説明

固体電解コンデンサ

【課題】 あらかじめ調製しておいた導電性高分子の分散液を用いて固体電解質層を形成する場合でも、低ESR(等価直列抵抗)化が実現できる固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】 タンタル、ニオブ、アルミニウムなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、上記弁金属の酸化皮膜からなる誘電体層と、導電性高分子からなる固体電解質層と、集電層と、陰極を有し、上記集電層が固体電解質層と陰極との間に配置する固体電解コンデンサにおいて、上記集電層を導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサに関し、さらに詳しくは、導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体電解コンデンサに関しては、従来のマンガンタイプのものに代えて、低ESR(等価直列抵抗)化の実現が可能な導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサが注目されている。
【0003】
この固体電解コンデンサの固体電解質として用いる導電性高分子は、例えば、酸化剤兼ドーパントである有機スルホン酸第二鉄と重合性モノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェンとを含む液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げ、室温下で酸化重合を行うことによって、直接コンデンサ素子上に合成される。そして、余分な酸化剤は、洗浄により取り除き、乾燥が行なわれ、これらの工程が何回か繰り返されることによってコンデンサ素子上に導電性高分子からなる固体電解質層が形成される。その後、カーボンペーストをコーティングし、次いで銀ペーストをコーティングし、陽極端子および陰極端子を取り付け、最後に樹脂でモールドして外装することにより固体電解コンデンサが作製されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、パソコンなどの性能向上に伴い、固体電解コンデンサには、さらなる低ESR化が求められている。
【0005】
また、近年、固体電解質層の形成工程の簡略化や該工程でのばらつきの発生を抑制するなどの目的で、上記のような「その場重合(in situ重合)」に代えて、あらかじめ調製しておいた導電性高分子の分散液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、乾燥することによって導電性高分子からなる固体電解質層を形成し、その後、上記と同様に、カーボンペースト、次いで銀ペーストのコーティング、陽極端子および陰極端子の取り付け、樹脂モールドによる外装などを経て固体電解コンデンサを形成する方法が採用されるようになってきた(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、このような「あらかじめ調製しておいた導電性高分子の分散液」を用いて固体電解質を形成する方法による場合、前記の「その場重合」により導電性高分子を合成して固体電解質層を形成する場合に比べて、ESRが高くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−121025号公報
【特許文献2】特開2006−228679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑み、あらかじめ調製しておいた導電性高分子の分散液を用いて固体電解質層を形成する場合でも、低ESR化が実現できる固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、これまでカーボンペーストを用いて形成されていた集電層を、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で形成することにより、固体電解コンデンサの低ESR化を実現できることを見出し、それに基づいて本発明を完成するにいたった。
【0010】
すなわち、本発明は、タンタル、ニオブ、アルミニウムなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、弁金属の酸化皮膜からなる誘電体層と、導電性高分子からなる固体電解質層と、集電層と、陰極を有し、上記集電層が固体電解質層と陰極との間に配置する固体電解コンデンサであって、上記集電層を導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で構成したことを特徴とする固体電解コンデンサに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ESRの低い固体電解コンデンサを提供することができる。このような低ESR化は、あらかじめ調製しておいた導電性高分子の分散液を用いて固体電解質層を形成する場合において特に顕著に実現できる。
【0012】
本発明において、このような低ESR化が実現できるようになった理由は、現在のところ必ずしも明確ではないが、導電性高分子が導電性炭素材料中に混入した導電材で集電層を形成することにより、導電性炭素材料のみで集電層を形成していた場合に比べて、集電層と導電性高分子で構成される固体電解質層との接触抵抗が低くなったことによるものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、集電層を構成する導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材は、例えば、カーボンペーストと導電性高分子の分散液とを混合することによって、液中に分散した状態で得られる。
【0014】
カーボンペーストは、化学名が黒鉛分散体であって、天然黒鉛やカーボンブラックなどの導電性炭素材料粉末をバインダや分散剤などと混合した状態で、水中または有機溶剤中に分散させたものであり、上記バインダとしては、例えば、フェノール樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリロニトリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ノボラック樹脂、シランカップリング剤などの樹脂や水ガラスなどが用いられ、また、分散剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸縮合物、アルキルアミンオキサイド、ポリオキシアルキルエーテルなどが用いられ、有機溶剤としては、例えば、アルコール、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホン、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられる。
