説明

固体(好ましくは結晶)の入手及び分析法

本発明は次の工程(i)〜(vi)を含む固体(好ましくは結晶)の入手及び分析法に関する:(i)深みと開放上部端を有する複数のウェルを具備するウェルプレートであって、各々のウェルが細孔を有するフィルターを具有し、該フィルターが該開放上部端から間隔をおいて配設され、各々のウェルが、フィルターの上方に液体との接触表面を有する上部内壁部を具有し、各々のフィルターが上部フィルター表面を有し、少なくともウェルの液体との接触表面と上部フィルター表面の両方が、有機溶剤及び/又は水性溶剤及び/又は有機溶剤と水性溶剤との混合物に対して少なくとも実質的に不活性な材料から調製された表面である該ウェルプレートを準備し、(ii)ウェルプレートの少なくとも1つウェルの内部へ1種又は複数種の物質及び1種又は複数種の溶剤を供給し、(iii)1種又は複数種の該物質が1種又は複数種の該溶剤中に溶解するような条件を設定し、(iv)該物質の少なくとも一部が結晶化して少なくとも1つのウェルの内部に固体が形成されるような条件を設定し、(v)溶液中に残存する該物質を実質的に除去することによって、ウェルプレートのウェルの内部の該物質から形成された固体(好ましくは結晶)をウェル内に残存させ、次いで、(vi)固体(好ましくは結晶)が形成されたウェルプレートのウェルの内部において該固体の分析をおこなう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体(好ましくは結晶)を入手して分析する方法に関する。本発明によるこの方法は、固体又は固体と液体との混合物の取扱が必要な研究(例えば、結晶に関連する研究等)において使用するために特に適している。
【背景技術】
【0002】
結晶化のためにウェルプレート(well plate)を使用する方法は従来から知られている。この種のウェルプレートは、複数の窪み(recess)(例えば、プレートあたり64個又は96個の窪み)を具有する。各々の窪みには、一般的には、1種又は複数種の溶剤から結晶化されるべき成分の混合物状態の物質が供給される。このような物質を窪み内へ供給した後、ウェルプレートを定温器内へ収容し、該定温器内において結晶化がおこなわれる。結晶化後、ウェルプレートを定温器から取り出される。得られた結晶は、ウェルプレートから取り出した後、さらなる研究(例えば、X線回折による研究)に供するために別のウェルプレート内へ移される。
【0003】
この既知の方法の欠点は、得られた結晶をウェルプレートから取り出して別のウェルプレートへ移さなければならないことである。通常、結晶は非常に壊れやすいために、破損が回避されなければならない結晶の取扱は困難であり、該結晶の取扱には多大な労力を伴う。また、場合によっては、非常に少量の結晶しか形成されない最初のウェルプレートから該結晶を採取することは困難である。
【0004】
特許文献1には、結晶化がおこなわれたウェルプレー内の結晶を、さらなる研究のために適合した別のウェルプレー内へ移し替える操作を必ずしも必要としないウェルプレートが開示されている。この既知のウェルプレートは平坦な基板を具有しており、該基板上には、複数の穿孔を有するマスキングプレートが載置される。この基板とマスキングプレートは相互に液密状に連結可能である。マスキングプレートは金属製であるのに対して、基板は光学的に透明なシリコン、石英又はサファイアを材質とするか(その後の研究において反射型X線回折法が使用される場合)、あるいはポリアセテートのポリマー薄膜から形成される(その後の研究において透過型X線回折法が使用される場合)。
【0005】
この既知のウェルプレートにおいては、結晶化条件は、基板とマスキングプレートが相互に液密状態で連結されている間に適用される。その後、マスキングプレートは除去されるので、平坦な基板上には、固体(好ましくは結晶)の複数個の小堆積物が残存する。この固体はその後の研究(例えば、X線回折等)に供される。
【0006】
この既知のウェルプレートの欠点は、結晶化時間の経過後に得られる固体と液体との混合物の濾過処理をおこなうことができないという点にある。結晶化後に残存する母液は固体から分離されなければならず、及び/又は結晶化後に残存する溶剤は蒸発されなければならない。さらに、隣接する固体堆積物の混合又はその他の個々の試料間の相互汚染を回避するためには、基板の取扱には細心の注意が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6507636号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、固体(好ましくは結晶)を入手して分析するための改良された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、請求項1記載の方法によって解決された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の好ましい実施態様を示装置の模式的側面図(部分的断面図を含む)である。
