説明

固定化微生物担体の製造方法及び排水処理装置

【課題】低濃度のプレポリマーを用い、且つ、耐磨耗性、破断時応力、変形時応力の面で優れた固定化微生物担体を製造する製造方法及び排水処理設備を提供する。
【解決手段】製造装置10は、分子量6000〜18000の第1プレポリマーと、第1プレポリマーの分子量に対して1/5〜1/45の分子量から成る第2プレポリマーと、微生物とを、プレポリマー比が1〜14になるように混合し、重合させることによって、包括固定化微生物担体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定化微生物担体の製造方法及び排水処理装置に係り、特に下水や工場廃水などの排水処理装置に用いられる固定化微生物担体の製造方法、及び、その方法で製造した担体を用いた排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水、工場廃水、農業排水などの排水処理方法として生物学的手法が知られている。生物学的手法は、物理学的手法と比較して安価なことから幅広く適用されており、代表的なものとして活性汚泥法があり、下水処理に多く用いられている。
【0003】
活性汚泥法では、硝化細菌によって排水の有機物除去や窒素除去を行うことが一般的に行われているが、活性汚泥内の硝化細菌は他の細菌と比較して増殖速度が遅く、十分に増殖しないうちに反応槽外へ流出してしまうという問題がある。特に冬場の低水温時においては、硝化細菌の細菌数が減少し、反応活性が著しく低下して水質汚染の要因となる。このため、硝化細菌等を反応槽内に高濃度に安定して保持する方法が種々検討されており、その手法として、微生物を担体に固定化する技術が実用化されている。
【0004】
微生物の固定化方法を大別すると、微生物付着型と微生物包括固定化型があり、その一方の担体を利用する排水装置や、両方の担体を用いる排水装置が知られている(たとえば特許文献1参照)。
【0005】
微生物付着型は、活性汚泥などの微生物内に、円筒状や立方体のプラスチック付着担体、波板、網状シート、ハニカム状充填材を充填することによって、その表面に微生物を自然付着させて保持する方法である。しかし、微生物付着型は、微生物の付着に必要な馴養期間が長く、付着後も菌が充填材から剥離して処理性能が不安定になるという問題がある。
【0006】
一方、微生物包括固定化型は、活性汚泥などの微生物を、ポリビニルアルコール、アクリルアミド、ポリエチレングリコールなどの分子化合物や寒天、アルギン酸などの天然材料内部に保持する方法である。この微生物包括固定化型は、微生物付着型よりも活性の立ち上がりや安定性に優れている。また、微生物包括固定化型に関しては、磁性体を含有した担体やpH指示薬を含有したもの、加熱、高圧殺菌処理を行って特定の微生物を優先的に担持させた担体など様々な機能を保有した担体や高性能な担体の開発が行われている。
【0007】
包括固定化型の微生物担体の製造方法としては、ゲル化材料と微生物を混合した後に重合反応や凍結・解凍処理などによって包括固定化を行う方法が知られている。たとえば、特許文献2には、分子量3500以上20000以下のプレポリマーと、分子量が71以上の架橋剤と、微生物とを混合させ、重合させることによって、担体を製造する方法が記載されている。
【0008】
ところで、固定化微生物担体(以下、単に担体という)を排水処理装置で使用する場合、担体は槽内の被処理液中に投入され、流動可能な状態で使用される。また、槽の出口にはスクリーンが設けられ、スクリーンによって担体の流出が防止される。したがって、担体が磨耗したり破断したりすると、担体がスクリーンから抜け出てしまうという問題が生じる。また、担体が弾性変形してスクリーンに詰まると、スクリーンが閉塞して処理水を引き出すことができなくなるという問題が生じる。このため、排水処理装置では、耐磨耗性、破断時応力(担体を押しつぶすのに必要な応力)、変形時応力(担体を半分に圧縮・変形させるのに必要な応力)の面で優れた担体が必要とされる。そこで、従来は、担体製造時に高濃度のプレポリマーを重合させることによって、十分な耐磨耗性、破断時応力、変形時応力を備えた担体を製造していた。
【特許文献1】特開2006−61879号公報
【特許文献2】特開2006−61097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、プレポリマーの濃度を高くした場合には、担体内の含水率が減るので微生物が増殖しにくくなり、担体の微生物保持量が低下するという問題や、プレポリマーの材料費が嵩張って担体の製造コストが高くなるという問題が生じる。
【0010】
このため、低濃度のプレポリマーを用いて固定化微生物担体を製造することが望まれており、その方法の一例が前述した特許文献2に記載されている。しかし、低濃度のプレポリマーを用いた場合には、耐磨耗性、破断時応力、変形時応力の面で優れた固定化微生物担体を製造することはできなかった。
【0011】