【0015】
また、カーボンペーストとしては、市販品を用いることができ、水系のカーボンペーストの市販品としては、例えば、日本黒鉛社製のバニーハイトT−602US、バニーハイトT−602D、バニーハイトFUAE(いずれも商品名)、日本エイブルスティックシ社製のAquadag(商品名)などが挙げられ、有機溶剤系のカーボンペーストの市販品としては、例えば、日本黒鉛社製のエブリオームT−30PLB(商品名)などが挙げられる。
【0016】
導電性高分子の分散液は、上記のようなカーボンペーストとの混合にあたっても、また、固体電解質層の形成にあたっても、同じものを用いることができ、その詳細については後に詳しく説明するが、カーボンペーストとの混合にあたって、分散液中における導電性高分子の含有量は、通常1〜25質量%程度が好ましい。つまり、導電性高分子の含有量が上記より少ない場合は、濃度が薄くなりすぎて、カーボンペーストとの最適な混合比率に調整できないおそれがあり、また、導電性高分子の含有量が上記より多い場合は、ゲル状になり分散状態が保てなくなるおそれがある。
【0017】
この導電性高分子と導電性炭素材料とを含有する導電材における両者の割合としては、質量比で、導電性高分子:導電性炭素材料=1:40〜1:1が好ましく、特に1:20〜1:2が好ましい。すなわち、導電性高分子の比率が上記より少なくなると、集電層と固体電解質層との接触抵抗が充分に小さくならないため、ESRが低くならないおそれがあり、また、導電性高分子の比率が上記より多くなると、導電性炭素材料の有する優れた導電性が充分に発揮できなくなって、集電層の集電能力が低下し、ESRが高くなるおそれがある。
【0018】
導電性高分子の分散液を得るにあたっては、重合性モノマーとしてのチオフェンまたはその誘導体を、ドーパントとなる高分子スルホン酸の存在下、水中または水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液中で酸化重合される。
【0019】
上記高分子スルホン酸としては、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステルおよびフェノールスルホン酸ノボラック樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種が用いられるが、これらの高分子スルホン酸は、導電性高分子の合成時、優れた分散剤としても機能し、重合性モノマーとしてのチオフェンまたはその誘導体や必要に応じて添加される触媒などを水中または水性液中を均一に分散させ、かつ合成されるポリマー中にドーパントとして取り込まれ、導電性高分子を高い導電性を有するものにさせるとともに、耐熱性が優れた導電性高分子にする要因になっているものと考えられる。
【0020】
上記、ポリスチレンスルホン酸としては、その重量平均分子量が10,000〜1,000,000のものが好ましい。これは下記の理由に基づいている。
【0021】
すなわち、上記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量が10,000より小さい場合は、得られる導電性高分子の導電性が低くなるおそれがある。また、上記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量が1,000,000より大きい場合は、導電性高分子の分散液の粘度が高くなり、固体電解コンデンサの作製にあたって使用しにくくなる。そして、上記ポリスチレンスルホン酸としては、その重量平均分子量が上記範囲内で、20,000以上のものが好ましく、40,000以上のものがより好ましく、また、800,000以下のものが好ましく、300,000以下のものがより好ましい。
【0022】
上記スルホン化ポリエステルは、スルホイソフタル酸またはスルホイソフタル酸エステルやスルホテレフタル酸またはスルホテレフタル酸エステルなどのジカルボキシベンゼンスルホン酸やジカルボキシベンゼンスルホン酸ジエステルと、アルキレングリコールとの混合物、場合によっては、それらにテレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルを加え、酸化アンチモンや酸化亜鉛などの触媒の存在下で縮重合させたものであり、このスルホン化ポリエステルとしては、その重量平均分子量が5,000〜300,000のものが好ましい。
【0023】
すなわち、上記スルホン化ポリエステルの重量平均分子量が5,000より小さい場合は、得られる導電性高分子の導電性が低くなるおそれがある。また、上記スルホン化ポリエステルの重量平均分子量が300,000より大きい場合は、導電性高分子の分散液の粘度が高くなり、固体電解コンデンサなどの作製にあたって使用しにくくなる。そして、このスルホン化ポリエステルとしては、その重量平均分子量が上記範囲内で、10,000以上のものが好ましく、20,000以上のものがより好ましく、また、100,000以下のものが好ましく、80,000以下のものがより好ましい。
【0024】
上記フェノールスルホン酸ノボラック樹脂としては、下記の一般式(I)で表される繰り返し単位を有するものが好ましく、その重量平均分子量が5,000〜500,000のものが好ましい。これは、下記の理由に基づいている。
【0025】
【化1】

【0026】
すなわち、上記フェノールスルホン酸ノボラック樹脂の重量平均分子量が5,000より小さい場合は、得られる導電性高分子の導電性が低くなるおそれがある。また、上記フェノールスルホン酸ノボラック樹脂の重量平均分子量が500,000より大きい場合は、導電性高分子の分散液の粘度が高くなり、固体電解コンデンサなどの作製にあたって使用しにくくなる。そして、このフェノールスルホン酸ノボラック樹脂としては、その重量平均分子量が上記範囲内で、5,000以上のものが好ましく、10,000以上のものがより好ましく、また、400,000以下のものが好ましく、80,000以下のものがより好ましい。
【0027】
