説明

固体高分子形燃料電池

【課題】 電池の性能を損なうことなく、確実に電池内のシールが可能な固体高分子形燃料電池を提供することにある。
【解決手段】 シール剤9によって接合体2の陽イオン交換膜3とセパレータ7とが接着されている。これにより、陽イオン交換膜3とセパレータ7との間が密封状態となっているから、強い圧力でもって締め付けなくとも気密性を保つことができる。また、この陽イオン交換膜3とセパレータ7との間には、シール剤9の厚さを調整するためのスペーサ10が設けられ、このスペーサ10の厚さtが電極の厚さtに対して0.8t<t<tとされている。このような構成によれば、電極4内部でのガス拡散性を保持しつつ、電極4とセパレータ7とを適度な圧着力をもって接触させるようにシール剤9の厚さを調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、イオン交換膜を固体高分子電解質膜として用いた燃料電池である。この電池は、比較的小型化が可能で低温で動作することから、自動車用電池や家庭用電源等としての利用が期待されている。このような電池としては、例えば特許文献1、特許文献2に記載のものがある。
【0003】
この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に燃料側、空気側の電極をそれぞれ接合した接合体(MEA:Membrene and Electrode Assembly)の両側に、一対のセパレータを積層した単セルを、複数個積層したスタック構造となっている。電極は、触媒粒子と固体高分子電解質とを含む触媒層およびカーボンペーパーなどの導電性多孔質基材で構成される。セパレータの表面において電極に接する領域には、電極に反応ガスである水素や空気を供給するためのガス流路が設けられている。
【0004】
この電池は反応ガスとして水素を用いることから、高い気密性が要求される。したがって、各セパレータ間に、電極やガス流路の周囲をシールするガスケットが設けられるのが一般的である。このガスケットは、ゴムや樹脂等の弾力性を有する部材により、電極を囲う枠状に形成されて、固体高分子電解質膜とセパレータとの間に挟み込まれる。そして、電池スタックの両端には、一対のエンドプレートが配され、両エンドプレート間が、締結ロッドやワッシャーによって適度な圧力で締め付けられる。これにより、電池内のシール性が保たれる。
【特許文献1】特開2003−338306公報
【特許文献2】特開平11−345620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のようにゴム製の固体ガスケットを用いた場合には、ガスケットが20〜30%圧縮される程度の強い圧力でもって両エンドプレート間を締め付けなければ、気密性を保つことができない。ここで、ガスケットと接する固体高分子電解質膜は、膜の厚さが50〜250μmと非常に薄く、また剛性も低い。このため、圧縮されたガスケットの弾性復元力を受けることにより疲労破壊を起こすおそれがあった。特に、電極の外周縁と接触する部分に応力が集中しやすいため、この部分から電解質膜が破損してしまうおそれがあった。
【0006】
一方、特許文献2のように液状のシール剤をガスケットとして用いて、電解質膜とセパレータとを接着する方法では、シール剤の厚さを安定させることが難しい。すなわち、シール剤が薄すぎれば、電極が圧縮されて電極内部でのガス拡散性が低下し、シール剤が厚すぎれば、電極とセパレータとの接触性が低下するため、いずれにしても電池の性能が低下してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電池の性能を損なうことなく、確実に電池内のシールが可能な固体高分子形燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために請求項1の発明に係る固体高分子形燃料電池は、イオン交換膜の両面に一対の電極を備えたイオン交換膜/電極接合体と、前記イオン交換膜/電極接合体の両面側に設けられたセパレータとを備えた固体高分子形燃料電池であって、前記イオン交換膜における前記電極の周縁部とセパレータとがシール剤によって接着されているとともに、前記イオン交換膜と前記セパレータとの間にスペーサが設けられ、前記スペーサの厚さtsが前記電極の厚さtcに対して0.5t<t<tの関係にあることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の固体高分子形燃料電池であって、前記シール剤が飽和炭化水素樹脂を主成分とするものであることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の固体高分子形燃料電池であって、前記スペーサがフッ素樹脂または飽和炭化水素樹脂により形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、シール剤によって接合体のイオン交換膜とセパレータとが接着されている。