説明

固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極及びその製造方法

【課題】アノードにおける反応で発生した酸素によって白金触媒が酸化されて触媒能が低下することを抑制し、それにより固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命を延ばすこと。
【解決手段】固体高分子電解質膜の両面に、白金イオンの還元により析出した白金触媒を含む触媒層が形成され、且つアノードとなる触媒層の表面に、海綿状に白金触媒が担持され、その海綿状に担持された白金触媒の内部空洞又は結晶粒界に水素が吸蔵された固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極とする。吸蔵された水素は、酸素ラジカルと反応して水となり、その水は、白金触媒及び固体高分子電解質膜内に貯蔵されるため、白金触媒の酸化を抑制できると同時に固体高分子電解質膜の乾燥による劣化も抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の電気分解装置、燃料電池、湿度調整素子等に用いられる固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、水の電気分解装置、燃料電池、湿度調整素子等の分野で用いられている。固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、通常、固体高分子電解質膜と、その両面に形成された触媒層とから構成される。
このような固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、例えば、該電極母体中の固体高分子電解質に白金族金属化合物イオンを吸着させ、該白金族化合物イオンを還元して白金族金属を固体高分子電解質に析出させたり、または該電極母体中の固体高分子電解質に白金族金属化合物イオンを吸着させ、該白金族化合物イオンを還元して白金族金属を固体高分子電解質に析出させ、該白金金属の析出した電極母材を白金族金属塩とヒドラジン化合物の混合めっき浴で処理して白金族金属層を電極母材に形成することにより製造される(特許文献1を参照)。特許文献1には、白金族金属化合物イオンを水素化ホウ素塩水溶液で還元処理することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−217687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このように構成された固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極において、水が存在する状態で両電極間に直流電圧を印加して連続運転を行うと、固体高分子電解質膜の内部に蓄えられたプロトンが膜内部を移動し、触媒作用によりアノードの表面では酸素が生成されるとともに、カソード電極の表面では水素が生成される。
しかしながら、上記した従来の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極では、生成した酸素や水素によって、触媒層に含まれる触媒金属が酸化あるいは還元されて電極の寿命が短くなるという問題があり、特に、アノードでは、酸化力の強い酸素ラジカルが触媒金属を酸化して触媒能を著しく低下させるという問題があった。
従って、本発明は、アノードにおける反応で生成した酸素により触媒金属が酸化されて触媒能が低下することを抑制し、それにより固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命を延ばすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するためには、白金触媒より酸化されやすく酸素ラジカルと反応しても水を生成するだけである水素を触媒層の表面近傍に保持させることが効果的であるのではないかと考えた。しかし、水素は気体であり且つ分子量が小さいため、触媒層の表面近傍に常時存在させておくことは困難であると思われた。そこで、本発明者らは、水素を触媒層の表面近傍に保持させる手段について鋭意検討した結果、白金触媒の析出形態を内部に微小な空洞を有する海綿状とし、その空洞中又は結晶粒界に水素を吸蔵させることで、触媒層の表面近傍に水素を保持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、固体高分子電解質膜の両面に、白金イオンの還元により析出した白金触媒を含む触媒層が形成され、且つアノードとなる触媒層の表面に、海綿状に白金触媒が担持され、その海綿状に担持された白金触媒の内部空洞又は結晶粒界に水素が吸蔵されていることを特徴とするものである。
【0007】