本発明においては、導電性高分子を合成するための特に好適な重合性モノマーとして、チオフェンまたはその誘導体を用いるが、そのチオフェンまたはその誘導体におけるチオフェンの誘導体としては、例えば、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−アルキルチオフェン、3−アルコキシチオフェン、3−アルキル−4−アルコキシチオフェン、3,4−アルキルチオフェン、3,4−アルコキシチオフェンなどが挙げられ、そのアルキル基やアルコキシ基の炭素数は1〜16が適しているが、特に3,4−エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0028】
ドーパントとなるポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂のいずれも、水や水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液に対して溶解性を有していることから、酸化重合は水中または水性液中で行われる。
【0029】
上記水性液を構成する水混和性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられ、これらの水混和性溶剤の水との混合割合としては、水性液全体中の50質量%以下が好ましい。
【0030】
導電性高分子を合成するにあたっての酸化重合は、化学酸化重合、電解酸化重合のいずれも採用することができる。
【0031】
化学酸化重合を行うにあたっての酸化剤としては、例えば、過硫酸塩が用いられるが、その過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸カルシウム、過硫酸バリウムなどが用いられる。
【0032】
化学酸化重合において、ドーパント、重合性モノマー、酸化剤の使用量は、特に限定されることはないが、例えば、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を用い、重合性モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、酸化剤として過硫酸アンモニウムを用いた場合、それらの使用比率としては、質量比で、ドーパント:重合性モノマー:酸化剤=1:0.1〜10:0.1〜10が好ましく、特に、ドーパント:重合性モノマー:酸化剤=1:0.2〜4:0.2〜4が好ましい。そして、このような使用比率は、ドーパント、重合性モノマー、酸化剤に関して、他のものを用いた場合でも、ほぼ同様である。化学酸化重合時の温度としては、5〜95℃が好ましく、10〜30℃がより好ましく、また、重合時間としては、1時間〜72時間が好ましく、8時間〜24時間がより好ましい。
【0033】
電解酸化重合は、定電流でも定電圧でも行い得るが、例えば、定電流で電解酸化重合を行う場合、電流値としては0.05mA/cm〜10mA/cmが好ましく、0.2mA/cm〜4mA/cmがより好ましく、定電圧で電解酸化重合を行う場合は、電圧としては0.5V〜10Vが好ましく、1.5V〜5Vがより好ましい。電解酸化重合時の温度としては、5〜95℃が好ましく、特に10〜30℃が好ましい。また、重合時間としては、1時間〜72時間が好ましく、8時間〜24時間がより好ましい。なお、電解酸化重合にあたっては、触媒として硫酸第一鉄または硫酸第二鉄を添加してもよい。
【0034】
上記のようにして得られる導電性高分子は、重合直後、水中または水性液中に分散した状態で得られ、酸化剤としての過硫酸塩や触媒として用いた硫酸鉄塩やその分解物などを含んでいる。そこで、その不純物を含んでいる導電性高分子の水分散液を超音波ホモジナイザーや遊星ボールミルなどの分散機にかけて不純物を分散させた後、カチオン交換樹脂で金属成分を除去する。このときの導電性高分子の粒径としては、100μm以下が好ましく、特に10μm以下が好ましい。その後、エタノール沈殿法、限外濾過法、陰イオン交換樹脂などにより、酸化剤や触媒の分解により生成した硫酸などをできるかぎり除去するのが好ましい。
【0035】
上記のようにして得られた導電性高分子の分散液は、固体電解コンデンサの固体電解質層の形成にあたって用いることができるし、また、固体電解コンデンサの集電層の形成にあたって用いる導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の構成に際してカーボンペーストとの混合にあたって用いることができる。
【0036】
上記のようにして得られた導電性高分子の分散液は水系分散液であるが、これを有機溶剤系の分散液に変換することもできる。
【0037】
有機溶剤系の導電性高分子分散液は、下記の工程(1)〜(3)を経由することによって得ることができる。
(1)上記導電性高分子の水系分散液に非水系アミンを投入して導電性高分子を凝集させる。
(2)上記導電性高分子の凝集物を水中または水性液中から取り出す。
(3)上記導電性高分子の凝集物を有機溶剤に分散させる。
【0038】
すなわち、本発明者らは、導電性高分子の水系分散液に非水系アミンを添加することにより、導電性高分子を凝集させることができることを見出し、それに基づいた発明を別途特許出願しているが、非水系アミンによる導電性高分子の凝集は容易に起こさせることができる。そして、そのようにして凝集させた導電性高分子の凝集物は、例えば、100μmの口径を有するメッシュ(篩)による濾過により簡単に取り出すことができる。このようにして取り出した凝集物は固形分が65〜75質量%程度であるが、さらに水分の除去を要する場合は、遠心分離、フィルタープレスなどにより凝集物に圧力をかけて、水分を減少させることができる。そして、取り出した凝集物を、有機溶剤に添加し、SG(サンドグラインダー)や超音波ホモジナイザーなどの分散機で分散させることにより有機溶剤系の導電性高分子分散液が得られる。
【0039】
添加する非水系アミンとしては、例えば、ヘキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ミリスチルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、N−メチルヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−n−ヘキシルアミン、ジ−n−オクチルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、オレイルアミンなどが挙げられるが、それらの中でも、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミンが好ましく、特に3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンが好ましい。
