説明

固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板

【課題】接触抵抗が低く、かつセパレータ使用環境での耐久性に優れ、固体高分子形燃料電池用セパレータとして好適な金属板を低コストで提供する。
【解決手段】金属板の表面に、Sn合金層からなる皮膜を形成し、該皮膜中に導電性粒子を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触抵抗値が低く、かつ耐食性に優れる固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点から、発電効率に優れ、CO2を排出しない燃料電池の開発が進められている。この燃料電池はH2とO2から電気化学反応によって電気を発生させるもので、その基本構造はサンドイッチのような構造を有しており、電解質膜(すなわちイオン交換膜)、2つの電極(すなわち燃料極および空気極)、O2(すなわち空気)とH2の拡散層および2つのセパレータから構成される。そして、使用される電解質膜の種類に応じて、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池、アルカリ形燃料電池および固体高分子形燃料電池(PEFC;polymer electrolyte fuel cell)等が開発されている。
【0003】
これらの燃料電池のうち、固体高分子形燃料電池は、他の燃料電池に比べて、
(a) 発電温度が80℃程度であり、格段に低い温度で発電ができる、
(b) 燃料電池本体の軽量化、小型化が可能である、
(c) 短時間で立上げができ、燃料効率、出力密度が高い
等の利点を有している。
このため、固体高分子形燃料電池は、電気自動車の搭載用電源、家庭用または業務用の定置型発電機、携帯用の小型発電機として、今日最も注目されている燃料電池である。
【0004】
固体高分子形燃料電池は、高分子膜を介してH2とO2から電気を取り出すものであり、図1に示すように、膜−電極接合体1を、ガス拡散層2,3(たとえばカーボンペーパ等)およびセパレータ4,5によって挟み込み、これを単一の構成要素(いわゆる単セル)とし、セパレータ4とセパレータ5との間に起電力を生じさせるものである。
なお、膜−電極接合体1は、MEA(すなわち Membrance-Electrode Assembly)と呼ばれていて、高分子膜とその膜の表裏面に白金系触媒を担持したカーボンブラック等の電極材料を一体化したものであり、厚さは数10μm〜数100μmである。また、ガス拡散層2,3は、膜−電極接合体1と一体化される場合も多い。
【0005】
固体高分子形燃料電池を前述した用途に適用する場合、上記のような単セルを直列に数十〜数百個つないで燃料電池スタックを構成して使用している。
ここに、セパレータ4,5には、
(A) 単セル間を隔てる隔壁
としての役割に加え、
(B) 発生した電子を運ぶ導電体、
(C) O2(すなわち空気)とH2が流れる空気流路6、水素流路7、
(D) 生成した水やガスを排出する排出路(空気流路6、水素流路7が兼備)
としての機能が求められる。
さらに、固体高分子形燃料電池を実用に供するためには、耐久性や電気伝導性に優れたセパレータを使用する必要がある。
【0006】
耐久性に関しては、電気自動車の搭載用電源として使用される場合は、約5000時間と想定されている。また、家庭用の定置型発電機等として使用される場合は、約40000時間と想定されている。
したがって、セパレータには、長時間の発電に耐え得る耐食性が要求される。その理由は、腐食によって金属イオンが溶出すると電解質膜のプロトン伝導性が低下するからである。
【0007】
また、電気伝導性に関しては、セパレータとガス拡散層との接触抵抗が極力低いことが望まれる。その理由は、セパレータとガス拡散層との接触抵抗が増大すると、固体高分子形燃料電池の発電効率が低下するからである。つまり、セパレータとガス拡散層との接触抵抗が小さいほど、発電特性に優れていると言える。
【0008】
現在までに、セパレータとしてグラファイトを用いた固体高分子形燃料電池が実用化されている。このグラファイトからなるセパレータは、接触抵抗が比較的低く、しかも腐食しないという利点がある。しかしながら、グラファイト製のセパレータは、衝撃によって破損しやすいので、小型化が困難なだけでなく、空気流路、水素流路を形成するための加工コストが高いという欠点がある。グラファイトからなるセパレータが有するこれらの欠点は、固体高分子形燃料電池の普及を妨げる原因になっている。
【0009】
そこで、セパレータの素材として、グラファイトに替えて金属素材を適用する試みがなされている。特に、耐久性向上の観点から、ステンレス鋼やチタン、チタン合金等を素材としたセパレータの実用化に向けて、種々の検討がなされている。
【0010】
たとえば、特許文献1には、スタンレス鋼またはチタン合金等の不動態皮膜を形成しやすい金属をセパレータとして用いる技術が開示されている。しかしながら、不動態皮膜の形成は、接触抵抗の上昇を招くことになり、発電効率の低下につながる。このため、これらの金属素材は、グラファイト素材と比べて接触抵抗が大きく、しかも耐食性が劣る等の改善すべき問題点が指摘されていた。
【0011】
また、特許文献2には、オーステナイト系鋼板(SUS304)等の金属セパレータの表面に金めっきを施すことにより、接触抵抗を低減し、高出力を確保する技術が開示されている。しかしながら、薄い金めっきではピンホールの発生を防止することが困難であり、逆に厚い金めっきではコストの問題が残る。
【0012】
さらに、特許文献3には、フェライト系ステンレス鋼基体にカーボン粉末を分散させて、電気伝導性を改善(すなわち接触抵抗を低下)したセパレータを得る方法が開示されている。しかしながら、カーボン粉末を用いた場合も、セパレータの表面処理には相応のコストがかかることから、依然としてコストの問題が残っている。また、表面処理を施したセパレータは、組立て時にキズ等が生じた場合に、耐食性が著しく低下するという問題点も指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8-180883号公報
【特許文献2】特開平10-228914号公報
【特許文献3】特開2000-277133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、接触抵抗が低く、かつセパレータ使用環境での耐久性に優れ、固体高分子形燃料電池用セパレータとして使用するのに好適な金属板を、低コストで提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
さて、発明者らは、固体高分子形燃料電池用のセパレータの使用環境(pH:3(硫酸環境)、使用温度:80℃)での耐食性に富む材料を開発すべく、種々検討を重ねた。すなわち、各種金属、各種酸化物をコーティングした材料のセパレータ使用環境での耐食性と処理コストに関する検討を行った。その結果、Snコーティング材は、処理コストが安く、目標の耐食性には満たないが、比較的優れた耐食性を有しているとの知見を得た。
このため、発明者らはさらに検討を進めた。その結果、図7に示すように、金属Sn単体では耐食性が不十分であるが、NiまたはFeを一種以上含むSn合金とすることで、特に好ましくは、金属間化合物であるNi3Sn2とすることで、固体高分子形燃料電池用のセパレータの使用環境での耐食性に優れることが判明した。また一方で、金属間化合物であるNi3Sn2およびNi3Sn4は接触抵抗が高いという問題があることも判明した。
なお、図7は、SUS447J1の表面に、膜厚:10μmの各種皮膜を形成した試料を、温度:80℃、pH:3の硫酸水溶液中に浸漬し、参照電極に飽和KCl-Ag/AgClを用いて、200mV/minの掃印速度で−0.2〜1.2V(vs.SHE)のサイクリックボルタモグラムを5サイクル測定した時の、5サイクル目の電圧上昇時1.0Vの電流密度値であり、セパレータ使用環境での安定性を評価する指標として、電流密度値が小さいほどセパレータ使用環境で安定であると判断されるものである。