本発明に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法は、固体高分子電解質膜を白金イオンを含む水溶液に浸漬して固体高分子電解質膜に白金イオンを吸着させた後、還元処理することにより固体高分子電解質膜の両面に白金触媒を析出させて触媒層を形成し、次いで電解めっき法を用いて、アノードとなる触媒層の表面に白金触媒を海綿状に析出させると共にその海綿状に析出した白金触媒の内部空洞又は結晶粒界に水素を吸蔵させることを特徴とするものである。このように、電解めっき法を利用することで、水溶液から白金イオンが還元析出する過程において水の電気分解も同時に進行して水素ガスが発生し、めっき反応中に表面で形成された白金膜とその中に形成された空洞中や白金の結晶粒界に、脱離しきれなかった水素が取り込まれ、その結果、白金めっき膜中に水素が吸蔵されることとなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アノードにおける反応で生成した酸素ラジカルを白金触媒ではなく、海綿状に析出した白金触媒中に吸蔵された水素と酸化反応させて水とすることで、白金触媒の酸化による触媒能の低下を抑制し、それにより固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命を延ばすことができる。また、白金触媒が海綿状に析出しているため、触媒の表面積が増大し、触媒能力も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の模式断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を製造する際のパルス電流の波形を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1〜3の変形例に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の模式断面図である。図1において、本発明の実施の形態1係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、固体高分子電解質膜1と、固体高分子電解質膜1の両面に形成された白金触媒2からなる触媒層と、一方の触媒層の表面に海綿状に析出した白金触媒3と、海綿状に析出した白金触媒3の内部空洞4又は結晶粒界に吸蔵された水素とから構成されている。
【0011】
実施の形態1係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命が延びる作用機構について簡単に説明する。一例として、固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を湿度調整素子として大気中で利用した場合について説明する。なお、実施の形態1では、白金触媒3が海綿状に担持された触媒層をアノード(正極)とし、他方の触媒層をカソード(負極)とする。
【0012】
通常、固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極において、アノードとなる触媒層とカソードとなる触媒層との間に直流電圧を印加すると、以下の反応式で表されるように、アノード側(正極側)では、水が水素イオンと酸素とに分解され、この水素イオンは固体高分子電解質膜1を介してアノード側からカソード側に移動する。一方、カソード側(負極側)では、固体高分子電解質膜1を介してアノード側から移動してきた水素イオンと大気中の酸素とが反応し、水が生成する。
アノード反応:H2O→2H++1/2O2+2e-
カソード反応:2H+→1/2O2+2e-+H2
更に、アノード反応時には、水が白金2の表面で水素イオンと酸素ラジカルとに分解され、この酸素ラジカルが白金2と反応して白金酸化物を形成することがある。これらの反応は、以下の反応式で表される。
2O→2H++O・+2e-
O・+Pt→PtO
触媒層に含まれる白金触媒2が酸化されて失活すると、アノード反応は進まなくなる。即ち、湿度調整素子の寿命は、酸化される白金触媒の触媒層表面における濃度に左右されることとなる。
【0013】
しかし、実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極のように、海綿状に析出した白金触媒3の内部空洞4又は結晶粒界に白金触媒より酸化されやすい水素を吸蔵させておくことで、酸素ラジカルが白金触媒よりも水素と優先的に反応し、白金触媒の酸化が抑制される。酸素ラジカルと水素との反応により生成する水は、内部空洞4及び固体高分子電解質膜1内に貯蔵されるため、固体高分子電解質膜1の乾燥による劣化も抑制される。また、海綿状に析出した白金触媒3により触媒の表面積が増大し、その結果、触媒能力も増大するという効果も得られる。白金触媒の失活を抑制する方法として、酸化で消失されるよりも多くの白金触媒を触媒層に含有させることも考えられるが、白金触媒の量が増加することで、固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の価格が高騰するという理由で経済的に実施することは困難である。
【0014】
