説明

固定具

【課題】被加工物の形状によってその都度変化する被加工物の高さ位置に合わせて容易に高さ調整をすることができる固定具を提供する。
【解決手段】加工装置1に備えた固定具3は、中央にボルトを通す貫通孔6が形成され所定の段差を有する階段部7を備えた階段形状ブロック5と加工テーブル2の溝8に差し入れて移動できるヘッド10を備えるボルト9と、ワーク13A,13Bを押さえるプレート11とを備え、加工テーブル2とプレート11とでワーク13A,13Bを挟みボルト9とナット10とで締め付け固定する構造からなり、少なくとも2つの階段形状ブロック5の階段部7を水平方向に対向させて、対向する階段部7でワーク13A,13Bを支持することによりワーク13A,13Bの固定を容易にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を加工テーブルに固定するための固定具に関する。
【0002】
被加工物に対して切削等の加工を施す場合においては、被加工物であるワークを加工テーブルに対しボルトとナットとで締付け固定してから、加工手段によりワークを加工する(例えば、下記の特許文献1及び2を参照)。
【0003】
ここで、従来の固定具としては、例えば図6に示す2つの固定具30と図7に示す2つの固定具50とがある。図6に示すそれぞれの固定具30は、支持部31と、被加工物を固定する固定ブロック32と、ボルト33と、ナット34と、被加工物を支持するブロック35とを備えている。また、図7に示すそれぞれの固定具50は、被加工物の上面と加工テーブル20の上面高さの差と略同じ高さのブロック51と、被加工物を固定する固定ブロック52と、ボルト53と、ナット54とを備えている。
【0004】
図6に示すように、裏面に突起構造物41が形成されているワーク40を加工するときには、加工テーブル20にワーク40を直接固定すると突起構造物41が破損してしまうため、ワーク40を加工テーブル20から浮かせて固定することが必要となる。
【0005】
したがって、加工テーブル20とワーク40との間にブロック35を置くことにより突起構造物41が加工テーブル20に接触しないようにワーク40が嵩上げされる。そして、支持部31に支持される固定ブロック32をワーク40の上面に置いて加工テーブル20と固定ブロック32とをボルト33とナット34とで締め付け固定して加工テーブル20にワーク40を固定している。
【0006】
また、図7に示す固定具50のように、例えば5mm以上の厚みがあるワーク40Aを加工するときは、加工テーブル20の上面に直接ワーク40Aを置き、ワーク40Aの上面と加工テーブル20の上面高さの差と略同じ高さのブロック51を加工テーブル20に置く。そして、ブロック51の上面とワーク40の上面との間に固定ブロック52を渡して、加工テーブル20と固定ブロック52とをボルト53とナット54とで締め付け固定して加工テーブル20にワーク40Aを固定している。
【0007】
上記の如く構成される固定具においては、高さが異なるワークを加工する際に、それぞれのワークの高さに合わせてその都度高さ調整をする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−293626号公報
【特許文献2】特開2010−5710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6に示す固定具30を用いて、裏面に突起構造物が形成された被加工物を加工テーブルに固定する場合には、加工テーブルとワークとの間にブロックを設置しなければ、突起構造物が加工テーブルに接触して破損してしまう。したがって、被加工物の裏面にある突起構造物を加工テーブルと非接触状態にして被加工物を加工テーブルに容易に固定することが必要となっている。
【0010】
また、図7に示す固定具50によって高さが異なるワークを加工テーブルに固定する際には、高さの異なる複数のブロックを用意し、高さが異なる各々のワークに合わせてその都度ブロックの高さ位置をワークの高さ位置に調整する必要がある。したがって、このような固定具では、被加工物の高さが異なると、固定具による高さ調整を容易に行うことができないという問題がある。
