説明

固定型等速自在継手

【課題】高作動角時においてケージに作用する荷重がより釣り合い均衡した状態となり、安定した高強度を得られることが可能なアンダーカットフリータイプの固定型等速自在継手を提供する。
【解決手段】外側継手部材33のトラック溝32の中心と内側継手部材36のトラック溝35の中心とが、それぞれ、継手中心面から軸方向両側に離間している。外側継手部材33のトラック溝32の中心又は内側継手部材36のトラック溝35の中心と継手中心面との間の軸方向距離をFとしたとき、外側継手部材33のトラック溝32の中心又は内側継手部材36のトラック溝35の中心と継手中心軸線までの距離である半径方向オフセット量をfrとし、最大作動角をθmaxとしたときに、Fとfrとの比R4(=F/fr)がR4≧tan[(θmax)/2)]である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定型等速自在継手に関し、特に、連結した駆動側と従動側の2軸間での角度変位にのみ許容するタイプであって、自動車や各種産業機械の動力伝達系において使用される8個のトルク伝達ボールを備えたアンダーカットフリータイプの固定型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
固定型等速自在継手には、ツェッパ型(BJ)(例えば特許文献1)やアンダーカットフリー型(UJ)等がある。ツェッパタイプの固定型等速自在継手は、図13に示すように、内球面1に複数のトラック溝2が円周方向等間隔に軸方向に沿って形成された外側継手部材3と、外球面4に外側継手部材3のトラック溝2と対をなす複数のトラック溝5が円周方向等間隔に軸方向に沿って形成された内側継手部材6と、外側継手部材3のトラック溝2と内側継手部材6のトラック溝5との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外側継手部材3の内球面1と内側継手部材6の外球面4との間に介在してボール7を保持するケージ8とを備えている。ケージ8には、ボール7が収容される窓部9が周方向に沿って複数配設されている。
【0003】
ケージ8は外側継手部材3の内球面及び内側継手部材6の外球面とそれぞれ球面接触している。外側継手部材3と内側継手部材6のトラック溝2,5のボール中心軌跡線の曲率中心(O2,O1)はそれぞれ継手中心Ojに対して対称な位置にある。言い換えれば、曲率中心O1と曲率中心O2は継手中心Ojから互いに逆方向に等距離、軸方向にオフセットしている。すなわち、外側継手部材3のトラック溝2を継手中心Ojから継手中心軸線Xに沿って継手開口側に所定距離だけオフセットさせ、内側継手部材6のトラック溝5を継手中心Ojから継手中心軸線Xに沿って継手奥部側に所定距離だけオフセットさせている。ここで、継手中心軸線Xは、継手の作動角が0°の状態で、外側継手部材3の軸線と内側継手部材6の軸線とを含む直線、継手中心面は、トルク伝達ボール7の中心を含み、継手中心軸線と直交する平面、継手中心Ojは、継手中心面と継手中心軸線との交点である。
【0004】
このため、外側継手部材3のトラック溝2と内側継手部材6のトラック溝5とで形成されトルク伝達ボールトラックは、軸方向の一方から他方へ向かって徐々に広がったくさび形状を呈する。各ボール7はこのくさび状のトルク伝達ボールトラック内に収容され、外側継手部材3と内側継手部材6との間でトルクを伝達する。すべてのボール7を継手平面(作動角の二等分線に垂直な平面)に保持するためケージ8が組み込まれている。
【0005】
また、ツェッパタイプの固定型等速自在継手には、6個のトルク伝達ボールを備えた構造のものが技術標準として長年にわたって使用され、性能・信頼性等の面で多くのユーザの支持を得てきたが、本出願人は、この技術標準としての6個ボールのゼッパジョイントと同等以上の強度、負荷容量および耐久性を確保しつつ、高効率で抜本的な軽量・コンパ
クト化を図った8個ボールのゼッパジョイントを開発し、既に提案した(例えば下記の特許文献1)。
【0006】
次に、UJタイプの固定型等速自在継手は、図14に示すように、内径面11に複数のトラック溝12が円周方向等間隔に軸方向に沿って形成された外側継手部材13と、外径面14に外側継手部材13のトラック溝12と対をなす複数のトラック溝15が円周方向等間隔に軸方向に沿って形成された内側継手部材16と、外側継手部材13のトラック溝12と内側継手部材16のトラック溝15との間に介在してトルクを伝達する複数のボール17と、外側継手部材13の内径面11と内側継手部材16の外径面14との間に介在してボール17を保持するケージ18とを備えている。ケージ18には、ボール17が収容される窓部19が周方向に沿って複数配設されている。
【0007】
この場合、外側継手部材13のトラック溝12は、トラック溝ボール中心軌跡線が円弧部となる奥側トラック溝12aと、トラック溝ボール中心軌跡線が外側継手部材軸線と平行なストレート部となる開口側トラック溝12bとからなる。奥側トラック溝12aは、その曲率中心O2を継手中心Ojから軸方向に外側継手部材13の開口側にずらしている。また、内側継手部材16のトラック溝15は、トラック溝ボール中心軌跡線が内側継手部材軸線と平行なストレート部となる奥側トラック溝15aと、トラック溝ボール中心軌跡線が円弧部となる開口側トラック溝15bとからなる。開口側トラック溝15bの曲率中心O1を継手中心Ojから軸方向に外側継手部材13の奥側トラック溝12aの曲率中心O2と反対側の奥側に等距離Fだけ離して設けている。
【0008】
このように、全域を円弧形状としているツェッパタイプに対して、UJタイプの外側継手部材13のトラック形状は、開口側がストレート形状のアンダーカットフリーとなっている。このため、BJタイプに比べて開口部でボール位置が外径側にあるためシャフト(内側継手部材に嵌入されるシャフト)と外側継手部材13のトラック溝12との干渉角が大きくなり、UJタイプはBJタイプに比べてより大きい作動角がとれる。また、UJタイプの外側継手部材13のトラック形状は、開口側においてストレート形状となっているために、ボール17の半径方向の移動量が外径側方向に大きくなり、それに対応してボール17を保持するためケージ18の外径も大きくすることになる。このことから外側継手部材13の内球面径は大きくなる。
【0009】
しかしながら、UJタイプは、外側継手部材13の内径面(内球面)を大きくすることで、外側継手部材13の円弧トラック溝が開口側にオフセットしていることによって、奥側のトラック深さは浅くなる。このため、前記したように外側継手部材13の内球面を大きくすると奥側トラック溝深さは更に浅くなる。ここで、トラック深さとは、回転状態でジョイント内部力解析を行い、一回転中でトラック内を軸方向および接触角方向に移動するボールの接触楕円が最も球面に近づく位置でのボール接触点から球面までの距離として現した。
