説明

固化体の製造方法

【課題】 リン含有バイオマス焼却灰やリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰、さらには石炭灰を有効利用して、セメントを用いることなく、型枠注入による成形・施工が容易な高強度の固化体を製造する方法を提供する。
【解決手段】リン含有バイオマス焼却灰及びリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰のいずれか一方あるいは双方を固化対象物とし、これに酸溶液とアルカリ性のアルミニウム含有物とを混合して混合物を得る混合工程と、混合物を養生する養生工程とを含むようにした。そして、混合工程において、固化対象物と酸溶液とを混合してpH0.7〜2.3の酸性スラリーを調製した後、酸性スラリーにアルミニウム含有物を混合して混合物を得るようにして、混合物の流動性が保持されている間に混合物を型枠に流し込むようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固化体の製造方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、下水汚泥焼却灰や鶏糞焼却灰等の家畜排泄物焼却灰といったリン含有バイオマス焼却灰、この焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰、さらには石炭灰といった産業廃棄物を利用して、埋め立て処分場内の内部構造物(止水壁等)やレンガ、ブロック、コンクリート骨材、路盤材、魚礁、鋳型、さらには肥料等に用いて好適な固化体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥焼却灰の国内発生量は、下水道の普及に伴って増加しており、民間で焼却処分して発生する分も含めると、年間120万〜130万トン程度と推定される(非特許文献1より推定)。下水汚泥焼却灰は、これまで主として埋め立て処分されてきた。しかし、埋め立て処分場を確保することが次第に困難となりつつある。そこで、下水汚泥焼却灰を固化して固化体を製造し、下水汚泥焼却灰を埋め立て処分することなく、土木用途として有効利用する試みがなされている。
【0003】
下水汚泥焼却灰を固化する方法としては、セメントによる固化が一般的である。また、別の固化方法として、例えば特許文献1では、下水汚泥焼却灰と酸溶液を混練した後、乾燥することによって、固化体を製造するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−155316号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本下水道協会(2007):「平成17年度版下水道統計」、62号、206頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、下水汚泥焼却灰をセメントで固化した固化体は、下水汚泥焼却灰に含まれているリンによってセメントの強度が低下し、固化体全体としての強度が低下してしまう欠点を有している。したがって、セメントに対して下水汚泥焼却灰を多量に混入させることが困難であり、下水汚泥焼却灰の埋め立て処分量を大幅に低減させるまでには至らないものと考えられる。
【0007】
ところで、近年、リン鉱石の世界的な枯渇によりリン資源が不足しており、その価格が高騰しつつある。下水汚泥焼却灰には、低品位のリン鉱石に匹敵する10〜35重量%のリン(P)が含まれている。そこで、下水汚泥焼却灰に含まれるリンを有効利用すべく、国土交通省主導の下で下水汚泥等からのリン回収事業が推進されている。したがって、今後、下水汚泥焼却灰だけでなく、下水汚泥焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰が産業廃棄物として増加することが懸念される。そこで、脱リン灰をセメントで固化して土木用途としての固化体を製造することにより、脱リン灰を有効利用することも考えられる。しかしながら、脱リン灰には、下水汚泥焼却灰よりは低濃度ではあるものの依然としてリンは残留しており、リンによってセメントの強度が低下するという問題は生じ得る。したがって、下水汚泥焼却灰の場合と同様、脱リン灰の処分量を大幅に低減させるまでには至らないものと考えられる。
【0008】
また、下水汚泥焼却灰や脱リン灰と同様にリンを含有しているバイオマス焼却灰として、鶏糞焼却灰等の家畜排泄物焼却灰が挙げられる。平成20年の家畜排泄物の発生量は8747万トンに達しており、バイオマスの利活用の観点から、焼却処理を含む家畜排泄物の高度利用が推進されている(農林水産省 食糧・農業・農村政策審議会 平成21年度第3回部会 配付資料4 「畜産環境をめぐる情勢」)。かかる状況において、家畜排泄物焼却灰が今後大量に発生する可能性があり、このようなバイオマス焼却灰の有効利用も望まれる。しかしながら、家畜排泄物焼却灰にもリンが含まれていることから、セメントによる固化では、下水汚泥焼却灰と同様の問題が生じ得るし、家畜排泄物焼却灰のリン抽出処理残渣をセメントによる固化に供した場合にも、下水汚泥焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰をセメントによる固化に供した場合と同様の問題は生じ得る。
【0009】
また、セメントによる固化を行う場合、セメントの材料費が発生することから、固化体製造コストが上昇してしまう問題がある。
【0010】
したがって、下水汚泥焼却灰や鶏糞焼却灰等の家畜排泄物焼却灰といったリン含有バイオマス焼却灰、この焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰全般について、有効利用を図り、埋め立て処分量を大幅に削減することが望まれる。
【0011】
特許文献1に記載されている固化体の製造方法においては、セメントを用いていないことから、リンによるセメントの強度低下の問題や、セメント材料費による製造コストアップの問題は生じない。しかしながら、得られる固化体の強度が低いという問題がある。また、特許文献1に記載されている固化体の製造方法では、混練物の流動性が低く、型枠注入による成形・施工が困難である。また、下水汚泥焼却灰と硫酸を混合すると激しく発熱が生じるとともに、硫酸のような強酸を現場(野外)で扱うのは極めて危険であり、現地(野外)での実施が極めて困難であった。
【0012】
