説明

固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体

【課題】従来のフッ素系プロトン伝導膜及び芳香族系プロトン伝導膜の問題点を解決し、ラジカルに対する劣化耐性を改良し、且つプロトン伝導性に優れるプロトン伝導膜を備えた固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体を提供すること。
【解決手段】プロトン伝導膜の一方の面にアノード電極、他方の面にカソード電極を設けた固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、前記プロトン伝導膜は、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリアリーレン系共重合体を含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、高い発電効率を有し、排出物も少ないため環境への負担の低い発電システムである。燃料電池は、近年の地球環境保護、及び化石燃料依存からの脱却への関心の高まりにつれて脚光を浴びている。燃料電池は、小型の分散型発電施設、自動車や船舶等の移動体の駆動源としての発電装置、または、リチウムイオン電池等の二次電池に替わる携帯電話やモバイルパソコン等への搭載が期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜(以下、「プロトン伝導膜」という)の両面に一対の電極を設け、純水素あるいは改質水素ガスを燃料として一方の電極(燃料極)へ供給し、酸素ガスあるいは空気を酸化剤として他方の電極(空気極)へ供給し、起電力を得るものである。
【0004】
ところが、実際の燃料電池では、上記の主反応の他に副反応が起こる。その代表的なものが過酸化水素(H)の生成であり、この過酸化水素に起因するラジカル種が、プロトン伝導膜を劣化させる原因となっている。
【0005】
従来、プロトン伝導膜としては、Nafion(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成工業株式会社製)、またはフレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)の商品名で市販されているパーフルオロスルホン酸系膜が、その化学安定性が優れている点から用いられてきた。
【0006】
しかしながら、Nafion等のようなパーフルオロスルホン酸系膜は、製造が困難であるため、非常に高価であるという問題があり、燃料電池車や家庭用燃料電池発電システム等の民生用途への普及の大きな障害となっている。また、これらのパーフルオロスルホン酸系膜は、分子内に大量のフッ素原子を有しているため、環境保護の観点から、使用後の廃棄処理に難がある。
【0007】
また、燃料電池は、より高温で、且つ電極間のプロトン伝導膜の膜厚が薄いほど、膜抵抗が小さくなり、発電出力を高めることができる。しかしながら、これらのパーフルオロスルホン酸系膜は、熱変形温度が80〜100℃程度で、高温時のクリープ耐性が非常に乏しい。このため、燃料電池にこれらの膜を用いた場合には、発電温度を80℃以下に保たなければならず、発電出力に制限があった。また、長期に使用した際の膜厚の安定性にも乏しく、電極間の短絡(ショート)を防ぐために、ある程度の膜厚(50μm以上)が必要であり、薄膜化が困難であった。
【0008】
上記のパーフルオロスルホン酸系膜の問題を解決するために、フッ素原子を含まず、より安価で、エンジニアプラスチックにも用いられるような耐熱性主鎖骨格を有するプロトン伝導膜が、現在、数多く研究されている。例えば、ポリアリーレン系、ポリエーテルエーテルケトン系、ポリエーテルスルホン系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリイミド系、ポリベンザゾール系の主鎖芳香環をスルホン化したポリマーが提案されている(非特許文献1〜3参照)。
【0009】
しかしながら、炭化水素系プロトン伝導膜は、発電の際の副反応で生じる過酸化水素により劣化が促進されるため、化学的な耐性が求められる。このため、化学的な耐性を改善する目的で、ラジカル捕捉剤としてヒンダードフェノール類や、過酸化物分解剤としてリンや硫黄を含有する化合物等の添加剤が種々検討されている(特許文献1〜3参照)。
【0010】
さらに、電解質ポリマー自身に、ホスホン酸基、リン酸基、ホスホン酸エステル基、リン酸エステル基のようなリンを含む置換基を導入したプロトン伝導膜が検討されている。具体的には、ラジカル耐性を評価する方法の一つであるフェントン試験や過酸化水素蒸気下での暴露試験等において、ラジカル耐性が向上していることが示されている(特許文献4〜10参照)。
より詳しくは、特許文献10や特許文献5では、非フッ素系のプロトン伝導膜として、ホスホン酸基を含むグラフトポリスチレンを使用したプロトン伝導膜が開示されており、フェントン試験前後で重量保持率が改善されていることが示されている。また、ポリスチレン等のように主鎖がメチレン基等のアルキル鎖からなる炭化水素系プロトン伝導膜ではなく、主鎖に芳香族を含む炭化水素系プロトン伝導膜として、特許文献4に示されるポリエーテルスルホン、特許文献7に示されるポリフェニレンオキサイド、特許文献6に示されるポリフェニレン、及び、特許文献9に示されるポリアリーレン等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−183526号公報
【特許文献2】特開2004−134294号公報
【特許文献3】特許4139912号公報
【特許文献4】特開2003−282096号公報
【特許文献5】特表2007−525563号公報
【特許文献6】特開2004−175997号公報
【特許文献7】特開2007−238806号公報
【特許文献8】特開2007−217675号公報
【特許文献9】特開2003−327674号公報
【特許文献10】特開2000−11755号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Polymer Preprints, Japan, Vol. 42, No.7, p.2490−2492 (1993)
【非特許文献2】Polymer Preprints, Japan, Vol. 43, No.3, p.735−736 (1994)
【非特許文献3】Polymer Preprints, Japan, Vol. 42, No.3, p.730 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、一般的にプロトン伝導膜に用いられるスルホン酸基の代わりに、ホスホン酸基のようなリンを含むプロトン伝導性基を導入した場合には、伝導度の低下が問題であった。
【0014】
例えば、特許文献10の実施例に示されるように、プロトン伝導性基が全てスルホン酸基であるグラフトポリスチレンの場合、伝導度が0.182(S/cm)であるのに対し、一部をホスホン酸基に置換すると、置換率により伝導度が0.109〜0.145(S/cm)に低下する。
特許文献5には、プロトン伝導性基が全てホスホン酸基であるグラフトポリスチレンからなるプロトン伝導膜が示されているが、伝導度は10−5(S/cm)程度である。
また、主鎖に芳香族を含む炭化水素系プロトン伝導膜で、側鎖にホスホン酸基を導入した例として特許文献6が挙げられるが、電子密度の高い芳香環のみにホスホン酸基を導入しており、伝導度が10−4(S/cm)程度である。
【0015】
一方、特許文献9には、電子密度の低い芳香環に、ホスホン酸基ではなくホスホン酸エステル基を導入したスルホン化ポリアリーレンからなるプロトン伝導膜が示されているが、フェントン試験において20時間で重量保持率が90%程度であり、必ずしも十分なラジカル耐性を有しているとは言えない。また、ホスホン酸でなくホスホン酸エステル基の状態であるため、プロトン伝導性が低く、添加量を増加させると、プロトン伝導に寄与する部分が減少して伝導度の低下が予想される。このため、高い濃度で、ホスホン酸エステル基を導入することは困難である。
【0016】
このように、従来の炭化水素系プロトン伝導膜においては、ラジカルに対する耐性を有し、且つ、幅広い温度領域で十分なプロトン伝導度を有しているプロトン伝導膜は存在しなかった。
【0017】
本発明の目的は、従来検討されてきたフッ素系プロトン伝導膜及び芳香族系プロトン伝導膜の問題点を解決し、ラジカルに対する劣化耐性を改良し、且つプロトン伝導性に優れるプロトン伝導膜を備えた固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、COやSOのような電子吸引性の結合を有することにより電子密度の低い芳香環に、ホスホン酸基を導入したポリアリーレン系共重合体を含んで構成されるプロトン伝導膜を備えた固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体によれば、本発明の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0019】
請求項1記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体は、プロトン伝導膜の一方の面にアノード電極、他方の面にカソード電極を設けた固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、前記プロトン伝導膜は、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリアリーレン系共重合体を含むことを特徴とする。
【化1】

[式(1)中、Eは、それぞれ独立に、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、及び−COO−基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Ar31及びAr33は、それぞれ独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、若しくは含窒素複素環を有する2価の有機基、または水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されたこれらの有機基を示す。Ar32は、それぞれ独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、若しくは含窒素複素環を有する2価〜6価の有機基、または水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されたこれらの有機基を示す。R31は、直接結合、−O(CH−、−O(CF−、−(CH−、及び−(CF−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す(pは1〜12の整数を示す)。eは0〜10の整数を示し、fは1〜5の整数を示し、gは0〜4の整数を示し、hは0〜1の整数を示す。前記構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは、隣り合う構造単位との接続を意味する。]
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、前記一般式(1)で表される構造単位は、下記一般式(2)で表される構造単位であることを特徴とする。
【化2】

[式(2)中、Eは、それぞれ独立に、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、及び−COO−基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、R31は、直接結合、−O(CH−、−O(CF−、−(CH−、及び−(CF−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す(pは1〜12の整数を示す)。eは0〜10の整数を示し、fは1〜5の整数を示し、gは0〜4の整数を示し、hは0〜1の整数を示す。前記構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは、隣り合う構造単位との接続を意味する。]
【0021】
請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、前記ポリアリーレン系共重合体が、スルホン酸基を有する構造単位をさらに有することを特徴とする。
【0022】
請求項4記載の発明は、請求項3に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、前記スルホン酸基を有する構造単位が、下記一般式(3−2)で表される構造単位であることを特徴とする。
【化3】

[式(3−2)中、Yは、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、及び−COO−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Zは、直接結合、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、−S−、−CO−、及び−SO−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは、−SOH、−O(CHSOH、または−O(CFSOHで表される置換基を有する芳香族基を示す(pは1〜12の整数を示す)。mは0〜3の整数を示し、nは0〜3の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。前記構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは、隣り合う構造単位との接続を意味する。]
【0023】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、前記ポリアリーレン系共重合体が、下記一般式(4−1)で表される芳香族構造を有する構造単位をさらに有することを特徴とする。
【化4】

[式(4−1)中、A及びDは、それぞれ独立に、直接結合、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、−C(CF−、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−CR’−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、及び−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子であり、R〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部または全てがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、及びニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。s及びtは、0〜4の整数を示し、rは0以上の整数を示す。前記構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは、隣り合う構造単位との接続を意味する。]
【0024】
請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、前記ポリアリーレン系共重合体1モルが有するホスホン酸基のモル数を(d)、スルホン酸基のモル数を(e)とするとき、(d)/{(d)+(e)}×100の値が、0.01〜100であることを特徴とする。
【0025】
請求項7記載の発明は、請求項6に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、前記(d)/{(d)+(e)}×100の値が、0.1以上7未満であることを特徴とする。
【0026】
請求項8記載の発明は、請求項7に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、前記ポリアリーレン系共重合体のイオン交換容量が、0.3〜5meq/gであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明で用いられるプロトン伝導膜は、COやSOのような電子吸引性の結合を有することにより電子密度の低い芳香環に、ホスホン酸基を導入したポリアリーレン系共重合体を含んで構成され、過酸化物に対するラジカル耐性が向上しているうえに、高いプロトン伝導度を保持している。したがって、このようなプロトン伝導膜は、固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体として利用可能であり、この工業的意義は極めて大である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いられるポリアリーレン系共重合体は、ホスホン酸基を有する構造単位を有する。好ましくは、スルホン酸基を有する構造単位と、芳香族構造を有する構造単位と、をさらに有する。
【0029】
[ホスホン酸基を有する構造単位]
ホスホン酸基を有する構造単位は、下記式(1)で表される。
【化5】