【図2】可能なウェルの形態と栓の形態を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の可能な実施態様におけるウェルの部分的な拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
請求項1記載の方法において使用されるウェルプレートは、結晶化処理、及び研究環境下で結晶に関連して一般的におこなわれる広範囲の一連の後続処理において使用するために適合している。
【0012】
生成した固体は、該固体が形成されたウェル内に残存するので、異なるウェル内で生成した固体が混合すること、又は1つのウェル内で生成した試料が別のウェル内で生成した固体によって汚染されることは容易に回避される。
【0013】
本発明による方法においては、後続の研究を、結晶化直後におこなう必要はない。固体の生成後、封止が必要な場合には、ウェルプレートを外部環境から封止した後、該固体を保存することができる。
【0014】
結晶化過程又は生成した固体の後続の処理過程においては、しばしば強い化学薬品が使用される。従って、ウェル表面の液体接触表面及び上部フィルター表面の液体接触表面は、結晶化と後続の研究がおこなわれる温度において、有機溶剤及び水性溶剤又はこれらの混合物に対して少なくとも実質的に不活性にする。液体接触表面は、使用時に、ウェル内へ供給される物質と接触するか、又は接触しやすいウェルの内壁の一部である。
【0015】
例えば、ペルフルオロ化ポリマーは液体接触表面及び上部フィルター表面に適した材料である。液体接触表面及び/又は上部フィルター表面用の適当な材料としては、次のものが例示される:ポリビニリデンフルオリド、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシ、フッ素化エチレンプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン−ペルフルオロメチルビニルエーテル、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンビニリデンフルオリド、エチレンテトラフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン及びポリエーテルイミド。
【0016】
さらに、請求項1記載の方法において使用されるウェルプレートは低コストで製造することができるので、該ウェルプレートは、使用後は廃棄することができる。従って、強い化学薬品によるある程度の損傷は許容される。
【0017】
結晶過程においては、ウェルプレートとその内容物は、高温を含む温度変化を受けることがしばしば要求される。従って、ウェル内部の物質への十分な熱伝達が要求される。一般に、ポリマーは良好な伝熱体ではない。しかしながら、好ましくは、本発明によるウェルプレートは、ウェルプレート内の隣接するウェル間に存在する中間プレートセクションの下部面から突出するウェルを有する。中間プレートセクションの下部面から突出するウェルの外壁の一部は熱を供給するために使用されるので、ウェルの内部へ達する熱伝達路は非常に短くなる。
【0018】
X線回折法や分光分析法等の技法は、固体の研究、例えば、非晶質固体と結晶性多形体とを識別するために幅広く利用されている。従って、好ましい実施態様においては、本発明による方法において使用されるウェルプレートは、好ましくはX線を透過する材料、例えば、「ウルテム(Ultem)」(ジェネラルエレクトリック社製のポリエーテルイミド)から製造される。X線透過性材料から製造する代わりに、ウェルプレートは、X線を幾分吸収する材料から製造することもできるが、常に測定シグナルの選別を可能にする明確で認識可能な吸収パターンをもたらすような材料でなければならない。この種の材料としては、PVDF及びPFA等が例示される。
【0019】