さらに、産業廃棄物の利用促進ならびに埋め立て処分地の制約等の観点から、火力発電所などから多量に排出される石炭灰の有効利用の割合を積極的に増やすことも望まれている。したがって、固化体の製造に際し、石炭灰を利用することができれば、石炭灰の消費を促進して、有効利用の割合を積極的に増やすことができ、望ましいものと考えられる。
【0013】
また、石炭灰の有効利用法の1つとして、肥料としての活用が挙げられる。石炭灰を肥料として活用する場合、粒状に成形することが望ましいが、石灰等の造粒剤を添加するとその性状がアルカリ化し、作物に生育障害が生じる可能性があった。そこで、作物に生育障害が生じ難い弱酸性から中性の性状を有する粒状の石炭灰肥料が望まれていた。
【0014】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであって、下水汚泥焼却灰や鶏糞焼却灰等の家畜排泄物焼却灰といったリン含有バイオマス焼却灰、この焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰を有効利用して、セメントを用いることなく、高強度の固化体を製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、下水汚泥焼却灰や鶏糞焼却灰等の家畜排泄物焼却灰といったリン含有バイオマス焼却灰、この焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰、さらには石炭灰を有効利用して、セメントを用いることなく、高強度の固化体を製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【0016】
さらに、本発明は、型枠注入による成形・施工が容易な固化体の製造方法を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、石炭灰肥料として利用可能な、弱酸性から中性の性状を有する固化体を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明者は、かかる課題を解決するために鋭意研究を行う中で、下水汚泥焼却灰と酸溶液とを混合してあるpH以下とすると、下水汚泥焼却灰と酸溶液との間で生じる硬化反応の進行が極めて遅くなるか、あるいは硬化反応が進行しなくなり、固化体が得られ難い、あるいは得られないことを知見した。そこで、このように固化体が得られ難い、あるいは得られない条件下でも、固化体を容易に製造すべく、本願発明者が鋭意検討を行った結果、さらに石炭灰や水酸化アルミニウムを混合することで、硬化反応の進行を促進させて、あるいは生じさせて、ほぼ1日以内に固化体を製造できることを知見した。しかも、得られる固化体の強度も高いものとできることも知見した。
【0019】
また、本願発明者は、下水汚泥焼却灰の代わりに下水汚泥焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰を用いた場合についても、上記知見が同様に当てはまることを知見した。
【0020】
本願発明者は、上記知見に基づいてさらなる検討を行い、下水汚泥焼却灰に酸溶液を混合した酸性混合物を流動性のあるスラリー状としておけば、これに石炭灰や水酸化アルミニウムを混合しても、しばらくの間は混合物の流動性は保持されるので、その間に混合物を型枠に流し込めば、型枠注入による成形・施工を容易に行い得ることを知見するに至った。
【0021】
そして、上記知見から、下水汚泥焼却灰や下水汚泥焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰に限らず、これらと組成が類似している鶏糞焼却灰等の家畜排泄物焼却灰や家畜排泄物焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰を用いた場合にも、同様に固化体を製造できる可能性が導かれることを知見するとともに、石炭灰や水酸化アルミニウムに限らず、アルカリ性のアルミニウム含有物全般を用いた場合にも、同様に固化体を製造できる可能性が導かれることを知見し、さらに種々検討を重ねて本願発明を完成するに至った。
【0022】
即ち、本発明の固化体の製造方法は、リン含有バイオマス焼却灰及びリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰のいずれか一方あるいは双方を固化対象物とし、これに酸溶液とアルカリ性のアルミニウム含有物とを混合して混合物を得る混合工程と、混合物を養生する養生工程とを含むようにしている。
【0023】
ここで、本発明の固化体の製造方法において、混合工程において、固化対象物と酸溶液とを混合してpH0.7〜2.3の酸性スラリーを調製した後、酸性スラリーにアルミニウム含有物を混合して混合物を得ることが好ましい。
【0024】
また、本発明の固化体の製造方法において、混合物の流動性が保持されている間に混合物を型枠に流し込むことが好ましい。
【0025】
さらに、本発明の固化体の製造方法において、アルミニウム含有物は、pH12以上の石炭灰、水酸化アルミニウム、またはpH12未満の石炭灰と水酸化アルミニウムの組み合わせであることが好ましい。
【0026】
尚、本発明の固化体の製造方法において、硬化促進剤として水酸化マグネシウムを混合することが好ましい。
【0027】
また、本発明の固化体の製造方法において、養生工程は、室温で少なくとも1日行うことが好ましい。
【0028】
さらに、本発明の固化体の製造方法において、養生工程に次いで、さらに80℃〜1300℃で3〜48時間の加熱乾燥工程を行うことが好ましい。
【0029】
次に、本発明の固化体は、本発明の固化体の製造方法により得られるものである。
【0030】
次に、本発明の固化体製造用材料セットは、被硬化液と被硬化液の硬化を開始させて固化体とするための硬化開始剤とを含む固化体製造用材料セットであり、被硬化液は、リン含有バイオマス焼却灰及びリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰のいずれか一方または双方を固化対象物として、これに酸溶液が混合されて調製されたpH0.7〜2.3の酸性スラリーであり、硬化開始剤は、アルカリ性のアルミニウム含有物であることを特徴とするものである。
【0031】
ここで、本発明の固化体製造用材料セットにおいて、アルミニウム含有物が、pH12以上の石炭灰、水酸化アルミニウム、またはpH12未満の石炭灰と水酸化アルミニウムの組み合わせであることが好ましい。
