固体高分子形燃料電池のガス拡散層、そのガス拡散層を含む固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体、および、そのガス拡散層の製造に用いるスラリー
【課題】スタック構造とするために圧縮圧力が付与されても高いガス透過性と高い導電性とを同時に得られるガス拡散層を提供する。
【解決手段】加熱により相互に熱融着することが可能な熱融着性有機繊維OFにより構成される多孔質骨材構造30を有し、その多孔質骨材構造30内において、炭素繊維CFが導電性微粒子と共に結合剤樹脂によって相互に結着されて成ることから、比較的少ない熱融着性有機繊維OFの相互融着によって比較的高い剛性を有する多孔質骨材構造30がガス拡散層18、20内に形成される。また、熱融着性有機繊維OFはガス拡散層膜厚/繊維長の比が0.2〜3の範囲内の繊維長を有しているので、圧縮圧力が付与された状態でも高いガス透過性を有するとともに、導電性を同時に具備することができるガス拡散層18、20が得られる。
【解決手段】加熱により相互に熱融着することが可能な熱融着性有機繊維OFにより構成される多孔質骨材構造30を有し、その多孔質骨材構造30内において、炭素繊維CFが導電性微粒子と共に結合剤樹脂によって相互に結着されて成ることから、比較的少ない熱融着性有機繊維OFの相互融着によって比較的高い剛性を有する多孔質骨材構造30がガス拡散層18、20内に形成される。また、熱融着性有機繊維OFはガス拡散層膜厚/繊維長の比が0.2〜3の範囲内の繊維長を有しているので、圧縮圧力が付与された状態でも高いガス透過性を有するとともに、導電性を同時に具備することができるガス拡散層18、20が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に用いられるガス拡散電極の一部を構成するガス拡散層、そのガス拡散層を含むガス拡散電極を備える膜−電極接合体、および、そのガス拡散層の製造に用いるスラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料として水素、メタノール、化石燃料からの改質水素等の還元剤を用い、空気や酸素を酸化剤として、電池内で燃料を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出すものである。そのため、内燃機関に比較して効率が高く、静粛性に優れると共に、大気汚染の原因となるNOX、SOX、粒子状物質(PM)等の排出量が少ないことから、近年、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。例えば、電動機の駆動電源、住宅用等の分散型電源や熱電供給システムとしての利用が期待されている。
【0003】
このような燃料電池は、用いる電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形、固体高分子形等に分類される。これらのうちプロトン伝導性の電解質を用いるリン酸形および固体高分子形は、熱力学におけるカルノーサイクルの制限を受けることなく高い効率で運転できるものであり、その理論効率は、25( ℃) において83( %) にも達する。特に、固体高分子形燃料電池は、近年電解質膜や触媒技術の発展により性能の向上が著しくなり、低公害自動車用電源や高効率発電方法として注目を集めている。
【0004】
ところで、固体高分子形燃料電池は、一般に、水素イオン(プロトン)を選択的に伝導する薄い高分子電解質層の両面を一対のガス拡散電極で挟んだ構造を備えるものであり、通常は、このような膜−電極接合体(Membrane Electrode Assembly:以下、MEA) をセパレータを介して積層したスタック構造で用いられる。ガス拡散電極はそれぞれ連通気孔を備えた多孔性の触媒層およびガス拡散層から構成されており、これら触媒層およびガス拡散層は、一体化或いは複層化されたものもある。
【0005】
上記ガス拡散層は、ガス拡散電極用基材とも称される層状体であり、触媒層および電解質層表面に燃料ガスや空気を導くと共に、発生した電流を取り出すために、高いガス拡散性能と高い導電性とが共に要求される。また、加湿燃料中の水蒸気や反応により発生した水によるガス流路の閉塞を抑制するために優れた排水性能を有することも要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−015908号公報
【特許文献2】特開2010−153222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記ガス拡散層として、特許文献1および特許文献2に提案されたものがある。たとえば、特許文献1に記載されたものは、炭素繊維、樹脂、導電性微粒子から成るスラリーを150℃程度の温度の比較的低温で成膜できる利点がある。しかし、これらの材料で形成されるガス拡散層では、実際に燃料電池に組み込まれ発電する際にスタック構造とされると、セパレータによる圧縮圧力のためにガス拡散層自体が変形してしまい、連通気孔が圧縮されることによってガス透過性が低下して、特に面内( In−Plane)方向のガス拡散および反応水の排出を妨げてしまうという問題があった。このガス透過性はたとえばIPガス透過性測定値で評価される。
【0008】
これに対して、特許文献2に記載されたものは、ガラス繊維と炭素繊維分散スラリーを複合化することで、柔軟で且つ薄く、引っ張りや圧縮に対して強度を保持できるようにしたガス拡散層が提案されている。しかし、これはあくまでもその骨材となるガラス繊維による強度付与であって、ガラス繊維相互の結合体による強度の付与ではないことから、加圧下において高いガス透過性を得るためにはガラス繊維の割合を高めて連通気孔をつぶれ難くする必要があるが、ガラス繊維の割合が高くなると導電性が低下して加圧抵抗が高くなるという相反的な現象が生じるという問題があった。この導電性はたとえば断面加圧抵抗の測定値で評価される。
【0009】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、スタック構造とするために圧縮圧力が付与されても高いガス透過性と高い導電性とを同時に得られる固体高分子形燃料電池のガス拡散層、そのガス拡散層を含む固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体( MEA) 、および、そのガス拡散層の製造に用いるスラリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
斯かる目的を達成するため、第1発明の要旨とするところは、(a) 固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質上にガス拡散電極を構成するためにその固体高分子電解質上に触媒層を介して設けられる固体高分子形燃料電池のガス拡散層であって、(b) 炭素繊維、結合剤樹脂、導電性微粒子、熱融着性有機繊維を含み、(c) その熱融着性有機繊維は、前記ガス拡散層の膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2乃至3の範囲の繊維長を有し、加熱により相互に熱融着させられて構成される多孔質骨材構造を構成し、(d) その多孔質骨材構造内において、その炭素繊維がその導電性微粒子と共に結合剤樹脂によって相互に結着されていることを特徴とする。
【0011】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、(e) 前記熱融着性有機繊維は、40〜500の範囲内のアスペクト比( =繊維長/繊維径) を有していることを特徴とする。
【0012】
第3発明の要旨とするところは、第1又は第2発明において、(f) 前記熱融着性有機繊維は、芯部樹脂とその芯部樹脂の外周を被覆しその芯部樹脂よりも融点或いは軟化点が低い鞘部樹脂とから構成されていることを特徴とする。
【0013】
第4発明の要旨とするところは、第1乃至第3発明のいずれか1の発明において、(g) 前記熱融着性有機繊維の前記ガス拡散層に対する重量割合は、0.5〜8%の範囲内であることを特徴とする。
【0014】
第5発明の、第1乃至第4発明のいずれか1のガス拡散層の製造に用いるスラリーの要旨とするところは、(h) 炭素繊維、導電性微粒子、結合剤樹脂、および、加熱により相互に熱融着させられる熱融着性有機繊維が溶媒に分散させられていることを特徴とする。
【0015】
第6発明の固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体の要旨とするところは、(i) 固体高分子電解質膜と、(j)その固体電解質膜の一面および他面にそれぞれ設けられた触媒層と、(k)それら触媒層の表面にそれぞれ設けられた第1乃至第5発明のいずれか1のガス拡散層とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明の固体高分子形燃料電池のガス拡散層では、それに含まれる熱融着性有機繊維は、加熱により相互に熱融着させられた多孔質骨材構造を構成し、その多孔質骨材構造内において、その炭素繊維がその導電性微粒子と共に結合剤樹脂によって相互に結着されていることから、ガス拡散層を補強する比較的高い剛性を有する多孔質骨材構造がガス拡散層内に設けられる。また、熱融着性有機繊維はガス拡散層の膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2乃至3の範囲の適切な繊維長を有するので、圧縮圧力が付与された状態でも高いガス透過性を有するとともに、導電性を同時に具備することができるガス拡散層が得られる。
【0017】
第2発明の固体高分子形燃料電池のガス拡散層において、前記熱融着性有機繊維は、40〜500の範囲内のアスペクト比( =繊維長/繊維径) を有していることから、加熱により相互に熱融着させられた熱融着性有機繊維により高い剛性の多孔質骨材構造が得られる。熱融着性有機繊維のアスペクト比が40を下まわると、その熱融着性有機繊維の相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造の孔が小さくなり過ぎてガス透過性が損なわれる。反対に、熱融着性有機繊維のアスペクト比が500を上まわると、その熱融着性有機繊維の相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造の孔が大きくなり過ぎて十分な剛性が得られない。
【0018】
第3発明の固体高分子形燃料電池のガス拡散層においては、前記熱融着性有機繊維は、芯部樹脂とその芯部樹脂の外周を被覆しその芯部樹脂よりも融点或いは軟化点が低い鞘部樹脂とから構成されていることから、熱処理時の温度や加圧のばらつきがあっても安定した形状および強度を有する多孔質骨材構造をガス拡散層内に構成することができる。
【0019】
第4発明の固体高分子形燃料電池のガス拡散層においては、前記熱融着性有機繊維の前記ガス拡散層に対する重量割合は、0.5〜8%の範囲内であることから、加熱により相互に熱融着させられた熱融着性有機繊維により高い剛性の多孔質骨材構造を構成するので、セパレータからの圧縮圧力でもガス拡散層自体が変形しない。熱融着性有機繊維のガス拡散層に対する重量割合が0.5%を下回ると、その熱融着性有機繊維の相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造の剛性が十分に得られず、ガス拡散層の機械的強度が不足する可能性がある。反対に、熱融着性有機繊維のガス拡散層に対する重量割合が8%を上回ると、十分な導電性が得られ難くなる。
【0020】
第5発明の固体高分子形燃料電池のガス拡散層の製造に用いるスラリーによれば、炭素繊維、導電性微粒子、結合剤樹脂、および、加熱により相互に熱融着させられる熱融着性有機繊維が溶媒に分散させられていることから、そのスラリーからシート状成形体を成形し、そのシート状成形体の状態で熱処理を施すことにより、熱融着性有機繊維を相互に熱融着させて多孔質骨材構造を構成すると同時に、その多孔質骨材構造内において前記炭素繊維が導電性微粒子と共に結合剤樹脂によって相互に結着させることができるので、連続的にガス拡散層を製造でき、そのガス拡散層を低価格で得ることができる。
【0021】
第6発明の膜−電極接合体によれば、固体高分子電解質膜と、その固体電解質膜の一面および他面にそれぞれ設けられた触媒層と、それら触媒層の表面にそれぞれ設けられた第1乃至第5発明のいずれか1の多孔質且つ導電性のガス拡散層とを含むことから、導電性およびガス拡散性が共に高く且つフッ素を用いなくとも排水性の高いガス拡散層を用いた固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体が得られる。
【0022】
ここで、第1発明において、「固体高分子電解質上に」とは、固体高分子電解質の上にガス拡散層が直接設けられている場合の他、触媒層等の他の層を介してガス拡散層が設けられている場合が含まれる。
【0023】
また、好適には、前記熱融着性有機繊維の芯部樹脂は、通常のポリエステルまたはポリエチレンから成り、また、その芯部樹脂の外周を被覆しその芯部樹脂よりも融点或いは軟化点が低い鞘部樹脂は、低融点のポリエステルまたはポリエチレンから成る。
【0024】
また、好適には、前記炭素繊維の前記ガス拡散層に対する重量割合は、50乃至82%である。炭素繊維の重量割合が50%を下まわると気孔率が低下して十分なガス透過性が得られず、炭素繊維の重量割合が82%を超えると導電性が十分に得られない。
【0025】
また、好適には、前記炭素繊維のアスペクト比(=繊維長/繊維径)が4.5〜25の範囲内である。このようにすれば、炭素繊維が比較的太く且つ短いため、炭素繊維相互に導電性微粒子を介して或いは直接的に接触し易く、しかも、炭素繊維相互の隙間が適度な大きさになるので、高い導電性および高いガス透過性が得られる。アスペクト比が4.5未満では、炭素繊維が短いので密度が高くなり延いてはガス透過性が低くなる。また、アスペクト比が25を超えると、炭素繊維が長いのでガス拡散層の面に沿った横向きになるため、厚み方向における導電性が低下すると共に、炭素繊維相互間に空隙の多い組織になる。
【0026】
また、好適には、前記導電性微粒子は炭素微粒子であり、その炭素微粒子の前記ガス拡散層内の結合剤樹脂に対する重量比( 結合剤樹脂量/炭素微粒子量) は、8以下であることから、高い導電性およびガス拡散性を有する多孔質のガス拡散層が得られる。炭素微粒子のガス拡散層内の樹脂に対する重量割合が8を超えると、ガス透過性が低下し、ガス拡散層の導電性が低下する可能性がある。
【0027】
また、好適には、前記導電性微粒子は平均一次粒子径が10〜100(nm)である。このようにすれば、炭素繊維相互の接点で導電経路が十分に確保されることから、一層高い導電性が得られる。また、上記導電性微粒子の一次粒子径が十分に小さいので、ガス拡散層のガス透過性が高いという利点がある。上記平均一次粒子径が10(nm)未満では、多数の導電性微粒子が相互に凝集し易くなるため、ガス拡散層の製造の際に導電性微粒子の分散が不均一になり易くなる。また、上記平均一次粒子径が100(nm)を超えると、導電性微粒子による炭素繊維相互の接点での導電性を高める効果が十分に得られずガス拡散層の導電性が低下する。