【0011】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、加工テーブルに被加工物を固定する場合において、形状によってその都度変化する被加工物の高さ位置に合わせて被加工物を固定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、被加工物が載置される加工テーブルと、固定具により該加工テーブルに固定された被加工物を加工する加工手段と、を少なくとも含む加工装置において、被加工物を加工テーブルに固定する固定具であって、該固定具は、中央にボルトを通す貫通孔が形成され所定の段差を有する階段部を備えた階段形状ブロックと、該加工テーブルの載置面の面方向に沿って移動できるボルトと、該被加工物を押さえるプレートと、を備え、該加工テーブルと該プレートとで被加工物を挟み該ボルトとナットとで締め付け固定する構造からなり、少なくとも2つの階段形状ブロックの階段部を水平方向に対向させて、対向する階段部で被加工物を支持することにより被加工物の固定を容易にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、中央にボルトを通す貫通孔が形成され所定の段差を有する階段部を備えた階段形状ブロックと、加工テーブルの載置面の面方向に移動できるヘッドを備えるボルトと、被加工物を押さえるプレートとを備えるため、裏面に突起構造物が形成された被加工物を加工テーブルに固定する場合であっても、突起構造物の高さにあわせて2つの対向する階段部の所定の段に被加工物を載せることにより、突起構造物と加工テーブルとを非接触状態とすることができ、その状態でナットをボルトに螺合させて締結することにより被加工物を加工テーブルに容易に固定することができる。
【0014】
さらに、本発明では、被加工物の高さに合わせて固定するために、ボルトが階段形状ブロックの所定の段差位置まで移動するとともに、被加工物を押さえるプレートを水平方向に対向する2つの階段部の所定の段に置くことができるため、被加工物の形状によってその都度変化する被加工物の高さ位置に合わせて容易に階段部に載置されるプレートの高さ位置を調整し、その調整した位置において被加工物を固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】突起を有する被加工物を固定具により加工テーブルに固定した状態を示す正面図である。
【図2】突起を有しない被加工物を固定具により加工テーブルに固定した状態を示す正面図である。
【図3】(A)は階段形状ブロックを示す平面図であり、(B)は階段形状ブロックを示す側面図である。
【図4】被加工物を3つの固定具により加工テーブルに固定した状態を模式的に示す平面図である。
【図5】被加工物を4つの固定具により加工テーブルに固定した状態を模式的に示す平面図である。
【図6】突起構造物を有する被加工物を固定する従来の固定具を示す正面図である。
【図7】所定の厚みを有する被加工物を固定する従来の固定具を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び2に示す加工装置1は、被加工物に対して加工を施す加工装置の一例であり、被加工物が載置される加工テーブル2と、被加工物を固定する固定具3と、加工テーブル2に固定された被加工物を加工する加工手段4と、を含む装置構成となっている。
【0017】
加工テーブル2の上面(載置面)2aには、図示の例では被加工物を加工テーブル2に固定する2つの固定具3が配設されている。加工テーブル2には、水平方向に延びる溝8が形成されている。溝8の両端は、加工テーブル2の両端において開口している。さらに、溝8は加工テーブル2の載置面2aから上方に向けて開口している。
【0018】
図1及び図2に示す2つの固定具3には、それぞれ所定の段差を設けた階段形状ブロック5と、加工テーブル2の溝8に差し入れるヘッド10を備えるボルト9と、被加工物を押さえるプレート11と、を備えている。
【0019】
階段形状ブロック5は、図3(A)に示すように、ボルトを通す貫通孔6が階段形状ブロック5の中央をくり貫いて長手方向に形成されている。また、図3(B)に示すように、階段形状ブロック5は、所定の段差を設けることで階段部7が形成されている。
【0020】
図3(A)に示す階段形状ブロック5の中央に形成された貫通孔6は、階段部7の最下段側が側方に開口し、階段部7の最上段側の中央付近で上方に閉口しており、階段部7の水平方向(図3(B)における横方向)を長手方向とする細長い形状に形成されている。なお、長手方向は、階段部7における各段の高さが変化する方向である。このような構成にすることにより、図1及び図2に示したボルト9が階段部7の最下段側から所定の段差位置まで移動できるようにしている。
