説明

固体高分子電解質型燃料電池

【課題】低締結力、小型及び軽量の固体高分子電解質型燃料電池を実現するシール構造及び固体高分子電解質型燃料電池を提供する。
【解決手段】高分子電解質膜Mpeの両面にそれぞれ配置されガス拡散層および触媒層からなる電極の一対Ea、Ecとからなる高分子電解質膜電極接合体50と電極Ea、Ecに燃料、酸化剤及び冷却流体を供給するための流路Pg、Po、Pwとを有するセパレータ51a、51cとが複数積層され、セパレータ51a、51cに前記燃料、酸化剤及び冷却流体を供給するためのマニホールド12、14、13とを具備するセルモジュールPEFC1が積層されてなる固体高分子電解質型燃料電池PEFCにおいて、圧縮用シール6と引っ張り用シール5とが同一シールSm内に設けられ、引っ張り用シール5の引っ張りによる反力がスタックの締結力として作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質型燃料電池のシール構造及びそれを用いた固体高分子電解質型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、高分子電解質を用いた燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと、酸素を含有する空気などの酸化剤ガスとを電気化学的に反応させて電力と熱とを同時に発生させる。このような燃料電池は、以下の如く構成される。先ず水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜の両面に、白金系の金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒反応層が形成される。次に触媒反応層の外面に、燃料ガスに対する通気性と電子導電性とを併せ持つ例えばカーボンペーパーやカーボンクロスで拡散層が形成される。拡散層と触媒反応層とを合せて電極が構成される。
【0003】
次に、供給する燃料ガスや酸化剤ガスを外部に漏らしたり、燃料ガスと酸化剤ガスとが互いに混合したりしないように、電極の周囲には高分子電解質膜を挟んでガスシール材やガスケットが配置される。シール材やガスケットは、電極及び高分子電解質膜と一体化し、あらかじめ組み立てられる。この一体化組立されたものは、通常MEA(Membrane Electrode Assemblies:膜電極接合体)と呼ばれる。
【0004】
MEAの外側には、MEAを機械的に固定するとともに、隣接したMEAを互いに電気的に直列に接続するための導電性のセパレータが配置される。セパレータの、MEAと接触する部分には、電極面に反応ガスを供給し生成ガスや余剰ガスを運び去るためのガス流路が形成される。ガス流路はセパレータと別に設ける事もできるが、セパレータの表面に溝を設けてガス流路とする方式が一般的である。
【0005】
ガス流路はいずれも溝状であって、ガス流路には燃料ガスである水素ガスと酸素や空気等の酸化剤ガスとが各々独立して流される。セパレータは、ガス流路間の突起部が拡散層に接触する状態で膜電極接合体(MEA)に積層される。そして、前述のようにガスが燃料電池のセル外にリークする事や互いに混合する事を防止するためのガスケットが装備されている。
【0006】
図14に、従来の固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールの構造を模式的に示す。固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュール100においては、枠体Fに保持された高分子電解質膜Mpeの両面のそれぞれにアノード電極Eaとカソード電極Ecとが配されて、膜電極接合体(MEA)50が形成されている。膜電極接合体50のアノード電極Ea側及びカソード電極Ec側のそれぞれに、電極面(アノード電極Ea及びカソード電極Ec)に反応ガスを供給し生成ガスや余剰ガスを運び去るためのガス流路Pが複数形成されたセパレータ51が積層配備され、積層間がシールされて固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュール100が構成される。セルモジュール100が複数積層されて、固体高分子電解型燃料電池が構成される。
【0007】
