説明

固定層反応器の高性能チムニートレイ

【課題】チムニーの内部で気相反応物と液相反応物とをよく混合させて固定層反応器の触媒層上における液相反応物の分散性能を向上させることにより、液相反応物の流れ均一度による触媒との接触効率およびこれによる反応効率を向上させることができるようにした、反応器のチムニートレイを提供する。
【解決手段】本発明のチムニートレイは、複数の貫通孔を有するトレイ、および前記貫通孔に垂直に嵌合され、少なくとも一つの排出口が対向して貫設されたチムニーを備えるチムニートレイにおいて、前記チムニーは、前記トレイの下側から延長され、前記トレイの法線方向に対して10〜40°の角度を有する円錐形の下端部を備えることを特徴とする。これにより、優れた分散性能による反応効率の向上を達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応器のチムニートレイに係り、さらに詳しくは、チムニーの内部で気相反応物と液相反応物とをよく混合させ、固定層反応器の触媒層上に液相反応物を均一に分散させて反応物の分散性能を向上させることにより、液相反応物の流れ均一度による触媒との接触効率およびこれによる反応効率を向上させることができるようにした、高性能チムニートレイに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、触媒層反応器は、石油化学工場で多用されており、触媒層に液相と気相の反応物が同時に流れながら反応を起こす方式であって、液相反応物と気相反応物が下方に流れるときを並流(concurrent flow)とし、液相反応物は下方に、気相反応物は上方に流れるときを向流(countercurrent flow)とする。この際、触媒層内の液相反応物と気相反応物の流れ均一度による触媒との接触効率の度合いによって反応効率が左右される。また、チムニートレイは、前記反応器で気相反応物および液相反応物が同持に下方に流下する場合に使用されるものであって、反応物が均一に触媒層上に分散できるようにし、反応器の運転条件に応じて必要なチムニーの数が決定される。
【0003】
一般に、チムニートレイは、触媒層の上端に位置し、液相/気相混合物を触媒層に均一に分散させて触媒の活用を極大化させるためのものである。チムニートレイの外部には、液体が、一定の水位を保ちながら孔を介してチムニーの内部に流入し、チムニーの内部に流入する速い流速の気体に出会ってトレイの下部貫通孔を介して分散される。
【0004】
図1は触媒層反応器におけるチムニートレイの一般な作動原理を示している。触媒層反応器は、一般に、トレイ1と触媒層2との間に所定の間隔の空間4が必要である。前記空間4は気相反応物が反応器全体にわたって均一な圧力で流下することを可能にし、トレイ1の下端部を介して液相反応物が均一に分散されることを可能とする。チムニー3は、所定の直径と長さを有する環状のものであって、一般に、上端部と下端部側に所定の直径をもって貫設された排出口3a、3bを備え、下端部がトレイ1の貫通孔1aに垂直に接合されて配置される。
【0005】
図2は触媒層上に液相反応物をより均一に分散させるための、反応器のチムニートレイに関する特許(特許文献1)を示すものであって、所定の直径を有する複数の貫通孔として、チムニー3の下端部側にチムニーの外周面に対する接線方向に複数の排出口が対向して貫設される。また、前記排出口は、下端部の縁部に沿って、所定の角度で傾いた傾斜面1bを有する。前記傾斜面1bの傾斜角が増加するにつれて、触媒層上に液相反応物の液滴が広がる面積が大きくなり、液相反応物が軸を中心に放射状に流れる。
【0006】
図1に示した従来のチムニーは、チムニー3の排出口3a、3bを介して流れる液相反応物が反対側のチムニーの内壁とぶつかって小さい液相粒子に砕かれた後、トレイの貫通孔1aから噴射されて触媒層2上に均一に分散するようにしたものであるが、一般な触媒層反応器の運転条件では、液相粒子に砕かれるよりはチムニー3の内側空間で一定の流れが形成されてトレイ1の貫通孔1aの下側中央に落ちる。ところが、チムニーの貫通孔を経た液相反応物が、各チムニーに割り当てられた触媒層の中央部に集中的に流下して液相反応物のチャネリング(channeling)現象を起こし、触媒の磨耗による反応器の圧力上昇の原因になるおそれがある。
【0007】