なお、発明者らは、耐食性に優れると思われる、Ni-W合金、Ni-Cu合金についても同様の方法で評価を行ったが、これらの合金は電流密度値が非常に大きく、耐食性が著しく不良であった。
【0016】
さらに発明者らは、金属間化合物であるNi3Sn2およびNi3Sn4の接触抵抗が高いという問題を解決すべく検討を重ねた結果、Sn合金、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金、特に好ましくはNi3Sn2中に、導電性を有する粒子を含有させることによって、効果的に接触抵抗が低減できるとの知見を得た。
【0017】
また、金属板上に、Sn合金、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金、特に好ましくはNi3Sn2中に、導電性を有する粒子を含有した皮膜を形成した場合、導電性粒子を複合しないSn合金、またNiまたはFeを一種以上含むSn合金、さらにNi3Sn2膜のみを形成した場合に比べて、耐食性が低下する場合があることが判明した。
この理由は、Sn合金、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金、特に好ましくはNi3Sn2中に、導電性を有する粒子を含有した皮膜を金属板上に形成した場合には、Sn合金やNiまたはFeを一種以上含むSn合金、Ni3Sn2と、導電性粒子との界面に形成される欠陥を通じて、ベースとなる金属板が腐食する場合があるためと考えられる。
そこで、この問題の解決を図るべくさらに検討を重ねた結果、金属板と導電性粒子を含有した皮膜との間に、中間層としてSn合金層、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金層、特に好ましくはNi3Sn2層を設け、かかるSn合金層、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金層、特に好ましくはNi3Sn2層を介して、上記した導電性粒子を含有した皮膜を被覆することにより、優れた導電性と耐食性とを両立できることの知見を得た。
【0018】
さらに、上記した中間層を多層化することによって、耐食性の一層の向上が達成されることも判明した。しかも、この場合は、中間層の厚みをより薄くできるという利点もあることが併せて解明された。
この理由は、中間層厚たとえばめっき膜厚を薄くすると、めっき層に存在する欠陥がベース金属板(ここでは、基体とも言う)に達する確率が高くなるために、ベース金属板に腐食が発生する場合があるが、多層化すると各めっき層ごとに存在する欠陥の位置が相互に異なるので、外部環境に直接通じる欠陥が少なくなる結果、耐食性が向上するものと考えられる。また、欠陥の存在位置が相互に異なるようになることにより、各めっき層の一層の薄膜化が可能になり、その結果、中間層厚ひいては表面皮膜の合計膜厚の低減が達成される。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0019】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.金属製の基体の表面に、Sn合金層からなる皮膜を有し、該皮膜中に導電性粒子を含有する固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【0020】
2.前記Sn合金層が、NiまたはFeの1種以上を含有する前記1に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【0021】
3.前記Sn合金層が、Ni3Sn2層である前記1または2に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【0022】
4.前記導電性粒子の電気伝導度が1×102Ω-1・m-1以上で、平均粒径が0.1〜6μmである前記1乃至3のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【0023】
5.前記導電性粒子の含有量が、0.1〜30質量%である前記1乃至4のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【0024】
6.前記導電性粒子が、カーボンブラック,TiC,VC,TiN,TiB2,VB2,CrB2,TiSi2,ZrSi2およびNbSi2のうちから選んだ一種または二種以上である前記1乃至5のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【0025】
7.前記皮膜と前記基体との間に、中間層として、少なくとも1層のSn合金層を有する前記1乃至6のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【0026】
8.前記中間層が、NiまたはFeの1種以上を含有する前記7に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【0027】
9.前記中間層が、Ni3Sn2層である前記7または8に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【0028】
10.前記中間層が、2〜4層からなり、これらの合計厚みが6μm 以下である前記7乃至9のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、固体高分子形燃料電池用のセパレータの使用環境下において、接触抵抗を低く、かつ耐久性にも優れ、固体高分子形燃料電池セパレータとして使用するのに好適な金属板を低コストで得ることができる。
また、特に基体とSn合金層からなる皮膜との間に中間層を設けた場合には、耐食性の一層の向上が達成され、さらにこの中間層を多層化した場合には、個々の中間層厚の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】燃料電池の基本構造を示す模式図である。
【図2】接触抵抗の測定要領を示した図である。
【図3】導電性粒子を含有させずに作製した試料の薄膜X線回折パターンである。
【図4】皮膜中における導電性粒子(TiN粒子)の含有量と接触抵抗との関係を示した図である。
【図5】本発明に従う皮膜構造を示したもので、(a)は、基体上に直接、導電性粒子を含有した皮膜を形成した場合、(b)は、基体上に、1層の中間層を介して導電性粒子を含有した皮膜を形成した場合、(c)は、基体上に、3層の中間層を介して導電性粒子を含有した皮膜を形成した場合である。
【図6】中間層をそれぞれ1層、2層、3層介在させた場合の中間層の合計厚みと電流密度との関係を示した図である。
【図7】SUS447J1の表面に、膜厚:10μmの各種皮膜を形成した試料について、所定の条件でサイクリックボルタモグラムを5サイクル測定した時の、5サイクル目の電圧上昇時1.0Vにおける電流密度値を比較して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を具体的に説明する。
(1)基体として用いる金属板
本発明において、基体として用いる金属板については特に制限はないが、耐食性に優れるステンレス鋼板(フェライト系ステンレス鋼板、オーステナイト系ステンレス鋼板、二相ステンレス鋼板)やチタン板、チタン合金板などがとりわけ有利に適合する。
【0032】
(2)皮膜
基体の表面に被覆する皮膜としては、耐食性に優れるSn合金、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金、特に好ましくは金属間化合物であるNi3Sn2が好ましい。
固体高分子形燃料電池用のセパレータの使用環境(pH:3(硫酸環境)、使用温度:80℃)において、Sn合金、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金、特に好ましくはNi3Sn2が、安定性に優れている理由は、明確ではないが、以下の理由によるものと思われる。