固定化微生物担体の性質を改善する方法としては、プレポリマー濃度を変える方法の他に、プレポリマー分子量を変える方法が知られている。しかし、分子量1500以下のような比較的低分子量のプレポリマーを用いた場合には、破断時応力が不足するという問題や、担体が磨耗してスクリーンから抜け出てしまうという問題が生じる。反対に、分子量6000以上の高分子量プレポリマーを用いた場合は、プレポリマー濃度が10%以下でも十分な破断時応力を保持させることができる反面、担体が弾性変形しやすくなり、スクリーンに詰まってスクリーンの閉塞が発生しやすいという問題が生じる。また、両者の中間分子量からなるプレポリマーを用いた場合には、両者の中間の性質の担体となるものの十分な破断時応力を得るには10%以上のプレポリマー濃度が必要であるという問題点があった。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、低濃度のプレポリマーを用い、且つ、耐磨耗性、破断時応力、変形時応力の面で優れた固定化微生物担体を製造することのできる固定化微生物担体の製造方法、及び、その製造方法で製造した担体を用いる排水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、分子量6000〜18000の第1プレポリマーと、該第1プレポリマーの分子量に対して1/5〜1/45の分子量から成る第2プレポリマーと、微生物とを、前記第1プレポリマー含量/前記第2プレポリマー含量で示されるプレポリマー比が1以上14以下になるように混合し、該混合液を重合させることによって、前記微生物が包括固定化された固定化微生物担体を製造することを特徴とする。
【0014】
本発明の発明者は、分子量6000〜18000の高分子量プレポリマーと、その分子量に対して1/5〜1/45の低分子量プレポリマーと、微生物とを、プレポリマー比が1以上14以下になるように混合し、重合させることによって、高分子プレポリマーの長所と低分子プレポリマーの長所とを兼ね備えた固定化微生物担体を製造することができるという知見を得た。
【0015】
本発明はこのような知見に基づいて成されたものであり、請求項1の発明によれば、分子量6000〜18000の高分子量プレポリマーと、その分子量に対して1/5〜1/45の低分子量プレポリマーと、微生物とを、プレポリマー比が1以上14以下になるように混合し、重合させるようにしたので、プレポリマー濃度が低くても、耐磨耗性、破断時応力、変形時応力の面で優れた固定化微生物担体を製造することができる。
【0016】
ここで、分子量とは、ある分子1molの質量のグラム単位をとったものをいう。分子量の測定は次に示す方法で実験的に求めることができる。
【0017】
例えば、蒸気あるいは気体の密度から、理想気体として振舞うものと仮定して求める方法、溶液の熱力学的な束一的性質から、沸点上昇又は凝固点降下を測定して求める方法、質量分析計で分子の相対量を直接測定する方法等である。
【0018】
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、前記第1プレポリマーと前記第2プレポリマーの合計濃度が、前記混合液全体の1〜9%であることを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載の如く1〜9%の低濃度プレポリマーを用いた場合であっても、耐磨耗性、破断時応力、変形時応力の面で十分な性能を有する固定化微生物担体を製造することができる。これにより、担体内の含水率を高めて微生物の活性を向上させることができるとともに、プレポリマーの材料費を抑えて製造コストを削減することができる。
【0020】
請求項3に記載の発明は請求項2の発明において、製造後の固定化微生物担体は、破断時応力が1kgf/cm以上であり、且つ、担体高さを半分に圧縮させるのに必要な応力が0.2kgf/cm以上であることを特徴とする。
【0021】
製造後の固定化微生物担体は、破断時応力が1kgf/cm以上であり、且つ、その高さを半分に圧縮させるのに必要な応力が0.2kgf/cm以上であることが好ましい。
【0022】
請求項4に記載の発明は請求項1〜3のいずれか1に記載の発明において、前記第1プレポリマーと前記第2プレポリマーとを混合し、該混合液に前記微生物を混合することを特徴とする。
【0023】
請求項4の発明によれば、粘性の高い第1プレポリマーを粘性の低い第2プレポリマーに混合して粘性を低下させた後、微生物を混合するようにしたので、微生物を均一に混合することができる。これにより、均一な微生物濃度の固定化微生物担体を製造することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、排水処理装置であって、請求項1〜4のいずれか1に記載の方法で製造された固定化微生物担体が投入され、且つ、該固定化微生物担体が流出することを防止するスクリーンを有する処理槽を備えたことを特徴とする。
【0025】
