説明

固体高分子形燃料電池電極及びその製造方法

【課題】触媒層とガス拡散層との接合を、より確実に行うことを可能とし、燃料電池特性の安定化、生産性の向上を図る。
【解決手段】触媒層CCMのガス拡散層MPLに隣接する表面のRaを1.0μm以下で、かつ、Waを2μm以下とし、ガス拡散層MPLの触媒層CCMに隣接する表面のRaを5.0μm以下で、かつ、Waを触媒層CCMのガス拡散層MPLに隣接する表面と同等(2μm以下)に形成する。これにより、触媒層CCM及びガス拡散層MPLの互いに隣接する表面の粗さを、ミクロ的視点及びマクロ的視点の双方から平滑化する。そして、触媒層CCMとガス拡散層MPLとの表面をいわば真空密着させるような状態とし、触媒層CCMとガス拡散層MPLとの間の接合力を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池電極及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、図4に示されるように、複数種類のセル構成部材が積層されることによって、セル(単セル)10が構成され、なおかつ、セル10が複数枚積層された燃料電池スタック11を構成することで、必要な電圧が確保されるものである。セル10の構造例としては、図5に示されるように、膜電極接合体12(Membrane Electrode Assembly:以下、「MEA」という。)がセル10の厚み方向の中心部に配置され、その両面に、ガス拡散層14(アノード側/カソード側のガス拡散層14A、14C)、ガス流路16(アノード側/カソード側のガス流路16A、16C)、セパレータ18が夫々配置された構造となっている(例えば、特許文献1参照)。なお、MEA12とガス拡散層14とが一体となった形態を(MEA12にガス拡散層14を含めて)、一般にMEAと称するが、これを膜電極ガス拡散層接合体(MEGA:Membrane Electrode &Gas Diffusion Layer Assembly)と称する場合もある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−185905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、MEA12の作成手順の一例として、電解質膜の表面に触媒を塗布することで触媒層(CCM:Catalyst. Coated Membrane)を形成し、別工程でガス拡散層基板上に多孔体層(MPL:Micro Porous Layer)を形成し、両者を接合する方法がある。
このようにして製作されたMEA12は、運転中において、MEA12を構成するポリマー(電解質膜及び触媒層中のアイオノマー)が、加湿又は生成水によって膨潤する。一方、セル内の水分量は、使用条件(運転条件)の変化に伴い、MEA12とガス拡散層14との寸法変化が繰り返し生じることとなる。この寸法変化の繰り返しによって、触媒層とガス拡散層の接合力が脆弱な場合に、セル構成部材の破損(破断)、破壊が生じ、電池特性が低下する虞がある。さらに、触媒層とガス拡散層の接合力が脆弱な場合、これらが分離してしまうことにより、MEAを積層(スタック)する際のハンドリング性が悪化し、生産性の低下が顕著となる。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、触媒層とガス拡散層との接合を、より確実に行うことを可能とし、燃料電池特性の安定化、生産性の向上を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る固体高分子形燃料電池電極は、互いに隣接する触媒層とガス拡散層とをセル構成部材に含む固体高分子形燃料電池電極であって、前記触媒層及び前記ガス拡散層の互いに隣接する表面の粗さが、ミクロ的視点及びマクロ的視点の双方から平滑化され、両者がいわば真空密着することで、触媒層とガス拡散層とが接合したものである。
又、上記課題を解決するために、本発明に係る固体高分子形燃料電池電極の製造方法は、互いに隣接する触媒層とガス拡散層とを含む固体高分子形燃料電池電極の製造方法であって、前記触媒層及び前記ガス拡散層の互いに隣接する表面の粗さを、ミクロ的視点及びマクロ的視点の双方から平滑化するように形成し、両者をいわば真空密着させることで、触媒層とガス拡散層とを接合させるものである。
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)互いに隣接する触媒層とガス拡散層とをセル構成部材に含む固体高分子形燃料電池電極であって、前記触媒層の前記ガス拡散層に隣接する表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下で、かつ、算術平均うねりWaが2μm以下であり、前記ガス拡散層の前記触媒層に隣接する表面の算術平均粗さRaが5.0μm以下で、かつ、算術平均うねりWaが前記触媒層の前記ガス拡散層に隣接する表面と同等に形成され、前記触媒層と前記ガス拡散層とが密着している固体高分子形燃料電池電極(請求項1)。