X線透過性材料から製造するか、又はX線を幾分透過させる材料から製造して明確で識別可能な吸収パターンを常にもたらすようにする代わりに、少なくとも液体接触表面及びウェルの上部フィルター表面をいずれかのこの種の材料で被覆することも可能である。また、結晶化過程において使用される有機溶剤及び/又は水性溶剤又はこれらの混合物に対して化学的に耐性を示すと共にX線を透過する上部フィルター表面を有するウェルプレートが使用されるが、ウェルの壁部が化学的な耐性を示すがX線を透過させないようなウェルプレートを使用することもできる。
【0020】
従って、本発明方法において使用されるウェルプレートは強い化学薬品に対する耐性と伝熱性を示すと共に、好ましくは、X線を透過させる。この要件は、例えば、ウェルプレートを1種又は複数種のペルフルオロ化ポリマーからウェルプレートを製造するか、又は、少なくともウェルの上部フィルター表面と液体接触表面をこの種の1種又は複数種のポリマーで被覆することによって達成することができる。
【0021】
本発明による方法において使用するために適したウェルプレートは単一種の不活性材料から製造することができるが、不活性材料で被覆した材料を使用することも可能であり、また、2種又はそれよりも多種の不活性材料、例えば、ペルフルオロ化ポリマー又はPEEK等からウェルプレートを製造することも可能である。後者の場合、例えば、フルターは、ウェルプレートの残余部分とは異なるペルフルオロ化ポリマーから製造することができる。
【0022】
本発明による方法は、あらゆる種類の物質の結晶化に使用することができ、また、生成する結晶のその後の研究用にも使用できる。特に、本発明による方法は、連携されたレサーチとの関連でおこなわれる研究と結晶化のために適しており、就中、薬学的活性成分のリサーチとの関連における研究と結晶化のために適している。本発明による方法は多形体スクリーニング、塩スクリーニング及び/又は共結晶(co-crystal)スクリーニングにおいて使用するために適している。
【0023】
好ましくは、ウェルの壁厚は、該ウェルの深さよりも小さくする。これによって、熱源からウェルの内部までの熱の経路の長さをさらに短くすることができる。好ましい実施態様においては、フィルターは、隣接する中間プレート部の底部面よりも下方に配設される。より好ましくは、フィルターは、各々のウェルの下部端に配設させる。
【0024】
本発明において使用されるウェルプレートは、射出成形法によって製造することができる。この方法によれば、本発明によるウェルプレートの低コストで信頼性の高い製造がもたらされる。安価なウェルプレートを使用する場合には、該ウェルプレートは一回使用後に廃棄することができるので、使い捨てウェルプレートが得られる。
【0025】
しかしながら、本発明によるウェルプレートは、いずれかの材料切削法によっても製造することができる。別の可能な製法においては、最初に、開放底部を有するウェルを具備するプレートを調製する。この種のプレートは、例えば、射出成形法又は材料切削法によって調製することができる。該プレートを調製した後、フィルターを、ウェルの開放底部又は該開放底部よりも一定距離の上部に装着させる。例えば、フィルターは、超音波溶接法によって、各々のウェルの壁部へ連結させることができる。
【0026】
簡単な実施態様においては、ウェルプレートは同一材料(例えば、ペルフルオロ化ポリマー等)によって一体的に製造される。しかしながら、コーティング(例えば、ペルフルオロ化ポリマー製コーティング等)を少なくとも部分的に有する1種又は複数種の材料からウェルプレートを調製することもできる。このような被覆されたウェルプレートは、射出成形法によって製造することもできる。これによって、ウェルプレートが少なくとも2種の材料を含むにもかかわらず、一体化したウェルプレートを得ることができる。もちろん、1種のペルフルオロ化ポリマーを別のペルフルオロ化ポリマーで被覆することも可能である。
【0027】
好ましくは、フィルターの孔径は0.05μm〜10μmであり、より好ましくは、該孔径は0.1μm〜5μmである。好結果がもたらされる実施態様においては、フィルターの平均孔径は約1.2μmであることが知られている。しかしながら、大きな結晶の場合には、該孔径はさらに大きくすることができる(例えば、約1mm)。
【0028】
ウェルプレートのウェルは、線に沿って配設するか、あるいはマトリックス形態で配設することができる。複数のウェルプレートを組合せることによって、より大きなマトリックス形態でウェルを配設することもできる。
【0029】
