説明

固体電解コンデンサ

【課題】ラジカルによる導電性高分子の劣化を抑制し、経時劣化の少ない固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】固体電解コンデンサ1は、表面に陽極酸化皮膜が形成された陽極箔と陰極箔とがセパレータを介して巻回され、セパレータに導電性高分子からなる固体電解質層が保持されたコンデンサ素子2を備えている。このコンデンサ素子2が、フラーレン7を含有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、導電性高分子を電解質に用いた固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、導電性高分子を電解質に用いた固体電解コンデンサとして、例えば特許文献1のような巻回型の固体電解コンデンサがよく知られている。
巻回型の固体電解コンデンサは、表面が粗面化され酸化皮膜が形成された陽極箔と粗面化された陰極箔とがセパレータを介して巻回され、このセパレータに導電性高分子からなる固体電解質層が保持されたコンデンサ素子を有している。該コンデンサ素子は、有底筒状の外装ケースに収納され、外装ケースの開口部はゴム等の封口材で封止されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−189242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような固体電解コンデンサは、特に高温下で使用すると、導電性高分子の劣化により固体電解質層の導電性が低下し、静電容量の低下、tanδや等価直列抵抗(ESR)の上昇などの経時劣化が生じていた。
導電性高分子のこのような劣化の原因の1つとして、外装ケース内の空気中に含まれるラジカル(例えば酸素ラジカルや窒素ラジカル等)が導電性高分子と反応し、導電性高分子の分子構造が変化することが挙げられる。
【0005】
本発明は、ラジカルによる導電性高分子の劣化を抑制し、経時劣化の少ない固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の固体電解コンデンサは、表面に陽極酸化皮膜が形成された陽極箔と陰極箔とがセパレータを介して巻回され、前記セパレータに導電性高分子からなる固体電解質層が保持されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納されるケースとを備えた固体電解コンデンサであって、前記コンデンサ素子が、フラーレンを含有することを特徴とする(第1の発明)。
【0007】
この構成により、コンデンサ素子に含まれるフラーレンに、空気中のラジカルが吸着されるため、固体電解質層を構成する導電性高分子がラジカルとの反応によって劣化するのを抑制することができる。その結果、静電容量の低下、tanδや等価直列抵抗(ESR)の上昇などの経時劣化を抑えることができる。
【0008】
前記フラーレンは、コンデンサ素子の外周面に付着していることが好ましい(第2の発明)。
この構成により、コンデンサ素子の端面、および、コンデンサ素子の巻き終わり部において、固体電解質層を構成する導電性高分子が、コンデンサ素子の周囲の空気中のラジカルと反応するのを防止し、導電性高分子の劣化を確実に抑制することができる。
【0009】
さらに、前記フラーレンは、前記陽極箔と前記固体電解質層との間、および/または、前記陰極箔と前記固体電解質層との間に介在することが好ましい(第3の発明)。
この構成により、陽極箔または陰極箔と固体電解質層との間に存在するラジカルと、固体電解質層を構成する導電性高分子とが反応するのを防止し、導電性高分子の劣化を確実に抑制することができる。
【0010】
前記導電性高分子は、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、またはポリエチレンジオキシチオフェンであることが好ましい(第4の発明)。これらの導電性高分子は、導電性および耐熱性に優れているからである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固体電解コンデンサによると、コンデンサ素子に含まれるフラーレンに、空気中のラジカルが吸着されるため、固体電解質層を構成する導電性高分子がラジカルとの反応によって劣化するのを抑制することができる。その結果、静電容量の低下、tanδや等価直列抵抗(ESR)の上昇などの経時劣化を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1に示すように、本実施形態の固体電解コンデンサ1は、コンデンサ素子2と、外装ケース3と、弾性封口材4とを備える。なお、図1では、コンデンサ素子2の内部構造の一部を省略して表示している。
【0013】
コンデンサ素子2は、陽極箔21と陰極箔22とが、セパレータ23を介して巻回された構造の巻回素子10(図2参照)と、陽極箔21と陰極箔22との間に形成された導電性高分子からなる固体電解質層24(図3参照)と、フラーレン7(図1および図3参照)を有する。
【0014】
図3に示すように、陽極箔21は、アルミニウム等の弁作用金属からなり、その表面はエッチング処理により粗面化されると共に酸化皮膜21aが形成されている。陰極箔22は、陽極箔21と同様に、アルミニウム等の弁作用金属からなり、表面は粗面化されているとともに自然酸化皮膜22aが形成されている。