【0030】
式(1)中、Eは、それぞれ独立に、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、及び−COO−基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。これらのうち、−CO−、−SO−が好ましい。
【0031】
Ar31、Ar32、及びAr33は、同一でも異なっていてもよく、水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環、及び含窒素複素環からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
なお、含窒素複素環としては、ピロール、2H−ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、3H−インドール、インドール、1H−インダゾール、プリン、4H−キノリジン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェノチアジン、フラザン、フェノキサジン、ピロリジン、ピロリン、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ピラゾリン、ピペリジン、ピペラジン、インドリン、イソインドリン、キヌクリジン、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、1,3,5−トリアジン、ブリン、テトラゾール、テトラジン、トリアゾール、フェナルサジン、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジアゾールが挙げられ、これらのうち、イミダゾール、ピリジン、1,3,5−トリアジン、トリアゾールが好ましい。
【0032】
31は、直接結合、−O(CH−、−O(CF−、−(CH−、及び−(CF−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す(pは1〜12の整数を示す)。
eは0〜10の整数を示し、好ましくは0〜5の整数、より好ましくは0〜2の整数を示す。
fは1〜5の整数を示し、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1〜3の整数を示す。
gは0〜4の整数を示し、好ましくは0〜3の整数、より好ましくは0〜2の整数を示す。
hは0〜1の整数を示す。
なお、上記の構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは、隣り合う構造単位との接続を意味する(以下の構造単位においても同様である)。
【0033】
また、ホスホン酸基を有する構造単位は、好ましくは下記一般式(2)で表される。
【化6】

式(2)中、E、R31、e、f、g、hは、上記式(1)と同様である。さらに、h=1のものがより好ましい。
【0034】
ホスホン酸基を有する構造単位の具体例としては、下記が挙げられる。
【化7】

【0035】
本発明のポリアリーレン系共重合体は、ホスホン酸基を有する構造単位を含むことで高いプロトン伝導度を保持しつつ、耐久性を向上させることができる。耐久性が向上する理由としては、ホスホン酸基を導入することで過酸化物に対するラジカル耐性が向上するためと推察される。また、特に、上記式(1)においてh=1であり、Eが−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−基からなる場合、すなわち電子密度の低い芳香族環にホスホン酸基が導入される場合には、本発明のポリアリーレン系共重合体は、過酸化物に対するラジカル耐性を向上でき、且つプロトン伝導度をより高く保持できる。
また、本発明では、ホスホン酸エステル基ではなく、脱保護されたホスホン酸基を導入するため、プロトン伝導性の無いホスホン酸エステル基を導入した場合のように、プロトン伝導性が大幅に低下することがなく、高いプロトン伝導性を保持できる。
さらに、本発明のポリアリーレン系共重合体は、得られるプロトン伝導膜の機械的強度や熱水耐性の観点から、上記式(1)で表される構造単位が少なくとも2個連続していることが好ましく、少なくとも3個連続していることがより好ましく、少なくとも5個連続していることがさらに好ましい。
【0036】
[スルホン酸基を有する構造単位]
スルホン酸基を有する構造単位としては、例えば、下記一般式(3)で表される構造単位が挙げられる。本発明のポリアリーレン系共重合体は、スルホン酸基を有する構造単位を含むことで、プロトン伝導度をより高くすることができる。また、本発明のポリアリーレン系共重合体は、上述したホスホン酸基を有する構造単位とスルホン酸基を有することで、高いプロトン伝導度を保持しつつ、耐久性を向上させることができる。このことは、ホスホン酸基を有することで、スルホン酸基の脱離等が抑制されるためと推察される。
【化8】

【0037】
上記式(3)中、Ar11、Ar12、Ar13は、それぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環等の縮合芳香環、及び含窒素複素環からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を有する2価または3価の基を示す。Yは、−CO−、−SO−、−SO−、−(CF−(uは1〜10の整数である)、−C(CF−、−CONH−、−COO−、及び直接結合からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。Zは、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CH−(lは1〜10の整数である)、及び−C(CH−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0038】
11は、直接結合、−O(CH−、−O(CF−、−(CH−、及び−(CF−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す(pは、1〜12の整数を示す)。R12、R13は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、脂肪族炭化水素基、脂環基、及び酸素を有する複素環基を含む炭化水素基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。ただし、上記式(3)中に含まれる全てのR12及びR13のうち、少なくとも1個は水素原子である。xは0〜4の整数を示し、xは1〜5の整数を示し、aは0〜1の整数を示し、bは0〜3の整数を示す。
【0039】
スルホン酸基を有する構造単位は、好ましくは、下記一般式(3−1)で表される。
【化9】

【0040】
上記式(3−1)中、Ar11、Ar12、Ar13、Y、Z、R11、R12、R13、x、x、aは、上記式(3)と同様である。また、b1及びb2は、0〜3の整数を示す。
【0041】
上記式(3)または式(3−1)で表される繰り返し単位は、好ましくは、下記一般式(3−2)で表される構造である。
【化10】

【0042】
上記式(3−2)中、Yは−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、及び−COO−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Zは、直接結合、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、−S−、−CO−、及び−SO−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは、−SOH、−O(CHSOH、または−O(CFSOHで表される置換基を有する芳香族基を示す(pは1〜12の整数を示す)。mは0〜3の整数、好ましくは0または1を示し、nは0〜3の整数、好ましくは0または1を示し、kは1〜4の整数、好ましくは1を示す。
【0043】
スルホン酸基を有する構造単位の具体例としては、下記が挙げられる。本発明のポリアリーレン系共重合体は、得られるプロトン伝導膜の機械的強度や熱水耐性の観点から、上記式(3)で表される構造単位を含む場合には、上記式(1)で表わされる構造単位及び上記式(3)で表される構造単位から選ばれる少なくとも一種の構造単位が、少なくとも2個連続していることが好ましく、少なくとも3個連続していることがより好ましく、少なくとも5個連続していることがさらに好ましい。
【化11】

【0044】
[芳香族構造を有する構造単位]
芳香族構造を有する構造単位は、下記一般式(4)で表される。
【化12】

【0045】
上記式(4)中、Ar21、Ar22、Ar23、及びAr24は、それぞれ独立に、ベンゼン環、縮合芳香環(ナフタレン環等)、または含窒素複素環の構造を有する2価の基を示す。
ただし、Ar21、Ar22、Ar23、及びAr24は、その水素原子の一部若しくは全部が、フッ素原子、ニトロ基、ニトリル基、アルキル基、アリル基、及びアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基で置換されていてもよい。また、アルキル基は、その水素原子の一部若しくは全部がフッ素置換されていてもよい。
【0046】
A及びDは、それぞれ独立に、直接結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−CR’−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、または−S−を示し、Bは酸素原子または硫黄原子である。
s及びtは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、rは0以上の整数を示す。
【0047】
芳香族構造を有する構造単位としては、下記一般式(4−1)で表されるものが好ましい。
【化13】

【0048】
上記式(4−1)中、A及びDは、それぞれ独立に、直接結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、−C(CF−、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−CR’−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、及び−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子であり、R〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部または全てがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、及びニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。s及びtは、0〜4の整数、好ましくは0、1、または2を示し、rは0以上の整数を示す。
【0049】
芳香族構造を有する構造単位の具体例としては、下記が挙げられる。
【化14】

【0050】
【化15】

【0051】
以上のような芳香族構造を有する構造単位を含有することにより、ポリアリーレン系共重合体の疎水性が著しく向上する。このため、従来と同様のプロトン伝導性を具備しながら、優れた熱水耐性を付与できる。さらに、R〜R16の少なくとも一つがニトリル基である場合には、熱水耐性試験における寸法安定性に優れる。
【0052】
[ポリアリーレン系共重合体]
本発明のポリアリーレン系共重合体は、下記一般式(5)で表される。
【化16】

【0053】
上記一般式(5)において、A、B、D、E、Y、Z、Ar11〜Ar13、Ar21〜Ar24、Ar31〜Ar33、a、b、e、f、g、h、k、s、t、r、x、x、R11〜R13及びR31は、それぞれ上述の一般式中のA、B、D、E、Y、Z、Ar11〜Ar13、Ar21〜Ar24、Ar31〜Ar33、a、b、e、f、g、h、k、s、t、r、x、x、R11〜R13及びR31と同義である。x、y、及びzは、それぞれ、x+y+z=100モル%とした場合のモル比を示す。
【0054】
本発明で用いられるポリアリーレン系共重合体1モルが有する式(1)で表される構造単位のモル数を(x)、式(3)で表される構造単位のモル数を(y)、式(4)で表される構造単位のモル数を(z)とするとき、(x)/{(x)+(y)+(z)}×100(モル%)の値は、好ましくは0.05〜100であり、さらに好ましくは0.5〜99.9であり、特に好ましくは1〜90である。
【0055】
また、(y)/{(x)+(y)+(z)}×100(モル%)の値は、好ましくは0〜99.95である。さらに好ましくは0〜99.4であり、特に好ましくは0〜98である。
【0056】
また、(z)/{(x)+(y)+(z)}×100(モル%)の値は、好ましくは0〜99.5である。さらに好ましくは0.01〜99であり、特に好ましくは0.1〜98である。
【0057】
ポリアリーレン系共重合体1モルが有するホスホン酸基のモル数を(d)、スルホン酸基のモル数を(e)とするとき、(d)/{(d)+(e)}×100(モル%)の値は、例えば0.01〜100であることが好ましく、0.1〜50であることがより好ましく、0.1〜20であることがさらに好ましく、プロトン伝導度を高く保持する観点からは0.1〜7未満であることがよりさらに好ましく、耐久性を向上させる観点からは3〜10であることがさらに好ましい。(d)/{(d)+(e)}×100の値を上記範囲とすることにより、プロトン伝導度が高く、且つ発電性能を高くすることができ、耐久性を向上させることができる。
【0058】
本発明に係る重合体の分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万、好ましくは2万〜80万、さらに好ましくは5万〜30万である。
【0059】
本発明に係る重合体のイオン交換容量は、例えば0.3〜5meq/gであり、好ましくは0.5〜3.5meq/g、さらに好ましくは0.8〜2.8meq/gである。イオン交換容量が、0.3meq/g以上であれば、プロトン伝導度が高く、且つ発電性能を高くすることができる。一方、5meq/g以下であれば、充分に高い耐水性を具備できる。
【0060】
[ポリアリーレン系共重合体の合成方法]
本発明のポリアリーレン系共重合体は、例えば下記に示すA1法、B1法、またはC1法の3通りの方法を用いて製造することができる。
【0061】
(A1法)
例えば、特開2004−137444号公報に記載の方法により、ホスホン酸基を有する構造単位となるホスホン酸エステルと、スルホン酸基を有する構造単位となるスルホン酸エステルと、芳香族構造を有する構造単位となるモノマーまたはオリゴマーと、を共重合させ、スルホン酸エステル基及びホスホン酸エステル基を有するポリアリーレン系共重合体を製造する。次いで、このスルホン酸エステル基及びホスホン酸エステル基を脱エステル化し、ホスホン酸エステル基をホスホン酸基に、スルホン酸エステル基をスルホン酸基にそれぞれ変換することにより合成することができる。
ただし、上述の(d)/{(d)+(e)}×100の値が100であるポリアリーレン系共重合体を合成する場合には、以上の合成方法において、スルホン酸基を有する構造単位となるスルホン酸エステルを使用せずに合成する。
【0062】
(1)ホスホン酸基を有する構造単位の製造方法
ホスホン酸基を有する構造単位は、ポリアリーレン系共重合体の重合原料として、例えば、下記一般式(1−1)あるいは(1−2)で表される芳香族化合物を使用することにより製造することができる。
【化17】