図2の特許文献1の場合も、下端部の接線方向の排出口と下端部の傾斜面1bの傾斜角により軸を中心として放射状に分散させることにより上述の欠点を補完したが、チムニーの上部が露出してチムニー3の上部から液相反応物が混入されることにより分散性能を低下させるうえ、液相反応物の物理的特性に応じて液滴が下端部の傾斜面1bに沿ってトレイ1の下端部に流下して所望の水準の分散性能を得ることが難しくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国特許第0421130号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、触媒層上のチムニートレイにおける反応物の分散性能を改善して反応物と触媒層との接触効率を向上させ、チムニーの上部が露出してチムニー上から降り注ぐ液体反応物がチムニーの内部に流入することを防止することが可能な、反応器のチムニートレイ、および適正のチムニートレイの配列を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、前記チムニートレイを用いて、反応物が触媒層に均一かつ適正に分布できるようにする、チムニーの配列を有するチムニートレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係るチムニートレイは、複数の貫通孔を有するトレイ、および前記貫通孔に垂直に嵌合され、少なくとも一つの排出口が設けられた多数のチムニーを備えるチムニートレイにおいて、前記チムニーは、前記トレイの下側から前記トレイの法線方向に対して10〜40°の角度を成すように一体に設けられて延長される円錐形の下端部を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の他の具体例は、前記チムニートレイの上部に、液相反応物の流入を防止する上部カバー、およびチムニーの接線方向に対して傾くように対向して貫設された排出口をさらに含むことを特徴とする、チムニートレイを提供する。
【0013】
本発明の別の具体例は、触媒層上に液相反応物を均一かつ適正に分散させるための、それぞれのチムニーが、チムニーに対向して貫設された排出口が互いに垂直するように配列された、液相反応物の分散形態を考慮したチムニーの配列を有する、チムニートレイを提供する。
【発明の効果】
【0014】
上述したように、本発明に係る触媒層反応器上に液相反応物を均一に分散させるためのチムニートレイは、液相反応物の分散性能を著しく改善させて反応物と触媒との接触効率を増大させて反応性を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】触媒層反応器におけるチムニートレイの一般な作動原理を示す。
【図2】前記特許文献1のチムニートレイを示す。
【図3】本発明に係るチムニートレイの一具体例を示す。
【図4】図3のA−A’線に沿った平断面図である。
【図5】図3のB−B’線に沿った平断面図である。
【図6】円錐形の下端部の角度による分散性能を比較して示すグラフである。
【図7】本発明に係るチムニートレイの分散断面の模様を示す。
【図8】チムニートレイを経た反応物が楕円形に分散されることを考慮したチムニーの四角形の配列を示す配置図である。
【図9】実施例の分散性能と比較例1の分散性能とを比較して示すグラフである。
【図10】前記特許文献1のチムニートレイの分散性能と本発明に係るチムニートレイの分散性能とを比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0017】
本発明は、反応器のチムニートレイに関するものである。本発明のチムニートレイは、多数の貫通孔を有するトレイと、前記貫通孔に嵌合されて設けられた多数の円筒形のチムニーとを含んでなり、各チムニーは、前記チムニー5の上部からの液相反応物の流入を防ぎ、気相反応物の流量に応じて開放面積(Open Area)を調節して気相反応物の流速を速くする上部カバーと、前記チムニーの下端部から延長され、前記トレイの法線方向に対して10°〜40°の角度を成して、下方に行くほど直径が増加する円錐形に設けられる下端部と、下端部の接線方向に対して傾くように対向して貫設された排出口とを有することを特徴とする。また、本発明の他の具体例は、図7に示すように、液相反応物が楕円形に分散されて触媒層上に分散排出されるが、このような反応物の分散形態を考慮して、それぞれのチムニーの対向貫設された排出口が他のチムニーの対向貫設された排出口に対して垂直を成すように配列されたチムニーの配列を有することを特徴とする。図3には本発明に係る触媒層上に液相反応物を均一に分散させるためのチムニートレイの好適な実施例の構成および結合構造が示されている。
【0018】
前記チムニーには、トレイの上部に貯留されている液相反応物をチムニーの内壁側に流入させるように、対向してチムニーを貫通して設けられる複数の第1排出口を有する。
