説明

固体電解コンデンサ及びその製造方法

【課題】静電容量、等価直列抵抗等の電気特性に優れ、かつ、漏れ電流が小さく、高耐電圧を有する、優れた固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属上に、アルキル置換基を有するエチレンジオキシチオフェン誘導体に代表されるチオフェン誘導体と、3位及び4位がアルコキシ基で置換されたチオフェン誘導体とを少なくとも含有する重合性モノマーの重合体が、固体電解質層として形成されてなる固体電解コンデンサ。好ましくは、前記重合性モノマーを化学酸化重合によって形成する固体電解コンデンサの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサに関し、より詳しくは、弁作用金属上に形成された導電性高分子層からなる固体電解質層を有し、電気特性に優れた固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサの固体電解質形成用材料としては、二酸化マンガン等に代表される無機導電性材料や、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体等の有機導電性材料が知られている。
さらに、それらの材料より電気伝導性に優れる導電性高分子材料を固体電解質として用いた固体電解コンデンサが広く実用化されている。
【0003】
この導電性高分子材料においては、3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、「EDOT」と略記する。)をモノマーとして重合した導電性高分子が広く知られている。
このEDOTは、重合の反応速度が比較的穏やかであり、多孔性の陽極との密着性に優れた導電性高分子層を形成できるため、固体電解コンデンサの固体電解質層形成材料として有用である。
【0004】
しかし、近年の電子機器は、より省電力化、高周波数化への対応を求められており、それら電子機器に用いられる固体電解コンデンサにおいても、小型大容量化あるいは低等価直列抵抗(以下、「ESR」と略記する。)化等のさらなる特性向上が求められている。
固体電解コンデンサの電気特性は、用いる固体電解質形成材料種や形成方法に大きく依存するが、従来公知である3,4−エチレンジオキシチオフェンを凌駕する優れた導電性高分子モノマーの開発や、固体電解質層の新規な形成方法に期待が持たれている。
【0005】
このような背景の中、特許文献1には、3−アルキル−4−アルコキシチオフェンの重合体を固体電解質とする固体電解コンデンサが開示されており、該重合体を用いることによって、高周波領域でも優れた電気特性を有する固体電解コンデンサが得られることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、アルコキシ基で置換された部位を有するアルキレンジオキシチオフェン誘導体ポリマーを固体電解質とする固体電解コンデンサが開示されている。
該ポリマーを採用することにより、ポリマー中に残留する重合用酸化剤の結晶化を抑制でき、得られる固体電解コンデンサの漏れ電流を低減できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−332453号公報
【特許文献2】特開2004−096098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記文献に開示されている重合体をもってしてもなお十分な電気特性を得ることが困難であり、さらなる固体電解コンデンサの電気特性の向上が要望されている。
【0009】
本発明の目的は、静電容量、等価直列抵抗等の電気特性に優れ、かつ、漏れ電流が小さく、高耐電圧を有する、優れた固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は鋭意検討した結果、下記一般式〔1〕で示される少なくとも1つの化合物中に下記一般式〔2〕で示される化合物を含む重合性モノマーの重合体が固体電解質層として弁作用金属上に形成された固体電解コンデンサが上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下に示すものである。
【0011】
第1の発明は、
下記一般式〔1〕、
【0012】
【化1】

【0013】
〔1〕式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。Zは、それぞれ同一でも異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。
からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物と、
下記一般式〔2〕、
【0014】
【化2】

【0015】
〔2〕式中、R2、R3は互いに同じであっても異なっていてもよい炭素数1〜5の鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又はアリール基を表す。
からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物と、
を含む重合性モノマーの重合体が固体電解質層として弁作用金属上に形成されていることを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0016】
第2の発明は、
上記〔2〕式で示される化合物が、3,4−ジメトキシチオフェンであることを特徴とする第1の発明に記載の固体電解コンデンサである。
【0017】
第3の発明は、
上記〔1〕式で示される化合物が、
2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−メチル−EDOT)、2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)、2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)及び2−イソプロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−イソプロピル−EDOT)からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする第1又は第2の発明に記載の固体電解コンデンサである。
【0018】
第4の発明は、
誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に導電性高分子からなる固体電解質層を具備した固体電解コンデンサの製造方法において、
下記一般式〔1〕及び下記一般式〔2〕で示される化合物を含む重合性モノマーの溶液と、ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を、
液相にて接触させることにより化学酸化重合し、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に重合体を形成する工程を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0019】
【化3】