次に、実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法について説明する。実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法は、固体高分子電解質膜1に白金イオンを吸着させる工程と、白金イオンを還元処理する工程と、電解めっきを用いて、アノードとなる触媒層の表面に白金触媒を海綿状に析出させると共に海綿状に析出した白金触媒の内部空洞4又は結晶粒界に水素を吸蔵させる工程とを備えることを特徴とする。以下、各工程について詳細に説明する。
【0015】
実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法では、まず、固体高分子電解質膜1を白金イオンを含む水溶液に浸漬することにより、固体高分子電解質膜1に白金イオンを吸着させる。吸着条件は、通常、白金イオンを含む水溶液の温度として15℃〜40℃であり、浸漬時間として10分〜60分である。
【0016】
固体高分子電解質膜1としては、表面から内部にかけてプロトンを保持・透過させることのできる微細経路を有するナフィオン(登録商標)等のプロトン交換基含有フッ素系ポリマーが挙げられる。このナフィオン(登録商標)は、希硫酸水溶液と同様の電解質としての振る舞いをする。固体高分子電解質膜1の微細経路には空気中の有機物や無機物が吸着しやすいので、固体高分子電解質膜1の表面にのみ白金触媒2を吸着させるには、固体高分子電解質膜1の表面及び微細経路内を清浄にしておくことが好ましい。そのため、吸着工程に先立ち、必要に応じて、固体高分子電解質膜1を清浄化処理してもよい。清浄化処理方法としては、固体高分子電解質膜1を60℃〜80℃の希塩酸で5分〜20分煮沸すればよい。固体高分子電解質膜1をより清浄にするには、希塩酸の代わりに塩酸と過酸化水素水との混合液(好ましくは塩酸と過酸化水素水とが等量の混合液)を用いることが好ましい。清浄化処理後、固体高分子電解質膜1中に残留する塩素イオンを完全に除去するため水洗する。水洗条件は、25℃程度の純水若しくはイオン交換水に15分以上とすればよい。
【0017】
白金イオンを含む水溶液としては、テトラアンミン白金塩ジクロライドを水に溶解させたもの、四塩化白金をアンモニア水溶液に溶解させたもの等が挙げられる。水溶液中の白金イオン濃度は、1.5×10-4mol/L〜2×10-3mol/Lであることが望ましい。白金イオン濃度が上記範囲外であると、白金イオンが吸着しにくくなったり、吸着した白金イオンが脱離する場合がある。
【0018】
次に、吸着工程を経た固体高分子電解質膜1を還元剤を含む水溶液に浸漬することにより、固体高分子電解質膜1の両面に白金触媒2を析出させて触媒層を形成する。還元条件は、通常、還元剤を含む水溶液のpHとして11.5〜12.5であり、還元剤を含む水溶液の温度として40℃〜60℃であり、浸漬時間として1時間〜4時間である。白金触媒2の析出量は、0.5mg/cm2〜4.5mg/cm2であることが望ましい。還元剤は、液中から固体高分子電解質膜1の表面へ供給されるため、還元反応が進行して固体高分子電解質膜1の表面が白金触媒2で覆われると、白金イオンへの還元剤の供給も停止し、その結果担持反応は停止する。なお、白金触媒2の析出量は、吸着工程で使用する白金イオン濃度、吸着工程における温度及び浸漬時間、還元工程で使用する還元剤の濃度、還元工程における温度、浸漬時間等を変えることにより、任意に制御することが可能である。
還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、ジメチルアミンボラン等が挙げられる。還元剤の濃度は、2×10-2mol/L〜1×10-1mol/Lであることが望ましい。還元剤の濃度が上記範囲外であると、白金触媒が未着となったり、付着した白金触媒が剥離する場合がある。
【0019】
還元されずに残った白金イオンを除去して白金触媒の安定化を図るために、必要に応じて、還元工程を経た固体高分子電解質膜1を清浄化処理してもよい。清浄化処理は、吸着工程に先立って行う固体高分子電解質膜1の清浄化処理と同様の方法で行うことができる。
【0020】
続いて、白金触媒を海綿状に析出させると共にその内部空洞4又は結晶粒界に水素を吸蔵させる工程について説明する。この目的達成のためには、電解めっき法を利用するのが容易かつ安価である。一般に、電解めっき法は、金属イオンの溶解している水溶液に、被めっき物とアノード電極とを浸漬し、被めっき物にマイナス電位を与え、アノード電極にプラス電位を与え、被めっき物の表面で水溶液中に水和イオンとして存在しているイオンに電子を供給しこれを還元し、金属イオンを析出させる技術である。また、この時の析出速度は、被めっき物表面に供給される金属イオンの量と、通電している電流密度とによって決まる。被めっき物表面に供給されるイオン量が、通電している電流密度から決定された金属イオンの電気化学当量よりも大きい時は、被めっき物表面に金属が析出し、この時の金属の析出形態は平滑で緻密なものとなる。