金属Sn単体におけるSn−Snの結合よりも、Sn合金とすることによるSn−NiまたはSn−Feの結合の方が、より安定な結合状態をとるために、耐食性に優れると考えられる。特に、Ni3Sn2は、Ni−Snの二元合金状態図によれば、形成される温度が790℃以上と高温の領域にあり、Sn−Niの結合が非常に安定であるために、優れた耐食性を有すると考えられる。
【0033】
(3)基体表面への皮膜の形成方法
かような基体の表面にSn合金、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金、特に好ましくはNi3Sn2の組成になる金属間化合物を被覆するには、めっき法を利用することが特に好適であり、この場合は、所定の組成に調整しためっき浴中で電気めっきを施せばよい。
【0034】
また、上記したSn合金層、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金層、特に好ましくはNi3Sn2層中に、導電性粒子を配合して、導電性粒子を含有した皮膜(以下、単に導電性粒子含有皮膜という)とするには、めっき法を利用する場合、所定の組成に調整しためっき浴中に所定量の導電性粒子を分散させ、めっき浴を撹拌しながら電気めっきを施せばよい。なお、撹拌手段としては、プロペラによる撹拌やポンプによる撹拌等が好適である。
【0035】
めっき法を利用して本発明の皮膜を形成する場合、めっき浴中における導電性粒子の密度は、1〜6g/cm3程度とすることが好ましい。導電性粒子の密度が1g/cm3に満たないと十分な量の導電性粒子を含有させることができず、一方6g/cm3を超えるとめっき浴中で沈降しやすくなるため、Ni3Sn2層中へ均一に含有させることが困難になる。
【0036】
以上、めっき法を利用して導電性粒子含有皮膜を形成する場合について主に説明したが、本発明では、以下に述べる方法によっても導電性粒子含有皮膜を形成することができる。
a)物理的気相成長法 (PVD法)
この方法は、2種以上の金属をターゲットとして、基体上に、Sn合金層、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金層、特に好ましくはNi3Sn2層を形成するものである。また、導電性粒子の含有に際しては、Sn合金層、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金層、特に好ましくはNi3Sn2層の形成の途中で、所定量の導電性粒子を基体の表面に分布させた後、再度、物理的気相成長法(例えば蒸着等)により、Sn合金層、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金層、特に好ましくはNi3Sn2層を形成することで、導電性粒子を含有させることができる。
【0037】
b) 合金化法
さらに、上述しためっき法あるいは物理的気相成長法で、基体上に、Sn層と、NiまたはFeを一種以上含む層とを形成した後、合金化処理(熱処理)を施すことによって、Sn合金層、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金層、特に好ましくはNi3Sn2層を形成するものである。
具体的には、金属Niと金属Snを原子比で3:2の割合で被覆したのち、790℃以上の温度で合金化処理(熱処理)を施すことで、Ni3Sn2層を形成することができる。
また、金属Niと金属Snを原子比で3:4の割合で被覆したのち、230℃以上790℃未満の温度で合金化処理(熱処理)を施すことで、Ni3Sn4層を形成することができる。
さらに、金属Feと金属Snを原子比で1:1の割合で被覆したのち、510℃以上の温度で合金化処理(熱処理)を施すことで、FeSn層を形成することができ、金属Snと金属Feを原子比で2:1の割合で被覆したのち、232℃以上510℃未満温度で合金化処理(熱処理)を施すことで、FeSn2層を形成することができる。
【0038】
なお、導電性粒子含有皮膜の膜厚については、導電性粒子の最小粒径〜最大15μm とするのが好ましい。膜厚が導電性粒子の粒径に満たないと導電性粒子が脱落しやすくなるため好ましくなく、一方15μm を超えると耐食性向上効果は飽和し、むしろ不経済となるからである。
【0039】
(4)導電性粒子
そして、上記しためっき処理、物理的気相成長法、あるいはさらに合金化処理により、Sn合金層、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金層、特に好ましくはNi3Sn2層中に、好ましくは0.1〜30質量%の割合で導電性粒子を含有させる。導電性粒子含有皮膜における導電性粒子の含有量が0.1質量%未満では接触抵抗の低減効果に乏しく、一方30質量%を超えると皮膜が脆くなり、皮膜が剥離し易くなるという問題が生じる。
図4に、導電性粒子含有皮膜中における導電性粒子(TiN粒子)の含有量と接触抵抗との関係について調べた結果を示す。
同図に示したとおり、導電性粒子の含有量が0.1質量%以上になると、接触抵抗が10mΩ・cm2以下まで急激に低下する、換言すると導電性が格段に向上することが分かる。
【0040】
また、かかる導電性粒子の平均粒径は、0.1〜6μmとすることが好ましい。導電性粒子の平均粒径が0.1μm に満たないと接触抵抗の低減効果が不十分であり、一方6μm を超えると皮膜が脆くなり、皮膜が剥離し易くなるからである。
【0041】
さらに、接触抵抗を低減の観点から、導電性粒子の電気伝導度は1×102Ω-1・m-1以上であることが望ましい。というのは、電気伝導度が1×102Ω-1・m-1に満たないと、接触抵抗を本発明で所期した目標レベル以下まで低減することは難しくなるからである。ここに、本発明で目標とする接触抵抗値は10mΩ・cm2未満である。
【0042】
また、本発明で使用する導電性粒子は、上記の特性の他、セパレータ使用環境下で安定性に優れていることが要求される。
これらの要求を満足する導電性粒子としては、カーボンブラック,TiC,VC,TiN,TiB2,VB2,CrB2,TiSi2,ZrSi2およびNbSi2などが挙げられる。
【0043】
(5)中間層
以上、基体である金属板の表面に直接、導電性粒子含有皮膜を形成する場合について説明したが、本発明では、導電性粒子含有皮膜と基体との間に中間層として少なくとも1層のSn合金層、好ましくはNiまたはFeを一種以上含むSn合金層、特に好ましくはNi3Sn2層を形成し、かかる中間層を介して基体上に導電性粒子含有皮膜を形成することもできる。なお、中間層としては、中間層同士や上記皮膜との密着性を確保する上で、同じ組成を用いることが好ましい。
かような中間層を介在させることにより、耐食性を一層向上させることができる。
また、かかる中間層を複数層とすることにより、中間層厚を低減できる効果もある。
図5に、本発明に従う皮膜構造を示す。
【0044】
図5(a)は、基体11上に直接、導電性粒子含有皮膜12を形成した場合である。
この場合は、導電性粒子含有皮膜中のNi3Sn2と導電性粒子の界面に形成される欠陥を通じて、ベースとなる金属板が腐食するおそれがあった。
【0045】
図5(b)は、基体11上に、1層の中間層13を形成し、その上に導電性粒子含有皮膜12を形成した場合である。
同図に示したように、基体11と導電性粒子含有皮膜12の間に中間層13を介在させることにより、Ni3Sn2と導電性粒子の界面に形成される欠陥の影響が緩和されるので、耐食性の向上を図ることができる。
ここに、導電性粒子含有皮膜中のNi3Sn2と導電性粒子の界面に形成される欠陥の悪影響を完全に排斥するには、中間層は5μm以上とすることが望まれる。
【0046】
図5(c)は、基体11上に、3層の中間層13を形成し、その上に導電性粒子含有皮膜12を形成した場合である。