好ましい実施態様においては、ウェルプレートはウェルプレート支持体(例えば、金属製支持体)と組み合わされる。ウェルプレート支持体は、ウェルプレートに対して付加的な機械的安定性を付与する。
【0030】
ウェルへの熱の供給は、ウェルプレート支持体を通しておこなうことができる。この場合、ウェルプレート支持体を、1又は複数のウェルの外壁と接触させる態様が有利である。
【0031】
好ましくは、ウェルの開放上部端は封止可能である。封止部材としては、例えば、隔壁又は栓等を使用することができる。封止部材は、ウェルの材料と同一又は異なる材料から製造することができる。ウェルの内壁表面上のペルフルオロ化ポリマーとしてPTFEを使用し、該ウェルのPTFEがウェルの内壁の上部まで延びる態様の場合には、各々のウェルを液密状及び/又は気密状に閉鎖するためにPTFEを使用することができる。
【0032】
好ましくは、付属するフィルターの下方のウェルを封止するために、底部封止部材が使用される。これによって、各々のウェルの内部に存在する液体又は気体が、所望の濾過処理がおこなわれる前に、ウェルからフィルターを経て漏出することが防止される。
【0033】
可能な実施態様においては、このような底部封止部材は、付属するフィルターと接触する上部面を有する。この場合、好ましくは、該封止部材の上部面と付属するフィルターとの間に空隙が存在しないようにする。この実施態様は、本発明によるウェルプレートをどのように設計すれば、非常に少量の試料であっても、結晶化とその後の研究を首尾よく行うためには十分であるということを示す例示的態様である。
【0034】
しかしながら、温度変化と母液の粘度との関連において、フィルターの孔径を適宜選択することによって、母液がフィルターの孔を通して漏出しないようにすることも可能である。また、この場合には、本発明によるウェルプレートは、非常に少量の試料を使用して結晶化とその後の研究を実施するために特に適している。
【0035】
有利な実施態様においては、密封度のより高い閉鎖をもたらすための少なくとも1つの突起部を有する隔壁又は栓を使用する。さらに、該隔壁又は栓と協働する壁部には、該突起部に対応する溝が配設される。該溝は、隔壁又は栓がウェルを閉鎖するときに、該隔壁又は栓に設けられた1又は複数の突起部を受容するために適合した形態を有する。また、複数の溝を設けることも可能であり、各々の溝は、隔壁又は栓に設けられた1又は複数の突起部と協働するために適合した形態を有する。
【0036】
以下においては、本発明を、添付図に基づいてさらに詳細に説明する。これらの添付図は、本発明の非制限的な実施態様を示す。
図1は、本発明の好ましい実施態様を示すもので、部分的断面図を含む。
図2は、可能なウェルの形態と栓の形態を示す模式的断面図である。
図3は、本発明の可能な実施態様におけるウェルの部分的な拡大断面図である。
【0037】
図1は、本発明による方法において使用するために適したウェルプレート1を示す。ウェルプレート1は、ウェルプレート支持体25の内部に配設される。ウェルプレート支持体25は、比較的強靱な熱伝導性材料(例えば、金属、グラファイト又はポリマーセラミック等)から製造される。
【0038】
ウェルプレート1は、複数のウェル2を具有する。ウェル2の間には、中間プレートセクション3が存在する。各々の中間プレートセクション3は上部面3aと下部面3bを具有する。各々のウェル2は内壁4と外壁5を具有する。図1から明らかなように、ウェル2は、中間プレートセクション3の下部面3bから突出し、また、ウェル2の壁厚は該ウェル2の深さよりも小さい。
【0039】
各々のウェルは、開放上部端7を具有する。
【0040】
各々のウェル2は付属するフィルター6を具備する。フィルター6とウェル2は、ウェルプレート1の一体化部分を成す。図1に示す実施態様においては、フィルター6は、付属するウェル2の底部に配設される。しかしながら、フィルター6は、ウェル2の底部に配設せずに、ウェル2の底部とウェル2の上部端との間のいずれかの位置に配設することも可能である(図2d参照)。得られるキャビティには別の溶剤(例えば、アンチソルベント(antisolvent)等)を満たすことも可能である。
【0041】
各々のフィルター6は細孔を有する。有利な実施態様においては、該細孔の平均孔径は約1.2μmである。大部分の実施態様においては、フィルターの孔径は0.05μm〜10μmである。しかしながら、大きな結晶が生成するときには、孔径はさらに大きくすることができる(例えば、1mm)。
【0042】