図5に示すように、前記排出口は、チムニーの横断面の接線方向に対して傾くように対向して貫設される。これは流入する液相反応物が回転力を受けることができるように排出口に一定の角度を持たせるためである。一側の第1排出口に対向して設けられた他側の第1排出口は、互いに同一の角度で傾いて設けられ、液相反応物が回転力を受ける方向が同一となるようにする。前記第1排出口を介してチムニー内に流入して流下する液相反応物は第1排出口によって回転力を受けて縦芯部の液相反応物の流量が減少する。よって、これを補充するために、第1排出口の上側に、縦芯部へ液相反応物が流入するように対向して貫設される複数の第2排出口を有する。前記第2排出口は、縦芯部へ液相反応物が流入するようにしなければならないので、図4に示すように、チムニー外部の横断面の接線方向に対して垂直な形で貫設される。
【0019】
前記チムニー5の上部には、液相反応物の流入を防ぎ、気相反応物の流量に応じて開放面積(Open Area)を調節して気相反応物の流速を速くする上部カバーが位置する。前記上部カバー6は、チムニーの直径より大きい直径を有し、その端部が下側、すなわちチムニー方向に折り曲げられた帽子(hat)形を適用することにより、チムニーの貫通孔からの液相反応物と気相反応物の分散を阻害する液相反応物の流入を遮断し、チムニー上部の開放面積を減らすことにより、気体反応物の流速を増加させてトレイの下部から液相反応物が広がる面積を増加させることを特徴とする。トレイ1は、所定の直径を有する多数の貫通孔が所定の配列をもって貫設される。
【0020】
前記チムニー5は、所定の直径と長さを有する、両端部が開放された管状をし、複数の第1排出口5a、5b、複数の第2排出口5cおよび円錐形の下端部5dを有する。前記下端部は、前記トレイの下側から前記トレイの法線方向に対して所定の角度をなすように一体に設けられて延長される円錐形を有する。これは、一定の角度を有するチムニーの下端面を介して分散される効果を達成しようとした前記特許文献1の発明とは異なり、前記トレイの下部にチムニーの下端部が下降して設けられることにより、液相反応物がトレイの下部壁面に沿って流れる影響を源泉的に防止した。
【0021】
前記下端部の傾斜角度θは、液相反応物の物性および流量などを考慮して選択され、傾斜角度に応じて、触媒層2上に液相反応物の液滴が広がる面積が大きくなる。好ましい傾斜角度θは、前記トレイの法線方向に対して10°〜40°、好ましくは25°〜35°である。前記角度が10°未満であれば、液相反応物の分散が縦芯部に集中し、前記角度が40°以上であれば、チムニーの下端部側の接線方向の複数の貫通孔による液相反応物の分散が十分ではなくて液滴が円錐形の壁に沿って流下するので、分散効率が低下する。
【0022】
図6は傾斜角度による分散性能を示すものである。図6に示すように、傾斜角度θが0の場合には液相反応物が縦芯部に集中することが分かるとともに、これに比べて角度が大きくなるほど縦芯部からさらに遠い距離まで均一に広がることが分かる。
【0023】
前記下端部は、触媒層から180〜220mm程度の距離に離隔して位置することが好ましい。前記下端部が触媒層から180mm以下に離隔する場合、液相反応物が十分に広げられないため所望の分散性能を得ることができなくなり、液滴が集中してチャネリングおよび触媒の磨耗を起こすおそれがある。前記下端部がトレイから220mm以上の距離に位置する場合、液滴の分散限界により、十分な分散を得ることができず、限定された反応器の高さで触媒の充填高さが減少する。
【0024】
図7は本発明に係る分散断面の模様を示す。複数の第1排出口5a、5bによって液滴が回転力を受けるため、触媒層上に滴下する液相反応物の形状が円形ではなく楕円形をなす。
【0025】
よって、反応物の分散形態を考慮し、チムニーは、図8に示すように、それぞれのチムニーに対向して貫設された第1排出口は第1排出口を連結した仮想の線が、他のチムニーに設けられた第1排出口を連結する仮想の延長線と直交をなすように設けられ、トレイ上の多数のチムニーが四角形の配列をなすようにすることが好ましい。すなわち、前記多数のチムニーは、格子状に配列され、それぞれのチムニーの排出口が他のチムニーの排出口に対して垂直に配列される。
【0026】
これは液相反応物を触媒層にさらに均一に分散させるためである。排出口が同一の方向となるようにチムニーが配列される場合、同一の面積に比べて過度なチムニーの使用が必要であるなど、費用および効率の面で良くなく、液相反応物が分散される面積が重なり合って分散効率を低下させるおそれがある。これに対し、本発明に係るチムニーの配列を有するチムニートレイの場合は、それぞれのチムニーの分散形態を考慮することによりさらに高い分散性能を達成することができる。
【0027】
