説明

固定サッシの結露排水構造

【課題】固定サッシの結露排水構造として、下枠のガラス溝を通って排水するタイプを採用しているにも拘わらずガラス溝内部の湿気によるガラスへの悪影響を回避できるようにする。
【解決手段】室内側のガラス面に結露した結露水を下枠2のガラス溝4を通って室外に排水する固定サッシ1の結露排水構造において、ガラス溝4の内部に、結露水の流路の周囲をガラス溝4の内部空間と隔離する仕切り体Aを設ける。仕切り体Aは、ガラス溝4の内部に設置された下向き開放の溝状部材13や排水パイプ14によって構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば集合住宅や屋内プールの嵌め殺し窓(FIX窓)等を構成する固定サッシにおいて室内側のガラス面に結露した結露水を下枠に形成した排水路によって室外に排水する固定サッシの結露排水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅等の固定サッシおいて、結露水を下枠に形成した排水路によって室外に排水する結露排水構造には、図7の(A)に示すように、下枠2のガラス溝4を通って排水するタイプと、図7の(B)に示すように、ガラス溝4を通らずに排水するタイプ(特許文献1)とがある。図中の5はガラス溝4の底面に適当間隔おきに設置されたセッティングブロックであり、ガラス30の下端面(小口)を局部的に支えている。セッティングブロック5によって所々を支えられたガラス30の小口は、ガラス溝4の内部空間に露出している。6はガラス30の内外両側面とガラス溝4の上端開口との間をシールするシール材、7はそのバックアップ材である。8は排水弁であり、球形あるいは他の形式の弁体を備えた逆止弁機構となっており、結露水は重力で排水するが、外部風により弁体が閉動して、外部風による雨水の吹込みや結露水の逆流を防止できるように構成されている。12は取付ビスのねじ込み用凹部である。
【0003】
ガラス溝4を通らずに排水するタイプは、ガラス溝4の下方に排水路を形成するための底板部分2aが必要であるため、固定サッシ1における下枠2の断面形状が前者(ガラス溝4を通って排水するタイプ)よりも複雑化し、アルミ押出し成形用ダイスの形状が複雑化するばかりでなく、下枠2の長手方向両端と固定サッシ1の縦枠とをビス止めする取付ビスの必要本数が増え、それに伴って、縦枠と下枠2の両端面との間に介装されるマットシーラーに対するビス孔の加工数も増え、これらがコスト増の要因となる。殊に、住戸数が多くて、固定サッシの数量が多い集合住宅においては、サッシ価格とビス止め関連費用によるコスト増が看過できない金額となっている。
【0004】
このため、固定サッシの結露排水構造としては、低コスト化の観点から、近年では、図7の(A)のように、ガラス溝4を通って排水するタイプが主流を占めつつある。
【0005】
しかし、このタイプにおいては、ガラス溝4の内部が結露水によって湿潤な状態となるので、FIX窓のガラス30として網入りガラスを用いた場合、セッティングブロック5で局部的に支えられている網入りガラスの小口(下端面)が長時間にわたって湿気に曝されることになり、錆の発生と、それに起因するガラスの破損という問題が生じる。
【0006】
即ち、図6の(A)、(B)に示すように、網入りガラス3を切断する際、金網3aの一部が引き伸ばされつつガラス部分が切断されるから、網入りガラス3の切断端面には、図6の(C)に示すように、引き伸ばされて切断された金網端部3bが突出した状態となる。この突出した金網端部3bは、図6の(D)に示すように、折り曲げられ、その上から、図6の(E)に示すように、防錆処理3cされる。
【0007】
従って、この防錆処理3cが不完全であったり、防錆処理3cの耐久性に問題があった場合、この部位がガラス溝4の内部空間に位置し、長期間、湿潤な状態に保たれることによって、錆が発生し、錆による金網の膨張によってガラスの割れに繋がり、ガラス本来の性能が長期間維持できなくなる可能性がある。
【0008】
同様な問題は、FIX窓のガラスとして合わせガラスを用いた場合にも生じ得る。即ち
、図7の(A)に示すタイプにおいては、合わせガラスの小口がガラス溝の内部空間に露出した状態に位置し、長期間、湿潤な状態に曝されると、合わせガラスの中間膜が白く変化(ガラス周辺部)する現象が生じ、ガラスの透明度が低下するといった問題が発生して、長期的な機能維持の妨げとなる可能性がある。
【0009】
尚、特許文献2〜特許文献4に示すような引き違い式の障子を構成する可動サッシにおいては、障子の下框に形成されるガラス溝がシール材で満たされており、ガラスの小口がこのシール材に埋没していて、シール材が破損・劣化しない限り、ガラスの小口が湿気に触れることがないので、原理的に、上記の問題は発生しない。
【0010】
【特許文献1】特開平10−30382号公報
【特許文献2】実開平6−45070号公報
【特許文献3】特開2002−227546号公報