【0020】
〔1〕式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。Zは、それぞれ同一でも異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0021】
【化4】

【0022】
〔2〕式中、R2、R3は互いに同じであっても異なっていてもよい炭素数1〜5の鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又はアリール基を表す。
【0023】
第5の発明は、
上記重合性モノマー中に、
上記〔1〕式で示される化合物が99.00〜99.95重量%、
上記〔2〕式で示される化合物が0.05〜1.00重量%、
含まれていることを特徴とする第4の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0024】
第6の発明は、
上記ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液が、
有機スルホン酸第二鉄塩が20〜70重量%の範囲で有機溶媒中に溶解された溶液であることを特徴とする第4又は第5の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、静電容量が高く、低ESRであり、かつ、漏れ電流が著しく小さく、極めて高い耐電圧を示す固体電解コンデンサを得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、下記一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物中に下記一般式〔2〕で示される化合物を含む重合性モノマーの重合体が、弁作用金属上に形成されたことを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0027】
【化5】

【0028】
上式中、R1は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。Zはそれぞれ同一でも異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0029】
ここで炭素数が1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、1−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、ネオペンチル基などが挙げられ、さらに好ましくは重合性の面から、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基である。
【0030】
また、Zは得られる重合体の導電性の面から両方とも酸素原子であるものが好ましい。
【0031】
上記一般式〔1〕により表される化合物として
2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−メチル−EDOT)、
2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−エチル−EDOT)、
2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−プロピル−EDOT)、
2−イソプロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−イソプロピル−EDOT)、
2-メチル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2-エチル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2-プロピル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2-イソプロピル−3,4−エチレンジチアチオフェンが挙げられ、
この中でも特に好ましいものは、具体的に、
2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−メチル−EDOT)、
2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−エチル−EDOT)、
2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−プロピル−EDOT)、
2−イソプロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−イソプロピル−EDOT)、
が挙げられる。
【0032】
【化6】