ところが、被めっき物表面に供給される金属イオン量が、電流密度から決定された金属イオンの電気化学当量より小さくなると、金属イオンの被めっき物表面への析出が追いつかなくなるため、余剰となった電子は水溶液を電解し、水素ガスを発生させる。また析出した金属の析出形態は、樹枝状や内部に空洞を有した海綿状になる。この原理を利用して、例えば、めっき液中に含まれている金属イオンの濃度、電流密度等を適切に制御することで、被めっき物表面に金属だけを析出させたり、金属中に水素を吸蔵させたりできる。特に、白金等の貴金属類は、標準酸化還元電位が+1.320V(NHE)と貴であるため、金属イオンの析出電位と水の電気分解による水素発生の電位が近接している。そのため、この性質を利用して、白金触媒の析出形態を海綿状とし、この時に形成された微小な内部空洞や白金の結晶粒界に水素を吸蔵させることが容易である。白金の析出形態(空洞の形状等)及び水素の吸蔵量は、電流密度、めっき液の組成や温度、めっき時間(通電時間)、攪拌条件などを変化させることで制御することができる。また、これらの条件を変化させることで、白金触媒の表面積を容易に増大させることができ、触媒能力を向上させることができる。
【0021】
次に、直流電流を利用した電解めっき法の好ましい条件について説明する。電解めっきに使用するめっき液としては、5.0g/L〜15.0g/Lの(NH42PtCl及び80g/L〜140g/LのNa2HPO4・12H2Oからなる水溶液が挙げられる。めっき用のアノードとしては、TiクラッドPt/Irメッシュ電極、グラッシーカーボン等を用いることができる。めっき液の温度は35℃〜80℃の範囲であり、電流密度は0.4A/dm2〜3.0A/dm2の範囲であり、通電時間は1分〜20分の範囲である。海綿状に析出した白金触媒3の担持量は、特に限定されないが、好ましくは触媒層1cm2あたり0.5mg〜4.5mgの範囲である。
【0022】
電解めっき終了後、固体高分子電解質膜1を100℃程度に保持した真空電気炉中で60分間程度乾燥させ、海綿状に析出した白金触媒3を触媒層の表面に担持(固着)させる。
【0023】
実施の形態1によれば、アノードにおける反応で生成した酸素ラジカルを白金触媒ではなく、海綿状に析出した白金触媒中に吸蔵された水素と酸化反応させて水とすることで、白金触媒の酸化による触媒能の低下を抑制し、それにより固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命を延ばすことができる。
【0024】
実施の形態2.
実施の形態2に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、海綿状に析出した白金触媒3が、パルスめっき法を用いて形成されていること以外は実施の形態1と同じである。実施の形態2に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法は、固体高分子電解質膜1の両面に触媒層を形成するまでの工程は実施の形態1と同じであるのでその説明は省略する。
【0025】
間欠的に通電を行うパルスめっき法は、図2に示すような電流のON及びOFFを繰り返してめっきする手法であり、高電流密度で矩形パルス電流を瞬間的に通電(TON)してめっきを行い、その後休止する(TOFF)というプロセスで進む。図2において、縦軸は電流密度(A/dm2)を表し、横軸は通電時間(秒)を表している。このようなパルスめっき法は、直流電流を利用した電解めっき法と比較して、結晶粒が細かくかつ強固な白金めっき膜を形成できる上に、めっき時の水素発生量が増加するため、空洞や白金の結晶粒界により多くの水素を吸蔵させることができるといった特長がある。特に、パルス電流の通電時に電流密度を金属イオンの供給限界速度の10倍程度に設定しておけば、水素発生量の増大により空洞や白金の結晶粒界に水素を大量に吸蔵させることができ、また、白金膜の表面凹凸が増大して表面積を増大させることができるため、その結果、固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命をさらに延ばすことができるだけでなく、白金触媒の触媒活性も向上させることができる。白金の析出形態(空洞の形状等)及び水素の吸蔵量は、電流密度、パルス電流の通電時間や通電間隔、めっき液の組成や温度、めっき時間(通電時間)、攪拌条件などを変化させることで制御することができる。また、これらの条件を変化させることで、白金触媒の表面積を容易に増大させることができ、触媒能力を向上させることができる。
【0026】
次に、パルスめっき法の好ましい条件について説明する。電解めっきに使用するめっき液としては、実施の形態1と同様に、5.0g/L〜15.0g/Lの(NH42PtCl及び80g/L〜140g/LのNa2HPO4・12H2Oからなる水溶液が挙げられる。めっき用のアノードとしては、TiクラッドPt/Irメッシュ電極、グラッシーカーボン等を用いることができる。めっき液の温度は35℃〜80℃の範囲であり、瞬間最大電流密度は10A/dm2〜50A/dm2の範囲であり、パルス電流の通電時間(TON)は0.01秒〜0.1秒の範囲であり、通電間隔(TOFF)は0.09秒〜0.9秒の範囲であり、トータルの通電時間は1分〜20分の範囲である。海綿状に析出した白金触媒3の担持量は、特に限定されないが、好ましくは触媒層1cm2あたり0.5mg〜2.0mgの範囲である。