【0063】
上記一般式(1−1)及び(1−2)中、E、Ar31、Ar32、Ar33、e、f、g及びhは、上記一般式(1)と同様である。
31は、直接結合、−O(CH−、−O(CF−、−(CH−、及び−(CF−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す(pは1〜12の整数を示す)。
32は、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基、アリール基、金属イオン、オニウムイオン、及び水素原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0064】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。フッ素置換アルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。アリル基としては、プロペニル基等が挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、フェニル基が好ましい。
金属イオンとしては、アルカリ金属系のナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アルカリ土類金属系のマグネシウム、カルシウム等が挙げられる。これらのうち、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンが特に好ましい。
オニウムイオンとしては、アンモニウム、ホスホニウム、オキソニウム、スルホニウム等が挙げられる。
【0065】
Xは、フッ素を除くハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素)、及び−OSORb(ここで、Rbはアルキル基、フッ素置換アルキル基、またはアリール基を示す)からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。これらのうち、塩素、臭素が好ましい。
【0066】
上記一般式(1−1)で表される化合物としては、下記に示されるような構造が挙げられる。
【化18】

【0067】
【化19】

【0068】
なお、ホスホン酸基の結合位置は、p位に限定されず、o位またはm位であってもよい。
上記一般式(1−2)における、R33は、−(CR3435h1−(CR3637h2−(CR3839h3−(CR4041h4−で表される2価の基を示す。好ましくは、R33は、分岐していてもよいアルキレン基である。
34〜R41は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基、及びアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。
【0069】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。フッ素置換アルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。アリル基としては、プロペニル基等が挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、フェニル基が好ましい。
【0070】
h1、h2、h3、及びh4は、互いに同一でも異なっていてもよく、0または1であり、h1+h2+h3+h4は2以上である。
【0071】
上記一般式(1−2)で表される構造の具体例としては、下記に示される構造が挙げられる。なお、下記の構造において、Xはハロゲン原子を示す。
【化20】

【0072】
【化21】

【0073】
【化22】

【0074】
ホスホン酸基の結合位置は、p位に限定されず、o位またはm位であってもよい。また、上記一般式(1−1)及び(1−2)で表される芳香族化合物の誘導体として、上記化合物において塩素原子が臭素原子に置き換わった化合物、上記化合物において−CO−が−SO−に置き換わった化合物、上記化合物において塩素原子が臭素原子に置き換わり、且つ−CO−が−SO−に置き換わった化合物等も挙げられる。
上記化合物は、導入するホスホン酸エステル基の置換部位に予め臭素原子を導入した前駆体と、ホスホン酸エステルとを置換反応させることで調製可能である。ホスホン酸塩の場合には、ホスホン酸を導入した後、中和してもよい。
【0075】
(2)スルホン酸基を有する構造単位の製造方法
上述したように、本発明のポリアリーレン系共重合体は、スルホン酸基を有する構造単位を有していることが好ましい。スルホン酸基を有する構造単位は、ポリアリーレン系共重合体の重合原料として、例えば、下記一般式(3−3)または(3−4)で表されるスルホン酸エステル類を使用することにより、導入することができる。
【化23】

【0076】
上記式(3−3)及び(3−4)中、Ar11、Ar12、Ar13は、それぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環等の縮合芳香環、及び含窒素複素環からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。Xは、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、及びトルエンスルホニル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。Yは、−CO−、−COO−、CONH−、−SO−、−SO−、−(CF−(uは1〜10の整数である)、−C(CF−、及び直接結合からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。Zは、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CH−(lは1〜10の整数である)、及び−C(CH−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0077】
11は、直接結合、−O(CH−、−O(CF−、−(CH−、及び−(CF−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す(pは、1〜12の整数を示す)。R12、R13は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、脂肪族炭化水素基、脂環基、及び酸素を有する複素環基を含む炭化水素基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。ただし、上記式中に含まれる全てのR12及びR13のうち少なくとも1個は水素原子である。xは0〜4の整数を示し、xは1〜5の整数を示し、aは0〜1の整数を示し、b、b1及びb2は0〜3の整数を示す。
【0078】
上記式(3−3)及び式(3−4)で表されるモノマーは、好ましくは下記一般式(3−5)で表される構造を有する。
【化24】

【0079】
上記一般式(3−5)中、Yは、直接結合、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、及び−COO−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。これらのうち、−CO−、−SO−、直接結合が好ましい。Zは、直接結合、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、−S−、−CO−、及び−SO−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。これらのうち、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−が好ましい。
【0080】
Xは、フッ素を除くハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素)、及び−OSORb(ここで、Rbはアルキル基、フッ素置換アルキル基、またはアリール基を示す)からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。これらのうち、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、及びトルエンスルホニル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造が好ましい。
【0081】
Arは、−SORc、−O(CHSORc、または−O(CFSORcで表される置換基を有する芳香族基を示す。Rcは、水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基を示す。より好ましくは、水素原子または炭素原子数4〜20の炭化水素基である。炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基、iso−ブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、アダマンタンメチル基、2−エチルヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基、テトラヒドロフルフリル基、2−メチルブチル基、3,3−ジメチル−2,4−ジオキソランメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基等の直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、脂環式炭化水素基、5員の複素環を有する炭化水素基等が挙げられる。これらのうち、n−ブチル基、ネオペンチル基、テトラヒドロフルフリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基が好ましく、さらにはネオペンチル基が好ましい。pは1〜12の整数を示し、より好ましくは1〜10の整数、さらに好ましくは1〜6の整数である。
【0082】
Rは、水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基を示す。より好ましくは、水素原子または炭素原子数4〜20の炭化水素基である。炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基、iso−ブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、アダマンタンメチル基、2−エチルヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基、テトラヒドロフルフリル基、2−メチルブチル基、3,3−ジメチル−2,4−ジオキソランメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基等の直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、脂環式炭化水素基、5員の複素環を有する炭化水素基等が挙げられる。これらのうちn−ブチル基、ネオペンチル基、テトラヒドロフルフリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基が好ましく、さらにはネオペンチル基が好ましい。
【0083】
mは0〜10の整数を示し、好ましくは0〜5の整数、より好ましくは0〜3の整数を示す。
nは0〜10の整数を示し、好ましくは0〜5の整数、より好ましくは0〜3の整数を示す。
kは1〜4の整数を示し、好ましくは1〜3の整数、より好ましくは1〜2の整数を示す。
【0084】
Y、Z、m、n、及びkの好ましい組み合わせの構造としては、以下の構造が挙げられる。
(1)m=1、n=0であり、Y=−CO−、Z=−O−である構造、
(2)m=1、n=1、k=1であり、Y=−CO−、Z=−O−である構造、
(3)m=0、n=1、k=1であり、Y=−CO−、Z=−O−である構造、
(4)m=0、n=1、k=1であり、Y=−CO−、Zが直接結合である構造、
(5)m=0、n=0、であり、Y=−CO−である構造、
(6)m=0、n=0、であり、Yが直接結合である構造。
【0085】
上記一般式(3−3)、(3−4)または(3−5)で表される化合物の具体的な例としては、下記一般式で表される化合物の他、特開2004−137444号公報、特開2004−345997号公報、または特開2004−346163号公報に記載されているスルホン酸エステル類が挙げられる。
【化25】

【0086】
【化26】

【0087】
【化27】

【0088】
これらの中では、保護基がネオペンチルアルコール、イソプロピルアルコール、フルフリルアルコールの化合物が好ましい。
【0089】
また、上記化合物において塩素原子が臭素原子に置き換わった化合物、−CO−が−SO−に置き換わった化合物等も挙げられる。また、塩素原子や臭素原子の結合位置の異なる異性体も挙げられる。
【0090】
(3)芳香族構造を有する構造単位の製造方法
芳香族構造を有する構造単位は、下記一般式(4−2)で表されるオリゴマーから誘導される。
【化28】

【0091】
上記一般式(4−2)中、Ar21、Ar22、Ar23、及びAr24は、それぞれ独立に、ベンゼン環、縮合芳香環(ナフタレン環等)、及び含窒素複素環からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を有する2価の基を示す。
ただし、Ar21、Ar22、Ar23、及びAr24は、その水素原子の一部若しくは全部が、フッ素原子、ニトロ基、ニトリル基、アルキル基、アリル基、及びアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基で置換されていてもよい。また、アルキル基は、その水素原子の一部若しくは全部がフッ素置換されていてもよい。
【0092】
Xは、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、及びトルエンスルホニル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
A及びDは、それぞれ独立に、直接結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、−C(CF−、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−CR’−(R’は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、及び−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示す。s及びtは、0〜4の整数を示し、rは0以上の整数を示す。
【0093】
芳香族構造を有する構造単位は、ポリアリーレン系共重合体の重合原料として、例えば、下記一般式(4−3)で表されるオリゴマーを使用することにより得られる。
【化29】