【0010】
また、ボール7,17のケージ8,18での保持とトラック深さの確保から、同じサイズにおいてUJタイプはツェッパタイプに比べてボール径を大きく、またボールのピッチ円PCD、延いては外側継手部材外径も大きくしている。
【0011】
図14に示すUJタイプでは、外側継手部材奥側トラック深さの確保に効果のあるケージオフセット形状としている。すなわち、継手中心Ojに対して、ケージ18の外球面18aの中心O4を軸方向開口側へfcだけオフセットさせ、ケージ18の内球面18bの中心O3を軸方向奥側へfcだけオフセットさせている。このようなケージオフセットタイプを、トラック方向ケージオフセットと呼ぶ。なお、図14において、faは、トラック溝12の曲率中心O2と外側継手部材13の内径面の曲率中心との軸方向距離、又は、トラック溝15の曲率中心O1と内側継手部材16の外径面の曲率中心との軸方向距離である。
【0012】
近年、6個ボールタイプに比べ外径がコンパクト化された8個ボールのUJタイプの継手も提案されている(特許文献1)。8個ボールのUJタイプの継手は、6個ボールよりも小さいボール径としているため、ボールの大きさ,個数によらずPCR(外側継手部材のトラック溝の円弧中心または内側継手部材のトラック溝の円弧中心とボールの中心とを結ぶ線分の長さ)とオフセット量とで決まる前記の半径方向移動量に相当するケージの半径方向寸法(厚み)を確保できるようにオフセット量を小さく設定するとともに、図14に示すように、ケージオフセットを採用している。
【0013】
そして、このような8個のUJタイプではさらなる耐久性向上には、高角時の向上が重要な課題とされている。
【0014】
ところで、従来には、6個ボールのツェッパタイプにおいて、トラック溝の中心を継手中心軸線から該トラック溝に対して半径方向反対側に離間した位置にオフセットさせることが開示されている(特許文献2、特許文献3、及び特許文献4)。
【0015】
特許文献2では、外側継手部材のトラック溝を、継手中心を中心とする開口側第1案内溝と、継手中心から半径方向反対側にオフセットされた点を中心とする奥側第2案内溝とで形成している。また、内側継手部材のトラック溝を、継手中心から継手中心軸線に沿って奥側にオフセットされた点を中心とする奥側第2トラック溝と、この奥側第2案内溝の中心からさらに半径方向反対にオフセットされた点を中心とする開口側第2案内溝とで形成している。
【0016】
このような構成とすることにより、外側継手部材の奥側第1案内溝の溝深さが大きくなり、また、内側継手部材の開口側第2案内溝の部分で内側継手部材の肉厚が大きくなるので、継手が高作動角を取ったとき、ボールが外側継手部材の奥側第1案内溝に乗り上げて該溝のエッジ部分が欠けてしまうことがなくなり、また、ボールからの負荷によって内側継手部材が損傷してしまうことがなくなる。
【0017】
特許文献3では、外側継手部材のトラック溝の中心と内側継手部材のトラック溝の中心を、それぞれ、直径方向面(継手中心面)から軸方向両側に等距離だけ離間し、かつ、継手中心軸線から半径方向反対側に所定量だけ離間した位置にオフセットさせている。このような構成とすることにより、継手が最大作動角を取り、ボールが外側継手部材のトラック溝の入口縁部に極めて接近した状態において、ボールとトラック溝との接触力が小さくなり、トラック溝の入口縁部の損傷が防止される。
【0018】
特許文献4では、外側継手部材のトラック溝及び内側継手部材のトラック溝の溝中心線の曲率中心が、継手中心面の両側に偏心され、かつ溝中心線と軸心とを含む平面上でこの軸心を越えた反対側にあるように設定している。これによって、継手角の最大許容角度を大きくでき、外側継手部材の外径を大きくすることなく強度を確保するようにしている。
【0019】
また、従来には、走行特性等に影響を与えることなく最大屈曲角度を増大できるようにするものがある(特許文献5)。すなわち、特許文献5では、走行路の基底と継手回転軸線との間の距離を、最大値を取る点から出発して、軌跡曲線の接線と継手回転軸線との間の交差角が単調に増加するようにしたものである。
【0020】
ツェッパタイプの等速自在継手において、トラック溝の中心の軸方向オフセット量(トラック溝の中心と継手中心面との軸方向距離)を小さくし、あるいは、半径方向オフセット量(トラック溝の中心と継手中心軸線との半径方向距離)を設けると、継手回転中のトラック荷重(トルク伝達ボールとトラック溝との接触部に作用する荷重)のピーク値が上昇する傾向がみられる。引用文献2、3では、6個ボールのゼッパジョイントについて、トラック溝の中心に半径方向オフセットを設けているが、これは最大作動角又はその近傍の高作動角域でのトラック溝側壁部分の損傷防止に配慮したものであり、低作動角域及び中作動角域での耐久性確保の課題は全く考慮されていない。
【0021】
特に、前記特許文献2〜特許文献4に記載のものでは、いずれも6個ボールであり、しかも、トラック溝が単一の円弧部から構成されるものである。また、特許文献5においても、6個ボールであり、しかも、トラック溝のストレート部を有さないものである。このため、8個ボールでのUJタイプの等速自在継手において、低作動角時の耐久性を確保しつつ、高作動角でのトルク容量の向上を図ることが可能なものは従来には存在しなかった。
【0022】
そこで、低作動角時の耐久性を確保しつつ、高作動角でのトルク容量の向上を図ることが可能な8個ボールでのアンダーカットフリータイプの固定型等速自在継手が提案された(特許文献6)。
【0023】
すなわち、特許文献6に記載の等速自在継手は、8個ボールでのアンダーカットフリータイプであって、外側継手部材のトラック溝の中心と前記内側継手部材のトラック溝の中心とが、継手中心軸線からこれらトラック溝に対して半径方向反対側に離間した位置にオフセットされたものとする。そして、FとRtとの比R1(=F/Rt)やfrとRtとの比R3(=fr/Rt)等の数値限定から耐久性と高角強度を向上させるものである。Fは外側継手部材のトラック溝の中心と継手中心面との間の軸方向距離であり、Rtは外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記トルク伝達ボールの中心との間の距離であり、frは外側継手部材のトラック溝の中心継手中心軸線までの距離である半径方向オフセット量である。
【0024】
また、従来には、外側継手部材のトラック溝の中心と前記内側継手部材のトラック溝の中心とが、継手中心軸線からこれらトラック溝に対して半径方向反対側に離間した位置にオフセットされたものにおいて、継手中心面と前記継手中心軸線との交点を継手中心、前記外側継手部材の案内溝の中心と前記継手中心とを含む直線が前記継手中心面となす角度をβ(°)としたとき、15°≦β<24°としたものがある(特許文献7)。これによって、継手の耐久性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開平9-317783号公報