【特許文献4】特開2004−238962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題点を踏まえて成されたものであって、その目的とするところは、固定サッシの結露排水構造として、下枠のガラス溝を通って排水するタイプを採用しているにも拘わらずガラス溝内部の湿気によるガラスへの悪影響を回避できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明が講じた技術的手段は、次のとおりである。即ち、請求項1に記載の発明は、室内側のガラス面に結露した結露水を下枠のガラス溝を通って室外に排水する固定サッシの結露排水構造であって、ガラス溝の内部に、結露水の流路の周囲をガラス溝の内部空間と隔離する仕切り体を設けたことを特徴としている。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の固定サッシの結露排水構造であって、仕切り体が、ガラス溝の内部に設置された下向き開放の溝状部材によって構成されていることを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の固定サッシの結露排水構造であって、仕切り体が、ガラス溝の内部に設置された排水パイプによって構成されていることを特徴としている。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の固定サッシの結露排水構造であって、排水パイプの一端を下枠の室内側凹部に設けられた排水弁の排出口に連結し、他端をガラス溝の底板部に形成した流出口より下方に突出させてあることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、ガラス溝の内部に、結露水の流路の周囲をガラス溝の内部空間と隔離する仕切り体を設けたので、固定サッシの結露排水構造として、下枠のガラス溝を通って排水するタイプを採用しているにも拘わらず結露水を隔離した状態で排水することになり、ガラス溝の内部空間が結露水の蒸発によって湿潤状態になることがない。従って、ガラス溝内部の湿気によるガラスへの悪影響を回避でき、固定サッシの品質を長期間にわたって確保できる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、下向き開放の溝状部材をガラス溝の内部に付加するだけの簡単な構成によって、結露水をガラス溝の内部空間と隔離した状態で排水することが
できる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、結露水の排水パイプをガラス溝の内部に付加するだけの簡単な構成によって、結露水をガラス溝の内部空間と隔離した状態で排水することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、排水パイプと下枠の室内側凹部に設けられる排水弁とを一体物として取り扱うことができ、下枠に対する排水弁の取付けとガラス溝への排水パイプの配管とを同時に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3は、本発明に係る固定サッシの結露排水構造の一例を示す。図中の1は、嵌め殺し窓(FIX窓)を構成する固定サッシであり、上枠(図示せず)と、下枠2と、それらの端部にマットシーラー(図示せず)を介してビス止めされた一対の縦枠(図示せず)とから成るアルミ製の方形枠体と、それに固定状態に嵌め込まれた網入りガラス3等で構成されている。4は下枠2に形成したガラス溝である。5はガラス溝4の底面に適当間隔おきに設置されたセッティングブロックであり、網入りガラス3の下端面(小口)を局部的に支えている。セッティングブロック5によって所々を支えられた網入りガラス3の小口は、ガラス溝4の内部空間に露出している。6は網入りガラス3の内外両側面とガラス溝4の上端開口との間をシールするシール材、7はそのバックアップ材である。
【0021】
8は下枠2の室内側凹部9に設けられた逆止弁機構を有する既知構造の排水弁である。室内側のガラス面に結露した結露水は、下枠2の室内側凹部9に流下し、排水弁8から重力で排水されるが、外部風による雨水の吹込みや結露水の逆流は防止されるように構成されている。排水弁8の排出口aから出た結露水は、下枠2のガラス溝4を通って室外へと排水されるように構成されている。bはガラス溝4の室内側の立上り板部10に形成された結露水の流入口、cはガラス溝4の底板部11に形成された結露水の流出口である。12は、下枠2の長手方向両端と図外の縦枠とをビス止めする取付ビス(図示せず)のねじ込み用凹部である。
【0022】
ガラス溝4の内部には、流入口bから流出口cにかけて形成される結露水の流路の周囲をガラス溝4の内部空間と隔離する仕切り体Aとして、下向き開放の溝状部材13がガラス溝4を横切る方向に設置されている。図示の溝状部材13は、下端にリップ13aが折曲連設された一対の側板部13bと、その上端に折曲連設された天板部13cとで形成され、リップ13aをガラス溝4の底面に接着等の手段によって固定してある。
【0023】
上記の構成によれば、ガラス溝4の内部に、結露水の流路の周囲をガラス溝4の内部空間と隔離する仕切り体Aを設けたので、固定サッシ1の結露排水構造として、下枠2のガラス溝4を通って排水するタイプを採用しているにも拘わらず結露水をガラス溝4の内部空間と隔離した状態で排水することになり、ガラス溝4の内部空間が結露水の蒸発によって湿潤状態になることがない。
【0024】
従って、ガラス溝4内部の湿気によって網入りガラス3の小口の金網3aが錆が発生したり、錆による金網3aの膨張によってガラスが割れるといったガラス溝4内部の湿気によるガラスへの悪影響を回避でき、固定サッシ1の品質を長期間にわたって確保できる。
【0025】
尚、図示の溝状部材13はアルミ製であるが、ステンレス、ゴム、合成樹脂など他の材料で構成してもよい。また、溝状部材13の断面形状は、リップ無しのチャンネル状、半円形など他の形状であってもよい。