【0028】
また、好適には、前記導電性微粒子はクラスター構造を成すものである。このようにすれば、複数本の炭素繊維は、クラスター構造の導電性微粒子との間の無数の接点を通して相互に接触させられるため、前記ガス拡散層は高い導電性を得ることができる。
【0029】
また、好適には、前記結合剤樹脂は、前記ガス拡散層に対する重量割合が8乃至40%である。結合剤樹脂の重量割合が8%を下回ると炭素繊維間の結合が低下し、40%を上まわるとガス透過性が低下する。また、好適には、前記結合剤樹脂は、フェノール系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、その他の熱硬化性樹脂や熱融着性樹脂が用いられてもよい。
【0030】
また、前記固体高分子形燃料電池には、反応の生じる三相界面に触媒(例えば、貴金属系触媒)が備えられていることが望ましい。例えば、ガス拡散電極が、上記触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、前記ガス拡散層とを層状に備えており、固体高分子形燃料電池は、対を成す上記ガス拡散電極が触媒層を内側にして前記固体高分子電解質層(膜)の両面に接合された構造となる。また、上記触媒は、ガス拡散層中に炭素繊維や導電性微粒子に担持された状態で備えられていてもよい。ガス拡散層中に備えられている態様は、例えば、ガス拡散層の形成後に触媒を含むスラリーを含浸させる方法や、ガス拡散層製造用スラリー中に触媒を混合して、ガス拡散層を形成すると同時に触媒を担持させる方法等で実施し得る。
【0031】
また、前記炭素繊維は特に限定されず、ポリアクリロニトリル系(PAN系)炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等の適宜のものを用い得る。ポリアクリロニトリル系炭素繊維を用いた場合には、炭素繊維の強度が高いため機械的強度の特に高いガス拡散電極が得られる。また、ピッチ系炭素繊維を用いた場合には、電気伝導性の特に高いガス拡散電極が得られる。
【0032】
また、前記炭素繊維は、平均径が1〜30( μm)の範囲内のものが好ましい。更に、平均径が5( μm)以上であれば、繊維が十分に太く、折れ難いことから十分に高い機械的強度が得られる。また、平均径が20( μm)以下であれば、導電性微粒子、結合剤樹脂や溶剤との混合が容易である。
【0033】
また、前記炭素繊維は、平均繊維長が50〜250( μm)の範囲内のものが好ましい。平均繊維長が50( μm)以上であれば、炭素繊維相互の絡み合いが十分に多くなって機械的強度が十分に高くなる。また、平均繊維長が250( μm)以下であれば、炭素繊維の分散性が十分に高められ、ガス拡散層の組織の均質性が十分に高くなる。
【0034】
また、固体高分子形燃料電池には、燃料極側および空気極側のそれぞれにガス拡散電極が備えられるが、本発明のガス拡散層は、それら燃料極側および空気極側の何れの電極にも適用され得る。但し、両極で同一構成の電極が設けられることが必須ではなく、所望する特性や製造上の都合等に応じて、適宜の電極構成を採用することができ、本発明を適用されるのが両極のうちの一方のみであってもよい。
【0035】
また、本発明は、種々の固体高分子電解質が用いられた固体高分子形燃料電池に適用され、固体高分子電解質の材質は特に限定されない。例えば、イオン交換基(-SO3H 基等)を有するモノマーの単独重合体または共重合体、イオン交換基を有するモノマーとそのモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、加水分解等の後処理によりイオン交換基に転換し得る官能基(すなわちイオン交換基の前駆的官能基)を有するモノマーの単独重合体、または共重合体(プロトン伝導性高分子前駆体)に同様な後処理を施したもの等が挙げられる。
【0036】
上記固体高分子電解質の具体例としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂等のパーフルオロ型のプロトン伝導性高分子、パーフルオロカーボンカルボン酸樹脂膜、スルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体膜、スルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFE共重合体膜、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)スルホン酸膜、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)膜、炭化水素系膜等が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例である平板型のMEAを示す図である。
【図2】図1のMEAに備えられたガス拡散電極のガス拡散層の構成を模式的に示す図である。
【図3】図2のガス拡散電極用ガス拡散層における炭素繊維相互の接合状態を説明するための模式図である。
【図4】図2のガス拡散電極用ガス拡散層およびその試験片の製造方法を説明するための工程図である。
【図5】炭素繊維、炭素微粒子、熱融着性有機繊維、結合剤樹脂の割合および結合剤樹脂の種類を変えて図4に示す工程で製造された21種類のガス拡散層試験片の組成および評価結果と、炭素繊維、炭素微粒子、結合剤樹脂の割合を変えて図4と同様の工程で製造された熱融着性有機繊維を含まない7種類のガス拡散層試験片の組成および評価結果とを示す図表である。結合剤樹脂は、実施例1〜14、比較例19〜27は、住友べークライト株式会社製のフェノール樹脂(水溶性)、実施例15〜18、比較例28はDIC株式会社製のアクリルシリコン樹脂(エマルジョンタイプ)を使用した。
【図6】1MPaIPガス透過性の測定に用いられた試験片固定装置を説明する図である。
【図7】IPバブルポイントの測定に用いられた試験片固定装置を説明する図である。
【図8】図5の熱融着性有機繊維を含む21種類のガス拡散層試験片、および図5の熱融着性有機繊維を含まない7種類のガス拡散層試験片についての断面加圧抵抗の測定値を、それら試験片中の熱融着性有機繊維の含有量を示す横軸上に表わすグラフである。
【図9】図5の熱融着性有機繊維を含む21種類のガス拡散層試験片、および図5の熱融着性有機繊維を含まない7種類のガス拡散層試験片についての1MPaIPガス透過性の測定値を、それら試験片中の熱融着性有機繊維の含有量( 重量%)を示す横軸上に表わすグラフである。
【図10】図5の熱融着性有機繊維を含む21種類のガス拡散層試験片、および図5の熱融着性有機繊維を含まない7種類のガス拡散層試験片についての断面加圧抵抗値を、それら試験片の炭素微粒子に対する樹脂量の比( 重量比R/CP)を示す横軸上に表わしたグラフである。
【図11】炭素繊維、導電性微粒子、熱融着性有機繊維、結合剤樹脂の割合は同じであるが、その熱融着性有機繊維のガス拡散層膜厚Tと繊維長Lの比T/Lを変化させて図4に示す工程で製造された50種類のガス拡散層試験片について、断面加圧抵抗の評価試験を行ったときの評価結果を示す図表である。
【図12】図11の試験結果を、ガス拡散層膜厚Tと繊維長Lの比T/Lを示す横軸と断面加圧抵抗値を示す縦軸との二次元座標に表わしたグラフを示す図である。
【図13】図11と同様に製造された50種類のガス拡散層試験片について、IPガス透過性の評価試験を行ったときの評価結果を示す図表である。
【図14】図13の試験結果を、ガス拡散層膜厚Tと繊維長Lの比T/Lを示す横軸とIPガス透過性を示す縦軸との二次元座標に表わしたグラフを示す図である。
【図15】ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lの比T/Lが0.2を下回る場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lを図示するイメージ図である。
【図16】ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lの比T/Lが0.2以上且つ3以下の場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lを図示するイメージ図である。
【図17】ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lの比T/Lが3を超える場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lを図示するイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0039】
図1は、本発明の一実施例である平板型の膜−電極接合体10(以下、「MEA10」という)の断面構造を示す図である。MEA10は、固体高分子形燃料電池の単電池の中心部を構成する部材であり、燃料ガスおよび酸化ガスをそれぞれガス拡散電極22,24へ供給する一対の図示しないセパレータ26から挟圧されることで1個の電池セルが構成され、その電池セルが複数個積層されることで燃料電池が構成される。MEA10は、図1に示すように、薄い平板層状の電解質膜12と、この電解質膜12を挟むように一体的に貼り合わされた一対のガス拡散電極22,24とから構成されている。そして、その一対のガス拡散電極22,24は、触媒層14,16と、ガス拡散層18,20とを層状に有し、触媒層14,16を内側にして、すなわち、触媒層14,16を電解質膜12側にして、その電解質膜12の一面および他面にそれぞれ接合されている。
【0040】
上記の電解質膜12は、本発明の固体高分子電解質層に対応し、例えばNafion( デュポン社の登録商標)DE520等のプロトン導電性電解質から成るもので、例えば50( μm)程度の厚さ寸法を備えている。
【0041】
また、上記の触媒層14,16は、例えば球状の炭素粉末に白金等の貴金属系触媒を担持させたPt担持カーボンブラックから成る導電性且つ多孔質のものである。これは、例えば田中貴金属工業( 株) から市販されているもの(例えばTEC10E70TPM 等)を用い得る。触媒層14,16の厚さ寸法は、例えば50( μm)程度である。
【0042】
また、上記のガス拡散層18,20は、その厚み(膜厚)に限定は無いがたとえばそれぞれ200( μm)程度の厚さ寸法を備え、その表面と裏面(すなわち触媒層14,16側の一面)との間で容易に気体が流通し得るように構成された導電性を有する多孔質層である。
【0043】
上記のガス拡散層18,20は、例えば、多数の炭素繊維CFと、多数の炭素微粒子CPと、結合剤として機能する結合剤樹脂Rと、熱融着性有機繊維OFとから構成されている。そして、それらの炭素繊維CF、炭素微粒子CP、結合剤樹脂R、熱融着性有機繊維OFの各構成割合は限定されるわけでは無いが、例えば、熱融着性有機繊維OFのガス拡散層18,20( 固形分) に対する重量割合は0.5〜8(%)の範囲内であり、炭素微粒子CPのガス拡散層18,20に対する重量割合は2.5〜20(%)好ましくは5〜17(%)の範囲内であり、結合剤樹脂Rのガス拡散層18,20に対する重量割合は5〜50(%)好ましくは8〜40(%)の範囲内であり、且つ、炭素繊維CFのガス拡散層18,20に対する重量割合は35〜85(%)好ましくは50〜82(%)の範囲内である。
【0044】
炭素繊維CFは、たとえばピッチを原料とするピッチ系カーボンファイバーであり、その平均直径が1〜30( μm)程度である。また、炭素繊維CFの平均繊維長が50〜250( μm)程度の範囲内であって、且つ、ガス拡散層18,20の膜厚に対する上記平均繊維長の比(=平均繊維長/膜厚)が0.1〜1の範囲内であることが望ましい。例えば、ガス拡散層18,20の膜厚が200( μm)程度であるので、炭素繊維CFの平均繊維長が50〜200( μm)程度の範囲内であることが望ましい。具体的に本実施例で採用される炭素繊維CFは、平均直径が8〜12( μm)程度であって平均繊維長が200( μm)程度のピッチ系カーボンファイバーである。炭素繊維CFのアスペクト比(=繊維長/繊維直径)は、ガス拡散層18,20の高い導電性と高いガス透過性とを確保するため、4.5〜25の範囲内であることが望ましい。上記炭素繊維CFの平均直径、平均繊維長、およびアスペクト比は、電子顕微鏡による観察から求められる。例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)測定を行い、その画像から炭素繊維CFの直径および長手方向の長さを直接測定する。
【0045】
炭素微粒子CPは、その平均一次粒子径が10〜100(nm)程度の極めて微小な微粒子である。たとえば、キャボット社製のXC−72が好適に用いられる。具体的に本実施例で採用される炭素微粒子CPの平均一次粒子径は30(nm)程度である。本実施例において、上記平均一次粒子径とは一次粒子径の平均値であり、その一次粒子径は、電子顕微鏡による観察から求められる定方向径である。なお、炭素微粒子CPは、本発明の導電性微粒子に対応する。
【0046】
また、結合剤樹脂Rは、フェノール系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、その他の熱硬化性樹脂や熱融着性樹脂が好適に用いられる。
【0047】
熱融着性有機繊維OFは、融点或いは軟化点の相違する樹脂たとえばポリエステル樹脂やポリエチレン樹脂から構成された芯鞘タイプの有機繊維である。この芯鞘タイプの有機繊維のうちの中心側の芯部樹脂はたとえば200乃至350℃程度(好ましくは240乃至260℃程度)の相対的に高融点或いは高軟化点を有する樹脂たとえばレギュラーPETに提示される通常のポリエチレン樹脂やポリエステル樹脂から構成され、その芯部樹脂の外周を被覆する鞘側( 被覆層側)樹脂はたとえば60乃至180℃程度(好ましくは70乃至80℃程度)の相対的に低融点或いは低軟化点を有する樹脂たとえば低融点PETに例示される低融点のポリエチレン樹脂やポリエステル樹脂から構成される。また、好適には、上記鞘側樹脂は親水性樹脂から構成されるか或いは樹脂表面に親水処理が施される。たとえば、帝人ファイバー社製のTJ04CNがこの熱融着性有機繊維OFとして用いられる。このように構成された熱融着性有機繊維OFは、鞘側樹脂の融点或いは軟化点よりも高い温度が加えられることで、相互に熱融着して、多孔質骨材構造30を構成する。多孔質骨材構造30とは、相互に熱融着した熱融着性有機繊維OFによって形成される相対的に剛性の高い多孔質の有機繊維結合体である。このような多孔質骨材構造30を構成するために、上記熱融着性有機繊維OFは、たとえば10μmφ程度の繊維径と、炭素繊維CFよりも2倍乃至100倍程度の十分に長い繊維長たとえば0.4〜5mm程度の繊維長とを有しており、40〜500の範囲内のアスペクト比を有している。また、熱融着性有機繊維OFのガス拡散層18,20の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの平均繊維長Lの比(=T/L)が0.2〜3の範囲内であることが望ましい。
【0048】