【0027】
パルスめっき終了後、固体高分子電解質膜1を100℃程度に保持した真空電気炉中で60分間程度乾燥させ、海綿状に析出した白金触媒3を触媒層の表面に担持(固着)させる。
【0028】
実施の形態2によれば、海綿状に析出した白金触媒の内部空洞4や結晶粒界に水素を大量に吸蔵させることができ、それにより固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命をさらに延ばすことができるだけでなく、白金触媒の表面積増大により白金触媒の触媒活性も向上させることができる。
【0029】
実施の形態3.
実施の形態3に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、海綿状に析出した白金触媒を形成した後に水素還元処理を施すこと以外は実施の形態1及び2と同じである。実施の形態3に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法は、海綿状に析出した白金触媒を形成するまでの工程は実施の形態1及び2と同じであるのでその説明は省略する。
【0030】
海綿状に析出した白金触媒が形成された固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を還元性雰囲気中で加熱処理することにより、海綿状に析出した白金触媒3の内部空洞4への水素吸蔵量を増加させることができる。
次に、水素還元処理の好ましい条件について説明する。還元性ガスとしては、2.0wt%〜20wt%の水素及び80wt%〜98wt%の窒素からなるものを使用することができ、加熱温度は100℃〜200℃の範囲であり、加熱時間は5〜90分の範囲である。
【0031】
実施の形態3によれば、海綿状に析出した白金触媒の内部空洞4や結晶粒界に水素をより多く吸蔵させることができ、それにより固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命をさらに延ばすことができる。
【0032】
なお、実施の形態1〜3では、アノードとなる触媒層の表面に、白金触媒を海綿状に析出させた場合について説明したが、図3に示すように、アノードとなる触媒層の表面に加えてカソードとなる触媒層の表面に海綿状に析出した白金触媒3を析出させても、図1に示したものと同様の効果を奏することを本発明者らは確認している。また、実施の形態1では、白金触媒のみを析出した場合について説明したが、海綿状に析出した白金触媒3中にIr、Rh、Ru、Pd等の助触媒を微量添加しても、助触媒効果は妨げられることなく、本発明の効果を奏することは言うまでもない。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
固体高分子電解質膜としてのナフィオン(登録商標)117(大きさ15mm×11mm、厚さ170μm、デュポン製)を70℃の30%希塩酸に浸漬し、20分程度煮沸した。続いて、固体高分子電解質膜をイオン交換水に15分以上浸漬して塩素イオンを除去した。清浄化された固体高分子電解質膜をテトラアンミン白金ジクロライド水溶液(テトラアンミン白金ジクロライド濃度は7.49×10-4mol/L(0.25g/L)である)に40℃で10分間浸漬し、膜表面に白金イオンを吸着させた。次に、固体高分子電解質膜を水素化ホウ素ナトリウム水溶液(水素化ホウ素ナトリウム濃度は5.29×10-2mol/L(2.0g/L)であり、水酸化ナトリウムでpHを12に調整したもの)に50℃で2時間浸漬し、膜表面に吸着させた白金イオンを還元して白金を析出させた。次に、固体高分子電解質膜を70℃の30%希塩酸に浸漬し、10分程度煮沸して、余分な白金イオンを除去した。続いて、固体高分子電解質膜をイオン交換水に15分以上浸漬して塩素を除去した。このようにして作製した固体高分子電解質膜の両面には、約1.1mg/cm2の白金触媒層(厚さ約0.51μm)がそれぞれ形成されていた。
【0034】