具体的には、2つのセパレータ51のそれぞれアノード電極Ea及びカソード電極Ecに対向する面(以降、「内面」と称する)に、高分子電解質膜Mpeの外形を覆うような形状に溝Gが形成されている。溝Gには、溝Gと類似の形状に一体的に形成されたガスケット53が載置された状態で、セパレータ51が膜電極接合体50に押しつけられて、ガス流路P及び高分子電解質膜Mpeが、外部に対してシールされる。このように、対向する板状体(セパレータ51と膜電極接合体50)同士間にガスケット53を介装させたものとしては、特許文献1に提案されているものが知られている。このように構成されたセルモジュール100が複数積層されて、固体高分子電解型燃料電池が構成される。
【0008】
一般に弾性材製のガスケット53を用いたシール構造は、一対の板状体(セパレータ51と膜電極接合体50)の間にガスケット53を挟み込んで押圧することにより、ガスケット53を弾性変形させて板状体(セパレータ51と膜電極接合体50)に密着させる。この場合、両方の板状体(セパレータ51と膜電極接合体50)に密着させてシールさせる構造か、或いは、ガスケット53を一方の板状体(セパレータ51と膜電極接合体50)に接着剤等の接合手段を用いて固着させておいて他方の板状体(膜電極接合体50或いはセパレータ51)に密着させる構造かのどちらかが用いられる。いずれにせよ、少なくとも一方の板状体(セパレータ51と膜電極接合体50)に押付けて、ガスケット53を弾性変形させて、ガスケット53と板状体(膜電極接合体50或いはセパレータ51)とを密着させてシールされる。
【0009】
また、ガス流路Pとして設けられた溝に燃料ガスを供給するために、燃料ガスを積層されたセルモジュール100のセパレータ51の枚数に分岐し、分岐先をセパレータ51の溝(ガス流路P)につなぎ込む構造(不図示)が設けられている。この構造はマニホールドと呼ばれ、上述の燃料ガスを外部から直接セパレータ51の溝Gに供給するタイプを外部マニホールドと呼ぶ。一方、ガス流路Pを形成したセパレータ51に貫通孔を設け、ガス流路Pの出入り口をこの孔まで通し、この孔から直接燃料ガスを供給するタイプを内部マニホールドと呼ぶ。
【0010】
燃料電池は運転中に発熱するので、電池を良好な温度状態に維持するために、冷却水等で冷却する必要がある。通常1〜3セル(単位電池)毎に冷却水を流す冷却部をセパレータ51とセパレータ51との間に挿入する。具体的には、片側の背面に冷却水流路を設けた2枚のセパレータ51を、冷却水流路同士を対面させて接合してなる冷却部が用いられる場合が多い。膜電極接合体(MEA)50とセパレータ51、そして冷却部を交互に重ねる。これをセルと呼び、10セル〜200セル程度積層して燃料電池スタックを形成した後、集電板と絶縁板とを介し端板でこの電池スタックを挟み、締結ボルトで両端から固定するのが一般的な積層型の固体高分子電解質型燃料電池の構造である。
【0011】
更に燃料電池スタックは、高分子電解質膜Mpeと電極とセパレータ51との接触電気抵抗を低減するために、更にガスシール材あるいはガスケット53によるガスシール性を確保する必要がある。そのために、燃料電池スタックは、通常10〜20kgf/cm程度の締結圧で締結される。そのため機械的強度に優れた金属材料で端板を構成し、締結ボルトにバネを組み合わせて、燃料電池スタックに締結圧を印加して固定するのが一般的な固体高分子電解質型燃料電池の構造である。
【0012】
しかし供給する加湿ガスや冷却水が端板の一部に接するため、耐食性の観点から、通常金属材料の中でも耐食性に優れるステンレス鋼材料が端板として使用される。また、集電板には、カーボン材料より導電性の高い金属材料が使用され、接触電気抵抗の観点から通常、表面処理が施される。更に、両端の端板は締結ボルトを介して電気的に接触状態にあるため、絶縁の観点から集電板と端板の間に絶縁板が挿入される。
【0013】
固体高分子電解質型燃料電池に用いられるセパレータ51は、導電性が高くかつ燃料ガスに対して高いガス気密性を持ち、更に水素/酸素を酸化還元する際の反応に対して高い耐食性即ち耐酸性を持つ必要がある。そのために、従来のセパレータ51は、ガス不透過性の緻密なカーボン板の表面に切削加工でガス流路Pを形成することにより、あるいはガス流路Pに対応した凸パターン部を形成したプレス金型に熱硬化性樹脂と共に黒鉛粉末を入れ、これを圧縮成形することにより作製されている。