各々のウェル2は、フィルター6の上方に、上部内壁部を有する。この上部内壁部は液体接触表面8を有する。各々のフィルター6は、上部フィルター表面9を有する。本発明によれば、少なくともウェル2の液体接触表面8と上部フィルター表面9の両方は、本願明細書に記載の不活性材料から製造される。好ましいこの種の不活性材料としては、ペルフルオル化ポリマー、例えば、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)及びペルフルオロアルコキシ(PFA)等が挙げられる。また、想定される1つの実施態様においては、ウェル2の液体接触表面8と上部フィルター表面9は、不活性材料(好ましくは、本願明細書に記載のペルフルオル化ポリマー)から製造されるか、又は該不活性材料で被覆される。
【0043】
図1に示す実施態様においては、ウェルプレート1の全体は、少なくともX線を実質的に透過させる不活性材料(例えば、PTFE、PVDF及びPFA等)から製造される。あるいは、ウェルプレート1を、X線を実質的に透過させるが耐薬品性に劣る別の材料から製造した後、これを上記の不活性ポリマーで被覆することによって、薬品と溶剤に対する所望の不活性度を該ウェルプレートへ付与することができる。
【0044】
図1に示す実施態様においては、ウェル2の開放上部端7は上部の隔壁又は栓10によって封止可能である。この実施態様においては、上部の隔壁又は栓10はPTFEから製造される。しかしながら、隔壁又は栓はいずれかの適当な材料から製造することができる。また、隔壁又は栓は、例えば、PTFE又はその他の適当な他の材料、特にペルフルオル化ポリマーで被覆することも可能である。
【0045】
図1に示す実施態様においては、ウェル2の上部端に広域部11が配設される。この広域部11は、上部の隔壁又は栓10を受容するように適合した形態を有する。しかしな
がら、図2に示すように、別の形態を有するウェルも可能である。例えば、高さに沿って実質的に一定の直径を有する同径円筒状ウェル、又は先細形状ウェルも可能である。
【0046】
例示的な実施態様においては、ウェルプレート1と上部の隔壁又は栓10はPTFEから製造されるので、付加的な封止部材(例えば、Oリング等)は多くの場合には不要である。
【0047】
図示されていない別の実施態様においては、上部の隔壁又は栓10は、ウェル自体の上部端によっては受容されないが、ウェルプレート支持体25に設けられた専用の開口部によって受容される。また、上部の隔壁又は栓10を、ウェルプレート25によって部分的に受容すると共に、各々のウェル2自体によって部分的に受容するような態様も可能である。
【0048】
ウェル内には、母液又はその他の流体状物質を存在させることができる。ウェル2の内部に存在する流体状物質が実験中に漏出することを回避するために、ウェル2の下部端を、下部の隔壁又は栓12によって封止することができる。別の実施態様においては、フィルターの孔径は、ウェル内の流体の粘度に起因して該流体がフィルターを通過しないように選択される。フィルター6の下部表面と下部の隔壁又は栓12の上部表面との間に空隙を設けてもよい。
【0049】
図1に示す実施態様においては、下部の隔壁又は栓12はウェル2自体によっては受容されず、ウェルプレート支持体25の開口部26によって受容される。しかしながら、ウェル2が、フィルター6の下方において、下部の隔壁又は栓12を受容するように適合した下部を有するようにすることが可能である。また、下部の隔壁又は栓12が、ウェルプレート支持体25によって部分的に受容されると共に、各々のウェル2自体によって部分的に受容されるようにすることも可能である。
【0050】
各々のウェル2に対して、専用の上部の隔壁又は栓10及び下部の隔壁又は栓12を配設することも可能である。しかしながら、隣接する隔壁又は栓は相互に連結させることも可能である。
【0051】
有利な実施態様においては、少なくとも1つの下部の隔壁又は栓12は、付属するフィルター6と接触する上部面を有し、このため、下部の隔壁又は栓12の上部面と付属するフィルター6との間には空隙は存在しない。これによって、結晶化されるべき物質をウェル2の内部へ導入したときには、フィルター6の下方には該物質は存在しないので、フィルター6の下方においては、固体は生成しない。このことは、例えば、組合せ化学(combinatorial chemistry)等におけるように、非常に少量の被処理物質を使用する場合には、特に有利である。研究における傾向として、益々少量の試料が使用されるようになっているので、このことは特に有利である。
【0052】
