が付着している。
【0019】
[電子供与性化合物]
本発明における電子供与性化合物とは、電子供与性元素を含む化合物のことであって、重合体ではない化合物のことである。
電子供与性化合物に含まれる電子供与性元素としては、誘電体層と、π共役導電性高分子を含む陰極との電気的親和性がより高くなることから、周期律表第15属、第16属の元素のうち、窒素、酸素、燐、硫黄から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0020】
窒素を含む電子供与性化合物としては、誘電体層と陰極との電気的親和性がより高くなることから、1級アミン、2級アミン、3級アミンなどのアミン類が好ましい。アミン類としては、具体的には、エチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリエチルアミンのような脂肪族アミン、アニリン、ベンジルアミン、ピロール、イミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジンのような芳香族アミンもしくはこれらの誘導体が挙げられる。
【0021】
酸素を含む電子供与性化合物としては、例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類が挙げられ、具体的には、ラウリルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジフェニルエーテル、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、イソホロン、フラン及びその誘導体などが挙げられる。
【0022】
燐を含む電子供与性化合物としては、例えば、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、ホスホン酸類、アルキルホスフィン類、アルキルホスホニウム塩類などが挙げられ、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、ホスホン酸ジメチル、ホスホン酸ジエチル、トリエチルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィンオキサイド、テトラエチルホスホニウムブロミド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロミドなどが挙げられる。
【0023】
硫黄を含む電子供与性化合物としては、例えば、サルファイド類、チオール類、イソチオシアネート類、チオフェン及びその誘導体などが挙げられ、具体的には、ジメチルサルファイド、ジエチルサルファイド、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、フェニルイソチオシアネート、n−ブチルイソチオシアネート、チオフェン、3−メチルチオフェンなどが挙げられる。
【0024】
これら電子供与性化合物の中でも、誘電体層に残存しても等価直列抵抗の低下を防止できることから、芳香環の中に窒素又は酸素又は硫黄を含む化合物が好ましい。芳香環の中に窒素を含む化合物としては、ピロールやその誘導体(ピロール類)、イミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジンやその誘導体などが挙げられ、芳香環の中に酸素を含む化合物としては、フランやその誘導体(フラン類)などが挙げられ、芳香環の中に硫黄を含む化合物としては、チオフェンやその誘導体(チオフェン類)が挙げられる。中でも、誘電体層と陰極との電気的親和性がより高くなることから、ピロール類、チオフェン類、フラン類から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0025】
芳香環中に窒素、酸素、硫黄を含む電子供与性化合物では、窒素原子、酸素原子、硫黄原子に非共有電子対が存在しているため、これらの原子上に置換基又はプロトンが配位又は結合されやすい。窒素原子、酸素原子、硫黄原子上に置換基又はプロトンが配位又は結合された場合には、これらの原子上にカチオン電荷を帯びる傾向がある。また、窒素原子、酸素原子、硫黄原子と他の原子とは共役関係を有しているため、これらの原子上に置換基又はプロトンが配位又は結合されたことによって生じたカチオン電荷は芳香環中に拡散されて、安定した形で存在するようになる。
このようなことから、上記のような芳香環中に窒素、酸素、硫黄を含む電子供与性化合物は、窒素、酸素、硫黄原子に置換基が導入されてカチオンを形成していてもよい。さらに、そのカチオンとアニオンとが組み合わされて塩が形成されていてもよい。塩であっても、カチオンでない電子供与性化合物と同様の効果を発揮する。
【0026】
以上説明したコンデンサは、誘電体層表面に電子供与性化合物が塗布されており、誘電体層表面の電荷が中和されているため、該誘電体層と、π共役系導電性高分子を含む固体電解質層との電気的親和性が高くなっている。その結果、誘電体層と陰極との界面の抵抗が小さくなっているため、コンデンサのインピーダンスが低いとともに、容量が高い。
【0027】
(コンデンサの製造方法)
次に、本発明のコンデンサの製造方法の一実施形態例に付いて説明する。
本実施形態例のコンデンサの製造方法は、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する工程と、該誘電体層の表面に電子供与性化合物を塗布する工程と、電子供与性化合物が塗布された誘電体層表面に、π共役系導電性高分子を含む層(固体電解質層)を形成する工程と、固体電解質層上に陰極導電層を設けて陰極を形成する工程とを有する方法である。
【0028】