【0014】
また、燃料電池の小型/薄型化、及び接触電気抵抗低減による性能向上を目指し、従来から使用されてきたカーボン材料に替えてステンレス鋼などの金属板がセパレータ51に用いられることがある。金属板を用いたセパレータ51は、金属板が比較的高温で酸化性の雰囲気に曝されるために長期間使用すると金属板の腐食や溶解が起こる。金属板が腐食すると、腐食部分の電気抵抗が増大し電池の出力が低下する。また金属板が溶解すると、溶解した金属イオンが高分子電解質膜Mpeに拡散し、これが高分子電解質膜Mpeのイオン交換サイトとイオン交換するために結果的に高分子電解質膜Mpe自身のイオン伝導性が低下し電池の出力が低下する。このような劣化を避けるため金属板の表面にある程度の厚さを持つ貴金属メッキを施すことが通例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平8−185874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
燃料電池スタックでは、シール性を良くするには、ガスケットの押圧力を強くするか、ゴム等のガスケット材料の弾性係数(バネ定数)を下げ、かつ、弾性変形量を大きくするなどして密着性を向上させる手段が採られる。いずれにしてもより強くガスケットを押圧することに変わりはない。燃料電池用として用いられる高分子電解質膜Mpeやセパレータの板状体は、その厚さが薄く、また材料面からも、強度・剛性に富むものではない。そのため、押圧力を強くすると板状体が変形する事があるとともに、カーボン材製のものでは折損するおそれもあるため、むやみに押圧力を増すことは困難である。
【0017】
更に押圧力が大きくなると、スタック全体に、高剛性化が要求される。端板及び集電板などの構成部材の剛性を上げるために、それらのサイズを大きくする必要がある。そのため、結果として、燃料電池スタック全体の大きさが大きくなると共に重くなるという問題を生じる。
【0018】
本発明は、上記問題に臨み低締結力、小型及び軽量の固体高分子電解質型燃料電池を実現するシール構造及びそれを用いた固体高分子電解質型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決する為に、本発明は、高分子電解質膜の両面にそれぞれ配置されガス拡散層および触媒層からなる電極の一対とからなる高分子電解質膜電極接合体と、当該電極に燃料、酸化剤及び冷却流体を供給するための流路とを有するセパレータとが複数積層され、前記セパレータに前記燃料、前記酸化剤及び前記冷却流体を供給するためのマニホールドとを具備するセルモジュールが積層されてなる固体高分子電解質型燃料電池であって、
圧縮用シールと引っ張り用シールとが前記セパレータの同一シール内に設けられ、前記同一シールのうち前記引っ張り用シールが設けられる溝は、内径の異なる2段の溝部で形成され、前記引っ張り用シールのカサ部が前記2段の溝部に引っかかり、前記引っ張り用シールの引っ張りによる反力がスタックの締結力として作用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、固体高分子電解質型燃料電池スタックの低締結力化、小型化及び軽量化を可能とする効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1に係る固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールの概要を示す平面図である。
【図2】図1において、線II−IIで切断したセルモジュールの断面図である。
【図3】図1において、線III−IIIで切断したセルモジュールの断面図である。
【図4】図1において、線IV−IVで切断したセルモジュールの断面図である。
【図5】図2の引っ張り用シールの組立後の詳細図である。
【図6】図1の固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュール組立の説明図である。
【図7】図6に示した工程の後工程における固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュール組立の説明図である。