【0026】
図4は、本発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、前述した溝状部材13の奥行き寸法をガラス溝4の幅よりも短くして、溝状部材13の外端をガラス溝4の底板部11に形成した流出口cの外端位置で留める一方、溝状部材13の外端に蓋板部13dを設けて、溝状部材13の先端開口を閉塞した点に特徴がある。蓋板部13dは、天板部13cと一体に折曲形成してもよく、別部材を溝状部材13の先端開口に嵌合固定して蓋板部13dとしてもよい。この構成によれば、溝状部材13の奥行き寸法がガラス溝4の幅よりも短いので、ガラス溝4への溝状部材13の挿入設置作業が容易である。その他の構成、作用は、先の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0027】
図5は、本発明の他の実施形態を示し、前述した仕切り体Aが、ガラス溝4の内部に設置された排水パイプ14によって構成されている点に特徴がある。排水パイプ14の一端は下枠2の室内側凹部9に設けられた排水弁8の排出口aに連結されており、排水パイプ14の他端は、ガラス溝4の底板部11に形成した流出口cより下方に突出させてある。また、排水パイプ14は、ゴム、合成樹脂等の弾性材料によってフレキシブルに構成されているが、アルミ等の金属製であってもよい。さらにまた、排水パイプ14の断面の外殻形状は、流入口b及び流出口cの削孔形状と同型で、僅かに小さい寸法とすることが望ましい。例えば、排水パイプ14の断面が円型であれば、流入口b及び流出口cも円型に削孔されて、排水パイプ14の外径寸法は流入口b及び流出口cの内径寸法に比して、僅かに小さく取付に要する程度の寸法(0.5〜1.0mm)とされるのがよい。特に排水パイプ14が流出口cと当接する箇所(排水パイプ14が流出口cと接する円周方向の周囲)は、網入りガラス3を設置する前に不定形シーラント等(図示しない)により塞ぎ、外気を遮断することがより好ましい。
【0028】
上記の構成によれば、結露水の排水パイプ14をガラス溝4の内部に付加するだけの簡単な構成によって、結露水をガラス溝4の内部空間と隔離した状態で排水することができる。
【0029】
しかも、排水パイプ14と下枠2の室内側凹部9に設けられる排水弁8とを一体物として取り扱うことができ、下枠2に対する排水弁8の取付けとガラス溝4への排水パイプ14の配管とを同時に行うことができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態にのみ限定されるべきものではない。例えば、上述した実施形態においては、嵌め殺し窓(FIX窓)のガラスとして、網入りガラス3を用いたが、合わせガラスも用いて実施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態を示す要部の一部切欠き斜視図である。
【図2】要部の一部切欠き正面図である。
【図3】要部の縦断側面図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す要部の縦断側面図である。
【図5】本発明の他の実施形態を示す要部の縦断側面図である。
【図6】網入りガラスの切断状況の説明図である。
【図7】従来例の説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 固定サッシ
2 下枠
3 網入りガラス
3a 金網
3b 金網端部
3c 防錆処理
4 ガラス溝
5 セッティングブロック
6 シール材
7 バックアップ材
8 排水弁
9 室内側凹部
10 立上り板部
11 底板部
12 ねじ込み用凹部
13 溝状部材
13a リップ
13b 側板部
13c 天板部
13d 蓋板部
14 排水パイプ
30 ガラス
A 仕切り体
a 排出口
b 流入口
c 流出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内側のガラス面に結露した結露水を下枠のガラス溝を通って室外に排水する固定サッシの結露排水構造であって、ガラス溝の内部に、結露水の流路の周囲をガラス溝の内部空間と隔離する仕切り体を設けたことを特徴とする固定サッシの結露排水構造。
【請求項2】
仕切り体が、ガラス溝の内部に設置された下向き開放の溝状部材によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の固定サッシの結露排水構造。
【請求項3】
仕切り体が、ガラス溝の内部に設置された排水パイプによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の固定サッシの結露排水構造。
【請求項4】
排水パイプの一端を下枠の室内側凹部に設けられた排水弁の排出口に連結し、他端をガラス溝の底板部に形成した流出口より下方に突出させてあることを特徴とする請求項3に記載の固定サッシの結露排水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−293204(P2009−293204A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145336(P2008−145336)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】