請求項5の排水処理装置は、固定化微生物担体がスクリーンから流出しにくく、且つ、固定化微生物担体がスクリーンに詰まりにくい。したがって、長期間にわたって高い生物処理性能を維持することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、分子量6000〜18000の高分子量プレポリマーと、その分子量に対して1/5〜1/45の低分子量プレポリマーと、微生物とを、プレポリマー比が1以上14以下になるように混合し、重合させるようにしたので、プレポリマー濃度が低くても、耐磨耗性、破断時応力、変形時応力の面で優れた固定化微生物担体を製造することができる。したがって、製造した固定化微生物担体をスクリーン付きの処理槽に投入した際に、担体がスクリーンから流出したりスクリーンに詰まったりすることを防止することができ、長期間にわたって高い生物処理性能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下添付図面に従って本発明に係る固定化微生物担体の製造方法及び排水処理装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0028】
図1は、本発明が適用される固定化微生物担体製造装置の構成を示すブロック図である。同図に示すように、製造装置10は主として、第1プレポリマー原料槽12、第2プレポリマー原料槽14、活性汚泥槽16、混合部18及び成形部20で構成される。
【0029】
活性汚泥槽16には、活性汚泥(微生物)が貯留されており、第1プレポリマー原料槽12には、分子量6000〜18000の高分子量プレポリマー(以下、第1プレポリマーという)が貯留される。また、第2プレポリマー原料槽14には、第1プレポリマーの分子量に対して1/5〜1/45の分子量から成る低分子プレポリマー(以下、第2プレポリマーという)が貯留される。
【0030】
本発明で使用される第1、第2プレポリマーとしては、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、3クロロ2ヒドロキシプロピルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2ヒドロキシメタクリレート、エチルメタクリレート、2ヒドロキシエチルアクリレート、2ヒドロキシプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、tブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールアクリレート、シリコン変性アクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、アクリロイルアキシエチルハイドロジェンサクシネート、ラウリルアクリレート、1,3ブチレングリコールジメタクリレート、1,4ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリプレングリコールジメタクリレート、2ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパン、2,2ビス4メタクリロキシエトキシフェニルプロパン、3,2ビス4メタクリロキシジエトキシフェニルプロパン、2,2ビス4メタクリロキシポリエトキシフェニルプロパン、エトキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2ビス4アクリロキシヒエトキシフェニルプロパン、2ヒドロキシ1アクリロキシ3メタクリロキシプロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリアクリレート、グリセリンPO付加トリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ウレタンアクリレート、ウレタンジメチルアクリレート、ウレタントリメチルアクリレート等である。
【0031】
第1プレポリマー原料槽12、第2プレポリマー原料槽14、活性汚泥槽16は、混合部18に接続されており、この混合部18において第1プレポリマー、第2プレポリマー、活性汚泥が混合される。なお、混合部の構成は特に限定するものではないが、たとえば攪拌翼を備えた攪拌槽やラインミキサーなどが用いられる。また、混合部18は、複数段に分けて設けてもよく、たとえば、第1プレポリマーと第2プレポリマーとを混合する第1混合部と、第1混合部の混合液に活性汚泥を混合する第2混合部で構成してもよい。
【0032】
混合部18は、成形部20に接続されており、混合部18で混合されて重合した処理液は、成形部20で所望の形状、たとえば立方体状や円筒状に加工される。
【0033】
次に、上記の如く構成された製造装置10で固定化微生物担体を製造する方法について説明する。
【0034】
まず、第1プレポリマー原料槽12に貯留された第1プレポリマーを混合部18に供給する。次いで、第2プレポリマー原料槽14に貯留された第2プレポリマーを混合部18に添加により供給する。その際、(第1プレポリマー含量/第2プレポリマー含量)で示されるプレポリマー比が1〜14、好ましくは3〜7になるようにする。また、第1プレポリマーと第2プレポリマーは、その合計濃度が全体の1〜9%、好ましくは3〜7%となるようにする。混合部18に供給された第1プレポリマーと第2プレポリマーは、この混合部18で均一に混合される。なお、第1プレポリマーと第2プレポリマーは同時に混合部18に供給するようにしてもよい。
【0035】