【図8】図7に示した工程の後工程における固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュール組立の説明図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る引っ張り用シールと圧縮用シールとが一体的に形成されている様子を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るセルモジュールが複数積層されてなる、固体高分子電解質型燃料電池の側断面図である。
【図11】本発明の実施の形態2に係る固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールの概要を示す平面図である。
【図12】図11において、線XII−XIIで切断したセルモジュールの断面図である。
【図13】図11において、線XIII−XIIIで切断したセルモジュールの断面図である。
【図14】従来の固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る実施の形態について具体的に説明する前に、先ず本発明の技術的特徴(概念)について述べる。固体高分子電解質型燃料電池に対する更なる小型化及び軽量化の要求に対して、燃料ガス及び酸化ガスの漏れや混合の防止に用いられるシールを押圧つまり圧縮することによる変形及び反力を利用すると共に、引っ張りによって生じる変形及び反力を利用する構造とする点が本発明の主な技術的特徴である。つまり、燃料電池スタック全体の締結力を軽減できる新たなシール構造を提供するものである。
【0023】
つまり、本発明に係るシールは、従来のように圧縮によって生じる変形及び反力のみを利用して燃料ガス及び酸化剤ガスの外部への漏れ及び混合を防止するだけでは無く、シールの引っ張りによって生じる変形及び反力をシールを圧縮変形させるための押圧力に利用するように構成されている。同シールは、電極(アノード電極Ea或いはカソード電極Ec)の周囲に、高分子電解質膜Mpeを挟んで配置され、電極及び高分子電解質膜Mpeと一体化構造であることが好ましい。
【0024】
シールを電極(アノード電極Ea或いはカソード電極Ec)及び高分子電解質膜Mpeと一体化構造にするためには、電極(アノード電極Ea或いはカソード電極Ec)及び高分子電解質膜Mpeの周囲に、電極及び高分子電解質膜Mpeを保持する構造物(枠体F)が必要である。この構造物(枠体F)の材質には、樹脂などの非導電性材料が好ましい。例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)や変性ポリフェニレンエーテル(PPE)やガラス入りポリプロピレン樹脂(PPG)、及びフェノール樹脂が一例として挙げられる。
【0025】
シールの材質も構造物(枠体F)と同様に、非導電性材料が好ましい。例えば、ポリイソブチレン系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、エラストマー、及びポリウレタンが一例として挙げられる。シールと構造物(枠体F)を一体的に構成するには、それぞれの材料の特性を考慮する必要がある。つまりシールと構造物(枠体F)の材料が十分に接着或いは固着する必要がある。例えば、構造物(枠体F)の材料にガラス入りポリプロピレン樹脂(PPG)を使用した場合には、上述のシール材料の中ではエラストマー材料が最適である。
【0026】
以下に、図1、図2、図3、図4、図5、図6、図7、図8、図9、及び図10を参照して本発明の実施の形態1に係る固体高分子電解質型燃料電池について、図11、図12、及び図13を参照して本発明の実施の形態2に係る固体高分子電解質型燃料電池について、具体的に説明する。本発明はこれら実施の形態の開示範囲に限定されるものではないことは言うまでも無い。
【0027】
本発明に係る固体高分子電解質型燃料電池PEFCは、水素イオン伝導性高分子電解質膜Mpeと、当該高分子電解質膜Mpeの両面にそれぞれ配置されガス拡散層および触媒層からなる電極の一対Ea、Ecとからなる高分子電解質膜電極接合体50と、当該電極Ea、Ecに燃料、酸化剤及び冷却流体を供給するための流路Pg、Po、Pwとを有する導電性セパレータ51a、51cが複数積層締結され、前記セパレータ51a、51cに前記燃料、前記酸化剤及び前記冷却流体を供給するためのマニホールド12、14、13とを具備するセルモジュールPEFC1が1つ以上積層されてなる。