また、ガス拡散層18,20は、図2に模式的に示すように、相互に熱融着された熱融着性有機繊維OFから成る有機繊維結合体内において、膜厚(基材厚)よりも十分に小さく且つ熱融着性有機繊維OFよりも短い繊維長を有している炭素繊維CFは、ガス拡散層18,20の厚み方向或いはこれに傾斜した方向に伸びる向きでそのガス拡散層18,20内に多数存在する。また、各炭素繊維CFは相互に絡み合い、それらの接触点において、図3に模式的に示すように、各々の炭素繊維CFは直接的に或いはそれらの相互間に多数の炭素微粒子CPを介在させた状態で結合剤樹脂Rにより接合されている。炭素微粒子CPは、多数個が凝集してクラスター構造を成しており、無数の接点を通して炭素繊維CF相互を電気的に接触させている。このような構造を備えていることから、ガス拡散層18,20は、セパレータ26からの締付圧に対して上記相互に熱融着された熱融着性有機繊維OFから成る有機繊維結合体の強度により補強されているのでその変形が抑制されており、十分に高い導電性と高いガス透過性とが維持されている。
【0049】
なお、上記図3は、本実施例のガス拡散層18,20における典型的な構造例を模式的に示したもので、この図3に示されるような構造は必ずしも炭素繊維CFの全ての接触点で形成されていない。すなわち、相互に熱融着された熱融着性有機繊維OFから成る有機繊維結合体( 図示せず)内において、炭素繊維CFが相互に直に接していたり、炭素微粒子CPが介在させられず結合剤樹脂Rのみで接合されている部分も存在する。
【0050】
平板型のガス拡散層18,20は、例えば以下のようにして製造される。以下、図4を参照して製造方法を説明する。図4は、後述する試験サンプルの製造方法を示した工程図であるが、最後の評価工程を除けば、以下に述べるガス拡散層18,20の製造方法を説明するための工程図でもある。
【0051】
まず、炭素繊維CFと炭素微粒子CPと溶媒とが前述の範囲内の所定の重量割合となるように秤量され、第1混合工程P1において15分程度の時間で混合される。この混合は、スターラまたはそれと同様の構造の混合機が300rpm程度の回転で実行される。
【0052】
次いで、850μm程度の目開きのステンレスメッシュを通してほぐした熱融着性有機繊維OFと溶媒とが前述の範囲内の所定の重量割合となるように秤量され、第2混合工程P2において超音波混合機を用いて3分程度の時間で混合される。この第2混合工程P2は、熱融着性有機繊維OFをほぐして溶媒中に分散させるためのものである。そして、溶媒と液状の結合剤樹脂Rとが前述の範囲内の所定の重量割合となるように秤量され、第3混合工程P3において10分程度の時間で混合される。この混合は、スターラまたはそれと同様の構造の混合機が300rpm程度の回転で実行される。この第3混合工程P3における混合処理の結果、ガス拡散層18,20を製造するためのスラリーが得られる。熱融着性有機繊維OFの表面には良くしられた親水処理が施されている一方で、親水性が備えられた結合剤樹脂Rと熱融着性有機繊維OFとが容易に濡れて均一に混合される。このスラリーは、炭素繊維CF、炭素微粒子CP、親水性を有する結合剤樹脂R、および、加熱により相互に熱融着させられた熱融着性有機繊維OFが溶媒内に均一に分散させられたものである。第1混合工程P1、第2混合工程P2、第3混合工程P3が、スラリー製造工程に対応している。
【0053】
続く成形工程P4では、キャスティング製膜法にしたがって、200μm程度またはそれよりやや大きい寸法の厚みを有するステンレス或いは銅などの金属版に成形すべき所定形状たとえば100mm×100mmの矩形の成形穴が貫通して形成されたメタルマスクをその底板と重ねた状態でスラリー槽内に入れてスラリーを掬い入れ且つメタルマスクを底板と共に揺らしながら膜厚均等化してガス拡散層成形体を得る。上記ガス拡散層成形体には、必要に応じて、例えば50〜75℃程度の温度の乾燥処理が所定時間施される。
【0054】
そして、熱処理工程P5では、熱融着性有機繊維OFが溶媒中で流動する状態のまま乾燥処理ができるようになるべく速やかにメタルマスクから外したガス拡散層成形体に、乾燥炉( オーブン)内において150℃程度の温度で3時間程度の間乾燥が行われる。この加熱によって、ガス拡散層18、20内から溶媒が除去されるとともに、その鞘側樹脂の軟化点よりも高い温度が加えられることで、主として熱融着性有機繊維OFが相互に熱融着させられて多孔質骨材構造30が構成される。同時に、親水性のある結合剤樹脂Rが親水処理された熱融着性有機繊維OFの表面に優先的に付着し、それに炭素繊維CFおよび炭素微粒子CPが絡み着き、結合剤樹脂Rが乾燥硬化させることで固定される。これにより、上記多孔質骨材構造30内において炭素繊維CFが相互に絡み合い且つクラスター構造の炭素微粒子CPを介して結合剤樹脂Rで接合される。すなわち、MEA10のガス拡散電極22,24を構成するためのガス拡散層18,20が得られる。乾燥・熱処理後の厚さ寸法は、例えば200( μm)程度である。前記乾燥工程および前記熱処理工程P5は、本発明の硬化工程に対応する。ここで、親水性のある樹脂とは、例えば、樹脂の水に対する表面接触角が100°程度より小さい、もしくは水溶性、もしくは水分散可能なエマルジョンタイプの樹脂をさす。
【0055】
上記のようにして製造されたガス拡散層18、20は、その片面に触媒スラリーが塗布されて触媒層14、16が形成され或いは予め成形された触媒層14,16が重ねられたガス拡散電極(電極シート)22,24が作製され、シート状の電解質膜12を触媒層14、16が内側になるように2枚のガス拡散電極22、24で挟み、ホットプレスを施すことで、MEA10が得られる。このように、ガス拡散層18,20はガス拡散電極用基材として機能している。なお、触媒スラリーおよび電解質膜12を構成する電解質の詳細については、本実施例を理解するために必要ではないので省略する。
【0056】
<評価試験1>
ここで、上記ガス拡散層18、20に含まれる熱融着性有機繊維OFの相互融着により形成される多孔質骨材構造30の補強効果を確認するために、図5に示す種々の割合のガス拡散層構成材料を用いて図4に示す工程を経て作成した試験片1〜28について、以下の条件下で行った試験の評価結果、すなわち断面加圧抵抗、ガス透過性、バブルポイント細孔径、圧縮変形率、引張強度を説明する。なお、断面加圧抵抗、ガス透過性、バブルポイント細孔径測定用のガス拡散層試験片は、25mmφ×厚み0.2mmを有する円形シート状とし、引張強度測定用のガス拡散層試験片は、幅15mm×長さ45mm×厚み0.2mmを有する矩形シート状とした。
【0057】
断面加圧抵抗は、厚み方向に加圧した状態で測定した表面と裏面との間の単位面積当たりの抵抗値( mΩcm2)である。TP(スループレーン) ガス透過性は、所定圧力のガスをガス拡散層試験片の一面に与えたときに他面へ透過する単位面積当たりのガス流量( ml・mm/cm2/min)である。IP(インプレーン) ガス透過性( IPガス透過率)は、所定圧力で挟圧されたガス拡散層試験片の一面に所定圧力のガスを与えたときそのガス拡散層試験片の外側端面から流出するガス流量( cc/sec)である。IPバブルポイント細孔径は、ガス拡散層試験片の片面から他面へ通過する細孔の実質的な径( μmφ)である。圧縮変形率は、ガス拡散層試験片を厚み方向に所定の圧力で加圧( 挟圧) した前後の膜厚変化率( %)である。引張強度は、ガス拡散層試験片に引っ張り張力を加えたときに破断に至る直前の応力( N)である。
【0058】
<断面加圧抵抗の試験条件>
アズワン( 株) 製の小型熱プレス機AH-2003 を用いて前記ガス拡散層試験片を一対の金メッキ銅板で挟んだ状態で予め定められた一定の圧力( 1MPa)で加圧し、且つ、50(mA)の測定電流を通電させたときの上記一対の金メッキ銅板間の電圧を室温にて測定することにより断面加圧抵抗( mΩcm2)を求めた。
<1MPaIPガス透過性の試験条件>
PMI社製キャピラリフローポロメータ1200AEL を用い、図6に示すステンレス製の試験片固定治具にガス拡散層試験片を1MPaの圧力で挟圧し、そのガス拡散層試験片の一面に30(kPa) の圧力の空気を与えたとき、その拡散層試験片の外周端面から流出する単位時間当たりの空気流量を室温にて測定し、その空気流量に基づいてIPガス透過性( cc/sec)を求めた。
<TPガス透過性の試験条件>
PMI社製のキャピラリフローポロメータ1200AEL を用い、空気圧が30(kPa) のガスを、所定の透過性測定治具に固定されたガス拡散層試験片の片面に与えたときの他面へ透過する空気流量すなわち他面から流出する単位時間当たりの空気流量を室温にて測定し、その空気流量に基づいてTPガス透過性( ml・mm/cm2/min)を求めた。
<1MPaIPバブルポイント細孔径試験条件>
PMI社製キャピラリフローポロメータ1200AEL を用い、図7に示すステンレス製の試験片固定治具によって1MPa圧力でガス拡散層試験片を挟圧し、室温にて、そのガス拡散層試験片の一面に水を満たした状態で圧力の空気を与えたときその水を押し退けて外周端面へ通過してその外周端面からバブルが発生したときの空気圧を測定し、予め求められた細孔径と空気圧との関係から測定された空気圧に基づいてバブルポイント細孔径( μmφ)を算出し求めた。
<1MPa圧縮変形率試験条件>
所定の試験片厚み測定治具を用いて1MPaの圧力で前記ガス拡散層試験片を全面的に押圧したときのその押圧前後の膜厚みを室温にてそれぞれ求め、それら押圧前後の膜厚の変化率( %)を算出した。
<引張強度試験条件>
島津製作所製の小型卓上試験機EZ Testを用いて室温中にて前記ガス拡散層試験片( 幅15mm×長さ45mm×厚み0.2mm)を引っ張り、破壊したときの強度( N)を求めた。
【0059】
図5には、各試験片の断面加圧抵抗および1MPaIPガス透過性の測定値が示されており、図8、図9、図10はそれらの測定値をグラフ化したものである。図8は各試験片の熱融着性有機繊維OFの含有量( 重量%)に対する断面加圧抵抗値( mΩcm2)の関係を示し、図9は各試験片の熱融着性有機繊維OFの含有量( 重量%)に対する1MPaIPガス透過性( cc/sec)の関係を示し、図10は各試験片の炭素微粒子CPに対する結合剤樹脂Rの重量比R/CPに対する断面加圧抵抗値( mΩcm2)の関係を示している。図8、図9、図10において、白丸のプロットは熱融着性有機繊維OFを含有しない試験片22〜28の値を示し、黒い菱形は熱融着性有機繊維OFを含む試験片1〜21の値を示している。
【0060】
断面加圧抵抗( mΩcm2)は25以下が一応の合格判定基準とされており、図5、図8、図9に示すように、炭素微粒子CPに対する結合剤樹脂Rの重量比R/CPが8以下の範囲の試験片1乃至18および28がそれを満足している。同様に、1MPaIPガス透過性( cc/sec)は10以上が一応の合格判定基準とされており、図5および図10に示すように、熱融着性有機繊維OFの含有量( 重量%)が8以下の試験片1乃至21がそれを満足している。すなわち、試験片1乃至18は、実用上望まれる十分に低い断面加圧抵抗値( mΩcm2)と、実用上望まれる十分に高い1MPaIPガス透過性( cc/sec)とを備えており、実施例に対応している。
【0061】
しかし、熱融着性有機繊維OFを含む試験片1乃至21のうち、R/CPが8を上回るもの、すなわち試験片19乃至21は、断面加圧抵抗値( mΩcm2)の実用上望まれる低い値が得られない。また、熱融着性有機繊維OFを含まない試験片22乃至28は、実用上望まれる十分に高い1MPaIPガス透過性( cc/sec)が得られない。すなわち、試験片19乃至28は、断面加圧抵抗値( mΩcm2)および1MPaIPガス透過性( cc/sec)のうちの少なくとも一方が実用上望まれる範囲から外れた特性を備えており、比較例に対応している。
【0062】
TPガス透過性( ml・mm/cm2/min) については5000以上であることが一応の合格判定基準とされているが、試験片1乃至21のガス透過性の測定値についてはいずれもその合格判定基準を超えていた。また、1MPaIPバブルポイント細孔径( μm) は35μm以上が一応の合格判定基準とされているが、試験片1乃至21の1MPaIPバブルポイント細孔径の測定値はいずれもその合格判定基準を超えていた。また、1MPa圧縮変形率 (%) については10%以下が一応の合格判定基準とされているが、試験片1乃至21がその合格判定基準を下まわっていた。また、引張強度( N)については2N( ニュートン) 以上が一応の合格判定基準とされているが、試験片1乃至21がその判定基準を超えていた。
【0063】
特に、TPガス透過性については、上記試験片1乃至18および繊維長試験片は判定基準5000( ml・mm/cm2/min)の4倍程度の20000前後の値を示し、従来の市販のカーボンペーパーの値よりも格段によい値を示した。相互融着した熱融着性有機繊維OFにより形成される多孔質骨材構造30の存在により、燃料ガス或いは酸化性ガスの透過が容易となって、MEA10の大幅な性能向上が期待できる。
【0064】
結局、試験片1〜18の材料組成、すなわち、熱融着性有機繊維OFが0.5〜8wt%であり、且つ、炭素繊維CFが35〜85wt%(好ましくは50〜82wt%)、或いは炭素微粒子CPが2.5〜20wt%(好ましくは5〜17wt%)、或いは結合剤樹脂Rが5〜50wt%(好ましくは8〜40wt%)という材料組成を有するガス拡散層、或いは、炭素微粒子CPに対する結合剤樹脂Rの重量比R/CPが8以下であるガス拡散層が好適な結果がを有している。
【0065】
<評価試験2>
次に、前記ガス拡散層18、20の厚みTとそれに含まれて多孔質骨材構造30を形成する熱融着性有機繊維OFの繊維長Lとの比( T/L)の変化による性能の変化を確認するために、以下の条件下で作成したガス拡散層試験片について行った評価試験2を説明する。
【0066】
<ガス拡散層試験片の材料および基本調合( 重量部) >
・炭素微粒子:キャボット社製の炭素微粒子XC-72 を、0.4 重量部
・炭素繊維:三菱樹脂株式会社製のカーボンファイバー(10 μm φ×200μm)を、4 .0 重量部
・溶媒 :日本アルコール販売社のアルコール混合溶媒ソルミックスAP-7を、27 重量部
・結合剤樹脂:住友ベークライト株式会社製のレゾール系樹脂を、2.4重量部
・熱融着性有機繊維:帝人ファイバー株式会社製の芯鞘型有機繊維TJ04CN(10μmφ) を、0.2 重量部
<ガス拡散層試験片の製造条件>
上記の基本調合の材料を有し、繊維長が5種類(0.4mm、0.6mm 、0.8mm 、1.0mm 、5.0mm)の繊維長の熱融着性有機繊維OFを含み、且つ、10種類( 0.15mm、0.2mm 、0.4mm 、0.6mm 、0.8mm 、1.0 mm、1.2mm 、1.4mm 、1.6mm 、1.8mm)の膜厚を有する形状の50種類の試験片と、熱融着性有機繊維OFを含まない試験片とを、図4に示す製造工程を用いてそれぞれ作成した。なお、断面加圧抵抗、ガス透過性、バブルポイント細孔径測定用のガス拡散層試験片は、25mmφ×厚み0.2mmを有する円形シート状とし、引張強度測定用のガス拡散層試験片は、幅15mm×長さ45mm×厚み0.2mmを有する矩形シート状とした。
【0067】