次に、活性汚泥槽16の活性汚泥を混合部18に供給する。これにより、プレポリマー混合液に活性汚泥が混合される。さらに、この混合液に重合開始剤、重合添加剤、架橋剤などを必要に応じて供給する。これにより、処理液内で重合反応が行われる。この重合反応は、過硫酸カリウムを用いたラジカル重合が最適であるが、紫外線や電子線を用いた重合、レドックス重合でもよい。また、過硫酸カリウムを用いた重合では、過硫酸カリウムの添加量を0.001〜0.25%、アミン系の重合促進剤を0.001〜0.5%添加することが好ましい。さらにアミン系の重合促進剤としては、βジメチルアミノプロピオニトリル、NNN’N’テトラメチルエチレンジアミンなどがよい。
【0036】
重合反応物は成形部20に供給され、この成形部20で切断処理などが施されて所望の形状に成形される。これにより、たとえば立方体状の固定化微生物担体が製造される。なお、滴下法によって球状の固定化微生物担体を製造するようにしてもよい。
【0037】
次に、本発明の作用を示す試験結果について説明する。
【0038】
この試験では、分子量7500の第1プレポリマーと分子量1100の第2プレポリマーとを合計濃度が6%となるように混合し、その混合液に活性汚泥を全体の3%となるように混合した後、重合促進剤0.1%、重合開始剤0.125%を添加して重合させ、固定化微生物担体を製造した。その際、異なる製造条件としてプレポリマー比を変えて担体A〜Lを製造し、各担体A〜Lについて破断時応力、変形時応力を評価した。また、各担体をスクリーン付きの硝化槽に投入して、スクリーン透過性、硝化活性についての評価を行った。なお、破断時応力は、一定の力で固定化微生物担体を圧縮し、担体が破断するときの単位面積あたりの圧縮力として測定した。変形時応力は、一定の力で固定化微生物担体を圧縮し、担体高さが半分に変形するときの単位面積あたりの圧縮力を測定した。試験結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

表1において、破断時応力は2.0kgf/cm以上を「◎」、1.0kgf/cm以上を「○」、それ以下を「×」とした。また、変形時応力は、0.4kgf/cm以上を「◎」、0.2kgf/cm以上を「○」、それ以下を「×」とした。耐磨耗性は、磨耗加速試験において30日経過後に重量が75%以上であったものを「◎」、50%以上であったものを「○」、それ以下を「×」とした。
【0040】
表1から分かるように、破断時応力はプレポリマー比に依存しており、プレポリマー比が大きい場合に破断時応力が大きくなるという結果になった。これは、高分子量である第1プレポリマーの比率が大きくなるほど、第1プレポリマーの影響を受けて破断時応力が大きくなるためである。したがって、破断時応力を考慮すると、プレポリマー比は大きいほど好ましい。具体的には、破断時応力が1.0kgf/cm以上になるプレポリマー比1.0以上(担体E〜L)が好ましく、破断時応力が2.0kgf/cm以上になるプレポリマー比3.0以上(担体F〜L)がより好ましい。
【0041】
変形時応力は、プレポリマー比が所定範囲のときに大きくなっており、プレポリマー比が1.0〜14.0で0.2kgf/cm以上になり、プレポリマー比が3.0〜7.0で0.4kgf/cm以上になっている。これは、プレポリマー比が小さくなると、低分子量である第2プレポリマーの影響を受けて担体強度が小さくなり、プレポリマー比が大きくなると、高分子量である第1プレポリマーの影響を受けて担体が弾性変形しやすくなるためと考えられる。したがって、プレポリマー比を上記の範囲にすることによって、高分子量である第1プレポリマーと低分子量である第2プレポリマーの両方の長所が得られると考えられる。図2は、変形時応力とスクリーンの透過圧力との関係を示している。同図に示すように、スクリーン透過圧力は変形時応力に依存しており、変形時応力が高いほど担体がスクリーンを透過しにくいという結果が得られた。たとえば、変形時応力が0.2kgf/cm以上の担体は60cmAqの透過圧力を受けてもスクリーンを透過せず、0.4kgf/cm以上の担体は100cmAqの透過圧力を受けてもスクリーンを透過しないという結果が得られた。この結果から、担体がスクリーンを透過することを防止するためには、変形時応力が高いことが好ましく、そのためには、プレポリマー比を1.0〜14.0にすることが好ましく、3.0〜7.0がより好ましいということが分かった。
【0042】
図3は、表1の担体E、G、Iに対し磨耗加速試験を行った際の担体重量変化を示したものである。同図に示すように、各担体は経過日数が増えるにつれて磨耗し、重量が減少する。この重量減少幅は担体によって異なり、プレポリマー比が大きいほど、重量減少幅が少なくなって耐磨耗性が高くなるという結果が得られた。これは、プレポリマー比が大きいほど、高分子量である第1プレポリマーの影響が大きくなり、高い耐磨耗性が得られるためである。この結果から、固定化微生物担体は、耐磨耗性の面で、プレポリマー比1.0以上が好ましく、3.0以上がより好ましいということが分かった。
【0043】
なお、第1プレポリマーの分子量を6000〜18000の範囲で変化させたり、第2プレポリマーの分子量を第1プレポリマーの分子量の1/45〜1/5の範囲で変化させて試験を行ったが、同様の結果が得られた。