このように中間層を複層化した場合には、耐食性の一層の向上が達成されるだけでなく、一層当たりの中間層厚ひいては中間層の合計厚みをより薄くできるという利点がある。
その理由は、中間層厚たとえばめっき膜厚を薄くすると、めっき層に依存する欠陥がベース金属板に達する確率が高くなるために、ベース金属板に腐食が発生する場合があるが、多層化すると各めっき層ごとに存在する欠陥の位置が相互に異なるので、外部環境に直接通じる欠陥が少なくなるからである。
それ故、中間層を複層化した場合は、1層当たりの中間層厚を1μm 程度とすることができ、従って、たとえば中間層を3層とした場合には、合計層厚は3μm程度で済むため、合 計層厚は中間層を一層形成した場合よりも薄くて済むのである。
なお、中間層を複層化する場合、その層数は特に制限はないが、2〜4層程度とすることが好ましい。また、その際、1層当たりの層厚は0.5〜3μm程度とすることが好ましい。
【0047】
図6に、中間層(Ni3Sn2層)をそれぞれ、1層(厚み:1,3,4,6,8,10μm)、2層(厚み:1+1=2μm,1.5+1.5=3μm,2+2=4μm,3+3=6μm)、3層(厚み:0.8+0.8+0.8=2.4μm,1+1+1=3μm,2+2+2=6μm)介在させた場合の中間層の合計厚みと電流密度との関係について調べた結果を示す。
同図に示したとおり、合計厚みが同じ場合には、中間層の積層数が多くなるほど電流密度は低下する、すなわちセパレータの使用環境下での安定性が向上することが分かる。
【0048】
なお、本発明においては、Ni3Sn2層(上述した導電性粒子含有皮膜や中間層)と基体との間に、セパレータとして所定の特性(例えば、基体へのNiの溶出防止や基体とNi3Sn2層との密着性向上)を向上させるために、別途、下地処理層を設けることもできる。例えば、基体とNi3Sn2層との密着性を向上させるために、Niストライク層やAuストライク層を設けることが可能である。
【0049】
(6)基体として使用するステンレス鋼
本発明において、基体として使用するステンレス鋼については、燃料電池の動作環境下で必要とされる耐食性を有する限り鋼種等に特段の制約は無く、フェライト系ステンレス鋼であっても、オーステナイト系ステンレス鋼であっても、さらには二相系ステンレス鋼であってもいずれもが使用できる。ただし、最低限の耐食性を確保するために、Crを16質量%以上含有させる必要がある。好ましくは18質量%以上である。
以下、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼および二相系ステンレス鋼について、特に好適な成分組成を示すと、次のとおりである。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
【0050】
1)フェライト系ステンレス鋼の好適な成分組成
C:0.03%以下
Cは、鋼中のCrと結合して耐食性の低下をもたらすため、低いほど望ましいが、0.03%以下であれば耐食性を著しく低下させることはない。このため、C量は0.03%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.015%以下である。
【0051】
Si:1.0%以下
Siは、脱酸に用いる元素であるが、過剰に含有されると延性の低下をもたらすため、Si量は1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.5%以下である。
【0052】
Mn:1.0%以下
Mnは、Sと結合してMnSを形成し、耐食性を低下させるため、Mn量は1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.8%以下である。
【0053】
S:0.01%以下
上述したとおり、Sは、Mnと結合してMnSを形成し、耐食性を低下させるため、S量は0.01%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.008%以下である。
【0054】
P:0.05%以下
Pは、延性の低下をもたらすため、低いほど望ましいが、0.05%以下であれば延性を著しく低下させることはない。このため、P量は0.05%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.04%以下である。
【0055】
Al:0.20%以下
Alは、脱酸に用いられる元素であるが、過剰に含有されると延性の低下をもたらすため、Al量は0.20%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.15%以下である。
【0056】
N:0.03%以下
Nは、鋼中のCrと結合して耐食性の低下をもたらすため、低いほど望ましいが、0.03%以下であれば耐食性を著しく低下させることはない。このため、N量は0.03%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.015%以下である。
【0057】
Cr:16%以上
Crは、ステンレス鋼において耐食性を保持するために不可欠の元素である。その効果を得るには16%以上含有させる必要がある。Cr量が16%未満では、セパレータとして長時間の使用に耐えられない。特に、使用中の環境の変化が問題となる場合には、Cr量を18%以上とすることが好ましく、より好ましくは20%以上である。一方、Crを40%を超えて含有すると加工性が著しく低下するので、加工性を重視する場合には40%以下とすることが好ましい。より好ましくは35%以下である。
【0058】
Nb,Ti,Zrのうちから選んだ少なくとも一種を合計で:1.0%以下
Nb,Ti,Zrはいずれも、鋼中のCやNを炭化物や窒化物あるいは炭窒化物として固定し、耐食性を改善するのに有用な元素である。ただし、1.0%を超えて含有すると延性の低下が顕著となるので、これらの元素は単独含有または複合含有いずれの場合も1.0 %以下に限定する。なお、これらの元素を含有させた効果を十分に発揮させるには、0.02%以上含有させることが好ましい。
【0059】
以上、フェライト系ステンレス鋼の必須成分について説明したが、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Mo:0.02%以上4.0%以下
Moは、ステンレス鋼の耐食性、特に局部腐食性を改善するのに有効な元素であり、この効果を得るためには、0.02%以上含有させることが好ましい。一方、4.0%を超えてMoを含有させると延性の低下が顕著となるので、上限は4.0%とすることが好ましい。より好ましくは2.0%以下である。
【0060】
また、その他にも、耐食性の改善を目的として、Ni,Cu,V,Wをそれぞれ1.0%以下で含有させることもできる。さらに熱間加工性の向上を目的として、Ca,Mg,REM,Bをそれぞれ0.1%以下で含有させることもできる。
【0061】
残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物のうちO(酸素)は、0.02%以下であることが好ましい。
【0062】
2)オーステナイト系ステンレス鋼の好適な成分組成
C:0.08%以下
Cは、セパレータ用オーステナイト系ステンレス鋼中のCrと反応して化合物を形成し、粒界にCr炭化物として析出することにより、耐食性の低下をもたらす。したがって、C量は少ないほど好ましいが、0.08%以下であれば耐食性を著しく低下させることはない。したがって、C量は0.08%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.03%以下である。
【0063】
Cr:16%以上
Crは、オーステナイト系ステンレス鋼板としての基本的な耐食性を確保するために必要な元素であり、Cr量が16%未満では、セパレータとして長時間の使用に耐えられない。よって、Cr量は16%以上とする。一方、Cr量が30%を超えると、オーステナイト組織を得るのが困難となる。したがって、Cr量は30%以下とすることが好ましい。より好ましくは18%以上26%以下である。