また、前記特許文献1を参照すると、前記チムニーの外径と内径との差(以下、チムニーの厚さ)は液相反応物が第1排出口を通過するときに回転力を与える重要な変数である。すなわち、前記チムニーの厚さが増加すると、回転力が増加するが、これによる排出係数(discharge coefficient、小さい孔に流体が通過するときの流れの妨害度を示す係数)は減少し、最適の運転のためには適切な回転力が重要であり、これに対する実験結果として、水の場合には前記チムニーの厚さが5mm以上であれば必要な回転力を得ることができる。
【実施例】
【0028】
本発明のチムニートレイを用いて分散性能をテストした。チムニーの長さ方向に対して円錐が成す角度は30°であった。また、チムニーの下端部が触媒層から離隔した距離は200mmであった。また、チムニーあたりの空気流量は50L/Min、チムニーあたりの液相反応物の流量は9L/Minであった。
【0029】
比較例1
気相および液相反応物の流量を前記実施例と同様に適用し、但し、従来のチムニートレイを用いて分散性能をテストした。
比較例2
既存の前記特許文献1のチムニートレイを用いて同一の気相および液相反応物の流量で分散性能をテストした。
【0030】
前記実施例の分散性能と比較例1の分散性能との比較結果が図9に示されている。その結果より、本発明に係るチムニートレイを使用した場合、従来のチムニートレイを使用した場合に比べて液相反応物がさらに均一に広がることが分かる。
【0031】
また、実施例の分散性能と既存の前記特許文献1(比較例2)の分散性能との比較結果が図10に示されている。既存の前記特許文献1と比較しても、液相反応物がさらに均一な分布を有することが分かる。これは、本発明に係るチムニートレイの場合、既存の前記特許文献1とは異なりトレイの下部にチムニーの下端部が下降して設けられ、トレイの下部壁面に沿って流れる液体を源泉的に遮断することにより、既存の前記特許文献1の場合、すなわちトレイの下部傾斜角によって一部の液滴がトレイの下部壁面に沿って流れることにより液滴の分散に悪影響を及ぼす場合に比べて優れた分散効率を示すことを示唆する。
【0032】
図9および図10において、qはチムニーあたり割り当てられた触媒層表面の任意の点における単位面積あたり、単位時間あたり液相反応物が流れる量を示し、rは割り当てられた触媒層面積の中心からの距離を示す。
【符号の説明】
【0033】
1 トレイ
2 触媒層
3 チムニー
3a 液相反応物の排出口
3b 排出口
4 トレイと触媒層との間隔
5 本発明のチムニー
5a、5b 第1排出口
5d 円錐形のチムニー下端部
6 帽子形のチムニー上部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔を有するトレイ、および前記貫通孔に垂直に嵌合され、少なくとも一つの排出口が設けられた多数のチムニーを備えるチムニートレイにおいて、前記チムニーは、前記トレイの下側から前記トレイの法線方向に対して10〜40°の角度を成すように一体に設けられて延長される円錐形の下端部を備えることを特徴とする、チムニートレイ。
【請求項2】
前記チムニーは上部カバーをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のチムニートレイ。
【請求項3】
前記チムニーの下端部は触媒層から180〜220mm離隔していることを特徴とする、請求項1に記載のチムニートレイ。
【請求項4】
前記下端部はトレイの法線方向に対して25〜35°の角度を有することを特徴とする、請求項1に記載のチムニートレイ。
【請求項5】
前記排出口はチムニーの横断面の接線方向に対して傾くように対向して貫設されたことを特徴とする、請求項1に記載のチムニートレイ。
【請求項6】
前記多数のチムニーは、格子状に配列され、個別チムニーに対向して設けられた排出口の貫通部を互いに連結した仮想の線が、隣接した他のチムニー上に設けられた排出口の貫通部を互いに連結した仮想の線と直交の関係にあることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のチムニートレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−528713(P2012−528713A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513847(P2012−513847)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国際出願番号】PCT/KR2010/000816
【国際公開番号】WO2010/140756
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(507268341)エスケー イノベーション カンパニー リミテッド (57)
【Fターム(参考)】