【0028】
(実施の形態1)
図1に、本発明の固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールを上から見た状態を示す。図2に、図1において、固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールを線II−IIで切断した断面を示す。図3に、図1において、固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールを線III−IIIで切断した断面を示す。図4に、図1において、固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールを線IV−IVで切断した断面を示す。
【0029】
図1において、膜電極接合体50のカソード電極Ec側に位置する矩形状のセパレータ51(必要に応じて、カソード用セパレータ51cと識別)、膜電極接合体50、及び膜電極接合体50のアノード電極Ea側に位置するセパレータ51(必要に応じて、アノード用セパレータ51aと呼ぶ)が順番に積層された状態で、帯状のシールSによって互いに締結されて、固体高分子電解質型燃料電池PEFCを構成する、セルモジュールPEFC1が形成されている。なお、図1において、紙面の都合上シールSの中心が二点鎖線で表示されている。固体高分子電解質型燃料電池PEFCには、矩形状に形成された高分子電解質膜Mpeの周囲に、カソードマニホールド12、冷却水マニホールド13及びアノードマニホールド14がそれぞれ設けられている。
【0030】
なお、シールSは、高分子電解質膜Mpeとカソードマニホールド12とを内包するシールSmと、冷却水マニホールド13を内包するシールS13と、アノードマニホールド14を内包するシールS14とを含む。シールSmの全周に渡って、引っ張り用シール5が設けられている。なお、図1においては、作図上の都合により、アノード用セパレータ51a上で、高分子電解質膜Mpeの互いに対向する2組の二辺の内、カソードマニホールド12が近接しない二辺の近傍に位置する部分に、複数(本例では6個×2列=12個)の引っ張り用シール5が表示されている。なお、カソード用セパレータ51c上には、シールSmの全周に渡って設けられた引っ張り用シール5に対向して圧縮用シール6(図2)が設けられている。これについては、図2及び図3を参照して後ほど詳述する。
【0031】
図2に示すように、カソード用セパレータ51cのカソード電極Ecに接する表面には、燃料ガス用流路Pgが設けられている。アノード用セパレータ51aのアノード電極Eaに接する表面には酸化剤ガス用流路Poが設けられ、アノード用セパレータ51aの内部に冷却水用流路Pwが設けられている。冷却水が、冷却水用流路Pwを流れる時に、アノード用セパレータ51aを介して熱を吸収し、固体高分子電解質型燃料電池PEFCを良好な温度状態に維持する。本実施の形態においては、アノード用セパレータ51aに冷却水用流路Pwが設けられているが、カソード用セパレータ51cに設けても良い。カソードマニホールド12(図1)で燃料ガスをカソード用セパレータ51cに供給し、冷却水マニホールド13(図1)で冷却水をアノード用セパレータ51aに供給し、アノードマニホールド14(図1)で燃料ガスをアノード用セパレータ51aに供給する。アノード用セパレータ51aには、引っ張り用シール5を嵌め込むための溝18が設けられている。
【0032】
図3は、図1の固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールを線III−III、つまりシールSmにおける、アノード用セパレータ51aに設けられた隣接する引っ張り用シール5、5の間を通る線で切断した断面を示す。図3に示すように、カソード用セパレータ51cに、引っ張り用シール5が嵌め込まれている。図4を参照して後述するが、引っ張り用シール5は、シールSmの全周に渡って設けられている。溝18は、カソード用セパレータ51cに設けられた、引っ張り用シール5を嵌め込むための溝である。アノード用セパレータ51aには、シールSmの全周に渡って設けられた引っ張り用シール5に対向して圧縮用シール6が設けられている。