【0021】
図1及び図2に示すように、2つの階段形状ブロック5は、それぞれ階段部7を水平方向に対向させて加工テーブル2の載置面2aに配設されている。このような階段部7を設けることにより、図1に示すように各段により被加工物の端部を支持できるため、裏面14bに突起構造物15が形成された被加工物を加工テーブル2の載置面2aから嵩上げして支持することができる。そして、突起構造物15が加工テーブル2の載置面2aに接触することを防止することができる。
【0022】
図1に示すボルト9は、加工テーブル2に形成された溝8に差し入れることができるヘッド10を備えている。すなわち、溝8には、ボルト9のヘッド10を差し入れる程度の空間が形成されている。したがって、ヘッド10を加工テーブル2の両端から溝8へ差し入れ、ボルト9を溝8から上方に開口された加工テーブル2の載置面2aから突出させることができる。
【0023】
ヘッド10は、溝8を矢印A1及びA2方向(載置面2aの面方向)に自在に移動することができる。したがって、ヘッド10の移動に併せてボルト9も矢印A1及びA2方向に移動することができるため、ボルト9は、加工テーブル2の載置面2aに配設された階段形状ブロック5の貫通孔6に通したままの状態で貫通孔6に沿って矢印A1及びA2方向に移動することができる。
【0024】
プレート11の中央部分にはボルトを通す貫通孔が形成されており、その貫通孔にボルト9を通すことができる。また、プレート11は、図1に示すボルト9を当該貫通孔に通した状態で、ナット12をボルト9に螺合させて締め付けることにより、被加工物を押さえ込むことができる。そして、加工テーブル2とプレート11とで被加工物を挟み込むようにして被加工物を加工テーブル2に固定することができる。このようにして、固定具3では、ボルト9のヘッド10が溝8を自在に移動可能な構成とし、ボルト9が階段形状ブロック5の所定の段差位置まで移動できるため、被加工物の高さを含めた形状に合わせて、被加工物を固定する間隔を可変として被加工物を加工テーブル2に固定することができる。
【0025】
加工手段4は、被加工物に対し加工を施す加工手段であればよく、特に限定されるものではない。
【0026】
以下においては、加工装置1における被加工物の保持例について説明する。
図1に示すワーク13Aは、裏面14bに突起構造物15が形成された被加工物の一例であり、図2に示すワーク13Bは、裏面14bに突起構造物が形成されていない被加工物の一例である。ワーク13A及び13Bの高さは、それぞれ裏面14bから表面14aまでの厚さである。
【0027】
図1に示すように、突起構造物15が形成されているワーク13Aを加工する場合には、ワーク13Aの裏面14b側を加工テーブル2の載置面2aに配設されている2つの階段部7の所定の段に載置する。すなわち、図1に示すように、突起構造物15の高さを考慮して突起構造物15と加工テーブル2の載置面2aとが接触しないようにワーク13Aの裏面14bの両端を、例えば2つの階段部7における最下段に載置する。これにより、突起構造物15と加工テーブル2とが非接触状態となり、ワーク13Aが加工テーブル2の載置面2aから嵩上げされる。なお、突起構造物の高さが図示の例よりも高い場合は、ワーク13Aの両端を、下から2段目、3段目、・・・に載置すればよい。
【0028】
ワーク13Aが2つの階段部7に載置されて加工テーブル2の載置面2aから嵩上げされると、加工テーブル2の溝8に差し入れた2つのヘッド10をそれぞれ溝8に沿って矢印A1またはA2方向(載置面2aの面方向)に移動させ、ボルト9をそれぞれの階段形状ブロック5の中央に形成された貫通孔6に通した状態のまま矢印A1またはA2方向に移動させる。
【0029】
それぞれのボルト9が階段形状ブロック5の所定の段差位置まで到達するまでヘッド10を移動させた後、それぞれのプレート11の貫通孔にボルト9をそれぞれ挿入し、プレート11をワーク13Aの高さと同じ高さの階段部7に載置する。その結果、図1に示すようにプレート11がワーク13Aの表面14a及び階段部7の所定の段の上面に載置される。
【0030】