これにより、イオン交換膜とセパレータとの間が密封状態となっているから、固体ガスケットのように圧着力で気密性の保持を図るタイプのものと異なり、強い締め付け圧でもって締め付けなくとも気密性を保つことができる。加えて、このイオン交換膜とセパレータとの間には、シール剤の厚さを調整するためのスペーサが設けられ、このスペーサの厚さtが電極の厚さtに対して0.5t<t<tとされている。このような構成によれば、電極内部でのガス拡散性を保持しつつ、電極とセパレータとを適度な圧着力をもって接触させるようにシール剤の厚さを調整することができる。これにより、電池の性能を損なうことなく、電池内のシールを確実に行うことができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、高いガスバリア性を有するとともに、耐酸性、耐湿性、耐熱性、低イオン溶出性等を具備している飽和炭化水素樹脂を主成分とするシール剤を使用することによって、電池内の気密性を長期にわたって確保することができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、耐酸性、耐湿性、耐熱性等を具備しているフッ素樹脂または飽和炭化水素樹脂により形成されたスペーサを使用することによって、電池の性能を長期にわたって良好に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図1〜図7を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
本実施形態の固体高分子形燃料電池1(以下では単に「燃料電池1」とする。)の断面図を図1に示す。この燃料電池1を構成するイオン交換膜/電極接合体2(以下では単に「接合体2」とする。)は矩形シート状の陽イオン交換膜3(本発明のイオン交換膜に該当する)の両面に、燃料側、空気側の電極4を接合したものである。この電極4は、陽イオン交換膜3よりも外形寸法が一回り小さく形成され、この陽イオン交換膜3の両面にそれぞれ配されている。したがって、接合体2の電極4の周縁には陽イオン交換膜3が露出している。各電極4は、カーボン繊維シートを備えた導電性多孔質基材5と、触媒を担持したカーボン粒子を含む触媒層6との二重構造となっており、触媒層6が陽イオン交換膜3側となるようにして積層されている。
【0016】
この接合体2の両面側には、燃料側、空気側のセパレータ7がそれぞれ積層されている。このセパレータ7は、例えばカーボンコンポジットなどの導電性材料により、陽イオン交換膜3とほぼ同じ寸法の矩形板状に形成されており、その一面側において電極4に接する領域には、溝加工により形成されて電極4に反応ガスを供給するためのガス流路8が蛇行して設けられている。燃料側のセパレータ7のガス流路8には水素が、空気側のセパレータ7のガス流路8には空気がそれぞれ流されるようになっている。
【0017】
このように、燃料電池1においては反応ガスとして水素を使用するため、高い気密性が要求される。この要求を満たすために、接合体2の陽イオン交換膜3とセパレータ7とは、シール剤9により互いに接着されている。シール剤9は、電極4のすぐ外側に電極4およびガス流路8の周りを囲むように設けられている。これにより、燃料電池1の内部の高い気密性が確保されるようになっている。シール剤9は、セパレータ7間の絶縁を保つため電気絶縁性のものであることが必要である。また、燃料電池1内の気密性を保つための高いガスバリア性の他、電池作動時の雰囲気に耐えるために耐酸性、耐湿性、耐熱性、電池の作動に悪影響を与えないために低イオン溶出性、電池への衝撃を吸収するために弾力性等の特性が要求されるものである。このような特性を備えるものとして、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイソブチレン等の飽和炭化水素樹脂を主成分とするものが好ましい。
【0018】