【0044】
以上の試験結果から、分子量6000〜18000の第1プレポリマーと、その分子量の1/45〜1/5の分子量の第2プレポリマーとを、プレポリマー比1.0〜14.0、好ましくは3.0〜7.0となるように混合することによって、破損時応力、変形時応力、耐磨耗性の全ての面で優れた包括固定化微生物担体を製造できることが明らかになった。
【0045】
図4は、表1の担体E、G、Iを用いて連続硝化運転を行った際の性能評価結果を示している。この試験では、NH−N濃度が役40mg/Lの合成排水を原水として硝化処理を行い、処理後のNH−N濃度を測定した。図4の結果から分かるように、どの担体においても、90%以上の硝化率を得ることができた。図5は、表1のG担体と、G担体と同等のプレポリマー比であり、合計濃度が10、9、7%と異なるM、N、O担体を用いて行った連続消化運転の結果である。試験は図4と同様の試験条件で行った。その結果、担体による差異は見られず、ポリマー濃度が低い条件の担体においても十分な硝化性能が保持できたことが確認できた。また、プレポリマーの合計濃度が1%未満になると、第1プレポリマー、第2プレポリマーの分子量を変えても十分な強度の担体が得られないという結果になった。このため、プレポリマー合計濃度は、1〜9%が好ましく、3〜7%がより好ましい。
【0046】
図1に示した製造装置10では、分子量6000〜18000の第1プレポリマーと、その分子量の1/45〜1/5の分子量の第2プレポリマーとを、プレポリマー比1.0〜14.0、好ましくは3.0〜7.0となるように混合し、さらに活性汚泥を混合して重合させることによって包括固定化微生物担体を製造したので、プレポリマー濃度が10%未満の低い場合であっても、破損時応力、変形時応力、耐磨耗性の全ての面で優れた固定化微生物担体を製造することができる。
【0047】
また、製造装置10では、粘性の高い第1プレポリマーに粘性の低い第2プレポリマーを添加して混合させることによって全体の粘性を低下させた後、微生物を混合するようにしたので、微生物を均一に混合させることができる。これにより、製造後の固定化微生物担体は、各担体内の微生物濃度が略均一になり、排水処理装置において高い生物活性を得ることができる。
【0048】
さらに、製造装置10は、製造時のプレポリマー濃度を10%未満に低下させることができるので、プレポリマーの材料費を抑えて担体の製造コストを削減することができる。また、プレポリマー濃度を低下させたことによって、担体内の含水率が上がって担体内の微生物が増殖しやすくなるので、担体内の活性を高めることができ、排水処理装置において高い生物処理性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明が適用される製造装置の構成を示すブロック図
【図2】担体の変形時応力とスクリーン透過圧力との関係図
【図3】担体重量と経過日数の関係図
【図4】硝化性能評価を示す図
【図5】硝化性能評価を示す図
【符号の説明】
【0050】
10…製造装置、12…第1プレポリマー原料槽、14…第2プレポリマー原料槽、16…活性汚泥槽、18…混合部、20…成形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量6000〜18000の第1プレポリマーと、該第1プレポリマーの分子量に対して1/5〜1/45の分子量から成る第2プレポリマーと、微生物とを、前記第1プレポリマー含量/前記第2プレポリマー含量で示されるプレポリマー比が1以上14以下になるように混合し、該混合液を重合させることによって、前記微生物が包括固定化された固定化微生物担体を製造することを特徴とする固定化微生物担体の製造方法。
【請求項2】
前記第1プレポリマーと前記第2プレポリマーの合計濃度が、前記混合液全体の1〜9%であることを特徴とする請求項1に記載の固定化微生物担体の製造方法。
【請求項3】
製造後の固定化微生物担体は、破断時応力が1kgf/cm以上であり、且つ、担体高さを半分に圧縮させるのに必要な応力が0.2kgf/cm以上であることを特徴とする請求項2に記載の固定化微生物担体の製造方法。
【請求項4】
前記第1プレポリマーと前記第2プレポリマーとを混合し、該混合したプレポリマー混合液に前記微生物を混合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の固定化微生物担体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載の方法で製造された固定化微生物担体が投入され、且つ、該固定化微生物担体が流出することを防止するスクリーンを有する処理槽を備えたことを特徴とする排水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−283872(P2008−283872A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129272(P2007−129272)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】