【特許文献2】特開平4−228925号公報
【特許文献3】特表2002−541395号公報
【特許文献4】特開平8−128454号公報
【特許文献5】特開昭59−106724号公報
【特許文献6】特開2009−299810号公報
【特許文献7】特開2008−151182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかしながら、前記特許文献6では、特許文献2〜特許文献5に記載の等速自在継手が具備する課題を解決することができた。しかしながら、特許文献6に記載の等速自在継手において、解放角(又はR1)を小さく設定し高作動角をとった場合、ケージが継手中心線においてトルクバランスが均衡不可能な位置が生じる場合がある。このような位置が生じれば、高作動角における強度面において重大な欠点となりうる。また、前記特許文献7に記載の等速自在継手であっても、同様に不安定な位置が生じるおそれがある。
【0027】
本発明の課題は、高作動角時においてケージに作用する荷重がより釣り合い均衡した状態となり、安定した高強度を得られることが可能なアンダーカットフリータイプの固定型等速自在継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の固定型等速自在継手は、内径面に軸方向に延びるトラック溝を形成した外側継手部材と、外径面に軸方向に延びるトラック溝を形成した内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝とこれに対応する内側継手部材のトラック溝とが協働して形成されるトルク伝達ボールトラックにそれぞれ配されたトルク伝達ボールと、トルク伝達ボールを保持するポケットを有するケージとを備え、外側継手部材のトラック溝底面及び内側継手部材のトラック溝底面に曲線部とストレート部を有するアンダーカットフリータイプの固定型等速自在継手であって、継手の作動角が0°の状態で、前記外側継手部材の軸線と前記内側部材の軸線とを含む直線を継手中心軸線、前記トルク伝達ボールの中心を含み、前記継手中心軸線と直交する平面を継手中心面としたとき、前記外側継手部材のトラック溝の中心と前記内側継手部材のトラック溝の中心とが、それぞれ、前記継手中心面から軸方向両側に離間し、前記継手中心軸線からこれらトラック溝に対して半径方向反対側に離間した位置にオフセットされ、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心面との間の軸方向距離をFとしたとき、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心軸線までの距離である半径方向オフセット量をfrとし、最大作動角をθmaxとしたときに、Fとfrとの比R4(=F/fr)がR4≧tan[(θmax)/2]であるものである。すなわち、最大作動角を50degとしたときに、Fとfrとの比R4(=F/fr)がR4≧0.466とする。また、R4≦0.521とする。
【0029】
最大作動角(50度程度)を取ったときであっても、この等速自在継手では、R4≧[tan(θmax)/2]に設定しているので、外側継手部材の最も奥側に位置するボール37のくさび角(開放角)が継手開口側を向くことになる。このため、ケージの回転力が抑制され釣り合った状態となって、安定した状態を維持できる。また、R4を増加させると球面力が増加する関係がある。球面力の増加は発熱量の増加につながり、高角度の耐久性の低下につながる。したがって、R4は出来る限り小さく設定することが好ましく、また、R4≧tan[(θmax)/2]と設定するのが好ましいことから、R4=tan(θmax/2)が最適である。これに対して、R4<tan[(θmax)/2]の場合、高作動角においてケージに回転力が作用して、不安定な状態となる。
【0030】
外側継手部材のトラック溝とこれに対応する内側継手部材のトラック溝とが協働して形成されるトルク伝達ボールトラックが6本であるようにできる。
【0031】
また、外側継手部材のトラック溝とこれに対応する内側継手部材のトラック溝とが協働して形成されるトルク伝達ボールトラックが8本であって、ケージの外球面の中心とケージの内球面の中心とが一致し、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記トルク伝達ボールの中心との間の距離をRt、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心面との間の軸方向距離をFとしたとき、FとRtとの比R1(=F/Rt)が0.061≦R1≦0.087であり、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心軸線までの距離である半径方向オフセット量をfrとしたとき、frと前記Rtとの比R3(=fr/Rt)が0.07≦R3≦0.19であるものであってもよい。
【0032】
外側継手部材のトラック溝とこれに対応する内側継手部材のトラック溝とが協働して形成されるトルク伝達ボールトラックが8本であって、ケージの外球面の中心とケージの内球面の中心とが、前記継手中心軸線からこれらトラック溝に対して半径方向反対側に離間した位置にオフセットされ、そのケージオフセットの量R2が0.1以上で、かつ、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記トルク伝達ボールの中心との間の距離をRt、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心面との間の軸方向距離をFとしたとき、FとRtとの比R1(=F/Rt)が0.044≦R1≦0.087であり、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心軸線までの距離である半径方向オフセット量をfrとしたとき、frと前記Rtとの比R3(=fr/Rt)が0.07≦R3≦0.19であるものであってもよい。
【0033】
最大作動角°のトラック深さは、R3値が大きいほど深くなり、またR1値については小さいほど深くなる。R1値0.087では、R3値が0.07になると従来と同等の深さとなる。
【0034】