金属製ウェルプレート支持体25は、図1に示す実施態様においては比較的薄いウェルプレート1に対して付加的な機械的安定性を付与する。また、図1から明らかなように、この実施態様においては、ウェルプレート支持体25は、ウェル2の外壁と密接する。結晶化実験又はその後の研究においては、多くの場合、ウェル2の内部に存在する物質へ熱を供給し、及び/又はウェル2の内部に存在する物質から熱を除去することが必要となる。図1に示す実施態様においては、このような熱の供給及び/又は除去は、ウェルプレート支持体25を経由する有利な方法によって達成することができる。ウェルプレート支持体2を構成する金属は、ウェル2の壁部へ熱を効率的に伝導し、また、該壁部から熱を効率的に除去する。
【0053】
ウェルプレート1は、ウェルプレート支持体25から機械的安定性を付与されるので、ウェル2の壁厚は薄くすることができる。これによって、ウェル2の壁部の熱伝導度は著しく増大する。何故ならば、例えば、ペルフルオル化ポリマー(例えば、PTFE、PVDF、PFA等)の熱伝導度は比較的小さいからである。
【0054】
図1に示す実施態様は、ウェル2への熱供給効率の観点からは、特に有利である。
【0055】
図1に示す実施態様においては、ウェルプレート支持体25及び隔壁又は栓(10、12)は、底部プレート16と上部プレート15との間に配設され、これによって、付加的な閉鎖力がもたらされる。
【0056】
ウェルプレート1のウェル2が封止できる態様は有利である。結晶が生成するウェルが封止されるならば、ウェルプレート1は、該結晶をその後の研究のために保存することができる。
【0057】
本発明による方法は、結晶に関連する研究、例えば、固体状の活性な薬学的成分を組合せ化学又は高処理スクリーニングによって研究する分野における使用に対して特に適している。
【0058】
本願の請求項1に係る方法の有利な実施態様においては、最初に、前述のようなウェルプレート1を準備する。使用されるウェル2は、その底部において、下部の隔壁及び/又は栓12及び/又は底部プレート16によって封止される。ウェル2の底部を封止した後、1種又は複数種の物質及び1種又は複数種の溶剤を、ウェルプレート1の各々のウェル2の内部へ、別々に又は溶液若しくはスラリーとして導入する。当初は、1種又は複数種の物質は固体状であってもよいが、必ずしもその必要性はない。図示する実施態様においては、下部の隔壁又は栓12は、フィルター6からの内容物の漏出を防止する。何故ならば、下部の隔壁又は栓12の上部がフィルター6と接触しているからである。
【0059】
ウェル2の内部へ導入される1種又は複数種の物質及び1種又は複数種の溶剤の混合物は、一般的には、溶液状又はスラリー状である。該混合物は、各々のウェル2の壁部と、液体接触表面8において接触する。また、該混合物は、フィルター6の上部表面9とも接触する。該混合物をウェル2の内部へ導入した後、各々のウェル2の開放上部端7は、上部の隔壁又は栓10及び/又は上部プレート15によって閉鎖される。一般的には、各々のウェル2の内部へは、異なる混合比と濃度の試料物質と溶剤の混合物が導入される。
【0060】
次いで、ウェル内の試料物質は結晶化処理過程に付される。この過程においては、最初に1種又は複数種の物質を溶解させ、該溶液を、固体(好ましくは、結晶)の生成がもたらされる条件に曝す。このような条件は、ウェルプレート1の各々のウェル2の内部において、非晶質物質よりも結晶性物質が生成する確率が増大するように選択される。固体化しない物質を含有する残存液体は母液となる。
【0061】
結晶化過程が終了した後、溶剤は蒸発処理によって除去することができ、また、母液は濾過処理又はデカンテーションによって除去することができる。この除去処理後、結晶に関するさらなる研究は、該結晶が生成したウェルプレートのウェル内に該結晶が存在する間に実施される。
【0062】
上部の隔壁又は栓10は、蒸発処理の前又はさらなる研究を実施する前に除去してもよい。
【0063】
蒸発処理によって溶剤を除去する代わりに、残存物質を含有する母液を濾過処理によって除去することもできる。濾過過程中、結晶は、該結晶が生成したウェル内に残存する。一般的には、濾過処理をおこなうためには、少なくとも下部の隔壁又は栓を取り除くことが必要である。
【0064】
結晶に関連しておこなわれるさらなる1種又は複数種の研究には、いずれかの既知の研究技法を含めることができる。例えば、結晶はX線回折法、分光分析法(例えば、ラマン分光法、紫外−可視分光法及び赤外分光法等)、目視検査法及び/又は生成した全結晶の秤量法に付してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 ウェルプレート