【0094】
上記一般式(4−3)において、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、及びトルエンスルホニル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
A及びDは、それぞれ独立に、直接結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、−C(CF−、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−CR’−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、及び−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。ここで、−CR’−で表される構造の具体的な例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、プロピル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基、フェニル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0095】
これらのうち、直接結合、−CO−、−SO−、−CR’−(R’は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−が好ましい。
Bは、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子であり、酸素原子が好ましい。
【0096】
〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部または全てがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、及びニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。
【0097】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。アリル基としては、プロペニル基等が挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられる。
【0098】
s及びtは、0〜4の整数を示す。rは0以上の整数を示し、上限は通常100であり、好ましくは1〜80である。
【0099】
s及びtの値と、A、B、D、及びR〜R16の構造についての好ましい組み合わせとしては、
(1)s=1、t=1であり、Aが、−CR’−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、またはフルオレニリデン基であり、Bが酸素原子であり、Dが、−CO−、または−SO−であり、R〜R16が、水素原子またはフッ素原子である構造、
(2)s=1、t=0であり、Bが酸素原子であり、Dが、−CO−、または−SO−であり、R〜R16が、水素原子またはフッ素原子である構造、
(3)s=0、t=1であり、Aが、−CR’−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、またはフルオレニリデン基であり、Bが酸素原子であり、R〜R16が、水素原子、フッ素原子、またはニトリル基である構造、
(4)s=1、t=1または2であり、Aが、−C(CF−、または−C(CR’−(R’は炭化水素基または環状炭化水素基)であり、Bが酸素原子であり、R〜R16が、水素原子、またはフッ素原子である構造、
(5)s=0、t=1または2であり、Aが、−C(CF−、または、−C(CR’−(R’は炭化水素基または環状炭化水素基)であり、Bが酸素原子であり、R〜R16が、水素原子、フッ素原子、またはニトリル基である構造、が挙げられる。
【0100】
上記一般式(4−2)または(4−3)で表されるオリゴマーの具体的な例としては、下記が挙げられる。
【化30】

【0101】
【化31】

【0102】
上記化合物において、塩素原子が臭素原子に置き換わった化合物等も挙げられる。また、塩素原子や臭素原子の結合位置の異なる異性体も挙げられる。
【0103】
上記一般式(4−2)または(4−3)で表されるオリゴマーは、例えば、以下のモノマーを共重合することにより製造することができる。一般式(4−2)及び(4−3)でr=0の場合、例えば4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンズアニリド、2,2−ビス(4−クロロフェニル)ジフルオロメタン、2,2−ビス(4−クロロフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4−クロロ安息香酸−4−クロロフェニルエステル、ビス(4−クロロフェニル)スルホキシド、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリルが挙げられる。
【0104】
これらの化合物において、塩素原子が臭素原子またはヨウ素原子に置き換わった化合物等が挙げられる。r=1の場合、例えば特開2003−113136号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0105】
r≧2の場合、例えば特開2004−137444号公報、特開2004−244517号公報、特願2003−143914号(特開2004−346164号公報)、特願2003−348523号(特開2005−112985号公報)、特願2003−348524号、特願2004−211739号(特開2006−28414号公報)、特願2004−211740号(特開2006−28415号公報)に記載の化合物が挙げられる。
【0106】
(4)ポリアリーレン系共重合体の重合
目的のポリアリーレン系共重合体を得るためは、まず、上記一般式(1)または(2)で表される構造単位となりうる上記一般式(1−1)または(1−2)で表されるモノマーと、上記一般式(3)、(3−1)または(3−2)で表される構造単位となりうる一般式(3−3)、(3−4)または(3−5)で表されるモノマーと、上記一般式(4)または(4−1)で表される構造単位となりうるモノマーまたはオリゴマーの前駆体、すなわち一般式(4−2)または(4−3)とを共重合させ、前駆体のポリアリーレンを得ることが必要である。この共重合は、触媒の存在下に行われるが、この際使用される触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、この触媒系としては、(i)遷移金属塩及び配位子となる化合物(以下、「配位子成分」という。)、または配位子が配位された遷移金属錯体(銅塩を含む)と、(ii)還元剤と、を必須成分とし、さらに、重合速度を上げるために、遷移金属塩以外の塩を添加してもよい。
【0107】
ここで、遷移金属塩としては、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート等のニッケル化合物、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム等のパラジウム化合物、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄等の鉄化合物、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト等のコバルト化合物等が挙げられる。これらのうち特に、塩化ニッケル、臭化ニッケル等が好ましい。また、配位子としては、トリフェニルホスフィン、トリ(2−メチル)フェニルホスフィン、トリ(3−メチル)フェニルホスフィン、トリ(4−メチル)フェニルホスフィン、2,2’−ビピリジン、1,5−シクロオクタジエン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン等が挙げられるが、トリフェニルホスフィン、トリ(2−メチル)フェニルホスフィン、2,2’−ビピリジンが好ましい。上記配位子は、1種単独で、あるいは2種以上を併用することができる。
【0108】
さらに、予め配位子が配位された遷移金属(塩)としては、例えば、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケルビス(トリ(2−メチル)フェニルホスフィン)、臭化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、ヨウ化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、硝酸ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2’ビピリジン)、臭化ニッケル(2,2’ビピリジン)、ヨウ化ニッケル(2,2’ビピリジン)、硝酸ニッケル(2,2’ビピリジン)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等が挙げられるが、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケルビス(トリ(2−メチル)フェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2’ビピリジン)が好ましい。
【0109】
本発明の触媒系において使用することができる上記還元剤としては、例えば、鉄、亜鉛、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウム等を挙げることできるが、亜鉛、マグネシウム、マンガンが好ましい。これらの還元剤は、有機酸等の酸に接触させることにより、より活性化させて用いることができる。
【0110】
また、本発明の触媒系において使用することのできる遷移金属塩以外の塩としては、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウム等のナトリウム化合物、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硫酸カリウム等のカリウム化合物、フッ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、硫酸テトラエチルアンモニウム等のアンモニウム化合物等が挙げられるが、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウムが好ましい。
【0111】
触媒系における各成分の使用割合は、遷移金属塩または配位子が配位された遷移金属(塩)が、上記一般式(1)または(2)で表される構造単位となりうる上記一般式(1−1)または(1−2)で表されるモノマーと、上記一般式(3)、(3−1)または(3−2)で表される構造単位となりうる一般式(3−3)、(3−4)または(3−5)で表されるモノマーと、上記一般式(4)または(4−1)で表される構造単位となりうるモノマーまたはオリゴマーの前駆体、すなわち一般式(4−2)または(4−3)の総計1モルに対し、通常、0.0001〜10モル、好ましくは0.01〜0.5モルである。この範囲にあれば重合反応が充分に進行し、しかも触媒活性が高く、分子量を高くすることも可能となる。前記範囲よりも少ないと、重合反応が充分に進行しない一方、前記範囲よりも多いと、分子量が低下するという問題がある。触媒系において、遷移金属塩及び配位子を用いる場合、この配位子の使用割合は、遷移金属塩1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、触媒活性が不充分となり、一方、100モルを超えると、分子量が低下するという問題がある。
【0112】
また、触媒系における還元剤の使用割合は、上記一般式(1)または(2)で表される構造単位となりうる上記一般式(1−1)または(1−2)で表されるモノマーと、上記一般式(3)、(3−1)または(3−2)で表される構造単位となりうる一般式(3−3)、(3−4)または(3−5)で表されるモノマーと、上記一般式(4)または(4−1)で表される構造単位となりうるモノマーまたはオリゴマーの前駆体、すなわち一般式(4−2)または(4−3)の総計1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。この範囲にあれば、重合が充分に進行し、高収率で重合体を得ることができる。前記範囲の下限未満では、重合が充分進行しない一方、上限を超えると、得られる重合体の精製が困難になるという問題がある。
【0113】
さらに、触媒系に遷移金属塩以外の塩を使用する場合、その使用割合は、上記一般式(1)または(2)で表される構造単位となりうる上記一般式(1−1)または(1−2)で表されるモノマーと、上記一般式(3)、(3−1)または(3−2)で表される構造単位となりうる一般式(3−3)、(3−4)または(3−5)で表されるモノマーと、上記一般式(4)または(4−1)で表される構造単位となりうるモノマーまたはオリゴマーの前駆体、すなわち一般式(4−2)または(4−3)の総計1モルに対し、通常、0.001〜100モル、好ましくは0.01〜1モルである。0.001モル未満では、重合速度を上げる効果が不充分であり、一方、100モルを超えると、得られる重合体の精製が困難となるという問題がある。
【0114】
本発明で使用することのできる重合溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム等が挙げられ、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドンが好ましい。これらの重合溶媒は、充分に乾燥してから用いることが好ましい。重合溶媒中における上記一般式(1)または(2)で表される構造単位となりうる上記一般式(1−1)または(1−2)で表されるモノマーと、上記一般式(3)、(3−1)または(3−2)で表される構造単位となりうる一般式(3−3)、(3−4)または(3−5)で表されるモノマーと、上記一般式(4)または(4−1)で表される構造単位となりうるモノマーまたはオリゴマーの前駆体、すなわち一般式(4−2)または(4−3)の総計の濃度は、通常、1〜90重量%、好ましくは5〜40重量%である。
【0115】
また、本発明の重合体を重合する際の重合温度は、通常、0〜200℃、好ましくは50〜80℃である。また、重合時間は、通常、0.5〜100時間、好ましくは1〜40時間である。
【0116】
(B1法)
例えば、特開2001−342241号公報に記載の方法で、上記一般式(1−1)または(1−2)で表されるホスホン酸エステルと、上記一般式(3−3)、(3−4)または(3−5)で表される骨格を有し、スルホン酸基及びスルホン酸エステル基を有しないモノマーと、上記一般式(4)または(4−1)で表される構造単位となりうるモノマーまたはオリゴマー、すなわち一般式(4−2)または(4−3)とを共重合させ、この重合体を、スルホン化剤を用いて、スルホン化することにより合成することもできる。
【0117】
(C1法)
上記一般式(3)、(3−1)または(3−2)において、Arが、−O(CHSOH、または−O(CFSOHで表される置換基を有する芳香族基である場合には、例えば、特願2003−295974号(特開2005−60625号公報)に記載の方法で、上記一般式(1−1)または(1−2)で表されるホスホン酸エステルと、上記一般式(3)、(3−1)または(3−2)で表される構造単位となりうる前駆体のモノマーと、上記一般式(4)または(4−1)で表される構造単位となりうるモノマーまたはオリゴマーと、を共重合させ、次にアルキルスルホン酸またはフッ素置換されたアルキルスルホン酸を導入する方法で合成することもできる。
【0118】
ホスホン酸及びスルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体は、この前駆体のポリアリーレンを、ホスホン酸及びスルホン酸基を有するポリアリーレンに変換して得ることができる。この方法としては、下記の3通りの方法がある。
【0119】
(A2法)
前駆体のホスホン酸エステル基及びスルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを、特開2004−137444号公報に記載の方法で脱エステル化する方法である。
【0120】
(B2法)
前駆体のホスホン酸基またはホスホン酸エステル基を有するポリアリーレンを、特開2001−342241号公報に記載の方法でスルホン化する方法である。
【0121】
(C2法)
前駆体のホスホン酸基またはホスホン酸エステル基を有するポリアリーレンに、特願2003−295974号(特開2005−60625号公報)に記載の方法で、アルキルスルホン酸基を導入する方法である。
【0122】
(A2法)は、加水分解によりホスホン酸エステル基をホスホン酸基(−P=O(OH))に、スルホン酸エステル基をスルホン酸基(−SOH)に転換する方法である。具体的には、
(1)少量の塩酸を含む過剰量の水またはアルコールに、上記ポリアリーレンを投入し、5分間以上撹拌する方法、
(2)トリフルオロ酢酸中で上記ポリアリーレンを、80〜120℃程度の温度で5〜10時間程度反応させる方法、
(3)ポリアリーレン中のスルホン酸エステル基(−SOR)、ホスホン酸エステル基1モルに対して1〜9倍モルのリチウムブロマイドを含む溶液、例えばN−メチルピロリドン等の溶液中で、上記ポリアリーレンを80〜150℃程度の温度で3〜10時間程度反応させた後、塩酸を添加する方法、等が挙げられる。
【0123】
なお、(B2法)、(C2法)にて、スルホン化ないしアルキルスルホン酸基を導入する際には、予め(A2法)で、ホスホン酸エステル基を加水分解していてもよく、またスルホン酸基を導入後、ホスホン酸エステル基を加水分解していてもよい。
【0124】
(B2法)は、スルホン酸基、スルホン酸エステル基を有しない前駆体のホスホン酸基あるいはホスホン酸エステル基を有するポリアリーレンを、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、硫酸、亜硫酸水素ナトリウム等の公知のスルホン化剤を用いて、公知の条件でスルホン化することができる〔PolymerPreprints,Japan,Vol.42,No.3,p.730(1993);PolymerPreprints,Japan,Vol.42,No.3,p.736(1994);PolymerPreprints,Japan,Vol.42,No.7,p.2490〜2492(1993)〕。すなわち、このスルホン化の反応条件としては、スルホン酸基、スルホン酸エステル基を有しない前駆体のポリアリーレンを、無溶剤下、あるいは溶剤存在下で、上記スルホン化剤と反応させる。溶剤としては、例えばn−ヘキサン等の炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような非プロトン系極性溶剤のほか、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。反応温度は特に制限はないが、通常、−50〜200℃、好ましくは−10〜100℃である。また、反応時間は、通常、0.5〜1,000時間、好ましくは1〜200時間である。
【0125】
(C2法)では、上記一般式(1−1)または(1−2)で表されるホスホン酸化合物と、上記一般式(3)、(3−1)または(3−2)で表される骨格を有し、スルホン酸基、スルホン酸エステル基を有しないモノマーであり且つ末端にOH基またはSH基を有する化合物(下記の一般式(3’a)、一般式(3’b)、または一般式(3’−1)で表される化合物)と、上記一般式(4)または(4−1)で表される構造単位となりうるモノマーまたはオリゴマー、すなわち一般式(4−2)または(4−3)で表される化合物とを共重合させた後、OH基またはSH基を、−OM基または−SM基(Mは、水素原子またはアルカリ金属原子を示す)に置換した後、下記一般式(5)または(6)で表される化合物をアルカリ条件下で反応させることにより、スルホン化することができる。
【0126】
【化32】