【0064】
Mo:0.1%以上10.0%以下
Moは、セパレータ用オーステナイト系ステンレス鋼の隙間腐食等の局部腐食を抑制するのに有効な元素である。この効果を得るためには、 0.1%以上含有させる必要がある。一方、Mo量が10.0%を超えると、セパレータ用ステンレス鋼が著しく脆化して生産性が低下する。したがって、Mo量は0.1%以上10.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.5%以上7.0%以下である。
【0065】
Ni:7%以上40%以下
Niは、オーステナイト相を安定させる元素である。しかし、Ni量が7%未満では、オーステナイト相の安定化の効果が得られない。一方、Ni量が40%を超えると、Niを過剰に消費することによってコストの上昇を招く。したがって、Ni量は7%以上40%以下とすることが好ましい。
【0066】
本発明のセパレータ用オーステナイト系ステンレス鋼では、上記したC,Cr,Mo,Niに加えて、必要に応じて以下の元素を含有させることもできる。
N:2.0%以下
Nは、セパレータ用オーステナイト系ステンレス鋼の局部腐食を抑制する作用を有する効果がある。しかし、Nを2.0%を超えて含有させるのは工業的に困難であるので、N量は2.0%以下とすることが好ましい。さらに、通常の溶製方法では、セパレータ用ステンレス鋼の溶製段階でNを含有させるために、0.4%を超えるNを含有させることは長時間を要するので、生産性の低下を招く。したがって、N量はコストの面から0.4%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは0.01%以上0.3%以下である。
【0067】
Cu:0.01%以上3.0%以下
Cuは、セパレータ用オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性を改善する作用を有する元素である。このような効果を得るためには、Cu量は0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Cu量が3.0%を超えると、熱間加工性が低下し、生産性の低下を招く。したがって、Cuを含有させる場合には 3.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.01%以上2.5%以下である。
【0068】
Si:0.01%以上1.5%以下
Siは、脱酸のために有効な元素であり、セパレータ用オーステナイト系ステンレス鋼の溶製段階で添加される。このような効果を得るためには、Siを0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、過剰に含有させるとセパレータ用ステンレス鋼が硬質化し、延性が低下する。したがって、Siを含有させる場合には、1.5%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.01%以上1.0%以下である。
【0069】
Mn:0.001%以上2.5%以下
Mnは、不可避的に混入したSと結合し、セパレータ用オーステナイト系ステンレス鋼に固溶したSを低減する効果を有するので、Sの粒界偏析を抑制し、熱間圧延時の割れを防止するのに有効な元素である。このような効果は、Mn量が0.001%以上2.5%以下で発揮される。したがって、Mnを含有させる場合には、0.001%以上2.5%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.001〜2.0%の範囲である。
【0070】
Ti,Nb,VおよびZrのうちの少なくとも1種を合計で:0.01〜0.5%
Ti,Nb,VおよびZrはいずれも、オーステナイト系ステンレス鋼中のCと反応して炭化物を形成する。Ti,Nb,VおよびZrは、このようにしてCを固定するので、セパレータ用オーステナイト系ステンレス鋼の耐粒界腐食性を改善するのに有効な元素である。特に、C含有量が0.08%以下では、Ti,Nb,VおよびZrの少なくともいずれかを含有する場合の耐食性の改善効果は、Ti,Nb,VおよびZrの単独含有または複合含有いずれの場合も合計で0.01%以上で発揮される。
一方、Ti,Nb,VおよびZrは、単独含有または複合含有いずれの場合も合計で0.5%を超えて含有させてもその効果は飽和する。したがって、Ti,Nb,VまたはZrを含有させる場合には、これらの元素のうちの少なくとも1種を合計で0.01%以上0.5%以下とすることが好ましい。
【0071】
本発明では、上記した元素の他に、セパレータ用オーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性を向上するために、Ca,Mg,B,希土類元素(REM)をそれぞれ0.1%以下で含んでいても良い。また、溶鋼段階での脱酸の目的でAlを0.2%以下の範囲で含んでも良い。
【0072】
残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物のうちO(酸素)は、0.02%以下とすることが好ましい。
【0073】
3)二相系ステンレス鋼の好適な成分組成
C:0.08%以下
Cは、Crと反応して化合物を形成し、粒界にCr炭化物として析出することにより、耐食性の低下をもたらす。したがって、C量は少ないほど好ましいが、0.08%以下であれば耐食性を著しく低下させることはない。したがって、C量は0.08%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.03%以下である。
【0074】
Cr:16%以上
Crは、二相系ステンレス鋼板としての基本的な耐食性を確保するために必要な元素であり、Cr量が16%未満では、セパレータとして長時間の使用に耐えられない。よって、Cr量は16%以上とすることが好ましい。一方、Cr量が30%を超えると、二相組織(以下、特に断りが無い限り、フェライト相およびオーステナイト相の二相組織を意味する)を得るのが困難である。したがって、Cr量は30%以下とすることが好ましい。より好ましくは20〜28%である。
【0075】
Mo:0.1〜10.0%
Moは、隙間腐食等の局部腐食を抑制するのに有効な元素である。この効果を得るためには、0.1%以上含有させる必要がある。一方、Mo量が10.0%を超えると、ステンレス鋼が著しく脆化して生産性が低下する。したがって、Mo量は0.1%以上10.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.5%以上7.0%以下である。
【0076】
Ni:1〜10%
Niは、オーステナイト相を安定させる元素である。しかし、Ni量が1%未満では、オーステナイト相が生成し難くなり、二相組織を得にくくなる。一方、Ni量が10%を超えると、フェライト相が生成し難くなり、やはり二相組織を得にくくなる。したがって、Ni量は1%以上10%以下が好ましい。
【0077】
本発明のセパレータ用二相系ステンレス鋼では、上記したC,Cr,Mo,Niに加えて、必要に応じて下記の元素を含有させることもできる。
N:2.0%以下
Nは、セパレータ用二相系ステンレス鋼の局部腐食を抑制する作用を有する元素である。しかし、N量を2.0%を超えて含有させるのは工業的には困難であるので、これを上限とするのが好ましい。さらに通常の溶製方法では、セパレータ用ステンレス鋼の溶製段階でNを含有させるために、0.4%を超えるNを含有させることは長時間を要するので生産性の低下を招く。したがって、N量はコストの面では0.4%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.01〜0.3%の範囲である。
【0078】
Cu: 3.0%以下