トラック溝を半径方向にオフセットしている構造では、オフセットしていない従来品よりさらに小さいR1値まで作動性が良好となる。常用角(作動角6°)においては、前記R1値が小さいほどトラック深さが深くなり、R3値が小さいほどトラック深さが深くなる。ここで、トラック深さとは、回転状態でジョイント内部力解析を行い、一回転中でトラック内を軸方向および接触角方向に移動するボールの接触楕円が最も球面に近づく位置でのボール接触点から球面までの距離である。ボール接触点から球面部までの距離は大きいほど耐久性は良くなる。
【0035】
外側継手部材のトラック溝の中心(曲線部の曲率中心)に半径方向オフセットを設けることにより、半径方向オフセットを設けない場合に比べて、トラック溝の継手奥部側部分の溝深さが相対的に大きくなる。そのため、トラック溝の継手奥部側壁部の剛性が増大することにより、継手が高作動角を取り、トルク伝達ボールがトラック溝の継手奥部側に寄った位置でトルクを伝達するときの、トラック溝の継手奥部側壁部のエッジ部分の変形が抑制され、高作動角域での継手の捩り強度が向上する。また、高作動角域でのトルク容量が増大し、トラック溝の継手奥部側壁部でのエッジロードが減少する結果、高作動角域での継手の耐久性が向上する。ここで、トルク容量とは、継手がある作動角を取りつつトルクを伝達する際に、トルク伝達ボールとトラック溝との接触部の接触楕円の端部が、トラック溝のエッジ線と重なるトルクである。
【0036】
R1の下限値は作動性の限界値であり、R1の上限値は、常用角耐久性及びトラック深さを従来品以上に確保できる範囲である。また、R2を0.01以下とすることによって、ケージの開口側の肉厚が薄くなるのを防止できる。R1値が小さいほどPV値(ボールとトラック間の滑り速度とトラック荷重を乗じたもの)が小さくなる。PV値が小さいほど耐久性は良くなる。
【0037】
この固定型等速自在継手において、外側継手部材のトラック溝底面及び内側継手部材のトラック溝底面に曲線部を単一円弧とするのが好ましい。これは、加工が容易で製造コストが安価となるからである。また、FとRtとの比R1(=F/Rt)を0.070以下とするのが好ましく、frとRtとの比R3(=fr/Rt)を0.15以上とするのが好ましい。
【0038】
前記等速自在継手は、例えば自動車のドライブシャフトに用いられる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、高作動角時においてケージに作用する荷重がより釣り合い均衡した状態となり、安定した高強度を得られる。高作動角時において外側継手部材の奥側の許容負荷が増えるため、トラック壁面の剛性が向上し、トラックエッジ部の変形が抑えられ、捩り強度が向上する。高作動角時において外側継手部材奥側のトラック深さが増えるため、乗り上げトルクが向上し、エッジロードが減少し、高作動角での耐久性が向上する。このため、高い耐久性要求に適用できるのでサイズダウンが図れ、軽量となり、また低コスト化にもなる。
【0040】
また、外側継手部材のトラック溝の中心(曲線部の曲率中心)に半径方向オフセットを設けることにより、半径方向オフセットを設けない場合に比べて、トラック溝の継手奥部側部分の溝深さが相対的に大きくなる。そのため、トラック溝の継手奥部側壁部の剛性が増大することにより、継手が高作動角を取り、トルク伝達ボールがトラック溝の継手奥部側に寄った位置でトルクを伝達するときの、トラック溝の継手奥部側壁部のエッジ部分の変形が抑制され、高作動角域での継手の捩り強度が向上する。また、高作動角域でのトルク容量が増大する。ここで、トルク容量とは、継手がある作動角を取りつつトルクを伝達する際に、トルク伝達ボールとトラック溝との接触部の接触楕円の端部が、トラック溝のエッジ線と重なるトルクである。
【0041】
高作動角時において外側継手部材奥側のトルク容量が増えれば、トラック溝壁面の剛性が向上し、トラックエッジ部の変形が抑えられ、捩り強度が向上する。高作動角時において外側継手部材奥側のトラック深さが増えるため、乗り上げトルクが向上し、エッジロードが減少し、高作動角での耐久性が向上する。常用角では、従来並みのトラック深さを確保でき、耐久性は従来と同等かそれ以上となる。特にR1=0.071以下とするとトラック深さはより深く、PV値も低くなり耐久性が向上する。このように、この固定型の等速自在継手では、高い耐久性要求に適用できるのでサイズダウンが図れ、軽量となり、また低コスト化にもなる。また、R1=0.087以下として従来品より低い値とすると、軸方向のボールからケージへの荷重および、ボール37の半径方向移動量が減少するなどにより効率が向上する。このため、本発明の固定型等速自在継手は自動車のドライブシャフト用に最適となる。
【0042】
特にボール個数に限定するものではないが、最適は8個ボールの固定式等速自在継手への適応である。
【0043】
このように、本発明の固定型等速自在継手は自動車のドライブシャフト等に最適となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態を示す固定型等速自在継手の断面図である。
【図2】前記固定型等速自在継手のトラック溝形状を示す拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す固定型等速自在継手の断面図である。
【図4】折り曲げ状態の断面図である。
【図5】作動角と作動角方向のトルクとの関係を示すグラフ図である。
【図6】R1と作動角方向のトルクとの関係を示すグラフ図である。
【図7】R1と外輪トラック深さとの関係を示すグラフ図である。
【図8】R3と外輪トラック深さとの関係を示すグラフ図である。
【図9】R1と外輪PV値との関係を示すグラフ図である。
【図10】R3とトラック深さとの関係を示すグラフ図である。
【図11】R4<tan[(θmax)/2)]を満たす等速自在継手が最大作動角(50deg)をとった場合の断面図である。
【図12】tan[(θmax)/2)]≦R4≦tan[(θmax+5)/2]を満たす等速自在継手が最大作動角(50deg)をとった場合の断面図である。
【図13】ツェッパタイプの固定型等速自在継手の断面図である。
【図14】従来のアンダーカットフリータイプの固定型等速自在継手の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0046】
この実施形態の固定型等速自在継手は、例えば自動車のドライブシャフトの固定側(車輪側)に配置されるもので、図1に示すように、内径面31に複数(8個)のトラック溝32が円周方向等間隔に軸方向に沿って形成された外側継手部材33と、外径面34に外側継手部材33のトラック溝32と対をなす複数(8個)のトラック溝35が円周方向等間隔に軸方向に沿って形成された内側継手部材36と、外側継手部材33のトラック溝32と内側継手部材36のトラック溝35とが協働して形成される8本のボールトラックにそれぞれ配された8個のトルク伝達ボール37と、外側継手部材33の内径面31と内側継手部材36の外径面34との間に介在してボール37を保持するケージ38とを備えている。ケージ38には、ボール37が収容される窓部39が周方向に沿って複数配設されている。なお、内側継手部材36の内径面に軸部を連結するための歯型(セレーション又はスプライン)36aを形成している。