【0033】
上記〔2〕式中、R、Rはそれぞれ同一であっても異なっていても良い、アルキル基、アリール基を示す。
【0034】
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、1−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、ネオペンチル基が挙げられる。
上記アリール基としては、フェニル基、o−メチルフェニル基、m−メチルフェニル基、p−メチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,3,4−トリメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,4,5−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,3,4,5−テトラメチルフェニル基、2,3,4,6−テトラメチルフェニル基、2,3,5,6−テトラメチルフェニル基、2,4,5,6−テトラメチルフェニル基、3,4,5,6−テトラメチルフェニル基、ペンタメチルフェニル基、o−エチルフェニル基、m−エチルフェニル基、p−エチルフェニル基、2,3−ジエチルフェニル基、2,4−ジエチルフェニル基、2,5−ジエチルフェニル基、2,6−ジエチルフェニル基、3,4−ジエチルフェニル基、3,5−ジエチルフェニル基、2,4,6−トリエチルフェニル基、p−nプロピルフェニル基、p−イソプロピルフェニル基、p−tブチルフェニル基、2,6ジメチル−4−t−ブチルフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、ベンジル基、p−メチルベンジル基、p−エチルベンジル基、p−イソプロピルベンジル基が挙げられる。
【0035】
上記一般式〔2〕により表される化合物として好ましいものは、具体的に、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3−エトキシ−4−メトキシチオフェンからなる群から選ばれる少なくとも1つのジアルコキシチオフェンが挙げられ、最も好ましくは、3,4−ジメトキシチオフェンである。
【0036】
本発明の固体電解コンデンサは、
上記重合性モノマーの重合体が固体電解質層として弁作用金属上に形成されていることを特徴としている。
本発明に用いる重合性モノマーは、公知の導電性高分子モノマーであるEDOTと比較して重合速度が遅延されている。
すなわち、EDOTより重合速度が緩和であるにも関わらず、重合して高導電性の導電性高分子を生成し、多孔質で複雑な形状を有している弁作用金属の孔奥深くまで浸透して重合することが可能となる。
さらに、化学式〔1〕で示される化合物中に、化学式〔2〕で示される化合物が所定量含有されていることによって、特に低漏れ電流特性を示し、高耐電圧を有する固体電解コンデンサが得られることが見出された。
【0037】
上記一般式〔1〕で示される化合物を99.00〜99.95重量%含む化合物中に上記一般式〔2〕で示される化合物を0.05〜1.00重量%含むもの、より好ましくは0.05〜0.50重量%含むものを重合性モノマーとして使用し、重合してなる重合体を適用するとさらに優れた特性を発現する。
よって、本発明に用いられる重合性モノマーの重合体は、特に、固体電解コンデンサの固体電解質に適した導電性高分子材料となることが明らかとなった。
【0038】
次に、本発明の固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、一般式〔1〕で示される化合物及び一般式〔2〕で示される化合物を含む重合性モノマー液と、ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を用い、
弁作用金属上に、該重合性モノマーの重合体を形成する工程を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0039】
弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、チタン、ニオブ又はこれらの合金を用いることができ、より好ましくは、アルミニウム、タンタル、ニオブが挙げられる。
これら弁作用金属の形態は、金属箔、あるいはこれらを主成分とする粉末の焼結体等のものが好適に使用できる。
【0040】
上記重合体を形成する工程は、化学酸化重合による方法であっても良いし、電解酸化重合による方法であっても良い。
得られる固体電解コンデンサの電気特性や、より簡便な製造工程であるという面から、化学酸化重合により重合体を形成する工程であることが好ましい。
【0041】
化学酸化重合により重合体を形成する好ましい工程としては、一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物及び、一般式〔2〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を含む溶液と、
ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を用い、
弁作用金属上に、該重合性モノマーの重合体を形成する工程を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0042】
化学酸化重合における上記酸化剤としては、ヨウ素、臭素、ヨウ化臭素、二酸化塩素、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、亜塩素酸などのハロゲン化物、5フッ化アンチモン、5塩化リン、5フッ化リン、塩化アルミニウム、塩化モリブデンなどの金属ハロゲン化物、あるいは過マンガン酸塩、重クロム酸塩、無水クロム酸、第二鉄塩、第二銅塩などの高原子価状態遷移金属イオン又はその塩、硫酸、硝酸、トリフルオロメタン硫酸などのプロトン酸、三酸化硫黄、二酸化窒素などの酸素化合物、過酸化水素、過硫酸アンモニム、過ホウ酸ナトリウムなどのペルオキソ酸又はそれらの塩、モリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸等のヘテロポリ酸又はそれらの塩があげられる。
【0043】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法におけるより好ましい形態として、ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を使用することである。
ドーパント兼酸化剤である化合物とは、導電性高分子のドーパントとなるアニオン成分を有する酸化剤化合物塩であり、そのような化合物を用いることにより、化学重合の際に、アニオン成分が導電性高分子に取り込まれてドーパントとして機能し、導電性が向上された導電性高分子を形成することができる。
好ましいアニオン成分としては、有機スルホン酸イオン、カルボン酸イオン等の有機酸イオン、ホウ素化合物イオン、リン酸化合物イオン、過塩素酸イオン等の無機酸イオンなどがあげられる。
そのようなアニオン成分を含む酸化剤化合物塩として特に好適なものとしては、塩化第二鉄や過塩素酸第二鉄等の無機酸の鉄(III)塩、ベンゼンスルホン酸第二鉄やパラトルエンスルホン酸第二鉄塩、アルキルナフタレンスルホン酸第二鉄塩等の有機酸の鉄(III)塩を挙げることができ、最も好適なものとして、有機スルホン酸第二鉄塩を挙げることができる。
【0044】
上記ドーパント兼酸化剤は、溶媒に溶解された状態で使用することが好ましい。
溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶媒が好適である。
これらの中で特に好適なものは、上記有機スルホン酸の鉄(III)塩が上記アルコール系溶媒に、20重量%〜90重量%、より好ましくは30重量%〜80重量%、さらに好ましくは40重量%〜70重量%溶解されたものである。
この様な濃度に溶解されたドーパント兼酸化剤を用いることで、導電性及び耐久性に優れた導電性高分子重合体を、複雑な形状を有する弁作用金属上に、緻密に形成することが可能となる。
【0045】
以下、本発明の固体電解コンデンサの製造方法について、アルミニウム巻回型コンデンサを作製する方法を具体例に挙げ、より詳しく説明する。
【0046】
まず、陽極となるアルミニウム箔表面を、エッチングして粗面化させた後、陽極リードを接続し、ついでアジピン酸二アンモニウム等の水溶液中で化成処理して、誘電体酸化皮膜を形成させる。本発明を実施する上で、エッチング倍率の大きな箔を用いることにより、静電容量の大きなコンデンサを得ることができ、好ましい。
【0047】
別途、陰極リードを接続した対向陰極アルミニウム箔と、上記陽極アルミニウム箔との間に、マニラ紙等のセパレータを挟み込み、円筒状に巻き取り、ついで熱処理によりセパレータを炭化させて、巻回型のコンデンサ素子を準備する。
【0048】
次に、上記コンデンサ素子の陽極箔上に、導電性高分子からなる固体電解質層を形成させる。該固体電解質層を形成させる方法としては、
1.上記〔1〕式及び〔2〕式で示される化合物を含む重合性モノマー溶液と、ドーパント兼酸化剤を含む溶液とを混合した重合溶液を調整し、該液を弁作用金属に塗布あるいは浸漬によって接触後加熱させ、重合体を形成する方法。
2.上記重合性モノマー液を準備し、別途ドーパント兼酸化剤を含有する溶液を準備して、上記重合性モノマー液を含浸保持させた弁作用金属を、該酸化剤溶液中に塗布あるいは浸漬し、接触後加熱させ重合体を形成する方法。
3.ドーパント兼酸化剤を含有する溶液を、塗布あるいは含浸して保持させた弁作用金属に、上記重合性モノマー液を塗布あるいは浸漬し、接触後加熱させ重合体を形成する方法。
が挙げられる。
これらの方法は、特に制限されるものでない。
【0049】
ここで、加熱の温度とは、0℃から200℃の範囲で任意に選択することができ、加熱時間とは1分から24時間の範囲で任意に選択することができる。
0℃未満では、重合反応が生じにくくなり、200℃を越える温度では、コンデンサ特性が悪化する場合がある。
【0050】
上記含浸、加熱工程は複数回繰り返してもよい。
【0051】