【0127】
上記一般式(3’a)、一般式(3’b)、一般式(3’−1)中、Xはハロゲン原子であり、Ar”はOH基またはSH基を有する芳香族基を示す。また、Y、Z、Ar11、Ar12、Ar13、a、b、m、n、kは、上記一般式(3)、(3−1)、(3−2)と同様である。
【0128】
上記一般式(5)及び(6)中、R40は、水素原子、フッ素原子、アルキル基、及びフッ素置換アルキル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示し、gは、1〜20の整数を示す。
上記一般式(6)中、Lは、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を示し、Mは、水素原子またはアルカリ金属原子を示す。
【0129】
上記のイオン交換容量は、各構造単位の種類、使用割合、組み合わせを変えることにより、調整することができる。したがって、重合時に構造単位を誘導する前駆体(モノマー・オリゴマー)の仕込み量比、種類を変えれば調整することができる。
概してスルホン酸基やホスホン酸基を含む構造単位が多くなるとイオン交換容量が増え、プロトン伝導性が高くなるが、耐水性が低下する傾向にある。一方、これらの構造単位が少なくなるとイオン交換容量が小さくなり、耐水性が高まるが、プロトン伝導性が低下する傾向にある。また、ホスホン酸基の量が多くなると、ラジカル耐性が高くなる傾向になる。
【0130】
[プロトン伝導膜]
本発明で用いるポリアリーレン系共重合体は、上記共重合体からなるが、燃料電池用高分子固体電解質に用いる場合には、膜状態で用いられる(以下、膜状態のことをプロトン伝導膜という)。
【0131】
本発明で用いるプロトン伝導膜は、上記ポリアリーレン系共重合体を有機溶剤中で混合させ、それを基体上に流延してフィルム状に成形するキャスティング法等により製造することができる。ここで、上記基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、例えばプラスチック製や金属製等の基体が用いられ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0132】
上記ポリアリーレン系共重合体を混合させる溶媒としては、共重合体を溶解する溶媒や膨潤させる溶媒であれば良く、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル等の非プロトン系極性溶剤や、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、iso−プロピルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ−ブチルラクトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン等のエーテル類等の溶剤が挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に溶解性、溶液粘度の面から、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」ともいう。)が好ましい。
【0133】
また、上記溶媒として、非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との混合物を用いる場合、該混合物の組成は、非プロトン系極性溶剤が95〜25質量%、好ましくは90〜25質量%、他の溶剤が5〜75質量%、好ましくは10〜75質量%(但し、合計は100質量%)である。他の溶剤の量が上記範囲内にあると、溶液粘度を下げる効果に優れる。この場合の非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との組み合わせとしては、非プロトン系極性溶剤としてNMP、他の溶剤として幅広い組成範囲で溶液粘度を下げる効果があるメタノールが好ましい。
【0134】
上記ポリアリーレン系共重合体と添加剤を溶解させた溶液のポリマー濃度は、上記ポリアリーレン系共重合体の分子量にもよるが、通常、5〜40質量%、好ましくは7〜25質量%である。5質量%未満では、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすい。一方、40質量%を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
【0135】
なお、溶液粘度は、上記ポリアリーレン系共重合体の分子量や、ポリマー濃度や、添加剤の濃度にもよるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。2,000mPa・s未満では、成膜中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがある。一方、100,000mPa・sを超えると、粘度が高過ぎて、ダイからの押し出しができず、流延法によるフィルム化が困難となることがある。
【0136】
上記のようにして成膜した後、得られた未乾燥フィルムを水に浸漬すると、未乾燥フィルム中の有機溶剤を水と置換することができ、得られるプロトン伝導膜の残留溶媒量を低減することができる。
【0137】
なお、成膜後、未乾燥フィルムを水に浸漬する前に、未乾燥フィルムを予備乾燥してもよい。予備乾燥は、未乾燥フィルムを通常50〜150℃の温度で、0.1〜10時間保持することにより行われる。
【0138】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後に乾燥すると、残存溶媒量が低減された膜が得られるが、このようにして得られる膜の残存溶媒量は、通常5質量%以下である。また、浸漬条件によっては、得られる膜の残存溶媒量を1質量%以下とすることができる。このような条件としては、例えば、未乾燥フィルム1質量部に対する水の使用量が50質量部以上であり、浸漬する際の水の温度が10〜60℃、浸漬時間が10分〜10時間である。
【0139】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後、フィルムを30〜100℃、好ましくは50〜80℃で、10〜180分、好ましくは15〜60分乾燥する。次いで、50〜150℃で、好ましくは500mmHg〜0.1mmHgの減圧下、0.5〜24時間、真空乾燥することにより、膜を得ることができる。
本発明の方法により得られるプロトン伝導膜は、その乾燥膜厚が、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。
【0140】
また、上記スルホン酸エステル基またはスルホン酸のアルカリ金属塩を有するポリアリーレン系共重合体を、上述したような方法でフィルム状に成形した後、加水分解や酸処理等の適切な後処理をすることにより、本発明で用いるプロトン伝導膜を製造することもできる。具体的には、スルホン酸エステル基またはスルホン酸のアルカリ金属塩を有するポリアリーレン系共重合体を上述したような方法でフィルム状に成形した後、その膜を加水分解または酸処理することにより、スルホン酸基を含有するポリアリーレン系共重合体からなるプロトン伝導膜を製造することができる。
【0141】
また、プロトン伝導膜を製造する際に、上記ポリアリーレン系共重合体以外に、硫酸、リン酸等の無機酸、リン酸ガラス、タングステン酸、リン酸塩水和物、β−アルミナプロトン置換体、プロトン導入酸化物等の無機プロトン伝導体粒子、カルボン酸を含む有機酸、スルホン酸を含む有機酸、ホスホン酸を含む有機酸、適量の水等を併用しても良い。
【0142】
[電極]
本発明で用いる電極は、触媒金属粒子または触媒金属粒子を導電性担体に担持してなる電極触媒、電極電解質からなり、必要に応じて炭素繊維、分散剤、撥水剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0143】
触媒金属粒子としては、触媒活性を有するものであれば特に限定されないが、白金ブラック等の貴金属微粒子そのものからなるメタルブラックを使うことができる。
【0144】
触媒金属粒子を担持させる導電性担体としては、導電性と適度な耐食性を備えていれば特に限定されないが、触媒金属粒子を高分散させるための十分な比表面積を有し、且つ十分な電子伝導性を有することから、カーボン(炭素)を主成分とするものを使用することが望ましい。電極を構成する触媒担体は、触媒金属粒子を担持するだけではなく、電子を外部回路に取り出す、あるいは外部回路から取り入れるための集電体としての機能を果たさなければならない。触媒担体の電気抵抗が高いと電池の内部抵抗が高くなり、結果として電池の性能を低下させることになる。そのため、電極に含まれる触媒担体の電子導電率は十分に高くなければならない。つまり、電極触媒担体として十分な電子導電性を持っていれば利用可能で、好適には細孔の発達したカーボン材料が用いられる。細孔の発達したカーボン材料としては、カーボンブラックや活性炭等が好ましく使用できる。カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等が挙げられ、また活性炭は、種々の炭素原子を含む材料を炭化、賦活処理して得られる。また、電子導電性を有する金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物や高分子化合物を含むことも可能である。なお、ここで言う主成分とは、60%以上の炭素質を含有することを意味する。
【0145】
また、導電性担体に担持させる触媒金属粒子としては、白金または白金合金を用いるが、白金合金を使用すると、電極触媒としての安定性や活性をさらに付与させることもできる。白金合金としては、白金以外の白金族の金属(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム)、コバルト、鉄、チタン、金、銀、クロム、マンガン、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素、レニウム、亜鉛、及びスズからなる群より選ばれた1種以上と白金との合金が好ましく、該白金合金には、白金と合金化される金属との金属間化合物が含有されていてもよい。
【0146】
白金または白金合金の担持率(担持触媒全質量に対する白金または白金合金の質量の割合)は、20〜80質量%、特に30〜55質量%が好ましい。この範囲であれば、高い出力を得られる。担持率が20質量%未満では、充分な出力を得られないおそれがあり、80質量%を超えると、白金または白金合金の粒子を分散性よく担体となるカーボン材料に担持できないおそれがある。
【0147】
また、白金または白金合金の一次粒子径は、高活性なガス拡散電極を得るためには1〜20nmであることが好ましく、特には、反応活性の点で白金または白金合金の表面積を大きく確保できる2〜5nmであることが好ましい。
【0148】
電極電解質としては、スルホン酸基を有するイオン伝導性高分子電解質(イオン伝導性バインダー)が好適に用いられる。通常、担持触媒は当該電解質により被覆されており、この電解質の繋がっている経路を通ってプロトン(H)が移動する。
【0149】
スルホン酸基を有するイオン伝導性高分子電解質としては、特に、NafionやFlemion、Aciplexに代表されるパーフルオロカーボン重合体が好適に用いられる。なお、パーフルオロカーボン重合体だけでなく、ポリスチレンスルホン酸等のビニル系モノマーのスルホン化物、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン等の耐熱性高分子に、スルホン酸基またはリン酸基を導入したポリマーや、本明細書で記載されているポリアリーレン系共重合体等の芳香族系炭化水素化合物を主とするイオン伝導性高分子電解質を用いてもよい。
【0150】
また、上記イオン伝導性バインダーは、触媒粒子に対し、質量比で0.1〜3.0の割合で含有することが好ましく、特に0.3〜2.0の割合で含有することが好ましい。イオン伝導性バインダー比が0.1未満であると、プロトンを電解膜に伝達することができず、充分な出力が得られないおそれがあり、また、3.0を超えると、イオン伝導性バインダーが触媒粒子を完全に被覆してしまい、ガスが白金に到達できず、充分な出力が得られないおそれがある。
【0151】
必要に応じて添加することのできる炭素繊維としては、レーヨン系炭素繊維、PAN系炭素繊維、リグニンポバール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維等を用いることができ、これらの中では気相成長炭素繊維が好ましい。炭素繊維を含んでいると、電極触媒層中の細孔容積が増加するため、燃料ガスや酸素ガスの拡散性が向上し、また、生成する水によるフラッディング等を改善でき、発電性能が向上する。
なお、炭素繊維は、アノード側、カソード側の電極触媒層のいずれか一方または双方に含まれていてもよい。
【0152】
分散剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等が挙げられる。上記分散剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、好ましくは塩基性基を有する界面活性剤であり、より好ましくはアニオン性若しくはカチオン性の界面活性剤であり、さらに好ましくは分子量5,000〜30,000の界面活性剤である。電極触媒層を形成する際に使用される電極用ペースト組成物に上記分散剤を添加すると、保存安定性及び流動性に優れ、塗工時の生産性が向上する。
【0153】
[膜−電極構造体]
本発明の膜−電極構造体は、アノードの触媒層、プロトン伝導膜、及びカソードの触媒層のみからなってもよいが、アノード、カソードともに触媒層の外側にカーボンペーパーやカーボンクロスのような導電性多孔質基材からなるガス拡散層が配置されるとさらに好ましい。ガス拡散層は集電体としても機能するので、本明細書ではガス拡散層を有する場合は、ガス拡散層と触媒層とを合わせて電極というものとする。
【0154】
本発明の膜−電極構造体を備える固体高分子型燃料電池では、カソードには酸素を含むガス、アノードには水素を含むガスが供給される。具体的には、例えばガスの流路となる溝が形成されたセパレータを膜−電極構造体の両方の電極の外側に配置し、ガスの流路にガスを流すことにより膜−電極構造体に燃料となるガスを供給する。
【0155】
本発明の膜−電極構造体を製造する方法としては、プロトン伝導膜の上に触媒層を直接形成し、必要に応じてガス拡散層で挟み込む方法、カーボンペーパー等のガス拡散層となる基材上に触媒層を形成し、これをプロトン伝導膜と接合する方法、及び平板上に触媒層を形成し、これをプロトン伝導膜に転写した後に平板を剥離し、さらに必要に応じてガス拡散層で挟み込む方法等の各種の方法が採用できる。
【0156】
触媒層の形成方法としては、担持触媒と、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体と、を分散媒に分散させた分散液を用いて(必要に応じて撥水剤、造孔剤、増粘剤、希釈溶媒等を加え)、イオン交換膜、ガス拡散層、または平板上に形成させる公知の方法が採用できる。
【0157】
上記電極用ペースト組成物の形成方法としては、刷毛塗り、筆塗り、バーコーター塗布、ナイフコーター塗布、ドクターブレード法、スクリーン印刷、スプレー塗布等が挙げられる。
触媒層をプロトン伝導膜上に直接形成しない場合は、触媒層とプロトン伝導膜とは、ホットプレス法、接着法(特開平7−220741参照)等により接合することが好ましい。
【実施例】
【0158】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において、「%」とは特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0159】
[評価用プロトン伝導膜の調製]
後述の各実施例及び比較例で得られた共重合体を、N−メチルピロリドン/メタノール溶液に溶解させた後、アプリケーターを用いてPET基板上にキャスティングし、オーブンを用いて60℃×30分、80℃×40分、120℃×60分乾燥させた。乾燥して得られた膜を脱イオン水に浸漬した。浸漬後、50℃×45分乾燥させることにより、評価用のプロトン伝導膜を得た。
【0160】
[分子量]
各実施例及び比較例で得られた共重合体を、N−メチルピロリドン緩衝溶液(以下、NMP緩衝溶液という。)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めた。NMP緩衝溶液は、NMP(3L)/リン酸(3.3mL)/臭化リチウム(7.83g)の比率で調製した。
【0161】
[ホスホン酸基及びスルホン酸基の量比]
ポリアリーレン系共重合体の重合反応に使用した原料全体の中に存在するホスホン酸基の量と、スルホン酸基の量の比率を求めた。
【0162】
[イオン交換容量の測定]
得られたポリアリーレン系共重合体の水洗水がpH4〜6になるまで洗浄し、フリーの残存している酸を除去した。その後、十分に洗浄して乾燥した後、所定量を秤量し、THF/水の混合溶剤に溶解させた。次いで、フェノールフタレインを指示薬として、NaOHの標準液にて滴定を行い、中和点からイオン交換容量を求めた。
【0163】
[プロトン伝導度の測定]
交流抵抗は、5mm幅の短冊状の試料膜の表面に、白金線(f=0.5mm)を押し当て、恒温恒湿装置中に試料を保持し、白金線間の交流インピーダンス測定から求めた。すなわち、85℃、相対湿度90%の環境下で交流10kHzにおけるインピーダンスを測定した。抵抗測定装置として、株式会社NF回路設計ブロック製のケミカルインピーダンス測定システムを用い、恒温恒湿装置には、株式会社ヤマト科学製のJW241を使用した。白金線は、5mm間隔に5本押し当てて、線間距離を5〜20mmに変化させ、交流抵抗を測定した。下記数式(1)に従って、線間距離と抵抗の勾配から膜の比抵抗を算出し、比抵抗の逆数からプロトン伝導度を算出した。
【数1】