このコンデンサの製造方法において、陽極表面を酸化する方法としては、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液などの電解液中にて、陽極表面を陽極酸化する方法が挙げられる。
【0029】
誘電体層表面に電子供与性化合物を塗布する方法としては、コーティング、浸漬、スプレーなどの公知の塗布方法を採ることができる。電子供与性化合物が固体である場合には、電子供与性化合物を溶媒で溶解した溶液を塗布すればよい。その場合、塗布後、乾燥して溶媒を除去することが好ましい。また、液体の電子供与性化合物を希釈した場合にも溶媒を除去することが好ましい。
電子供与性化合物を含む溶液の濃度は特に限定されないが、薄すぎると効果が発現しにくく、濃すぎると塗布しにくくなったり、ESRが低下したりする恐れがあるので、1〜80質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましい。
【0030】
π共役系導電性高分子を含む層を形成するには、簡便である上に誘電体層と陰極との電気的親和性をより向上させやすいことから、誘電体層表面に、π共役系導電性高分子を溶媒に溶解した導電性高分子溶液を塗布する方法が好ましい。また、誘電体層上で、π共役系導電性高分子を構成する前駆体モノマーを化学酸化重合や電解重合を直接行うことによって形成しても構わない。
【0031】
導電性高分子溶液は、ポリアニオン存在下でπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーを重合することにより得られる。または、溶媒溶解性を有するπ共役系導電性高分子を溶媒に溶解することにより得られる。
ポリアニオン存在下でπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーを重合して導電性高分子溶液を調製する方法の具体例としては、まず、ポリアニオンを、これを溶解可能な溶媒に溶解し、これにより得られた溶液に、π共役系導電性高分子の前駆体モノマーを添加する。次いで、酸化剤を添加して前駆体モノマーを重合させ、その後、余剰の酸化剤や前駆体モノマーを分離、精製して導電性高分子溶液を得る。
【0032】
ここで用いられるポリアニオンとしては、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルから選ばれ、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマーであっても、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーであってもよい。
なお、ポリアニオンは、π共役系導電性高分子を溶媒に可溶化させるだけでなく、π共役系導電性高分子のドーパントしても機能する。
【0033】
ここで、ポリアルキレンとは、主鎖がメチレンの繰り返しで構成されているポリマーである。ポリアルケニレンとしては、主鎖にビニル基が1個含まれる構成単位からなるポリマーを挙げることができ、不飽和結合と導電性高分子化合物との相互作用があること、置換若しくは未置換のブタジエンを出発物質として合成しやすいことから、置換若しくは未置換のブテニレン等を例示できる。
ポリイミドとしては、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2,3,3−テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、2,2−[4,4’−ジ(ジカルボキシフェニルオキシ)フェニル]プロパン二無水物等の酸無水物と、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン等のジアミンとからのポリイミドを例示できる。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6, 10等を例示できる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を例示できる。
【0034】
ポリアニオンを構成するポリマーが有する置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、フェニル基、フェノール基、エステル基、アルコキシ基、カルボニル基等が挙げられる。アルキル基は、極性溶媒又は非極性溶媒への溶解性及び分散性、樹脂への相溶性及び分散性等を高くすることができ、ヒドロキシ基は、他の水素原子等との水素結合を形成しやすくでき、有機溶媒への溶解性、樹脂への相溶性、分散性、接着性を高くすることができる。また、シアノ基及びヒドロキシフェニル基は、極性樹脂への相溶性、溶解性を高くすることができ、しかも、耐熱性も高くすることができる。上記置換基の中ではアルキル基、ヒドロキシ基、エステル基、シアノ基が好ましい。
【0035】
アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、へキシル、オクチル、デシル、ドデシル等のアルキル基と、シクロプロピル、シクロペンチル及びシクロヘキシル等のシクロアルキル基が挙げられる。有機溶剤への溶解性、樹脂への分散性、立体障害等を考慮すると、炭素数1〜12のアルキル基がより好ましい。
ヒドロキシ基としては、ポリアニオンの主鎖に直接結合したヒドロキシ基、ポリアニオンの主鎖に結合した炭素数1〜7のアルキル基の末端に結合したヒドロキシ基、ポリアニオンの主鎖に結合した炭素数2〜7のアルケニル基の末端に結合したヒドロキシ基等が挙げられる。これらの中では樹脂への相溶及び有機溶剤への溶解性から、主鎖に結合した炭素数1〜6のアルキル基の末端に結合したヒドロキシ基がより好ましい。
エステル基としては、ポリアニオンの主鎖に直接結合したアルキル系エステル基、芳香族系エステル基、他の官能基を介在してなるアルキル系エステル基又は芳香族系エステル基を挙げることができる。