【0033】
図4に、シールSmにおける、引っ張り用シール5と圧縮用シール6との配置関係を示す。図4に示すように、アノード用セパレータ51aに嵌め込まれた引っ張り用シール5と、カソード用セパレータ51cに嵌め込まれた引っ張り用シール5とが互い違いに配置され、シールSmの全周に渡って設けられている。また、シールSmの全周に渡って設けられた引っ張り用シール5に対向して、圧縮用シール6が、アノード用セパレータ51a及びカソード用セパレータ51cのそれぞれに設けられている。
【0034】
図5に引っ張り用シール5の組立後の詳細図を示す。引っ張り用シール5は、先端ストレート部15と、カサ部16と、胴体部17とを含む。先端ストレート部15は、後述する固体高分子電解質型燃料電池PEFCのセルモジュールの組立時に、引っ張り用シール5を所定の位置に引き上げる際に保持される。先端ストレート部15は、引っ張り用シール5を引き上げ易い形状になっていればよく、図示例以外に、先端部に穴を設けた形状や、球状にするなどの形状でも良い。
【0035】
図6、図7、及び図8を参照して、固体高分子電解質型燃料電池PEFCのセルモジュールの組立方法について説明する。図6、図7、及び図8は、アノード用セパレータ51aに引っ張り用シール5を嵌め込む工程を示しているが、カソード用セパレータ51cに引っ張り用シール5を嵌め込む工程も同様に行われる。先ず、図6に示すように、セルモジュール組立のために、アノード用セパレータ51aと枠体Fとを積層する。図示例においては、アノード用セパレータ51aに引っ張り用シール5が一体成型されている。但し、単に積層しただけでは、引っ張り用シール5のカサ部16が変形し、アノード用セパレータ51aに設けられた引っ張り用シール用溝18の途中で止まってしまう。結果、引っ張り用シール5のカサ部16を、所定の位置に位置決めできず、必要な反力が得られない。
【0036】
アノード用セパレータ51aと枠体Fとの積層後、図7に示すように引っ張り用シール5の先端ストレート部15を保持し、所定の位置に引き上げる。この時引っ張り用シール5の胴体部17が伸び、引っ張り用シール5のカサ部16が引っ張り用シール用溝18から抜ける。その後、先端ストレート部15を解放する事で、図8に示すように引っ張り用シール5の胴体部17が縮み、この時生じる引っ張りによる反力で引っ張り用シール5のカサ部16がアノード用セパレータ51aの座面Xに押し当たり、弾性変形することでガスのリークを防止する。そして更に下方への押圧力を生み、圧縮用シール6を変形させるための押圧力となる。
【0037】
上述と同様にして、カソード用セパレータ51cにも引っ張り用シール5が嵌め込まれる。図4を参照して説明したように、アノード用セパレータ51aに嵌め込まれた引っ張り用シール5と、カソード用セパレータ51cに嵌め込まれた引っ張り用シール5とが互い違いに配置され、シールSmの全周に渡って設けられる。引っ張り用シール5が互いに対向するように配置された場合と比較して、圧縮用シール6に働く押圧力のピークが低くなると共に、押圧力(締結力)のバラツキがより小さくなる。
【0038】
つまり、引っ張り用シール5が互いに対向するように配置された場合、引っ張り用シール5の引っ張り力による発生する締結力(圧力)は、圧縮用シール6を介して枠体Fの同一地点の上下に集中して働く。しかしながら、隣接する引っ張り用シール5との間には、直接締結力は発生しない。そのために、引っ張り用シール5が互いに対向する場所では過剰な締結力が働く一方、隣接する引っ張り用シール5の間では締結力が小さく、或いは不足する恐れがある。
【0039】
一方、本発明の実施の形態に係るように、引っ張り用シール5が互い違いに配置される場合には、引っ張り用シール5が対向する場合に比べて、引っ張り用シール5の直下の枠体Fに直接働く締結力は低いものの、引っ張り用シール5の間隔は半分である。これにより、引っ張り用シール5による締結力が過剰になるのを防止するともに、直接締結力が働く間隔が密(1/2)になるため、引っ張り用シール5の間では締結力の低下或いは不足を防止できる。
【0040】
図9に本発明の実施の形態に係るシール形状を示す。引っ張り用シール5と圧縮用シール6とが同一シール内に設けられていて、引っ張り用シール5の胴体部17と圧縮用シール6とが繋がってシールを形成し、引っ張り用シール5と圧縮用シール6を図9のように交互に配置している。図9のシールをセルモジュールに組み込んだ状態を図4に示す。