2 ウェル
3 中間プレートセクション
4 ウェルの内壁
5 ウェルの外壁
6 フィルター
7 開放上部端
8 液体接触表面
9 上部フィルター表面
10 上部の隔壁又は栓
11 広域部
12 下部の隔壁又は栓
15 上部プレート
16 底部プレート
25 ウェルプレート支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(i)〜(vi)を含む固体(好ましくは結晶)の入手及び分析法:
(i)深みと開放上部端を有する複数のウェルを具備するウェルプレートであって、各々のウェルが細孔を有するフィルターを具有し、該フィルターが該開放上部端から間隔をおいて配設され、各々のウェルが、フィルターの上方に液体との接触表面を有する上部内壁部を具有し、各々のフィルターが上部フィルター表面を有し、少なくともウェルの液体との接触表面と上部フィルター表面の両方が、有機溶剤及び/又は水性溶剤及び/又は有機溶剤と水性溶剤との混合物に対して少なくとも実質的に不活性な材料から調製された表面である該ウェルプレートを準備し、
(ii)ウェルプレートの少なくとも1つウェルの内部へ1種又は複数種の物質及び1種又は複数種の溶剤を供給し、
(iii)1種又は複数種の該物質が1種又は複数種の該溶剤中に溶解するような条件を設定し、
(iv)該物質の少なくとも一部が結晶化して少なくとも1つのウェルの内部に固体が形成されるような条件を設定し、
(v)溶液中に残存する該物質を実質的に除去することによって、ウェルプレートのウェルの内部の該物質から形成された固体(好ましくは結晶)をウェル内に残存させ、次いで、
(vi)固体(好ましくは結晶)が形成されたウェルプレートのウェルの内部において、該固体(好ましくは結晶)の分析をおこなう。
【請求項2】
溶液中に残存する物質の一部の除去を濾過処理によって行う請求項1記載の方法。
【請求項3】
分析を次の群から成る手段から選択される1又は複数の手段によっておこなう請求項1又は2記載の方法:X線回折法、赤外分光法、ラーマン分光法、紫外/可視分光法、光学的分光法、秤量法及び分光学的顕微鏡法。
【請求項4】
1種又は複数種の物質及び1種又は複数種の溶剤をウェルの内部へ供給する前に、ウェルプレートのウェルの底部をシールする請求項1又は3記載の方法。
【請求項5】
固体が形成された後、シールを除去し、溶液中に残存する物質の一部を濾過処理によって除去する請求項1から4いずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法による結晶化と結晶の分析において有用なウェルプレートであって、複数のウェルを具備し、各々のウェルが深みと開放上部端を有し、各々のウェルが細孔を有するフィルターを具有し、該フィルターが該開放上部端から間隔をおいて配設され、各々のウェルが、フィルターの上方に液体との接触表面を有する上部内壁部を具有し、各々のフィルターが上部フィルター表面を有し、少なくともウェルの液体との接触表面と上部フィルター表面の両方が、有機溶剤及び/又は水性溶剤及び/又は有機溶剤と水性溶剤との混合物に対して少なくとも実質的に不活性な材料から調製された表面である該ウェルプレート。
【請求項7】
ウェルプレートの材質がX線透過性材料である請求項6記載のウェルプレート。
【請求項8】
ウェルプレートの材質がペルフルオロ化ポリマーである請求項6又は7記載のウェルプレート。
【請求項9】
不活性な材料が次の群から選択される化合物である請求項6又は7記載のウェルプレート:ポリビニリデンフルオリド、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシフッ素化エチレンプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン−ペルフルオロメチルビニルエーテル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオリド、エチレンテトラフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン及びポリエーテルイミド。
【請求項10】