シアノ基としては、ポリアニオンの主鎖に直接結合したシアノ基、ポリアニオンの主鎖に結合した炭素数1〜7のアルキル基の末端に結合したシアノ基、ポリアニオンの主鎖に結合した炭素数2〜7のアルケニル基の末端に結合したシアノ基等を挙げることができる。
【0036】
ポリアニオンにおけるアニオン基としては、π共役導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であればよいが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等が好ましい。さらに、官能基の導電性高分子化合物へのドープ効果の観点より、スルホン酸基及び一置換硫酸エステル基がより好ましい。
ポリアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。
これらのうち、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸は、熱エネルギーを吸収して自ら分解することにより、導電性高分子成分の熱分解が緩和されるため、耐熱性、耐環境性に優れ、さらに、エステル基を有することから、バインダー樹脂との相溶性、分散性に優れるので、特に好ましい。
【0037】
導電性高分子溶液には、π共役系導電性高分子の導電性を向上させるために、ポリアニオン以外のドーパントを添加してもよい。通常、ドーパントとしてはハロゲン化合物、ルイス酸、プロトン酸などが用いられ、具体的には、例えば、有機カルボン酸、有機スルホン酸等の有機酸、有機シアノ化合物、フラーレン、水素化フラーレン、水酸化フラーレン、カルボン酸化フラーレン、スルホン酸化フラーレンなどが挙げられる。
【0038】
有機酸としては、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン重縮合物、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、ジナフチルメタンジスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸、アントラセンスルホン酸、ピレンスルホン酸などが挙げられる。また、これらの金属塩も使用できる。
有機シアノ化合物としては、共役結合に二つ以上のシアノ基を含む化合物が使用できる。例えば、テトラシアノエチレン、テトラシアノエチレンオキサイド、テトラシアノベンゼン、ジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノアザナフタレン等が挙げられる。
【0039】
π共役系導電性高分子とドーパントとの割合は、モル比としてπ共役系導電性高分子:ドーパントが97:3〜10:90であることが好ましい。ドーパントがこれより多くても少なくても導電性が低下する傾向にある。
【0040】
導電性高分子溶液に使用できる溶媒としては特に限定されず、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール系溶媒、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド系溶媒、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル系溶媒、トルエン、キシレン、水などが挙げられ、これらを単独で使用してもよいし混合して使用してもよい。中でも、近年の環境保護の観点から、環境負荷の小さい水やアルコール系溶媒が好ましい。
【0041】
上記導電性高分子溶液を塗布する方法としては、例えば、コーティング、浸漬、スプレーなどの公知の手法が挙げられる。また、溶媒を除去するための乾燥方法としては、熱風乾燥など公知の手法が挙げられる。
【0042】
固体電解質層を形成した後には、必要に応じて電解液を浸透させ、次いで、カーボンペースト、銀ペーストを塗布して陰極導電層を形成する方法や、セパレータを介してアルミニウム箔などの陰極導電層を配置する公知の手法により陰極を形成して、コンデンサを得ることができる。
セパレータを用いる場合には、セパレータとして、例えば、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの単一又は混合不織布、これらを炭化した炭化不織布などが用いられる。
【0043】
上述したコンデンサの製造方法では、誘電体層表面に電子供与性化合物を塗布することにより、誘電体層と固体電解質層との電気的親和性を向上させることができ、コンデンサのインピーダンスを低くすることができる。しかも、電子供与性化合物の塗布は簡便である。したがって、上述したコンデンサの製造方法は、インピーダンスの低いコンデンサを簡便に製造できる。
さらに、この製造方法により得られたコンデンサは、容量が高く、耐熱性にも優れる。
【0044】
なお、本発明は、上述した実施形態例に限定されない。上述した実施形態例では、電子供与性化合物を誘電体層の表面に塗布し、固体電解質層を形成した後、導電陰極層を設けて陰極を形成してコンデンサを得たが、本発明では、陰極導電層を設けるタイミングは限定されない。例えば、陰極導電層を誘電体層に対向するように配置した後に、誘電体層の表面に電子供与性化合物を塗布し、次いで、固体電解質層を形成してもよい。その場合、陰極導電層と誘電体層との間に、セパレータを配置することが好ましい。
また、電子供与性化合物は誘電体層表面のみならず、陰極導電層の誘電体層側の表面、セパレータにも塗布されていても構わない。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
(実施例1)
(1)導電性高分子溶液の調製