【0040】
導電性高分子の凝集物を分散させる有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジメチルシルホキシド、スルホラン、γ―ブチロラクトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、n−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられるが、n−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドが好ましく、n−メチルピロリドンが最も好ましい。
【0041】
凝集を起こさせる際の導電性高分子の水系分散液における導電性高分子の濃度は、特に限定されることはないが、0.1〜25質量%が好ましく、0.5〜5質量%が特に好ましい。
【0042】
アミンの添加速度は、特に限定されることはないが、攪拌下、ゆっくり添加した方が均一にアミンが拡散されるので好ましい。添加温度の条件は、0〜100℃の範囲が好ましく、5℃〜50℃がより好ましい。アミンの添加量(濃度)としては、通常pH3以上であれば凝集が生じるので、それに適するように添加すればよく、pHの上限は特に限定されることはないが、導電性高分子から脱ドープが生じるのを防止する観点からpH11以下が好ましい。
【0043】
導電性高分子の分散液は、前記のように、水系分散液でも、有機溶剤系分散液のいずれでも用いることができるが、水系分散液で用いる場合、高沸点溶剤を含有させるのが好ましい。高沸点溶剤を含有させる理由は、導電性高分子の製膜性を向上させ、それによって、導電性を向上させるためである。このように高沸点溶剤を含有させることによって、導電性高分子の導電性が向上する理由は、現在のところ必ずしも明確ではないが、例えば、導電性高分子の分散液を基材に塗布し、乾燥するときに、高沸点溶剤が脱け出る際に厚み方向の層密度を高くさせ、それによって、導電性高分子間の面間隔が狭くなり、導電性高分子の導電性が高くなるものと考えられる。そして、これは、導電性高分子の分散液を固体電解質層の形成に用いる場合も、カーボンペーストと混合して集電層の形成に用いる場合も、同様に導電性を向上させるものと考えられる。
【0044】
上記高沸点溶剤としては、沸点が150℃以上のものが好ましく、そのような高沸点溶剤の具体例としては、例えば、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)、γ−ブチロラクトン(沸点204℃)、スルホラン(沸点285℃)、N−メチルピロリドン(沸点202℃)、ジメチルスルホン(沸点233℃)、エチレングリコール(沸点198℃)、ジエチレングリコール(沸点244℃)などが挙げられ、特にジメチルスルホキシドが好ましい。そして、この高沸点溶剤の含有量としては、分散液中の導電性高分子に対して質量基準で5〜3,000%(すなわち、導電性高分子100質量部に対して高沸点溶剤が5〜3,000質量部)が好ましく、特に20〜700%が好ましい。高沸点溶剤の含有量が上記より少ない場合は、導電性高分子の製膜性が低下し、その結果、導電性高分子の導電性を向上させる作用が低下し、高沸点溶剤の含有量が上記より多い場合は、導電性の低下を引き起こすおそれがある。
【0045】
そして、本発明の導電性高分子と導電性炭素材料を有する導電材で集電層を形成することによって、固体電解コンデンサを作製する一例を説明する。
【0046】
まず、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサ、積層型アルミニウム固体電解コンデンサなどを作製する場合、タンタル、ニオブ、アルミニウムなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、それら弁金属の酸化皮膜からなる誘電体層を有するコンデンサ素子を、導電性高分子の分散液に浸漬し、取り出した後、乾燥し、この導電性高分子の分散液への浸漬と乾燥する工程を繰り返すことによって、導電性高分子からなる固体電解質層を形成した後、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に、上記の固体電解質層を形成したコンデンサ素子を浸漬し、取り出した後、乾燥して集電層を形成し、次いで陰極となる銀のペーストで固体電解質層と集電層を覆い、陽極端子および陰極端子を取り付け、樹脂で外装することによって、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサ、積層型アルミニウム固体電解コンデンサなどを作製することができる。
【0047】
また、例えば、ポリスチレンスルホン酸を分散剤兼ドーパントとして用い、重合性モノマー、酸化剤を含む液に、前記のコンデンサ素子を浸漬し、取り出した後、重合を行い、水に浸漬し、取り出し、洗浄した後、乾燥することで導電性高分子を合成した後、それら全体を導電性高分子の分散液に浸漬し、取り出して乾燥する操作を繰り返して固体電解質層を形成してもよい。
【0048】
そして、そのようにして固体電解質層を形成したコンデンサ素子を本発明の導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に浸漬し、乾燥して集電層を形成した後、銀のペーストで固体電解質層と集電層を覆った後、陽極端子および陰極端子を取り付け、樹脂で外装することによって、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサ、積層型アルミニウム固体電解コンデンサなどを作製することもできる。
【0049】
また、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合は、アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行って誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して作製したコンデンサ素子を導電性高分子の分散液に浸漬し、取り出し、乾燥した後、アルミニウム箔のエッチングにより形成された細孔に入っていない導電性高分子を取り除くため、水に浸漬し、取り出した後、乾燥し、これらの操作を繰り返して、固体電解質層を形成した後、それを導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に浸漬し、取り出した後、乾燥して集電層を形成し、次いで銀ペーストで覆った後、外装することによって、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製することができる。