本項に記載の固体高分子形燃料電池電極は、触媒層のガス拡散層に隣接する表面のRaが1.0μm以下で、かつ、Waが2μm以下であり、ガス拡散層の触媒層に隣接する表面のRaが5.0μm以下で、かつ、Waが触媒層のガス拡散層に隣接する表面と同等(2μm以下)に形成されている。すなわち、触媒層及びガス拡散層の互いに隣接する表面の粗さが、ミクロ的視点及びマクロ的視点の双方から平滑化されている。このため、触媒層とガス拡散層との表面がいわば真空密着するような状態となり、触媒層とガス拡散層との間の接合力が確保される。
【0007】
(2)互いに隣接する触媒層とガス拡散層とをセル構成部材に含む固体高分子形燃料電池電極の製造方法であって、少なくとも、前記触媒層の前記ガス拡散層に隣接する表面の算術平均粗さRaを1.0μm以下で、かつ、算術平均うねりWaを2μm以下に形成し、前記ガス拡散層の前記触媒層に隣接する表面の算術平均粗さRaを5.0μm以下で、かつ、算術平均うねりWaを前記触媒層の前記ガス拡散層に隣接する表面と同等に形成し、前記触媒層と前記ガス拡散層とを密着させる固体高分子形燃料電池電極の製造方法(請求項2)。
本項に記載の固体高分子形燃料電池電極の製造方法は、触媒層のガス拡散層に隣接する表面のRaを1.0μm以下で、かつ、Waを2μm以下とし、ガス拡散層の触媒層に隣接する表面のRaを5.0μm以下で、かつ、Waを触媒層のガス拡散層に隣接する表面と同等(2μm以下)に形成する。これにより、触媒層及びガス拡散層の互いに隣接する表面の粗さを、ミクロ的視点及びマクロ的視点の双方から平滑化する。そして、触媒層とガス拡散層との表面をいわば真空密着させるような状態とし、触媒層とガス拡散層との間の接合力を確保するものとなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明はこのように構成したので、触媒層とガス拡散層との接合を、より確実に行うことが可能となり、燃料電池特性の安定化、生産性の向上が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
本発明の実施の形態に係る固体高分子形燃料電池の膜電極接合体MEAは、図1に示される手順で作成されるものである。具体的には、第1工程(S100)では、電解質膜20の両面に、白金、白金カーボン、白金コバルト等とアイオノマーとを含む触媒22、24を塗布することで、触媒層CCMを形成する。又、これと並行する第2工程(S200)で、カーボンペーパーやカーボンクロスからなるガス拡散層基材26上に、アセチレンブラック等のカーボン28を塗布することで、多孔体層MPLを形成する。そして、両者を接合する第3工程(S300)において、MEAが完成するものである。
ここで、電解質膜20に触媒22、24を塗布する工程と、ガス拡散層基材26にカーボン28を塗布する工程には、例えば、図2(a)に示されるようなスプレー30や、図2(b)に示されるダイコータ32が用いられる。なお、図中符号34はインクタンク、符号36はダイヘッドインク、符号38はダイヘッドを示している。
【0010】
そして、電解質膜20に触媒22、24を塗布する際に、例えば、スプレー30を用いる場合には、図1に例示されるように、触媒22、24の第1層R1を一定方向に連続塗りし、続いて、第2層R2、第3層R3を、少しづつ位置をずらしながら一定方向に連続塗りして重ねることにより、触媒層CCMの表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下で、かつ、算術平均うねりWaが2μm以下となるように塗工する。この際、スプレー30への塗工材料の供給系統には、ポンプの脈動を緩和するためのフィルターを設けることが望ましい。なお、塗工材料の固形分比率との関係から、必要な厚みの触媒層CCMを得るまでに、4層以上の重ね塗りを行うことが望ましいことが、発明者らの研究により明らかとなっている。
又、ガス拡散層基材26上にカーボンを塗布する際にも、同様にして、多孔体層MPLの表面の算術平均粗さRaが5.0μm以下で、かつ、算術平均うねりWaが2μm以下となるように塗工する。又、従来は多孔体層MPLのインクの混練時間(硬練り時間)を30分程度確保して塗工するのに対し、本発明の実施の形態では、インクの粘土を従来の2割程度低くし、かつ、インクの混練時間を従来の2倍程度確保することが望ましい。
【0011】