図11には、各試験片毎に前記条件に基づいて測定された断面加圧抵抗と、各試験片毎の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが記載されている。図12には、それら断面加圧抵抗および膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lを、ガス拡散層膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lを示す横軸と断面加圧抵抗値を示す縦軸との二次元座標に表わしたグラフを示している。図12において、菱形印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.4mmの値、四角印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.6mmの値、三角印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.8mmの値、×印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が1.0mmの値、丸印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が5mmの値を示している。図11および図12から明らかなように、断面加圧抵抗(mΩcm2)の合格判定値を十分に実用可能な25mΩcm2以下であるとすると、ガス拡散層膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2乃至3.0の範囲内であるガス拡散層であれば、その断面加圧抵抗の合格判定値を満足できる。
【0068】
図13には、各試験片毎に前記条件に基づいて測定された1MPaIPガス透過性( cc/sec)と、各試験片毎の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが記載されている。図14には、それら1MPaIPガス透過性および膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lを、ガス拡散層膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lを示す横軸と1MPaIPガス透過性を示す縦軸との二次元座標に表わしたグラフを示している。図14においても、菱形印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.4mmの値、四角印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.6mmの値、三角印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.8mmの値、×印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が1.0mmの値、丸印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が5mmの値を示している。図13および図14から明らかなように、1MPaIPガス透過性の合格判定値を十分に実用可能な10cc/sec以上であるとすると、ガス拡散層膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2乃至3.0の範囲内のガス拡散層であれば、その1MPaIPガス透過性の合格判定値を満足できる。
【0069】
図15は、ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2を下回る場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lを図示するイメージ図である。図16は、ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2以上且つ3以下の場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lを図示するイメージ図である。図17は、ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが3を超える場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lを図示するイメージ図である。
【0070】
この評価試験2により、断面加圧抵抗は、図11、図12に示すように、ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2≦T/L≦3の範囲内で良好な値が得られるが、0.2未満や3を上回ると増加することが確認できた。膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2未満では、図15に示すように、熱融着性有機繊維OFの繊維長Lが長すぎることから炭素繊維CF同士の導通を妨げるためと推定される。逆に、膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが3を上回ると、図17に示すように、ガス拡散層の膜厚方向における熱融着性有機繊維OFの数が増加することからこれも断面加圧抵抗の増加につながると推定される。
【0071】
また、1MPaIPガス透過性も、図13、図14に示すように、ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2≦T/L≦3の範囲内で良好な値が得られるが、0.2未満や3を上回ると増加することが確認できた。このIPガス透過性は、1MPaの加圧状態で測定されることから、膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2未満では、図15に示すように、熱融着性有機繊維OFの繊維長Lが長すぎることからガス透過の妨げになるためと推定される。逆に、膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが3を上回ると、図17に示すように、断面方向を支える熱融着性有機繊維OFの数が増加することから圧縮に対してつぶれ易くなり、これもIPガス透過性の低下につながると推定される。これらを総合すると、ガス拡散層内において、図16に示すように、概ね膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2≦T/L≦3の範囲内であると、断面加圧抵抗および1MPaIPガス透過性が良好な値となることが明らかである。
【0072】
上述したように、本実施例の多孔質且つ導電性のガス拡散層18、20では、それに含まれる熱融着性有機繊維OFは、加熱により相互に熱融着させられた多孔質骨材構造30を構成し、その多孔質骨材構造30内において、炭素繊維CFが炭素微粒子CPと共に結合剤樹脂Rによって相互に結着されていることから、ガス拡散層18、20を補強する比較的高い剛性を有する多孔質骨材構造30がガス拡散層18、20内に設けられる。また、熱融着性有機繊維OFは、ガス拡散層18、20の膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2乃至3の範囲の適切な繊維長を有するので、圧縮圧力が付与された状態でも高いガス透過性を有するとともに、導電性を同時に具備することができるガス拡散層18、20が得られる。
【0073】
また、本実施例のガス拡散層18、20では、それに含まれる熱融着性有機繊維OFは、40〜500の範囲内のアスペクト比( =繊維長/繊維径) を有していることから、加熱により相互に熱融着させられた熱融着性有機繊維OFにより高い剛性の多孔質骨材構造30が得られる。熱融着性有機繊維のアスペクト比が40を下まわると、その熱融着性有機繊維の相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造30の孔が小さくなり過ぎてガス透過性が損なわれる。反対に、熱融着性有機繊維OFのアスペクト比が500を上まわると、その熱融着性有機繊維OFの相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造30の孔が大きくなり過ぎて十分な剛性が得られない。
【0074】
また、本実施例のガス拡散層18、20では、それに含まれる熱融着性有機繊維OFは、芯部樹脂とその芯部樹脂の外周を被覆しその芯部樹脂よりも融点或いは軟化点が低い鞘部樹脂とから構成されていることから、熱処理時の温度や加圧のばらつきがあっても安定した形状および強度を有する多孔質骨材構造をガス拡散層内に構成することができる。
【0075】
また、本実施例のガス拡散層18、20では、それに含まれる熱融着性有機繊維OFのガス拡散層18、20に対する重量割合は、0.5〜8%の範囲内であることから、加熱により相互に熱融着させられた熱融着性有機繊維OFにより高い剛性の多孔質骨材構造30を構成するので、セパレータ26からの圧縮圧力下でもガス拡散層18、20自体が変形しない。熱融着性有機繊維OFのガス拡散層18、20に対する重量割合が0.5%を下回ると、その熱融着性有機繊維OFの相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造30の剛性が十分に得られず、ガス拡散層18、20の機械的強度が不足し、圧縮圧力で気孔がつぶれ、ガス透過性が下がる可能性がある。反対に、熱融着性有機繊維OFのガス拡散層18、20に対する重量割合が8%を上回ると、十分な導電性が得られ難くなる。
【0076】
また、本実施例のガス拡散層18、20の製造に用いるスラリーによれば、炭素繊維CF、炭素微粒子CP、結合剤樹脂R、および、加熱により相互に熱融着させられる熱融着性有機繊維OFが溶媒に分散させられていることから、そのスラリーからシート状成形体を成形し、そのシート状成形体の状態で、トンネル状加熱炉、加熱ローラ、加熱板などを用いて熱処理を施すことにより、熱融着性有機繊維OFを相互に熱融着させて多孔質骨材構造30を構成すると同時に、その多孔質骨材構造30内において炭素繊維CFが炭素微粒子CPと共に結合剤樹脂Rによって相互に結着させることができるので、連続的にガス拡散層18、20を製造でき、そのガス拡散層18、20を低価格で得ることができる。
【0077】
また、本実施例のMEA( 膜−電極接合体)10によれば、固体高分子電解質膜12と、その固体高分子電解質膜12の一面および他面にそれぞれ設けられた多孔質且つ導電性の触媒層14、16と、それら触媒層14、16の表面にそれぞれ設けられた多孔質且つ導電性のガス拡散層18、20とを含むことから、導電性およびガス拡散性が共に高く且つフッ素を用いなくとも排水性の高いガス拡散層18、20を用いたMEA10が得られる。
【0078】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0079】
例えば、前述の熱融着性有機繊維OFは、相対的に高融点或いは高軟化点を有する芯部樹脂と、その芯部樹脂の外周を被覆し相対的に低融点或いは低軟化点を有する樹脂鞘側( 被覆層側)樹脂とから成る芯鞘型有機繊維であったが、必ずしもそのような芯鞘型有機繊維でなくてもよい。たとえば、熱処理工程P5において相互に熱融着可能な樹脂から成る単純な有機繊維であってもよい。
【0080】
また、前述の本実施例において、ガス拡散層18,20は炭素微粒子CPを備えているが、この炭素微粒子CPはガス拡散層18,20の導電性を高めるために配合されているものであるのでその微粒子の材質は炭素微粒子に限定されるわけではなく、炭素微粒子CPに替えて或いはそれと共に金、銀、白金、銅などの金属微粒子すなわち導電性微粒子を備えたガス拡散層18,20も考え得る。
【0081】
また、前述の本実施例において、炭素繊維CFは、ピッチ系カーボンファイバーであるが、ポリアクリルニトリル繊維を炭化したPAN系カーボンファイバーなどの他のカーボンファイバーであっても差し支えない。例えば、炭素繊維CFがPAN系カーボンファイバーであれば、ピッチ系カーボンファイバー等である場合と比較して、PAN系カーボンファイバーは高強度であるので、ガス拡散層18,20の機械的強度が高くなるという利点がある。
【0082】
また、前述の本実施例の図1において、本発明のガス拡散層18,20はMEA10の両方の電極の何れにも備えられているが、一方の電極が本発明のガス拡散層18を備え他方の電極が従来からのガス拡散層18,20を備えたMEA10も考え得る。
【0083】
また、前述の本実施例において、ガス拡散層18,20は、多数の炭素繊維CFと、多数の炭素微粒子CPと、結合剤樹脂Rとから構成されているが、その他の材料を含んでいても差し支えない。
【0084】
また、前述の本実施例の図4において、成形工程P4にて、シート状成形体は、例えばメタルマスクを用いて成形されるが、そのようなメタルマスク型によって成形されることに限定されるわけではない。
【0085】
また、前述の本実施例の図4において、成形工程P4と熱処理工程P5との間に乾燥工程が設けられてもよいが、その乾燥工程は熱処理工程P5とが一工程で行われて、シート状成形体からの溶媒の除去と熱融着性有機繊維OF相互の熱融着および結合剤樹脂Rの硬化とが並行して進行しても差し支えない。
【符号の説明】
【0086】
10:MEA(膜−電極接合体)
12:電解質膜(固体高分子電解質層)
14、16:触媒層
18、20:ガス拡散層
22、24:ガス拡散電極
26:セパレータ
30:多孔質骨材構造
CF:炭素繊維
CP:炭素微粒子( 導電性微粒子)
R:結合剤樹脂
OF:熱融着性有機繊維
P4:成形工程
P5:熱処理工程(硬化工程)
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に用いられるガス拡散電極の一部を構成するガス拡散層、そのガス拡散層を含むガス拡散電極を備える膜−電極接合体、および、そのガス拡散層の製造に用いるスラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料として水素、メタノール、化石燃料からの改質水素等の還元剤を用い、空気や酸素を酸化剤として、電池内で燃料を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出すものである。そのため、内燃機関に比較して効率が高く、静粛性に優れると共に、大気汚染の原因となるNOX、SOX、粒子状物質(PM)等の排出量が少ないことから、近年、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。例えば、電動機の駆動電源、住宅用等の分散型電源や熱電供給システムとしての利用が期待されている。
【0003】
このような燃料電池は、用いる電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形、固体高分子形等に分類される。これらのうちプロトン伝導性の電解質を用いるリン酸形および固体高分子形は、熱力学におけるカルノーサイクルの制限を受けることなく高い効率で運転できるものであり、その理論効率は、25( ℃) において83( %) にも達する。特に、固体高分子形燃料電池は、近年電解質膜や触媒技術の発展により性能の向上が著しくなり、低公害自動車用電源や高効率発電方法として注目を集めている。