ウェルプレートが、隣接ウェル間に複数の中間プレートセクションをさらに具有し、各々の中間プレートセクションが上部面と下部面を有し、ウェルの深さが、該中間プレートセクションの下部面から突出するような深さである請求項6から9いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項11】
ウェルの突出部が、ウェルの深さよりも小さな壁厚を有する請求項6から10いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項12】
ウェルプレートが、付属するフィルターと一体化したウェルを具有する請求項6から11いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項13】
ウェルプレートが、ペルフルオロ化ポリマー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド又はペルフルオロアルコキシによって少なくとも部分的に被覆された請求項6から12いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項14】
ウェルプレートが一体化した請求項6から13いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項15】
ウェルプレートが均一な壁厚を有する請求項6から14いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項16】
少なくとも1つのフィルターが、隣接する中間プレートセクションの下部面よりも低い位置に配設された請求項6から15いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項17】
少なくとも1つのウェルの開放上部端が封止可能である請求項6から16いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項18】
少なくとも1つのウェルがフィルターの下方において封止可能である請求項6から17いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項19】
ウェルが線に沿って配設された請求項6から18いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項20】
ウェルがマトリックス状態で配設された請求項6から19いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項21】
フィルターの孔径が0.05〜10マイクロメーターである請求項6から20いずれかに記載のウェルプレート。
【請求項22】
請求項6から21いずれかに記載のウェルプレートとウェルプレート支持体との組合せであって、ウェルプレート支持体が、ウェルプレートを収容するために適合すると共に、ウェルプレートに対して付加的な機械的安定性を付与する該組合せ。
【請求項23】
ウェルプレート支持体が金属製である請求項22記載の組合せ。
【請求項24】
各々のウェルの開放上部端を封止するための1又は複数の上部シールをさらに具備する請求項22または23記載の組合せ。
【請求項25】
付属するフィルターの下方においてウェルを封止するための1又は複数の底部シールをさらに具備する請求項22から24いずれかに記載の組合せ。
【請求項26】
各々の底部シールが付属するフィルターと接触する上部面を有すると共に、該底部シールの上部面と付属するフィルターとの間に空間が存在しない請求項25記載の組合せ。
【請求項27】
各々の底部シールが付属するフィルターと接触する上部面を有すると共に、該底部シールの上部面と付属するフィルターとの間に空間が存在する請求項25記載の組合せ。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−544034(P2009−544034A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520690(P2009−520690)
【出願日】平成18年7月17日(2006.7.17)
【国際出願番号】PCT/NL2006/000371
【国際公開番号】WO2008/010698
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(502226807)アファンティウム・インターナショナル・ベスローテン・フェンノートシャップ (2)
【氏名又は名称原語表記】AVANTIUM INTERNATIONAL B.V.
【Fターム(参考)】