【0015】
図3に示すように、陽極箔21と陰極箔22との間には、セパレータ23に保持された導電性高分子からなる固体電解質層24が形成されている。
導電性高分子としては、導電性および耐熱性に優れたポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、またはポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等が用いられる。
このような導電性高分子は、モノマーの化学重合により形成されている。
【0016】
図1および図2に示すように、コンデンサ素子2の端面からは、陽極箔21および陰極箔22にそれぞれリードタブ(図示省略)を介して接続された陽極リード線5および陰極リード線6が引き出されている。
【0017】
図1および図3に示すように、フラーレン7は、コンデンサ素子2の外周面に付着している第1吸着材7aと、電極箔(陽極箔、陰極箔)21、22と固体電解質層24との間に介在している第2吸着材7bとから構成される。
【0018】
フラーレンとは、炭素原子が中空の球状に結合されたものの総称をいう。このようなフラーレンは、電子受容性が高く、不対電子状態のラジカルを吸着する性能が高い。
フラーレンとしては、例えば、60個の炭素原子で構成されたC60、70個の炭素原子で構成されたC70、および、これらを基本骨格として有するフラーレン誘導体が用いられる。
C60について、具体的に説明すると、12個の5員環とその5員環を取り囲む形で20個の6員環が組み合わされ、サッカーボールと同じ形をしたネットワークの各頂点(60個)に炭素原子が位置した構造となっている。その直径は1nm(炭素骨格としては0.7nm)である。
【0019】
図1に示すように、コンデンサ素子2は、有底筒状の外装ケース3に収納されており、外装ケース3の開口部は、弾性封口材4によって封止されている。弾性封口材4には、陽極リード線5および陰極リード線6が貫通する2つの貫通孔が形成されている。
【0020】
以上説明した固体電解コンデンサ1を、以下の方法により製造した。
まず、表面に酸化皮膜21aが形成された陽極箔21と陰極箔22とにそれぞれリードタブを介して陽極リード線5および陰極リード線6を接続してから、この陽極箔21と陰極箔22とを、セパレータ23を介して巻回し、巻回素子10を作製した(図2参照)。
この巻回素子10に、例えばモノマーと酸化剤(兼ドーパント剤)との混合溶液を含浸させ、化学重合により導電性高分子からなる固体電解質層24を形成した(図3参照)。
【0021】
続いて、固体電解質層24が形成された巻回素子10を、トルエンやキシレン等の芳香族系の溶媒にフラーレンを分散させた溶液に浸漬し、引き上げてから乾燥することにより、フラーレン7をコンデンサ素子に含有させた。
この浸漬処理の際、上記フラーレン分散液がコンデンサ素子2の外周面に付着することにより、第1吸着材7bが形成された(図1参照)。また、上記フラーレン分散液がコンデンサ素子2の端面から電極箔21、22と固体電解質層24との間に浸入することによって、固体電解質層24の空隙に第2吸着材7bが形成された(図3参照)。
なお、フラーレン溶液の濃度は、ラジカル吸着効果を考慮すると、0.1〜30wt%が好ましい。
【0022】
次に、このようにして得られたコンデンサ素子2を外装ケース3に収納し、外装ケース3の開口部を弾性封口材4で封止して、固体電解コンデンサ1を得た(図1参照)。
【0023】
以上のような固体電解コンデンサ1によると、コンデンサ素子2に含まれるフラーレン7に、外装ケース3内の空気中のラジカル(例えば酸素ラジカルや窒素ラジカル)が吸着されるため、固体電解質層24を構成する導電性高分子がラジカルとの反応によって劣化するのを抑制することができる。その結果、静電容量の低下やESRの上昇などの経時劣化を低減することができる。
【0024】
また、コンデンサ素子2の外周面に付着している第1吸着材7aにより、コンデンサ素子2の端面、または、コンデンサ素子2の巻き終わり部において、固体電解質層24を構成する導電性高分子が、外装ケース3内の空気中のラジカルと反応するのを防止し、導電性高分子の劣化を確実に抑制することができる。
【0025】
さらに、電極箔21、22と固体電解質層24との間に介在する第2吸着材7bにより、両者の間に存在するラジカルと、固体電解質層24を構成する導電性高分子とが反応するのを防止し、導電性高分子の劣化をより確実に抑制することができる。
【0026】
なお、前記実施形態では、フラーレン7は、第1吸着材7aと、第2吸着材7bとして構成されているが、第1吸着材7aのみで構成されていてもよく、また、第2吸着材7bのみで構成されていてもよい。
【0027】
また、コンデンサ素子2にフラーレン7を含有させる方法は、上述した方法に特に限定されるものではない。フラーレン分散液のコンデンサ素子2への噴霧、PEDOTの分散剤液(既に重合された液)への添加等も考えられる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の具体的な実施例を、比較例および従来例を用いて説明する。
【0029】
[実施例]
実施例の固体電解コンデンサを以下の方法により作製した。
まず、表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回し、巻回素子を作製し、この巻回素子を、3,4−エチレンジオキシチオフェンとp−トルエンスルホン酸鉄(III)とをi−プロパノールに溶解した溶液(モノマーと酸化剤のモル比1:1.5)に浸漬後、100℃に60分間保持して化学重合によりPEDOTを形成して、固体電解質層を形成した。