【0004】
ところで、固体高分子形燃料電池は、一般に、水素イオン(プロトン)を選択的に伝導する薄い高分子電解質層の両面を一対のガス拡散電極で挟んだ構造を備えるものであり、通常は、このような膜−電極接合体(Membrane Electrode Assembly:以下、MEA) をセパレータを介して積層したスタック構造で用いられる。ガス拡散電極はそれぞれ連通気孔を備えた多孔性の触媒層およびガス拡散層から構成されており、これら触媒層およびガス拡散層は、一体化或いは複層化されたものもある。
【0005】
上記ガス拡散層は、ガス拡散電極用基材とも称される層状体であり、触媒層および電解質層表面に燃料ガスや空気を導くと共に、発生した電流を取り出すために、高いガス拡散性能と高い導電性とが共に要求される。また、加湿燃料中の水蒸気や反応により発生した水によるガス流路の閉塞を抑制するために優れた排水性能を有することも要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−015908号公報
【特許文献2】特開2010−153222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記ガス拡散層として、特許文献1および特許文献2に提案されたものがある。たとえば、特許文献1に記載されたものは、炭素繊維、樹脂、導電性微粒子から成るスラリーを150℃程度の温度の比較的低温で成膜できる利点がある。しかし、これらの材料で形成されるガス拡散層では、実際に燃料電池に組み込まれ発電する際にスタック構造とされると、セパレータによる圧縮圧力のためにガス拡散層自体が変形してしまい、連通気孔が圧縮されることによってガス透過性が低下して、特に面内( In−Plane)方向のガス拡散および反応水の排出を妨げてしまうという問題があった。このガス透過性はたとえばIPガス透過性測定値で評価される。
【0008】
これに対して、特許文献2に記載されたものは、ガラス繊維と炭素繊維分散スラリーを複合化することで、柔軟で且つ薄く、引っ張りや圧縮に対して強度を保持できるようにしたガス拡散層が提案されている。しかし、これはあくまでもその骨材となるガラス繊維による強度付与であって、ガラス繊維相互の結合体による強度の付与ではないことから、加圧下において高いガス透過性を得るためにはガラス繊維の割合を高めて連通気孔をつぶれ難くする必要があるが、ガラス繊維の割合が高くなると導電性が低下して加圧抵抗が高くなるという相反的な現象が生じるという問題があった。この導電性はたとえば断面加圧抵抗の測定値で評価される。
【0009】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、スタック構造とするために圧縮圧力が付与されても高いガス透過性と高い導電性とを同時に得られる固体高分子形燃料電池のガス拡散層、そのガス拡散層を含む固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体( MEA) 、および、そのガス拡散層の製造に用いるスラリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
斯かる目的を達成するため、第1発明の要旨とするところは、(a) 固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質上にガス拡散電極を構成するためにその固体高分子電解質上に触媒層を介して設けられる固体高分子形燃料電池のガス拡散層であって、(b) 炭素繊維、結合剤樹脂、導電性微粒子、熱融着性有機繊維を含み、(c) その熱融着性有機繊維は、前記ガス拡散層の膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2乃至3の範囲の繊維長を有し、加熱により相互に熱融着させられて構成される多孔質骨材構造を構成し、(d) その多孔質骨材構造内において、その炭素繊維がその導電性微粒子と共に結合剤樹脂によって相互に結着されていることを特徴とする。
【0011】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、(e) 前記熱融着性有機繊維は、40〜500の範囲内のアスペクト比( =繊維長/繊維径) を有していることを特徴とする。
【0012】
第3発明の要旨とするところは、第1又は第2発明において、(f) 前記熱融着性有機繊維は、芯部樹脂とその芯部樹脂の外周を被覆しその芯部樹脂よりも融点或いは軟化点が低い鞘部樹脂とから構成されていることを特徴とする。
【0013】
第4発明の要旨とするところは、第1乃至第3発明のいずれか1の発明において、(g) 前記熱融着性有機繊維の前記ガス拡散層に対する重量割合は、0.5〜8%の範囲内であることを特徴とする。
【0014】
第5発明の、第1乃至第4発明のいずれか1のガス拡散層の製造に用いるスラリーの要旨とするところは、(h) 炭素繊維、導電性微粒子、結合剤樹脂、および、加熱により相互に熱融着させられる熱融着性有機繊維が溶媒に分散させられていることを特徴とする。
【0015】
第6発明の固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体の要旨とするところは、(i) 固体高分子電解質膜と、(j)その固体電解質膜の一面および他面にそれぞれ設けられた触媒層と、(k)それら触媒層の表面にそれぞれ設けられた第1乃至第5発明のいずれか1のガス拡散層とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明の固体高分子形燃料電池のガス拡散層では、それに含まれる熱融着性有機繊維は、加熱により相互に熱融着させられた多孔質骨材構造を構成し、その多孔質骨材構造内において、その炭素繊維がその導電性微粒子と共に結合剤樹脂によって相互に結着されていることから、ガス拡散層を補強する比較的高い剛性を有する多孔質骨材構造がガス拡散層内に設けられる。また、熱融着性有機繊維はガス拡散層の膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2乃至3の範囲の適切な繊維長を有するので、圧縮圧力が付与された状態でも高いガス透過性を有するとともに、導電性を同時に具備することができるガス拡散層が得られる。
【0017】
第2発明の固体高分子形燃料電池のガス拡散層において、前記熱融着性有機繊維は、40〜500の範囲内のアスペクト比( =繊維長/繊維径) を有していることから、加熱により相互に熱融着させられた熱融着性有機繊維により高い剛性の多孔質骨材構造が得られる。熱融着性有機繊維のアスペクト比が40を下まわると、その熱融着性有機繊維の相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造の孔が小さくなり過ぎてガス透過性が損なわれる。反対に、熱融着性有機繊維のアスペクト比が500を上まわると、その熱融着性有機繊維の相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造の孔が大きくなり過ぎて十分な剛性が得られない。
【0018】
第3発明の固体高分子形燃料電池のガス拡散層においては、前記熱融着性有機繊維は、芯部樹脂とその芯部樹脂の外周を被覆しその芯部樹脂よりも融点或いは軟化点が低い鞘部樹脂とから構成されていることから、熱処理時の温度や加圧のばらつきがあっても安定した形状および強度を有する多孔質骨材構造をガス拡散層内に構成することができる。
【0019】
第4発明の固体高分子形燃料電池のガス拡散層においては、前記熱融着性有機繊維の前記ガス拡散層に対する重量割合は、0.5〜8%の範囲内であることから、加熱により相互に熱融着させられた熱融着性有機繊維により高い剛性の多孔質骨材構造を構成するので、セパレータからの圧縮圧力でもガス拡散層自体が変形しない。熱融着性有機繊維のガス拡散層に対する重量割合が0.5%を下回ると、その熱融着性有機繊維の相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造の剛性が十分に得られず、ガス拡散層の機械的強度が不足する可能性がある。反対に、熱融着性有機繊維のガス拡散層に対する重量割合が8%を上回ると、十分な導電性が得られ難くなる。
【0020】
第5発明の固体高分子形燃料電池のガス拡散層の製造に用いるスラリーによれば、炭素繊維、導電性微粒子、結合剤樹脂、および、加熱により相互に熱融着させられる熱融着性有機繊維が溶媒に分散させられていることから、そのスラリーからシート状成形体を成形し、そのシート状成形体の状態で熱処理を施すことにより、熱融着性有機繊維を相互に熱融着させて多孔質骨材構造を構成すると同時に、その多孔質骨材構造内において前記炭素繊維が導電性微粒子と共に結合剤樹脂によって相互に結着させることができるので、連続的にガス拡散層を製造でき、そのガス拡散層を低価格で得ることができる。
【0021】
第6発明の膜−電極接合体によれば、固体高分子電解質膜と、その固体電解質膜の一面および他面にそれぞれ設けられた触媒層と、それら触媒層の表面にそれぞれ設けられた第1乃至第5発明のいずれか1の多孔質且つ導電性のガス拡散層とを含むことから、導電性およびガス拡散性が共に高く且つフッ素を用いなくとも排水性の高いガス拡散層を用いた固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体が得られる。
【0022】
ここで、第1発明において、「固体高分子電解質上に」とは、固体高分子電解質の上にガス拡散層が直接設けられている場合の他、触媒層等の他の層を介してガス拡散層が設けられている場合が含まれる。
【0023】
また、好適には、前記熱融着性有機繊維の芯部樹脂は、通常のポリエステルまたはポリエチレンから成り、また、その芯部樹脂の外周を被覆しその芯部樹脂よりも融点或いは軟化点が低い鞘部樹脂は、低融点のポリエステルまたはポリエチレンから成る。
【0024】
また、好適には、前記炭素繊維の前記ガス拡散層に対する重量割合は、50乃至82%である。炭素繊維の重量割合が50%を下まわると気孔率が低下して十分なガス透過性が得られず、炭素繊維の重量割合が82%を超えると導電性が十分に得られない。
【0025】
また、好適には、前記炭素繊維のアスペクト比(=繊維長/繊維径)が4.5〜25の範囲内である。このようにすれば、炭素繊維が比較的太く且つ短いため、炭素繊維相互に導電性微粒子を介して或いは直接的に接触し易く、しかも、炭素繊維相互の隙間が適度な大きさになるので、高い導電性および高いガス透過性が得られる。アスペクト比が4.5未満では、炭素繊維が短いので密度が高くなり延いてはガス透過性が低くなる。また、アスペクト比が25を超えると、炭素繊維が長いのでガス拡散層の面に沿った横向きになるため、厚み方向における導電性が低下すると共に、炭素繊維相互間に空隙の多い組織になる。
【0026】
また、好適には、前記導電性微粒子は炭素微粒子であり、その炭素微粒子の前記ガス拡散層内の結合剤樹脂に対する重量比( 結合剤樹脂量/炭素微粒子量) は、8以下であることから、高い導電性およびガス拡散性を有する多孔質のガス拡散層が得られる。炭素微粒子のガス拡散層内の樹脂に対する重量割合が8を超えると、ガス透過性が低下し、ガス拡散層の導電性が低下する可能性がある。
【0027】
また、好適には、前記導電性微粒子は平均一次粒子径が10〜100(nm)である。このようにすれば、炭素繊維相互の接点で導電経路が十分に確保されることから、一層高い導電性が得られる。また、上記導電性微粒子の一次粒子径が十分に小さいので、ガス拡散層のガス透過性が高いという利点がある。上記平均一次粒子径が10(nm)未満では、多数の導電性微粒子が相互に凝集し易くなるため、ガス拡散層の製造の際に導電性微粒子の分散が不均一になり易くなる。また、上記平均一次粒子径が100(nm)を超えると、導電性微粒子による炭素繊維相互の接点での導電性を高める効果が十分に得られずガス拡散層の導電性が低下する。
【0028】
また、好適には、前記導電性微粒子はクラスター構造を成すものである。このようにすれば、複数本の炭素繊維は、クラスター構造の導電性微粒子との間の無数の接点を通して相互に接触させられるため、前記ガス拡散層は高い導電性を得ることができる。
【0029】
また、好適には、前記結合剤樹脂は、前記ガス拡散層に対する重量割合が8乃至40%である。結合剤樹脂の重量割合が8%を下回ると炭素繊維間の結合が低下し、40%を上まわるとガス透過性が低下する。また、好適には、前記結合剤樹脂は、フェノール系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、その他の熱硬化性樹脂や熱融着性樹脂が用いられてもよい。
【0030】
また、前記固体高分子形燃料電池には、反応の生じる三相界面に触媒(例えば、貴金属系触媒)が備えられていることが望ましい。例えば、ガス拡散電極が、上記触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、前記ガス拡散層とを層状に備えており、固体高分子形燃料電池は、対を成す上記ガス拡散電極が触媒層を内側にして前記固体高分子電解質層(膜)の両面に接合された構造となる。また、上記触媒は、ガス拡散層中に炭素繊維や導電性微粒子に担持された状態で備えられていてもよい。ガス拡散層中に備えられている態様は、例えば、ガス拡散層の形成後に触媒を含むスラリーを含浸させる方法や、ガス拡散層製造用スラリー中に触媒を混合して、ガス拡散層を形成すると同時に触媒を担持させる方法等で実施し得る。
【0031】
また、前記炭素繊維は特に限定されず、ポリアクリロニトリル系(PAN系)炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等の適宜のものを用い得る。ポリアクリロニトリル系炭素繊維を用いた場合には、炭素繊維の強度が高いため機械的強度の特に高いガス拡散電極が得られる。また、ピッチ系炭素繊維を用いた場合には、電気伝導性の特に高いガス拡散電極が得られる。
【0032】
また、前記炭素繊維は、平均径が1〜30( μm)の範囲内のものが好ましい。更に、平均径が5( μm)以上であれば、繊維が十分に太く、折れ難いことから十分に高い機械的強度が得られる。また、平均径が20( μm)以下であれば、導電性微粒子、結合剤樹脂や溶剤との混合が容易である。
【0033】
また、前記炭素繊維は、平均繊維長が50〜250( μm)の範囲内のものが好ましい。平均繊維長が50( μm)以上であれば、炭素繊維相互の絡み合いが十分に多くなって機械的強度が十分に高くなる。また、平均繊維長が250( μm)以下であれば、炭素繊維の分散性が十分に高められ、ガス拡散層の組織の均質性が十分に高くなる。
【0034】
また、固体高分子形燃料電池には、燃料極側および空気極側のそれぞれにガス拡散電極が備えられるが、本発明のガス拡散層は、それら燃料極側および空気極側の何れの電極にも適用され得る。但し、両極で同一構成の電極が設けられることが必須ではなく、所望する特性や製造上の都合等に応じて、適宜の電極構成を採用することができ、本発明を適用されるのが両極のうちの一方のみであってもよい。