【0032】
また、本発明の固化体製造用材料セットにおいて、硬化促進剤として水酸化マグネシウムを含むことが好ましい。尚、水酸化マグネシウムは、被硬化液と硬化開始剤とは分離した状態で別体として含むようにしてもよいし、硬化開始剤に混合しておいてもよい。あるいは、被硬化液に混合しておいてもよい。
【発明の効果】
【0033】
請求項1に記載の発明によれば、リン含有バイオマス焼却灰及びリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰を有効利用して、セメントを用いることなく、高強度の固化体を製造することが可能となる。
【0034】
請求項2に記載の発明によれば、酸性スラリーを被硬化液として準備しておき、これにアルミニウム含有物を混合することによって、所望のタイミングで酸性スラリーの硬化を開始させることができる。したがって、例えば、酸性スラリーとアルミニウム含有物とをそれぞれ現場(原位置)に運び、現場(原位置)にて固化体を製造することが容易となる。また、酸性スラリーとアルミニウム含有物とを混合しても激しく発熱することはなく、硫酸のような強酸を現場(野外)で扱う必要がないので、現地(野外)での実施も十分に可能なものとなる。
【0035】
請求項3に記載の発明によれば、混合物の流動性が保持されている間に混合物を型枠に流し込むようにしているので、型枠注入による成形・施工を容易に行うことが可能となる。
【0036】
請求項4に記載の発明によれば、pH12以上の石炭灰の場合には石炭灰単独で、pH12未満の石炭灰の場合には石炭灰と水酸化アルミニウムを組み合わせて用いることができるので、リン含有バイオマス焼却灰及びリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰に加えて、さらに石炭灰を有効利用して、セメントを用いることなく、高強度の固化体を製造することが可能となる。
【0037】
請求項5に記載の発明によれば、硬化促進剤として水酸化マグネシウムを用いるようにしているので、硬化反応を促進させて、硬化反応が進行して固化体となるまでの時間を短縮することができる。また、アルミニウム含有物の使用量を減らしながらも、固化体を確実に製造することも可能となる。
【0038】
請求項6に記載の発明によれば、得られる固化体の強度をより確実に高めることができる。
【0039】
請求項7に記載の発明によれば、得られる固化体の強度を短期間でさらに高めることができる。
【0040】
請求項8に記載の発明によれば、高強度の固化体を提供することができる。しかも、この固化体は弱酸性から中性の性状を有しているので、アルミニウム含有物として石炭灰を用いた場合には、土壌をアルカリ性にして作物生育に悪影響を及ぼすことのない石炭灰肥料としての使用が可能となる。
【0041】
請求項9に記載の発明によれば、リン含有バイオマス焼却灰及びリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰を有効利用しながらも、被硬化液の硬化を開始させたいタイミングを見計らってアルミニウム含有物を混合し、固化体の製造が可能な固化体製造用材料セットを提供することが可能となる。したがって、この固化体製造用材料セットによれば、被硬化液と硬化開始剤とをそれぞれ現場(原位置)に運び、現場(原位置)にて固化体を容易に製造することが可能となる。
【0042】
請求項10に記載の発明によれば、リン含有バイオマス焼却灰及びリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰、さらには石炭灰を有効利用しながらも、被硬化液の固化が完了する頃合いを見計らって硬化開始剤を混合するタイミングを決定することが可能な固化体製造用材料セットを提供することが可能となる。したがって、この固化体製造用材料セットによれば、被硬化液と硬化開始剤とをそれぞれ現場(原位置)に運び、現場(原位置)にて固化体を容易に製造することが可能となる。
【0043】
請求項11に記載の発明によれば、硬化促進剤として水酸化マグネシウムを含むようにしているので、硬化反応を促進させて、硬化反応が進行して固化体となるまでの時間を短縮することができる。また、アルミニウム含有物の使用量を減らしながらも、固化体を確実に製造することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の製造方法により得られる固化体のXRD測定結果を示す図である。
【図2】本発明の製造方法により得られる固化体の一軸圧縮強度と溶出液のpHとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0046】
本発明の固化体の製造方法は、リン含有バイオマス焼却灰及びリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰のいずれか一方あるいは双方を固化対象物とし、これに酸溶液とアルカリ性のアルミニウム含有物とを混合して混合物を得る混合工程と、混合物を養生する養生工程とを含むようにしている。
【0047】
<混合工程>
混合工程では、リン含有バイオマス焼却灰及びリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰のいずれか一方あるいは双方を固化対象物とし、これに酸溶液とアルカリ性のアルミニウム含有物とを混合して混合物を得るようにしている。
【0048】
固化対象物であるリン含有バイオマス焼却灰及び脱リン灰は、いずれか一方を単独で用いてもよいし、双方を混合して用いてもよい。このように、本発明では、リン含有バイオマス焼却灰だけでなく、従来有効利用法が殆ど確立されていなかったリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰を固化対象物とできる点で極めて有用である。即ち、リン含有バイオマス焼却灰に加えて、今後リン含有バイオマス焼却灰がリン抽出源として利用される結果として生じる脱リン灰を高強度の固化体という有用物に変換して有効利用することができ、リン含有バイオマス焼却灰や脱リン灰の埋め立て処分量を大幅に低減することができるだけでなく、従来廃棄処分されていたものに付加価値を与えることができる。
【0049】