【0050】
なお、上記例示では、コンデンサ素子を導電性高分子の分散液に浸漬して固体電解質層を形成したり、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に浸漬して集電層を形成する場合を説明したが、コンデンサ素子を導電性高分子の分散液に浸漬したり、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に浸漬することに代えて、導電性高分子の分散液や導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液をコンデンサ素子に塗布する方法によっても固体電解コンデンサを作製することができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に例示のもののみに限定されることはない。なお、以下の実施例などにおいて濃度や使用量を示す際の%は特にその基準を付記しないかぎり、質量基準による%である。
【0052】
まず、実施例の説明に先立って、実施例の固体電解コンデンサの固体電解質層の形成やカーボンペーストとの混合にあたって用いる導電性高分子の分散液の製造例を製造例1〜6で示し、集電層の形成にあたって用いる導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液の製造例を製造例7〜12で示し、比較例の固体電解コンデンサの集電層の形成にあたって用いる導電性炭素材料を含有するものの導電性高分子を含有しない導電材の分散液の製造例を製造例13〜14で示す。
【0053】
製造例1
ポリスチレンスルホン酸(テイカ社製、重量平均分子量100,000)の4%水溶液600gを内容積1Lのステンレス鋼製容器に入れ、硫酸第一鉄・7水和物0.3gを添加し、その中に3,4−エチレンジオキシチオフェン4mLをゆっくり滴下した。その容器に横3cm×縦20cmのステンレス鋼製のメッシュ(口径:2mm)を、その下端から上方に向って縦5cmの部分までが液中に浸かるところで、攪拌棒を挟むようにして2本向かい合うような形でセットした。
【0054】
そして、そのステンレス鋼製メッシュの一方に陽極、他方に陰極をつけ、1mA/cmの定電流で、攪拌しながら18時間電解酸化重合を行った。上記電解酸化重合後、水で6倍に希釈した後、超音波ホモジナイザー〔日本精機社製、US−T300(商品名)〕で30分間分散処理を行った。その後、オルガノ社製のカチオン交換樹脂アンバーライト120B(商品名)を100g添加し、1時間攪拌機で攪拌した。次いで、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、このカチオン交換樹脂による処理と濾過を3回繰り返して、液中の鉄イオンなどのカチオン成分をすべて除去した。
【0055】
上記処理後の液を孔径が1μmのフィルターに通し、その通過液を限外濾過装置〔ザルトリウス社製Vivaflow200(商品名)、分子量分画5万〕で処理して、液中の遊離の低分子成分を除去した。この処理後の液を水で希釈して濃度を3%に調整し、その3%液40gに対し、高沸点溶剤としてジメチルスルホキシド4g(導電性高分子に対してジメチルスルホキシド約330%)を添加し、高沸点溶剤を含有させた導電性高分子の分散液を製造した。
【0056】
製造例2
ポリスチレンスルホン酸の4%水溶液に代えて、スルホン化ポリエステル〔互応化学工業社製プラスコートZ−561(商品名)、重量平均分子量27,000〕の3%水溶液を用い、その3%水溶液600gへの硫酸第一鉄・7水和物の添加量を0.05gにした以外は、ジメチルスルホキシドの添加など、実施例1と同様の操作を行って、高沸点溶剤を含有させた導電性高分子の分散液を製造した。
【0057】
製造例3
ポリスチレンスルホン酸に代えて、一般式(I)で表される繰り返し単位を有するフェノールスルホン酸ノボラック樹脂〔小西化学工業社製lotEW00130(商品名)、重量平均分子量60,000、Rは水素である〕を用いた以外は、ジメチルスルホキシドの添加など、実施例1と同様の操作を行って、高沸点溶剤を含有させた導電性高分子の分散液を製造した。
【0058】
製造例4
製造例1で得た導電性高分子の分散液と製造例3で得た導電性高分子の分散液を質量比1:1で混合して高沸点溶剤を含有させた導電性高分子の分散液を得た。
【0059】
製造例5
製造例4で得た導電性高分子の分散液を、40℃の水浴中、20hPaの条件下で蒸留して、導電性高分子の濃度を7%に調整した導電層高分子の分散液を得た。
【0060】
製造例6
限外濾過操作を行うところまでは製造例1と同様の操作を行って、導電性高分子の水系分散液を得た。つまり、この導電性高分子の水系分散液は高沸点溶剤としてのジメチルスルホキシドを含有させていないものである。そして、この導電性高分子の水系分散液の105℃の条件下で測定した乾燥固形分濃度は、3.0%であった。
【0061】
この導電性高分子の水系分散液を攪拌機で攪拌しながら、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを徐々に添加していくと、pH3.0程度から徐々に凝集が始まり、pH4を超えたところで、凝集が完了し、透明な液と凝集物が分離した液になった。この凝集物を含有する液を口径が100μmのステンレス鋼製メッシュに通すことで、凝集物を水中から分離して取り出した。この凝集物の105℃の条件下で乾燥固形分濃度を測定したところ70%であった。
【0062】
この凝集物5gを250gのn−メチルピロリドンに投入し、超音波ホモジナイザー(日本精機社製、US−T300)で20分間分散処理した後、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、有機溶剤系の導電性高分子分散液を得た。この有機溶剤系導電性高分子分散液の150℃の条件下で測定したときの乾燥固形分濃度は、1.4%であった。また、カールフィッシャーにより水分を測定したところ、0.6%であった。
【0063】
製造例7