ここで、ワーク13Aを加工テーブル2に固定するためには、ナット12をプレート11の貫通孔から上方にかけて突出したボルト9に螺合させ、ナット12でボルト9を締め付け固定する。この締め付け固定により、それぞれのプレート11がワーク13Aを押圧し、プレート11と階段部7及び加工テーブル2とでワーク13Aを挟み込んで加工テーブル2にワーク13Aを固定する。その後、加工手段4によりワーク13Aを加工する。
【0031】
図2に示すように、突起構造物が形成されていないワーク13Bを加工する場合には、ワーク13Bの裏面14b側を加工テーブル2の載置面2aに直接載置する。
【0032】
ワーク13Bが加工テーブル2の載置面2aに載置されたら、ボルト9をそれぞれの階段形状ブロック5に形成された貫通孔6に通した状態のまま、それぞれのボルト9が階段形状ブロック5の所定の段差位置に到達するまで矢印A1またはA2方向(載置面2aの面方向)に移動させる。
【0033】
図2の加工装置1の保持例では、ワーク13Bが加工テーブル2の載置面2aに直接載置されており、ワーク13Bの裏面14bから表面14aまでの厚みから求められるワーク13Bの高さと同じ高さの階段部7の所定の段にプレート11を載置する。その結果、図2に示すように、プレート11がワーク13Bの表面14a及び階段部7の上面に載置される。その後、図1に示した加工装置1と同様に、ボルト9とナット12とで締付け固定してワーク13Bを加工テーブル2に固定し、加工手段4によりワーク13Bを加工する。なお、例えばワーク13Bの厚みが図示の例よりも薄い場合は、プレート11を下から1段目または下から2段目の段に載置して固定すればよい。
【0034】
本実施形態に係る加工装置1が実際に利用される場合としては、既に加工が施された被加工物に対して追加工を施す場合が一例として挙げられる。例えば、加工不足によって所望の厚みに形成されていない被加工物に対して再度加工を施したり、被加工物の上面の一部分を切り落としたり、既に形成された被加工物の穴内面をさらに広げる場合などである。
【0035】
なお、図1及び図2の例では2つの固定具3を水平方向に対向させた例について説明したが、ワークの形状等に応じて固定具3を3つ以上使用することもある。例えば、図4に示すワーク13Cのように、一部が矩形状に欠けている欠け部130を有する形状のワークを固定する場合は、欠け部130以外の対向する2箇所を固定具3で加工テーブル2に固定するとともに、欠け部130については1つの固定具3で固定する。したがって、少なくとも2つの固定具3が水平方向に完全に対面していない場合もあり、2つの固定具3の水平方向の位置が多少ずれている場合もある。
【0036】
また、図5に示す円形のワーク13Dを加工テーブル2に固定する場合は、例えば図5に示すように、2つの固定具3を2組対向させて配置すると、ワーク13Dを加工テーブル2に安定的に固定することができる。
【符号の説明】
【0037】
1:加工装置
2:加工テーブル 2a:載置面
3:固定具
4:加工手段
5:階段形状ブロック
6:貫通孔
7:階段部
8:溝
9:ボルト
10:ヘッド
11:プレート
12:ナット
13A,13B,13C,13D:ワーク(被加工物)
14a:表面 14b:裏面
15:突起構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物が載置される加工テーブルと、固定具により該加工テーブルに固定された被加工物を加工する加工手段と、を少なくとも含む加工装置において、被加工物を加工テーブルに固定する固定具であって、
該固定具は、中央にボルトを通す貫通孔が形成され所定の段差を有する階段部を備えた階段形状ブロックと、
該加工テーブルの載置面の面方向に沿って移動できるボルトと、
該被加工物を押さえるプレートと、
を備え、
該加工テーブルと該プレートとで被加工物を挟み該ボルトとナットとで締め付け固定する構造からなり、
少なくとも2つの該階段形状ブロックの階段部を水平方向に対向させて、対向する階段部で被加工物を支持することにより被加工物の固定を容易にすることを特徴とする固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−72460(P2013−72460A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210621(P2011−210621)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】