図3(a)には、本発明の実施の形態に係る塗工方法によって得られた、触媒層CCMの表面粗さが示され、比較例として図3(b)に示された従来の触媒層CCMの表面粗さが示されている。これらの図から明らかなように、従来の触媒層CCMの表面粗さは、Raが1.3μm、Waが2.28μmであるのに対し、本発明の実施の形態に係る触媒層CCMの表面粗さは、Raが0.9μm、Waが0.42μmであり、ミクロ的視点及びマクロ的視点の双方から平滑化されていることが解る。
このようにして形成された、触媒層CCMとガス拡散層の多孔体層MPLとを密着させると、両者はいわば真空密着するような状態となり、触媒層CCMとガス拡散層の多孔体層MPLとが接合する。発明者らの実証検査の一例として、両者の接合強度は、本発明の実施の形態に係るものが2.05N/cmであるのに対し、従来技術では0.38N/cmにとどまった。又、必要に応じ、従来と同様に熱圧着を併用することで、より強固に触媒層CCMとガス拡散層MPLとを接合することも可能である。
【0012】
上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。まず、本発明の実施の形態に係る固体高分子形燃料電池電極は、触媒層CCMのガス拡散層MPLに隣接する表面のRaが1.0μm以下で、かつ、Waが2μm以下であり、ガス拡散層MPLの触媒層CCMに隣接する表面のRaが5.0μm以下で、かつ、Waが触媒層CCMのガス拡散層MPLに隣接する表面と同等(2μm以下)に形成されている。すなわち、触媒層CCM及びガス拡散層MPLの互いに隣接する表面の粗さが、ミクロ的視点及びマクロ的視点の双方から平滑化される。すると、触媒層CCMとガス拡散層MPLとの表面がいわば真空密着するよう状態となり、触媒層CCMとガス拡散層MPLとの間の接合力が確保されることなる。
【0013】
又、本発明の実施の形態に係る固体高分子形燃料電池電極の製造方法によれば、触媒層CCMのガス拡散層MPLに隣接する表面のRaを1.0μm以下で、かつ、Waを2μm以下とし、ガス拡散層MPLの触媒層CCMに隣接する表面のRaを5.0μm以下で、かつ、Waを触媒層CCMのガス拡散層MPLに隣接する表面と同等(2μm以下)に形成する。これにより、触媒層CCM及びガス拡散層MPLの互いに隣接する表面の粗さを、ミクロ的視点及びマクロ的視点の双方から平滑化する。そして、触媒層CCMとガス拡散層MPLとの表面をいわば真空密着させるような状態とし、触媒層CCMとガス拡散層MPLとの間の接合力を確保するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る固体高分子形燃料電池の膜電極接合体の作成手順を示す模式図である。
【図2】図1に示される固体高分子形燃料電池の膜電極接合体の作成工程において、電解質膜に触媒を塗布する工程と、ガス拡散層基材にカーボンを塗布する工程に用いられる塗工機のを例示するものであり、(a)はスプレー、(b)はダイコータである。
【図3】(a)は、本発明の実施の形態に係る塗工方法によって得られた触媒層の表面粗さを、図3(b)には、比較例として従来の触媒層の表面粗さを示している。
【図4】燃料電池スタックの立体模式図である。
【図5】図4に示される燃料電池スタックを構成するセルの、構成部材を示す模式図である。
【符号の説明】
【0015】
20:電解質膜、 22、24:触媒、26:ガス拡散層基材、28:カーボン、CCM:触媒層、MPL:ガス拡散層、MEA:膜電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隣接する触媒層とガス拡散層とをセル構成部材に含む固体高分子形燃料電池電極であって、前記触媒層の前記ガス拡散層に隣接する表面の算術平均粗さが1.0μm以下で、かつ、算術平均うねりが2μm以下であり、前記ガス拡散層の前記触媒層に隣接する表面の算術平均粗さが5.0μm以下で、かつ、算術平均うねりが前記触媒層の前記ガス拡散層に隣接する表面と同等に形成され、前記触媒層と前記ガス拡散層とが密着していることを特徴とする固体高分子形燃料電池電極。
【請求項2】
互いに隣接する触媒層とガス拡散層とをセル構成部材に含む固体高分子形燃料電池電極の製造方法であって、少なくとも、前記触媒層の前記ガス拡散層に隣接する表面の算術平均粗さを1.0μm以下で、かつ、算術平均うねりを2μm以下に形成し、前記ガス拡散層の前記触媒層に隣接する表面の算術平均粗さを5.0μm以下で、かつ、算術平均うねりを前記触媒層の前記ガス拡散層に隣接する表面と同等に形成し、前記触媒層と前記ガス拡散層とを密着させることを特徴とする固体高分子形燃料電池電極の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−153093(P2010−153093A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327579(P2008−327579)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】