【0164】
[フェントン試験]
3質量%の過酸化水素に、硫酸鉄七水和物を鉄イオンの濃度が5ppmになるように添加し、フェントン試薬を調製した。50mlのガラス製サンプル管に50gのフェントン試薬を採取し、2cm×3cmに切削したプロトン伝導膜を投入後、密栓後、45℃の恒温水槽に浸漬させ、24時間のフェントン試験を行った。フェントン試験後、フィルムを取り出し、イオン交換水にて水洗後、25℃・相対湿度50%で12時間放置し、各種物性測定を行った。
フェントン試験における質量保持率は、下記数式(2)により算出した。質量保持率が95%以上のものを「○」、50%を超え95%未満のものを「△」、50%以下のものを「×」で表示した。
【数2】

【0165】
また、フェントン試験におけるイオン交換容量保持率は、下記数式(3)により算出した。イオン交換容量保持率が95%以上のものを「○」、95%未満のものを「△」、測定不可のものを「×」で表示した。
【数3】

【0166】
[熱水試験]
フィルムを2.0cm×3.0cmにカットして秤量し、試験用のテストピースとした。24℃、相対湿度(RH)50%条件下で状態調整した後、このフィルムを、ポリカーボネート製の250ml瓶に入れ、そこに約100mlの蒸留水を加え、プレッシャークッカー試験機(HIRAYAMA MFS CORP製、PC−242HS)を用いて、120℃で24時間加温した。試験終了後、各フィルムを熱水中から取り出し、軽く表面の水をキムワイプで拭き取った後、寸法を測定し、下記数式(4)により膨潤率を算出した。この膜を24℃、RH50%条件下で状態調整した後、水を留去して熱水試験後の膜の寸法を測定し、下記数式(5)により収縮率を算出した。面内寸法変化率は、下記数式(6)により算出した。
【数4】

【0167】
[発電特性の評価]
得られた膜−電極構造体を用いて、温度70℃、燃料極側/酸素極側の相対湿度を100%/100%、電流密度を1A/cmとした発電条件により、発電性能を評価した。燃料極側には純水素を、酸素極側には空気をそれぞれ供給した。さらに、発電耐久性の評価として、この膜−電極構造体を用い、温度100℃、相対湿度70/70%RHの条件下でOCV耐久テストを100時間実施し、耐久後のプロトン伝導膜の分子量を測定した。初期の分子量に対する耐久後の分子量の保持率が90%以上のものを「◎」、80%を超え90%未満のものを「○」、80%以下のものを「×」で表示した。
【0168】
<ホスホン酸基を有する構造単位の合成例1>
撹拌羽根、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの3口フラスコに、1,4−ジクロロベンゼン134.0g(0.91mol)、3−ブロモベンゾイルクロライド100.0g(0.46mol)、塩化アルミニウム121.5g(0.91mol)を取り、135℃で4時間撹拌した。反応終了後、氷水に滴下し、トルエンから抽出を行った。1%炭酸水素ナトリウム水溶液により中和した後、飽和食塩水で洗浄し、濃縮を行った。ヘキサンから再結晶を行うことにより、下記式(30−1)で表される化合物を得た。収量は96.1gであった。
【0169】
撹拌羽根、温度計、窒素導入管を取り付けた1Lの3口フラスコに、式(30−1)で表される化合物33.0g(0.1mol)、亜リン酸ジエチル15.2g(0.11mol)、テトラキス(トリフェニルホスフィノ)パラジウム5.78g(5mmol)、トリエチルアミン11.13g(0.11mol)を取り、80℃で3時間撹拌した。反応終了後、析出した塩をろ過で取除き、溶媒を濃縮した。トルエン/酢酸エチルを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製を行い、下記式(30−2)で表される化合物を得た。収量は18.5gであった。
【化33】