【0041】
引っ張り用シール5と圧縮用シール6の割合を50:50にすると引っ張り用シール5の反力と圧縮用シール6の反力が相殺される。つまりスタック全体の締結力を考えると従来必要だった、シールを圧縮変形させるための押圧力が必要無くなり、高分子電解質膜Mpeとカソード電極Ecとカソード用セパレータ51cとの接触電気抵抗および、高分子電解質膜Mpeとアノード電極Eaとアノード用セパレータ51aとの接触電気抵抗を低減するための荷重のみを考慮すれば良い。
【0042】
例を挙げると、圧縮用シール6の反力が2N/mm、シール全長が1m、接触電気抵抗を低減するための荷重を5000Nとした場合、従来構造で必要な締結力は、2000N(圧縮シール反力)+5000N(接触電気抵抗低減荷重)=7000Nとなる。これに対し、本発明に係る構造では、接触電気抵抗低減荷重5000Nのみ考慮すれば良く、従来比約30%の締結力低減が可能になる。
【0043】
更に引っ張り用シール5と圧縮用シール6の割合を引っ張り用シール5の方を大きくすると圧縮用シール6を変形させるための押圧力だけでなく、高分子電解質膜Mpeとカソード電極Ecとカソード用セパレータ51cとの接触電気抵抗および、高分子電解質膜Mpeとアノード電極Eaとアノード用セパレータ51aとの接触電気抵抗低減のための押圧力にも利用出来る。こうすることでスタックに搭載するバネの押圧力を下げることつまりスタック全体の締結力を更に下げることが可能になる。しかしながら引っ張り用シール5の割合をやみくもに増やすとセパレータ51aおよび51cに設ける引っ張り用シール5用の溝18の割合が増えセパレータ51aおよび51cの剛性が下がり折損する可能性が高くなるので、セパレータ51aおよび51cの物性値を考慮して引っ張り用シール5の割合の設計を行うことが必要である。
【0044】
そしてこれらのように締結力低減が可能になると、スタックを構成する端板、集電板などの剛性が下げられ、薄型化が可能になる。つまりスタックとして小型化、軽量化が可能になる。
【0045】
更に従来例では、セパレータ51、枠体F、ガスケット53が分離されている状態なので取り扱いが困難だったが、本発明では、セパレータ51aおよび51cと枠体Fがセルモジュール単位で締結されることになるので取り扱いが容易になり燃料電池の製造段階だけでなく整備保守段階における組立工数が削減できる。
【0046】
上述のように、本実施の形態において、シール材の引っ張りによって生じる変形、反力を利用する事でスタックの低締結力化、小型化及び軽量化が可能である。
【0047】
図10に、複数(本例においては、2個)のセルモジュールPEFC1を積層した状態を示す。19はセパレータ51aおよび51cに設けられた引っ張り用シール5の先端ストレート部15との干渉を避けるためのシール逃げ溝である。実際の燃料電池では、図10のように図1のセルモジュールが何層にも積層するが、アノード用セパレータ51a或いはカソード用セパレータ51cに引っ張り用シール5の先端ストレート部15の逃げが無いと引っ張り用シール5の先端ストレート部15とアノード用セパレータ51a或いはカソード用セパレータ51cが干渉する。そして、セルモジュールを正しい位置に積層させるには、引っ張り用シール5の先端ストレート部15を変形させるための押圧力が必要である。つまりスタック全体として締結力を増す必要があるが、それでは本発明の効果が低くなってしまう。そこでアノード用セパレータ51a及びカソード用セパレータ51cに引っ張り用シール5の先端ストレート部15用のシール逃げ溝19を設けることで締結力を増やすことを防ぐことが出来る。同時に、引っ張り用シール5の先端ストレート部15がアノード用セパレータ51a及びカソード用セパレータ51cに嵌まることでセルモジュール積層時の位置決めがし易くなることや、積層後のセルモジュールの位置ズレを防止する効果も期待でき、燃料電池の製造段階だけでなく整備保守段階における組立工数を削減できる。
【0048】
(実施の形態2)
図11、図12、及び図13を参照して本発明の実施の形態2に係る固体高分子電解質型燃料電池について説明する。本実施の形態においては、MEA枠体Fとセパレータ51a、51cを組み立てた状態でシールを形成する。