リン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理は、一般的にはアルカリ溶液を用いて行われており、本発明では、このようなリン抽出処理において発生する残渣を脱リン灰として用いることができるが、他の公知または新規のリン含有バイオマス焼却灰からのリン抽出処理法により発生する残渣も脱リン灰として本発明に利用することが可能である。
【0050】
本発明では、リン酸含有バイオマス焼却灰として、下水汚泥焼却灰を好適に用いることができ、脱リン灰として、下水汚泥焼却灰のリン抽出処理残渣を好適に用いることができるが、これらに限定されず、例えば、鶏糞廃棄物等の家畜排泄物等のように、下水汚泥焼却灰と同様にリンを含有する各種バイオマス焼却灰、さらには、このようなバイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣を用いることもできる。
【0051】
酸溶液としては、例えば硫酸溶液や塩酸溶液等の無機酸溶液を用いることができ、好適には硫酸溶液を用いることができるが、これらに限定されるものではない。尚、本発明でいう酸溶液とは、実質的に酸と水とを主成分とする混合液を意味している。
【0052】
アルミニウム含有物としては、アルカリ性を呈するものであれば特に限定されず、例えば水酸化アルミニウムを好適に使用することができる。
【0053】
ここで、アルミニウム含有物として、石炭灰を使用することが好ましい。石炭灰を使用することで、水酸化アルミニウムを用いた場合と比較して、固化体の強度を高められるとともに、産業廃棄物である石炭灰の有効利用を図って、埋め立て処分量を大幅に低減することができるだけでなく、従来廃棄処分されていたものに付加価値を与えることができる。
【0054】
また、本発明では、固化対象物としてリン含有バイオマス焼却灰や脱リン灰といった産業廃棄物を用いていることから、アルミニウム含有物を石炭灰とすることで、固化体を製造するための原料の大部分を産業廃棄物でまかなうことができ、固化体の製造コストを大幅に削減することができる。
【0055】
ここで、アルミニウム含有物として石炭灰を使用する場合、pH12以上のものを用いることが好ましい。この場合には、アルミニウム含有物として石炭灰のみを使用して、高強度の固化体が得られる。pH12未満のものも固化対象物の性状によってはアルミニウム含有物として石炭灰のみを単独で使用できる場合があるが、水酸化アルミニウムを併用することが好適である。水酸化アルミニウムを併用することで、pH12未満の石炭灰を使用した場合にも、固化体を確実に製造することができる。
【0056】
尚、石炭灰のpHは、純水と石炭灰をL/S=5.0L/kgで混合し、1日後に測定して得られた値である。
【0057】
石炭灰は、アルミニウム含有量が多いものを用いることが好適であり、例えばアルミナ換算で30重量%以上のアルミニウムを含有する石炭灰を用いることが好適である。アルミニウム含有量が多い程、固化体の強度が高まる傾向がある。
【0058】
固化対象物と酸溶液とアルミニウム含有物は、同時に混合してもよいし、固化対象物と酸溶液を混合した後にアルミニウム含有物を混合してもよいし、固化対象物とアルミニウム混合物を混合した後に酸溶液を混合してもよいし、酸溶液とアルミニウム含有物を混合してから固化対象物と混合してもよい。いずれの場合においても固化体の製造は可能であるが、固化対象物と酸溶液とを混合してpH0.7〜2.3、好適にはpH0.7〜2.0、より好適にはpH0.7〜1.7、さらに好適にはpH0.7〜1.2、なお好適にはpH0.9〜1.2の酸性スラリーを調製した後、この酸性スラリーにアルミニウム含有物を混合することが好適である。この場合、酸性スラリー自体をアルミニウム含有物を混合するまでは硬化させることなく、しかもアルミニウム含有物を混合した後もしばらくの間はその流動性が確保されて、型枠注入による成形・施工が容易となる。つまり、酸性スラリーを予め調製しておいて、現場(原位置)に運搬し、現場(原位置)でアルミニウム含有物を混合してから型枠注入を行うことができ、型枠の中で徐々に硬化させて固化体とすることができる。したがって、酸性スラリーを被硬化液とし、アルミニウム含有物を被硬化液の硬化を開始させて固化体とするための硬化開始剤とした固化体製造用材料セットを提供することができる。尚、pHが低すぎると、固化体を得るために必要なアルミニウム含有物の量が多くなって、酸性スラリーとアルミニウム含有物の混合物が団粒状となり、混合物の流動性が維持できなくなって型枠注入し難くなるとともに、固化体も得られ難くなる。逆にpHが高すぎると、酸性スラリー自体が硬化反応を起こし、酸性スラリーの流動性が維持し難くなる。
【0059】
酸性スラリーのpHは、固化対象物と酸溶液の混合割合及び酸溶液の濃度を調整することで制御することができる。例えば、固化対象物100重量部に対し、20〜35重量%の硫酸溶液を100〜150重量部混合することでpH0.7〜2.3の酸性スラリーを得ることができる。また、固化対象物の容積(cm)の0.7〜0.8倍の硫酸溶液(mL)を混合することでpH0.7〜2.3の酸性スラリーを得ることができる。但し、pH0.7〜2.3の酸性スラリーを得るための条件はこれに限定されるものではない。例えば、固化対象物には、水が含まれている場合がある。特に脱リン灰には、水が多く含まれている場合がある。このような場合には、固化対象物の含水量を加味して、酸溶液中の酸の量を維持したままで、水の量を減らすようにすればよい。
【0060】
尚、本発明の固化体の製造方法によれば、このように水を多く含む固化対象物を、乾燥処理等を特に施すことなく、そのまま供することができるという利点も有している。つまり、固化対象物に含まれる水の量に応じて、酸溶液中の水の量を適宜調整するだけで、固化対象物をそのまま固化体の製造に供することができる。
【0061】
固化対象物と酸溶液を混合した後は、6〜12時間静置することが好適であり、10〜12時間静置することがより好適である。これにより、固化対象物中の成分を酸溶液に溶解させて、アルミニウム含有物と反応させ易くすることができる。但し、固化対象物と酸溶液を混合した直後にアルミニウム含有物を混合して、固化対象物中の成分を酸溶液に溶解させながら硬化反応を進行させても構わない。
【0062】