日本黒鉛社製カーボンペースト(商品名:バニーハイトT−602US、固形分濃度12.5%、水系)100gに対し、製造例1で製造した導電性高分子の分散液50gを添加し、混合して、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を得た。導電性高分子と導電性炭素材料の比率は、質量比で、概略、1:7.1であった。つまり、この製造例7で用いたカーボンペースト(商品名:バニーハイトT−602US)は、導電性炭素材料を約9.6%含有していて、それに基づいて算出した導電性高分子と導電性炭素材料の比率は質量比で、概略、1:7.1であった。
【0064】
製造例8
日本黒鉛社製カーボンペースト(商品名:バニーハイトT−602US、固形分濃度12.5%、水系)100gに対し、製造例2で製造した導電性高分子の分散液50gを添加し、混合して、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を得た。導電性高分子と導電性炭素材料との比率は、質量比で、概略、1:7.1であった。
【0065】
製造例9
日本黒鉛社製カーボンペースト(商品名:バニーハイトT−602US、固形分濃度12.5%、水系)100gに対し、製造例3で製造した導電性高分子の分散液50gを添加し、混合して、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を得た。導電性高分子とカーボンとの比率は、質量比で、概略、1:7.1であった。
【0066】
製造例10
日本黒鉛社製カーボンペースト(商品名:バニーハイトT−602US、固形分濃度12.5%、水系)100gに対し、製造例4で製造した導電性高分子の分散液50gを添加し、混合して、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を得た。導電性高分子とカーボンとの比率は、質量比で、概略、1:7.1であった。
【0067】
製造例11
日本黒鉛社製カーボンペースト(製品名:T−602US、固形分濃度12.5%、水系)100gに対し、製造例5で製造した導電性高分子の分散液50gを添加し、混合して、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を得た。導電性高分子とカーボンとの比率は、質量比で、概略、1:2.7であった。
【0068】
製造例12
日本黒鉛社製カーボンペースト(商品名:エブリオームT−30PLB、固形分濃度20%、非水系)100gに対し、製造例6で製造した導電性高分子の分散液50gを添加し、混合して、導電性高分子とカーボンを含有する導電材の分散液を得た。導電性高分子とカーボンとの比率は、質量比で、概略、1:12.3であった。つまり、この製造例12で用いたカーボンペースト(商品名:エブリオームT−30PLB)は、導電性炭素材料を約8.6%含有しており、それに基づいて算出した導電性高分子と導電性炭素材料の比率は、質量比で、概略、1:16.3であった。
【0069】
製造例13
日本黒鉛社製カーボンペースト(商品名:バニーハイト602US、固形分濃度12.5%、水系)100gに対し、純水を50g添加し、混合して導電材の分散液を得た。この導電材の分散液は、元のカーボンペーストを水で希釈しただけのものに相当し、導電性高分子を含んでおらず、比較例1と比較例3の固体電解コンデンサの集電層の形成に用いるものである。
【0070】
製造例14
日本黒鉛社製カーボンペースト(商品名:エブリオームT−30PLB、固形分濃度20%、非水系)100gに対し、N−メチルピロリドン50gを添加し、混合して導電材の分散液を得た。この導電材の分散液は、元のカーボンペーストをN−メチルピロリドンで希釈しただけのものに相当し、導電性高分子を含んでおらず、比較例2と比較例4の固体電解コンデンサの集電層の形成に用いるものである。
【0071】
[タンタル固体電解コンデンサでの評価−1]
実施例1
タンタル焼結体を濃度が0.1%のリン酸水溶液に浸漬した状態で、12Vの電圧を印加することによって化成処理を行い、陽極となるタンタル焼結体の表面に酸化皮膜を形成して誘電体層を構成した。このタンタル焼結体に誘電体層を形成したものをコンデンサ素子とし、そのコンデンサ素子を濃度が35%の3,4−エチレンジオキシチオフェンのエタノール溶液に浸漬し、1分後に取り出し、5分間放置した。その後、あらかじめ用意しておいた濃度が50%のフェノールスルホン酸ブチルアミン水溶液(pH5)と濃度が30%の過硫酸アンモニウム水溶液とを質量比1:1で混合した混合物からなる酸化剤兼ドーパント溶液中に浸漬し、30秒後に取り出し、室温で30分間放置した後、50℃で10分間加熱して、重合を行った。その後、水中に上記コンデンサ素子を浸漬し、30分間放置した後、取り出して70℃で30分間乾燥した。これらの操作、すなわち、コンデンサ素子の3,4−エチレンジオキシチオフェン溶液への浸漬、酸化剤兼ドーパント溶液への浸漬、加熱による重合、水洗、乾燥などの操作を6回繰り返した。
【0072】
このようにしてコンデンサ素子の誘電体層上に所謂その場重合による導電性高分子層を形成した後、該コンデンサ素子を前記製造例4で得た導電性高分子の分散液に浸漬し、30秒後に取り出し、70℃で30分間乾燥した。これらの操作、すなわち、導電性高分子の分散液への浸漬、乾燥を3回繰り返した後、150℃で60分間放置して、導電性高分子からなる固体電解質層を形成した。そして、この固体電解質層形成済みのコンデンサ素子を、製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に含浸し、取り出したあと、105℃で30分、150℃で1時間乾燥し、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成した。その後、陰極となる銀のペーストで上記固体電解質層および集電層を覆い、陽極端子および陰極端子を取り付け、最後に樹脂でモールドして外装することによりタンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0073】
実施例2
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例8で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0074】
実施例3
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例9で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0075】