【0035】
また、本発明は、種々の固体高分子電解質が用いられた固体高分子形燃料電池に適用され、固体高分子電解質の材質は特に限定されない。例えば、イオン交換基(-SO3H 基等)を有するモノマーの単独重合体または共重合体、イオン交換基を有するモノマーとそのモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、加水分解等の後処理によりイオン交換基に転換し得る官能基(すなわちイオン交換基の前駆的官能基)を有するモノマーの単独重合体、または共重合体(プロトン伝導性高分子前駆体)に同様な後処理を施したもの等が挙げられる。
【0036】
上記固体高分子電解質の具体例としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂等のパーフルオロ型のプロトン伝導性高分子、パーフルオロカーボンカルボン酸樹脂膜、スルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体膜、スルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFE共重合体膜、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)スルホン酸膜、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)膜、炭化水素系膜等が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例である平板型のMEAを示す図である。
【図2】図1のMEAに備えられたガス拡散電極のガス拡散層の構成を模式的に示す図である。
【図3】図2のガス拡散電極用ガス拡散層における炭素繊維相互の接合状態を説明するための模式図である。
【図4】図2のガス拡散電極用ガス拡散層およびその試験片の製造方法を説明するための工程図である。
【図5】炭素繊維、炭素微粒子、熱融着性有機繊維、結合剤樹脂の割合および結合剤樹脂の種類を変えて図4に示す工程で製造された21種類のガス拡散層試験片の組成および評価結果と、炭素繊維、炭素微粒子、結合剤樹脂の割合を変えて図4と同様の工程で製造された熱融着性有機繊維を含まない7種類のガス拡散層試験片の組成および評価結果とを示す図表である。結合剤樹脂は、実施例1〜14、比較例19〜27は、住友べークライト株式会社製のフェノール樹脂(水溶性)、実施例15〜18、比較例28はDIC株式会社製のアクリルシリコン樹脂(エマルジョンタイプ)を使用した。
【図6】1MPaIPガス透過性の測定に用いられた試験片固定装置を説明する図である。
【図7】IPバブルポイントの測定に用いられた試験片固定装置を説明する図である。
【図8】図5の熱融着性有機繊維を含む21種類のガス拡散層試験片、および図5の熱融着性有機繊維を含まない7種類のガス拡散層試験片についての断面加圧抵抗の測定値を、それら試験片中の熱融着性有機繊維の含有量を示す横軸上に表わすグラフである。
【図9】図5の熱融着性有機繊維を含む21種類のガス拡散層試験片、および図5の熱融着性有機繊維を含まない7種類のガス拡散層試験片についての1MPaIPガス透過性の測定値を、それら試験片中の熱融着性有機繊維の含有量( 重量%)を示す横軸上に表わすグラフである。
【図10】図5の熱融着性有機繊維を含む21種類のガス拡散層試験片、および図5の熱融着性有機繊維を含まない7種類のガス拡散層試験片についての断面加圧抵抗値を、それら試験片の炭素微粒子に対する樹脂量の比( 重量比R/CP)を示す横軸上に表わしたグラフである。
【図11】炭素繊維、導電性微粒子、熱融着性有機繊維、結合剤樹脂の割合は同じであるが、その熱融着性有機繊維のガス拡散層膜厚Tと繊維長Lの比T/Lを変化させて図4に示す工程で製造された50種類のガス拡散層試験片について、断面加圧抵抗の評価試験を行ったときの評価結果を示す図表である。
【図12】図11の試験結果を、ガス拡散層膜厚Tと繊維長Lの比T/Lを示す横軸と断面加圧抵抗値を示す縦軸との二次元座標に表わしたグラフを示す図である。
【図13】図11と同様に製造された50種類のガス拡散層試験片について、IPガス透過性の評価試験を行ったときの評価結果を示す図表である。
【図14】図13の試験結果を、ガス拡散層膜厚Tと繊維長Lの比T/Lを示す横軸とIPガス透過性を示す縦軸との二次元座標に表わしたグラフを示す図である。
【図15】ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lの比T/Lが0.2を下回る場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lを図示するイメージ図である。
【図16】ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lの比T/Lが0.2以上且つ3以下の場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lを図示するイメージ図である。
【図17】ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lの比T/Lが3を超える場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維の繊維長Lを図示するイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0039】
図1は、本発明の一実施例である平板型の膜−電極接合体10(以下、「MEA10」という)の断面構造を示す図である。MEA10は、固体高分子形燃料電池の単電池の中心部を構成する部材であり、燃料ガスおよび酸化ガスをそれぞれガス拡散電極22,24へ供給する一対の図示しないセパレータ26から挟圧されることで1個の電池セルが構成され、その電池セルが複数個積層されることで燃料電池が構成される。MEA10は、図1に示すように、薄い平板層状の電解質膜12と、この電解質膜12を挟むように一体的に貼り合わされた一対のガス拡散電極22,24とから構成されている。そして、その一対のガス拡散電極22,24は、触媒層14,16と、ガス拡散層18,20とを層状に有し、触媒層14,16を内側にして、すなわち、触媒層14,16を電解質膜12側にして、その電解質膜12の一面および他面にそれぞれ接合されている。
【0040】
上記の電解質膜12は、本発明の固体高分子電解質層に対応し、例えばNafion( デュポン社の登録商標)DE520等のプロトン導電性電解質から成るもので、例えば50( μm)程度の厚さ寸法を備えている。
【0041】
また、上記の触媒層14,16は、例えば球状の炭素粉末に白金等の貴金属系触媒を担持させたPt担持カーボンブラックから成る導電性且つ多孔質のものである。これは、例えば田中貴金属工業( 株) から市販されているもの(例えばTEC10E70TPM 等)を用い得る。触媒層14,16の厚さ寸法は、例えば50( μm)程度である。
【0042】
また、上記のガス拡散層18,20は、その厚み(膜厚)に限定は無いがたとえばそれぞれ200( μm)程度の厚さ寸法を備え、その表面と裏面(すなわち触媒層14,16側の一面)との間で容易に気体が流通し得るように構成された導電性を有する多孔質層である。
【0043】
上記のガス拡散層18,20は、例えば、多数の炭素繊維CFと、多数の炭素微粒子CPと、結合剤として機能する結合剤樹脂Rと、熱融着性有機繊維OFとから構成されている。そして、それらの炭素繊維CF、炭素微粒子CP、結合剤樹脂R、熱融着性有機繊維OFの各構成割合は限定されるわけでは無いが、例えば、熱融着性有機繊維OFのガス拡散層18,20( 固形分) に対する重量割合は0.5〜8(%)の範囲内であり、炭素微粒子CPのガス拡散層18,20に対する重量割合は2.5〜20(%)好ましくは5〜17(%)の範囲内であり、結合剤樹脂Rのガス拡散層18,20に対する重量割合は5〜50(%)好ましくは8〜40(%)の範囲内であり、且つ、炭素繊維CFのガス拡散層18,20に対する重量割合は35〜85(%)好ましくは50〜82(%)の範囲内である。
【0044】
炭素繊維CFは、たとえばピッチを原料とするピッチ系カーボンファイバーであり、その平均直径が1〜30( μm)程度である。また、炭素繊維CFの平均繊維長が50〜250( μm)程度の範囲内であって、且つ、ガス拡散層18,20の膜厚に対する上記平均繊維長の比(=平均繊維長/膜厚)が0.1〜1の範囲内であることが望ましい。例えば、ガス拡散層18,20の膜厚が200( μm)程度であるので、炭素繊維CFの平均繊維長が50〜200( μm)程度の範囲内であることが望ましい。具体的に本実施例で採用される炭素繊維CFは、平均直径が8〜12( μm)程度であって平均繊維長が200( μm)程度のピッチ系カーボンファイバーである。炭素繊維CFのアスペクト比(=繊維長/繊維直径)は、ガス拡散層18,20の高い導電性と高いガス透過性とを確保するため、4.5〜25の範囲内であることが望ましい。上記炭素繊維CFの平均直径、平均繊維長、およびアスペクト比は、電子顕微鏡による観察から求められる。例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)測定を行い、その画像から炭素繊維CFの直径および長手方向の長さを直接測定する。
【0045】
炭素微粒子CPは、その平均一次粒子径が10〜100(nm)程度の極めて微小な微粒子である。たとえば、キャボット社製のXC−72が好適に用いられる。具体的に本実施例で採用される炭素微粒子CPの平均一次粒子径は30(nm)程度である。本実施例において、上記平均一次粒子径とは一次粒子径の平均値であり、その一次粒子径は、電子顕微鏡による観察から求められる定方向径である。なお、炭素微粒子CPは、本発明の導電性微粒子に対応する。
【0046】
また、結合剤樹脂Rは、フェノール系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、その他の熱硬化性樹脂や熱融着性樹脂が好適に用いられる。
【0047】
熱融着性有機繊維OFは、融点或いは軟化点の相違する樹脂たとえばポリエステル樹脂やポリエチレン樹脂から構成された芯鞘タイプの有機繊維である。この芯鞘タイプの有機繊維のうちの中心側の芯部樹脂はたとえば200乃至350℃程度(好ましくは240乃至260℃程度)の相対的に高融点或いは高軟化点を有する樹脂たとえばレギュラーPETに提示される通常のポリエチレン樹脂やポリエステル樹脂から構成され、その芯部樹脂の外周を被覆する鞘側( 被覆層側)樹脂はたとえば60乃至180℃程度(好ましくは70乃至80℃程度)の相対的に低融点或いは低軟化点を有する樹脂たとえば低融点PETに例示される低融点のポリエチレン樹脂やポリエステル樹脂から構成される。また、好適には、上記鞘側樹脂は親水性樹脂から構成されるか或いは樹脂表面に親水処理が施される。たとえば、帝人ファイバー社製のTJ04CNがこの熱融着性有機繊維OFとして用いられる。このように構成された熱融着性有機繊維OFは、鞘側樹脂の融点或いは軟化点よりも高い温度が加えられることで、相互に熱融着して、多孔質骨材構造30を構成する。多孔質骨材構造30とは、相互に熱融着した熱融着性有機繊維OFによって形成される相対的に剛性の高い多孔質の有機繊維結合体である。このような多孔質骨材構造30を構成するために、上記熱融着性有機繊維OFは、たとえば10μmφ程度の繊維径と、炭素繊維CFよりも2倍乃至100倍程度の十分に長い繊維長たとえば0.4〜5mm程度の繊維長とを有しており、40〜500の範囲内のアスペクト比を有している。また、熱融着性有機繊維OFのガス拡散層18,20の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの平均繊維長Lの比(=T/L)が0.2〜3の範囲内であることが望ましい。
【0048】
また、ガス拡散層18,20は、図2に模式的に示すように、相互に熱融着された熱融着性有機繊維OFから成る有機繊維結合体内において、膜厚(基材厚)よりも十分に小さく且つ熱融着性有機繊維OFよりも短い繊維長を有している炭素繊維CFは、ガス拡散層18,20の厚み方向或いはこれに傾斜した方向に伸びる向きでそのガス拡散層18,20内に多数存在する。また、各炭素繊維CFは相互に絡み合い、それらの接触点において、図3に模式的に示すように、各々の炭素繊維CFは直接的に或いはそれらの相互間に多数の炭素微粒子CPを介在させた状態で結合剤樹脂Rにより接合されている。炭素微粒子CPは、多数個が凝集してクラスター構造を成しており、無数の接点を通して炭素繊維CF相互を電気的に接触させている。このような構造を備えていることから、ガス拡散層18,20は、セパレータ26からの締付圧に対して上記相互に熱融着された熱融着性有機繊維OFから成る有機繊維結合体の強度により補強されているのでその変形が抑制されており、十分に高い導電性と高いガス透過性とが維持されている。
【0049】
なお、上記図3は、本実施例のガス拡散層18,20における典型的な構造例を模式的に示したもので、この図3に示されるような構造は必ずしも炭素繊維CFの全ての接触点で形成されていない。すなわち、相互に熱融着された熱融着性有機繊維OFから成る有機繊維結合体( 図示せず)内において、炭素繊維CFが相互に直に接していたり、炭素微粒子CPが介在させられず結合剤樹脂Rのみで接合されている部分も存在する。
【0050】
平板型のガス拡散層18,20は、例えば以下のようにして製造される。以下、図4を参照して製造方法を説明する。図4は、後述する試験サンプルの製造方法を示した工程図であるが、最後の評価工程を除けば、以下に述べるガス拡散層18,20の製造方法を説明するための工程図でもある。
【0051】
まず、炭素繊維CFと炭素微粒子CPと溶媒とが前述の範囲内の所定の重量割合となるように秤量され、第1混合工程P1において15分程度の時間で混合される。この混合は、スターラまたはそれと同様の構造の混合機が300rpm程度の回転で実行される。
【0052】
次いで、850μm程度の目開きのステンレスメッシュを通してほぐした熱融着性有機繊維OFと溶媒とが前述の範囲内の所定の重量割合となるように秤量され、第2混合工程P2において超音波混合機を用いて3分程度の時間で混合される。この第2混合工程P2は、熱融着性有機繊維OFをほぐして溶媒中に分散させるためのものである。そして、溶媒と液状の結合剤樹脂Rとが前述の範囲内の所定の重量割合となるように秤量され、第3混合工程P3において10分程度の時間で混合される。この混合は、スターラまたはそれと同様の構造の混合機が300rpm程度の回転で実行される。この第3混合工程P3における混合処理の結果、ガス拡散層18,20を製造するためのスラリーが得られる。熱融着性有機繊維OFの表面には良くしられた親水処理が施されている一方で、親水性が備えられた結合剤樹脂Rと熱融着性有機繊維OFとが容易に濡れて均一に混合される。このスラリーは、炭素繊維CF、炭素微粒子CP、親水性を有する結合剤樹脂R、および、加熱により相互に熱融着させられた熱融着性有機繊維OFが溶媒内に均一に分散させられたものである。第1混合工程P1、第2混合工程P2、第3混合工程P3が、スラリー製造工程に対応している。