また、このシール剤9の外側には、絶縁性材料により、シール剤9が設けられた領域を囲う矩形枠状に形成されたスペーサ10が、陽イオン交換膜3とセパレータ7とに挟み込まれるようにして設けられている。このスペーサ10は、シール剤と同様に、耐酸性、耐湿性、耐熱性等の性能が要求されるものであり、フッ素樹脂もしくは飽和炭化水素樹脂を主成分とするものが好ましい。
【0019】
このスペーサ10は、シール剤9の厚さ調整の役割を果たすものであり、電極4よりもわずかに薄くされていることが好ましい。すなわち、スペーサ10が電極4よりも厚ければ、電極4とセパレータ7との接触性を確保できなくなってしまう(図5)ため、スペーサ10を電極4よりもわずかに薄くして、セパレータ7が電極4を僅かに圧縮しつつ適度な圧着力を持って接触するようにされていることが好ましい。しかし、スペーサ10があまりにも薄すぎれば、電極4が強く圧縮されて層内部でのガス拡散性が低下するとともに、陽イオン交換膜3が電極4のエッジEに沿って屈曲して破れやすくなるため、好ましくない(図6)。より具体的には、スペーサ10の厚さtが電極4の厚さtに対して0.5t<t<tの範囲にあることが好ましい。
【0020】
このような燃料電池1のスタックを組み立てるには、まず、セパレータ7においてガス流路8が形成された側の面にスペーサ10を重ねる(図2)。次いで、このセパレータ7においてガス流路8とスペーサ10との間の領域に熱硬化性のシール剤9を塗布する(図3)。このとき、塗布するシール剤9の厚さをスペーサ10の厚さと同程度とすることで、シール剤9の塗布量を調整する。なお、未硬化のシール剤9のだれを防止するために、シール剤9としてはある程度粘度が高いもの(例えば800Pa・s以上)を使用することが好ましい。
【0021】
次いで、このスペーサ10上に、電極4とガス流路8との位置を合わせるようにして接合体2を積層し、さらにその上から、同様にスペーサ10とシール剤9とを重ねたもう一方のセパレータ7を積層する(図4)。次に、シール剤9を加熱により硬化させる。これにより、陽イオン交換膜3とセパレータ7とが互いに剥離不能に接着され、燃料電池1が完成する。
【0022】
最後に、この燃料電池1を複数個積層してスタックとし、このスタックの両端に一対のエンドプレートを配して、両エンドプレート間をボルトとナットによって適度な圧力で締め付ける。このとき、燃料電池1内はシール剤9によって気密性が保たれているので、両エンドプレート間を特に強い圧力でもって締め付ける必要はない。
このようにして、スタックが完成する。
【0023】
以上のように本実施形態によれば、シール剤9によって接合体2の陽イオン交換膜3とセパレータ7とが接着されている。これにより、陽イオン交換膜3とセパレータ7との間が密封状態となっているから、強い締め付け圧でもって締め付けなくとも気密性を保つことができる。また、この陽イオン交換膜3とセパレータ7との間には、シール剤9の厚さを調整するためのスペーサ10が設けられ、このスペーサ10の厚さtが電極の厚さtに対して0.5t<t<tとされている。このような構成によれば、電極4内部でのガス拡散性を保持しつつ、電極4とセパレータ7とを適度な圧着力をもって接触させるようにシール剤9の厚さを調整することができる。これにより、燃料電池1の性能を低下させることなく、燃料電池1内のシールを確実に行うことができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0025】
[実施例1]
実施例1の燃料電池Aの断面構造を図7に示す。図7において、11はエンドプレート、12はボルト−ナット、14はカーボンペーパー(導電性多孔質体)である。なお、上記実施形態と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
シール剤9としてはポリイソブチレンを主成分とするスリーボンド製TB1152を、セパレータ7としてはカーボンコンポジットを使用した。
ガス流路8が形成された側のセパレータ7の面にスペーサ10を重ね、ガス流路8とスペーサ10との間の領域にシール剤9を塗布した。次いで、このスペーサ10上にイオン交換膜/電極接合体2を積層し、さらにその上から、同様にスペーサ10とシール剤9とを重ねたもう一方のセパレータ7を積層した。
【0026】
これを100℃で30分放置してシール剤9を硬化させることによって、イオン交換膜/電極接合体とセパレータ7とを接着し、さらに、両セパレータ7の外側にステンレス製のエンドプレート11を一対配置して、そのエンドプレート11に設けられたボルト−ナット12により締め付けることによって、セパレータ7に8kg/cmの圧力を加えた。