実施例4
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例10で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0076】
実施例5
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例11で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0077】
実施例6
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例12で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0078】
比較例1
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例13で製造した導電性高分子を含有しない導電材の分散液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って、導電性炭素材料を含有するものの導電性高分子を含有しない導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0079】
比較例2
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例14で製造した導電性高分子を含有しない導電材の分散液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って、導電性炭素材料を含有するものの導電性高分子を含有しない導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0080】
上記のように作製した実施例1〜6および比較例1〜2のタンタル固体電解コンデンサについて、そのESRおよび静電容量を測定した。その結果を表1に示す。なお、ESRおよび静電容量の測定方法は以下に示す通りである。ESRの測定にはHEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃、100kHzでESRを測定し、静電容量の測定にはHEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃、120Hzで静電容量を測定した。それらの測定は、各試料とも、10個ずつについて行い、表1に示すESR値および静電容量値は、それら10個の平均値を求め、小数点以下を四捨五入して示したものである。
【0081】
【表1】

【0082】
表1に示すように、実施例1〜6のタンタル固体電解コンデンサは、比較例1〜2のタンタル固体電解コンデンサに比べて、ESRが小さく、コンデンサとしての機能が優れていることを示していた。
【0083】
[タンタル固体電解コンデンサでの評価−2]
実施例7
タンタル焼結体を濃度が0.1%のリン酸水溶液に浸漬した状態で、12Vの電圧を印加することによって化成処理を行い、タンタル焼結体の表面に酸化皮膜を形成して誘電体層を構成した。この陽極となるタンタル焼結体に誘導体を形成したものをコンデンサ素子とし、このコンデンサ素子を濃度が35%の3,4−エチレンジオキシチオフェンのエタノール溶液に浸漬し、1分後に取り出し、5分間放置した。その後、該コンデンサ素子をあらかじめ用意しておいた濃度が40%のパラトルエンスルホン酸第2鉄溶液中に浸漬し、30秒後に取り出し、室温で120分間放置して、重合を行った。その後、水中に上記コンデンサ素子を浸漬し、90分間放置した後、取り出して70℃で30分間乾燥した。これらの操作、すなわち、コンデンサ素子の3,4−エチレンジオキシチオフェン溶液への浸漬、パラトルエンスルホン酸第2鉄溶液中への浸漬、重合、水中への浸漬、乾燥などの操作を18回繰り返した後、最後に150℃で60分間放置して、導電性高分子からなる固体電解質を形成した。
【0084】
このようにして、陽極となるタンタル焼結体の誘電体層側に導電性高分子からなる固体電解質層を形成したコンデンサ素子を、製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に浸漬し、取り出した後、105℃で30分、150℃で1時間乾燥し、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成した。その後、陰極となる銀のペーストで集電層および上記固体電解質層を覆い、陽極端子および陰極端子を取り付け、樹脂でモールドして外装することによってタンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0085】
実施例8
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例8で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を使用した以外は、実施例7と同様の操作を行って、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0086】
実施例9
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例9で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を使用した以外は、実施例7と同様の操作を行って、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0087】
実施例10
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例10で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を使用した以外は、実施例7と同様の操作を行って、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0088】
実施例11
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例11で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を使用した以外は、実施例7と同様の操作を行って、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0089】