【0047】
外側継手部材33のトラック溝32は、トラック溝ボール中心軌跡線が曲線部(円弧部)となる奥側トラック溝32aと、トラック溝ボール中心軌跡線が外側継手部材軸線と平行なストレート部となる開口側トラック溝32bとからなる。また、内側継手部材36のトラック溝35は、トラック溝ボール中心軌跡線が内側継手部材軸線と平行なストレート部となる奥側トラック溝35aと、トラック溝ボール中心軌跡線が曲線部(円弧部)となる開口側トラック溝35bとからなる。
【0048】
なお、外側継手部材33のトラック溝32や内側継手部材36のトラック溝35は、鍛造加工のみ、又は鍛造加工後の削り加工等にて成形したゴシックアーチ状である。図3に示すように、ゴシックアーチ状とすることによって、トラック溝32、35とボール37はアンギュラ接触となっている。すなわち、ボール37は、外側継手部材33のトラック溝32と2点C11,C12で接触し、内側継手部材36のトラック溝35と2点C21,C22で接触する形状となっている。ボール37の中心Obと継手中心Ojを通る線分P1に対するボール37の中心Obと各トラック溝32,35との接触点C11,C12,C21,C22とのなす角度が、接触角αである。各接触点C11,C12,C21,C22の接触角αはすべて等しく設定されている。
【0049】
図1と図2においては、継手の作動角θが0°の状態を示しており、この状態では、外側継手部材33の軸線と内側継手部材36の軸線とが直線X上で一致し、また、全てのトルク伝達ボール37の中心Obを含む平面Pは直線Xと直交する。以下、直線Xを継手中心軸線X、平面Pを継手中心面P、継手中心面Pと継手中心軸線Xとの交点を継手中心Ojという。
【0050】
図1に示すように、外側継手部材33のトラック溝32の奥側トラック溝32aの中心(曲率中心)O2は、継手中心面Pから継手開口側(図1で右側)に軸方向距離Fだけ離間し、かつ、継手中心軸線Xからこのトラック溝32に対して半径方向反対側に半径方向距離frだけ離間した位置にオフセットされている。また、内側継手部材36のトラック溝35の開口側トラック溝35bの中心O1は、継手中心面Pから継手奥部側(同図で左側)に軸方向距離Fだけ離間し、かつ、継手中心軸線Xからこのトラック溝35に対して半径方向反対側に半径方向距離frだけ離間した位置にオフセットされている。
【0051】
以下、トラック溝32,35の中心O2、O1と継手中心面Pとの軸方向距離(F)を軸方向オフセット量F、曲率中心O2、O1と継手中心軸線Xとの半径方向距離(fr)を半径方向オフセット量frという。尚、この実施形態において、外側継手部材33のトラック溝32と内側継手部材36のトラック溝35とは、軸方向オフセット量Fが相等しく、また、半径方向オフセット量frが相等しい。
【0052】
また、この実施形態では、図1に示すように、ケージ38の外球面38aの中心O4、および、ケージ38の内球面38bの中心O3は、いずれも、継手中心Oj上にある。
【0053】
図1に示すように、外側継手部材33のトラック溝32の中心(曲率中心)O2又は内側継手部材36のトラック溝35の中心(曲率中心)O1とトルク伝達ボール37の中心Obとの間の距離をRtとし、外側継手部材33のトラック溝32の中心O2又は内側継手部材36のトラック溝35の中心O1と継手中心面Pとの間の軸方向距離(前記軸方向オフセット量)をFとしたとき、FとRtとの比R1(=F/Rt)が0.061≦R1≦0.087であるように設定する。このため、このR1はオフセット(軸方向オフセット)の程度を表す値と呼ぶことができる。
【0054】
また、外側継手部材33のトラック溝32の中心(曲率中心)O2又は内側継手部材36のトラック溝35の中心(曲率中心)O1と継手中心軸線Xまでの距離である半径方向オフセット量をfrとしたとき、frとRtとの比R3(=fr/Rt)が0.07≦R1≦0.19であるように設定する。このため、R3をオフセット(半径方向オフセット)の程度を表す値と呼ぶことができる。
【0055】
次に、図3は本発明の第2の実施形態を示している。ケージ38の外球面中心O4が継手中心Ojよりも継手奥側に配置されるとともに、ケージ38の内球面中心O3が継手中心Ojよりも継手開口側に配置されている。すなわち、ケージ38の外球面中心O4とケージ38の内球面中心O3とが、継手中心Ojに対して軸線方向にそれぞれfcだけオフセットされている。このようなケージオフセットタイプのものを、トラック方向ケージオフセットと呼ぶのに対して、反トラック方向ケージオフセットと呼ぶ。図3において、faは、トラック溝32の曲率中心O2と外側継手部材33の内径面の曲率中心との軸方向距離、又は、トラック溝35の曲率中心O1と内側継手部材36の外径面の曲率中心との軸方向距離である。
【0056】
この場合も、外側継手部材33のトラック溝32の奥側トラック溝32aの中心(曲率中心)O2は、継手中心面Pから継手開口側に軸方向距離Fだけ離間し、かつ、継手中心軸線Xからこのトラック溝32に対して半径方向反対側に半径方向距離frだけ離間した位置にオフセットされている。また、内側継手部材36のトラック溝35の開口側トラック溝35bの中心O1は、継手中心面Pから継手奥部側に軸方向距離Fだけ離間し、かつ、継手中心軸線Xからこのトラック溝35に対して半径方向反対側に半径方向距離frだけ離間した位置にオフセットされている。
【0057】
FとRtとの比R1(=F/Rt)が0.044≦R1≦0.087であるように設定するとともに、frとRtとの比R3(=fr/Rt)が0.07≦R1≦0.19であるように設定する。また、ケージ38の外球面中心O4(外側継手部材33の内径面中心)又はケージ38の内球面中心O3(内側継手部材36の外径面中心)と継手中心面Pまでの軸方向距離をfcとし、トルク伝達ボール37の中心Obから継手中心軸線Xまでの距離をRとしたとき、fcとRとの比R2(=fc/R)が0.01以下とする。なお、図3に示す固定型等速自在継手の他の構成は前記図1に示す固定型等速自在継手と同様であるので、それらの説明を省略する。
【0058】
また、前記各固定型等速自在継手において、最大作動角をθmaxとしたときに、Fとfrとの比R4(=F/fr)は小さく設定することが好ましく、また、R4≧tan[(θmax)/2]とされる。さらには、R4≦tan[(θmax+5)/2]とされる。好ましくは、R4=tan[(θmax/2)]とされる。例えば、最大作動角θmaxが50degであれば、0.466≦R4≦0.521の範囲となる。
【0059】