【0170】
<ホスホン酸基を有する構造単位の合成例2>
撹拌羽根、温度計、窒素導入管を取り付けた1Lの3口フラスコに、式(30−1)で表される化合物33.0g(0.1mol)、2−ヒドロキシ−1,3,2−ジオキサフォスフォリナン13.43g(0.11mol)、テトラキス(トリフェニルホスフィノ)パラジウム5.78g(5mmol)、トリエチルアミン11.13g(0.11mol)を取り、80℃で3時間撹拌した。反応終了後、析出した塩をろ過で取除き、溶媒を濃縮した。トルエンから再結晶で精製を行い、下記式(30−3)で表される化合物を得た。収量は20.4gであった。
【化34】

【0171】
<ホスホン酸基を有する構造単位の合成例3>
撹拌羽根、温度計、窒素導入管を取り付けた1Lの4口フラスコに、3,5−ジクロロアニリン32.4g(0.2mol)を取り、濃塩酸125mL、水125mLに分散させ、−10℃に冷却した。亜硝酸ナトリウム13.8g(0.2mol)を水80mLに溶解させた水溶液を、−5℃以下を保ちながら滴下した。滴下終了後、−5℃以下で30分間撹拌を続け、ヨウ化ナトリウム60g(0.4mol)を水100mLに溶解させた水溶液に0℃で滴下した。気体の発生が止まった後、反応溶液に水を加えて希釈した。亜硫酸ナトリウムを遊離ヨウ素による濃い着色が消えるまで加えた。水蒸気蒸留、エタノールから再結晶で精製を行い、目的物である1−ヨード−3,5−ジクロロベンゼンの無色結晶29.5gを得た。
【0172】
撹拌羽根、温度計、窒素導入管を取り付けた500mLの3口フラスコに、上記で得られた1−ヨード−3,5−ジクロロベンゼン27.29g(0.10mol)、2−ヒドロキシ−1,3,2−ジオキサフォスフォリナン13.43g(0.11mol)、テトラキス(トリフェニルホスフィノ)パラジウム5.78g(5mmol)、トリエチルアミン11.13g(0.11mol)、トルエン150mLを取り、80℃で5時間撹拌した。反応終了後、析出した塩をろ過で取除き、溶媒を濃縮した。トルエンから再結晶で精製を行い、目的物である下記式(30−12)で表される化合物を得た。収量は20.3gであった。
【化35】

【0173】
<ホスホン酸基を有する構造単位の合成例4>
撹拌羽根、温度計、窒素導入管を取り付けた500mLの3口フラスコに、1−ブロモ−2,5−ジクロロベンゼン22.59g(0.10mol)、2−ヒドロキシ−1,3,2−ジオキサフォスフォリナン13.43g(0.11mol)、テトラキス(トリフェニルホスフィノ)パラジウム5.78g(5mmol)、トリエチルアミン11.13g(0.11mol)、トルエン150mLを取り、80℃で5時間撹拌した。反応終了後、析出した塩をろ過で取除き溶媒を濃縮した。トルエンから再結晶で精製を行い、目的物である下記式(30−13)で表される化合物を得た。収量は19.2gであった。
【化36】

【0174】
<スルホン酸基を有する構造単位の合成例>
撹拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸(233.0g、2mol)を加え、続いて下記式(30−4)で表される2,5−ジクロロベンゾフェノン(100.4g、400mmol)を加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷(1000g)にゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、下記式(30−5)で表される淡黄色の粗結晶(3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリド)を得た。粗結晶は精製することなく、そのまま次工程に用いた。
【0175】
2,2−ジメチル−1−プロパノール(ネオペンチルアルコール)(38.8g、440mmol)をピリジン300mlに加え、約10℃に冷却した。ここに、上記で得られた粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分撹拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1000ml中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、目的物である下記式(30−6)で表される3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの白色結晶を得た。
【化37】

【0176】
<芳香族構造を有する構造単位の合成例1>
撹拌機、温度計、冷却管、Dean−Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1Lの三つ口のフラスコに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン67.3g(0.20mol)、4,4’−ジクロロベンゾフェノン(4,4’−DCBP)60.3g(0.24mol)、炭酸カリウム71.9g(0.52mol)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)300mL、トルエン150mLをとり、オイルバス中、窒素雰囲気下で加熱し、撹拌下130℃で反応させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean−Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を130℃から徐々に150℃まで上げながら大部分のトルエンを除去し、150℃で10時間反応を続けた後、4,4’−DCBP10.0g(0.040mol)を加え、さらに5時間反応した。得られた反応液を放冷後、副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を4Lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン300mLに溶解した。これをメタノール4Lに再沈殿し、目的の化合物95g(収率85%)を得た。
得られた共重合体のGPC(THF溶媒)で求めたポリスチレン換算のMnは、11,200であった。得られた化合物は、下記式(30−7)で表されるオリゴマーであった。
【化38】

【0177】
<芳香族構造を有する構造単位の合成例2>
撹拌機、温度計、Dean−stark管、窒素導入管、冷却管をとりつけた1Lの三口フラスコに、2,6−ジクロロベンゾニトリル154.8g(0.9mol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン269.0g(0.8mol)、炭酸カリウム143.7g(1.04mol)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン1020mL、トルエン510mLを加えて撹拌した。オイルバスで反応液を150℃で加熱還流させた。反応によって生成する水はDean−stark管にトラップした。3時間後、水の生成がほとんど認められなくなったところで、トルエンをDean−stark管から系外に除去した。徐々に反応温度を200℃に上げ、3時間撹拌を続けた後、2,6−ジクロロベンゾニトリル51.6g(0.3mol)を加え、さらに5時間反応させた。
【0178】
反応液を放冷後、トルエン250mLを加えて希釈した。反応液に不溶の無機塩を濾過し、濾液をメタノール8Lに注いで生成物を沈殿させた。沈殿した生成物を濾過、乾燥後、テトラヒドロフラン500mLに溶解し、これをメタノール5Lに注いで再沈殿させた。沈殿した白色粉末を濾過、乾燥し、目的物258gを得た。GPCで測定したMnは7,500であった。得られた化合物は、下記式(30−8)で表されるオリゴマーであることを確認した。
【化39】

【0179】
(実施例1)
上記式(30−2)で表される化合物6.13g(16mmol)、上記式(30−6)で表される化合物31.75g(79mmol)、上記式(30−7)で表される疎水性ユニット12.32g(1mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド1.96g(3.0mmol)、トリフェニルホスフィン10.49g(40mmol)、ヨウ化ナトリウム0.45g(3.0mmol)、及び亜鉛15.69g(240mmol)の混合物中に、乾燥したDMAc166mLを窒素下で加えた。
【0180】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には79℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc268mLで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い、濾過した。
【0181】
濾液に臭化リチウム42.04g(484mmol)を加え、内温110℃で7時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、水3.5Lに注ぎ、凝固させた。凝固物をアセトンに浸漬し、濾過して洗浄した。洗浄物を1N硫酸740gで撹拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄した。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは69,000、Mwは185,000であった。イオン交換容量は2.28meq/gであった。得られたポリマーは、下記一般式(30−9)で表されるポリマーであった。
【化40】

【0182】
(実施例2)
上記式(30−2)で表される化合物6.10g(15.8mmol)、上記式(30−6)で表される化合物31.62g(78.8mmol)、上記式(30−8)で表される疎水性ユニット12.3g(1.5mmol)、及び臭化リチウム41.9g(482.1mmol)を用いる以外は、実施例1と同様に行った。
【0183】
得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは69,000、Mwは199,000であった。イオン交換容量は2.24meq/gであった。得られたポリマーは、下記一般式(30−10)で表されるポリマーであった。
【化41】

【0184】
(実施例3)
上記式(30−3)で表される化合物2.92g(7.86mmol)、上記式(30−6)で表される化合物36.34g(90.6mmol)、上記式(30−8)で表される疎水性ユニット12.8g(1.56mmol)、DMAC172ml、及び臭化リチウム83.10g(956.8mmol)を用いる以外は、実施例2と同様に行った。
得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは77,000、Mwは274,000であった。イオン交換容量は2.45meq/gであった。
【0185】
(実施例4)
上記式(30−3)で表される化合物を2.19g(5.91mmol)、上記式(30−6)で表される化合物を37.13g(92.5mmol)、及び臭化リチウムを81.56g(939.1mmol)とした以外は、実施例3と同様に行った。
得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは99,000、Mwは310,000であった。イオン交換容量は2.45meq/gであった。
【0186】
(実施例5)
上記式(30−3)で表される化合物を1.46g(3.94mmol)、上記式(30−6)で表される化合物を37.92g(94.5mmol)、及び臭化リチウムを80.02g(921.4mmol)とした以外は、実施例3と同様に行った。
得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは82,000、Mwは241,000であった。イオン交換容量は2.51meq/gであった。
【0187】
(実施例6)
上記式(30−3)で表される化合物を0.73g(1.97mmol)、上記式(30−6)で表される化合物を38.71g(96.5mmol)、及び臭化リチウムを78.48g(903.7mmol)とした以外は、実施例3と同様に行った。
得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは84,000、Mwは229,000であった。イオン交換容量は2.54meq/gであった。
【0188】
(実施例7)
上記(30−13)で表される化合物37.50g(93.45mmol)と、上記(30−6)で表される化合物1.31g(4.92mmol)、上記(30−8)で表される化合物12.23g(1.63mmol)、臭化リチウム40.37g(465mmol)へ変更した以外は、実施例1と同様にして下記式(30−14)で表されるポリマーを得た。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは47,000、Mwは172,000であった。イオン交換容量は2.47meq/gであった。
【化42】

【0189】
(実施例8)
上記(30−12)で表される化合物37.50g(93.45mmol)と、上記(30−6)で表される化合物1.31g(4.92mmol)、上記(30−8)で表される化合物12.23g(1.63mmol)、臭化リチウム40.37g(465mmol)へ変更した以外は、実施例1と同様にして下記式(30−15)で表されるポリマーを得た。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは56,000、Mwは186,000であった。イオン交換容量は2.49meq/gであった。
【化43】