14.2g(0.1mol)の3,4−エチレンジオキシチオフェンと、27.5g(0.15mol)のポリスチレンスルホン酸(分子量;約150,000)を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤を除去して約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含む導電性高分子溶液を得た。
(2)電子供与性化合物溶液の調製
蒸留水100mlに7.79gのイミダゾールを溶解させて電子供与性化合物溶液を得た。
【0046】
(3)コンデンサの製造
エッチドアルミニウム箔に陽極リード端子を接続した後、アジピン酸アンモニウム10質量%水溶液中で化成(酸化処理)して、アルミニウム箔表面に誘電体層を形成して陽極箔を得た。
次に、この陽極箔と、陰極リード端子を溶接させた対向アルミ陰極箔との間に、セルロール製のセパレータを挟み、円筒状に巻き取ってコンデンサ素子を得た。
次いで、(2)で調製した電子供与性化合物溶液にコンデンサ素子を、減圧下で浸漬した後、120℃の熱風乾燥機で2分間乾燥し、続いて、(1)で調製した導電性高分子溶液にコンデンサ素子を減圧下で浸漬した後、150℃の熱風乾燥機で10分間乾燥した。そして、導電性高分子溶液への浸漬を5回繰り返して、誘電体層表面にπ共役系導電性高分子を含む固体電解質層を形成させた。
次いで、アルミニウム製のケースに、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を装填し、封口ゴムで封止して、コンデンサを作製した。
作製したコンデンサについて、LCZメータ2353(エヌエフ回路設計ブロック社製)を用いて、120Hzでの静電容量、100kHzでの等価直列抵抗(ESR)の初期値、125℃、1000時間後のESRを測定した。それらの結果を表1に示す。なお、ESRはインピーダンスの指標となる。
【0047】
【表1】

【0048】
(実施例2)
電子供与性化合物溶液として、蒸留水100mlに7.79gのイミダゾールを溶解させた溶液の代わりに、メチルエチルケトン100mlに10gのピロールを溶解させて得た溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にしてコンデンサを得た。そして、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0049】
(比較例1)
実施例1のコンデンサの作製において、電子供与性化合物溶液にコンデンサ素子を浸漬しなかったこと以外は実施例1と同様にしてコンデンサを作製した。そして、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0050】
誘電体層表面に電子供与性化合物を塗布した実施例1,2のコンデンサは、静電容量が高く、ESRが低かった(インピーダンスが低かった)。しかも、加熱後のESRの低下が防止されており、耐熱性にも優れていた。
これに対し、誘電体層表面に電子供与性化合物を塗布しなかった比較例1のコンデンサは、静電容量が低く、ESRが高かった(インピーダンスが高かった)。また、加熱後、ESRが大幅に上昇しており、耐熱性が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の固体電解コンデンサにおける一実施形態例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
10 コンデンサ(固体電解コンデンサ)
11 陽極
12 誘電体層
13 陰極
13a 固体電解質層(π共役系導電性高分子を含む層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁金属の多孔質体からなる陽極と、該陽極の表面が酸化されて形成された誘電体層と、該誘電体層上に配置され、π共役系導電性高分子を含む固体電解質層を誘電体層側に備えた陰極とを有する固体電解コンデンサにおいて、
少なくとも誘電体層の陰極側表面に、電子供与性元素を含む電子供与性化合物が塗布されていることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
電子供与性化合物の電子供与性元素が、窒素、酸素、硫黄、燐から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
電子供与性化合物が、ピロール類、チオフェン類、フラン類から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
電子供与性化合物がアミン類であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する工程と、
少なくとも該誘電体層の表面に、電子供与性元素を含む電子供与性化合物を塗布する工程と、
電子供与性化合物が塗布された誘電体層表面上に、π共役系導電性高分子を含む固体電解質層を形成する工程とを有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
固体電解質層を形成するに際し、π共役系導電性高分子を含む導電性高分子溶液を塗布することを特徴とする請求項5に記載の固体電解コンデンサの製造方法。




【図1】
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【公開番号】特開2006−278794(P2006−278794A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96599(P2005−96599)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)