【0049】
図11に、MEA枠体とセパレータを組立後にシールを一体成型した固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールPEFC2の概要図を示す。図11は、MEA枠体とセパレータを組立後にシールを一体成型した固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールの平面図、図12は、MEA枠体とセパレータを組立後にシールを一体成型した固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールのXII−XII断面図、図13は、MEA枠体とセパレータを組立後にシールを一体成型した固体高分子電解質型燃料電池のセルモジュールのXIII−XIII断面図である。20は一体成型したシールである。
【0050】
上記実施の形態1では、MEA枠体Fに引っ張り用シール5を成型・固着させ、その後セパレータ51aおよび51cと積層することでシールの引っ張りによって生じる変形、反力を圧縮用シール6を変形させる押圧力に利用した。本実施の形態2においては、図11のようにシール20をMEA枠体F、セパレータ51aおよび51cを積層後に一体成型し、シール20をMEA枠体Fと固着させる。そしてシール20の成型後の冷却時に生じる収縮力を圧縮用シール6を変形させる押圧力に利用することにより、スタック全体の締結力を低減する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ポータブル電源、電気自動車用電源、及び家庭内コージェネレーションシステム等の電源として使用する固体高分子電解質型燃料電池に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
PEFC 固体高分子電解質型燃料電池
PEFC1、PEFC2、100 セルモジュール
Mpe 高分子電解質膜
Ea アノード電極
Ec カソード電極
F MEA枠体
Sm シール
5 引っ張り用シール
6 圧縮用シール
51a アノード用セパレータ
Pg 燃料ガス用流路
51c カソード用セパレータ
Po 酸化剤ガス用流路
Pw 冷却水流路
12 カソードマニホールド
13 冷却水マニホールド
14 アノードマニホールド
15 引っ張り用シール先端ストレート部
16 引っ張り用シールカサ部
17 引っ張り用シール胴体部
18 引っ張り用シール用溝
19 シール逃げ溝
20 MEA枠体とセパレータと一体成型したシール
51 セパレータ
53 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜の両面にそれぞれ配置されガス拡散層および触媒層からなる電極の一対とからなる高分子電解質膜電極接合体と、当該電極に燃料、酸化剤及び冷却流体を供給するための流路とを有するセパレータとが複数積層され、前記セパレータに前記燃料、前記酸化剤及び前記冷却流体を供給するためのマニホールドとを具備するセルモジュールが積層されてなる固体高分子電解質型燃料電池であって、
圧縮用シールと引っ張り用シールとが前記セパレータの同一シール内に設けられ、前記同一シールのうち前記引っ張り用シールが設けられる溝は、内径の異なる2段の溝部で形成され、前記引っ張り用シールのカサ部が前記2段の溝部に引っかかり、前記引っ張り用シールの引っ張りによる反力がスタックの締結力として作用することを特徴とした固体高分子電解質型燃料電池。
【請求項2】
前記引っ張り用シールは、前記高分子電解質膜電極接合体を保持する枠体に一体成型されたことを特徴とする、請求項1に記載の固体高分子電解質型燃料電池。
【請求項3】
引っ張り用シールの枠体とは反対側の先端は、前記セルモジュールの位置決めに用いられることを特徴とする、請求項2に記載の固体高分子電解質型燃料電池。
【請求項4】
前記セパレータは、前記引っ張り用シールと同時に前記枠体と一体成型され、スタックの締結力として作用することを特徴とする、請求項2に記載の固体高分子電解質型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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