Cuは、セパレータ用二相系ステンレス鋼の耐食性を改善する作用を有する元素である。このような効果を得るためには、Cuを0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、Cu量が3.0%を超えると、熱間加工性が低下し、生産性の低下を招く。したがって、Cuを含有させる場合には、3.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.01%以上2.5%以下である。
【0079】
Si:1.5%以下
Siは、脱酸のために有効な元素であり、セパレータ用二相系ステンレス鋼の溶製段階で添加される。このような効果を得るためには、Si量は0.01%以上とすることが好ましい。しかし、過剰に含有させるとセパレータ用ステンレス鋼が硬質化し、延性が低下する。したがって、Siを含有させる場合には、1.5%以下とすることが好ましい。より好ましくは 0.01%以上1.0%以下である。
【0080】
Mn:0.001%以上2.5%以下
Mnは、不可避的に混入したSと結合し、セパレータ用二相系ステンレス鋼に固溶したSを低減する効果を有するので、Sの粒界偏析を抑制し、熱間圧延時の割れを防止するのに有効な元素である。このような効果は、Mn量が0.001%以上2.5%以下で発揮される。したがって、Mnを含有させる場合には、0.001%以上2.5%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.001%以上2.0%以下である。
【0081】
Ti,Nb,VおよびZrのうちの少なくとも1種を合計で:0.01〜0.5%
Ti,Nb,VおよびZrはいずれも、二相系ステンレス鋼中のCと反応して炭化物を形成する。Ti,Nb,VおよびZrは、このようにしてCを固定するので、セパレータ用二相系ステンレス鋼の耐粒界腐食性を改善するのに有効な元素である。特にC含有量が0.08%以下では、Ti,Nb,VおよびZrの少なくともいずれかを含有する場合の耐食性の改善効果は、Ti,Nb,VおよびZrの単独含有または複合含有いずれの場合も合計で、0.01%以上で発揮される。
一方、Ti,Nb,VおよびZrは、単独含有または複合含有いずれの場合も合計で、0.5%を超えて含有させてもその効果は飽和する。したがって、Ti,Nb,VまたはZrを含有させる場合には、これらの元素のうち少なくとも1種を合計で0.01〜0.5%の範囲とすることが好ましい。
【0082】
本発明のセパレータ用二相系ステンレス鋼では、上記した元素の他に、熱間加工性を向上させるために、Ca,Mg,B,希土類元素(REMとも記載する)をそれぞれ0.1%以下で、また溶鋼段階での脱酸の目的でAlを0.2%以下で含んでも良い。
【0083】
残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物のうちのO(酸素)は、0.02%以下とすることが好ましい。
【0084】
(7)ステンレス鋼の好適な製造方法
本発明において、基材であるフェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼あるいは、二相系ステンレス鋼の製造方法については、特に製造条件等の制限はなく、従来公知の方法に従えばよいが、好適な製造条件を述べると次のとおりである。
好適成分組成に調整した鋼片を、1100℃以上の温度に加熱後、熱間圧延し、ついで800〜1100℃の温度で焼鈍を施したのち、冷間圧延と焼鈍を繰り返してステンレス鋼板とする。得られるステンレス鋼板の板厚は0.02〜0.8mm程度とするのが好適である。ここで、仕上焼鈍と酸洗は、オンラインで連続的に施されることが効率的ではあるが、一方で、それらの一部あるいは全ての工程をオフラインで独立して行い、それらの工程間に洗浄等を施しても良い。
【0085】
(8)基体として使用するチタンおよびチタン合金
本発明に係るチタンおよびチタン合金の組織や化学組成は特に限定しないが、耐食性に優れたチタン酸化物が主体の不動態皮膜を得るためには、70%以上のチタンを含むことが望ましい。さらに、耐食性向上、強度向上、成形性向上などを目的に種々の元素を含有させても良い。
【0086】
本発明に係るチタンまたはチタン合金の具体的な組織と成分について説明する。
・チタンまたはチタン合金の組織:
本発明に係るチタンおよびチタン合金の組織は特に限定しない。
チタンの組織は、882℃以下ではα相(最密六方構造(hcp))、それ以上の温度ではβ相(体心立方構造(bcc))である。塑性変形する場合の滑り系の数が少ないが、加工硬化性が小さいので、六方晶金属の中では塑性加工性に富む材料である。また、一般にチタン合金に比べ安価なため、本発明の目的であるセパレータに加工するに好ましい材料である。
一方、チタン合金の組織は、α相を主とするα型、β相を主とするβ型およびα相とβ相の二相からなる(α+β)型の3種類に分類される。これらチタン合金の組織は、純チタンに含有される合金元素の種類とその含有量、加工方法および熱処理によって決まり、α相とβ相で性質が異なるため、合金の種類によって特性が大きく異なる。(α+β)型合金は超塑性を示すことから超塑性成形により、またβ型合金は冷間塑性加工性に優れているのでプレス加工等の冷間加工により、本発明の目的であるセパレータに加工することができ、好ましい。
【0087】
次に、チタンの化学組成について、規定する。なお、成分に関する「%」表示は、特に断らない限り質量%を意味する。
・チタン:
チタンとしては工業用純チタンを用いるのが有利であり、従ってチタン以外の元素は不純物である。不純物としては、Fe,O,C,NおよびH等があり、これらの元素の中で特にOとFeは強度を高めるためにチタンに含有される場合がある。その量が高いほど強度が上昇するが、その合計量が1%を超えると効果は飽和する。したがって、OとFeの合計は1%以下で、残部Tiであることが好ましい。
【0088】
次に、チタン合金の化学組成について、規定する。
・Ti:70%以上
耐食性に優れたチタン酸化物が主体の不働態皮膜を得るためには、70%以上のチタンを含むことが望ましい。
・Al:0.5〜9%
Alは、チタン合金中にα相安定化元素として含有され、耐食性を損なうことなく、強度上昇に寄与する。その効果を得るためには、Al量を0.5%以上とすることが好ましい。また、Alが9%を超えると脆化相が析出し、熱間変形抵抗が増大するだけでなく、割れ感受性が著しく増大し、製造性が悪化する。従って、Al量は0.5〜7%とすることが好ましい。
【0089】
さらに、本発明のチタン合金には、上記の元素に加え、必要に応じて下記の元素を適宜含有させても良い。
・Fe,Ni,CoおよびCrの一種以上:0.2〜3%
Fe,Ni,CoおよびCrはいずれも、共析型β相安定化元素であり、主にβ相に固溶し強度を上昇させる。また、β変態点を低下させることにより、超塑性発現温度を低下させることができる。さらに、これらの元素は、チタン中での拡散速度が大きく、また熱間加工性の良いβ相の体積率が増大させることにより、熱間加工時、特に超塑性成形時の変形抵抗を下げ、割れ等の欠陥の発生を抑えられる効果がある。それらの効果を得るためには、Fe,Ni,CoおよびCrはそれぞれ、0.2%以上含有させることが好ましい。一方、Fe,Ni,CoおよびCrの含有量がそれぞれ3%を超えると、これらの元素とTiとの間に脆化相である金属間化合物が形成され、さらに溶解、凝固時にβフレックと呼ばれる偏析相が形成され、その結果、合金の機械的性質、特に延性が劣化する。したがって、Fe,Ni,CoおよびCrの一種以上を含有させる場合には、それぞれ0.2〜3%とすることが好ましい。
【0090】
・MoおよびVの一種以上を合計で:1〜25%
MoおよびVはいずれも、全率固溶型β相安定化元素であり、主にβ相に固溶し強度を上昇させる。その効果を得るためには、合計で1%以上とするのが好ましいが、合計で25%を超えると、その効果が飽和する。また、Mo,Vは重い元素であり、かつ高価な元素であることから、合計で25%を越えて含有させるのは好ましくない。さらに、Moは、チタン中での拡散速度が小さいため、熱間加工時、特に超塑性成形時の変形応力が増大する。したがって、MoおよびVの含有量は、合計で1〜25%とすることが好ましい。