第1の実施形態や第2の実施形態のように、半径方向にオフセットしている構造は、従来品よりさらに小さいオフセット量まで作動性が良好となる。これは、主に隙間により発生する内側継手部材36の継手中心Ojからのズレ量が従来品に比べ小さいためである。このことは、本発明品は従来品よりトラック溝が継手中心軸線Xより半径方向外側に位置していることに起因して、作動角を取った状態での8個のトラック荷重の発生するトラックの箇所が従来品と開発品で異なっており、このことから内側継手部材36を支えるボールの位置関係の違いにより内側継手部材36のずれる方向及びずれる量が異なってくるためである。
【0060】
次に前記比R1(=F/Rt)の最適範囲について説明する。図4に示すように、捩りトルクなしとして作動角方向に作動角−20°から+20°までシャフトを折り曲げる。すなわち、折り曲げたときの作動角方向の折り曲げ抵抗トルク値に関して機構解析により算出した。
【0061】
この場合、継手内部隙間については、ボール37と内側継手部材36のトラック溝35及びボール37と外側継手部材33のトラック溝32の隙間量は、通常この種の固定型等速自在継手において量産されているものの隙間とした。なお、外側継手部材33の内球面(内径面)31とケージ外球面隙間は、実際より小さい隙間とし、内側継手部材36の外球面(外径面)34とケージ内球面38bとの隙間は通常のものより大きい隙間量とした。また、ケージ38の窓部39とボール37間についても通常の負の隙間よりも小さい負の隙間としている。すなわち、作動角方向の折り曲げ抵抗トルク値が発生し易い、作動性が悪くなる条件としている。
【0062】
図5に半径方向にオフセットしていない従来構造の8個ボール(継手中心面Pからトラック中心方向にケージオフセットしている)の前記解析結果を示している。図5において、細線がR1を0.070とした場合を示し、太線がR1を0.078とした場合を示し、中線がR1を0.087とした場合を示している。この図5からわかるように、R1を0.070とした場合と、R1を0.078とした場合とにおいて、作動角が+7.5°付近からトルク値が立ち上がり+13°でピーク値が確認される。また、解析結果からR1値が0.087のときはトルクは発生しておらずスムースに作動しており、R1値が小さくなると折り曲げ抵抗トルクが増加する。すなわち、この解析条件の隙間の従来品は、R1値が0.087までは作動性が良好であるが、それより小さくなると作動性が悪くなる。
【0063】
次に図6は、同じ隙間条件で本発明品についてR1値を可変し、R1値に対する前記解析から最大トルク値を従来品と比較した結果を示している。図6において、実線は従来品(半径方向にオフセットさせないトラック溝で、ケージオフセット形状のもの)を示し、1点鎖線は前記図1に示す本発明品(本発明品Aと呼ぶ)を示し、破線は図3に示す本発明品(本発明品Bと呼ぶ)を示している。従来品は図14に示すように、トラック方向ケージオフセットタイプであり、R2=0.0096とし、R3=0としている。また、発明品Aは図1に示すように、ケージオフセット無しタイプであって、R2=0とし、R3=0.167としている。発明品Bは図3に示すように、反トラック方向ケージオフセットタイプであり、R2=0.0095とし、R3=0.167としている。
【0064】
このように、本発明品である半径方向にオフセットしている構造は、従来品よりさらに減少させたオフセット量まで作動性が良好となる。これは、主に隙間により発生する内側継手部材のジョイント中心からのズレ量が開発品は従来品に比べ減少するためである。このことは、発明品は従来品よりトラックが中心軸より半径方向外側に位置していることに起因して、作動角を取った状態での8個のトラック荷重の発生するトラックの箇所が従来品と開発品で異なっているためである。すなわち、内側継手部材を支えるボールの位置関係の違いにより内側継手部材のずれる方向及びずれる量が異なってくるためである。
【0065】
解析結果からAタイプ(発明品A)よりもBタイプ(発明品B)のほうがより小さいR1値まで作動性が良好となることがわかる。そして、本発明品Aでは、R1として0.061以上が作動性良好ということができ、本発明品Bでは、R1として0.045以上が作動性良好ということができる。また、製作したサンプルにおいても同等な結果を確認できた。
【0066】
次に、常用角(6°)での耐久試験条件のときの外側継手部材33のトラック深さの値を図7と図8に示す。図7はR1と外側継手部材33のトラック深さとの関係を示し、この図7において、●はケージオフセット無しのAタイプであり、R2=0とし、R3=0.167とし、特に、○はR1=0.087である(つまり、A2タイプである)。■は反トラック方向ケージオフセットのBタイプであり、R2=0.0095とし、R3=0.167とし、特に、□はR1=0.071である。▲はケージオフセット無しのAタイプであり、R2=0とし、R3=0.221とし、特に、△はR1=0.096である(つまりA1タイプである)。*は従来品であり、R1=0.087であり、R2=0.0096であり、R3=0である。
【0067】
図8はR3と外側継手部材33のトラック深さとの関係を示し、この図7において、○はA2タイプであり、R3=0.167であり、R1=0.087であり、R2=0である。▲はAタイプであり、R3=0.221であり、R1=0.087であり、R2=0である。
【0068】
常用角(6°)においては、R1値が減少するほどトラック深さが深くなり、またR3値が減少するほどトラック深さが深くなる。尚、Bタイプ(ケージオフセット品)は、小さいR1値が採れることから有利である。ここでトラック深さとは、回転状態で継手内部力解析を、大きいトルクの常用角(作動角6°)耐久条件で行い、一回転中でトラック内を軸方向および接触角α方向に移動するボールの接触楕円51が最も球面に近づく位置でのボール接触点から球面までの距離L(図2参照)である。
【0069】
常用角耐久試験では、特にトルクが大きい試験において、トラック上の荷重が増加することによりボール接触楕円51が増加し、外側継手部材33の内径面にこの接触楕円51がはみ出してエッジロードから剥離が発生しており、耐久性の向上にはボール接触点から球面部までの距離Lが増加するほど耐久性は良くなる。
【0070】
次に図9は、常用角(6°)耐久試験条件での解析結果からの外側継手部材のPV値を示す。PV値は、ボールとトラック間の滑り速度とトラック荷重を乗じたものである。このPV値が減少するほど耐久性は良くなる。解析結果からR1値が減少するほどPV値が減少する。しかし、R1値0.071以下ではPV値の減少は鈍化する。なお、Bタイプ(ケージオフセット品)は、小さいR1値が採れることから有利である。また、内側継手部材36のPV値は、R1値を減少することで外側継手部材とは逆に増加する関係がある、このため、内側継手部材36のPV値増加による内側継手部材耐久性の低下が懸念される。R1値0.071では、内側継手部材の不具合は認められていない。なお、図9における各■、□、▲、△、●、○の発明品は図7に示す各■、□、▲、△、●、○と同じタイプの固定型等速自在継手を示している。