アルミニウム含有物の混合量は、pH12以上の石炭灰を用いる場合には、固化対象物100重量部に対して30〜200重量部混合することが好適であり、50〜160重量部混合することがより好適である。但し、固化対象物のリン酸(P)含有量が20重量%以上の場合には、固化対象物100重量部に対して60〜160重量部混合することが好適であり、80〜140重量部混合することがより好適であり、100〜140重量部混合することがより好適である。固化対象物のリン酸(P)含有量が20重量%未満の場合には、固化対象物100重量部に対して50〜110重量部混合することが好適であり、60〜90重量部混合することがより好適であり、80重量部程度とすることがさらに好適である。水酸化アルミニウムを用いる場合には、固化対象物100重量部に対して20〜40重量部混合することが好適であり、20〜35重量部混合することがより好適であり、25〜35重量部混合することがさらに好適である。アルミニウム含有物の混合量を概ねこの範囲内とすれば、硬化反応が進行して固化体となるまでの期間を1日以内とできる。尚、この範囲を逸脱した場合であっても、固化体となるまでの期間は長くなるものの、固化体は生成され得る。
【0063】
そして、酸性スラリーとアルミニウム含有物を混合しても、直ちに固化体となることはなく、少なくとも数時間(例えば2,3時間)程度は流動性が保持されるので、その間に型枠注入を行えば、型枠注入による成形・施工を容易に行うことができる。尚、酸性スラリーとアルミニウム含有物の混合物の流動性は、酸性スラリーに対する(即ち、固化対象物に対する)アルミニウム含有物の混合量を少なくする程、長時間保持することができるが、少なすぎると硬化反応の進行が遅すぎたり、あるいは硬化反応が起こらず、固化体が得られ難くなる場合がある。また、酸性スラリーとアルミニウム含有物の混合物の流動性は、酸性スラリーに対する(即ち、固化対象物に対する)アルミニウム含有物の混合量を多くする程、保持される時間が短くなるが、この場合にも少なくとも数時間程度は確保することができる。但し、酸性スラリーに対する(即ち、固化対象物に対する)アルミニウム含有物の混合量を多くしすぎると、酸性スラリーとアルミニウム含有物との混合物が団粒状となって流動性が確保できず、型枠注入による成形・施工が困難になるとともに、固化体も得られにくくなる。また、酸性スラリーとアルミニウム含有物の混合物の流動性は、アルミニウム含有物のpHを低くする程(石炭灰のpHが低い程)、長時間保持することができるが、低すぎると硬化反応の進行が遅すぎたり、あるいは硬化反応が起こらず、固化体が得られ難くなる場合がある。また、酸性スラリーとアルミニウム含有物の混合物の流動性は、アルミニウム含有物のpHを高くする程(石炭灰のpHが高い程)、保持される時間が短くなるが、この場合にも少なくとも数時間程度は確保することができる。
【0064】
尚、pH12未満の石炭灰を用いる場合には、これに水酸化アルミニウムを2.5〜10重量%添加し、固化体に対する混合量は上記と同等かあるいは少し多くすることが好適である。
【0065】
ここで、硬化促進剤として、水酸化マグネシウムを併用することが好適である。水酸化マグネシウムを併用することで、硬化反応を促進させて、硬化反応が進行して固化体となるまでの時間を短縮することができる。また、アルミニウム含有物の使用量を減らしながらも、固化体を確実に製造することも可能となる。具体的には、アルミニウム含有物10重量部に対して、水酸化マグネシウムを1重量部混合することで、硬化促進効果が得られ、水酸化マグネシウムの混合量を増やす程、その効果は高まる。例えば、アルミニウム含有物として水酸化アルミニウムを用いた場合、固化対象物100重量部に対して水酸化アルミニウムを10重量部混合した場合、硬化反応が進行して固化体となるまでに1日よりも長期間を要するが、これに1重量部の水酸化マグネシウムを混合することで、1日以内に固化体が得られるようになる。また、固化対象物100重量部に対して水酸化アルミニウムを5重量部混合した場合、硬化反応が進行せず、固化体が得られないが、これに1重量部の水酸化マグネシウムを混合することで、1日以内に固化体が得られるようになる。したがって、アルミニウム含有物である水酸化アルミニウムの使用量を減らせるという利点がある。
【0066】
尚、水酸化マグネシウムは、硬化促進剤として使用することを加味すれば、アルミニウム含有物と共に添加することが好適であるが、予め酸性スラリーに混合しておいてもよい。
【0067】
<養生工程>
固化対象物と酸溶液とアルミニウム含有物の混合物は、自然に硬化して固化体となる。したがって、室温で少なくとも1日養生すれば、固化体が得られるが、7日以上養生することが好適であり、14日以上養生することがより好適であり、28日程度養生することがさらに好適である。室温養生の期間を長くするほど、固化体の強度を向上させることができるが、養生期間が28日を超えると、強度の向上効果があまり見られなくなる。
【0068】
<加熱乾燥工程>
養生工程の後、加熱乾燥処理を施す。これにより、固化体の強度が向上する。具体的には、80℃〜1300℃、好適には80℃〜250℃で、より好適には105℃程度で、3〜48時間、好適には24時間程度の加熱乾燥処理を行う。例えば、7日間室温養生を施した後、加熱乾燥処理を行うことで、28日間室温養生を施した場合よりも、固化体の強度を向上させることができる。したがって、固化体の製造期間を短縮しながらも、より高強度の固化体を製造することが可能になる。
【0069】
本発明の固化体は、固化対象物に含まれるモノリン酸アルミニウム(例えば(Al、Fe)PO等)が酸溶液に一旦溶解し、これが石炭灰中の成分や水酸化アルミニウムと反応して固化することによって得られるものと推定される。そして、水酸化アルミニウムを用いた場合よりも、石炭灰を用いた方が固化体の強度が高まる傾向が見られたことから、石炭灰中のある種の成分が固化体の強度を高める上で何らかの作用を及ぼしているものと推定される。
【0070】
本発明の製造方法により得られる固化体は、概ね10MPa以上の一軸圧縮強度を有し、製造条件によっては、44MPaといった極めて高い一軸圧縮強度を有する。したがって、埋め立て処分場内の内部構造物(止水壁等)やレンガ、ブロック、コンクリート骨材、路盤材、魚礁、鋳型といった用途に用いて好適である。
【0071】
また、本発明の製造方法により得られる固化体は、その性状が弱酸性から中性の範囲にある。したがって、アルミニウム含有物として石炭灰を使用している場合には、弱酸性から中性の粒状石炭灰肥料として利用することができる。つまり、従来のように、石灰等の造粒剤を添加せずに、粒状石炭灰肥料を製造することが可能となるので、性状のアルカリ化による作物への生育障害が起こらなくなる。
【0072】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0073】