【0190】
(比較例1)
上記式(30−6)で表される化合物39.57g(98.6mmol)、上記式(30−7)で表される疎水性ユニット15.68g(1.4mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.62g(4.0mmol)、トリフェニルホスフィン10.49g(40mmol)、ヨウ化ナトリウム0.45g(3.0mmol)、及び亜鉛15.69g(240mmol)の混合物中に、乾燥したDMAc182mLを窒素下で加えた。
【0191】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には79℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc297mLで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い、濾過した。
濾液に臭化リチウム25.69g(295.8mmol)を加え、内温110℃で7時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、水3.5Lに注ぎ、凝固させた。凝固物をアセトンに浸漬し、濾過し洗浄した。洗浄物を1N硫酸740gで撹拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄した。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは75,000、Mwは186,000であった。イオン交換容量は2.26meq/gであった。得られたポリマーは、下記一般式(40−1)で表されるポリマーであった。
【化44】

【0192】
(比較例2)
上記式(30−6)で表される化合物39.37g(98.1mmol)、上記式(30−8)で表される疎水性ユニット15.58g(1.9mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.62g(4.0mmol)、トリフェニルホスフィン10.49g(40mmol)、ヨウ化ナトリウム0.45g(3.0mmol)、及び亜鉛15.69g(240mmol)の混合物中に、乾燥したDMAc181mLを窒素下で加えた。
【0193】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には79℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc297mLで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い、濾過した。
濾液に臭化リチウム25.56g(294.3mmol)を加え、内温110℃で7時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、水3.5Lに注ぎ、凝固させた。凝固物をアセトンに浸漬し、濾過し洗浄した。洗浄物を1N硫酸740gで撹拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄した。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは68,000、Mwは175,000であった。イオン交換容量は2.25meq/gであった。得られたポリマーは、下記一般式(40−2)で表されるポリマーであった。
【化45】

【0194】
(比較例3)
上記式(30−6)で表される化合物39.53g(98.5mmol)、及び上記式(30−8)で表される疎水性ユニット12.3g(1.5mmol)を用いる以外は、比較例2と同様に行った。
得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは71,000、Mwは196,000であった。イオン交換容量は2.51meq/gであった。
【0195】
(比較例4)
特許第3841168号に従って、下記(40−3)で表される化合物を合成した。
【化46】

【0196】
上記式(40−3)で表される化合物2.36g(5.9mmol)、上記式(30−6)で表される化合物37.13g(92.5mmol)、上記式(30−8)で表される疎水性ユニット12.8g(1.56mmol)、及び臭化リチウム27.2g(313.0mmol)を用いる以外は、実施例2と同様に行った。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは73,000、Mwは234,000であった。イオン交換容量は2.30meq/gであった。得られたポリマーは、下記一般式(40−4)で表されるポリマーであった。
【化47】

【0197】
(実施例9)
下記反応式に従って、下記式(40−5)で表される化合物を合成した。
【化48】

【0198】
上記式(40−5)で表される化合物2.74g(5.9mmol)、上記式(30−6)で表される化合物37.12g(92.5mmol)、上記式(30−8)で表される疎水性ユニット13.1g(1.6mmol)、及び臭化リチウム81.5g(938.7mmol)を用いる以外は、実施例1と同様に行った。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは61,000、Mwは178,000であった。イオン交換容量は2.42meq/gであった。得られたポリマーは、下記一般式(40−6)で表されるポリマーであった。
【化49】

【0199】
(膜−電極構造体の作製)
平均径50nmのカーボンブラック(ファーネスブラック)に白金粒子を、カーボンブラック:白金=1:1の質量比で担持させ、触媒粒子を作製した。次に、イオン伝導性バインダーとしてのパーフルオロアルキレンスルホン酸高分子化合物(DuPont社製「Nafion」(商品名))溶液に、前記触媒粒子を、イオン伝導性バインダー:触媒粒子=8:5の質量比で均一に分散させ、触媒ペーストを調製した。
【0200】
実施例1〜9及び比較例1〜4で得られたポリマーからなるプロトン伝導膜の両面に、前記触媒ペーストを、白金含有量が0.5mg/cmとなるようにバーコーター塗布して乾燥させることにより、電極塗布膜(Catalyst Coated Membrane:CCM)を得た。前記乾燥は、100℃で15分間の乾燥を行なった後、140℃で10分間の二次乾燥を行なった。
【0201】
カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子とを、カーボンブラック:PTFE粒子=4:6の質量比で混合し、得られた混合物をエチレングリコールに均一に分散させたスラリーを、カーボンペーパーの片面に塗布、乾燥させて下地層とし、該下地層とカーボンペーパーとからなるガス拡散層を2つ作製した。
【0202】
前記CCMを、前記ガス拡散層の下地層側で狭持し、ホットプレスを行なって膜−電極構造体を得た。前記ホットプレスは、160℃、3MPaで5分間の条件で実施した。また、本実施例で得られた膜−電極構造体は、ガス拡散層の上にさらにガス通路を兼ねるセパレーターを積層することにより、固体高分子型燃料電池を構成することができる。
【0203】
(評価)
実施例1〜9及び比較例1〜4でそれぞれ得られたポリマーの膜の特性、及び、得られた膜を用いて膜−電極構造体を作製し、発電特性を評価した。結果を表1に示す。
【0204】
【表1】

【0205】
表1に示すように、実施例1〜9は、比較例1〜4と比較して、ホスホン酸基を導入することにより耐ラジカル性が同等以上に向上しており、膜−電極構造体においても発電耐久性が向上していることが確認された。
【0206】
また、ホスホン酸基を導入しても、未導入時と同等レベルでのプロトン伝導度を維持でき、膜−電極構造体の発電性能も良好であった。これは、実施例4及び実施例9に示すように、電子密度の低い芳香環にホスホン酸基を導入した効果であると考えられた。
【0207】
また、実施例4及び比較例4に示すように、ホスホン酸基が保護されている状態ではなく、脱保護することにより、イオン交換容量を低下させず、プロトン伝導度を維持できることが判った。また、ラジカル耐性を向上させ、膜−電極構造体の発電性能を維持し、発電耐久性を維持できることが判った。
【0208】
(実施例10)
上記式(30−6)で表される化合物に替えて、上記式(30−3)で表される化合物36.54g(98.44mmol)、及び臭化リチウム153.9g(1.77mol)を用いる以外は、実施例3と同様に行った。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは70,000、Mwは205,000であった。イオン交換容量は2.35meq/gであった。得られたポリマーは、下記一般式(30−11)で表されるポリマーであった。
【化50】

【0209】
(実施例11)
上記式(30−6)で表される化合物に替えて、上記式(40−5)で表される化合物45.86g(99mmol)、上記式(30−8)で表される疎水性ユニット8.2g(1.0mmol)、及び臭化リチウム154.8g(1.78mol)を用いる以外は、実施例9と同様に行った。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、Mnは65,000、Mwは198,000であった。イオン交換容量は2.31meq/gであった。得られたポリマーは、下記一般式(40−7)で表されるポリマーであった。
【化51】

【0210】
実施例10及び実施例11でそれぞれ得られたポリマーについて、上記実施例1〜9及び比較例1〜4と同様に、プロトン伝導膜及び膜−電極構造体を作製した。作製した膜の特性、及び、膜−電極構造体の発電特性を同様に評価した。結果を表2に示す。
【0211】
【表2】

【0212】
実施例10及び実施例11は、ともにスルホン酸基を有さずホスホン酸基を有するポリマー(c=100)の例である。それぞれ耐ラジカル性は同レベルにあるが、いずれもプロトン伝導度が低く、これらの膜−電極構造体の発電性能では、1A/cmでの発電ができなかったため、0.5A/cmでの発電性能評価を行った。
その結果、実施例10のように電子密度が低い芳香環、すなわちケトン結合のような電子吸引性の結合を有する芳香環にホスホン酸基を導入することにより、実施例11のように電子密度が高い芳香環、すなわちエーテル結合のような電子供与性の結合を有する芳香環にホスホン酸基を導入した場合よりも、膜−電極構造体のプロトン伝導度を向上できることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導膜の一方の面にアノード電極、他方の面にカソード電極を設けた固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、
前記プロトン伝導膜は、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリアリーレン系共重合体を含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体。
【化1】

[式(1)中、Eは、それぞれ独立に、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、及び−COO−基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Ar31及びAr33は、それぞれ独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、若しくは含窒素複素環を有する2価の有機基、または水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されたこれらの有機基を示し、Ar32は、それぞれ独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、若しくは含窒素複素環を有する2価〜6価の有機基、または水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されたこれらの有機基を示す。R31は、直接結合、−O(CH−、−O(CF−、−(CH−、及び−(CF−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す(pは1〜12の整数を示す)。eは0〜10の整数を示し、fは1〜5の整数を示し、gは0〜4の整数を示し、hは0〜1の整数を示す。前記構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは、隣り合う構造単位との接続を意味する。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表される構造単位は、下記一般式(2)で表される構造単位であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体。
【化2】

[式(2)中、Eは、それぞれ独立に、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、及び−COO−基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、R31は、直接結合、−O(CH−、−O(CF−、−(CH−、及び−(CF−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す(pは1〜12の整数を示す)。eは0〜10の整数を示し、fは1〜5の整数を示し、gは0〜4の整数を示し、hは0〜1の整数を示す。前記構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは、隣り合う構造単位との接続を意味する。]
【請求項3】
前記ポリアリーレン系共重合体は、スルホン酸基を有する構造単位をさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体。
【請求項4】
前記スルホン酸基を有する構造単位は、下記一般式(3−2)で表される構造単位であることを特徴とする請求項3に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体。
【化3】

[式(3−2)中、Yは、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、及び−COO−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Zは、直接結合、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、−S−、−CO−、及び−SO−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは、−SOH、−O(CHSOH、または−O(CFSOHで表される置換基を有する芳香族基を示す(pは1〜12の整数を示す)。mは0〜3の整数を示し、nは0〜3の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。前記構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは、隣り合う構造単位との接続を意味する。]
【請求項5】
前記ポリアリーレン系共重合体は、下記一般式(4−1)で表される芳香族構造を有する構造単位をさらに有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体。
【化4】

[式(4−1)中、A及びDは、それぞれ独立に、直接結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、−C(CF−、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−CR’−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、及び−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子であり、R〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部または全てがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、及びニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。s及びtは、0〜4の整数を示し、rは0以上の整数を示す。前記構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは、隣り合う構造単位との接続を意味する。]
【請求項6】
前記ポリアリーレン系共重合体1モルが有するホスホン酸基のモル数を(d)、スルホン酸基のモル数を(e)とするとき、(d)/{(d)+(e)}×100の値が、0.01〜100であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体。
【請求項7】
前記(d)/{(d)+(e)}×100の値が、0.1以上7未満であることを特徴とする請求項6に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体。
【請求項8】
前記ポリアリーレン系共重合体のイオン交換容量が、0.3〜5meq/gであることを特徴とする請求項7に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体。

【公開番号】特開2011−108640(P2011−108640A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237621(P2010−237621)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】