【0091】
・O:0.05〜0.5%
Oは、α相に固溶して強度を上昇させる。その効果を得るためには、0.05%以上含有させることが好ましい。一方、O量が0.5%を超えると、冷間加工性や延性を劣化させる。したがって、O量は0.05〜0.5%とすることが好ましい。
【0092】
・Zr,Snの一種以上を合計で:0.2〜6%
ZrおよびSnはいずれも、チタン合金中に中性元素として含有され、延性を低下させることなく強度を上昇させことができ、耐食性を損なうこともない。また、耐食磨耗性も改善される。その効果を得るためには、合計で0.2%以上とすることが好ましい。一方、ZrおよびSnの合計量が、6%を超えると目的とする効果が得られない。したがって、ZrおよびSnの合計量は0.2〜6%とすることが好ましい。
【0093】
さらに、本発明のチタン合金では、上記の元素の限定に加えて、必要に応じて下記の元素を含有させても良い。
・Si:0.5%以下
Siは、耐食磨耗性向上に有効な元素であり、チタン合金の溶製段階で添加される。しかし、過剰に含有させるとTiとの間に金属間化合物を形成し、延性が低下する。したがってSiを含有させる場合には、0.5%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.05〜0.5%の範囲である。
【0094】
・Mn,Cuの一種以上を合計で:5%以下
MnおよびCuはそれぞれ、共析型β相安定化元素であり、主にβ相に固溶し強度を上昇させる。また、β変態点を低下させることにより、超塑性発現温度を低下させることができる。それらの効果を得るためには、MnおよびCuの一種以上を合計で、0.2%以上とすることが好ましい。一方、Mn,Cuの合計量が5%を超えると、これらの元素とTiとの間に脆化相である金属間化合物が形成され、さらに溶解、凝固時にβフレックと呼ばれる偏析相が形成され、その結果、合金の機械的性質、特に延性が劣化する。したがって、MnおよびCuは合計で5%以下で含有させるのが好ましい。
【0095】
また、本発明のチタン合金は、上記の組成に加えて、0.5%以下のPdあるいはRuを含有してもよい。これらの元素は、チタン合金の耐食性を向上させる。その効果を得るためには、それぞれ0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、これらの元素は、非常に高価であり、過剰な添加はコストの上昇を招くので、それぞれ上限を0.5%とする。
その他の元素は、残部Tiおよび不可避的不純物である。
【0096】
(9)チタンまたはチタン合金の好適な製造方法
次に、本発明のチタンまたはチタン合金の好適な製造方法について、述べる。
上記の成分組成を有するチタンまたはチタン合金インゴットを、分塊鍛造または分塊圧延により鋳造組織を壊し、組織的に均質に近いものとした後、熱間鍛造、熱間圧延、熱間押し出し等の熱間加工により所定の形状に製造する。この際、加工性の観点より、熱間加工や熱間圧延に適した温度領域が存在するので、大断面インゴットまたは粗片から圧延する場合、あるいは肉厚の薄い材料に圧延する(以下、薄物圧延という)場合には、インゴットまたは粗片を1回だけ加熱した後、圧延して製品とする工程では、所望の製品を製造することが困難であるため、再加熱して圧延する多ヒート圧延とすることが好ましい。熱間圧延鋼板は、焼きなましと脱スケールの後、大型の鉄鋼用やステンレス用冷間圧延機やゼンジミア圧延機等で、冷間圧延される。冷間圧延された冷延鋼板は、真空炉または不活性ガス雰囲気炉で、焼きなましし、鋼板全体の機械的性質や結晶粒度を均一化する。特に、α型チタン合金やα+β型チタン合金の冷間圧延は、純チタンよりも圧延が困難な場合が多く、粗片を炭素鋼によって、少なくともその上下2面を被覆し、熱間圧延(パック圧延)により薄板化する場合もある。β型合金は、冷間加工性は良好であるが、耳割れ防止や過度の冷間圧延に伴なう内部クラック発生防止のため、冷間圧延の中間焼きなまし回数を増やすこともある。
【0097】
このようにして得られたチタン板またはチタン合金板を、プレス加工、超塑性加工等によりガス流路を形成した後、セパレータとすることが望ましい。また、熱間圧延されたままの熱延板や、熱間圧延後に焼鈍された熱延板を用いて切削加工でガス流路を形成してセパレータとしても良い。
【実施例】
【0098】
固体高分子形燃料電池のセパレータには、発電効率の低下を抑制するために、低い接触抵抗が要求される。また、固体高分子形燃料電池の起動停止時は電位が変動することおよび温度:80℃、pH:3程度の厳しい環境で使用されることから、耐食性に優れることも併せて要求される。そこで、これらの要求特性に鑑み、以下の2つの試験を実施した。
【0099】
1)接触抵抗
図2に示すように2枚の試験片8を両面から同じ大きさの3枚のカーボンペーパ9(東レ製TGP-H-120)で交互に挟み、さらに銅板に金めっきを施した電極10を接触させ、単位面積当たり9.8 MPa(=10 kgf/cm2)の圧力をかけて2枚のセパレータ間の抵抗を測定し、接触面積を乗じ、さらに接触面数(=2)で除した値を接触抵抗値とした。なお、測定は位置を変えて4ヶ所で行ない、その平均値を求めた。
○:接触抵抗10mΩ・cm2未満
×:接触抵抗10mΩ・cm2以上
【0100】
2)セパレータ環境での安定性の評価
試料を温度:80℃、pH:3の硫酸水溶液中に浸漬し、参照電極に飽和KCl Ag/AgClを用いて、200 mV/minの掃印速度で−0.2〜1.2V(vs.SHE)のサイクリックボルタモグラム (cyclic voltammogram)を5サイクル測定し、5サイクル目の電圧上昇時1.0Vの電流密度値でセパレータ環境での安定性を評価し、電流密度が小さいほどセパレータ使用環境で安定であると判断した。
すなわち、5サイクル目の電圧上昇時1.0Vの電流密度の値を次の基準で評価した。
◎:電流密度2.5μA/cm2未満
○:電流密度2.5μA/cm2以上、4μA/cm2未満
△:電流密度4μA/cm2以上、5μA/cm2未満
×:電流密度5μA/cm2以上
【0101】
実施例1
基体として板厚:0.1mmのSUS447J1(0.003%C、0.20%Si、0.10%Mn、30.0%Cr、0.20%Ni、2.0%Mo、0.02%Cu、0.14%Nb、0.007%N、残部Fe)、SUS304(0.05%C、0.55%Si、1.0%Mn、18.2%Cr、8.5%Ni、0.02%Mo、0.03%N、残部Fe)および板厚:0.2mmのチタン板(JIS1種純チタン:0.002%H、0.04%O(酸素)、0.01%N、0.19%Fe、残部Ti)を用い、酸洗・水洗後、以下に示すめっき浴組成および導電性粒子を使用し、浴を撹拌しながらpH:8.1、温度:60℃ 、電流密度:5A/dm2の条件で電気めっきを行い、Sn合金、具体的にはNiを含むSn合金であるNi3Sn2層中に導電性粒子含有皮膜を基体表面に形成した。導電性粒子のめっき浴中添加量は10〜400g/lとし、めっき膜厚は10μm とした。また、比較のために、導電性粒子を含有させず、Ni3Sn2層のみを表面に形成した試料も作製した。
<めっき浴組成>
・0.15mol/l:NiCl2・2H2O、0.15mol/l:SnCl2・2H2O、0.45mol/l:K2P2O7、0.15mol/l:グリシン
<導電性粒子>
・カーボンブラック(東海カーボン製 アクアブラック001)平均粒径:140nm(0.14μm)
・TiC (和光純薬製) 最小最大粒径:1〜2μm
・VC (キシダ化学製)平均粒径:1.4μm
・TiN (添川理化学製)平均粒径:1.5μm
・TiB2 (高純度化学製)最小最大粒径:2〜3μm
・VB2 (日本新金属製)最小最大粒径:2〜5μm
・CrB2 (日本新金属製)最小最大粒径:3〜6μm
・TiSi2(日本新金属製)最小最大粒径:2〜5μm
・ZrSi2(日本新金属製)最小最大粒径:2〜5μm
・NbSi2(日本新金属製)最小最大粒径:2〜5μm
【0102】