例えば、上述の実施形態では、酸性スラリーを予め調製しておいて、アルミニウム含有物を混合してから型枠注入を行うようにしていたが、型枠に酸性スラリーを注入してからアルミニウム含有物を混合し、硬化反応を開始させるようにしてもよい。
【0074】
また、リン含有バイオマス焼却灰として、焼却処理前のリン含有バイオマスをリン抽出処理したものを焼却処理したものを用いるようにしてもよい。この場合にも、焼却灰にはリンが含まれており、本発明における固化対象物とすることができる。例えば、本件出願人が先に出願した特開2010−000417号公報に記載の発明により焼却処理前の下水汚泥からリンを回収し、リン回収後の下水汚泥を焼却処理した下水汚泥焼却灰も本発明における固化対象物とすることができる。
【実施例】
【0075】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0076】
(実施例1)
固化体の製造試験を行った。
【0077】
本実施例において使用した下水汚泥焼却灰(A灰、B灰、脱リン灰)と、石炭灰(D灰、E灰、F灰、G灰、H灰、I灰)のうちの一部(D灰、E灰、F灰、G灰)について、蛍光X線(XRF)分析により主成分の組成を分析した結果を表1に示す。尚、蛍光X線分析は、島津製作所株式会社製XRF1500を使用して、ガラスビード定量分析法により行った。
【0078】
【表1】

【0079】
下水汚泥焼却灰であるA灰は、B灰よりもP含有量が多いという特徴を有していた。尚、本実施例において使用した脱リン灰は、B灰に対して1規定の水酸化カリウムで6時間リン抽出処理を行った後に固液分離した残渣である。
【0080】
石炭灰であるD灰、E灰、F灰、G灰については、特にD灰と、E灰、F灰及びG灰との間でAl含有量が大きく異なっていた。
【0081】
A灰、B灰、脱リン灰をそれぞれ100g準備し、これらに濃硫酸(97質量%、関東化学株式会社製)35gと水100gを混合した酸溶液を加え、約1日静置した後、硫酸を添加してpHを1.0に調整して、A灰混合物、B灰混合物、脱リン灰混合物をそれぞれ得た。
【0082】
次いで、A灰混合物、B灰混合物、脱リン灰混合物のそれぞれに対し、各種石炭灰(D灰、E灰、F灰、G灰、H灰、I灰)をそれぞれ混合して、硬化反応の有無を確認した。
【0083】
その結果、D灰、E灰、F灰を混合した場合には、数時間から1日で固化することが確認された。これに対し、H灰とI灰を混合した場合には、3日間経過しても固化しなかった。また、G灰については、脱リン灰混合物と混合した場合には固化したが、他の混合物と混合した場合には硬化しなかった。
【0084】
ここで、石炭灰のpHを測定した結果を表2に示す。尚、pHは、純水と石炭灰をL/S=5.0L/kgで混合し、1日後に測定した。
【0085】
【表2】

【0086】
表2に示される結果から、硬化反応が生じたD灰、E灰、F灰はいずれもpH12以上であることが明らかとなった。これに対し、G灰、H灰、I灰は、いずれもpH11.9以下であり、硬化反応の有無が下水汚泥焼却灰の性状に依存していたG灰については、pH11.9であり、pH12に近い値を示していた。
【0087】
さらに、D灰、E灰、G灰について、中和滴定(pH=7.0)を行い、酸消費量を測定した。具体的には、石炭灰1gを250mL容のポリビンに入れ、純水を100mL加え、6時間振とう後に、全て200mLビーカーに移し、スターラーで攪拌しながら硫酸でpH7.0になるまで滴定を行った。結果を表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
表3に示される結果から、硬化反応が生じたD灰、E灰はいずれも0.6meq/g以上であることが明らかとなった。硬化反応の有無が下水汚泥焼却灰の性状に依存していたG灰については、0.2meq/gであった。
【0090】
以上の結果から、固化体の製造に供する石炭灰は高アルカリ性であることが好適であり、pH12以上であることがより好適であるものと考えられた。また、固化体の製造に供する石炭灰の酸消費量については、0.2meq/g超であることが好適であり、0.3meq/g以上であることがより好適であり、0.6meq/g以上であることがさらに好適であるものと考えられた。
【0091】
(実施例2)
石炭灰としてD灰とE灰を使用した場合について、下水汚泥焼却灰に対する好適な配合量を検討した。固化の可否の判断は、概ね24時間以内に固化するかを基準として判断した。結果を表4に示す。尚、表4の混合率は、以下の式(1)により算出した。
混合率(%)=(石炭灰重量(g))/(下水汚泥焼却灰重量(g))×100
【0092】
【表4】

【0093】
表4に示される結果から、P含有量が多いA灰を使用した場合に、石炭灰の投入量が多くなる傾向が見られた。また、石炭灰の代わりに水酸化アルミニウムを使用した場合にも、硬化反応を生じさせて固化体を製造可能であることが明らかとなった。
【0094】
本実施例で使用した水酸化アルミニウムは以下のようにして合成した。即ち、13質量%濃度の「硫酸アルミニウム14−18水」試薬(関東化学株式会社製)の溶液に、2Nの水酸化カリウム溶液をpH7.0になるまで加えて沈殿物を得、これを1日放置した。次いで、デカンテーションを繰り返してから濾過分離し、沈殿物(固体)を回収した。これを50〜60℃で数日間乾燥し、粉砕したものを使用に供した。以降の実施例においても、水酸化アルミニウムはこの合成品を使用した。但し、水酸化アルミニウムはこのような経路で合成したものを用いる必要はなく、市販品を用いてもよい。
【0095】
(実施例3)
本発明の方法により得られる固化体の強度について検討した。
【0096】
表5に固化体の製造条件一覧を示す。
【0097】
【表5】

【0098】
下水汚泥焼却灰(A灰、B灰、脱リン灰)100gに対して、濃硫酸(97質量%)35gと水100gを混合した酸溶液(濃度20〜35重量%)を投入した。酸溶液の投入量は、下水汚泥焼却灰との混合後にpH1.0となる量とした。因みに、このときの酸溶液の投入量は100〜150gの範囲にあり、容積比率では下水汚泥焼却灰の容積(cm)の0.7〜0.8倍の酸mL量に相当する量である。下水汚泥焼却灰と酸溶液の混合物を10〜12時間程度静置した後、石炭灰を投入した。また、石炭灰の代わりに水酸化アルミニウムを投入した試料も作製した。
【0099】