【0053】
続く成形工程P4では、キャスティング製膜法にしたがって、200μm程度またはそれよりやや大きい寸法の厚みを有するステンレス或いは銅などの金属版に成形すべき所定形状たとえば100mm×100mmの矩形の成形穴が貫通して形成されたメタルマスクをその底板と重ねた状態でスラリー槽内に入れてスラリーを掬い入れ且つメタルマスクを底板と共に揺らしながら膜厚均等化してガス拡散層成形体を得る。上記ガス拡散層成形体には、必要に応じて、例えば50〜75℃程度の温度の乾燥処理が所定時間施される。
【0054】
そして、熱処理工程P5では、熱融着性有機繊維OFが溶媒中で流動する状態のまま乾燥処理ができるようになるべく速やかにメタルマスクから外したガス拡散層成形体に、乾燥炉( オーブン)内において150℃程度の温度で3時間程度の間乾燥が行われる。この加熱によって、ガス拡散層18、20内から溶媒が除去されるとともに、その鞘側樹脂の軟化点よりも高い温度が加えられることで、主として熱融着性有機繊維OFが相互に熱融着させられて多孔質骨材構造30が構成される。同時に、親水性のある結合剤樹脂Rが親水処理された熱融着性有機繊維OFの表面に優先的に付着し、それに炭素繊維CFおよび炭素微粒子CPが絡み着き、結合剤樹脂Rが乾燥硬化させることで固定される。これにより、上記多孔質骨材構造30内において炭素繊維CFが相互に絡み合い且つクラスター構造の炭素微粒子CPを介して結合剤樹脂Rで接合される。すなわち、MEA10のガス拡散電極22,24を構成するためのガス拡散層18,20が得られる。乾燥・熱処理後の厚さ寸法は、例えば200( μm)程度である。前記乾燥工程および前記熱処理工程P5は、本発明の硬化工程に対応する。ここで、親水性のある樹脂とは、例えば、樹脂の水に対する表面接触角が100°程度より小さい、もしくは水溶性、もしくは水分散可能なエマルジョンタイプの樹脂をさす。
【0055】
上記のようにして製造されたガス拡散層18、20は、その片面に触媒スラリーが塗布されて触媒層14、16が形成され或いは予め成形された触媒層14,16が重ねられたガス拡散電極(電極シート)22,24が作製され、シート状の電解質膜12を触媒層14、16が内側になるように2枚のガス拡散電極22、24で挟み、ホットプレスを施すことで、MEA10が得られる。このように、ガス拡散層18,20はガス拡散電極用基材として機能している。なお、触媒スラリーおよび電解質膜12を構成する電解質の詳細については、本実施例を理解するために必要ではないので省略する。
【0056】
<評価試験1>
ここで、上記ガス拡散層18、20に含まれる熱融着性有機繊維OFの相互融着により形成される多孔質骨材構造30の補強効果を確認するために、図5に示す種々の割合のガス拡散層構成材料を用いて図4に示す工程を経て作成した試験片1〜28について、以下の条件下で行った試験の評価結果、すなわち断面加圧抵抗、ガス透過性、バブルポイント細孔径、圧縮変形率、引張強度を説明する。なお、断面加圧抵抗、ガス透過性、バブルポイント細孔径測定用のガス拡散層試験片は、25mmφ×厚み0.2mmを有する円形シート状とし、引張強度測定用のガス拡散層試験片は、幅15mm×長さ45mm×厚み0.2mmを有する矩形シート状とした。
【0057】
断面加圧抵抗は、厚み方向に加圧した状態で測定した表面と裏面との間の単位面積当たりの抵抗値( mΩcm2)である。TP(スループレーン) ガス透過性は、所定圧力のガスをガス拡散層試験片の一面に与えたときに他面へ透過する単位面積当たりのガス流量( ml・mm/cm2/min)である。IP(インプレーン) ガス透過性( IPガス透過率)は、所定圧力で挟圧されたガス拡散層試験片の一面に所定圧力のガスを与えたときそのガス拡散層試験片の外側端面から流出するガス流量( cc/sec)である。IPバブルポイント細孔径は、ガス拡散層試験片の片面から他面へ通過する細孔の実質的な径( μmφ)である。圧縮変形率は、ガス拡散層試験片を厚み方向に所定の圧力で加圧( 挟圧) した前後の膜厚変化率( %)である。引張強度は、ガス拡散層試験片に引っ張り張力を加えたときに破断に至る直前の応力( N)である。
【0058】
<断面加圧抵抗の試験条件>
アズワン( 株) 製の小型熱プレス機AH-2003 を用いて前記ガス拡散層試験片を一対の金メッキ銅板で挟んだ状態で予め定められた一定の圧力( 1MPa)で加圧し、且つ、50(mA)の測定電流を通電させたときの上記一対の金メッキ銅板間の電圧を室温にて測定することにより断面加圧抵抗( mΩcm2)を求めた。
<1MPaIPガス透過性の試験条件>
PMI社製キャピラリフローポロメータ1200AEL を用い、図6に示すステンレス製の試験片固定治具にガス拡散層試験片を1MPaの圧力で挟圧し、そのガス拡散層試験片の一面に30(kPa) の圧力の空気を与えたとき、その拡散層試験片の外周端面から流出する単位時間当たりの空気流量を室温にて測定し、その空気流量に基づいてIPガス透過性( cc/sec)を求めた。
<TPガス透過性の試験条件>
PMI社製のキャピラリフローポロメータ1200AEL を用い、空気圧が30(kPa) のガスを、所定の透過性測定治具に固定されたガス拡散層試験片の片面に与えたときの他面へ透過する空気流量すなわち他面から流出する単位時間当たりの空気流量を室温にて測定し、その空気流量に基づいてTPガス透過性( ml・mm/cm2/min)を求めた。
<1MPaIPバブルポイント細孔径試験条件>
PMI社製キャピラリフローポロメータ1200AEL を用い、図7に示すステンレス製の試験片固定治具によって1MPa圧力でガス拡散層試験片を挟圧し、室温にて、そのガス拡散層試験片の一面に水を満たした状態で圧力の空気を与えたときその水を押し退けて外周端面へ通過してその外周端面からバブルが発生したときの空気圧を測定し、予め求められた細孔径と空気圧との関係から測定された空気圧に基づいてバブルポイント細孔径( μmφ)を算出し求めた。
<1MPa圧縮変形率試験条件>
所定の試験片厚み測定治具を用いて1MPaの圧力で前記ガス拡散層試験片を全面的に押圧したときのその押圧前後の膜厚みを室温にてそれぞれ求め、それら押圧前後の膜厚の変化率( %)を算出した。
<引張強度試験条件>
島津製作所製の小型卓上試験機EZ Testを用いて室温中にて前記ガス拡散層試験片( 幅15mm×長さ45mm×厚み0.2mm)を引っ張り、破壊したときの強度( N)を求めた。
【0059】
図5には、各試験片の断面加圧抵抗および1MPaIPガス透過性の測定値が示されており、図8、図9、図10はそれらの測定値をグラフ化したものである。図8は各試験片の熱融着性有機繊維OFの含有量( 重量%)に対する断面加圧抵抗値( mΩcm2)の関係を示し、図9は各試験片の熱融着性有機繊維OFの含有量( 重量%)に対する1MPaIPガス透過性( cc/sec)の関係を示し、図10は各試験片の炭素微粒子CPに対する結合剤樹脂Rの重量比R/CPに対する断面加圧抵抗値( mΩcm2)の関係を示している。図8、図9、図10において、白丸のプロットは熱融着性有機繊維OFを含有しない試験片22〜28の値を示し、黒い菱形は熱融着性有機繊維OFを含む試験片1〜21の値を示している。
【0060】
断面加圧抵抗( mΩcm2)は25以下が一応の合格判定基準とされており、図5、図8、図9に示すように、炭素微粒子CPに対する結合剤樹脂Rの重量比R/CPが8以下の範囲の試験片1乃至18および28がそれを満足している。同様に、1MPaIPガス透過性( cc/sec)は10以上が一応の合格判定基準とされており、図5および図10に示すように、熱融着性有機繊維OFの含有量( 重量%)が8以下の試験片1乃至21がそれを満足している。すなわち、試験片1乃至18は、実用上望まれる十分に低い断面加圧抵抗値( mΩcm2)と、実用上望まれる十分に高い1MPaIPガス透過性( cc/sec)とを備えており、実施例に対応している。
【0061】
しかし、熱融着性有機繊維OFを含む試験片1乃至21のうち、R/CPが8を上回るもの、すなわち試験片19乃至21は、断面加圧抵抗値( mΩcm2)の実用上望まれる低い値が得られない。また、熱融着性有機繊維OFを含まない試験片22乃至28は、実用上望まれる十分に高い1MPaIPガス透過性( cc/sec)が得られない。すなわち、試験片19乃至28は、断面加圧抵抗値( mΩcm2)および1MPaIPガス透過性( cc/sec)のうちの少なくとも一方が実用上望まれる範囲から外れた特性を備えており、比較例に対応している。
【0062】
TPガス透過性( ml・mm/cm2/min) については5000以上であることが一応の合格判定基準とされているが、試験片1乃至21のガス透過性の測定値についてはいずれもその合格判定基準を超えていた。また、1MPaIPバブルポイント細孔径( μm) は35μm以上が一応の合格判定基準とされているが、試験片1乃至21の1MPaIPバブルポイント細孔径の測定値はいずれもその合格判定基準を超えていた。また、1MPa圧縮変形率 (%) については10%以下が一応の合格判定基準とされているが、試験片1乃至21がその合格判定基準を下まわっていた。また、引張強度( N)については2N( ニュートン) 以上が一応の合格判定基準とされているが、試験片1乃至21がその判定基準を超えていた。
【0063】
特に、TPガス透過性については、上記試験片1乃至18および繊維長試験片は判定基準5000( ml・mm/cm2/min)の4倍程度の20000前後の値を示し、従来の市販のカーボンペーパーの値よりも格段によい値を示した。相互融着した熱融着性有機繊維OFにより形成される多孔質骨材構造30の存在により、燃料ガス或いは酸化性ガスの透過が容易となって、MEA10の大幅な性能向上が期待できる。
【0064】
結局、試験片1〜18の材料組成、すなわち、熱融着性有機繊維OFが0.5〜8wt%であり、且つ、炭素繊維CFが35〜85wt%(好ましくは50〜82wt%)、或いは炭素微粒子CPが2.5〜20wt%(好ましくは5〜17wt%)、或いは結合剤樹脂Rが5〜50wt%(好ましくは8〜40wt%)という材料組成を有するガス拡散層、或いは、炭素微粒子CPに対する結合剤樹脂Rの重量比R/CPが8以下であるガス拡散層が好適な結果がを有している。
【0065】
<評価試験2>
次に、前記ガス拡散層18、20の厚みTとそれに含まれて多孔質骨材構造30を形成する熱融着性有機繊維OFの繊維長Lとの比( T/L)の変化による性能の変化を確認するために、以下の条件下で作成したガス拡散層試験片について行った評価試験2を説明する。
【0066】
<ガス拡散層試験片の材料および基本調合( 重量部) >
・炭素微粒子:キャボット社製の炭素微粒子XC-72 を、0.4 重量部
・炭素繊維:三菱樹脂株式会社製のカーボンファイバー(10 μm φ×200μm)を、4 .0 重量部
・溶媒 :日本アルコール販売社のアルコール混合溶媒ソルミックスAP-7を、27 重量部
・結合剤樹脂:住友ベークライト株式会社製のレゾール系樹脂を、2.4重量部
・熱融着性有機繊維:帝人ファイバー株式会社製の芯鞘型有機繊維TJ04CN(10μmφ) を、0.2 重量部
<ガス拡散層試験片の製造条件>
上記の基本調合の材料を有し、繊維長が5種類(0.4mm、0.6mm 、0.8mm 、1.0mm 、5.0mm)の繊維長の熱融着性有機繊維OFを含み、且つ、10種類( 0.15mm、0.2mm 、0.4mm 、0.6mm 、0.8mm 、1.0 mm、1.2mm 、1.4mm 、1.6mm 、1.8mm)の膜厚を有する形状の50種類の試験片と、熱融着性有機繊維OFを含まない試験片とを、図4に示す製造工程を用いてそれぞれ作成した。なお、断面加圧抵抗、ガス透過性、バブルポイント細孔径測定用のガス拡散層試験片は、25mmφ×厚み0.2mmを有する円形シート状とし、引張強度測定用のガス拡散層試験片は、幅15mm×長さ45mm×厚み0.2mmを有する矩形シート状とした。
【0067】
図11には、各試験片毎に前記条件に基づいて測定された断面加圧抵抗と、各試験片毎の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが記載されている。図12には、それら断面加圧抵抗および膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lを、ガス拡散層膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lを示す横軸と断面加圧抵抗値を示す縦軸との二次元座標に表わしたグラフを示している。図12において、菱形印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.4mmの値、四角印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.6mmの値、三角印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.8mmの値、×印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が1.0mmの値、丸印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が5mmの値を示している。図11および図12から明らかなように、断面加圧抵抗(mΩcm2)の合格判定値を十分に実用可能な25mΩcm2以下であるとすると、ガス拡散層膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2乃至3.0の範囲内であるガス拡散層であれば、その断面加圧抵抗の合格判定値を満足できる。
【0068】
図13には、各試験片毎に前記条件に基づいて測定された1MPaIPガス透過性( cc/sec)と、各試験片毎の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが記載されている。図14には、それら1MPaIPガス透過性および膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lを、ガス拡散層膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lを示す横軸と1MPaIPガス透過性を示す縦軸との二次元座標に表わしたグラフを示している。図14においても、菱形印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.4mmの値、四角印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.6mmの値、三角印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が0.8mmの値、×印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が1.0mmの値、丸印のプロットは熱融着性有機繊維OFの繊維長が5mmの値を示している。図13および図14から明らかなように、1MPaIPガス透過性の合格判定値を十分に実用可能な10cc/sec以上であるとすると、ガス拡散層膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2乃至3.0の範囲内のガス拡散層であれば、その1MPaIPガス透過性の合格判定値を満足できる。