上記工程により、陽極アルミニウム箔の微細なエッチング孔内に、導電性高分子が十分に充填された固体電解コンデンサ素子を形成することができる。
【0052】
ついで、金属製ケース等で外装、封口し、電圧を印加してエージングを行い、固体電解コンデンサを完成する。
【0053】
本発明の固体電解コンデンサは、一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物中に上記一般式〔2〕で示される化合物を含んだ重合性モノマーの重合体を含む固体電解質層を具備しており、その結果、静電容量が高く、ESRの低い優れた電気特性を有する固体電解コンデンサとなる。
さらに、従来のPEDOTを固体電解質層とする固体電解コンデンサより、著しく漏れ電流が低減され、高耐圧を示す固体電解コンデンサが得られる。漏れ電流が低減される理由は、明らかになっていないが、アルキル基が置換されていることにより疎水性が高まり、誘電体酸化皮膜の損傷が抑制されること、さらにモノマー中に含有している3,4−ジアルコキシチオフェンの影響により、固体電解質として形成される重合体が自己修復能に優れるものと考えられる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例中、「%」は、「質量%」を表し、静電容量(C)及び誘電損失(tanδ)は周波数120Hzで、等価直列抵抗(ESR)は周波数100kHzで測定した。また、容量含浸率は、固体電解質層形成前のコンデンサ素子を15%アジピン酸二アンモニウム水溶液中で測定した静電容量に対し、得られた固体電解コンデンサの静電容量を百分率で示したものである。さらに、漏れ電流は4.0Vの直流電圧を印加し、60秒後にコンデンサに流れる直流電流の値である。
【0055】
さらに、得られた固体電解コンデンサの耐電圧は、以下の方法にて測定した。すなわち、0Vより印加電圧を0.5V刻みで段階的に昇圧していき、各電圧で1分間保持した後の直流電流を測定していき、その値が100mAを超えた時の電圧を耐電圧とした。
【0056】
実施例1[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−メチル−1,4−ジオキシン(2−メチル−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
アルミニウム箔の表面をエッチングして粗面化させた後、カシメ付けにより、陽極リードを接続させ、ついで、10%アジピン酸二アンモニウム水溶液中、電圧4.0Vで化成処理して、表面に誘電体酸化皮膜を形成させた。
【0057】
ついで、上記陽極箔と、陰極リードとを抵抗溶接により接続させた対向陰極アルミニウム箔との間に、厚さ50μmのマニラ紙をセパレータとして挟み込み、円筒状に巻き取り、次いで、温度400℃で4分間、熱処理して、マニラ紙を炭化させて、コンデンサ素子を準備した。得られたコンデンサ素子の15%アジピン酸二アンモニウム水溶液中での静電容量は300μFであった。
【0058】
次に、3,4−ジメトキシチオフェンを0.10%含有したモノマー純度99.55%である2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−メチル−1,4−ジオキシン(2−メチル−EDOT)と、ドーパント兼酸化剤である50%p−トルエンスルホン酸第二鉄/n−ブタノール溶液とを準備し、両者の重量比率を1:2.5に調合した溶液に当該コンデンサ素子を120秒間浸漬後、45℃で2時間、105℃で35分、125℃で1時間加熱して、化学酸化重合を行い、コンデンサ素子中にポリ−2−メチル−EDOTを含む固体電解質層を形成させた。
【0059】
ついで、外装であるコンデンサケースに封入し、エポキシ樹脂を用いて封口し、両極に電圧4.0Vを印加させてエージングを行い、固体電解コンデンサを完成させた。
【0060】
実施例2[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−エチル−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
【0061】
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、3,4−ジメトキシチオフェンを0.08%含有したモノマー純度99.50%である2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−エチル−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0062】
実施例3[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−プロピル−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
【0063】
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、3,4−ジメトキシチオフェンを0.12%含有したモノマー純度99.25%である2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−プロピル−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0064】
実施例4
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、3,4−ジメトキシチオフェンを0.36%含有したモノマー純度99.50%である2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−メチル−1,4−ジオキシン(2−メチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0065】
実施例5
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、3,4−ジメトキシチオフェンを0.35%含有したモノマー純度99.45%である2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−エチル−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0066】
実施例6
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、3,4−ジメトキシチオフェンを0.32%含有したモノマー純度99.10%である2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−プロピル−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0067】
比較例1
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、3,4−ジメトキシチオフェンを含有しないモノマー純度99.50%である2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−メチル−1,4−ジオキシン(2−メチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0068】
比較例2
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、3,4−ジメトキシチオフェンを含有しないモノマー純度99.60%である2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−エチル−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0069】
比較例3
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、3,4−ジメトキシチオフェンを含有しないモノマー純度99.40%である2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−プロピル−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0070】
比較例4
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、3,4−ジメトキシチオフェンを含有しないモノマー純度99.70%であるEDOTを用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0071】
比較例5
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、3,4−ジメトキシチオフェンを0.10%含有したモノマー純度99.65%であるEDOTを用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0072】
それぞれ実施例1〜6並びに比較例1〜5にて得られた固体電解コンデンサの初期電気特性、容量含浸率を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、実施例1〜6で得られた固体電解コンデンサは、比較例1〜5の固体電解コンデンサより高耐電圧を有していることがわかった。また、比較例4、5には差異は観測されずEDOTにはジアルコキシチオフェン含有の効果は確認できなかった。
特に、実施例1〜6で得られた固体電解コンデンサは、低ESRかつ低漏れ電流、高耐電圧を示し、極めて優れた電気特性を有する固体電解コンデンサであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、小型大容量、低ESRかつ低漏れ電流かつ高耐電圧の固体電解コンデンサを提供できる。そのような固体電解コンデンサは、高周波領域で使用するデジタル電子機器等に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式〔1〕、
【化1】