実施例12
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例12で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液を使用した以外は、実施例7と同様の操作を行って、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0090】
比較例3
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例13で製造した導電性高分子を含有していない導電性炭素材料ペーストを使用した以外は、実施例7と同様の操作を行って、導電性炭素材料は含有するものの導電性高分子を含有しない導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0091】
比較例4
製造例7で製造した導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材の分散液に代えて、製造例14で製造した導電性高分子を含有していない導電材の分散液を使用した以外は、実施例7と同様の操作を行って、導電性炭素材料は含有するものの導電性高分子を含有しない導電材で集電層を形成し、タンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0092】
上記のように作製した実施例7〜12および比較例3〜4のタンタル固体電解コンデンサについて、そのESRおよび静電容量を測定した。その結果を表2に示す。なお、ESRおよび静電容量の測定方法は以下に示す通りである。ESRの測定にはHEWLETT
PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃、100kHzでESRを測定し、静電容量の測定にはHEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃、120Hzで静電容量を測定した。それらの測定は、各試料とも、10個ずつについて行い、表2に示すESR値および静電容量値は、それら10個の平均値を求め、小数点以下を四捨五入して示したものである。
【0093】
【表2】

【0094】
表2に示すように、実施例7〜12のタンタル固体電解コンデンサは、比較例3〜4のタンタル固体電解コンデンサに比べて、ESRが小さく、コンデンサとしての機能が優れていることを示していた。
【0095】
表1、表2のいずれにおいても、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で集電層を形成することより、ESRが低下することが示されていた。また、表1と表2を比較すると、表1に示す実施例1〜6の方が表2に示す実施例7〜12より、導電性高分子の導電性炭素材料への混合効果、つまり、導電性炭素材料ペーストに導電性高分子を含有させて製造した導電性高分子と導電性炭素材料とを含有する導電材を用いた効果が高くなっていた。これは固体電解質層の形成にあたってあらかじめ製造しておいた導電性高分子の分散液を使用したことに基づくものと考えられる。通常、導電性高分子の分散液を使用して形成した導電性高分子は、化学酸化重合でその場重合した導電性高分子に比べて、導電率が高い。しかし、コンデンサの固体電解質として使用した場合、導電性高分子の分散液を使用して固体電解質層を形成した固体電解コンデンサは、化学酸化重合でその場重合して固体電解質層を形成した固体電解コンデンサに比べて、ESRが高く(悪く)なる傾向がある。この理由は定かではないが、集電層を構成する導電性炭素材料と固体電解質層を構成する導電性高分子との接触抵抗が高いためであると考えられる。
【0096】
しかしながら、本発明では、導電性炭素材料ペーストに導電性高分子を混ぜ合わせ、それによって導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材を構成し、その導電材で集電層を形成することによって、固体電解質層の導電性高分子と集電層の導電性炭素材料との接触抵抗を減らすことができ、導電性高分子の分散液を使用して固体電解質層を形成する固体電解コンデンサで、より効果的にESRを低減することができたものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタル、ニオブ、アルミニウムなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、上記弁金属の酸化皮膜からなる誘電体層と、導電性高分子からなる固体電解質層と、集電層と、陰極とを有し、上記集電層が固体電解質層と陰極との間に配置する固体電解コンデンサであって、上記集電層が、導電性高分子と導電性炭素材料を含有する導電材で構成されていることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
固体電解質層が、導電性高分子の分散液にコンデンサ素子を浸漬するか、または導電性高分子の分散液をコンデンサ素子に塗布した後、乾燥して得られた導電性高分子で構成されていることを特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
導電性高分子の分散液が、チオフェンまたはその誘導体を、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステルおよびフェノールスルホン酸ノボラック樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の高分子スルホン酸の存在下、水中または水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液中で、酸化重合することにより得られたものである請求項2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
酸化重合が、電解酸化重合である請求項3記載の固体電解コンデンサ。


【公開番号】特開2011−60980(P2011−60980A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208760(P2009−208760)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)