導電性粒子を複合せずに作製した試料の薄膜X線回折パターンを、図3に示す。
同図から明らかなように、表面にNi3Sn2からなる皮膜が形成されていることが分かる。
【0103】
上記のようにして得られた各試料の接触抵抗とセパレータ環境での安定性について調べた結果を表1に整理して示す。
【0104】
【表1】

【0105】
同表に示したとおり、導電性粒子を含有しない場合は接触抵抗が10mΩ・cm2超であったのに対し、導電性粒子を含有させることにより接触抵抗を10mΩ・cm2以下まで低減することができた。
また、導電性粒子の含有の有無にかかわらず、表面にNi3Sn2からなる皮膜を被覆することにより、セパレータ環境での安定性を向上させることができた。
【0106】
実施例2
基体として、実施例1で用いた基体と同じ板厚:0.1mmのSUS447J1、SUS304および板厚:0.2mmのチタン板を用い、酸洗・水洗後、以下に示すめっき浴組成および導電性粒子を使用して、中間層を形成し、ついで導電性粒子含有皮膜を形成した。
中間層の形成に際しては、以下のめっき浴組成で、pH:8.1、温度:60℃、電流密度:5A/dm2の条件でめっきを行い、基体表面に1層〜3層の中間層を形成した。なお、中間層および導電性粒子含有皮膜は、Sn合金、具体的にはNiまたはFeを含む4種類(Ni3Sn2,Ni3Sn4,FeSn,FeSn2)のSn合金を用いた。なお、中間層および導電性粒子含有皮膜は、同じ皮膜種とした。
また、導電性粒子含有皮膜の形成に際しては、以下の導電性粒子を種々に割合した下記めっき浴を撹拌しながらpH:8.1、温度:60℃、電流密度:5A/dm2の条件でめっきを行い、NiまたはFeを含むSn合金4種類(Ni3Sn2,Ni3Sn4,FeSn,FeSn2)に導電性粒子を種々の割合で含む種々の膜厚の皮膜を中間層の上に形成した。導電性粒子のめっき浴中添加量は10〜400g/lとした。また、比較のために、導電性粒子を含有させず、NiまたはFeを含む4種類(Ni3Sn2,Ni3Sn4,FeSn,FeSn2)のSn合金層のみを表面に形成した試料も作製した。
<めっき浴組成>
1) Ni3Sn2
0.15mol/l:NiCl2・2H2O、0.15mol/l:SnCl2・2H2O、0.45mol/l:K2P2O7
0.15mol/l:グリシン
2) Ni3Sn4
0.15mol/l:NiCl2・2H2O、0.30mol/l:SnCl2・2H2O、0.45mol/l:K2P2O7、
0.15mol/l:グリシン
3) FeSn
0.15mol/l:FeCl2・4H2O、0.18mol/l:SnCl2・2H2O、0.45mol/l:K2P2O7、
0.15mol/l:グリシン
4) FeSn2
0.15mol/l:FeCl2・4H2O、0.36mol/l:SnCl2・2H2O、0.45mol/l:K2P2O7、
0.15mol/l:グリシン
<導電性粒子>
・カーボンブラック(東海カーボン製 アクアブラック001)平均粒径:140nm(0.14μm)
・TiC (和光純薬製) 最小最大粒径:1〜2μm
・VC (キシダ化学製) 平均粒径:1.4μm
・TiN (添川理化学製) 平均粒径:1.5μm
・TiB2 (高純度化学製) 最小最大粒径:2〜3μm
・VB2 (日本新金属製) 最小最大粒径:2〜5μm
・CrB2 (日本新金属製) 最小最大粒径:3〜6μm
・TiSi2(日本新金属製) 最小最大粒径:2〜5μm
・ZrSi2(日本新金属製) 最小最大粒径:2〜5μm
・NbSi2(日本新金属製) 最小最大粒径:2〜5μm
【0107】
上記のようにして得られた各試料の接触抵抗とセパレータ環境での安定性について調べた結果を表2−1〜表2−4に整理して示す。
【0108】
【表2−1】

【0109】
【表2−2】

【0110】
【表2−3】

【0111】
【表2−4】

【0112】
表2−1〜表2−4に示したとおり、Ni3Sn2、Ni3Sn4の皮膜では導電性粒子を含有しない場合は接触抵抗が10mΩ・cm2超であったのに対し、導電性粒子を含有させることにより接触抵抗を10mΩ・cm2以下まで低減することができた。また、FeSn、FeSn2の皮膜では、導電性粒子を含有させることによって、導電性粒子を含有しない場合よりも低い接触抵抗とすることができた。
さらに、中間層を形成した場合は、中間層を形成しない場合に比べて特にセパレータの使用環境下での安定性に優れていることが分かる。
特に、表2−1に示すように、皮膜および中間層がNi3Sn2の場合は、他の3種の皮膜種に比べて、皮膜や中間層の膜厚に依存せずに、とりわけセパレータ環境下での安定性が優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、従来から使用されている金めっきステンレス製セパレータやグラファイト製セパレータと同等に接触抵抗が低くかつ耐食性に優れたセパレータを得ることができる。また、本発明では、従来のように高価な金めっきステンレス製セパレータやグラファイト製セパレータを使用する必要がなく、金属板から安価にセパレータを作製することができるので、固体高分子形燃料電池の製造コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 膜−電極接合体
2,3 ガス拡散層
4,5 セパレータ
6 空気流路
7 水素流路
8 試験片
9 カーボンペーパ
10 電極
11 基体
12 導電性粒子含有皮膜
13 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基体の表面に、Sn合金層からなる皮膜を有し、該皮膜中に導電性粒子を含有する固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【請求項2】
前記Sn合金層が、NiまたはFeの1種以上を含有する請求項1に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【請求項3】
前記Sn合金層が、Ni3Sn2層である請求項1または2に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【請求項4】
前記導電性粒子の電気伝導度が1×102Ω-1・m-1以上で、平均粒径が0.1〜6μmである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【請求項5】
前記導電性粒子の含有量が、0.1〜30質量%である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【請求項6】
前記導電性粒子が、カーボンブラック,TiC,VC,TiN,TiB2,VB2,CrB2,TiSi2,ZrSi2およびNbSi2のうちから選んだ一種または二種以上である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【請求項7】
前記皮膜と前記基体との間に、中間層として、少なくとも1層のSn合金層を有する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【請求項8】
前記中間層が、NiまたはFeの1種以上を含有する請求項7に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【請求項9】
前記中間層が、Ni3Sn2層である請求項7または8に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。
【請求項10】
前記中間層が、2〜4層からなり、これらの合計厚みが6μm 以下である請求項7乃至9のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池のセパレータ用金属板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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