次に、めっき液として、8.5g/Lの(NH42PtCl及び120g/LのNa2HPO4・12H2Oを含む水溶液を作製した。このめっき液を5Lのめっき槽に移し、循環ポンプを接続して常時連続ろ過しながら、直流電流を利用しためっきを行った。めっき用のアノードとしては、TiクラッドPt/Irメッシュ電極を用いた。めっきの条件は、めっき液温度を40℃とし、電流密度を0.4A/dm2とし、通電時間を2分、5分、10分及び20分と変えた。その結果、アノードとなる白金触媒層の表面にだけ海綿状に白金触媒が析出していた。次に、その固体高分子電解質膜を100℃の真空電気炉で60分乾燥させ、アノードとなる白金触媒層の表面に白金触媒が海綿状に析出した固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を得た。通電時間2分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極には、触媒層1cm2あたり約0.388mgの海綿状に析出した白金触媒が担持されており、通電時間5分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極には、触媒層1cm2あたり約0.970mgの海綿状に析出した白金触媒が担持されており、通電時間10分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極には、触媒層1cm2あたり約1.94mgの海綿状に析出した白金触媒が担持されており、通電時間20分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極には、触媒層1cm2あたり約3.88mgの海綿状に析出した白金触媒が担持されていた。この時の電流効率はおよそ40%であった。
【0035】
得られた実施例1の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極それぞれを、電極の面積16.5cm2の湿度調整素子として組み立てた。海綿状に析出した白金触媒を担持した白金触媒層をアノード、他方の白金触媒層をカソードとし、これら触媒層間に直流電圧を印加することにより素子特性を評価した。電流0.5A及び電流密度3A/dm2の条件で運転したところ、いずれの湿度調整素子でも、初期には1時間あたりの除放湿水分量174mgという結果が得られた。この条件で3500時間の連続運転を実施したところ、通電時間2分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を用いた湿度調整素子の除湿性能は初期の50%を維持することができ、通電時間5分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を用いた湿度調整素子の除湿性能は初期の57.5%を維持することができ、通電時間10分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を用いた湿度調整素子の除湿性能は初期の71%を維持することができ、通電時間20分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を用いた湿度調整素子の除湿性能は初期の95%を維持することができた。一方、実施例1で示した製造方法から、海綿状に析出した白金触媒の担持プロセスだけを省略した従来例の場合、除湿性能は初期の45%まで低下した。これらの結果より、実施例1のめっき条件では、通電時間を20分以上とすることが好ましいことが分かった。
【0036】
[実施例2]
実施例1と同様に、白金触媒層が両面に形成された固体高分子電解質膜を作製した。
次に、めっき液として、8.5g/Lの(NH42PtCl及び120g/LのNa2HPO4・12H2Oを含む水溶液を作製した。このめっき液を5Lのめっき槽に移し、循環ポンプを接続して常時連続ろ過しながら、パルス電流を利用しためっきを行った。めっき用のアノードとしては、TiクラッドPt/Irメッシュ電極を用いた。めっきの条件は、めっき液温度を40℃とし、ON時間を15msとし、OFF時間を135msとし、ON時における最大電流密度は40A/dm2とし、トータルの通電時間を2分、5分、10分及び20分と変えた。その結果、アノードとなる白金触媒層の表面にだけ海綿状に白金触媒が析出していた。次に、その固体高分子電解質膜を100℃の真空電気炉で60分乾燥させ、アノードとなる白金触媒層の表面に白金触媒が海綿状に析出した固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を得た。トータルの通電時間2分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極には、触媒層1cm2あたり約0.175mgの海綿状に析出した白金触媒が担持されており、トータルの通電時間5分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極には、触媒層1cm2あたり約0.436mgの海綿状に析出した白金触媒が担持されており、トータルの通電時間10分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極には、触媒層1cm2あたり約0.873mgの海綿状に析出した白金触媒が担持されており、トータルの通電時間20分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極には、触媒層1cm2あたり約1.75mgの海綿状に析出した白金触媒が担持されていた。この時の電流効率はおよそ18%であった。