(〔1〕式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。Zは、それぞれ同一でも異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物と、
下記一般式〔2〕、
【化2】

(〔2〕式中、R2、R3は互いに同じであっても異なっていてもよい炭素数1〜5の鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又はアリール基を表す。)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物と、
を含む重合性モノマーの重合体が固体電解質層として弁作用金属上に形成されていることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
上記〔2〕式で示される化合物が、3,4−ジメトキシチオフェンであることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
上記〔1〕式で示される化合物が、
2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−メチル−EDOT)、2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)、2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)及び2−イソプロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−イソプロピル−EDOT)からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に導電性高分子からなる固体電解質層を具備した固体電解コンデンサの製造方法において、
下記一般式〔1〕及び下記一般式〔2〕で示される化合物を含む重合性モノマーの溶液と、ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を、
液相にて接触させることにより化学酸化重合し、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属に重合体を形成する工程を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【化3】

(〔1〕式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。Zは、それぞれ同一でも異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。)
【化4】

(〔2〕式中、R2、R3は互いに同じであっても異なっていてもよい炭素数1〜5の鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又はアリール基を表す。)
【請求項5】
上記重合性モノマー中に、
上記〔1〕式で示される化合物が99.00〜99.95重量%、
上記〔2〕式で示される化合物が0.05〜1.00重量%、
含まれていることを特徴とする請求項4に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
上記ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液が、
有機スルホン酸第二鉄塩が20〜70重量%の範囲で有機溶媒中に溶解された溶液であることを特徴とする請求項4又は5に記載の固体電解コンデンサの製造方法。