【0071】
次に図10は、作動角46°でトルク250Nmを負荷したときの解析結果からのトラック深さを示している。図10において、□は反トラック方向ケージオフセットのBタイプであり、R1=0.071であり、R2=0.0095であり、R3=0.167である(つまり、B1タイプである)。●はケージオフセット無しのAタイプであり、R1=0.087とし、R2=0とし、特に、○はR3=0.167である(つまり、A2タイプである)。▲はケージオフセット無しのAタイプであり、R1=0.096、R2=0とし、特に、△はR3=0.221である(つまりA1タイプである)。
【0072】
このように、作動角46°においては、R3値が大きいほどトラック深さは深くなり、またR1値については小さいほどトラック深さは深くなる。R1値0.087では、R3値が0.07になると従来と同等の深さとなる。
【0073】
なお、従来品と前記各発明品のタイプ別のR1、R2、R3の値、およびケージオフセットの種類を表1に示した。また、従来におけるR1、R2、R3も、比R1(=F/Rt)であり、比R2(=fc/R)であり、比R3(=fr/Rt)である。
【表1】

【0074】
前記図5から図10から分かるように、R1の好適の範囲では、Aタイプでは、0.061〜0.087であり、Bタイプでは、0.044〜0.087である。この場合の下界値は、図6から分かるように、作動性の限界値である。上限値は、後述する常用角耐久試験結果及びトラック深さが従来品以上に確保できる範囲である。特に、Aタイプでは、0.061〜0.071とし、Bタイプでは、0.044〜0.071とするのがさらに好適な範囲となる。これは、図9から、PV値が従来品以下となる範囲としている。この上限範囲とすることでさらにトラック深さが大きくなりさらに耐久性が向上する。
【0075】
R2としては0.01以下が好ましい。R2が0.01を越えると、ケージ38の開口側(継手開口側)の肉厚が薄くなり、強度が低下するおそれがあるからである。
【0076】
R3としては0.07〜0.19が好ましい。すなわち、図10から分かるように、好適なR1値の0.087において、トラック深さを従来品なみに確保できる範囲の0.07以上とする。また、後述する常用角耐久時のトラック深さから従来品並みに確保できる0.19以下とする(図8参照)。特に、R3を0.15〜0.19とするのがより好ましい。0.15は、図10における本発明品A1のトラック深さのレベルをR1=0.087に対応するR3値としたものである。
【0077】
最大作動角(50度程度)を取ったときであっても、この等速自在継手では、R4(F/fr)≧[tan(θmax)/2]に設定しているので、ケージの回転力が抑制され釣り合った状態となって、安定した状態を維持できる。また、R4を増加させると球面力が増加する関係がある。球面力の増加は発熱量の増加につながり、高角度の耐久性の低下につながる。したがって、R4は出来る限り小さく設定することが必要であり、この場合、R4(F/fr)≦tan[(θmax+5)/2)]と設定するのが好ましく、R4=tan(θmax/2)が最適である。
【0078】
最大作動角(50度程度)を取ったときに、R4<tan[(θmax)/2]であれば、図11に示すように、ボール37からの力F1が作用し、ケージ38に回転力が作用して、不安定な状態となる。これに対して、最大作動角(50度程度)を取ったときに、[tan(θmax)/2]≦R4≦tan[(θmax+5)/2]であれば、外側継手部材33の最も奥側に位置するボール37のくさび角(開放角)が継手開口側を向くことになる。このため、図12に示すように、ボール37からの力F2が作用し、ケージ38の回転力が抑制され、釣り合った状態となる。
【0079】
本発明によれば、高作動角時においてケージ38に作用する荷重がより釣り合い均衡した状態となり、安定した高強度を得られる。高作動角時において外側継手部材の奥側の許容負荷が増えるため、トラック壁面の剛性が向上し、トラックエッジ部の変形が抑えられ、捩り強度が向上する。高作動角時において外側継手部材奥側のトラック深さが増えるため、乗り上げトルクが向上し、エッジロードが減少し、高作動角での耐久性が向上する。このため、高い耐久性要求に適用できるのでサイズダウンが図れ、軽量となり、また低コスト化にもなる。
【0080】
また、外側継手部材33のトラック溝32の中心(曲線部の曲率中心)に半径方向オフセットを設けることにより、半径方向オフセットを設けない場合に比べて、トラック溝32の継手奥部側部分の溝深さが相対的に大きくなる。そのため、トラック溝32の継手奥部側壁部の剛性が増大することにより、継手が高作動角を取り、トルク伝達ボール37がトラック溝32の継手奥部側に寄った位置でトルクを伝達するときの、トラック溝32の継手奥部側壁部のエッジ部分の変形が抑制され、高作動角域での継手の捩り強度が向上する。また、高作動角域でのトルク容量が増大する。ここで、トルク容量とは、継手がある作動角を取りつつトルクを伝達する際に、トルク伝達ボール37とトラック溝32との接触部の接触楕円の端部が、トラック溝32のエッジ線と重なるトルクである。
【0081】
常用角では、従来並みのトラック深さを確保でき、耐久性は従来と同等かそれ以上となる。特にR1=0.071以下とするとトラック深さはより深く、PV値も低くなり耐久性が向上する。このように、この固定型の等速自在継手では、高い耐久性要求に適用できるのでサイズダウンが図れ、軽量となり、また低コスト化にもなる。また、R1=0.087以下として従来品より低い値とすると、軸方向のボール37からケージ38への荷重および、ボール37の半径方向移動量が減少するなどにより効率が向上する。このため、本発明の固定型等速自在継手は自動車のドライブシャフト用に最適となる。
【0082】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、軸方向オフセット量、径方向オフセット量、ケージオフセット量等は、R1、R2、及びR3が前記最適な値となる範囲で任意に設定できる。また、半径方向オフセットによる作動性の向上によりR1値を低く設定できることから、ケージ38の外球面中心O4を継手中心Ojよりも外側継手部材33のトラック溝32の中心O2側に配置するとともに、ケージ38の内球面中心O3が継手中心Ojよりも内側継手部材36のトラック溝35の中心O1側に配置するものであってもよい。本発明にかかる固定型等速自在継手は、ドライブシャフト用に限るものではなく、プロペラシャフト、さらには他の各種の産業機械の動力伝達系に使用できる。なお、図1に示す固定型等速自在継手であっても、図3に示す固定型等速自在継手であっても、トラック溝32,35の曲線部を単一円弧としているが、複数の円弧でもって形成してもよい。曲線部を単一円弧であれば、加工が容易で製造コストが安価となる利点がある。