【0037】
得られた実施例2の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極それぞれを、電極の面積16.5cm2の湿度調整素子として組み立てた。海綿状に析出した白金触媒を担持した白金触媒層をアノード、他方の白金触媒層をカソードとし、これら触媒層間に直流電圧を印加することにより素子特性を評価した。電流0.5A及び電流密度3A/dm2の条件で運転したところ、いずれの湿度調整素子でも、初期には1時間あたりの除放湿水分量176mgという結果が得られた。この条件で3500時間の連続運転を実施したところ、通電時間2分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を用いた湿度調整素子の除湿性能は初期の55%を維持することができ、通電時間5分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を用いた湿度調整素子の除湿性能は初期の70%を維持することができ、通電時間10分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を用いた湿度調整素子の除湿性能は初期の95%を維持することができ、通電時間20分で得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を用いた湿度調整素子の除湿性能は初期の95%を維持することができた。一方、実施例1で示した製造方法から、海綿状に析出した白金触媒の担持プロセスだけを省略した従来例の場合、除湿性能は初期の45%まで低下した。
実施例2のめっき条件では、トータルの通電時間が10分以上であると、除湿性能にほとんど変化が見られないことから、通電時間は10分〜20分とすれば十分であることが分かった。
【0038】
[実施例3]
実施例2においてトータルの通電時間を10分にした時に得られた固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を、水素及び窒素(水素15wt%、窒素85wt%)からなる還元性ガスを流動させた高温炉に導入し、150℃で1時間還元処理を実施した。
得られた実施例3の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を、電極の面積16.5cm2の湿度調整素子として組み立てた。海綿状に析出した白金触媒を担持した白金触媒層をアノード、他方の白金触媒層をカソードとし、これら触媒層間に直流電圧を印加することにより素子特性を評価した。電流0.5A及び電流密度3A/dm2の条件で運転したところ、初期には1時間あたりの除放湿水分量204mgという結果が得られた。この条件で3500時間の連続運転を実施したところ、実施例3の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を用いた湿度調整素子の除湿性能は初期の97%を維持することができた。
【符号の説明】
【0039】
1 固体高分子電解質膜、2 白金触媒、3 海綿状に析出した白金触媒、4 海綿状に析出した白金触媒の内部空洞。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の両面に、白金イオンの還元により析出した白金触媒を含む触媒層が形成され、且つアノードとなる触媒層の表面に、海綿状に白金触媒が担持され、その海綿状に担持された白金触媒の内部空洞又は結晶粒界に水素が吸蔵されていることを特徴とする固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極。
【請求項2】
固体高分子電解質膜を白金イオンを含む水溶液に浸漬して固体高分子電解質膜に白金イオンを吸着させた後、還元処理することにより固体高分子電解質膜の両面に白金触媒を析出させて触媒層を形成し、次いで電解めっき法を用いて、アノードとなる触媒層の表面に白金触媒を海綿状に析出させると共にその海綿状に析出した白金触媒の内部空洞又は結晶粒界に水素を吸蔵させることを特徴とする固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法。
【請求項3】
前記電解めっき法が、パルスめっき法であることを特徴とする請求項2に記載の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法。
【請求項4】
前記電解めっき後に、水素還元処理を行うことを特徴とする請求項2又は3に記載の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−222438(P2011−222438A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93023(P2010−93023)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】