石炭灰または水酸化アルミニウムを投入した後、速やかに円筒形の型(直径2.9cm、高さ6cm)に充填し、硬化反応を型内で進行させて固化させ、28日間室温で養生した後、型から外して成形品を得た。成形品の上下端面を水平に研磨整形した後、一軸圧縮強度を測定した。
【0100】
一軸圧縮強度は、誠研舎製の一軸圧縮試験機を使用し、測定方法は、JIS M 0302に拠った。
【0101】
一軸圧縮強度の測定結果を表6に示す。
【0102】
【表6】

【0103】
石炭灰を投入した場合には、いずれの試料も一軸圧縮強度が11〜33MPaとなり、高い強度を示すことが明らかとなった。また、Al含有量が少ないD灰を用いた試料では、一軸圧縮強度が11〜18MPaとなったのに対し、Al含有量が多いE灰を用いた試料では、一軸圧縮強度が18〜33MPaとなったことから、石炭灰に含まれるAlが多い方が一軸圧縮強度を高めやすいことがわかった。
【0104】
また、下水汚泥焼却灰種による差については、若干の強度差は見られるものの、明瞭な差としては現れなかった。
【0105】
また、同じ原料の組み合わせでは、石炭灰の投入量が増えるに従って、強度が低下する傾向が見られた。これは、混合時に混合物の石炭灰投入量が増加するに従い、含水率が低下したためと考えられた。
【0106】
また、固化体の成分組成データから因子分析を行った結果、アルミニウムやチタンの含有量と一軸圧縮強度の相関性が高いという結果が得られた。さらに、固化体の一軸圧縮強度を予測するための必要情報に関する知見を得るため、固化体の主要構成成分であるSiO、Al、Fe、MgO、CaO、KO、P量について、一軸圧縮強度を目的変数とした場合の重回帰分析を行った結果、予測パラメータとして、Al、Fe、CaO、KOが挙げられ、回帰式の標準回帰係数の比較では、Feが最も大きく、次いで、CaO、Alの順で大きくなることが明らかとなった。これらのパラメータはいずれも、リン酸塩鉱物を形成する成分であり、鉄とカルシウムは、リン酸アルミニウムの水素結合の縮合に関連するカチオン種であることから、これらが強度を予測するパラメータになり得ることが推定された。
【0107】
(比較例1)
特開平9−155316号公報の段落[0013]の「焼却灰・・・100gに対して硫酸97%含有濃硫酸15〜21cc、水45ccを添加して混練り・・・」の記載に基づき、石炭灰を使用していない特開平9−155316号公報の配合により実施例3と同様の方法で固化体を作製し、一軸圧縮強度を測定した。製造条件と一軸圧縮強度の測定結果を表7に示す。尚、硫酸97%含有濃硫酸の添加量は、特開平11−90389号公報の段落[0016]に記載された条件に基づき、リン含有量の多いA灰については18ccとし、リン含有量の少ないB灰については21ccとした。また、表7において、97%硫酸の添加量(cc)は硫酸の比重(1.83)から質量換算して求めた。
【0108】
【表7】

【0109】
表7に示される結果から、特開平9−155316号公報に記載された発明により得られる固化体の一軸圧縮強度は、2.2〜7.1MPa程度に留まり、本発明のように石炭灰を用いた場合のほうが強度を高められることが明らかとなった。
【0110】
(実施例4)
実施例3で得られた固化体のうち、比較的強度の高かった試料2、6、11、17、25、28について、加熱処理による強度変化について検討した。
【0111】
具体的には、実施例3と同様の方法で固化体を製造し、その際の室温養生期間を7日とした。7日間の室温養生が完了した後、温度80℃で20時間の予備乾燥後に50℃/時の速度で昇温し、所定温度(105℃、250℃、400℃)で24時間加熱処理を行った。尚、加熱作業は全て大気中で行った。
【0112】
結果を表8に示す。試料17以外の全ての試料で、105℃処理の場合に最も強度が高くなる傾向が見られ、強度は14〜44MPaとなり、いずれも室温養生28日の場合の強度を上回る強度を示した。
【0113】
【表8】

【0114】
以上の結果から、レンガ・ブロック等の成形物の製造に本発明を用いる際には、室温養生の他に、低温での加熱乾燥処理を行うことが有効であると判断された。
【0115】
(実施例5)
実施例3で得られた試料2、6、11、17、25、28と、実施例4で得られた試料を粉砕し、粉末X線回折法により試料中に含まれている鉱物種の同定を行った。尚、粉末X線回折法は、リガク粉末X線回折装置 RINT2000を使用して実施した。測定条件は以下の通りとした。
・X線:CuKα(1.542Å)
・スキャンステップ:0.02deg
・スキャンスピード:1.2deg/分
・XG管電圧:50kV
・管電流:250mA
・発散スリット:1/4deg
・散乱スリット:1/4deg
・受光スリット:0.15mm
・スキャンモード:2θ/θ
【0116】
代表的なX線回折波形として実施例3で得られた試料6の測定結果を図1に示す。★を付したピークが石膏(gypsum)に帰属されるピークであり、△を付したピークが石英/ベルリナイト(quarts/berlinite)に帰属されるピークであり、◎を付したピークがムライト(mullite)に帰属されるピークであり、▲を付したピークがAlPO(tridymite)に帰属されるピークである。
【0117】
各種加熱条件におけるX線回折波形の帰属結果を表9に示す。尚、表9における「vs」、「s」、「m」、「w」、「vw」、「tr」は、XRDスペクトルのピーク強度の大きさを示す指標であり、ピーク強度の大きい方から順に記載すると、「vs(very strong)」>「s(strong)」>「m(medium)」>「w(weak)」>「vw(very weak)」>「tr(trace)」となる。
【0118】
【表9】

【0119】
室温養生試料に例外なく存在していた石膏(gypsum)のピークが、250℃加熱試料、400℃加熱試料では消失することが確認された。また、半水石膏(bassanite)のピークは、105℃加熱試料、250℃加熱試料において存在し、400℃加熱試料ではほぼ消失することが確認された。無水石膏(anhydrite)のピークは、105℃加熱試料、250℃加熱試料、400℃加熱試料において存在し、400℃加熱試料でピーク強度が最大となることが確認された。ムライト(mullite)のピーク強度は、加熱温度による変化が小さかった。また、2θ=26.6付近のピークは、ベルリナイトと石英のピークが重複したものであった。
【0120】
(実施例6)
アルカリ性が低いため(pH12未満)、硬化反応の有無が下水汚泥焼却灰の性状に依存していたG灰について、水酸化アルミニウムを補助硬化剤として2.5〜10重量%添加した結果を表10に示す。