次に、固体電解質層が形成された巻回素子を、フラーレンをトルエンに分散させた溶液(濃度5.0wt%)に浸漬し、引き上げた後、105℃に20分間保持して乾燥し、フラーレンを、コンデンサ素子の外周面に付着させるとともに、電極箔と固体電解質層との間に介在させた。このようにして得られたコンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収納し、開口部を弾性封口材により封止した。
【0030】
(比較例)
比較例として、実施例におけるフラーレンの代わりに、活性炭をコンデンサ素子に含有させた固体電解コンデンサを以下の手順により作製した。
まず、実施例と同様の手順により、固体電解質層が形成された巻回素子を作製した後、該巻回素子を、バインダーとなるエポキシ樹脂と酢酸ブチル溶液との混合溶液に活性炭粉末が添加された溶液(活性炭粉末濃度50wt%)に浸漬し、乾燥して、酢酸ブチルを蒸発させるとともに、エポキシ樹脂を熱により硬化させて、活性炭を、コンデンサ素子の外周面に付着させるとともに、電極箔と固体電解質層との隙間に介在させた。以降の工程は、実施例と同様に行った。
【0031】
(従来例)
従来例として、フラーレンを含有しないコンデンサ素子を備えた従来の固体電解コンデンサを作製した。
【0032】
上記の実施例、比較例および従来例において、使用された陽極箔、陰極箔は全て同じ幅、長さであり(幅3mm、長さ160mm)、作製された固体電解コンデンサの定格電圧は全て20.0WVである。
【0033】
上記の実施例、比較例および従来例の固体電解コンデンサについて、初期における電気特性を測定した。その後、135℃の恒温槽に入れ、定格電圧を5000時間印加し続けてから再度電気特性を測定した。それぞれの測定結果と変化率を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、実施例および比較例の固体電解コンデンサは、従来例に比べて明らかに経時的な特性変化が小さく、また、実施例の固体電解コンデンサは、比較例に比べて、経時的な特性変化が小さい。
比較例のコンデンサ素子に含有された活性炭は、導電性高分子が高温雰囲気下で劣化する際に発生するガスを吸着することにより、電気特性の劣化を抑制していると考えられるが、実施例と異なり、ラジカルを直接吸着していないため、電気特性の劣化の抑制効果は実施例より劣ると考えられる。
【0036】
なお、上記の実施例においては、導電性高分子としてPEDOTを用いたが、ポリアニリン、ポリピロールまたはポリチオフェンを用いた場合にも同様の効果が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサの断面の概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサにおける巻回素子の分解斜視図である。
【図3】固体電解コンデンサの構造を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0038】
1 固体電解コンデンサ
2 コンデンサ素子
3 外装ケース
4 弾性封口材
5 陽極リード線
6 陰極リード線
7 フラーレン
7a 第1吸着材(フラーレン)
7b 第2吸着材(フラーレン)
10 巻回素子
21 陽極箔
21a 酸化皮膜
22 陰極箔
22a 自然酸化皮膜
23 セパレータ
24 固体電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に陽極酸化皮膜が形成された陽極箔と陰極箔とがセパレータを介して巻回され、前記セパレータに導電性高分子からなる固体電解質層が保持されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納されるケースとを備えた固体電解コンデンサであって、
前記コンデンサ素子が、フラーレンを含有することを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記フラーレンが、コンデンサ素子の外周面に付着していることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記フラーレンが、前記陽極箔と前記固体電解質層との間、および/または、前記陰極箔と前記固体電解質層との間に介在することを特徴とする請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記導電性高分子が、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、またはポリエチレンジオキシチオフェンであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の固体電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−40844(P2010−40844A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203161(P2008−203161)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)