このイオン交換膜/電極接合体2は、厚さ50μmのイオン交換膜3と、一対の電極4とを備える。この電極4は、30質量%の白金を担持したカーボン粉末とを含む触媒層6および導電性多孔性基材5としてのカーボンペーパーで構成されている。
【0027】
[比較例1]
実施例1の燃料電池Aで用いたシール剤の代わりに固体ガスケットを用いて実施例と同様にして、燃料電池Bを作製した。なお、ガスケットの厚みを1.1倍とし、両エンドプレート間の締め付け圧は、実施例1と同じ8kg/cmとなるように調整した。この圧力は、セパレーター、スペーサーおよびイオン交換膜が充分に接するために必要な最少の圧力である。
【0028】
[比較例2]
実施例1の燃料電池Aで用いたシール剤の代わりに固体ガスケットを用いて実施例と同様にして、燃料電池Cを作製した。なお、ガスケットの厚みを1.3倍とし、両エンドプレート間の締め付け圧は、実施例1の2倍以上の20kg/cmとなるように調整した。
【0029】
実施例1の燃料電池A、比較例1の燃料電池Bおよび比較例2の燃料電池Cの各部材の厚みを表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
[ガス漏れ試験]
実施例1の燃料電池A、比較例1の燃料電池Bおよび比較例2の燃料電池Cに1kg/cmの窒素ガスを封入した後に水槽に浸漬することによって、ガス漏れの有無を調べたところ、実施例1の燃料電池Aおよび比較例2の燃料電池Cでは、ガス漏れが生じなかったが、比較例1の燃料電池Bではすべての電池においてガス漏れが確認された。このことは、固体ガスケットを用いた比較例の場合、電池の気密性を保つために実施例の場合に比べて高い圧力でセパレーターを押し付ける必要があることを示す。
【0032】
[セル特性の測定]
つぎに、実施例1の燃料電池Aおよび比較例2の燃料電池Cにおいて、アノードに水素およびカソードに酸素を供給して発電させた場合の、t/tと電流密度200mA/cmにおけるセル電圧との関係を図8に示す。図8において、記号○は実施例1の燃料電池Aの、記号△は比較例2の燃料電池Cの、t/tとセル電圧との関係を示す。
【0033】
図8より、実施例1の燃料電池Aのセル電圧は、セパレーターの押し付け圧が半分以下の比較例2の燃料電池Cと同レベルであることと、0.5t<t<tにおいてその電圧が高いことがわかる。
本実施例(0.5t<t<t)の耐圧性能およびセル電圧が高いことは、本発明の構造がシール剤によって高い気密性が保たれていることと、スペーサーによって電極およびセパレータの接触圧力が適度に保たれている結果、電極内部のガスに拡散性が高いこととに起因している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】燃料電池の断面図
【図2】燃料電池の製造工程を示す図−1
【図3】燃料電池の製造工程を示す図−2
【図4】燃料電池の製造工程を示す図−3
【図5】スペーサの厚さと電極の厚さとの関係を示す図−1
【図6】スペーサの厚さと電極の厚さとの関係を示す図−2
【図7】実施例1の燃料電池Aの断面構造を示す図
【図8】実施例1の燃料電池Aおよび比較例2の燃料電池Cの、t/tと電流密度200mA/cmにおけるセル電圧との関係を示す図
【符号の説明】
【0035】
1…固体高分子形燃料電池
2…イオン交換膜/電極接合体
3…陽イオン交換膜(イオン交換膜)
4…電極
7…セパレータ
9…シール剤
10…スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換膜の両面に一対の電極を備えたイオン交換膜/電極接合体と、
前記イオン交換膜/電極接合体の両面側に設けられたセパレータとを備えた固体高分子形燃料電池であって、
前記イオン交換膜における前記電極の周縁部とセパレータとがシール剤によって接着されているとともに、
前記イオン交換膜と前記セパレータとの間にスペーサが設けられ、
前記スペーサの厚さtが前記電極の厚さtに対して0.5t<t<tの関係にあることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項2】
前記シール剤が飽和炭化水素樹脂を主成分とするものであることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項3】
前記スペーサがフッ素樹脂または飽和炭化水素樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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