【0083】
尚、これらのトラック溝形状は軸方向に垂直な平面に輪切りとし、円(P.C.D.)測定しP.C.D.と軸方向高さ寸法によって管理される。また、通常の量産時には、外側継手部材及び内側継手部材のトラック溝のストレート部径を規定することで簡易的な管理が可能となる。
【符号の説明】
【0084】
31 内径面
32,35 トラック溝
32a 奥側トラック溝
32b 開口側トラック溝
33 外側継手部材
34 外径面
35 トラック溝
35a 奥側トラック溝
35b 開口側トラック溝
36 内側継手部材
37 トルク伝達ボール
38 ケージ
38a 外球面
38b 内球面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面に軸方向に延びるトラック溝を形成した外側継手部材と、外径面に軸方向に延びるトラック溝を形成した内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝とこれに対応する内側継手部材のトラック溝とが協働して形成されるトルク伝達ボールトラックにそれぞれ配されたトルク伝達ボールと、トルク伝達ボールを保持するポケットを有するケージとを備え、外側継手部材のトラック溝底面及び内側継手部材のトラック溝底面に曲線部とストレート部を有するアンダーカットフリータイプの固定型等速自在継手であって、
継手の作動角が0°の状態で、前記外側継手部材の軸線と前記内側部材の軸線とを含む直線を継手中心軸線、前記トルク伝達ボールの中心を含み、前記継手中心軸線と直交する平面を継手中心面としたとき、
前記外側継手部材のトラック溝の中心と前記内側継手部材のトラック溝の中心とが、それぞれ、前記継手中心面から軸方向両側に離間し、かつ、前記継手中心軸線からこれらトラック溝に対して半径方向反対側に離間した位置にオフセットされ、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心面との間の軸方向距離をFとしたとき、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心軸線までの距離である半径方向オフセット量をfrとし、最大作動角を50degとしたときに、Fとfrとの比R4(=F/fr)がR4≧0.466であることを特徴とする固定型等速自在継手。
【請求項2】
前記比R4(=F/fr)がR4≦0.521であることを特徴とする請求項1に記載の固定型等速自在継手。
【請求項3】
作動角をとった場合、外側継手部材の最も奥側に位置するボールのくさび角が継手開口側を向いていることを特徴とする請求項1〜請求項2のいずれか1項に記載の固定型等速自在継手。
【請求項4】
外側継手部材のトラック溝とこれに対応する内側継手部材のトラック溝とが協働して形成されるトルク伝達ボールトラックが6本であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の固定型等速自在継手。
【請求項5】
外側継手部材のトラック溝とこれに対応する内側継手部材のトラック溝とが協働して形成されるトルク伝達ボールトラックが8本であって、ケージの外球面の中心とケージの内球面の中心とが一致し、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記トルク伝達ボールの中心との間の距離をRt、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心面との間の軸方向距離をFとしたとき、FとRtとの比R1(=F/Rt)が0.061≦R1≦0.087であり、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心軸線までの距離である半径方向オフセット量をfrとしたとき、frと前記Rtとの比R3(=fr/Rt)が0.07≦R3≦0.19であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の固定型等速自在継手。
【請求項6】
外側継手部材のトラック溝とこれに対応する内側継手部材のトラック溝とが協働して形成されるトルク伝達ボールトラックが8本であって、ケージの外球面の中心とケージの内球面の中心とが、前記継手中心軸線からこれらトラック溝に対して半径方向反対側に離間した位置にオフセットされ、そのケージオフセットの量R2が0.1以上で、かつ、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記トルク伝達ボールの中心との間の距離をRt、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心面との間の軸方向距離をFとしたとき、FとRtとの比R1(=F/Rt)が0.044≦R1≦0.087であり、前記外側継手部材のトラック溝の中心又は前記内側継手部材のトラック溝の中心と前記継手中心軸線までの距離である半径方向オフセット量をfrとしたとき、frと前記Rtとの比R3(=fr/Rt)が0.07≦R3≦0.19であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の固定型等速自在継手。
【請求項7】
外側継手部材のトラック溝底面及び内側継手部材のトラック溝底面の曲線部を単一円弧としたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の固定型等速自在継手。
【請求項8】
FとRtとの比R1(=F/Rt)を0.07以下としたことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の固定型等速自在継手。
【請求項9】
frとRtとの比R3(=fr/Rt)を0.15以上としたことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の固定型等速自在継手。
【請求項10】
自動車のドライブシャフトの連結に用いられる請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の固定型等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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