【0121】
【表10】

【0122】
表10に示される結果から、水酸化アルミニウムの添加量が多くなる程、固化までの所要時間が短くなることが明らかとなった。このように、pH12未満の石炭灰については、水酸化アルミニウムを併用することにより、固化することが可能であることが明らかとなった。
【0123】
(実施例7)
表8に示す試料(23種)を粉砕し、固液比L/S=10 リットル/kgで6時間振とう後に、溶出液のpHを測定した。各試料の一軸圧縮強度と溶出液のpHとの関係を図2に示す。
【0124】
図2に示される結果から、いずれの試料もpH3.0〜4.7程度の弱酸性を示し、アルカリ性を呈しないことが確認できた。したがって、本発明の固化体は、土壌をアルカリ性にして作物生育に悪影響を及ぼすことのない石炭灰肥料として使用可能であることが明らかとなった。
【0125】
また、一軸圧縮強度と溶出液のpHとの関係については、一軸圧縮強度が30MPaを超える試料はpH3.7よりも酸性側に分布する傾向にあることが明らかとなった。また、pH4.0を超える試料の一軸圧縮強度は10〜20MPaの範囲にあり、pHの高い試料の一軸圧縮強度は低くなる傾向にあった。
【0126】
さらに、室温硬化試料と加熱試料との関係を見ると、加熱処理後もpH3.7以下を示す場合には加熱による強度増加があり、加熱処理前にpH4以上となっている試料については、加熱処理後はpHがさらに上昇し、加熱による強度の増加が見られないことが明らかとなった。
【0127】
尚、図2には、アルミニウム含有量を●の大きさで表示したが、アルミニウム含有量の多い試料の方がpHがやや低い値を示す傾向にあり、石炭灰のアルカリ分に起因するpHの上昇に対して、アルミニウムが緩衝作用を持っていることが予想された。
【0128】
(実施例8)
水酸化マグネシウムの硬化促進剤としての効果について検討した。
【0129】
表11に示す配合比とした以外は実施例3と同様の方法で固化体を製造した。
【0130】
【表11】

【0131】
表11に示すように、下水汚泥焼却灰(B灰)100gに対して水酸化アルミニウムを5g添加した試料aは硬化が起こらなかったが、これに水酸化マグネシウムを1g添加した試料bは、硬化反応が生じて1日以内に固化体となった。また、脱リン灰100gに対して水酸化アルミニウムを10g添加した試料gでは固化体が得られるまでに1日以上を要したが、これに水酸化マグネシウムを1g添加した試料hは、1日以内に固化体となった。
【0132】
このように、水酸化マグネシウムを添加することで、固化体が得られないまたは得られ難い条件下においても、固化体を1日以内に製造し得ることが明らかとなった。このことから、水酸化マグネシウムは、硬化促進剤として機能し得ることが明らかとなった。
【0133】
尚、本実験では、酸性スラリーのpHを1.8〜2.0とした場合にも、酸性スラリー自体が硬化反応を起こすことなく、水酸化アルミニウムを添加することで硬化反応が進行し、数時間は流動性を保持して、1日以内に固化することが確認できた。そこで、酸性スラリーのpHを2.3程度まで上昇させてみたところ、pH2.0の場合と同様、酸性スラリー自体が硬化反応を起こすことなく、水酸化アルミニウムを添加することで硬化反応が進行し、数時間は流動性を保持して、1日以内に固化することが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有バイオマス焼却灰及びリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰のいずれか一方あるいは双方を固化対象物とし、これに酸溶液とアルカリ性のアルミニウム含有物とを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を養生する養生工程とを含むことを特徴とする固化体の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程において、前記固化対象物と前記酸溶液とを混合してpH0.7〜2.3の酸性スラリーを調製した後、前記酸性スラリーに前記アルミニウム含有物を混合して前記混合物を得る請求項1に記載の固化体の製造方法。
【請求項3】
前記混合物の流動性が保持されている間に前記混合物を型枠に流し込む請求項2に記載の固化体の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム含有物は、pH12以上の石炭灰、水酸化アルミニウム、またはpH12未満の石炭灰と水酸化アルミニウムの組み合わせである請求項1に記載の固化体の製造方法。
【請求項5】
硬化促進剤として水酸化マグネシウムを混合する請求項1に記載の固化体の製造方法。
【請求項6】
前記養生工程は、室温で少なくとも1日行う請求項1に記載の固化体の製造方法。
【請求項7】
前記養生工程に次いで、さらに80℃〜1300℃で3〜48時間の加熱乾燥工程を行う請求項6に記載の固化体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の製造方法により得られる固化体。
【請求項9】
被硬化液と前記被硬化液の硬化を開始させて固化体とするための硬化開始剤とを含む固化体製造用材料セットであり、
前記被硬化液は、リン含有バイオマス焼却灰及びリン含有バイオマス焼却灰のリン抽出処理残渣である脱リン灰のいずれか一方または双方を固化対象物として、これに酸溶液が混合されて調製されたpH0.7〜2.3の酸性スラリーであり、
前記硬化開始剤は、アルカリ性のアルミニウム含有物であることを特徴とする固化体製造用材料セット。
【請求項10】
前記アルミニウム含有物が、pH12以上の石炭灰、水酸化アルミニウム、またはpH12未満の石炭灰と水酸化アルミニウムの組み合わせである請求項9に記載の固化体製造用材料セット。
【請求項11】
硬化促進剤としての水酸化マグネシウムをさらに含む請求項9に記載の固化体製造用材料セット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−245404(P2011−245404A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120150(P2010−120150)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】