【0069】
図15は、ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2を下回る場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lを図示するイメージ図である。図16は、ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2以上且つ3以下の場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lを図示するイメージ図である。図17は、ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが3を超える場合におけるガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lを図示するイメージ図である。
【0070】
この評価試験2により、断面加圧抵抗は、図11、図12に示すように、ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2≦T/L≦3の範囲内で良好な値が得られるが、0.2未満や3を上回ると増加することが確認できた。膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2未満では、図15に示すように、熱融着性有機繊維OFの繊維長Lが長すぎることから炭素繊維CF同士の導通を妨げるためと推定される。逆に、膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが3を上回ると、図17に示すように、ガス拡散層の膜厚方向における熱融着性有機繊維OFの数が増加することからこれも断面加圧抵抗の増加につながると推定される。
【0071】
また、1MPaIPガス透過性も、図13、図14に示すように、ガス拡散層の膜厚Tと熱融着性有機繊維OFの繊維長Lの比T/Lが0.2≦T/L≦3の範囲内で良好な値が得られるが、0.2未満や3を上回ると増加することが確認できた。このIPガス透過性は、1MPaの加圧状態で測定されることから、膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2未満では、図15に示すように、熱融着性有機繊維OFの繊維長Lが長すぎることからガス透過の妨げになるためと推定される。逆に、膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが3を上回ると、図17に示すように、断面方向を支える熱融着性有機繊維OFの数が増加することから圧縮に対してつぶれ易くなり、これもIPガス透過性の低下につながると推定される。これらを総合すると、ガス拡散層内において、図16に示すように、概ね膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2≦T/L≦3の範囲内であると、断面加圧抵抗および1MPaIPガス透過性が良好な値となることが明らかである。
【0072】
上述したように、本実施例の多孔質且つ導電性のガス拡散層18、20では、それに含まれる熱融着性有機繊維OFは、加熱により相互に熱融着させられた多孔質骨材構造30を構成し、その多孔質骨材構造30内において、炭素繊維CFが炭素微粒子CPと共に結合剤樹脂Rによって相互に結着されていることから、ガス拡散層18、20を補強する比較的高い剛性を有する多孔質骨材構造30がガス拡散層18、20内に設けられる。また、熱融着性有機繊維OFは、ガス拡散層18、20の膜厚Tと繊維長Lの比T/Lが0.2乃至3の範囲の適切な繊維長を有するので、圧縮圧力が付与された状態でも高いガス透過性を有するとともに、導電性を同時に具備することができるガス拡散層18、20が得られる。
【0073】
また、本実施例のガス拡散層18、20では、それに含まれる熱融着性有機繊維OFは、40〜500の範囲内のアスペクト比( =繊維長/繊維径) を有していることから、加熱により相互に熱融着させられた熱融着性有機繊維OFにより高い剛性の多孔質骨材構造30が得られる。熱融着性有機繊維のアスペクト比が40を下まわると、その熱融着性有機繊維の相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造30の孔が小さくなり過ぎてガス透過性が損なわれる。反対に、熱融着性有機繊維OFのアスペクト比が500を上まわると、その熱融着性有機繊維OFの相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造30の孔が大きくなり過ぎて十分な剛性が得られない。
【0074】
また、本実施例のガス拡散層18、20では、それに含まれる熱融着性有機繊維OFは、芯部樹脂とその芯部樹脂の外周を被覆しその芯部樹脂よりも融点或いは軟化点が低い鞘部樹脂とから構成されていることから、熱処理時の温度や加圧のばらつきがあっても安定した形状および強度を有する多孔質骨材構造をガス拡散層内に構成することができる。
【0075】
また、本実施例のガス拡散層18、20では、それに含まれる熱融着性有機繊維OFのガス拡散層18、20に対する重量割合は、0.5〜8%の範囲内であることから、加熱により相互に熱融着させられた熱融着性有機繊維OFにより高い剛性の多孔質骨材構造30を構成するので、セパレータ26からの圧縮圧力下でもガス拡散層18、20自体が変形しない。熱融着性有機繊維OFのガス拡散層18、20に対する重量割合が0.5%を下回ると、その熱融着性有機繊維OFの相互の熱融着により構成される多孔質骨材構造30の剛性が十分に得られず、ガス拡散層18、20の機械的強度が不足し、圧縮圧力で気孔がつぶれ、ガス透過性が下がる可能性がある。反対に、熱融着性有機繊維OFのガス拡散層18、20に対する重量割合が8%を上回ると、十分な導電性が得られ難くなる。
【0076】
また、本実施例のガス拡散層18、20の製造に用いるスラリーによれば、炭素繊維CF、炭素微粒子CP、結合剤樹脂R、および、加熱により相互に熱融着させられる熱融着性有機繊維OFが溶媒に分散させられていることから、そのスラリーからシート状成形体を成形し、そのシート状成形体の状態で、トンネル状加熱炉、加熱ローラ、加熱板などを用いて熱処理を施すことにより、熱融着性有機繊維OFを相互に熱融着させて多孔質骨材構造30を構成すると同時に、その多孔質骨材構造30内において炭素繊維CFが炭素微粒子CPと共に結合剤樹脂Rによって相互に結着させることができるので、連続的にガス拡散層18、20を製造でき、そのガス拡散層18、20を低価格で得ることができる。
【0077】
また、本実施例のMEA( 膜−電極接合体)10によれば、固体高分子電解質膜12と、その固体高分子電解質膜12の一面および他面にそれぞれ設けられた多孔質且つ導電性の触媒層14、16と、それら触媒層14、16の表面にそれぞれ設けられた多孔質且つ導電性のガス拡散層18、20とを含むことから、導電性およびガス拡散性が共に高く且つフッ素を用いなくとも排水性の高いガス拡散層18、20を用いたMEA10が得られる。
【0078】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0079】
例えば、前述の熱融着性有機繊維OFは、相対的に高融点或いは高軟化点を有する芯部樹脂と、その芯部樹脂の外周を被覆し相対的に低融点或いは低軟化点を有する樹脂鞘側( 被覆層側)樹脂とから成る芯鞘型有機繊維であったが、必ずしもそのような芯鞘型有機繊維でなくてもよい。たとえば、熱処理工程P5において相互に熱融着可能な樹脂から成る単純な有機繊維であってもよい。
【0080】
また、前述の本実施例において、ガス拡散層18,20は炭素微粒子CPを備えているが、この炭素微粒子CPはガス拡散層18,20の導電性を高めるために配合されているものであるのでその微粒子の材質は炭素微粒子に限定されるわけではなく、炭素微粒子CPに替えて或いはそれと共に金、銀、白金、銅などの金属微粒子すなわち導電性微粒子を備えたガス拡散層18,20も考え得る。
【0081】
また、前述の本実施例において、炭素繊維CFは、ピッチ系カーボンファイバーであるが、ポリアクリルニトリル繊維を炭化したPAN系カーボンファイバーなどの他のカーボンファイバーであっても差し支えない。例えば、炭素繊維CFがPAN系カーボンファイバーであれば、ピッチ系カーボンファイバー等である場合と比較して、PAN系カーボンファイバーは高強度であるので、ガス拡散層18,20の機械的強度が高くなるという利点がある。
【0082】
また、前述の本実施例の図1において、本発明のガス拡散層18,20はMEA10の両方の電極の何れにも備えられているが、一方の電極が本発明のガス拡散層18を備え他方の電極が従来からのガス拡散層18,20を備えたMEA10も考え得る。
【0083】
また、前述の本実施例において、ガス拡散層18,20は、多数の炭素繊維CFと、多数の炭素微粒子CPと、結合剤樹脂Rとから構成されているが、その他の材料を含んでいても差し支えない。
【0084】
また、前述の本実施例の図4において、成形工程P4にて、シート状成形体は、例えばメタルマスクを用いて成形されるが、そのようなメタルマスク型によって成形されることに限定されるわけではない。
【0085】
また、前述の本実施例の図4において、成形工程P4と熱処理工程P5との間に乾燥工程が設けられてもよいが、その乾燥工程は熱処理工程P5とが一工程で行われて、シート状成形体からの溶媒の除去と熱融着性有機繊維OF相互の熱融着および結合剤樹脂Rの硬化とが並行して進行しても差し支えない。
【符号の説明】
【0086】
10:MEA(膜−電極接合体)
12:電解質膜(固体高分子電解質層)
14、16:触媒層
18、20:ガス拡散層
22、24:ガス拡散電極
26:セパレータ
30:多孔質骨材構造
CF:炭素繊維
CP:炭素微粒子( 導電性微粒子)
R:結合剤樹脂
OF:熱融着性有機繊維
P4:成形工程
P5:熱処理工程(硬化工程)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質上にガス拡散電極を構成するために該固体高分子電解質上に触媒層を介して設けられる固体高分子形燃料電池のガス拡散層であって、
炭素繊維、結合剤樹脂、導電性微粒子、熱融着性有機繊維を含み、
該熱融着性有機繊維は、前記ガス拡散層の膜厚と繊維長の比が0.2乃至3の範囲の繊維長を有し、加熱により相互に熱融着させられて構成された多孔質骨材構造を構成し、
該多孔質骨材構造内において、該炭素繊維が該導電性微粒子と共に結合剤樹脂によって相互に結着されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池のガス拡散層。
【請求項2】
前記熱融着性有機繊維は、40〜500の範囲内のアスペクト比( =繊維長/繊維径) を有していることを特徴とする請求項1の固体高分子形燃料電池のガス拡散層。
【請求項3】
前記熱融着性有機繊維は、芯部樹脂と該芯部樹脂の外周を被覆し該芯部樹脂よりも融点或いは軟化点が低い鞘部樹脂とから構成されていることを特徴とする請求項1または2の固体高分子形燃料電池のガス拡散層。
【請求項4】
前記熱融着性有機繊維の前記ガス拡散層に対する重量割合は、0.5〜8%の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の固体高分子形燃料電池のガス拡散層。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1の多孔質且つ導電性のガス拡散層の製造に用いるスラリーであって、
炭素繊維、導電性微粒子、結合剤樹脂、および、加熱により相互に熱融着させられる熱融着性有機繊維が溶媒に分散させられていることを特徴とする固体高分子形燃料電池のガス拡散層の製造に用いるスラリー。
【請求項6】
固体高分子電解質膜と、該固体電解質膜の一面および他面にそれぞれ設けられた触媒層と、それら触媒層の表面にそれぞれ設けられた請求項1乃至4のいずれか1のガス拡散層とを含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体。
【請求項1】
固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質上にガス拡散電極を構成するために該固体高分子電解質上に触媒層を介して設けられる固体高分子形燃料電池のガス拡散層であって、
炭素繊維、結合剤樹脂、導電性微粒子、熱融着性有機繊維を含み、
該熱融着性有機繊維は、前記ガス拡散層の膜厚と繊維長の比が0.2乃至3の範囲の繊維長を有し、加熱により相互に熱融着させられて構成された多孔質骨材構造を構成し、
該多孔質骨材構造内において、該炭素繊維が該導電性微粒子と共に結合剤樹脂によって相互に結着されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池のガス拡散層。
【請求項2】
前記熱融着性有機繊維は、40〜500の範囲内のアスペクト比( =繊維長/繊維径) を有していることを特徴とする請求項1の固体高分子形燃料電池のガス拡散層。
【請求項3】
前記熱融着性有機繊維は、芯部樹脂と該芯部樹脂の外周を被覆し該芯部樹脂よりも融点或いは軟化点が低い鞘部樹脂とから構成されていることを特徴とする請求項1または2の固体高分子形燃料電池のガス拡散層。
【請求項4】
前記熱融着性有機繊維の前記ガス拡散層に対する重量割合は、0.5〜8%の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の固体高分子形燃料電池のガス拡散層。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1の多孔質且つ導電性のガス拡散層の製造に用いるスラリーであって、
炭素繊維、導電性微粒子、結合剤樹脂、および、加熱により相互に熱融着させられる熱融着性有機繊維が溶媒に分散させられていることを特徴とする固体高分子形燃料電池のガス拡散層の製造に用いるスラリー。
【請求項6】
固体高分子電解質膜と、該固体電解質膜の一面および他面にそれぞれ設けられた触媒層と、それら触媒層の表面にそれぞれ設けられた請求項1乃至4のいずれか1のガス拡散層とを含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池の膜−電極接合体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−190619(P2012−190619A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52148(P2011−52148)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
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